以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態による圧縮比可変機構50を備えたFFエンジン100の概略図である。
FFエンジン100は、新気が流れる吸気通路10を備える。吸気通路10は、各シリンダ2a〜2dに新気を分配する吸気マニホールド11を有する。吸気マニホールド11は、シリンダ数分の枝管11a〜11dに分岐している。また、吸気マニホールド11は、FFエンジン100のシリンダヘッドに接続される。吸気マニホールド11には、インジェクタ33の先端が挿入される。
インジェクタ33から噴射される燃料は燃料タンク30に貯蓄される。燃料タンク30の給油口34には、給油ガンが挿入されたことを検出する給油ガンセンサ41が設けられる。これにより、給油があったか否かを判定することができる。給油ガンセンサ41は、給油口34のキャップ36を外した際に回路遮断が起きるシステムであり、ON、OFFで給油ガンが挿入されているか否かを判定することができる。
燃料タンク30中の燃料は燃料配管31を通って燃料ギャラリ32に供給される。以下、燃料配管31と燃料ギャラリ32との容量の合計を「ギャラリ内容量Fg」という。ギャラリ内容量Fgは、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管(燃料配管31や燃料ギャラリ32等)内の燃料質量に該当する。なお、燃料配管31に供給された燃料は図示しない逆支弁等によりエンジン停止時においても燃料タンク30に戻らないようになっている。
燃料ギャラリ32に供給された燃料は、シリンダ2ごとに燃料ギャラリ32に直列に配置されたインジェクタ33a〜33dによって、吸気マニホールド11内に噴射される。吸気マニホールド11に噴射された燃料は、吸気マニホールド11を流れる新気と混合し、シリンダ2に吸入される。シリンダ2に吸引された混合気は、燃焼ガスとなって排気通路20に排出される。
排気通路20は、各シリンダ2a〜2dから排出される排気を一系統に集合させるための排気マニホールド21を有する。排気マニホールド21の下流の排気通路20には、空燃比センサ42が配設される。空燃比センサ42は、排気中の酸素濃度に基づいて排気空燃比を検出する。
圧縮比可変機構50は、ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する機構である。このような機構として本実施形態では、本出願人が先に提案したもので、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっている複リンク式圧縮比可変機構を適用している。以下、図2及び図3を参照して、複リンク式圧縮比可変機構を備えたFFエンジン100についてその概略を説明する。
複リンク式圧縮比可変機構を備えたFFエンジン100は、ピストン122とクランクシャフト121とを2つのリンク(アッパリンク(第1リンク)111、ロアリンク(第2リンク)112)で連結するとともに、コントロールリンク(第3リンク)113でロアリンク112を制御して圧縮比を変更する。
アッパリンク111は、上端をピストンピン124を介してピストン122に連結し、下端を連結ピン125を介してロアリンク112の一端に連結する。ピストン122は、燃焼圧力を受け、シリンダブロック123のシリンダ2内を往復動する。
ロアリンク112は、一端を連結ピン125を介してアッパリンク111に連結し、他端を連結ピン126を介してコントロールリンク113に連結する。また、ロアリンク112は、ほぼ中央の連結孔に、クランクシャフト121のクランクピン121bを挿入し、クランクピン121bを中心軸として揺動する。ロアリンク112は左右の2部材に分割である。クランクシャフト121は、複数のジャーナル121aとクランクピン121bとを備える。ジャーナル121aは、シリンダブロック123及びラダーフレーム128によって回転自在に支持される。クランクピン121bは、ジャーナル121aから所定量偏心しており、ここにロアリンク112が揺動自在に連結する。
コントロールリンク113は、連結ピン126を介してロアリンク112に連結する。またコントロールリンク113は、他端を連結ピン127を介してコントロールシャフト114に連結する。コントロールリンク113は、この連結ピン127を中心として揺動する。またコントロールシャフト114にはギアが形成されており、そのギアがアクチュエータ131の回転軸133に設けられたピニオン132に噛合する。アクチュエータ131によってコントロールシャフト114が回転させられ、連結ピン127が移動する。
