JP4834960B2 - 電子源応用装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電界放射により電子線を放出する電子源を備えた電子源応用装置に関するものである。
従来から、真空中に限らず大気圧中でも電界放射により電子を放出することが可能な電子源として、例えば、図13に示す構成の電子源10’が知られており(例えば、特許文献1、2、3参照)、この電子源10’を利用した電子源応用装置として図14に示す構成のイオン発生装置が提案されている。
図13に示す構成の電子源10’は、導電性基板としてのn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコンよりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されており、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。なお、表面電極7の厚さ寸法は例えば10nm程度に設定されている。また、図13に示す構成の電子源10’では、下部電極12と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3が介在しており、多結晶シリコン層3と強電界ドリフト層6とで、下部電極12と表面電極7との間に介在し電子が通過する電子通過層を構成しているが、多結晶シリコン層3を介在させずに強電界ドリフト層6のみで電子通過層を構成したものも提案されている。また、上述の電子源10’では、下部電極12と電子通過層と表面電極7とで電子源素子を構成しているが、絶縁性基板上に導電性層からなる下部電極と電子通過層と表面電極とからなる電子源素子を形成した電子源も提案されている。
上述の電子源10’から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたアノード電極9を設け、表面電極7とアノード電極9との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、アノード電極9が表面電極7に対して高電位側となるようにアノード電極9と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図13、図14中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子eの流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
上述の各電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、アノード電極9と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図13参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電子源10’では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。ここに、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度とした時に電子源10’から放出される電子のエネルギは4〜8eV程度である。
図14に示した構成のイオン発生装置は、電子源10’が収納された直方体状のケース120’と、図14においてケース120’の上方に設けられ電子源10’の表面電極7に対向するアノード電極9とを備え、電子源10’から放出された電子がケース120’の上壁に設けた格子状の窓部121’を通してケース120’外へ取り出され、ケース120’の窓部121’とアノード電極9との間のイオン生成空間B’へ供給される空気をイオン化するようになっている。なお、図14中の矢印F11はイオン生成空間B’へ供給する空気の流れを示し、同図中の矢印F12はイオン生成空間B’において発生したイオンの流れを示している。
なお、電子源応用装置としては、アノード電極9を設けずに、電子源10’から放出された電子線をケース120’の窓部121’を通して取り出すようにした電子線発生装置も考えられる。
特開平11−329213号公報 特開2000−100316号公報 特開2001−155622号公報
ところで、上述の図14に示した構成のイオン発生装置では、ケース120’内の雰囲気が空気となっており、電子源10’の電子放出特性(エミッション電流Ie、電子放出効率など)が空気中の湿度の影響を受けるので、イオンの発生量が不安定になってしまうという不具合があった。また、上述の電子線発生装置においても、電子源10’の電子放出特性(エミッション電流Ie、電子放出効率など)が空気中の湿度の影響を受けるので、電子の放出量が不安定になってしまうという不具合があった。図15は時間経過とともに湿度を変化させたときのエミッション電流の測定結果の一例を示したグラフであり(横軸が経過時間、図15中の「イ」が湿度、「ロ」がエミッション電流Ie)、湿度が10%(10%RH)を超えるとエミッション電流Ieが低下し始め、30%(30%RH)を超えるとエミッション電流Ieが急減している。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、空気中の湿度の影響を受けずに安定して電子もしくはイオンを発生させることができる電子源応用装置を提供することにある。
