JP4287416B2 - 電子放出装置 - Google Patents

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Description

本発明は、真空中に電子を放出する電子放出装置に関し、電圧の印加で平面型から電子放出を行う技術に関するものである。
従来から真空中に電子を放出する真空電子源は様々な機器の構成要素として用いられている。そして、真空電子放出源は様々な機器において要となる要素技術であるため、機器の性能向上を目的として様々な技術開発が行われている。
この電子放出の原理自体は、熱電子放出か電界電子放出あるいは両者の中間的な電界熱電子放出に大別できる。まず、熱電子放出は、陰極を加熱することで仕事関数を超えるエネルギーを陰極に与え、結果として電子を放出させている。このため、電子を出すために陽極との間に高いバイアス電圧を印加する必要がなく、低電圧動作できるという特徴を有する。また、熱的な平衡により電子がこぼれ出てくるものを用いており、放出電流を安定に保ちやすいという特徴を有する。なお、陰極とは、電子を放出する電極とする。
しかしながら、加熱では、加熱に費やされるエネルギーが必要になると共に、温度の変化に時間がかかるため瞬時の放出オンオフは困難となる。また、熱電子は様々なエネルギーを有しているので、放出された電子のエネルギーにばらつきがあり、結果としてその制御にはぼけが生じる点が実用上大きな課題である。
次に、電界電子放出型電子源は、平衡状態では陰極内部において仕事関数分のエネルギー差を持つ壁となり電子を放出できない真空の界面に電界をかけることで、障壁を薄くし、トンネル効果により電子放出させるものである。この方式は、上述した熱電子放出のような加熱が不要であり、電界の制御によって瞬時に放出をスイッチングできるという特徴を有する。
しかし、この電界放出方式では通常、先鋭形状による電界集中効果を利用して障壁の実効厚みを低減しているが、先鋭形状の変化やばらつきに極めて敏感となり、これによる放出特性変化が大きいという難点がある。つまり、電界放出型は、短期的な調整が可能な用途に用いられてはいるが、イオン化されていた元素等の付着等により放電特性が変化するので長期にわたって安定な電子放出を求められる用途や放出電流の変動に敏感な用途に用いることが困難であった。
そこで、ダイヤモンドに代表されるワイドバンドギャップ半導体を用いて平面型から電子を放出する技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、n型ダイヤモンドに電圧を印加して電子を放出する発明が記載されている。他にも、特許文献2では、ダイヤモンド隔壁に、エミッタからの第1次電子をあてて、当該隔壁から2次電子を放出する発明が記載されている。
特開2001−68011号公報 米国特許出願公開第2004/0084637号明細書
しかしながら、特許文献1に記載された発明によると電子を放出するためにn型ダイヤモンドに電圧を印加しているが、電圧を印加して電子毎に放出可能な程度まで励起させることは印加する電圧と比較すると放出される電子が少ないため放電効率が低いという問題がある。このため電圧を印加する以外の方法で電子を励起させることが望ましい。
また、特許文献2に記載された発明では、2次電子を放出するために1次電子を当てているが、この際、2次電子を放出するためのエネルギーを有する第1次電子をダイヤモンド隔壁に一様且つ均一に当てることは難しいという問題がある。これは電子同士のぶつかり合いなどにより電子により運動エネルギーの大きさにばらつきが生じるからである。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定して電子を放出し、且つ低電圧で印加するにもかかわらず電子の高出力を実現する電子放出装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1の電極と、前記第1の電極と対向して配置され、ワイドバンドギャップ半導体で形成された半導体隔壁と、前記第1の電極と前記半導体隔壁との間に配置され、前記第1の電極と前記半導体隔壁の第1面との間に密封された空間を形成している絶縁体と、前記第1の電極、前記半導体隔壁及び前記絶縁体により形成された前記空間内に封入された