JP4534324B2 - ポリアミド系フィラメント繊維 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリアミド系フィラメント繊維に関するものである。さらに詳細には、高粘度ポリアミドを使用して例えば高強力繊維もしくは高異形・中空繊維を生産するに当たって、充分な強度、異形度、中空率を保持しつつ、高次加工でのトラブルにつながる毛羽、単糸切れ等がなく、生産性良く製造できるポリアミド系フィラメント繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド系フィラメント繊維はその優れた特性により、衣料用に限らず産業用、インテリア用など様々な分野に用いられてきた。そしてその中でさらに高い機能性、付加価値を得るために様々な改良が試みられてきた。例えば、より耐久性を向上させるための高強力化、さらには光沢性、さらさら感を付与するための高異形化、軽量性、保温性を向上させるための中空化などがその一例である。ここで、高強力糸、高異形糸、高中空率糸を得るための手段としては、原料ポリアミドの高粘度化によるものが一般的であり、従来よりなされてきた。
【0003】
高粘度ポリマーを使用して高強力ポリアミド系フィラメント繊維を得る方法としては特開平10−310932号公報などにより提案されている。ここで、高粘度ポリマーを使用した際、通常ポリマーに比べて糸条が剛直であるため、油剤付与ガイド、方向転換ガイドと接触することによる擦過抵抗が大きくなる。擦過されてダメージを受けた部分は、延伸されたときに切れて毛羽、単糸切れとなる。高強力糸の場合は、通常糸と比べて延伸倍率が高いことも、毛羽、単糸切れが発生しやすくなる一因となっている。この欠点を克服するために油剤付与ガイドの形状、材質等が検討されてきたが、その効果は必ずしも充分とはいえない。
【0004】
また、光沢性、さらさら感を得るための高異形糸は通常の丸断面糸と比べて油剤付与ガイドにおける擦過抵抗が大きく、毛羽、単糸切れが発生しやすくなる。さらには、軽量性、保温性を得るための中空糸についても、通常の丸断面糸と比較して油剤付与ガイドでの擦過に弱く、中空破れ、毛羽、単糸切れが発生しやすい。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来の技術の問題点を解決し、高強力糸、高異形糸、中空糸などに代表される高粘度ポリアミド系フィラメント繊維において毛羽、単糸切れといった製品欠点の無い繊維を提供することを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のポリアミド系フィラメント繊維は主として次の構成を有する。すなわち、硫酸相対粘度(ηr)が2.90以上であり、かつポリアミドに対して酸化マグネシウムを0.01〜1重量%含有するポリアミド系フィラメント繊維であって、かつ該繊維が下記(A)〜(C)から選択される特徴を有するポリアミド系フィラメント繊維である。
(A)繊維の破断強度が5.5cN/dtex以上である。
(B)繊維が異形断面を有し、その断面の異形度が1.4以上である。
(C)繊維横断面方向に中空部を有し、中空率が10%以上である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のポリアミド系フィラメント繊維の主成分は、ポリアミドであり、ポリアミドのホモポリマーまたはコポリマーであり、これらのポリアミドは、ラクタム、アミノカルボン酸あるいはジアミノとジカルボン酸との塩から形成されるアミド結合を有する溶融成形可能な重合体である。ポリアミドとしては、種々のポリアミドを使用することができ、特に限定されないが、繊維形成能および力学的特性の点でポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)が好ましい。 ポリアミドのコポリマーとしては、20モル%以下の割合で他のアミノカプロン酸、ラクタムなどを共重合されたものが使用できる。
【0008】
本発明のポリアミド系フィラメント繊維の硫酸相対粘度(ηr)は2.90以上でなければならない。2.90未満では、目的である高強力糸、高異形糸、高中空率糸が得られないのとともに、そもそもガイド類との擦過抵抗が少ないために、毛羽、単糸切れといった問題が発生していないからである。また、硫酸相対粘度は好ましくは、5以下である。硫酸相対粘度が5を越すと成形性が低下する傾向にある。ここで硫酸相対粘度とは、ポリアミド系フィラメント繊維1gを100mlの98%硫酸に溶かした溶液について25℃で測定した相対粘度をいう。
【0009】
本発明のポリアミド系フィラメント繊維はマグネシウム化合物である酸化マグネシウム(以下マグネシウム化合物と称することもある)を含有することが必要である。かかるマグネシウム化合物を含有せしめることにより、繊維とガイドなどの接触物との摩擦抵抗を小さくすることができる。
【0011】
本発明のポリアミド系フィラメント繊維に含有されるマグネシウム化合物はポリアミドに対して0.01〜1重量%でなければならない。0.01%未満ではガイド類との擦過抵抗低減効果が不充分であり、毛羽、単糸切減少の効果は少ない。一方、1%を超えると、製糸性が不安定になるとともに強度低下が発生し好ましくない。
【0012】
これらマグネシウム化合物の添加は、ポリアミドの重合時におこなっても良く、またポリアミドチップとドライブレンドをおこなっても良い。
【0013】
また、本発明のポリアミド系フィラメント繊維にはポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、架橋ポリエチレンオキサイド系ポリマーなどの吸湿・吸水物質やポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の汎用熱可塑性樹脂が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていても良い。また、カーボンブラック等の顔料の他従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていもても良い。さらには、艶消剤として酸化チタンが含有されても良いが、含有されていない方が、マグネシウム化合物を含有させたときの毛羽、単糸切れ改善効果が大きくなるのでより好ましい。
