JP4794759B2 - 鋼材被覆用フィルム及び樹脂被覆鋼材 - Google Patents

鋼材被覆用フィルム及び樹脂被覆鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材被覆用フィルム及び樹脂被覆鋼材に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を表面に被覆した有機複合鋼材は、その防食性能が優れていることから、鋼管、鋼板、鋼矢板、配管等の、過酷な環境下(海水中、温熱水中など)で長期間にわたる防食性が要求される鋼材(重防食鋼材)に、広く応用されてきた。一般に、ポリオレフィン樹脂は極性基を含有しないため、鋼材との密着力が非常に低く、ポリオレフィン樹脂と鋼材の間の密着力向上が課題であった。ポリオレフィン樹脂-鋼材間の密着強度を向上させる手段として、鋼材表面にクロメート処理やリン酸処理等の下地処理を施し、酸無水物基やカルボキシル基等で変性したポリオレフィン樹脂層を接着剤として被覆した上にポリオレフィン樹脂を被覆する技術が知られている。当該技術では、下地処理した鋼材表面と変性ポリオレフィン樹脂との相互作用、変性ポリオレフィン樹脂とオレフィン樹脂との相溶性により、各々鋼材-接着層、接着層-ポリオレフィン間の密着力を保持し、鋼材-オレフィン樹脂間の密着力を向上することが可能である。
【0003】
しかしながら、当該被覆技術でも密着力が十分に発揮できず、以下の課題があった。
(a) 鋼管に応用した場合、水中環境での耐水密着性が不十分であったり、電気防食時にカソード部(被覆加工疵部)での剥離(陰極剥離)が進展しやすい。
(b) 鋼矢板に使用して長期暴露した場合、端面からポリオレフィン樹脂の剥離が進行しやすい(端面剥離)。
【0004】
(c) 配管のライニングに使用した場合、接着温度から室温まで冷却したり、高温で使用する場合にポリオレフィン樹脂が収縮して剥離しやすい(収縮剥離)。
この結果、これら剥離部分から鋼材の腐食が進行していた。
これらの課題を解決する手段として、特開昭61-044439号公報、特開昭62-255141号公報には、クロメート処理した鋼板表面に、さらにシランカップリング、チタンカップリング、エポキシプライマー等の処理をし、その上に変性ポリオレフィンとポリオレフィン樹脂を順次積層被覆する技術が開示されている。これら技術により、接着剤-鋼材間の密着力がさらに増加し、初期密着に大幅な改善が認められた。しかし、これらの対策でも、高温、多湿下の過酷な環境下で長期間使用した場合は、密着力が低下してきて、上記の剥離を発生する場合があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、酸素や水蒸気などの腐食原因物質の透過率が小さく(従って、耐腐食性に優れ)、耐衝撃性、耐薬品性にも優れ、かつ海水下や温熱水中で長期間に渡って使用しても鋼材との良好な密着性を保持できる鋼材被覆用の樹脂フィルム及びこれを用いた樹脂被覆鋼材を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、過酷な環境下で発生した上記の剥離状態を解析した結果、これらの剥離では、外来の微小疵や端面を起点とし、剥離がせん断方向に助長・拡大して進行する場合が多いこと、さらに、これらの剥離は、フィルム内の残留応力(特に、せん断方向)が大きいほど大きくなることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、従来技術のように鋼板-樹脂フィルム間の化学的な結合力を増加することにのみ着目するのではなく、樹脂フィルム内の残留応力を積極的に低減することにより密着性を確保し、上記剥離を防止することを考慮した技術である。
【0007】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を少なくとも成形した鋼材被覆用フィルムであって、
ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)との流動指標の比(MFR(A/B))が、1以下であり、
前記フィルム内で前記ポリオレフィン系樹脂(A)相内にゴム状弾性体(B)相が分散しているとともに、前記ゴム状弾性体(B)相の長軸と短軸の比が以上の異方性を有することを特徴とする鋼材被覆用フィルムである。さらにフィルムを用いた樹脂被覆材である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用するポリオレフィン系樹脂(A)は、下記(式1)の繰り返し単位を有する樹脂を主成分にする樹脂である。主成分とは、(式1)の繰り返し単位を有する樹脂がポリオレフィン系樹脂(A)の50質量%以上を構成することである。
-R1CH-CR2R3- (式1)
(式中、R1、R3は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基又は水素を、R2は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基又は水素を示す)
本発明のポリオレフィン樹脂(A)は、これらの構成単位の単独重合体でも、2種類以上の共重合体、これらのユニットで形成される樹脂単位の共重合体であってもよい。繰り返し単位は、5個以上化学的に結合していることが好ましい。5個未満では高分子効果が発揮しにくい。
