JP4882160B2 - リチウムイオン二次電池とそのための正極活物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池とそのための正極活物質、特に、マンガンの置換元素が相違し、かくして、特性の相違する2種類のリチウムマンガン複合酸化物を含む正極活物質に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池の正極活物質として、従来より、274mAh/gの理論容量を有するリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )が用いられている。しかし、リチウムコバルト複合酸化物は、コバルトを原料とするところから、製造コストが高く、また、資源が限られているので、供給面でも不安がある。そこで、資源的に豊富で、しかも、低廉なマンガンを原料とするリチウムマンガン複合酸化物として、スピネル構造を有する4V級のLiMn2 O4 が正極活物質として提案されている。しかし、この複合酸化物は、理論容量が148mAh/gと低く、また、充放電サイクル性能が劣るという欠点がある。
【0003】
このような事情の下、コバルト酸リチウムと同程度(285mAh/g)の理論容量を有する正方晶のLi2 Mn2 O4 と斜方晶又は単斜晶のLiMnO2 がコバルト酸リチウムの代替材料として注目されるに至り、リチウムイオン二次電池の正極材料として期待されている。
【0004】
単斜晶構造を有するLiMnO2 は特開平11−21128号公報に既に記載されている。また、単斜晶構造を有するLiMnO2 のマンガン原子の一部を置換元素で置換した複合酸化物は、例えば、特開2000−294242号公報に記載されている。また、単斜晶構造を有するLiMnO2 のリチウム原子の一部を置換元素で置換した複合酸化物は、例えば、特開平11−317225号公報に記載されている。更に、リチウム原子とマンガン原子の一部をそれぞれ置換元素で置換した複合酸化物も、例えば、特開平11−317226号公報や特開2000−133266号公報等に記載されている。
【0005】
また、例えば、特開平9−180718号公報や特開2001−23640号公報等に記載されているように、特性の相違するリチウムマンガン複合酸化物を組合わせて、正極活物質とすることも提案されている。
【0006】
しかし、従来より知られているこのようなリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池においては、それまでのスピネル型のLiMn2 O4 を含むマンガン系正極活物質に比べれば、容量やサイクル特性において、幾分、改善がなされているが、しかし、更なる特性の改善や低コスト化が強く求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極活物質としてのリチウムマンガン複合酸化物における上述した問題を解決するためになされたものであって、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に、高エネルギー密度を有し、充放電容量が高く、しかも、サイクル特性にすぐれる高性能のリチウムイオン二次電池を与えるリチウムマンガン複合酸化物からなる正極活物質と、そのような正極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、
(I)一般式(I)
Lia Mn1-X-Y CrX MY Ob
(式中、MはIn、W、Al、V、Co、Ni、Y、Fe、La、Ti及びEuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a、b、X及びYはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Y≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.8≦b≦2.4
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第1の複合酸化物と、
(II)一般式(II)
Lia Mn1-X-Z CrX MoZ Ob
(式中、a、b、X及びZはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0<Z≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.9≦b≦2.1
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第2の複合酸化物と
を含む正極活物質を用いてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0009】
更に、本発明によれば、上記第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池のための正極活物質が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、
(I)一般式(I)
Lia Mn1-X-Y CrX MY Ob
(式中、MはIn、W、Al、V、Co、Ni、Y、Fe、La、Ti及びEuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a、b、X及びYはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Y≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.8≦b≦2.4
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第1の複合酸化物と、
(II)一般式(II)
Lia Mn1-X-Z CrX MoZ Ob
(式中、a、b、X及びZはそれぞれ、0<X≦0.2、0<Z≦0.2、0.8≦a≦1.2、1.9≦b≦2.1を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第2の複合酸化物と
を含む正極活物質を用いてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明によるリチウムイオン二次電池のための正極活物質は、上記第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1及び第2の複合酸化物が「晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなる」とは、そのリチウムマンガン複合酸化物のX線回折チャートが、現在の時点においては、JCPDS(Joint Committee Powder Diffraction Standard) カードに収載されていないが、例えば、特開平11−21128号公報や M. Tabuchi et al., J. Electrochem. Soc., Vol. 145, L49) に記載されている単斜晶LiMnO2 と同一のピークパターンを有するリチウムマンガン複合酸化物粒子状組成物からなるか、又はこれと斜方晶構造のリチウムマンガン複合酸化物であるLiMnO2 との混合物からなることを意味する。
