JP4844912B2 - フォトレジストの除去方法及び除去装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染物質の除去が必要な物品表面の清浄化、特に電子デバイス用基板の表面清浄化方法に関するものである。具体的には、半導体用ウェハーまたは液晶用基板などの加工に際して使用するフォトレジストのような有機膜の除去並びにウェハー工程全般にわたって発生する有機汚染物質の洗浄・除去に関するものである。さらには、精密な金属加工品やガラス加工品の有機汚染物質の洗浄・除去に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸化膜やシリコン膜の微細加工用に使用した後のフォトレジストの剥離に関しては、通常硫酸(3容または4容):過酸化水素(1容)の混合液(ピラニアと呼ばれている)を用いて110〜140℃に加熱して10〜20分間浸漬処理する方法が採用されている。レジストマスクに対して高濃度のイオン注入を行うような場合には、レジストが変質してピラニア処理では除去できなくなるので、プラズマ励起酸素によるアッシングが一般に使われている。しかし、アッシングだけではウェハー表面にレジスト由来の有機変質物、微粒子、並びに微量金属が残る。そこで、通常は、アッシング処理後であっても、さらにピラニア処理が行われている。
【0003】
ピラニア処理は、高温の硫酸を使うので排液や排気に関し環境面での問題点が多い。そこで、このピラニア処理に代えてオゾン水によるレジスト剥離が試みられている。水を0℃近くまで冷却するとオゾンの溶解度は70〜100ppmに達する。しかし、LSI製造で広く使われているI線用ノボラック樹脂系ポジ型レジスト膜の場合には、オゾン水処理では剥離速度が70〜80nm/分と遅いため非効率である。しかし、レジスト剥離をオゾン水処理によって行うことは、オゾンでレジストを十分分解できる点で有効であるため、オゾン水処理によりレジストの剥離速度をさらに高める手法が試みられ、湿ったオゾンを含むガスで処理するする方法が、提案されている。
【0004】
なお、配線のために用いられるアルミニウムのような金属膜の微細加工に使ったレジストの剥離には、通常、n−メチルピロリドンのような有機溶剤が使われている。また、電子部品関連の精密洗浄にはフレオンが広く利用されてきたが、環境問題のため使用できなくなり、水系の代替洗浄剤、例えばアルカリ系あるいは界面活性剤等の洗浄剤が使われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
半導体デバイス、特に超LSIの高度細密化に伴って、ウェハー表面の有機汚染物質の低減化の必要性は、ますます重要性を高めている。有機汚染物質除去に有効なピラニア洗浄処理は、デバイス製造工場で広く実施されているが、高温の硫酸の使用量が増加すると、環境対策が厄介になり、さらに硫酸は粘性が強いのでリンス用の超純水を大量に必要とするため、社会的かつ経済的に問題点が多い。
【0006】
金属面上のノボラック樹脂系ポジ型レジスト剥離の場合は、上述のようにn−メチルピロリドンのような有機塩基類が使われることが多いが、処理液の加温の程度や処理時間によっては金属表面が腐食される。したがって、処理には精密な制御が必要で、かつイソプロピルアルコールのような有機溶剤でリンスしてから超純水リンスに移行させるような場合が多いので、経済性の点でも問題である。
【0007】
そこで、オゾン水処理が期待されるわけであるが、半導体レベル用の処理に用いられる高純度オゾン水は、オゾンを含む高純度酸素(以下、オゾンガスという)を超純水に通気し、オゾンを吸収させて製造している。オゾンをC[mg/リットル]の濃度で含む気体がオゾンの濃度C[mg/リットル]の液とある温度で平衡する場合、ヘンリーの法則でCとCは比例し、その比例常数である分配係数D=C/Cは一定となる。ここで、液体が水の場合、ある研究例では25℃で D=0.2、20℃でD=0.28、5℃でD=0.47の値と報告されており、通常の放電式オゾンガス発生装置で得られるオゾン濃度は200mg/リットル程度で、これで計算すると20℃で40ppm、5℃で94ppmが飽和濃度となる。実際に水にオゾンを吸収させる場合、この飽和濃度より低い濃度しか得られない。低温の水ではオゾン濃度は高くできるが、温度が下がると通常反応速度が低くなり、レジスト剥離速度は上述のように十分な値が得られず、厚さ1.5μmのノボラック樹脂系ポジ型レジスト膜の剥離・除去には、20〜30分の時間を要する。
【0008】
市販の高濃度オゾンガス発生装置の中には、最高300mg/リットルの濃度に達するオゾンガスを発生できるものがある。オゾン水処理法の改良として登場した湿ったオゾンガスを用いた処理方法でオゾンの濃度と処理温度を高めた場合、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト膜の剥離速度を大幅に向上できるという報告がある。この場合、ガスのオゾン濃度を230mg/リットルとし約80℃で処理すると、剥離速度は約1μm/分程度である。
【0009】
本発明者は、気体中のオゾンと分配係数Dが0.6以上である有機溶剤にオゾンを十分に溶解し、被洗浄体面に接触させて、強力な洗浄作用を得る方法を発明し、既に特許出願した( 特願2000−101064号、以下、先願発明という)。室温の純酢酸に濃度250mg/リットルのオゾンガスをバブリングすれば、通常約5分で酢酸中のオゾン濃度が300ppm程度になる。このオゾンを溶解した酢酸(以下、オゾン酢酸という)液によれば、上記したノボラック樹脂系ポジ型レジストの剥離速度は室温で5〜6μm/分であり、通常の1.5μm程度の膜厚のものでは15〜18秒で剥離できる。
【0010】
しかし、バブリング手段を用いると、溶剤中へのガスのオゾン分子の溶け込みと同時に溶剤中に溶けたオゾンの脱気も起こるので、静的な平衡から求められている分配係数とおりには溶剤中のオゾン濃度が高まらない。室温の酢酸に関する分配係数の研究報告は数件あり、1.5から1.9の間であって、250mg/リットルのオゾンガスで低くともオゾン濃度380ppmのオゾン酢酸が得られるはずであるが、かなり複雑なバブリング器具を使用し、ガス流量に対する酢酸の量を少なくするかまたはバブリング時間を長くしないと容易にはこの所望濃度には達しない。また、特に高濃度のオゾン酢酸ではオゾンが脱気し易いので、このような高濃度オゾン酢酸の作成器を用いても、短時間でも貯蔵した後にオゾン酢酸を処理にもちいようとすると、実際の剥離処理段階でのオゾン濃度が300ppm程度まで低下し易い。
【0011】
