JP4845094B2 - 放電励起式パルス発振ガスレーザ装置 - Google Patents

放電励起式パルス発振ガスレーザ装置 Download PDF

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Description

本発明は、放電励起式パルス発振ガスレーザ装置に関し、特に、放電領域の幅を狭くして必要ガス流速の増大及びファンへの投入電力の増大を抑え、4kHz以上のさらなる高繰り返し動作と長時間使用を可能にした露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザ等の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置に関するものである。
近年、半導体露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザにおいては、露光機のスループットを向上させるため高出力化が要求され続けている。高出力を得るためには、1パルス当たりの出力エネルギを増加させる方法と、出力エネルギは同じで繰り返し周波数を増加させる方法がある。通常、光学部品のダメージを軽減させる観点から、後者の高繰り返し化が要求される。
露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザにおいて繰り返し周波数を上げる際において問題となるのは、主放電電極間でのレーザガスの循環流速である。循環流速が不足している場合、前パルスで発生した放電生成物等が次パルスに影響を与えて放電が不安定になる。これにより出力のばらつきが大きくなり、最悪の場合発振が停止する。例えば、2kHz動作から4kHz動作にするためには、2倍のガス循環速度が必要になる。2倍のガス流速を得るためには、通常のファン構造では8倍の電力が必要になる。
安定した放電に必要なガス循環流速vは、流れに対して平行な方向の放電領域の幅wに比例する。この幅が小さいと同じガス流速でも動作できる発振周波数fは高くなる。この関係は次のクリアランスレシオCRの式で説明される。CRは一般的に3〜6の定数となる。
CR=v/(f×w) ・・・(1)
したがって、後記する本発明は、この放電領域の幅を狭くすることにより、必要ガス流速の増大及びファンへの投入電力の増大を抑え、4kHz以上のさらなる高繰り返し動作を可能にすることを目的としている。
また、高出力化と同時に、レーザに要求されているスペクトル線幅の超狭帯域化に対して、放電幅を狭くすることは、スリットでケラレる光量が減ってレーザ光の利用効率を高める点からもメリットがある。
ところで、高繰り返し、高出力の半導体露光用の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置としては、レーザ発振器1台のみからなるレーザ装置以外に、発振段レーザとこの発振段レーザから放出されるレーザ光を増幅する増幅段とからなる2ステージレーザ装置が知られている。2ステージレーザ装置には、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier )とMOPO(Master Oscillator Power Oscillator)の2つの方式が知られている。前者は、増幅段に共振器を用いない方式、後者は増幅段に共振器を用いる方式である。2ステージレーザ装置においても、発振段、増幅段何れでも同期してレーザガスの放電励起を行っており、高繰り返し動作を可能にするためには、発振段、増幅段何れでも放電領域の幅を狭くすることにより、必要ガス流速の増大及びファンへの投入電力の増大を抑える必要がある。したがって、後記する本発明では、2ステージレーザ装置の発振段と増幅段とも対象にしている。以下、レーザ発振器1台のみからなるレーザ装置と、2ステージレーザ装置の概略の構成を説明しておく。
図1は、レーザ発振器1台のみからなる露光用ガスレーザ装置の構成例を示す図であり、両端に窓部が設けられたレーザチャンバ101内には所定の組成比のレーザガスが満たされている。このレーザガスを励起するための一対の主放電電極102、102がレーザ発振方向と垂直な向きにレーザチャンバ101内に対向配置される。そして、高電圧パルス発生装置103により高電圧パルスを印加して主放電電極102、102間で放電を行い、レーザガスを励起させ、レーザ発振の元となる蛍光を発生させる。
高繰り返し発振の際、放電により生じた電離物質等を次の放電前に放電空間から除去するために、レーザチャンバ101内に配置されたファン104の回転によりレーザガスはレーザチャンバ101内を強制循環している。このレーザガス循環により、主放電電極102、102間のレーザガスは、放電発生後、次の放電が発生する前に新しいガスに置換されるので、次の放電は安定な放電となる。
放電により生じた蛍光は、狭帯域化モジュール105に配置された狭帯域化光学系により所定の波長に選択されながら、部分透過出力鏡106との間を往復することによりレーザ発振し、レーザ光として出力鏡106から取り出される。なお、狭帯域化光学系は、例えば1個以上のプリズムからなるビーム拡大光学系とリトロー配置の反射型回折格子とから構成される。
図2、図3は、2ステージレーザ装置の構成例を示す図である。図2はMOPA方式の場合の構成例、図3は増幅段の共振器に不安定共振器を用いたインジェクションロック方式の場合の増幅段(アンプ)の構成例を示す。図3の発振段レーザ(オシレーター)には、図2と同様のものが用いられる。
図2は装置を上方から見た場合の概要を示す図である。発振段レーザ(オシレーター)110から放出されるレーザビームは、レーザシステムのシードレーザビーム(種レーザビーム)としての機能を有する。増幅段(アンプ)120、120’は、そのシードレーザ光を増幅する機能を有する。すなわち、発振段レーザ110のスペクトル特性によりレーザシステムの全体のスペクトル特性が決定される。そして、増幅段120、120’によってレーザシステムからのレーザ出力(エネルギ又はパワー)が決定される。
発振段レーザ110、増幅段120、120’共に、チャンバ111は同じレーザガスが充填されている。
レーザチャンバ111は内部に放電部を有している。放電部は紙面と垂直方向に上下に設置されている一対のカソード、アノード電極(主放電電極)102からなる。これらの一対の電極102に、電源117、117’から高電圧パルスが印加されることにより、電極102間で放電が発生する。なお、図2、図3では、上部電極102のみが図示されている。
チャンバ111内に設置された一対の電極102間の光軸延長上両端に、CaF2 等のレーザ発振光に対して透過性がある材料によって作られたウィンドー部材122がそれぞれ設置されている。ここでは、両ウィンドー部材122のチャンバ111と反対側の面(外側の面)は互いに平行に、そして、レーザ光に対して反射損失を低減するためにブリュースター角で設置されている。
また、図2、図3では図示されていないシリンドリカルファン(クロスフローファン)がチャンバ111内に設置されており、レーザガスをチャンバ111内で循環させ、放電部にレーザガスを送り込んでいる。
発振段レーザ110は、拡大プリズム114とグレーティング(回折格子)115によって構成された狭帯域化モジュール113を有し、この狭帯域化モジュール113内の光学素子とフロントミラー116とでレーザ共振器を構成する。
発振段レーザ110からのレーザビーム(シードレーザビーム)は、図示を省略した反射ミラー等を含むビーム伝播系により増幅段120、120’へ導かれ、注入される。図3に示すインジェクションロック方式では、小入力でも増幅できるように、増幅段120’には、例えば倍率が3倍以上の不安定型共振器が採用される。
インジェクションロック方式の増幅段120’の不安定共振器のリアミラー118には穴123が開いており、この穴123を通過したレーザが図3の矢印のように反射し、また、注入されたシードレーザビームは拡大され、放電部を有効に通過してレーザビームのパワーが増大する。
同期コントローラ121は、発振段レーザ110、増幅段120、120’の放電タイミングを制御する。まず、電源117から発振段レーザ110の一対の電極102に高電圧パルスを印加させるON指令として、発振段レーザ110の電源117にトリガ信号を送信する。そして、所定時間後、増幅段120、120’の電源117’にON指令としてのトリガ信号を送信する。
上記所定時間とは、発振段レーザ110からシードレーザ光が増幅段120、120’内に入射するタイミングと増幅段120、120’が放電するタイミングを同期させるための時間である。
ところで、一般的に、放電励起エキシマレーザ、フッ素分子レーザでは、主放電電極として、例えば、チャン型、エルンスト型が使用されている。こうした例は、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載されている。しかし、このような電極では電極間に均一な電界が得られ放電が安定する一方、長時間使用していると電極表面の磨耗により、放電幅が広くなる問題点がある。露光用レーザにおいては、放電幅の広がりは、高繰り返し動作に必要なガス流速の増加や、スペクトル品位の劣化、発振効率の低下につながる。
