JP4820070B2 - 溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法、詳しくは加工性、耐蝕性更には加工部耐蝕性に優れた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法に関するものである。
溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、めっき被膜中に含まれるアルミニウムが20質量%以上となると、アルミニウム含量が20質量%未満の場合と比較して、耐蝕性に優れたものとなる(特許文献1参照)。このような性質に着目して、めっき被膜中のアルミニウムが20質量%以上の高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、近年では、屋根や壁等を中心とする建材の材料として、需要が急速に伸びている。
従来における高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の一例を図1に示す。この工程においては、まず鋼板供給部1において長尺の厚さ0.2〜2.0mm程度の冷延鋼板や熱延鋼板等の鋼板を巻き取ったコイルから鋼板を巻き解いて連続的に繰り出し、この鋼板を加熱炉4で加熱した後、還元性雰囲気の焼鈍炉及び冷却帯5に搬送して焼き鈍しと同時に、表面に付着する圧延油等の除去や、酸化膜の還元除去などの表面の清浄化を行い、めっき被膜の付着性を向上する。
次に、鋼板を焼鈍炉及び冷却帯5と同一の還元性雰囲気とされたスナウト6を通過させ、更にポット7に侵入させることでポット7内の溶融アルミニウム−亜鉛合金のめっき浴9と接触させる。
次にポット7内でシンクロール8にて方向転換されて引き上げられた鋼板には、ノズル10から空気や窒素ガス等を噴射することで表面に付着しためっき被膜量を調整し、これを鋼板冷却帯11で空冷等によりほぼ常温まで冷却した後、形状矯正装置12においてスキンパスミルやレベラー等により形状やめっき表面性状などを矯正し、更に必要に応じて、塗布ロール13によるクロメートや塗料等の塗布を施したり、乾燥炉14においてこのクロメートや塗料等を乾燥させるなどの表面処理を施す。
そして、この鋼板を鋼板巻取部16でコイル状に巻き取り、必要に応じて所定長さで適宜切断する等により、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品が得られる。
尚、図中の符号2は鋼板の端部同士を溶接、機械的接続等により接続するための鋼板接続機を、符号3は鋼板接続機2による接続作業時間を確保するための入り側ルーパー3を、符号15は鋼板巻取部16からコイル状の鋼板を取り出す作業時間を確保するための出側ルーパー15を、それぞれ示している。
このようにして製造される高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、アルミニウムを20〜95質量%含有することにより、めっき被膜は亜鉛を過飽和に含有したアルミニウムが凝固したデンドライト部分と、残りの亜鉛を主体とするデンドライト間隙部分とからなる被膜構造となり、優れた耐蝕性を示す。また、このめっき被膜にケイ素を1〜2質量%含有させると、めっき被膜と下地鋼板との界面における硬い合金層の成長を抑制してこの合金層が曲げ等の加工時にクラック起点として働くのを防止することで加工性を向上し、同時に相対的に上述のデンドライト組織のある特徴的な部分が多くなるようにして耐蝕性向上にも寄与することになる。
特公昭46−7161号公報 特開2003−213397号公報
しかし、上記のような高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、アルミニウム含量が20質量%未満のものと較べて、同一条件で曲げ加工を行った場合にめっき被膜にクラックが発生しやすいという問題があった。このため、高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に折り曲げ加工を施した製品は、平面部と比較して折り曲げ加工を施した被加工部における耐蝕性が低くなってしまうものであった。
また、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品は、プレコートメタル(PCM)の塗装下地鋼板としても大量に使用されているが、PCM用の塗装として伸びが比較的少ない性質を有するポリエステル樹脂塗料が一般に用いられているため、PCM塗装を施した溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に折り曲げ加工等を施すと、めっき被膜のクラック発生に伴って塗膜にもクラックが発生してしまうという問題もある。また塗膜の伸びが比較的大きい高分子ポリエステル樹脂塗料を塗布した場合でも、クラック発生の程度は小さくなるものの、多くの場合は塗膜にもクラックが発生してしまうものであった。このため、高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品は、PCMの塗装下地鋼板として用いる場合には、塗膜形成後の高加工成形が出来ず、高加工成形後に塗膜形成を行う必要がある等の問題点も有していた。
このような問題を解決するために、本発明者らはめっき被膜を形成した後の鋼板を所定の温度で所定時間以上加熱することによりめっき被膜の硬度を低減して折り曲げ加工時のクラックを抑制することを提案している。これは、めっき被膜中における、アルミニウムの割合が大きいデンドライト組織中に微細粒子として相分離して析出した亜鉛が、所定条件での熱処理により熱処理時間の経過と共に粗大粒子に成長(オストワルド成長)し、この粗大粒子はめっき被膜に応力が加えられた際のめっき被膜の層内転位の移動を阻害する作用が少なく、このためにめっき被膜の硬度が低下するものであると考えられる(特許文献2参照)。
このように、従来からめっき被膜の加工性向上が図られていたものであるが、熱処理には多大なエネルギーと処理時間とが必要となるものであり、このため製造効率の悪化や製造コストの増大を招いてしまうという問題があった。例えば処理温度が180℃であれば44分間以上の処理時間が必要とされ、また特に良好な結果を得ようと思えば2時間以上の処理時間が必要とされた。このため熱処理を行わず、あるいは熱処理の処理時間を短縮した場合であっても、良好な加工性を有するめっき被膜を有する溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するための手法が求められていた。
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、アルミニウム含有量が20〜95質量%である高アルミニウム含量の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するにあたり、めっき被膜の加工性を向上するための熱処理を行う場合に、その処理時間を短縮することができ、それでいてめっき被膜の加工性を十分に向上することができる溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明に係る溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法は、アルミニウム含有量が20〜95質量%である溶融アルミニウム−亜鉛合金のめっき浴と鋼板とを接触させてめっき被膜を前記鋼板に形成するめっき工程を含む溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法において、前記鋼板がホウ素とバナジウムとのうち少なくとも一方を含有するものであることを特徴とする。これにより得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、鋼板中にホウ素又はバナジウムが含有されていることで、めっき被膜のスパングル径が微細化される、これにより曲げ加工等を施した際のめっき被膜のクラックの発生が抑制されて加工性が向上し、且つ高い耐蝕性を維持することができる。
また、上記鋼板中のホウ素及びバナジウムの含有量の総量は、0.0009〜0.0080質量%の範囲となるようにする。これによりスパングル径を十分に微細化して優れた加工性と耐蝕性とを付与することができる。
