JP3964498B2 - ポリアミド樹脂組成物、これを用いた繊維、フィルム及び成形品 - Google Patents

ポリアミド樹脂組成物、これを用いた繊維、フィルム及び成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融紡糸性や製膜性や成形性の改善されたポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、加工性等に優れた汎用性のあるエンジニアリングプラスチックであり、タイヤコード、衣料、包装フィルムをはじめとして、自動車、家電製品、事務機器等の部品として幅広く利用されている。
【0003】
一般に、溶融重合もしくは溶融重縮合により製造されたポリアミド樹脂のチップ中には、未反応の環状モノマーやオリゴマーが10重量%程度含まれているので、熱水抽出を行ってこれらは除去されている。しかし、この熱水抽出による除去を行っても、例えば、溶融紡糸して繊維にするとき、長時間溶融押出しを行っていると、これらの環状モノマーやオリゴマーが再生成して、ノズルの吐出孔周辺に蓄積し、やがて吐出孔周辺で熱変性を起こす。その結果、吐出孔周辺で糸が変形したり、糸切れや糸むらが発生したりする。また、フィルムを製造する際には、チップの再溶融時に環状モノマーやオリゴマーが再生成するため、フィルム切れを起こしたり、品質低下をもたらすという問題があった。さらに成形品を作る際にも環状モノマーやオリゴマーが生成して金型が汚れ、品質低下を起こすという問題があった。
【0004】
そこで従来より、これらの問題を解決するために種々の方法が試みられているが、無機化合物をポリアミド樹脂に配合する方法が最も一般的な方法である。例えばポリアミドを溶融紡糸して繊維にする際、塩化バリウム等を添加すると溶融紡糸性が良好になるという提案がある(特開昭51-64017号公報)。しかしここで用いられる化合物から発生する塩化物イオンは、設備の腐食の原因等となるので好ましくない。また、その他にもポリアミドの溶融紡糸性を高める方法は種々知られており、口金に離型剤を塗布することで口金の熱変性物を低減して溶融紡糸性を高める方法(特公昭55-18478号公報)や、ピリジンチオールオキサイド化合物を添加することで溶融押出性を高める方法(特公昭55-20507号公報)がある。しかしこれらの方法では再溶融時に生成する環状モノマーやオリゴマーを抑制することは難しかった。また、ポリアミド樹脂に酸化マグネシウムを特定量配合して機械的特性や放熱性を向上させる方法(特開平1-213356号公報)や、水酸化マグネシウムを難燃剤として添加する方法(特開昭51-68651号公報)があるが、これらの方法は添加量が多い上に、再溶融時に生成する環状モノマーやオリゴマーを抑制することができなかった。また、酸化マグネシウムを配合したナイロン6組成物(特公昭55− 20007号公報)や、特定の結晶構造を有する酸化マグネシウム微粒子を特定量配合したナイロン6組成物(特公昭55− 27172号公報)等が提案されている。しかし、これらの樹脂組成物のチップを再溶融したときの環状モノマー生成量は、通常 1.0重量%を超えるものであり、上記の問題を解決するには十分といえるものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶融紡糸時や製膜時や成形時等における環状モノマー生成量が少なく、品質の良好な繊維、フィルム及び成形品とすることのできるポリアミド樹脂組成物を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のアルカリ土類金属化合物をポリアミド樹脂に配合することでこの目的が達成できることを見い出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。ポリアミドとアルカリ土類金属化合物とからなる樹脂組成物であって、ポリアミドがナイロン 6 のホモポリマーであり、かつアルカリ土類金属化合物が下記式 [1] で示される水酸化マグネシウムの混晶であり、水分率0.02重量%以下の樹脂組成物を、ガラス管中で0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した後の環状モノマー含有量が、ポリアミド100重量部に対して 0.7重量部以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(MgO) x ( Mg(OH) 2 ) 1-x [1]
(式中、xはモル分率を表し、0<x<1である。)
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いられるポリアミドは、ナイロン6のホモポリマーであり、ラクタムから形成されるアミド結合を有する溶融成形可能な重合体である。
【0010】
本発明におけるナイロン6のホモポリマーは、ε−カプロラクタムを重合することにより得られるものであり、カプロアミド単位からなるものである。
【0013】
本発明におけるポリアミドの相対粘度は、溶媒として96重量%濃硫酸を用い、温度25℃、濃度1g/dlの条件で求めた値で 1.5〜 5.0の範囲にあることが好ましい。相対粘度が 1.5未満のものでは、繊維、フィルム及び成形品にしたときの機械的強度が低下する。逆にこれが 5.0を超えるものでは、成形性が急速に低下するので好ましくない。
【0014】
本発明において、アルカリ土類金属化合物の配合量は、ポリアミド 100重量部に対して0.01〜2重量部とすることが好ましく、0.05〜1重量部とすることがより好ましい。この配合量が0.01重量部未満では、本発明の効果がほとんど期待できず、逆にこの配合量が2重量部を超えると、強伸度、透明性、耐磨耗性等のポリアミド特有の特性が損なわれ、かつ溶融紡糸のときにフィルターの目詰まりを生じたり、糸切れが生じ易くなる。また、製膜時や成形時の際には金型汚れや製品中にダイラインが生じるため、フィルムや成形品の透明性等の品質が低下する傾向がある。
【0016】
上記のアルカリ土類金属化合物は、下記式[1]で示される水酸化マグネシウムの混晶である
(MgO) x ( Mg(OH)2)1-x [1]