上記先願発明では、また、オゾンを含む雰囲気中で、被処理体表面にオゾン可溶の有機溶剤の液膜を形成させて付着異質物質を除去する方法と、オゾンガスを処理チャンバーに導入し、その中で被処理体表面に該溶剤液膜を形成する付着異質物質除去装置とを提供した。この場合、バブリング器具は不要となるが、オゾンガスの必要量が多くなり、高濃度オゾンガスを大量に使用することから経済的に、実際上、その実施には難点がある。上記先願発明の実施例では、チャンバー内に導入するオゾン濃度は200mg/リットル以下とし、バブリングで容易に得られる程度の濃度のオゾン酢酸で液膜を形成すれば、上述した高濃度のオゾン酢酸を供給して液膜を形成する場合に近い除去性能が得られ、実用的である。しかし、当然ながらバブリングによるオゾン溶解器が必要となる。
【0012】
本発明は、先願発明をさらに改良して、有機溶剤へのオゾン溶解器を不要とし、かつ大量でない高濃度のオゾンガスにより、オゾンを溶解した溶剤液膜を被処理体表面に形成する方法と装置を提供するものであって、その結果、高濃度オゾンガスの使用量を節減できると共に、表面付着物質に対する除去性能をはるかに向上させることを目的としたものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための、本発明のフォトレジストの除去方法は、基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する方法であって、
基板の表面に酢酸を供給して、基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程と、基板の表面と基板の表面に近接して設けられた板状部材との間に形成された層状空間に、オゾンを含むガスを導入する工程と、酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによってフォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程と、を順次行うことを特徴とする。
【0014】
また本発明は、基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する方法であって、
基板の表面と、基板の表面に近接して設けられた板状部材と、の間に形成された層状空間にオゾンを含むガスを導入る工程と、基板の表面に酢酸を供給して、基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程と、酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによってフォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程と、を順次行うことを特徴とする。
【0015】
また本発明は、液膜が加熱されることが好ましい。
【0017】
また本発明は、液膜を形成する工程が、回転速度を任意に変更できるスピン軸に取付けられた保持具に基板を保持し、基板を回転させながら、基板の中央部に酢酸を供給し、基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程であり、オゾンを含むガスを導入する工程が、基板面に近接し、内部にオゾン含有ガスを充満させ得るフード体を形成し、フード体内にオゾン含有ガスを供給する工程であり、除去する工程が、酢酸の液膜中に高濃度に溶解したオゾンによって分解されたフォトレジストの分解物を、基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程であることが好ましい。
【0018】
また本発明は、液膜を形成する工程が、四角形基板を進行方向に対して直角方向に水平面から傾斜させて移動させながら四角形基板の上部に酢酸を供給し、酢酸を流下させて基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成させる工程であることが好ましい。
【0019】
また本発明のフォトレジストの除去装置は、基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する装置であって、
基板の表面に酢酸を供給して、基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する手段と、
基板の表面と、基板の表面に近接して設けられた板状部材と、の間に形成された層状空間に、オゾンを含むガスを導入する手段と、
酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによってフォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する手段と、
を有することを特徴とする。
【0020】
また本発明は、液膜が加熱されることが好ましい。
【0021】
また本発明は、液膜を形成する手段が、回転速度を任意に変更できるスピン軸に取付けられた保持具に基板を保持し、基板を回転させながら、基板の中央部に酢酸を供給し、基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する手段であり、
オゾンを含むガスを導入する手段が、基板面に近接し、内部にオゾン含有ガスを充満させ得るフード体を形成し、フード体内にオゾン含有ガスを供給する手段であり、
除去する手段が、酢酸の液膜中に高濃度に溶解したオゾンによって分解されたフォトレジスト分解物を、基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する手段であることが好ましい。
【0022】
また本発明は、液膜を形成する手段が、四角形基板を進行方向に対して直角方向に水平面から傾斜させて移動させながら四角形基板の上部に酢酸を供給し、酢酸を流下させて基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成させる手段であることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明方法の好ましい実施形態は、表面付着物質を有する物品の表面に対して、オゾン濃度が200mg/リットル以上のガスを、該物品表面と該表面からの距離が10mm以内の天板または他の被処理体との間の層状間隙に導入した後、該物品表面を十分に濡らすことができるオゾン可溶性溶剤を該表面に供給して液膜を形成し、オゾンガスに接触させることである。
【0024】
さらに、本発明方法は、表面付着物質のある物品の表面に、該表面を十分に濡らすことができるオゾン可溶性溶剤の液膜を作成した後、オゾン濃度が200mg/リットル以上のガスを表面からの距離が10mm以内の天板または他の被処理体との間の層状空間に供給して行なう態様をも包含する。