【0013】
更に、本発明によれば、第1及び第2の複合酸化物が「X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある」とは、X線回折において、単斜晶の(001)面の回折ピークの回折強度(以下、I(単斜晶)という。)に対する斜方晶の(010)面の回折ピークの回折強度(以下、I(斜方晶)という。)の比R(即ち、R=I(斜方晶)/I(単斜晶))が0〜0.3の範囲にあることを意味する。
【0014】
上述したように、強度比Rは、I(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義され、本発明においては、第1の複合酸化物も、第2の複合酸化物も、上記強度比Rが0〜0.3の範囲にある。第1、第2の複合酸化物のいずれも、強度比Rが大きいほど、晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物における斜方晶の比率が高くなり、このような複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、サイクル特性と充放電容量において劣る傾向がある。そして、強度比Rが0.3を越えると、得られるリチウムイオン二次電池が実用的に十分なサイクル特性をもたなくなる。本発明によれば、第1、第2の複合酸化物のいずれにおいても、強度比Rは、好ましくは、0〜0.2の範囲である。
【0015】
本発明によれば、第1の複合酸化物において、クロムと元素Mは、それぞれマンガン原子の一部を置換する元素(以下、置換元素という。)である。
【0016】
即ち、クロムは、第1の複合酸化物において、マンガン原子の一部を置換する第1の置換元素であり、元素Mは、マンガン原子の一部を置換する第2の置換元素であり、In、W、Al、V、Co、Ni、Y、Fe、La、Ti及びEuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、前記一般式(I)において、リチウム原子の割合aと、酸素原子の割合bと、上記クロム及び第2の置換元素がマンガン原子を置換する割合X及びYはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Y≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.8≦b≦2.4
を満たす数である。
【0017】
本発明によれば、第1の複合酸化物において、第1の置換元素Crは、前記強度比Rを制御する元素であり、主として単斜晶のリチウムマンガン複合酸化物を得るために必須の元素である。その理由は、必ずしも明らかではないが、LiMnO2 結晶において、マンガン原子が占有する位置の一部をCr原子が占めることによって、イオン半径の大きさの差に由来して、エネルギー的に安定な単斜晶が主たる晶系を占め、残りを不安定な斜方晶が占めるとみられる。
【0018】
本発明によれば、第1の複合酸化物において、クロムによるマンガン原子の置換量X(モル分率)は、第1の複合酸化物中のマンガン原子1モルのうち、0.2以下である。即ち、クロムによるマンガン原子の置換量Xは、0<X≦0.2を満たす範囲であり、好ましくは、0.03≦X≦0.1の範囲である。クロムによるマンガン原子の置換量が小さすぎるときは、得られる第1の複合酸化物を正極活物質として用いてなるリチウムイオン二次電池のサイクル特性と充放電容量が悪くなる。他方、クロムによるマンガン原子の置換量が大きすぎるときは、固溶限を越え、そのような複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池は、放電容量が低下する。
【0019】
本発明によれば、このように、マンガン原子の一部をCrにて置換してなる単斜晶を主体(強度比Rは0〜0.3の範囲にある。)とする第1の複合酸化物において、マンガン原子の一部を更に第2の置換元素Mにて置換することによって、初期の放電容量とサイクル特性を一層、改善することができる。従って、第1の複合酸化物において、第2の置換元素Mもまた、第1の置換元素Crと同様に、得られる複合酸化物の結晶構造の安定化に寄与して、特性の改善に貢献するものとみられる。
【0020】
本発明によれば、第1の複合酸化物において、第2の置換元素Mの置換量Y(モル分率)は、複合酸化物中のマンガン原子1モルのうち、0〜0.2の範囲である。即ち、第2の置換元素Mによるマンガン原子の置換量Yは、0≦Y≦0.2の範囲であり、好ましくは、0.01≦Y≦0.05の範囲である。第1の複合酸化物において、第2の置換元素Mによるマンガン原子の置換量が小さすぎるときは、初期の放電容量とサイクル特性を改善する効果に乏しい。しかし、第2の置換元素Mによるマンガン原子の置換量が大きすぎるときは、固溶限を越え、そのような複合酸化物を正極活物質とするリチウムイオン二次電池の充放電容量が低下する。
【0021】
第1の複合酸化物において、aは、化学量論上は1であるが、量論量を外れるものも当然存在し得る。本発明による第1の複合酸化物においては、aは、0.8≦a≦1.2の範囲をとることができる。リチウムが量論量より多くても少なくても、リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適に用いることができる。
【0022】
他方、第1の複合酸化物において、bは、上述したa、Yの値と第2の置換元素Mの価数によって定まる値であり、その最小値と最大値は次のようにして決定される。即ち、a=0.8、第2の置換元素Mの価数が2、Y=0.2のとき、b=1.8にて最小値をとり、a=1.2、第2の置換元素Mの価数が6、Y=0.2のとき、b=2.4にて最大値をとる。
【0023】
本発明によれば、第1の複合酸化物は、比表面積が0.1〜6.0m2 /gの範囲にあることが好ましく、0.1〜2.0m2 /gの範囲にあることが特に好ましい。ここに、本発明において、比表面積とは、自動表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製MONOSORB MS−15)を用いて、BET一点法にて求めた値を指す。
【0024】
第1の複合酸化物の比表面積が0.1m2 /gよりも小さいときは、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に、急速に多量の電気量を取り出すことができないおそれがある。他方、比表面積が6.0m2 /gを越えるときは、リチウムイオン二次電池中の電解液へのマンガンの溶出量が大きくなるので、充放電容量の低下(サイクル性)の問題が生じるおそれがある。
【0025】
次に、本発明によれば、第2の複合酸化物において、クロムとモリブデンは、それぞれマンガン原子の一部を置換する第1及び第2の置換元素であり、前記一般式(II)において、リチウム原子の割合aと、酸素原子の割合bと、上記クロム及びモリブデンがマンガン原子を置換する割合X及びZはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Z≦0.2、0.
