JP4816642B2 - 低合金鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、発電用ボイラチューブおよびタービン、並びに原子力発電設備および化学工業装置などの耐熱構造部材として使用するのに好適な高温クリープ強度とクリープ延性に優れた低合金鋼に関するものである。
発電用ボイラチューブおよびタービン、さらに原子力発電設備および化学工業装置等は、高温および高圧の環境下で長時間に亘り使用される。したがって、これらの装置に用いられる耐熱材料には、高温における強度、耐食性および耐酸化性、並びに常温における靱性などが良好であることが要求される。
近年、火力発電プラントにおいては、地球温暖化防止の観点からCOなどの排出量削減を目的に熱効率の向上が必要となり、火力発電用ボイラの操業条件は高温、高圧化が著しく、例えば、600℃を超え、300気圧の条件を想定した新規プラントが次々に建設されている。高温状態で長時間使用される材料にとって、クリープ性能の確保は必須であるが、上記操業条件は耐熱鋼には極めて過酷な条件となっている。
一方、国内外からの規制緩和の要請を受けて、電力事業についても自由化が進行し、電力会社以外の会社や商社の参入が可能となって、価格競争が激化した結果、発電プラントにあっても従来以上に経済性が重要視されている。
さらに新規の発電プラントのみならず、老朽化した設備においても安全性を損なうことなく、低コストで維持するための技術開発が極めて重要となっている。このような状況の下で、低コストでありながら従来の鋼に比べて高温強度が向上した耐熱鋼が望まれており、そのような要求に応えられる高強度材の開発が進められている。
なかでも550℃程度までの比較的に低温となる領域では、従来、JIS G3462 STBA22(1Cr−0.5Mo鋼)、同STBA23(1.25Cr−0.5Mo鋼)、または同STBA24(2.25Cr−1Mo鋼)などのCr−Mo系低合金鋼が使用されていたが、さらに高温クリープ強度を高めることを目的として、Moの一部をWで置き換えた鋼(例えば、特開平8−134584号公報に開示される鋼)、Co添加により焼入性を飛躍的に高めた鋼(例えば、特開平9−268343号公報に開示される鋼)などが開発されている。
これらの新たな開発鋼においては、WやCoによって高温での軟化抵抗が改善され、特に500℃以上でのクリープ強度は、従来の汎用鋼に比べて向上しているが、高強度化したために、逆に靱性の劣化や、長時間クリープ延性(伸びおよび絞り)の低下が顕著となることが明らかとなっている。
このような靱性劣化を防ぎ、クリープ延性を向上させるために、Cr−Mo鋼にV、NbおよびTiを添加した鋼が提案されている(例えば、特開2004−107719号公報で提案された鋼)。しかし、前記特開2004−107719号公報で提案された鋼によっても、靱性の改善が図れるものの、高温クリープ強度とクリープ延性との特性の両立についてさらに改善の余地がある。
本発明は、発電プラントなどにおいて550℃程度までの温度域において使用される耐熱構造部材用の低合金鋼であって、従来鋼以上に高温クリープ強度が高く、さらに長時間のクリープ延性にも優れた低合金鋼を提供することを目的としている。
本発明者らは、上記の課題を達成するために、種々の耐熱用低合金鋼について、鋼の化学組成と金属組織(ミクロ組織)が長時間の高温クリープ強度とクリープ延性に及ぼす影響を詳細に検討した。その結果、次の(a)〜(c)のような新しい知見を得た。
(a)Cr−Mo鋼にCを適量添加すると、Cr、MoなどとMX型の析出物やMX型の析出物(Mは金属元素、Xは炭化物、炭窒化物などを意味する)を形成し顕著な析出強化作用が得られ、また高温クリープ強度を高くするには、金属組織がベイナイト組織またはマルテンサイト組織であることが必要である。
(b)Cr−Mo鋼において、S量が相当少なくても、粒界近傍で硫化物系介在物が形成され、これが旧γ粒界近傍の不均一回復および再結晶を引き起こす要因となり、鋼材のクリープ延性を低下させる。しかし、極端なS量の低減によりクリープ延性は改善するが、著しい製鋼コストの上昇を招くことになる。
(c)Ndを単に鋼材に添加してもクリープ延性を向上させることができない。ところが、鋼材の溶解時の脱酸とNd添加の時期を適切に選択することにより、旧γ粒界にNdSOやNdSのようなNdを含有する酸硫化物介在物(以下、「Nd系介在物」という)を形成することができ、このNd系介在物が適量存在する鋼材は極めて良好なクリープ延性を示す。
本発明の低合金鋼は、以上の知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は、下記に示す低合金鋼である。