また、上記の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法は、上記めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を80〜235℃の温度範囲で、少なくとも下記式で示される時間保持する熱処理工程を含むようにする。
0.6×{100/(t−50)}3 (時間)
(t:熱処理工程における最低保持温度)
このようにすると、熱処理によってめっき被膜を軟質化させて更に優れた加工性と耐蝕性とを付与することができるものであり、且つ短時間の熱処理にてめっき被膜の加工性の著しい向上を達成することが可能なものである。
また、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するにあたっては、上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を冷却する冷却工程を有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において80〜235℃の温度範囲に冷却し、次いで熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すようにすることもできる。これにより熱処理工程に先だって鋼板を予め所望の保持温度に調整しておくことができ、熱処理工程における鋼板の温度バラツキを抑制して、鋼板を所望の温度に均一に保持することが容易となり、且つ、冷却工程において、めっき被膜が形成された鋼板を搬送用ロールへのめっきの付着の防止等のために冷却すると同時に、この冷却時にめっき鋼板の温度を熱処理工程における所望の保持温度となるようにすることができる。また、切り板状又はコイル状の状態で加熱又は保熱することで、熱処理工程において鋼板を静置した状態で加熱又は保熱することができ、ラインの長大化を抑制することができる。
また、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するにあたっては、上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を冷却する冷却工程と、冷却工程にて冷却された鋼板を加熱する加熱工程とを有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において冷却し、次いで加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すこともできる。この場合も、熱処理工程に先だって鋼板を予め所望の保持温度に調整しておくことができ、熱処理工程における鋼板の温度バラツキを抑制して、鋼板を所望の温度に均一に保持することが容易となり、且つ、冷却工程において、めっき被膜が形成された鋼板を搬送用ロールへのめっきの付着の防止等のために冷却した後、加熱処理によって熱処理工程における所望の保持温度となるようにすることができる。また、切り板状又はコイル状の状態で加熱又は保熱することで、熱処理工程において鋼板を静置した状態で加熱又は保熱することができ、ラインの長大化を抑制することができる。また、冷却工程における冷却により鋼板の温度が熱処理工程における所望の保持温度よりも低くなってしまった場合にも、加熱工程においてこの鋼板を所望の保持温度まで加熱することができるものである。
また、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するにあたっては、上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を加熱する加熱工程を有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、コイル状に巻き取り、このコイルから鋼板を繰り出しながら加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すようにしても良い。この場合も、熱処理工程に先だって鋼板を予め所望の保持温度に調整しておくことができ、熱処理工程における鋼板の温度バラツキを抑制して、鋼板を所望の温度に均一に保持することが容易となり、且つ、加熱工程において、めっき被膜が形成された鋼板を熱処理工程における所望の保持温度となるようにすることができる。また、切り板状又はコイル状の状態で加熱又は保熱することで、熱処理工程において鋼板を静置した状態で加熱又は保熱することができ、ラインの長大化を抑制することができる。更に、めっき処理工程と加熱工程とを、別ラインにて行うことができ、例えば通常のめっき鋼板製造ラインにおいて溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造した後、別ラインにて加熱工程にて加熱し、次いで熱処理工程における熱処理を施すようにすることができる。
また、上記加熱工程においては、めっき被膜が設けられた鋼板を誘導加熱装置あるいは連続加熱炉を用いて加熱することが好ましい。この場合は、鋼板を連続的に搬送しながら高効率で速やかに所望の温度まで加熱することができ、また設置スペースも少なくて済む。
また、上記熱処理工程においては、めっき被膜が設けられた鋼板の加熱を燃焼排ガスにて行うことが好ましい。これにより、生産設備に設けられている石油や天然ガス等を燃料とする種々の加熱設備から排出される比較的高温で大量の排気ガスを利用することができて、排気ガスの有効利用がなされ、熱エネルギーの有効利用及びエネルギーコストの低減に大きく寄与することができる。
本発明により製造された溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、従来法により製造された溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に比べて、加工時のクラック発生が少なく、かつ加工部の耐蝕性が優れているものである。
以下、本発明をその実施をするための最良の形態に基づいて詳述する。
めっき被膜の形成対象である鋼板は、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板等の適宜のものが用いられるが、ホウ素(ボロン:B)とバナジウム(V)のうちの少なくとも一方が含有されていることを必要とする。
鋼板中のホウ素及びバナジウムの含有量は適宜調整されるものであって、特に制限されるものではないが、ホウ素の含有量は0.01質量%以下の範囲であることが好ましく、バナジウムの含有量は0.02質量%以下の範囲であることが好ましい。また、特に両者の含有量の合計が0.0009〜0.0080質量%の範囲となるようにする。すなわち、鋼板中にはホウ素を含有させると共にその含有量を0.0009〜0.0080質量%とし、若しくはバナジウムを含有させると共にその含有量を0.0009〜0.0080質量%とし、或いはホウ素及びバナジウムを含有させると共に両者の含有量の合計を0.0009〜0.0080質量%とするものである。
また、鋼板中の上記ホウ素及びバナジウム以外の成分及びその含有量は特に制限されないが、例えばCを0.6質量%以下の割合で含むいわゆる普通鋼の組成において、ホウ素とバナジウムのうち少なくとも一方を含有させた組成を有する鋼板を用いることができる。例えばCの含有量が0.25質量%以下、Siの含有量が0.06質量%以下、Mnの含有量が0.85質量%以下、Pの含有量が0.040質量%以下、Sの含有量が0.04質量%以下、Nの含有量が0.01質量%以下、Tiの含有量が0.10質量%以下、Nbの含有量が0.02質量%以下、Alの含有量が0.10質量%以下の範囲となるものを用いることができる。
鋼板を溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造に供する際には、例えば公知の手法により熱間圧延で適宜の厚み(例えば2〜3mm程度)の熱延鋼板とし、その表面に生じるスケールを酸洗で除去した後、冷間圧延により適宜の厚み(例えば厚み0.1〜1.6mm程度)とされた冷延鋼板とし、これに対してめっき被膜を設けるようにすることができる。
一方、めっき被膜を形成するための溶融アルミニウム−亜鉛合金のめっき浴の組成については、アルミニウムが20〜95質量%で含有されていることを必要とする。このめっき浴としては、55%アルミニウム−亜鉛合金めっき浴に代表される高アルミニウム含量の溶融めっき浴の組成を採用することができる。このとき、めっき浴中にはアルミニウム、亜鉛のほか、適宜の添加物を含有させることができる。例えばケイ素を1〜2質量%含有させると、めっき被膜と鋼板との界面における硬い合金層の成長を抑制してこの合金層が曲げ等の加工時にクラック起点として働くのを防止することで加工性を向上し、同時に相対的に上述のデンドライト組織のある特徴的な部分が多くなるようにして耐蝕性向上にも寄与することになる。またこれ以外に、Sr,Mg,Cr等の添加物や、Fe,Ti,V,Mn等の不可避的不純物が含有されていても良い。