請求項1の発明は、大気圧中で電子を放出可能な電子源と、電子源が収納されたケースとを備え、ケースには、電子源に対向する部位に窓孔が設けられるとともに、窓孔と電子源との間の空間へ供給する乾燥ガスを導入するガス導入口が電子源の側方に設けられてなり、ガス導入口から導入された乾燥ガスが窓孔から排出されるものであり、電子源は、下部電極と表面電極との間に、下部電極の表面側に列設され下部電極の厚み方向に延びている柱状の多結晶シリコンのグレインと、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶と、各シリコン微結晶の表面に形成され当該シリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜とを有する強電界ドリフト層を備え、表面電極を通して窓孔と電子源との間の空間へ電子を放出することを特徴とする。
この発明によれば、ケースの窓孔と電子源との間の空間には乾燥ガスが供給されるので、湿度を有する外部の空気が電子源に触れることを防止することが可能となり、下部電極の表面側に列設され下部電極の厚み方向に延びている柱状の多結晶シリコンのグレインと、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶と、各シリコン微結晶の表面に形成され当該シリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜とを有する強電界ドリフト層を備え大気圧中で電子を放出可能な電子源の電子放出特性が空気中の湿度の影響を受けることなく安定し、空気中の湿度の影響を受けずに安定して電子もしくはイオンを発生させることができる。ここに、乾燥ガスとして電子源から放出される電子線によりイオン化されないガス(例えば、不活性ガスなど)を採用した場合には、電子源応用装置として電子を発生することとなり、乾燥ガスとして電子源から放出された電子線によりイオン化されるガス(例えば、空気、酸素ガス、酸素を含むガスなど)を採用した場合には電子源応用装置として、電子に加え、イオンを発生することとなる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ケースの内側において前記窓孔の周部に配置される引出し電極を備えることを特徴とする。
この発明によれば、引出し電極の電位を適宜制御することにより、前記電子源からの放出電子量を制御したり、発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、前記乾燥ガスが電子線によりイオン化されるガスの場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記ケースの外側において前記窓孔における前記電子源とは反対側に配置されるグリッド電極を備えることを特徴とする。
この発明によれば、グリッド電極の電位を適宜制御することにより、前記電子源からの放出電子量を制御したり、発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、前記乾燥ガスが電子線によりイオン化されるガスの場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記ケースには、前記ケースの外側において前記窓孔における前記電子源とは反対側に離間した窓部を有して窓部と前記窓孔との間の空間を囲む囲み部が突設され、囲み部には、窓部と前記窓孔との間の空間へ供給するガスを導入する別のガス導入口が設けられてなることを特徴とする。
この発明によれば、より安定して電子もしくはイオンを発生させることができる。
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記ケースの外側に配置され前記表面電極を低電位側として加速電圧が印加されるアノード電極を備えることを特徴とする。
この発明によれば、アノード電極の電位を適宜制御することにより、前記電子源からの放出電子量を制御したり、発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、前記乾燥ガスが電子線によりイオン化されるガスの場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる。
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5の発明において、前記ケースの外側における前記窓孔の前方領域へ所望のイオン化対象のガスを供給するガス供給手段を備えることを特徴とする。
この発明によれば、所望のイオンを前記ケースの外で発生させることが可能となる。
請求項7の発明は、請求項5の発明において、前記アノード電極における前記電子源側の面に被処理物が配置されてなることを特徴とする。
この発明によれば、被処理物に対して、所望の化学的作用、物理的作用、生物的作用などを生じさせることが可能となる。
請求項8の発明は、請求項3の発明において、前記グリッド電極における前記電子源側の面に被処理物が配置されてなることを特徴とする。
この発明によれば、被処理物に対して、所望の化学的作用、物理的作用、生物的作用などを生じさせることが可能となる。
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項8の発明において、前記乾燥ガスが、酸素を含むガスであることを特徴とする。
