JP3742596B2 - 溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板に関し、加工性、耐蝕性さらには加工部耐蝕性に優れた溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
特公昭46−7161号公報に記載されているように、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、メッキ被膜中に含まれるAlが20重量%以上となると、通常の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板(メッキ被膜中のAlが20重量%未満のもの)と比較して、耐蝕性に優れたものとなる。このような性質に着目して、メッキ被膜中のAlが20重量%以上の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、近年では、屋根や壁等を中心とする建材の材料として、需要が急速に伸びている。
【0003】
一般に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、熱間圧延し、さらに酸洗脱スケールした熱延鋼板を、又はさらに冷間圧延した冷延鋼板を、例えば図6に示す連続式の溶融亜鉛メッキ設備に挿入し、以下のような工程で製造される。ここでは、上記いずれかの圧延によって帯状になった鋼板を溶融亜鉛メッキする場合について説明する。
【0004】
図6に示す従来の溶融亜鉛メッキ設備は、上流側から、コイル状に巻かれた鋼板を送り出すための鋼板給送部1と、鋼板の端部同士を溶接、機械的接続等により接続するための鋼板接続機2と、鋼板接続機2による接続作業時間を確保するための入り側ルーパー3と、鋼板を加熱する無酸化炉等の加熱炉4と、還元性雰囲気に保持され鋼板を焼鈍する焼鈍炉及び冷却帯5と、焼鈍炉及び冷却帯5と連設され下端側がメッキ浴に浸漬されたスナウト6と、AlとSiを所定量含んだ溶融亜鉛メッキ浴9を有するポット7と、ポット7内に配置されたシンクロール8と、ポット7の後段に配置され空気や窒素ガス等を噴射する噴射ノズル10と、鋼帯を冷却するための鋼帯冷却帯11と、スキンパスミルやレベラー等を有する形状矯正装置12と、形状矯正装置12の後段に配置された表面処理装置としての塗布ロール13及び乾燥炉14と、鋼板をコイル状に巻き取る鋼板巻取部16と、鋼板巻取部16からコイル状の鋼板を取り出す作業時間を確保するための出側ルーパー15と、を備えている。
【0005】
一般に、このような溶融亜鉛メッキ設備では、メッキする鋼板として厚さ0.2〜2.0mmの帯状の冷延鋼板や熱延鋼板が用いられ、この鋼板は、予めコイル状に巻かれて鋼板給送部1に取り付けられる。そして、設備稼動時には、鋼板給送部1から鋼板接続機2に送り出される際に鋼板の巻きが解かれ、この鋼板の先端部が鋼板接続機2により先行する鋼板の後端部と接続されることにより鋼帯23となり、連続して加熱炉4等に供給される。
【0006】
溶融亜鉛メッキ設備では、加熱炉4等の後工程で鋼帯23を一定速度で通過させることから、鋼板接続機2と加熱炉4との間に配置された入り側ルーパー3を鋼帯23が通過することで、鋼板接続機2での鋼板接続処理時に生じた鋼板供給のロスが補償される。
【0007】
続いて、鋼帯23は、加熱炉4で加熱された後に、還元性雰囲気の焼鈍炉及び冷却帯5に搬送される。鋼帯23は、この焼鈍炉及び冷却帯5内で、焼き鈍しと同時に、溶融亜鉛メッキし易くするための表面の清浄化の処理、具体的には、表面に付着する圧延油等の除去や、酸化膜の還元除去の処理が行われることになる。
【0008】
そして、鋼帯23は、焼鈍炉及び冷却帯5と同一の還元性雰囲気とされたスナウト6を通過してポット7に入ることで、ポット7内の溶融亜鉛メッキ浴9に浸漬され、さらにシンクロール8で搬送方向を転換されて、溶融亜鉛メッキ浴9の上方に引き上げられて外気に触れる。この際に、鋼帯23は、後段の噴射ノズル10によって加圧した気体が噴射されることによって、表面に付着した溶融亜鉛のメッキ量が調整され、所定厚のメッキ被膜となる。
【0009】
次に、鋼帯23は、後段の鋼帯冷却帯11でほぼ常温まで冷却されて、さらに後段の形状矯正装置12によって形状やメッキ表面性状などが矯正される。鋼帯冷却帯11は、一般に空冷であるが、圧送空気による強制空冷もある。
【0010】
溶融亜鉛メッキ設備では、一般に、形状矯正装置12の後段に簡単な表面処理装置が設置されている場合が多く、この例では、塗布ロール13と乾燥炉14が表面処理装置として設けられている。ここで、塗布ロール13は、鋼帯23にクロメートや塗料を塗布する塗布装置として機能する。また、乾燥炉14は、鋼帯23を加熱して、鋼帯23上のクロメートや塗料を乾燥させるための加熱乾燥装置として機能する。
【0011】
なお、プレコートメタル等の原板を製造するための溶融亜鉛メッキ設備では、プレコートメタル製造設備に優れた前処理装置や塗装装置があるため、このような表面処理設備は用いられないことが多い。
【0012】
そして、鋼帯23は、出側ルーパー15を通って、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、所定長さで適宜切断される等により、納入品としての溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品となる。
【0013】
このように各工程を経て製造された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品は、Alを20〜95重量%含有するメッキ層とされることにより、特徴的な被膜構造となり、耐蝕性に優れたものとなる。具体的には、Alを20〜95重量%含有することにより、メッキ層は、Znを過飽和に含有しAlが凝固したデンドライト部分と、残りのZnを主体とするデンドライト間隙部分と、からなる被膜構造となり、優れた耐蝕性を示す。
【0014】
また、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品のメッキ層にSiを1〜2重量%含ませることにより、メッキ被膜と下地鋼板との界面における合金層の成長を抑制するという優れた性質を示すようになり、合金層の厚さが1〜2μm程度に抑えられるメリットがある。すなわち、このような合金層は、一般に、合金層を除くメッキ被膜部分よりも硬く、曲げ等の加工時にクラック起点として働くので、成長するとメッキ鋼板製品全体の加工性の低下を招くことになり、その厚みを出来るだけ抑える必要がある。さらに、合金層が薄ければ相対的に上述のデンドライト組織のある特徴的な部分が多くなるので、合金層の成長が抑制されれば、耐蝕性向上にも寄与することになる。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品は、折り曲げ等の加工を行うと、加工の程度によっては外折り側のメッキ被膜にクラックを生じるが、メッキ被膜中にAlを20〜95重量%含有する上述の製品と、メッキ被膜中のAlが20重量%未満の一般の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板とを同一条件で曲げ加工した場合に、前者のクラックの程度が後者と比較して非常に悪い、という問題点があった。
【0016】
具体的には、Alを20〜95重量%含有する溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品(以下、多Al含有鋼板製品とも言う。)と、これと同一のメッキ量(メッキ厚さ)及び板厚とし、メッキ被膜におけるAlが20重量%未満の溶融亜鉛メッキ鋼板製品(以下、通常鋼板製品とも言う。)とで、それぞれ同一条件下で折り曲げ加工を行った場合には、多Al含有鋼板製品は、通常鋼板製品に比べてクラックが大きく開口する傾向がある。
【0017】
このため、通常鋼板製品では、錆発生までの時間、すなわち錆の発生しやすさが、平面部と被加工部(折り曲げ部)とであまり変わらないのに対して、多Al含有鋼板製品では、平面部と比較して被加工部における錆の発生しやすさが、著しく高かった。
【0018】
さらに、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品は、プレコートメタル(PCM)の塗装下地鋼板としても大量に使用されており、このような場合にはメッキ層でクラックが発生すると塗膜のクラック発生につながり、塗膜にクラックが発生すると、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板自体の耐蝕性が著しく損われるため、曲げ等の加工時においてクラックを発生させないようにすることが極めて重要な課題となる。
【0019】
しかしながら、PCM用の塗装としてはポリエステル樹脂塗料が一般に用いられていることから、以下のような問題が発生していた。すなわち、ポリエステル樹脂塗膜は、伸びが比較的少ない性質を有することから、メッキ層の上にポリエステル樹脂塗膜が形成された溶融亜鉛メッキ鋼板製品に対して曲げ加工を行い、この際にメッキ層でクラックが発生すると、塗膜の伸びが追従できずに破断してしまい、塗膜にもクラックを生じてしまう問題点があった。また、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品のメッキ層に対して塗膜の伸びが比較的大きい高分子ポリエステル樹脂塗料を塗布した場合でも、クラック発生の程度は小さくなるものの、多くの場合は塗膜にもクラックが発生していた。従って、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品は、PCMの塗装下地鋼板として用いる場合には、塗膜形成後の高加工成形が出来ず、高加工成形後に塗膜形成を行う必要がある等の問題点を有していた。