【0009】
繰り返し単位を例示すると、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デゼン、1-ドデゼン等のα-オレフィンを付加重合した時に現われる繰り返し単位、イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィンや、スチレンモノマーの他にo-、m-、p-メチルスチレン、o-、m-、p-エチルスチレン、t-ブチルスチレン等のアルキル化スチレン、モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂(A)を例示すると、α-オレフィンの単独重合体である低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐構造を導入した架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリへキセン、ポリオクテニレン等が挙げられる。上記ユニットの共重合体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1,6-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボーネン共重合体等の脂肪族ポリオレフィンや、スチレン系重合体等の芳香族ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記の繰り返し単位を満足していればよい。また、これらの樹脂を単独又は2種類以上混合して使用してもよい。
【0011】
中でもハンドリング、腐食原因物質のバリア性から最も好ましいのは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐構造を導入した架橋型ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの2種類以上の混合物である。
また、ポリオレフィン系樹脂(A)は、上記のオレフィンユニットが主成分であればよく、上記のユニットの置換体であるビニルモノマー、極性ビニルモノマー、ジエンモノマーがモノマー単位もしくは樹脂単位で共重合されていてもよい。共重合組成としては、上記ユニットに対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。50質量%超では、腐食原因物質に対するバリア性等のオレフィン系樹脂としての特性が低下する。
【0012】
極性ビニルモノマーの例としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸誘導体、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水マレイン酸のイミド誘導体、塩化ビニル等が挙げられる。
本発明に使用するゴム状弾性体(B)には、公知のゴム状弾性体樹脂を広く使用できる。中でも、ゴム状弾性発現部のガラス転移温度(Tg 、サンプル量約10mg、昇温速度10℃/分の示差型熱分析装置(DSC)で測定)が50℃以下、室温でのヤング率が1000MPa以下、及び破断伸びが50%以上であるゴム状弾性体樹脂が好ましい。ゴム弾性発現部のTgが50℃超、室温でのヤング率が1000MPa超、及び破断伸びが50%未満では、十分な残留応力低減効果を発現できない。さらには、残留応力を低下させたり、耐衝撃性を増加して施工時の疵発生を防止する観点から、Tgが10℃以下、より望ましくは-30℃以下であることが好ましい。また、より残留応力低減効果を増大するためには、室温でのヤング率は100MPa以下、より望ましくは10MPa以下であることが、破断伸びは100%以上、より望ましくは300%以上であることが、好ましい。
【0013】
ゴム状弾性体(B)を具体的に例示すると、山下晋三著「ゴムエラストマー活用ハンドブック」工業調査会発行(1985年)に記載されている固形ゴム、ラテックス、熱可塑性エラストマー、液状ゴム、粉末ゴム等が挙げられる。中でも、フィルム加工性から最も好ましいのが、固形ゴムと熱可塑性エラストストマーであり、ポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性の観点から最も好ましいのが、(式1)のユニットを主成分(50質量%以上)とするオレフィン系ゴム状弾性体である。具体的に好ましいオレフィン系ゴム状弾性体を例示すると、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-3-エチルペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等のエチレンと炭素数3以上のα-オレフィンの共重合体、もしくは、前記2元共重合体にブタジエン、イソプレン、5-メチリデン-2-ノルボーネン、5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等を共重合したエチレン、炭素数3以上のα-オレフィン及び非共役ジエンからなる3元共重合体である。その中でも、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体の2元共重合体、又は、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-1-ブテン共重合体に、非共役ジエンとして5-メチリデン-2-ノルボーネン、5-エチリデン-2-ノルボーネン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンを使用し、α-オレフィン量を20〜60モル%、非共役ジエンを0.5〜10モル%共重合した樹脂が、フィルム加工性から最も好ましい。
