JP4821768B2 - 射出成形用組成物およびその製造方法、並びに得られる射出成形体 - Google Patents
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射出成形ボンド磁石を製造するために用いられる射出成形用組成物はコンパウンドと呼ばれ、上記磁石粉末と樹脂バインダを混合し、樹脂の融点以上の温度で混練することによって製造される。得られたコンパウンドは、破砕または切断によってペレット化され、射出成形機に供給される。射出成形機シリンダー内で可塑化されたコンパウンドは、所定形状の金型内に射出され、冷却固化した後に磁石成形品として金型から取り出される。
磁気特性に優れる磁石を得るには、当然のことながら磁性粉末の含有量を高くする必要がある。しかし、その含有量を上げると、得られる磁石の機械的強度が低下するという問題を生じる。また、磁性粉末の量が多くなるにしたがい、磁性粉末の分散性が低下して組成物の流動性の低下を招く。流動性が低下すると、磁性粒子の配向性も低下するので、磁性粉末の量に見合った磁気特性の磁石が得られない。また、流動性の悪化により、混練に要する動力負荷(混練トルク)が増大するだけでなく、組成物の成形性も悪化して所望の形状の磁石に成形できない場合もある。特に鉄を含有する磁性粉末を使用すると、その高い表面酸性度から表面の鉄が塩基性であるポリアミド樹脂に対して強い酸塩基相互作用による化学吸着を引き起こし、その結果、組成物の流動性が一層低下し、また、混練トルクも押出機で押し出し作業ができないほど上昇してしまう。
たとえば、直鎖型PPS樹脂を用いてプラスチック磁石ロータを製造し、架橋型PPS樹脂を用いたボンド磁石の脆さを改善することが提案されている(特許文献1参照)。また、磁粉率を68〜76vol%まで高めた射出成形磁石において、良好な成形性・磁気特性・機械強度を実現するために、PPS樹脂やポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂と酸化防止剤を配合することが提案されている(特許文献2参照)。さらに、PPS樹脂に熱可塑性ノルボルネン系樹脂を配合することにより耐熱性・成形性・アイゾット衝撃強度を向上させることが提案されている(特許文献3参照)。また、希土類−遷移金属系磁石粉末と、PPS樹脂とを含有するリサイクル性に優れた希土類系ボンド磁石用組成物として、PPS樹脂の少なくとも70重量%は、溶融粘度(300℃、剪断速度600s−1で測定)が200poise以上の架橋型PPS樹脂であるとした希土類系ボンド磁石用組成物が提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら成形温度が高くなるほど、希土類遷移金属合金粉末は酸化劣化しやすく、また、PPS樹脂も劣化して成形品の曲げ強さや引張強さなどの物性低下を引き起こすという問題があった。
また、希土類遷移金属合金粉末はフェライトなどの酸化物に比べて高価なフィラーであるため、射出成形時に発生するスプルーやランナーはリサイクル使用されるのが一般であるが、高温成形で劣化したPPS樹脂と希土類遷移金属合金粉末を用いた組成物ではリサイクル使用の回数が限られるという問題もあった。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、希土類遷移金属合金粉末(A)は、その表面が燐酸系化合物、シリカ系化合物、又はトリアジンチオール誘導体から選ばれる少なくとも一種の表面処理剤で被覆されていることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)は、主として直鎖型樹脂又はセミ直鎖型からなることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の含有量は、組成物全体に対して5〜30質量%であることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、重金属不活性化剤(C)は、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジン誘導体から選ばれる1種以上であることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、重金属不活性化剤(C)の添加量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2αと前記結晶化温度Tc2βとの温度差Tc2α−Tc2βが、0〜30°Cであることを特徴とする射出成形用組成物が提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第8の発明において、添加される重金属不活性化剤の量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする射出成形用組成物の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、射出成形体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γが170〜220°Cであることを特徴とする射出成形体が提供される。