そこで、電極が磨耗しても放電が広がらないような放電幅と電極幅を略一致させた電極形状が提案されている(特許文献4等)。この電極では不平等電界により放電を発生させており、上記の電極に比較して放電の安定性は少し劣るものの、放電幅は電極が磨耗しても変化し難い。しかし、この電極形状においても、電極幅をさらに狭くしていくと、放電幅が狭くなり難くなる問題が発生した。これは、電極幅方向の端部の電界分布により、放電幅が広がる影響が発生したためである。
また、電極幅を狭くしていくと、電極表面の電界分布の影響が強くなるため、程度は小さいながら長時間使用により、放電幅が変化していく傾向が示された。放電幅が広がる要因は、電極表面の劣化(凹凸の変形) 、表面形状の変化(電界分布の変化) 、及び、エネルギ一定制御の場合は、放電入力の増加等である。
実開昭61−174764号公報 特開昭63−227069号公報 特開平4−775号公報 特開平4−101475号公報 特開2001−332786号公報 特開2003−152249号公報
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザ等の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置において、放電領域の幅を狭くし、かつ、放電電極が経時的に劣化しても放電幅が変化しないようにすることにより、必要ガス流速の増大及びファンへの投入電力の増大を抑え、4kHz以上のさらなる高繰り返し動作と長時間使用を可能にすることである。
上記目的を達成する本発明の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置は、少なくとも、レーザガスを封入するレーザチャンバと、そのレーザチャンバ内部に対向して平行に設置された少なくとも一対の細長いアノードとカソードを有する放電電極とを備え、
前記アノード及び前記カソードの放電面形状が、電極長手方向に直交する断面において凸面の曲線形状であり、
接地電位の電極の幅Weと放電電極間の最小間隔gがg/We>3の関係を有し、
前記放電電極間へ4KHz以上のパルス繰り返し数で、50mJ/cm3 以上の密度の電力を供給する電源を備え、
前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が、楕円、双曲線、又は、次の式で表現される高次関数(ただし、hは電極曲線部高さ、xは電極の幅方向の位置座標、yは電極の凸面方向の座標、Nは3以上の整数)の何れかであり、
N /(We/2)N +yN /hN =1 ・・・(A)
電極幅内において、ΔE=電界強度の差、Eave =電界強度平均値とし、その割合ΔE/Eave が35%以下であることを特徴とするものである。
その場合に、前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が楕円であり、
0.11≦h/We≦0.27 ・・・(4)
の関係を満たし、ΔE/Eave が30%以下であるものとすることができる。
あるいは、前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が双曲線であり、
0.12≦h/We≦0.22 ・・・(5)
の関係を満たし、ΔE/Eave が30%以下であるものとすることができる。
あるいは、前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状がN=3の高次関数であり、
0.16≦h/We≦0.42 ・・・(6)
の関係を満たし、ΔE/Eave が35%以下であるものとすることができる。
あるいは、前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状がN≧4の高次関数であり、
0.2≦h/We≦0.68 ・・・(7)
の関係を満たし、ΔE/Eave が35%以下であるものとすることができる。
また、以上において、前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記コーティング層中に空孔が配置されているものとすることが望ましい。
また、前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の表面近傍に空孔が配置されていることものとすることが望ましい。
また、前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の金属としてフッ化したときに前記母材から剥離しやすい金属が混入されているものとすることが望ましい。
また、前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の側面に絶縁物若しくは金属導体を添加した絶縁物のコートが設けられているものとすることが望ましい。
また、前記アノードと前記カソードの間に形成される放電空間の側方に、前記放電電極と長手方向に略平行に電界制御電極を配置することが望ましい。
その場合、前記電界制御電極に印加する電界制御電圧を、レーザ光の発振条件又は履歴に応じて変化させるようにすることができる。
また、前記放電電極の放電方向に略平行な磁力線を持つ磁界を前記放電電極間の放電空間に発生する永久磁石を有することが望ましい。
また、前記放電電極の放電方向に略平行な磁力線を持つ磁界を前記放電電極間の放電空間に発生する電磁石を有することが望ましい。
その場合、前記電磁石に流す電流を、レーザ光の発振条件又は履歴に応じて変化させるようにすることができる。
本発明においては、露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザ等の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置において、放電領域の幅を狭くし、かつ、放電電極が経時的に劣化しても放電幅が変化しないようにすることができ、必要ガス流速の増大及びファンへの投入電力の増大を抑えて、4kHz以上のさらなる高繰り返し動作と長時間使用を可能にすることができる。
以下に、本発明の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置の原理を説明する。
図1〜図3で例示したような半導体露光用エキシマレーザ、フッ素分子レーザにおいて、主放電電極102、102間の間隔をg、その電極102の幅をWeとするとき、
g/We>3 ・・・(2)
電力入力密度>50mJ/cm3 ・・・(3)
の条件のときに放電幅が狭くなり難いことが実験から分かり、そのとき、放電は電極端部(電極幅方向の端部)からも強く発生していることが分かった。
そこで、本発明では、図4に模式的に考え方を示すように、電極幅と放電幅を略一致させた放電電極において、電極102の幅をg/We>3の条件下で、図4(a)から(b)へ示すように、We1からWe2へ狭くするときに、放電幅もWd1からWd2へ狭くなるが、その際に電極表面電界分布を均一化すると、放電幅はWd3へとより狭くなり、クリアランスレシオの式(1)で与えられる必要流速低減の効果が現れ、4kHzレーザと同じガス流速において、6kHzの高繰り返し動作が可能なった。なお、式(1)の関係があるので、高繰り返し動作で出力を増加させたい場合には、gを大きくするか、あるいは、電極長Lを伸ばすことが必要になる。
また、長時間使用に対しては、電極表面の劣化低減、表面形状の変化抑止のため、電極表面にコーティングを施す、電極材料を選択する(耐磨耗性、耐フッ素反応性、フッ化銅層成長の抑止)ことも実施した。
さらには、長時間使用時の放電広がりに対して、外部電界、外部磁界を印加して抑制することも実施した。
以下に、これらの手段を順に説明する。
まず、放電電極の幅を狭くしたときに電極表面電界分布が均一となるよう電極形状を求め、それによって放電を全領域にわたって均一化させ、その結果電極が均等に消耗し、放電幅が変化しないようにする点について説明する。
主放電電極102では、不平等電界により放電を発生させており、電界分布が不均一な領域が存在する。放電領域の中、光軸(電極長手方向)と垂直な断面において、電極部近傍領域のみ電界分布が不均一であり、その他の領域においては電界分布が均一となっている。そのため、電極部近傍部の電界のみ考慮すればよい。
図5に、電極102間に電位をかけたときの電位分布(等電位面)を示す。電極部近傍において、等電位面の間隔・勾配が不均一になるので、電極表面における電界強度分布を検討した。電界強度分布とは、図5で示される等電位面と直交する電気力線の疎密状態を表し、電気力線が密な箇所は電界が強く、疎な箇所は電界が弱い。
なお、光軸に対して平行な方向においては、電界強度分布が均一であるため、光軸に対して垂直な断面の方向について検討する。
電極部近傍における電界強度分布は、電極表面形状と電極部周辺構造部材形状に依存している。電極表面形状を矩形にした場合、電極端部の電界分布の影響が強くなるため、電極表面形状に曲線部を有することが望ましい。一例として、図6に示すように、電極102の幅Weに対し、電極102の先端部に高さhで表される曲線部を設ける。
電極表面に凸部で示される曲線部を設け、横軸に電極幅、縦軸に電界強度(MagE)分布をとった具体例を図7(a)〜(c)に示す。なお、図7(a)〜(c)には、電極102の先端部の断面形状も合わせて示してある。