8≦a≦1.2、
1.9≦b≦2.1
を満たす数である。
【0026】
本発明によれば、第2の複合酸化物において、第1の置換元素クロムは、第1の複合酸化物におけると同様に、前記強度比Rを制御する元素であり、主として単斜晶のリチウムマンガン複合酸化物を得るために必須の元素であり、第2の複合酸化物において、クロムによるマンガン原子の置換量X(モル分率)は、第2の複合酸化物中のマンガン原子1モルのうち、0.2以下である。即ち、クロムによるマンガン原子の置換量Xは、0<X≦0.2を満たす範囲であり、好ましくは、0.03≦X≦0.1の範囲である。
【0027】
本発明によれば、このように、マンガン原子の一部をクロムにて置換してなる単斜晶を主体(強度比Rは0〜0.3の範囲にある。)とする第2の複合酸化物において、マンガン原子の一部を更に第2の置換元素モリブデンにて置換することによって、これを正極活物質とするリチウムイオン二次電池の高電圧領域での放電容量を安定化させる効果を有する。
【0028】
即ち、一般に、マンガン酸リチウムを正極活物質とするリチウムイオン二次電池の放電曲線は、殆どの場合、4Vの電圧を示す領域と3Vの電圧を示す領域のそれぞれ2段の平坦部を有する曲線からなるが、本発明に従って、マンガン原子の一部をクロムとモリブデンとによって置換してなる単斜晶を主体とする第2の複合酸化物は、これをリチウムイオン二次電池における正極活物質として用いた場合には、充電放電の繰返しによっても、4V領域の放電容量が変化が少ないという特徴を有する。
【0029】
本発明によれば、第2の複合酸化物において、第2の置換元素モリブデンの置換量Z(モル分率)は、第2の複合酸化物中のマンガン原子1モルのうち、0.2以下の範囲である。即ち、第2の置換元素Moによるマンガン原子の置換量Zは、0<Z≦0.2の範囲であり、好ましくは、0.01≦Z≦0.05の範囲である。第2の置換元素Moによるマンガン原子の置換量が大きすぎるときは、これを正極活物質とするリチウムイオン二次電池の充放電容量が低下する。
【0030】
本発明によれば、第2の複合酸化物も、第1の複合酸化物におけると同じ理由によって、比表面積が0.1〜6.0m2 /gの範囲にあることが好ましく、0.1〜2.0m2 /gの範囲にあることが特に好ましい。
【0031】
本発明によれば、第1の複合酸化物は、第1工程として、リチウム化合物と3価のマンガン化合物とクロム化合物と元素Mの化合物(マンガンとクロムと元素Mの3つの元素の化合物のうち、任意の2つ以上が固溶体化合物であってもよい。)を混合して混合物を得、次いで、第2工程として、この混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成することによって得ることができる。
【0032】
本発明においては、上述したように、上記混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成して、リチウムマンガン複合酸化物を得る反応を、以下、リチウム化反応という。
【0033】
上記第1工程において、リチウム化合物としては、最終的に目的とする第1の複合酸化物を与えるものであれば、特に、限定されるものではなく、例えば、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等の有機酸リチウムや、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等の無機リチウム塩が用いられる。しかし、なかでも、価格、操作性等の観点から、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム又は硝酸リチウムが好ましく用いられる。
【0034】
また、第1工程において、3価のマンガン化合物としては、最終的に目的とする第1の複合酸化物を与えるものであれば、特に、限定されるものではなく、例えば、二酸化マンガン(特に、電解二酸化マンガン)、三二酸化マンガン、オキシ水酸化マンガン等が用いられる。しかし、なかでも、価格や入手が容易である等の観点から、三二酸化マンガン又はオキシ水酸化マンガンが好ましく用いられる。
【0035】
上記三二酸化マンガンは、既に、よく知られているように、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン等のマンガン化合物を大気中又は酸化性雰囲気下、約600〜900℃の温度で加熱することによって得ることができる。市販の三二酸化マンガンを用いることもできる。
【0036】
上記オキシ水酸化マンガンは、一般には、MnOOHで表わされるが、正確には、Mn2 O3 ・H2 Oである。即ち、オキシ水酸化マンガンは、一般に、1分子の水を有する三二酸化マンガン(Mn2 O3 )を意味するが、しかし、本発明において、三二酸化マンガンが有する水分子は1分子より少なくてもよく、また、1分子より多くてもよい。
【0037】
上記オキシ水酸化マンガンは、既に、知られているように、種々の方法にて得ることができる。例えば、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン等の2価のマンガンを有する化合物をアルカリで中和した後、空気、酸素、過酸化水素等の酸化剤で酸化することにより得ることができる。また、例えば、上記2価のマンガン化合物の水溶液を炭酸化した後、アルカリ処理し、最後に、酸化処理することによっても得ることができる。市販のオキシ水酸化マンガンを用いることもできる。
【0038】
第1の複合酸化物の製造において、クロム化合物や元素Mの化合物も、最終的に目的とする第1の複合酸化物を与えるものであれば、特に、限定されるものではなく、適宜のものが用いられる。従って、クロム化合物の具体例として、例えば、酸化クロム、水酸化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム等を挙げることができる。また、元素Mの化合物の具体例として、酸化インジウム、硫酸インジウム、塩化インジウム、酸化タングステン、塩化タングステン、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、水酸化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酸化イットリウム、硝酸イットリウム、酢酸ユーロピウム等の酸化物、水酸化物、無機塩、有機塩を挙げることができる。
【0039】
前述したように、本発明によれば、第1工程において、リチウム化合物と3価のマンガン化合物とクロム化合物と元素Mの化合物 (マンガンとクロムと元素Mの3つの元素の化合物のうち、任意の2つ以上の元素の化合物が固溶体化合物であってもよい。)を混合して混合物を得る。
【0040】
従って、第1の複合酸化物の製造において、第1工程において、上記それぞれの化合物を混合するに際して、種々の態様が可能である。しかし、本発明によれば、第1の複合酸化物の製造においては、なかでも、3価のマンガン化合物とクロム化合物と元素Mの化合物とを混合した後、大気下に焼成して、固溶体酸化物とし、これをリチウム化合物と混合して、混合物を得ることが好ましい。この態様によれば、3価のマンガン原子と元素クロムと元素Mとの均一な固溶体酸化物を得ることができる。このような固溶体酸化物として、例えば、(Mn1-X-T CrX MY )2 Oy 等を例示することができる。ここに、yは、固溶体酸化物を電気的に中性にするように、Yの値と共に元素Mの価数によって定まる値である。