ここで、めっき被膜を設けた鋼板を後述のように熱処理工程に供することでめっき被膜を軟化させる場合には、前述したようにめっき被膜の軟化はアルミニウムリッチなデンドライト組織の軟質化であるから、その軟質の程度はアルミニウムの多いデンドライト組織のめっき被膜中の量で左右され、このデンドライト組織の多い程効果は大きい。
めっき被膜を形成する際には、めっき浴をその組成に応じ、例えばめっき浴中のアルミニウム含有量が55質量%の場合は600℃に保持することで溶融状態とし、この状態で鋼板をめっき浴中に浸漬するなどして鋼板とめっき浴とを接触させるめっき工程を経ることで、鋼板表面にめっき被膜を設ける。めっき被膜のめっき付着量は、例えば一般的なアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板における通常の厚みである90〜150g/m2(両面付着量)の範囲とすることができるが、この範囲に限るものではなく、必要とされる耐食性能等に応じて適宜調整される。
このようにして形成されるめっき被膜では、鋼板としてホウ素を含有するものを用いたことに起因して、被膜中におけるスパングル径、すなわちデンドライト状のアルミニウムリッチ相のサイズが微細化し、これによりこのめっき被膜が設けられた鋼板に折り曲げ加工等を施す際のクラックの発生が抑制されて、加工性が向上する。またこのようなクラックの抑制に伴い、クラック発生による耐蝕性の低下が抑制されて、高い耐蝕性を維持することができるものである。
鋼板がホウ素、バナジウムを含有することによりスパングル径が微細化する理由は明らかではないが、次のようにいくつかの原因が考えられる。
考えられる一つ目の原因としては、鋼板にめっき被膜形成に先だって焼鈍処理を施す際に、ホウ素等が鋼板表面で濃縮されることにより鋼板表面を広い範囲に亘って覆うことにより、めっき被膜形成時の鋼板表面とめっき浴との間の反応性が変化することが挙げられる。このとき、前記の反応性が向上するならば、鋼板中の鉄が鋼板に付着しためっき浴へと溶出することでこのめっき浴の凝固温度を上昇させ、これによりめっき被膜が形成される過程においてめっき浴の過冷却状態が現出する。また上記の反応性が低減されるならば、純粋系のために、やはりめっき被膜が形成される過程においてめっき浴の過冷却状態が現出する。このように反応性が向上する場合と低減される場合とのいずれにおいても、鋼板に付着しためっき浴が過冷却状態となりやすくなる。ここで一般に過冷却状態における結晶成長は多核成長となりやすい。そのため、めっき被膜に形成されるスパングルが多核化することでそのサイズの微細化が惹起されるものである。
考えられる二つ目の原因としては、ホウ素等の添加により鋼板中の微細析出物(再結晶のインヒビターとなる)の状態が変化し、鋼板の再結晶組織が変化することが挙げられる。すなわち、このように鋼板の再結晶組織が変化することにより鋼板表面とめっき浴との間の反応性が変化し、これにより上記と同様にスパングル径の微細化を招くものである。
考えられる三つ目の原因としては、ホウ素等の添加により、鋼板をめっき被膜形成に先だって熱間圧延や冷間圧延を施す際の鋼板の集合組織が変化することが挙げられる。すなわち、このように鋼板の集合組成が変化することにより鋼板表面とめっき浴との間の反応性が変化し、これにより上記と同様にスパングル径の微細化を招くものである。
スパングル径の微細化は、上記のような原因が単独で、あるいは複合的に働くことに起因すると考えられる。
また、スパングルが微細化することにより加工性が向上するのは、スパングルが微細化すると、めっき被膜中の比較的硬いアルミニウムリッチ相(スパングル)と比較的軟らかい亜鉛リッチ相との界面が増大するためであると考えられる。すなわち、めっき被膜におけるクラックは、前記アルミニウムリッチ相(スパングル)と亜鉛リッチ相との界面において発生すると考えられ、またアルミニウムリッチ相(スパングル)のサイズが大きいと相間の界面が小さくなり、曲げ加工等で応力を加えると深いクラックが発生しやすくなるが、アルミニウムリッチ相が微細化して相間の界面が増大すると、曲げ加工時にクラックが発生する際に、そのクラックは微細化すると共にこれが多数発生し、またそれに伴ってクラックの深さも浅くなる。このため、巨視的なクラックの発生が抑制されて外観上クラックの発生が認められなくなり、また耐蝕性の低下も抑制されるものである。
このとき鋼板中におけるホウ素とバナジウムの含有量の合計が上記のように特に0.0009質量%以上であると、スパングル径を十分に微細化して優れた加工性を付与することができる。ここで、鋼板中に含まれる上記のような各種成分の含有量を変化させてもスパングル径との相関関係は見出せず、ホウ素が単独でスパングル径の微細化に寄与しているものと推察される。また鋼板の板厚とスパングル径との間にも相関関係は見出せず、スパングル径はホウ素の絶対量ではなく鋼板中の含有割合に依存するものである。またホウ素の含有量が過剰となると、このホウ素と窒素とが結びついたBNが焼鈍時の結晶粒界の動き(再結晶)を阻害し、焼鈍温度を上昇させてしまうおそれがあり、またバナジウムの含有量が過剰となると鋼板の機械的性質、すなわち伸び等が少なくなり、加工時の割れ等の不具合が発生するおそれがあるが、ホウ素とバナジウムの含有量の合計を0.0080質量%以下とすることで、冷延鋼板の圧延組織を再構成して軟質化する焼鈍温度、すなわち再結晶温度の上昇を抑制し、焼鈍エネルギーの増加や、焼鈍炉体の消耗等を抑制し、且つ鋼板の伸び特性を維持することができるものである。
めっき工程を経ることでめっき被膜が設けられた鋼板は、更なる加工性向上を図るために、80〜235℃の温度範囲で、少なくとも下記式で示される時間(保持時間)だけ保持する熱処理工程に供する。
0.6×{100/(t−50)}3 (時間)
(t:熱処理工程における最低保持温度)
この式中のtは熱処理工程における最低保持温度であり、保熱工程中において保持温度が変動する場合には、その変動範囲における最低温度を意味する。
また、上記の保熱時間は保持温度が80〜235℃範囲である状態の累計の時間を意味し、例えば熱処理工程中において保持温度が80℃未満となった場合や、保持温度が250℃を超えた場合には、その間の時間は除外される。
このような熱処理工程を経ることでめっき被膜を軟質化させることができ、曲げ加工時等のめっき被膜におけるクラックの発生等を更に抑制することが可能となるものである。これは、めっき被膜中における、アルミニウムの割合が大きいデンドライト組織中に微細粒子として相分離して析出した亜鉛が、所定条件での熱処理により熱処理時間の経過と共に粗大粒子に成長(オストワルド成長)し、この粗大粒子はめっき被膜に応力が加えられた際のめっき被膜の層内転位の移動を阻害する作用が少なく、このためにめっき被膜の硬度が低下し、伸び易くなるからである。
ここで、保持時間が上記の式にて表されるものに満たない場合には、めっき被膜の軟質化を十分に為すことができず、耐クラック性等を改善することができない。また保持温度の上限は特に制限されないが、保持時間が長時間に亘るとめっき被膜の耐蝕性が低下する傾向があるため、高い耐蝕性を維持するためには、保持温度を400時間以下、特に200時間以下とすることが好ましい。
また保持温度は上記のように80〜235℃の範囲とするものであり、特に90〜235℃の範囲であることが好ましい。この保持時間が低すぎると熱処理に必要な保持温度が極端に長くなってしまって実用性がなくなり、また保持温度が高すぎると耐クラック性の向上を十分に為すことができなくなる。
ここで、従来においてもめっき被膜の軟化のための加熱又は保熱処理が行われていたが、本発明における熱処理工程では、上記のようにホウ素を含有する鋼板を用いることでスパングル径の微細化による加工性の向上が図られていることから、熱処理を行う場合の保持時間が従来よりも短時間であっても優れた加工性が付与されるものである。例えば保持温度が180℃であれば保持時間を0.46時間(約27.7分間)とすれば、優れた加工性を有する溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板が得られる。
