しかしながら、上記の特許文献1に記載されている変速機構においては、高速側シャフトおよび低速側シャフトが軸線方向に並べて配置されており、その高速側シャフトの外周側にくさびローラ式変速機が設けられ、低速側シャフトの外周側に遊星歯車減速機が設けられているため、前記高速側シャフトの軸線方向に構造が大型化する虞があった。
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、電動モータの回転軸線に沿った方向における大型化を抑制することの可能な変速機構を提供することを目的としている。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、出力軸と一体化されたロータの外周側に、コイルが巻き付けられたステータが配置されるとともに、前記コイルのコイルエンド部が前記ロータの両端部よりも軸線方向に突出している電動モータと、前記出力軸に連結された遊星ローラ機構である第1変速機とを備え、前記第1変速機が有する3つの回転要素に含まれる入力要素と出力要素との半径比に応じたトルクを伝達させる変速機構において、前記ロータと前記出力軸と前記3つの回転要素とが同一の回転軸線を中心として回転可能に配置されているとともに、回転軸線に沿った方向における前記コイルエンド部と重なり、かつ前記回転軸線を中心とする半径方向における前記コイルエンド部の内側に、前記第1変速機が配置されていることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記第1変速機の出力要素に連結された別の変速機が設けられており、前記出力軸と前記第1変速機の入力要素とが一体化され、前記第1変速機の出力要素と前記別の変速機の入力要素とが一体化されていることを特徴とするものである。
請求項3の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記3つの回転要素には、同軸上に配置されたサンローラおよびリングローラと、このサンローラおよびリングローラに接触するピニオンローラを保持するキャリヤとが含まれており、前記ロータおよび前記サンローラに加わるスラスト荷重を受けるスラスト軸受が設けられていることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、請求項1または2の構成に加えて、前記3つの回転要素には、同軸上に配置されたサンローラおよびリングローラと、このサンローラおよびリングローラに接触するピニオンローラを保持するキャリヤとが含まれており、前記キャリヤに加わるラジアル荷重を受けるラジアル軸受が設けられていることを特徴とするものである。
請求項5の発明は、請求項4の構成に加えて、前記ロータは、内周部分に円筒部を有しており、前記回転軸線を中心とする半径方向で前記円筒部の内側に前記ラジアル軸受が配置されていることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項2ないし5のいずれかの構成に加えて、内燃機関である動力源と、差回転可能な3つの回転要素を有する動力分配装置と、力行機能と回生機能とを有するモータ・ジェネレータとをさらに備え、前記動力源と前記電動モータと前記モータ・ジェネレータと前記第1変速機と前記別の変速機とを構成する各回転要素が、前記回転軸線を中心として回転可能に配置されているとともに、前記動力分配装置の入力要素に前記動力源の出力軸が連結され、前記動力分配装置の反力要素に前記モータ・ジェネレータが連結され、前記別の変速機の出力要素と前記動力分配装置の出力要素とが、被駆動部材に対して並列に動力伝達可能に連結されていることを特徴とするものである。
請求項7の発明は、出力軸と一体化されたロータの外周側に、コイルが巻き付けられたステータが配置されるとともに、前記コイルのコイルエンド部が前記ロータの両端部よりも軸線方向に突出している電動モータと、前記出力軸に連結された遊星ローラ機構である第1変速機と、前記第1変速機に動力伝達可能に連結された第2変速機とを備え、これらの変速機は差動回転可能な3つの回転要素を各々有しているとともに、前記3つの回転要素に含まれる入力要素と出力要素との半径比に応じたトルクを伝達させる変速機構において、前記ロータと前記出力軸と前記各3つの回転要素とが同一の回転軸線を中心として回転可能に配置されているとともに、回転軸線に沿った方向で異なる箇所に、一方の前記コイルエンド部である一端部と他方の前記コイルエンド部である他端部とが配置され、回転軸線に沿った方向における前記一端部のコイルエンド部と重なり、かつ前記回転軸線を中心とする半径方向における前記一端部のコイルエンド部の内側に、前記第1変速機が配置され、回転軸線に沿った方向における前記他端部のコイルエンド部と重なり、かつ前記回転軸線を中心とする半径方向における前記他端部のコイルエンド部の内側に、前記第2変速機が配置されていることを特徴とするものである。
請求項8の発明は、請求項7の構成に加えて、前記出力軸に前記第1変速機の入力要素が連結され、前記第1変速機の出力要素に前記第2変速機の出力要素が連結されていることを特徴とするものである。
請求項9の発明は、請求項7または8の構成に加えて、内燃機関である動力源と、差回転可能な3つの回転要素を有する動力分配装置と、力行機能と回生機能とを有するモータ・ジェネレータとをさらに備え、前記動力源と前記電動モータと前記モータ・ジェネレータと前記第1変速機と前記第2変速機とを構成する各回転要素が、前記回転軸線を中心として回転可能に配置されているとともに、前記動力分配装置の入力要素に前記動力源の出力軸が連結され、前記動力分配装置の反力要素に前記モータ・ジェネレータが連結され、前記第2変速機の出力要素と前記動力分配装置の出力要素とが、被駆動部材に対して並列に動力伝達可能に連結されていることを特徴とするものである。
請求項1の発明によれば、遊星ローラ機構を構成する3つの回転要素同士の間で、トラクション伝動により動力伝達がおこなわれる。また、回転軸線を中心とする半径方向で、コイルの内側に遊星ローラ機構が配置されている。つまり、前記回転軸線に沿った方向で、前記コイルが配置された空間(領域・スペース)と、前記遊星ローラ機構が配置された空間(領域・スペース)とが重なる。したがって、前記遊星ローラ機構を配置する占有スペースを狭めることができ、変速機構の小型化が可能となる。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、遊星ローラ機構から出力された動力を変速機に伝達可能である。また、前記遊星ローラ機構および前記変速機および前記電動モータを構成する部品同士が一体化されている。したがって、回転軸線方向において一層小型化しやすくなる。
