JP7024366B2 - 撥水材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、ニッケルイオン、次亜リン酸ナトリウム、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子(平均粒径:0.3μm)を含む無電解複合ニッケル-リン合金めっき液に被めっき物を浸漬し、被めっき物を垂直方向に振動させながら無電解めっきを行う方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、スポット的な未共析部分(PTFE粒子の共析量の少ない領域)や、ピットの生成を抑制できる点が記載されている。
同文献には、
(a)スパッタエッチング処理により、PTFE多孔質フィルムの処理面には微細な針状凹凸が無数に形成される点、及び、
(b)これにより、PTFE多孔質フィルムの撥水性が向上する点
が記載されている。
同文献には、
(a)このような方法により、約200nm程度の凹凸形状と、さらにその凹凸の中に微細な凹凸が形成された表面形状を持つ透明シリカ膜が得られる点、及び、
(b)得られた透明シリカ膜は、水に対する接触角が158°であり、可視光透過率が約94%である点
が記載されている。
特許文献2に記載されている方法は、撥水物質として環境蓄積性の高いフッ素系樹脂を用いていることに加え、スパッタエッチング処理を必要とする。スパッタエッチング処理は、真空環境内での処理であり、真空引き等の工程で時間を要する。
さらに、特許文献3では、撥水性被膜の材料としてシラン系アルコキシドを用いている。しかし、シラン系アルコキシドは、大気中の水分と容易に反応し重合するため、品質の維持管理が難しい。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高い耐熱性を有する新規な撥水材及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、安価であり、環境負荷が少なく、しかも品質の維持管理が容易な新規な撥水材及びその製造方法を提供することにある。
(1)前記撥水材は、
基材と、
前記基材表面に形成された皮膜層と、
前記皮膜層の表面に形成された撥水層と
を備えている。
(2)前記皮膜層は、少なくともその表面に、開気孔を有する多孔膜からなり、
前記開気孔の平面形状はN角形(N≧3)であり、前記N角形の1辺の長さは、20μm以下である。
(3)前記基材は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(4)前記皮膜層は、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。
(1)前記撥水材の製造方法は、
基材表面に、1辺が20μm以下のN角柱(N≧3)形の形状を持つオルガノシルセスキオキサン粒子を含む複合被膜を形成する複合被膜形成工程と、
前記オルガノシルセスキオキサン粒子を熱分解させる熱処理工程と
を備えている。
(2)前記基材は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(3)前記複合皮膜は、マトリックス中に前記オルガノシルセスキオキサン粒子が分散しているものからなり、
前記マトリックスは、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。
一方、オルガノシルセスキオキサン粒子をマトリックス中に埋め込んだ複合皮膜を作製し、複合皮膜を熱処理すると、オルガノシルセスキオキサン粒子が熱分解し、オルガノシルセスキオキサン粒子の形状に対応する開気孔を備えた皮膜層が得られる。これと同時に、分解生成物がSi-O結合中のO原子を介して皮膜層の表面に結合する。その結果、皮膜層の表面に撥水性分子が結合している撥水材が得られる。
[1. 撥水材]
図1に、本発明に係る撥水材の模式図を示す。図1において、撥水材10は、以下の構成を備えている。
(1)撥水材10は、
基材12と、
基材12表面に形成された皮膜層14と、
皮膜層14の表面に形成された撥水層16と
を備えている。
(2)皮膜層14は、少なくともその表面に、開気孔を有する多孔膜からなり、
開気孔の平面形状はN角形(N≧3)であり、N角形の1辺の長さは、20μm以下である。
(3)基材12は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(4)皮膜層14は、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。
[1.1.1. 基材の材料]