、電子との衝突によりバンドギャップを超えるエネルギーを有する紫外線を生じさせる不活性ガスと、前記半導体隔壁の前記第1面と反対の面である第2面と真空を隔てて対向して配置されている第2の電極と、前記第1の電極と前記半導体隔壁との間に、前記半導体隔壁を陽極側として電圧を印加する第1の印加手段と、前記半導体隔壁と前記第2の電極との間を、前記第2の電極を陽極側として電圧を印加する第2の印加手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、第1の印加手段により第1の電極と半導体隔壁の間を印加することで封入された不活性ガス中で放電が発生し、放電により発生した、バンドギャップを超えるエネルギーを有する紫外線が、ワイドバンドギャップ半導体で形成された半導体隔壁に照射されることで電子及び正孔が励起するが、半導体隔壁では電子親和力が負又は低いので、励起した電子は第2の印加手段により生じる電界により第2の電極に向かって真空中に放出され、正孔は放電により発生した電子により中和されるので半導体隔壁は正に帯電せずに安定して電子を放出することができる。また、低電圧で印加するにもかかわらず電子の高出力を実現することができる。
以下に、本発明にかかる電子放出装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる電子放出装置100の側面断面図である。本図に示すように、電子放出装置100は、真空にする気密容器101の内部に、放電セル102と、放電陽極103を、そして気密容器101の外部にオフ用スイッチ106と第1の電源104と第2の電源105で構成されている。また、この図面は説明を容易にするために用意したものであるため、図面の寸法比率は、説明又は他の図と必ずしも一致するものではない。
気密容器101は、容器内を真空にして、真空中で電子を放電するために用いられる。気密容器101は容器内を真空にすることが可能であれば、どの様な形状、サイズ又は材料でもよい。例えば、放電陽極103に蛍光体を塗布した場合、放出された電子が蛍光体に衝突し、これにより発生した光を利用者が視認できるように気密容器101を透明な材料で形成しても良い。
オフ用スイッチ106は、電子放出のオン/オフを行うために用いられるスイッチとし、このスイッチがオンになったときに電子放出が開始される。
放電セル102は、セル内陰極111と、ダイヤモンド隔壁112と、これら2つの間隔を調節する絶縁性のスペーサ114で構成され、内部には不活性ガス113が封入されている。本実施の形態では不活性ガス113として、例えば、キセノン(Xe)を用いることとする。さらに封入する際に、不活性ガス113と共に水銀を用いても良い。封入された水銀は、電子やイオン化された不活性ガス113との衝突により励起され、紫外線を発生させる。また、放電セル102は、電子放出装置全体100としては、真空中に電子を放出する陰極として構成されている。
また、放電セル102に封入された不活性ガス113をキセノンに制限するものではなく、他の元素のガスを用いても良い。また、不活性ガスとは、非常に安定しており他の元素と容易に化合しないガスを示し、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)等が挙げられる。
セル内陰極111は、後述する第1の電源104の陰極側に接続された陰極とし、放電セル102の後述するダイヤモンド隔壁112を陽極として、後述する第1の電源104の印加により放電セル102内に封入された不活性ガス113で放電を生じさせる。この放電により生じた紫外線は、ダイヤモンド隔壁112に照射される。そして、セル内陰極111に放電により発生したXe+が引き寄せられるので、セル内陰極111は、表面で電子をXe+に受け渡す。なお、放電により発光する紫外線は波長が極めて均一となる。
ダイヤモンド隔壁112は、セル内陰極111と対向する面を第1面とし、後述する放電陽極103と対向する面を第2面とする。また、ダイヤモンド隔壁112の第2面は、予め水素終端しておく。これにより電子親和力を低減させる事が可能となる。また、水素終端することで電子親和力を負にすることがより好ましい。なお、この水素終端は、このダイヤモンド隔壁112を水素プラズマにさらすことで形成することができる。