量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.05〜0.70%、Mn:1.50%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Cr:0.8〜8.0%、Mo:0.01〜1.00%、Nd:0.001〜0.100%、sol.Al:0.020%以下、N:0.015%以下およびO(酸素):0.0050%以下を含み、さらにCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、V:0.5%以下、Nb:0.2%以下、W:2.0%以下、B:0.01%以下、Ti:0.020%以下およびCa:0.0050%以下のうち1種または2種以上の元素を含み、残部はFeおよび不純物からなり、金属組織がベイナイトまたはマルテンサイトであり、鋼中のNd系介在物の大きさが0.1μm以上、10μm以下で、かつその個数が1000μm2当たり10個以上、1000個以下であることを特徴とする低合金鋼である。
本発明の低合金鋼は、従来鋼では困難であった、高温クリープ強度と長時間クリープ延性との両立を過酷な環境下においても達成することができる。したがって、発電用ボイラやタービン、さらに原子力発電設備等の高温および高圧の条件下で長時間使用される耐熱構造部材用の材料として極めて有効な特性を発揮することができる。
本発明の低合金鋼の化学組成を上記のように定めた理由について詳細に説明する。以下の説明において、「%」は特に断らない限り「質量%」を表す。
C:0.05〜0.15%
Cは、Cr、MoなどとMX型の析出物やMX型の析出物(Mは金属元素、Xは炭化物、炭窒化物などを意味する)を形成し、高温強度およびクリープ強度の向上に寄与する元素である。しかし、C含有量が0.05%未満では、MX型の析出物やMX型の析出物の析出量が不十分である上に、焼入れ性が低下してフェライトが析出しやすくなるため高温強度およびクリープ強度が低下する。
一方、その含有量が0.15%を超えると、MX型の析出物、MX型の析出物および、例えばMC炭化物、M23炭化物、M炭化物(Mは金属元素を意味する)など他の炭化物が過剰に析出し鋼が著しく硬化するので加工性と溶接性が損なわれる。したがって、C含有量を0.05〜0.15%とした。
Si:0.05〜0.70%
Siは、製鋼時に脱酸元素として添加されるが、鋼の耐水蒸気酸化特性に有効な元素である。脱酸効果および耐水蒸気酸化特性を十分に得るためには、Si含有量を0.05%以上とするのがよい。より望ましくは、Si含有量を0.10%以上とする。しかし、その含有量が0.70%を超えると、鋼の靱性が著しく低下し、クリープ強度の低下を招く。したがって、Si含有量を0.05〜0.70%とした。
Mn:1.50%以下
Mnは、脱硫作用と脱酸作用を有し、鋼の熱間加工性を高めるのに有効な元素である。また、Mnには鋼の焼入れ性を高める作用もある。そのためには、0.01%以上の含有量とすることが望ましい。しかし、Mn含有量が1.50%を超えると、クリープ延性に悪影響を及ぼすので、その含有量は1.50%以下とした。より好ましい含有量は、0.1%〜1.0%である。
P:0.020%以下
Pは、鋼中に含まれる不純物元素であり、過剰に含有すると、靱性、加工性および溶接性に悪影響を及ぼす。また、Pは粒界に偏析して焼もどし脆性への感受性を高める性質を有する。したがって、P含有量はできるだけ少ない方が望ましいが、コストの低減を考慮し、その上限を0.020%とした。
S:0.010%以下
Sは、上記のPと同様に、鋼中に含まれる不純物元素であり、過剰に含有すると、靱性、加工性および溶接性に悪影響を及ぼす。また、Sは粒界に偏析して焼もどし脆性への感受性を高める性質を有する。したがって、S含有量は少なければ少ないほど望ましいが、過剰な低減はコスト増加を招くことからコスト低減を考慮し、その上限を0.010%とした。
Cr:0.8〜8.0%
Crは、耐酸化性と高温耐食性の確保のため不可欠な元素である。しかし、Cr含有量が0.8%未満ではこれらの効果は得られない。一方、その含有量が8.0%を超えると、溶接性、熱伝導性が低下するとともに、材料コストが上昇し経済性が低下するので、フェライト系耐熱鋼としての利点が少なくなる。したがって、Cr含有量を0.8〜8.0%とした。Cr含有量は、望ましくは0.8〜2.5%であり、より望ましくは0.8〜1.5%である。
Mo:0.01〜1.00%
Moは、添加すれば、固溶強化によってクリープ強度および高温強度の向上に寄与する。また、MX型の析出物を形成するため、析出強化によるクリープ強度および高温強度の向上作用も有する。これらの効果を得るには、0.01%以上の含有量とする必要がある。しかし、Mo含有量が1.00%を超えると、その効果は飽和するうえ、Moの多量の添加は材料コストの上昇を招くことになる。したがって、Mo含有量は0.01〜1.00%とした。