電極表面で電界強度が強い場所が放電開始点となる。図7(a)のように、電極曲線部高さhが小さいと、電極端部における電界強度が強くなる。放電が電極端部に集中し放電幅が広がる。また、寿命の点からも、電極端部がより早く消耗するため、放電幅が変化してしまう。図7(b)のように、電極曲線部高さhが大きいと、電極中央部における電界強度が強くなる。放電が電極中央部に集中し、出力が低下する。また、寿命の点からも電極中央部がより早く消耗するため、放電幅が変化してしまう。そのため、図7(c)のように、電界強度分布が均一となるよう電極形状を設定することが望ましい。このような形状においては、放電が全領域にわたって均一化するため、電極が均等に消耗し、放電幅が変化しない。
そこで、図7(c)のように、電界強度分布が均一となるよう電極形状を設定する。そのための設計として、電極構造部材を決定するに当たり、図8に示すように、電極幅をWe及び曲線部高さをhとする。また、このときの放電幅をWdとする。
従来の4kHzレーザの電極形状は、電極幅We=3.0mm、電極表面曲線高さh=0.3mmである。すなわち、
電極幅We 曲線部高さh h/We
3.0mm 0.3mm 1/10
電極幅Weは、寿命の点からも経時変化しない。式(1)のクリアランスレシオCR=v/(f×w)より、安定な放電に必要な放電間におけるガス循環流速v一定の下で、繰り返し周波数fを4kHzから6kHzに可能にするため、Weを狭くすることが好ましい。
電極間ギャップg・電極長Lは必要な出力エネルギに応じて決定する。ここでは、出力15mJのArFエキシマレーザ装置を想定して、g=16mm、L=600mmとする。
電極部周辺構造に関しては、図9(a)に示すように、カソード1022 の根元に絶縁体132を設け、その絶縁体132にて電極1022 の側面部を覆う。また、金属131によりアノード1021 の側面部を覆う。陰極部1022 は高電位側であるため、絶縁体132、陽極部1021 は接地側であるため金属131を用いる。このように電極1021 、1022 の側面部を金属131、絶縁体132で覆うことにより、電極端部における電界強度を緩和し、図9(b)のようにそれぞれを覆わない場合に比較して、図9(c)に示すように、放電幅が電極幅より広がる影響を抑制する効果が期待される。
また、同時に、繰り返し周波数4kHz以上の動作のため、音響波やガス循環の観点から、電極間に滞在する音響波を電極周辺部に逃がすため、図9(a)に示すように、電極の根元に設けた絶縁体132と金属131を放電領域から外側に向かって傾斜角度のついた形状、また、放電に必要なガス循環を維持するため、ガス流速分布が滑らかになる形状とする。
以上のような電極部周辺構造を前提にして、以下の議論は信頼性の高い有限要素法を用いた解析に基づくものである。
電極1021 、1022 間に、約20kVの電位がかかるとして、電極表面における電界強度分布を求めた。
従来の繰り返し周波数4kHzの装置における電極表面形状及び電極表面電界強度分布を図10に示す。電極幅内において、ΔE=電界強度の差、Eave =電界強度平均値とし、その割合ΔE/Eave を求めると、ΔE/Eave =36.9となる。なお、電極曲線部高さは楕円数式で示される形状である。なお、図10で縦軸の“1.E+06" 等は“ 1×10+6" 等を意味する。以下、同じ。
繰り返し周波数4kHz以上のさらなる高繰り返し動作を可能にするために、以下に、電界強度分布が均一となるよう、電極曲線部の断面形状と、電極幅Weと電極曲線部高さhの関係を定め、電極部構造を最適なものにする。
(1)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは楕円数式で示される形状を用いる。
We=2mm、
楕円の関数:x2 /(We/2)2 +y2 /h2 =1、すなわち、
2 +y2 /h2 =1
とする。hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図11に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ(最大レーザ出力エネルギに対する比)、放電幅をとったグラフを図12に示す。
図12から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
レーザ出力エネルギの有効範囲は、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とする。90%以下であると、十分なレーザ出力が得られない。
放電幅Wdの有効範囲は、電極幅Weプラスその15%、すなわち、We+0.3mmより小さい範囲とする。We+0.3mm以上であると、必要なクリアランスレシオCRがとれなくなる。
以上の基準を満たす範囲h/Weの適正範囲は、図12より、
0.11≦h/We≦0.27 ・・・(4)
とすることで、電極表面における電界強度分布が均一化した。図12より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave <30%と改善している。
また、これより、Wd>Weとなっている。
(2)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは双曲線数式で示される形状を用いる。
We=2mm、
双曲線の関数:x2 /(We/2)2 −y2 /h2 =−1、すなわち、
2 −y2 /h2 =−1
とする。hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図13に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフを図14に示す。
図14から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
(1)の場合と同様に、レーザ出力エネルギの有効範囲を、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とし、放電幅Wdの有効範囲を、We+0.3mmより小さい範囲とする。
以上の基準を満たす範囲h/Weの適正範囲は、図14より、
0.12≦h/We≦0.22 ・・・(5)
とすることで、電極表面における電界強度分布が均一化した。図14より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave <30%と改善している。
また、これより、Wd>Weとなっている。
(3)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは高次(3次)関数数式で示される形状を用いる。
We=2mm、
高次(3次)の関数:x3 /(We/2)3 +y3 /h3 =1、すなわち、
3 +y3 /h3 =1
とする。hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図15に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフを図16に示す。
図16から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
(1)の場合と同様に、レーザ出力エネルギの有効範囲を、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とし、放電幅Wdの有効範囲を、We+0.3mmより小さい範囲とする。
以上の基準を満たす範囲h/Weの適正範囲は、図16より、
0.16≦h/We≦0.42 ・・・(6)
とすることで、電極表面における電界強度分布が均一化した。図16より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave <35%と改善している。
また、これより、Wd>Weとなっている。
(4)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは高次(4次)関数数式で示される形状を用いる。
We=2mm、
高次(4次)の関数:x4 /(We/2)4 +y4 /h4 =1、すなわち、
4 +y4 /h4 =1
とする。hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図17に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフを図18に示す。
図18から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
(1)の場合と同様に、レーザ出力エネルギの有効範囲を、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とし、放電幅Wdの有効範囲を、We+0.3mmより小さい範囲とする。
以上の基準を満たす範囲h/Weの適正範囲は、図18より、
0.2≦h/We≦0.68 ・・・(7)
とすることで、電極表面における電界強度分布が均一化した。図18より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave <35%と改善している。
また、これより、Wd>Weとなっている。
(5)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは高次(5次)関数数式で示される形状を用いる。
We=2mm、
高次(5次)の関数:x5 /(We/2)5 +y5 /h5 =1、すなわち、
5 +y5 /h5 =1
とする。hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図19に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフを図20に示す。