そのため、優れた成形性が維持されたまま、成形による希土類遷移金属合金粉末の酸化劣化やPPS樹脂そのものの劣化が抑制され、該射出成形用組成物や該組成物を射出成形した後のスプルーなどの端材や不良成形品をリサイクルする場合でも物性低下の少ない成形品を得ることができる。
本発明の射出成形用組成物は、希土類元素と遷移金属とを含有する希土類遷移金属合金粉末(A)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)、及び重金属不活性化剤(C)を含有する射出成形用組成物であって、射出成形用組成物中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2βが170〜220°Cであり、しかも射出成形用組成物をノズル温度230〜310°Cで射出成形した後の成形体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γも170〜220°Cであり、リサイクル性に優れていることを特徴とする。
本発明において用いられる希土類遷移金属合金粉末は、正方晶系、菱面体晶系、六方晶系などの結晶構造を有する金属間化合物粉末であって、たとえばNd−Fe−B系磁性粉末、Sm−Fe−N系磁性粉末、Sm2Co17系磁性粉末、SmCo5系磁性粉末、またはこれらの混合物が挙げられる。
本発明の射出成形用組成物には、上記希土類遷移金属合金粉末の中でも、特に、希土類元素として、NdまたはPrの少なくとも一種を含有する希土類遷移金属合金粉末をフィラーとする場合に、射出成形用組成物中の樹脂の結晶化温度を効果的にコントロールできる。
上記希土類遷移金属合金粉末として、たとえば液体急冷法やHDDR法またはd−HDDR法と呼ばれる方法で製造される等方性または異方性の磁性粉末が挙げられる。なお、HDDR法あるいはd−HDDR法とは、希土類遷移金属合金に水素を加熱吸蔵させることによって金属組織を不均一化し、その後合金を減圧下で加熱し脱水素することで不均一化した組織を再結合させ1μm未満の微細な結晶粒を形成する、ボンド磁石用磁性粉末の製造方法である。本発明で用いる希土類遷移金属合金粉末の粒径は、通常1μm以上500μm以下が良い。好ましくは、300μm以下が良く、特に好ましくは150μm以下である。粒径が500μmを超えて大き過ぎると、成形品の表面平滑性が悪化する場合があり好ましくない。一方粒径が1μmよりも小さ過ぎると、混練や射出成形時に起こる該合金粉末の酸化劣化の改善効果が少なくなってしまい好ましくない。該合金粉末の平均粒径は1〜200μmが良く、好ましくは2〜100μmである。
また、希土類遷移金属合金粉末の一部をフェライト磁性粉末やシリカなどの酸化物粉末で置換して、所望の磁気特性や物性が得られるように調整することもできる。
上記理由から、射出成形用組成物をリサイクルする場合には、上記希土類遷移金属合金粉末に、樹脂との直接接触を妨げるような表面処理を施すことが有効である。ここで表面処理としては、たとえば該希土類遷移金属合金粉末を徐々に酸化させて粉末表面にわずかに形成する徐酸化被膜や、リン酸系化合物、シリケート、トリアジンチオールなどの被膜を該希土類遷移金属合金粉末表面に形成することが有効である。
希土類−遷移金属系磁石粉末を被覆するのに用いられる表面処理剤は、燐酸系化合物、シリカ系化合物、又はトリアジンチオール誘導体から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
具体的には、磁石粉末に対して、リン酸と有機溶剤を混合した溶液に磁石粉末を混合して、真空中で100〜200℃に加熱して乾燥すればよい。
また、トリアジンチオール誘導体としては、トリアジンチオールの他に、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジンなどが使用できる。これをメタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコールを溶媒として希釈し、ミキサ内で磁石粉末と撹拌混合し、その後不活性ガス雰囲気中で溶媒を揮発除去すれば被膜を形成することができる。
なお、特開2003−92210号公報には同様の技術が記載され、トリアジンチオール誘導体の種類によっては、たとえばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂やPPS樹脂などの高分子化合物と共に混練したボンド磁石組成物で、金属−高分子化合物間の親和性を増加させたり、高分子化合物の分解を抑制させたりするものがあると記載されている。これらを用いれば初期のボンド磁石組成物の機械強度は確かに改善するものの、リサイクル後のボンド磁石組成物(リターン材と呼ぶことがある)の強度は大幅に低下し、表面処理の効果が消失するので好ましくない。本発明に記載のとおり、特定の表面処理した希土類磁石粉末表面粉末と特定のPPS樹脂とを併用することによって初めて、リターン材強度を高めることができる。