【0025】
本発明が最も効果を発現するのは、物品が電子工業用基板である場合で、特に表面付着物質がフォトレジストの場合である。特に、LSIや液晶分野で広く使われているノボラック樹脂系ポジ型レジストに対して著効があり、また、化学増幅型のポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジストでも、剥離速度は若干劣るが同程度の効果がある。さらに、ネガタイプの代表的なレジストである環化ポリイソプレン系のものについては、なお一層迅速な剥離速度が得られる。したがって、電子工業で通常に使用されるフォトレジストの大部分に本発明を適用することができる。
【0026】
本発明において迅速な物品表面の表面付着物質除去を達成するためには、まず物品表面に迅速に液膜が形成されねばならない。すなわち、極めて短時間に物品表面が十分に濡れるためには使用する溶剤の処理温度での表面張力が小さくなければならない。したがって、40dyn/cm以下、好ましくは30dyn/cm以下の溶剤が使用される。液膜の厚さは、物品表面の傾斜や回転状態等で変るが100μm程度が望ましく、10μmでも十分に目的を達し得る。なお、化学増幅型レジストの場合は300μm程度の厚さにした方が好ましい場合もある。
【0027】
また、液膜を形成する溶剤としては、好ましくは表面付着物質の全てまたは少なくともその一部を膨潤させることができるもの、また、さらに好ましくは表面着物質の全てまたは少なくともその一部を溶解させることができるものを採用することが、本発明方法において除去速度の迅速化を図るうえで極めて重要である。溶解度は、表面着物質全量に対して、少なくとも50重量%以上あることが望ましい。若干の溶解残渣があっても、通常これらは容易にオゾンによって分解され、結局は分解物として完全に除去されるので問題はない。
【0028】
一般に温度を上げると溶解度は著しく向上するので、溶剤の引火点以下で加熱することが非常に好ましい。そのためには、溶剤を加熱しても、オゾンガスを加熱しても、あるいは処理対象の物品自体を加熱してもよい。表面着物質の全てまたは少なくともその表層部に対し溶解性があることが有効な分野は、油脂等により粘着した微粒子等の表面着物質の除去であり、特に、油脂等に対し十分な溶解性がある溶剤の適用が極めて顕著な効果を示す。
【0029】
液膜を形成する溶剤がオゾンに対して高い溶解性を有することが、表面付着物質除去の迅速性を高めるために、次いで重要なポイントである。本発明方法は、特にこの迅速性を重視するものであり、溶剤のオゾンガスに対する分配係数は1.0以上好ましくは1.5程度あることが望ましい。しかし、表面付着物質が金属成分であって、その除去のために限られた目的の場合は、分配係数がかなり小さくても上記溶解度を満足するものであれば、十分適用し得る。
【0030】
上記条件を満足するものであって、最も好ましい溶剤は、低分子量の脂肪族カルボン酸であり、特に、式:C2n+1COOH(式中、n=1、2または3の整数)で表わされるものは、オゾンとの反応性が少ないので、好ましい。この中でも、酢酸は、従来よりオゾン酸化の反応溶媒として使われてきたように、オゾンを含有した際の安定性が良いし、オゾンに対しての分配係数も上述したように大きく、かつ表面張力は約25dyn/cmであるので物品表面に液膜を容易に形成し得る。特に、表面付着物質が二重もしくは三重の炭化水素結合を有する有機物の場合、溶剤として酢酸を用いた液膜中でオゾンによる酸化分解が強力に達成される。また、プロピオン酸や酪酸を用いても、酢酸に準じて、ほぼ同様の効果を奏する。
【0031】
この他に、液膜処理として有効な有機溶剤は、ハロゲン化炭化水素に多くみられる。特に、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が好ましく、オゾンに関する分配係数は2.0に近く、表面張力は20dyn/cm以下であって、精密な金属加工品やガラス加工品の表面の油やフラックスに対する洗浄効果がさらに高まる。このような液膜でのオゾンの洗浄作用は、加熱された硫酸のような無機溶剤でも可能であり、無機質表面付着物質の除去に有効である。
【0032】
上記先願発明で提供したように、表面付着物質のある物品の表面に、オゾン可溶な溶剤の液膜を形成させ、オゾンガス雰囲気下におき、生じた含オゾン溶剤と物品表面とを接触させることによって表面付着物質の除去が可能である。液膜に接する雰囲気中のオゾン濃度が液中のオゾン濃度より高ければ、オゾンは容易に液膜中に拡散し、短時間に液膜中のオゾン濃度が飽和点近くまで上昇するためである。しかし、先願発明の方法では経済性のよい大容量の高濃度オゾンガス発生装置が必要となる点で、実際上問題がある。
【0033】
本発明は、250mg/リットル以上の高濃度オゾンガスが、被処理表面上からの距離が10mm以内、好ましくは1〜5mm程度の層状間隙を満たし、かつ、そのガスに接触する液膜を意図的に静止させるか、あるいは数cm/秒以下の緩やかな速度で流動させるか、数cm程度の移動距離で揺動させることで、1.5μm厚さのノボラック樹脂系ポジ型レジストを10秒以内に剥離できる方法を提供する。剥離速度は10μm/分以上に達する。その機構は、狭い限られた層状間隙の高濃度オゾン層に、表面張力が小さいことにより厚さが約100μm以下のごく薄い層となった液膜が接し、液膜中のオゾン濃度が過飽和に達することに起因すると推定される。また、膜厚が0.5μm以下のポリビニルフェノール誘導体レジストの場合は、層状間隙を1mm程度に制御してオゾンガスの実効流速を高めることにより、同程度の剥離性能を達成することができる。
【0034】
酢酸中にオゾンをバブリングして作成するオゾン酢酸液のガス中のオゾンとの分配係数は、液の温度が20℃から40℃になると、約60%に低下することが知られており、温度が上がって溶剤自体のレジストに対する反応速度が上がっても、これを液膜として処理した場合、剥離速度は最大で2倍程度、即ちほぼ10μm/分にしかならない。しかし、本発明方法において、酢酸液膜の温度を40℃とすると、上記の厚さ1.5μmのノボラック樹脂系ポジ型レジスト膜は数秒で剥離され、この際の剥離速度は20μm/分以上にも達していると推定される。
【0035】
本発明方法では、5秒程度の短時間にレジスト剥離ができるので、比較的小型の高濃度オゾン発生器を用い、発生したガスを一旦貯蔵し、このガスをレジスト面に短時間で高流量で急速に放出すると、物品表面のオゾンガス占有層状間隙が限られているので、レジスト剥離に十分な表面液膜のオゾン濃度を必要な時間保持することができる。
【0036】