図20から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
(1)の場合と同様に、レーザ出力エネルギの有効範囲を、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とし、放電幅Wdの有効範囲を、We+0.3mmより小さい範囲とする。
以上の基準を満たす範囲h/Weの適正範囲は、図20より、
0.2≦h/We≦0.72 ・・・(8)
とすることで、電極表面における電界強度分布が均一化した。図20より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave <35%と改善している。
また、これより、Wd>Weとなっている。
以上の(4)、(5)より、高次関数として4次、5次の場合を検討した結果、h/Weの適正範囲や電界強度分布ΔE/Eave が略同じである。さらに高次の場合でも、略同じ結果を示す。したがって、4次以上の高次関数については、4次、5次の検討のみで十分である。
(6)電極幅Weを狭くする。電極曲線部高さは角丸めで示される形状を用いる。
We=2mm、
図21に断面図を示すように、電極102の電極幅方向の端部に半径rで示される角丸めを付ける。この形状で表される電極曲線部高さhはrと同一となる。
hを変更し、横軸に電極中心からの距離x、縦軸に電極表面上の電界強度E及び電極表面の形状をとったグラフを図22に示す。また、その場合の横軸にh/We、縦軸に電界強度割合ΔE/Eave 、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフを図23に示す。
図23から、ΔE/Eave はh/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave の最小値近辺で使用するために、h/Weの適正範囲を定める。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギ、放電幅から決定する。
(1)の場合と同様に、レーザ出力エネルギの有効範囲を、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲とし、放電幅Wdの有効範囲を、We+0.3mmより小さい範囲とする。
図23より、従来の4kHzレーザ装置における電極表面の電界強度分布(ΔE/Eave =36.9)と比較して、ΔE/Eave が高くなり、h/Weの適正範囲として有効な範囲が得られない。
以上の結果から、繰り返し周波数4kHz以上のさらなる高繰り返し動作を可能にするための主放電電極1021 、1022 の断面形状の具体的な一例として次のようなものが得られる。
電極幅We 曲線部(楕円数式)高さh h/We
2.0mm 0.3mm 3/20
とした際の電極表面における電界強度分布を図24に示す。
この具体例における電極表面における電界強度最大値は、2.0×106 V/mであり、電極幅内における(電界強度の差)/(電界強度平均値):ΔE/Eave =9.8%であり、レーザ出力エネルギ(最大レーザ出力エネルギに対する比)は100%、放電幅は2.18mmである。
以上の検討では、電極幅Weを2mmとして検討したが、電極幅Weが10%変化する範囲、すなわち、We=2mm±0.2mmの範囲で以上の検討結果は適用できることが分かっている。
以上より、繰り返し周波数4kHz以上のさらなる高繰り返し動作を可能で、電界強度分布が均一な、電極幅We、電極曲線部高さhからなる電極102(1021 、1022 )が得られた。電極曲線部高さhは、断面が楕円数式、双曲線数式、高次関数数式で示される形状を用いた。電極表面における電界強度分布から、電界強度の割合ΔE/Eave は、h/Weに対して最小値を持つ。ΔE/Eave 最小値近辺で使用するため、h/Weの適正範囲を定めた。h/Weの適正範囲は、レーザ出力エネルギと放電幅Wdから決まる。
そのレーザ出力エネルギの有効範囲は、最大レーザ出力エネルギの90%より大きい範囲である。
放電幅Wdの有効範囲は、電極幅Weプラスその15%より小さい範囲である。
結果として、h/Weの適正範囲は、電極表面がとる関数毎に異なる。
(1)電極曲線部高さが楕円数式で示される形状の場合:
h/Weの適正範囲
0.11≦h/We≦0.27 ・・・(4)
電界強度の割合ΔE/Eave :30%以下
である。
(2)電極曲線部高さが双曲線数式で示される形状の場合:
h/Weの適正範囲
0.12≦h/We≦0.22 ・・・(5)
電界強度の割合ΔE/Eave :30%以下
である。
(3)電極曲線部高さが3次関数数式で示される形状の場合:
h/Weの適正範囲
0.16≦h/We≦0.42 ・・・(6)
電界強度の割合ΔE/Eave :35%以下
である。
(4)電極曲線部高さが4次以上の高次関数数式で示される形状の場合:
h/Weの適正範囲
0.2≦h/We≦0.68 ・・・(7)
電界強度の割合ΔE/Eave :35%以下
である。
電極曲線部高さが楕円数式、双曲線数式で表される形状の場合に、ΔE/Eave ≦30%となり、高次関数((3)、(4))と比較して、より適切な形状を示していると言える。
同時に、図9を参照にして説明したように、電極の側面部を金属や絶縁体で覆い、電極端部における電界強度を緩和し、放電幅が電極幅より広がる影響を抑制するようにすることで、電極表面電界分布を均一化し、クリアランスレシオの式(1)で与えられる必要流速低減の効果が現れ、さらなる高繰り返し動作が可能となる。
ところで、以上において、電極幅Weは、陽極(接地側)1021 と陰極1022 とで共に等しく、We=2mm±0.2mmの範囲としたが、接地側電極1021 の電極幅Weに対して陰極側電極1022 の電極幅We’は、We(1−0.25)≦We’≦Weの範囲で、上記の検討が有効に適用できることが実験結果より分かっている。
また、以上の検討においては、陽極1021 と陰極1022 の表面形状が等しい場合であるが、陽極1021 と陰極1022 の表面形状が異なる場合であっても、それぞれの電極の形状が上記(1)〜(4)の何れかであり、かつ、その場合のh/Weをそれぞれ上記(1)〜(4)で適正範囲とした範囲にある限り、界強度の割合ΔE/Eave を35%以下とすることができる。その場合の一例として、
陽極1021 の高さが楕円数式で示され、
電極幅We 曲線部(楕円数式)高さh h/We
2.0mm 0.4mm 4/20
陰極1022 の高さが双曲線数式で示され、
電極幅We 曲線部(楕円数式)高さh h/We
2.0mm 0.4mm 4/20
とした際の電極表面における電界強度分布を図25に示す。この例における電極表面における電界強度最大値は、2.0×106 V/mであり、電極幅内における(電界強度の差)/(電界強度平均値):ΔE/Eave =11%であり、レーザ出力エネルギ(最大レーザ出力エネルギに対する比)は98%、放電幅は2.12mmである。
図7を参照にして説明したように、放電電極の寿命の点では、電極端部に電界強度の極めて大きな点が存在したり(図7(a))、電極中央部に電界強度の極めて大きな点が存在する(図7(b))と、その箇所が放電開始点となるため、電極の消耗度に不均一性を生じる。上記の(1)〜(4)の条件を満たす表面形状の放電電極では、電界分布が均一化しているため電極が均等に消耗し、放電幅が変化しないので、寿命の点からも有利である。
次に、さらなる長時間動作における、電極表面の劣化低減、表面形状の変化抑止のための、電極表面コーティング、電極材料選択、さらに、長時間使用時の放電広がりに対する外部電界、外部磁界を印加しての抑制等を以下に説明する。
まず、電極表面コーティング、電極材料選択について説明する。
以上説明したように、高繰り返し動作における放電幅制御では、電極の形状が重要である。しかしながら、例えばエキシマレーザを長時間動作させることで電極形状は変動して行く。この変動は、電極の損傷により発生する。電極の損傷としては、レーザガス中のフッ素による化学変化(金属のフッ化)や、放電によるスパッタリングがある。フッ素による化学変化では、フッ化の不均一性による電極表面形状の変動を引き起こす。また、放電によるスパッタリングでは、電極材料の離脱により電極高さが減少し、電極近傍の電界分布が変化する。何れにしても、以上説明した主放電電極の形状を実際に適用するためには、初期の電極形状を維持し、放電幅を設計値通り維持することが重要である。
電極の初期形状を維持して電極寿命を延伸するためには、特許文献5や特許文献6で提案されているような電極構造が非常に有効である。特許文献5に記載のものは、電極の放電部に誘電体、絶縁体をコーティングするものであり、その誘電体、絶縁体に金属微粒子を混合したものでもよい。誘電体、絶縁体としては、例えばフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム等のフッ化物や酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等のセラミックスが用いられる。特許文献6に記載のものは、レーザガスに含まれるフッ素(ハロゲンガス)と反応し難い物質の膜を電極の放電部に形成するものであり、その膜には、電極の金属よりも硬度が高い物質又は融点が高い物質が用いられる。そのフッ素と反応し難い物質としては、絶縁体あるいは絶縁体と導体との混合物が用いられる。
