本発明は、酸素を用いて溶銑を酸化精錬する転炉の吹錬方法に関し、詳しくは、高炭素域でのダストや鉄飛散の発生量の低減と、低炭素域での鉄酸化の低減とを同時に達成することのできる転炉吹錬方法に関するものである。
溶銑を用いた転炉吹錬においては、上吹き酸素または底吹き酸素により、主として脱炭を目的とした酸化精錬が行われている。近年、大量の溶銑をより短時間に精錬し、高い生産性を得ようとするニーズが従来にも増して高まっているばかりでなく、大量の鉄鉱石及びMn鉱石などを添加した炉内直接還元や、大量の鉄スクラップの炉内溶解などのために、より多くの酸素源が必要となり、大量の酸素を短時間に安定して吹き込みつつ、高精度の成分制御を可能とする技術が必要になっている。また、溶銑の脱燐や脱硫を目的とする溶銑予備処理プロセスの発達により、転炉吹錬で発生するスラグ量は大幅に減少し、従来プロセスとは異なった要素が多く発生するなど、これらの状況に対処するために早急な転炉吹錬方法の最適化が急務となっている。
上吹きランスによる酸化精錬では、酸素は、上吹きランス先端に設置された、ラバールノズルと呼ばれる末広がりのノズルから超音速または亜音速のジェットとして転炉内に供給される。この場合、脱炭反応などの反応効率を低下させないようにするため、通常、酸素の供給量(以下「送酸速度」という)が比較的多い、吹錬の初期から中期までの高炭素域(およそC>0.6mass%)における精錬条件に基づいてラバールノズルの形状が設計されている。換言すれば、送酸速度が大きい場合に、吹き付けられる酸素はラバールノズルにより適正に膨張して超音速化されるようになっており、逆に、吹錬末期の低炭素域(およそC≦0.6mass%)に相当する送酸速度が小さい場合には、酸素はラバールノズル内で過剰に膨張して、超音速化が阻害されるようになっている。
高生産性を目的として送酸速度を更に増大させた転炉吹錬に、このような設計思想に基づくラバールノズルを用いた場合には、上吹きランスから供給される酸素ジェットの噴出流速は更に増加し、転炉内の溶湯表面に到達するジェット流速が増大して溶湯湯面の乱れは一層激しくなる。従来のようなスラグ量の多い(およそ溶鋼トン当たり50kg以上)吹錬においては、酸素ジェットのスラグ層の貫通を確実にさせるためには、この設計思想が必須であった。
しかしながら、近年のようなスラグ量の少ない吹錬においては、このような設計思想の必要性は低くなってきており、却って、ジェット流速の増大に伴う湯面の乱れは、スラグ量の少ない吹錬下ではスピッティングやスプラッシュなどの激しい溶湯飛散をもたらし、炉口やフード、上吹きランス、更には排ガス設備といった部位への地金付きを増加させ、操業に悪影響を与えると共に、鉄歩留まりの低下による生産性の悪化をもたらす。また、飛散に伴う鉄ダストの発生も著しく増加し、ダスト発生の観点からも鉄歩留まりの低下をもたらす。
こうした操業状況の悪化を抑制するために、ラバールノズルの孔径や傾角などの上吹きランス形状のハード面を適正化しつつ、上吹きランスの先端と浴面との距離(以下「ランス高さ」と記す)や送酸速度などの操業条件を制御した対策が多数提案されている。例えば特許文献1には、上吹きランスの形状を適正化すると共に、送酸速度及びランス高さをラバールノズルの形状に合わせて適正範囲内に制御した吹錬方法が開示されている。しかし、特許文献1のように高流量化した際の鉄飛散やダストを抑制する目的で、ラバールノズルの構造やランス高さの変更を行う場合には、上吹きランスから噴出される酸素ジェットの軌跡及び幾何学的形状は大きく変化するので、不必要な2次燃焼が生じたり、反応界面積の変動に起因して反応効率が悪化したりするという2次的な悪影響が発生する。また、物理的若しくは操業的にランス高さの変更などが困難な場合には、この方法では対処することができない。