この発明によれば、前記乾燥ガスが電子源からの電子線によりマイナスイオンになりやすくなるので、マイナスイオンを簡単に発生することができ、また、前記窓孔を通して前記ケースの外へ吹き出したマイナスイオンが空気中のガス分子(水分子を含む)と結びついたり、電子を相手に受け渡したりすることにより種々のイオンを発生させることが可能となる。
請求項1の発明では、電子源の電子放出特性が空気中の湿度の影響を受けることなく安定し、空気中の湿度の影響を受けずに安定して電子もしくはイオンを発生させることができるという効果がある。
(実施形態1)
本実施形態の電子源応用装置は、図1に示すように、電界放射により電子線を放出する電子源10と、電子源10が収納されたケース20とを備え、ケース20には、電子源に対向する部位に矩形状の窓孔21が設けられるとともに、窓孔21と電子源10との間の空間へ供給する乾燥ガス(例えば、乾燥空気、乾燥酸素、不活性ガスなど)を導入する複数(本実施形態では、2つ)のガス導入口22が設けられている。ここに、乾燥ガスとは、低湿度のガスのことであり、湿度が30%RH以下のガスであることが望ましく、10%RH以下であるとさらに好ましい。なお、図1中の矢印F1はガス導入口22を通してケース20内へ導入する乾燥ガスの流れを示し、同図中の一点鎖線の矢印は電子源10から放出された電子eの流れを示している。
電子源10は、図2に示すように、矩形板状の絶縁性基板(例えば、絶縁性を有するガラス基板、絶縁性を有するセラミック基板など)11の一表面上に金属膜(例えば、タングステン膜など)からなる下部電極12が形成され、下部電極12上に強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。
本実施形態における電子源10では、強電界ドリフト層6が電子通過層を構成しており、下部電極12と電子通過層と表面電極7とで表面電極7を通して大気中へ電子を放出する電子源素子10aを構成している。また、本実施形態の電子源応用装置は、電子源素子10aの表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧(駆動電圧)Vpsを印加する駆動用電源を備えている。
電子源素子10aの強電界ドリフト層6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図3に示すように、少なくとも、下部電極12の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜である多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)64とから構成されると考えられる。ここに、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板11の厚み方向に延びている)。
上述の電子源素子10aから電子を放出させるには、図2に示すように、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に駆動電圧Vpsを上記駆動電源により印加すれば、下部電極12から強電界ドリフト層6へ注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図2中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子eの流れを示す)。ここに、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし大気中に放出される。なお、本実施形態における電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として印加する駆動電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、駆動電圧Vpsが大きいほどエミッション電流が大きくなるとともに放出される電子のエネルギが高くなる。ここにおいて、電子源10へ与える駆動電圧Vpsは一定の直流電圧でもよいし、パルス状の電圧でもよい。また、駆動電圧Vpsをパルス状の電圧とした場合、駆動電圧Vpsを印加していない時に逆バイアスの電圧を印加するようにしてもよい。また、アノード電極9と表面電極7との間に印加する加速電圧Vcは、直流電圧でもよいし、駆動電圧Vpsとともにパルス状の電圧としてもよい。
本実施形態における電子源素子10aの基本構成は周知であり、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として電圧を印加することにより、下部電極12から強電界ドリフト層6へ電子eが注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子eはシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図3中の矢印の向き(図3における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。
上述の強電界ドリフト層6の形成方法の一例について説明する。
強電界ドリフト層6の形成にあたっては、まず、絶縁性基板11上に形成した下部電極12上にノンドープの多結晶シリコン層を例えばLPCVD法などにより形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図3参照)と多数のシリコン微結晶63(図3参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)を形成する。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cmの電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層を形成する。