すなわち、この電極では、母材を金属とし、この母材をレーザガス中のフッ素による化学変化や、放電によるスパッタリングから保護するために、放電面にフッ素耐性の強いアルミナ等のセラミックス等からなるコーティングを配置している。さらに、電気伝導度を維持するために、セラミックス内に金属が適切に配置されている。この長寿命電極を用いることで、電極は200億回のレーザショット後にも、略初期の電極形状を維持している。また、長寿命電極の消耗重量は、一般的な金属電極と比べて、1/20にまで低減できる。
この長寿命電極は、フッ素による化学変化が起きた後も、その影響を最小限に止めるメカニズムに基づいて製作されている。それは、金属フッ化物が金属母材から離脱しないようにしているからである。電極が消耗してしまうのは、以下のようなメカニズムによる。放電中にフッ素に晒された電極表面ではフッ化が進行する。例えばエキシマレーザを発振するための放電では、放電の温度は数万度にも達し、いかにフッ素耐性の高い材料と言えどもフッ化を免れることはできない。そのような高温の放電中では、フッ素は通常の存在形態であるF2 ではなく、エネルギ状態の高いラジカル(F+ 、F- 、F* )として存在し、非常に高いフッ化能力を持つ。さらに、原子半径が比較的小さいフッ素は、電極部材の表面からたやすく母材内に進入し、表面から数百マイクロメートルの母材内部からフッ化を起こす。上記の長寿命電極ではない通常の電極では、この作用によって母材表面が非常に脆くなり、母材との結合が弱まる。この状態で放電のスパッタリングが起きると、フッ化された部分は電極から剥離してしまう。そこで、上記長寿命電極では、この剥離が起きない構造の電極となっている。例えば強固なフッ化膜を形成、そのフッ化膜が母材金属と緊密に結合する構造を構成しているのである。これにより、電極の放電面形状や、電極母材がフッ素や放電から保護されている。
この長寿命電極をさらに長寿命化するためには、電極放電面形状の変動をさらに抑制することが有効である。様々な実験結果より、電極表面形状の変動は、以下のような仕組みで起こることが分かっている。
長寿命電極では、上記のような母材の剥離を起こさないような構造を持っている。しかしながら、剥離を起こさない分、金属はフッ化金属として、母材表面に留まる。一般的にフッ化金属の特徴として、単体金属よりも比重が小さい。例えば、銅単体では比重が8.9に対し、フッ化銅では、比重がおおよそ4である。したがって、電極の劣化が進むにつれて金属部分がフッ化されることにより、電極表面は2倍に膨張することになる。この結果、上記のような長寿命電極では、母材表面にフッ化金属の層が形成され、その体積は初期の電極に比べて大きくなる。すなわち、電極が膨張することとなる。図26にこの膨張の様子を示す。電極の母材102Aにアルミナ等のコーティング層102Cが設けられ、初期には符号1(実線)で示す電極形状となっているが、長時間動作後に母材102A表面にフッ化金属の層が形成され、その体積が膨張することにより、符号2の破線で示す形状に膨張する。長寿命電極では損傷は極めて均一に起こるため、200億回パルス程度のショット数後では、電極の放電面の変動は小さいが、400億回パルス以上のショット数では、電極放電面形状変動は無視できないものとなる。そこで、さらにレーザを長い間にわたって安定に動作させるためには、電極表面のこのような膨張を抑制する必要がある。
さらに、電極母材表面でのフッ化物の厚みを薄く維持することができれば、電極の初期状態が長く維持することとなり、レーザの発振効率の低下も抑制できる。そのための手段を以下に述べる。
(1)長寿命電極構造の放電面部分に緩衝地帯を設ける:
電極の母材金属がフッ化物に化学変化し、膨張しても、膨張部分を吸収する空間を電極表面のコーティング層102C中に配置することで、電極全体の膨張を抑制することができる。このためには、図27に示すように、長寿命電極の構造部分である例えば金属微粒子を混合したアルミナ等のセラミックス層102C中に空孔3を配置したものを用いる。この空孔3は数〜数10マイクロメートルの直径のものである。そのようなコーティング層102Cの製作法としては、次のような手法を用いる。
電極母材102A上にセラミックスの空孔率の高い溶射を行う。空孔率(ポロシティ)は、電極の母材102Aの比重とそのフッ化したときの比重との差を吸収するように設定する。例えば銅を母材102Aとしたときには、空孔率としては、30〜70%が適当になる。
(2)長寿命電極構造の母材部分の上部に緩衝地帯を設ける:
電極の母材金属がフッ化物に化学変化し、膨張しても、膨張部分を吸収する空間を電極母材102A表面近傍に設けることで、電極全体の膨張を抑制することができる。このためには、図28に示すように、電極母材102A部分に空孔4のある母材を用いる。この空孔は、数〜数10マイクロメートルの直径のものである。そのような母材の製作法としては、次のような手法を用いる。
2−A.母材金属焼結時に、微小なプラスチック球を混入させて焼結する。焼結時の高温により、プラスチック球は飛び去り空孔4のある金属が完成する。
2−B.電極母材102A上に、母材材料の空孔率の高い溶射を行う。空孔率(ポロシティ)は、母材102Aの比重とフッ化したときの比重との差を吸収するように設定する。例えば銅を母材102Aとしたときには、空孔率としては、30〜70%が適当になる。
2−C.上記2−A.と2−B.とを共に行う。
(3)長寿命電極構造の母材部分に緩衝材を添加する:
長寿命電極の電極母材102A部分(図26)に、フッ化したときに剥離しやすい金属を混入する。これにより、長寿命電極母材102Aがフッ化していった場合、その混入金属が表面のコーティング層102Cの微細な孔を通して電極から離脱し、その空いた空間に主材料のフッ化物が膨張でき、長寿命電極全体としての膨張を抑制することができる。長寿命電極母材を2種類以上の金属からなる合金で製作した場合、主母材として銅、混合材料としては、亜鉛、ニッケル等があげられる。フッ化亜鉛、フッ化ニッケルは、フッ化銅に比較して蒸発しやすく、上記の剥離しやすい金属フッ化物に相当する。具体的な合金としては、真鍮、白銅、洋白銅がよい。混合比は、母材の比重とフッ化したときの比重との差を吸収するように設定する。例えば銅を母材としたときには、混合比としては、30〜70%が適当になる。
(4)長寿命電極の側面に放電抑制部材を配置する:
長寿命電極が劣化したときに、放電幅に影響を与える要因は、上記のような電極放電面形状の変動であるが、さらに電極側面である母材102A側面の膨張がある。図26に示したように、電極膨張が進むと、電極側面も膨張してしまう。これは、電極側面にある程度の放電回り込みが発生し、電極側面からフッ化が進行し、電極幅を広げる作用のためである。そこで、図29に示すように、長寿命電極側面に、絶縁物若しくは金属導体を添加した絶縁物のコート102Bを配置する。これにより、電界の緩衝体の役目を持たせる。この絶縁物若しくは金属導体を添加した絶縁物は、単に配置するだけでは効果がない。放電は数マイクロメートルの隙間でも進展し、電極表面温度を上昇させるからである。その結果、金属表面がフッ化し、膨張を起こしてしまう。そのため、この絶縁物若しくは金属導体を添加した絶縁物のコート102Bは電極に密着し、隙間なく配置しなければならない。コート102Bの最も密着性が高く効果のある製作方法としては溶射法が適している。
次に、長時間使用時の放電電極間の放電の広がりに対して、外部電界、外部磁界を印加することでその広がりを抑制する構成を説明する。
まず、電界制御の実施例について説明する。図30は、本実施例に係るエキシマレーザ装置の平面図、図31はそのA−A視断面図を示している。なお、以下の説明において、図31における紙面と垂直な方向を長手方向、長手方向に垂直でガス流の流れる図中左右方向を左右方向、長手方向及びガス流方向に垂直で、図中上下方向を上下方向と言う。
図30、図31において、エキシマレーザ装置100は、例えばフッ素(F2 )、クリプトン(Kr)、及び、ネオン(Ne)を含むレーザガスが所定の圧力比で密封されたレーザチャンバ101を備えている。レーザチャンバ101の内部には、上記のような本発明に基づく放電面形状を持ったアノード1021 及びカソード1022 からなる主放電電極1021 、1022 が放電空間16を挟んで上下方向に対向して配設されている。レーザガスは、主放電電極1021 、1022 間の主放電35によって放電空間16で励起され、長手方向にレーザ光11を発生する。
発生したレーザ光11は、リアウィンドウ9から後方(図30中左方)に出射し、レーザチャンバ101の外部後方に設けられた狭帯域化ユニット20に入射する。レーザ光11は、その内部でプリズム22、22によってビーム幅を広げられ、グレーティング23によって発振波長のスペクトル幅を狭帯域化される。狭帯域化されたレーザ光11は、リアウィンドウ9からレーザチャンバ101に再入射し、フロントウィンドウ7及びフロントミラー8から出射する。このとき、レーザチャンバ101の前後には、開口部45を有するスリット48、48が配設されている。これにより、発振するレーザ光11のビーム幅を開口部45の幅にまで細くし、レーザ光11の発散角を小さくすることにより、狭帯域化した場合の発振スペクトルがより細くなるようにしている。