上記のように表面処理被膜を適切に形成することによって、射出成形用組成物を用いて射出成形品を製造する時の物性コントロールが容易となるとともに、使用済みの射出成形用組成物をリサイクルしても得られる射出成形品の物性低下が緩和されるのである。
本発明の射出成形用組成物に用いられるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂と記す場合がある)は、ベンゼン環と硫黄原子とが交互に結合した構造を有する熱可塑性樹脂であり、該希土類遷移金属合金粉末のバインダとして機能する成分である。
これまでボンド磁石用には、剛性が求められる場合には架橋型、靱性が求められる場合には直鎖型またはセミ直鎖型が使用される。またボンド磁石に用いられるPPS樹脂の分子量は20,000〜80,000であり、低分子量のPPS樹脂だと溶融粘度が低いため射出成形用組成物の成形性に優れるが強度などの物性に劣り、高分子量のPPS樹脂だと逆に物性に優れるが高粘度であるため磁性粉末の充填率を高くすると成形性に劣ることとなる。
本発明において、PPS樹脂を架橋率によって区別するとすれば、架橋型PPS樹脂とは架橋率が26%以上(例えば、30〜40%)のもの、セミ直鎖型PPS樹脂とは架橋率が5〜25%のもの、直鎖型PPS樹脂とは架橋率が5%未満のものを指すものとする。
これは希土類磁石粉末の成分が何らかの働きで直鎖PPS樹脂の分子鎖を切断するためと推定される。そのため直鎖型PPS樹脂を主成分とした磁石用組成物では、その初期材を射出成形してなる成形体で強度低下が大きく、さらに副生したスプルーやランナー部分の余剰品をリサイクルしたリターン材では、極端な場合、成形すらできなくなっていた。本発明は、このような課題を克服しポリフェニレンサルファイド樹脂(B)が、主としてセミ直鎖型または直鎖型樹脂を含むものでありながら、優れた特性を有する組成物としたものである。
20Pa・sよりも小さいと、機械的強度が著しく低下して、成形できなくなる場合がある。但し、200Pa・sよりも大きいと、得られる組成物の流動性が低下して、成形性が悪化する場合がある。
本発明において、直鎖型PPS樹脂又はセミ直鎖型PPS樹脂の溶融粘度は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で低い方が好ましく、20Pa・s以上であることが望ましい。具体的には、溶融粘度は、20〜200Pa・s、特に30〜150Pa・sであることが好ましい。直鎖型PPS樹脂又はセミ直鎖型PPS樹脂を架橋型PPS樹脂と組み合わせて用いる場合も同様である。
添加する熱可塑性樹脂としては、例えば6ナイロン、6,6ナイロン、4,6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、芳香族系ナイロンなどのポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;液晶ポリマ−;これらの樹脂の単量体単位と他種モノマーとの共重合体;ならびにこれらの樹脂を脂肪酸などで変性したものが挙げられる。
樹脂の形状は、ペレット状、ビーズ状、パウダー状、ペースト状のいずれでもよいが、均一な混合物を得る点で、パウダー状が好ましい。
重金属不活性化剤は、希土類遷移金属合金粉末の金属成分元素とキレート化合物を形成することによって、PPS樹脂の劣化を防止する働きを有している。
重金属不活性化剤としては、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジン誘導体から選ばれる1種以上が用いられる。これらの中でも、サリチル酸誘導体および/またはヒドラジン誘導体が好ましく、その融点が200℃以上、より好ましくは300℃以上のものを適用するのがよい。
なお、重金属不活性化剤自体に酸化防止作用がないものであれば、必要によりフェノール系酸化防止剤やイオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤と併用することもできる。
前述の特開平09−129427号公報には、希土類磁石粉末とPPS樹脂と酸化防止剤とからなる希土類ボンド磁石組成物が記載され、たとえば、実施例にNd−Fe−B系磁石粉末とPPS樹脂とヒドラジン系酸化防止剤とからなる希土類ボンド磁石が高い機械強度を有することが開示されている。しかしながら、本発明の重金属不活性化剤の代わりに上記重金属不活性化剤としての機能を持たない酸化防止剤を使用すると、初期材の機械強度は確かに改善するものの、リターン材の機械強度は大幅に低下し、表面処理を行ってもその効果が消失することから、ここで生起するメカニズムは相違していると考えられる。
