この発明において、エンジンは燃料を燃焼させた場合の熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であって、エンジンとしては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることが可能である。この発明において、電動機は、電気エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置であり、直流電動機、または交流電動機のいずれでもよい。また、電動機としては、電動機としての機能(力行機能)と発電機としての機能(回生機能)とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることも可能である。この発明において、被駆動部材とは、入力されるトルクにより、回転運動、往復運動、直線運動などの動作をおこなう駆動力を発生する機構である。この発明は、乗用車、運搬車、工作機械などに用いることが可能であり、この発明を車両に用いる場合、シャフト、ギヤ、車輪などの回転要素が被駆動部材に相当する。
この発明を車両に用いる場合、エンジンおよび電動機のトルクが、前輪または後輪の何れか一方に伝達される構成のパワートレーンを有する車両、すなわち、二輪駆動車でもよい。また、動力源の動力が、前輪および後輪の両方に伝達される構成のパワートレーンを有する車両、すなわち、四輪駆動車でもよい。さらに、この発明を工作機械に用いる場合、工作物を切削する刃物、工作物を保持するチャックなどが、前記被駆動部材に相当する。また、この発明における減速機は、電動機のトルクをセカンダリプーリに伝達する場合、電動機の回転速度よりもセカンダリプーリの回転速度の方が低速となる。すなわち、電動機の回転速度とセカンダリプーリの回転速度との間における変速比が、「1」よりも大きくなるように構成されている。また、この発明における減速機は、前記変速比が固定されている構成、または変速比を変更可能な構成のいずれでもよい。さらに、この発明において、回転軸線に沿った方向で各構成同士の配置領域が重なる場合、少なくとも一部が重なっている場合、全部が重なっている場合のいずれでもよい。この発明において、回転要素および第1の要素ないし第3の要素は、トルク伝達をおこなうための機構であり、例えば、ギヤ、ローラ、プーリ、コネクティングドラム、キャリヤ、シャフトなどが含まれる。また、差動回転可能な第1の要素ないし第3の要素を、噛み合い力によりに動力伝達をおこなう歯車伝動装置、作動油のせん断力で動力伝達をおこなうトラクション伝動装置で構成することも可能である。歯車伝動装置としては、遊星歯車機構を用いることが可能であり、トラクション伝動装置としては、遊星ローラ機構を用いることが可能である。
つぎに、この発明のハイブリッド駆動装置を図面に基づいて説明する。図1は、この発明を車両1に用いた場合の具体例を示すスケルトン図である。図1において、まず、車両1の駆動力源としてのエンジン2が設けられており、このエンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられる。このエンジン2は、燃料を燃焼させてその熱エネルギをクランクシャフト3の運動エネルギとして出力する動力装置である。このエンジン2の出力軸であるクランクシャフトは、車両1の幅方向(左右方向)に配置されている。このクランクシャフトの回転軸線A1は、略水平に配置されている。また前記エンジン2の出力側には、トランスアクスル4が設けられている。このトランスアクスル4は、ケーシング5の内部に、流体伝動装置6および前後進切換装置7およびベルト式無段変速機8およびデファレンシャル9を組み込んだユニットである。また、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記エンジン2とベルト式無段変速機8のプライマリプーリ(後述)との間に前後進切換装置7が配置されており、その前後進切換装置7とエンジン2との間に流体伝動装置6が設けられている。前記トランスアクスル4の外殻を構成するケーシング5は、トランスアクスルハウジング10とトランスアクスルケース11とリヤケース12とリヤカバー13とを有している。