【0020】
このように、Alを20〜95重量%含有する溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、平面部の耐蝕性については優れているが、加工成形の際に加工部にクラックを生じ、このクラック部分の耐蝕性が劣るために、高加工できないという欠点を有しており、PCMの塗装下地鋼板として用いる場合にも同様の問題を有していた。
【0021】
なお、加工部でのクラック発生を防止するための従来技術としては、例えばメッキ付着量を低減させる方法(特開平5−271895号公報)、メッキ付着量と表面粗さを制御する方法(特開平11−343560号公報)、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を固液共存温度域(500〜580℃)に再加熱し1〜120秒の保熱処理あるいは冷却速度10℃/秒以下で5〜120秒徐冷処理を行う方法(特開平11−343555号公報)、メッキ後の製品に対して93℃から427℃の温度範囲で熱処理を施す方法(特開昭56−87654号公報)等が提案されている。
【0022】
本願発明者らは、Alを20〜95重量%含有する溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品において曲げ加工時のクラック発生阻止という点での加工性の改善を得るために、上記各種方法を参考として種々の実験等を行った結果、以下のような知見を得るに至った。
【0023】
上述の問題を解決するため、例えば上記の特開平5−271895号公報に記載の如く、メッキ付着量を低減させる方法を用いると、メッキ量が低く抑えられてしまうために、Alの重量%が高いにもかかわらず、曲げ等の加工以前の状態において既に十分な耐蝕性が得られなくなってしまう結果となった。また、特開平11−343555号公報に記載の如く、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を固液共存温度域(500〜580℃)に再加熱して、1〜120秒間の保熱処理を行うこと、あるいは、冷却速度10℃/秒以下で5〜120秒間の徐冷処理を行った場合には、曲げ加工時におけるクラック発生を阻止するものでなく、いわばクラックの発生形態を変えるものであって、0T等の厳しい曲げ加工時に対応できるものではなかった。
【0024】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、Alを20〜95重量%含有する溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板において曲げ加工時のクラック発生阻止という点での加工性の改善を得るためには、メッキ後の鋼板に対して所定条件下での熱処理を行った場合に、メッキ層全体が軟質化し伸びが増大する効果を得られることを見い出し、詳しく検討を加えた。なお、熱処理を行うこと及び熱処理時における処理温度範囲及び処理時間については特開昭56−87654号公報に記載があるが、本願発明者らは、この処理温度範囲及び処理時間を見直して最適化すると共に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の有効な工業的製造方法を案出するに至った。
【0025】
本発明の目的は、曲げ等の加工性及び被加工部の耐蝕性に優れた溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、本発明の第1の構成は、Al:20〜95重量%を含む溶融亜鉛メッキ浴に鋼板を接して一定量のメッキを該鋼板に付着させるメッキ工程を具備する、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法であって、メッキ工程後の冷却過程途中で、高温のまま溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を保温箱及び/又は保温室内に入れて溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の温度tと保温箱及び/又は保温室内に入れている時間hとの関係について下記(1)式を少なくとも1回は満足する状態とする。
【0027】
【数3】
但し、t:130℃から100℃間の鋼板温度 h:400時間以下
【0028】
上述の課題を解決するため、本発明の第2の構成は、Al:20〜95重量%を含む溶融亜鉛メッキ浴に鋼板を接して、一定量のメッキを該鋼板に付着させるメッキ工程を具備する、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法であって、メッキ工程後の冷却過程で冷却した溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板又は該鋼板コイルを鋼帯状で加熱する加熱工程を備え、該加熱工程後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を切り板状あるいはコイル状で保温箱及び/又は保温室に入れて溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の温度tと保温箱及び/又は保温室に入れている時間hとの関係について下記(1)式を少なくとも1回は満足する状態とする。
【0029】
【数4】
但し、t:130℃から100℃間の鋼板温度 h:400時間以下
【0030】
本発明の第3の構成は、第1又は第2の構成において、保温箱あるいは保温室に、燃焼排ガスを導入して溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を保温することを特徴とする。
【0031】
本発明の第4の構成は、第2の構成における加熱工程を、誘導加熱装置又は連続加熱炉を用いて加熱する工程とすることを特徴とする。
【0032】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
本願発明者らは、Al:55重量%、Si:1.5重量%、残部Znからなる溶融亜鉛メッキ浴で図6で説明した従来の連続式溶融亜鉛設備でメッキした溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板(以下、Al:55%溶融亜鉛メッキ鋼板という。)に種々の熱処理を施して、その鋼板の加工性についての試験を行い、表1の結果を得た。
【0034】
但し、Al:55%溶融亜鉛メッキ鋼板として、板厚:0.4mm、メッキ付着量(両面):150g/m2とし、200mm×300mmに切断したもの(以下、試験片という。)を用いた。各試験片につき、熱処理を行うものについては、一定温度に設定した電気炉に入れて所定時間保持した。加工性の試験については、曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察し、熱処理なしの試験片と対比して、◎,○,△,×,での四段階評価を行った。
【0035】
◎:熱処理なしの試験片に比べて極めてクラック発生が少なく、ほぼクラックなしに近いもの
○:熱処理なしの試験片に比べてクラック発生の少ないもの
△:熱処理なしの試験片に比べてクラック発生が僅かに改善されたもの
×:熱処理なしの試験片のクラック発生程度と同等のもの
【0036】
【表1】
【0037】
表1から分かるように、この実験結果では、235℃から80℃の範囲である時間以上保持するとメッキ鋼板のクラック発生が改善された。表1の中にメッキ鋼板の加工時のクラックの発生が改善される範囲(△以上の評価が得られた試験片)を太線で囲った。この太線で囲まれた温度範囲では、熱処理時間が長くなるほどクラック発生改善効果が良好になる、という結果が得られた。
【0038】
また、この実験結果では、▲1▼熱処理時の設定温度を250℃以上とすると、保持時間に関わりなく加工時のクラック発生の改善効果が得られなくなること、及び、▲2▼設定温度が235℃以下の場合には、温度が低くなるほど加工時のクラック発生改善効果を奏する試験片を得るためには長い熱処理時間が必要となること、が明らかになった。本願発明者らは、▲2▼の結果について、温度と加工時のクラック発生改善に必要な熱処理時間の関係を求め、次の実験式を得た。
【0039】
【数5】
【0040】
変数は下記の通りである。
t:235℃から80℃までの任意の摂氏温度
h:t℃で保持されたメッキ鋼板の加工時のクラックが改善されるまでの時間(hr)
【0041】
この実験式(1)によれば、例えば、180℃で熱処理するとすれば、0.73時間(44分)以上の熱処理時間が必要であることが導かれる。なお、変数tの上限を235℃とするのは、表1から分かるように、235℃を超えた温度での熱処理では加工時のクラック発生の改善が認められないためである。一方、変数tの下限を80℃とするのは、80℃未満の温度での熱処理では必要な熱処理時間が極端に長くなってしまい、実用性がないためである。