図31に示すように、レーザチャンバ101内部には、レーザガスをレーザチャンバ101内部で循環させて放電空間16に送り込む貫流ファン14と、放電によって熱を与えられたレーザガスを冷却するための熱交換器107とが、それぞれ所定位置に設置されている。このときのレーザガスのガス流36は矢印で表され、放電空間16を図中左から右に流れている。放電空間16に対する図中左側を上流側、右側を下流側とそれぞれ呼ぶ。アノード1021 の側方には、銅等でできた棒状の内部導電体26と、この外周を包囲する誘電体27とで構成された予備電離電極18が配設されている。そして、主放電電極1021 、1022 間の上下方向略中間位置の、ガス流36に対して上流側及び下流側には、銅等からなる棒状の導電体によって構成された電界制御電極37、37が、長手方向に主放電電極1021 、1022 に略平行に配置されている。
主放電電極1021 、1022 の形状変化等により電極間が不平等電界となった場合、主放電の起こる範囲が広くなってしまう。これに対して電界制御電極37、37に電圧−VEを印加することにより、図32に示すように、平等電界に近づけることができる。これにより、主放電の範囲を狭くすることができる。
さらに、主放電35の直前にアノード1021 と内部導電体26との間に起きる予備放電19により放電空間に発生したマイナスの電荷を有している電子は、左右の電界制御電極37、37に印加されているマイナスの電界制御電圧(−VE)によって反発力を受け、放電空間16の内側へと押し込まれる。これにより、予備放電19の起きる領域が左右方向に狭まるため、レーザガスが予備電離される範囲も左右方向に狭まる。レーザガスは予備電離された範囲が優先的に主放電35に寄与するので、これによっても主放電35の起きる範囲が狭まり、放電空間16の左右方向における膨張を抑えて主放電の範囲を狭くすることができる。特に、図33に示すように、幅の狭い主放電電極1021 、1022 を使用している本発明の場合には、放電空間の幅が広がりやすいので効果が大きい。
本実施例に係る電界制御電極37の形状の他の例を示す。図34は別の形状の例を示す図であり、電界制御電極37を網状としている。これにより、電界制御電極37がガス流36を妨げる度合いが小さくなり、例えば一部の領域で極端にガス流速が低下するようなことがないので、レーザ光11のパワーや発振周波数を上げることが可能である。さらに、放電空間16に対して一様に電界制御電圧(−VE)を印加できるので、主放電35によって放電空間16を移動する電子が確実に内側へ押し込められ、放電空間16をより効率良く狭めることが可能となる。また、カソード1022 を出たばかりのところから電子が押し込め力を受けるので、電子がより垂直に近い動きをする。したがって、放電空間16の形状がより長方形に近づき、ビームプロファイルが整ったものになる。なお、他の応用例として、棒状の細い電界制御電極37を複数本、主放電電極1021 、1022 に平行に上下方向に並べるようにしてもよい。また、網状の電極を流速に影響を与えない程度の金属の多孔体としてもよい。この場合、さらに放電空間から発生した音響波の低減効果も期待できる。
図35はさらに別の形状の例を示す図であり、電界制御電極37の断面形状を流線形の、例えば水滴状としている。これにより、電界制御電極37がガス流36を妨げる度合いがさらに小さくなり、ガス流速が低下しないので、発振周波数を上げることが可能である。
図36はさらに別の形状の例を示す図であり、電界制御電極37を、棒状の導電体39の周囲を誘電体チューブ38で覆った形状とし、導電体39に電界制御電圧(−VE)を印加している。これにより、電界制御電極37と、主放電電極1021 、1022 や他のレーザチャンバ101内の部品との間で寄生放電が起きるようなことがなく、主放電35が安定する。
次に、別の実施例について説明する。図37に、本実施例に係る電極の詳細図を示す。図37において、外部電源44と高圧電源13とは、何れもエキシマレーザ装置100をコントロールするレーザコントローラ54に接続され、その指示に基づいて電圧を印加するようにしている。なお、図37において予備電離電極は図示を省略する。レーザコントローラ54は、例えば図示しない加工機からの指令に基づき、レーザ光11の発振周波数を決定する。そして、レーザコントローラ54は発振周波数を高圧電源13に指示し、高圧電源13は主放電35を行ってレーザ光11を発振周波数でパルス発振させている。
このとき、レーザコントローラ54は外部電源44にも指令信号を出力し、電界制御電圧(−VE)の値を適切な値に定めている。このレーザコントローラ54は、外部電源44に出力する指令信号の値を、例えば放電空間16が大きく広がるような発振周波数であれば強めの電界制御電圧(−VE)を、さほど広がらない発振周波数であれば弱めの電界制御電圧(−VE)を、それぞれ印加するようにしている。これにより、常に一定の形状の放電空間16が得られ、ビームプロファイルが安定する。
ところで、主放電電極1021 、1022 は主放電35を長時間行うにつれて次第に消耗し、電極間の電界が変化しビームプロファイルが変動することが知られている。これを防止するため、主放電35を行った時間又はパルス放電数に応じて、レーザコントローラ54から外部電源44に指令を送り、電界制御電極37に印加する電界制御電圧(−VE)を制御することにより放電空間16の形状を安定化することが可能である。図38はそのとき制御の概略のフローチャートである。
あるいは、図39に概略の制御のフローチャートを示すように、エキシマレーザ装置100から発振したビームプロファイルをビームプロファイル検出器等で常にモニターし、このビームプロファイルの変動に基づいて電界制御電圧(−VE)を制御するようにしてもよい。このようにすれば、ビームプロファイルの変動を抑制し、常に安定したビームプロファイルを得ることが可能となる。図中、BPはビームプロファイルを、PEはパルスエネルギを示しており、ビームプロファイルを取得して仕様(スペック)と比較する代わりに、パルスエネルギを取得して規定値と比較するようにしても、同様に常に安定したビームプロファイルを得ることが可能となる。
ところで、エキシマレーザ装置100の使用期間中に電界が変化する大きな原因は、アノード1021 の放電面の変形によるものである。そのため、図40に示したように、アノード1021 近傍に電界制御電極37、37を配置することが望ましい。電界制御電極37、37の形状は、上記したように流れに対する抵抗が少なくなるような形状(図34、図35)や、電界制御電極37−カソード1022 間に放電が起きないようにセラミックスを溶射したりセラミックスのチューブで覆う(図36)ことができる。電界制御電極37、37の配置は、図40に示したように、アノード1021 の上流と下流に配置する配置が最も効果的であるが、何れか一方に配置するようにしてもよい。
次に、長時間使用時の放電電極間の放電の広がりに対して、外部磁界を印加することでその広がりを抑制する磁界制御の実施例について説明する。図41は1実施例に係わる放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。図41において、図示しないレーザチャンバ内には、主放電電極1021 と1022 が配設され、カソード1022 は絶縁体132に取着されており、アノード1021 はカソード1022 に対向して配設されている。また、カソード1022 はカソード電線133により高電圧回路に接続され、アノード1021 はアノード戻り電線134により接地(アース)に接続されている。また、主放電電極1021 と1022 とは永久磁石で構成し、高電圧側と接地側とはそれぞれ異なった極性を持つ磁極で構成され、対向されている。ここでは、高電圧側の電極1022 をN極、接地側の電極1021 をS極としている。なお、N極、S極の方向は逆でも同等の効果が得られる(この効果は以下も同様であるので記載はしない。)。磁化は、図44に示したように、強磁性体とコイルの組み合せで行う。その他の構成は図示しないが、従来のレーザ装置と同様である。
上記構成において、次にこの方式による放電の動作と特徴について説明する。放電によって生成される荷電粒子(イオン、電子)はアノード1021 とカソード1022 の間に印加された電界(E)によるクーロン力により電気力線Pに沿って移動しながらレーザー活性を持つ励起領域を形成し、レーザの励起を行う。従来はこの電気力線Pのみが荷電粒子を拘束する条件となっていたため、この電気力線Pの電束密度分布(電気力線の混み具合)が大きい部分では励起する放電電流密度も高く、レーザガスの利得も高くなる。したがって、電極の消耗による電極形状の変化等が起きてこの電気力線Pの変化が引き起こされるような場合には、放電方向の電束密度分布が変化を起こす。すなわち、電気力線Pの変化がそのまま荷電粒子の移動経路の変化を引き起こし、放電領域の変化、すなわち、レーザビーム形状の変化を引き起こしていた。この変化を抑制するために、本発明では、上述の通り、この電界と平行させて磁界を印加させる構造としている。一般に電界(E)と磁界(B)の中に存在する荷電粒子にはローレンツ力が作用する。理想的には、電界の方向と磁界の方向が直線で、かつ、平行で一致している場合には、速度Vで移動する荷電粒子(電荷q)には力として磁界に垂直な面内で円運動を行いながら電界の方向に移動し、その軌跡はらせん状になる(いわゆる、サイクロトロン運動)。図42は一様磁界中の電子及びイオンのら旋運動を示し、図42(a)は側面図を、図42(b)は平面図を示す。図42では、Bは磁界、aは電子、bはイオン、rce、rciはそれぞれ電子、イオンの回転の半径を示す。この場合は、荷電粒子は磁力線に拘束され、拡散による放電の拡がりは抑制される。