前記トランスアクスルハウジング12が前記エンジン2の外壁に取り付けられている。また、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記エンジン2と前記トランスアクスルケース11との間に前記トランスアクスルハウジング10が配置されている。さらに、前記トランスアクスルハウジング10とトランスアクスルケース11とが固定部材、例えばボルトまたはナットなどにより締め付け固定されている。また、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記トランスアクスルハウジング10と前記リヤケース12との間に前記トランスアクスルケース11が配置されており、トランスアクスルケース11とリヤケース12とが固定部材、例えばボルトまたはナットなどにより締め付け固定されている。さらに、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記トランスアクスルケース11と前記リヤカバー13との間に前記リヤケース12が配置されており、リヤカバー13とリヤケース12とが固定部材、例えばボルトまたはナットなどにより締め付け固定されている。前記リヤケース12およびトランスアクスルケース11は筒形状に構成されており、前記リヤカバー13は皿形状に構成されている。
上記トランスアクスルハウジング10、トランスアクスルケース11、リヤケース12、リヤカバー13を構成する金属材料としては、例えば、鋳鉄、アルミニウム、アルミニウム合金などを選択することができる。前記トランスアクスルハウジング10の内部には、流体伝動装置6が設けられており、前記トランスアクスルケース11の内部に前後進切換装置7が設けられている。さらに、前記トランスアクスルケース11および前記リヤケース12内部に亘り、前記ベルト式無段変速機8が設けられている。また、前記トランスアクスルハウジング10およびトランスアクスルケース11の内部に亘り、前記デファレンシャル9が設けられている。まず、流体伝動装置6の構成について説明すると、この実施例ではトルクコンバータが用いられており、以下、流体伝動装置6を便宜上トルクコンバータ6と記す。このトルクコンバータ6はポンプインペラ14およびタービンランナ15を有する。また、前記ポンプインペラ14にはフロントカバー16が一体回転するように連結されており、そのフロントカバー16と前記クランクシャフト3とがトルク伝達可能に連結されている。前記タービンランナ15とポンプインペラ14とは対向して配置され、タービンランナ15およびポンプインペラ14の内側にはステータ17が設けられている。このステータ17は、一方向クラッチ18を介してトランスアクスルハウジング10に固定されている。前記タービンランナ15はインプットシャフト19と一体回転するように連結されており、そのインプットシャフト19とフロントカバー16とを動力伝達可能に接続するロックアップクラッチ20が設けられている。
前記インプットシャフト19の回転軸線A1は前記クランクシャフト3の回転軸線A1と共通しており、そのインプットシャフト19が前記前後進切換装置7とトルク伝達可能に連結されている。この前後進切換装置7の構成を具体的に説明すると、前後進切換装置7は、ダブルピニオン形式の遊星歯車機構を有している。この遊星歯車機構は、前記インプットシャフト19と一体回転するサンギヤ21と、このサンギヤ21の外周側に、サンギヤ21と同軸上に配置されたリングギヤ22と、前記サンギヤ21に噛み合わされたピニオンギヤ23と、このピニオンギヤ23およびリングギヤ22に噛み合わされたピニオンギヤ24と、ピニオンギヤ23,24を自転可能に、かつ、公転可能な状態で保持したキャリヤ25とを有している。そして、このキャリヤ25と、ベルト式無段変速機8のプライマリシャフト(後述する)とが連結されている。
また、前後進切換装置7は、出力要素であるキャリヤ25の回転方向を正逆に切り替える切替機構を有している。この実施例では、切替機構として摩擦係合装置、具体的には、フォワードクラッチ26およびリバースブレーキ27を用いている。このフォワードクラッチ26は、前記インプットシャフト19と前記キャリヤ26とを選択的に連結・解放するものであり、油圧式クラッチ、電磁式クラッチなどを用いることが可能である。さらに、リバースブレーキ27は、前記リングリヤ22に制動力を与えてそのリングギヤ22を停止させることができる。このリバースブレーキ27としては油圧式ブレーキ、電磁式ブレーキなどを用いることが可能である。
つぎに、前記ベルト式無段変速機8の構成を説明する。このベルト式無段変速機8はプライマリシャフト29およびセカンダリシャフト30を有しており、前記プライマリシャフト29の回転軸線A1は、前記インプットシャフト19の回転軸線A1と共通である。また、前記セカンダリシャフト30の回転軸線B1とプライマリシャフト29の回転軸線A1とが平行に配置されている。さらに、前記プライマリシャフト29は前記キャリヤ25と一体回転するように連結されている。また、前記プライマリシャフト29と一体回転するプライマリプーリ31が設けられており、前記セカンダリシャフト30と一体回転するセカンダリプーリ32が設けられている。図2に示すように、前記プライマリプーリ31は、プライマリシャフト29の外周に形成された固定片33と、プライマリシャフト29の軸線方向に移動できるように構成された可動片34とを有している。そして、固定片33と可動片34との間にV字形状の溝35が形成されている。