【0014】
本発明の鋼材被覆用フィルムは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を成形してなる樹脂フィルム層を少なくとも含有する樹脂フィルムである。かつ、当該樹脂組成物を成形してなる樹脂フィルム層内では、ゴム状弾性体(B)相が、長軸と短軸の比が以上の異方性を持って、ポリオレフィン系樹脂(A)相内に分布していることが必要である。長軸と短軸の比を以上に制御することにより、フィルム内の残留応力を短軸方向のみに散逸し、結果として、長軸方向の残留応力を低減できる。長軸と短軸の比がより好ましくは10以上であり、この比が大きく、異方性が大きければ大きい程、残留応力を短軸方向に散逸でき、残留応力を大幅に低減できる。
【0015】
本発明におけるゴム状弾性体(B)分散相の長軸と短軸との比は、以下の方法により測定される。フィルム断面を任意の方向に切り出し、ポリオレフィン系樹脂(A)相とゴム状弾性体(B)相とを識別可能な方法により識別観察し、当該観察像からゴム弾性体(B)相の長軸と短軸との比を測定する。具体的には、ゴム状弾性体(B)相のみを溶解又は染色する溶媒でエッジング又は染色した後、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で観察する方法、屈折率差や摩擦力差を利用して位相差顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。さらに、ゴム弾性体(B)相の長軸と短軸との比を測定する方法として、ゴム状弾性体(B)相を2値化し、公知の画像処理法により、等価楕円で近似して長軸と短軸との比を測定する方法が挙げられる。
【0016】
ここで、長軸と短軸との比が以上とは、任意抽出したゴム弾性体(B)相の80%以上の個数で、短軸と長軸の比が以上を満足していることを意味する。判別する際に抽出するゴム弾性体(B)相の数は特に規定しないが、統計上の有意性から20個以上が好ましく、より好ましくは30個以上の相の抽出して判別することが望ましい。
【0017】
本発明の樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂(A)相中にゴム状弾性体(B)相が長軸と短軸の比以上なる形状で分散していればよく、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)との混合組成比は、特に限定しない。好ましくは、質量比((A)/(B))が95/5〜50/50、より好ましくは90/10〜60/40が望ましい。ポリオレフィン系樹脂(A)が95質量%よりも多い場合は、十分に残留応力を低減できない場合がある。ゴム状弾性体(B)が50質量%超の場合は、樹脂組成物の硬度が低下し、鋼材に被覆した際にフィルムに疵が発生しやすい。
【0018】
さらに、本発明の樹脂フィルムに用いる樹脂組成物中に40質量%以下の繊維強化剤及び/又はフィラー系強化剤を添加しても良い。これは、表面硬度を付与したり、残留応力を一層低減する観点から好ましい。40質量%超では、樹脂フィルムが脆化し、耐衝撃性が劣化する。繊維強化剤やフィラー系強化剤には、樹脂強化材として使用されている公知の添加剤を使用できる。具体的に繊維強化剤を例示すると、ガラス繊維、スラグ繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、チタン酸カリウィスカー、炭素繊維等が挙げられ、フィラー系強化剤を例示すると、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラスフレーク、シリカ粉、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末、金属塩粉末、金属酸化物粉末、カーボンブラック等が挙げられる。これらは単品で添加しても、複数を併用して添加してもよい。添加する繊維強化剤やフィラー系強化剤の形状は、ゴム状弾性体(B)相同様、長軸と短軸との比が以上であることが望ましく、かつ、これらの長軸は、ゴム状弾性体(B)相の長軸と同一方向に配向していることが望ましい。異方性を持つことにより、短軸方向に残留応力を散逸できる。また、これらの繊維強化剤やフィラー系強化剤の好ましい長軸の大きさは、フィルムの厚みにも依存し、フィルム厚みの1/10以下であることが望ましい。
【0019】
