JP4800508B2 - シール用ゴム組成物およびそれを用いた耐二酸化炭素用シール - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二酸化炭素漏れ防止用の密封体として使用されるシール、およびそのためのゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エアコンディショナ機などの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサなどにおいて、冷媒漏れ防止用の密封体として多くのシールが使用されている。シールは、基本的には、硬さ、伸び、耐熱性、耐油性にすぐれ、かつ圧縮永久歪みが小さいというような良好なシール性を呈するための数々の特性を備えることが要求される。さらに、冷媒に対する耐性を有し、冷媒に接触しても発泡(ブリスタ)や割れ(クラック)が生じにくいことが要求される。
【0003】
上記の冷媒としては、従来、CFC12(CCl22)が主として用いられてきたが、フロンによるオゾン層の破壊が環境問題となり、近年ではCFC12に換えてオゾン層を破壊しないHFC134a(CH2FCF3)などのフルオロ炭化水素が用いられている。しかしながら環境問題の観点から、フロン系の冷媒は今後全廃の方向に向かうとされており、これに代替し得る冷媒として、二酸化炭素(炭酸ガス)が検討されている。
【0004】
上記のように、シールは冷媒に対する耐性を有することが要求されるが、冷媒自体への接触によってクラックやブリスタが生じないということは勿論、冷媒種が変わるとその使用条件も変わるため、その条件下における耐性を備えることが要求される。たとえば上記冷凍機用コンプレッサにおいて、フロン系冷媒は約10kgf/cm2(=約0.98MPa)の圧力で使用されてきたが、二酸化炭素を冷媒として用いる場合は約70kgf/cm2(=約6.86MPa)とより高圧で使用される。
【0005】
また、電子関連部品、光学機器、精密機械部品の分野で、表面処理、蒸着、接着などの前工程や最終仕上げ工程などとして行われる精密洗浄に、洗浄媒体として超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素を利用した洗浄法が知られている。超臨界二酸化炭素とは、圧力が臨界圧力(7.4MPa)を超え、かつ温度が臨界温度(31.1℃)を超える臨界点近傍の高密度な状態の二酸化炭素をさす。また亜臨界二酸化炭素は、臨界点手前近傍の圧縮液体と圧縮気体とが併存した物性的に不安定な状態の二酸化炭素であって、上記の超臨界二酸化炭素とは区別される。二酸化炭素は、比較的簡便に超臨界状態または亜臨界状態にでき、さらに無毒で工業的に安全な使用が可能であるため、上記精密洗浄の洗浄媒体として最も利用されている。
【0006】
上記超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素を利用した洗浄は、通常、25℃の温度で10MPa〜15MPaの圧力で行われる。したがって超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素を利用した洗浄装置において、被洗浄物を洗浄する洗浄槽は高圧容器であり、該洗浄槽の気密性を高めるために、シールが必要となる。
【0007】
しかしながら現状においては、硬さ、伸びに優れ、かつ圧縮永久歪みが小さいというような数々の特性を備えるとともに、超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素に対する耐性を充分に備えるようなシールは未だなく、その開発が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、二酸化炭素に接触するように使用されても劣化しにくく、かつ優れたシール性を有するゴム成形物を備えるシール、およびそのためのゴム組成物を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)二酸化炭素漏れ防止用の密封体として使用されるシール用のゴム組成物であって、
テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴム100重量部と、10重量部〜80重量部のカーボンブラックと、0.1重量部〜10重量部の有機過酸化物とを有するシール用ゴム組成物。
(2)二酸化炭素漏れ防止用の密封体として使用されるシール用のゴム組成物であって、
テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴム100重量部と、10重量部〜80重量部のカーボンブラックと、0.1重量部〜10重量部の有機過酸化物とを必須成分とし、任意成分としてグラファイトおよび雲母を除く添加剤を含んでいてもよいシール用ゴム組成物。