【0041】
同様に、本発明によれば、第2の複合酸化物は、第1工程として、リチウム化合物と3価のマンガン化合物とクロム化合物とモリブデン化合物(マンガンとクロムとモリブデンの3つの元素の化合物のうち、任意の2つ以上が固溶体化合物であってもよい。)を混合して混合物を得、次いで、第2工程として、この混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成する、即ち、リチウム化することによって得ることができる。
【0042】
第2の複合酸化物の製造の上記第1工程において用いるリチウム化合物、3価のマンガン化合物及びクロム化合物については、前述したとおりであり、第1工程においては、同様に、リチウム化合物と3価のマンガン化合物とクロム化合物とモリブデン化合物 (マンガンとクロムとモリブデンの3つの元素の化合物のうち、任意の2つ以上の元素の化合物が固溶体化合物であってもよい。)を混合して混合物を得る。
【0043】
従って、第2の複合酸化物の製造においても、第1工程において、上記それぞれの化合物を混合するに際して、種々の態様が可能である。しかし、本発明によれば、第2の複合酸化物の製造においては、なかでも、3価のマンガン化合物とクロム化合物とモリブデン化合物とを混合した後、大気下に焼成して、固溶体酸化物とし、これをリチウム化合物と混合して、混合物を得ることが好ましい。この態様によれば、3価のマンガン原子とクロムとモリブデンとの均一な固溶体酸化物を得ることができる。このような固溶体酸化物として、例えば、(Mn1-X-Z CrX MoZ )2 Oy 等を例示することができる。ここに、yは、固溶体酸化物を電気的に中性になるように、Zの値によって定まる値である。
【0044】
第2の複合酸化物の製造において、モリブデン化合物としては、最終的に目的とする複合酸化物を与えるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば具体例として酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等の酸化物、無機塩を挙げることができる。
【0045】
以下、第1と第2のリチウムマンガン複合酸化物粒子状組成物の製造について、共通して述べる。括弧内の記載は、第2のリチウムマンガン複合酸化物粒子状組成物を製造する場合を示す。
【0046】
上述したように、第1工程において、3価のマンガン原子とクロムと元素M(又はモリブデン)との固溶体酸化物を得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば、クロム化合物(例えば、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物等)と元素Mの化合物(例えば、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物等)(又はモリブデン化合物(例えば、硫酸塩、塩化物、酸化物等))の水溶液を炭酸マンガンと混合し、攪拌しながら、蒸発乾固して、炭酸マンガンの粒子の表面に上記クロム化合物と元素Mの化合物(又はモリブデン化合物)を被着させ、これを大気中で焼成することによって得ることができる。
【0047】
また、別の方法として、例えば、炭酸マンガンの粒子とクロム化合物と元素Mの化合物(又はモリブデン化合物)とを混合して、炭酸マンガンの粒子の表面にこれら元素の化合物を被着させた後、高温で焼成して、焼結を過度に進めた粒子を作り、続けて、これを酸化性雰囲気下で再度、焼成することによっても得ることができる。
【0048】
このようにして、第1工程を行って、混合物を得た後、第2工程として、この混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成して、リチウム化反応を行なうことによって、本発明による第1(第2)の複合酸化物を得ることができる。
【0049】
本発明によれば、第2工程において、3価のマンガンが酸化又は還元反応によってその価数が変化しないように、上記混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成する。第2工程において、3価のマンガンが酸化又は還元反応によってその価数が変化すれば、本発明において用いる複合酸化物を得ることができない。
【0050】
上記不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等が用いられるが、経済的観点から窒素ガスが好ましく用いられる。しかし、上記3価のマンガンの価数の変化を生ぜしめない雰囲気を形成するものであれば、どのような不活性ガスでも用いることができる。
【0051】
第2工程において、混合物の焼成温度は、300℃から1000℃の範囲であり、好ましくは、470℃から900℃の範囲である。焼成温度が300℃よりも低いときは、リチウム化反応が不完全となる。一方、焼成温度が1000℃よりも高いときは、得られる複合酸化物粒子状組成物の一次粒子が過度に成長して、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に、正極へのリチウムの出入りが困難となって、満足すべき特性を有する電池を得ることが困難である。
【0052】
第2工程において、焼成温度の最適値と生成物、即ち、複合酸化物の結晶相は、用いる置換元素種によって変化する。例えば、置換元素を何も用いない場合には、470℃から900℃の全温度範囲において斜方晶の複合酸化物が生成する。マンガン原子の一部をクロム原子で置換した場合には、単斜晶の複合酸化物のみが生成するか、又は単斜晶と斜方晶の複合酸化物が生成し、焼成温度が高いほど、単斜晶の比率がより高くなる。
【0053】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、上述した第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを含む正極活物質を含む正極を備えてなるものである。
【0054】
本発明によれば、第1の複合酸化物と第2の複合酸化物は、その結晶構造が同じであっても、置換元素の種類によって、放電特性が大きく異なる。即ち、第1の複合酸化物は、単斜晶でみられる4V領域と3V領域の二段の放電曲線を有し、サイクル数の増加と共に4V領域の容量が増加する傾向がみられる。これに対して、第2の複合酸化物は、放電平均電圧が高く、4V領域ではサイクル性がよく、良好な可逆性を示す。かくして、本発明によれば、第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを含む正極活物質を用いることによって、リチウムイオン二次電池の放電容量や可逆性等を大幅に改善することができる。
【0055】
本発明によれば、正極活物質は、第1の複合酸化物/第2の複合酸化物の重量比が20/80〜80/20の範囲にあることが好ましく、特に、第1の複合酸化物20〜80重量%と第2の複合酸化物80〜20重量%とからなることが好ましい。本発明によれば、このようにして、正極活物質を構成することによって、高性能のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0056】