本発明における希土類系ボンド磁石用組成物には、必要に応じて、上記重金属不活性化剤以外の添加剤として滑剤、安定剤などを添加することができる。
本発明の樹脂結合型磁石用組成物を製造する方法は、特定のPPS樹脂(B)と特定の磁粉(A)とを混合、混練する第1の工程と、次いで得られた混練物に重金属不活性化剤(C)を配合し、さらに混練する第2の工程とからなる。すなわち、本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、以下に示す第1の混練工程(1)及び第2の混練工程(2)を経て得ることができる。
本発明の射出成形用組成物の製造方法において、第一の工程では、希土類遷移金属合金粉末とPPS樹脂とを280°C〜360°Cの温度で混練し、第一の工程後にPPS樹脂の結晶化温度Tc2が170°C〜220°Cになるようにする。280°C以上の温度で混練すると、混練時間と共に混練トルクが低下し混練物の粘度も低下していくのが観察される。なお本発明では、第一の工程で得られた組成物のPPS樹脂成分について、区別のために、その結晶化温度をTc2αと呼ぶことがある。
具体的には、表2の下には、「ここで表3中のトルク上昇時間Bとはラボプラストミルによる混練中の混練トルクの変動を経時的に測定し、混練開始1分後トルク値の1.5倍のトルクになるまでの時間を表わしている。この時間が長ければ長いほど組成物は熱的に安定であり、従って成形を行なうことが容易であることを示している。」との記載がある。
しかしながら、本発明では、PPS樹脂と磁粉との混練に伴う現象は上記特許第3189956号公報とは全く逆で、混練トルクと溶融粘度の低下をもたらすものであり、作用機構が何らかの原因で異なるものと考えられる。すなわち、磁粉との混練により、PPSの分子が部分的に切断されるが、その後、金属不活性化剤を添加することで、さらなる切断が抑制されることが考えられる。
また、PPS樹脂の結晶化温度Tc2を170°C〜220°Cになるようにするのは、170°C未満に低下させてしまうと、射出成形で成形体を金型から取り出すときに成形体が変形したり、スプルーやランナーが折れて成形性が悪化したりする場合があるためである。結晶化温度Tc2が220°C以上では射出成形温度を下げることによって成形性を改善するという本発明の目的が達せられないためである。したがって結晶化温度Tc2がこの範囲にある射出成形用組成物は、従来よりも低い温度で成形可能な、成形性に優れたものということになる。
第二の工程では、第一の工程で得られた結晶化温度が170°C〜220°Cとなった混練物に対して、射出成形でさらに熱や剪断力がかかっても結晶化温度が低下しないように、上記した重金属不活性化剤を添加して、230°C〜360°Cの温度でさらに混練するものである。第一の工程でTc2を170〜220°Cにしても、第二の工程を経ない組成物では、射出成形でTc2が更に低下し成形体を金型から取り出すときに成形体が変形したり、スプルーやランナーが折れて成形性が悪化したりする(比較例9参照)。
重金属不活性化剤の添加量は、第一の工程で配合したPPS樹脂に対して0.1〜10重量%とすることが好ましい。0.1重量%未満では、重金属不活性化剤の添加効果が小さく、得られた射出成形用組成物を射出成形した後の結晶化温度Tc2が170°Cよりも低下して、リサイクル材の成形性が低下する。また、10重量%を超えると、成形体の機械強度が低下するので好ましくない。なお必要に応じて重金属不活性化剤以外の上記滑剤、酸化防止剤等を添加することもできる。
しかし、射出成形前の組成物の結晶化温度Tc2βがこの範囲にあっても、成形後に成形体中の樹脂の結晶化温度Tc2γが170°C未満になる場合もあり、このような組成物はリサイクル性に優れたものとはいえない。リサイクル性に優れたものとするには、製造時のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2αと前記結晶化温度Tc2βとの温度差Tc2α−Tc2βが、0〜30°Cであるようにすることが望ましい。温度差Tc2α−Tc2βが、30°Cを超えると、十分な射出性、リサイクル性を得ることが出来ない。
第二の工程は、第一の工程に引き続いて連続して実施しても良いし、第一の工程後、いったん混練物の温度を下げてから第二の工程を実施してもよい。
そのため従来よりも低温であるノズル温度230〜310°Cで成形でき、射出成形後でもPPS樹脂のTc2γは、なお170°C〜220°Cの範囲にあり、リサイクル性に優れたものである。
ここで、本発明では成形性やリサイクル性を評価するために、例えば、横型射出成形機に長さ40mm幅8mm厚み2mmの薄板状成形体が取れる金型を取り付け、ノズル温度290°C、金型温度130°C、射出速度90%、射出圧力90%の条件で射出成形したとき、連続で50ショット以上安定して射出成形できるものを良好な成形性を持つものとして評価している。ノズル温度290°Cは従来品では成形が困難な温度であるので、この温度で成形できるということは成形性が良好であることを示している。