この熱処理工程においては、めっき被膜が設けられた鋼板は適宜の形態で熱処理されるが、ある程度の保持時間を要することから、長尺な鋼板を連続加熱する場合にはラインの長大化を招いてしまう。このため、熱処理工程においては、めっき被膜が設けられた鋼板を切り板状又はコイル状の状態で加熱又は保熱することが好ましい。すなわち、長尺な鋼板を用いる場合には、この鋼板を連続的に搬送しながらめっき工程にてめっき処理を施した後、これをコイル状に巻取り、あるいは切り板状に切断した状態で、加熱又は保熱することで、鋼板を静置した状態で加熱又は保熱することができ、ラインの長大化を抑制することができるものである。また、このとき始めから切り板状の鋼板に対してめっき工程にてめっき処理を施し、この切り板状の鋼板を静置して熱処理工程に供するようにしても良い。
熱処理工程において鋼板を加熱又は保熱する場合には、この鋼板を保温箱や保温室に入れて、その内部で加熱又は保熱することができる。特に切り板状部材は比較的放熱しやすくなるため、この放熱を防止するために、各切り板状部材を積層して保温箱や保温室に入れることが好ましい。
このような保温箱や保温室は、対象となる溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板のコイルが大きくなるほど、或いは同時に熱処理する切り板が多量になるほど、簡易な構成で足りるようになる。すなわち、大きなコイルや多量の切り板を同時に熱処理する場合には、鋼板全体の有する熱量が大きくなるので、温度低下が遅くなり、本発明の熱処理条件を容易に確保できる。
ここで、大量の鋼板を同時に熱処理する場合には、保温室等の大型の設備が、熱効率上及び作業上有効である。また、温度低下を防ぐためには、保温箱や保温室に電熱ヒーターや燃焼バーナーを設置することが極めて有効となる。
なお、保温箱と保温室については、一方のみを単独で用いても、或いは双方を併用しても良い。双方を併用する形態としては、例えば保温室内に更に保温箱を配置して保温箱内に鋼板を入れること、或いは、鋼板を所定時間保温室に入れた直後又は所定時間経過後に、更に所定時間保温箱に入れること、あるいはこの逆、などの形態が挙げられる。
保温箱の構成の一例を、図6に模式的に示す。図6に示す保温箱30は、その前後左右の側面及び天井面について、鉄板(例えば厚さ0.8mm)を内壁及び外壁として配し、両鉄板間にはセラミックファイバーの断熱材(例えば厚さ50mm)が設けられ、低部が開口となった箱状の構成となっている。
ここで、図6に示すように、保温箱30の一の側面には、燃焼ガス導入口31及びガス排出口32が形成されている。これら燃焼ガス導入口31及びガス排出口32は、開閉可能な蓋部が取り付けられており、燃焼ガスの導入がない場合には、各蓋部を閉めて当該ガスの流通を止めることが可能となる。このため、保温箱30内にはヒーター、バーナー等の加熱手段は設けなくても良い。
なお、保温箱30の寸法については、例えば幅AB及び高さACをそれぞれ2000mm、奥行きADを1500mm、燃焼ガス導入口31及びガス排出口32の径をそれぞれ280mmとすることができる。
鋼板コイルの熱処理の場合は、例えば工場等の床に厚さ50mmのセラミックファイバーの断熱材を敷き、その上に鋼製のコイル置台(図示せず)を設置し、更にその上に所定温度に加熱された鋼板コイルを置く。そして、上述した保温箱30を釣り上げ用フック33を介してクレーンで釣り上げるなどして、鋼板コイルにかぶせ、所定時間保温することができる。これら各作業は、極めて容易に行うことが可能である。
なお、図6では、保温箱の一例を模式的に示すものであって、具体的な材質、形状、大きさ等についてこの例に限定されるものではない。使用される保温箱は、鋼板の温度低下を防ぐことができる箱であれば良く、容易かつ低コストで作成することが可能である。
一方、保温室は、固定された壁、床及び天井からなり、各面には断熱材が設けられた構成とする。更に、保温室の場合には、例えば開閉扉を設ける等により、加熱されためっき鋼板コイル或いは積層した切り板の搬入及び搬出ができるようにする。
保温室の各面に設けられる断熱材としては、一般に、例えば発泡スチロール等の有機系断熱材や、煉瓦、上述のセラミックファイバー、耐火ボード等の無機系断熱材があるが、この場合には燃焼ガスが直接触れることもあるので、有機系断熱材は不適であり、無機系断熱材を用いることが好ましい。
本発明では、目的とする保温域が比較的低いことから、保温箱や保温室に設ける断熱材としては、各種の煉瓦や各種の耐火ボード等を使用するのは重量と効果の面からあまり好ましくなく、セラミックファイバー等の繊維状の断熱材を用いるのが最適である。
断熱材としてセラミックファイバーを用いた図6の保温箱30では、熱伝達係数が1.23W/m2・Kであった。これは、約6Tのめっき鋼板コイルが180℃付近で約5℃/h下がることになり、2時間保持しても約10℃しか降下せず、保温による熱処理には十分である。保温室の場合には、使用する断熱材について、その厚さを10mm以上とし、かつ、保温室の全面に対して配置することが望ましい。
ここで、保温室や保温箱における鋼板のうちの加熱されたコイル或いは積層した切り板の直接外気と接触する表面(コイルの場合には、上述の外巻き部分、内巻き部分、板巾のエッジ部分)は、温度の降下が早くなる。このため、本実施の形態では鋼板の温度降下防止を図るために、保温箱や保温室内に、何らかの加熱された気体を導入することが好ましい。具体的には、保温箱や保温室内に、石油や天然ガス等の燃焼排ガスを導入することが極めて有効となる。すなわち、通常の生産工場では、石油や天然ガス等を燃料とする種々の加熱設備が存在しており、その排気ガスは比較的高温で、大量に排出されるので、こうした燃焼排ガスを保温箱あるいは保温室内に導入することで、排気ガスの有効利用がなされ、熱エネルギーの有効利用及びエネルギーコストの低減に大きく寄与する。
通常の連続式溶融亜鉛めっき設備では、鋼板の加熱炉、均熱炉が設置されており、その排気ガスは900℃程度に達する。この排気ガスは、前記加熱炉、均熱炉の燃焼用空気の予熱のために熱交換器で熱交換され最終的には温度が下がるが、それでも最終排気ガス温度として、350〜450℃はある。
したがって、このような排気ガスを保温箱や保温室に導入すれば、熱エネルギーの有効利用及びエネルギーコストの低減につながり、極めて好ましい効果が得られる。なお、上述のように、250℃を超えた熱処理では効果が得られないことから、排気ガスについては200℃前後に低下させてから保温箱や保温室に導入する必要があるが、この場合には例えば排気ガスを常温の空気と混合することにより容易かつ迅速に200℃前後に低下させることが出来、このような処理を経てから保温箱や保温室に導入すれば良い。
更には、内燃機関による発電装置とその排熱回収の蒸気発生装置の複合設備の場合には、例えば、出力7200KWの発電出力の設備で、160℃の水蒸気3T/Hを発生するとともに、約200℃で52000Nm3/Hの排気ガスを放出している。そして、このような約200℃以下の排気ガスの熱は、一般に工業的な回収が難しいことから低級熱源と呼ばれており、従来はそのまま排出されていた実状にある。これに対して、本発明で用いられる熱処理は、80〜235℃と低いため、このような低級熱源の排気ガスであっても十分利用することができ、更には上述のような常温空気との混合処理を経なくても済むため、排気ガスを直接そのまま保温箱や保温室に導入することが可能である。
このように、本発明では、比較的低温で熱処理がなされるため、生産工場に設置されている加熱設備の燃焼排ガスを十二分に利用できるメリットがある。
また、上記のめっき工程の後、熱処理工程に先だって、鋼板の温度を予め80〜235℃の状態としてから、この鋼板を熱処理工程に供するようにしても良く、この場合、熱処理工程における鋼板の温度バラツキを抑制して、鋼板を所望の温度に均一に保持することが容易となる。例えば熱処理工程においては鋼板をコイル状や切り板状で保持する場合にはコイルの中心側と外周側とを均一な温度に保持することが困難であり、また切り板状の鋼板を積み重ねる場合にも全ての鋼板を均一な温度に保持する殊は困難であるが、予め鋼板を80〜235℃の間の所望の保持温度としてからコイル状としたり切り板状にして積み重ねたりして熱処理工程に供するようにすれば、鋼板を均一な温度に保持することが容易となるものである。