物品表面に必要な厚さの高濃度オゾンガス層を形成する装置としては、着脱のできるの低い天板を有するフード体を、オゾンガス供給時だけ被処理表面の全面もしくは移動する該表面の一部に被せる構造が望ましい。カセットに入った電子工業用基板面の処理や複数枚の基板を収容したカセットのスピン処理の場合は、基板面間の層状間隙に高濃度オゾンガス層を形成することができる。
【0037】
オゾンガスに接触させる液膜の形成方法の例をあげれば、次のとおりである。
(1)溶剤を傾斜した被処理基板面へノズルで短時間または間欠的に噴射し、基板全面が濡れた時点で噴射を中止する。
(2)枚葉スピン処理機構を利用する場合、溶剤を中央部に吐出させ、50rpm前後の低速スピン処理をごく短時間行って基板表面全面が濡れた時点で回転を停止する。
(3)チャンバ内で、複数枚の基板を載置したカセットに溶剤をカセットよりも上部のノズルから吐出させて、基板表面全面を濡らす。
(4)複数枚の基板を載置したカセットを水平回転軸で回転させるスピン処理機構を利用する場合、溶剤をカセットよりも上部のノズルから吐出させ、50rpm前後の低速スピン処理をごく短時間行って基板全面が濡れた時点で回転を停止する。
【0038】
以上のいずれの場合も液膜が表面の全面に形成された後に、オゾンガスの放出を始める。剥離に要する時間は短いので、溶剤でのリンスを含めて剥離・除去処理を2回行う時間的余裕は十分にあり、操作を繰返して効果を確実にすることが望ましい。なお、枚葉スピン処理の場合、ドライエッチングやイオン注入後のレジストであることによりレジスト剥離・除去が困難な場合には、オゾンガス放出の時間中、比較的小さな角度で基板に反復反転を与えることが有効である。
【0039】
【実施例】
以下の実施例で使用したオゾンを含むガスは、小型の放電方式のオゾン発生装置に0.4%の窒素を添加した酸素を流して得た、オゾン濃度が250mg/リットル程度の高濃度オゾンガスである。オゾンを溶解させる有機溶剤としては、先願発明明細書記載のように、表面着物質除去効果と経済性が両立する点で酢酸が好ましいため、この実施例における有機溶剤としては、純度は99.7%の酢酸を用いた。
【0040】
バブリングでオゾンを十分に溶解した酢酸によれば、ノボラック樹脂系ポジ型レジストの剥離速度が、室温で6μm/分に達する程剥離性能がよく、さらに、少量のフッ酸を添加すれば、半導体ウェハー上の微粒子や金属汚染が効果的に除去できる。そこで本発明において、オゾンガスに接触させた酢酸により上記より強力なレジスト剥離ができれば、薬液として同様の作用・効果が期待できるので、微粒子や金属等の表面付着物質も同様に除去できると考えられる。
【0041】
本発明でのレジスト除去性能が先願発明より優れていることを明らかにするため、実施例1から実施例4において、レジスト塗布試料として、先願発明明細書の実施例13に示されているものと同じノボラック樹脂系ポジ型レジスト「IX555」(JSR(株)製)を使い、前記実施例と同様のプロセス、すなわち、HMDS(ヘキサメチルジシサザン)処理した面に塗布し、いずれも塗布厚さは1.5μmであり、140℃60秒間のベーキングを行ったものを用いた。レジスト剥離・除去後の残存有機炭素量は特開平10−39410号公報に記載された試料作成器による荷電粒子放射化分析で測定し、剥離・除去が十分満足に行われたことを確認した。
【0042】
実施例1
スピン回転速度が低速から高速まで可変のスピン洗浄、スピンリンスおよびスピン乾燥ができる枚葉洗浄機を改造して、シリコンウェハー用の枚葉スピンレジスト剥離装置を作成した。図1は、その装置の縦断面概念図である。100nmの厚さの酸化膜表面にレジストが塗布されている200mm径のシリコンウェハー1は、スピン軸2に取付けられたウェハー保持具3に保持されて回転するように構成されている。スピン軸受4を持つチャンバー5には、ウェハーが装填されている間だけ、その先端の酢酸吐出口6でウェハー中央に酢酸を吐出できる回転可能な酢酸供給管7の軸受8と同様に、その先端の放出口9でウェハー中央に高濃度オゾンガスを放出する回転可能なガス供給管10の軸受11が付属している。また、オゾンガスが供給されている間、排気を行うためのウェハーとほぼ同じ高さの排気管12を側壁に、オゾンガスを溶解してレジストを剥離・除去した後の排酢酸液を排出するための排液管13を底部に具備している。
【0043】
オゾンガスをウェハー面に放出する間、ウェハー全面を覆い、酢酸供給管およびオゾンガス供給管の受け入れ個所部分以外はウェハー面との層状間隙が約5mmとなるように屋根状の石英ガラス製フード体14が配置される。なお、ウェハー着脱の際には、このフード体14は上方に移動して待機する。酢酸供給管7にはそのバルブ15に近く熱交換器16が連結されている。また、ガス供給管10はオゾン濃度250mg/リットルでガス流量4リットル/分のオゾンガスを発生する小型高濃度オゾンガス発生装置(図示せず)に接続している。その配管にはバルブ17に近く、三方バルブ18により発生装置からの発生オゾンガスを一旦貯蔵し自動ピストン19で約2リットルのオゾンガスを約10秒間でガス放出口9から放出できるシリンダー20が結合されている。
【0044】
レジスト剥離・除去処理は以下のように行う。まず、高濃度オゾンガスを予め三方バルブ18から約30秒間シリンダーに送って、約2リットルの貯蔵容積を有するシリンダー内に満タン状態に充填しておく。フード体14を上方に上げて、フォトレジスト付着したウェハー1を保持具3に装填した後、酢酸吐出口6とガス放出口9をウェハー中央部に位置せしめ、フード体14を下げてウェハー全面を覆う。ウェハーを約60rpmで低速回転させ、熱交換器16で約40℃に加熱した酢酸を、バルブ15の開閉により約5cc吐出させると、瞬時に全面に酢酸液膜が形成される。ここで一旦回転を停止する。三方バルブ18とバルブ17を操作してシリンダー20内に貯えられた高濃度オゾンガス約1リットルを5秒間でウェハー面に放出すると、数秒でほとんどのレジストが剥離される。放出終了と同時にウェハーを500〜1,000rpmの中速回転とし、酢酸を200cc/分の流速で約5秒放出して第1次スピンリンスを行う。リンス後、再び回転と液の放出を停止してシリンダー20内の約1リットルの高濃度オゾンガスを約5秒間でウェハー上に放出して剥離を完了した後、第一次リンスと同様に第二次スピンリンスを行う。リンス終了後、フード体を上方に移動して、回転速度を約3,000rpmに上げ、ウェハー面に吸着したリンス酢酸を離脱させ、スピン乾燥して、剥離・除去処理を終了する。
【0045】