基材12は、金属(A)又はセラミックス(A)からなる。後述するように、撥水層16は、皮膜層(マトリックス)14中にオルガノシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric Slisesquioxane;POSS)粒子が埋め込まれた複合皮膜を作製し、POSS粒子を熱分解させることにより形成される。そのため、基材12の材料は、少なくともPOSS粒子の熱分解処理に耐える耐熱性を備えている必要がある。POSS粒子の好適な熱分解温度は、POSS粒子の分子構造の違いにより若干異なるが、基材12は、融点又は分解点が400℃超であるものであれば良い。
(a)炭素鋼、ステンレス鋼、純鉄などの鉄基合金、
(b)純銅、黄銅、白銅などの銅基合金、
(c)純ニッケル、ニクロム、パーマロイなどのニッケル基合金、
などがある。
基材12の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。
[1.2.1. 皮膜層の材料]
皮膜層14は、金属(B)又はセラミックス(B)からなる。上述したように、皮膜層14は、複合皮膜中のPOSS粒子を熱分解させることにより形成される。そのため、皮膜層14の材料もまた、少なくともPOSS粒子の熱分解温度での熱処理に耐える耐熱性を備えている必要がある。具体的には、皮膜層14は、融点又は分解点が400℃超であるものであれば良い。
皮膜層14が金属(B)からなる場合、金属(B)は、基材12を構成する金属(A)と同一材料でも良く、あるいは、異なる材料でも良い。同様に、皮膜層14がセラミックス(B)からなる場合、セラミックス(B)は、基材12を構成するセラミックス(A)と同一材料であっても良く、あるいは、異なる材料でも良い。
皮膜層14は、少なくともその表面に、以下の構成を備えた開気孔を有する多孔膜からなる。
(A)開気孔の平面形状はN角形(N≧3)であり、N角形の1辺の長さは、20μm以下である。
皮膜層14は、以下のいずれか1以上の構成をさらに備えているものが好ましい。
(B)開気孔の70%以上が同じNの値を持つ。
(C)皮膜層の表面の100μm角の領域内において測定された、前記N角形を構成する最短の辺の長さ(a)と、最長の辺の長さ(b)の比(a/b)の平均が0.6~1.0の範囲にある。
なお、図1においては、皮膜層14の表面に存在する開気孔のみが図示されており、皮膜層14内に存在する開気孔は図示が省略されている。
皮膜層14の開気孔は、複合皮膜中のPOSS粒子が熱分解することにより形成される。本発明において、POSS粒子には、一辺が20μm以下のN角柱形の形状を有する粒子が用いられる。そのため、POSS粒子が熱分解した後に残る開気孔の平面形状(皮膜層14の法線方向から見た開気孔の形状)は、一辺が20μm以下のN角形の形状を有している。POSS粒子の詳細については、後述する。
優れた撥水性を得るには、材料表面において水滴との接触面積を減らし、空気層を増やすことが効果的である(参考文献1)。本発明においては、皮膜層14の表面に、平面形状がN角形である開気孔を密に配置することで空気層を増やすことができる。
この場合、開気孔は、同一の形状であることが好ましい。
具体的には、開気孔の70%以上が同じNの値を持つのが好ましい。Nが同一である開気孔の割合は、好ましくは、75%以上である。
[参考文献1] A. B. D. Cassie, S. Baxter, Trans. Faraday Soc., 1944, 40, 546-551
開気孔の平面形状は、正多角形、又は可能な限り正多角形に類似な形状であることが好ましい。例えば、ピタゴラスにより提唱された正多角形の平面充填形に基づくと、正三角形、正四角形、正六角形は、平面内に隙間なく充填することができる。
開気孔の平面形状の正多角形からのズレの程度は、a/b比で表すことができる。「a/b比」とは、皮膜層の表面の100μm角の領域内において測定された、N角形を構成する最短の辺の長さ(a)と、最長の辺の長さ(b)の比(a/b)の平均をいう。a/b比が1に近いほど、開気孔の平面形状が正多角形に近いことを表す。
後述する方法を用いると、a/b比の平均が0.6~1.0である皮膜層14が得られる。製造条件を最適化すると、a/b比は、0.8~1.0となる。
優れた撥水性を得るには、材料表面において水滴との接触面積を減らし、空気層を増やすことが効果的である(参考文献1)。そのためには、後述する複合被膜形成工程において、POSS粒子を皮膜層14内に密に共析させ、皮膜層14の表面にN角形の開気孔をより多く形成させる必要がある。皮膜層14内への粒子の共析を、粒子の充填として考えると、一般的に単一の粒径を有する粒子のみで充填するより、粒度分布を持った粒子を充填させる方が充填率は高くなることが知られている(参考文献2、3)。