図3は複リンク式可変圧縮比機構を備えたFFエンジン100による圧縮比変更方法を説明する図である。
複リンク式可変圧縮比機構を備えたFFエンジン100は、コントローラ40がアクチュエータ131を制御することでコントロールシャフト114を回転させて連結ピン127の位置を変更させて、圧縮比を変更できる。例えば図3(A)、図3(C)に示すように連結ピン127を位置Pにすれば、上死点位置(TDC)が高くなり高圧縮比になる。
そして図3(B)、図3(C)に示すように、連結ピン127を位置Qにすれば、コントロールリンク113が上方へ押し上げられ、連結ピン126の位置が上がる。これによりロアリンク112はクランクピン121bを中心として反時計方向に回転し、連結ピン125が下がり、ピストン上死点(TDC)におけるピストン122の位置が下降する。したがって圧縮比が低圧縮比になる。
ところで、アルコール燃料はガソリン燃料よりもオクタン価が高いので、圧縮比を高くすることができる。しかしながら、通常のFFエンジンは、圧縮比を変更できないので、ガソリン燃料での運転時におけるノッキングを回避するために、アルコール燃料時においても、ガソリン燃料にあわせた低い圧縮比で運転しなければならなかった。
これに対して、本発明のFFエンジンでは、ガソリン燃料の場合には低圧縮比となるようにシリンダ容積を調整し、アルコール燃料の場合には高圧縮比となるようにシリンダ容積を調整することができる。これによって、ガソリン燃料、アルコール燃料のどちらの燃料に対しても最適な圧縮比で燃焼を行うことができる。
そこで、本実施形態では、空燃比センサ42の検出信号(排気空燃比)に基づいて、コントローラ40が、給油後の燃料がガソリン燃料であるかアルコール燃料であるかを判定する。アルコール燃料の場合には、同一燃料量での空燃比がガソリン燃料の場合よりもリーンとなるという特性があるので、コントローラ40は、排気空燃比がリーンであればアルコール燃料であると判定し、そうでなければガソリン燃料であると判定する。そして、コントローラ40は、エンジン始動時に、判定した燃料に応じて最適な圧縮比となるように圧縮比可変機構50を制御する。コントローラ40は、CPU、ROM、RAM、不揮発メモリ等を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ40には、エンジン100の吸入空気流量を検出するエアフロメータ43などからの検出信号が入力される。
以下、図4〜図8を参照して、使用燃料に応じて最適な圧縮比となるように圧縮比可変機構50を制御するために、エンジン停止時からエンジン再始動時までにコントローラ40が実行する処理について説明する。
図4は、コントローラ40が実行する処理を説明するフローチャートである。
ステップS11において、コントローラ40は、キースイッチがACCの状態からOFFの状態に切り替わったか否かを判断する。コントローラ40は、ACCからOFFに切り替わったとき、ステップS12に処理を移行する。そうでなければ、ステップS13に処理を移行する。
ステップS12において、コントローラ40は、エンジン停止時処理を行う。具体的な内容は図5を参照して後述する。
ステップS13において、コントローラ40は、キースイッチがOFFの状態のままか否かを判断する。コントローラ40は、キースイッチがOFFの状態のままであれば、ステップS14に処理を移行する。そうでなければ、ステップS15に処理を移行する。
ステップS14において、コントローラ40は、エンジン停止中処理を行う。具体的な内容は図6を参照して後述する。
ステップS15において、コントローラ40は、キースイッチがOFFの状態からACCの状態に切り替わったか否かを判断する。コントローラ40は、キースイッチがOFFからACCに切り替わったとき、ステップS16に処理を移行する。そうでなければ、ステップS17に処理を移行する。
ステップS16において、コントローラ40は、エンジン始動時処理を行う。具体的な内容については図7を参照して後述する。
ステップS17において、コントローラ40は、前回給油が行われてから現在までに消費された燃料量(以下「燃料消費量」という)Fcを算出する。コントローラ40は、エンジン100の運転中に以下の式で燃料消費量Fcを検出している。