第一次オゾンガス放出段階でのレジスト剥離速度は、20μm/分に近いものと推測でき、極めて速い剥離が行うことができた。剥離・除去直後のウェハー面の残存有機炭素量は、(3〜5)×1013原子/cmであった。この分析結果からレジスト剥離・除去が十分に行われたことが分かる。剥離・リンス時間を合わせて約20秒、スピン乾燥に約20秒、ウェハーの交換に約20秒を要したとしても1枚あたり処理時間が1分で、生産性も実用に十分と考えられる。本実施例での酢酸使用量は約40ccであるので、予め酢酸にオゾンを溶解した液で枚葉スピン処理をする場合と比較して1/4以下の液量で済み、経済性も向上している。
【0046】
実施例2
表面にシリコンが成膜された液晶用四角形ガラス基板にレジストが塗布されベークされたものを、水平方向に移動して処理を進める製造システムに、本発明を適用する例を示す。図2は、四角形ガラス基板の進行方向に対し側方からみた装置の断面概念図である。650×550mmの大型四角形ガラス基板21は、長辺の方向に1cm/秒程度の速度で送り回転ロール22の上を図2の左方向に進行する。送り回転ロール軸は、ガラス基板の進行方向に直交しており、水平面より3〜4°傾斜し、紙面の裏方向が比較的低い坂状となるように配置されている。坂状上部に酢酸を基板面にほぼ水平に吹付ける第一扇状ノズル23があり、また、石英ガラス製のード24が、その天板と基板面との間が10〜20mm程度で、また、側壁の裾と基板面の間が約2mmの間隔を保って、基板両端を含む幅約50mmの細幅領域を覆っている。基板先端が矢印で図示されたAの位置に達したとき、扇状ノズル23から間欠的に酢酸のスプレーを行い、該細幅領域に酢酸の液膜を形成する。なお、フード24内の進行方向側と反対側の壁には、排気口25のある角形排気管26が具備され、常時進行方向と直交方向の両側へ排気が行われている。
【0047】
ード24の進行方向側に隣接して、形態を異にする石英ガラス製ード27が配置されている。このフードの天板は低く設計され、基板面から5mm程度の高さが好ましい。該天板には複数の石英ガラス製高濃度オゾンガス供給管28が設けられ、オゾンガスを加熱する熱交換器29を経由するステンレス(SUS 316L)製ガス供給管30に接続している。液膜形成のための酢酸スプレー開始と同時に、ガス供給管30からは約40℃に加熱した高濃度オゾンガスを150cc/秒で送気してフード27の中に充満させておく。なお、スタート時の排気のために角形排気管31がフード27に対峙して配設されてあり、基板面によりフード内部空間が閉じられるまでに漏れたオゾンガスを排気する。
【0048】
図3に、四角形基板の進行方向を基端部からみたフード27の側壁内面の断面概念図を示す。基板21は傾斜しているので、送り回転ロール22軸端部には基板を支えるための段部である頭部32を設けてある。フード27の両端にある排気管33は、フード27と基板の間に充満したガスを排気するものである。このように充満した段階では、ガス供給管28からのオゾンガスの導入は、当初の1/2以下に低減することができる。
【0049】
基板先端がフード27の末端の矢印で図示された位置(図2)Bに到達したとき、フード内の基板面の液膜はほとんど静止しており、そのオゾン濃度が十分に高まって、レジストのほとんどすべてが酢酸液膜中に溶け込んだオゾンにより分解している。酢酸液膜形成時間と合わせても分解完了に要した時間は約10秒で、レジスト剥離は9μm/分以上の速度で行われたことになる。
【0050】
フード27に進行方向に隣接してフード24と同形状のフード34と、フード27と同形状のフード35、また、フード27のオゾン供給管28と同様に、また、ほぼ同流量のオゾンガスを供給する供給管36を順に設け、フード34の領域には第の扇状酢酸ノズル37を、第1の酢酸ノズル23と同様に配置し、またフード35の下方にはフード27の角形排気管31と同形状の角形排気管(図示せず)を配設させ、フード35の両端にフード27の排気管33と同様のオゾン排気管(図示せず)を設ける。さらに、広幅チャンネル形フード40内に、約100mm幅の基板の細幅領域を覆って、第三、第四の扇状ノズル38、39により酢酸スプレーが行われる。広幅チャンネル形フード40の進行方向の側壁内部には前記角形排気管26と同様の角形排気管41を配設させている。
【0051】
Bの位置を通過した基板はフード34の中でノズル36によりスプレーリンスされ、基板がフード35の領域に入ると、フード27の領域と同様に剥離処理がなされる。この段階は、未剥離部が残っていた場合に備えた第二段階処理に相当する。広幅チャンネル形フードフード40の領域では、酢酸のスプレーリンスが行われ、リンス液は傾斜面に沿って流下・排除される。
【0052】
最後に、基板はトンネル状フード42に入る。このフードに覆われた基板領域では液膜のリンス酢酸はほぼ静止状態となり、エアナイフ43により酢酸が基板より飛散・排除され、乾燥表面が得られる。なお、気化した酢酸の排気管44が図示されている。第二、第三および第四のノズルから放出される酢酸の流量は、200cc/分程度で十分である。これらの酢酸は送り回転ロールの下方で排液管(図示せず)に集められて回収される。1枚の基板当たりの酢酸使用量は、約700ccである。この装置の生産性は1枚当たり約1分であり、実用的には十分である。また、オゾン濃度250mg/リットルのガスを毎分18リットル使用したことになるが、この実施例の基板面積は実施例1の約11倍であり、単位面積当たりで比較すれば、ほぼ同程度の経済性と言える。
【0053】
実施例3
フォトマスク用ガラス基板の多数枚をフッ素樹脂製の洗浄用カセットに入れて、一度にレジスト剥離を行うバッチ処理の場合の実施例を示す。図4,5は、その装置の概念図であり、図4は基板面に垂直な方向からみた縦断面図、また、図5は基板に平行な向きからみた縦断面図である。
【0054】
基板45は、20cm角であり、その表面にクロム薄膜が形成されていて、この面にレジストが塗布・ベークされている。カセット46での基板の層状間隙は6mm、カセットの端の溝にダミーの基板45´を入れ、レジスト面をこの方向に向けて被処理基板をセットして処理容器47に装填する。該容器は、排液管48を低部に付属させた角形濾斗状のものである。カセットは、基板のレジスト面が上向きで、鉛直線方向より1〜2°傾斜して保持されるように位置が定められたカセットの載台兼用の石英ガラス製オゾンガス放出器49に載せられ、上方に待機していた上下移動可能で排気管50が付設されたフード51を処理容器47に被せる。
【0055】
処理容器47の壁には、酢酸供給管52とオゾンガス供給管53が貫通しており、酢酸供給管の先端には、基板の上方から基板全体に酢酸が噴霧できる充角錐スプレーノズル54が具備されており、酢酸供給管には、バルブ55により熱交換器56で加熱された酢酸が供給される機構となっている。オゾンガス供給管は、バルブ57を経てオゾン発生装置(図示せず)に連結している。基板層状間隙へのオゾンガスの供給は、各層状間隙の真下に位置し、上方に複数の開孔58を有する外径5mmの一端封じの石英ガラス管59が複数本並んで構成される網状構造体で行われる。網の一辺は、各石英ガラス管の開口側にオゾンガスを導入する石英ガラス管60で、対辺は封じ側を固定する石英ガラス棒、他の2辺は網構造を補強する石英ガラス板よりなり、この網がオゾンガス放出器49の主要部を構成していて、石英ガラス管60がオゾンガス供給管に接続している。