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、前記出力軸に加わるスラスト荷重が、スラスト軸受を経由して前記サンローラに伝達される。このサンローラは、回転軸線方向で最も内周側に配置されているため、前記回転軸線を中心とする半径方向で、前記スラスト軸受の半径を小さくすることができる。
請求項4の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、前記キャリヤに加わるラジアル荷重が前記ラジアル軸受により受けられる。したがって、前記キャリヤが高速回転した場合に、前記サンローラと前記ピニオンローラとの間における接触圧力の低下を抑制できる。
請求項5の発明によれば、請求項4の発明と同様の効果を得られる他に、前記回転軸線を中心とする半径方向で、前記円筒部の内側に前記ラジアル軸受が配置されている。したがって、前記回転軸線の半径方向で、前記円筒部と前記キャリヤとの距離を短くすることができ、前記回転軸線の半径方向における前記キャリヤの振動量(ブレ量)を少なくすることができる。
請求項7の発明によれば、回転軸線に沿った方向で、コイルが配置された空間(領域・スペース)と、第1変速機および第2変速機が配置された空間(領域・スペース)とが重なる。したがって、前記第1変速機および第2変速機を配置する占有スペースを狭めることができ、変速機構の小型化が可能となる。
請求項8の発明によれば、請求項7の発明と同様の効果を得られる他に、前記電動モータの動力が、第1変速機を経由して第2変速機に伝達される。
請求項6の発明によれば、請求項2ないし5のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、動力源のトルクを動力分配装置の入力要素に伝達し、モータ・ジェネレータで反力を受けるとともに、このモータ・ジェネレータの回転数を制御することにより、動力分配装置の入力要素と出力要素との変速比を無段階に制御可能である。そして、前記動力源の動力および電動モータの動力を、前記動力分配装置を経由して車輪に伝達することが可能である。
請求項9の発明によれば、請求項7または8の発明と同様の効果を得られる他に、動力源のトルクを動力分配装置の入力要素に伝達し、モータ・ジェネレータで反力を受けるとともに、このモータ・ジェネレータの回転数を制御することにより、動力分配装置の入力要素と出力要素との変速比を無段階に制御可能である。そして、前記動力源の動力および電動モータの動力を、前記動力分配装置を経由して車輪に伝達することが可能である。
この発明における変速機構は、車両、産業機械、運搬機械などに用いることが可能である。また、車両には、乗用車、運搬車、トラック、バスなどが含まれる。また、車両には、単数の動力源が搭載された車両の他に、動力の発生原理が異なる複数種類の動力源を有するハイブリッド車も含まれる。この発明において、電動モータおよび動力源およびモータ・ジェネレータは、被駆動部材に伝達する動力を出力する装置である。変速機構を車両に用いる場合、電動モータおよび動力源の動力が車輪に伝達されるように構成され、電動モータから車輪に至る経路に変速機構が配置される。この発明の変速機構を車両、運搬機械に用いる場合、被駆動部材には車輪が含まれる。また、変速機構から車輪に至る動力伝達経路に配置される動力伝達装置、例えば、変速機、差動装置、歯車、チェーン、プーリ、ベルト、スプロケットなども、被駆動部材に含まれる。この発明の変速機構を産業機械、例えば工作機械に用いる場合、工具や刃物、または加工対象物を保持するチャックが被駆動部材となる。前記電動モータは電気エネルギを運動エネルギに変換する装置である。また、電動モータとして、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることも可能である。
さらに、この発明において電動モータは出力軸が回転運動をおこなう構成である。さらに、前記電動モータは、直流モータまたは交流モータのいずれでもよく、交流モータとしては、例えば、誘導モータ、同期モータ、整流子モータなどが挙げられる。この発明の電動モータは、コイルへの通電によって出力軸が回転するように構成されている。一方、動力源としては、エンジン、フライホイールシステム、油圧モータなどが挙げられる。エンジンは、熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、例えば内燃機関を挙げることができる。内燃機関は、燃料を燃焼させて熱エネルギを発生させる装置であり、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが挙げられる。前記油圧モータは、流体(圧油)のエネルギ(圧力・流量)を、機械的エネルギ(トルク・回転数)に変換する動力装置である。フライホイールシステムは、運動エネルギを蓄積し、かつ、放出する動力装置である。この発明において、第1出力部材および第2入力部材および回転要素は、何れもトルク伝達に関与する部材であり、例えば、ギヤ、ローラ、コネクティングドラム、キャリヤ、プーリ、回転軸などの部品が挙げられる。
また、この発明においては、動力源および電動モータおよびモータ・ジェネレータの各回転要素を、同一の回転軸線を中心として回転可能に配置することができる。また、この発明において「同軸上」とは、同一の回転軸線を中心として回転可能に配置することである。さらに、この発明において回転軸線に沿った方向とは、回転軸線を含む方向、もしくは回転軸線と平行な方向である。さらに、この発明において、回転軸線方向における部品の配置領域が重なる場合、少なくとも一部が重なっていればよい。すなわち、全部でもよいし、一部でもよい。また、この発明における遊星ローラ機構は、差動回転可能な3つの要素を有しており、いずれかの要素が入力要素として機能し、いずれかの要素が反力要素として機能し、いずれかの要素が出力要素として機能する。このような3つの回転要素の差動作用により、入力要素の回転数と、出力要素の回転数とを異ならせることが可能であり、遊星ローラ機構は変速機としての機能を有する。
さらにこの発明は、前記遊星ローラ機構の他に、別の変速機を設けることが可能である。この「別の変速機」には、遊星ローラ機構、歯車変速機構などが含まれる。すなわち、トラクション伝動により動力伝達がおこなわれる変速機、または歯車の噛み合い力により動力が伝達される変速機のいずれでもよい。なお、この発明において、遊星ローラ機構、および「別の変速機」は、入力要素の回転数と、出力要素の回転数とを異ならせることが可能な変速機であり、入力要素と出力要素との回転数の比、すなわち、変速比を変更可能な変速機、または変速比が固定された変速機のいずれでもよい。また、前記遊星ローラ機構が変速比の固定された変速機である場合、その変速比は「1」よりも大きい値、または「1」よりも小さい値のいずれでもよい。前記変速比が「1」よりも大きくなる変速機は減速機であり、変速比が「1」よりも小さくなる変速機は増速機である。
