JP4809156B2 - 無機炭酸塩含有難燃性芳香族ポリアミド繊維 - Google Patents
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さらに別の方法として、繊維に高熱が付与された場合には、粒子の化合物層が燃焼を阻害する保護膜を形成し、これにより難燃性が付与される難燃性付与用の粒子を、繊維の表面に複合化する方法も提案されている(特許文献5参照)。
さらに、特許文献5においては、特殊な構造の難燃性付与用の粒子が必要である上、繊維への複合化の工程を別途実施する必要があった。
<芳香族ポリアミド繊維>
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、無機炭酸塩を含むものである。以下に、本発明の芳香族ポリアミド繊維の構成成分、原料、製造方法、および物性などについて説明する。
本発明の繊維を構成する芳香族ポリアミドとは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロル基などのハロゲン基などが含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は限定されず、パラ型、メタ型のいずれであってもよい。
また、本発明に用いられる芳香族ポリアミドとしては、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本発明の繊維を構成する芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分とを原料として用い、これらを反応せしめることにより得ることができる。
芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸クロライド成分は、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。このような芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、例えばイソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、2,5−ジクロロテレフタル酸ジクロライド、2,6−ジクロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4、4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドなどを挙げることができる。これらのなかでは、原料の汎用性並びに得られる繊維の耐熱性の観点から、テレフタル酸ジクロライドまたはイソフタル酸ジクロライドを用いることが好ましい。さらに、得られる繊維の耐熱性および機械的特性の観点から、パラ型の芳香族ポリアミドを得ることのできるテレフタル酸ジクロライドを用いることが特に好ましい。
芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。また、芳香族ジアミン成分の芳香環は、置換されていても、あるいは非置換であってもよい。
また、本発明の繊維を構成する芳香族ポリアミドは、芳香族ジアミン成分が1種単独で用いられるものであっても、あるいは2種以上が併用されるものであってもよい。
本発明の繊維の構成成分となる芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。具体的には、例えば、溶媒中において、上記の芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分とを、低温溶液重合、または界面重合することにより得ることができる。
反応の終了後には、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加して、中和反応を実施することが好ましい。
本発明において使用される無機炭酸塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むものである。本発明に用いられる無機炭酸塩は、無毒性であり、火災時に有毒ガスや腐食性ガスを発生させることなく、低発煙性のものであることが望ましく、このような無機炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ベリリウムなどが挙げられる。また、無機炭酸塩は1種単独でも、あるいは2種類以上を併用することもできる。これらの中では、取扱い性および粒子の微細化が安易な点から、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
本発明の芳香族ポリアミド繊維における無機炭酸塩の含有量は、繊維全体に対して3質量%以上50質量%以下の範囲である。含有量が3質量%未満である場合には、十分な難燃性の向上がみられず、一方で、含有量が50質量%を超える場合には、紡糸工程において生産安定性を維持することが困難となる。無機炭酸塩の含有量は、繊維全体に対して10質量%以上50質量%以下の範囲とすることがに好ましく、20質量%以上50質量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。
本発明の芳香族ポリアミド繊維における無機炭酸塩の平均粒径は、2.0μm以下であることが好ましい。繊維における平均粒径が2.0μm以下である場合には、少量の添加であっても十分な難燃性の向上がみられ、また、紡糸工程における生産安定性も良好となる。芳香族ポリアミド繊維における無機炭酸塩の平均粒径は、1.5μm以下であることがさらに好ましく、1.0μm以下であることが特に好ましい。
本発明の芳香族ポリアミド繊維においては、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において、無機炭酸塩以外の添加剤など、その他の任意成分を適宜含有させることができる。本発明に用いられる任意成分としては、例えば、繊維状、あるいは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品などの非繊維状の形状を有する充填剤が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどを挙げることができる。また、本発明の芳香族ポリアミド繊維においては、上記のようなその他成分は、1種単独のみならず2種以上を併用して使用することもできる。
本発明の芳香族ポリアミド繊維の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて製造することができ、例えば、芳香族ポリアミド、無機炭酸塩、および、溶媒を含む紡糸用溶液(ドープ)を調製し、得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出する方法が挙げられる。
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、難燃性を有するとともに、無機炭酸塩の含有量および無機炭酸塩の繊維における平均粒径を適宜制御することにより、芳香族ポリアミドが本来有する引張強度、引張弾性率などの機械的強度を保持し、かつ、紡糸工程における生産安定性が良好となるものである。本発明の芳香族ポリアミド繊維は、以下の物性を有することが好ましい。
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、無機炭酸塩を含有していない繊維と比較して、限界酸素指数(LOI値)を5%以上向上させることが可能である。本発明の芳香族ポリアミド繊維の限界酸素指数(LOI値)は、26以上であることが好ましく、28以上であることがさらに好ましい。限界酸素指数(LOI値)が26未満である場合には、難燃性繊維としての芳香族ポリアミド繊維の特徴がなくなるため好ましくない。
(測定条件)
試験片の区分 :E−2号
布帛の作成方法 :丸編生地(23ウェール/インチ、18コース/インチ)
点火器の熱源の種類:JIS K2240 1種1号(LPガス)
なお、以下の(a)もしくは(b)の早いほうで限界酸素指数を決定
(a)限界酸素指数を決定する際の燃焼長さ:50mm