【0056】
レジスト剥離処理は次のように実施する。カセットは基板を25枚収容できるものを用い、すべての溝に基板をセットした。オゾン発生装置は、オゾンガス濃度250mg/リットルを10リットル/分の流量で発生できるものを使用した。処理に先立ち、排液管48のバルブ61は閉じ、フードの排気管50のバルブ62は開けておく。バルブ57を開いてオゾンガスを10リットル/分の流量で約2分供給し、基板の層状間隙をオゾンガスで充満させた後、バルブ55を開き熱交換器56で約40℃に加温された酢酸をノズル54からレジスト面へ数秒間スプレーし、全基板面が濡れた段階で一旦バルブ55を閉じる。基板からの酢酸の流下がほとんど停まり、液膜がほとんど静止した段階で、高濃度オゾンガスから液膜へのオゾンの溶解が加速し、レジストは数秒で剥離される。剥離速度は、酢酸スプレーによる液膜形成時間を含めても10μm/分以上と推定される。
【0057】
バルブ61を開いてから、再びバルブ55を開き、基板面を約10秒スプレーリンスした後、バルブ55を閉じて液の流下を抑制し、液膜のオゾン濃度を高めて再度の剥離操作によりレジスト除去を確実にする。続いてバルブ57とバルブ62を閉じ、バルブ55を開いてノズル54より約10秒スプレーリンスを行う。バルブ55を閉じ、基板からの酢酸の流下がほぼ停止したら、フード51を上方に上げ、カセットを搬出して、別途準備された一般的な洗浄装置で純水スプレーを行い、乾燥する。
【0058】
レジスト剥離面を電子顕微鏡で精査した結果、レジストは完全に除かれ、クロム面は全く侵食されていなかった。これは高濃度のオゾンを含む酢酸液膜にクロム面が接触する時間が極めて短いためであると推定される。本処理はバッチ方式のため、生産性に問題はなく、従来からの洗浄システムに整合でき、また1枚当たりのオゾンガス並びに酢酸の所要量は前実施例1,2よりも少ない。
【0059】
実施例4
実施例3と同様のバッチ処理で、シリコンウェハーを密閉チャンバー内において垂直回転させ、有機溶剤をスプレーしてレジスト剥離する既存の装置に類似した例を図6,7により説明する。図6は回転軸を含む横断面図で、図7は回転軸に垂直な縦断面図である。
【0060】
チャンバー63に挿通させた回転軸64にセットできる専用のカセット65にウェハー66が収納され、20rpmの低速からスピン乾燥用の2,000rpmまで回転制御が可能な機構(図示せず)が設けられている。ウェハーの層状間隙約5mmが高濃度オゾンガス層となるように、バルブ67から供給されたガスを層流でウェハー間に流すフッ素樹脂被覆ステンレス(SUS 316L)製の層流用フィ68,69がチャンバー壁に付設されている。バルブ70はバルブ67と同時に開閉が必要で、ウェハー層状71の層流化を助けるための排気用のものである。
【0061】
ウェハーカセットをセットして、回転を最低速で行い、バルブ67,70を開いて、オゾンガスを供給する。オゾンガスがウェハー間に充満したら、酢酸供給管72で運ばれた酢酸をバルブ73により、アースされたステンレス(SUS 316L)製充角錐スプレーノズル74からスプレーし、ウェハー全体が濡れた段階でスプレーを一旦停止する。バルブ67,70を閉じて、上方バルブ75と下方バルブ76を開いて、酢酸のリンススプレーを1,000rpmで約20秒間行う。リンス終了後、回転速度を約2,000rpmに上げ、ウェハーに吸着したリンス酢酸を離脱させ、スピン乾燥を行う。
【0062】
具体的には、実施例1と同様に準備されたレジスト付200mm径のウェハー25枚のカセットに対し、オゾン濃度2000mg/リットルのガスが20リットル/分の流速で1分間フィン68に送りこまれ、ウェハー層状間隙71に高濃度オゾンガスが充満してから40℃に加熱した酢酸をスプレーし、数秒で全面が濡れた段階で、20秒間スプレーを停止する。続いて、酢酸リンスを20秒間行い、スピン乾燥した。装置の構造上レジストの剥離状態が観察出来ないので、このようなスケジュールで処理したが、実施例1と同様にレジストは完全に剥離・除去されていた。ガスと酢酸の使用量は多いが、バッチ処理であるため、1枚当りの使用量は十分に少なく、かつ生産性は非常に良い。
【0063】
実施例5
半導体用クリーンルームに暴露されたシリコンウェハー表面には、雰囲気由来の有害な有機汚染が生じるが、その汚染物質の大部分はジオクチルフタレート(DOP)であることが知られている。そこで、放射性同位元素である64Cuが2×1013原子/ccの濃度で溶けているバッファードフッ酸(希フッ酸水溶液(濃度6重量%)に対して、フッ化アンモニウムを30重量%添加・溶解させたもの)に、フッ素樹脂カセットに収納したシリコンウェハー6枚を10分間浸漬して純水でリンス乾燥し、各ウェハーの放射能を計測して、各ウェハーの表面に液からの吸着で故意汚染させた64Cu濃度がいずれも1012原子/cmであることを確かめた。
【0064】
さらにこのウェハー6枚を入れたカセットを、DOP液を満たしたガラス皿が底にセットされた密閉プラスチックケースの中段に配置して60℃の恒温槽中で一夜放置した。DOPの蒸気圧は極めて低いが、密閉ケースス内の雰囲気はDOPの蒸気で飽和するので、DOP蒸気を吸着しやすいシリコンウェハー表面はDOPで強く故意汚染される。上記のフッ酸を含む液に溶けている1価のCuイオンはイオン化傾向によりシリコン表面に金属原子状態で吸着するが、この吸着状態は極めて粒径の小さいCu微粒子の集団であることが知られている。この故意汚染でDOPは表面張力が30dyn/cm程度のため、64Cu微粒子の下に潜り込み、個々の微粒子をシリコン面へ粘着させる。即ち、結果としてCu粒子をDOPで強固に粘着させた表面汚染状態が形成される。
【0065】
洗浄処理に先立ち、実施例1の装置で、液膜を形成させるために吐出させる約5ccの酢酸を、室温の2容量%のフッ酸添加酢酸に変更するため、熱交換器16をはずして、枝管とバルブを設け、フッ酸添加酢酸の供給機構を付設させた。上記6枚の故意汚染ウェハーから2枚を任意に選ぴ、1枚づつこの装置でレジスト剥離と同様に処理した。即ち、該ウェハーを保持具3に装填後、実施例1と同様の手順でウェハー上にフッ酸添加酢酸の液膜を形成し高濃度オゾンガスを5秒放出し、その後は室温の酢酸で第一次スピンリンスを行う。レジスト剥離と同様に再処理を行いスピン乾燥して、64Cuの残存率を洗浄前後のウェハーの放射能強度の比較で求めた。その結果、フッ酸添加酢酸を用いた場合のCuの残存率は2枚ともに0.1%で強力な洗浄効果が得られることが分かった。この効果は酢酸が迅速にまずDOPを溶解し、続いてオゾンがCu微粒子を酸化して酸化銅に変え、同時にシリコン表面に酸化膜を成長させるが、シリコン酸化膜とCu2+イオンをフッ酸添加酢酸が溶解し、酢酸リンスで該溶解液が遠心力離脱するためと推定される。
