以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるエレベータ装置をカゴ室側から見た斜視図である。また、図2は、図1における概略A−A断面図である。なお、図2においては、見易さのために固定手摺18,19の図示を省略している。
エレベータ装置は、周知のとおり、昇降自在のカゴ室10を備えており、各階にはカゴ室10への乗降場所である乗場12が設けられている。カゴ室10と乗場12との間は、カゴ室10とともに昇降するカゴ側ドア14a、および、乗場12に設置された乗場側ドア14bで区切られる。
カゴ室10および乗場12には、歩行が困難な利用者、例えば、老人や病人、怪我人などの歩行を補助するためにカゴ側固定手摺18および乗場側固定手摺19が設けられている。カゴ側固定手摺18は、カゴ室10の側壁に、乗場側固定手摺19は乗場12の側面に、それぞれ固定設置された水平のバーである。カゴ側固定手摺18および乗場側固定手摺19は、いずれも、利用者の腰高さ程度の位置に設けられており、その位置および姿勢は不変となっている。このカゴ側固定手摺18および乗場側固定手摺19は、カゴ室10内または乗場12での利用者の歩行を補助するもので、ドア14近傍からカゴ室10または乗場12の奥側まで延びている。ただし、当然ながら、位置および姿勢が固定の固定手摺18,19は、開閉動作するドア14との干渉を避ける必要があり、カゴ室10と乗場12との境界部分まで延ばすことはできない。しかしながら、このカゴ室10と乗場12との境界部分は、他の部分に比して足場が悪いことが多く、また、境界部分の歩行に時間がかかると閉鎖しようとするドア14に利用者が接触してしまう場合もあり、当該境界部分にも手摺が設置されることが望ましい。
そこで、本実施形態では、固定手摺18,19の他に、カゴ側可動手摺20および乗場側可動手摺22も設け、利用者の希望に応じて境界部分に手摺を掛け渡せるようにしている。カゴ側可動手摺20は、カゴ室10に設置される可動手摺である。このカゴ側可動手摺20は、初期状態、すなわち、利用者からの操作を受ける前の状態では、図2に図示するようにカゴ室10内に完全に収まるような姿勢を保つ。一方、利用者がカゴ側可動手摺20の一部を把持して、当該一部をドア方向(図2におけるJ方向)に略180度回動させると、手摺がカゴ室10と乗場12との間に手摺が掛け渡される掛け渡し状態となる。図3は、カゴ側可動手摺20が掛け渡し状態になった際の図である。掛け渡し状態となった後、利用者がカゴ側可動手摺20をカゴ室10側に押し返すと、自動的に初期状態(図2の状態)に復帰できるようになっている。乗場側可動手摺22は、乗場12に設置される可動手摺であり、その構成等はカゴ側可動手摺20とほぼ同様である。ただし、乗場側可動手摺22は、カゴ側可動手摺20と異なり、ドア方向(図2におけるK方向)に略270度回動させることで、掛け渡し状態となる。図4は、乗場側可動手摺22が掛け渡し状態になった際の図である。掛け渡し状態となった乗場側可動手摺22は、カゴ側可動手摺20と同様に、利用者が乗場12側に押し返すと、自動的に初期状態に復帰する。以下、このカゴ側可動手摺20および乗場側可動手摺22について詳説する。
はじめに、カゴ側可動手摺20の構成について詳説する。図5は、カゴ側可動手摺の斜視図、図6は、図5における概略B−B断面図である。カゴ側可動手摺20は、カゴ室10に固定設置された固定管体24と、当該固定管体24に対して回動自在な可動体26と、に大別される。固定管体24は、カゴ室10の床面から立脚する管体で、カゴ室10のうちドア14近傍に設けられる。
可動体26は、固定管体24の内部に挿通された内軸28、および、当該内軸28に接続された手摺本体30を備える。内軸28は、固定管体24の内部に挿通された軸体で、固定管体24内部に装着された軸受32により、その両端が回動自在に軸支されている。この内軸28と固定管体24との間には、複数の復帰バネ34が配されている。この復帰バネ34は、掛け渡し状態となった可動体26を、自動的に初期状態に復帰させるための引張コイルスプリングである。各復帰バネ34は、その一端が内軸28に、他端が固定管体24に接続されている。したがって、この復帰バネ34は、内軸28が固定管体24に対して回動すると、伸長し、弾性復元力を発揮する。そして、この弾性復元力により、掛け渡し状態となった可動体26が自動的に、初期状態に復帰する。