Nd:0.001〜0.100%
Ndは、本発明の鋼にとってクリープ延性を改善するうえで欠くことのできない重要な元素である。また、Ndは脱酸剤としても有効な元素であり、鋼中の介在物を微細化すると共に、固溶Sを固着させる効果がある。これらの効果を得るには0.001%以上のNd含有量が必要である。望ましくは、Nd含有量は0.01%超えとする。しかし、Nd含有量が0.100%を超えると、その効果が飽和するのに加え、過剰なNdは靱性を低下させる。したがって、Nd含有量は0.001〜0.100%とした。
sol.Al:0.020%以下
Alは脱酸剤として重要な元素であるが、0.020%を超えて含有させるとクリープ強度と加工性が損なわれる。このため、sol.Al含有量は0.020%以下とした。
N:0.015%以下
Nは、不純物元素であるが、固溶強化元素であるとともに炭窒化物を形成して、鋼材の高強度化に寄与することもある。このNの効果を得るには、0.005%以上の含有量が必要である。しかし、過剰なNの添加はクリープ延性に悪影響を及ぼすので、N含有量の上限を0.015%とした。
O(酸素):0.0050%以下
O(酸素)は、鋼中に含まれる不純物元素であり、過剰に含まれると靱性などに悪影響を及ぼす。このため、その上限を0.0050%とした。なお、O含有量は低ければ低いほどよい。
鋼の金属組織:
本発明の鋼の金属組織は、長時間クリープ延性を低下さることなく、高温クリープ強度を確保するため、ベイナイト組織またはマルテンサイト組織とした。この場合、組織中のフェライト率は5%以下とするのが望ましい。
ここで、鋼材の組織がベイナイトとフェライトの2相組織である場合、またはマルテンサイトとフェライトの2相組織である場合、ベイナイトやマルテンサイト中では微細な析出物が析出して高温強度とクリープ強度が上昇するが、フェライト中では析出物が粗大化しやすくなり、析出物の粗大化にともない析出強化能が低下する。このため、上記2相組織を形成する相の間に変形能(高温強度や延性など)の差が生じ、靱性やクリープ強度が劣化する場合がある。このため、組織中のフェライト率の上限を5%にするのが望ましい。
本発明で規定するベイナイト組織またはマルテンサイト組織は、所定の製品形状に成形された後の鋼を、ArまたはAc変態点(約860〜920℃)以上の温度域から急冷または空冷することにより得られる。しかし、本発明の低合金鋼は、前記の急冷または空冷のままの状態では硬すぎるため、その化学組成に応じた適宜な温度と時間(例えば、後述する実施例に示す温度と時間)で焼戻し処理して使用される。
鋼中のNd系介在物:
クリープ延性を改善するには、単にNdを添加するだけでは不十分であり、鋼中のNdを含有する介在物の大きさが0.1μm以上、10μm以下で、かつそのNd系介在物の個数が1000μm当たり10個以上、1000個以下であることが必要となる。
Nd系介在物の大きさが0.1μm未満であると、その介在物は小さすぎるため回復再結晶を起こす核になり得ない。一方、Nd系介在物の大きさが10μmを超えると、その介在物は粗大であり、均一な回復再結晶を起こす核になり得ない。このため、Nd系介在物の大きさがいずれの場合も、クリープ延性改善には有効に作用しない。したがって、Nd系介在物の大きさを0.1μm以上、10μm以下とした。
また、Nd系介在物の個数が、10個/1000μm未満であれば、回復再結晶となる核が少ないため、クリープ延性を改善するのに有効に作用しない。一方、Nd系介在物の個数が、1000個/1000μmを超えれば、変形を担う母相に対し介在物比率が高くなりすぎるため、クリープ延性を改善するのに寄与しない。したがって、Nd系介在物の個数を1000μm当たり10個以上、1000個以下とした。
Nd系介在物の性状を上述した範囲内に制御するには、例えば、鋼の脱酸を行い、その後Ndを添加し、さらに鋼の脱酸を行えばよい。
本発明の低合金鋼は、上記の化学組成、金属組織およびNd系介在物の性状を満たせば、十分に高温クリープ強度とクリープ延性との両立を達成することができるが、さらに特性を高めるため以下に述べる元素を含むものであ

Cu:0.5%以下
Cuは、添加しなくてもよい。添加すれば、母相のベイナイト組織またはマルテンサイト組織の安定化に寄与し、クリープ強度を向上させることができる。このため、クリープ強度をより一層高めたい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.01%以上の含有量で顕著になる。しかし、0.5%を超えて含有させると、クリープ延性を低下させることになる。したがって、Cuを添加する場合には、その含有量は0.01〜0.5%とするのがよい。
Ni:0.5%以下