また、ダイヤモンド隔壁112は、セル内陰極111との間に封入された不活性ガス113と第1面で接するため、不活性ガス内の放電により発光した紫外線が第1面に照射されることになる。
また、本実施の形態は、ダイヤモンド隔壁112に用いられる材料をダイヤモンドに制限するものではなく、ワイドバンドギャップ半導体であればよい。ワイドバンドギャップ半導体とは、バンドギャップが大きい半導体材料を示すものであり、例えば窒化ガリウムやボロンナイトライド、炭化珪素(SiC)又はダイヤモンド等がある。本実施の形態においてはダイヤモンドを用いることとする。
なお、本実施の形態は、ダイヤモンドを用いることでバンドギャップが、5.5eVと高いので、電子の放出が容易となる。さらにダイヤモンドは現在知られている材料のうちで極めて高い硬度を備えている。このために、隔壁を封入された不活性ガス113と真空の圧力差に耐得るための隔壁の厚さを他の材料より薄く形成することができる。これにより、光励起された電子が隔壁内で再結合することで放出できなくなることを防止できる。つまり、隔壁を薄く形成することで放出される電子の量が増加することになる。
スペーサ114は、セル内陰極111とダイヤモンド隔壁112との間の間隔を調節し、さらに不活性ガス113をセル内陰極111とダイヤモンド隔壁112の間に封入するために用いる。また、このスペーサ114は絶縁性を有しているので、セル内陰極111とダイヤモンド隔壁112の間の電流は流れない。
図2は、ダイヤモンド隔壁112のエネルギーバンド及びこのダイヤモンド隔壁112内で励起される電子を示した説明図である。本図において、伝導体のエネルギーをEcとし、真空順位をE0とする。そして、真空順位E0と伝導体のエネルギーEcの差を電子親和力Χとする。本実施の形態で示すようにバンドギャップが大きく、水素終端されたダイヤモンド隔壁112を用いることで電子親和力Χは負の値を示す。つまり、電子親和力Χが負の値を示すということは、ダイヤモンド隔壁112と真空との間にバリアがないことを示している。
そして、ダイヤモンド隔壁112を陽極とする放電セル102内で放電を生じさせることで、真空紫外領域の紫外線が発生する。この真空紫外領域の光はダイヤモンド隔壁112内でバンドギャップを超えるエネルギーを有している。このため、この紫外線がダイヤモンド隔壁112に照射されると、価電子帯の電子がバンドギャップを超えて伝導帯まで励起する。すなわち、ダイヤモンド隔壁112内に自由電子・正孔のペアが生成される。
まず、ダイヤモンド隔壁112内の正孔は、放電セル102のセル内陰極111との間の電界によりダイヤモンド隔壁112の第1面に引き寄せられる。そして、放電セル102内で放電により電離して正電荷を有するキセノンイオンがセル内陰極111に引き寄せられる(図示せず)。また、放電により電離した電子は、ダイヤモンド隔壁112に引き寄せられる。この結果、隔壁内正孔と電子が結合して中和される。
一方、光励起された自由電子は真空を隔てて設けられた放電陽極103との間で印加された電界により、ダイヤモンド隔壁112の第2面の方向に移動する。そして、表面が水素終端されたダイヤモンドの負性電子親和力により、ダイヤモンド隔壁112と真空中にバリアがないので、第2面の表面から真空中に高効率で放出される。
このようなプロセスにより、ダイヤモンド隔壁112内は帯電することなく連続的に光による電子・正孔の励起が生じ、ダイヤモンド隔壁112の真空側の第2面から電子が放出される。つまり、ダイヤモンド隔壁112は放電を生起させる陽極として働くと同時に、この放電により生起された真空紫外領域の光により内部で高エネルギーの電子を蓄えることとなる。
そして、さらにダイヤモンドの負の電子親和力により電子は真空中に低電界で放出される一方、電子の放出により電荷中性が保たれずに正に帯電するダイヤモンド隔壁112を陽極側とした放電により生じる電子が供給されるので、正孔を中和させることができる。このようにして、連続的に、低電界で、大面積の真空電子放出が得られる。
また、ダイヤモンド隔壁112は、放電により発生する真空紫外領域の波長の極めて均一な紫外線が照射されるので、隔壁内の電子の光励起に用いられる励起エネルギーが揃うことになる。つまり、光励起された各電子のエネルギーが均一性を有することを可能とした。