また、これらの繊維強化剤やフィラー系強化剤を添加する際には、表面にシランカップリングやチタンカップリング処理等の公知の表面改質処理をして、濡れ性を増大するのが好ましい。同時に、前述の極性基含有ビニルモノマーを導入したポリオレフィン系樹脂を少量添加し(好ましくは、ポリオレフィン系樹脂(A)の基本物性を変化させない観点から5質量%以下)、これらの添加剤とポリオレフィン系樹脂(A)との界面強度を増強することが好ましい。また、材質面から好ましい繊維強化剤やフィラー系強化剤は、ガラス繊維とタルクである。ガラス繊維は、ゴム状弾性体(B)と相乗して残留応力を低減する効果が著しい。タルクには、ポリオレフィン系樹脂(A)の結晶核として作用し、結晶サイズをミクロに制御したり、結晶形態を角柱のような特定構造に制御しやすく、表面硬度を確保したり、結晶ピニング効果により残留応力による変形を緩和できる。
【0020】
さらに、本発明のフィルムは、特定構造を形成したポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を成形してなるフィルム層を含有していればよく、上層及び下層に他のフィルムが単層又は複層で積層してもよい。具体的には、上層には、アクリルフィルム等を積層して耐候性を向上したり、ポリエステル系のフィルムを積層して表面硬度を向上したり、また、印刷層を設けて意匠性を向上したり、あるいは、難燃性、可塑性、帯電防止性、抗菌抗カビ性を付与する層を積層することもできる。また、下層には、接着力を増加するために公知の接着剤層を積層することもできる。
【0021】
本発明のフィルムは、具体的には以下の方法により製造できる。ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)とを加熱溶融でき、かつ、高せん断速度を加えることが可能な成形装置、例えば2軸混練装置と直結した押し出し成形機、射出成形機等により混練・成形し、ゴム弾性体(B)を十分に配向させる。その後、直ちにせん断速度場を開放し、ポリオレフィン系樹脂(A)又はゴム状弾性体(B)の結晶化温度又はガラス転移温度以下まで急冷して、配向構造を凍結することにより実現できる。あるいは、低せん断速度で加工したフィルムであっても、成形加工後にフィルムを1軸又は2軸に延伸し、ゴム状弾性体(B)相を延伸方向に配向させることにより得られる。本発明の鋼材被覆用フィルムは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を成形したフィルム層を含有し、ゴム状弾性体(B)相の長軸と短軸の比が以上の異方構造を形成して、ポリオレフィン系樹脂(A)中に分散していればよく、上記の方法に製法を限定するものではない。好ましくは、製造効率の観点から、せん断速度を加えて直接フィルムを成形するのが望ましい。
【0022】
この場合、加えるせん断速度の大きさは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)の溶融温度におけるゴム状弾性体(B)成分の濃度揺らぎ成長速度よりも大きなせん断速度場にて混練することが望ましい。当該せん断速度場にて加工することにより、流動場がゴム状弾性体(B)の相成形過程を支配し、容易に流動場方向にゴム状弾性体(B)相を配向して、従って、流動場方向に長軸、垂直方向に短軸を有する構造を容易に形成できる。濃度揺らぎ成長速度は成分系により異なるので、好ましいせん断速度の大きさは成分系に応じて決定されるが、好ましくは500s-1以上、さらに1000s-1以上が、好ましい範囲の目安になる。より好ましくは、光散乱で測定された濃度ゆらぎの相関長と零波数極限の散乱強度からH. E. Staley, “Introduction to Phase Transimits and ariticle Phensnena”, Oxford, 1971に示されるOrnstein-Zernike理論を用いて算出される理論濃度揺らぎの成長速度を求め、当該速度以上にせん断速度を制御することが望ましい。また、混練時のせん断速度場の上限値は、混練時の発熱量を考慮し、樹脂温度が構成成分の熱分解開始以下になるように設定することが好ましい。
【0023】
さらに、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)樹脂の流動指標(MFR: Melt Flow Ratio)(230℃、2.16kg加重を加えた際にノズルから10分間で流出する樹脂質量(ASTM D 1238))の比(MFR(A/B))が1以下であると、粘弾性の観点から当該分散相に制御しやすい。すなわち、比較的低せん断速度場でも、該フィルム内のゴム状弾性体(B)分散相の長軸/短軸比を以上に制御できる。
【0024】
そして、さらに、ポリオレフィン系樹脂(A)が、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐構造を導入した架橋型ポリエチレン、ポリプロピレンのいずれかで、ゴム状弾性体(B)がオレフィン系熱可塑性ゴム、具体的にはエチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、EPRのジエン共重合体のいずれかである組み合わせが、当該分散相に制御しやすい。これらの組み合わせは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)の構成ユニット成分が類似している故、濃度揺らぎ成長速度が遅く、比較的低せん断速度場でもゴム状弾性体(B)相の分散構造の長軸/短軸比を以上になる範囲へ容易に制御できる。