[参考文献2] K. Okaya, Y. Tamai, J. Sadaki, T. Fujita, J. Soc. Powder Technol., Japan 2008, 45, 213-219
[参考文献3] 鈴木 道隆、市場 久貴、長谷川 勇、大島 敏男、化学工学論文集、1985、11(4)、438-443
(a)開気孔の平面形状がN角形からなり、
(b)N角形の1辺の長さが1μmから20μmまで幅広く分布し、かつ、
(c)開気孔の面積率が相対的に大きい
皮膜層14が得られる。
後述する方法を用いると、面積率が49~61%である皮膜層14が得られる。
cosφ=f1cosθ1+f2cosθ2 ・・・(1)
f2=1-f1
但し、
φは素材1と素材2で構成される複合素材表面に対する液体の接触角、
θ1は素材1表面に対する液体の接触角、
θ2は素材2表面に対する液体の接触角、
f1は素材1表面の面積率、
f2は素材2表面の面積率。
開気孔を有する皮膜層14の表面では、素材2は空気であり、θ2は180°、f2は開気孔の面積率を示す。
皮膜層14の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。但し、皮膜層14の厚さが薄くなりすぎると、皮膜層14中にPOSS粒子を保持できない。従って、皮膜層14の厚さは、20μm以上が好ましい。
[1.3.1. POSS粒子に由来する撥水性分子]
複合皮膜を適切な条件下で熱処理すると、皮膜層14が形成されると同時に、皮膜層14の表面には、POSS粒子に由来する撥水性分子(以下、「固有撥水性分子」ともいう)が結合する。この場合、撥水層16は、少なくとも、炭化水素基(R=CnH2n+1、n≧1)を側鎖に持つシロキサン化合物を含む。図1の4つの撥水性分子の内、右側の分子がこれに該当する。シロキサン化合物は、Si-O結合中のO原子を介して皮膜層14と結合している。
固有撥水性分子は、シロキサン化合物だけでなく、R3Si-O-、R2Si(-O-)2、RSi(-O-)3なども含まれる場合がある。これらの分子もまた、Si-O結合中のO原子を介して皮膜層14と結合している。
後述する方法を用いた場合、撥水層16は、固有撥水性分子のみからなるが、撥水層16は、固有撥水性分子に加えて又はこれに代えて、固有撥水性分子以外の撥水性分子(以下、これを「外来撥水性分子」ともいう)がさらに含まれていても良い。
例えば、固有撥水性分子からなる撥水層16が形成された後、皮膜層14の表面に、さらに外来撥水性分子を結合させても良い。
あるいは、何らかの原因により皮膜層14の表面から固有撥水性分子が脱落した場合、皮膜層14の表面に、外来撥水性分子からなる撥水層16を再度、形成しても良い。
(a)フルオロアルキルシラン(FAS)、アルキルシランなどのシランカップリング剤、
(b)フルオロカーボン、シリコーン、炭化水素などから構成されるオイル、
などがある。
平滑面では水滴接触角が90°未満である材料表面に微細な凹凸を形成した場合、その接触角は平滑面における接触角より低くなる(Wenzelモデル、参考文献4)。一方、平滑面では水滴接触角が90°以上である材料表面に微細な凹凸を形成した場合、その接触角は平滑面での接触角より高くなる(Cassie-Baxterモデル、参考文献1)。
本発明においては、この接触角90°を撥水及び親水の境界とし、接触角90°以上で材料表面に水滴が接する現象を「撥水」と定義する。
[参考文献4] R. N. Wenzel, Ind. Eng. Chem, 1936, 28(8), 988-994
また、本発明において、皮膜層14は、表面形状が凹形状である。そのため、本発明に係る撥水材10は、表面形状が針状やロッド状などの凸形状である撥水材に比べて、ロバスト性に優れている。
さらに、撥水層16が固有撥水性分子を含む場合、高い撥水性を示すだけでなく、高い耐熱性も示す。具体的には、大気中において400℃で1時間暴露した後においても、常温における撥水材10表面に対する水滴接触角は、100°以上を維持する。
本発明に係る撥水材の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記撥水材の製造方法は、
基材表面に、1辺が20μm以下のN角柱(N≧3)形の形状を持つオルガノシルセスキオキサン粒子を含む複合被膜を形成する複合被膜形成工程と、
前記オルガノシルセスキオキサン粒子を熱分解させる熱処理工程と
を備えている。
(2)前記基材は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(3)前記複合皮膜は、マトリックス中に前記オルガノシルセスキオキサン粒子が分散しているものからなり、
