JP4855563B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は空気入りタイヤ、とくに、タイヤビード部に配設したビードコアの周りに巻き回したカーカスプライ側部部分を、タイヤ半径方向外方へ大きく巻上げて固定することに起因する、その巻上げ端のセパレーションを防止するとともに、カーカスコードの引き抜けをもまた十分に防止するビード部構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的な空気入りタイヤ、たとえば重荷重用空気入りラジアルタイヤでは、タイヤの負荷転動に際するカーカスコードの引き抜けを防止すべく、カーカスプライの側部部分を、ビードコアの周りで、タイヤ半径方向の内側から外側に向けて高く巻上げて固定することとしているも、これによれば、カーカスプライの巻上げ端へのセパレーションの発生が否めないことから、近年は、特開平11−321244号公報に開示されているように、カーカスに、ビードコアの周りに実質的に一周巻回され、かつその端部がビードコアの周りで終端する巻き付け部を有する巻き付けカーカスプライを含めることで、タイヤを軽量化しつつ、ビード部耐久性を向上させる技術が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、この提案技術は、前記巻き付け部のカーカスコードの、ビードコアの外周面を通る部分と、ビードコア内周面を通る部分との相対関係につき、ビードコアの外周面を通る部分のタイヤ周方向線となす角度θ1を30°〜90°とするとともに、ビードコアの内周面を通る部分のタイヤ周方向線となす角度θ2を30°〜90°として、これらの角度θ1,θ2が90°より小さい場合には、ビードコアの外周面および内周面のそれぞれを通る部分を互いに交差する向きに配することとするものであり、かかる配置の下では、図4に示すように、カーカスコード31のビードコア32の外周面を通る部分31aとそれの内周面を通る部分31bとのそれぞれが相互に異なった方向に延在することになり、それらの延在部分、なかでもとくに部分31aは、カーカスコード31のラジアル方向に延びる本体部分に対して周方向の延在角度を大きく異にするため、製品タイヤにおけるカーカスコード31への張力の作用による、そのカーカスコード31の真直化傾向の下で、巻き付け部に生じる周方向の変形ないしは変位が大きくなり、この結果としてプライ端での周方向歪が増加し、しかも、カーカスコード31に作用する張力が、その全長にわたって均等に分散されずに局部的な応力集中を生じ易く、タイヤの転動による繰り返しの応力集中によって、コード31の疲労破断のおそれが高くなる等により、タイヤビード部の、耐久性の実質的な向上をもたらし得ないという問題があった。
【0004】
この発明は、上記提案技術が抱えるこのような問題点を解決することを問題とするものであり、それの目的とするところは、カーカスコードの、ビードコアとの接触長さをできるだけ長くして、カーカスコードの耐引き抜け性を十分に高めることを前提に、そのカーカスコードの、上述したような大きな角度変化に起因する周方向の変形ないしは変位の発生を十分に防止するとともに、カーカスコードへの張力の作用による応力の集中を有効に防止することで、ビード部耐久性を大きく向上させた空気入りタイヤを提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明の空気入りタイヤは、ビード部に配設したリング状のビードコア間に、少なくとも一枚のカーカスプライをトロイダルに延在させるとともに、カーカスプライのそれぞれの側部部分を、横断面形状が六角形以上の多角形をなすビードコアの周りで、その周面に沿わせてタイヤ幅方向の内側から外側にまたは、外側から内側に向けて巻き回し、ビードコアの、ビードベース側に向く表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に隣り合うビードコア隣接表面上での、カーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角αを、78°≦α≦85°の範囲とし、上記隣接表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に一の表面を隔てた離隔表面上での、そのカーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角βと、上記鋭角側の傾き角αとの差を、|α−β|≦10とし、さらに、カーカスコードのリング状ビードコアの周りでの両延在部分のそれぞれの、カーカスプライの巻き回し方向前方側に向かう延在方向を、ビードコアの横断面に対して相互に逆とする。
【0006】
このタイヤでは、カーカスプライの側部部分をビードコアの周りに巻き回して、その側部部分から、半径方向外方への高い巻上げ部を取り除くことにより、カーカスプライ巻上げ端へのセパレーションの発生、ひいては、そのセパレーションに原因をおく、ビード部クラックの発生および成長を有効に防止できることはもちろん、ビードコアの、ビードベース側に向く表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に隣り合うビードコア隣接表面上での、カーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角αを78°以上85°以下の範囲とすることにより、ラジアルタイヤにおけるカーカスコードの巻き回し部の、周方向の変形ないしは変位を抑制して、カーカスプライ端での歪を低減させることができる。なお、それが60°未満では、カーカスプライ端の歪を十分に低減させることができない。
【0007】