【0066】
比較例1
RCA洗浄法は最も代表的なシリコンウエハーの洗浄法であり、「SC−2」(代表的な組成は、塩酸:過酸化水素:水=1容:1容:6容)ないし「SC−1」(代表的な組成は、アンモニア:過酸化水素:水=1容:1容:12容)を用いて、ともにウェハーを多数枚カセットに入れて同時に浸漬し、70℃で10分間の処理をするのが標準的である。特に前者はCuのような重金属汚染に対して、後者は有機汚染と錯体化が容易なCuに対して、強力な洗浄ができるとされている。そこで、DOP汚染した場合のCuに対する洗浄効果を実施例5と比較するために、「SC−1」液と「SC−2」液とを、それぞれ石英ガラス製角槽に満たし、両者ともに70℃に加熱して、実施例5で作成したDOP/Cu汚染ウェハーの残りを2枚ずつ、いずれも放射能強度を計測してから10分間浸漬洗浄して超純水リンスし、風乾後の放射能強度を測り、洗浄前の計測値と比較して64Cuの残存率を求めた。
【0067】
「SC−2」洗浄後のウェハーにおける64Cu残存率は43%と47%、また、「SC−1」洗浄後のウェハーの場合の残存率は2.0%と2.2%であった。前者は、DOPが除去できないためCuに対する洗浄作用が働かず、過酸化水素によって成長するシリコン酸化膜にCuが埋没してしまうため残存率が高いものと推定できる。後者は、DOPの除去はできるがCuに十分な錯体化作用がおよぶ前に、成長するシリコン酸化膜が残存Cuを捕捉してしまうために、洗浄不十分になるものと推定される。Cu残存率の比較からみて、実施例5の本発明による洗浄法の優位性が明らかである。
【0068】
実施例6
ポリビニルフェノール誘導体と酸発生剤からなるKrFエキシマレーザー用化学増幅型レジストを0,75μmの厚さで塗布した2000mm径のシリコンウェハーであって、 140℃、90秒間のハードベークを行った試料に対して、実施例1の装置を用い、酢酸とオゾンガスによりレジスト除去を行った例を示す。ただし、スピン軸が4回/秒の周期で右回りおよび左回りにそれぞれ30°の反復反転を行えるように、同軸の回転機構を改造した。
【0069】
レジスト剥離除去処理は、次の点を除いて実施例1と全く同様に行った。即ち、フード体14を下げてウェハー全面を覆った後、ウェハーの反復反転を開始し、加熱酢酸を約15cc吐出させると、液はウェハー全面に拡がり、約300μmの厚さの液膜を生じる。その後は実施例1と同様にシリンダー内に貯えられた高濃度オゾンガス約1リットルを5秒間放出する。放出終了と同時に反復反転を停止し、以降実施例1と同様に第1次スピンリンスを行う。このように処理するのは、該レジストの酢酸への溶解能がノボラック型レジストの場合よりも若干弱いためであり、酢酸の厚い液膜はウェハーの反復反転でよく揺動し、オゾンガスの分解能力も加わって該レジストを急速に溶解することができる。この処理でほとんどのレジスト膜が数秒間で剥離される。
【0070】
第1次リンスの後は、ウェハー転が完全に停止してから酢酸の放出を停止すると再びウェハー面上には厚い液膜が生じる。ここで再ぴウェハーの反復反転を5秒間行い、その間にシリンダー20内の残りのガスを放出してレジスト剥離を完了させ、以下実施例1と同様に処理する。
【0071】
剥離直後のウェハー面の残存有機炭素量は5×1013原子/cm以下であり、ポリビニルフェノール系化学増幅型レジストも10μm/分以上の速い剥離速度で除去することができた。
【0072】
【発明の効果】
本発明は、上記先願発明を改良したもので、溶剤として酢酸を使用すると、例えば、ノボラック樹脂系ポジ型レジストの場合、剥離速度が2〜5倍程度向上している。薬液の構成そのものは上記先願発明と変らないので、本発明の表面付着物除去効果は、金属汚染物や微粒子にも有効であり、またフッ酸を少量添加すれば、酸化膜表面等の場合に、この除去効果は極めて高いものとなる。すなわち、本発明で表面付着物質除去性能が著しく改良された。また剥離時間の大幅な短縮が可能となり生産性への寄与が大きい。
【0073】
本発明では、高濃度オゾンを溶解した液が基板表面に接する時間は、通常十数秒以下で極めて短い。したがって、本発明は、シリコンやシリコン酸化膜面だけでなく、アルミニウム、タングステン、モリブデン、TiN、ITO等の面でもその面を腐蝕することなくレジスト剥離が可能である。またオゾンガスを溶剤液膜に接する間は通常液膜を静止させており、これが剥離性能向上に寄与しているだけでなく、溶剤使用量が大幅に低減できる。剥離時間が短く、狭い空間だけにオゾンガスを供給するので、高濃度ガスを一旦貯蔵し、必要な短時間だけ大流量で流す手法が利用できる。したがって、使用するオゾン発生装置の小型化やオゾン使用量の低減化という利点がある。すなわち、経済性の点でも先願発明に比較して著しく改良されたものである。
【0074】
このようにオゾン発生装置を利用すると、貯蔵オゾンガスで処理している間に、発生装置を別の目的に使用できる。レジスト剥離後の溶剤排液に発生オゾンガスをバブリングさせれば、排液中の未分解のレジストが完全に分解できる。したがって、オゾンガスのバブリングにより、必要に応じ濾過、蒸留等の簡便な処理により使用済溶媒の再循環利用が可能となる。
【0075】
【図面の簡単な説明】
【図1】枚葉スピンレジスト剥離装置の縦断面を示す概念図。
【図2】角形大型基板を面方向に移動してレジストを剥離する装置における、移動方向の側方からみた概念図。
【図3】前記装置の移動方向に直交する断面の概念図。
【図4】角形基板の多数枚をカセットに入れて静置し、一度にレジスト剥離を行うバッチ処理装置の概念を示す図で、基板面に垂直な方向からみた縦断面図。
【図5】前記装置の概念を示す図で、基板に平行な向きからみた縦断面図。
【図6】円形基板の多数枚をカセットに入れて、基板のほぼ中央を中心に回転が可能なチャンバー入りの処理装置の概念図であって、回転軸を含む横断面図。
【図7】前記装置の概念図であって、回転軸に垂直の縦断面図。
【0076】
【符号の説明】
1 シリコンウェハー
2 スピン軸
3 ウェハー保持具
4 スピン軸受
5 チャンバー
6 酢酸吐出口
7 酢酸供給管
,11
出口
10 ガス供給管
12 排気管
13 排液管
14 フード体
15,17 バルブ
16 熱交換器
18 三方バルブ
19 自動ピストン
20 シリンダー
21 ガラス基板
22 送り回転ロール