【0042】
後述の実施例でも言及するが、本願発明者らは、種々の実験を行った結果、加工時のクラック発生の改善効果を備えた溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を得るためには、熱処理時において、この温度範囲すなわち235℃から80℃の温度範囲をどのように通過(冷却又は加熱)させるか或いは保持させるかが重要であるという知見を得た。
【0043】
具体的には、熱処理時においては、一定温度、例えば220℃一定で15分以上保持する必要はなく、220℃で7分、200℃で7分、180℃で50分保持しても良い。この場合には、180℃以上235℃以下の状態が64分保持されたので、上述の四段階評価において○の結果が得られる。
【0044】
すなわち、235℃〜80℃の範囲内でのある任意の温度をt℃とするとき、235℃からt℃の温度範囲にある時間がt℃でクラック発生改善に必要な時間以上であれば良く、さらには、このような温度:tが1回以上あれば良い。前述した例の場合、180℃で44分の熱処理を行った後に、急冷してもクラック発生は改善される。但し、後述のように、235℃を超えた温度にメッキ鋼板を加熱すると、クラック発生改善効果はリセットされてしまう。
【0045】
最も好ましい熱処理時間は、表1に示すように、220℃で1時間以上、200℃で1時間以上、180℃で2時間以上、165℃で5時間以上、150℃で10時間以上、130℃で24時間以上、100℃で96時間以上保持する(熱処理する)と、極めて優れた特性を示すことが分かる。
【0046】
本願発明者らは、400℃で熱処理してもクラック発生が改善されなかったメッキ鋼板をさらに200℃で30分以上保持してみたところ、クラックの発生は少なくなり、上述の四段階評価で○の結果が得られた。
【0047】
このことから、メッキ鋼板の前歴に関わりなく235℃〜80℃間の温度で保持される時間でクラック発生の大小が決まるということを見い出した。
【0048】
さらに、本願発明者らは、200℃で2時間保持されて、クラック発生が著しく改善されたメッキ鋼板を400℃で2時間保持してみたところ、クラック発生の程度は熱処理なしのメッキ鋼板と変わりなかった。すなわち、235℃超の熱処理では熱処理によるメッキ層の軟質化はリセットされてしまう。このことから、235℃以上に加熱されたメッキ鋼板は、235℃を過ぎて低温側になった時点から一定の時間が保持されなければならないことが分かる。このように、本願発明者らの実験結果では、Al:55%溶融亜鉛メッキ鋼板の熱処理の最終過程において235℃〜80℃をいかに通過したかで、加工部のクラック発生程度が決定されることが分かった。
さらに、本発明では、(1)式におけるtを130℃から100℃間の鋼板温度とし、hを400時間以下とするものである。
【0049】
さらに、本願発明者らは、Al:55%溶融亜鉛メッキ鋼板を200℃で各時間熱処理し、研磨用樹脂に埋め込んで研磨した後に、メッキ層断面をマイクロビッカース硬度計で測定したところ、熱処理時間の経過と共にメッキ層の硬度が下がる(すなわちメッキ層が柔らかくなる)現象が起きることを確認した。
【0050】
この現象が起きる理由について、本願発明者らは次のように理解した。一般に、微細析出粒子はメッキ層内転位の移動を妨げてメッキ層を硬くする性質があるのに対して、粗大析出粒子はその効力が小さくメッキ層を柔らかくする性質がある。このことから、メッキ層中、Alの多いデンドライト組織中に微細粒子として相分離して析出したZnは、本発明の熱処理が行われると、熱処理時間の経過と共に粗大粒子に成長(オストワルド成長)するために、メッキ層の硬度が下がるものと考えた。
【0051】
さらに、発明者らは、塗装下地鋼板を想定して、Al:55%溶融亜鉛メッキ鋼板に対して、一般ポリエステル樹脂塗装及び高分子ポリエステル樹脂塗装を行った。すなわち、これらの熱処理したAl:55%溶融亜鉛メッキ鋼板と熱処理なしのAl:55%溶融亜鉛メッキ鋼板をオルソ珪酸ソーダを主体とする脱脂剤で脱脂し、塗布型クロメート処理し、塗装した。塗装は、一般ポリエステル樹脂及び高分子ポリエステル樹脂で2コート、2ベーク方式とした。
【0052】
そして、このように塗装を行ったAl:55%溶融亜鉛メッキ鋼板に対して、曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察して加工性の試験を行い、熱処理なしの材料と対比し、ほぼ表1と同様の結果を得た。従って、この結果から、本発明の熱処理が行われたAl:55%溶融亜鉛メッキ鋼板は、プレコートメタル(PCM)用の原板とした場合でも、加工部の耐蝕性が優れていることが明らかになった。
【0053】
本発明の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、メッキ被膜中にAlを20〜95重量%含有されるもので、55%Al−Zn合金メッキ鋼板に代表されるメッキ鋼板である。この溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板のメッキ被膜中には、通常は、Al,Zn以外にSiが含まれ、また、これ以外に、Fe,Ti,Sr,V,Cr,Mg,Mn等の1種類以上、及び不可避的不純物が含まれる。
【0054】
前述したように、メッキ層の軟化はAlの多いデンドライト組織の軟質化であるから、その軟質の程度はAlの多いデンドライト組織のメッキ層中の量で左右され、該デンドライト組織の多い程効果は大きい。なお、Zn−Al状態図で明らかなように、Alの多いデンドライト組織はメッキ層中のAl含有量に比例する。
【0055】
また、一般に溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板のメッキ被膜中にはSiが1〜2重量%添加されるが、これはSiの働きによってメッキ被膜/下地鋼板界面の合金層を1〜2μmの厚さに抑えるためである。すなわち、一般にメッキ被膜/下地鋼板界面の合金層は硬いため、Siを1〜2重量%含有させることによって、この合金層の厚さが抑えられることにより、加工時に合金層がクラックの起点となることによるクラック発生を減少し、加工性向上に効果をもたらす。また、クラック部は、下地鋼板が露出していて耐蝕性が劣るので、クラック発生を抑えることは加工部耐蝕性を向上させる効果もある。さらに、Siを1〜2重量%含有させることによって、優れた耐蝕性を示すAlを多く含むデンドライト構造を骨格とした被膜組織を多くして、耐蝕性の向上をもたらす。
【0056】
本発明の熱処理を施すための熱源には、大きく分けて、通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備による熱源を利用する場合と、連続式加熱炉や誘導加熱装置などの新たな熱源を追加する場合、という2つの形態がある。前者の場合は、通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備でメッキ浴に浸漬させた高温のメッキ鋼板自体の熱を保持及び制御する方法が考えられ、後者の場合は、一旦冷却したメッキ鋼板を鋼帯状として、連続式加熱炉や誘導加熱装置を用いて再加熱する方法が考えられる。
【0057】
しかしながら、いずれの方法でも、たとえ高温のメッキ鋼板が得られても、メッキ鋼板を鋼帯状としたままで長時間の高温保持を行うことは容易でない。また、通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備に連続式加熱炉を追加しようとすると、設備が大きくなり過ぎて工業的実現が困難である。
【0058】
発明者らは種々の検討を加えた結果、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板について長時間の高温保持を図るためには、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を鋼帯状とするのではなく、コイル状に巻き取った状態あるいは切り板状に切断し各切り板を積層した状態とすること、さらには、このような状態の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を保温箱及び/又は保温室を用いて保温することが、設備面及び作業面で簡易であり、かつ、熱効率が良いことを見い出した。
【0059】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図6で上述した通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備を適宜参照して説明する。
【0060】
本発明の具体的な実施形態としては、連続式溶融亜鉛メッキ設備にて、鋼板(鋼帯23)をメッキ浴9に浸漬させた後、メッキ浴9の上方に引き上げ、次いでメッキ浴9の上方に配置された噴射ノズル10から鋼帯23に向かって加圧した気体を噴射してメッキ量を調整し、Al:20〜95重量%及びSi:1.0〜2.0重量%となった高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板とする。そして、この溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を、高温の状態のままで、コイル状に巻き取るか切り板状に切断した後に保温箱あるいは保温室に入れて、上述した温度範囲での熱処理を施すことで実現可能である。この場合には、通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備に保温箱あるいは保温室を導入するだけで良いため、設備面での低コスト化が図られる。