第1の複合酸化物/第2の複合酸化物の重量比が20/80よりも小さいときは、正極活物質として、第2の複合酸化物の性質が強く現れるようになり、放電容量、即ち、3Vと4Vの領域の安定性(サイクル性)が悪くなる。他方、第1の複合酸化物/第2の複合酸化物の重量比が80/20よりも大きいときは、正極活物質として、第1の複合酸化物の性質が強く現れるようになり、放電容量が低くなる。かくして、本発明によれば、正極活物質において、第1の複合酸化物/第2の複合酸化物の重量比を20/80〜80/20の範囲とすることによって、サイクル性にすぐれると共に放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0057】
即ち、本発明によるリチウムイオン二次電池においては、予め、第1と第2の複合酸化物の混合物を準備し、これを正極活物質として用いて、導電剤、結着剤、充填剤等とを配合し、混練して、合剤とし、これを用いて正極を形成して、電池を製作してもよく、また、第1と第2の複合酸化物を個別に準備し、それらを導電剤、結着剤、充填剤等とを配合し、混練して、合剤とし、これを用いて正極を形成してもよい。
【0058】
より詳細には、例えば、第1と第2の複合酸化物を用いて、合剤とし、これを、例えば、ステンレスメッシュからなる正極集電体に塗布、圧着し、減圧下に加熱乾燥して、正極とする。しかし、必要に応じて、上記合剤を円板状等、適宜の形状に加圧成形し、必要に応じて、真空下に熱処理して、正極としてもよい。
【0059】
本発明によれば、このようにして、第1と第2の複合酸化物を正極活物質として用いて正極を形成し、これをその他の電池要素と組合わせて、リチウムイオン二次電池を構成するに際して、例えば、種々の初期アンペア時効率(Ah効率)を有する負極を用いる場合、これに対応させて、上記第1と第2の複合酸化物の配合割合を変化させることもできる。従って、本発明によれば、第1及び第2の複合酸化物をそれぞれ従来よりも格段に広い範囲にて正極活物質として用いることができる。
【0060】
非水電解質(有機電解質)を用いるリチウムイオン二次電池の一例を図1に示す。正極1と負極2は、非水電解液を含浸させたセパレータ3を介して対向して電池容器4内に収容されており、上記正極1は正極集電体5を介して正極用リード線6に接続されており、また、負極2は負極集電体7を介して負極用リード線8に接続されて、電池内部で生じた化学エネルギーを上記リード線6及び8から電気エネルギーとして外部へ取り出し得るように構成されている。
【0061】
上記導電剤は、リチウムイオン二次電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば、特に限定されない。従って、導電剤として、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛、カーボンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉、金属繊維、ポリフェニレン等の導電性高分子物質等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。導電剤の配合量は、特に限定されないが、通常、上記合剤において、1〜50重量%の範囲であり、好ましくは、2〜30重量%の範囲である。
【0062】
上記結着剤も、特に限定されず、例えば、デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエン、フッ素ゴム、ポリエチレンオキサイド等を挙げることができる。これらも単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。結着剤の配合量も、特に限定されないが、通常、上記合剤において、1〜50重量%の範囲が好ましく、特に、2〜30重量%の範囲が好ましい。
【0063】
上記充填剤は、必要に応じて、合剤に配合される。充填剤としては、リチウムイオン二次電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば、特に限定されず、従来より知られているものが適宜に用いられる。従って、このような充填剤として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂繊維、ガラス繊維、炭素繊維等を挙げることができる。充填剤の配合量も、特に、限定されるものではないが、通常、上記合剤において、0〜30重量%の範囲である。
【0064】
本発明によるリチウムイオン二次電池において、負極材料としては、従来、リチウムイオン二次電池に用いられているものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材料が用いられる。
【0065】
正極及び負極は、通常、集電体上に形成される。この集電体としては、特に、限定されるものではないが、通常、ステンレス鋼やそのメッシュ等が用いられる。
【0066】
また、非水電解液も、従来より知られているものであれば、いずれでもよいが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート等のようなカーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等のようなエーテル類等の有機溶媒中に過塩素酸リチウム(LiClO4 )やヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6 )等の解離性リチウム塩類を溶解させたものを挙げることができる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のようなポリオレフィン樹脂からなる多孔性フィルム等が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
本発明によるリチウムイオン二次電池は、例えば、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオムービー等の携帯電子機器類に好適に用いることができるほか、移動体搭載用バッテリー、家庭用補助電源等の大型電池としての応用も可能である。
【0068】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0069】
実施例1
(第1の複合酸化物の調製)
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酸化インジウム4.16g(モル比Cr/(Mn+Cr+In)=0.05、モル比In/(Mn+Cr+In)=0.03)とを500mL容量ビーカーに入れ、250mLの水を加えて攪拌し、均一に混合、分散させて、スラリーを得た。攪拌しながら、このスラリーを加熱して、水分を蒸発乾固させ、その後、電気乾燥機にて一晩乾燥させた。得られた塊状物を粉砕して、表面に硝酸クロムと酸化インジウムを被着させた炭酸マンガン粒子を得た。次に、このように、表面に硝酸クロムと酸化インジウムを被着させた炭酸マンガン粒子をアルミナ製坩堝に入れ、大気中、1150℃で4時間焼成した後、冷却し、粉砕し、更に、酸素雰囲気下、800℃で10時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とインジウム3モル%を置換固溶した三二酸化マンガン粉体を得た。
【0070】