このように鋼板を予め所望の保持温度とするためには、例えばめっき工程後の高温の鋼板を所望の保持温度まで冷却する冷却工程に供した後、更に熱処理工程に供するようにすることができる。この冷却は例えば空冷等により行うことができる。すなわち、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において80〜235℃の温度範囲に冷却し、次いで熱処理工程においてコイル状又は切り板状で熱処理を施すものである。この場合、冷却工程において、めっき被膜が形成された鋼板を搬送用ロールへのめっきの付着の防止等のために冷却すると同時に、この冷却時にめっき鋼板の温度を熱処理工程における所望の保持温度となるようにすることができる。
また、めっき工程後の高温の鋼板を冷却工程において冷却した後、この鋼板を80〜235℃の間の所望の保持温度まで加熱する加熱工程を経てから、熱処理工程に供するようにしても良い。すなわち、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において冷却し、次いで加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程においてコイル状又は切り板状で熱処理を施すようにするものである。この場合、冷却工程における冷却により鋼板の温度が熱処理工程における所望の保持温度よりも低くなってしまった場合にも、加熱工程においてこの鋼板を所望の保持温度まで加熱することができるものである。
また、このとき長尺な鋼板を連続ラインにて処理することで溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造する場合に、鋼板に対して一つのラインにて各種の処理を行うようにしても良いが、各処理を適宜別ラインにて行っても良い。例えば、めっき処理及び冷却処理を連続処理にて行った後に、コイルに巻き取り、これに別ラインにおいて加熱工程における加熱を施した後、熱処理工程における熱処理を施すようにすることができる。すなわち、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施し、必要に応じて冷却工程において冷却した後、コイル状に巻き取り、このコイルからめっき鋼板を繰り出しながら加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程においてコイル状又は切り板状で熱処理を施すようにするものである。この場合、例えば通常のめっき鋼板製造ラインにおいて溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造した後、別ラインにて加熱工程における加熱を施し、次いで熱処理工程における熱処理を施すようにすることができる。
上記加熱工程における鋼板の加熱は適宜の加熱装置を用いて行うことができるが、例えば通常の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程において用いられる乾燥炉を加熱装置として用いることができる。
また、上記加熱装置としては、誘導加熱装置や連続加熱炉等を用いることもできる。これらは鋼板を連続的に搬送しながら高効率で速やかに所望の温度まで加熱することができ、また設置スペースも少なくて済む。また既存の製造設備に乾燥炉が設けられていない場合や、乾燥炉の出力が低くて鋼板を所望の温度に加熱することが困難な場合などにおいても、このような既存の設備に対して容易に設置することが可能である。特に、熱効率や設備スペースの面からは、誘導加熱装置が有利である。すなわち、誘導加熱装置は、加熱用コイルのみを鋼板の流れ内に設置すれば良いので、極めて小さな設置スペースで済むというメリットがある。また、誘導加熱装置の場合には、鋼板の温度が比較的低いために、鋼板の放熱を防止したり、誘導加熱装置の加熱コイルを熱保護するための保温材や断熱材等も簡単で良い。なお、誘導加熱装置は、帯状の鋼板を所望の保持温度に上昇させることができる装置であれば良く、特に新たな機能等は必要とされない。
このような誘導加熱装置や連続加熱炉等により、長尺な鋼板を搬送しながら連続的に加熱すると、コイル状で加熱するのに比べて加熱が均一で早く、更に熱効率が良いというメリットがある。すなわち、コイル状の鋼板を加熱する場合、コイルへの熱入力はコイル表面(コイルの外巻き表面、内巻き表面、鋼板エッジ)からのみであるため、鋼板重量に対して熱入力できる表面積が極めて小さい。従って、これらの熱入力部位が高温に曝されるのに反して、コイル内部は上述のコイル表面からの熱伝導に頼ることになり、コイル内部とコイル表面の温度差は大きくなる、すなわち不均一な加熱となるので、コイルの各部の熱を均熱化するには長時間を要するというデメリットが生じる。
本発明にて得られる溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、上記のように折り曲げ加工時のめっき被膜のクラック発生が抑制されることから、塗装鋼板として用いる場合にも大きなメリットがある。すなわち、このようにめっき被膜のクラック発生が抑制されるため、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に塗装を施した後に曲げ加工を施す場合に、めっき被膜にクラックが発生しにくいために、めっき被膜のクラック発生に伴う塗膜のクラックの発生も抑制されることとなり、例えばPCM(プレコートメタル)の塗装下地鋼板として用いる場合にも、塗膜形成後の高加工成形が可能となり、高加工成形後に塗膜形成をしなければならない等の加工上の制約がなくなるものである。
次に、具体的な製造工程を例示して説明する。
図1に示す形態は、熱処理工程を行わずに溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を得る工程を示すものである。本実施の形態は、上記の従来の工程と同一であり、上流側から、コイル状に巻かれた鋼板を送り出すための鋼板給送部1と、鋼板の端部同士を溶接、機械的接続等により接続するための鋼板接続機2と、鋼板接続機2による接続作業時間を確保するための入り側ルーパー3と、鋼板を加熱する無酸化炉等の加熱炉4と、還元性雰囲気に保持され鋼板を焼鈍する焼鈍炉及び冷却帯5と、焼鈍炉5と連設され下端側がめっき浴に浸漬されたスナウト6と、めっき浴9を有するポット7と、ポット7内に配置されたシンクロール8と、ポット7の後段に配置され空気や窒素ガス等を噴射する噴射ノズル10と、鋼板を冷却するための鋼帯冷却帯11と、スキンパスミルやレベラー等を有する形状矯正装置12と、形状矯正装置12の後段に配置された表面処理装置としての塗布ロール13及び乾燥炉14と、鋼板をコイル状に巻き取る鋼板巻取部16と、鋼板巻取部16からコイル状の鋼板を取り出す作業時間を確保するための出側ルーパー15とを備えている。装置構成は必要に応じて追加、除去、置換等、適宜変更可能である。
本実施形態では、長尺帯状の冷延鋼板や熱延鋼板等の鋼板23が、予めコイル状に巻かれて鋼板給送部1に取り付けられる。そして、設備稼動時には、鋼板給送部1から鋼板接続機2に送り出される際に鋼板23が巻き解かれ、この鋼板23の先端部が鋼板接続機2により先行する鋼板23の後端部と接続され、連続して加熱炉4等に供給される。この鋼板接続機2での鋼板接続処理時に生じた鋼板供給のロスは、鋼板接続機2と加熱炉4との間に配置された入り側ルーパー3を鋼板23が通過することで補償され、この入り側ルーパー3以降の搬路における鋼板23の一定速さでの円滑な搬送が維持される。
続いて、鋼板23は、必要に応じて適宜の洗浄設備(図示せず)を通過させて圧延油、圧延時に生じる金属粉、埃等を除去し、次いで加熱炉4(無酸化炉)で加熱されることにより鋼板23を昇温すると共に鋼板23の表面の油脂等の有機物の除去がなさる。次いで還元性雰囲気(例えば水素含有雰囲気)の焼鈍炉及び冷却帯5に搬送され、焼き鈍しにより再結晶化させて軟質化した後、冷却されて過時効処理が施されると共に板温が所望のめっき浴への浸入温度となるように調整される。
そして、鋼板23は、焼鈍炉及び冷却帯5と同一の還元性雰囲気とされたスナウト6を通過してポット7に入ることで、ポット7内のめっき浴9に浸漬され、更にシンクロール8にて搬送方向が転換されて、めっき浴9の上方に引き上げられて外気に触れる。この際に、鋼板23は、後段の噴射ノズル10によって加圧した気体が噴射されることによって、表面に付着した溶融合金のめっき量が調整され、所定厚のめっき被膜が形成される。
