JP4818659B2 - 内燃機関の燃焼室用摺動部材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材本体の表面に、低摩擦、低摩耗性の被膜を有する燃焼室用摺動部材及びその製造方法に関するものである。
内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材、例えば、ピストンとシリンダにおいて、オイル潤滑下で低摩擦、低摩耗を実現するために親油性に着目したものがある。この親油性が良好な材料として、Si3N4にFe化合物を分散させた分散複合材や、Al-Zr-Ce系複合酸化物などが開発されている。
一方、ピストン表面及びシリンダ内面には、種々の目的のために被膜が形成される。例えば、デポジットの付着防止を目的とした被膜として、ピストン表面及びシリンダ内面にアルコキシド溶液を塗布した後、ゾル−ゲル法により被膜を形成する方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
特許第3168810号公報 特許第3206332号公報
しかしながら、Si3N4にFe化合物を分散させた分散複合材は、セラミックスのバルク材である。このため、この分散複合材を用いて摺動部材や摺動部材の表面を覆うライナ材などを作製するのは困難であり、かつ、コストが高いという問題から、工業製品への適用は非常に限定されていた。
また、Al-Zr-Ce系複合酸化物は、溶射法を用いることで摺動部材の表面に被膜を形成することができるが、被膜形成可能な摺動部材の形状が限定され、また、被膜の密着性及び緻密性があまり良好でないという問題があった。
一方、特許文献1,2記載の被膜は、デポジットの付着防止を目的としたものであるため、親油性はあまり良好でない。
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、摺動部材本体の表面に、親油性が良好で、かつ、摺動部材本体に対する密着性が良好な被膜を有する内燃機関の燃焼室用摺動部材及びその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成すべく本発明に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材は、内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材であって、
摺動部材本体の表面に、ゾル−ゲル法によってAl-Zr系複合酸化物の被膜が設けられ、かつ、その被膜が、その表面に鱗片状の凸部を有するものである。
また、本発明に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材は、内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材であって、
摺動部材本体の表面に、ゾル−ゲル法によってAl-Zr-Ce系複合酸化物の被膜が設けられ、かつ、その被膜が、その表面に鱗片状の凸部を有するものである。
一方、本発明に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材の製造方法は、内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材の製造方法であって、
アルミニウムアルコキシド溶液及びジルコニウムアルコキシド溶液で構成される混合液を形成する工程と、
摺動部材本体の表面に、混合液の塗膜を付着形成させる工程と、
その混合液塗膜を乾燥させ、Al-Zr-O前駆体被膜を形成する工程と、
そのAl-Zr-O前駆体被膜に熱処理後徐冷する焼成処理を施すゾル−ゲル法によりAl-Zr系複合酸化物の被膜を形成すると共にそのAl-Zr系複合酸化物の被膜の表面に鱗片状の凸部を形成する工程と、
を備えたものである。
また、本発明に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材の製造方法は、内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材の製造方法であって、