これについて説明する。コントローラ40は、エンジン100の運転中に、単位時間当たりの燃焼室への吸入空気量Qaと空燃比AFRとから、単位時間当たりの燃料消費量ΔFcを求める。単位時間をあらかじめ処理の演算周期に等しく設定しておくことで、ΔFcは前回の処理から今回の処理までの期間の燃料消費量となる。そして、コントローラ40は、不揮発メモリに格納された燃料消費量の前回値Fczに、今回の処理で求めた単位時間当たりの燃料消費量ΔFcを加えることで、燃料消費量(積算量)Fcを検出する。
図5は、エンジン停止時処理を示すフローチャートである。
ステップS121において、コントローラ40は、エンジン停止時の空燃比センサ42の検出信号(以下「空燃比バックアップ値」という)AFbを不揮発メモリに格納する。コントローラ40は、エンジンを再始動するときに、原則として空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50を制御するためである。
図6は、エンジン停止中処理を示すフローチャートである。
ステップS141において、コントローラ40は、キースイッチがACCの状態からOFFの状態になった後、所定時間が経過したか否かを判断する。コントローラ40は、キースイッチがACCからOFFに切り替わった後、所定時間が経過してなければ、ステップS142に処理を移行する。そうでなければ、ステップS143に処理を移行する。
ステップS142において、コントローラ40は、スリープ移行処理を行う。
ステップS143において、コントローラ40は、燃料消費量Fcをリセットしてゼロに戻した後、所定時間が経過したか否かを判定する。コントローラ40は、燃料消費長Fcのリセット後、所定時間が経過していれば、ステップS144に処理を移行する。そうでなければ、今回の処理を終了する。
ステップS144において、コントローラ40は、スリープ処理を行う。スリープ処理中は、コントローラ40は、低消費電力で作動している。
ステップS145において、コントローラ40は、給油判定フラグが1となったか否かを判断する。ここで、給油判定フラグとは、給油があった場合に給油ガンセンサ41の検出信号に応じて0から1に切り替わるフラグである。コントローラ40は、給油判定フラグが0のときは、今回の処理を終了する。コントローラ40は、給油が行われ、給油判定フラグが1となれば、処理をステップS146に移行する。
ステップS146において、コントローラ40は、スリープ処理からアクティベートされる。
ステップS147において、コントローラ40は、燃料消費量Fcをリセットしてゼロに戻す。上述したように、燃料消費量Fcは、前回給油が行われてから現在までに消費された燃料量である。したがって、給油が行われた場合には、燃料消費量Fcをリセットしてゼロに戻す。
図7は、エンジン始動時処理を示すフローチャートである。
ステップS161において、コントローラ40は、スリープ処理からアクティベートされる。
ステップS162において、コントローラ40は、燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgを超えているか否かを判定する。これは、給油が行われてからの燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgを超えていれば、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内の燃料が給油後の燃料で満たされたと判断できるからである。コントローラ40は、燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgを超えていればステップS163に処理を移行し、超えていなければステップS165に処理を移行する。
ステップS163において、コントローラ40は、エンジン停止時に不揮発メモリに格納した空燃比バックアップ値AFbから燃料がガソリン燃料であるかアルコール燃料であるか判定する。
ステップS164において、コントローラ40は、判定した燃料に応じて、最適な圧縮比となるように圧縮比可変機構50を制御する。
ステップS165において、コントローラ40は、燃料がガソリン燃料のときの圧縮比(低圧縮比)となるように圧縮比可変機構50を制御する。
図8は、エンジンを停止したときから停止中にかけてのコントローラ40で実行される処理の動作を示すタイムチャートである。なお、フローチャートとの対応を明確にするため、フローチャートのステップ番号を併記して説明する。