次に、鋼板23は、後段の鋼板冷却帯11で空冷や圧送空気による強制空冷などによって例えば常温まで冷却された後、必要に応じて形状矯正装置12においてスキンパスミルやレベラー等により形状やめっき表面性状などを矯正し、更に必要に応じて、塗布ロール13によるクロメートや塗料等の塗布を施したり、乾燥炉14においてこのクロメートや塗料等を乾燥させるなどの表面処理を施す。次いで、この鋼板23は出側ルーパー15を通過した後、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、コイル17となる。これをコイル状態のまま或いは必要に応じて適宜の後処理を施したり、所定長さで適宜切断したりして、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品となる。
図2に示す形態は、溶融めっき時の鋼板23の熱を利用して熱処理する工程の例を示している。本実施の形態では、鋼板給送部1から噴射ノズル10までの工程と、形状矯正装置12以降の工程との間に上述した熱処理工程のための設備を加えている。
本実施の形態の溶融亜鉛めっき設備は、上流側から、コイル状に巻かれた鋼板23を送り出すための鋼板給送部1と、鋼板23の端部同士を溶接、機械的接続等により接続するための鋼板接続機2と、鋼板接続機2による接続作業時間を確保するための入り側ルーパー3と、鋼板23を加熱する無酸化炉等の加熱炉4と、還元性雰囲気に保持され鋼板23を焼鈍する焼鈍炉及び冷却帯5と、焼鈍炉5と連設され下端側がめっき浴に浸漬されたスナウト6と、アルミニウムとケイ素を所定量含んだめっき浴9を有するポット7と、ポット7内に配置されたシンクロール8と、ポット7の後段に配置され空気や窒素ガス等を噴射する噴射ノズル10とを備えている。装置構成は必要に応じて追加、除去、置換等、適宜変更可能である。
本実施の形態では、鋼板23は鋼板冷却帯11までは上記図1と同様の処理がなされる。そして鋼板冷却帯11で空冷や圧送空気による強制空冷などによって、熱処理工程における所望の保持温度まで冷却され、次いで出側ルーパー15を通過した後、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、所定の温度状態となったコイル17となる。
続いて、このコイル17は、クレーンや台車等で移動され、上述した熱処理を行うために、保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。ここで所定時間高温に保持された後、熱処理済みのコイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却される。
更に、処理後の鋼板23に対し、必要に応じて、形状の矯正や簡易表面処理等の後処理を施すようにしても良い。この場合は、例えば上記コイル17を第二の鋼板給送部1’に取り付けて、この第二の鋼板給送部1’によりコイル17から鋼板23を巻き解いて送り出し、鋼板接続機2で上記と同様に接続された後、形状矯正装置12を通過し、更に、塗布ロール13で塗布型クロメートが塗布されて、乾燥炉14で乾燥された後、第二の鋼板巻取部16’でコイル状に巻き取られる。これを更に所定長さで適宜切断するなどして、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品が得られる。
図3に示す実施の形態では、通常の溶融亜鉛めっき設備に設置されている乾燥炉で溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例である。
本実施の形態の溶融亜鉛めっき設備は、上流側から、鋼板給送部1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、シンクロール8及びめっき浴9を有するポット7、噴射ノズル10、鋼板冷却帯11、形状矯正機12、簡単な表面処理装置としての塗布ロール13及び乾燥炉14’、出側ルーパー15、及び鋼板巻取部16を備えており、図1に示す設備とほぼ同様の構成及び製造工程となっている。装置構成は必要に応じて追加、除去、置換等、適宜変更可能である。
但し、本実施の形態では、乾燥炉14’として、加熱能力の大きいものが用いられている。すなわち、簡単な表面処理を行うための乾燥炉は一般に加熱能力が小さいので、本実施の形態では、加熱能力の大きい乾燥炉14’を用いることにより、鋼板の温度を上述した熱処理に必要な温度まで上昇させることが可能となる。
本実施の形態では、鋼板23は鋼板冷却帯11を通過するまでは図1に示す実施の形態と同様の処理がなされる。そして、鋼板冷却帯11では鋼板23は熱処理工程における所望の保持温度未満、例えば常温まで冷却された後、乾燥炉14’において熱処理工程における所望の保持温度まで加熱される。次いで、この鋼板23は出側ルーパー15を通過した後、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、所定の温度状態となったコイル17となる。
このコイル17は図2に示す場合と同様に保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。次いで、コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて、コイル状態のまま或いは必要に応じて図2に示すような後処理を施したり、所定長さで適宜切断したりして、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品となる。
図4は通常の溶融亜鉛めっき設備の鋼板巻取部16の前段に加熱設備を設置して溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例である。工程は、鋼板給送部1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、ポット7、噴射ノズル10、鋼板冷却帯11、形状矯正機12、塗布ロール13、乾燥炉14、出側ルーパー15までは、図1で説明した工程と同じである。そして、上述のように、乾燥炉14では溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の熱処理のために必要な温度までの加熱には能力不足である場合が一般的なので、本実施の形態では、新たに誘導加熱装置等の加熱装置21を出側ルーパー15の後段かつ鋼板巻取部16の前段に設置している。装置構成は必要に応じて追加、除去、置換等、適宜変更可能である。
本実施形態においては、鋼板23は鋼板冷却帯11を通過するまでは図1に示す実施の形態と同様の処理がなされる。そして、鋼板冷却帯11では鋼板23は熱処理工程における所望の保持温度未満、例えば常温まで冷却された後、必要に応じて形状矯正装置12においてスキンパスミルやレベラー等により形状やめっき表面性状などを矯正する。次いで、この鋼板23は出側ルーパー15を通過した後、加熱装置21にて熱処理工程における所望の保持温度まで加熱された後、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、所定の温度状態となったコイル17となる。
このコイル17は図2に示す場合と同様に保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。次いで、コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて、コイル状態のまま或いは必要に応じて図2に示すような後処理を施したり、所定長さで適宜切断したりして、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品となる。
図5はめっきラインにおいて通常の溶融亜鉛めっき設備で溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造し、更に別ラインにおいて、加熱装置を有する設備で溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を加熱して、熱処理する設備及び工程の例である。めっきラインにおける鋼板コイル1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、ポット7、噴射ノズル10、鋼板冷却帯11、形状矯正機12、塗布ロール13、乾燥炉14、出側ルーパー15、鋼板巻取部16までは図1に示す工程と同じであり、ここで低温の熱処理前のコイル22を得る。本実施の形態では、この鋼板巻取部16の後段の別ラインとして、第二の鋼板給送部1’、鋼板接続機2、加熱装置21、第二の鋼板巻取部16’を備えた加熱設備を設ける構成とする。装置構成は必要に応じて追加、除去、置換等、適宜変更可能である。