一方、吹錬末期の低炭素域においては、供給された酸素は脱炭反応だけでなく鉄の酸化にも消費されるため、鉄の酸化を抑えて脱炭酸素効率を高める目的で送酸速度を低減させている。この場合、送酸速度はラバールノズルの適正流量値から大きく下方に外れるために、ラバールノズルの最大の効果が得られず、不必要に酸素ジェットが減衰し、主にスラグ中のT.Feの増加に見られるように、吹錬末期の脱炭反応効率の低下が生じる。また、吹錬終点での成分的中精度を向上させるためには、吹錬末期の送酸速度を極めて低位に制御する必要があるが、低位にし過ぎると酸素ジェットの動圧が極端に低下し、急激な鉄の酸化が起こるため、送酸速度の低減化には限界がある。尚、T.Feとはスラグ中の全ての鉄酸化物(FeOやFe2O3)の鉄分の合計値である。
この問題を改善する1つの手段として、特許文献2には、ラバールノズルのスロート径と送酸速度とで決定されるラバールノズルの適正膨張出口径Dに対し、高炭素域では0.85D〜0.94Dの出口径を有する上吹きランスを用い、低炭素域では0.96D〜1.15Dの出口径を有する上吹きランスを用いた転炉吹錬方法が開示されている。また、同一のラバールノズルを使用しても、送酸速度とラバールノズルのノズル背圧Pとを変更することにより、適正膨張出口径Dに対して出口径を上記の範囲に変更できるとしている。
特許文献2によれば、ラバールノズルの形状を上記のように変更することにより、高炭素域ではソフトブローが得られ、また、低炭素域ではハードブローが得られ、ダスト発生の低減と鉄酸化の低減とを同時に達成することができるとしている。しかしながら、この吹錬方法では、精錬の制御を確実に行うためには形状の異なる2種類以上の上吹きランスを使用しなければならず、設備上並びに操業上の煩雑さが無視できない。また、同一の上吹きランスを使用した場合には、ラバールノズルの設計が複雑になると共に、炉内状況に応じて送酸速度を自由に変更できないなどの問題点が生じる。
特開平6−228624号公報
特開平10−30110号公報
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、脱炭最盛期である高炭素域での高送酸速度吹錬時の鉄飛散やダスト発生を低減し、且つ、吹錬末期での低送酸速度吹錬時の鉄酸化を抑制すると共に低い送酸速度での反応の安定化を向上させることができる転炉吹錬方法を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決するために、ラバールノズルの設計条件に着目して鋭意研究を行った。その結果、脱炭最盛期の高炭素域における高い送酸速度の条件に基づいて設計される出口径Deよりも極端に小さい出口径Deを有するラバールノズルを用いることで、上記課題を解決することができるとの知見を得た。以下、検討結果を説明する。
酸素吹錬中の転炉内挙動は、その反応挙動の違いから高炭素域(C>0.6mass%)と低炭素域(C≦0.6mass%)とに大別される。高炭素域では、供給される酸素はほぼ全量脱炭に費やされ、反応は酸素の供給律速であり、高い送酸速度で吹錬が行われる。一方、低炭素域では、酸素の供給律速から炭素の移動律速に変わり、酸素の一部が鉄の酸化にも費やされるので、鉄の酸化を抑制して脱炭酸素効率を高めるために送酸速度を低減させている。
このとき、高炭素域での吹錬では、鉄飛散やダスト発生を低減させるために、高い送酸速度を維持したまま、溶湯湯面での酸素ジェットの動圧は低くする必要がある。但し、不必要な2次燃焼の回避並びに脱炭酸素効率の高位維持のため、幾何学的な酸素ジェットの形状及び軌跡はできるだけ同条件に保持する必要がある。一方、低炭素域では、脱炭酸素効率を高めるために送酸速度を低減させるが、これに伴って酸素ジェットの動圧も大幅に低下するため、そのままでは脱炭酸素効率の低下、即ち鉄の酸化増大をもたらす。また、その悪化度合いは送酸速度を低くするほど大きくなる。そのため、浴面での酸素ジェットの動圧を可能な限り高く維持したいが、ランス高さを低下させて酸素ジェットの動圧を増大させることは、浴面からの輻射による上吹きランス先端の損耗や浴面からの鉄飛散に起因する上吹きランスへの地金付着を著しく増大させるために限界がある。このように高炭素域と低炭素域とでは相反する要求があり、しかも、ランス高さなどの操業条件の変更は可能な限り避けて対処する必要がある。
