JP4846242B2 - 加熱曲げ特性に優れた厚鋼板の曲げ加工方法 - Google Patents
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線状加熱方法としては、例えば、特許文献1に、高温における降伏強度を高めた鋼板を使用し、この鋼板を高温(表面温度:600〜1100℃)まで加熱する方法が開示されている。これにより、鋼板の曲げ変形量を大きくして、作業効率を高め、構造物の建造コスト削減を図っていた。
また、加工物を曲げ過ぎた場合には、その修正に手間がかかる可能性があるため、加熱による角変形量を大きくすることが、必ずしも曲げ加工作業の効率化に繋がらない場合もある。
前記熱間厚鋼板は、C:0.01質量%以上0.20質量%以下、Si:0.02質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.2質量%以上2.5質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.020質量%以下、Al:0.002質量%以上0.10質量%以下、及びN:0.0010質量%以上0.0080質量%以下を含み、
更に、Cu:0.05質量%以上1.5質量%以下、Cr:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mo:0.05質量%以上0.50質量%以下、W:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ta:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ni:0.05質量%以上3.5質量%以下、Nb:0.003質量%以上0.05質量%以下、Ti:0.003質量%以上0.10質量%以下、V:0.005質量%以上0.10質量%以下、B:0.0003質量%以上0.0030質量%以下、Ca:0.0003質量%以上0.0050質量%以下、Mg:0.0005質量%以上0.0060質量%以下、及び希土類元素:0.0005質量%以上0.0060質量%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、
前記熱間厚鋼板に時効が生じない温度Tは、以下の式を満足する温度である。
80≦T≦250−26000×{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}
但し、{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}<0の場合は0とする。
また、線状加熱を従来よりも低温で実施できるため、例えば、熱間厚鋼板の一面側の略全面を線状加熱しても、その加熱に長時間を要することなく、しかも極端な湾曲を生じさせることなく、加工物の外観及び加工精度を良好に保つことが可能な熱間厚鋼板を提供できる。
ここで、曲げ加工を行った熱間厚鋼板を、250℃を超えAc1点未満の温度に加熱することにより、熱間厚鋼板の低下した降伏点を回復できるので、均一な材質の加工物を製造できる。
ここで、図1(A)は厚鋼板の降伏強度と温度との関係を示す説明図、(B)は厚鋼板の角変形量と線状加熱温度との関係を示す説明図である。
C:0.01質量%以上0.20質量%以下、Si:0.02質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.2質量%以上2.5質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.020質量%以下、Al:0.002質量%以上0.10質量%以下、N:0.0010質量%以上0.0080質量%以下、Cu:0.05質量%以上1.5質量%以下、Cr:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mo:0.05質量%以上0.50質量%以下、W:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ta:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ni:0.05質量%以上3.5質量%以下、Nb:0.003質量%以上0.05質量%以下、Ti:0.003質量%以上0.10質量%以下、V:0.005質量%以上0.10質量%以下、B:0.0003質量%以上0.0030質量%以下、Ca:0.0003質量%以上0.0050質量%以下、Mg:0.0005質量%以上0.0060質量%以下、希土類元素:0.0005質量%以上0.0060質量%以下である。
