JP4895440B2 - 被加工物の表面機能改善方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ELID研削と同時に被加工物の表面機能を改善する表面機能改善方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
鏡面仕上げを必要とする部位への加工手段として最も一般的なものは、ラッピング、ポリッシング等、遊離砥粒を用いた研磨加工である。しかし研磨加工は、(1)通常手作業のため効率が悪い、(2)被加工物へ砥粒が食い込む場合がある、などの問題点がある。そのため、近年では研削に代表される固定砥粒を用いた加工手段が注目を集めている。
一方、ますます細密化する半導体回路の加工などを背景として、位置決めの精度の高い加工機と固定砥粒加工とを組み合わせた超精密研削技術の開発と実用化が求められている。超精密研削では、加工面粗さや形状精度、表面品位などで厳しい仕様を満たさなければならない。
【0003】
上述した問題点を解決する加工手段として固定砥粒を用いた砥石の表面を電解ドレッシングしながら、砥石でワークを研削加工する電解インプロセスドレッシング研削(Electrolytic In−process Dressing Grinding)が注目されている。以下、この研削手段をELID研削と呼ぶ。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ELID研削は、一般的な金属材料の他、超硬金属、脆性材料、セラミックス、ガラス、半導体等の多くの材料を高精度、高品質、高能率で加工することができる。しかし、この加工により得られた加工物を、エンジンのシリンダ、軸受部品、電子部品、光学部品、等に適用するためには、従来、メッキ、蒸着、塗装等の耐食処理を施し、その酸化(腐食)を防止する必要があった。
【0005】
しかし、かかる耐食処理により、ELID研削で得られた高精度及び高品質が損なわれる場合があった。
また、生体内で使用するいわゆる生体材料(例えば人工歯根)の場合には、耐食処理自体が生体に影響を及ぼすおそれがあるため、研削加工した加工物を耐食処理せずにそのまま使用する必要がある。この場合、人体に影響のない材料は限られるため、これを耐食処理することなく耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等の表面機能を改善することが望まれる。
【0006】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ELID研削と同時に被加工物の表面機能を改善することができる被加工物の表面機能改善方法及び装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、導電性砥石(1)と電極(2)との間に導電性研削液(3)を流しながら、砥石と電極との間に電圧を印加し、砥石を電解ドレッシングしながら被加工物(4)を研削する電解インプロセスドレッシング研削において、アルカリ性研削液を導電性研削液(3)として用い、かつ被加工物を電極より高い電位に印加する、ことを特徴とする被加工物の表面機能改善方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、導電性砥石(1)と電極(2)との間にアルカリ性の導電性研削液(3)を流しながら、砥石と電極との間に電圧を印加し、砥石を電解ドレッシングしながら被加工物(4)を研削する電解インプロセスドレッシング研削装置(10)と、被加工物を電極より高い電位に印加するワーク印加装置(12)とを備えた、ことを特徴とする被加工物の表面機能改善装置が提供される。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記被加工物は、導電性を有し、かつ酸化物が安定して存在しうる材料である。
【0010】
上記本発明の方法及び装置によれば、アルカリ性研削液を導電性研削液として用いることにより、研削液中にOHイオンを大量に遊離させることができる。
また、電解インプロセスドレッシング研削(ELID研削)において、砥石をプラス(+)に電極をマイナス(−)に印加するので、砥石と電極との間で水(研削液)の電気分解が生じ、OHイオンと共に溶存酸素濃度を増大させることができる。