時刻t1で、キースイッチがONからOFFに操作されると(図8(A);S11)、コントローラ40はスリープ移行状態となり(図8(D);S142)、エンジン速度、空燃比センサ42の出力はともに0となる(図8(B)(C))。また、コントローラ40は、時刻t1における空燃比センサ42の出力値を空燃比バックアップ値AFbとして不揮発メモリに格納する(S121)。
時刻t2でコントローラ40は、スリープ状態となる(図8(D);S144)。
スリープ状態中の時刻t3に給油が行われ、給油判定フラグが0から1に切り替わると(図8(E);S145)、コントローラ40はアクティベートされ(図8(D);S146)、燃料消費量Fcをリセットしてゼロに戻す(図8(F);S147)。
コントローラ40は、燃料消費量Fcをリセットしてゼロに戻すと、所定時間経過後の時刻t4で再びスリープ状態となる(図8(D);S144,S145)。
なお、図8(D)〜(F)に、給油が行われなかった場合のコントローラ40、給油ガンセンサ41の検出信号及び燃料消費量Fcの動作を破線で示す。図8(A)〜(C)の動作は給油が行われた場合と同様である
これに示すように、給油が行われなければ、コントローラ40は、スリープ状態のままである(図8(D)(E))。したがって、燃料消費量Fcはリセットされず、エンジン再始動後には、これまでの燃料消費量にエンジン再始動後のエンジン運転によって消費する燃料量が積算されることになる(図8(F))。
図9及び図10は、エンジン始動時にコントローラ40で実行される処理の動作を示すタイムチャートである。
まず図9を参照して説明する。図9は、前回給油されたときから現在までの燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgよりも少ない場合のタイムチャートである。
時刻t5でキースイッチがOFFからACCに操作されたら(図9(A);S15)、時刻t6でコントローラ40がアクティブ状態となる(図9(B);S161)。
時刻t6で、コントローラ40がアクティブ状態となると、コントローラ40は、燃料消費量Fcとギャラリ内容量Fgとを比較する(S162)。
このとき、Fca<Fgであれば(図9(C))、低圧縮比要求フラグが0から1に切り替わる(図9(D))。Fca<Fgであれば、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内に給油前の燃料が残留している。当然、空燃比バックアップ値AFbは給油前の燃料の値となる。したがって、例えば給油前の燃料がアルコール燃料で給油後の燃料がガソリン燃料の場合に、空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50の圧縮比を高圧縮比に設定すると、エンジンの再始動後の走行中に燃料が切り替わり、ノッキングが発生する可能性がある。そこで、Fca<Fgであれば、低圧縮比要求フラグを0から1に切り替え、燃料に関わらず圧縮比可変機構50の圧縮比を低圧縮比に設定する。
低圧縮比要求フラグが1のとき、時刻t7で、コントローラ40は、圧縮比が低圧縮比となるように指示する(図9(E);S165)。
時刻t8で圧縮比が所定の圧縮比に制御されると(図9(F))、時刻t9でスタータモータを始動する(図9(A))。これにより、エンジン回転速度が上昇し、アイドル回転速度に到達する(図9(G))。
次に図10を参照して説明する。図10は、前回給油されたときから現在までの燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgよりも多い場合のタイムチャートである。
図9のタイムチャートとの相違点を中心に説明すると、Fca>Fgなので(図10(C))、低圧縮比要求フラグは0のままである(図10(D))。
Fca>Fgであれば、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内には、全て給油後の燃料が満たされている。したがって、エンジンの再始動後の走行中に燃料が切り替わり、ノッキングが発生するといった問題は発生しない。よって、Fca>Fgの場合には、エンジンの再始動時に、エンジン停止時に不揮発メモリに格納された空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50の圧縮比を設定する。
つまり、低圧縮比要求フラグが0のとき、時刻t7で、コントローラ40は、エンジン停止時に不揮発メモリに格納された空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50の圧縮比を指示する(図10(E);S304)。