前記マトリックスは、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。
まず、基材表面に、1辺が20μm以下のN角柱(N≧3)形の形状を持つオルガノシルセスキオキサン粒子を含む複合被膜を形成する(複合被膜形成工程)。
基材は、金属(A)又はセラミックス(A)からなる。また、複合皮膜のマトリックス(すなわち、皮膜層)は、金属(B)又はセラミックス(B)からなる。金属(A)(B)、及び、セラミックス(A)(B)の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
複合皮膜には、オルガノシルセスキオキサン粒子が分散している。
ここで、「オルガノシルセスキオキサン(POSS)粒子」とは、T2m+6(m≧1)構造を有し、Si原子に結合する有機側鎖(R'=CnH2n+1、n≧1)を備えた化合物からなる粒子をいう。オルガノシルセスキオキサンは、構造式:(RSiO3/2)nで表される籠状骨格を持つ無機化合物であり(参考文献5)、シロキサン化合物の一種である。
[参考文献5] R. H. Baney, M. Itoh, A. Sakakibara, T. Suzuki, Chem. Rev., 1995, 95, 1409-1430
(a)四角柱(立方体)の頂点にSi原子(Si原子数:8個)が位置し、Si原子間がシロキサン結合(Si-O-Si)で連結されており、頂点の各Si原子に有機側鎖(R')が結合しているT8構造(図2参照)、
(b)五角柱の頂点にSi原子(Si原子数:10個)が位置し、Si原子間がシロキサン結合(Si-O-Si)で連結されており、頂点の各Si原子に有機側鎖(R')が結合しているT10構造(図示せず)、
(c)六角柱の頂点にSi原子(Si原子数:12個)が位置し、Si原子間がシロキサン結合(Si-O-Si)で連結されており、頂点の各Si原子に有機側鎖(R')が結合しているT12構造(図示せず)、
などがある。
複合皮膜には、これらのいずれか1種の粒子が含まれていても良く、あるいは、2種以上の粒子が含まれていても良い。
複合皮膜に含まれるPOSS粒子の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な量を選択することができる。一般に、POSS粒子の含有量が多くなるほど、気孔率の大きい皮膜層が得られる。
複合皮膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。複合被膜の形成方法としては、具体的には、以下のような方法がある。
複合皮膜は、めっき法により形成することができる。めっき法を用いると、POSS粒子及び金属(B)を含む複合被膜を形成することができる。めっき法は、無電解めっき法でも良く、あるいは、電気めっき法でも良い。
めっき法を用いて複合皮膜を作製する場合、まず、POSS粒子のを分散させためっき液を作製する。めっき液には、少なくとも金属(B)源、及びPOSS粒子が含まれる。めっき液には、必要に応じて、種々の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、例えば、光沢剤、pH調整剤、界面活性剤などがある。
めっき液中にPOSS粒子を分散させた状態でめっきを行うと、基材表面に金属(B)からなる皮膜層が形成されると同時に、皮膜層内にPOSS粒子が取り込まれる。一般に、めっき液中に含まれる金属(B)の量に対してPOSS粒子の量が多くなるほど、POSS粒子の含有量が多い複合皮膜が得られる。
次に、めっき液に基材を浸漬し、めっきを行う。これにより、基材表面に金属(B)とPOSS粒子とを含む複合皮膜が形成される。
めっき条件は、特に限定されるものではなく、めっき方法、めっき液の組成等に応じて、最適な条件を選択するのが好ましい。
ゾルゲル法(参考文献6)を用いて複合被膜を形成する場合、まず、POSS粒子が金属アルコキシドあるいはアルコキシシランを含む溶液に分散したゾルを作製する。前記金属は、アルコキシド化合物を形成するものであれば何でも良い。このゾルを、スプレー、スピンコート、ディップコートなどの手法を用いて基材表面に塗布し、膜を作製した後、100~150℃で熱処理することで複合被膜が得られる。
[参考文献6] T. Tsuchiya, Inorganic Materials 1995, 2(256), 194-205
次に、複合皮膜中のPOSS粒子を熱分解させる(熱処理工程)。これにより、本発明に係る撥水材が得られる。
熱処理温度が低すぎると、POSS粒子の熱分解温度が不十分となる。従って、熱処理温度は、300℃以上が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、350℃以上である。