【0025】
また、押し出し成形のように比較的低せん断速度場で樹脂フィルムを成形する場合には、成形前に2軸混練機等で高せん断速度を加えて混練して、長軸/短軸比が以上となるゴム状弾性体(B)分散構造を形成し、その構造を化学的又は物理的手法で固定することが好ましい。構造固定手法を具体的に示すと、ゴム状弾性体(B)の内部を化学又は物理架橋し、さらに、ポリオレフィン系樹脂(A)-ゴム状弾性体(B)間にも共有結合する方法が挙げられる。具体的には、L. D’ORAZIO, et al., J. Appl. Polym. Sci., Vol.53, 387-404 (1994)に開示されている動的架橋法のように、C=C結合を2つ以上含有する架橋剤とパーオキサイドを適正量添加し、ゴム状弾性体(B)を化学的に架橋する。さらに、その後に、所定量のポリオレフィン系樹脂(A)、架橋剤、パーオキサイドを添加、混練してポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)間を共有結合で固定する方法がある。この際、架橋剤の添加量は、各々の工程で樹脂成分に対して0.01質量%以上1質量%以下が好ましい。0.01質量%未満では、十分に架橋、共有結合ができず、1質量%超ではゲル化して、フィルム加工が困難になる場合がある。
【0026】
さらに、本発明の鋼材被覆用フィルムを構成する樹脂組成物には、目的に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、離型剤、滑剤、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤等、公知の改質剤を適正量添加することも可能である。さらに、本樹脂フィルム内のゴム状弾性体(B)相の分散状態は、長軸と短軸の比が以上となる形状でポリオレフィン系樹脂(A)相中に分散することに加え、長軸がフィルム厚み方向に対し、45°〜135°の方向に配向していることが好ましい。長軸を当該方向に配向させることにより、残留応力を厚み方向に散逸させやすくなり、結果として、せん断方向の残留応力を緩和できる。最も好ましいフィルム内のゴム状弾性体(B)の分散構造は、平面状ゴム状弾性体(B)相を被覆する鋼材表面に平行に雲母状に積層した構造である。本構造により、ゴム状弾性体(B)相の長軸が2次元で鋼材表面に平行になり、残留応力をより確実に厚み方向に散逸できる。
【0027】
さらに、押し出し成形のように比較的低せん断速度場で成形する場合には、事前に2軸混練機等で高せん断速度を加えて混練し、かつ、その際に化学的手法でゴム状弾性体(B)相の形状を固定するのが好ましい。化学的な構造固定手法を具体的に示すと、動的架橋法によるゴム弾性体(B)相内部の化学架橋、架橋剤によるポリオレフィン系樹脂(A)相とゴム状弾性体(B)相の共有結合による固定等が挙げられる。
【0028】
本発明の鋼材被覆用フィルムは、広く鋼材表面の全部又は一部の被覆材として使用することができる。本発明の鋼材被覆用フィルムの形態は、鋼材に被覆した際に、鋼材表面に層状に被覆されていればよく、特に厚みや被覆前の形状を規定するものではない。好ましい本フィルムの厚み範囲は、0.0005mm以上50mm以下である。0.0005mm未満では十分な耐腐食性が発現できない場合があり、50mm超では経済メリットが発現しにくい。また、被覆前の形態も鋼材の最終加工形状に応じて選択でき、鋼管である場合はパイプ形状の成形物を、矢板の場合はシート形状の成形物を選択して被覆することも可能である。
【0029】
適用する鋼材種も特に限定するものではないが、具体的には、型鋼、線材等の条鋼や、UO鋼管、スパイラル鋼管、シームレス鋼管、電縫管、たん接管等の鋼・配管や、厚板、熱・冷延鋼板等の圧延材、ブリキ、薄錫めっき鋼板、電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール)、ニッケルめっき鋼板等の缶用鋼板や、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛-鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム-シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛-錫合金めっき鋼板等の溶融めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛-ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛-鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛-クロム合金めっき鋼板等の電気めっき鋼板等の表面処理鋼板、電磁鋼板、ステンレス鋼板等の機能鋼板等が挙げられる。
【0030】