Niは、添加しなくてもよい。添加すれば、母相のベイナイト組織またはマルテンサイト組織の安定化に寄与し、クリープ強度を向上させることができる。このため、クリープ強度をより一層高めたい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.01%以上の含有量で顕著になる。しかし、Niを0.5%を超えて含有させると、鋼のオーステナイト変態温度(AC1点)を低下させる。したがって、Niを添加する場合には、その含有量は0.01〜0.5%とするのがよい。
V:0.5%以下
Vは、添加しなくてもよい。添加すれば、次に述べるNbとともにMC型炭化物を形成して、高強度化に寄与する。このため、鋼材の強度をより一層高めたい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.01%以上の含有量で顕著になる。しかし、0.5%を超えて含有させると、長時間クリープ延性を低下させる。したがって、Vを添加する場合には、その含有量は0.01〜0.5%とするのがよい。
Nb:0.2%以下
Nbは、添加しなくてもよい。添加すれば、上記のVと同様にMC型炭化物を形成して、高強度化に寄与する。したがって、鋼材の強度をより一層高めたい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.01%以上の含有量で顕著になる。しかし、0.2%を超えて含有させると、過剰な炭窒化物を形成し靱性を損なう。このため、Nbを添加する場合には、その含有量は0.01〜0.2%とするのがよい。
W:2.0%以下
Wは、添加しなくてもよい。添加すれば、炭化物を長時間安定にしてクリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、鋼材の強度を重視し、高温長時間クリープ強度をより一層高めたい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.01%以上の含有量で顕著になる。しかし、その含有量が2.0%を超えるとクリープ延性が低下するだけでなく、再熱脆化や割れ感受性を高める。このため、Wを添加する場合には、その含有量は0.01〜2.0%とするのがよい。
B:0.01%以下
Bは、添加しなくてもよい。添加すれば、焼入性を向上させることができる。したがって、この効果を得たい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.002%以上の含有量で顕著になる。一方、過剰なBは靱性に悪影響を及ぼす。このため、Bを添加する場合には、その含有量は0.002〜0.01%とするのがよい。
Ti:0.020%以下
Tiは、添加しなくてもよい。添加すれば、微細な炭化物を形成して高強度化に寄与する。したがって、この効果を得たい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.005%以上の含有量で顕著になる。一方、その含有量が0.020%を超えると靱性に悪影響を及ぼす。このため、Tiを添加する場合には、その含有量は0.005〜0.020%とするのがよい。
Ca:0.0050%以下
Caは、添加しなくてもよい。添加すれば、溶接性の向上に寄与する元素である。したがって、この効果を得たい場合には積極的に添加してもよく、その効果は0.0003%以上の含有量で顕著になる。しかし、Ca含有量が0.0050%を超えると、クリープ強度および靱性に悪影響を及ぼすので、Caを添加する場合には、その上限を0.0050%とした。
表1に示す化学組成を有する12種類の合金を真空誘導溶解炉を用いて溶製し、直径が144mmで50kgのインゴットを得た。合金の溶製に際し、Nd系介在物の性状を制御するため、脱酸およびNd添加の方法を変更した。
本発明例(鋼No.1〜5)並びに比較例のうち鋼No.8、10および11は、フェロSi、フェロMnの添加を行った後、Alにより脱酸を行い、その後Ndを添加し、さらにMn−Siを添加して脱酸を行った。
比較例の鋼No.6および7は、Ndを添加しなかった。
比較例の鋼No.9は、Ndを添加した後に、フェロSi、フェロMn、Alの添加による脱酸を行った。また、比較例の鋼No.12は、フェロSi、フェロMn、Alの添加による脱酸を行った後、Ndを添加した。
Figure 0004816642
得られたインゴットを熱間鍛造および熱間圧延を行い厚さ20mmの鋼板に加工した。次いで、鋼板を950〜1050℃の温度で10分以上均熱して空冷し、その後に焼戻し処理として720〜770℃で30分以上均熱して空冷を行った。熱処理後の鋼板から試験片を採取し、金属組織の観察、クリープ破断試験およびNd系介在物の測定を行い、それらの結果を表2に示した。
金属組織の観察では、採取した試料の切断面を機械的に研摩して検鏡面を作り、検鏡面を硝酸(5ml)とエタノール(95ml)の腐食液で30秒腐食した。その後、光学顕微鏡下において検鏡し、金属組織を確認し、フェライト率を測定した。