図1に戻り、放電陽極103は、気密容器101による真空中に、放電セル102のダイヤモンド隔壁112の第2面と対向して設置されている。また、放電陽極103は、放電セル102のダイヤモンド隔壁112から放出された電子が衝突する。このような真空中に放出される電子により真空中の電流が保持されることになる。
第1の電源104は、セル内陰極111とダイヤモンド隔壁112の間を、前記ダイヤモンド隔壁112を陽極側として電圧を印加し、換言すれば第1の印加手段に相当する。この第1の電源104が放電セル102に電圧を印加することになり、放電が開始される。
第2の電源105は、ダイヤモンド隔壁112と放電陽極103の間を、放電陽極103を陽極側として電圧を印画し、換言すれば第2の印加手段に相当する。この電圧の印加により発生する電界によりダイヤモンド隔壁112から電子が放出されて、放出された電子が放電陽極103に衝突することになる。
また、第1の電源104及び第2の電源105は、第1の電源104の陽極側及び第2の電源の陰極側で結線されている。そして、第1の電源104及び第2の電源105は、共有する電路を介してダイヤモンド隔壁112と接続されている。これにより、電子が真空中に放出された後は、第1の電源104及び第2の電源105を直列に結線した電源回路を形成されることになる。
図3は、本実施の形態にかかる放電セル102と放電陽極103を示した斜視図である。本図に示すように放電陽極103と放電セル102が対向して配置されている。そして、放電セル102は、ダイヤモンド隔壁112の4辺にスペーサ114と貼り合わせ、これを不活性ガス113中で、セル内陰極111を封着することで形成されている。これによりダイヤモンド隔壁112とセル内陰極111の間の空間に不活性ガス113が封入されることになる。このような構造を備えたことで放電セル102内に封入されている不活性ガス113が、真空中に流出することを防止する。
図4は、本実施の形態にかかる電子放出装置100で行われる現象を示した説明図である。本図においては、上に配置されている程、電子エネルギーが高いことを示している。本図に示すようにセル内陰極111とダイヤモンド隔壁112の間の放電により紫外線が発光、放電による発生した電子はダイヤモンド隔壁112に引き寄せられ、さらにイオン化されたキセノン(Xe)がセル内陰極111に引き寄せられる。このイオン化されたキセノンは、セル内陰極111の表面の電子と結びつく。また、紫外線が照射されることで、ダイヤモンド隔壁112内に電子・正孔の励起が起き、放電セル102に接するダイヤモンド隔壁112の第1面で隔壁内の正孔と放電プラズマ中の電子が結びつく。一方、ダイヤモンド隔壁112内の励起電子は真空を隔てて設けられた放電陽極103からの電界を受けて、ダイヤモンド隔壁112の第2面の表面に移動し、負の電子親和力によりバリアが存在しないので真空中に容易に放出される。このように放出された電子は、放電陽極103に向けて移動し、衝突する。
本実施の形態は、電子親和力を負としたが、電子親和力が正であっても低い値であれば容易に電子を放出することができる。つまり、水素終端等の終端処理を行なわずとも容易に電子を放出することができる。また、同様に隔壁にダイヤモンド以外のワイドバンドギャップ半導体を用いた場合でもバンドギャップが大きく、電子親和力が低い又は負であれば容易に電子を放出することができる。
本実施の形態の電子放出装置100は、安定的な電子放出特性を有しながらも、電子のエネルギーの均一性を実現している。つまり、既存の熱陰極型の安定的な電子放出特性の長所と電子のエネルギーの均一性を有する冷陰極型の長所を兼ね備えている。これは上述したように紫外線の照射による励起では励起エネルギーが揃う様になるためである。
また、従来電子親和力が大きいために従来は実現が困難であった面的な電子放出面からの電子放出を低電圧で実現することができる。これにより、これまでの冷陰極型では電界を集中させるための先鋭形状に頼ることなく、表面の電子親和力の小ささにより電子が容易に放出される。また、上述したようにダイヤモンド隔壁112の比強度が高いので、薄く形成することができることになり、真空中に放出する電子の損失を抑制することができる。これにより、真空中の電流の安定性を向上させることができる。