一方、熱処理温度が高すぎると、皮膜層表面に形成された撥水層が分解し、撥水性が失われる。従って、熱処理温度は、450℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、400℃以下である。
熱処理時間は、熱処理温度、複合被膜の組成及び厚さ等に応じて、最適な時間を選択する。一般に、熱処理温度が高くなるほど、短時間でPOSS粒子の熱分解温度が進行する。最適な熱処理時間は、POSS粒子の分子構造にもよるが、通常、0.1時間~1時間である。
オルガノシルセスキオキサン粒子を平滑な基材表面に載せた状態で熱分解さると、シロキサン化合物を含む分解生成物は生成するが、分解生成物は基材表面に結合することはほとんどなく、大部分がそのまま揮発する。
一方、オルガノシルセスキオキサン粒子を皮膜層内に埋め込んだ複合皮膜を作製し、複合皮膜を熱処理すると、オルガノシルセスキオキサン粒子が熱分解し、オルガノシルセスキオキサン粒子の形状に対応する開気孔を備えた皮膜層が得られる。これと同時に、分解生成物がSi-O結合中のO原子を介して皮膜層の表面に結合する。その結果、皮膜層の表面に撥水性分子が結合している撥水材が得られる。
[1. 試料の作製]
無電解めっきプロセスにより、POSSの一種で、Si原子に結合する有機側鎖がR’=CH3であるオクタメチルシルセスキオキサン(OMS)微粒子が共析した複合Ni-Pめっき皮膜を形成した。次いで、複合Ni-Pめっき皮膜の熱処理を行った。製造方法の詳細は、以下の通りである。
基板には、寸法20×20×5mmの炭素鋼(S-50C)を用いた。
[1.2. めっき液]
スルファミン酸ニッケルを主成分とする無電解めっき液を用いた。表1に、めっき浴の組成と条件を示す。本実施例では、側鎖にメチル基を有するシリコーン微粒子としてOMS(Sigma-Aldrich製、品番526835)を用いた。微粒子の粒径は、微粒子をめっき膜内部に均一に分散させる必要があるため、20μm以下が好適である。
図3に、実施例1の成膜プロセスの工程図を示す。基板を脱脂・酸洗後、表1に記載の条件で建浴した無電解めっき液中に基板を浸漬し、1時間成膜した。水洗及び乾燥の後、大気雰囲気下、400℃、1時間の条件で熱処理し、表面がポーラス状の撥水材を得た。
[2.1. 表面観察]
図4に、実施例1で得られた撥水材の表面の二次電子像(倍率:500倍)を示す。図4より、少なくともその表面に一辺が1μm以上20μm以下のN角形(N≧3)の開気孔を有する多孔膜が形成されていることが分かる。
図4の場合、N角形の76.5%が四角形であった。また、皮膜層上100μm角の範囲内においてa/b比を求めたところ、その平均値は0.8であった。これは、開気孔の多くが正多角形に類似な形状であることを示している。
なお、図示はしないが、OMS粒子を含む複合被膜を大気中、300℃で熱処理し、被膜表面を光学顕微鏡で観察した。その結果、OMS粒子の分解又は揮発により生じた開気孔を確認した。
撥水材の表面のFT-IRスペクトルを測定した(参考文献7、8)。測定条件は、以下の通りである。
測定方法: ATR法
測定温度: 25℃
プリズム: ダイヤモンド
検出器: DTGSKBr
[参考文献7] H. B. Liu, B. Yang, N. D. Xue, J. Hazard. Mater., 2016, 318, 425-432
[参考文献8] H. Kim, M. W. Urban, Langmuir, 1999, 15, 3499-3505
[2.3.1. 成膜直後]
図6に、実施例1で得られた撥水材(成膜直後)の表面に接する水滴の写真を示す。膜表面と水滴とのなす角度を接触角と呼ぶ。表2に、この接触角の測定を、膜表面上の別々の5箇所で実施した結果を示す。5箇所で得た測定値の平均値は129.9°となり、成膜直後(400℃、1時間の熱処理後)において、撥水性を有することが分かった。
上記のようにして作製した撥水材を、さらに大気中、400℃の環境に1時間暴露した。常温に戻した後、撥水材表面上の別々の5カ所で水滴接触角を測定し、それらの平均値を算出した。表3に、その結果を示す。また、図7に、実施例1で得られた撥水材(耐熱試験後)の表面に接する水滴の写真を示す。400℃、1時間の耐熱試験後においても、撥水材表面に対する水滴接触角の平均値は121.5°であり、撥水性を有することが分かった。
式(1)を用いて、開気孔の面積率を算出した。φには、[2.3.1]で得られた皮膜層表面に対する水滴接触角(129.9°)を用いた。