つぎに、変速機構の具体例を図面を参照しながら具体的に説明する。図2は、車両1のパワートレーンの構成例を示すスケルトン図である。図2に示された車両1は、F・F(フロントエンジン・フロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動)形式のハイブリッド車である。図2に示された車両1では、内燃機関の一種であるエンジン2およびモータ・ジェネレータMG1およびモータ・ジェネレータMG2が、動力源として搭載されている。この動力源は、車輪に伝達する動力を出力する動力装置である。前記エンジン2は、燃料を燃焼させてその熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置である。このエンジン2は、吸排気装置、燃料噴射装置などを有する公知のものであり、例えば、電子スロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期などを制御することによりエンジン出力、すなわち、エンジン回転数およびエンジントルクを制御することが可能である。また、モータ・ジェネレータMG1,MG2は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備した回転装置である。
これらの、エンジン2およびモータ・ジェネレータMG1,MG2が動力伝達可能に連結された動力分配装置3が設けられている。前記モータ・ジェネレータMG1,MG2および動力分配装置3は、ケーシングK1の内部に配置されている。このケーシングK1は金属材料、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金などにより構成されている。前記動力分配装置3は、前記エンジン2の動力を、前記モータ・ジェネレータMG1および車輪に分配する装置であり、この動力分配装置3は、シングルピニオン式の遊星歯車機構により構成されている。具体的に説明すると、動力分配装置3は、サンギヤ4と、このサンギヤ4と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ4の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ5と、前記サンギヤ4および前記リングギヤ5に噛合されたピニオンギヤ6と、このピニオンギヤ6を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリヤ7とを有している。このように、3つの回転要素、すなわち、前記サンギヤ4および前記リングギヤ5および前記キャリヤ7が、相互に差動回転可能に構成されている。なお、前記サンギヤ4およびリングギヤ5および前記キャリヤ6は、いずれもはすば歯車により構成されている。
また、前記動力分配装置3の回転要素に対する前記エンジン2および前記モータ・ジェネレータMG1の連結構造を説明する。まず、前記キャリヤ7と、前記エンジン2のクランクシャフト(図示せず)とが動力伝達可能に連結されている。具体的には、前記エンジン2と前記キャリヤ7とが、インプットシャフト8により接続されている。なお、前記エンジン2からインプットシャフト8に至る動力伝達経路には、クラッチ機構が設けられていてもよい。このクラッチ機構には、摩擦式クラッチ、電磁式クラッチ、流体式クラッチなどが含まれる。クラッチ機構として摩擦式クラッチまたは電磁式クラッチを用いる場合、ダンパ機構を併用することも可能である。一方、前記モータ・ジェネレータMG1は、ステータ9およびロータ10を有しており、前記ステータ9がケーシングK1に固定されている。そして、前記ロータ10と前記サンギヤ4とが動力伝達可能に接続されている。この図1および図2の構成例では、前記ロータ10と前記サンギヤ4とが一体回転するように連結されている。
前記図2の要部が図1に示されている。この図1は、前記インプットシャフト8の回転軸線A1に沿った方向、言い換えれば、回転軸線A1と平行な方向における半断面図である。前記ロータ10は前記回転軸線A1を中心とする円周上に配置された円筒部11を有しており、その円筒部11が前記インプットシャフト8の外周側に配置されている。一方、前記ケーシングK1の内周には、前記回転軸線を中心とする半径方向に延ばされた隔壁12が設けられており、この隔壁12の内周に取り付けたラジアル軸受13により、前記円筒部11が回転可能に支持されている。
つぎに、前記モータ・ジェネレータMG2の構成について説明する。前記ケーシングK1には、前記エンジン2から最も離れた箇所にエンドカバー14が取り付けられており、前記ケーシングK1内に設けられた隔壁15とエンドカバー14との間に前記モータ・ジェネレータMG2が配置されている。このモータ・ジェネレータMG2は、ステータ16およびロータ17を有している。まず、ステータ16について説明すると、ステータ16は複数枚を積層した電磁鋼板18と、積層された電磁鋼板18に巻き付けられたコイル19とを有する。そして、電磁鋼板18は、ボルト20を用いて前記ケーシングK1に締め付け固定されている。前記電磁鋼板18は、前記回転軸線A1に沿った方向に積層されている。
一方、前記ロータ17は、前記回転軸線A1を中心として配置された中空軸21と、その中空軸21の外周側に連続して形成された円筒部22と、この円筒部22の外周に取り付けた電磁鋼板23とを有している。また、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記ロータ17は前記ステータ16の内周側に配置されている。また、前記回転軸線A1に沿った方向、もしくは前記回転軸線A1と平行な方向(回転軸線方向)において、前記電磁鋼板23および円筒部22の配置(占有)長さ(配置領域、配置範囲)は、前記回転軸線方向における前記コイル19の内端19A同士の長さ以下に構成されている。さらに、前記モータ・ジェネレータMG2のロータ17はラジアル軸受24により回転可能に支持されており、そのラジアル軸受24の外輪がエンドカバー14により保持されている。