転炉吹錬におけるラバールノズルの設計は送酸速度に基づき行われ、通常、吹錬の初期から中期における高炭素域での送酸速度に基づき設計されている。即ち、ラバールノズルの設計は、高炭素域での送酸速度FS(Nm3/hr)から求まるラバールノズル1孔当たりの送酸速度FhS(Nm3/hr)とスロート径Dt(mm)とから、下記の(1)式によりノズル背圧Po(kPa)を定め、定めたノズル背圧Po(kPa)と雰囲気圧Pe(kPa)とスロート径Dt(mm)とを用い、下記の(5)式によりラバールノズルの出口径De(mm)を定めることによってなされている。
ここで、ラバールノズル1孔当たりの送酸速度Fhは、ラバールノズルのスロート径Dtの総断面積に対する個々のラバールノズルスロート径Dtの断面積の比と、送酸速度Fとを乗算することにより求めることができ、通常、複数個のラバールノズルを設置する場合には、各ラバールノズルのスロート径Dtを実質的に同一とするので、送酸速度Fをラバールノズルの設置個数で除算することにより求めることができる。また、雰囲気圧Peとは、ラバールノズルの外部の雰囲気圧、換言すれば、転炉内のガス雰囲気圧力である。尚、(1)式及び(5)式はラバールノズルにおいて成り立つ関係式であり、ラバールノズルの設計時に使用される式として周知の式である。(5)式におけるKは定数である。
このとき、(5)式の定数Kは理論的には0.259となるが、実際の操業においては送酸速度Fとノズル背圧Poとの比(F/Po)を定常的に維持することは少なく、通常は定数Kが0.24〜0.28の範囲となるように、比(F/Po)を制御して操業することが多い。定数Kを0.24〜0.28として出口径Deを決定したラバールノズルでは、酸素ジェットはほぼ最適に膨張しており、酸素ジェットそのもののエネルギーは最大となる。そのため、浴面に到達する酸素ジェットのエネルギーも最大となり、鉄飛散やダスト発生も激しくなる。
一方、吹錬の進行に伴い低炭素域になると、前述のように送酸速度を低下させていくが、このような従来のラバールノズルを用いた場合、ノズル設計が高炭素域の高送酸速度に基づいているため、余りに低送酸速度にし過ぎると、酸素ジェットの減衰が極めて激しくなり、脱炭反応効率の低下即ち鉄の酸化により、吹錬は極めて不安定になり、吹錬末期での溶湯成分の的中精度が急激に悪化する。
このように、従来の高送酸速度に基づいたラバールノズルを用いた場合には、吹錬末期の反応は不安定な傾向にあり、また、高炭素域の送酸速度に対する吹錬末期の送酸速度の低減比率に下限が存在し、それ以下の送酸速度では、吹錬末期の成分的中率の大幅な悪化をもたらすことになる。
そこで、本発明者等は、このような問題点を克服するため、スロート径Dtは従来と同一であるが、出口径Deが従来と比較して異なるラバールノズルを用い、脱炭最盛期及び吹錬末期の転炉吹錬挙動を調査した。具体的には、ラバールノズルの出口径Deを以下のようにして決定した。即ち、高炭素域での送酸速度FhSとスロート径Dtとから(1)式によりノズル背圧Poを求め、求めたノズル背圧Poと雰囲気圧Peとスロート径Dtとから、(5)式により出口径Deを求める際に、定数Kを0.15〜0.26まで種々変化させ、出口径Deを決定した。定数Kが0.26より小さくなるに伴って、出口径Deは小さくなり、ラバールノズル内における酸素ジェットの膨張はより一層不足状態となる。尚、用いた転炉は後述する実施例に示す転炉である。
これらの吹錬において、脱炭最盛期でのダスト発生速度及び地金付着量と定数Kとの関係を調査した結果を図1に示す。図1に示すように、定数Kがおよそ0.185以下の場合にダスト発生速度及び地金付着量が共に低位になる、即ち、出口径Deを下記の(2)式の範囲とすることでダスト発生速度及び地金付着量が共に低位になるとの知見が得られた。これは、出口径Deを理論値(K=0.259の場合)に比べて小さくすることにより、高炭素域での高送酸速度時における酸素ジェットのラバールノズル内での膨張が不足し、酸素ジェットの噴流が減衰すると共に酸素ジェットの湯面での運動エネルギーが低減したためと考えられる。このとき、定数Kは小さくなるほどジェットの減衰効果は大きくなるが、出口径Deとスロート径Dtとが一致するK値が計算上の下限となる。