また、前記プライマリシャフト29は、2個の軸受37,136により支持されており、一方の軸受136の外輪は前記リヤケース12に取り付けられており、他方の軸受37の外輪は前記トランスアクスルケース11に取り付けられている。そして、前記回転軸線A1に沿った方向で、2個の軸受136,37の間に前記プライマリプーリ31が配置されている。また、前記回転軸線A1に沿った方向で、前後進切換装置7と可動片31との間に前記固定片33が配置されている。つぎに、プライマリプーリ31の溝35の幅を制御する機構について説明すると、前記プライマリシャフト31と一体回転するプライマリシリンダ36が設けられており、そのプライマリシリンダ36は環状に構成されている。このプライマリシリンダ36は、円筒部37と、その円筒部37の一端に連続されたS字形状の屈曲部38と、その屈曲部38の内側に連続されたテーパ部39とを有している。前記円筒部37は回転軸線A1に沿った方向に延ばされており、屈曲部38は円筒部37よりも小径となるように半径方向に延ばされている。また、テーパ部39は、リヤカバー13に近づくことに伴い外径が小さくなる方向に縮径されており、テーパ部39の内周端が、前記プライマリシャフト29の外周に固定されている。そして、前記円筒部37内に可動片34が配置されており、そのプライマリシリンダ36と可動片34との間にプライマリ油圧室40が形成されている。このプライマリ油圧室40の油圧に基づいて、前記可動片34に回転軸線A1に沿った方向の推力が与えられる構成となっている。
一方、前記セカンダリシャフト30は、2個の軸受41,42により支持されており、一方の軸受41の外輪は前記リヤケース12に取り付けられており、他方の軸受42の外輪は前記トランスアクスルハウジング10に取り付けられている。そして、前記回転軸線B1に沿った方向で、2個の軸受41,42の間に前記セカンダリプーリ32が配置されている。このセカンダリプーリ32は、セカンダリシャフト30の外周に形成された固定片43と、セカンダリシャフト30の回転軸線B1に沿った方向に移動できるように構成された可動片44とを有している。また、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記軸受41と前記可動片44との間に前記固定片43が配置されている。そして、固定片34と可動片44との間にV字形状の溝45が形成されている。このように構成されたプライマリプーリ31およびセカンダリプーリ32に、無端状のベルト46が巻き掛けられている。つぎに、前記セカンダリプーリ32の溝45の幅を制御する機構について説明すると、前記セカンダリシャフト30と一体回転するセカンダリシリンダ47が設けられており、そのセカンダリシリンダ47は環状に構成されている。また、セカンダリシリンダ47と可動片44との間にセカンダリ油圧室48が形成されており、そのセカンダリ油圧室48の油圧に基づいて、前記可動片44に回転軸線B1に沿った方向の推力が与えられる構成となっている。
さらに前記セカンダリシャフト30における一方の端部、具体的には前記トランスアクスルハウジング10内に配置された個所の端部には、カウンタドライブギヤ49が設けられている。さらに、前記トランスアクスルハウジング10およびトランスアクスルケース11の内部に亘ってカウンタシャフト50が配置されており、そのカウンタシャフト50の回転軸線C1は、前記回転軸線B1と平行に配置されている。このカウンタシャフト50にはカウンタドリブンギヤ51およびファイナルドライブギヤ52が設けられており、前記カウンタドリブンギヤ51と前記カウンタドライブギヤ49とが噛合されている。また、前記デファレンシャル9はデフケース53を有しており、そのデフケース53にはリングギヤ54が形成されている。このリングギヤ54と前記ファイナルドライブギヤ52とが噛合されている。また、デフケース53に設けられたドライブシャフト55に車輪56がトルク伝達可能に取り付けられている。