(3)テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体およびパーフルオロアルキルビニルエーテル−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体のうちから選ばれる少なくともいずれかを主体成分とするものである上記(1)または(2)に記載のゴム組成物。
(4)カーボンブラックがサーマルブラックである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゴム組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のゴム組成物を、パーオキサイド架橋を経て成形したゴム成形物を備える耐二酸化炭素用シール。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のゴム組成物は、テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴムと、カーボンブラックと、有機過酸化物とを各々特定配合量で必須成分として含むものである。
【0011】
本発明において用いられるフッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するものであるならば特に限定はなく、従来公知の様々なフッ素ゴムを用いることができる。本発明におけるフッ素ゴムは、摺動性や圧縮永久歪みの観点からは、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体およびパーフルオロアルキルビニルエーテル−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体から選ばれる少なくともいずれかであるのが好ましい。本発明においてフッ素ゴムは、上記したものを単独で用いてもよいし、2種以上(たとえば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体とビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体とを)ブレンドしたものであってもよい。また、上記共重合体の形態はランダム、ブロックのいずれの形態でもよい。なお本発明においてフッ素ゴムが「パーフルオロアルキルビニルエーテル」を共重合成分として含有する場合、アルキル基の炭素数に特に限定はない。また当該パーフルオロアルキルビニルエーテルにおけるアルキル基は、直鎖状であるか分枝鎖状であるかを問わない。
【0012】
本発明において用いられるフッ素ゴムは、後述するテトラフルオロエチレンを含有していることによる効果を充分に発揮できる点からは、当該フッ素ゴム中におけるテトラフルオロエチレンの割合は、1モル%〜80モル%程度、好ましくは5モル%〜70モル%程度である(フッ素ゴム中におけるフッ素含有率が、68重量%〜72重量%程度、好ましくは69重量%〜71重量%程度)。本発明においては、テトラフルオロエチレンを上記範囲内の割合で共重合成分として含有する市販のフッ素ゴム、たとえば、ダイエルG−952(ダイキン社製)、ダイエルG−901(ダイキン社製)、バイトンGF(デュポンダウ社製)、ダイエルLT−302(ダイキン社製)などを用いればよい。
【0013】
本発明のゴム組成物は、上記フッ素ゴム100重量部に対して10重量部〜80重量部、好ましくは20重量部〜50重量部のカーボンブラックが必須成分として配合される。カーボンブラックの配合量がフッ素ゴム100重量部に対して10重量部未満であると、硬さやモジュラスが不足し、シール性が低下してしまう不具合がある。またカーボンブラックの配合量がフッ素ゴム100重量部に対して80重量部を超えると、伸びが低下し、(相手部材への)シールの装着が困難となってしまう不具合がある。
【0014】
上記カーボンブラックとしては、一般にゴムに使用されるものであれば特には限定はない。カーボンブラックの例としては、HAFカーボンブラック、MAFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、SRFカーボンブラック、GPFカーボンブラックなどのファーネスブラックや、FTカーボンブラック、MTカーボンブラックなどのサーマルブラックが挙げられる。特にサーマルブラックは、圧縮永久歪みの点でよい。これらのカーボンブラックは、単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0015】