一方、吹錬末期の低炭素域では、T.Feの低減や精錬反応の促進・安定化を図るために、送酸速度は抑えるものの酸素ジェットのエネルギーを大きくする必要がある。出口径Deを脱炭最盛期である高炭素域の送酸速度から求めた理論値に比べて小さくしたラバールノズルを用いた場合、即ち定数Kを0.259未満として出口径Deを設計したラバールノズルを用いた場合には、出口径Deが小さくなるに伴って、脱炭最盛期においては酸素ジェットは不足膨張となるが、吹錬末期の低送酸速度時には必然的に最適膨張噴流に近づくことになり、特に何らかの対策を講じなくても酸素ジェットのエネルギーは増大し、この酸素ジェットエネルギーの増大による精錬反応の改善効果により、T.Feの低減や精錬反応の促進・安定化が得られる。
この改善効果を最大とするためには、吹錬末期の送酸速度において最適膨張噴流が得られるようにすれば良い。そのためには、当該吹錬における吹錬末期のラバールノズル1孔当たりの送酸速度FhM(Nm3/hr)と、予め定めたラバールノズルのスロート径Dt(mm)とから、下記の(3)式により吹錬末期のノズル背圧Poo(kPa)を求め、このノズル背圧Poo(kPa)とスロート径Dt(mm)と雰囲気圧Pe(kPa)とを用いて、下記の(4)式により吹錬末期における最適出口径De0(mm)を求め、求めた最適出口径De0と該当ラバールノズルの出口径Deとを一致させればよい。
但し、実際には上記のように求められた最適出口径De0と実際の出口径Deとを常に一致させることは困難な場合が多い。そこで、これらの比であるDe/De0がどの程度の範囲であればスラグ中のT.Feの低減に効果があるかを調査した。調査は前述した転炉を用いて実施した。図2に調査結果を示す。
図2は、使用したノズルの出口径Deと実操業時における吹錬末期の条件から算出される最適出口径De0との比を横軸とし、縦軸に吹錬終点時のT.Feを示す図である。図2から明らかなように、吹錬末期の低炭素域において、使用したノズルの出口径Deと算出した最適出口径De0との比(De/De0)が1.10以下の範囲であれば、従来レベルと比較してT.Feを低く抑えることができるとの知見が得られた。更に、大量試験の結果から、De/De0が0.90〜1.05の範囲においてT.Feの低減効果が著しく、好ましい結果が得られた。この効果は、出口径Deを前述した(2)式の範囲内とした場合に顕著であった。
この場合、特に、De/De0が0.95以下の場合においては、脱炭最盛期の酸素ジェット減衰効果が必然的に拡大され、また、末期の精錬反応効果を維持できる範囲であり、且つ、多少、噴流の減衰効果も得られる理由から、T.Feの低減効果のみならず、吹錬全域においてランスへの地金付着も極めて低位に抑えられた。これらの効果は、出口径Deを前述した(2)式の範囲内としなくても、De/De0を0.95以下にすることのみで、その効果が得られた。
転炉吹錬においては、炉内のスラグ量が少ない場合にはスラグに覆われる溶湯の比率が低下し、高炭素域におけるダストや鉄飛散の発生量が増大する。上述した転炉吹錬方法においてはダストや鉄飛散の発生量を抑制することが可能であり、従って、炉内スラグ量が溶鋼トン当たり50kg未満、望ましくは30kg以下の吹錬に上記の転炉吹錬方法を適用することにより、その効果をより一層発揮させることができる。
本発明は上記知見に基づきなされたもので、第1の発明に係る転炉吹錬方法は、その先端にラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、溶湯の炭素濃度に応じて異なる送酸速度で吹錬する転炉吹錬方法において、脱炭最盛期である炭素濃度0.6mass%超えの高炭素域での送酸速度FS(Nm3/hr)から定まるラバールノズル1孔当たりの送酸速度FhS(Nm3/hr)とラバールノズルのスロート径Dt(mm)とに対して上記の(1)式を満足するノズル背圧Po(kPa)を定め、このノズル背圧Po(kPa)と、雰囲気圧Pe(kPa)と、前記スロート径Dt(mm)とから、上記の(2)式により得られる出口径De(mm)であり、且つ、吹錬末期の炭素濃度0.6mass%以下の低炭素域での送酸速度F