JP4801852B2 - 無機イオン交換体−親水性高分子複合体およびその製造方法 - Google Patents

無機イオン交換体−親水性高分子複合体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高い吸着能力を有する無機イオン交換体−親水性高分子複合体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで無機多孔物を大量にセルロースと一緒にした製品として、焼き物の材料である粘土とパルプ繊維を混抄したもの(陶紙と呼ばれる)が知られており、折り鶴や兜の陶器といった、従来では造形が困難であったものを作成する用途に用いられている。一方、藁と珪藻土(非晶質シリカ)あるいは遠赤外線セラミックスよりなる土壁は、和室等に施工され、VOC(揮発性有機化合物)や悪臭の除去、調湿あるいは健康維持といった目的で用いられている。
【0003】
陶紙(代表的な配合比;無機物80:パルプ繊維20)の場合には、陶器としての意匠性を出す目的で用いられるものであり、得られたものは高機能を有していない。また、無機物として水の中で膨潤し、少量のパルプ繊維で歩留まる性質を有する粘土しか含有できない。しかも焼くことによって焼結する粘土でなければ意味はない。さらに、最終製品としてはセルロース分を焼いてしまうため複合材とはなっていない。また、粘土自体が乾燥しにくく、水はけしにくいため生産性が低い。さらに、パルプ繊維はシート化の補助剤として含まれているに過ぎない。また、シートとしての強度は非常に低い。
【0004】
一方、土壁(代表的な配合比;無機物95:藁5)は、珪藻土あるいはセラミックスと漆喰、石灰あるいはセメントとの混合品である。しかしながら、最も薄い施工でも0.5cmの厚さを有する板(ボード)しか得られない。すなわち、シートとしては得られない。また、ボード中に珪藻土が存在するが、埋め込まれているため表面積が減少しており、吸着能力は低い。また、セラミックスを含有することができるが、他の無機物の配合により希釈されるので、効果が低下する。さらに、通常現地で施工されるため、生産性が悪く、しかも高価である。
【0005】
さらに、陶紙および土壁の両者に共通して、粉落ち、施工に熟練工が必要、高機能を有する無機物との複合化には不向きである等の問題点があった。
【0006】
また、これらとは全く別の観点から、悪臭除去シートや、陽イオン交換濾紙、抗菌紙等の用途で用いることができる、セルロースの実体内に無機イオン交換体を含有する複合体が開発されている(特開平10−120923号公報等)。しかしながら、この複合体の無機イオン交換体の含有率は低く、無機イオン交換体を高含有率で含有するものはほとんど得られていないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた吸着能力および難燃性を有する、親水性高分子の実体内に無機イオン交換体を多量に含有する無機イオン交換体−親水性高分子複合体およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなる無機イオン交換体−親水性高分子複合体(特に親水性高分子の実体外に存在する無機イオン交換体を除去した複合体)を出発原料として、該複合体を膨潤させ、複数の水溶性化合物および塩基性物質とを該親水性高分子の実体内で反応させる工程を1回以上繰り返すことで、該複合体の親水性高分子の実体内に多量の無機イオン交換体を合成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
〔1〕 親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなり、該無機イオン交換体の含有率が60重量%以上であり、かつ、イオン交換容量が1.0meq/g以上であることを特徴とする、無機イオン交換体−親水性高分子複合体。
〔2〕 無機イオン交換体が、親水性ゼオライトである、〔1〕記載の複合体。
〔3〕 親水性高分子が、セルロースである、〔1〕または〔2〕記載の複合体。
〔4〕 セルロースが、天然セルロースである、〔3〕記載の複合体。
〔5〕 親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなる無機イオン交換体−親水性高分子複合体を出発原料として、以下の工程(1)を1回以上繰り返すことを特徴とする、〔1〕記載の無機イオン交換体−親水性高分子複合体の製造方法:
(1)親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなる無機イオン交換体−親水性高分子複合体を膨潤させ、複数の水溶性化合物および塩基性物質とを該親水性高分子の実体内で反応させることにより、該複合体の無機イオン交換体含有量を増加させる工程。
〔6〕 出発原料または工程(1)で得られた無機イオン交換体−親水性高分子複合体に対して、工程(1)を行う前に以下の工程(2)を行うことを特徴とする、〔5〕記載の方法:
(2)該無機イオン交換体−親水性高分子複合体より実体外に存在する無機イオン交換体を除去する工程。
〔7〕 工程(2)が、無機イオン交換体−親水性高分子複合体を水で洗浄する工程である、〔6〕記載の方法。