【0011】
更に、本発明の方法では、被加工物(例えば金属材料)を電極より高い電位に印加するので、被加工物はプラス(+)の電位を有する。従って、研削液中のOHイオンを被加工物の表面に引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化して表面に酸化皮膜が形成される。
【0012】
また、ELID研削では、砥石の表面に不導体皮膜が形成され、この皮膜を構成する金属の水酸化物が被加工物に転写されるので、被加工物表面の酸化皮膜の形成が助長される。
従って、被加工物の表面は、ELID研削で表面を研削すると同時に、研削加工により露出した素材表面をOHイオンと溶存酸素で酸化して強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)を改善することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付して使用する。
【0014】
図1は、本発明の表面機能改善装置の全体構成図である。この図において、本発明の表面機能改善装置は、ELID研削装置10と、ワーク印加装置12を備える。
【0015】
ELID研削装置10は、被加工物4(ワーク)との接触面を有する導電性砥石1と、砥石と間隔を隔てて対向する電極2と、砥石1と電極2との間に導電性研削液3を流すノズル7と、砥石1と電極2との間に電圧を印加する電源5(ELID研削)とからなり、導電性砥石1と電極2との間に導電性研削液3を流しながら、砥石1と電極2との間に電圧を印加し、砥石1を電解ドレッシングしながらワーク4を研削するようになっている。
【0016】
ノズル7は、砥石1と電極2の間を通過した研削液3が、そのまま砥石1とワーク4との間に流れるように配置するのがよい。また、砥石1とワーク4との間に導電性研削液3を流すように別のノズル7’を設け、ノズル7’の研削液3が砥石1と電極2の間を通過した研削液3と合流して混合するようにしてもよい。
【0017】
ワーク印加装置12は、この例では、ELID電源5の陽極(+)とワーク4を電気的に接続するワーク印加ライン12aを有し、参考例では、ワーク4を砥石1と同電位にするようになっている。なお、ワーク印加装置12は、この構成に限定されず、本発明では、ワーク4を電極2より高い電位に印加し、砥石と電極の中間電位に印加する。参考例では、ワーク印加ライン12aは必ずしも不可欠ではなく、例えば、砥石とワークを接地(アース)し、電極のみに負(−)の電圧を印加するようにしてもよい。更に、ELID電源としてパルス電圧を用いる場合に、別の電源でワークのみを一定電圧に印加してもよい。
【0018】
本発明を適用する被加工物4(ワーク)は、ワーク印加装置12で必要な電位を印加できるように導電性を有し、かつELID研削と同時に形成された酸化物が表面に安定して存在しうる材料である必要がある。かかるワーク4は、金属一般、金属を含む複合材料、半導体、導電性セラミックス等である。
【0019】
上述した表面機能改善装置を用い、本発明の方法では、アルカリ性研削液を導電性研削液3として用い、かつワーク4をワーク印加装置12により電極2より高い電位に印加した状態で、ワークをELID研削する。
【0020】
上述した本発明の方法及び装置によれば、アルカリ性研削液を導電性研削液3として用いることにより、研削液中にOHイオンを大量に遊離させることができる。
また、ELID研削において、砥石1をプラス(+)に電極2をマイナス(−)に印加するので、砥石1と電極2との間で水(研削液)の電気分解が生じ、OHイオンと共に溶存酸素濃度を増大させることができる。
【0021】
更に、本発明の方法では、被加工物4(例えば金属材料)を電極より高い電位に印加するので、被加工物はプラス(+)の電位を有する。従って、研削液中のOHイオンを被加工物の表面に引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化して表面に酸化皮膜が形成される。
【0022】
また、ELID研削では、砥石1の表面に不導体皮膜が形成され、この皮膜を構成する金属の水酸化物(Fe(OH)2,Fe(OH)3)が被加工物に転写されるので、被加工物表面の酸化皮膜の形成が助長される。