そして、モータ・ジェネレータMG2のロータ17から前記動力分配装置3に至る動力伝達経路には、2組の変速機が直列に配置されている。まず、モータ・ジェネレータMG2から動力分配装置3に至る動力伝達方向で、上流側に配置された変速機について説明する。この変速機として遊星ローラ機構25が設けられている。この遊星ローラ機構25は、同軸上に配置されたサンローラ26およびリングローラ27と、サンローラ26およびリングローラ27に接触するピニオンローラ28を自転・公転可能に支持するキャリヤ29とを有している。前記サンローラ26の外側に前記リングローラ27が配置されている。前記サンローラ26およびリングローラ27およびピニオンローラ28は全て金属材料により構成されている。前記サンローラ26は前記中空軸21と一体化された円筒形状を有している。さらに、リングローラ27は前記サンローラ26の外側に配置されており、前記サンローラ26とリングローラ27との間に前記ピニオンローラ28が配置されている。この遊星ローラ機構25は、リングローラ27が反力要素として機能するとともに、入力要素であるサンローラ26の回転数よりも、出力要素であるキャリヤ29の回転数の方が低速となるように、各ローラの半径比が構成されている。すなわち、遊星ローラ機構25は、変速比が「1」より大となるように固定された減速機として機能する。また、前記キャリヤ29における回転軸線方向の一方の端部は、ラジアル軸受30により支持されている。このラジアル軸受30は、前記円筒部22の内周に取り付けられている。
さらに、前記キャリヤ29の前記軸線方向における他端部は、他のラジアル軸受31により支持されている。このラジアル軸受31は前記隔壁15に取り付けられている。このように、前記回転軸線方向で前記ピニオンローラ28の両側にラジアル軸受30,31が配置されている。さらに、前記リングローラ27は前記隔壁15に対して、ボルト32により締め付け固定されている。このように構成された前記遊星ローラ機構25は、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記コイル19の内側に配置されている。具体的には、前記コイル19における、前記回線軸線A1に沿った方向の一方の端部(コイルエンド部)19Bの内側に、前記遊星ローラ機構25の大半が配置されている。なお、前記遊星ローラ機構25の取付時に、前記リングローラ27を外側に弾性変形させてから、前記ピニオンローラ28の周囲に配置されている。このため、前記リングローラ27の弾性復元力により縮径し、前記ピニオンローラ28の外周面が、前記リングローラ27の内周面および前記サンローラ26の外周面に押し付けられている。そして、前記ピニオンローラ28が、前記リングローラ27および前記サンローラ26に接触する部分にはトラクションオイルが介在されている。
さらに、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記モータ・ジェネレータMG1と前記遊星ローラ機構25との間に、シングルピニオン式の遊星歯車機構33が設けられている。すなわち、モータ・ジェネレータMG2から動力分配装置3に至る動力伝達経路で、前記遊星ローラ機構25よりも下流に、他の変速機である遊星歯車機構33が設けられている。この遊星歯車機構33は、サンギヤ34と、このサンギヤ34と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ34の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、前記サンギヤ34および前記リングギヤ35に噛合されたピニオンギヤ36と、このピニオンギヤ36を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリヤ37とを有している。このように、3つの回転要素、すなわち、前記サンギヤ34および前記リングギヤ35および前記キャリヤ37が、相互に差動回転可能に構成されている。そして、前記キャリヤ37が隔壁15に固定されている。また、遊星歯車機構33は、入力要素であるサンギヤ34の回転数よりも、出力要素であるリングギヤ35の回転数の方が低速となるように、各ギヤの歯数比が構成されている。すなわち、遊星歯車機構33は減速機として機能する。さらに、前記サンギヤ34が前記キャリヤ29と一体回転するように、単一の構成部品(金属材料)により一体成形されている。そして、前記リングギヤ5,35が内周側に形成されたコネクティングドラム38が設けられている。このコネクティングドラム38は、前記回転軸線A1を中心とする円筒形状を有している。そして、このコネクティングドラム38の外周側に、ラジアル軸受40の内輪が取り付けられている。このラジアル軸受40は回転軸線A1に沿った方向で異なる位置に2個設けられており、そのラジアル軸受40の外輪がケーシングK1に取り付けられている。一方のラジアル軸受40は前記動力分配装置3の外側に配置され、他方のラジアル軸受40は遊星歯車機構33の外側に配置されている。
一方、前記インプットシャフト8と同軸上にオイルポンプ駆動シャフト41が設けられており、このインプットシャフト8とオイルポンプ駆動シャフト41とが一体回転するように連結されている。また、エンドカバー14の側面にはオイルポンプカバー42が取り付けられているとともに、エンドカバー14とオイルポンプカバー42との間にオイルポンプ43が設けられている。このオイルポンプ43のロータが、オイルポンプ駆動シャフト41によって回転駆動される構成となっている。前記サンギヤ34および前記ロータ17は、前記オイルポンプ駆動シャフト41の外周に取り付けられている。また、前記回転軸線A1に沿った方向において、前記ロータ17の中空軸21と、前記サンギヤ34とが異なる位置に配置されている。前記サンギヤ34は円筒部材50の外周に設けられており、その円筒部材50および前記中空軸21のうち、略同一円周上に配置されている部分同士の間に、スラスト軸受44が配置されている。すなわち、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記中空軸21と前記円筒部材50との間にスラスト軸受44が配置されている。
以上のように、図2に示された車両1においては、回転軸線A1に沿った方向で、前記エンジン2とモータ・ジェネレータMG2との間に前記動力分配装置3が配置されている。この動力分配装置3と前記エンジン2との間に前記モータ・ジェネレータMG1が配置されている。さらに、前記動力分配装置3とモータ・ジェネレータMG2との間に遊星歯車機構33が配置されている。そして、前記エンジン2および前記モータ・ジェネレータMG1,MG2および動力分配装置3および遊星歯車機構33および遊星ローラ機構25は、全て同軸上に配置されている。さらに、前記コネクティングドラム38から車輪(前輪)45に至る動力伝達経路には歯車伝動装置が設けられている。具体的に説明すると、コネクティングドラム38の外周にはカウンタドライブギヤ46が形成されており、前記インプットシャフト8と平行なカウンタシャフト47が設けられている。このカウンタシャフト47にはカウンタドリブンギヤ48が形成されており、カウンタドライブギヤ46とカウンタドリブンギヤ48とが噛合されている。さらに、前記カウンタシャフト47と前記車輪45との間には終減速機49が設けられている。