(式中、xはモル分率を表し、0<x<1である。)
【0017】
上記[1]の混晶は、水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムを、300 〜1500℃で空気中もしくは不活性ガス中で焼成して得られるもので、xの値は、0.01〜0.99が好ましく、0.1 〜0.9 が特に好ましい。
【0018】
なお、上記▲1▼の混晶は、その平均粒子径が7μm 以下であることが好ましく、5μm 以下であることが特に好ましい。さらに、混晶中の MgOの微結晶サイズが500 Å以下であることが好ましい。ここで、 MgOの微結晶サイズは、Cu−Kα線(50kV、200mA )を用いて測定したときの広角X線回折(200)反射プロフィルの半値幅より、Scherrer法(Scherrer法については、「ケミカルマテリアル(Chem.Mater. )第3巻、第 175〜181 頁、1991年」を参照。)を用いて算出した値である。
【0019】
上記の水酸化マグネシウムは、マグネシウムの塩をアルカリ処理を行うことによって得られるもの、酸化マグネシウムを80℃位の温水中で数時間浸積処理を行うことにより得られるもの等、最終的に95モル%以上が水酸化マグネシウムになっているものであれば、いかなるものでもよい。また、その平均粒子径が10μm 以下のものが好ましく、9μm 以下のものが特に好ましい。さらに、微結晶サイズが約1000Åであるものが好ましい。ここで、微結晶サイズは、Cu−Kα線(50kV、200mA )を用いて測定したときの広角X線回折(200)反射プロフィルの半値幅より、Scherrer法を用いて算出した値である。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法は、ポリアミドとアルカリ土類金属化合物とが均一に混合されるならいかなる方法でも用いることができるが、通常は、エクストルーダーによる混練法が採用される。エクストルーダーで混練するに際しては、アルカリ土類金属化合物のポリアミド樹脂への均一な分散を行うために、スクリューの直径が20mm以上、吐出量10g/分以上で行うことが好ましい。また、操業性をあげるために、ステアリン酸マグネシウム等を同時に混練してもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、その物性を損なわない限り、熱安定剤、耐候剤、無機充填剤、補強剤、酸化防止剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、顔料、滑剤、難燃剤等を添加することができる。
【0031】
また、本発明の樹脂組成物は、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂と混合して用いることもできる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/ブタジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレン等のエラストマー及びこれらの無水マレイン酸等による酸変性物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/フェニルマレイミド共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアリレート、ポリイミド等がある。
【0032】
さらに本発明においては、上記の樹脂組成物を用いて、常法により繊維、フィルム及び成形品にすることができる。
【0033】
【作用】
本発明のポリアミド樹脂組成物が、再溶融時に環状モノマーの生成を抑制する理由は明らかでないが、樹脂組成物中において、上記した各種のアルカリ土類金属化合物の活性点にポリアミドの末端基が配位(相互作用)することによりポリアミド分子が安定化され、高温下で溶融したときに環状モノマーの生成が抑制されるためと推定される。そのため、溶融紡糸時や製膜時や成形時等に、糸切れや糸むら、フィルム切れ、さらには金型汚れ等を起こすことがなく、安定操業が可能となると推定される。
【0034】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例並びに比較例で用いた原料及び測定法は次の通りである。
1.原料
ナイロン6のホモポリマーのチップ:ユニチカ社製、A1030BRL、相対粘度2.5
水酸化マグネシウム
赤穂化成社製、平均粒子径: 2.9μm、微結晶サイズ:約1000Å
混晶(A)
平均粒子径 2.9μmの水酸化マグネシウムを 400℃で3時間焼成することにより、(MgO)0.68(Mg(OH)2)0.32の混晶を得た。この混晶(A) の平均粒子径は 1.1μm、 MgOの微結晶サイズは 250Åであった。
【0035】
2.測定法
・ε−カプロラクタム(環状モノマー)含有量水分率0.02重量%以下の樹脂組成物を、0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した後、凍結粉砕して得られた粉砕物について測定した。ε−カプロラクタム含有量については、上記粉砕物を 100℃で5時間熱水抽出を行った後、高速液体クロマトグラフ(ウォーターズ社製、600E)を用いて、抽出水中のε−カプロラクタムを定量した。なお、高速液体クロマトグラフ測定は、次の条件で行った。
カラム:C18(ウォーターズ社製、長さ 250mm、内径 4.6mm)、溶出液:メタノール/水(35/65、体積比)、流速:0.7ml/分、検出器:UV 210nm
・混晶における酸化物の配合比(モル%)
各試料粉末について、広角X線回折装置(理学電機社製、RAD-rB)を用いて定量した。なお、X線回折測定はCu−Kα線(50KV、200mA)を用いて行った。
・混晶における配合比
焼成処理後に含まれる各アルカリ土類金属の酸化物の濃度が既知の試料を用いて検量線を作成した後、無機化合物のX線回折測定を行い、その特性ピークの強度から算出した値である。
・平均粒子径
マイクロトラック粒度分析計(日機装社製、モデル7995シリーズ SPA/SRA)を用いて、メタノール中で測定した。