つぎに、前記ケーシング5内に設けられている電動機について説明する。前記リヤケース12および前記リヤカバー13の内部に亘って電動機、具体的には、モータ・ジェネレータ57が設けられている。このモータ・ジェネレータ57は、電力装置、例えば、蓄電装置または燃料電池などに接続されている。蓄電装置としては二次電池、例えばバッテリまたはキャパシタを用いることができる。前記モータ・ジェネレータ57は前記リヤケース12に固定されたステータ58と、前記回転軸線B1を中心とする半径方向で、前記ステータ58の内側に設けられたロータ59とを有している。また、ステータ58は、前記回転軸線B1に沿った方向に積層された複数の電磁鋼板60に電磁コイル61を巻き付けて構成されており、前記回転軸線B1に沿った方向における両端に電磁コイル61の一部(コイルエンド部)が位置している。そして、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記モータ・ジェネレータ57の配置領域の一部と、前記プライマリシャフト29の配置領域の一部とが重なっている。
具体的には、図2に示すように、前記ステータ58の配置領域と、前記プライマリシャフト29の配置領域とが、前記回転軸線A1に沿った方向における領域D1内で重なっている。また、前記プライマリシャフト29の回転軸線A1を中心とする半径方向で、前記プライマリプーリ34の配置領域と、前記モータ・ジェネレータ57の配置領域とが領域E1で重なっている。前記ロータ59は、シャフト62と、シャフト62の外周に形成された外向きフランジ63と、外向きフランジ63の外周縁に連続された円筒部64と、円筒部64の外側に取り付けられた電磁鋼板65とを有している。この電磁鋼板65は前記回転軸線B1に沿った方向に積層されている。なお、前記回転軸線B1に沿った方向で、電磁鋼板60の積層厚さと、電磁鋼板65の積層厚さは同じである。
つぎに、前記モータ・ジェネレータ57と前記車輪56との間におけるトルク伝達経路の構成を説明する。前記シャフト62と前記円筒部64との間に、前記回転軸線B1を中心とする環状の空間が形成されており、この空間に減速機66が設けられている。この減速機66は、前記モータ・ジェネレータ57のロータ59と前記セカンダリシャフト30とをトルク伝達可能に連結する機構である。この実施例では減速機66として、噛み合い力により動力伝達をおこなう伝動装置である歯車伝動装置、具体的には、ダブルピニオン式の遊星歯車機構が用いられている。この減速機66は、前記シャフト62と一体回転するサンギヤ67と、このサンギヤ67の外周側に、サンギヤ67と同軸上に配置されたリングギヤ68と、前記サンギヤ67に噛み合わされたピニオンギヤ69と、このピニオンギヤ69およびリングギヤ68に噛み合わされたピニオンギヤ70と、ピニオンギヤ69,70を自転可能に、かつ、公転可能な状態で保持したキャリヤ71とを有している。そして、前記リングギヤ68が前記セカンダリシャフト30と一体回転するように連結されている。具体的には、前記リングギヤ68と前記セカンダリシャフト30とがスプライン嵌合されている。
また、前記キャリヤ71は前記リヤケース12に固定されて回転不可能に構成されている。具体的には、キャリヤ71は環状に構成された第1構成片72および第2構成片73を有しており、その第1構成片72および第2構成片73がピニオンピン71Aにより連結されている。そして、第1構成片72は回転軸線B1に沿った方向の断面形状が略クランク形状に構成されており、前記リングギヤ68の外周側を取り囲むように配置されており、その第1構成片72の外周端が、ボルト74により締め付け固定されている。また、このボルト74の雄ねじ部がねじ込まれる雌ねじ部を有するストッパプレート75が設けられており、このストッパプレート75により、前記軸受41が位置決め固定されている。具体的には、前記ストッパプレート75と前記リヤケース12の隔壁76とにより、前記軸受41が挟み付けられて、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記軸受41が位置決め固定されている。さらにまた、前記第2構成片73は、前記回転軸線B1に沿った方向の断面形状がL字形状に構成されており、第2構成片73の内周面と、前記シャフト62の外周面との間に、ニードル軸受77が配置されている。