〔8〕 出発原料の無機イオン交換体−親水性高分子複合体が、親水性高分子複合体を膨潤させ、複数の水溶性化合物および塩基性物質とを該親水性高分子の実体内で反応させることにより得られたものである、〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 複数の水溶性化合物が、ケイ素化合物およびアルミニウム化合物である、〔5〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 無機イオン交換体が、親水性ゼオライトである、〔5〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕 親水性高分子が、セルロースである、〔5〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 セルロースが、天然セルロースである、〔11〕記載の方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の無機イオン交換体−親水性高分子複合体は、親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなり、該無機イオン交換体の含有率が60重量%以上であり、かつ、イオン交換容量が1.0meq/g以上であるものであって、優れた吸着能力および難燃性を示すものである。
【0010】
上記複合体における親水性高分子としては、水に対して膨潤するものであれば特に制限はない。例えば、天然セルロース(パルプ、ケナフ、木綿、麻等)、再生セルロース(セロハン、セルロースビーズ、レーヨン、セルローススポンジ等)、バクテリアセルロースおよびセルロースを化学修飾したエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、更には絹、羊毛、ポリビニルアルコール、架橋型ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルホルマール等の天然、あるいは人工の親水性高分子、ポリアクリルアミド等の高吸水性高分子ゲル、コラーゲン、プロポリス、漆、木粉等が挙げられる。
なかでも、実際の使用形態、価格および取り扱い易さの点から、天然セルロース(特にパルプ)や再生セルロースが好ましく使用される。
【0011】
上記複合体における無機イオン交換体としては、親水性高分子を溶解、分解または崩壊させないものであれば特に制限はないが、吸着能力の点から、多孔質であるものが好ましい。このようなものとしては、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ハイドロキシアパタイト、粘土鉱物類等が挙げられる。なかでも、最も用途が広いという点から、ゼオライトが好ましい。
また、これらの無機イオン交換体は、2種以上併用することができる。
【0012】
ゼオライトとしては、ゼオライト骨格中のアルミニウム1原子に対するケイ素原子の割合(Si/Al比)についても種々の値を有するゼオライトが挙げられ、例えば、A型ゼオライト(Si/Al比:1)、X型ゼオライト(Si/Al比:1.0〜1.5)、Y型ゼオライト(Si/Al比:1.5〜3.0)、ZSM−5型ゼオライト(Si/Al比:10以上)、ZSM−11型ゼオライト(Si/Al比:10以上)、シリカライト(Si/Al比:無限大)、一部の合成モルデナイト(Si/Al比:10〜12)等が挙げられる。
【0013】
上記ゼオライトのなかでも、用途が広いことから、親水性ゼオライトが好ましい。親水性ゼオライトとは、水とベンゼンの選択性では水をより多く吸着するものである。例えば、上記ゼオライトのうちSi/Al比が10未満のもの、具体的には、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト等が挙げられる。親水性ゼオライトのなかでも、比較的合成が容易であるという点から、4Aゼオライト〔Na12Si12Al1248・27H2O〕が特に好ましい。
【0014】
上記親水性ゼオライトは、一般的に酸に弱く、pH4以下で構造が破壊される。このため、親水性高分子の実体内に含有させるために親水性ゼオライトが酸性浴を通過するような工程を経る複合体の製造方法(特開2001−98110号公報)では、親水性高分子に親水性ゼオライトを60重量%以上含有させることが困難であった。
【0015】
また、上記複合体は、本発明の目的が達成される範囲内で無機イオン交換体以外のものを含有していてもよい。このようなものとしては、例えば、粉末状活性炭、粒状活性炭、芳香族化合物、脂肪族化合物、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、トルマリン等の天然鉱物、リグニン等の高分子物質、セルラーゼ等の酵素等が挙げられる。
【0016】
上記複合体における無機イオン交換体の含有率は60重量%以上、好ましくは60〜95重量%であり、より好ましくは65〜90重量%である。当該含有率が60重量%未満であると満足される吸着能力(比表面積およびイオン交換能力)および難燃性を有する複合体とはならない。また、95重量%を超えると形態を維持できない程度までもろくなり得る。
【0017】
上記複合体において、無機イオン交換体は親水性高分子の実体内に含有される。ここで親水性高分子の実体内とは、例えば、親水性高分子がパルプ等の天然セルロースの場合、天然セルロースを構成成分とする基材の内部、より詳細には、細胞壁を構成するミクロフィブリル(φ約0.1μm)とミクロフィブリルとの隙間(100〜5000Å)を膨潤させることによって生じる部位(サイト)あるいはミクロフィブリル中のミセルで、セルロース分子鎖が結晶化していない領域を膨潤させることによって生じる部位(サイト)を意味し、例えば、セルロースの細胞壁表面、細胞壁内に元々存在する細孔および細胞内腔(ルーメン)は含まれない。
【0018】
また、親水性高分子の実体内に無機イオン交換体が含有されるとは、無機イオン交換体の一部または全部が親水性高分子の実体内に含有されることを意味する。ただし、後記洗浄工程において脱落、除去されるものは、本発明における親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体には含まれない。
