JP4828143B2 - 樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、樹脂組成物の製造方法に関する。
近年、樹脂材料よりも圧倒的に弾性率が大きく、アスペクト比が大きい層状の無機物を樹脂組成物中にナノメートルのオーダーで微細に分散させて物性を改善し、従来樹脂材料が抱えていた課題の克服が期待できるポリマーナノコンポジットの開発が急速に進んでいる。
例えば、ポリオレフィン系樹脂は、分子構造中に極性官能基を有しておらず、さらに結晶性が高いために、金属材料との接着性が極めて悪いと言う課題がある。この課題に対し接着剤や金属材料の表面処理等、種々の方法が検討されてきた。しかしながら、当該技術でも密着力が不十分であったり、工程が煩雑になったり、コスト高になる等の課題があった。また、ポリオレフィン樹脂は、表面硬度が低いため、ポリオレフィン樹脂被覆金属材料は、耐疵付き性、耐磨耗性が悪く、建材、家電、家具等の、意匠性を求められる用途において、使用が制限される場合があると言った課題があった。この課題を解決する手段として、ポリメタクリル酸等でポリオレフィン樹脂被覆表面をコートする技術等が知られている(特許文献1)が、工程が煩雑になったり、コート層がポリオレフィン樹脂から剥離すると言う課題があった。
ポリマーナノコンポジット化によって、腐食原因物質バリア性の向上や、弾性率の向上、線膨張係数の低減、熱変形温度の向上等の改善効果が知られている(非特許文献1)ため、このような課題の解決のために、ポリオレフィン樹脂の改良手段として、ポリマーナノコンポジット技術が期待できる。
マトリックスポリマー中に、層状の無機物をナノメータースケールで微細に分散させて樹脂組成物の物性改善を行なう技術は、既に公知である(特許文献2、3)。しかし、これらの従来技術では、当該樹脂組成物の組成は公知であるものの、不適切な混練条件ではナノメータースケールで微細に分散せず、製造可能な混練条件には適切な範囲とスクリュー形状があるため、容易に製造することができなかった(非特許文献2)。特に、ポリマーナノコンポジットの工業生産に必須の連続製造は、混練時間と生産量を独立に設定できない等の理由で混練時の制約が多く、優れた物性を有するポリマーナノコンポジットの製造が困難であると言う課題があった。また、具体的な製造条件が示されていても、それは装置固有の条件であり、装置毎に最適な混練条件が異なるため、汎用性が無く、従来技術では、装置の型式に依存せず、汎用的に使用できる具体的な製造条件は、容易に想像できないと言う課題があった。
特開2000-15759号公報 特開平8-333114号公報 特開平10-182892号公報 中條澄、ポリマー系ナノコンポジットの最新技術と応用、シーエムシー、2001年10頁 Ryan Dennis, H. et al., Plastic Engineering, (2001) 56, January
本発明の目的は、層状無機物がナノメータースケールで微細に分散した樹脂組成物の溶融混練による製造において、従来技術では推定困難であった製造条件を容易に決定でき、かつ装置の型式に依存せず汎用的に使用することができる当該樹脂組成物の製造方法を提供することである。
本発明者らは、層状無機物をマトリックスポリマー中にナノメータースケールで微細に分散させるには、樹脂組成物の組成のみに着目するのではなく、混練機内の溶融樹脂の流動場に強いせん断応力を加え、その後強攪拌し、最後にせん断と強攪拌を同時に加えたり、無機物の層間へ拡散(インターカレーション)できる程度のマトリックスポリマーの分子運動性と混練時間を付与すると、効率的に無機物をマトリックスポリマー中に微細に分散できると言う知見から、本発明に至った。
即ち、本発明は、溶融混練の製造条件である混練機内の流動場、混練投入エネルギー、樹脂の溶融粘度、混練温度及び混練時間を総合的に制御することにより、溶融混練装置の型式に依存せず、汎用的に使用することができる層状無機物がナノメータースケールで微細に分散した樹脂組成物の最適な製造方法を要旨とする。
本発明は、
(1) 樹脂組成物の成分として、少なくとも層状無機物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)、ゴム状弾性体(D)を含み、
層状無機物(A)が0.01〜50質量%、
ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上、
極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)が0.3〜90質量%及び
ゴム状弾性体(D)を0.01〜50質量%の成分比である樹脂組成物の製造方法であって、
溶融混練する工程で、混練流動場に、平均せん断速度が20〜50000s-1の強せん断応力場と、総せん断歪量が1500〜10,000,000の強攪拌による混合場の両方を加え、
混練投入エネルギーが500〜200,000J/gであり、
混練樹脂の溶融粘度が100〜2000Pa・sであり、
混練温度が180〜300℃であり、
混練時間が1〜30分であることを特徴とする樹脂組成物の製造方法であり、
(2) 前記ポリオレフィン系樹脂(B)が極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B‘)であることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物の製造方法であり、
) 前記層状無機物(A)の長辺が1μm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の樹脂組成物の製造方法であり、
) 前記層状無機物(A)の長辺と厚みの比(長辺/厚み)が10以上であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であり、
) 前記層状無機物(A)が粘土鉱物であることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であり、
) 前記粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする)に記載のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