θ1は、皮膜層が平滑面となった状態における水滴接触角である。そのため、θ1には、皮膜層上の撥水層と類似な構造の分子が被覆された平滑面を模擬表面として、その水滴接触角(トリエトキシメチルシランが被覆された平滑面の実測値(表4参照):94.9°、polydimethylsiloxane(PDMS)が被覆された平滑面の文献値(参考文献9):107.0°)を用いた。
θ2には、開気孔中の空気層に対する水滴接触角(180°)を用いた。
f1は水滴と接する被膜表面の面積率、f2は開気孔の面積率を表す。
[参考文献9] Y. Tezuka, A. Fukushima, S. Matsui, K. Imai, J. Coll. Interface Soci. 1986, 114, 16-25
[1. 試料の作製]
気相法(参考文献10)を用いて、シランカップリング剤を試料表面に被覆した。以下、詳細について記す。
[参考文献10] A. Hozumi, Y. Yokogawa, T. Kameyama, H. Suginuma, K. Hayashi, H. Shirayama, O. Takai, J. Vac. Soc. Technol. A, 2001, 19, 1812-1816
Ni-Pめっき膜表面にトリエトキシメチルシランを用いて撥水膜を形成した試料(比較例1)と、未処理のNi-Pめっき膜を備えた試料(比較例2)を、各々大気中、400℃の環境に1時間暴露した(以下、この工程を「耐熱試験」という)。耐熱試験後、各膜表面の水滴接触角を室温で測定し、耐熱試験前後の接触角の変化を観察した。
表4及び表5に、それぞれ、耐熱試験前及び耐熱試験後の各膜の水滴接触角を示す。
耐熱試験による撥水膜(比較例1)表面に対する水滴接触角の低下の理由は、撥水物質として膜表面に結合したトリエトキシメチルシランが熱により分解したためであると推定される。また、Ni-Pめっき膜(比較例2)の水滴接触角の低下の理由は、熱により膜表面に親水性の酸化皮膜が多く形成されたためであると推定される。
以上の結果より、シランカップリング剤であるトリエトキシメチルシランにより形成された撥水膜は、大気中、400℃の環境で1時間暴露されると、撥水性を維持できないことが分かった。
Claims (7)
- 以下の構成を備えた撥水材。
(1)前記撥水材は、
基材と、
前記基材表面に形成された皮膜層と、
前記皮膜層の表面に形成された撥水層と
を備えている。
(2)前記皮膜層は、前記基材表面にオルガノシルセスキオキサン粒子を含む複合皮膜を形成し、前記オルガノシルセスキオキサン粒子を熱分解させることにより得られた前記オルガノシルセスキオキサン粒子の形状に対応する開気孔を、少なくともその表面に有する多孔膜からなり、
前記開気孔の平面形状はN角形(N≧3)であり、前記N角形の1辺の長さは、20μm以下である。
(3)前記基材は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(4)前記皮膜層は、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。 - 前記開気孔の70%以上が同じNの値を持つ請求項1に記載の撥水材。
- 前記皮膜層の表面の100μm角の領域内において測定された、前記N角形を構成する最短の辺の長さ(a)と、最長の辺の長さ(b)の比(a/b)の平均が0.6~1.0の範囲にある請求項1又は2に記載の撥水材。
- 前記撥水層は、炭化水素基(R)を側鎖に持つシロキサン化合物を含み、
前記シロキサン化合物は、Si-O結合中のO原子を介して前記皮膜層と結合している請求項1から3までのいずれか1項に記載の撥水材。 - 大気中、400℃で1時間暴露した後の、常温における前記撥水材表面に対する水滴接触角が100°以上である請求項4に記載の撥水材。
- 以下の構成を備えた撥水材の製造方法。
(1)前記撥水材の製造方法は、
基材表面に、1辺が20μm以下のN角柱(N≧3)形の形状を持つオルガノシルセスキオキサン粒子を含む複合被膜を形成する複合被膜形成工程と、
前記オルガノシルセスキオキサン粒子を熱分解させる熱処理工程と
を備えている。
(2)前記基材は、融点又は分解点が400℃超である金属(A)又はセラミックス(A)からなる。
(3)前記複合皮膜は、マトリックス中に前記オルガノシルセスキオキサン粒子が分散しているものからなり、
前記マトリックスは、融点又は分解点が400℃超である金属(B)又はセラミックス(B)からなる。 - 前記複合皮膜形成工程は、前記オルガノシルセスキオキサン粒子を分散させためっき液に前記基材を浸漬し、前記基材表面に前記複合皮膜をめっきする複合めっき工程からなる請求項6に記載の撥水材の製造方法。
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