ナノ結晶化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、図3のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる強電界ドリフト層6を形成する。酸化プロセスでは、例えば、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cmの電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなる強電界ドリフト層6を形成するようになっている。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、強電界ドリフト層6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第1の複合ナノ結晶層は多孔質多結晶シリコン層とみなすことができる。
なお、上述の強電界ドリフト層6では、シリコン酸化膜64が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
ケース20は、直方体状に形成されており、図1(a)を用いて上下方向および左右方向を規定すれば、下壁における上壁との対向面に電子源10が配置され、上壁における電子源10との対向部位に窓孔21が設けられている。また、ケース20は、左右両側壁それぞれから側方に突出した円筒状の導入部20aの先端面にガス導入口22が設けられており、各導入部20aそれぞれの流路の断面積がケース20における両導入部20a間の部位(ケース本体)の流路の断面積よりも小さくなっている。なお、各導入部20aの流路の断面積は、上記ケース本体の流路の断面積と同じであってもよいし、上記ケース本体の流路の断面積よりも大きくてもよい。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、ケース20の窓孔21と電子源10との間の空間には乾燥ガスが供給されるので、電子源10の電子放出特性が空気中の湿度の影響を受けることなく安定し、空気中の湿度の影響を受けずに安定して電子もしくはイオンを発生させることができる。ここにおいて、ケース20内へ供給する乾燥ガスとして電子源10から放出される電子線によりイオン化されないガス(例えば、不活性ガスなど)を採用した場合には、電子源応用装置が電子を発生する電子線発生装置を構成することとなり、乾燥ガスとして電子源10から放出された電子線の作用によりイオン化されるガス(例えば、空気、酸素ガス、酸素を含むガスなど)を採用した場合には電子源応用装置がイオンを発生するイオン発生装置を構成することとなる。例えば、マイナスイオンを発生させたい場合には、乾燥ガスとして、電子親和力が正である元素を含んだガスや電子親和力が大きな元素を含んだガス(例えば、酸素ガスなど)をケース20の外部からガス導入口22を通してケース20内へ導入すればよく、乾燥ガスとして酸素ガスを採用した場合にはマイナスイオンを容易に発生させることができ、窓孔21を通してケース20の外へ吹き出したマイナスイオンが空気中のガス分子(水分子を含む)と結びついたり、電子を相手に受け渡したりすることにより種々のイオンが生成される。なお、ガス導入口22を通してケース20内へ導入する乾燥ガスの流量は多い方が、イオンの発生量が増大するとともに、イオンの発生量が安定する。
なお、本実施形態では、各導入部20aを円筒状の形状に形成してあるが、円筒状に限らず、例えば、角筒状の形状としてもよい。また、ガス導入口22の数は2つに限定するものではなく、1つでもよいし3つ以上でもよいし、また、ケース20の外周面の全周に亙ってガス導入口22を形成してもよい。例えば、4つのガス導入口22を設ける場合には、ケース20の4つの側面それぞれに導入部20aを設ければよい。また、ガス導入口22の形状も円形状に限らず、例えば矩形状であってもよい。
(実施形態2)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態1と略同じであって、図4に示すように、ケース20の内側において窓孔21の周部に配置される引出し電極31と、ケース20の外側に配置され表面電極7との間に表面電極7を低電位側として加速電圧が印加される平板状のアノード電極9とを備えている点が相違し、他の構成は実施形態1と同じなので説明を省略する。ここにおいて、引出し電極31の形状は、ケース20の内側で矩形状の窓孔21を全周に亙って囲む矩形枠状の形状としてある。要するに、引出し電極31は、電子源10の表面電極7(図2参照)の表面に平行な面内の形状が矩形枠状となっている。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、引出し電極31およびアノード電極9それぞれの電位を適宜制御することにより、電子源10からの放出電子量を制御したり、ケース20内で発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、ケース20内へ供給される乾燥ガスが電子線によりイオン化されるガスの場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる。ここにおいて、引出し電極31の電位は、電子源10の表面電極7に対して高電位となるように設定することが好ましい。また、アノード電極9の電位は、引出し電極31の電位よりも更に高電位となるように設定することが好ましい。また、引出し電極31と電子源10との間の距離を短くした方が、引出し電極31の電位を低減できて低消費電力化を図れるという利点がある。なお、マイナスイオンだけでなく、プラスイオンの発生も可能であり、プラスイオンを発生させる場合には、アノード電極9と表面電極との間に乾燥ガスのイオン化エネルギ(電離エネルギ、通常は数十eV以上)以上のエネルギを与える電圧(通常、数十V〜数MV)を印加するようにすればよい。