アルミニウムアルコキシド溶液、ジルコニウムアルコキシド溶液、及びセリウムアルコキシド溶液で構成される混合液を形成する工程と、
摺動部材本体の表面に、混合液の塗膜を付着形成させる工程と、
その混合液塗膜を乾燥させ、Al-Zr-Ce-O前駆体被膜を形成する工程と、
そのAl-Zr-Ce-O前駆体被膜に熱処理後徐冷する焼成処理を施すゾル−ゲル法によりAl-Zr-Ce系複合酸化物の被膜を形成すると共にそのAl-Zr-Ce系複合酸化物の被膜の表面に鱗片状の凸部を形成する工程と、
を備えたものである。
本発明によれば、摺動部材本体の表面に、親油性が良好で、かつ、摺動部材本体に対する密着性が良好な被膜を設けることができ、かくして摺動部材同士の摺動に伴う摩擦、摩耗を格段と低減することができる優れた効果を発揮する。
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の好適一実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材の断面模式図を図1に、図1のAl-Zr系複合酸化物被膜の原子間力顕微鏡(AFM)観察図を図2に示す。図2(a)は平面観察図、図2(b)は斜視立体観察図である。
図1に示すように、本発明の好適一実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材10は、摺動部材本体11の表面に、金属アルコキシドを原料とし、ゾル−ゲル法によって形成されたAl-Zr系複合酸化物(以下、Al-Zr-Oという)の被膜12を設けたものである。
Al-Zr-O被膜12は、図2(a)、図2(b)に示すように、その表面に鱗片状の凸部13を有している。Al-Zr-O被膜12の膜厚は、例えば、0.5〜10μm、好ましくは2〜5μmとされる。ここで、Al-Zr-O被膜12の膜厚は、後述するAl-Zr-O前駆体被膜の膜厚を調整することにより自在に調整可能である。また、各鱗片の、平均サイズは、例えば、10〜500nm、好ましくは200nm以下に、平均高さは10〜100nm、好ましくは50nm以下に調整される。これによって、後述する平均表面粗さRa及び最大表面粗さRyが所定の値に調整され、延いては後述する接触角θrが10°以下となる。ここで、各鱗片の平均サイズ及び平均高さは、後述するAl-Zr-Oの組成比及び熱処理条件を調整することにより自在に調整可能である。
Al-Zr-O被膜12の平均表面粗さRaは0.070μm以下、好ましくは0.050μm以下、より好ましくは0.040μm以下とされる。また、最大表面粗さRyは0.40μm以下、好ましくは0.30μm以下とされる。
Al-Zr-O被膜12と、Al-Zr-O被膜12の表面に滴下されたオイル液滴15との接触角θrは10°以下である。図3に示すように、Al-Zr-Oのバルク材31は親油性・親水性(濡れ性)を有しているため、Al-Zr-Oバルク材31とAl-Zr-Oバルク材31の表面に滴下されたオイル液滴35との接触角θは90°未満となるが、Al-Zr-O被膜12の接触角θrは、この接触角θよりも更に小さくなる。これは、Al-Zr-O被膜12の親油性・親水性がもともと良好である上に、更にAl-Zr-O被膜12の表面に前述した凸部13を有しているためであり、この凸部13による表面形状によってAl-Zr-O被膜12の親油性・親水性が更に良好となる。
次に、本実施の形態に係る燃焼室用摺動部材10の製造方法を説明する。
先ず、アルミニウムアルコキシド溶液に、ジルコニウムアルコキシド溶液を攪拌しながら添加、混合し、Al-Zr系混合液を作製する(混合液形成工程)。例えば、アルミニウムアルコキシド溶液はアルミニウムイソプロポキシド(以下、AIPという)を含み、ジルコニウムアルコキシド溶液はジルコニウムトリブトキシドブタノール(以下、ZTBという)溶液を含む。Al-Zr系混合液は、金属アルコキシドの化学改質を目的として、アセチルアセトン(以下、AcAcという)やエチレングリコールを含んでいてもよい。