次に、上記クロムとインジウムを固溶した三二酸化マンガン粉体8.06gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+In)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物をアルミナ製坩堝に入れ、窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とインジウム3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05In0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0071】
(第2の複合酸化物の調製)
一方、炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gとモリブデン酸アンモニウム四水和物5.30g(モル比Cr/(Mn+Cr+Mo)=0.05、モル比Mo/(Mn+Cr+Mo)=0.03)とを用いて、上記第1の複合酸化物の調製と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とモリブデン3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとモリブデンを固溶した三二酸化マンガン粉体8.00gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+Mo)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とモリブデン3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05Mo0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第2の複合酸化物とした。
【0072】
上記第1の複合酸化物0.75gと第2の複合酸化物0.25gとを乳鉢で均一に混合して、正極活物質とした。これにアセチレンブラック(導電助剤)とポリテトラフルオロエチレン樹脂(結着剤)を加え、乳鉢で均一に混合して、合剤を調製した。これを加圧プレスにて直径16mmの円板に型抜きし、真空乾燥して、正極とした。負極として金属リチウム箔を、また、セパレータとしてポリプロピレン樹脂膜(商品名セルガード)を準備した。電解液は、EC/DMC(1/1)混合物に過塩素酸リチウムを1モル/L濃度で溶解させて調製して、これを上記セパレータに含浸させた。これらの構成要素を図1に示すような充放電試験用のリチウムイオン二次電池に組み立てた。
【0073】
このようにして組み立てた電池について、充放電試験を行った。充放電条件は電流密度0.2mA/cm2 、カットオフ電圧は上限4.3V、下限は2.0Vとした。放電容量の推移、即ち、サイクル特性を図2に示す。
【0074】
上記第1と第2の複合酸化物を正極活物質とするこのリチウムイオン二次電池においては、20サイクル後においても、放電容量が初期容量と殆ど変わらず、高い放電容量を保持している。
【0075】
実施例2
実施例1において、第1の複合酸化物0.50gと第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。このリチウムイオン二次電池は、特に、初期放電容量が高く、しかも、20サイクル後においても、放電容量が初期容量と殆ど変わらず、高い放電容量を保持している。
【0076】
実施例3
実施例1において、第1の複合酸化物0.25gと第2の複合酸化物0.75gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0077】
実施例4
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酸化タングステン6.96g(モル比Cr/(Mn+Cr+W)=0.05、モル比W/(Mn+Cr+W)=0.03)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とタングステン3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとタングステンを固溶した三二酸化マンガン粉体8.27gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+W)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とタングステン3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05W0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0078】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0079】
実施例5
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酸化タングステン4.64gと硝酸アルミニウム九水和物3.75g(モル比Cr/(Mn+Cr+W+Al)=0.05、モル比W/(Mn+Cr+W+Al)=0.02、モル比Al/(Mn+Cr+W+Al)=0.01)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とタングステン2モル%とアルミニウム1モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとタングステンとアルミニウムを固溶した三二酸化マンガン粉体8.11gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+W+Al)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とタングステン2モル%とアルミニウム1モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05W0.02Al0.01O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0080】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0081】
実施例6
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酸化インジウム2.78gと酸化タングステン2.32g(モル比Cr/(Mn+Cr+In+W)=0.05、モル比In/(Mn+Cr+In+W)=0.02、モル比W/(Mn+Cr+In+W)=0.01)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とインジウム2モル%とタングステン1モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとインジウムとタングステンを固溶した三二酸化マンガン粉体8.13gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+In+W)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とインジウム2モル%とタングステン1モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05In0.02W0.01O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0082】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0083】