本発明のフィルムを鋼材に被覆する際には、公知の方法が使用できる。具体的には、(1)本樹脂組成物をTダイス付きの押し出し機で溶融混練してフィルム状にし、押し出し直後に鋼材に熱圧着する方法、(2)事前に押し出しもしくは成形したフィルム(この場合は1軸又は2軸方向に延伸してもよい)を熱圧着する方法、(3)樹脂組成物を溶融してバーコーターやロールでコーティングする方法、(4)溶融した樹脂組成物に鋼材を漬ける方法、(5)組成物を溶媒に溶解してスピンコートする方法、等により鋼材に被覆することが可能であり、被覆方法は特に限定されるものではない。(3)〜(5)の場合は、コーティング時に前述レベルのせん断を加えることが望ましい。
【0031】
中でも、作業能率から鋼材への被覆方法として最も好ましいのは、上記(1)及び(2)の方法である。さらに、フィルムの表面は、フィルム表面を任意に1mm長粗度測定した結果がRmaxで500nm以下であることが好ましい。500nm超では、熱圧着で被覆する際に気泡を巻き込む場合がある。
本発明のフィルムを加熱被覆する場合には、フィルムを軟化する温度、すなわちポリオレフィン系樹脂(A)又はゴム状弾性体(B)の結晶化温度又はガラス転移温度の内の最も高い温度よりも高く加熱する場合には、加熱時間はできるだけ短くすることが好ましい。長時間加熱すると、凍結していたゴム状弾性体(B)相の構造が変化し、所望の構造に制御できない場合がある。望ましい加熱時間は、構成成分によって決まるが、好ましくは上記の温度に加熱している時間が3分以内であること、より好ましくは2分以内である。
【0032】
また、本発明のフィルムを被覆する際には、鋼材を下地処理しておくのが好ましい。下地処理をすることにより、本発明のフィルムと鋼材との化学的な密着力を増加でき、本フィルムによる残留応力低減効果と相乗して一層の密着力増強効果が発現できる。具体的には、必要に応じて鋼材表面の油分、スケール除去処理をした後、化成処理する方法が、鋼材下地処理として挙げられる。スケール除去処理法を例示すると、酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理等が、化成処理法を例示すると、クロメート処理、エポキシプライマー処理、シランカップリング処理、チタンカップリング処理等が挙げられる。中でも、酸洗、サンドブラスト処理後、クロメート処理、エポキシプライマー処理を併用した下地処理が、フィルムと鋼板との化学的な密着力を強化する観点から最も好ましい。
【0033】
さらに、鋼材と本発明の樹脂組成物からなる樹脂フィルムとの化学的な密着力を一層増加するために、鋼材表面上、より好ましくは、上記の下地処理をした鋼材表面上に接着剤層を設け、その上層に樹脂組成物のフィルムを積層することが好ましい。接着剤層には公知の接着剤を広く使用できるが、好適に使用できる接着剤を例示すると、前記の極性ビニルモノマー等により極性基を導入したポリオレフィン系樹脂が挙げられる。オレフィン成分により、本発明の樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂(A)との相溶性、従って、本発明の樹脂組成物-接着剤間の密着力を確保し、極性基と鋼材との化学的な相互作用により、鋼材-接着剤間の密着力を増加できる。具体的な樹脂系は、鋼材の表面性状や本発明の樹脂フィルムの成分系に応じて決定されるが、極性基としてカルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基、アミド基、アミノ基、エポキシ基、アルコール基の中の1種もしくは複数を含有するポリオレフィン系樹脂が、好適に接着剤として使用できる。
【0034】
鋼材表面上に、接着剤層、本発明の樹脂フィルムの順で積層する方法を具体的に例示すると、2層押し出し等の方法で、下層に接着剤樹脂、上層に本樹脂フィルムの積層フィルムを作成し、鋼材表面に積層する方法や、接着剤樹脂及び本樹脂フィルムを単独で成形し、鋼材表面にラミネートする際に積層する方法等が挙げられ、効率から前者が好ましい。積層時には、接着剤層樹脂を可塑化して十分なアンカー効果を発現したり、鋼材-接着剤間の化学的な相互作用を増強するために、接着剤樹脂の融点以上に鋼材を加熱することが好ましい。
【0035】
本発明の鋼材被覆用フィルムは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を少なくとも成形してなる鋼材被覆用フィルムであって、フィルム内のゴム状弾性体(B)相の長軸と短軸の比が以上の異方構造を形成してポリオレフィン系樹脂(A)中に分散していることを特徴とする。ゴム状弾性体(B)分散相を当該形状に制御することにより、フィルム内に残留した応力を短軸方向に散逸でき、鋼材との密着力を強化できる。従って、本フィルムを鋼材に被覆すると、過酷環境下で使用しても、陰極剥離、端面剥離、収縮剥離等の各種剥離を抑止できる。さらに、この作用は、ゴム状弾性体(B)分散相の長軸と短軸の比を特定値以上に制御したり、繊維強化剤、フィラー系強化剤を適正量添加することにより、より増強される。また、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)とのMFR比を適正域に制御することにより、ゴム状弾性体(B)相を所望の形状に容易に制御できる。さらに、フィルム内のゴム状弾性体(B)相の長軸を、適正方向に配向することにより、フィルム内残留応力を鋼材表面に厚み方向により確実に散逸でき、一層の密着力の増強が図れる。
【0036】