図7は、図6におけるC−C断面図である。図7のうち(a)は初期状態、(b)は掛け渡し状態におけるC−C断面図である。既述したように、また、図7(a)に図示するように、復帰バネ34の一端は内軸28に、他端は固定管体24の内側面に、それぞれ接続されている。初期状態では、固定管体24のバネ接続位置と、内軸28のバネ接続位置は、対向しており、復帰バネ34の両端距離は最小となっている。この状態では、復帰バネ34による付勢力は生じない。
続いて、掛け渡し状態とするために内軸28を所定の回動方向(図7におけるJ方向)に回動させると、図7(b)に図示するように、復帰バネ34は、内軸28の回動に伴い伸張することになる。そして、この伸張に伴い、復帰バネ34には、弾性復元力により回動方向(J方向)とは逆方向の付勢力を生じる。そして、この状態で、内軸28を回動させる外力が解除されると、当該復帰バネ34の付勢力により、内軸28は、自動的に、回動前の状態、すなわち、図7(a)に図示した状態に復帰することになる。以上の説明から明らかなとおり、この復帰バネ34は、掛け渡し状態となった可動体26を初期状態に復帰させるための復帰手段として機能する。
再び、図5、図6を参照してカゴ側可動手摺20の構成を説明する。手摺本体30は、上面視略L字状の軸体で、利用者が把持して寄り掛かる部分である。この手摺本体30の基端は、内軸28に固着されており、手摺本体30と内軸28は一体となって水平面内で回動するようになっている。したがって、内軸28に接続された復帰バネ34の付勢力により内軸28が初期状態に復帰するべく回動した際には、当然ながら、この手摺本体30も初期状態復帰方向(J方向とは逆方向)に回動する。
手摺本体30の先端には、水平方向に突出した小軸であるスイッチ押下部36が設けられている。このスイッチ押下部36は、掛け渡し状態の際に、ドア14のエッジに設けられたセイフティスイッチ38を押下する位置に形成されている(図3参照)。
次に、このカゴ側可動手摺20の使用に関係して、エレベータ装置に設けられた各種機器について図2、図3を用いて説明する。既述したとおり、ドア14のエッジには、掛け渡し状態の際に、スイッチ押下部36で押下されるセイフティスイッチ38が設けられている。このセイフティスイッチ38は、利用者や荷物等をドア14で挟み込むことを防止するために設けられたスイッチである。セイフティスイッチ38は、ドア14の開閉動作と連動して移動するように設置されており、カゴ室10と乗場12との境界部分に位置する他部材に接触することで押下され、ONされる。このセイフティスイッチの動作信号は、エレベータの制御盤(図示せず)に出力され、ドア14の開閉制御に利用される。ここで、カゴ側可動手摺20との関係でみれば、このセイフティスイッチ38は、掛け渡し状態の際にはON状態となり、非掛け渡し状態(初期状態および回動途中の状態)ではOFF状態となる。したがって、このセイフティスイッチ38は、カゴ側可動手摺20の回動状態を検出する回動状態検出手段として機能することになる。
カゴ側ドアおよび乗場側ドアの間には、フォトセンサも設けられている。フォトセンサは、光を照射する投光器40aおよび当該光を受光する受光器40bからなる。投光器40aおよび受光器40bは、掛け渡し状態の手摺本体30を挟んで対向して設けられている。そのため、投光器40aから照射された光40cは、非掛け渡し状態の際には受光器40bで受光されるものの(図2参照)、掛け渡し状態の際には手摺本体30で遮断され、受光器40bに到達しないことになる(図3参照)。受光器40bは、この受光状況に応じた信号をエレベータの制御部に出力する。つまり、このフォトセンサも、セイフティスイッチ38同様、カゴ側可動手摺20の回動状態を検出する回動状態検出手段として機能することになる。なお、受光器40bは、受光できた場合にはON信号を、手摺本体30により光40cが遮断されて受光ができなかった場合にはOFF信号を出力する。制御部は、受光器40bから出力された信号に基づいて、ドア14の開閉を制御する。
カゴ室10の前壁42には、手摺本体30の前壁42への衝突を防止するために二つの手摺受部44、すなわち、第一手摺受部44aおよび第二手摺受部44bが設けられている。この手摺受部44の構成について図8を用いて説明する。図8は、第一手摺受部44aの構成を示す図で、図2におけるD−D断面図である。
第一手摺受部44aは、初期状態における手摺本体30の当接を受け付ける部材で、カゴ室10の前壁42のうち初期状態の手摺本体30と接触する位置に設けられている。この第一手摺受部44aは、カゴ室10の前壁42に固着された基台46、手摺本体30を吸着する吸着体48、および、マイクロスイッチ50を備える。基台46は、ゴム等の弾性材料からなり、回動移動により手摺本体30が衝突した際の衝撃を吸収する。また、基台46は、一定の高さを有しており、カゴ室10の前壁42への手摺本体30の当接を防止する。