【0019】
本発明において、親水性高分子の実体外とは、上記親水性高分子の実体内以外の箇所を意味し、後記洗浄工程で生成した無機イオン交換体が除去、脱落する全ての部位のことをいう。
【0020】
本発明の複合体のイオン交換容量は、1.0meq/g以上であり、好ましくは1.5〜5.5meq/g、より好ましくは2.0〜5.0meq/gである。イオン交換容量が1.0meq/g未満では吸着能力が充分なものとはならない。
なお、ここでいうイオン交換容量は、ガラスカラムに試料1gを入れ、0.1mmol/lのNH4Cl水溶液を5ml/minの流速で流し、NH4 +イオンが破過して濾液に検出されたときの試料中に取り込まれた全NH4 +イオン量で示される。
【0021】
また、上記複合体の比表面積は、吸着能力の点から、好ましくは150〜2,500m2/gであり、より好ましくは200〜2,000m2/gである。
なお、ここでいう比表面積は、ブルナウアー・エメット・テーラー法(化学大辞典7、1997年、共立出版(株))により測定されるものである。
【0022】
さらに、上記複合体は、JIS L 1901「繊維製品の燃焼性試験方法」のA−1法(45°ミクロバーナ法)に準拠して測定した際に、好ましくは区分2および3に該当するものであり、より好ましくは区分3に該当するような高い難燃性を有する。
【0023】
本発明の複合体の形状は、特に限定されず、例えば、シート状物、粒状物、繊維状物、糸状物、棒状物、管状物、板状物、段ボールハニカム状物、不定形状物等が挙げられる。また、これらは多孔質であってもよい。複合体とした後に所定の形態になるように加工することもできるが、柔軟性を有し、取り扱いが容易な親水性高分子を予め所定の形態に製造または加工した後、無機イオン交換体をその実体内で反応させることにより複合体化することが容易であり好ましい。
【0024】
上記複合体は、(1)親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなる無機イオン交換体−親水性高分子複合体を膨潤させ、複数の水溶性化合物および塩基性物質とを該親水性高分子の実体内で反応させることにより、該複合体の無機イオン交換体含有量を増加させる工程を1回以上繰り返すことで製造することができる。なお、当該工程(1)は、特開平10−120923号公報に記載される方法に準じて行うことができる。
【0025】
上記工程(1)の出発材料となる親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有される無機イオン交換体よりなる無機イオン交換体−親水性高分子複合体は、特に限定されず、例えば、特開平10−120923号公報に開示されたものが挙げられる。また、当該複合体としては、無機イオン交換体が親水性高分子の実体外に存在していないものが好ましい。これは親水性高分子の実体外に無機イオン交換体が存在していると、親水性高分子の実体内における無機イオン交換体の生成・成長を妨害するためである。その理由としては、親水性高分子の実体内に無機イオン交換体を生成・成長させるために加えられる原料は、核となる種結晶が反応系内に存在すると実体内、実体外の区別なくその種結晶の成長のために使われるが、その結果、後記洗浄によって除去、脱落し得る実体外の結晶の生成・成長のために無駄に消費されてしまうためであると考えられる。したがって、当該工程(1)を行う前に後記のようにして当該複合体より親水性高分子の実体外に存在する無機イオン交換体を除去することが好ましい。
【0026】
上記複数の水溶性化合物は、親水性高分子の実体内で生成させる無機イオン交換体に応じて適宜選択されるものである。例えば、無機イオン交換体がゼオライトの場合では、ケイ素化合物およびアルミニウム化合物を、ハイドロキシアパタイトの場合では、リン化合物およびカルシウム化合物を用いることができる。なお、本明細書でいう水溶性化合物には、本明細書でいう塩基性物質は含まれない。
【0027】
以下、無機イオン交換体がゼオライトであり、親水性高分子がセルロースであるゼオライト−セルロース複合体を出発材料とする場合の一例を挙げて、当該工程(1)を詳細に説明する。
【0028】
まず、上記複合体にケイ素化合物および塩基性物質の混合水溶液を含浸させる。その含浸方法は特に制限はなく、例えば、複合体を混合水溶液に浸漬する、混合水溶液を複合体にスプレーする、または混合水溶液を各種コーターで塗布する等の方法を用いることができる。
【0029】
上記ケイ素化合物としては、水に溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、水ガラス、シリカゾル、液体ケイ酸ソーダ等が挙げられるが、水に対する溶解度が高く、結晶性の高いゼオライトが得られる点から、メタケイ酸ナトリウムが好ましい。当該ケイ素化合物の水溶液の濃度は特に制限はないが、好ましくは1.0〜1,000mmol/l、さらに好ましくは100〜500mmol/lである。
【0030】
上記塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、液体苛性ソーダ、液体苛性カリ等が挙げられるが、水に対する溶解度が高く、結晶性の高いゼオライトが得られる点から、水酸化ナトリウムが好ましい。当該塩基性物質の濃度は、ゼオライトを結晶化させるために、かなり高いアルカリ濃度が必要であることから、好ましくは10〜10,000mmol/l、さらに好ましくは100〜5,000mmol/lである。
【0031】