【0061】
このような設備の構成例については、図2を参照して第1の実施の形態として後述する。
【0062】
なお、上述したように、連続式溶融亜鉛メッキ設備には、クロメートや塗料の塗布装置(塗布ロール13)とその加熱乾燥装置(乾燥炉14)等が設置されている場合が多い。この場合には、メッキ鋼板は、塗布装置の前段で一次冷却された後に、加熱乾燥装置で再度加熱されて、一般には80℃未満の温度でコイル状に巻き取られることになる。
【0063】
従って、これら各装置を有する設備の場合には、加熱乾燥装置によって本発明の温度範囲である130℃〜100℃までメッキ鋼板の温度を上昇させて、コイル状に巻き取るか、切り板状としてから、保温箱あるいは保温室で保温すれば良い。この場合には、保温箱あるいは保温室を導入すること、及び加熱乾燥装置の加熱温度を強化することで実現可能であり、加熱乾燥装置の加熱温度を強化すること自体は比較的容易である。このような設備の構成例については、図3を参照して第2の実施の形態として後述する。
【0064】
一方、連続式溶融亜鉛メッキ設備に加熱乾燥装置等(図6の塗布ロール13や乾燥炉14等)がない場合には、鋼板巻取部16の前段に何らかの加熱手段を設置すれば良い。特に、熱効率や設備スペースの面からは、誘導加熱装置が有利である。すなわち、誘導加熱装置は、加熱用コイルのみを鋼板の流れ内に設置すれば良いので、極めて小さな設置スペースで済むというメリットがある。
【0065】
また、本発明に適用する場合には、鋼板の温度が比較的低いために、鋼板の放熱を防止したり、誘導加熱装置の加熱コイルを熱保護するための保温材や断熱材等も簡単で良い。なお、誘導加熱装置は、帯状の鋼板を上昇させることができる装置であれば良く、特に新たな機能等は必要とされない。このような誘導加熱装置を備えた連続式溶融亜鉛メッキ設備によれば、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板が鋼帯状で加熱されるので、早く加熱でき、また熱効率も良い。発明者らの行った誘導加熱装置による加熱試験では、保温箱への挿入時点での電力効率は、40%にも達した。このような設備の構成例については、図4を参照して第3の実施の形態として後述する。
【0066】
さらには、連続式溶融亜鉛メッキ設備とは別の設備で、帯状のまま冷却されたAl:20〜95重量%を含む溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱しても良い。
【0067】
この場合の加熱手段としては、上述の誘導加熱装置や、或いは連続式ガス加熱設備を用いることが可能であるが、特にこれらに限定されるものでなく、鋼帯が連続して所定の温度に加熱できれば良い。すなわち、加熱手段としては、鋼帯を巻き取るか切り板にする工程の前段に設置すれば良く、特に熱効率や設備スペースの面からは、上述した誘導加熱装置が有利である。このような設備の構成例については、図5を参照して第4の実施の形態として後述する。
【0068】
一般に、鋼板を鋼帯状で加熱することは、コイル状で加熱するのに比べて加熱が均一で、早く、さらに熱効率が良いというメリットがある。すなわち、コイル状の鋼板を加熱する場合、コイルへの熱入力はコイル表面(コイルの外巻き表面、内巻き表面、鋼板エッジ)からのみであるため、鋼板重量に対して熱入力できる表面積が極めて小さい。従って、これらの熱入力部位が高温に曝されるのに反して、コイル内部は上述のコイル表面からの熱伝導に頼ることになり、コイル内部とコイル表面の温度差は大きくなる、すなわち不均一な加熱となるので、コイルの各部の熱を均熱化するには長時間を要するというデメリットが生じる。
【0069】
高温で巻き取られたコイルあるいは切り板は、高温のまま保温箱あるいは保温室(以下、保温箱/室とも言う。)で一定時間保持される。保温箱/室は、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を一定温度を保持するための保温設備であり、断熱材が装着されるのが一般的であるが、断熱材や形状について特に限定されるものでなく、コイル状あるいは切り板状の加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の温度が降下しにくい機能が備わっていれば良い。
【0070】
なお、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を切り板状として保温する場合には、切り板状部材は比較的放熱しやすくなるため、この放熱を防止するために、各切り板状部材を積層して保温箱/室に入れることが必要となる。
【0071】
このような保温箱/室は、対象となる溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板のコイルが大きくなるほど、或いは同時熱処理する切り板が多量になるほど、簡易な構成で足りるようになる。すなわち、大きなコイルや多量の切り板を同時に熱処理する場合には、メッキ鋼板全体の有する熱量が大きくなるので、温度低下が遅くなり、本発明の熱処理条件を容易に確保できる。
【0072】
ここで、大量のメッキ鋼板を同時に熱処理する場合には、保温室等の大型の設備が、熱効率上及び作業上有効である。また、温度低下を防ぐためには、保温箱/室に電熱ヒーターや燃焼バーナーを設置することが極めて有効となる。
【0073】
なお、保温箱と保温室については、一方のみを単独で用いても、或いは双方を併用しても良い。双方を併用する形態としては、例えば保温室内にさらに保温箱を配置して保温箱内にメッキ鋼板を入れること、或いは、メッキ鋼板を所定時間保温室に入れた直後又は所定時間経過後に、さらに所定時間保温箱に入れること、あるいはこの逆、などの形態が挙げられる。
【0074】
(保温箱の構成例)
発明者らが用いた保温箱の例を、図1に模式的に示す。図1に示す保温箱30は、その前後左右の側面及び天井面について、厚さ0.8mmの鉄板を内壁及び外壁として配し、両鉄板間には厚さ50mmのセラミックファイバーの断熱材が設けられ、低部が開口となった箱状の構成となっている。
【0075】
ここで、図1に示すように、保温箱30の一の側面には、燃焼ガス導入口31及びガス排出口32が形成されている。これら燃焼ガス導入口31及びガス排出口32は、開閉可能な蓋部が取り付けられており、燃焼ガスの導入がない場合には、各蓋部を閉めて当該ガスの流通を止めることが可能となる。このため、保温箱30内にはヒーター、バーナー等の加熱手段は設けなかった。
【0076】
なお、保温箱30の寸法については、幅AB及び高さACをそれぞれ2000mm、奥行きADを1500mm、燃焼ガス導入口31及びガス排出口32の径をそれぞれ280mmとした。
【0077】
メッキ鋼板コイルの熱処理の場合、工場の床には厚さ50mmのセラミックファイバーの断熱材を敷き、その上に鋼製のコイル置台(図示せず)を設置し、さらにその上に所定温度に加熱されたメッキ鋼板コイルを置いた。そして、上述した保温箱30を釣り上げ用フック33を介してクレーンで釣り上げてメッキ鋼板コイルにかぶせ、所定時間保温した。これら各作業は、極めて容易に行うことが可能である。
【0078】
なお、図1では、保温箱の一例を模式的に示すものであって、具体的な材質、形状、大きさ等についてこの例に限定されるものではない。使用される保温箱は、加熱されたメッキ鋼板コイルの温度低下を防ぐことができる箱であれば良く、容易かつ低コストで作成することが可能である。
【0079】
一方、保温室は、固定された壁、床及び天井からなり、各面には断熱材が設けられた構成とする。さらに、保温室の場合には、例えば開閉扉を設ける等により、加熱されたメッキ鋼板コイル或いは積層した切り板の搬入及び搬出ができるようになっていなければならない。
【0080】
保温室の各面に設けられる断熱材としては、一般に、例えば発泡スチロール等の有機系断熱材や、煉瓦、上述のセラミックファイバー、耐火ボード等の無機系断熱材があるが、この場合には燃焼ガスが直接触れることもあるので、有機系断熱材は不適であり、無機系断熱材を用いる必要がある。
【0081】
本発明では、目的とする保温域が比較的低いことから、保温箱/室に設ける断熱材としては、各種の煉瓦や各種の耐火ボード等を使用するのは重量と効果の面からあまり好ましくなく、セラミックファイバー等の繊維状の断熱材を用いるのが最適である。
【0082】
断熱材としてセラミックファイバーを用いた図1の保温箱30では、熱伝達係数が1.06kcal/m2・h・℃であった。これは、約6Tのメッキ鋼板コイルが180℃付近で約5℃/h下がることになり、2時間保持しても約10℃しか降下せず、保温による熱処理には十分である。保温室の場合には、使用する断熱材について、その厚さを10mm以上とし、かつ、保温室の全面に対して配置することが望ましい。
【0083】