基台46の表面近くには吸着体48が埋め込まれている。吸着体48は、磁石からなり、磁性材料からなる手摺本体30を磁力により吸着する。この吸着体48で手摺本体30が吸着されることにより、当該手摺本体30の意図しない回動や、手摺本体30の振動等が防止される。なお、この吸着体48の吸着力(磁力)は、利用者の腕力に比して十分に小さいものとする。また、吸着体48は、一時的に手摺本体30を吸着できるのであれば、磁石以外の吸着源、例えば、面ファスナや吸盤等を用いてもよい。
また、基台46には、マイクロスイッチ50も埋め込まれている。このマイクロスイッチ50は、手摺本体30の回動状態、すなわち、初期状態であるか否かを検出するためのスイッチであり、回動状態検出手段として機能するものである。すなわち、手摺本体30が初期状態の場合には、マイクロスイッチ50は、第一手摺受部44aに当接する手摺本体30により押圧されON状態となる。一方、手摺本体30がドア方向に回動を開始すると、手摺本体30はマイクロスイッチ50から離間することになり、当該マイクロスイッチ50はOFF状態となる。エレベータの制御盤は、このマイクロスイッチのON/OFF状態に基づき、ドアの開閉制御を行う。
第二手摺受部44bは、掛け渡し状態における手摺本体30の当接を受け付ける部材で、カゴ室10の前壁42のうち掛け渡し状態の手摺本体30と接触する位置に設けられている(図2参照)。この第二手摺受部44bの構成は、マイクロスイッチ50が設けられていないことを除けば、第一手摺受部44aとほぼ同様である。すなわち、第二手摺受部44bは、弾性材料からなる基台の表面に、磁石からなる吸着体を設けることで構成される。ここで、この第二手摺受部44bに設けられた吸着体の吸着力(磁力)は、利用者の腕力に比して十分に小さく、かつ、復帰バネ34の付勢力に抗して掛け渡し状態を維持できる程度の大きさとする。これは、意図しない初期状態への復帰を防止するためである。すなわち、掛け渡し状態の際、手摺本体30は、復帰バネ34により初期状態復帰方向に付勢されている。このとき、吸着体の吸着力が復帰バネ34の付勢力より小さいと、利用者の意図とは無関係に、利用者が手摺本体30から少しでも手を離すと、即座に初期状態に復帰することになる。かかる意図しない初期状態への復帰を防止するために、本実施形態では、吸着体48の吸着力を、復帰バネ34の付勢力より大きくしている。
次に、乗場側可動手摺22について簡単に説明する。乗場側可動手摺22は、カゴ側可動手摺20とほぼ同様の構成となっている。すなわち、乗場側可動手摺22は、乗場12の床面に固定設置された固定管体と、当該固定管体に挿通される内軸、当該内軸に連結された手摺本体を備える。固定管体と内軸は復帰バネで接続されており、当該復帰バネの付勢力により掛け渡し状態から初期状態への復帰が自動的に行われるようになっている。また、上面視直線状の手摺本体52は、初期状態では三方枠16の表面に沿って位置する。この手摺本体52を初期状態からドア方向(図2におけるK方向)に略270度回動移動させると、手摺本体52がカゴ室10および乗場12の間に掛け渡される掛け渡し状態となる。掛け渡し状態では、手摺本体52の側面に形成されたスイッチ押下部53は、セイフティスイッチ38を押下する。また、カゴ側ドア14aおよび乗場側ドア14bの間に配された投光器40aから照射された光40cは、手摺本体52により遮断されることになる。
乗場においてドア14の周囲を囲むべく設置された三方枠16には、乗場側可動手摺22の手摺本体52の当接を受け付ける第一手摺受部54aおよび第二手摺受部54bが設けられている。この三方枠16に設けられた第一手摺受部54aおよび第二手摺受部54bは、カゴ室10に設けられた第一手摺受部44aおよび第二手摺受部44bと同様の構成であり、弾性材料からなる基台と、磁石からなる吸着体を備える。また、第一手摺受部54aには、さらに、マイクロスイッチが設けられており、乗場側可動手摺22が初期状態か否かを検出できるようになっている。