本発明の樹脂組成物の製造方法では、層状無機物がマトリックスポリマー中に微細に分散するメカニズムを明確にし、それに基づき最適な混練条件範囲を規定しているため、従来技術では推定困難であった製造条件の決定を迅速かつ確実に実施できる。そのため、製造条件決定に至るまでの数多くの試行錯誤によるロスを解消、もしくは最小限に抑えることができ、従来よりも経済的である。また、多様な装置で汎用的に使用できる製造方法であるため、装置仕様が変更になっても製造条件が容易に決定できるので、スケールアップや製品仕様変更にも経済的かつ迅速に対応できる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用する層状無機物(A)とは、板状の無機物が積層したものである。マトリックスポリマー中に分散することによる物性改善の効果を高めるために、無機物結晶一層の厚さに対する長辺のアスペクト比は10〜100,000、好ましくは50〜5000、さらに好ましくは100〜500である。無機物結晶は天然物でも人工的に合成したものでもよい。天然物としては、粘土鉱物が広く例示される。粘土鉱物は、イオン交換性、非イオン交換性のいずれでもよく、イオン交換性においては、カチオン交換性、アニオン交換性のいずれでもよい。カチオン交換性層状粘土鉱物は、スメクタイト系粘土鉱物等であり、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト、サポナイト、鉄サポナイト、ソーコライト、ヘクトライト、スティブンライト等が挙げられる。アニオン交換性粘土鉱物としては、ハイドロタルサイトが挙げられる。また、イオン交換性ではない粘土鉱物として、雲母、カオリナイト、緑泥石、バーミキュライト、パイロフィライト、ブルサイト等が挙げられる。ただし、本発明においては、板状の無機物結晶であればよいので、これらに限定はされない。
イオン交換性の粘土鉱物において、マトリックスポリマーとの親和性を高め、ナノメートルのオーダーの微細な分散を容易にするために、層間のNa+やMg2+等の金属カチオン、又はアニオンを有機カチオン、又は有機アニオンと交換することで有機化(親油化)した方が好ましい。有機化すると、マトリックスポリマーとの親和性向上に加え、層状粘土鉱物の層間距離が拡大するので、マトリックスポリマー中に分散させる際、層間にポリオレフィン系樹脂(B)や官能基を有するオレフィン系オリゴマー(C)が侵入し易くなり、分散性がより向上する。
有機カチオン、又は有機アニオンとしては、炭素数が2以上30以下、好ましくは6以上24以下のアルキル基を有するカチオン、又はアニオンが好ましい。またアリール基を含んでいてもよい。炭素数が2未満であると、有機カチオン、又は有機アニオンの親水性が高まるために、ポリオレフィン系樹脂(B)やオレフィン系オリゴマー(C)に対する相溶性が低下する恐れがある。
また、層状粘土鉱物のイオン交換容量は50〜200ミリ当量/100gであることが好ましい。イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満だと、有機カチオン、又は有機アニオンのイオン交換による層状粘土鉱物の有機化が不十分になり易く、オレフィン系オリゴマーやポリオレフィン樹脂との相溶性を悪化させる恐れがある。また、200ミリ当量/100gを超える場合には、層状粘土鉱物の層間結合力が強固であるために、有機イオン交換による有機化が不十分になり易く、ポリマーの層間への介入が困難になり、ポリオレフィン系樹脂(B)やオレフィン系オリゴマー(C)との相溶性を悪化させる恐れがある。
有機カチオンとして、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、フォスフォニウム等が挙げられる。具体例として、アンモニウムでは、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジステアリルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム、2-ヘキシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム等、イミダゾリウムでは、メチルステアリルイミダゾリウム、ジステアリルイミダゾリウム、メチルヘキシルイミダゾリウム、ジヘキシルイミダゾリウム、メチルオクチルイミダゾリウム、ジオクチルイミダゾリウム、メチルドデシルイミダゾリウム、ジドデシルイミダゾリウム等、ピリジニウムでは、ステアリルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム、オクチルピリジニウム、ドデシルピリジニウム等、フォスフォニウムでは、ジメチルジステアリルフォスフォニウム、ジステアリルフォスフォニウム、オクタデシルフォスフォニウム、ヘキシルフォスフォニウム、オクチルフォスフォニウム、2-ヘキシルフォスフォニウム、ドデシルフォスフォニウム、トリオクチルフォスフォニウム等を挙げることができる。これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
また、イオン交換量としては、粘土鉱物のイオン交換容量に対して0.1〜4.0倍のイオン交換量が好ましく、特に好ましくは0.5〜2.0倍のイオン交換量である。イオン交換は、以下の方法によって行なう。カチオン交換性、又はアニオン交換性粘土鉱物を良溶媒中で分散、又は溶解させ、溶液(X)を得る。続いて、有機カチオン、又は有機アニオンを良溶媒中で分散、又は溶解させ、溶液(Y)を得る。上記の溶液(X)と溶液(Y)とを混合し、好ましくは十分に攪拌させ、溶媒をろ過や乾燥等の手段により取り除くことで、有機化した層状無機物(A)を得る。また、溶媒を取り除く手段は、ろ過や乾燥に限らなくてよい。