時刻t8で圧縮比が所定の圧縮比に制御される(図10(F))。
以上説明したように、圧縮比可変機構50を有するFFエンジン100は、圧縮比の制御を行う前提として給油された燃料がアルコール燃料であるかガソリン燃料であるかを判定する必要がある。そこで、本実施形態では、排気通路20に空燃比センサ42を設けて排気の空燃比から判定している。
このとき、給油された燃料がアルコール燃料であるかガソリン燃料であるかを排気通路20に設けた空燃比センサ42のみで判定する場合、その判定は、給油後にエンジンが再始動され、給油された燃料の燃焼ガスが空燃比センサ42によって検出されたとき、始めて可能となる。
そこで本実施形態では、給油判定手段としての給油ガンセンサ41を設け、前回給油されたときから現在までの燃料消費量Fcを算出する。そして、この燃料消費量Fcと燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内の燃料質量に該当するギャラリ内容量Fgとを比較する。
比較した結果、前回給油されたときから現在までの燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgよりも多い(Fca>Fg)場合は、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内に全て給油後の燃料が満たされていると判定できる。したがって、この場合は、エンジン100の再始動時に不揮発メモリに格納された空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50の圧縮比を設定する。
一方、比較した結果、前回給油されたときから現在までの燃料消費量Fcがギャラリ内容量Fgよりも少ない(Fca<Fg)場合は、燃料タンク30からインジェクタ33までに至る配管内に給油前の燃料が残留していると判定できる。したがって、この場合に、エンジン100の再始動時に不揮発メモリに格納された空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構50の圧縮比を設定してしまうと、給油前の燃料に適した圧縮比となってしまう。つまり、エンジン100の再始動時に設定された圧縮比が、給油後の燃料に適した圧縮比とならない。
したがって、例えば給油前の燃料がアルコール燃料で給油された燃料がガソリン燃料の場合には、燃料タンク30内の燃料のアルコール含有率が低下する。そのため、空燃比バックアップ値AFbに基づいて圧縮比可変機構の圧縮比を高圧縮比に設定すると、エンジンの再始動後の走行中にアルコール含有率の低い燃料に切り替わり、ノッキングが発生する可能性がある。
そこで、Fca<Fgの場合は、空燃比バックアップ値AFbに基づいて判定した燃料に関わらず、圧縮比可変機構50の圧縮比をガソリン燃料に適した低圧縮比に設定する。これにより、エンジン運転中にアルコール含有率の高いアルコール燃料からアルコール含有率の低いアルコール燃料やガソリン燃料に切り替わったとしても、ノッキングの発生を防止できる。
このように、本実施形態によれば、圧縮比可変機構50によって、燃料に応じた圧縮比でエンジン100の運転を行うことができる。また、エンジン運転中に燃料が切り替わる場合において、特にアルコール燃料からガソリン燃料に切り替わる際に発生するノッキングを回避することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、図11を参照して説明する。本実施形態は、空燃比センサ42とアルコールセンサ44の2つのアルコール濃度検知手段を有する点で第1実施形態と相違する。以下その相違点を中心に説明する。なお、以下の各実施形態では上述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
図11は本発明の第2実施形態による圧縮比可変機構50を備えたFFエンジン200の概略図である。
FFエンジン200は、基本的に第1実施形態によるFFエンジン100と同様の構成だが、アルコールセンサ44を有する点及び給油ガンセンサ(給油判定手段)を有しない点で相違している。
アルコールセンサ44は、燃料ギャラリ32の基端(インジェクタ33d側)に設けられる。アルコールセンサ44は、燃料中のアルコール濃度に応じた電気信号をコントローラ40に出力する。