次に、可動手摺20,22の動作に関わるスイッチ類の回路構成について説明する。図9は、本エレベータ装置の概略機器接続配置図である。カゴ室10の上側には、カゴ側中継回路ボックス56が設けられている。このカゴ側中継回路ボックス56は、エレベータのドア14を開閉駆動するドアモータ58や、フォトセンサ40での検出信号、セイフティスイッチ38の動作信号、第一手摺受部44aに設置されたマイクロスイッチ50の動作信号など、カゴ室10周辺の機器類の信号を集めた上で、制御ケーブル59を介して制御盤に出力する。一方、乗場12に設けられた乗場側中継回路ボックス62は、乗場に設けられた第一手摺受部54aのマイクロスイッチ55の動作信号を乗場ケーブル63を介して制御盤60に出力する。制御盤60は、フォトセンサ40やセイフティスイッチ38、マイクロスイッチ50,55の動作信号に基づき、可動手摺20,22の動作状態を判断する。判断の結果、可動手摺20,22が、非初期状態であると判断した場合、制御盤60は、内部に設けられたドア閉鎖回路(図示せず)を遮断し、ドアを開状態で維持する。また、制御盤60は、手摺受部44,54に設けられたマイクロスイッチ50,55においてOFF状態、すなわち、非初期状態が検出されるとカウントを開始し、非初期状態の継続時間を計測する。そして、非初期状態の継続時間が、所定の基準時間を経過した場合には、カゴ室10や乗場12に設けられたスピーカ(図示せず)などを通じて、利用者に警報を出力する。
次に、以上のように構成された可動手摺の使用の流れを、カゴ室10から乗場12に移動する場合を例に説明する。図10は、カゴ側可動手摺20の使用の流れを示すフローチャートである。なお、図10において、破線で示したブロックは、利用者の動作を示している。
カゴ室10が指定の階に停止し、ドア14が開くと、利用者は、カゴ室10から乗場12に向かって移動を開始する。このとき、利用者は、カゴ室10に設けられたカゴ側可動手摺20の手摺本体30を把持した状態でドアに向かって歩行し、当該手摺本体30をドア方向(図2におけるJ方向)に回動させる(S10)。ここで、手摺本体30は、第一手摺受部44aに設けられた吸着体48による吸着力を受けているが、この吸着力は利用者の腕力に比して十分に小さい。そのため、利用者は、容易に手摺本体30を回動させることができる。
手摺本体30の第一手摺受部44aからの離間に伴い、当該第一手摺受部44aに内蔵されたマイクロスイッチ50の動作状態がON状態からOFF状態に切り替わる。制御盤60は、マイクロスイッチ50のOFFを検知すれば、カウントを開始し、非初期状態の継続時間を計測する。また、マイクロスイッチ50がOFF状態となれば、制御盤60は、ドア14を開状態で維持するべく、ドア閉鎖回路を遮断する(S12)。
利用者の歩行に伴い、手摺本体30が略180度回動すると、掛け渡し状態となる。この掛け渡し状態において、手摺本体30は、内軸28と固定管体24との間に設けられた復帰バネ34から初期状態復帰方向の付勢力を受ける。ただし、手摺本体30は、第二手摺受部44bに設けられた吸着体48により第二手摺受部44bに吸着されるため、復帰バネ34の付勢力に抗して掛け渡し状態を維持できる。その結果、利用者は、突然の初期状態への復帰を心配することなく、安心して手摺本体30を利用できる。
また、掛け渡し状態になると、手摺本体30に突出形成されたスイッチ押下部36によりセイフティスイッチ38が押下されON状態となる。さらに、フォトセンサの投光器40aから照射された光は、手摺本体30により遮断され、受光器40bでの受光が阻害され、OFF状態となる(S14)。このセイフティスイッチ38およびフォトセンサ40の動作信号は、制御盤60へと出力される。
手摺本体30を利用して乗場12まで到達した利用者は、続いて、掛け渡し状態の手摺本体30を、カゴ室側に押し返す(S16)。このとき、手摺本体30は、第二手摺受部44bの吸着体48により吸着されているが、この吸着力は利用者の腕力に比して十分に小さいため、手摺本体30を第二手摺受部44bから容易に離間させることができる。第二手摺受部44bから離間した手摺本体30は、内軸28と固定管体24とを接続する復帰バネ34の付勢力により、自動的に初期状態復帰方向に回動する。このとき、手摺本体30は、ある程度の勢いを持って回動するが、この回動は手摺本体30が第一手摺受部44aに衝突することで停止することになる。換言すれば、手摺本体30が、カゴ室10の前壁42に直接、衝突することはない。また、第一手摺受部44bに手摺本体30が衝突したときの衝撃は、弾性体からなる基台46で吸収されるため、前壁42や手摺本体30への衝撃伝達は殆ど無い。つまり、第一手摺受部44aを設けた本実施形態によれば、初期状態復帰時に手摺本体30やカゴ室10が受ける衝撃を大幅に抑えることができる。