また、本発明の鋼材は、鋼材表面一部又は全面を本発明のフィルムで被覆されているので、鋼材を過酷な環境下で使用しても、フィルムが鋼材表面から剥離することなく、長期にわたり耐腐食性を保つことができる。従って、配管、鋼管、矢板等の重防食鋼材にも、好適に使用することができる。
【0037】
【実施例】
ポリオレフィン系樹脂(A)及びゴム状弾性体(B)として、日本ポリケム社製のポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及びJSR社製のエチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-ブテンゴム(EBM)を使用した。使用した樹脂原料のグレード名、MFR値を表1に示す。
【0038】
【表1】
Figure 0004794759
【0039】
(実施例1〜10)
表2の樹脂組成物を2軸混練機(混練温度:210℃、平均せん断速度:650/s)で混練した。次に、当該樹脂組成物ペレットを使用して、射出成形機(溶融温度:230℃、最大せん断速度:1000/s)及び丸ダイスを使用した押し出し成形機(溶融温度:230℃、最大せん断速度:100/s)により、シート(150×150×2.5mm)並びに配管(外径:42.4mmφ、肉厚:1.5mm、長さ4040mm)を成形した。
【0040】
シート表面に垂直な断面及び配管の長手方向に平行な断面を、液体窒素温度で切り出した後、超音波をかけながら断面のゴム状弾性体(B)相をメタキシレンでエッジングした。本断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、市販の画像処理ソフト(イメージプロ)を使用して、ゴム状弾性体相の長軸、短軸の比を解析した。いずれのシート、配管でも、ゴム状弾性体は、長軸/短軸の比が以上で分散していた(表2)。代表例として、図1に実施例1のシート断面のゴム状弾性体相の観察結果を示す。図1の上図は実施例1のフィルムのxz断面、下図はyz断面のSEM写真であり、写真中の黒い相(エッジングされた相)はゴム状弾性体相、白い相はポリオレフィン系樹脂相である。なお、xz断面、yz断面とは図1に示すフィルムの各方向によって定義される断面である。
【0041】
実施例1のフィルムでは、フィルムの厚さ方向に対して約90°の方向(フィルム表面方向)に長い異方性をゴム状弾性体相(B)が有していることが観察される。
上記のシートから10×100×2.5mmを切り出し、10×100×0.5mmの銅箔表面上に、以下の方法で被覆した。銅箔を200℃に加熱し、エポキシプライマーを塗布した。さらに、接着剤シート(無水マレイン酸含有PP(樹脂(A)がPEである場合は、無水マレイン酸を導入したPE))、実施例1〜10のシートの順に積層、圧着して、切り出しシートを銅箔に接着した。接着後、シート面から銅箔を水冷し、室温まで冷却した。銅箔をさらに1日室温で放置し、銅箔の反りの大きさにより、シート内の残留応力を評価した。銅箔の反りは、いずれも20mm以下であった。
【0042】
(実施例11〜14)
実施例1〜4の樹脂組成物原料に対して、無水マレイン酸を導入したPP(樹脂(A)がPEである場合は、無水マレイン酸を導入したPE)、シランカップリング処理したガラスフィラー(15μmφ、250μm長)を、各々3質量%、15質量%添加し、同様に混練(但し、ガラスフィラーは混練末期にサイドフィーダーにより添加)した。
【0043】
本ペレットを使用して、実施例1〜4と同様に、シート並びに配管を成形し、シート及び配管の断面のゴム状弾性体相の長軸、短軸の比を解析した。いずれのシート、配管でも、ゴム状弾性体は、長軸/短軸の比が以上で分散していた(表2)。さらに、実施例1〜10と同様に、銅箔表面上に切り出しシートを接着し、反りの大きさにより、残留応力を評価した。反りの大きさは、いずれも15mm以下であった。
【0044】
【表2】
Figure 0004794759
【0045】
(実施例15〜28)
脱脂、グリットプラスト処理した鋼板(75×150×6mm)表面にクロメート処理剤を塗布し、160℃で加熱処理した。その後、鋼板を200℃に加熱し、表面にエポキシプライマーを塗布した。さらに、200℃で加熱しながら接着剤シート(無水マレイン酸含有PP)、実施例1〜10のシートの順に積層、圧着して、鋼板表面に本シートを接着した。接着後、シート面から水冷し、室温まで鋼板を冷却した。
【0046】
本樹脂被覆鋼板を60℃の3質量%食塩水に60日間浸漬した後、ハンマーにてシートを強制剥離し、鋼板表面から剥離した接着剤層の面積を定量化し、剥離度合いを評価した。当該実施例の剥離面積は、いずれも20%以下で、端部からの剥離は殆ど進行していなかった(表3)。
さらに、本鋼板を使用して、ASTM G8に準拠した陰極剥離試験を実施し(3質量%食塩水使用、浸漬温度:100℃、ホリディ:6mmφ、鋼板電位:-1.38V vs Ag/AgCl)、14日間浸漬した後の剥離状況を、ホリディ中心から最も遠い剥離点までの距離で定量評価した。いずれの鋼板でも、剥離長はホリディ半径の4倍以下であった(表3)。
【0047】