なお、メッキ鋼板のうちの加熱されたコイル或いは積層した切り板の直接外気と接触する表面(コイルの場合には、上述の外巻き部分、内巻き部分、板巾のエッジ部分)は、温度の降下が早くなる。このため、本実施の形態ではメッキ鋼板の温度降下防止を図るために、保温箱/室内に、何らかの加熱された気体を導入することが好ましい。具体的には、保温箱/室内に、石油や天然ガス等の燃焼排ガスを導入することが極めて有効となる。すなわち、通常の生産工場では、石油や天然ガス等を燃料とする種々の加熱設備が存在しており、その排気ガスは比較的高温で、大量に排出されるので、こうした燃焼排ガスを保温箱あるいは保温室内に導入することで、排気ガスの有効利用がなされ、熱エネルギーの有効利用及びエネルギーコストの低減に大きく寄与する。
【0084】
通常の連続式溶融亜鉛メッキ設備では、鋼板の加熱炉、均熱炉が設置されており、その排気ガスは900℃程度に達する。この排気ガスは、前記加熱炉、均熱炉の燃焼用空気の予熱のために熱交換器で熱交換され最終的には温度が下がるが、それでも最終排気ガス温度として、350〜450℃はある。
【0085】
したがって、このような排気ガスを保温箱や保温室に導入すれば、熱エネルギーの有効利用及びエネルギーコストの低減につながり、極めて好ましい効果が得られる。
【0086】
さらには、内燃機関による発電装置とその排熱回収の蒸気発生装置の複合設備の場合には、例えば、出力7200KWの発電出力の設備で、160℃の水蒸気3T/Hを発生するとともに、約200℃で52000Nm3/Hの排気ガスを放出している。そして、このような約200℃以下の排気ガスの熱は、一般に工業的な回収が難しいことから低級熱源と呼ばれており、従来はそのまま排出されていた実状にある。これに対して、本発明で用いられる熱処理は、130℃〜100℃と低いため、このような低級熱源の排気ガスであっても十分利用することができ、さらには上述のような常温空気との混合処理を経なくても済むため、排気ガスを直接そのまま保温箱や保温室に導入することが可能である。
【0087】
このように、本発明では、比較的低温で熱処理がなされるため、生産工場に設置されている加熱設備の燃焼排ガスを十二分に利用できるメリットがある。
【0088】
(溶融亜鉛メッキ設備及び工程の実施形態)
次に、本発明の熱処理条件により溶融亜鉛メッキ鋼板を製造するための溶融亜鉛メッキ設備及び工程の実施形態を、図2乃至図5を参照して説明する。なお、本願発明は、以下の各設備例のみに限定されず、これら以外にも種々の設備によって実現可能である。また、図6で上述した従来例と同一機能の部分には同一符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0089】
(第1の実施の形態)
図2には、第1の実施の形態として、溶融亜鉛メッキ時の鋼板の熱を利用して熱処理する溶融亜鉛メッキ設備及び工程の例を示している。本実施の形態では、鋼板給送部1から噴射ノズル10までの工程と、形状矯正装置12以降の工程との間に上述した熱処理を行う工程を加えている。
【0090】
本実施の形態の溶融亜鉛メッキ設備は、上流側から、コイル状に巻かれた鋼板を送り出すための鋼板給送部1と、鋼板の端部同士を溶接、機械的接続等により接続するための鋼板接続機2と、鋼板接続機2による接続作業時間を確保するための入り側ルーパー3と、鋼板を加熱する無酸化炉等の加熱炉4と、還元性雰囲気に保持され鋼板を焼鈍する焼鈍炉及び冷却帯5と、焼鈍炉5と連設され下端側がメッキ浴に浸漬されたスナウト6と、AlとSiを所定量含んだ溶融亜鉛メッキ浴9を有するポット7と、ポット7内に配置されたシンクロール8と、ポット7の後段に配置され空気や窒素ガス等を噴射する噴射ノズル10とを備えている。
【0091】
すなわち、この溶融亜鉛メッキ設備は、鋼板給送部1から噴射ノズル10までは、図6に示す通常の溶融亜鉛メッキ設備と同様の構成及び製造工程となっている。そして、本実施の形態では、図6と比較して分かるように、噴射ノズル10の下流側の形状矯正装置12、塗布ロール13、及び乾燥炉14が除かれ、鋼板巻取部16の後段に設けられた構成となっている。
【0092】
この溶融亜鉛メッキ設備では、噴射ノズル10で所定のメッキ付着量に制御された溶融亜鉛メッキ鋼帯を鋼帯冷却帯11で十分に冷却させることなく、熱処理に必要な高温のままで通過させ、出側ルーパー15を通して、高温の溶融亜鉛メッキ鋼帯24は、鋼板巻取部16でコイル状に巻き取られ、高温の溶融亜鉛メッキ鋼板コイル17となる。
【0093】
続いて、この溶融亜鉛メッキ鋼板コイル17は、クレーンや台車等で移動され、上述した熱処理を行うために、保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。ここで所定時間高温に保持された後、熱処理済みの溶融亜鉛メッキ鋼板コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却される。
【0094】
さらに、溶融亜鉛メッキ鋼板コイル17は、必要に応じて、鋼板の形状の矯正や簡単表面処理が施される。この実施の形態では、図2に示すように、熱処理済みの溶融亜鉛メッキ鋼板コイル17は、第2の鋼板給送部1’から送り出され、鋼板接続機2で次々に接続されて形状矯正装置12を通過し、さらに、塗布ロール13で塗布型クロメートが塗布されて、乾燥炉14で乾燥された後、第2の鋼板巻取部16’でコイル状に巻き取られ、所定長さで適宜切断される等により、納入品としての溶融亜鉛メッキ鋼板製品となる。
【0095】
(第2の実施の形態)
図3に示す実施の形態では、通常の溶融亜鉛メッキ設備に設置されている乾燥炉で溶融亜鉛メッキ鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例である。
【0096】
本実施の形態の溶融亜鉛メッキ設備は、上流側から、鋼板給送部1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、シンクロール8及び溶融亜鉛メッキ浴9を有するポット7、噴射ノズル10、鋼帯冷却帯11、形状矯正機12、簡単な表面処理装置としての塗布ロール13及び乾燥炉14’、出側ルーパー15、及び鋼板巻取部16を備えており、図6に示す通常の溶融亜鉛メッキ設備とほぼ同様の構成及び製造工程となっている。
【0097】
但し、本実施の形態では、乾燥炉14’として、加熱能力の大きいものが用いられている。すなわち、簡単な表面処理を行うための乾燥炉は一般に加熱能力が小さいので、本実施の形態では、加熱能力の大きい乾燥炉14’を用いることにより、鋼帯の温度を上述した熱処理に必要な温度まで上昇させることが可能となる。
【0098】
従って、本実施の形態の溶融亜鉛メッキ設備では、乾燥炉14’を出て出側ルーパー15を通った高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼帯24は、鋼板巻取部16により高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17として巻き取られる。高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、クレーン、台車等で移動し保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。所定時間高温に保持された後、熱処理中の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて、コイル状態のまま或いは必要に応じて所定長さで適宜切断される等により、納入品としての溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品となる。
【0099】
(第3の実施の形態)
図4は通常の溶融亜鉛メッキ設備の鋼板巻取部16の前段に加熱設備を設置して溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例である。工程は、鋼板コイル1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、ポット7、噴射ノズル10、鋼帯冷却帯11、形状矯正機12、塗布ロール13、乾燥炉14、出側ルーパー15までは、図6で説明した通常の溶融亜鉛メッキ製造工程と同じである。
【0100】
上述のように、乾燥炉14では溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の熱処理のために必要な温度までの加熱には能力不足である場合が一般的なので、本実施の形態では、新たに誘導加熱装置等の加熱装置21を出側ルーパー15の後段かつ鋼板巻取部16の前段に設置して高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼帯24を得て、鋼板巻取部16により高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17として巻き取るようにする。
【0101】
そして、鋼板巻取部16で巻き取られた高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、クレーン、台車等で移動し保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。所定時間高温に保持された後、熱処理中の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品となる。