このように構成された減速機66は、前記回転軸線B1を中心とする半径方向で、前記円筒部64の内側に配置されている。したがって、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記減速機66の配置領域の一部と、前記モータ・ジェネレータ57の配置領域の一部とが重なっている。さらに、前記ロータ59は、前記リヤカバー13に取り付けられた軸受78により回転可能に支持されている。さらにまた、前記セカンダリシャフト30には軸孔79が形成されており、前記シャフト62の一方の端部が前記軸孔79内に配置されている。また、前記シャフト79の外周面と、セカンダリシャフト30の軸孔79の内周面との間にはシール80が介在されている。そして、前記リヤケース12にリヤカバー13を取り付けて、前記ステータ58と前記ロータ59とを前記回転軸線B1に沿った方向に位置決めするとともに、前記セカンダリシャフト30と前記ロータ59とを回転軸線方向B1に位置決めした状態、すなわち、トランスアクスル4の組み立て状態において、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記ステータ58の電磁鋼板60とロータ59の電磁鋼板65とのオーバーラップ長さL1よりも、前記ニードル軸受77の端部から前記シャフト62の先端までの長さL2の方が長くなるように、前記シャフト62の長さ、前記回転軸線B1に沿った方向における前記ステータ60の固定位置および前記ニードル軸受77の取付位置などが決定されている。
つぎに、前記トルクコンバータ6および前記前後進切換装置7および前記ベルト式無段変速機8にオイル(圧油・作動油)を供給する油圧制御装置について説明する。まず、前記ポンプインペラ14に伝達されたトルクにより駆動されるオイルポンプ81が設けられており、前記ケーシング5に溜められているオイルがオイルポンプ81に吸入される。そして、オイルポンプ81から吐出されたオイルが、油圧制御回路(図示せず)を経由して上記の各機構に供給されるように構成されている。また、油圧制御回路には圧力制御弁、流量制御弁などが設けられており、各機構に供給されるオイル量および油圧を制御することが可能に構成されている。さらに、前記エンジン2および前後進切換装置7および前記ベルト式無段変速機8およびロックアップクラッチ20を制御する電子制御装置(図示せず)が設けられており、この電子制御装置に入力される信号および電子制御装置に記憶されているデータに基づいて、各種の制御信号が出力される。
つぎに、図1に示すパワートレーンの動作を説明する。例えば、車速およびアクセル開度などのパラメータに基づいて、エンジン2およびモータ・ジェネレータ57の駆動・停止が制御される。そして、前記エンジン2が運転された場合、そのトルクが前記フロントカバー16に伝達される。一方、前記ロックアップクラッチ20を制御するマップに基づいて、前記ロックアップクラッチ20が制御される。前記ロックアップクラッチ20が解放された場合は、前記ポンプインペラ14と前記タービンランナ15との間で、作動油の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。このように、ロックアップクラッチ20が解放されている場合は、前記ポンプインペラ14とタービンランナ15との間の速度比が所定値以下である場合は、ステータ18の働きによりトルク増幅がおこなわれる。これに対して、ロックアップクラッチ20が係合された場合は、前記フロントカバー16と前記インプットシャフト19との間で摩擦力により動力伝達がおこなわれる。このようにして、エンジントルクがインプットシャフト19に伝達される。
つぎに、前後進切換装置7の制御について説明する。シフトポジションとして前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ26が係合され、かつ、リバースブレーキ27が解放されて、インプットシャフト19とプライマリシャフト29とが直結状態になる。この状態においては、エンジントルクがインプットシャフト19に伝達されると、前記インプットシャフト19および前記キャリヤ25および前記プライマリシャフト29が一体回転する。このプライマリシャフト29に伝達されたトルクは、前記ベルト46を経由してセカンダリプーリ32に伝達される。このセカンダリプーリ32に伝達されたトルクは、カウンタドライブギヤ49およびカウンタドリブンギヤ51を経由してカウンタシャフト50に伝達される。このカウンタシャフト50に伝達されたトルクは、ファイナルドライブギヤ52およびリングギヤ54を経由してデフケース53に伝達される。デフケース53が回転すると、そのトルクがドライブシャフト55を経由して車輪56に伝達され、駆動力が発生する。これに対して、後進ポジションが選択された場合はフォワードクラッチ26が解放され、かつ、リバースブレーキ27が係合されて、リングギヤ22が固定される。すると、このリングギヤ22が反力要素となり、前記インプットシャフト19の回転にともなって、前記キャリヤ25がインプットシャフト19の回転方向とは逆の方向に回転する。