手摺本体30が第二手摺受部44bから離間すると、当然ながら、セイフティスイッチ38はOFF状態、フォトセンサ40はON状態となる(S18)。また、初期状態に復帰すると、第一手摺受部44aに設けられたマイクロスイッチ50は、手摺本体30により押下され、ON状態となる。制御盤60は、セイフティスイッチがOFF、フォトセンサがON、マイクロスイッチがONの三つの条件が全て揃えば(S18でYes,S20でYes)、ドア閉鎖回路を有効化するとともに、ステップS12で開始したカウントを終了し、通常の運転に戻る(S22)。
一方、セイフティスイッチがONまたはフォトセンサがOFF(S18でNo)であるにも関わらず、マイクロスイッチ50がONである場合には(S26でYes)、マイクロスイッチ50、セイフティスイッチ38、フォトセンサ40のいずれかが正常に駆動していないと判断する。この場合は、カゴ室10や乗場12に設けられたスピーカなどを介して利用者に警報を通知する(S28)。また、制御盤60は、ステップS12において、マイクロスイッチ50がOFFとなってからの経過時間、すなわち、非初期状態の継続時間が、所定の基準時間以下か否かを常時監視する(S24)。そして、非初期状態の継続時間が所定の基準時間を超過した場合には、何らかの問題が生じていると判断し、やはり、利用者に警報を通知する(S28)。この警報により、手摺本体30の初期状態への戻し忘れの防止や、各スイッチ類の故障の早期発見が可能となる。
なお、ここでは、カゴ室10から乗場12に移動する場合の流れを説明しているが、乗場12からカゴ室10に移動する際もほぼ同様である。すなわち、利用者は、乗場側可動手摺22の手摺本体52を略270度回動させて掛け渡し状態とし、この手摺本体52に寄り掛かりながらカゴ室10まで移動する。そして、カゴ室10まで到達した利用者が手摺本体52を乗場側に押し戻せば、復帰バネの付勢力により、手摺本体52は、自動的に初期状態に復帰する。この一連の動作において、手摺本体52の回動状態は、適宜、マイクロスイッチ、フォトセンサ40、セイフティスイッチ38で検知され、制御盤60は、その検知結果に応じた処理を実行する。
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、利用者が、直接、可動手摺20,22を操作することで、掛け渡し状態と初期状態との切り替えが行われる。そのため、各利用者ごとのペースで可動手摺20,22の状態を変化させることができ、可動手摺20,22の操作に伴う利用者の戸惑いや不安感を従来に比べて低減できる。また、本実施形態では、復帰バネの付勢力で初期状態への自動復帰を実現している。そのため、手摺を電動駆動する従来技術に比して、構成を簡易かつ小型にすることができる。
次に、第二実施形態について説明する。図11は、第二実施形態であるエレベータ装置をカゴ室側から見た姿図である。また、図12、図13は、図11における概略F−F断面図であり、図12は初期状態の、図13は中間状態を示している。なお、図12、図13においては、見易さのために固定手摺18,19の図示を省略している。
本実施形態の可動手摺70は、二段階に屈曲した鉤状の可動体72を備えており、この可動体72全体をカゴ室10の前壁42に平行な垂直平面内で図12のM方向に略180度回動させて中間状態にした後、可動体72の先端部分のみをカゴ室10の側壁43に平行な垂直平面内で図13のK方向に略180度回動させることで、掛け渡し状態となる。また、この可動手摺70は、中間状態から初期状態に復帰させる第一復帰機構、および、掛け渡し状態から中間状態に自動復帰させる第二復帰機構も備えている。以下、この可動手摺70の構造について詳説する。
図14は中間状態における、図15は掛け渡し状態における可動手摺70の水平断面図である。可動体72は、カゴ室10の前壁42から突出する第一軸74、第一軸74の先端に接続された第二軸76、第二軸76の先端に接続された第三軸78を備える。第一軸74は、内部が中空の管体である。この第一軸74は、軸受79を介してカゴ室10の前壁42に軸支されており、当該第一軸74の中心軸(以下「第一水平軸P」と呼ぶ)を中心として回動自在となっている。第一軸74の先端近傍には、後述するブレーキワイヤ86の通過を許容する貫通孔74aが形成されており、当該貫通孔74aを介して第一軸74の内部空間と第二軸76の内部空間が連通される。
第二軸76は、第一軸74の先端に固着されており、当該第一軸74と一体となって第一水平軸Pを中心として回動する。この第二軸76は、内部が中空の管体で、第一軸74に対して直交する方向に延びている。第二軸76の内部には、第一クサビ体80、第二クサビ体82などが配置されているが、これらについては後に詳説する。