次に、図12〜図15を参照して、本発明の第2実施形態によるエンジン停止時とエンジン始動時にコントローラ40が実行する処理について説明する。
図12は、コントローラ40が実行する処理を説明するフローチャートである。図12において、図4と同じ処理を行うステップには同じ符号をつけ重複する説明を省略する。
ステップS21において、コントローラ40は、エンジン停止時処理を行う。具体的な内容は図13を参照して後述する。
ステップS22において、コントローラ40は、キースイッチがOFFの状態からACCの状態に切り替わったか否かを判断する。コントローラ40は、切り替わったとき、ステップS23に処理を移行する。そうでなければ、ステップS15に処理を移行する。
ステップS23において、コントローラ40は、エンジン始動開始処理を行う。具体的な内容は図14を参照して後述する。
ステップS24において、コントローラ40は、キースイッチがONの状態であるか否かを判定する。
ステップS25において、コントローラ40は、エンジン始動処理を行う。具体的な内容は図15を参照して後述する。
図13は、エンジン停止時処理を示すフローチャートである。
ステップS211において、コントローラ40は、空燃比バックアップ値AFbを不揮発メモリに格納する。
ステップS212において、コントローラ40は、エンジン停止前数秒間のアルコールセンサ44の出力信号(以下「アルコールセンサ出力値」という)ALの変化率(以下「アルコールセンサ出力変化率」)ALrcを不揮発メモリに格納する。
ステップS213において、コントローラ40は、OFF状態となる。
図14は、エンジン始動開始処理を示すフローチャートである。
ステップS231において、コントローラ40は、空燃比バックアップ値AFbに基づいて判定した燃料がアルコール燃料であるか否かを判定する。コントローラ40は、判定した燃料がアルコール燃料であれば、ステップS232に処理を移行し、ガソリン燃料であれば、ステップS235に処理を移行する。
ステップS232において、コントローラ40は、アルコールセンサ出力値ALに基づいて判定した燃料がアルコール燃料であるか否かを判定する。コントローラ40は、判定した燃料がアルコール燃料であれば、ステップS233に処理を移行し、ガソリン燃料であれば、ステップS234に処理を移行する。
つまり、エンジン停止時に使用されていた燃料及び燃料ギャラリ32内の燃料がともにアルコール燃料であれば、コントローラ40はステップS233に処理を移行する。エンジン停止時に使用されていた燃料がアルコール燃料で、燃料ギャラリ32内の燃料がガソリン燃料であれば、コントローラ40はステップS234に処理を移行する。
ステップS233において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50をアルコール燃料に適した高圧縮比に制御する。
ステップS234において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50をガソリン燃料に適した低圧縮比となるように制御する。
ステップS235において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50をガソリン燃料に適した低圧縮比となるように制御する。
ステップS236において、コントローラ40は、アルコールセンサ出力値ALに基づいて判定した燃料がアルコール燃料であるか否かを判定する。コントローラ40は、判定した燃料がアルコール燃料であれば、ステップS237に処理を移行し、ガソリン燃料であれば、今回の処理を終了する。
つまり、エンジン停止時に使用されていた燃料がガソリン燃料で、燃料ギャラリ32内の燃料がアルコール燃料であれば、コントローラ40はステップS237に処理を移行する。エンジン停止時に使用されていた燃料及び燃料ギャラリ32内の燃料がともにガソリン燃料であれば、コントローラ40は今回の処理を終了する。
ステップS237において、コントローラ40は、高圧縮比要求フラグを1にセットする。
図15は、エンジン始動処理を示すフローチャートである。
ステップS251において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50による圧縮比の変更が完了したか否かを判断する。コントローラ40は、圧縮比の変更が完了していれば、ステップS252に処理を移行する。そうでなければ、今回の処理を終了する。