上記混合水溶液を含浸させた複合体は、含浸された溶液の量を調節することが好ましい。その方法としてブレードで掻き取る、ロール間で絞る、またはプレスで絞る方法等が用いられる。調節後の含浸溶液の量に特に制限はないが、上記複合体の乾燥重量に対して1.0〜20倍の範囲に調節することが好ましい。
【0032】
上記混合水溶液を含浸させた複合体は、溶液が充分浸透するように溶液の量を調節する前または後に含浸時間をおいてもよい。含浸時間としては、好ましくは10分〜2時間であり、複合体を構成するセルロースの種類により適宜選択できる。
【0033】
次に上記混合溶液の量を調節した複合体を、アルミニウム化合物の水溶液に浸漬させる。アルミニウム化合物としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、液体アルミン酸ソーダ、液体アルミン酸カリ等が挙げられるが、水に対する溶解度が高く、結晶性の高いゼオライトが得られる点から、液体アルミン酸ソーダが好ましい。当該アルミニウム化合物の水溶液の濃度は特に制限はないが、好ましくは10〜10,000mmol/l、さらに好ましくは20〜5,000mmol/lである。
【0034】
浸漬する温度は、好ましくは20〜100℃であり、さらに好ましくは40〜60℃である。浸漬する時間は、好ましくは2時間〜20日間であり、さらに好ましくは4時間〜2日間である。
【0035】
また、ケイ素化合物とアルミニウム化合物と塩基性物質とのモル比は、好ましくは1:1〜10:10〜50であり、さらに好ましくは1:3〜5:12〜30である。塩基性物質をケイ素化合物およびアルミニウム化合物に対して過剰に加えているが、これは、特に4Aゼオライトの場合、ゼオライト結晶自体が準安定相であるために、過剰のアルカリ条件下以外では合成できないためである。
【0036】
ここで、ケイ素化合物とアルミニウム化合物と塩基性物質とのモル比とは、ケイ素化合物中に含まれるケイ素と、アルミニウム化合物に含まれるアルミニウムと、塩基性物質に含まれる水酸化物イオン(それ自身が水酸化物イオンを含有せず、水溶液とした場合に水酸化物イオンを生成させるものでは、生成される水酸化物イオン)のモル比をいう。また、上記の各成分の水溶液中のモル濃度も同様にケイ素、アルミニウム、水酸化物イオンについての値である。
【0037】
上記工程(1)において、ケイ素化合物、アルミニウム化合物および塩基性物質の各水溶液の含浸順序は、ケイ素化合物およびアルミニウム化合物を混合した時点でゲルが生成するので両者を同時に上記複合体に含浸させることはできないが、その他の順序ならば特に制限はない。すなわち、アルミニウム化合物および塩基性物質の混合水溶液を先に含浸させて、次いでケイ素化合物の水溶液を含浸させてもよく、また、ケイ素化合物あるいはアルミニウム化合物のどちらか一方の化合物の水溶液を先に含浸させて、次いで他方の化合物と塩基性物質の混合水溶液を含浸させてもよい。さらに、塩基性物質の水溶液を複合体に含浸させて、次いでケイ素化合物あるいはアルミニウム化合物のどちらか一方の化合物の水溶液を含浸させ、最後に他方の化合物の水溶液に含浸させるような3工程を経てもよい。
【0038】
上記工程(1)の反応によって出発材料の複合体よりも実体内に含有される無機イオン交換体含有量が増加した複合体は、遠心分離法、濾過法(フィルタープレス法、吸引法)等の従来公知の固液分離方法を用いて反応系より分離することができる。なかでも、簡便であることから、遠心分離方法が好ましい。
【0039】
必要に応じて、上記工程(1)で得られた複合体に対して、上記工程(1)を繰り返し適用してもよい。この際、上記工程(1)によって得られた複合体は、上記と同様の理由から、親水性高分子の実体外に無機イオン交換体が存在していないものが好ましいので、上記工程(1)を行う前に、後記工程(2)のようにして親水性高分子の実体外に存在する無機イオン交換体を除去してもよい。
【0040】
本発明における無機イオン交換体−親水性高分子複合体より実体外に存在している無機イオン交換体を除去する工程(2)としては、親水性高分子の実体外に存在する無機イオン交換体を除去することができる方法であれば、いかなる方法でも用いることができる。好ましくは、簡便であることから、水による洗浄が挙げられる。
【0041】
好ましい水洗方法としては、5〜90℃(好ましくは15〜60℃)の水に複合体を拡散させて0.01〜5重量%(好ましくは0.05〜2.5重量%)の濃度のスラリーとし、これを撹拌および/または超音波振動を行うことによる洗浄方法、あるいは5〜90℃(好ましくは15〜60℃)の高速(1.0〜3.0l/s、好ましくは1.5〜2.5l/s)の水流を高圧(0.5〜2.0MPa、好ましくは0.75〜1.5MPa)で直接吹き付けることによる洗浄方法が挙げられるが、簡便であることから、0.01〜5重量%の濃度のスラリー状態での洗浄が特に好ましい。また、洗浄水の温度が5℃未満であると、残存する原料溶液の洗浄効率が著しく落ちるので好ましくなく、一方、水温が90℃を超えると、配管を特別な材質(SUS等)にする必要があるばかりでなく、作業者の安全性(熱傷防止等)の観点からも好ましくない。
【0042】
上記0.01〜5重量%のスラリー状態での洗浄方法においては、高速で激しい撹拌および/または超音波振動は必要ない。これは実体外に生成した無機イオン交換体と親水性高分子あるいは複合体との間にはファンデルワールス力程度の弱い結合力しかないため、弱い緩やかな撹拌および/または超音波振動でも実体外の無機イオン交換体を容易に除去できるためである。また仮に激しい撹拌および/または超音波振動を行う場合、複合体自体に損傷を与える危険があることからも好ましくない。
【0043】