また、本発明で得られる射出成形用組成物は、射出成形時に生じるスプルーやランナーをリサイクル材として使用できるので、そのリサイクル材中の結晶化温度Tc2が170°C〜220°Cの範囲にあれば、リサイクル材の成形性も良好であると解釈され、工業的に有用である。
本発明の射出成形体は、前記の組成物を樹脂の融点以上、好ましくは230〜310℃の範囲の温度で加熱溶融した後、射出成形法を用いて該溶融物を磁場中で成形することにより樹脂結合型磁石として得ることができる。この射出成形体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γは、170〜220°Cであることが好ましい。
得られた成形体は、使用前に着磁することが望ましい。着磁には、静磁場を発生する電磁石、パルス磁場を発生するコンデンサー着磁機等が用いられる。着磁磁場、すなわち磁場強度は、1200kA/m(15kOe)以上が好ましく、さらには2400kA/m(30kOe)以上が好ましい。
得られる樹脂結合型磁石は、磁気特性に優れ、かつ剛性等の機械的強度に優れる。例えば電子機器用モーター部品等の小型で偏平な複雑形状品に用いられ、大量生産が可能、後加工が不要、インサート成形可能等の特長を有しており、特に、金属材料との一体成形部品に好適である。
<希土類磁石粉末>
(1)等方性NdFeB系磁石粉末MQP−B(マグネクエンチインターナショナル製)
(2)異方性NdFeB系磁石粉末1((株)ネオマックス製 HDDR−B)
(3)異方性NdFeB系磁石粉末2(愛知製鋼(株)製 MFP−12)
(4)異方性Sm2(Co、Fe、Cu、Zr)17磁石粉末(信越化学工業(株)製)
(5)等方性Pr14Fe80B6磁石粉末(液体急冷法で製造し、100μm以下に粉砕した粉末)
(6)異方性SmFeN磁石粉末(住友金属鉱山(株)製SFN微粉B)
<PPS樹脂>
(1)ポリフェニレンサルファイド:大日本インキ化学工業(株)、商品名:LR−1G、溶融粘度50Pa・s、直鎖型
(2)ポリフェニレンサルファイド:(株)トープレン製、商品名:LC−5、溶融粘度300Pa・s、直鎖型
(3)ポリフェニレンサルファイド:(株)トープレン製、商品名:K−1G、溶融粘度60Pa・s、架橋型
(4)ポリフェニレンサルファイド:(株)クレハ製、商品名:W−203A、溶融粘度30Pa・s、直鎖型
(5)ポリフェニレンサルファイド:(株)クレハ製、商品名:W−214A、溶融粘度140Pa・s、直鎖型
(1)チバ・スペシャルティ・ケミカル(株) 製、商品名IRGANOX MD1024、融点226℃、ヒドラジン誘導体
(2)旭電化工業(株)製、商品名:CDA−1、融点317℃、サリチル酸誘導体
(3)(株)クラリアントジャパン製、商品名Hostanox OSP1、融点214℃、トリス[2―tert―ブチル−4−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル]フォスファイト
マックサイエンス社製DSC3100Sを用い、窒素気流中にて組成物試料を室温から350°Cまで20°C/minで昇温し、5分間保持した後、室温まで20°C/minで降温させた。試料の結晶化温度Tc2を、降温時の発熱ピークのトップで読みとった。
(株)松田製作所製横型射出成形機に長さ40mm幅8mm厚み2mmの薄板状成形体が取れる1個取り金型を取り付け、ノズル温度290°C、金型温度130°C、射出速度90%、射出圧力90%の条件で射出成形した。連続で50ショット以上安定して射出成形できるものを良好な成形性を持つものとして評価した。
ノズル温度290°Cは従来品では成形が困難な温度であるので、この温度で成形できるものは成形性が良好であることになる。また成形で生じるスプルーやランナーはリサイクル材として使用されるので、そのリサイクル材中の樹脂の結晶化温度Tc2γが170°C〜220°Cの範囲にあれば、リサイクル材の成形性も良好であると解釈される。
磁石粉末として等方性NdFeB系磁石粉末MQP−Bを、PPS樹脂としてLR−1Gを、樹脂が10質量%、残部が磁石粉末となるように秤量した。これらをVブレンダーで十分に混合し、窒素ガスをフローしながら加熱したプラストミルに投入した。撹拌ブレードの回転数を調整して混練物の温度を327°Cに保つようにして60分間混練した。これが第一の工程である。この工程の途中で、撹拌ブレードの回転数を一定に保つと、ブレードにかかる混練トルクが時間と共に単調に低下していくのが観察された。
第一の工程後、撹拌ブレードの回転を短時間停止させて混練物を少量サンプリングし、結晶化温度Tc2αを測定したところ203°Cだった。