本発明の樹脂組成物に含有する層状無機物(A)の分散径は、特に規定するものではないが、分散層状無機物(A)の粒子径が小さく、長辺と厚みのアスペクト比が大きいほど、樹脂相との界面面積が増加するので、少量の層状無機物(A)の添加でも剛性や機械強度の改善効果が大きくなる。具体的には、1μm以下の粒径となって分散していることが好ましい。層状無機物(A)の粒径が1μm超では、樹脂との界面強度が不十分で、脆性破壊する場合がある。さらに好ましい無機層状物(A)の分散径は、200nm以下であり、より好ましくは、100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、最も好ましくは、層状無機物(A)の層間に樹脂分子がインターカレートし、層状無機物(A)が単位層厚みの粒径となって樹脂相内に分散することが好ましい。長辺と厚みのアスペクト比は10〜100,000、好ましくは50〜5000、さらに好ましくは100〜500である。この結果、金属材料の腐食原因物質がマトリックスポリマー中を透過する際に、層状無機物(A)が障害物となって、透過率が減少したり(迂回効果)、層状無機物(A)がマトリックスポリマーの運動の障害物となって運動性を拘束して、部材の線膨張係数を低減(寸法精度向上)、引張り強度や弾性率を向上させたり、耐クリープ性が向上したりする。
さらに、本発明の樹脂組成物には、層状無機物(A)が全樹脂中に分散していても、マトリックス相や分散相のいずれか一部に分散していてもよいし、分散が偏在していてもよい。しかし、最も好ましいのは、マトリックス樹脂に層状無機物(A)が均一分散している構造である。連続相がバルクの機械特性を支配している場合が多く、マトリックス相に層状無機化合物を均一分散することにより、剛性や機械強度向上効果を発現し易い。
層状無機物(A)の分散径や分散状態を確認する方法としては、電子顕微鏡で直接観察する方法と、広角X線回折による特定結晶面のピークにより面間距離を算出する方法等が挙げられる。広角X線回折では、樹脂分子が層状無機物(A)の層間にインターカレーションすれば、結晶面ピークが低角側にシフトしたり、ブロードになるので、インターカレーションの程度が分かり、分散状態が予測できる。特に、結晶ピークが消滅した場合は、樹脂分子による層状無機物(A)の層間へのインターカレーションが進行して、層が剥離したことを意味し、層状無機物(A)が単位層厚みで樹脂内に分散している構造に対応する。
本発明に使用するポリオレフィン系樹脂(B)及び極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)は、下記(式I)の繰り返し単位を有する樹脂を主成分にする樹脂である。主成分とは、(式I)の繰り返し単位を有する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)の50質量%以上を構成することである。
-CR1H-CR2R3- (式I)
(式中、R1、R2は、各々独立に炭素数1〜12のアルキル基又は水素を、R3は、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基又は水素を示す)
本発明のポリオレフィン樹脂(B)及び極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)は、これらの構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果が発揮し難い。繰り返し単位を例示すると、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の末端オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他にo-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、o-エチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、末端メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂(B)を例示すると、末端オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン等が挙げられる。上記単位の共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボ-ネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系共重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。また、これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合して使用してもよい。
取扱性、腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはこれらの2種類以上の混合物である。
また、ポリオレフィン系樹脂(B)は、上記のオレフィン単位が主成分であればよく、上記の単位の置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては、上記単位に対して50質量%、好ましくは30質量%以下である。50質量%超では、腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下する。極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
また、ポリオレフィン系樹脂(B’)の極性を持つ官能基の含有量は、本発明の金属被覆用ポリオレフィン系樹脂組成物のバルク物性に悪影響を与えないために、0.5μmol/g以上、10mmol/g以下が好ましく、より好ましくは1μmol/g以上、1.0mmol/g以下である。