したがって、攪拌条件としては、好ましくは100〜400r.p.m、さらに好ましくは150〜300r.p.mである。また、超音波振動条件としては、好ましくは2,000〜40,000Hz、さらに好ましくは25,000〜30,000Hzである。また、攪拌および/または超音波振動の時間は、攪拌および/または超音波振動条件に応じて適宜設定することができるが、複合体自体に損傷を与えないという点から、好ましくは10〜20分間である。
【0044】
また、攪拌装置としては、特に限定されず、従来公知の攪拌機、例えば、スリーワンモーター(新東科学(株)製:型式BL300、定格トルク9kgf・cm)、マグネチックスターラー((株)井内盛栄堂製:型式TR−500)等を使用することができるが、パルプスラリーを攪拌するだけのトルクを必要とする点から、スリーワンモーターが好ましい。また、超音波発生装置も特に限定されず、従来公知の超音波発生装置、例えば、超音波洗浄器卓上型((株)井内盛栄堂製:型式VS−50R)、ソノクリーナー50Z((株)カイジョー製:型式CA2488Z)等を使用して行うことができる。
【0045】
上記水洗において、親水性高分子の実体外の無機イオン交換体の除去の程度は、洗浄後の洗浄水のpHを指標にすることができる。すなわち、洗浄後の洗浄水のpHが11以下(より好ましくは10以下)になるまで洗浄すれば、親水性高分子の実体外の無機イオン交換体の除去は充分である、とすることができる。
【0046】
上記洗浄後、遠心分離法、濾過法(フィルタープレス法、吸引法)等の従来公知の固液分離方法を用いて固液分離することにより、実体外に存在する無機イオン交換体が除去された複合体を得ることができる。固液分離方法としては、簡便であることから、遠心分離法が好ましい。
【0047】
上記工程(2)としては、具体的には、例えば、無機イオン交換体が4Aゼオライトであり、親水性高分子がパルプである4Aゼオライト−パルプ複合体である場合、通常、25℃の水に複合体を拡散させて、0.1重量%の濃度のスラリーとし、これをスリーワンモーター等の撹拌機を用いて200r.p.mで15分間撹拌したのち、遠心分離機で分離する方法、あるいは遠心分離の際に25℃の水流(1.5l/s、1MPa)を直接吹き付ける方法等が挙げられる。
【0048】
以上のようにして得られる本発明の複合体は、非常に優れた吸着能力と難燃性を兼ね備えている。これは、当該複合体においては、親水性高分子の実体内に不燃物である無機イオン交換体が60重量%以上という高密度で、かつ、単位体積または単位重量当たりの個々の無機イオン交換体の固有の比表面積およびイオン交換容量に基づく吸着能力が充分に発揮される状態で含有されるからである。
【0049】
したがって、本発明の複合体は、アンモニア等の各種のガスの吸着剤、濾過助剤、重金属や放射性金属イオンの回収剤、ケミカルフィルターや、空気から酸素と窒素を分離する酸素−窒素分離剤、地球温暖化の原因ガスである二酸化炭素の吸収剤、酸性雨の原因となる二酸化硫黄や二酸化窒素の吸収剤、希金属の回収剤、青果物の老化ホルモンであるエチレンガスを吸着する鮮度保持剤等の高い吸着能力が要求される用途ばかりでなく、カーテン、カーペット、タペストリー、壁紙、障子紙、あるいは新築の建物から発生するシックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを吸着・分解する建材パネル、結露が発生しやすいコンクリートと畳の間の除湿シート等の高い吸着能力と高い難燃性を兼ね備えていることが要求される用途にも好適に使用することができる。
【0050】
なお、特開平10−120923号公報に開示される親水性高分子成分の割合が高い複合体は、単位重量あたりの吸着能力が充分でないだけでなく、難燃性という点でも不充分である。また、特開2001−98110号公報に開示される疎水性ゼオライトを高密度で含有する複合体では、ホルムアルデヒドの除去剤、酸素−窒素分離剤、除湿シートなどには使用することが困難である。
【0051】
また、上記のような無機イオン交換体−親水性高分子複合体を脱液、水洗した後、触媒機能を有する金属塩の水溶液に浸漬することにより、金属担持無機イオン交換体−親水性高分子複合体が得られる。使用される金属としては、例えば、銀、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、コバルト、パラジウムおよび白金等が挙げられる。これらの金属を複数併用してもよい。また、金属塩の水溶液の濃度に特に制限はないが、好ましくは1.0〜100mmol/lであり、浸漬する温度や時間にも特に制限はない。また、親水性高分子基材は水溶液を浸透させ得るので、親水性高分子基材の実体内の無機イオン交換体全体に無駄なく金属を担持させることができる。
【0052】
例えば、銀、銅または亜鉛を担持させた無機イオン交換体−親水性高分子複合体は抗菌性を示し、パラジウムまたは白金を担持させた無機イオン交換体−親水性高分子複合体はエチレンを吸着することができることから、青果物の鮮度を保持する効果があり、銀または銅を担持させた無機イオン交換体−親水性高分子複合体は、硫化水素を吸着、分解できることから金属の防錆効果または脱臭効果が、またアンモニアを吸着、分解できることから防臭効果がある。また、銀を担持させた無機イオン交換体−親水性高分子複合体はメチルメルカプタンを吸着、分解できることから防臭効果がある。また、親水性高分子基材は気体を充分に透過させうるので、親水性高分子基材の実体内の金属担持無機イオン交換体全体を無駄なく利用して、気体を吸着、分解することができる。
【0053】