実施例7
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと硝酸アルミニウム11.26g(モル比Cr/(Mn+Cr+Al)=0.05、モル比Al/(Mn+Cr+Al)=0.03)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とアルミニウム3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとアルミニウムを固溶した三二酸化マンガン粉体7.80gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+Al)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、575℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とアルミニウム3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05Al0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0084】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0085】
実施例8
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gとバナジン酸アンモニウム3.51g(モル比Cr/(Mn+Cr+V)=0.05、モル比V/(Mn+Cr+V)=0.03)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とバナジウム3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとバナジウムを固溶した三二酸化マンガン粉体7.87gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+V)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、575℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とバナジウム3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05V0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0086】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0087】
実施例9
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酢酸イットリウム10.14g(モル比Cr/(Mn+Cr+Y)=0.05、モル比Y/(Mn+Cr+Y)=0.03)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とイットリウム3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとイットリウムを固溶した三二酸化マンガン粉体7.98gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+Y)=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、575℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とイットリウム3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05Y0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0088】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0089】
実施例10
炭酸マンガン(球状、平均粒径10μm)105.75gと硝酸クロム九水和物20.01gと酸化チタン3.36g(モル比Cr/(Mn+Cr+Ti)=0.05、モル比Ti/(Mn+Cr+Ti)=0.03)とを用いて、実施例1と同様にして、マンガン原子に対して、クロム5モル%とチタン3モル%を固溶置換した三二酸化マンガン粉体を得た。このクロムとチタンを固溶した三二酸化マンガン粉体7.86gと水酸化リチウム一水和物4.20g(モル比Li/(Mn+Cr+Ti=1.00)を乳鉢に入れ、均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下、610℃で15時間焼成して、マンガン原子に対して、クロム5モル%とチタン3モル%を置換したリチウムマンガン複合酸化物(LiMn0.92Cr0.05Ti0.03O2 )を得た。この生成物をサンプルミルで約20秒間粉砕し、二次粒子相互の凝集を解いて、第1の複合酸化物とした。
【0090】
この第1の複合酸化物0.50gと実施例1で調製した第2の複合酸化物0.50gを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0091】
比較例1
正極活物質として、実施例1で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0092】
比較例2
正極活物質として、実施例1で調製した第2の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0093】
比較例3
正極活物質として、実施例4で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0094】
比較例4
正極活物質として、実施例5で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0095】
比較例5
正極活物質として、実施例6で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0096】
比較例6
正極活物質として、実施例7で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0097】
比較例7
正極活物質として、実施例8で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0098】
比較例8
正極活物質として、実施例9で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0099】
比較例9
正極活物質として、実施例10で調製した第1の複合酸化物のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験を行った。
【0100】
実施例1から10と比較例1から9において、リチウムイオン二次電池の製作に用いた複合酸化物中の置換元素種とその置換量、リチウム量論比及び焼成温度を表1と表2に示す。表1と表2において、複合酸化物の欄のIは第1の複合酸化物を意味し、IIは第2の複合酸化物を意味する。