次に、予め鋳造などにより作製しておいた摺動部材本体11を、Al-Zr系混合液中に浸漬し、引き上げ、ディップコーティング処理がなされる。これによって、摺動部材本体11の表面に、Al-Zr系混合液の塗膜が形成される(混合液塗膜の付着形成工程)。塗膜形成後、その混合液塗膜は大気中で十分に乾燥される(乾燥工程)。この浸漬、引き上げ、乾燥という一連の手順を適宜繰り返し行うことで、所望の膜厚のAl-Zr-O前駆体被膜が形成される。混合液塗膜の形成方法は、浸漬法に限定されるものではなく、摺動部材本体11の形状に応じて適宜されるものであり、吹き付け法や塗布法などを用いてもよい。
摺動部材本体11の表面に設けられたAl-Zr-O前駆体被膜を、ゾル−ゲル法(化学溶液法)により硬化させ、Al-Zr-O被膜12が形成される(Al-Zr系複合酸化物被膜の形成工程)。これによって、本実施の形態に係る燃焼室用摺動部材10が得られる。具体的には、Al-Zr-O前駆体被膜を有する摺動部材本体11に、200〜800℃、好ましくは200〜400℃、1〜5h、好ましくは1〜3h、より好ましくは2h前後の焼成処理が施される。この焼成処理時の昇温速度は、100〜300℃/h、好ましくは150〜250℃/h、より好ましくは200℃/h前後とされる。熱処理後は、徐冷、例えば炉冷され、これによって、焼成処理が完了される。この焼成処理により、表面に微細な鱗片状の凸部13を有するAl-Zr-O被膜12が形成される。
次に、本実施の形態の作用を説明する。
Al-Zr-O被膜12は、材料自体の親油性・親水性が良好である上に、その表面に鱗片状の凸部13を有していることから、その毛細管現象により、親油性・親水性が非常に良好となる。つまり、Al-Zr-O被膜12は、材料自身が有する濡れ性と、その表面形状に起因する濡れ性向上の相乗効果により、非常に良好な親油性・親水性を有する。よって、摺動部材本体11の表面にAl-Zr-O被膜12を設けることで、燃焼室用摺動部材10の摺動面の親油性・親水性が非常に良好となることから、Al-Zr-O被膜12の摩耗が長期に亘って抑制される。その結果、摺動部材10同士(例えば、ピストンとシリンダ)の摺動に伴う摩擦、摩耗が低減される。
また、Al-Zr-O被膜12は、摺動部材本体11を構成する金属材、例えば、ステンレス鋼に対する密着性が良好である。これは、Al-Zr-O被膜12の弾性率とステンレス鋼の弾性率がほぼ等しいことに起因する。このように、ステンレス鋼に対するAl-Zr-O被膜12の密着性が良好であることから、Al-Zr-O被膜12の硬度はステンレス鋼の硬度とほぼ同等となる。その結果、Al-Zr-O被膜12を形成したのが一方の摺動部材10だけであっても、一方の摺動部材10による他方の摺動部材10に対する攻撃性(相手材攻撃性)が低減され、他方の摺動部材10の摩耗が抑制される。
また、Al-Zr-O被膜12は無色透明な膜であり、従来の摺動用硬質皮膜であるCrN被膜(金色)やDLC被膜(黒色)のように有色被膜でないことから、摺動部材本体11の外観(見た目の美しさ)を妨げるおそれもない。
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。
本発明の好適一実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材は、図1に示した摺動部材本体11の表面に、金属アルコキシドを原料とし、ゾル−ゲル法によって形成されたAl-Zr-Ce系複合酸化物(以下、Al-Zr-Ce-Oという)の被膜を設けたものである。本実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材は、被膜がAl-Zr-Ce-O被膜で構成される以外は、前実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材10と全く同様とされる。
次に、本実施の形態に係る燃焼室用摺動部材の製造方法を説明する。