また、ベルト式無段変速機8の変速比は、車速およびアクセル開度などの条件から判断される車両1の駆動力要求、および電子制御装置に記憶されているデータに基づいて制御される。例えば、前記駆動力要求に基づいて、要求エンジン出力が求められ、その要求エンジン出力を最適燃費で達成するように、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、前記ベルト式無段変速機8の変速比が制御される。具体的には、プライマリ油圧室40の油圧を制御することにより、プライマリプーリ31の溝幅が調整される。その結果、プライマリプーリ31におけるベルト46の巻き掛け半径が変化し、ベルト式無段変速機8のプライマリシャフト29の回転速度と、セカンダリシャフト30の回転速度との比、すなわち変速比が無段階(連続的)に制御される。さらに、セカンダリ油圧室48の油圧を制御することにより、セカンダリプーリ32の溝幅が変化する。つまり、ベルト46に対するセカンダリプーリ32の挟圧力(言い換えれば挟持力)が制御され、伝達トルクが制御される。
また、前述のように、モータ・ジェネレータ57を電動機として駆動させ、そのモータ・ジェネレータ57の出力トルクを減速機66に伝達することも可能である。この場合、前記減速機66ではキャリヤ71が固定されているため、そのキャリヤ71が反力要素として機能し、サンギヤ67のトルクが前記リングギヤ68および前記セカンダリプーリ32に伝達される。このように、前記モータ・ジェネレータのトルク57を前記セカンダリプーリ32に伝達する場合、前記減速機66の入力要素であるサンギヤ67の回転速度よりも、出力要素であるリングギヤ68の回転速度の方が低速となるため、伝達トルクが増幅される。したがって、前記車輪56に伝達するトルクを十分に高めることができる。また、この実施例においては、前記減速機66では変速比が固定である。また、前記エンジントルクおよびモータ・ジェネレータ57のトルクの両方を前記車輪56に伝達する制御、または、エンジントルクまたはモータ・ジェネレータ57のトルクの何れか一方を車輪56に伝達する制御を実行可能である。なお、前記モータ・ジェネレータ57のトルクを車輪56に伝達し、エンジントルクを前記車輪56に伝達しない場合(EV走行時)、前記フォワードクラッチ26およびリバースブレーキ27を共に解放することが可能である。
一方、車両1の惰力走行時には、前後進切換装置7のフォワードクラッチ26およびリバースブレーキ27を共に解放するとともに、前記車両1の運動エネルギを前記セカンダリシャフト30から前記減速機66を経由させてモータ・ジェネレータ57に伝達し、そのモータ・ジェネレータ57で発電をおこなう制御、つまり回生制御を実行し、発生した電力を蓄電装置に充電可能である。このように、前記EV走行時、またはモータ・ジェネレータ57による回生制御の実行時に、前記フォワードクラッチ26およびリバースブレーキ27を共に解放することにより、前記エンジン2とインプットシャフト19との間で動力伝達不可能となる。したがって、エンジン2の慣性質量による引き摺りトルクの発生を防止できる。また、ベルト式無段変速機8の伝達トルクを高めずに済み、プライマリ油圧室40およびセカンダリ油圧室48に供給するオイルを吐出する電動オイルポンプが不要であり、オイルポンプ損失およびベルト損失も低減できる。
また、この実施例では、前記モータ・ジェネレータ57のトルクを前記セカンダリプーリ32に伝達する経路に減速機66が設けられており、前記モータ・ジェネレータ57から前記セカンダリプーリ32に伝達されるトルクを前記減速機66で増幅することができる。したがって、前記モータ・ジェネレータ57を高回転数・低トルク特性のものとすることができ、前記モータ・ジェネレータ57の体格を小型化し、モータ損失を低減できる。また、前記モータ・ジェネレータ57を小型化できることで、前記回転軸線B1に沿った方向におけるケーシング5の全長を短縮することができる。したがって、車体側に設けられたフロントサイドメンバ(図示せず)または車輪56に対して、前記ケーシング5が接触することを回避でき、車両搭載性の悪化を抑制できる。さらに、前記モータ・ジェネレータ57のロータ59とセカンダリプーリ32とを同軸上に配置するため、前記回転軸線B1を中心とする半径方向の部品配置スペースを狭めることができる。