また、無機イオン交換体−親水性高分子複合体に揮散性物質を加えて、各種高機能紙等とすることもできる。揮散性物質としては、例えば、L−メントール、ヒノキチオール、フィトンチッド、ワサビオール、リモネン等が挙げられる。これらは自体既知の方法、例えば、含浸、塗布、圧入等によって担持させることができる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例をあげて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例および比較例において断りがない限り「%」は「重量%」を表す。また、各複合体の物性の測定方法を以下に示す。
【0055】
〔複合体中のゼオライトの種類〕
上記のようにして得た複合体の灰分を粉末X線回折装置((株)リガク:RINT−2000)で分析することにより複合体中に含有されるゼオライトの種類を確認した。
【0056】
〔複合体中のゼオライト含有率〕
複合体を60℃で恒量となるまで乾燥し、次いで恒量となったるつぼ中で1gを精秤した。次いで400℃の電気炉中で灰化させ、灰分を秤量した。乾燥重量あたりの灰分量をゼオライト含有率とした。
【0057】
〔複合体中のゼオライトの種類〕
上記のようにして得た複合体の灰分を粉末X線回折装置((株)リガク:RINT−2000)で分析することにより複合体中に含有されるゼオライトの種類を確認した。
【0058】
〔仕込みに対する歩留り率〕
得られた複合体の重量を分子とし、出発原料として仕込んだ複合体の重量と系内で生成したゼオライト量の合計を分母として割った値をパーセント表示し、仕込みに対する歩留り率とした。
【0059】
〔生成したゼオライトの歩留り率〕
得られた複合体の重量に複合体中の4Aゼオライト含有率をかけたものを分子とし、これを系内で生成した4Aゼオライト重量で割った値を、生成した4Aゼオライトの歩留り率とした。
【0060】
〔複合体のイオン交換容量〕
得られた複合体1gをガラスカラムに充填し、0.1mmol/lのNH4Cl水溶液(25℃)を流速5ml/minで流し、出口から流出する濾液中にNH4 +イオンが破過して検出されたときまでの全NH4 +イオン除去量をイオン交換容量とした(カラム法)。
【0061】
〔複合体の比表面積〕
ヘリウムと窒素の混合気体を通じたガラスセル中の複合体表面を液体窒素温度に冷却し、混合気体中の窒素を単分子層吸着させ、この現象によって起こる混合気体の熱伝導度の変化をモニターすることにより、複合体の単位重量当たりの表面積(比表面積)を測定した(ブルナウアー・エメット・テーラー法:化学大辞典7、1997年、共立出版(株))。
【0062】
〔複合体の難燃性〕
複合体の難燃性は、シートとした後、JIS L 1901「繊維製品の燃焼性試験方法」のA−1法(45°ミクロバーナ法)に準拠して測定した。この方法は、所定のサイズの試験片を、所定の方法で着火し、燃焼の広がりの程度(燃焼面積および燃焼長さ)、残炎(炎が出ている時間)および残じん時間(煙が出ている時間)を測定する方法であり、その燃焼性にしたがって3段階の区分があり、1が最も難燃性が低く、3が最も難燃性が高い。
【0063】
比較例1
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)7.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)20.0gを水73mLに溶かした。これにNBKP(針葉樹クラフトパルプ)5.0gを加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(11.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は7.08gであった。これは仕込んだNBKP量(5.0g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(3.70g)のうち81.4重量%が歩留まったことになり、反応系内に生成した4Aゼオライトのみで計算した場合、77.9重量%が繊維の実体内に入ったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は40.7重量%であった。また、そのイオン交換容量は2.23meq/gであり、比表面積は163m2/gであった。
【0064】
比較例2
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)35.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)100.0gを水73mLに溶かした。これにNBKP(針葉樹クラフトパルプ)5.0gを加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(55.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は7.51gであった。これは仕込んだNBKP量(5.0g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(18.50g)のうち32.0重量%が歩留まったことになり、反応系内に生成した4Aゼオライトのみで計算した場合、24.0重量%が繊維の実体内に入ったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は59.0重量%であった。また、そのイオン交換容量は3.23meq/gであり、比表面積は236m2/gであった。
【0065】
実施例1