ところで、本実施形態では、引出し電極31の形状をケース20の内側で矩形状の窓孔21を全周に亙って囲む矩形枠状としてあるが、引出し電極31の形状は特に限定するものではなく、例えば、図5に示すように、矩形状の窓孔21の両側に短冊状の引出し電極31を設けるようにしてもよい。また、引出し電極31と電子源10との相対的な位置関係は適宜設定すればよく、例えば、図6(a)に示すように電子源10の平面サイズを窓孔21のサイズよりも大きくして電子源10の厚み方向において電子源10の周部に対向する部位に引出し電極31を配置してもよいし、図6(b)に示すように電子源10の平面サイズを窓孔21のサイズよりも小さくして電子源10の斜め方向に引出し電極31が配置されるようにしてもよいし、図6(c)に示すように引出し電極31の厚み方向において重なる位置に電子源10を配置するようにしてもよい。
また、本実施形態の電子源応用装置では、実施形態1の構成に比べて引出し電極31とアノード電極9とが付加されているが、引出し電極31とアノード電極9とのいずれか一方のみを付加した構成を採用してもよい。なお、アノード電極9の形状は、板状に限らず、メッシュ状や線状など適宜変更してもよい。
(実施形態3)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態1と略同じであって、図7に示すように、ケース20の外側において窓孔21における電子源10とは反対側に配置されるメッシュ状のグリッド電極32を備えている点が相違し、他の構成は実施形態1と同じなので図示および説明を省略する。なお、グリッド電極32は、金属や金属以外の導電体により形成すればよい。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、グリッド電極32の電位を適宜制御することにより、電子源10からの放出電子量を制御したり、ケース20内で発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となり、しかも、ケース20内で供給する乾燥ガスが電子源10から放出される電子線によりイオン化されやすいガスの場合にはイオンの発生量を制御することが可能となる。また、上述のグリッド電極32を備えていることにより、塵や埃などの外部環境からの電子源10への影響を抑制することができる。なお、グリッド電極32の電位は、電子源10の表面電極7(図2参照)に対して高電位あるいは低電位となるように設定してもよいし、アース電位としてもよい。また、グリッド電極32を電気的にフローティングにした状態としてもよい。また、グリッド電極32とケース20上面との間の距離dは適宜設定すればよく、距離dを零としてもよい。また、メッシュ状のグリッド電極32のメッシュの粗さは特に限定するものではないが、発生する電子量やイオン量を増大させるという観点からは、粗さが粗い方が好ましい。また、グリッド電極32の形状はメッシュ状に限らず、イオンが通過する部分を有していればよく、例えば、多数の穴が開いた板状でもよいし、内径の異なる複数の円環状のワイヤを同心円状に配置した形状や、複数の直線状のワイヤを平行に配置した形状などでもよい。
(実施形態4)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態3と略同じであって、図8に示すように、グリッド電極32と窓孔21との間の空間を囲む囲み部24がケース20から突設され、囲み部24には、グリッド電極32と窓孔21との間の空間へ供給するガス(例えば、乾燥ガス、水蒸気を含んだガスなど)を導入するガス導入口25が2つ設けられている点が相違し、他の構成は実施形態3と同じなので図示および説明を省略する。ここに、囲み部24は、ケース20の外側において窓孔21における電子源10とは反対側に離間した窓部を有しており、窓部にグリッド電極32を設けてある。また、ガス導入口25は図8における囲み部24の左右両側壁それぞれから側方へ突出した円筒状の導入部24aの先端面に形成されているが、ガス導入口25の数は実施形態1にて説明したガス導入口22の数と同様に特に限定するものではない。なお、図8中の矢印F2はガス導入口25を通して囲み部24内へ導入するガスの流れを示している。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、実施形態3の電子源応用装置に比べて、より安定して電子もしくはイオンを発生させることができる。なお、ガス導入口25を通して導入するガスは、ガス導入口22を通して導入される乾燥ガスと同一のガスでもよいし、異なるガスでもよい。異なるガスの場合には、ガス導入口25を通して導入するガスのイオンの発生も可能となるので、複数または別種のイオンの発生が可能となるというメリットがある。また、本実施形態の構成において、グリッド電極32は必ずしも設ける必要はなく、また、実施形態2にて説明した引出し電極31を設けてもよい。