23,37,38,39 扇状ノズル
24,27,34,35 ード
25 気口
26,31,41 形排気管
28,30,36 ガス供給管
29 熱交換器
32 頭部
33 気管
40 広幅チャンネル形フード
42 トンネル状フード
43 エアナイフ
44 気管
45
45´ ダミー基板
46 カセット
47 処理容器
48 排液管
49 オゾンガス放出器
50 排気管
51 フード
52 酢酸供給管
53 ガス供給管
54,61,62,67,70,73 ズル
55,57 ルブ
56 熱交換器
58 開孔
59,60 石英ガラス管
63 チャンバー
64 回転軸
65 カセット
66 ウェハー
68,69 層流用フィン
71 ウェハー層状間隙
72 酢酸供給管
74 充角錐スプレーノズル
75 上方バルブ
76 下方バルブ

Claims (9)

  1. 基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する方法であって、
    前記基板の表面に酢酸を供給して、前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程と、
    前記基板の表面と、前記基板の表面に近接して設けられた板状部材と、の間に形成された層状空間に、オゾンを含むガスを導入する工程と、
    前記酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによって前記フォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、前記基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程と、
    を順次行うことを特徴とするフォトレジストの除去方法。
  2. 基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する方法であって、
    前記基板の表面と、前記基板の表面に近接して設けられた板状部材と、の間に形成された層状空間にオゾンを含むガスを導入る工程と、
    前記基板の表面に酢酸を供給して、前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程と、
    前記酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによって前記フォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、前記基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程と、
    を順次行うことを特徴とするフォトレジストの除去方法。
  3. 前記液膜が加熱されることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトレジストの除去方法。
  4. 前記液膜を形成する工程が、回転速度を任意に変更できるスピン軸に取付けられた保持具に前記基板を保持し、前記基板を回転させながら、前記基板の中央部に酢酸を供給し、前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する工程であり、
    前記オゾンを含むガスを導入する工程が、前記基板面に近接し、内部にオゾン含有ガスを充満させ得るフード体を形成し、前記フード体内にオゾン含有ガスを供給する工程であり、
    前記除去する工程が、前記酢酸の液膜中に高濃度に溶解したオゾンによって分解されたフォトレジストの分解物を、前記基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する工程であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のフォトレジストの除去方法。
  5. 前記液膜を形成する工程が、四角形基板を進行方向に対して直角方向に水平面から傾斜させて移動させながら前記四角形基板の上部に酢酸を供給し、酢酸を流下させて前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成させる工程であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のフォトレジストの除去方法。
  6. 基板の表面から、ノボラック樹脂系ポジ型レジスト、ポリビニルフェノール誘導体系ポジ型レジスト、及び環化ポリイソプレン系ネガ型レジストから選ばれる1以上のフォトレジストを除去する装置であって、
    前記基板の表面に酢酸を供給して、前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する手段と、
    前記基板の表面と、前記基板の表面に近接して設けられた板状部材と、の間に形成された層状空間に、オゾンを含むガスを導入する手段と、
    前記酢酸の液膜中にオゾンを高濃度に溶解させ、オゾンによって前記フォトレジストを分解し、該フォトレジストの分解物を、前記基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する手段と、
    を有することを特徴とするフォトレジストの除去装置。
  7. 前記液膜を、加熱する手段を有することを特徴とする請求項6に記載のフォトレジストの除去装置。
  8. 前記液膜を形成する手段が、回転速度を任意に変更できるスピン軸に取付けられた保持具に前記基板を保持し、前記基板を回転させながら、前記基板の中央部に酢酸を供給し、前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成する手段であり、
    前記オゾンを含むガスを導入する手段が、前記基板面に近接し、内部にオゾン含有ガスを充満させ得るフード体を形成し、前記フード体内にオゾン含有ガスを供給する手段であり、
    前記除去する手段が、前記酢酸の液膜中に高濃度に溶解したオゾンによって分解されたフォトレジスト分解物を、前記基板の表面に再び酢酸を供給し溶解して除去する手段であることを特徴とする請求項6又は7に記載のフォトレジストの除去装置。
  9. 前記液膜を形成する手段が、四角形基板を進行方向に対して直角方向に水平面から傾斜させて移動させながら前記四角形基板の上部に酢酸を供給し、酢酸を流下させて前記基板の表面に厚さが10μm〜300μmの酢酸の液膜を形成させる手段であることを特徴とする請求項6又は7に記載のフォトレジストの除去装置。
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