比較例1で合成した4Aゼオライト−パルプ複合体を25℃の水に入れ0.1重量%のスラリーとし、これを撹拌機〔スリーワンモーター(新東科学(株)製:型式BL300、定格トルク9kgf・cm)〕を用いて200r.p.mで15分間撹拌したのち、小型遠心分離機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、繊維の実体外にできた4Aゼオライトを充分に除去した。除去の目安として、複合体1gを取り出し、これを1Lの水に分散させ、このスラリーのpHが10未満になることを確認した。なお、pH計としては(株)堀場製作所製イオンメーターF23を用いた。
【0066】
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)7.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)20.0gを水73mLに溶かした。このPPボトルに上記実体外の4Aゼオライトを除去した複合体5.0g(NBKP2.975g、4Aゼオライト2.035gを含む)を加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(11.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は8.49gであった。これは仕込んだ複合体の重量(5.0g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(3.70g)のうち97.6重量%が歩留まったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は68.3重量%であった。また、そのイオン交換容量は3.74meq/gであり、比表面積は273m2/gであった。
【0067】
実施例2
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)7.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)20.0gを水73mLに溶かした。これに実施例1と同様の方法で合成した4Aゼオライト−パルプ複合体(8.49g)を加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(11.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は11.65gであった。これは仕込んだ複合体の重量(8.49g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(3.70g)のうち95.6重量%が歩留まったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は76.5重量%であった。また、そのイオン交換容量は4.19meq/gであり、比表面積は306m2/gであった。
【0068】
実施例3
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)7.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)20.0gを水73mLに溶かした。これに実施例2と同様の方法で合成した4Aゼオライト−パルプ複合体(11.65g)を加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(11.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は14.32gであった。これは仕込んだ複合体の重量(11.65g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(3.70g)のうち93.3重量%が歩留まったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は79.3重量%であった。また、そのイオン交換容量は4.35meq/gであり、比表面積は317m2/gであった。
【0069】
実施例4
ポリプロピレン製のふたつきボトル中でメタケイ酸ナトリウム・9水和物(日本化学(株)製)7.0gおよび48%液体苛性ソーダ(要薬品(株)製)20.0gを水73mLに溶かした。これに実施例3と同様の方法で合成した4Aゼオライト−パルプ複合体(14.32g)を加え、室温で30分放置した。アルミン酸ソーダ(浅田化学(株)製)水溶液(11.0g/89mL)をこれに加え、薬さじで30分攪拌した後、ふたをして100℃に設定した電気乾燥機(ヤマト科学(株)製:DP32)に入れ、6時間反応させた。反応後、小型遠心脱水機((株)三陽理化学機械製作所製:SYK−5000−15A)を用いて固液分離し、4Aゼオライト−パルプ複合体を得た。得られた4Aゼオライト−パルプ複合体の重量は17.57gであった。これは仕込んだ複合体の重量(14.32g)と反応系全体で合成された4Aゼオライト(3.70g)のうち97.5重量%が歩留まったことになり、比較例1、実施例1〜4の間(5バッチ)で生成した4Aゼオライト(18.50g)のうち、81.5重量%が繊維の実体内に入ったことになる。実体内に含有されたゼオライトは上記粉末X線回折法により4Aゼオライトであることが確認でき、また、当該複合体のゼオライト含有率は85.8重量%であった。また、そのイオン交換容量は4.70meq/gであり、比表面積は343m2/gであった。
【0070】
【表1】
Figure 0004801852
【0071】
表1に上記の結果をまとめた。比較例2の方法では4Aゼオライト含有率は比較的大きな値を示したが、それでも得られた複合体の4Aゼオライト含有率は実施例1よりも小さな値であった。さらには製品歩留りの観点からみても、無駄が多い方法と言える。これに比べ、実施例4の結果からも分かるように、同じ量の原料を使った場合、本発明の方法は、比較例2の方法よりも得られる複合体の4Aゼオライト含有率が高く、さらに製品歩留りの観点からみても優れた方法であることが明らかである。