第三軸78は、掛け渡し状態の際にカゴ室10と乗場12との間を横断する手摺本体部として機能する軸で、第二軸76に対して直交する方向に延びている。この第三軸78の基端には、第一クサビ体80が固着されており、当該第一クサビ体80および第三軸78は一体となって回動するようになっている。第一クサビ体80は、第二軸76の内径より小径の棒状部材で、その先端面は傾斜面(以下「第一傾斜面80a」と呼ぶ)となっている。この第一クサビ体80は第二軸76の内部に挿入されており、第二軸76の中心軸(以下「第二水平軸Q」と呼ぶ)を中心として回動自在となっている。この第一クサビ体80と第二軸76の内側面との間には複数の第二復帰バネ83が配されている。第二復帰バネ83は、掛け渡し状態の可動体72を中間状態に自動的に復帰させる第二復帰機構として機能するもので、その一端は第一クサビ体80に、他端は第二軸76の内側面に接続されている。この第二復帰バネ83は、第一クサビ体80および第三軸78の第二水平軸Qを中心とする回動に伴い伸張し、当該回動とは逆方向の付勢力を発揮する。そして、この第二復帰バネ83の付勢力により、第一クサビ体80および第三軸78は、自動的に回動前の状態(中間状態)に復帰できるようになっている。
第二軸76の内部には、さらに、第二クサビ体82も挿通されている。第二クサビ体82は、第二軸76の内径より小径の棒状部材である。第二クサビ体82のうち第一クサビ体80との対向面には、第一傾斜面80aに対応した傾斜面(以下「第二傾斜面82a」と呼ぶ)が形成されている。この第二クサビ体82は、図示しないガイド機構により、第二水平軸Q方向への移動がガイドされるとともに、第二軸76内部での自転動作(第二水平軸Q周りの回転)が阻害されている。換言すれば、第二軸76に対する第二クサビ体82の回動角度は不変となっている。一方、第一クサビ体80は、既述したとおり、第二軸76に対して回動自在である。したがって、第一クサビ体80と第二クサビ体82の相対回動角度は、第一クサビ体80の回動に応じて、随時変更されることになる。
より具体的に第一クサビ体80と第二クサビ体82の相対回動角度関係を説明すると、第一クサビ体80と第二クサビ体82は、掛け渡し状態の際には第一傾斜面80aと第二傾斜面82aに平行となり(図15参照)、初期状態および中間状態の際には第一傾斜面80aと第二傾斜面82aとが互いに面対称となるような角度関係となっている。
なお、第二クサビ体82の進退動作をガイドするガイド機構としては、種々の構成が考えられるが、例えば、第二クサビ体82の表面に軸方向に長尺な溝を形成するとともに、第二軸76の内側面から径方向に突出しする小軸を当該溝に差し込み、当該溝と小軸との当たり関係で進退方向をガイドする機構などが考えられる。
第二クサビ体82は、その基端側に配置された圧縮バネ84により、第一クサビ体80に近づく方向に付勢されている。この圧縮バネ84の付勢力により、第二クサビ体82は、常に、第一クサビ体80に当接することになる。ここで、既述したとおり、初期状態および中間状態の際には第一傾斜面80aと第二傾斜面82aは面対称関係であり、その頂点部分しか当接できない(図14参照)。一方、第一クサビ体80および第三軸78が回動して掛け渡し状態となると、第一傾斜面80aと第二傾斜面82aは平行関係となる(図15参照)。この場合、第二クサビ体82は、第一傾斜面80aに沿って前進することができる。
可動体72の基端、すなわち、第一軸74の基端には、第一軸74(ひいては可動体72)と一体となって回動する円板体90が固着されている。この円板体90は、後述するブレーキユニットとともに、カゴ室10の前壁42に形成された収容空間98に収容されている。円板体90の周縁には、引張コイルスプリングである第一復帰バネ88が取り付けられている。この第一復帰バネ88は、中間状態の可動体72を初期状態に自動的に復帰する第一復帰機構として機能するもので、その他端は、固定部材、例えば、収容空間98の側面などに接続されている。第一軸74とともに円板体90が回動すると、当該第一復帰バネ88は伸張する。この第一復帰バネ88の伸張により生じる付勢力により、円板体90、ひいては、円板体90が固着された可動体72は、自動的に回転前の状態(初期状態)に復帰する。
この円板体90の背後には、ブレーキユニットが設けられている。ブレーキユニットは、取付台96、ブレーキ軸92、ディスクブレーキ94を備える。取付台96は、ブレーキ軸92およびディスクブレーキ94を支持する土台部分である。この取付台96は、ブレーキ軸92が、第一軸74と同軸上に並ぶように、収容空間98の背面に固着される。ブレーキ軸92は、内部が中空の管体である。このブレーキ軸の内部には、第二クサビ体82の後端から延びるブレーキワイヤ86が挿通されている。