サンプリング後に再びブレードを回転させて、引き続き重金属不活性化剤としてIrganoxMD1024をPPS樹脂量の0.2重量%となるようにプラストミル内に投入し、プラストミルのヒーター電流とブレード回転数を調整して混練物の温度を340°Cに保つようにして、さらに20分間混練した。これが第二の工程である。
プラストミルから混練物を回収し室温まで冷却してからプラスチック粉砕機で粉砕することで、本発明の射出成形用組成物を得た。表1に示すように得られた組成物のTc2βは176°Cだった。この組成物のPPS樹脂成分を超高温GPCにて分子量を確認したところ、混練前の原料の分子量に対して高分子量化していないことを確認できた。
次に、この組成物の成形性を評価するために、ノズル温度290°Cで長さ40mm幅8mm厚み2mmの薄板状成形体を成形したところ、良好な成形体が得られた。成形に伴って生じるスプルーやランナーなどの端材を含む成形体について、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γは174°Cと、170°C〜220°Cの範囲にあることが分かった。これら成形体は、粉砕されてリサイクルできることも確認した。
実施例1と同様にして、磁石粉末、PPS樹脂、重金属不活性化剤の種類と配合量、第一の工程や第二の工程の条件を、表1のように変えながら射出成形用組成物を製造した。これらの条件、Tc2と成形性の評価結果を表1に示した。なおいずれにおいても、第一の工程で、撹拌ブレードの回転数を一定に保つと、混練トルクが低下していく挙動が、実施例1と同様に観察された。
また、実施例では、いずれにおいても、組成物のPPS樹脂成分を超高温GPCにて分子量を測定しているが、混練前の原料の分子量に対して高分子量化していないことを確認できた。
さらに、実施例2、3、5で得られた組成物では、それぞれノズル温度245、270、230°Cの低温でも直径10mm高さ7mmの成形体が得られることを確認した。
PPS樹脂として(3)K−1Gを10.3質量%、重金属不活性化剤として(2)CDA−1を0.05質量%、残部がシリカ被膜を表面に形成した(4)異方性Sm2(Co、Fe、Cu、Zr)17磁石粉末となるように秤量した。これらをVブレンダーで十分に混合し、窒素ガスをフローしながら加熱したラボプラストミルに投入した。撹拌ブレードの回転数を調整して混練物の温度が320°Cを保つようにして60分間混練した。
得られた混練物のTc2は235°Cだった。この組成物を使って長さ40mm幅8mm厚み2mmの薄板状成形体を成形しようとしたが、ノズル温度290°Cから360°Cまで変えても充填が十分できず、成形体はショートショットのままだった。
この樹脂結合型磁石用組成物の流動性を、上記評価方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
(比較例9)
実施例1の第一の工程のみを経て製造した射出成形用組成物を使って、長さ40mm幅8mm厚み2mmの薄板状成形体の成形を試みた。しかし、金型からの取り出し時に成形体が変形し、良好な成形品を得ることができなかった。
実施例1〜12に見られるとおり、本発明のPPS樹脂組成物は、射出成形性に優れており、リサイクルしたときにも物性の低下がない。
これに対して、本発明からはずれる比較例1では、第一の工程での混練温度が280°C未満であり、PPS樹脂が溶融せず混練できないことが分かる。
比較例2では、第一の工程での混練温度が360°Cを超えると、樹脂の劣化が早く第一の工程を終了した段階でPPS樹脂の結晶化温度Tc2αが170°C未満に低下することが分かる。第一の工程でTc2αが170°C未満になると第二の工程後にもTc2βは170°C未満であり、このような射出成形用組成物を射出成形しようとすると、金型から成形体を取り出すときに組成物が十分固まらず、成形体が変形してしまった。さらに射出成形後にはTc2γが138°Cまで大幅に低下してしまった。
比較例3では、第二の工程での混練温度を230°C未満にしたため、組成物の粘度が大幅に上昇してトルクオーバーで混練できなくなった。比較例4では、第二の工程での混練温度が360℃を超えたため、重金属不活性化剤を投入しても射出成形用組成物のTc2βが170°C未満に低下した。このような組成物では、比較例2と同様に、金型から取り出すときに、成形体が変形した。比較例5では、第二の工程で重金属不活性化剤を添加していないため、射出成形用組成物のTc2βが170°C未満になり、成形体が金型からの取り出し時に変形した。比較例6と7では、第二の工程での重金属不活性化剤の添加量がPPS樹脂の0.1重量%未満であるため、比較例6では第二の工程での混練温度を下げて射出成形用組成物のTc2βを170°C以上に保っているものの、射出成形後のTc2γが170°C未満になってしまった。比較例7では、第二の工程での混練温度が340°Cと高めであるため、射出成形用組成物のTc2βが170°C未満となって、成形体が変形している。