ダイヤモンド表面の電子親和力の小ささは周知であるが、実際の陰極として真空電子放出に用いるためには、電子の供給が不可欠であり、そのためには通常、表面の電子親和力の小ささとn型の両立を必要とする。しかし、隔壁の表面で電子親和力を負としても、n型では一般的に上向きのバンドベンディングが生じているので、バルク領域からみた場合、真空中の電子のエネルギーレベルの間に実質的には障壁が存在する。そこで、本実施の形態の電子放出装置100ではダイヤモンド隔壁112としてp型を用いた。p型を用いても電子が励起したときに真空準位より高いエネルギーを保持している。このため、表面の水素終端することで負の電子親和力を有することとなり、容易に電子を放出できる。つまり、本実施の形態の電子放出装置100で電子の高出力を可能とした。
なお、本実施の形態は、電子放出装置に用いられる隔壁をp型ダイヤモンドに制限するものではない。つまり、n型ダイヤモンドを隔壁として用いた場合でも、電子親和力は負となるため他の材料を用いた場合より、電子を真空中に放出することは容易なので、隔壁に用いることもできる。
以上のように、ダイヤモンドの負又は極小の電子親和力を活用して電子放出を行うが、電子放出源とした場合の短所である伝導体の電子電荷の供給を、光励起による電子・正孔対の生成より行うこととした。この光励起を行うための紫外線の生成と、光励起時に生成される正孔の中和をダイヤモンド隔壁112の不活性ガス113内で行われる放電により同時に実現することを可能とした。
また、ダイヤモンドは諸材料のなかでも極めて高い硬度を有するので、極薄のダイヤフラムで放電セル102の隔壁を実現できる。これにより、光励起により生成された電子・正孔対が隔壁内の厚み方向に移動する際の、隔壁内で再結合することで外部に放出できない電子の数を最小限に抑えることができる。
(第2の実施の形態)
また、第1の実施の形態にかかる電子放出装置100は、オフ用スイッチ106で電源回路内を通電してからは電子を放出する際に特に制御を行わない。しかしながら、本発明はこのような構成に制限するものではなく、効率よく電子の放出を開始するための構成を備え、当該構成で電子を放出する際の制御を行っても良い。そこで、第2の実施の形態には、トリガスイッチを設け、当該トリガスイッチで回路上の電流を切り替える制御する場合について説明する。
図5は、第2の実施の形態にかかる電子放出装置500の側面断面図である。上述した第1の実施の形態にかかる電子放出装置100とは、トリガスイッチ501が追加された構成を有している点で異なる。以下の説明では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
トリガスイッチ501は、第1の電源104及び第2の電源105とダイヤモンド隔壁112を接続している共有電路上に配置され、電流のオン/オフを切り替える。
図6は、本実施の形態の電子放出装置500でトリガスイッチ501を使用して真空中に電子を放出するまでの経過を示した説明図である。本図の上段で示すように、トリガスイッチ501がオンになった状態で、オフ用スイッチ106で通電して動作を開始すると、第1の電源104で放電セル102に電圧が印加されるので、放電セル102内で放電が発生し、電流Idisが形成される。
次に、図6の中段で示すように、トリガスイッチ501をオフにする制御を行うと、第1の電源104及び放電セル102の回路に流れていた電流Idis減少が始まり、この電流の減少を阻止しようとする逆起電力がトリガスイッチ501の両端に生じる。その結果、放電陽極103の電位が上昇すると共にダイヤモンド隔壁112の第2面の表面に電子が移動する。
そして、図6の下段で示すように、ダイヤモンド隔壁112の第2面の表面から放電陽極103に向けて真空中に電子が放出される。この放出された電子により形成される電流Ivacで、第1の電源104及び第2の電源105を直列に配列した回路で電流Ivacが保持される。つまり、放電陽極103まで電子が到達すると、真空中の電流により放電セル102内のセル内陰極111から放電陽極103を経由し、第1の電源104及び第2の電源105を直列に結線した回路が形成される。これにより、トリガスイッチ501をオフにした状態でもダイヤモンド隔壁112から放電陽極103経由で電流が流れる。したがって、本実施の形態では、放電セル102の電流が減少せずに、ダイヤモンド隔壁112と放電陽極103の間の電流となるので、無効電流が生じないという特徴がある。