M (Nm 3 /hr)から定まるラバールノズル1孔当たりの送酸速度Fh M (Nm 3 /hr)と前記スロート径Dt(mm)とに対して上記の(3)式を満足するノズル背圧Poo(kPa)を定め、このノズル背圧Poo(kPa)と、雰囲気圧Pe(kPa)と、前記スロート径Dt(mm)とから上記の(4)式により得られる最適出口径De 0 (mm)に対し、その比(De/De 0 )が0.90以上0.95以下となる出口径De(mm)を有するラバールノズルを備えた上吹きランスを用いて吹錬することを特徴とするものである。
第2の発明に係る転炉吹錬方法は、第1の発明において、前記上吹きランスが複数個のラバールノズルを有し、その内の少なくとも1つのラバールノズルが上記条件を満足することを特徴とするものである。
第3の発明に係る転炉吹錬方法は、第1または第2の発明において、転炉内のスラグ量が溶鋼トン当たり50kg未満であることを特徴とするものである。
尚、本発明におけるノズル背圧P,Po,Poo及び雰囲気圧Peは絶対圧(真空の状態を圧力0とし、それを基準として表示される圧力)で表示した圧力である。
本発明によれば、高炭素域の高送酸速度領域での噴出流速を低下することができるので、高炭素域でのダスト発生を抑制することが可能になると共に、吹錬末期における送酸が最適化され、鉄の酸化を抑制することが可能となり、その結果、吹錬全体での鉄歩留まりを大幅に向上することができ且つ操業の安定化が達成され、工業上極めて有益な効果がもたらされる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図3は、本発明で用いるラバールノズルの概略断面図であり、図3に示すように、ラバールノズル2は、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成され、縮小部分を絞り部3、拡大部分をスカート部5、絞り部3からスカート部5に遷移する部位である、最も狭くなった部位をスロート4と呼び、1個ないし複数個のラバールノズル2が銅製のランスノズル1に設けられている。
ランスノズル1は、ランス本体(図示せず)の下端に溶接などにより接続され、上吹きランス(図示せず)が構成される。ランス本体の内部を通ってきた酸素は、絞り部3、スロート4、スカート部5を順に通って、超音速または亜音速のジェットとして転炉内に供給される。図中のDtはスロート径、Deは出口径であり、スカート部5の広がり角度θは通常10度以下である。
尚、図3に示すラバールノズル2では絞り部3及びスカート部5が円錐体であるが、ラバールノズルとしては絞り部3及びスカート部5は円錐体である必要はなく、内径が曲線的に変化する曲面で構成しても良く、また、絞り部3はスロート4と同一の内径であるストレート状の円筒形としても良い。絞り部3及びスカート部5を、内径が曲線的に変化する曲面で構成する場合には、ラバールノズルとして理想的な流速分布が得られるが、ノズルの加工が極めて困難であり、一方、絞り部3をストレート状の円筒形とした場合には、理想的な流速分布とは若干解離するが、転炉吹錬での使用には全く問題とならず、且つ、ノズルの加工が極めて容易となる。本発明ではこれら全ての末広がりのノズルをラバールノズルと称する。
本発明においては、このように構成されるラバールノズル2の形状を吹錬に先立ち、以下の手順によって決定する。
先ず、脱炭最盛期である高炭素域における上吹きランスからの送酸速度FS(Nm3/hr)から、1つのラバールノズル2における送酸速度FhS(Nm3/hr)を求める。ここで、脱炭最盛期の高炭素域とは溶湯中の炭素濃度が0.6mass%を越える範囲であり、また、送酸速度FSとは炭素域がこの範囲における送酸速度であり、炭素濃度が0.6mass%を越える範囲において送酸速度を変化させる場合には、その内の任意の送酸速度とする。但し、溶湯中の炭素濃度が0.6mass%を越える範囲において送酸速度を様々に変える場合には、その内の送酸速度の代表値や加重平均値などとしても良い。