先ず、アルミニウムアルコキシド溶液に、ジルコニウムアルコキシド溶液及びセリウムアルコキシド溶液を攪拌しながら、順に添加、混合し、Al-Zr-Ce系混合液を作製する(混合液形成工程)。例えば、アルミニウムアルコキシド溶液はAIPを含み、ジルコニウムアルコキシド溶液はZTB溶液を含み、セリウムアルコキシド溶液はセリウムエトキシド(以下、CEtという)を含む。Al-Zr-Ce系混合液は、金属アルコキシドの化学改質を目的として、AcAcやエチレングリコールを含んでいてもよい。
次に、予め鋳造などにより作製しておいた摺動部材本体11を、Al-Zr-Ce系混合液中に浸漬し、引き上げ、ディップコーティング処理がなされる。これによって、摺動部材本体11の表面に、Al-Zr-Ce系混合液の塗膜が形成される(混合液塗膜の付着形成工程)。塗膜形成後、その混合液塗膜は大気中で十分に乾燥される(乾燥工程)。この浸漬、引き上げ、乾燥という一連の手順を適宜繰り返し、所望の膜厚のAl-Zr-Ce-O前駆体被膜が形成される。
摺動部材本体11の表面に設けられたAl-Zr-Ce-O前駆体被膜を、ゾル−ゲル法(化学溶液法)により硬化させ、Al-Zr-Ce-O被膜が形成される(Al-Zr-Ce系複合酸化物被膜の形成工程)。これによって、本実施の形態に係る燃焼室用摺動部材が得られる。具体的には、Al-Zr-Ce-O前駆体被膜を有する摺動部材本体11に、200〜800℃、好ましくは200〜400℃、1〜5h、好ましくは1〜3h、より好ましくは2h前後で焼成処理が施される。この焼成処理時の昇温速度は、100〜300℃/h、好ましくは150〜250℃/h、より好ましくは200℃/h前後とされる。熱処理後は、徐冷、例えば炉冷され、これによって、焼成処理が完了される。この焼成処理により、表面に微細な鱗片状の凸部13を有するAl-Zr-Ce-O被膜が形成される。
本実施の形態に係る燃焼室用摺動部材においても、前実施の形態に係る燃焼室用摺動部材10と同様の作用効果が得られる。
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
アルミニウムアルコキシドとしてAIP、ジルコニウムアルコキシドとしてZTB溶液(ZTBの含有量は80%)、及びセリウムアルコキシドとしてCEtを用いた。また、金属アルコキシドの化学改質を目的としてAcAc及びエチレングリコールを用いた。また、触媒及び安定化試薬として硝酸(18NのHNO3)を用いた。安定溶液及びコーティング溶液の溶媒として、イソプロパノール(関東化学(株)製;以下、Iso-PrOHという)を用いた。
アルミニウムアルコキシド溶液は、30gの蒸留水を90℃程度に加熱した後、蒸留水中に2gのAIPを添加し、大気中で1時間攪拌を行った。溶液中にAIPが均一に分散された白濁溶液となったのを確認した後、16N硝酸を0.05g滴下した。この滴下時、pHが約3になるよう16N硝酸を随時滴下しながら攪拌を続けた。1時間の攪拌によって、ほぼ透明な溶液が得られた。
ジルコニウムアルコキシド溶液は、6gのIso-PrOHに対して、2gのZTB溶液及び0.5gのAcAc溶液を順次加えて、大気中で30分間攪拌を行った。得られた溶液は黄色の透明液であり、大気中でも沈殿を生じることなく安定であることが確認された。
セリウムアルコキシド溶液の作製は、CEtが大気中で非常に不安定であり、大気中でアンプルから取り出した時点で加水分解が始まるため、10gのIso-PrOHに対して、アンプルから取り出してすぐのCEtを溶解させた。溶解後の1gのCEt溶液に対して、6gのIso-PrOH溶液及び1gのAcAc溶液を順次添加し、安定化溶液を作製した。
(実施例1)
作製したアルミニウムアルコキシド溶液に対して、攪拌しながら、ジルコニウムアルコキシド溶液を添加し、Al-Zr-Oコーティング液を作製した。
Al-Zr-Oコーティング液を1時間以上攪拌した後、そのコーティング液中にスライド状(薄板条材状)のステンレス鋼基板(SUS420J2(JIS規格)製)を浸漬し、約1.5mm/sの引き上げ速度で引き上げながら、ディップコーティング処理を行った。その後、ディップコーティング処理が施されたステンレス鋼基板を、大気中で60℃、30分間乾燥させた。この工程をもう1回繰り返した。
その後、乾燥させたステンレス鋼基板に、大気中、200〜400℃で2hの熱処理(昇温速度200℃/h)を施した後、炉冷し、ステンレス鋼基板の表面にAl-Zr-O被膜を作製した(試料1)。