一方、前記モータ・ジェネレータMG1,MG2に電力を供給する電力供給装置(図示せず)が設けられている。この電力供給装置としては、二次電池、すなわち、バッテリまたはキャパシタを用いることが可能であり、モータ・ジェネレータMG1,MG2で発生した電力を二次電池に充電することも可能である。さらに、前記電力供給装置として、燃料電池を用いることも可能である。つぎに車両の制御系統について説明すると、コントローラとしての電子制御装置(図示せず)が設けられており、この電子制御装置には、各種のセンサやスイッチなどの検知信号、例えば、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ・ジェネレータMG1,MG2の回転数などが入力される一方、この電子制御装置からは、エンジン2を制御する信号、モータ・ジェネレータMG1,MG2を制御する信号などが出力される。
図2に示す車両1において、エンジン2が運転されて、そのエンジントルクが動力分配装置3のキャリヤ7に入力されるとともに、モータ・ジェネレータMG1でエンジントルクの反力を受け持つ制御が実行される。このモータ・ジェネレータMG1は正回転で回生制御されるか、または逆回転で力行制御されて、エンジントルクの反力を受け持つ。そして、前記動力分配装置3においては、エンジントルクの反力を受け持つモータ・ジェネレータMG1の回転数を制御すると、前記サンギヤ4およびリングギヤ5およびキャリヤ7の差動作用により、エンジン回転数と、出力要素であるリングギヤ5の回転数との比、すなわち変速比を、無段階(連続的)に制御することが可能である。このように、前記動力分配装置3は、電気的制御により変速比を変更可能な電気的無段変速機として機能する。そして、前記コネクティングドラム38に伝達されたトルクが、前記カウンタシャフト47および終減速機49を経由して車輪45に伝達されて駆動力が発生する。
一方、前記エンジン2の運転状態、またはエンジン2の停止状態において、モータ・ジェネレータMG2を電動機として駆動させ、そのトルクを前記車輪45に伝達することも可能である。前記モータ・ジェネレータMG2のトルクが前記遊星ローラ機構25に伝達されると、各ローラにより加圧されたトラクションオイルがガラス遷移化し、トラクション伝動の原理により動力伝達がおこなわれる。具体的には、前記モータ・ジェネレータMG2のトルクが前記サンローラ26に伝達されると、前記リングローラ27が反力要素となり、前記キャリヤ29が出力要素となる。このとき、前記サンローラ26の回転速度よりも前記キャリヤ29の回転速度の方が低速となる。すなわち、前記遊星ローラ機構25が減速機として機能し、伝達トルクが増幅される。なお、前記遊星ローラ機構25における減速比は一定(固定)である。
前記キャリヤ29に伝達されたトルクは、前記遊星歯車機構33の入力要素であるサンギヤ34に伝達される。すると、遊星歯車機構33のキャリヤ37が反力要素となり、前記リングギヤ35からトルクが出力される。この遊星歯車機構33では、前記サンギヤ34の回転速度に対して、前記リングギヤ35の回転速度の方が低速となるように構成されている。すなわち、前記遊星歯車機構33は減速機として機能し、その減速比は一定である。なお、前記車両1を前進させる向きのトルクを発生させる場合は、前記モータ・ジェネレータMG1が逆回転され、前記車両1を後退させる向きのトルクを発生させる場合は、前記モータ・ジェネレータMG2が正回転される。なお、正回転とは、エンジン2の回転方向と同じ回転方向であり、逆回転とは、エンジン2の回転方向とは逆向きの回転方向である。さらに、車両1を後退させる場合は、前記エンジン2は停止され、かつ、前記モータ・ジェネレータMG1は無負荷で正回転(空転)する。以上のように、前記車両1は、エンジン2またはモータ・ジェネレータMG2の動力を車輪45に伝達することの可能なハイブリッド車である。
上記した図1および図2で説明した構成例によれば、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記コイル19のエンド部の内側にあるデッドスペースに前記遊星ローラ機構25が配置されている。つまり、前記回転軸線A1に沿った方向で、コイル19が配置された空間と、前記遊星ローラ機構25が配置された空間とが重なっている。このため、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記遊星ローラ機構25を配置する占有スペースを狭めることができ、変速機構の小型化が可能となる。また、前記遊星ローラ機構25のサンローラ26と、モータ・ジェネレータMG2のロータ17とが一体化され、前記遊星歯車機構33のサンギヤ34と、前記キャリヤ29とが一体化されている。ここで、一体化とは、単一の構成部品により一体成形されているという意味である。したがって、前記回転軸線A1に沿った方向における変速機構の長さを大きくすることなく、モータ・ジェネレータMG2の減速比を大きくすることができる。
さらに、図1で前記ロータ17を右方向に押圧する荷重が発生した場合、その荷重はスラスト軸受44を経由して前記キャリヤ29に伝達され、その荷重が前記ケーシングK1で受け止められる。つまり、前記スラスト軸受44は、前記回転軸線A1に沿った方向で前記ロータ17およびサンローラ26を位置決めする機能と、スラスト荷重を受ける機能とを兼備する。さらに、スラスト軸受44は、半径方向で前記回転軸線A1に近い位置に設けられているため、スラスト軸受44の外径をなるべく小さくすることができる。このため、モータ・ジェネレータMG2のロータ17を支持する軸受を単独で設けずに済み、変速機構の小型化を一層促進できる。なお、前記ロータ17には実質的にスラスト荷重は作用しないため、前記スラスト軸受44は前記ロータ17と前記サンギヤ34との接触時の摩擦力低減に用いる。