従って、被加工物の表面は、ELID研削で表面を研削すると同時に、研削加工により露出した素材表面をOHイオンと溶存酸素で酸化して強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)を改善することができる。
【0023】
図2は、本発明の表面機能改善装置の他の構成例を示す図である。この図に示すように、本発明の表面機能改善装置を構成するELID研削装置10は、(A)ロータリー平面研削盤、(B)円筒研削盤、(C)曲面加工装置、等であってもよい。なお、この図において、ワーク印加装置12は省略している。
(B)円筒研削盤では、シリンダーや軸受部品のトライボロジー特性の改善に特に適している。また、(C)曲面加工装置では、ミラー、レンズ等の保護膜形成に適している
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
図1に示した表面機能改善装置10を用い、生体用金属系材料として広く用いられるTi−6Al−4V合金に対してELID研削により表面仕上げを施した試験片を準備し、耐食性に及ぼすELID研削の効果について従来のアルミナ研磨と比較した。
【0025】
(供試材および実験方法)
表1に示す化学成分を有するTi−6Al−4V合金を被加工物4(ワーク)として使用した。このワーク4を900℃、8時間の焼鈍処理を施し組織を粗大化させた後、本発明によるELID研削と、アルミナによるバフ研磨とを施した。
【0026】
【表1】
【0027】
ELID研削は、研削砥石として鋳鉄ボンドダイヤモンド砥石を用い、#4000まで順次研削を施した。また、アルミナによるバフ研磨はエメリ紙により#2000まで順次研磨した後、アルミナ粉0.06μmを用いて鏡面状に仕上げた。以下前者をELID研削材、後者をアルミナ研磨材と称す。
【0028】
腐食試験はポテンシオスタットを用いて3電極法により行った。この試験では、動電位分極測定を行い電気化学的に金属表面の耐食性を評価した。その際、電位走査速度は10mV/minとし、電解液としては25℃に保持した3%NaCl溶液を用いた。表面の観察には走査型電子顕微鏡(以下SEM)、表面の元素分析にはX線分析装置(以下EDX)を用いた。
【0029】
(実験結果)
ELID研削材とアルミナ研磨材の表面粗さの測定結果を表2に示す。表2からアルミナ研磨材と比較してELID研削材の方が表面状態が粗いことがわかる。また、SEMにより観察した結果からELID研削材には、明瞭な研削痕が形成されていることがわかる。
【0030】
【表2】
【0031】
(腐食試験)
図3にELID研削材とアルミナ研磨材の動電位分極試験結果を示す。この図から、アルミナ研磨材と比較してELID研削材の孔食電位は低い値を示していることがわかる。しかしながら、不動態域保持電流密度に注目すると、その値はELID研削材の方が低く、より耐食性に優れることを示唆している。以下、これらの原因について考察する。
【0032】
まず腐食試験前の表面性状を把握するために、ELID研削材とアルミナ研磨材に対してX線分析装置(EDX)により表面全体の分析を行った。その結果を図4(a),(b)に示す。図4からはELID研削材(右図)においてはアルミナ研磨材(左図)と比較して酸素の含有量が著しく多いことがわかる。このことはELID材表面に何らかの酸化皮膜が形成されていることを示唆しており、これがELID研削材が不動態域において良好な耐食性を示した要因と考えられる。なお、ELID研削においては砥石と電極との間で水の電気分解が起こっており、これにより生成した酸素イオンが、加工熱により活性となる試験面と化学反応を起こした結果、表面に酸化層が形成されたと考えられる。
【0033】
(ステンレス鋼との比較)
図5に、ステンレス鋼に対してELID研削を施し耐食性を評価した結果を示す。この図において横軸は電圧、縦軸は電流であり、図中の(1)はアルミナ研磨材、(2)(3)は本発明によるELID研削材である。アルミナ研磨材の表面粗さは、(3)と同等であり、(2)はそれよりも粗くなっている。
各図において、電圧を徐々に上げると電流は少しずつ増加するが、ある電圧以上では電流が急増する。この急増点の電圧が高く電流が低いほど耐食性が高いことになる。