本実施形態においては、めっきラインにおいては図1に示す実施の形態と同様の処理がなされ、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られる。鋼板巻取部16で巻取られた低温の熱処理前のコイル22は、クレーンや台車等で移動されて、別ラインの第二の鋼板給送部1’に取着される。
次いで、別ラインでは、第二の鋼板給送部1’から鋼板接続機2に送り出される際に鋼板23が巻き解かれ、この鋼板23の先端部が鋼板接続機2により先行する鋼板23の後端部と接続され、連続して加熱装置21に供給され、この加熱装置21で鋼板23は熱処理工程における所望の保持温度まで加熱された後、第二の鋼板巻取部16’でコイル状に巻き取られ、所定の温度状態となったコイル17となる。
このコイル17は図2に示す場合と同様に保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。次いで、コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて、コイル状態のまま或いは必要に応じて図2に示すような後処理を施したり、所定長さで適宜切断したりして、納入品としての溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板製品となる。
上記の各実施形態は例示に過ぎず、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は適宜の設備にて製造することができる。また、上記各実施形態では熱処理工程における熱処理をコイル17の状態で行っているが、勿論、鋼板23を切断して切り板状で熱処理を施しても良い。
以下、本発明を、実施例に基づき詳述する。
(試験1)
図1に示す連続めっき設備(但し、形状矯正装置12、塗布ロール13及び乾燥炉14は設けていない)を用い、種々の板厚、鋼板組成を有する幅1000mmの長尺帯状の鋼板に対してめっき被膜を形成して、溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を得た。
めっき浴としては、アルミニウムを55質量%又は65質量%、ケイ素1.8質量%、その他鉄等の若干の不純物を含み、残部が亜鉛からなるものを用いた。また、鋼板のめっき浴への浸入温度を560〜600℃、浴温を600〜610℃、めっき付着量を両面で150g/m2となるようにした。
得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板について、スパングル径の測定と折り曲げ評価とを行った。
スパングル径の測定にあたっては、まず得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の平坦部分を直径50mm以内で六角形又は八角形のサンプルを切りだし、これを治具に対して両面粘着テープにて貼り付け、自動研磨器にてめっき被膜の表面を鏡面に研磨した。次いで、フッ素と硝酸混合エッチング液にて2〜3秒間処理することにより結晶粒界を明確にした。続いて、処理面上に任意に長さ30mmの直線を設定し、100倍の金属顕微鏡で観察して前記直線が横切る粒界数Nを計数した。そして、スパングル径を30/Nの値とした。尚、前記直線は5本以上設定して各直線につきスパングル径を求め、その平均値にて評価した。
また、折り曲げ評価にあたっては、得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に対して曲げ角度180°で0T曲げ加工を施した後、曲げ加工部のクラックを実体顕微鏡で観察し、ホウ素を含有しない鋼板を用いた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を基準として、下記の評価基準にて評価を行った。
◎:ホウ素を含有しない鋼板の場合と較べて、極めてクラック発生が少なく、あるいはクラック発生が認められない
○:ホウ素を含有しない鋼板の場合と較べて、クラック発生が少ない
×:ホウ素を含有しない鋼板の場合と同程度のクラックが発生した
以上の結果を下記表1,2に示す。
Figure 0004820070
Figure 0004820070
また、実施例14についてのめっき被膜の表面拡大画像を図8(a)(b)に、比較例6についてのめっき被膜の表面拡大画像を図8(c)(d)に示す。図8(a)(c)は5.1倍顕微鏡写真の画像であり、図8(b)(d)は10.8倍顕微鏡写真の画像である。実施例14の方が比較例6と比べて、遙かにスパングル径が小さくなっていることが確認される。
また、実施例14についての折り曲げ試験後の折り曲げ部の20.8倍顕微鏡写真の画像を図9(a)に、比較例5についての折り曲げ試験後の折り曲げ部の20.8倍顕微鏡写真の画像を図9(b)にそれぞれ示す。比較例5では幅広で長さが長く、且つ深いクラックが多数発生しているのに対して、実施例14ではクラックは発生しているものの、幅狭で長さが短く、且つ浅いものであった。
以上の結果から明らかなように、ホウ素又はバナジウムを含有する鋼板を用いて作製された溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、スパングル径が小さくなり、且つ加工性が良好なものとなった。
(試験2)
上記試験1における実施例7及び比較例5と同一の条件で作製した溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を、平面視300mm×200mmの寸法に切断し、電気炉を用いて、温度条件及び加熱時間を種々変更して熱処理を施した。
得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に対して0T折り曲げを施した後、その折り曲げ部分を樹脂に埋め込み研磨し、次いでこの折り曲げ部分の124倍の顕微鏡写真を撮影した。この顕微鏡写真を観察し、折り曲げ部分の表面に生じためっき被膜のクラックにおける、このクラックが下地鋼板に達して下地鋼板が露出している部分の長さを測定し、その長さを、折り曲げ部分の全長に対する割合で評価した。尚、一種類の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板について5個以上のサンプルを用意して試験を行い、各サンプルの平均にて評価を行った。その結果を表3に示す。表中の各欄の上段は比較例5についての結果を示し、下段は実施例7についての結果を示す。
表中に示される評価の評価基準は下記の通りである。
◎:折り曲げ部分のクラック13%未満
○:折り曲げ部分のクラック21%未満
×:折り曲げ部分のクラック21%以上
尚、上記の熱処理を施さなかった場合は、実施例7でのクラックは20.5%(評価○)、比較例5でのクラックは27.2%(評価×)であった。
Figure 0004820070
また、実施例7について、熱処理を施さない場合の折り曲げ部分の断面の124倍顕微鏡写真を図10(a)に、200℃、1時間の条件で熱処理を施した場合の124倍顕微鏡写真を図10(b)に、115℃、5時間の条件で熱処理を施した場合の折り曲げ部分の断面の124倍顕微鏡写真を図10(c)に、それぞれ示す。熱処理により、めっき被膜のクラック発生が著しく低減されることが確認できる。
以上の結果から明らかなように、ホウ素を含有する鋼板を用いて作製された実施例7における溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板と、ホウ素を含有しない鋼板を用いて作製された比較例5における溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板では、同一条件で熱処理を施しても、実施例7の方が遙かにめっき被膜の耐クラック性に優れるものであった。
また、表中の太線で囲まれた部分は、保持温度tが80〜235℃の範囲であり、且つ保持時間が0.6×{100/(t−50)}3(時間)以上の条件で熱処理を施したものであり、この範囲において、実施例7では評価が◎となって特に優れた耐クラック性が得られた。
(試験3)
上記試験1における実施例7と同一の条件で作製した溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を、平面視300mm×200mmの寸法に切断した。これを電気炉を用いて、保持温度を100℃、130℃、200℃、220℃とすると共に加熱時間を種々変更して熱処理を施した。