【0014】
本発明のポリアミド系フィラメント繊維は延伸糸であっても良いし、半延伸糸(POY)であってもよい。ただし延伸糸、しかも破断強度が5.5cN/dtex以上の高強力糸の方が従来法での毛羽、単糸切れが発生しやすいためにマグネシウム化合物を含有させたときの改善効果が大きく好ましい。
【0015】
また、本発明のポリアミド系フィラメント繊維の断面形状は丸断面、凸型断面、三角断面、マルチローバル断面、扁平断面、H型断面、π型断面、C型断面、中空断面その他公知の異形断面でも良い。また、2種類以上の異形断面を混繊した断面ミックスマルチフィラメントであっても良い。その中でも、毛羽、単糸切れの改善効果が大きいという観点から、3〜8個の凹部と同数の凸部を有する異形度1.4以上の異形断面糸が好ましく使用でき、そのうちさらに、マルチローバル断面、もしくは中空率10%以上の中空断面を有する繊維が好ましい。ここで、異形度とは繊維を横断面方向にカッティングした上で顕微鏡で観察し、異形断面の外接円R1と、内接円R2の半径比R1/R2より算出した値を言う。また、繊維の中空率とは、繊維を横断面方向にカッティングした上で顕微鏡で観察し、中空部を含めた全体の糸断面積と、中空部断面積の比率より算出した値を言う。
【0016】
次に本発明のポリアミド系フィラメント繊維の製造方法の一例を図1をもって説明する。まず、重合時添加もしくはドライブレンドによりマグネシウム化合物を含有させたポリアミドチップを溶融し、紡糸口金1からフィラメントaとして紡糸し、第1ゴデーローラー5で引き取る間に、紡糸口金1の下方で溶融紡出糸条aをクーリングチムニー2から吹き出す冷風により冷却し、給油ガイド3により油剤を付与し、圧空交絡ノズル4によって交絡を与えて集束性が得られるようにする。第1ゴデーローラー5に引き続いて、この第1ゴデーローラー5よりも速い表面速度で回転する第2ゴデーローラー6に引き取ることにより、上記未延伸の糸条aを延伸して延伸フィラメントbにし、最後にスピンドル駆動されるボビンホルダー7上のボビンに巻き上げられてパッケージPになる。パッケージPの表面にはタッチローラー8を押圧し、そのパッケージ形状が良好になるように整える。
【0017】
かくして本発明のポリアミド系フィラメント繊維を得ることができる。
【0018】
【実施例】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。実施例中の各特性値は次の方法によって求めた。
A.破断強度
試料となる糸をオリエンテック社製”テンシロンRTC−1210”を用いて試料長500mm、引張速度500mm/minの条件で引張試験をおこない、別に測定した繊度と合わせて破断強度を算出した。
【0019】
B.異形度
試料となる糸を横断面方向にカッティングした上で顕微鏡で観察し、異形断面の外接円R1と、内接円R2の半径比R1/R2より算出する。
【0020】
C.中空率
試料となる糸を横断面方向にカッティングした上で顕微鏡で観察し、中空部を含めた全体の糸断面積と、中空部断面積の比率より算出する
D.毛羽、単糸切れ頻度
試料となる糸のパッケージを600本用意し、クリール整経機に仕掛けて速度480m/minで整経をおこない、毛羽による停台回数をカウントする。整経は最低108m以上おこない、停台回数を整経長で割ることにより、毛羽頻度(ヶ/107 m)とする。
【0021】
E.編地の破裂強度
44デシテックス/13フィラメントのマルチフィラメント糸を32ゲージにてハーフトリコットに編立て、常法により染色加工したものを試料とし、JISL1018A法に従い破裂強度(kgf/cm2)を測定した。破断強度が2.0kgf/cm2以上のものを○、それに満たないものを×とした。
【0022】
(実施例1)
酸化チタンを含有しないナイロン6に酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドしたものを紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率2.2倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの三角断面マルチフィラメント糸を得た。得られたマルチフィラメント糸の破断強度は6.1cN/dtex、異形度は2.1であった。また、マルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrは3.20であった。
【0023】
次にこのマルチフィラメント糸を600本用意し、クリール整経機に仕掛けて速度480m/minで整経をおこなった。108m整経したところ、毛羽による停台回数は5回であった(毛羽頻度:0.5ヶ/107m)。また、整経したマルチフィラメント糸を常法によって編成、精錬、染色、仕上げセットすることによりハーフトリコットを得たところ、タテスジ等の欠点はなく、高品質のものが得られた。
【0024】
(実施例2、比較例1)
酸化チタンを含有しないナイロン6を用いて、実施例2では酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドし、比較例1では酸化マグネシウム無添加でそれぞれ紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率2.0倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの三角断面マルチフィラメント糸を得た。得られたマルチフィラメント糸の破断強度はともに5.0cN/dtex、異形度は1.7であった。また、マルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrはともに2.95であった。次に実施例1の場合と同様に整経をおこなったところ、毛羽頻度は実施例2が0.4ヶ/107m、比較例1が1.1ヶ/107mとなり、酸化マグネシウム添加による毛羽頻度の改善が見られた。