Cは、鋼の強度を向上させる有効な成分であるため、下限を0.01質量%としている。一方、Cの過剰添加は、例えば、鋼材の溶接性又はHAZ靱性を著しく低下させるので、その上限を0.20質量%としている。
Siは、溶製時の脱酸に必要な元素であり、適量添加するとマトリクスを固溶強化できるため、0.02質量%以上添加している。一方、添加量が1.0質量%を超える場合、HAZの硬化により靱性が低下するため、上限を1.0質量%とした。
Mnは、母材の強度及び靱性の確保に有効な成分であるため、0.2質量%以上の添加が必要であるが、例えば、溶接部の靱性又は割れ性の許容できる範囲を考慮して、その上限を2.5質量%とした。
Alは、重要な脱酸元素であるため、その下限値を0.002質量%とした。一方、Alが多量に存在すると、鋳片の表面品位が劣化するため、その上限値を0.10質量%とした。
Nは、AlNとして析出することで、オーステナイトを微細化させる効果があるが、過剰添加で固溶Nが増大すると、HAZ靱性の低下を招くことから、0.0010質量%以上0.0080質量%以下の範囲に制限した。
Cu、Cr、Mo、W、及びTaは、鋼材の焼入れ性向上により、高強度化させるために有効であることから、0.05質量%以上添加しているが、多量に添加すると、溶接性又はHAZ靱性を低下させるため、Cuについては1.5質量%、Crについては1.0質量%、Mo、W、及びTaについては0.50質量%を上限とした。
Niは、鋼材の強度及び靱性を向上させることから、0.05質量%以上添加しているが、Ni量の増加はコストを上昇させるので3.5質量%を上限とした。
Nb及びTiは、微量の添加により、結晶粒の微細化と析出強化の両面で有効に機能するため、0.003質量%以上添加しているが、過剰に添加すると、溶接部の靱性を著しく低下させるため、Nbについて0.05質量%、Tiについては0.10質量%を上限とした。
Bは、HAZ靱性に有害な粒界フェライト又はフェライトサイドプレートの成長抑制と、高強度化に有効であることから、0.0003質量%以上添加するが、過剰の添加は靱性を劣化させることから、0.0030質量%を上限とした。
Ca、Mg、及び希土類元素は、酸化物又は硫化物を形成し、HAZ結晶粒粗大化の防止、及び母材の異方性の軽減を目的に添加するが、添加量が少ないと効果がなく、過剰の添加は靱性を損なうため、Caは0.0003質量%以上0.0050質量%以下、Mgは0.0005質量%以上0.0060質量%以下、及び希土類元素は0.0005質量%以上0.0060質量%以下の範囲とした。
なお、フェライト分率が20%以上の厚鋼板は、例えば、以下に示す方法で製造できる。
まず、スラブ(圧延材)を1000℃以上1300℃以下の温度に加熱した後、Ar3点以上1100℃以下の温度のもとで、累積圧下率が50%以上になるように熱間圧延を行う。圧延後は空冷してもよいが、高強度化を図るために冷却装置で冷却してもよい。この水冷は、フェライト分率を20%以上とするために、冷却速度が20℃/秒以下、又は冷却停止温度が400℃以上になるように行う。そして、必要に応じて、水冷した厚鋼板の熱処理を650℃以下で行う。この方法により、フェライト分率が20%以上の厚鋼板を製造できるが、これに限定されるものではない。
ここで、厚鋼板に時効が生じる温度で圧延を行う場合、厚鋼板中に含まれるTi及びAlのいずれか一方又は双方に固定されていない固溶Nが再び転位に固着されるため、厚鋼板の降伏点が上昇してしまう。
また、軽圧下圧延の圧下率が0.1%未満の場合、厚鋼板に可動転位を均一かつ十分な量導入することができず、その降伏点を低下させることができない。一方、圧下率が0.5%を超える場合、厚鋼板の転位密度が過剰に多くなるため加工硬化が生じ、その降伏点が上昇に転じることに加えて、伸びの低下が顕著化してくる。
このため、圧下率を0.1%以上0.5%以下としている。
T≦250−26000×{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}