クリープ破断試験は、試験片長手方向が圧延方向になるように試験片を採取し、試験温度550℃、負荷応力245MPaの条件下で破断試験を行った。このとき、クリープ強度は試験温度550℃×10000時間のクリープ強度を外挿して求め、クリープ延性は破断した試験片の絞り値で用い、50%以上の絞り値の場合にクリープ延性が良好と評価した。
Nd系介在物は、透過型電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察を行い、10μm×10μmの面積でのNd系介在物の大きさおよびその個数を測定した。このような観察を10視野行い、10視野におけるNd系介在物の最大および最小の大きさと、Nd系介在物の10視野平均の個数を測定した。
Figure 0004816642
表2から明らかなように、鋼No.1〜5の本発明例では、フェライト率が5%以下のベイナイト組織であり、Nd系介在物の大きさが0.1〜10μmで、その個数が1000μm当たり10〜1000個の範囲内に制御されていることから、いずれも高温クリープ強度は150MPaを超えており、同時にクリープ延性も絞りが67%以上と良好であった。
これに対し、本発明で規定する範囲を外れる比較例では、クリープ強度およびクリープ延性の一方または両方が不良であり、いずれもこれらの両立を図ることができなかった。まず、鋼No.6は、本発明の鋼にとってクリープ延性を改善するうえで最も重要な元素の一つであるNdが含有されていないために、クリープ延性(絞り)が低く、Nd系介在物が生成されなかった。
鋼No.7は、Ndが含有されず、CおよびNも本発明で規定する範囲を満たしておらず、金属組織はフェライト+パーフライト組織であり、550℃×10000時間の外挿クリープ強度は66MPaと低い値であった。しかし、低強度材であるため、クリープ延性は高い値を示した。
鋼No.8は、Cが本発明で規定する範囲を満たさず、金属組織がフェライト+パーフライト組織となった。このために、550℃×10000時間の外挿クリープ強度が低い値であった。
鋼No.9は、化学成分および金属組成は本発明で規定する範囲を満たしているが、Ndの添加時期が不適切であったため、鋼中にNd系介在物が生成されず、クリープ強度は良好であるがクリープ延性は不良であった。
鋼No.10は、Nd含有量が本発明で規定する範囲を超えていたため、Nd系介在物は生成したが、その介在物の大きさの最大が19μmと粗大化し、クリープ強度およびクリープ延性ともに不良であった。
鋼No.11は、Nd含有量が本発明で規定する範囲より少なく、Nd系介在物は生成したが、その介在物の大きさの最小が0.02μmと微細であったため、回復再結晶には有効に作用せず、クリープ延性が不良となった。
鋼No.12は、化学成分および金属組成が本発明で規定する範囲を満たすが、Ndの添加時期が不適切であったため、鋼中にNd系介在物が過剰に生成し、クリープ強度は良好であるがクリープ延性が不良となった。
産業上の利用の可能性
本発明の低合金鋼は、成分組成を限定するとともに、金属組織をベイナイトまたはマルテンサイトとし、さらに、鋼材溶解時の脱酸やNd添加の時期を適宜選択しNd系介在物を適量存在させることにより、従来鋼では達成が困難であった、高温クリープ強度と長時間クリープ延性の両立について、過酷な環境下においても図ることができる。これにより、発電用ボイラやタービン、原子力発電設備等の高温、高圧下で長時間使用される耐熱構造部材用の材料として広く適用することができる。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.05〜0.70%、Mn:1.50%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Cr:0.8〜8.0%、Mo:0.01〜1.00%、Nd:0.001〜0.100%、sol.Al:0.020%以下、N:0.015%以下およびO(酸素):0.0050%以下を含み、さらにCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、V:0.5%以下、Nb:0.2%以下、W:2.0%以下、B:0.01%以下、Ti:0.020%以下およびCa:0.0050%以下のうち1種または2種以上の元素を含み、残部はFeおよび不純物からなり、
    金属組織がベイナイトまたはマルテンサイトであり、鋼中のNdを含有する介在物の大きさが0.1μm以上、10μm以下で、かつその個数が1000μm2当たり10個以上、1000個以下であることを特徴とする低合金鋼。
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