本発明のゴム組成物においては、フッ素ゴム100重量部に対して0.1重量部〜10重量部、好ましくは1重量部〜5重量部の有機過酸化物が、必須成分としてさらに配合される。有機過酸化物の配合量がフッ素ゴム100重量部に対して0.1重量部未満であると、圧縮永久歪みが大きくなり過ぎる不具合がある。また有機過酸化物の配合量がフッ素ゴム100重量部に対して10重量部を超えると、伸びが低下し、(相手部材への)シールの装着が困難となってしまう不具合がある。
【0016】
本発明において用いられる有機過酸化物は、一般にゴムに架橋剤として配合される有機過酸化物であれば、特別の制限なく用いることができる。該有機過酸化物としては、特に制限はないが、たとえば、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジt−ブチルパーオキサイドなどから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0017】
本発明のシールは、上述したフッ素ゴム、カーボンブラックおよび有機過酸化物を必須成分とするゴム組成物を成形して得られたゴム成形物を備える。このようなゴム成形物は、二酸化炭素に接触しても膨潤しにくく、また発泡しにくいため経時的な劣化が少なく、たとえば6.9MPa程度の高圧下の使用においても変形することなく優れたシール性を保持できる。上述の配合によって何故このようなゴム成形物を得ることができるか、その理由の詳細は不明であるが、本発明者らは次のように推察している。
【0018】
まず、本発明におけるフッ素ゴムは、テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有することによって、二酸化炭素に接触しても膨潤しにくい性質を有すると考えられる。さらにフッ素ゴム中のテトラフルオロエチレン部分には結晶性物が多く、他のフッ素ゴム成分と比較して硬いため、二酸化炭素に対して変形しにくいというような充填剤的効果を果たすことによっても耐ブリスタ性が向上する。また本発明におけるフッ素ゴムでは、テトラフルオロエチレン部分により充填剤的にゴムに硬さを付与する構成であるので、テトラフルオロエチレン部分を含まず充填剤の配合量を増加することによって同程度の硬さを付与してなるようなフッ素ゴムとは異なり、充填剤の部分に二酸化炭素が多量に入り込み、膨張が大きくなる危険性が低い。
【0019】
ここで、耐二酸化炭素性に劣るゴムを用いたシールは、二酸化炭素環境下においてゴムがブリスタ(発泡、クラックを含む)を発生してしまい、正常なシール性を発揮し得なくなる。このブリスタは、二酸化炭素環境下においたときにゴム中に二酸化炭素が蓄積してしまうことに起因する。ゴム中に蓄積した二酸化炭素は、ゴムの周囲環境にて急激な圧力の低下や急激な温度の上昇が起こると、ゴムから脱しようとする。この際、二酸化炭素がゴム中から円滑に脱することができないと、ゴムが比較的柔軟なものであれば発泡が生じ、比較的硬いものであればクラック(割れ)が生じる。
本発明においては、上記フッ素ゴムに特定の配合量のカーボンブラックが配合されるが、カーボンブラックはフッ素ゴム部分と比較して空隙が多く、いわばフッ素ゴム中において充填密度の小さな部分が略均一に分散されたような状態となり、これによりこのフッ素ゴム中に分散されたカーボンブラックの部分を二酸化炭素が透過しやすい。これにより二酸化炭素を円滑に通過させることができ、二酸化炭素に対する優れた耐ブリスタ性を有するシールを実現できると考えられる。
【0020】
上述した二酸化炭素が脱しやすいことによりフッ素ゴムの耐ブリスタ性が向上されるという効果は、用いるカーボンブラックの粒子径が大きければ大きいほど顕著となる。したがって本発明においては、特に耐ブリスタ性および圧縮永久歪みを向上させた耐二酸化炭素用シールを得たい場合には、MTカーボンブラックなどのサーマルブラックを配合するのが好ましく、また耐ブリスタ性および圧縮永久歪みは上記場合ほどではないが向上され、さらに耐磨耗性および加工性に優れる耐二酸化炭素用シールを得たい場合には、SRFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、GRFカーボンブラックなどのファーネスブラックを配合するのが好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物は、補強、充填などの目的で添加する炭素材料として、5重量部を超えたグラファイトまたは雲母の配合(添加)を許容しないものであるのが好ましい。