【0101】
また、実施例1から10と比較例1から9における正極活物質中の第1と第2の複合酸化物の割合と共に、第1と第2の複合酸化物のそれぞれの結晶相と強度比R及び比表面積を表3と表4に示す。ここに、上記強度比Rは、X線回折チャートにおける強度比I(斜方晶)/I(単斜晶))、即ち、LiMnO2 (JCPDSカードNo.35−0749)の(010)面とLiMnO2 (M. Tabuchi et al., J. Electrochem. Soc., Vol. 145, L49) の(001)面のピーク強度比である。結晶相の同定は、粉末X線回折装置(理学電機(株)製RAD 2C、X線源CuKα線)を用いて行った。
【0102】
更に、種々の複合酸化物からなる正極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池の特性を評価するために、実施例1から実施例10と比較例1から9によるリチウムイオン二次電池の10サイクルまでの放電容量を測定して、その平均値とその変動係数を求めた。結果を表3と表4に示す。
【0103】
表3と表4に示すように、本発明に従って、第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを組合わせて、正極活物質として用いることによって、得られるリチウムイオン二次電池においては、サイクル毎の放電容量の変動係数が一様に小さい値となり、しかも、初期の放電容量が安定化されている。
【0104】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2において製作したリチウムイオン二次電池の20サイクルまでの放電容量の推移を図2に示す。本発明によるリチウムイオン二次電池は、いずれの放電容量も、20サイクル後においても、初期容量と殆ど変わらず、高い放電容量を保持している。特に、実施例2によるリチウムマンガン複合酸化物粒子状組成物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、初期放電容量も安定しており、高い放電容量を維持している。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【発明の効果】
以上のように、本発明に従って、第1の複合酸化物と第2の複合酸化物とを組合わせ、これを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池によれば、サイクル毎の放電容量の変動係数を小さくすることができ、特に、初期の放電容量が安定化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、リチウムイオン二次電池の一例を示す断面図である。
【図2】は、本発明による複合酸化物の組合わせを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池のサイクル毎の放電容量を示すグラフであり、比較例による複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池のサイクル毎の放電容量と共に示す。
【符号の説明】
1:正極
2:負極
3:セパレータ
4:電池容器
5:正極集電体
6:正極用リード線
7:負極集電体
8:負極用リード線
Claims (8)
- (I)一般式(I)
Lia Mn1-X-Y CrX MY Ob
(式中、MはIn、W、Al、V、Co、Ni、Y、Fe、La、Ti及びEuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a、b、X及びYはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Y≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.8≦b≦2.4
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第1の複合酸化物と、
(II)一般式(II)
Lia Mn1-X-Z CrX MoZ Ob
(式中、a、b、X及びZはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0<Z≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.9≦b≦2.1
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第2の複合酸化物と
を含む正極活物質を用いてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池。 - 正極活物質において、第1の複合酸化物/第2の複合酸化物重量比が20/80〜80/20の範囲にある請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
- 正極活物質が第1の複合酸化物20〜80重量%と第2の複合酸化物80〜20重量%とからなる請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
- (I)一般式(I)
Lia Mn1-X-Y CrX MY Ob
(式中、MはIn、W、Al、V、Co、Ni、Y、Fe、La、Ti及びEuよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、a、b、X及びYはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0≦Y≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.8≦b≦2.4
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第1の複合酸化物と、
(II)一般式(II)
Lia Mn1-X-Z CrX MoZ Ob
(式中、a、b、X及びZはそれぞれ、
0<X≦0.2、
0<Z≦0.2、
0.8≦a≦1.2、
1.9≦b≦2.1
を満たす数である。)
で表され、晶系が単斜晶である複合酸化物からなるか、又は晶系が単斜晶である複合酸化物と晶系が斜方晶である複合酸化物との混合物からなり、X線回折におけるI(斜方晶)/I(単斜晶)にて定義される強度比Rが0〜0.3の範囲にある第2の複合酸化物と
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池のための正極活物質。 - 第1の複合酸化物/第2の複合酸化物重量比が20/80〜80/20の範囲にある請求項4に記載の正極活物質。
- 第1の複合酸化物20〜80重量%と第2の複合酸化物80〜20重量%とからなる請求項4に記載の正極活物質。
- 第1の複合酸化物がリチウム化合物とマンガン化合物とクロム化合物と元素Mの化合物との固相反応にて製造されたものであり、第2の複合酸化物がリチウム化合物とマンガン化合物とクロム化合物とモリブデン化合物との固相反応にて製造されたものである請求項4から6のいずれかに記載の正極活物質。
- 第1の複合酸化物と第2の複合酸化物の比表面積が共に0.1〜6.0m2 /gの範囲にある請求項4から7のいずれかに記載の正極活物質。
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