またこのタイヤでは、上記隣接表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に一の表面を隔てた離隔表面上での、そのカーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角βと、上記鋭角側の傾き角αとの差を10°以下とすることで、ビードコアの周りでの長いコードパスを確保して、カーカスコードの耐引き抜け性を十分に高めてなお、カーカスコードの延在方向の、比較的小さな角度変化の下で、カーカスコードの急激な角度変化に起因する前述したようなビード部耐久性の毀損のうれいなしに、カーカスプライ端部でのカーカスコードの延在方向を、カーカスプライ本体部分のそれに十分近づけることができ、これがため、カーカスコードの巻き回し部での周方向の変形ないしは変位を抑制して、プライ端での歪の低減を実現するとともに、カーカスコードへの局部的な応力集中を十分に防止することができる。なお、両傾き角の差が20°より大きい範囲では、カーカスコードに張力が均等に分散されず、ビードベース側に向く表面に対してカーカスプライの巻き回し方向側に隣り合うビードコア隣接表面上での、カーカスコードの延在部分と、この延在部分に対してカーカスプライの巻き回し方向前方側に一の表面を隔てた離隔表面上での、カーカスコードの延在部分との、どちらかに大きな力が作用してしまい、カーカスプライ端部での歪みが増大してしまう。
【0008】
かかるタイヤでは、カーカスコードのリング状ビードコアの周りでの両延在部分のそれぞれの、カーカスプライの巻き回し方向前方側に向かう延在方向を、ビードコアの横断面に対して相互に逆としたことによって、カーカスプライの巻き付け部に生じる周方向の変形ないしは変位を防止して、タイヤビード部の耐久性の実質的な向上をもたらす。すなわち、上記両延在部分のそれぞれの、ビードコアの横断面に対する延在方向を相互に逆としなければ、カーカスプライの巻き付け部に、周方向の変形ないしは変位が生じ、これら変形等によってプライ端での周方向歪が増加するところ、この状況下でタイヤの転動により応力集中が繰り返し作用した場合には、カーカスコードの疲労破断のおそれが高まり、タイヤビード部の、耐久性の実質的な向上を実現できない。
【0009】
またここで、巻き回し部に、ビードコアの隅部と対応して位置する三個所以上の折曲げ加工部を設けた場合には、カーカスコードをビードコアの外輪郭に正確に沿わせて巻き回すことができるとともに、カーカスコードのスプリングバックを有利に防止して、カーカスコードの引き抜け等をより効果的に防止することができる。
【0010】
そして、ビードコアの周りに、カーカスプライに外接させてワイヤチェーファを配設する場合には、荷重時の、カーカスコードの変形を抑制して、カーカスコードの耐久性を向上させることができる。
【0011】
加えて、カーカスプライの巻き回し部の外周側からサイドウォール部にかけてビードフィラを配設する場合には、そのビードフィラで上記巻き回し部を押え込んで、その巻き回し部の不測の弛みを有効に防止することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の実施の形態を図面に示すところに基づいて説明する。
図1は、重荷重用空気入りラジアルタイヤについての実施の形態を、リム組みタイヤに空気圧を充填した姿勢で示す要部横断面であり、図中1はトレッド部を、2は、トレッド部1の側部から半径方向内方へ延びるサイドウォール部を、そして3は、サイドウォール部2の内周側に連続させて設けたビード部をそれぞれ示す。
【0013】
ここでは、各ビード部3に、全体としてリング状をなし、図では横断面形状がほぼ六角形状をなすビードコア4を埋め込み配置し、両ビードコア4間に少なくとも一枚のカーカスプライ5をトロイダルに延在させるとともに、カーカスプライ5の側部部分6をビードコア4の周りに巻き回して、そのビードコア4の周面に沿わせて延在させるとともに、ビードコア4の周りにて終了させ、これにより、カーカスプライ5の側部部分6から、半径方向外方への高い巻上げ部を取り除く。
【0014】
なお図1に示すところでは、カーカスプライ側部部分6のこのような巻き回しを、タイヤ幅方向の内側から外側に向けて行っているも、その巻き回しを、図2に示すように、タイヤ幅方向の外側から内側に向けて行うこともできる。
【0015】
このように形成してなる巻き回し部7は、側部部分6、ひいては、カーカスプライ5の、ビードコア4への十分強固な固定を実現することができ、このことは、たとえば、巻き回し部7の、ビードコア4の隅部と対応する少なくとも一個所に、そのビードコア4に巻き付く向きの折曲げ加工部b1,b2,b3を設けて、巻き回し部7の巻き付き姿勢の確実なる維持を担保した場合にとくに有効である。
【0016】
ところで、図1および2に示すところにおいて、8は、ビードコア4の周りで、カーカスプライ5に外接させて配置したワイヤチェーファを、9は、巻き回し部7の外周側からサイドウォール部2にかけて配設されて、その巻き回し部7を半径方向に拘束するビードフィラをそれぞれ示し、またRは、タイヤに組付けたリムを示す。
【0017】
そしてまた、このタイヤでは、図3に一例を示すように、側部部分6に設けた巻き回し部7で、カーカスプライ5を構成するカーカスコード10の、リング状ビードコア4のビードベース3a側に向く表面4aに対して、カーカスプライ5の巻き回し方向前方側に隣り合うビードコア隣接表面4b上での、カーカスコードの延在部分10bの、ビードコア中心軸線Cに対する鋭角側の傾き角αを、78°以上85°以下の範囲とし、また、隣接表面4bに対して、カーカスプライ5の巻き回し方向前方側に一の表面4cを隔てた離隔表面4d上での、そのカーカスコードの延在部分10dの、ビードコア中心軸線Cに対する鋭角側の傾き角βと鋭角側の傾き角αとの差を10°以下の範囲とする。
【0018】
なお、カーカスコード10の、本体部分の、ビードコア中心軸線Cに対する鋭角側の傾き角を70°〜90°とするとともに、図3(b)に実線または鎖線で示す如く、カーカスコード10のリング状ビードコア4の周りでの両延在部分10b,10dのそれぞれの、ビードコア4の横断面に対する延在方向を相互に逆とする。