いま、仮に電気力線の方向が電極の消耗等で変化し、外側に凸状に変化した場合を考えると、これらは等価的に外向きの電界成分が発生する。この場合には、サイクロトロン運動のらせんの半径が運動方向と電界方向との関係により増減し、図43に示すように、E×B方向にドリフトする(いわゆる、E×Bドリフト)。図43では、一様な磁界(磁束密度B)とそれに垂直な一様な磁界Eが存在する場合、サイクロトロン運動を行っている荷電粒子は、その旋回運動の過程において、半周期毎にqEなる電界による加速と減速を受け、その度毎に速度vの増減と、それに伴う旋回半径rc の増減が起こる。この結果、粒子は電荷の符号に関係なくベクトル積E×Bの方向に移動運動する。したがって、電界方向と垂直方向に荷電粒子が移動するため、この場合も電気力線の拡がりによる放電の拡がりを抑制することができる。
図44は、磁界制御の別の実施例の放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。図44において、電極1021 と1022 とをニッケル、コバルトあるいは鉄等の強磁性金属、あるいは、これらの合金の強磁性金属で構成して対向して配置する。電極1022 のカソードは絶縁体132に取着されている。電極1021 のアノードは電極1022 に対向して配設されている。また、カソード1022 はカソード電線133により高電圧回路に接続され、アノード1021 はアノード戻り電線134により接地(アース)に接続されている。アノード1021 及びカソード1022 の両方端面(R)の近傍にはコイル144が配設されている。コイル144には図示しない配線が接続されている。
上記構成において、その作動について説明する。この場合には、コイル144に通電することによりカソード1022 及びアノード1021 は通電により電磁石を形成し、高電圧側と接地側とはそれぞれ異なった極性を持つ磁極で構成され、対向されている。通電の強度を強くすることにより、電極間に形成される磁界強度が強められ、ビームの安定性がさらに向上する。
図45は、磁界制御のさらに別の実施例の放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。図45において、電極1021 と1022 とは強磁性あるいは常磁性金属で構成し、かつ、対向して配置し、さらに、アノード1021 とカソード1022 の下部には当接してニッケル、コバルト及び鉄等の強磁性金属、あるいは、これらの合金よりなる電磁石体151、152を配置している。また、アノード1021 、カソード1022 、及び、電磁石体151、152の両方端面(W)の近傍にはコイル144が配設されている。コイル144には図示しない配線が接続されている。
上記構成において、その作動について説明する。この場合には、コイル144に通電することにより電磁石体151、152は通電により電磁石を形成し、高電圧側と接地側とはそれぞれ異なった極性を持つ磁極になり、対向されている。したがって、アノード1021 とカソード1022 もそれぞれ異なった極性を持つ磁極になり、かつ、通電の強度を強くすることにより、電極間に形成される磁界強度が強められ、ビームの安定性がさらに向上する。
ところで、主放電電極1021 、1022 は長時間放電を行うにつれて次第に消耗し、電極間の電界が変化しビームプロファイルやパルスエネルギのレーザ性能が変動することが知られている。これを防止するため、磁界制御においても電磁石の磁力を制御することによりこのレーザ性能の変化を抑えることができる。その際には、電磁石に流れる電流を制御する。電流の大きさは、上記のレーザ性能をセンサー等で監視しておき、仕様(スペック)を満たすように決定する。図46はそのとき制御の概略のフローチャートである。図46に示すように、エキシマレーザ装置100から発振したビームプロファイル(BP)あるいはパルスエネルギ(PE)をビームプロファイル検出器等で常にモニターし、このビームプロファイルの変動に基づいて電磁石に流れる電流を制御するようにする。このようにすれば、ビームプロファイルあるいはパルスエネルギの変動を抑制し、常に安定したビームプロファイル、パルスエネルギを得ることが可能となる。
ところで、主放電電極1021 、1022 は主放電35を長時間行うにつれて次第に消耗し、電極間の電界が変化しビームプロファイルが変動することが知られている。これを防止するため、主放電35を行った時間又はパルス放電数に応じて、レーザコントローラ54から外部電源44に指令を送り、電界制御電極37に印加する電界制御電圧(−VE)を制御することにより放電空間16の形状を安定化することが可能である。図47はそのとき制御の概略のフローチャートである。図47に示すように、発振回数に応じてフィードフォアードで電流の大きさを制御するようにしてもよい。
以上、本発明の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置を主としてエキシマレーザについて説明したが、放電励起のレーザ装置全てについて適用可能であり、特にフッ素レーザについてはエキシマレーザと全く同様に適用可能である。また、本発明は以上の実施例に限定されず種々の変形が可能である。
本発明が適用可能なレーザ発振器1台のみからなる露光用ガスレーザ装置の構成例を示す図である。 本発明が適用可能なMOPA方式の2ステージレーザ装置の構成例を示す図である。 本発明が適用可能な増幅段の共振器に不安定共振器を用いたインジェクションロック方式の2ステージレーザ装置の増幅段レーザの構成例を示す図である。 本発明における電極幅と放電幅を狭める考え方を模式的に示す図である。 主放電電極間に電位をかけたときの電位分布(等電位面)の一例を示す図である。 電極の幅Weに対し電極の先端部に高さhで表される曲線部を設けた電極表面形状を示す図である。 電極表面に凸部で示される曲線部を設け、横軸に電極幅、縦軸に電界強度分布をとった従来の具体例を示す図である。 電極幅We、曲線部高さh、放電幅Wdを示す図である。 電極部周辺構造とその作用効果を説明するための図である。 従来の繰り返し周波数4kHzの装置における電極表面形状及び電極表面電界強度分布を示す図である。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが楕円数式で示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図11の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが双曲線数式で示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図13の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが高次(3次)関数数式で示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図15の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが高次(4次)関数数式で示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図17の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが高次(5次)関数数式で示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図19の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 電極の電極幅方向の端部に角丸めを付けた場合の電極の断面図である。 電極幅を狭くし、電極曲線部高さが角丸めで示される形状とする場合の電極表面上の電界強度及び電極表面の形状をとったグラフである。 図22の場合のh/Weに対する電界強度割合、レーザ出力エネルギ、放電幅をとったグラフである。 本発明の具体的な一例の主放電電極の電極表面における電界強度分布と電極形状を示す図である。 本発明において陽極と陰極の表面形状が異なる場合の電極表面における電界強度分布と電極形状を示す図である。 長寿命電極において電極の劣化が進むにつれて電極が膨張する様子を示す図である。 本発明に基づき長寿命電極構造の放電面部分に緩衝地帯としてセラミックス層中に空孔を配置する構成を示す断面図である。 本発明に基づき長寿命電極構造の母材部分の上部に緩衝地帯として空孔を配置する構成を示す断面図である。 本発明に基づき長寿命電極の側面に放電抑制部材として絶縁物のコートを配置する構成を示す断面図である。 放電の広がりを電界制御する実施例に係るエキシマレーザ装置の平面図である。 図30のA−A視断面図である。 電界制御電極に電圧を印加することにより平等電界に近づけることができる様子を示す図である。 本発明の幅の狭い主放電電極を使用する場合に電界制御が有効であることを示す図である。 電界制御電極を網状とした例を示す図である。 電界制御電極を水滴状とした例を示す図である。 電界制御電極を棒状の導電体の周囲を誘電体チューブで覆った形状とした例を示す図である。 電界制御電極に印加する電界制御電圧を制御するための回路構成を示す図である。 主放電を行った時間又はパルス放電数に応じて電界制御電極に印加する電界制御電圧を制御する例の概略のフローチャートである。 発振したビームプロファイルの変動に基づいて電界制御電圧を制御する例の概略のフローチャートである。 アノード近傍に電界制御電極を配置する例を示す図である。 放電の広がりを磁界制御する実施例に係わる放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。 一様磁界中の電子及びイオンのら旋運動を示す図であり、(a)は側面図を、(b)は平面図である。 電気力線が外側に凸状に変化した場合にサイクロトロン運動のらせんの半径が運動方向と電界方向との関係により増減し、E×B方向にドリフトする様子を説明するために図である。 磁界制御の別の実施例の放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。 磁界制御のさらに別の実施例の放電励起レーザ装置の電極部の拡大概略図である。 発振したビームプロファイル等の変動に基づいて電磁石に流す電流を制御する例の概略のフローチャートである。 発振回数に応じてフィードフォアードで電磁石に流す電流を制御する例の概略のフローチャートである。