(実施例2)
作製したアルミニウムアルコキシド溶液に対して、攪拌しながら、ジルコニウムアルコキシド溶液及びセリウムアルコキシド溶液を順次添加し、Al-Zr-Ce-Oコーティング液を作製した。
Al-Zr-Ce-Oコーティング液を用いる以外は、実施例1と同様にして、ステンレス鋼基板の表面にAl-Zr-Ce-O被膜を作製した(試料2)。
試料1,2の表面を走査型顕微鏡(SEM)で観察した結果、Al-Zr-O被膜及びAl-Zr-Ce-O被膜は共に緻密な被膜であることが確認された。また、各被膜は透明被膜であり、各被膜中には微量のCが残留していることも確認された。
次に、ステンレス鋼基板、試料1のAl-Zr-O被膜、従来の摺動用硬質被膜として代表的なCrN被膜及びDLC被膜の各表面粗さを測定した。その評価結果を表1に示す。
Figure 0004818659
表1に示すように、ステンレス鋼基板の粗さRa(平均表面粗さ)は0.14μm、Ry(最大表面粗さ)は1.13μmであった。これに対して、Al-Zr-O被膜のRaは0.035μm、Ryは0.26μmであった。これらの値は、CrN被膜(Ra=0.081μm、Ry=0.46μm)やDLC被膜(Ra=0.077μm、Ry=0.49μm)と比べると、ほぼ半分以下であった。
次に、ステンレス鋼基板、試料1のAl-Zr-O被膜、試料2のAl-Zr-Ce-O被膜、CrN被膜、及びDLC被膜の各表面に、市販のエンジン用オイル(10W-30)をマイクロピペットにて10ml滴下し、30秒後のオイル液滴を撮影し、親油性(濡れ性)の評価を行った。親油性の評価は、オイル液滴と、ステンレス鋼基板及び各被膜の表面の接触角を撮影図を用いて測定することで行った。その結果を図4に示す。
図4に示すように、ステンレス鋼基板の接触角は約13°、CrN被膜の接触角は約22°、DLC被膜の接触角は約16°であった。これに対して、試料1のAl-Zr-O被膜の接触角は約6°、試料2のAl-Zr-Ce-O被膜の接触角は約7°であった。この結果から、Al-Zr-O被膜及びAl-Zr-Ce-O被膜は、従来のCrN被膜及びDLC被膜と比べて、親油性が非常に良好であることが確認できた。
次に、Al-Zr-O被膜におけるAlとZrの組成比(Al/Zr)を変えて、接触角(親油性)の変化を測定した。その結果、図5に示すように、Al-Zr-O被膜の接触角は、Al/Zrの全組成範囲において10°以下であり、Al/Zrに関係なく、良好な親油性を有することがわかった。好ましいAl/Zrは、接触角が8°以下となる(23〜95)/(77〜5)であった。また、より好ましいAl/Zrは、接触角が7°以下となる(32〜93)/(68〜7)であった。さらに、特に好ましいAl/Zrは、接触角が6〜6.5°以下となる(40〜91)/(60〜9)であった。
次に、ステンレス鋼基板、試料1のAl-Zr-O被膜、試料2のAl-Zr-Ce-O被膜、CrN被膜、及びDLC被膜の硬度をナノインデンターを用いて測定し、ステンレス鋼基板及び各被膜の極めて表面に近い部位の硬度測定を行った。その結果を表2に示す。
Figure 0004818659
表2に示すように、ステンレス鋼基板のナノインデント硬度は4.2GPa、弾性率は10GPaであった。
CrN被膜及びDLC被膜のナノインデント硬度は22GPa,38GPa、弾性率は24GPa,21GPaであり、ステンレス鋼基板と比べて著しく大きかった。このように、CrN被膜(又はDLC被膜)は、ステンレス鋼基板と比べて弾性率が著しく大きいことから、CrN被膜(又はDLC被膜)とステンレス鋼基板の密着性はあまり良好でないことがわかる。また、CrN被膜(又はDLC被膜)は、ステンレス鋼基板と比べて硬度が著しく高いことから、摺動相手材(ステンレス鋼)に対する攻撃性が高くなる。