(実施形態5)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態1と略同じであって、図9に示すように、電子源10の表面電極7(図2参照)に対向配置され表面電極7との間に表面電極7を低電位側として加速電圧が印加されるメッシュ状のアノード電極9がケース20の内側に配置されている点や、アノード電極9と表面電極7との間にアノード電極9を高電位側(つまり、表面電極7を低電位側)として直流電圧(加速電圧)Vcを与える加速用電源(図示せず)を備えている点が相違し、他の構成は実施形態1と同じなので図示および説明を省略する。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、アノード電極9の電位を適宜制御することにより、電子源10からの放出電子量を制御したり、ケース20内で発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、ケース20内へ供給する乾燥ガスが電子源10から放出される電子線によりイオン化されるガス(例えば、酸素ガス)の場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる(図9中の矢印F3は発生したイオンの流れを示している)。なお、メッシュ状のアノード電極9のメッシュの粗さは特に限定するものではないが、発生する電子量やイオン量を増大させるという観点からは、粗さが粗い方が好ましい。また、アノード電極9の形状はメッシュ状に限らず、イオンが通過する部分を有していればよく、例えば、多数の穴が開いた板状でもよいし、内径の異なる複数の円環状のワイヤを同心円状に配置した形状や、複数の直線状のワイヤを平行に配置した形状などでもよい。また、アノード電極9と表面電極7との間に印加する加速電圧Vcは、直流電圧でもよいし、駆動電圧Vpsとともにパルス状の電圧としてもよい。
(実施形態6)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態1と略同じであって、図10に示すように、ケース20の外側に、表面電極7に対向配置されて表面電極7との間に表面電極7を低電位側として加速電圧Vcが印加される矩形枠状のアノード電極9が配置されている点と、ケース20の内側にメッシュ状の引出し電極31が配置されている点とが相違し、他の構成は実施形態1と同じなので図示および説明を省略する。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、引出し電極31およびアノード電極9それぞれの電位を適宜制御することにより、電子源10からの放出電子量を制御したり、ケース20内で発生させた電子もしくはイオンのエネルギを制御することが可能となる。また、ケース20内へ供給される乾燥ガスが電子線によりイオン化されるガスの場合には、発生するイオンの量を制御することが可能となる。ここにおいて、引出し電極31の電位は、電子源10の表面電極7に対して高電位となるように設定することが好ましい。また、アノード電極9の電位は、引出し電極31の電位よりも更に高電位となるように設定することが、電子およびマイナスイオンを発生させる場合に、電子量およびイオン量を増大させるという観点からは好ましい。また、引出し電極31と電子源10との間の距離を短くした方が、引出し電極31の電位を低減できて低消費電力化を図れるという利点がある。なお、アノード電極9の形状は、矩形枠状に限らず、例えば、円環状であってもよい。
(実施形態7)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態2と略同じであって、図11に示すように、ケース20の窓孔21とアノード電極9との間の空間(つまり、ケース20の外側における窓孔21の前方領域)へ側方から所望のイオン化対象のガスとして例えば、水蒸気、薬効を含んだ水蒸気などを吹きつけるように供給する水分供給手段40を備えている点が相違し、他の構成は実施形態2と同じなので図示および説明を省略する。なお、図11中の二点鎖線はガス供給手段40から供給されるガスの流れを模式的に示したものである。また、本実施形態では、水分供給手段40が、ガス供給手段を構成している。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、所望のイオンをケース20の外で発生させることが可能となる。要するに、本実施形態の電子源応用装置では、ケース20で乾燥ガスに電子線が作用することにより発生するイオンとは別の所望のイオンをケース20の外で発生させることが可能となる。なお、本実施形態におけるガス供給手段40を他の実施形態1〜6に設けてもよいことは勿論である。
(実施形態8)
本実施形態の電子源応用装置の基本構成は実施形態2と略同じであって、図12に示すように、アノード電極9における電子源10側の面(電子源10との対向面)に、ケース20内で発生した電子の照射により活性化される触媒からなる被処理物33が配置されている点が相違し、他の構成は実施形態2と同じなので図示および説明を省略する。なお、被処理物33は、触媒に限定するものではなく、電子あるいはイオンの照射により化学的作用、物理的作用、生物的作用などが生じる物質(例えば、水など)であればよい。