さらに、この実施例では、前記回転軸線A1に沿った方向で、前記プライマリシャフト29の配置領域と、前記モータ・ジェネレータ57の配置領域とが、領域D1で重なっている。より具体的には、前記プライマリシリンダ36のテーパ部39の外周側に、前記モータ・ジェネレータ57のステータ58の一部が配置されている。したがって、前記モータ・ジェネレータ57の外径を大きくすることができ、このモータ・ジェネレータ57の最大トルクを大きくすることができる。つまり、モータ・ジェネレータ57外径を大きくすることにより、そのモータ・ジェネレータ57の最大トルクを大きくすることができるので、前記ロータ59の電磁鋼板65および前記ステータ58の電磁鋼板60の積層厚さを低減することができる。このように、前記回転軸線B1に沿った方向において前記モータ・ジェネレータ57を一層小型化でき、ハイブリッド駆動装置の車両搭載性を向上できる。さらに、前記回転軸線B1を中心とする半径方向で、前記モータ・ジェネレータ57の円筒部64の内側に前記減速機66が配置されている。また、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記モータ・ジェネレータ57の一部、つまり、ステータ58およびロータ59の配置領域と、前記減速機66の配置領域とが重なっている。したがって、ハイブリッド駆動装置の全長を短縮することができ、車載性が向上する。
さらにこの実施例では、前記プライマリシャフト29が、2個の軸受136,37を介在させて、前記トンスアクスルケース11および前記リヤケース12により回転可能に支持されている。また、セカンダリシャフト30は、2個の軸受41,42を介在させて、前記トランスアクスルケース11およびトランスアクスルハウジング10により回転可能に支持されている。さらに、前記モータ・ジェネレータ57および前記減速機66は、ニードル軸受77および軸受78を介在させて前記リアケース12およびリヤカバー13により支持されている。つまり、前記ベルト式無段変速機8を支持する支持機構と、前記モータ・ジェネレータ57および減速機66を支持する支持機構とが、その一部を共用化している。したがって、部品点数、つまり、支持機構の増加を抑制でき、ハイブリッド駆動装置の製造コストの上昇、およびハイブリッド駆動装置の大重量化を抑制できる。また、支持機構同士を固定するためのボルトや、支持機構同士の接触部分に介在させるシールの増加を抑制できる。さらには、ハイブリッド駆動装置の組み立て工数の増加を抑制できる。
さらに、この実施例では、前記キャリヤ71を前記リヤケース12に固定するボルト74と、前記軸受41をリヤケース12に固定するボルト74とが共用化されている。このため、部品点数の低減、およびボルトの締め付け工数の低減、およびハイブリッド駆動装置の製造コストの抑制、およびハイブリッド駆動装置の大重量化を抑制できる。また、前記ボルト74の一部と前記ステータ58の一部とが、前記回転軸線B1に沿った方向で配置領域の一部が重なっているため、ハイブリッド駆動装置の全長短縮に寄与できる。さらに、前記モータ・ジェネレータ57のロータ59が、軸受78およびニードル軸受77により回転可能に支持されている。一方のニードル軸受77が取り付けられたキャリヤ71は、インロー継手(図示せず)またはノックピン(図示せず)により、前記リヤケース12に精度よく、具体的には半径方向において、精度よく位置決め固定されている。また、前記軸受78を支持するリヤカバー13は、前記リヤケース12に対してノックピン(図示せず)やインロー継手(図示せず)により精度よく、具体的には半径方向において精度よく位置決め固定されている。したがって、前記モータ・ジェネレータ57のステータ58とロータ59とを、半径方向において相対的に高精度に位置決め固定することができる。したがって、ロータ59およびステータ58の芯ズレを防止でき、かつ、ロータ59とステータ58との間の隙間を高精度に設定でき、前記ステータ58とロータ59との干渉やノイズを防止できる。
さらに、この実施例では前記減速機66としてダブルピニオン式の遊星歯車機構を用いており、そのキャリヤ71が固定され、サンギヤ67が前記モータ・ジェネレータ57に連結され、前記リングギヤ68がセカンダリシャフト30に連結されている。このため、前記セカンダリシャフト30と前記ロータ59とが同方向に回転し、かつ、その回転数差が比較的小さい。したがって、前記シール80の摩耗や焼き付きを防止できる。また、この実施例では前述したように、前記モータ・ジェネレータ57の高回転数化および低トルク化を図ることができるので、前記減速機66の減速比を大きくする一方、エンジン回転数を低下させて、燃費の向上を図ることができる。