また、比較例8では、混練の始めから重金属不活性化剤を添加して混練しており、得られた混練物のTc2は235°Cとなり、ノズル温度を290°Cから360°Cまで変えても充填が十分できず、成形体はショートショットとなった。
また、比較例9では、製造時にTc2αが170〜220°Cの範囲に入っているが、第一の工程のみで、第二の工程を経ていないので、射出成形で良好な成形品が得られないことが分かる。
Claims (12)
- 希土類元素と遷移金属とを含有する希土類遷移金属合金粉末(A)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)、及び重金属不活性化剤(C)を含有する射出成形用組成物であって、
射出成形用組成物中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2βが170〜220°Cであり、しかも射出成形用組成物をノズル温度230〜310°Cで射出成形した後の成形体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γも170〜220°Cであることを特徴とする射出成形用組成物。 - 希土類遷移金属合金粉末(A)は、希土類元素としてNd、SmまたはPrの少なくとも一種を含有する合金粉末であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用組成物。
- 希土類遷移金属合金粉末(A)は、その表面が燐酸系化合物、シリカ系化合物、又はトリアジンチオール誘導体から選ばれる少なくとも一種の表面処理剤で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用組成物。
- ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)は、主として直鎖型樹脂又はセミ直鎖型からなることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用組成物。
- ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の含有量は、組成物全体に対して5〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の射出成形用組成物。
- 重金属不活性化剤(C)は、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジン誘導体から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の射出成形用組成物。
- 重金属不活性化剤(C)の添加量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1記載の射出成形用組成物。
- 希土類元素と遷移金属とを含有する希土類遷移金属合金粉末(A)に、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)を混合し、先ず、この混合物を280〜360°Cの温度に加熱して、混練トルクが徐々に低下するように混練を続け、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2αが170〜220°Cとなった状態で、この混練物に重金属不活性化剤(C)を添加して、引き続き、230〜360°Cの温度に加熱し、さらに混練することで、ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2βを170〜220°Cに維持することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の射出成形用組成物の製造方法。
- ポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2αと前記結晶化温度Tc2βとの温度差Tc2α−Tc2βが、0〜30°Cであることを特徴とする請求項1記載の射出成形用組成物。
- 添加される重金属不活性化剤の量が、ポリフェニレンサルファイド樹脂に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項9に記載の射出成形用組成物の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の射出成形用組成物が、射出成形機によりノズル温度230〜310°Cで射出成形されてなる射出成形体。
- 射出成形体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(B)の結晶化温度Tc2γが170〜220°Cであることを特徴とする請求項11に記載の射出成形体。
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