ステップS252において、コントローラ40は、スタータモータを始動する。
ステップS253において、コントローラ40は、高圧縮比要求フラグが1にセットされているか否かを判断する。コントローラ40は、高圧縮比要求フラグが1にセットされていなければ、今回の処理を終了し、セットされていれば、ステップS254に処理を移行する。
ステップS254において、コントローラ40は、高圧縮比要求フラグが1にセットされてからの経過時間がギャラリ内燃料消費時間T1以上か否かを判定する。コントローラ40は、経過時間がギャラリ内燃料消費時間T1以上であれば、ステップS255に処理を移行する。そうでなければ、今回の処理を終了する。
コントローラ40は、以下の式でギャラリ内燃料消費時間T1を検出する。ギャラリ内燃料消費時間T1は、燃料ギャラリ32内に残存しているガソリン燃料を消費するためにかかる時間である。
これについて説明する。燃料ギャラリ32の容量(燃料ギャラリ32内の燃料質量)Ffgを単位時間当たりの燃料消費量ΔFcで除することで、燃料ギャラリ32内の燃料を消費するためにかかる時間を算出する。そして、燃料ギャラリ32内の燃料を消費するためにかかる時間に、燃料ギャラリ32内に残存するガソリン燃料の割合を示す係数をかけることで、燃料ギャラリ32内に残存するガソリン燃料を消費するためにかかる時間(ギャラリ内燃料消費時間)T1を算出することができる。
なお、f1は燃料ギャラリ32内に残存しているガソリン燃料の割合を示す係数を算出する関数である。関数f1にアルコールセンサ出力変化率ALrcを代入することで、0から1の範囲内でガソリン燃料の割合を示す係数が算出される。f1=1のときは、燃料ギャラリ32がガソリン燃料で満たされている状態である。f1=0.5のときは、燃料ギャラリ32内の半分がガソリン燃料で満たされている状態である。詳しくは、燃料ギャラリ32の先端に給油前のガソリン燃料が満たされ、基端に給油されたアルコール燃料が満たされている状態である。
ステップS255において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50をアルコール燃料に適した圧縮比となるように制御する。
以上説明した本実施形態によれば、空燃比バックアップ値AFbに基づいて判定した燃料とアルコールセンサ出力値ALに基づいて判定した燃料とを比較して、圧縮比可変機構50を制御する。具体的には、判定した燃料がともにアルコール燃料の場合(ステップS231でYesかつステップS232でYes)には、圧縮比可変機構50を高圧縮比に制御する。どちらか一方の燃料がガソリン燃料の場合(ステップS231でNo又はステップS232でNo)には、圧縮比可変機構50を低圧縮比に制御する。
このとき、特に、空燃比センサ42がガソリン燃料を検出し(ステップS231でNo)、アルコールセンサ44がアルコール燃料を検出しているときは(ステップS236でYes)、燃料ギャラリ32の先端にガソリン燃料が満たされ、基端にアルコール燃料が満たされているときである。この場合、エンジン始動後の運転中に燃料がガソリン燃料からアルコール燃料に切り替わる可能性が大きい。しかし、燃料がガソリン燃料からアルコール燃料に切り替わった後も、ガソリン燃料に適した圧縮比のまま運転したのでは、排出NOx低減等のFFエンジン特有の効果を十分に得ることができない。
そこで本実施形態では、燃料ギャラリ32内に残存するガソリン燃料を消費するためにかかる時間(ギャラリ内燃料消費時間)T1を算出し、時間T1経過後、圧縮比可変機構50をアルコール燃料に適した圧縮比となるように制御する。
これにより、燃料がガソリン燃料からアルコール燃料に切り替わった場合には、高圧縮比で運転することができる。そのため、燃効率を上げることができるとともに、NOxの排出を抑制することができる。
また、空燃比センサ42がアルコール燃料を検出し(ステップS231でYes)、アルコールセンサ44がガソリン燃料を検出しているときは(ステップS236でNo)、燃料ギャラリ32の先端(インジェクタ33a側)にアルコール燃料が満たされ、基端(インジェクタ33d側)にガソリン燃料が満たされているときである。この場合、エンジン始動後の運転中に燃料がアルコール燃料からガソリン燃料に切り替わる可能性が大きい。したがって、圧縮比可変機構50をアルコール燃料に適した高圧縮比となるように制御すると、燃料が切り替わった後にノッキングが生じエンジンの耐久性に影響を与える可能性がある。