【0102】
(第4の実施の形態)
図5は通常の溶融亜鉛メッキ設備で溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を製造し、さらに加熱装置を有する設備で溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱して、熱処理する設備及び工程の例である。工程は鋼板コイル1、鋼板接続機2、入り側ルーパー3、加熱炉4、焼鈍炉及び冷却帯5、スナウト6、ポット7、噴射ノズル10、鋼帯冷却帯11、形状矯正機12、塗布ロール13、乾燥炉14、出側ルーパー15、鋼板巻取部16までは図6に示す通常の溶融亜鉛メッキ製造工程と同じであり、ここで低温の熱処理前の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル22を得る。本実施の形態では、この鋼板巻取部16の後段に、第2の鋼板給送部1’、鋼板接続機2、加熱装置21、第2の鋼板巻取部16’を備えた加熱設備を設ける構成とする。
【0103】
そして、熱処理前の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル22は、第2の鋼板給送部1’から送り出された後に、鋼板接続機2で次々に接続されて、誘導加熱装置等の加熱装置21で加熱されて、高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼帯24となり、第2の鋼板巻取部16’によって高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17として巻き取られる。高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、クレーン、台車等で移動し保温箱あるいは保温室18内に所定時間保持される。所定時間高温に保持された後、熱処理中の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル17は、保温箱あるいは保温室18から取り出され、冷却されて溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板製品となる。
【0104】
【実施例】
以下に、本発明者が試験し、得られた結果についての参考例を説明する。各参考例では、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板のコイル寸法、加熱条件、加熱温度(保温開始時の鋼板の温度)等について種々の値に設定し、かつ、保温箱又は保温室のいずれかを用いて保温した。
【0105】
なお、以下の参考例では、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造及び保温等について、上述した第4の実施の形態の設備を用いて実施した。
【0106】
(参考例1)
参考例1では、通常の連続式溶融メッキ設備で製造したAl:55重量%、Si:1.5重量%及び残部Znからなる溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、加熱装置21(誘導加熱装置、周波数:20kHz、定格出力:200kW)を有する連続式加熱設備に30mpmで通板して鋼帯状で加熱し、第2の鋼板巻取部16’にてコイル状に巻き取った。この溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルは、板厚:0.35mm、板巾:1000mm、メッキ付着量(両面):150g/m2の13Tonコイルとした。また、誘導加熱装置の出力は、200KWであった。さらに、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時に、鋼板の内巻き部及び外巻き部の鋼板間にシース熱電対を入れて温度を測定したところ、巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、200℃〜220℃の範囲であった。
【0107】
そして、参考1では、工場内の床面に厚さ50mmのセラミックファイバー断熱材を敷き、さらに鋼製のコイル置き台を設置し、その上に加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、図1に示す燃焼ガス導入口31及びガス排出口32を備えた保温箱30で覆った。ここで、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを保温箱30で覆うと同時に鋼板コイルの温度測定用の熱電対を記録温度計に接続し、該コイル温度を観察・記録し続けた。
【0108】
なお、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、上述のように200℃〜220℃の範囲であったが、保温箱30内での保温開始時には、内巻き部は第2の鋼板巻取部16’の巻き取りリールに抜熱されたため170℃を示し、外巻き部は218℃であった。
【0109】
本参考例では、保温にあたり、30000kcal/Hの灯油ヒーターの燃焼ガスを燃焼ガス導入口31から保温箱30内に導入した。そして、保温開始から2時間後に、灯油ヒーターの燃焼ガス導入を中止し、保温箱30の燃焼ガス導入口31及びガス排出口32を閉じた。この時の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの温度は、内巻き部が203℃、外巻き部が217℃を示した。
【0110】
続いて、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルをさらに1時間保温箱30内に保持し続け、内巻き部の温度が202℃、外巻き部の温度が208℃を示したところで保温箱30をメッキ鋼板コイルから外し、自然放冷とした。ここでは、少なくともメッキ鋼板コイル全体が170℃以上の温度で3時間以上保持し続けられたので、(1)式の条件を満足し得た。保温開始時から24時間経過後にメッキ鋼板コイルの温度を測定したところ、内巻き部が85℃、外巻き部が80℃であった。
【0111】
その後、完全に冷却した後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの内巻き部及び外巻き部からそれぞれサンプルとしての試験片(本参考品)を採取し、熱処理前の同じ材料の試験片(比較材)とで、同一条件下での曲げ加工を行って、以下の各種特性について比較した。
【0112】
(1)溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の加工性
ここでは、本参考品及び比較材について、それぞれ曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察して両者を対比し、上述した指標での評価を行った。この評価結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表2に示すように、本参考品は、熱処理なしの比較材に比べて加工部のクラック発生回避という点で極めて良好な結果が得られ、上述の熱処理に基づく著しい改善効果が得られたことが分かる。
【0115】
(2)溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の耐蝕性
これらのメッキ鋼板の平面部、OT折り曲げ部及び2T折り曲げ部についての耐蝕性を、スガ試験機株式会社の湿潤試験機(CT−3型)を用いて、50℃、相対湿度98%で1000時間試験した。この結果を表3に示す。なお、鋼板の切断端面はシールして試験に供した。
【0116】
白錆及び赤錆の評価は目視による錆面積とし、下記の評価とした。
◎:錆発生なし
○:錆発生面積〜25%未満
△:錆発生面積25%超〜50%未満
×:錆発生面積50%以上
【0117】
【表3】
【0118】
表3に示すように、本参考品は、熱処理なしの比較材に比べて加工部の耐蝕性という点においても極めて良好な結果が得られ、上述の熱処理に基づく著しい改善効果が得られたことが分かる。
【0119】
さらに、本参考品及び熱処理なしの比較材をそれぞれ脱脂し、塗布型クロメート処理を施し、Cr付着量が50mg/m2のクロメート被膜を得て、下塗り塗料としてポリエステル樹脂系塗料を乾燥重量が5g/m2になるように塗装し、炉温210℃の焼き付け乾燥炉で43秒焼き付け、さらに高分子ポリエステル系塗料を乾燥重量が34g/m2になるように塗装し、炉温235℃の焼き付け乾燥炉で54秒焼き付け、引き続き水冷して、塗装鋼板を得た。
【0120】
これらの塗装鋼板についての加工性及び加工部耐蝕性を、下記のように試験して評価した。
【0121】
(3)塗膜鋼板の加工性
これらの塗装鋼板の加工性能を下記の試験方法で評価して、表4に示す結果を得た。ここでは、本発明品及び比較材の各試験片についての180度の折り曲げを行い、その折り曲げ加工部を20倍のルーペで観察してクラックの生じていない最小の板はさみ枚数で下記のように評価した。
◎:0Tでもクラックが生じない
○:1Tまでならクラックが生じない
△:2Tまでならクラックが生じない
×:3T以上でクラックが生じてしまう
【0122】
【表4】
【0123】
表4から分かるように、塗装鋼板についても、本参考品では高加工性を有する結果が得られた。