特開平11−293075号公報には、炭酸ガスに対して優れた耐性を示すシールに使用するためのゴム組成物として、有機過酸化物架橋性フッ素ゴムにグラファイトまたは雲母を添加してなるフッ素ゴム組成物が開示されている。しかし本発明者らは、グラファイトや雲母のような扁平な形状のものを多量にフッ素ゴムに配合すると、二酸化炭素がフッ素ゴムから円滑に脱することができず、これによりブリスタが発生してしまうことを知見した。このブリスタの発生は、5重量部を超えて配合されたグラファイトまたは雲母とともに、本発明で用いているのと同様のカーボンブラックを配合したとしてもやはり起きてしまう。すなわち上述した円滑な二酸化炭素の脱ガスは、グラファイトや雲母のような扁平な形状のものを5重量部を超えて配合することなく、カーボンブラックのような球状のものを上述したような範囲内の量にて配合することによってより確実に達成されるものである。
【0022】
またさらに、上記特開平11−293075号公報に記載のグラファイトや雲母のような扁平状のものを5重量部を超えて配合したフッ素ゴム組成物は、混練性が悪いという問題がある。したがって上記フッ素ゴム組成物では、グラファイトや雲母がゴム中に略均一に分散されにくく、局所的に密であったり疎であったりするようなゴム成形物が得られやすい。このようなゴム成形物は、全体として略均一な耐二酸化炭素性を有しないので、ブリスタの発生し易い部分が存在するなど、安定した品質を保持できない。これに対し本発明の好ましい上記ゴム組成物では、球状のカーボンブラックを用い、かつグラファイトまたは雲母が配合されたとしても5重量部以下の範囲でしか許容しないので、ゴム組成物の分散性に優れ、全体として略均一に耐二酸化炭素性を備えたゴム成形物を得ることができ、高品質な耐二酸化炭素用シールを安定して提供できるという効果も有する。
【0023】
本発明におけるフッ素ゴム組成物では、上述した耐二酸化炭素性の向上(ガス抜け性、分散性のいずれに起因する場合も含む)の観点からは、グラファイトおよび雲母が一切添加されずに実現されるのが好ましい。しかしながら本発明のゴム組成物においては、5重量部以下であるならばグラファイトまたは雲母を含んでいてもよい。
【0024】
さらにゴム成形物全体の機械的特性は、フッ素ゴムとして共重合成分にテトラフルオロエチレンを必須とするものを用いることによって初めてシールとしての使用に耐え得るように向上されたものとなる。このようにして、本発明においては上記の特開平11−293075号公報に開示されたゴム組成物を用いたシールよりも、格段に耐ブリスタ性が向上され、ブリスタの発生を確実に防止でき、長寿命なシール性を保持できる耐二酸化炭素用シールを実現できる。
【0025】
また本発明におけるゴム成形物は、硬さ、伸び、引張強さに優れ、かつ圧縮永久歪みが小さいというような優れたシール性を発揮するために要する数々の機械的特性をさらに備えるものである。すなわち本発明のシールは、JIS K 6253に規定される測定方法にしたがって測定されたタイプAデュロメータ硬さがたとえば70〜85程度、JIS K 6251に規定される測定方法にしたがって測定された伸びがたとえば200%〜300%程度、JIS K 6251に規定される測定方法にしたがって測定された引張強さがたとえば15MPa〜25MPa程度、JIS K 6262に規定される測定方法にしたがって測定された圧縮永久歪み(老化条件:150℃、70時間)がたとえば5%〜10%程度に実現される。
【0026】
本発明のシールの、二酸化炭素を密封するような使用例の一つとして、たとえば冷媒として二酸化炭素を用いる冷凍機用のコンプレッサにおける、該冷媒漏れ防止用の密封体としての使用が挙げられる。本発明のシールは、硬さ、伸び、耐熱性、耐油性にすぐれ、圧縮永久歪みが小さく、かつ二酸化炭素に接触してもブリスタが発生しにくく、良好なシール性を保持できる。また本発明のシールは、冷媒である二酸化炭素と、これに通常併用されるたとえばポリアルキレングリコール、エステルなどの冷凍機油との混合物に対しても優れた耐性を示す。さらに本発明のシールは、たとえば6.9MPa程度の圧力下で使用するような場合であっても、該圧力による不所望な変形を抑制でき、シール性の劣化を抑制できる。なお上記「冷凍機」は、エアコンディショナ機を含むものとする。
【0027】
また二酸化炭素を密封するような他の使用例として、たとえば洗浄媒体として超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素を用いて被洗浄物を洗浄する洗浄装置における、該洗浄媒体漏れ防止用の密封体としての使用が挙げられる。該洗浄装置においては、通常、温度が25℃、圧力が10MPa〜15MPaの条件下で行われるが、本発明のシールを用いることで上記圧力下での超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の衝撃圧によっても不所望な変形を起こしにくく、シール性の劣化を抑制できる。