得られた溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に対して、JIS Z−2371に準拠して塩水噴霧試験(SST)を行い、赤錆発生までの時間を測定した。その結果を図7に示す。
この結果から明らかなように、各保持温度において、保持時間が400時間までの領域、特に200時間までの領域では、優れた耐蝕性が得られたが、400℃を超えると耐蝕性が低下する傾向がみられた。
(試験4)
上記試験1における実施例7及び比較例5と同一条件で作製した溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を平面視300×200mmの寸法に切断してサンプルを得た。
また、同様に上記試験1における実施例7及び比較例5と同一条件で作製した溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を平面視300×200mmの寸法に切断したものに対して、電気炉で200℃で1時間熱処理してサンプルを得た。
得られたサンプルは次の四種である。
(1)実施例7と同一のめっき鋼板
(2)実施例7のめっき鋼板を200℃で1時間熱処理しためっき鋼板
(3)比較例5のめっき鋼板
(4)比較例5のめっき鋼板を200℃で1時間熱処理しためっき鋼板
これら四種類のサンプルをそれぞれ60℃のオルソケイ酸ソーダ3%水溶液を用いて脱脂した後、塗布型クロメート処理を施して、Cr付着量が40mg/m2のクロメート被膜を形成した。次いで下塗り塗料としてポリエステル樹脂系塗料を乾燥重量が6g/m2となるように塗布し、炉温210℃の乾燥炉で43秒間焼き付けた。さらに、上塗り塗料として高分子ポリエステル樹脂塗料を乾燥重量34g/m2になるように塗装し、炉温235℃の乾燥炉で54秒間焼きつけることで、各サンプルにつき塗装めっき鋼板を得た。
これらの塗装めっき鋼板に対して、該塗装めっき鋼板と同一厚みの板を挟んで180℃折り曲げ試験を実施し、その折り曲げ加工部を10倍のルーペにて観察してクラックの生じない最小の板挟み枚数にて曲げ加工性を評価した。この結果を表4に示す。
また、これらの塗装めっき鋼板に対して、板挟み枚数二枚(2T)で折り曲げ、JIS Z−2371に準拠して塩水噴霧試験を1000時間行い、平面部及び曲げ加工部の白錆発生割合を目視で評価した。尚、試験片の切断部は塗料にてシールした状態で試験に供した。この結果も併せて表4に示す。
Figure 0004820070
(試験5)
上記試験1における実施例7及び比較例5と同一の条件で作製した10Tの溶融アルミニウム−亜鉛めっき鋼板のコイルをそれぞれ2本づつ、合計4本用意した。尚、板幅は1000mm、板厚は0.35mmである。
これらのコイルを、図5に示す誘導加熱装置を有する加熱工程にそれぞれ通し、115℃の板温(コイル温度)で巻き取った。この加熱された各コイルをそれぞれ図6に示すような保温箱に入れ、130℃で5時間保温した。尚、各コイルには、重なり合った鋼板の間に熱電対を挿入し、この熱電対からリード線を本箱外に引き出して記録計に接続してこの記録計にてコイル温度をモニターした。そして、コイル温度が115℃を下回った場合に保温箱の排気ガス挿入口31から灯油バーナーによる加熱空気(排ガス)を保温箱内に挿入した。これにより、コイルを115±5℃の温度に保持した。
このような熱処理後の各コイルから試験片を切りだし、試験1の場合と同一の試験方法にて評価した。この結果を表5に示す。
Figure 0004820070
従来技術及び本発明の実施の形態の一例を示す溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の説明図である。 本発明の実施の形態の他例を示す溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の説明図である。 本発明の実施の形態の他例を示す溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の説明図である。 本発明の実施の形態の他例を示す溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の説明図である。 本発明の実施の形態の他例を示す溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造工程の説明図である。 保温箱の一例を示す概略の斜視図である。 試験3における試験結果を示すグラフである。 (a)は実施例14のめっき被膜の5.1倍顕微鏡写真を、(b)は実施例14のめっき被膜の10.8倍顕微鏡写真を、(c)は比較例6のめっき被膜の5.1倍顕微鏡写真を、(d)は比較例6のめっき被膜の10.8倍顕微鏡写真を、それぞれ示す。 (a)は実施例14についての折り曲げ試験後の折り曲げ部の20.8倍顕微鏡写真の画像を、(b)は比較例5についての折り曲げ試験後の折り曲げ部の20.8倍顕微鏡写真の画像を、それぞれ示す。 (a)は実施例7について、熱処理を施さない場合の折り曲げ試験後の場合の折り曲げ部分の断面の124倍顕微鏡写真を、(b)は実施例7について、200℃、1時間の条件で熱処理を施した場合の折り曲げ試験後の場合の折り曲げ部分の断面の124倍顕微鏡写真を、(c)は実施例7について、115℃、5時間の条件で熱処理を施した場合の折り曲げ試験後の場合の折り曲げ部分の断面の124倍顕微鏡写真を、それぞれ示す。

Claims (6)

  1. アルミニウム含有量が20〜95質量%である溶融アルミニウム−亜鉛合金のめっき浴と鋼板とを接触させてめっき被膜を前記鋼板に形成するめっき工程を含む溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法において、前記鋼板がホウ素とバナジウムとのうち少なくとも一方を含有し、前記鋼板中のホウ素及びバナジウムの含有量の総量が、0.0009〜0.0080質量%の範囲であり、前記めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を80〜235℃の温度範囲で、少なくとも下記式で示される時間保持する熱処理工程を含むことを特徴とする溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
    0.6×{100/(t−50)} (時間)
    (t:熱処理工程における最低保持温度)
  2. 上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を冷却する冷却工程を有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において80〜235℃の温度範囲に冷却し、次いで熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
  3. 上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を冷却する冷却工程と、冷却工程にて冷却された鋼板を加熱する加熱工程とを有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、冷却工程において冷却し、次いで加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
  4. 上記めっき工程と熱処理工程との間に、めっき工程後のめっき被膜が設けられた鋼板を加熱する加熱工程を有し、長尺な鋼板を搬送しながらめっき工程において連続めっき処理を施した後、コイル状に巻き取り、このコイルから鋼板を繰り出しながら加熱工程において80〜235℃の温度範囲に加熱した後、熱処理工程において保温室又は保温箱内でコイル状又は切り板状で熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
  5. 上記加熱工程において、めっき被膜が設けられた鋼板を誘導加熱装置あるいは連続加熱炉を用いて加熱することを特徴とする請求項3又は4に記載の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
  6. 上記熱処理工程において、めっき被膜が設けられた鋼板の加熱を燃焼排ガスにて行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の製造方法。
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