さらに、前記キャリヤ29に加わるラジアル荷重は前記ラジアル軸受30,31により受けられる。したがって、前記キャリヤ29が高速回転した場合に、前記サンローラ26と前記ピニオンローラ28との間における接触圧力の低下を抑制できる。さらに、前記キャリヤ29に遠心力が働いた場合でも、高剛性の形状を有する前記ロータ17により、その荷重が受け止められる。さらに、前記ロータ17は、前記回転軸線A1を中心とする円周上に配置された円筒部22を有しており、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記円筒部22の内側に前記ラジアル軸受30が配置されている。したがって、前記回転軸線A1の半径方向で、前記サンローラ26と前記ピニオンローラ28との軸間距離を短くすることができ、前記サンローラ26の半径方向における振動量(ブレ量)を少なくすることができる。
さらに、図1および図2の構成例では、モータ・ジェネレータMG2のトルクを増幅する減速機として遊星ローラ機構25を用いており、噛み合い力により動力伝達をおこなうのではなく、トラクション伝動によって動力伝達をおこなうため、駆動損失を低減でき、かつ、軸方向のスラスト力を発生することもなく、噛み合い振動やノイズも発生しない。特に、モータ・ジェネレータMG2として高回転モーターを使用した場合、高回転領域における動力損失を抑制でき、かつ、ギヤノイズの懸念もない。また、ラジアル軸受30をロータ17の円筒部22の内周に取り付けているため、その円筒部22の内径を変更せずに済む。また、ロータ17を支持するラジアル軸受24,30は、片側のラジアル軸受24がケーシングK1に取り付けられ、片側のラジアル軸受30が遊星ローラ機構25に取り付けられているため、部品点数を低減できる。また軸受の数を低減できるため、軸受の転動部分や摺動部分における動力損失の増加を抑制できる。さらに、図1および図2の構成例では、遊星ローラ機構25で1段階目の減速をおこない、遊星歯車機構33で2段階目の減速をおこなうことができる。すなわち、モータ・ジェネレータMG2のトルクをサンギヤ34に伝達するにあたり、2段階の減速をおこなうことができトルク増幅機能が一層向上している。
さらに、ロータ17と前記サンローラ34とが一体成形されており、遊星ローラ機構25のキャリヤ29がラジアル軸受30を介してロータ17に取り付けられている。このため、変速機構の組み立て工程で、前記ケーシングK1の内部にモータ・ジェネレータMG2および遊星ローラ機構25を配置する前に、モータ・ジェネレータMG2および遊星ローラ機構25をユニット化(アッセンブリ化)することが可能である。したがって、ケーシングK1に対する組付け性が向上する。なお、ラジアル軸受30,31は、玉軸受、ニードル軸受などのいずれでもよい。また、この図1および図2の構成例では、エンジン2およびモータ・ジェネレータMG2のトルクが、前輪に伝達される構成のパワートレーンを有する二輪駆動車が示されているが、エンジン2およびモータ・ジェネレータMG2のトルクが、後輪に伝達される構成のパワートレーンを有する二輪駆動車にも適用可能である。さらに、エンジン2およびモータ・ジェネレータMG2のトルクが、前輪および後輪の両方に伝達される構成のパワートレーンを有する四輪駆動車にも適用可能である。さらに、前記動力分配装置3として、ダブルピニオン式の遊星歯車機構を用いることも可能である。さらに、遊星歯車機構33に代えて、変速比を変更可能な変速機を用いることも可能である。また、遊星ローラ機構25として、変速比を変更可能な変速機を用いてもよい。この場合、遊星ローラ機構の反力要素の回転数を可変とすることにより、その変速比を変更可能であり、その技術は公知である。さらに、回転軸線が車両の幅方向、または前後方向のいずれに配置されている場合でも、図1および図2の変速機構を用いることができる。
つぎに、変速機構の他の構成例を、図3に基づいて説明する。図3の構成例は、車両の車輪72の内側に各々電動モータを配置する構成、いわゆるインホイール形式の電動モータの機構を示す例である。すなわち、各車輪72は、ホイール51の周囲にタイヤ73を取り付けて構成されており、ホイール51毎に、それぞれモータ・ジェネレータMG2が設けられている。なお、図3の構成例において、図1および図2の構成例と同じ構成部分については、図1および図2と同じ符号を付してある。また、モータ・ジェネレータMG2はケーシング52の内部に配置されており、このモータ・ジェネレータMG2のロータ17は、回転軸線A2を中心として回転可能に構成されている。さらに、ステータ16はケーシング52に固定されている。なお、このケーシング52は車体、または車体に取り付けられたブラケット、あるいはフレームなどに固定されている。したがって、ケーシング52は回転しない。また、前記回転軸線A2に沿った方向における異なる位置に、前記コイル19の両端部(コイルエンド部)19B,19Cが配置されている。そして、前記回転軸線A2を中心とする半径方向で、前記コイルエンド部19Bの内側に第1変速機が設けられ、前記コイルエンド部19Cの内側に第2変速機が設けられている。
前記第1変速機は遊星ローラ機構53により構成されている。この遊星ローラ機構53は、前記ケーシング52の内部に配置されており、この遊星ローラ機構53は、サンローラ54と、このサンローラ54の外周側に配置されたリングローラ55と、サンローラ54およびリングローラ55に接触するピニオンローラ56を保持するキャリヤ57とを有している。そして、前記キャリヤ57は前記ケーシング52に固定されており、したがって、キャリヤ57は回転不可能である。この遊星ローラ機構53は、キャリヤ57が反力要素として機能するとともに、入力要素であるサンローラ54の回転数よりも、出力要素であるリングローラ55の回転数の方が低速となるように、各ローラの半径比が構成されている。すなわち、遊星ローラ機構53は、変速比が「1」よりも大となる値に固定された減速機として機能する。さらに、前記リングローラ55と中空軸63とが、コネクティングドラム58により、動力伝達可能に連結されている。すなわち、前記中空軸63と前記リングローラ55とが一体回転するように構成されている。中空軸63はステータ17の内側に配置されており、中空軸63とステータ17とが相対回転可能である。そして、中空軸63とステータ17との間にはニードルベアリング64が設けられている。また、前記ロータ17の軸端部と、前記コネクティングドラム58との間には、スラスト軸受59が設けられている。さらに、前記ケーシング52の軸線方向の端部にはエンドカバー60が取り付けられており、このエンドカバー60と、前記コネクティングドラム58との間にはスラスト軸受61が設けられている。