ディスクブレーキ94は、円板体90とほぼ同径の円板状部材である。このディスクブレーキ94は、図示しないガイド機構により、ブレーキ軸92に沿った進退がガイドされるとともに、軸周りの回動が規制されている。ディスクブレーキ94の表面、すなわち、円板体90との対向面は、制動用摩擦面として機能するもので、高摩擦材料からなる。このディスクブレーキ94が、ブレーキ軸92に沿って進出し、円板体90に密着すると、制動用摩擦面との摩擦力により、円板体90の回動、ひいては、可動体72の回動が規制される。
このディスクブレーキ94には、ブレーキワイヤ86が接続されている。ブレーキワイヤ86は、適度な可撓性を備えた金属製の線材である。このブレーキワイヤ86は、第二クサビ体82とディスクブレーキ94を接続するもので、第二クサビ体82の進退動作をディスクブレーキ94に伝達する役割を果たす。このブレーキワイヤ86により、ディスクブレーキ94は、第二クサビ体82と連動して進退することになる。ここで、既述したとおり、第二クサビ体82は、第一クサビ体80、ひいては、第三軸78の回動に連動して進退する。したがって、第二クサビ体82の進退に応じて進退するディスクブレーキ94は、第三軸78の回動に連動して進退する、と言える。
より具体的には、初期状態および中間状態においては、第二クサビ体82は、所定の位置で停止しており、ディスクブレーキ94は、円板体90から離間した位置にある(図14参照)。一方、中間状態から掛け渡し状態になるべく第三軸78が第二水平軸Qを中心として回動すると、第二クサビ体82は、圧縮バネ84の付勢力により第三軸78に近づく方向に進出する。この第二クサビ体82の進出がブレーキワイヤ86によりディスクブレーキ94に伝達されるため、ディスクブレーキ94は円板体90に近づく方向に進出する。そして、掛け渡し状態となった際には、ディスクブレーキ94は、円板体90に密着し、当該円板体90、ひいては、可動体72の第一水平軸Pを中心とする回動を規制する(図15参照)。つまり、掛け渡し状態となった際には、第一水平軸P周りの回動が規制されることになる。
次に、この可動手摺の当接を受け付ける手摺受部100a,100b,100cについて説明する。第一手摺受部100aは初期状態において、第二手摺受部100bは中間状態および掛け渡し状態において、第二軸76の当接を受け付ける部材である。また、第三手摺受部100cは、掛け渡し状態において第二軸76の当接を受け付ける部材である。この手摺受部100の構成について図16を用いて詳説する。図16は、図12におけるG−G断面図である。
第一実施形態と同様に、本実施形態の第一手摺受部100aも、基台102、吸着体106、マイクロスイッチ104を備える。基台102は、弾性材料からなり第二軸76が当接した際の衝撃を吸収する。この基台102の上面には、第二軸76の外径相当の幅を有した溝102aが形成されており、当該溝102a内に第二軸76が収容される。この溝102aの底面には、磁石からなる吸着体106が埋め込まれている。この吸着体106の吸着力(磁力)により、可動手摺70の振動等が防止される。なお、当然ながら、この吸着体106の吸着力は、利用者の腕力よりも十分に小さくなっている。溝102aの側面には、マイクロスイッチ104が埋め込まれている。このマイクロスイッチ104は、溝102aに第二軸76が収容された際に当該第二軸76により押圧され、ON状態になる。このマイクロスイッチ104の動作信号は、エレベータの制御盤に出力され、ドアの開閉制御に利用される。
第二手摺受部100bは、マイクロスイッチ104が無いことを除けば、第一手摺受部100aとほぼ同様である。なお、この第二手摺受部100bの吸着体の吸着力は、第一復帰バネ88の付勢力に比して十分に小さくなっている。
第三手摺受部100cも、マイクロスイッチ104が無いことを除けば、第一手摺受部100aとほぼ同様である。なお、この第三手摺受部100cの吸着体の吸着力は、第二復帰バネ83の付勢力に比して大きくなっており、掛け渡し状態を維持できるようになっている。
次に、以上のように構成される可動手摺の動作について説明する。初期状態から掛け渡し状態に変化させる場合、利用者はまず、可動体72を、第一水平軸Pを中心として回動させる。この回動は、第二軸76が第二手摺受部100bに当接するまで、換言すれば、略180度回動するまで行う。第二軸76が第二手摺受部100bに当接すれば、中間状態となる。この回動に伴い、円板体90に接続された第一復帰バネ88は、伸張する。