但し、{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}<0の場合は0とする。
前記したように、厚鋼板の成分は、AlとNが必須元素であるが、Tiが選択元素であるため、厚鋼板中にTiが含まれない場合は、前記式において、(Ti質量%)=0とする。
この式を使用することにより、時効が生じる温度を、厚鋼板の成分(鋼種)に応じて把握できる。
一般に、時効は固溶C及びN量が多いほど起こり易いが、固溶C量は簡易的に評価することが困難であり、通常の製造条件では固溶N量の方が多く、より支配的と考えられる。そこで、本実施の形態では、固溶N量のみに着目し、N、Al、及びTi量の異なる鋼板を用いて、種々の温度で熱処理を行い、降伏点の回復挙動から厚鋼板に時効が生じない温度を求めた。その結果、鋼板温度が250℃を超えると、成分によらず時効が生じること、またN量が多く、しかもTi及びAl量が少ないほど時効が起こり易いことから、前記式のような関数型を仮定して、重回帰分析により係数を決定した。
ここで、厚鋼板の矯正温度が前記式の温度T(℃)を超える場合、Ti又はAlに固定されていない固溶Nが再び転位に固着されてしまうため、降伏点が回復して線状加熱時の角変形量が小さくなってしまう。
まず、降伏点と曲げ加工特性との関係について説明する。
本発明者らは、厚鋼板を線状加熱する場合、表面温度を高くしていくと角変形量は大きくなるが、ある温度以上になると表裏面の温度差が小さくなるため、角変形量が小さくなることを見出した。
また、図1(A)に示す降伏強度の温度依存性を有する厚鋼板a、bを線状加熱すると、図1(B)に示すように、加熱温度が高い場合には、降伏強度の高い厚鋼板aの方が角変形量が大きくなり、また加熱温度が低い場合には、降伏強度の低い厚鋼板bの方が変形量が大きくなることを見出した。更に、前記した方法により、低温域での降伏強度を低下させた厚鋼板cを使用することで、厚鋼板bよりも低い温度で大きな角変形が得られることを見出した。
厚鋼板の線状加熱に際しては、厚鋼板をバーナーで加熱し、この加熱された部分を直ぐに水で冷却する。これにより、加熱された部分が膨張した後、塑性変形(圧縮塑性歪が発生)し、冷却により収縮するので、目的とする形状に曲げ加工できる。
ここで、線状加熱時の厚鋼板の表面最高到達温度が300℃未満である場合、厚鋼板が十分な剛性を有しているため、ほとんど変形が生じない。一方、厚鋼板の表面最高到達温度が600℃以上である場合、厚鋼板の裏面側の温度も上昇し、表裏面の降伏強度差が小さくなるため、角変形量が低下してしまう恐れがある。また、温度上昇に伴い、曲げ加工作業に長時間を要して作業性が悪く、しかも熱エネルギーコストが上昇して経済的でない。しかし、厚鋼板の表面最高到達温度が800℃を超えるまでは、熱エネルギーコストが上昇して経済的ではないが、角変形量の低下の程度は問題ない程度である。
このため、厚鋼板の加熱温度を300℃以上600℃未満に設定する。
そして、必要に応じて、曲げ加工を行った熱間厚鋼板を、250℃を超えAc1点未満の温度に加熱する。
このため、線状加熱が終了した熱間厚鋼板を、250℃を超えAc1点未満の温度に加熱する。
このように、厚鋼板全体を熱処理することで、均一な材質の厚鋼板にできる。
鋼板として、前記実施の形態で示した化学成分を含む16種類の鋼板を使用した。この各鋼板の必須添加元素とその各成分量を表1、選択元素とその各成分量を表2、及びAc1変態点を表3にそれぞれ示す。
この鋼板No1〜8を実施例1〜8とし、鋼板No9〜16を比較例1〜8として、線状加熱を行う各鋼板の製造条件を、表4及び表5にそれぞれ示す。なお、表4には、圧延前のスラブ厚、鋼板の板厚、圧延前の加熱温度、熱間圧延条件(圧延開始時のスラブ温度、圧延終了時の鋼板温度、累積圧下率)、圧延終了後の冷却条件(鋼板の冷却速度、冷却停止温度)、及び冷却終了後の熱処理温度を示す。また、表5には、鋼板の組織(フェライト分率)、及び鋼板の圧下矯正条件(温度、圧下率、及び時効発生温度)を示す。
このように、比較例1、4〜6、8の各鋼板は、その製造条件が前記した実施の形態の条件を満足するものではない。なお、他の鋼板、実施例1〜8、比較例2、3、7については、その製造条件が前記した実施の形態の条件を満足している。
この線状加熱時のバーナー11の酸素圧力、アセチレン圧力、バーナー11の口径、鋼板表面からのバーナー11(口径)の高さ位置、冷却水ノズル12からの冷却水流量、及びバーナー11の移動速度を表8に示す。