つぎに、前記第2変速機について説明する。前記回転軸線A2に沿った方向で、前記電磁鋼板23とホイール51との間に、前記第2変速機としての遊星ローラ機構62が設けられている。つまり、前記回転軸線A2に沿った方向で、前記遊星ローラ機構53と前記遊星ローラ機構62との間に、前記電磁鋼板23が積層して配置されている。この遊星ローラ機構62は、前記ケーシング52の内部に配置されており、この遊星ローラ機構62は、サンローラ65と、このサンローラ65の外周側に配置されたリングローラ66と、サンローラ65およびリングローラ66に接触するピニオンローラ67を保持するキャリヤ68とを有している。前記サンローラ65は前記中空軸63の外周に形成されている。前記リングローラ66は前記ケーシング52に固定されており、したがって、リングローラ66は回転不可能である。この遊星ローラ機構62は、リングローラ66が反力要素として機能するとともに、入力要素であるサンローラ65の回転数よりも、出力要素であるキャリヤ68の回転数の方が低速となるように、各ローラの半径比が構成されている。すなわち、遊星ローラ機構62は、変速比が「1」よりも大となる値に固定された減速機として機能する。
さらに、前記キャリヤ68と前記ホイール51とが動力伝達可能に連結されている。このように、前記モータ・ジェネレータMG2および遊星ローラ機構25,26が回転軸線A1を中心として同軸上に配置されている。また、前記ロータ17の軸端部と、前記キャリヤ68との間には、スラスト軸受69が設けられている。さらに、前記ケーシング52の軸線方向の端部における前記ホイール51に近い箇所にはエンドカバー70が取り付けられており、このエンドカバー70と、前記キャリヤ68との間にはスラスト軸受71が設けられている。この図3に示す構成例においても、前述した電力供給装置が、モータ・ジェネレータMG2に接続される。
図3に示す構成例の作用を説明する。前記電力供給装置からモータ・ジェネレータMG2に電力が供給されて、このモータ・ジェネレータMG2が電動機として駆動される。また、前記遊星ローラ機構53,62には、前述したトラクションオイルが供給され、トラクションドライブ(伝動)の原理で動力伝達がおこなわれる。前記モータ・ジェネレータMG2の出力トルクが遊星ローラ機構53のサンローラ54に伝達されると、固定されている前記キャリヤ57が反力要素となり、前記リングローラ55からトルクが出力される。ここで、サンローラ54に対するリングローラ55のトルクの向きは逆であり、サンローラ52の回転数よりもリングローラ55の回転数の方が低くなり、トルクが増幅される。さらに、前記リングローラ55のトルクは中空軸63を経由して、前記遊星ローラ機構62のサンローラ65に入力される。すると、固定されているサンローラ66が反力要素となり、前記キャリヤ68からトルクが出力される。
このとき、サンローラ65およびキャリヤ68のトルクの向きは同じであり、サンローラ65の回転数よりもキャリヤの回転数の方が低くなり、トルクが増幅される。前記キャリヤ68のトルクは前記ホイール51に伝達され、駆動力が発生する。このように、図3の構成例においても、モータ・ジェネレータMG2のトルクを車輪45に伝達する場合、遊星ローラ機構53,62のそれぞれで減速され、合計2段階の減速がおこなわれる。したがって、モータ・ジェネレータMG2を半径方向に小型化できるとともに、モータ・ジェネレータMG2を高回転化できる。この図3の構成例においても、前記回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記コイルエンド部19Bの内側に遊星ローラ機構53が配置され、かつ、前記コイルエンド部19Cの内側に遊星ローラ機構62が配置されている。また、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記コイルエンド部19Bの配置領域と、遊星ローラ機構53の配置領域とが重なるとともに、前記コイルエンド部19Cの配置領域と、遊星ローラ機構62の配置領域とが重なっている。したがって、前記回転軸線A1に沿った方向で部品の配置スペースが狭められ、変速機構の小型化を図ることができる。
また、図3に示す構成例では、遊星ローラ機構53,62を用いているため、はすば歯車を用いた減速機に比べて、各回転要素で発生するスラスト荷重は低く、前記スラスト軸受59,61,71の小型化を図ることができる。また、スラスト軸受に代えて滑り軸受を用いることもでき、変速機構を回転軸線A1に沿った方向に一層小型化できる。また、前記中空軸63を前記軸線方向の一方でニードルベアリング64で支持し、前記軸線方向の他方でスラスト軸受59,61で支持している。すなわち、ニードルベアリング64は中空軸63の内側に配置できるため、回転軸線A1に沿った方向に一層小型化できる。なお、図3に示された構成は、左右の前輪および左右の後輪に各々設けることが可能である。すなわち、図3に示された構成例では、車輪72に動力を伝達する駆動力源としてモータ・ジェネレータMG2が設けられている。つまり、エンジンが駆動力源として設けられていない電気自動車に用いることが可能である。
なお、前輪に図2に示す構成例を用い、後輪に図3に示す構成例を用いて、ハイブリッド車とすることも可能である。この遊星ローラ機構53は、キャリヤ57が反力要素として機能するとともに入力要素であるサンローラ54の回転数よりも、出力要素であるリングローラ55の回転数の方が低速となるように、各ローラの半径比が構成されている。すなわち、遊星ローラ機構53は、変速比が「1」よりも大となる値に固定された減速機として機能する。なお、遊星ローラ機構53,62として、変速比を変更可能な変速機を用いてもよい。この場合、遊星ローラ機構の反力要素の回転数を可変とすることにより、その変速比を変更可能であり、その技術は公知である。さらに、図3の構成例において、第2の変速機としては、遊星ローラ機構62に代えて、遊星歯車式の変速機を用いることも可能である。この場合も、変速比は固定または可変のいずれでもよいし、増速機または減速機のいずれでもよい。
また、図2に示された変速機構に代えて、図3に示された変速機構を用い、図4に示すパワートレーンを構成することも可能である。具体的には、図3に示されたキャリヤ68を、前記コネクティングドラム38に動力伝達可能に連結する構成である。この図4の構成例は、エンジン2の動力、およびモータ・ジェネレータMG2の動力を、前記車輪45に伝達可能なハイブリッド車のパワートレーンを形成するものである。この図4の場合、前記モータ・ジェネレータMG2のステータ16、前記リングローラ66、前記キャリヤ57は、前記ケーシングK1に固定される。また、前記ロータ17および前記中空軸63が、前記インプットシャフト8に対して同軸上に配置される。さらに、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記ケーシングK1のエンドカバー14と、前記動力分配装置3との間に前記モータ・ジェネレータMG2が配置される。そして、図4に示されたモータ・ジェネレータMG2を電動機として駆動すると、そのトルクが前記遊星ローラ機構53および遊星ローラ機構62を経由して、前記コネクティングドラム38に伝達される。また、この図4において、図2と同様の構成部分については、図2と同様の作用効果を得られ、図3と同様の構成部分については、図3と同様の作用効果を得られる。なお、遊星ローラ機構53,62として、変速比を変更可能な変速機を用いてもよい。この場合、遊星ローラ機構の反力要素の回転数を可変とすることにより、その変速比を変更可能であり、その技術は公知である。さらに、図4の構成例において、第2の変速機としては、遊星ローラ機構53,62に代えて、遊星歯車式の変速機を用いることも可能である。この場合も、変速比は固定または可変のいずれでもよいし、増速機または減速機のいずれでもよい。