しかして、本実施形態の電子源応用装置では、被処理物33に対して、電子あるいはイオンの照射により化学的作用、物理的作用、生物的作用などを、ケース20の外で生じさせることが可能となる。なお、他の実施形態におけるアノード電極9やグリッド電極31に被処理物33を設けてもよい。
ところで、上記各実施形態それぞれにおいて少なくとも電子源10を収納したケース20を複数個積層した構造を採用すれば、複数の電子源10を同時に駆動した場合、発生する電子もしくはイオンの量を増大させることができる。また、複数の電子源10を順次駆動するなどして複数の電子源10を適宜駆動することができるので、発生する電子もしくはイオンを長期間にわたって安定して発生させることができる。
また、上記各実施形態の電子源10は、絶縁性基板11の上記一表面側に下部電極12を形成しているが、絶縁性基板11に代えてシリコン基板などの半導体基板を用い、半導体基板と当該半導体基板の裏面側に積層した導電性層(例えば、オーミック電極)とで下部電極を構成するようにしてもよい。また、上記各実施形態における電子源10は弾道型電子放出現象により電子を放出する電子源であって弾道電子面放出型電子源(Ballistic electron Surface-emitting Device:BSD)と呼ばれているが、電子源10はBSDに限らず、大気圧中で電子放出が可能な電子源であればよい。
実施形態1の電子源応用装置を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。 同上における電子源素子の動作説明図である。 同上における電子源素子の要部説明図である。 実施形態2の電子源応用装置を示し、(a)は概略断面図、(b)は要部概略平面図である。 同上の要部の他の構成例の下面図である。 同上の要部の別の構成例の説明図である。 実施形態3の電子源応用装置の概略断面図である。 実施形態4の電子源応用装置の概略断面図である。 実施形態5の電子源応用装置を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。 実施形態6の電子源応用装置を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。 実施形態7の電子源応用装置の概略構成図である。 実施形態8の電子源応用装置の概略断面図である。 従来例における電子源の動作説明図である。 従来例を示すイオン発生装置の概略構成図である。 従来例の電子源におけるエミッション電流の湿度依存性を示すグラフである。
符号の説明
10 電子源
20 ケース
21 窓孔
22 ガス導入口

Claims (9)

  1. 大気圧中で電子を放出可能な電子源と、電子源が収納されたケースとを備え、ケースには、電子源に対向する部位に窓孔が設けられるとともに、窓孔と電子源との間の空間へ供給する乾燥ガスを導入するガス導入口が電子源の側方に設けられてなり、ガス導入口から導入された乾燥ガスが窓孔から排出されるものであり、電子源は、下部電極と表面電極との間に、下部電極の表面側に列設され下部電極の厚み方向に延びている柱状の多結晶シリコンのグレインと、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶と、各シリコン微結晶の表面に形成され当該シリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜とを有する強電界ドリフト層を備え、表面電極を通して窓孔と電子源との間の空間へ電子を放出することを特徴とする電子源応用装置。
  2. 前記ケースの内側において前記窓孔の周部に配置される引出し電極を備えることを特徴とする請求項1記載の電子源応用装置。
  3. 前記ケースの外側において前記窓孔における前記電子源とは反対側に配置されるグリッド電極を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子源応用装置。
  4. 前記ケースには、前記ケースの外側において前記窓孔における前記電子源とは反対側に離間した窓部を有して窓部と前記窓孔との間の空間を囲む囲み部が突設され、囲み部には、窓部と前記窓孔との間の空間へ供給するガスを導入する別のガス導入口が設けられてなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子源応用装置。
  5. 前記ケースの外側に配置され前記電子源を低電位側として加速電圧が印加されるアノード電極を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電子源応用装置。
  6. 前記ケースの外側における前記窓孔の前方領域へ所望のイオン化対象のガスを供給するガス供給手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電子源応用装置。
  7. 前記アノード電極における前記電子源側の面に被処理物が配置されてなることを特徴とする請求項5記載の電子源応用装置。
  8. 前記グリッド電極における前記電子源側の面に被処理物が配置されてなることを特徴とする請求項3記載の電子源応用装置。
  9. 前記乾燥ガスが、酸素を含むガスであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の電子源応用装置。
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