この図から、アルミナ研磨材と比較してELID研削材の方が高い孔食電位を有しており、また不動態域において低い保持電流密度を有していることがわかる。
【0034】
図6は、ステンレスの加工面の元素分析の結果である。この図からELID研削材においてはアルミナ研磨材と比較して酸素の含有量が多いことがわかる。
従って、図6と図7からELID研削材の研削表面にはチタンの場合と同様に安定した酸化皮膜が形成されていると考えられる。しかしながら、ステンレス鋼に対してはチタンに観察されたような明瞭な研削痕は認められなかった。これが、腐食ピットの発生を抑制し良好な耐食性を示した要因と考えられる。したがって適切な研削条件を見つけ出すことができれば、チタン合金へもELID研削法を適用することが可能と考えられる。
【0035】
(結論)
Ti−6Al−4V合金に対してELID研削を施し耐食性を評価した結果アルミナ研磨材と比較して粗い表面が形成され低い孔食電位を有したが、不動態域においては良好な耐食性を有することが明らかとなった。これは、水の電気分解により生成した酸素イオンが、加工熱により活性となる試験面と化学反応を起こした結果、表面に酸化層が形成されたためと考えられる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで主種に変更できることは勿論である。
【0037】
【発明の効果】
上述したように、本発明の方法及び装置によれば、研削液中のOHイオンと溶存酸素濃度を増大させることができ、プラス(+)の電位を有する被加工物の表面にOHイオンを引きつけて、表面をOHイオンと溶存酸素によりこれを酸化して表面に酸化皮膜を形成することができる。
【0038】
従って、被加工物の表面は、ELID研削で表面を研削すると同時に、研削加工により露出した素材表面をOHイオンと溶存酸素で酸化して強い酸化皮膜が形成され、その表面機能(耐食性、トライボロジー特性、疲労強度等)が改善される。
【0039】
すなわち、本発明の被加工物の表面機能改善方法及び装置は、ELID研削と同時に被加工物の表面機能を改善することができる、等の優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面機能改善装置の全体構成図である。
【図2】本発明の表面機能改善装置の他の構成例を示す図である。
【図3】ELID研削材とアルミナ研磨材の動電位分極試験結果である。
【図4】ELID研削材とアルミナ研磨材の加工面の元素分析結果である。
【図5】ステンレスの動電位分極試験結果である。
【図6】ステンレスの加工面の元素分析結果である。
【符号の説明】
1 導電性砥石、2 電極、3 導電性研削液、4 ワーク(被加工物)、
5 電源、7 ノズル、10 ELID研削装置、
12 ワーク印加装置、12a ワーク印加ライン
Claims (3)
- 導電性砥石(1)と電極(2)との間に導電性研削液(3)を流しながら、砥石と電極との間に電圧を印加し、砥石を電解ドレッシングしながら被加工物(4)を研削する電解インプロセスドレッシング研削において、
アルカリ性研削液を導電性研削液(3)として用い、被加工物を電極より高くかつ砥石と電極の中間電位に印加することにより砥石と電極との間で研削液に含まれる水の電気分解を行い、生成した酸素イオンと研削による加工熱で研削加工により露出した被加工物の表面に研削と同時に酸化層を形成する、ことを特徴とする被加工物の表面機能改善方法。 - 前記被加工物は、導電性を有し、かつ酸化物が安定して存在しうる材料である、ことを特徴とする請求項1に記載の被加工物の表面機能改善方法。
- 導電性砥石(1)と電極(2)との間にアルカリ性の導電性研削液(3)を流しながら、砥石と電極との間に電圧を印加し、砥石を電解ドレッシングしながら被加工物(4)を研削する電解インプロセスドレッシング研削装置(10)と、被加工物を電極より高くかつ砥石と電極の中間電位に印加するワーク印加装置(12)とを備え、前記ワーク印加装置が供給する電力により砥石と電極との間で研削液に含まれる水の電気分解を行い、生成した酸素イオンと研削による加工熱で研削加工により露出した被加工物の表面に研削と同時に酸化層を形成することを特徴とする被加工物の表面機能改善装置。
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