また、この実施例では、前記リヤケース12に前記リヤカバー13を取り付けて、前記ステータ58と前記ロータ59とを前記回転軸線B1に沿った方向に位置決めするとともに、前記セカンダリシャフト30と前記ロータ59とを前記回転軸線B1に沿った方向に位置決めした状態、すなわち、前記ケーシング5の組み立て状態において、前記ステータ58の電磁鋼板60と、前記ロータ59の電磁鋼板65とのオーバーラップ長さよりも、前記ニードル軸受77におけるセカンダリシャフト30に近い側の端部から、前記シャフト62の先端までの長さの方が長くなるように、前記シャフト62の長さ、前記回転軸線B1方向における前記ステータ58の固定位置および前記ニードル軸受77の取付位置などが決定されている。このため、ハイブリッド駆動装置の組み立て工程において、図3に示すように、前記トランスアクスルケース11内にセカンダリシャフト30を配置し、かつ、前記リヤケース12にステータ58を取り付けた後、前記シャフト62およびロータ59を前記リヤケース12内に挿入すると、先に、前記シャフト62の先端が前記ニードル軸受77により支持されて、そのシャフト62と前記リヤケース12とが半径方向に位置決めされる。
すなわち、前記回転軸線B1に沿った方向で、ニードル軸受77とシャフト62とが、長さL3の範囲でオーバーラップしている。この時点では、前記回転軸線B1に沿った方向において、前記ロータ59の電磁鋼板65と、前記ステータ58の電磁鋼板60と長さL4の隙間量があり、オーバーラップしていない。さらにリヤカバー13をリヤケース12に近づけると、前記回転軸線B1に沿った方向で、前記ロータ59の電磁鋼板65と、前記ステータ58の電磁鋼板60とがオーバーラップすることとなる。このように、前記ロータ59の電磁鋼板65と、前記ステータ58の電磁鋼板60とが電磁力で引き寄せ合う時点よりも前の工程で、前記ロータ59とステータ58とが半径方向に位置決めされている。したがって、前記シャフト62およびロータ59の組付け作業を高精度に、かつ、容易におこなうことができるとともに、治具を用いずに済む。
ここで、図1ないし3に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、カウンタシャフト50およびドライブシャフト55および車輪56が、この発明における被駆動部材に相当し、モータ・ジェネレータ57が、この発明における電動機に相当し、ロータ59が、この発明における「電動機の回転要素」に相当し、トランスアクスルハウジング10が、この発明における第1のケースに相当し、トランスアクスルケース11が、この発明における第2のケースに相当し、リヤケース12が、この発明における第3のケースに相当し、リヤカバー13が、この発明における第4のケースに相当する。
この実施例において、前記減速機66は、その変速比が固定された減速機、または変速比を変更可能な減速機の何れを用いてもよい。さらに、前記減速機66として、シングルピニオン式の遊星歯車機構を用いることも可能である。この場合、サンギヤをモータ・ジェネレータに連結し、キャリヤをセカンダリシャフトに連結し、リングギヤを固定すればよい。なお、減速機66を構成する遊星歯車機構に代えて、トラクション伝動装置を用いることもできる。具体的には、遊星歯車機構を構成する各ギヤをローラに代えて、遊星ローラを用いればよい。また、上記の実施例では、全ての回転軸線が車両1の幅方向(左右方向)に配置されているが、全ての回転軸線が車両の前後方向に配置されている構成のパワートレーンについても、この発明を用いることができる。また、この実施例において、流体伝動装置としてトルク増幅機能を備えていないフルードカップリングを用いることもできる。さらに、前後進切換装置としては、ダブルピニオン式の遊星歯車機構に代えて、シングルピニオン式の遊星歯車機構を用いることも可能である。また、前後進切換装置は、遊星歯車機構を用いる構成に代えて、平行軸歯車式の前後進切換装置を用いることも可能である。さらに、前後進切換装置の出力要素の回転方向を正逆に切り替えるための切替機構として、油圧式のアクチュエータに代えて、電磁式のアクチュエータを用いることも可能である。また、この発明は、車両以外にも、運搬機械、工作機械などに用いることも可能である。
2…エンジン、 5…ケーシング、 8…ベルト式無段変速機、 10…トランスアクスルハウジング、 11…トランスアクスルケース、 12…リヤケース、 13…リヤカバー、 29…プライマリシャフト、 30…セカンダリシャフト、 31…プライマリプーリ、 32…セカンダリプーリ、 41,78…軸受、 46…ベルト、 50…カウンタシャフト、 55…ドライブシャフト、 56…車輪、 57…モータ・ジェネレータ、 58…ステータ、 59…ロータ、 66…減速機、 67…サンギヤ、 68…リングギヤ、 69,70…ピニオンギヤ、 71…キャリヤ、 74…ボルト、 75ストッパプレート、 77…ニードル軸受、 A1,B1…回転軸線。