本発明に使用する極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)に含有される官能基は、オレフィン系オリゴマーに共有結合でグラフトした極性の高い化学構造を有する化学修飾基のことである。極性を持つ官能基(ポリオレフィン系樹脂が有する場合の極性を持つ官能基も同じ)としては、炭素原子と水素原子との間の共有結合は極性を有していないと考えられるのに対して、これら以外の原子を含む官能基は極性を有すると考えられ、それらを広く一般的に極性を持つ官能基と指称するが、特にポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した官能基が好適である。極性を持つ官能基の例としては、酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基、エステル基、イミド基、マレイミド基、ハロゲン基、エーテル基、チオール基、エポキシ基等が挙げられる。前記官能基がオレフィン系オリゴマーに共有結合している部位は、オリゴマー分子の末端でも、分子鎖の途中であっても良い。層状粘土鉱物(A)との相溶性を考えると、上記の各種の官能基の内、水素結合性や高い極性相互作用を有する官能基である酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、ウレタン基、イミド基、マレイミド基、チオール基等が好ましく、中でも無水マレイン酸基が特に好ましい。官能基の含有量は、本発明の金属被覆用ポリオレフィン系樹脂組成物のバルク物性に悪影響を与えないために、オレフィン系オリゴマーに対し、0.5μmol/g以上、10mmol/g以下が好ましく、より好ましくは1μmol/g以上、1.0mmol/g以下である。
オレフィン系オリゴマーとは、ほとんど炭素及び水素のみの原子の組み合わせからなり、直鎖状あるいは分岐状の重合体を言う。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレンの共重合体等が例として挙げられる。オレフィン系オリゴマーの内、特に好ましいのは、前述のポリオレフィン系樹脂(B)と同一の繰り返し単位を有するオレフィン系オリゴマーである。このようなオレフィン系オリゴマーは、ポリオレフィン樹脂に対して最も高い相溶性を示すからである。例えば、ポリオレフィン系樹脂(B)としてポリプロピレンを使用する場合には、オレフィン系オリゴマーとしてプロピレンオリゴマーを用いることが好ましい。オリゴマーの分子量は1000〜500,000程度が好ましい。この範囲を逸脱したオリゴマーは、低分子量側では樹脂シートの物性を低下させたり、ポリオレフィン系樹脂(B)と層状粘土鉱物(A)の相溶性を悪化させたり、高分子量側ではオリゴマーと層状粘土鉱物との相溶性が悪化したりする恐れがある。
本発明に使用するゴム状弾性体(D)は、ヤング率が10-1〜103MPaの範囲の有機化合物であればよく、具体的に例示すると、固形ゴム、熱可塑性エラストマー、液状ゴム、粉末ゴム等が挙げられる。中でも、シート加工性から最も好ましいのが、固形ゴムと熱可塑性エラストストマーであり、ポリオレフィン系樹脂(B)との相溶性の観点から最も好ましいのが、前述の(式I)のユニットを主成分(50質量%以上)とするオレフィン系ゴム状弾性体である。具体的に好ましいオレフィン系ゴム状弾性体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-3-エチルペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等のエチレンと炭素数3 以上のα-オレフィンの共重合体、もしくは、前記2元共重合体にブタジエン、イソプレン、5-メチリデン-2-ノルボーネン、 5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等を共重合したエチレン、炭素数3以上のα-オレフィン及び非共役ジエンからなる3元共重合体である。その中でも、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体の2元共重合体、若しくは、エチレン- プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体に、非共役ジエンとして5-メチリデン-2-ノルボーネン、5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンを使用し、α-オレフィン量を20〜60モル%、非共役ジエンを0.5〜10モル%共重合した樹脂が、シート加工性から最も好ましい。
本発明では、前記の成分(A)、(B)、(C)を使用目的に応じて任意の比率にすることができ、特に限定するものではない。前記の成分(D)は、必要に応じて添加することができ、任意の比率にすることができ、特に限定するものではない。具体的には、ガスバリア性や剛性を向上させたい場合は層状無機物(A)を多く、柔軟性を向上させたい場合はゴム状弾性体(D)を多くさせる等が挙げられる。ただし、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン樹脂(B’)の特徴である耐水性、耐薬品性を活かすためには、ポリオレフィン系樹脂(B)又は極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン樹脂(B’)を10質量%以上含有していることが好ましく、特に好ましい範囲は20〜99.6質量%である。また金属材料に被覆することを考慮すると、脆化を防ぐために層状無機物(A)は、0.01〜50質量%が好ましく、特に好ましい範囲は0.01〜30質量%である。また、層状無機物(A)としては、モンモリロナイトが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂(B)のマトリックスポリマー中にナノスケールで微細に分散させるには、層状無機物(A)と極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)の質量比、(A)成分/(C)成分が1.6以下であることが好ましい。これが1.6超であると、マトリックスポリマー中に良好に分散しなくなる恐れがある。また、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)は、バルク物性に悪影響を与えないために、0.3〜90質量%であることが好ましく、特に好ましくは3〜60質量%である。また、ゴム状弾性体(D)は、添加し過ぎるとガスバリア性等に悪影響を与えるため、0.01〜50質量%であることが好ましく、特に好ましくは1〜30質量%である。
本発明における樹脂組成物は、層状無機物(A)を含有していればよく、特にポリオレフィン系に限定されるものでは無い。本発明の樹脂組成物の特性を阻害しない範囲で2種以上の樹脂と混合して使用してもよい。