(第3の実施の形態)
上述した実施の形態にかかる電子放出装置は、放出される電子の量の調節はオフ用スイッチ106で電子の放出をオン/オフすることしか制御できない。しかしながら、本発明はこのような制御に制限するものではなく、電流量、つまり電子の放出量を制御する機構を設けてもよい。そこで、第3の実施の形態においては、可変抵抗を設けて、電子の放出量を制御する場合について説明する。
図7は、第3の実施の形態にかかる電子放出装置700の側面断面図である。上述した第2の実施の形態にかかる電子放出装置500とは、可変抵抗701を追加し、オフ用スイッチ106と配置された位置が異なるオフ用スイッチ702を備えた構成を有している点で異なる。以下の説明では、上述した第1又は2の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
オフ用スイッチ702は、電子の放出のオン/オフに用いられ、第1の実施の形態のオフ用スイッチ106とは配置された位置のみ異なる。しかしながら、オフ用スイッチ702をオフにすることで、電子が真空中に放出された後の電流を遮断することができる。つまり、オフ用スイッチは、真空中に電子が放出された後に生じる電流が流れる経路上であれば、オン/オフにより電子の放出の有無を切り替えられるので、どの位置に配置されていても良い。
可変抵抗701は、所定の範囲内で抵抗値を変更できる抵抗とし、放電セル102と第1の電源104の陰極側を接続している電路上に配置されている。この可変抵抗701の抵抗値を変更することで、放電セル102と放電陽極103との間に印加される電圧を変更することができるので、放電電流、つまり放出される電子の量を変更させることができる。なお、可変抵抗701は、印加される電圧を変えることで生じる電流を変更するので、換言すれば電流変更手段に相当する。
(第4の実施の形態)
第3の実施の形態にかかる電子放出装置700では、可変抵抗を放電セル102と第1の電源104の陰極側を接続している電路上に配置したが、印加される電圧を変更して電流量が調節可能であればどの位置に配置しても良い。そこで、第4の実施の形態にかかる電子放出装置では、第1の電源104及び第2の電源105とダイヤモンド隔壁112を接続している共有電路上に可変抵抗を配置した場合について説明する。
図8は、第4の実施の形態にかかる電子放出装置800の側面断面図である。上述した第3の実施の形態にかかる電子放出装置700とは、可変抵抗701と配置された位置が異なる可変抵抗801を備えた構成を有している点で異なる。以下の説明では、上述した第3の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
可変抵抗801は、第3の実施の形態の可変抵抗701と同様に所定の範囲内で抵抗値を変更できる抵抗とし、第1の電源104及び第2の電源105とダイヤモンド隔壁112を接続している共有電路上に配置されている。
この可変抵抗801により放電セル102と第1の電源104間に印加される電圧を変更することができるので、ダイヤモンド隔壁112から放電陽極103を経ずにバイパスされる電流を調節することができる。つまり本実施の形態で、トリガスイッチ501をオンにしたまま可変抵抗801で抵抗値を変更することで印加される電圧の変更を可能とした。これにより無効電流こそ生ずるが、放出される電子による電流量を容易に調節することができる。
なお、可変抵抗の配置する場所は何処でも良く、第3の実施の形態及び第4の実施の形態で示した配置以外として、第1の電源104と第2の電源105を結線している電路上又は第2の電源105と放電陽極103を結線している電路上であってもよい。
また、本実施の形態においては可変抵抗801を上述した位置に1つだけ配置したが、配置される可変抵抗の数を1つに制限するものではない。例えば、第3の実施の形態で示した可変抵抗701の位置及び本実施の形態で示した可変抵抗801の位置の両方に可変抵抗を配置しても良い。このように、上述した電路上に複数個の可変抵抗を設けても良い。
(変形例)