δ=(1/2)×sin-1(2d/w)
そして、鋼板10の線状加熱部の材質及び非線状加熱部の材質を評価する降伏点(YP)、引張強度(TS)、及び伸び(EL)の測定は、JIS 1A号全厚引張試験片により行った。なお、引張試験片は、圧延方向と直角方向に採取した。
以上のことから、実施例1〜8については、鋼板の製造条件及び線状加熱の条件の全てが、前記した実施の形態の条件を満足している。
以下、実施例1〜8及び比較例1〜8の各評価について説明する。
特に、実施例3、7については、線状加熱後に熱処理を行ったので、線状加熱部と非線状加熱部との材質(降伏点、引張強度、及び伸び)の差が、他の実施例よりも小さくなっており、均一な材質の厚鋼板を製造できることを確認できた。
比較例2は、線状加熱の際の鋼板温度が低かったため、角変形量が小さくなった(表6参照)。
比較例3は、線状加熱の際の鋼板温度が高かったため、作業効率が低下し、角変形量も低下した(表6参照)。
比較例4は、矯正の際の圧下率が小さかったため、降伏点が低下せず角変形量が小さくなり、鋼板形状もよくなかった(表5参照)。
比較例6は、矯正の圧下率が大きかったため、加工硬化により伸びが劣化した(表5参照)。
比較例7は、線状加熱後の部材熱処理温度が高過ぎたため、変態により組織が変わり、強度が顕著に低下してしまった(表6参照)。
比較例8は、圧下矯正前の鋼板のフェライト分率が低かったため、降伏点を十分下げることができず、角変形量が小さくなった(表5参照)。
以上のことから、本発明の加熱曲げ特性に優れた厚鋼板の曲げ加工方法を使用することで、従来よりも加工時間の短縮を図って効率的に曲げ加工作業を行うことができ、加工物の外観及び加工精度を良好に保てることを確認できた。
Claims (2)
- フェライト分率が20%以上の熱間厚鋼板を、時効が生じない温度で圧下率0.1%以上0.5%以下で圧下矯正して降伏点を低下させた後、該熱間厚鋼板の加熱温度を300℃以上800℃以下として、その一面側を線状加熱して曲げ加工を行う方法であって、
前記熱間厚鋼板は、C:0.01質量%以上0.20質量%以下、Si:0.02質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.2質量%以上2.5質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.020質量%以下、Al:0.002質量%以上0.10質量%以下、及びN:0.0010質量%以上0.0080質量%以下を含み、
更に、Cu:0.05質量%以上1.5質量%以下、Cr:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mo:0.05質量%以上0.50質量%以下、W:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ta:0.05質量%以上0.50質量%以下、Ni:0.05質量%以上3.5質量%以下、Nb:0.003質量%以上0.05質量%以下、Ti:0.003質量%以上0.10質量%以下、V:0.005質量%以上0.10質量%以下、B:0.0003質量%以上0.0030質量%以下、Ca:0.0003質量%以上0.0050質量%以下、Mg:0.0005質量%以上0.0060質量%以下、及び希土類元素:0.0005質量%以上0.0060質量%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、
前記熱間厚鋼板に時効が生じない温度Tは、以下の式を満足する温度であることを特徴とする加熱曲げ特性に優れた厚鋼板の曲げ加工方法。
80≦T≦250−26000×{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}
但し、{(N質量%)−(Ti質量%)/3.4−(Al質量%)/29}<0の場合は0とする。 - 請求項1記載の加熱曲げ特性に優れた厚鋼板の曲げ加工方法において、前記曲げ加工を行った前記熱間厚鋼板を、250℃を超えAc1点未満の温度に加熱することを特徴とする加熱曲げ特性に優れた厚鋼板の曲げ加工方法。
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