さらに、本発明における樹脂組成物には、目的に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、離型剤、滑剤、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤等、公知の改質剤を適正量添加することも可能である。
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法を述べる。
前記(A)〜(D)の成分、及び原料を一括して2軸混練押出し機等で溶融混練して、層状無機物(A)がナノメータースケールで微細に分散した樹脂組成物を製造する。このとき、混練条件が不適切だと、層状無機物(A)がナノスケールでマトリックスポリマー中に微細に分散せずに凝集したり、マトリックスポリマー及び層状無機物(A)を有機化する有機カチオンや有機アニオンの熱分解が進行したりする可能性があり、十分効果を発揮する樹脂組成物を得がたいため、混練条件を総合的に制御して製造する。
層状無機物(A)がマトリックスポリマー中にナノスケールで微細に分散する過程は、次の4ステップで進行する。
(a) 層状無機物(A)が凝集した粒子(粒径100〜300μm)の状態で溶融マトリックスポリマー中へ分散する。
(b) 混練機内の強せん断応力場により、層状無機物(A)の凝集粒子が1μm以下に分裂する。
(c) 1μm以下の粒子の層状無機物(A)の層間へ極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)、もしくは極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)等がインターカレーションする。このとき、極性を持つ官能基と層状無機物(A)表面の相互作用がインターカレーションの駆動力であるため、極性を持つ官能基濃度が層状無機物(A)近傍で低下しないように、強攪拌による混合場であることが好ましい。
(d) ポリオレフィン系樹脂(B)等が層状無機物(A)の層間へインターカレーションする。これにより、層状無機物(A)の層間距離が大きく拡大して、層状無機物(A)が単層、もしくは数層単位に剥離し、ナノメータースケールでマトリックスポリマー中に微細に分散する。このとき、ポリオレフィン系樹脂(B)等を層状無機物(A)の層間へインターカレーションさせるための強攪拌による混合場と、層状無機物(A)を単層、もしくは数層単位に剥離させるための強せん断応力場とを加えると効率が良いので好ましい。
したがって、混練時の溶融樹脂の流動場では、強せん断応力場と強攪拌の混合場を形成するように制御するのが好ましい。強せん断応力場では、好ましいせん断応力の大きさは成分系とせん断速度に応じて決定されるが、平均せん断速度として20s-1〜50,000s-1が好ましい範囲の目安になる。より好ましくは50s-1〜10,000s-1、さらに好ましくは100s-1〜5000s-1である。平均せん断速度が20s-1未満だと、原料の凝集した層状無機物(A)の粒子の粉砕が不十分で、凝集した粒子(粒径100〜300μm)のままであり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。平均せん断速度が10,000s-1より大きいと、層状無機物(A)が破壊される恐れがあり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。また、強攪拌の混合場では、総せん断歪量として1500〜10,000,000が好ましく、より好ましくは3000〜5,000,000、さらに好ましくは6000〜2,000,000である。総せん断歪量とは、平均せん断速度(s-1)×混練時間(s)であり、混練の度合いを示す尺度の一つである。総せん断歪量が1500未満だと、混合が不十分で、極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)や極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)等が層状無機物(A)の層間へインターカレーションできず、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。総せん断歪量が10,000,000より大きいと、マトリックスポリマーの劣化や、層状無機物(A)の破壊の恐れがあり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。2軸押出し機等の連続製造型の溶融混練機においては、最初に主として強せん断応力、次に強攪拌の混合、最後に強せん断応力と強攪拌の両方を加えるように、スクリューやバレルをデザインするのが好ましい。バンバリーミキサー等のバッチ製造型の溶融混練機においては強せん断場と強攪拌の混合場を同時に加えるのが好ましく、例えば、非噛合い式3条ネジ型ディスクの使用等が例示できるが、これに限定されるものではない。
混練投入エネルギーは500J/g〜200,000J/gが好ましく、より好ましくは1000J/g〜150,000J/g、さらに好ましくは2000J/g〜100,000J/gである。混練投入エネルギーとは、混練時のスクリューの回転に要した電力を樹脂量で割ったものであり、以下の式(II)で示される。
投入エネルギー = {(混練時のスクリュー回転に要した電力量)
-(空運転時のスクリュー回転に要した電力量)}/混練樹脂量
… (II)
溶融樹脂は非ニュートン流体で、かつ混練工程は非定常現象であるため、混練の実体を解析するのは非常に困難である。そのため、本発明においては、混練の程度を定量化するエンジニアリングパラメーターとして、混練投入エネルギーを定量指標とした。本投入エネルギーは、次の(III)式で示される混練機内でスクリューが樹脂に付与した仕事量及びエネルギーの総和である。実際に層状無機物(A)の分散に寄与するのは(III)式の第1項及び第5項であり、これらの項に限定したエネルギーの総和がより実効的ファクターであるが、これらを分離評価することは実質上不可能なので、投入エネルギーで評価した。
投入エネルギー = (原料の粉砕) + (樹脂の押出し) + (摩擦発熱)
+ (高分子の引き伸ばし、折り畳み等の変形) + (界面エネルギー)
… (III)