そこで本実施形態では、空燃比センサ42がアルコール燃料を検出し、アルコールセンサ44がガソリン燃料を検出しているときは、圧縮比可変機構50を予めガソリン燃料に適した低圧縮比となるように制御する。
これにより、エンジン運転中に燃料がアルコール燃料からガソリン燃料に切り替わったとしてもノッキングを防止できる。
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態について、図16及び図17を参照して説明する。本発明の第3実施形態は、第2実施形態と同様の構成であるが、エンジン始動開始処理及びエンジン始動処理において、空燃比センサ42がアルコール燃料を検出し、アルコールセンサ44がガソリン燃料を検出しているときの圧縮比可変機構50の制御が第2実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。
図16は、エンジン始動開始処理を示すフローチャートである。図16において、図14と同じ処理を行うステップには同じ符号をつけ重複する説明を省略する。
ステップS331において、コントローラ40は、圧縮比可変機構50をアルコール燃料に適した高圧縮比に制御する。
ステップS332において、コントローラ40は、低圧縮比要求フラグを1にセットする。
図17は、エンジン始動開始処理を示すフローチャートである。図17において、図15と同じ処理を行うステップには同じ符号をつけ重複する説明を省略する。
ステップS351において、コントローラ40は、低圧縮比要求フラグが1にセットされているか否かを判断する。コントローラ40は、低圧縮比要求フラグが1にセットされていなければ、今回の処理を終了し、セットされていれば、ステップS352に処理を移行する。
ステップS352において、コントローラ40は、低圧縮比要求フラグが1にセットされてからの経過時間がギャラリ内燃料消費時間T2以上か否かを判定する。コントローラ40は、経過時間がギャラリ内燃料消費時間T2以上であれば、ステップS353に処理を移行する。そうでなければ、今回の処理を終了する。
コントローラ40は、第2実施形態と同様に、以下の式でギャラリ内燃料消費時間T2を検出する。ギャラリ内燃料消費時間T2は、燃料ギャラリ32内に残存しているアルコール燃料を消費するためにかかる時間である。
関数f2にアルコールセンサ出力変化率ALrcを代入することで、0から1の範囲内でガソリン燃料の割合を示す係数が算出される。これに燃料ギャラリ32内の燃料を消費するためにかかる時間をかけることで、ギャラリ内燃料消費時間T2を算出する。
以上説明した本実施形態によれば、第2実施形態の効果に加えて、アルコール燃料からガソリン燃料に切り替わる直前まで高圧縮比で運転できるため、より燃効率を上げることができる。また、アルコール燃料時に低圧縮比で運転することがなくなるので、よりNOxの排出を抑制することができエミッション・排気臭の悪化を防止することができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
例えば、本実施形態において、圧縮比可変機構として複リンク式圧縮比可変機構を用いたが、圧縮比可変機構として、公知のいかなる機構を用いてもよい。例えば、吸気バルブの開閉時期を変更することでシリンダに吸入される空気量を変更して圧縮比を変更する可変バルブタイミング機構(VTC;Variable valve Timing Control system)を用いてもよい。また、吸気バルブの開弁機関を変更することでシリンダに吸入される空気量を変更して圧縮比を変更する可変バルブイベント・リフト機構(VEL;Variable valve Event and Lift control system)を用いてもよい。
第1実施形態において、燃料消費量は、エンジンの燃焼室への吸入空気量と空燃比とから推定していたが、インジェクタの開弁時間を考慮してエンジン回転速度から予め実験等により定めたマップ等から推定してもよい。
また、燃料の切替りを、燃料消費量Fcとギャラリ内容量Fgとから判定していたが、給油後所定の時間が経過すれば燃料が切り替わったと判定してもよい。
第2、第3実施形態において、コントローラ40は、キースイッチがACCの状態になるとエンジン始動時の処理を開始していたが、キーボックスからのキーイン信号を検出するキー差込検出スイッチの信号の検知とともにエンジン始動時の処理を開始してもよい。これにより、キースイッチがACCの状態になるよりも早い時期、すなわちキーイン信号とともに処理を開始することができる。