送酸速度FhS(Nm3/hr)とラバールノズル2のスロート径Dt(mm)とから、前述した(1)式によりノズル背圧Po(kPa)を定める。ここで、ノズル背圧Poとは、ランス本体内、即ちラバールノズル2の入側の酸素の圧力である。この場合、高炭素域におけるノズル背圧Po(kPa)を予め決めておき、送酸速度FhS(Nm3/hr)とノズル背圧Po(kPa)とからスロート径Dt(mm)を決めるようにしても良い。
そして、このようにして定めたノズル背圧Po(kPa)と、雰囲気圧Pe(kPa)と、スロート径Dt(mm)とを用いて、前述した(2)式により出口径De(mm)を求める。但し、(2)式では出口径Deの下限値を示していないが、出口径Deがスロート径Dtよりも小さくなると、ラバールノズル2の形状が保たれなくなるので、出口径Deはスロート径Dtよりも大きいか若しくは同一の条件下で(2)式の範囲内の任意の値とする。また、雰囲気圧Peは通常の転炉吹錬の場合には大気圧である。
出口径Deを決める場合に、更に、以下の点を考慮して決めることが好ましい。即ち、吹錬末期の低炭素域での送酸速度FM(Nm3/hr)から、1つのラバールノズル当たりの送酸速度FhM(Nm3/hr)を求め、この送酸速度FhM(Nm3/hr)と先に定めたラバールノズルのスロート径Dt(mm)とから、前述した(3)式により吹錬末期のノズル背圧Poo(kPa)を定め、そして、このノズル背圧Poo(kPa)と、雰囲気圧Pe(kPa)と、スロート径Dt(mm)とを用いて前述の(4)式により吹錬末期における最適出口径De0(mm)を求め、求めた最適出口径De0に対する比(De/De0)が1.10以下となる範囲で出口径Deを定めることが好ましい。
この場合、比(De/De0)が0.95以下の範囲で出口径Deを決めた場合には、高炭素域の送酸速度と低炭素域の送酸速度とに差を付けた通常の転炉吹錬では出口径Deは(2)式の範囲を満足しており、従って、(2)式により出口径Deの範囲を敢えて定める必要がない。即ち、比(De/De0)が0.95以下の場合には、吹錬末期の低炭素での送酸速度FM(Nm3/hr)から出口径Deを決めることができる。
次いで、このようにして形状を決定したラバールノズル2を有するランスノズル1を製作し、ランス本体の下端に接続して上吹きランスを構成する。ランスノズル1が複数個のラバールノズル2を有している場合には、その内の一部のラバールノズル2のみを上記のようにして決定した形状としても良い。但し、この場合には、目的とする効果は若干低下する。
そして、この上吹きランスを用いて、高炉などで製造された溶銑を転炉内で吹錬する。この吹錬において、脱炭最盛期である高炭素域では、設定した送酸速度FS、若しくは、送酸速度を様々に変える場合には送酸速度FSに拘わらず、精錬反応に見合った任意の高送酸速度で吹錬する。一方、吹錬末期の低炭素域では、脱炭酸素効率を高めるために、送酸速度を減少させて吹錬するが、この場合に、(4)式により定めた最適出口径De0との比(De/De0)が1.10以下となる送酸速度及びノズル背圧Pで吹錬することが好ましい。但し、溶湯の炭素濃度が0.6mass%を境にして、高炭素域と低炭素域とに厳密に区分されるわけではなく、溶湯の炭素濃度が0.6mass%よりも高い範囲から送酸速度を低減しても、逆に、溶湯の炭素濃度が0.6mass%よりも低い範囲、例えば炭素濃度が04mass%程度の範囲まで高送酸速度のまま吹錬しても良い。
転炉吹錬の際の炉内スラグ量が少ない場合には、スラグに覆われる溶湯の比率が低下し、高炭素域におけるダストや鉄飛散の発生量が増大する。上記に説明した吹錬方法では高炭素域でのダストや鉄飛散の発生を抑制する効果が強く、従って、炉内スラグ量が溶鋼トン当たり50kg未満、望ましくは30kg以下の吹錬に本発明による精錬方法を適用することにより、その効果をより一層発揮させることができる。
転炉内の溶銑をこのようにして吹錬することにより、高炭素域の高送酸速度領域での噴出流速を低下することができ、酸素ジェットエネルギーの低位維持がもたらされ、鉄飛散やダスト発生を軽減することができると共に、吹錬末期における酸素ジェットの噴出流速を最適化すること、即ち、吹錬末期の酸素ジェットの動圧を理論値に近い値まで増大させることが可能となり、鉄の酸化を抑制することができる。その結果、吹錬全体での鉄歩留まりを向上することができ、操業の安定化が達成される。