【0124】
(4)塗装鋼板の加工部耐蝕性
これらの塗装鋼板の平面部、OT折り曲げ部及び2T折り曲げ部についての耐蝕性を調べるため、JIS Z−2371に従い塩水噴霧を行って1000時間試験した。この結果を表5に示す。なお、鋼板の切断端面はシールして試験に供した。
【0125】
白錆及び赤錆の評価は目視による錆面積とし、下記のように評価した。
◎:錆発生なし
○:錆発生面積〜25%未満
△:錆発生面積25%超〜50%未満
×:錆発生面積50%以上
さらに、膨れについては、ASTM STANDARD D714−56の評価方法に従った。
【0126】
【表5】
【0127】
表5に示すように、本参考品は、加工部における耐蝕性の点でも、比較材に比べて優れたものとなっていることが分かる。
【0128】
(参考例2)
参考例2では、通常の連続式溶融メッキ設備で製造したAl:55重量%、Si:1.5重量%及び残部Znからなる溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、インナーチューブ内で天然ガスを燃焼させて加熱する方式の連続式ガス加熱設備に30mpmで通板して鋼帯状で加熱し、第2の鋼板巻取部16’にてコイル状に巻き取った。
【0129】
本参考例での溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、板厚:0.27mm、板巾:914mm、メッキ付着量(両面):150g/m2で6Tonコイルとし、参考例1よりも板厚が薄く板巾も短いものとした。
【0130】
また、参考例1と同様に、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時に、鋼板の内巻き部及び外巻き部の鋼板間にシース熱電対を入れて温度を測定したところ、巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、210℃〜230℃の範囲であった。
【0131】
なお、参考例2では、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルについて、工場内床面に厚さ50mmのセラミックファイバー断熱材を敷き、さらに鋼製のコイル置き台を設置して、その上に加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、参考例1と同じ保温箱30で覆った。また、参考例1と同様に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを保温箱30で覆うと同時に鋼板コイルの温度測定用の熱電対を記録温度計に接続し、該コイル温度を観察・記録し続けた。
【0132】
なお、本参考例では、保温箱30の燃焼ガス導入口31及びガス排出口32を閉じた状態として、ガスの導入は行わなかった点で参考例1とは異なる。また、本参考例では、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、上述のように210℃〜230℃の範囲であり、保温箱30内での保温開始時には、内巻き部は巻き取りリールに抜熱されたため180℃を示し、外巻き部は222℃を示した。
【0133】
そして、参考例2では、保温箱30による保温開始から2時間後、内巻き部の温度が211℃、外巻き部の温度が170℃を示したところで保温箱30を溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルから外し、自然放冷とした。ここでは、少なくとも溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル全体が170℃以上の温度で2時間以上保持し続けられたので、(1)式の条件を満足し得た。保温開始時から24時間後に溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの温度を測定したところ、内巻き部の温度が80℃、外巻き部の温度が75℃であった。
【0134】
そして、完全に冷却した後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの内巻き部及び外巻き部からそれぞれサンプルとしての試験片(本参考品)を採取し、熱処理前の同じ材料の試験片(比較材)とで、同一条件下での曲げ加工を行って、各種特性について比較した。
【0135】
本参考例では、参考例1と同様に、本参考品及び比較材について、それぞれ曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察して両者を対比し、上述した指標での評価を行った。この評価結果を表6に示す。
【0136】
【表6】
【0137】
表6に示すように、本参考品は、熱処理なしの比較材に比べて加工部のクラック発生回避という点で極めて良好な結果が得られ、上述の熱処理に基づく著しい改善効果が得られたことが分かる。
【0138】
(参考例3)
参考例3では、通常の連続式溶融メッキ設備で製造したAl:55重量%、Si:1.5重量%及び残部Znからなる溶融亜鉛メッキ鋼板コイルを、インナーチューブ内で天然ガスを燃焼させて加熱する方式の連続式ガス加熱設備に30mpmで通板して鋼帯状で加熱し、第2の鋼板巻取部16’にてコイル状に巻き取った。
【0139】
本参考例での溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、板厚:0.35mm、板巾:1000mm、メッキ付着量(両面):150g/m2で10Tonコイルとした。また、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時に、鋼板の内巻き部及び外巻き部の鋼板間にシース熱電対を入れて温度を測定したところ、巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、200℃〜210℃の範囲であった。
【0140】
なお、参考例3では、参考例1,2とは異なり、加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを以下のような保温室に入れて保温した。すなわち、参考例3で用いた保温室は、内寸で、高さ3.0m、奥行き3.0m、巾2.5mであり、巾方向の壁部に可動式の扉を設けた構成とした。また、保温室の内面は、扉及び床面を含めて厚さ150mmのセラミックファイバーで覆った。さらには、保温室の内外の床面には、コイルの移動用に2本のレールを敷設し、このレール上に台車を乗せ、加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを台車の上に乗せて、保温室の内外に出し入れした。
【0141】
参考例3では、加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルが保温室に入室した後に、扉を閉じて保温状態に入った。ここで、保温室は、あらかじめ天然ガスの燃焼バーナーで加温しており、鋼板コイルの入室時には室内温度が約200℃を示した。そして、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを保温室に入れると同時に鋼板コイル温度測定用熱電対を記録温度計に接続し、該コイル温度を観察・記録し続けた。
【0142】
なお、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、上述のように200℃〜210℃の範囲であったが、保温室への入室時には、内巻き部は巻き取りリールに抜熱されたため190℃を示し、外巻き部は205℃であった。入室から2時間後、内巻き部の温度が201℃、外巻き部の温度が189℃を示したところで、メッキ鋼板コイルを保温室外に出し、自然放冷とした。
【0143】
ここでは、少なくとも溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル全体が189℃以上の温度で2時間以上保持し続けられたので、(1)式の条件を満足し得た。入室から24時間後の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの温度は、内巻き部が85℃、外巻き部が79℃であった。
【0144】
そして、完全に冷却した後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの内巻き部及び外巻き部からそれぞれサンプルとしての試験片(本参考品)を採取し、熱処理前の同じ材料の試験片(比較材)とで、同一条件下での曲げ加工を行って各種特性を比較した。
【0145】
本参考例では、参考例1と同様に、本参考品及び比較材について、それぞれ曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察して両者を対比し、上述した指標での評価を行った。この評価結果を表7に示す。
【0146】
【表7】
【0147】
表7に示すように、本参考品は、熱処理なしの比較材に比べて加工部のクラック発生回避という点で極めて良好な結果が得られ、上述の熱処理に基づく著しい改善効果が得られたことが分かる。
【0148】
(参考例4)