【0036】
実施例1
ナイロン6のホモポリマーのチップ 100重量部に対して、混晶(A)0.5重量部を配合し、エクストルーダーによる練り込みを行って、ナイロン6と混晶(A) とが均一に混合された樹脂組成物のチップを得た。
この際、エクストルーダー内の温度は 205℃〜 255℃〜 265℃の3段階に調整されており、滞留時間は10分であった。
次に、このチップを 100℃で12時間減圧乾燥を行って水分量0.02重量%以下とし、ガラス管中で0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した。
この溶融後の樹脂組成物を液体窒素中で凍結粉砕した後、この粉砕物中のε−カプロラクタム量を高速液体クロマトグラフにより求めた。
【0040】
比較例1
ナイロン6のホモポリマーのチップを 100℃で12時間減圧乾燥を行って水分量0.02重量%以下とし、ガラス管中で0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した。
この溶融後のナイロン6を液体窒素中で凍結粉砕した後、この粉砕物中のε−カプロラクタム量を高速液体クロマトグラフにより求めた。
【0042】
実施例
ナイロン6のホモポリマーのチップ 100重量部に対して、混晶(A)1.0重量部を配合し、エクストルーダーによる練り込みを行って、ナイロン6と混晶(A) とが均一に混合された樹脂組成物のチップを得た。この際、エクストルーダー内の温度は 205℃〜 255℃〜 265℃の3段階に調整されており、滞留時間は10分であった。次に、このチップを 100℃で12時間減圧乾燥を行って水分量0.02重量%以下とし、ガラス管中で0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した。この溶融後の樹脂組成物を液体窒素中で凍結粉砕した後、この粉砕物中のε−カプロラクタム量を高速液体クロマトグラフにより求めた。
【0054】
上記実施例1〜2及び比較例1における結果をまとめて表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例
ナイロン6のホモポリマーのチップに混晶(A) が0.05重量%となるように配合し、これをエクストルーダーに供給して 255℃で溶融紡糸した。この際、口金は24ホール、Y字型吐出孔のものを用い、吐出量29g/分で押出し、4000m/分の速度で巻取って、65デニール24フィラメントの糸とした。糸切れが発生する度に口金孔周りの熱変性物を除去しつつ延べ1週間紡糸を行って、この間における糸切れの回数を調べた。
【0060】
比較例
水酸化マグネシウムを配合せず、その他は実施例と同様にして延べ1週間紡糸を行って、この間における糸切れの回数を調べた。
【0068】
上記実施例及び比較例における結果をまとめて表2に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例
ナイロン6のホモポリマーのチップに混晶(A) を1.0 重量%添加し、二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM-45型)を用い、シリンダー温度 250℃、金型温度70℃、射出時間6秒、冷却時間6秒のサイクルで2000回、射出成型を行ったところ、金型汚染はなかった。
【0071】
比較例
ナイロン6のホモポリマーのチップについて、二軸押出機(池貝鉄工社製、PCM-45型)を用い、シリンダー温度 250℃、金型温度70℃、射出時間6秒、冷却時間6秒のサイクルで2000回、射出成形を行ったところ、金型汚染が生じた。
【0072】
実施例
ナイロン6のホモポリマーのチップに混晶(A) を1.0 重量%添加し、260 ℃で溶融し、Tダイを備えた押出機より連続1週間押し出してシート状に成形し、急冷固化して平均厚さ 170μm のナイロン6フィルムを得たところ、Tダイの汚れはなかった。
【0073】
比較例
ナイロン6のホモポリマーのチップを 260℃で溶融し、Tダイを備えた押出機より連続1週間押し出してシート状に成形し、急冷固化して平均厚さ 170μm のナイロン6フィルムを得たところ、Tダイの汚染が生じた。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、溶融紡糸時や製膜時や成形時における環状モノマー生成量が少なく、品質の良好な繊維、フィルム及び成形品とすることのできるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。

Claims (5)

  1. ポリアミドとアルカリ土類金属化合物とからなる樹脂組成物であって、ポリアミドがナイロン 6 のホモポリマーであり、かつアルカリ土類金属化合物が下記式 [1] で示される水酸化マグネシウムの混晶であり、水分率0.02重量%以下の樹脂組成物を、ガラス管中で0.01Torr以下、250 ℃で8時間溶融した後の環状モノマー含有量が、ポリアミド100重量部に対して 0.7重量部以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
    (MgO) x ( Mg(OH) 2 ) 1-x [1]
    (式中、xはモル分率を表し、0<x<1である。)
  2. 前記ポリアミド 100 重量部に対して、前記アルカリ土類金属化合物を 0.01 〜2重量部配合したものである請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. 請求項1〜2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いた繊維。
  4. 請求項1〜2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いたフィルム。
  5. 請求項1〜2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いた成形品。
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