【0072】
また、図1〜5に、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という)((株)日本電子製:JSM−544LV)で撮影した、比較例1、実施例1〜4で得られた各複合体のSEM写真を示す。これらより4Aゼオライト含有率に対応してゼオライトの担持量が増えていることが視認できた。
【0073】
実験例1
各試料1.0gを量り取り、それぞれをテドラーバック(容量2L)に入れ、内部の空気を抜いた。これに700ppmのアンモニアガス(2L)を封入し、ガステック検知管を用いて、5分、30分、120分経過後の内部のガス濃度を測定した。その結果を表2に示す。表2よりアンモニアガス除去能は、ゼオライト含有量に依存し、実施例4>実施例3>実施例2>実施例1>比較例2>比較例1の順になった。
【0074】
【表2】
Figure 0004801852
【0075】
実験例2
実施例4および比較例1と同様の方法で得られた複合体ならびにNBKPを、それぞれ12.0g量り取り、熊谷理機工業(株)製「角型シートマシン」(条件;網目80メッシュ、自然水使用、吸引、水量15リットル)を用いて紙に抄いた。これらのシートの坪量はそれぞれ190、192、191g/m2であった。これらのシートについて、上記JIS L 1901「繊維製品の燃焼性試験方法」のA−1法(45°ミクロバーナ法)に準拠して難燃性を測定した。その結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
Figure 0004801852
【0077】
NBKPシートは加熱直後(0.2秒以内)に着火し、全量が4.6秒で完全に燃焼した。比較例1のシートは2.8秒後に着火し、10.4秒間の残炎があった後、60秒間残じんがあった。このシート燃焼面積は48cm2であった。実施例4のシートは1分間の加熱でも着火せず、残炎時間は2.2秒であった。残炎時間+残じん時間は4.8秒であり、燃焼長さは19cm、燃焼面積は8.4cm2であった。
【0078】
以上の結果より、実施例4で得られた複合体は、区分3に相当し、優れた難燃性を有するといえる。
【0079】
【発明の効果】
本発明の複合体は、親水性高分子の実体内に不燃物である無機イオン交換体を60重量%以上という高密度で、かつ、単位体積または単位重量当たりの個々の無機イオン交換体の固有の比表面積およびイオン交換容量に基づく吸着能力が充分に発揮される状態で含有することから、非常に優れた吸着能力を示すばかりではなく、難燃性も優れているものである。したがって、当該複合体は、アンモニア等の各種のガスの吸着剤、濾過助剤、重金属や放射性金属イオンの回収剤、ケミカルフィルターや、空気から酸素と窒素を分離する酸素−窒素分離剤、地球温暖化の原因ガスである二酸化炭素の吸収剤、酸性雨の原因となる二酸化硫黄や二酸化窒素の吸収剤、希金属の回収剤、青果物の老化ホルモンであるエチレンガスを吸着する鮮度保持剤等の高い吸着能力が必要とされる用途ばかりでなく、カーテン、カーペット、タペストリー、壁紙、障子紙、あるいは新築の建物から発生するシックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを吸着・分解する建材パネル、結露が発生しやすいコンクリートと畳の間の除湿シートなどの高い吸着能力と高い難燃性を兼ね備えていることが必要とされる用途にも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】比較例1で得られた4Aゼオライト−パルプ複合体のSEM写真である。
【図2】実施例1で得られた4Aゼオライト−パルプ複合体のSEM写真である。
【図3】実施例2で得られた4Aゼオライト−パルプ複合体のSEM写真である。
【図4】実施例3で得られた4Aゼオライト−パルプ複合体のSEM写真である。
【図5】実施例4で得られた4Aゼオライト−パルプ複合体のSEM写真である。

Claims (6)

  1. 親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有されるゼオライトよりなるゼオライト−親水性高分子複合体を出発原料として、以下の工程(1)および(2)を1回以上繰り返すことを特徴とする、ゼオライト−親水性高分子複合体の製造方法:
    (1)該ゼオライト−親水性高分子複合体より実体外に存在するゼオライトを除去する工程。
    )親水性高分子と該親水性高分子の実体内に含有されるゼオライトよりなるゼオライト−親水性高分子複合体を膨潤させ、ケイ素化合物、アルミニウム化合物および塩基性物質を該親水性高分子の実体内で反応させることにより、該複合体のゼオライト含有量を増加させる工程。
  2. 工程()が、ゼオライト−親水性高分子複合体を水で洗浄する工程である、請求項記載の方法。
  3. 出発原料のゼオライト−親水性高分子複合体が、親水性高分子複合体を膨潤させ、ケイ素化合物、アルミニウム化合物および塩基性物質を該親水性高分子の実体内で反応させることにより得られたものである、請求項1または2に記載の方法。
  4. ゼオライトが、親水性ゼオライトである、請求項のいずれか1項に記載の方法。
  5. 親水性高分子が、セルロースである、請求項のいずれか1項に記載の方法。
  6. セルロースが、天然セルロースである、請求項記載の方法。
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