【0019】
以上のように構成してなるタイヤによれば、カーカスコード10の、巻き回し部7での周方向の角度変化を少なくして、カーカスプライ端部でのカーカスコード10の延在方向を、カーカスプライ本体部分のそれに揃えることができ、これがため、カーカスコード10への張力の作用による、その巻き回し部7の、周方向での変形ないしは変位を抑制してビード部3の耐久性を有効に向上させることができる。以上、この発明の実施の形態を図面に示すところに基づいて説明したが、ビードコア4の横断面形状は、角形以上の多角形とすることができる。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例タイヤと、従来タイヤと、比較タイヤとのそれぞれのビード部耐久試験について述べる。ここでビード部耐久性は、サイズが315/60R22.5の重荷重用ラジアルタイヤにあって、図1および3に示すビード部構造を有する実施例タイヤ1、2および比較タイヤ1,2、3ならびに、図5に示すビード部構造を有する従来タイヤのそれぞれに、9.00×22.5のリムを組付けるとともに、充填空気圧を900kPaとしたところにおいて、最大負荷能力の185%に相当する負荷を作用させたドラム走行試験で、速度を60km/hとし、ビード部故障(カーカスプライ端またはワイヤチェーファ端のセパレーション等)によって走行不能になるまでの走行距離を測定することにより求め、従来タイヤをコントロールとして指数評価した。
【0021】
その結果を表1に示す。なお指数値は大きいほどすぐれた結果を示すものとした。
【表1】
Figure 0004855563
【0022】
表1によれば、実施例タイヤはいずれも、従来タイヤおよび比較タイヤ1,2のそれぞれに比して、ビード部耐久性を大きくに向上させ得ることが解る。
【0023】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、とくに、横断面形状が六角形以上の多角形をなすビードコアの、ビードベース側に向く表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に隣り合うビードコア隣接表面上での、カーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角αを78°以上85°以下の範囲とし、上記隣接表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に一の表面を隔てた離隔表面上での、そのカーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角βと、上記鋭角側の傾き角αとの差を10°以下とし、さらに、カーカスコードの両延在部分のそれぞれの、ビードコアの横断面に対する延在方向を相互に逆とすることにより、タイヤビード部の耐久性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施形態を示す要部横断面図である。
【図2】 この発明の他の実施形態を示す要部横断面図である。
【図3】 カーカスプライの側部部分の巻き回し部でのカーカスコードの延在態様を例示する説明図である。
【図4】 提案技術におけるカーカスコードの延在態様を示す図である。
【図5】 従来タイヤのビード部構造を示す横断面図である。
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
3a ビードベース
4 ビードコア
4a,4b,4c,4d ビードコア表面
5 カーカスプライ
6 側部部分
7 巻き回し部
8 ワイヤチェーファ
9 ビードフィラ
10 カーカスコード
10b,10d カーカスコードの延在部分
α,β 鋭角側の傾き角
C ビードコア中心軸線
b1,b2,b3 折曲げ加工部

Claims (4)

  1. ビード部に配設したリング状のビードコア間に、少なくとも一枚のカーカスプライをトロイダルに延在させるとともに、カーカスプライのそれぞれの側部部分を、横断面形状が六角形以上の多角形をなすビードコアの周りで、その周面に沿わせてタイヤ幅方向の内側から外側にまたは、外側から内側に向けて巻き回した空気入りタイヤにおいて、
    前記ビードコアの、ビードベース側に向く表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に隣り合うビードコア隣接表面上での、カーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角αを、
    78°≦α≦85°
    の範囲とし、前記隣接表面に対して、カーカスプライの巻き回し方向前方側に一の表面を隔てた離隔表面上での、そのカーカスコードの延在部分の、ビードコア中心軸線に対する鋭角側の傾き角βと、前記鋭角側の傾き角αとの差を、
    |α−β|≦10°
    とし、
    前記カーカスコードのリング状ビードコアの周りでの両延在部分のそれぞれの、カーカスプライの巻き回し方向前方側に向かう延在方向を、ビードコアの横断面に対して相互に逆としてなる空気入りタイヤ。
  2. 巻き回し部に、ビードコアの隅部と対応して位置する三個所以上の折曲げ加工部を設けてなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. ビードコアの周りに、カーカスプライに外接させてワイヤチェーファを配設してなる請求項1もしくは2に記載の空気入りタイヤ。
  4. カーカスプライの巻き回し部の外周側からサイドウォール部にかけてビードフィラを配設してなる請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
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