【0028】
なお本発明のシールは、上述した耐二酸化炭素性およびシール性以外に優れた耐磨耗性をも備えるものであり、そのため上述した冷凍機用コンプレッサや超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素を利用した洗浄装置のような、相手部材と摺動しながら二酸化炭素を密封し得るような耐二酸化炭素用シールとして好適に使用することができる。本発明のシールは、シールすべき相手部材が回転軸のような回転部材であって、これとゴム成形物が摺動するように使用されても、磨耗して厚みが薄くなってしまう部分が生じにくく、良好なシール性を長寿命で実現できる。上記耐磨耗性は、使用されるフッ素ゴム中に共重合成分として含まれるテトラフルオロエチレン部分に起因するものであると考えられる。
【0029】
本発明のゴム組成物は、従来公知のインタミックス、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練した後、射出成形機、圧縮成形機、押出成形機などを用いて所望の形状に成形される。本発明においては、この成形に際して施す架橋は、パーオキサイド架橋であることが好ましい。パーオキサイド架橋を経てゴム成形物は、架橋剤以外同じ組成のゴム組成物からポリオール架橋を経て得られたゴム成形物と比較して、圧縮永久歪みに優れるという利点がある。上記パーオキサイド架橋は、たとえば140℃〜200℃で2分間〜30分間の一次加硫を施した後、必要に応じて150℃〜200℃で1時間〜24時間の二次加硫を施すというような条件が好ましい。二次加硫を施すことで、一次加硫のみの場合のゴム成形物と比較して圧縮永久歪みをより小さくできる。
【0030】
本発明のシールにおけるゴム成形物の形状は特に限定されず、Oリング、パッキン、リップシール(軸シール)などその目的に応じて適宜選ばれる。またゴム成形物の大きさも特に限定はなく、目的に応じ適宜選ばれる。このように本発明の耐二酸化炭素用シールは、上記ゴム成形物自体からなるもので実現されてもよいし、当該ゴム成形物と冷間圧延鋼板で作成した金具表面に化成皮膜処理を施したシール用金具とが、たとえばシリコーン系加硫接着剤層を介して加硫接着されてなるような構成で実現されてもよい。
【0031】
また本発明のゴム組成物は、グラファイトおよび雲母の添加は許容されないが、その他の従来公知の無機充填剤、架橋助剤、老化防止剤、滑剤などを添加してもよい。これらの添加剤は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加すればよい。
【0032】
無機充填剤としては、たとえば従来公知のハードクレー、シリカ(ホワイトカーボン)などが挙げられる。無機充填剤は、必要に応じて単独又は上記の中から2種以上組み合わせて、たとえばフッ素ゴム100重量部に対して10重量部〜50重量部程度配合される。
【0033】
架橋助剤としては、たとえば従来公知のマレイミド系架橋助剤、硫黄、液状ポリブタジエン、アリル系架橋助剤、メタアクリレート系架橋助剤などを好適に用いることができる。マレイミド系架橋助剤の例としては、たとえばN,N−m−フェニレンジマレイミドが挙げられ、アリル系架橋助剤の例としては、たとえばトリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタンなどが挙げられる。またメタアクリレート系架橋助剤の例としては、たとえばエチレングリコールメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、ポリエチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロペントリメタアクリレートなどが挙げられる。なおフッ素ゴムはスコーチと生産性とのバランスから、架橋助剤をフッ素ゴム100重量部に対して1重量部〜10重量部程度配合されるのが一般的であるが、本発明においては耐ブリスタ性の向上の観点から、フッ素ゴム100重量部に対し1重量部以下程度しか配合しないのが好ましい。
【0034】
老化防止剤としては、たとえば従来公知の2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体などのアミン−ケトン系老化防止剤、4,4'−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N'−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンなどの芳香族第二級アミン系老化防止剤、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールなどのモノフェノール系老化防止剤、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンズイミダゾールなどのベンズイミダゾール系老化防止剤などが挙げられる。老化防止剤は、必要に応じて単独又は上記の中から2種以上組み合わせて、たとえばフッ素ゴム100重量部に対して0.1重量部〜1重量部程度配合される。