【0025】
(比較例2,3)
酸化チタンを含有しないナイロン6を用いて、比較例2では酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドし、比較例3では酸化マグネシウム無添加でそれぞれ紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率1.9倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの三角断面マルチフィラメント糸を得た。得られたマルチフィラメント糸の破断強度はそれぞれ4.4cN/dtex、4.5cN/dtex、異形度はともに1.2であった。また、マルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrはともに2.85であった。毛羽頻度はそれぞれ0.4ヶ/107m、0.6ヶ/107mと良好であったものの、編地の破裂強度が小さく、要求を満足するレベルに到達しなかった。
【0026】
(実施例3,4、比較例4,5)
酸化マグネシウム添加量を表1に示したように変えた以外は実施例1と同条件で溶融紡糸し、整経による毛羽頻度評価をおこなった。実施例3,4では毛羽頻度が低く良好であったのに対し、比較例4では毛羽頻度が高かった。また、比較例5では溶融紡糸時に糸切れが多発し、生産に耐えうるレベルではなかった。
【0027】
(実施例5、比較例6)
酸化チタン含有量が0.35重量%であるナイロン6を用いて、実施例5では酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドし、比較例6では酸化マグネシウム無添加で紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率2.2倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの三角断面マルチフィラメント糸を得た。得られたマルチフィラメント糸の破断強度はともに5.8cN/dtex、異形度はともに2.0であった。また、マルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrはともに3.20であった。次に実施例1の時と同様に整経をおこなったところ、毛羽頻度は実施例5が0.5ヶ/107m、比較例6が0.9ヶ/107mとなり、酸化チタン非含有時と比べて改善幅は小さいが、酸化マグネシウム添加により毛羽頻度が低減した。
【0028】
(実施例6、比較例7)
酸化チタンを含有量しないナイロン6を用いて、実施例6では酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドし、比較例7では酸化マグネシウム無添加で紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率2.3倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの丸断面マルチフィラメント糸を得た。得られたマルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrは3.20であった。毛羽頻度は実施例6が0.4ヶ/107m、比較例7が0.8ヶ/107mとなり、異形断面糸と比べて改善幅は小さいが、酸化マグネシウム添加により毛羽頻度が低減した。
【0029】
(実施例7、比較例8)
酸化チタン含有しないナイロン6を用いて、実施例7では酸化マグネシウムを0.05重量%ドライチップブレンドし、比較例8では酸化マグネシウム無添加で紡糸温度280℃、巻取速度4000m/min、延伸倍率1.8倍で溶融紡糸して44デシテックス/13フィラメントの丸形中空断面マルチフィラメント糸を得た。マルチフィラメント糸の破断強度は実施例7が5.2cN/dtex、比較例8が5.4cN/dtex、中空率は実施例7が15%、比較例8が16%であった。また、マルチフィラメント糸の硫酸相対粘度ηrは3.20であった。毛羽頻度は実施例7が0.7ヶ/107m、比較例7が2.5ヶ/107mとなり、酸化マグネシウム添加により毛羽頻度が大幅に低減した。
【0030】
【表1】
Figure 0004534324
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、高粘度ポリアミドを用いて高強力糸、高異形糸、高中空率糸を生産する際に、高次加工でのトラブルにつながる毛羽、単糸切れ等がなく、生産性良く製造できるポリアミド系フィラメント繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリアミド系フィラメント繊維を製造するための溶融紡糸装置の一例の概略図
【符号の説明】
1 溶融紡糸口金
2 クーリングチムニー
3 油剤付与ガイド
4 圧空交絡ガイド
5 第1ゴデーローラー
6 第2ゴデーローラー
7 ボビンホルダー
8 タッチローラー

Claims (2)

  1. 硫酸相対粘度(ηr)が2.90以上であり、かつポリアミドに対して酸化マグネシウムを0.01〜1重量%含有するポリアミド系フィラメント繊維であって、かつ該繊維が下記(A)〜(C)から選択される特徴を有するポリアミド系フィラメント繊維。
    (A)繊維の破断強度が5.5cN/dtex以上である。
    (B)繊維が異形断面を有し、その断面の異形度が1.4以上である。
    (C)繊維横断面方向に中空部を有し、中空率が10%以上である。
  2. 前記(B)〜(C)から選択される特徴を有する請求項1記載のポリアミド系フィラメント繊維。
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