また、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、電子放出装置の放電セル102に用いられたダイヤモンド隔壁112は、水素終端することで電子親和力を負にしたが、ダイヤモンド隔壁の表面を水素終端に制限するものではない。そこで、本変形例は、ダイヤモンド隔壁を硫酸過酸化水素水に浸し漬けて酸性終端を行うこととした。実験した結果、過酸化水素水で酸性終端されたダイヤモンド隔壁を用いた場合、水素終端した場合と同様に電子親和力が負になる。これにより本変形例にかかる電子放出装置は、真空中に容易に電子を放出できる。
また、本変形例では過酸化水素水により酸性終端を行ったが、過酸化水素水以外の溶液等を用いて酸性終端を行っても良い。
(変形例2)
上述した実施の形態にかかる電子放出装置のセル内陰極111の材質は、周知の材料を問わず、どのような材料を用いても良いので説明を省略した。しかしながら、高放電を安全に行うために所定の材料でセル内陰極111を形成しても良い。そこで、本変形例では、セル内陰極111の材料として導電性ダイヤモンドを用いることとした。なお、他の構成については他の実施例と同一の構成を備えているので説明を省略する。
セル内陰極111は、放電セルの陽極側の導電性ダイヤモンドで形成され、第1の電源104に接続されている。これにより第1の電源104で印加された場合、セル陰極内の電子が励起して、放電セル102内に放出される。そして、放出された電子が衝突を繰り返すことで紫外線が発光する。また、セル内陰極の材料に導電性ダイヤモンドを用いることで電子親和力が低い又は負となるため、他の材料を用いた場合より多くの電子が放出される。したがって、導電性ダイヤモンドを用いた場合、他の材料を用いた場合より紫外線の発光量が増加する。これにより、ダイヤモンド隔壁で励起される電子の量が増加するので、真空中に放出される電子量が増加することになり、より高出力を実現できる。
さらに、ダイヤモンドは比強度が高いので、放電セル102のセル内陰極を薄く形成できるにもかかわらず高圧力に耐えることができる。
以上のように、本発明にかかる電子放出装置は、真空中に電子を放出させる電子源として広く用いることができるが、特に、平面型を用いることで長寿用となり且つ低電圧を印加して電子の放出が要求される用途に適している。用途の例としては、以下に説明する真空中の電子流を制御するパワースイッチ、X線放射装置などに適用できる。
図9は、上述した電子放出装置を適用したパワースイッチ900の一例を示す側面断面図である。本図に示すように、気密容器となる筐体901内に放電セル102と、放電陽極103とが備えられている。そして陽極から陰極に流れる電流をパワースイッチ900により制御する。このために、放電セル102のダイヤモンド隔壁112に接続された制御信号線902により印加電圧を制御する。この制御により、真空に放出される電子流をオン/オフさせることができる。このように、本発明の電子放出装置は、パワースイッチ用の電子源として適用できる。また、上述した真空中の電子流を制御するパワースイッチは、例えばダイオード又は3端子型のスイッチ等に用いることができる。
図10は、上述した電子放出装置を適用したX線放射装置1000の一例を示す側面断面図である。本図に示すように、X線放射装置1000は、気密容器となる管体1004内に収束管1003と、放電セル102と、ターゲット1011と、放電陽極1001と、を備えている。管体1004には、放射窓1002を備えている。また、放電セル102は、収束管1003内に配置されている。また、ターゲット1011は、タングステンや銅などの金属が用いられている。
そして、放電セル102から真空中に放出された電子は、放電陽極1001による電界により加速して、ターゲット1011に衝突する。この衝突によりX線が発生する。発生したX線は、放射窓1002から管体1004外に放射される。なお、産業上利用するにあたり、放電セル102と放電陽極1001の間にターゲット1011を設置するような他の構成を備えても良い。
上述したように放電セル102からは、均一なエネルギーを有する電子を高密度に放射させることができる。このような電子をターゲット1011で精度良く収束させることで、X線放射装置1000は、高輝度のX線を放射させることができる。このように、本発明の電子放出装置は、X線放射装置の電子源としても適用できる。