【0035】
滑剤としては、たとえば従来公知のパラフィンおよび炭化水素樹脂系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、脂肪酸エステル系、脂肪アルコール系などの滑剤が好適に用いられる。パラフィンおよび炭化水素樹脂系としては、たとえばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、パラフィン系合成ワックス、ポリエチレンワックス、複合ワックス、モンタンワックスなどが挙げられる。脂肪酸系としては、たとえばステアリン酸、硬化油、ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。脂肪酸アミド系としては、たとえばステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、ラウリルアミド、ベヘンアミド、ステアリルオレイルアミドなどが挙げられる。脂肪酸エステル系としては、たとえばn−ブチルステアレート、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系合成ワックスなどが挙げられる。脂肪アルコール系としては、たとえば高級アルコール、高級アルコールエステルなどが挙げられる。滑剤は、必要に応じて単独又は上記の中から2種以上組み合わせて、たとえばフッ素ゴム100重量部に対して0.1重量部〜2重量部程度配合される。
【0036】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1
フッ素ゴムとしてビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイエルG−902、ダイキン社製)を用い、これにSRFカーボンブラック(シーストS、東海カーボン社製)および有機過酸化物(ルパルコ101−XL、アトケム吉富社製)を下記の配合比にて配合し、ゴム組成物を調製した。
フッ素ゴム 100重量部
カーボンブラック 30重量部
有機過酸化物 3重量部
上記のように配合したゴム組成物を、オープンロールで混練して調製した後、プレス成形装置にてパーオキサイド架橋(165℃で20分間の一次加硫、続いて200℃で24時間の二次加硫)を経て成形し、シールのサンプルを得た。
【0037】
実施例2
フッ素ゴムとしてビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイエルLT−302、ダイキン社製)を用い、カーボンブラックとしてFEFカーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0038】
実施例3
カーボンブラックとしてMTカーボンブラック(Thermax N−990、Cancarb社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0039】
実施例4
カーボンブラックとしてMTカーボンブラック(Thermax N−990、Cancarb社製)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0040】
比較例1
フッ素ゴムとしてビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(ダイエルG−701、ダイキン社製)を用い、これにMTカーボンブラック(Thermax N−990、Cancarb社製)および二酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムを下記の配合比にて配合し、ゴム組成物を調製した。
フッ素ゴム 100重量部
カーボンブラック 30重量部
二酸化カルシウム 6重量部
酸化マグネシウム 3重量部
上記のように配合したゴム組成物を、オープンロールで混練して調製した後、プレス成形装置にてポリオール架橋(165℃で20分間の一次加硫、続いて200℃で24時間の二次加硫)を経て成形し、シールのサンプルを得た。
【0041】
比較例2
SRFカーボンブラックの配合量をフッ素ゴム100重量部に対して5重量部とした以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0042】
比較例3