界面エネルギーとは、溶融混練して層状無機物(A)が分散することにより、新規に創出されたポリオレフィン系樹脂(B)もしくは極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)と層状無機物(A)との界面、ポリオレフィン系樹脂(B)と極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)との界面、ポリオレフィン系樹脂(B)もしくは極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B’)とゴム状弾性体(D)との界面、層状無機物(A)と極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)との界面、層状無機物(A)とゴム状弾性体(D)との界面、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)とゴム状弾性体(D)との界面等のエネルギーの総和である。投入エネルギーが500J/g未満だと、混練流動場中のせん断応力が不足して、層状無機物(A)が凝集した粒子(粒径100〜300μm)の微細化が不十分、及び総せん断歪量が不足して層状無機物(A)の分散が不十分となり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。投入エネルギーが200,000J/gより大きいと、マトリックスポリマーの劣化や、層状無機物(A)の破壊の恐れがあり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。
マトリックスポリマーの溶融粘度は混練温度において100Pa・s〜2000Pa・sが好ましく、より好ましくは150Pa・s〜1000Pa・s、さらに好ましくは350Pa・s〜700Pa・sである。このときの溶融粘度は、せん断速度610s-1で測定した値である。溶融粘度が150Pa・s未満では、せん断応力をかけ辛く、混練スクリューにかかるトルクが低いので、混練投入エネルギーが不足し、混練流動場中のせん断応力が不足して、層状無機物(A)が凝集した粒子(粒径100〜300μm)の微細化が不十分、及び総せん断歪量が不足して層状無機物(A)の分散が不十分となり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。溶融粘度が2000Pa・sより大きいと、マトリックスポリマーが層状無機物(A)の層間に拡散してインターカレーションするのに十分な分子運動性が得られず、層状無機物(A)が凝集した粒子(粒径100〜300μm)のままであり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。
混練温度は、180℃〜300℃が好ましく、より好ましくは190℃〜250℃である。ここで言う混練温度とは、混練中のマトリックスポリマーの温度を指す。混練温度が180℃未満だと、マトリックスポリマーが層状無機物(A)の層間に拡散してインターカレーションするのに十分な分子運動性が得られず、層状無機物(A)が凝集した粒子(粒径100〜300μm)のままであり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。混練温度が300℃より高いと、層状無機物(A)を有機化する有機カチオンや有機アニオンの熱分解が進行して層状無機物(A)が凝集し易くなり、また、マトリックスポリマーの熱分解も進行するため、物性改善の効果を得がたい。
混練時間は1分〜30分が好ましく、より好ましくは2分〜20分、さらに好ましくは6〜15分である。ここで言う混練時間とは、樹脂が混練機により溶融、攪拌、混合されている合計時間を指す。連続押出し機の混練時間は、ホッパーから顔料を投入し、ノズルから押出された樹脂中の顔料濃度を赤外分光光度計や紫外分光光度計により測定し、最も顔料濃度が高い樹脂が押出された時間を混練時間とした。混練時間が1分未満だと、層状無機物(A)が分散するための時間が不十分なので、凝集した粒子(粒径100〜300μm)のままであり、ナノスケールでマトリックスポリマー中に微分散することによる物性改善の効果を得がたい。混練時間が30分より長いと、層状無機物(A)を有機化する有機カチオンや有機アニオンの熱分解が進行して、層状無機物(A)が凝集し易くなり、また、マトリックスポリマーの熱分解も進行するため、物性改善の効果を得がたい。
本発明の製造方法で製造した樹脂組成物のフィルムやシートは、広く金属材料の表面の全部又は一部の被覆材として使用することができる。この際、樹脂組成物の形態は、金属材料に被覆した際に層状に被覆されていればよく、特に厚みや被覆前の形状を規定するものではない。しかし、一般的に好ましい本樹脂シートの厚みの範囲は、0.5μm以上50mm以下である。0.5μm未満では十分な耐腐食性が発現できない場合があり、50mm超では経済メリットが発現し難い。
また、被覆前の形状も金属材料の最終加工形状に応じて選択でき、管である場合はパイプ形状の成形物を、矢板の場合はシート形状の成形物を選択して被覆することも可能である。適用する金属種も特に限定するものではないが、特に鋼材では、具体的には、型鋼、線材等の条鋼、UO鋼管、スパイラル鋼管、シームレス鋼管、電縫管、たん接管等の鋼・配管、厚板鋼板、熱・冷延鋼板等の圧延材、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛-鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム-シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛-錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛-ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛-鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛-クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、電磁鋼板、ステンレス鋼板等の機能鋼板等が挙げられる。