[本発明例1]
容量が250トンで、酸素を上吹きし、攪拌用ガスを底吹きする上底吹き複合吹錬用転炉内に約250トンの溶銑を装入し、主として脱炭吹錬を行った。用いた溶銑は、転炉前工程である溶銑予備処理設備にて脱硫処理及び脱燐処理が施された溶銑である。転炉内には石灰系フラックスを添加し、少量のスラグ(溶鋼トン当たり50kg未満)を生成させている。転炉々底に設置した羽口からは、溶湯攪拌を目的としてアルゴンまたは窒素を毎分10Nm3程度吹き込んだ。
用いた上吹きランスは、ラバールノズルが5個設置された5孔ノズルタイプであり、ラバールノズルのスロート径Dtを55.0mmとし、出口径Deは吹錬初期から中期にわたる脱炭最盛期での送酸速度FS:60000Nm3/hrから決定した。即ち、送酸速度FhSが12000Nm3/hr、スロート径Dtが55.0mmの条件から(1)式によりノズル背圧Poを853kPa(8.7kgf/cm2)と定め、ノズル背圧Poが853kPa、雰囲気圧Peが101kPa(大気圧)、スロート径Dtが55.0mmの条件から、定数Kを0.184として(5)式により出口径Deを61.5mmとした。そして、5孔のラバールノズルを全てこの形状とした。
スロート径Dtが55.0mm、出口径Deが61.5mm、雰囲気圧Peが101kPaの条件から、このラバールノズルにおける最適ノズル背圧Po、即ち、理想的な膨張が得られるノズル背圧Poを、定数Kを0.259として(5)式により求めた。その結果、最適ノズル背圧Poは428kPa(4.4kgf/cm2)であった。
これらを踏まえ、転炉内に挿入された上吹きランスから、脱炭最盛期である吹錬初期から中期にわたっては、送酸速度FSが60000Nm3/hr、ノズル背圧Pが853kPaの条件で送酸し、溶湯の炭素濃度が0.6mass%以下となった吹錬末期には、ノズル背圧Pを428kPaとして吹錬した。この場合、吹錬末期のノズル背圧Pを最適ノズル背圧Poと一致させているので、吹錬末期においては出口径Deと最適出口径De0との比(De/De0)は1.0である。ノズル背圧Pを428kPaとした、吹錬末期の送酸速度FMはおよそ30000Nm3/hrであった。
吹錬中は乾式のダスト測定装置を用いて排ガス中のダスト量を測定した。また、吹錬終了時には転炉内のスラグを採取して、スラグ中のT.Feを調査した。100ヒートを越える吹錬結果から、このランスを用いた吹錬におけるダスト発生量は溶鋼トン当たり8kgであり、また、吹錬を炭素量が0.05mass%で吹き止めた際のスラグ中のT.Feは13mass%であった。
[本発明例2]
本発明例1と同一の転炉を用い、溶銑予備処理を施した溶銑を5孔ノズルタイプの上吹きランスにより本発明例1と同一条件で吹錬した。但し、ラバールノズルの形状は、スロート径Dtを本発明例1と同じく55.0mmとしたが、出口径Deを変更した。
即ち、出口径Deは吹錬初期から中期にわたる脱炭最盛期での送酸速度FhSが12000Nm3/hr、スロート径Dtが55.0mmの条件から(1)式によりノズル背圧Poを853kPa(8.7kgf/cm2)と定め、ノズル背圧Poが853kPa、雰囲気圧Peが101kPa(大気圧)、スロート径Dtが55.0mmの条件から、定数Kを0.165として(5)式により出口径Deを58.2mmとした。そして、5孔のラバールノズルを全てこの形状とした。
吹錬末期の送酸速度FMは本発明例1と同様におよそ30000Nm3/hrとした。このときの最適出口径De0は本発明例1から61.5mmとなるため、出口径Deと最適出口径De0との比(De/De0)は0.95となる。
これらを踏まえ、転炉内に挿入された上吹きランスから、脱炭最盛期である吹錬初期から中期にわたっては、送酸速度Fが60000Nm3/hr、ノズル背圧Pが853kPaの条件で送酸し、溶湯の炭素濃度が0.6mass%以下となった吹錬末期には、ノズル背圧Pを428kPaとして吹錬した。