(b)限界酸素指数を決定する際の燃焼時間:180秒
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、無機炭酸塩の含有量および無機炭酸塩の繊維における平均粒径を適宜制御することにより、無機炭酸塩を含有していない繊維と同等な引張強度を保持することができる。本発明の芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、15.0cN/dtex以上であることが好ましく、20.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。引張強度が15.0cN/dtex未満である場合には、高強力繊維としての芳香族ポリアミドとしての特徴がなくなるため好ましくない。
(測定条件)
測定試料長 :500mm
チャック引張速度:250mm/min
初荷重 :0.2cN/dtex
試験スタート法 :スラックスタート法
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、無機炭酸塩の含有量および無機炭酸塩の繊維における平均粒径を適宜制御することにより、紡糸工程における生産安定性を良好とすることができる。本発明における「紡糸工程における生産安定性」とは、24時間連続の紡糸テストにおいて、紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出する際の糸切れの頻度が少ないことを意味する。本発明の芳香族ポリアミド繊維は、糸切れをほとんど発生することなく連続生産することができる。
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法によって測定・評価を実施した。
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件にて測定を実施した。
(測定条件)
測定試料長 :500mm
チャック引張速度:250mm/min
初荷重 :0.2cN/dtex
試験スタート法 :スラックスタート法
JIS L 1091 E法に基づき、以下の条件にて測定を実施した。
(測定条件)
試験片の区分 :E−2号
布帛の作成方法 :丸編生地(23ウェール/インチ、18コース/インチ)
点火器の熱源の種類:JIS K2240 1種1号(LPガス)
なお、以下の(a)もしくは(b)の早いほうで限界酸素指数を決定
(a)限界酸素指数を決定する際の燃焼長さ:50mm
(b)限界酸素指数を決定する際の燃焼時間:180秒
24時間連続の紡糸テストにおいて、紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出する際の糸切れの頻度につき、以下の基準によって評価を行った。
(評価基準)
◎:0〜1回
○:2〜4回
△:5回以上
×:紡糸不可
芳香族ポリアミド繊維を繊維軸と垂直方向に切断して厚み90nmの切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて得られた切片を観察し、10μm×10μmの範囲を無作為に20箇所選択し、存在する粒子の粒子径を測定し、その平均値を求めた。
無機炭酸塩としては、炭酸カルシウム(宇部マテリアル株式会社製、商品名:CS・3N−A)を使用した。
浅田鉄工社製ビーズミル(商品名:Nano Grain Mill)を用いて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に6質量%となるように、炭酸カルシウムのNMP分散液(スラリー)を調整した。この時、メディアとしては、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
得られた炭酸カルシウム分散液、およびNMPを、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の芳香族ポリアミド)の濃度6質量%のNMP溶液中に、得られる紡糸用溶液(ドープ)中の炭酸カルシウムの含有量が芳香族ポリアミドの全質量を基準として5質量%となる割合で添加し、温度80℃で4時間撹拌混合することにより、紡糸用溶液(ドープ)を得た。
得られた紡糸用溶液(ドープ)を、孔数667ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させることにより、未延伸糸を得た(半乾半湿式紡糸法)。引き続き、得られた未延伸糸を水洗、乾燥し、次いで、温度500℃で10倍に延伸した後、巻き取ることにより、炭酸カルシウムが良好に分散した芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた芳香族ポリアミド繊維は、総繊度1100dtex、フィラメント数667フィラメント、単糸繊度1.65detx/フィラメントであった。
得られた繊維を用いて、上記の測定方法により、引張強度、引張弾性率、限界酸素指数(LOI値)、および、炭酸カルシウムの平均粒径の測定を行った。結果を表1に示す。また、繊維の紡糸工程における生産安定性の評価結果を表1に併せて示す。
炭酸カルシウムの含有量を、芳香族ポリアミドの全質量に対して10質量%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維について、実施例1と同様に各種の測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
炭酸カルシウムの含有量を、芳香族ポリアミドの全質量に対して45質量%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維について、実施例1と同様に各種の測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
炭酸カルシウムの含有量を、芳香族ポリアミドの全質量に対して10質量%となる割合で添加し、かつ、炭酸カルシウム分散液の調整の際にビーズミルを使用しない以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維について、実施例1と同様に各種の測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
炭酸カルシウムを添加しない以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維について、実施例1と同様に各種の測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
炭酸カルシウムの含有量を、芳香族ポリアミドの全質量に対して0.1質量%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維について、実施例1と同様に各種の測定・評価を実施した。結果を表1に示す。
炭酸カルシウムの含有量を、芳香族ポリアミドの全質量に対して55重量%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして紡糸を実施したが、ノズルでの糸切れが多発し、炭酸カルシウム含有芳香族ポリアミド繊維を得ることはできなかった。
Claims (5)
- 炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ベリリウムからなる群より選ばれる無機炭酸塩を、繊維全体に対して3質量%以上50質量%以下含む芳香族ポリアミド繊維。
- 前記芳香族ポリアミド繊維における前記無機炭酸塩の平均粒径は、2.0μm以下である請求項1記載の芳香族ポリアミド繊維。
- 前記芳香族ポリアミドは、パラ型芳香族ポリアミドを主成分とするものである請求項1または2記載の芳香族ポリアミド繊維。
- 前記パラ型芳香族ポリアミドは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタラミドである請求項3記載の芳香族ポリアミド繊維。
- 限界酸素指数であるLOI値が26以上である請求項1から4いずれか記載の芳香族ポリアミド繊維。
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