また、本発明の製造方法で製造した樹脂組成物を鋼材に被覆する際には、鋼材を下地処理しておくのが好ましい。下地処理をすることにより、本発明の樹脂シートと鋼材との化学的な密着力を増加でき、本樹脂シートによる残留応力低減効果と相乗して一層の接着力増強効果が発現できる。具体的には、必要に応じて鋼材表面の油分、スケール除去処理をした後、化成処理する方法が鋼材下地処理として挙げられる。スケール除去処理法を例示すると、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理等、化成処理法を例示すると、クロメート処理、Cr6+を使用しないノンクロメート処理、エポキシプライマー処理、シランカップリング処理、チタンカップリング処理等が挙げられる。中でも酸洗、サンドブラスト処理後、クロメート処理又はノンクロメート処理、エポキシプライマー処理を併用した下地処理が、樹脂シートと鋼板との化学的な密着力を強化する観点から最も好ましい。
さらに、鋼材と本発明の樹脂シートとの化学的な密着力を一層増加するために、鋼材表面上、より好ましくは、上記の下地処理をした鋼材表面上に接着剤層を設け、その上層に樹脂シートを積層することが好ましい。接着剤層には公知の接着剤を広く使用できるが、好適に使用できる接着剤を例示すると、前記の極性ビニルモノマー等により極性基を導入したポリオレフィン系樹脂が挙げられる。オレフィン成分により本発明の樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂(B)との相溶性、したがって、本発明の樹脂組成物/接着剤間の密着力を確保し、極性基と鋼材との化学的な相互作用により鋼材/接着剤間の密着力を増加できる。具体的な樹脂系は、鋼材の表面性状や本発明の樹脂フィルムの成分系に応じて決定されるが、極性基としてカルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基、アミド基、アミノ基、エポキシ基、アルコール基の中の1種もしくは複数を含有するポリオレフィン系樹脂が、好適に接着剤として使用できる。鋼材表面上に、接着剤層、本発明の樹脂フィルムの順で積層する方法を具体的に例示すると、2層押し出し等の方法で下層に接着剤樹脂、上層に本樹脂フィルムの積層フィルムを作製し、鋼材表面に積層する方法、接着剤樹脂及び本樹脂シートを単独で成形し、鋼材表面ラミネートする際に積層する方法等が挙げられ、効率から前者が好ましい。積層時には、接着剤層樹脂を可塑化して十分なアンカー効果を発現したり、鋼材/接着剤間の化学的な相互作用を増強するために、接着剤樹脂の融点以上に鋼材を加熱することが好ましい。
本発明の製造方法で製造した樹脂組成物を金属材料に被覆する際には、公知の方法が使用できる。具体的には、(1)本樹脂組成物をTダイス付きの押し出し機で溶融混練してフィルム状にし、押し出し直後に金属材料に熱圧着する方法、(2)事前に押し出しもしくは成形したフィルム(この場合は1軸もしくは2軸方向に延伸してもよい)を熱圧着する方法、 (3)樹脂組成物を溶融してバーコーターやロールでコーティングする方法、(4)溶融した樹脂組成物に金属材料を漬ける方法、(5)組成物を溶媒に溶解してスピンコートする方法、等により金属材料に被覆することが可能であり、被覆方法は特に限定されるものではない。中でも、作業能率から金属材料への被覆方法として最も好ましいのは、上記(1)及び(2)の方法である。さらに、フィルムの表面は、フィルム表面粗度を任意に1mm長粗度測定した結果がrmaxで1μm以下、好ましくは500nm以下であることが好ましい。1μm超では、熱圧着で被覆する際に気泡を巻き込む場合がある。
また、上層又は下層に、他のシートやフィルムが単層又は複層で積層してもよい。具体的には、上層には、アクリルフィルム等を積層して耐候性を向上したり、ポリエステル系のフィルムを積層して表面硬度を向上したり、また、印刷層を設けて意匠性を向上したり、あるいは、難燃、可塑、帯電防止、抗菌抗カビ層を積層することもできる。また、下層には、接着力を増加するために公知の接着材層を積層することもできる。
(実施例1〜5及び参考例1〜3)
層状無機物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)及びゴム状弾性体(D)としてそれぞれ表1、2の原料を使用した。
表1.実施例1〜2、参考例1〜2及び比較例1〜3の使用原料グレード
樹脂成分 原料名、グレード
(A) ホージュン社製 有機変性モンモリロナイト(MMT) エスベンNX
(B) 日本ポリプロ社製 ノバテックPP EA7A
(C) 三洋化成工業社製 無水マレイン酸変性PP ユーメックス1001
(D) JSR社製 エチレン−ブテゴム(EBM) 2041P
表2.実施例3〜5、参考例3及び比較例4〜6の使用原料グレード
樹脂成分 原料名、グレード
(A) ホージュン社製 有機変性モンモリロナイト(MMT) エスベンNX
(B) 日本ポリプロ社製 ノバテックHD HY331
(C) 三洋化成工業社製 無水マレイン酸変性PE ユーメックス2000
(D) JSR社製 エチレン−ブテゴム(EBM) 2041P
表3の混練装置、混練条件で当該樹脂組成物を作製した。混練装置の2軸押出は、(株)東洋精機製作所製2軸押出機2D25F2、バッチは、(株)東洋精機製作所製バンバリーミキサーR-100を使用した。
次に、当該樹脂組成物ペレットを使用してTダイスを装着した押出し成形機(溶融温度:250℃)によりフィルム(幅300mm、厚み50μm)を成形した。
得られたフィルムは、ミクロトーム及びRuO4染色超薄切片法にて、フィルムの成形方向に対し垂直な方向断面の超薄切片(50nm厚)を作製し、透過型顕微鏡(TEM)で観察した。
いずれのフィルムにおいても、マトリックスポリマー中にMMTとEBMとがナノスケールで微細に分散(MMTは50〜300nm、EBMは1〜100nm)していた。代表例として、実施例1のフィルム断面のTEM観察結果を図1に示す。黒い筋状に見えるのがMMT、黒い球状に見えるのがEBMである。
これらのフィルムの気体透過性をそれぞれ酸素(JIS K 7126差圧法)、水蒸気(JIS Z 0208カップ法)について測定した(表4)。また、304ステンレス箔(50μm厚)に200℃、10kg/cm2で熱圧着した。熱圧着後、常温に冷却して1cm×8cmの短冊状に切り出し、ステンレス箔の反りの大きさにより、フィルムの残留応力を評価した。ステンレス箔の反りはいずれも9mm以下であり、端部剥離等の剥離は確認されなかった。また、上記のフィルムの密着強度をピール試験(23℃、180°ピール、引張り速度20mm/min)で測定した(表4)。