吹錬中は乾式のダスト測定装置を用いて排ガス中のダスト量を測定した。また、吹錬終了時には転炉内のスラグを採取して、スラグ中のT.Feを調査した。100ヒートを越える吹錬結果から、このランスを用いた吹錬におけるダスト発生量は溶鋼トン当たり7kgであり、また、吹錬を炭素量が0.05mass%で吹き止めた際のスラグ中のT.Feは14mass%となり、T.Fe低減効果をほぼ維持したまま、ダスト低減効果が大きかった。また、このときのランスへの地金付着は著しく少ないことが観察された。
[本発明例3]
本発明例1と同一の転炉を用い、溶銑予備処理を施した溶銑を5孔ノズルタイプの上吹きランスにより本発明例1と同一条件で吹錬した。但し、ラバールノズルの形状は、吹錬末期の送酸速度FMにより決定した。即ち、吹錬末期の送酸速度を30000Nm3/hrとし、ラバールノズルのスロート径Dtを56.0mmとして、出口径Deと最適出口径De0との比(De/De0)を0.95以下の条件下でラバールノズル出口径Deを設置した。
吹錬末期の送酸速度FhMが6000Nm3/hr、スロート径Dtが56.0mmの条件から(3)式により吹錬末期のノズル背圧Pooを411kPa(4.2kgf/cm2)と定め、ノズル背圧Pooが411kPa、雰囲気圧Peが101kPa(大気圧)、スロート径Dtが56.0mmの条件から、(4)式により最適出口径De0を求め、最適出口径De0=62.1mmを得た。そこで、最適出口径De0に対する比(De/De0)が0.94となるように出口径Deを設定し、出口径Deを58.4mmとした。5孔のラバールノズルを全てこの形状とした。
この上吹きランスを用い、脱炭最盛期である吹錬初期から中期にわたっては、送酸速度FSが60000Nm3/hrの条件で送酸し、溶湯の炭素濃度が0.6mass%以下となった吹錬末期には、送酸速度FMを30000Nm3/hr、ノズル背圧Pを411kPaとして吹錬した。送酸速度FSを60000Nm3/hrとした、吹錬初期から中期の脱炭最盛期でのノズル背圧Pはおよそ823kPa(8.4kgf/cm2)であった。
吹錬中は乾式のダスト測定装置を用いて排ガス中のダスト量を測定した。また、吹錬終了時には転炉内のスラグを採取して、スラグ中のT.Feを調査した。100ヒートを越える吹錬結果から、このランスを用いた吹錬におけるダスト発生量は溶鋼トン当たり8kgであり、また、吹錬を炭素量が0.05mass%で吹き止めた際のスラグ中のT.Feは14mass%となり、T.Fe低減効果をほぼ維持したまま、ダスト低減効果が大きかった。また、このときのランスへの地金付着は著しく少ないことが観察された。
[比較例]
本発明例1と同一の転炉を用い、溶銑予備処理を施した溶銑を5孔ノズルタイプの上吹きランスにより本発明例1と同一条件で吹錬した。但し、ラバールノズルの形状は、スロート径Dtを本発明例1と同じく55.0mmとしたが、出口径Deは脱炭最盛期に最適な膨張が得られるようにした。即ち、ノズル背圧Poが853kPa(8.7kgf/cm2)、雰囲気圧Peが101kPa(大気圧)、スロート径Dtが55.0mmの条件から、定数Kを0.259として(5)式により出口径Deを73.0mmとした。
5孔のラバールノズルを全てこの形状として吹錬し、吹錬中は乾式のダスト測定装置を用いて排ガス中のダスト量を測定した。また、吹錬終了時には転炉内のスラグを採取して、スラグ中のT.Feを調査した。100ヒートを越える吹錬結果から、このランスを用いた吹錬におけるダスト発生量は溶鋼トン当たり14kgであり、また、吹錬を炭素量が0.05mass%で吹き止めた際のスラグ中のT.Feは19mass%であり、ダスト低減及びT.Fe低減効果ともに本発明例と比較して少なかった。
脱炭最盛期でのダスト発生速度及び地金付着量と定数Kとの関係を示す図である。
実際の出口径Deと最適出口径De0との比と、吹錬終点時のT.Feとの関係を示す図である。
本発明で用いたラバールノズルの概略断面図である。
符号の説明
1 ランスノズル
2 ラバールノズル
3 絞り部
4 スロート
5 スカート部