第1の実施の形態にかかる電子放出装置の側面断面図である。 第1の実施の形態にかかる電子放出装置のダイヤモンド隔壁のエネルギーバンド及びこのダイヤモンド隔壁内で励起される電子を示した説明図である。 第1の実施の形態にかかる電子放出装置における放電セルと陽極を示した斜視図である。 第1の実施の形態にかかる電子放出装置で行われる現象を示した説明図である。 第2の実施の形態にかかる電子放出装置の側面断面図である。 第2の実施の形態の電子放出装置でトリガスイッチを使用して真空中に電子を放出するまでの経過を示した説明図である。 第3の実施の形態にかかる電子放出装置の側面断面図である。 第4の実施の形態にかかる電子放出装置の側面断面図である。 本発明の電子放出装置を適用したパワースイッチの一例を示す側面断面図である。 本発明の電子放出装置を適用したX線放射装置の一例を示す側面断面図である。
符号の説明
100 電子放出装置
101 気密容器
102 放電セル
103 放電陽極
104 第1の電源
105 第2の電源
106 オフ用スイッチ
111 セル内陰極
112 ダイヤモンド隔壁
113 不活性ガス
114 スペーサ
500 電子放出装置
501 トリガスイッチ
700 電子放出装置
701 可変抵抗
702 オフ用スイッチ
800 電子放出装置
801 可変抵抗
900 パワースイッチ
901 筐体
902 制御信号線
1000 X線放射装置
1001 放電陽極
1002 放射窓
1003 収束管
1004 管体
1011 ターゲット

Claims (7)

  1. 第1の電極と、
    前記第1の電極と対向して配置され、ワイドバンドギャップ半導体で形成された半導体隔壁と、
    前記第1の電極と前記半導体隔壁との間に配置され、前記第1の電極と前記半導体隔壁の第1面との間に密封された空間を形成している絶縁体と、
    前記第1の電極、前記半導体隔壁及び前記絶縁体により形成された前記空間内に封入された、電子との衝突によりバンドギャップを超えるエネルギーを有する紫外線を生じさせる不活性ガスと、
    前記半導体隔壁の前記第1面と反対の面である第2面と真空を隔てて対向して配置されている第2の電極と、
    前記第1の電極と前記半導体隔壁との間に、前記半導体隔壁を陽極側として電圧を印加する第1の印加手段と、
    前記半導体隔壁と前記第2の電極との間を、前記第2の電極を陽極側として電圧を印加する第2の印加手段と、
    を備えたことを特徴とする電子放出装置。
  2. 前記半導体隔壁は、前記ワイドバンドギャップ半導体としてダイヤモンドで形成されたことを特徴とする請求項1に記載の電子放出装置。
  3. 前記半導体隔壁は、前記ダイヤモンドの前記第2面の表面が水素終端されていることを特徴とする請求項2に記載の電子放出装置。
  4. 前記半導体隔壁は、前記ダイヤモンドの前記第2面の表面が酸性終端されていることを特徴とする請求項2に記載の電子放出装置。
  5. 前記第1の印加手段及び前記第2の印加手段は、前記第1の印加手段の陽極側及び前記第2の印加手段の陰極側で結線され、且つ共有する電路を介して前記半導体隔壁と接続され、
    前記共有する電路上に通電と遮断とを切り替える通電切替制御部を備えていること
    を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の電子放出装置。
  6. 前記第1の印加手段及び前記第2の印加手段は、前記第1の印加手段の陽極側及び前記第2の印加手段の陰極側で結線され、且つ共有する電路を介して前記半導体隔壁と接続され、
    前記共有する電路、前記第1の電極と前記第1の印加手段を結線する電路、前記第1の印加手段と前記第2の印加手段を直列に結線する間の電路、及び前記第2の印加手段と前記第2の電極を結線する電路のうちの任意の1つ以上の電路上に、電流量を変更する電流可変制御部を少なくとも1つ以上備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の電子放出装置。
  7. 前記第1の電極は、ダイヤモンドで形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の電子放出装置。
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