中間状態になれば、続いて、利用者は、第三軸78を第二水平軸Qを中心として乗場方向に回動させる。この回動は、第三軸78が第三手摺受部100cに当接するまで、換言すれば、略180度回動するまで行う。第三軸78が第三手摺受部100cに当接すれば、第三軸78がカゴ室と乗場との間に掛け渡された掛け渡し状態となる。この掛け渡し状態において、第三軸78は、伸張した第二復帰バネ83により、中間状態復帰方向に付勢される。しかしながら、第三軸78は第三手摺受部100cに設けられた吸着体により吸着されているため、第二復帰バネ83の付勢力に抗して掛け渡し状態が維持される。
また、第三軸78の回動に伴い、当該第三軸78に接続された第一クサビ体80も回動する。そして、この第一クサビ体80の回動により、第二クサビ体82、当該第二クサビ体82に連結されたブレーキワイヤ86、当該ブレーキワイヤ86に接続されたディスクブレーキ94も、それぞれ、進出する。その結果、ディスクブレーキ94が円板体90に当接する。このディスクブレーキ94と円板体90との間に生じる摩擦力は、第一復帰バネ88の付勢力に比して大きく、当該摩擦力により円板体90、ひいては、可動体72の第一水平軸Qを中心とした回動が阻害される。
掛け渡し状態となった第三軸78を利用して乗場まで移動できれば、続いて、利用者は、当該第三軸78をカゴ室側に軽く押し戻す。この押し戻し動作により、第三軸78が、第三手摺受部100cから離間すると、第二復帰バネ83の付勢力により、第三軸78は自動的にカゴ室側に回動し、中間状態に戻る。このとき、第三軸78の回動に伴い第一クサビ体80も回動し、その先端で第二クサビ体82を第一軸74方向に後退させる。第二クサビ体82が後退すると、当該第二クサビ体82に接続されたブレーキワイヤ86、ブレーキワイヤ86に接続されたディスクブレーキ94も後退する。そして、ディスクブレーキ94が後退することにより、当該ディスクブレーキ94と円板体90との密着も解除され、円板体90および可動体72の第一水平軸Pを中心とする回動が許容されることになる。
ここで、円板体90および可動体72は、第一復帰バネ88により初期状態復帰方向に付勢されているため、ディスクブレーキ94による回動阻害が解除されると、即座に、初期状態復帰方向に回動する。そして、最終的に、第二軸76が第一手摺受部100cに当接するまで回動し、初期状態に戻る。
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態でも、第一実施形態と同様に、利用者が、直接、可動手摺70を操作することで、掛け渡し状態と初期状態との切り替えが行われる。そのため、各利用者ごとのペースで可動手摺70の状態を変化させることができ、可動手摺70の操作に伴う利用者の戸惑いや不安感を従来に比べて低減できる。また、本実施形態では、復帰バネ83,88の付勢力で初期状態への自動復帰を実現している。そのため、手摺を電動駆動する従来技術に比して、構成を簡易かつ小型にすることができる。
さらに、本実施形態では、掛け渡し状態から初期状態に復帰する際に、必ず、中間状態を経ることになる。換言すれば、掛け渡し状態から初期状態に復帰する際、第三軸78は、乗場12の三方枠16や、ドア14などに衝突することなく、真っ直ぐにカゴ室10に侵入してから、カゴ室10の側壁方向に回動する。そのため、可動体72とカゴ室10等の衝突を確実に防止でき、より安全に初期状態に復帰させることができる。
なお、第一実施形態とほぼ同様であるため詳説は省略したが、第二実施形態においても、エレベータの制御盤は、マイクロスイッチ104やフォトセンサ40、セイフティスイッチ38の動作信号に基づいて可動手摺70の回動状況を検出し、その検出結果に応じてドア14の開閉を制御する。
10 カゴ室、12 乗場、14 ドア、16 三方枠、18,19 固定手摺、20 カゴ側可動手摺、22 乗場側可動手摺、24 固定管体、26 可動体、28 内軸、30,52 手摺本体、34 復帰バネ、36,53 スイッチ押下部、38 セイフティスイッチ、40 フォトセンサ、44,54 手摺受部、56 カゴ側中継回路ボックス、58 ドアモータ、59 制御ケーブル、60 制御盤、62 乗場側中継回路ボックス、63 乗場ケーブル、70 可動手摺、72 可動体、74 第一軸、76 第二軸、78 第三軸、80 第一クサビ体、82 第二クサビ体、83 第二復帰バネ、86 ブレーキワイヤ、88 第一復帰バネ、90 円板体、94 ディスクブレーキ、100 手摺受部。