つぎに、変速機構の他の構成例を、図5に基づいて説明する。この図5に示す構成例は、基本的な構成は図3に示された構成と同じであるが、第2減速機の出力側に終減速機74が連結されている点が、図3の構成と相違する。終減速機74は、前記ケーシングK2の内部に配置されたデフケース75を有しており、そのデフケース75が、前記回転軸線A2を中心として回転可能に設けられている。そして、このデフケース75に前記キャリヤ68が動力伝達可能に連結されている。このデフケース75は、前記回転軸線A2に沿った方向で、前記遊星ローラ機構62とエンドカバー70との間に配置されている。また、デフケース75の内部には、ピニオンシャフト(図示せず)に支持されたピニオンギヤ(図示せず)、このピニオンギヤに噛合されたサイドギヤ(図示せず)が設けられており、このサイドギヤにアクスルシャフト76が動力伝達可能に連結されている。前記アクスルシャフト76は2本設けられており、1本のアクスルシャフト76は中空軸63内に配置されている。
そして、前記ケーシング52にはラジアル軸受77,78が設けられており、このラジアル軸受77により前記デフケース76が保持されており、前記ラジアル軸受78により、片方のアクスルシャフト76が保持されている。2本のアクスルシャフト76は、共に前記回転軸線A2を中心として回転可能である。この図5の構成例の配置レイアウトとしては、前記アクスルシャフト76を左右の前輪、または左右の後輪に連結することが可能である。この場合、前記回転軸線A2は車両の左右方向(幅方向)に沿って配置される。また他のレイアウトとしては、前記回転軸線A2を車両の前後方向に沿って配置し、一方のアクスルシャフト76を、フロントデファレンシャル(図示せず)を経由させて後輪に動力伝達可能に連結し、他方のアクスルシャフト76を、リヤデファレンシャル(図示せず)を経由させて後輪に動力伝達可能に連結する構成も可能である。この図5の構成例においては、図3の構成例と同様に、前記モータ・ジェネレータMG2のトルクが前記遊星ローラ機構62のキャリヤ68に伝達され、そのトルクが終減速機74を経由してアクスルシャフト76に伝達される。この図5の構成例においても、図3の構成と同様の構成部分については、図3の構成例と同様の効果を得られる。また、図5の構成例において、遊星ローラ機構53,62として、変速比を変更可能な変速機を用いてもよい。この場合、遊星ローラ機構の反力要素の回転数を可変とすることにより、その変速比を変更可能であり、その技術は公知である。さらに、図5の構成例において、第2の変速機としては、遊星ローラ機構53,62に代えて、遊星歯車式の変速機を用いることも可能である。この場合も、変速比は固定または可変のいずれでもよいし、増速機または減速機のいずれでもよい。
ここで、各図に示された構成例と、この発明との関係を説明すると、図1および図2の構成例は、請求項1ないし6の発明に対応する実施例である。また、図3の構成例は、請求項1および請求項2および請求項7および請求項8に対応する実施例であり、図4の構成例は、請求項1および請求項2および請求項7および請求項8および請求項9に対応する実施例であり、図5の構成例は、請求項1および請求項2および請求項7および請求項8に対応する実施例である。そして、前記図1および図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、モータ・ジェネレータMG2が、この発明の電動モータに相当し、遊星ローラ機構25が、この発明の第1変速機に相当し、遊星歯車機構33が、この発明の別の変速機に相当し、遊星ローラ機構53が、この発明の第1変速機に相当し、遊星ローラ機構62が、この発明の第2変速機に相当する。
また、サンローラ26とリングローラ27とキャリヤ29、およびサンローラ54とリングローラ55とキャリヤ57が、この発明における「第1変速機が有する3つの回転要素」に相当し、サンローラ65とリングローラ66とキャリヤ68が、この発明における「第2変速機が有する3つの回転要素」に相当し、スラスト軸受44が、この発明の荷重伝達機構およびスラスト軸受に相当し、ラジアル軸受30,31が、この発明のラジアル軸受に相当し、円筒部22が、この発明の円筒部に相当する。また、エンジン2が、この発明の動力源に相当し、モータ・ジェネレータMG1が、この発明のモータ・ジェネレータに相当し、コイルエンド部19Bが、この発明における「一方のコイルエンド部である一端部」または「一端部のコイルエンド部」に相当し、コイルエンド部19Cが、この発明における「他方のコイルエンド部である他端部」または「他端部であるコイルエンド部」に相当し、キャリヤ7が、この発明における動力分配装置の入力要素に相当し、サンギヤ4が、この発明における動力分配装置の反力要素に相当し、リングギヤ5が、この発明における動力分配装置の出力要素に相当し、車輪45が、この発明の被駆動部材に相当する。また、図3の構成例では、リングローラ55が、この発明における第1変速機の出力要素に相当し、サンローラ65が、この発明における第2変速機の入力要素に相当する。また、図4の構成例では、前記コネクティングドラム38および前記車輪45および前記終減速機49が、この発明の被駆動部材に相当する。
1…車両、 2…エンジン、 3…動力分配装置、 7,29,57,68…キャリヤ、 4,34…サンギヤ、 5,35…リングギヤ、 17…ロータ、 19…コイル、 19B,19C…コイルエンド部、 22…円筒部、 25,53,62…遊星ローラ機構、 26,54,65…サンローラ、 27,55,66…リングローラ、 28,56,67…ピニオンローラ、 33…遊星歯車機構、 30,31…ラジアル軸受、 38…コネクティングドラム、 44…スラスト軸受、 45…車輪、 49…終減速機、 A1,A2…回転軸線、 MG1,MG2…モータ・ジェネレータ。