SRFカーボンブラックの配合量をフッ素ゴム100重量部に対して85重量部とした以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0043】
比較例4
30重量部のSRFカーボンブラックに換えて、30重量部のグラファイトを配合した以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0044】
比較例5
30重量部のSRFカーボンブラックに換えて、20重量部のSRFカーボンブラックおよび10重量部の雲母を配合した以外は、実施例1と同様にしてシールのサンプルを得た。
【0045】
上記の実施例1〜4ならびに比較例1〜5で得られたサンプルそれぞれの常態特性として硬さ、伸びおよび圧縮永久歪みを測定した。硬さは、JIS K 6253に規定される測定方法にしたがいタイプAデュロメータ硬さを測定した。伸び(%)は、JIS K 6251に規定される測定方法によって測定した。圧縮永久歪み(%)(200℃、70時間)は、JIS K 6262に規定される測定方法によって測定した。試験結果を表1に示す。
硬さについては80±5のもの、伸びについては100%以上のもの、圧縮永久歪みについては10%以下のものが合格品と評価される。
【0046】
また上記で得られた試供品について、下記の(1)、(2)の各試験を行い、その特性を評価した。
(1)耐発泡性の評価
実施例1〜4および比較例1〜5の組成の厚さ2mm、幅25mm、長さ45mmのゴムシート状物を三枚ずつ用意し、オートクレーブにて圧力6.9MPaの二酸化炭素中で24時間加圧した。その後、圧力を抜き、直ちに150℃のオーブンで1時間加熱後、各ゴムシート状物の表裏の亀裂の数をカウントした。試験結果を表1に示す。
耐発泡性については、亀裂の発生数が0個のものが合格品と評価される。
【0047】
(2)耐磨耗性の評価
実施例1〜4および比較例1〜5とそれぞれ同様の組成の試料について、一定引張方式磨耗試験機を用いて下記の条件で磨耗量を測定した。まずクランク軸の駆動により相手金属板を往復動させ、この相手金属板の往復動する方向に垂直な方向に荷重をかけながら、試料を相手金属板に摺動させた。試料と相手金属板と間の接触荷重の作用には、エアシリンダの推力を用いた。各条件は以下の通りであった。
・試料:円柱状(直径=6.3mm、高さ=8mm)
・相手金属板材料:SS400
・相手金属板表面粗さ:3.2S
・往復動方向:相手金属板の仕上げ方向と直角に往復動
・駆動速度:60cpm
・ストローク:10mm
・荷重:0.8MPa
・作動回数:10万サイクル
・潤滑の有無:無
・温度:常温(25℃)
磨耗量=[(W1−W2)/S]/A
〔W1:試験前の試料重量(g)、W2:試験後の試料重量(g)、S:試料の比重、A:試料の底面積(mm2)〕
の式にて、各磨耗量(mm)を算出した。試験結果を表1に示す。
耐磨耗性については、磨耗量1mm以下のものが合格品と評価される。
【0048】
【表1】
Figure 0004800508
【0049】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、二酸化炭素に接触するように使用されても劣化しにくく、かつ優れたシール性を有するゴム成形物を備えるシール、およびそのためのゴム組成物を提供することができる。

Claims (4)

  1. 二酸化炭素漏れ防止用の密封体として使用されるシール用のゴム組成物であって、
    テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴム100重量部と、20重量部〜50重量部のカーボンブラックと、0.1重量部〜10重量部の有機過酸化物とを有し、グラファイトおよび雲母のいずれをも含有しない、シール用ゴム組成物。
  2. テトラフルオロエチレンを共重合成分として含有するフッ素ゴムが、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体およびパーフルオロアルキルビニルエーテル−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体のうちから選ばれる少なくともいずれかを主体成分とするものである請求項1に記載のゴム組成物。
  3. カーボンブラックがサーマルブラックである請求項1または2に記載のゴム組成物。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物を、パーオキサイド架橋を経て成形したゴム成形物を備える耐二酸化炭素用シール。
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