参考例4では、通常の連続式溶融メッキ設備で製造したAl:55重量%、Si:1.5重量%及び残部Znからなる溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、参考例1と同様に加熱装置21(誘導加熱装置)を有する連続式加熱設備に30mpmで通板して鋼帯状で加熱し、第2の鋼板巻取部16’にてコイル状に巻き取った。
【0149】
但し、本参考例での溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルは、板厚:0.27mm、板巾:1000mm、メッキ付着量(両面):150g/m2の7Tonコイルとした。また、誘導加熱装置の出力については、160KW/Hと、参考例1よりもやや弱く設定した。さらに、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時に、鋼板の内巻き部及び外巻き部の鋼板間にシース熱電対を入れて温度を測定したところ、巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、155℃〜165℃の範囲であった。
【0150】
そして、参考例4では、工場内の床面に厚さ50mmのセラミックファイバー断熱材を敷き、さらに鋼製のコイル置き台を設置し、その上に加熱された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを、図1に示す燃焼ガス導入口31及びガス排出口32を備えた保温箱30で覆った。また、ここでも参考例1と同様に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルを保温箱30で覆うと同時に鋼板コイルの温度測定用の熱電対を記録温度計に接続し、該コイル温度を観察・記録し続けた。
【0151】
なお、第2の鋼板巻取部16’による巻き取り時における鋼板の内巻き部及び外巻き部の温度は、上述のように155℃〜165℃の範囲であったが、保温箱30内での保温開始時には、内巻き部は第2の鋼板巻取部16’の巻き取りリールに抜熱されたため135℃を示し、外巻き部も135℃であった。本参考例では、保温にあたり、参考例1と同様に30000kcal/Hの灯油ヒーターの燃焼ガスを燃焼ガス導入口31から保温箱30内に導入した。そして、保温開始から1.5時間後に鋼板温度を測定したところ、内巻き部が156℃、外巻き部が161℃を示した。
【0152】
さらに、灯油ヒーターの燃焼ガスをさらに保温箱30内に導入し続け、導入開始時から11.5時間経過した時点で、内巻き部の温度が168℃、外巻き部の温度が164℃を示した。本参考例では、この時点で燃焼ガスの導入を中止して、保温箱30をメッキ鋼板コイルから外し、自然放冷とした。ここでは、少なくともメッキ鋼板コイル全体が150℃以上の温度で10時間以上保持し続けられたので、(1)式の条件を満足し得た。なお、保温開始時から48時間経過後に溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの温度を測定したところ、内巻き部及び外巻き部とも60℃前後であった。
【0153】
その後、完全に冷却した後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイルの内巻き部及び外巻き部からそれぞれサンプルとしての試験片(本参考品)を採取し、熱処理前の同じ材料の試験片(比較材)とで、同一条件下での曲げ加工を行って、以下の各種特性について比較した。
【0154】
ここでは、本参考品及び比較材について、それぞれ曲げ角度180度、OT及び2Tで曲げ加工を行い、曲げ加工部を肉眼及び写真で観察して両者を対比し、上述した指標での評価を行った。この評価結果を表8に示す。
【0155】
【表8】
【0156】
表8に示すように、本参考品は、熱処理なしの比較材に比べて加工部のクラック発生回避という点で極めて良好な結果が得られ、上述の熱処理に基づく著しい改善効果が得られたことが分かる。
【0157】
さらに、上述した各参考例における各時間毎の温度測定結果から、灯油ヒーターの燃焼ガス導入によるメッキ鋼板の温度上昇は極めて小さく、コイル状の鋼板を加熱して温度上昇させることの困難さが分かる。すなわち、メッキ鋼板の温度を上昇させるには鋼帯状として加熱することが極めて有効であり、また、コイル状とした鋼板が加熱しにくいことは、同時に温度低下しにくいことでもあるため、保温時には溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板をコイル状とすることが極めて有効であることが分かる。
【0158】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明により製造された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板は、従来法により製造された溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板に比べて、加工時のクラック発生が少なく、かつ加工部の耐蝕性が優れている。また、本発明の製造方法は、熱効率が極めて良く、かつ簡易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】保温箱の一例を示す図である。
【図2】溶融亜鉛メッキ設備の第1の実施の形態を示す図であり、溶融亜鉛メッキ時の鋼板の熱を利用して、熱処理する設備及び工程の例を説明する図である。
【図3】溶融亜鉛メッキ設備の第2の実施の形態を示す図であり、通常の溶融亜鉛メッキ設備に設置されている乾燥炉で溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例を説明する図である。
【図4】溶融亜鉛メッキ設備の第3の実施の形態を示す図であり、通常の溶融亜鉛メッキ設備の巻き取り機前に加熱設備を設置して溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱して熱処理する設備及び工程の例を説明する図である。
【図5】溶融亜鉛メッキ設備の第4の実施の形態を示す図であり、通常の溶融亜鉛メッキ設備で溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を製造し、さらに加熱装置を有する設備で溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を加熱して、熱処理する設備及び工程の例を説明する図である。
【図6】通常の溶融亜鉛メッキ設備の従来例を説明する図である。
【符号の説明】
1 鋼板給送部
1’ 第2の鋼板給送部
2 鋼板接続機
3 入り側ルーパー
4 加熱炉
5 焼鈍炉及び冷却帯
6 スナウト
7 ポット
8 シンクロール
9 溶融亜鉛メッキ浴
10 噴射ノズル
11 鋼帯冷却帯
12 形状矯正装置
13 塗布ロール
14 乾燥炉
14’ 加熱能力の大きい乾燥炉
15 出側ルーパー
16 鋼板巻取部
16’ 第2の鋼板巻取部
17 溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル
18 保温箱あるいは保温室
21 加熱装置
22 熱処理前の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板コイル
23 鋼帯
24 高温の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼帯
30 保温箱
31 燃焼ガス導入口
32 ガス排出口
33 釣り上げ用フック
Claims (4)
- Al:20〜95重量%を含む溶融亜鉛メッキ浴に鋼板を接して一定量のメッキを該鋼板に付着させるメッキ工程を具備する、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法であって、前記メッキ工程後の冷却過程で冷却した溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板又は該鋼板コイルを鋼帯状で加熱する加熱工程を備え、該加熱工程後に、溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を切り板状あるいはコイル状で保温箱及び/又は保温室に入れて溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の温度tと保温箱及び/又は保温室に入れている時間hとの関係について下記(1)式を少なくとも1回は満足することを特徴とする溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法。
- 前記保温箱あるいは前記保温室に、燃焼排ガスを導入し溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板を保温することを特徴とする請求項1又は2記載の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法。
- 前記加熱工程では、誘導加熱装置あるいは連続加熱炉を用いて加熱することを特徴とする請求項2記載の溶融亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板の製造方法。
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