符号の説明
1…初期の電極形状
2…膨張した電極形状
3…空孔
4…空孔
7…フロントウィンドウ
8…フロントミラー
9…リアウィンドウ
11…レーザ光
13…高圧電源
14…貫流ファン
16…放電空間
18…予備電離電極
19…予備放電
20…狭帯域化ユニット
22…プリズム
23…グレーティング
26…内部導電体
27…誘電体
35…主放電
36…ガス流
37…電界制御電極
38…誘電体チューブ
39…導電体
45…開口部
48…スリット
44…外部電源
54…レーザコントローラ
100…エキシマレーザ装置
101…レーザチャンバ
102…主放電電極
1021 …アノード(主放電電極)
1022 …カソード(主放電電極)
102A…電極の母材
102B…絶縁物のコート
102C…コーティング層
103…高電圧パルス発生装置
104…ファン
105…狭帯域化モジュール
106…出力鏡
107…熱交換器
110…発振段レーザ(オシレーター)
111…レーザチャンバ
113…狭帯域化モジュール
114…拡大プリズム
115…グレーティング(回折格子)
116…フロントミラー
117、117’…電源
118…リアミラー
120、120’…増幅段(アンプ)
121… 同期コントローラ
122…ウィンドー部材
123…穴
131…金属
132…絶縁体
133…カソード電線
134…アノード戻り電線
144…コイル
151、152…電磁石体

Claims (12)

  1. 少なくとも、レーザガスを封入するレーザチャンバと、そのレーザチャンバ内部に対向して平行に設置された少なくとも一対の細長いアノードとカソードを有する放電電極とを備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面形状が、電極長手方向に直交する断面において凸面の曲線形状であり、
    接地電位の電極の幅Weと放電電極間の最小間隔gがg/We>3の関係を有し、
    前記放電電極間へ4KHz以上のパルス繰り返し数で、50mJ/cm3 以上の密度の電力を供給する電源を備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が双曲線であり、
    電極幅内において、ΔE=電界強度の差、Eave =電界強度平均値とし、その割合ΔE/Eave が35%以下であり、
    0.12≦h/We≦0.22 ・・・(5)
    の関係を満たす(ただし、hは電極曲線部高さ)ことを特徴とする放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  2. 少なくとも、レーザガスを封入するレーザチャンバと、そのレーザチャンバ内部に対向して平行に設置された少なくとも一対の細長いアノードとカソードを有する放電電極とを備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面形状が、電極長手方向に直交する断面において凸面の曲線形状であり、
    接地電位の電極の幅Weと放電電極間の最小間隔gがg/We>3の関係を有し、
    前記放電電極間へ4KHz以上のパルス繰り返し数で、50mJ/cm3 以上の密度の電力を供給する電源を備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が、次の式で表現される高次関数(ただし、hは電極曲線部高さ、xは電極の幅方向の位置座標、yは電極の凸面
    方向の座標、Nは3以上の整数)であり、
    N /(We/2)N +yN /hN =1 ・・・(A)
    電極幅内において、ΔE=電界強度の差、Eave =電界強度平均値とし、その割合ΔE/Eave が35%以下であり、
    前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状がN=3の高次関数であり、
    0.16≦h/We≦0.42 ・・・(6)
    の関係を満たすことを特徴とする放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  3. 少なくとも、レーザガスを封入するレーザチャンバと、そのレーザチャンバ内部に対向して平行に設置された少なくとも一対の細長いアノードとカソードを有する放電電極とを備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面形状が、電極長手方向に直交する断面において凸面の曲線形状であり、
    接地電位の電極の幅Weと放電電極間の最小間隔gがg/We>3の関係を有し、
    前記放電電極間へ4KHz以上のパルス繰り返し数で、50mJ/cm3 以上の密度の電力を供給する電源を備え、
    前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状が、次の式で表現される高次関数(ただし、hは電極曲線部高さ、xは電極の幅方向の位置座標、yは電極の凸面方向の座標、Nは3以上の整数)の何れかであり、
    N /(We/2)N +yN /hN =1 ・・・(A)
    電極幅内において、ΔE=電界強度の差、Eave =電界強度平均値とし、その割合ΔE/Eave が35%以下であり、
    前記アノード及び前記カソードの放電面の前記凸面の曲線形状がN≧4の高次関数であり、
    0.2≦h/We≦0.68 ・・・(7)
    の関係を満たすことを特徴とする放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  4. 前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記コーティング層中に空孔が配置されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  5. 前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の表面近傍に空孔が配置されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  6. 前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の金属としてフッ化したときに前記母材から剥離しやすい金属が混入されていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  7. 前記放電電極の少なくとも一方の金属からなる母材の表面に誘電体、絶縁体若しくは金属微粒子を混合した誘電体、絶縁体からなるコーティング層が設けられ、前記母材の側面に絶縁物若しくは金属導体を添加した絶縁物のコートが設けられていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  8. 前記アノードと前記カソードの間に形成される放電空間の側方に、前記放電電極と長手方向に略平行に電界制御電極を配置したことを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載
    の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  9. 前記電界制御電極に印加する電界制御電圧を、レーザ光の発振条件又は履歴に応じて変化させることを特徴とする請求項8記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  10. 前記放電電極の放電方向に略平行な磁力線を持つ磁界を前記放電電極間の放電空間に発生する永久磁石を有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  11. 前記放電電極の放電方向に略平行な磁力線を持つ磁界を前記放電電極間の放電空間に発生する電磁石を有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
  12. 前記電磁石に流す電流を、レーザ光の発振条件又は履歴に応じて変化させることを特徴とする請求項11記載の放電励起式パルス発振ガスレーザ装置。
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