(比較例1〜6)
表3の条件で実施例1〜5及び参考例1〜3と同様にフィルム成形し、酸素透過度と水蒸気透過度を測定した。実施例と比較した場合、いずれも酸素透過度と水蒸気透過度が大きく、ガスバリア性が劣っていた。また、当該フィルムを実施例1〜5及び参考例1〜3と同様に304ステンレス箔に熱圧着し、残留応力の評価と密着強度の測定を行なった。いずれも実施例1〜5及び参考例1〜3と比較して、ステンレス箔の反りが大きく(残留応力が大きく)、端部剥離が確認された。また、いずれも実施例1〜5及び参考例1〜3と比較して密着強度が小さく、本発明のフィルムよりも鋼材密着性が劣った。
(実施例
ポリオレフィン系樹脂()、層状無機物()、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)及びゴム状弾性体(D)として、それぞれ表5の原料を使用した。
表5.実施例の使用原料グレード
樹脂成分 原料名、グレード
(A) 協和化学工業社製 ハイドロタルサイト キョーワード500
(B) 日本ポリプロ社製 ノバテックPP EA7A
(C) 三洋化成工業社製 無水マレイン酸変性PP ユーメックス1001
(D) JSR社製 エチレン−ブテンゴム(EBM) 2041P
表5のハイドロタルサイト100gを80℃の水5000mLに分散させた。次いで、ステアリン酸ナトリウム28gを80℃の水2500mLに溶解し、この溶液を先のハイドロタルサイト分散液中に加えて沈殿物を得た。この沈殿物をろ過し、80℃の水で3回洗浄した後に乾燥することにより、有機化したハイドロタルサイトを得た。表5のポリオレフィン系樹脂()を75質量%、前記の有機化したハイドロタルサイトを層状無機物()として5質量%、表5の極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)及びゴム状弾性体(D)をそれぞれ15質量%及び5質量%の組成比で、(株)東洋精機製作所製2D25F2を使用して、当該樹脂組成物を作製した(平均せん断速度:610s-1、総せん断歪量:140,000、混練投入エネルギー:4500J/g、樹脂の溶融粘度:600Pa・s、混練温度:200℃、混練時間:3.8分)。次に、当該樹脂組成物ペレットを使用して、Tダイスを装着した押出し成形機(溶融温度:250℃)によりフィルム(幅300mm、厚み50μm)を成形した。
ミクロトーム及びRuO4染色超薄切片法にて、フィルムの成形方向に対し垂直な方向断面の超薄切片(50nm厚)を作製し、透過型顕微鏡(TEM)で観察した。図1と同様に、マトリックスポリマー中にハイドロタルサイトとEBMとがナノスケールで微細に分散していた。
上記フィルムを304ステンレス箔(50μm厚)に200℃、10kg/cm2で熱圧着した。熱圧着後室温で冷却して、1cm×8cmの短冊状に切り出し、ステンレス箔の反りの大きさによりフィルムの残留応力を評価した。ステンレス箔の反りは8.5mmであり、端部剥離等の剥離は確認されなかった。
また、上記のフィルムの密着強度をピール試験(23℃、180°ピール、引張り速度20mm/min)で測定した(表6)。同一の樹脂系の比較例(比較例1〜6)と比較して、密着強度が大きく、鋼材密着性が優れていた。
以上、実施例1〜6と参考例1〜3及び比較例1〜6の比較により、本発明の製造方法は、混練機の種類、樹脂の種類及び層状無機物の種類によらず汎用的に用いることができ、層状無機物をナノメータースケールで微細に樹脂組成物中に分散させ、樹脂組成物の物性を大幅に改善できることが確認できた。
実施例1のフィルム断面のTEM写真である。
符号の説明
MMT モンモリロナイト
EBM エチレン−ブテンゴム

Claims (6)

  1. 樹脂組成物の成分として、少なくとも層状無機物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)、ゴム状弾性体(D)を含み、
    層状無機物(A)が0.01〜50質量%、
    ポリオレフィン系樹脂(B)が10質量%以上、
    極性を持つ官能基を含有するオレフィン系オリゴマー(C)が0.3〜90質量%及び
    ゴム状弾性体(D)を0.01〜50質量%の成分比である樹脂組成物の製造方法であって、
    溶融混練する工程で、混練流動場に、平均せん断速度が20〜50000s-1の強せん断応力場と、総せん断歪量が1500〜10,000,000の強攪拌による混合場の両方を加え、
    混練投入エネルギーが500〜200,000J/gであり、
    混練樹脂の溶融粘度が100〜2000Pa・sであり、
    混練温度が180〜300℃であり、
    混練時間が1〜30分であることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記ポリオレフィン系樹脂(B)が極性を持つ官能基を含有するポリオレフィン系樹脂(B‘)であることを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物の製造方法。
  3. 前記層状無機物(A)の長辺が1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
  4. 前記層状無機物(A)の長辺と厚みの比(長辺/厚み)が10以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
  5. 前記層状無機物(A)が粘土鉱物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
  6. 前記粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする請求項5に記載のポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
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