一方、Al-Zr-O被膜及びAl-Zr-Ce-O被膜のナノインデント硬度は4.5GPa,5.0GPa、弾性率は12GPa,13GPaであり、ステンレス鋼基板とほぼ同等であった。このように、Al-Zr-O被膜(又はAl-Zr-Ce-O被膜)は、ステンレス鋼基板とほぼ同等の弾性率を有していることから、Al-Zr-O被膜(又はAl-Zr-Ce-O被膜)とステンレス鋼基板の密着性は非常に良好である。また、Al-Zr-O被膜(又はAl-Zr-Ce-O被膜)は、ステンレス鋼基板とほぼ同等の硬度を有していることから、摺動相手材(ステンレス鋼)に対する攻撃性はほとんどないに等しくなる。
次に、ステンレス鋼基板、試料1のAl-Zr-O被膜、試料2のAl-Zr-Ce-O被膜、Al-O被膜、CrN被膜、及びDLC被膜の摩擦特性の評価を行った。摩擦特性は、ステンレス鋼基板及び各被膜に対して、ピン・オン・ディスク試験機を用いた摺動試験を施し、それらの試験結果により評価を行った。摺動速度(m/s)と摩擦係数の関係を図6に示すように、Al-Zr-Ce-O被膜は、CrN被膜とほぼ同じ摩擦係数であったが、Al-Zr-O被膜は、従来の摺動用硬質被膜の中で低摩擦被膜として知られるDLC被膜よりも、摩擦係数が低かった。つまり、Al-Zr-O被膜は、従来の摺動用硬質被膜と比べて、より低摩擦な被膜であることがわかった。
本発明の好適一実施の形態に係る内燃機関の燃焼室用摺動部材の断面模式図である。 図1のAl-Zr系複合酸化物被膜の原子間力顕微鏡(AFM)観察図である。図2(a)は平面観察図、図2(b)は斜視立体観察図である。 Al-Zr系複合酸化物の親油状態を説明するための断面模式図である。 [実施例]におけるステンレス鋼基板及び各被膜の接触角を示すヒストグラムである。 Al-Zr-O被膜におけるAl及びZrの組成比(Al/Zr)と接触角との関係を示す図である。 摺動速度と摩擦係数との関係を示す図である。
符号の説明
10 燃焼室用摺動部材
11 摺動部材本体
12 Al-Zr-O被膜(Al-Zr系複合酸化物の被膜)

Claims (4)

  1. 内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材であって、
    上記摺動部材本体の表面に、ゾル−ゲル法によってAl-Zr系複合酸化物の被膜が設けられ、かつ、その被膜が、その表面に鱗片状の凸部を有することを特徴とする内燃機関の燃焼室用摺動部材。
  2. 内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材であって、
    上記摺動部材本体の表面に、ゾル−ゲル法によってAl-Zr-Ce系複合酸化物の被膜が設けられ、かつ、その被膜が、その表面に鱗片状の凸部を有することを特徴とする内燃機関の燃焼室用摺動部材。
  3. 内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材の製造方法であって、
    アルミニウムアルコキシド溶液及びジルコニウムアルコキシド溶液で構成される混合液を形成する工程と、
    上記摺動部材本体の表面に、上記混合液の塗膜を付着形成させる工程と、
    その混合液塗膜を乾燥させ、Al-Zr-O前駆体被膜を形成する工程と、
    そのAl-Zr-O前駆体被膜に熱処理後徐冷する焼成処理を施すゾル−ゲル法により、Al-Zr系複合酸化物の被膜を形成すると共にそのAl-Zr系複合酸化物の被膜の表面に鱗片状の凸部を形成する工程と、
    を備えたことを特徴とする内燃機関の燃焼室用摺動部材の製造方法。
  4. 内燃機関の燃焼室を構成する摺動部材の製造方法であって、
    アルミニウムアルコキシド溶液、ジルコニウムアルコキシド溶液、及びセリウムアルコキシド溶液で構成される混合液を形成する工程と、
    上記摺動部材本体の表面に、上記混合液の塗膜を付着形成させる工程と、
    その混合液塗膜を乾燥させ、Al-Zr-Ce-O前駆体被膜を形成する工程と、
    そのAl-Zr-Ce-O前駆体被膜に熱処理後徐冷する焼成処理を施すゾル−ゲル法により、Al-Zr-Ce系複合酸化物の被膜を形成すると共にそのAl-Zr-Ce系複合酸化物の被膜の表面に鱗片状の凸部を形成する工程と、
    を備えたことを特徴とする内燃機関の燃焼室用摺動部材の製造方法。
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