また、脱脂した鋼管(外径:50.8mmφ、肉厚:3.3mm、長さ:3930mm)内面をグリットブラスト処理した。次に、実施例1〜14の配管外面に、接着剤(無水マレイン酸含有ポリオレフィン)を、塗装機を用いてスプレー法によって塗装し、接着層(厚み:50μm)を形成した。その後、鋼管に配管を挿入し、鋼管の外径を絞り率6%でロール絞りすることにより、鋼管内面に配管をライニングさせた後、高周波誘導加熱により鋼管を150℃に加熱してから、室温まで放冷した。本樹脂被覆鋼管の内面剥離状況を観察した結果、収縮による鋼管からの剥離発生はなかった(表3)。
【0048】
(比較例1、2)
市販のPP(EA8)、PE(UF420)を使用して、実施例1、2と同様に、シート及び配管を成形した。
【0049】
本シートを使用して実施例1〜14と同様に、銅箔に本シート切り出し片を接着し、残留応力を銅箔の反りにより評価した。反りの大きさは30mmで、実施例1〜14の2倍以上であった。
さらに、実施例15〜28と同様にして、端部、陰極、収縮剥離を評価した。実施例15〜28に比較して、いずれも剥離が大きく、本発明のフィルムよりも鋼材密着性が劣った。
【0050】
(比較例3〜6)
実施例1〜4のシート及び配管を200℃で5分間アニールした。アニ−ル後のシート及び配管断面のゴム状弾性体(B)相を、実施例1〜4と同様に観察評価した。いずれも、ゴム状弾性体相の配向は十分に緩和し、長軸と短軸との比は1.5未満であった(表2)。
【0051】
図3に、代表的な例として、実施例1のシートをアニ−ルした後のゴム状弾性体(B)相の形態を示す。写真の見方は図1と同じであり、上図がxz断面、下図がyz断面である。ゴム状弾性体相(B)に異方性はみられない。
実施例1〜4と同様に、アニ−ル後シートから切片を切り出して銅箔に接着し、残留応力を評価した。アニ−ル後のシートを接着した銅箔の反りは30mm以上であり、実施例1〜14の2倍以上であった。
【0052】
さらに、実施例15〜28と同様にして、端部、陰極、収縮剥離を評価した。実施例15〜28に比較して、いずれの剥離も大きく、実施例の樹脂フィルムよりも鋼材密着性が劣った。
【0053】
【表3】
Figure 0004794759
【0054】
以上、実施例1〜28と比較例1〜6の比較により、本発明のフィルムの構造が実現可能で、かつ、従来のPPシート及び同一樹脂組成でも本発明のゴム状弾性体相構造を有しないフィルムよりも残留応力が低減可能あり、従って、端部剥離、陰極剥離、収縮剥離を低減する、すなわち、フィルムと鋼材との密着力を増加できることを確認できた。
【0055】
【発明の効果】
本発明の鋼材被覆用フィルムは、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を少なくとも成形してなる鋼材被覆用フィルムであって、フィルム内のゴム状弾性体(B)相が長軸と短軸の比が以上の異方構造を形成してポリオレフィン系樹脂(A)中に分散していることを特徴とする。ゴム状弾性体(B)分散相を当該形状に制御することにより、フィルム内に残留した応力を短軸方向に散逸でき、鋼材との密着力を強化できる。従って、本フィルムを鋼材に被覆すると、過酷環境下で使用しても、陰極剥離、端面剥離、収縮剥離等の各種剥離を抑止できる。さらに、ゴム状弾性体(B)分散相の長軸と短軸の比を特定値以上に制御したり、繊維強化剤やフィラー系強化剤を適正量添加することで、より増強される。また、ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)とのMFR比を適正域に制御することにより、ゴム状弾性体(B)相を所望の形状に容易に制御できる。さらに、フィルム内のゴム状弾性体(B)相の長軸を、適正方向に配向することにより、フィルム内残留応力を鋼材表面に厚み方向により確実に散逸でき、一層の密着力の増強が図れる。
【0056】
また、本発明の樹脂被覆鋼材は、鋼材表面一部又は全面を本発明のフィルムで被覆されているので、鋼材を過酷な環境下で使用しても、フィルムが鋼材表面から剥離することなく、長期にわたり耐腐食性を保つことができる。従って、配管、鋼管、矢板等の重防食鋼材にも、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のフィルムのゴム状弾性体(B)の分散状態を示すSEM写真。
【図2】図1、図3のSEM写真のフィルム断面方向を説明する図。
【図3】比較例3のフィルムの図1に対応するSEM写真。

Claims (5)

  1. ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)を含有する樹脂組成物を少なくとも成形した鋼材被覆用フィルムであって、
    ポリオレフィン系樹脂(A)とゴム状弾性体(B)との流動指標の比(MFR(A/B))が、1以下であり、
    前記フィルム内で前記ポリオレフィン系樹脂(A)相内にゴム状弾性体(B)相が分散しているとともに、
    前記ゴム状弾性体(B)相の長軸と短軸の比が以上の異方性を有することを特徴とする鋼材被覆用フィルム。
  2. 前記ゴム状弾性体相(B)の長軸が、フィルムの厚み方向に対し、45°〜135°の方向に配向してなる請求項に記載の鋼材被覆用フィルム。
  3. 前記樹脂組成物中に繊維強化剤及び/又はフィラー系強化剤を40質量%以下含有する請求項1又は2に記載の鋼材被覆用フィルム。
  4. 前記繊維強化剤及び/又はフィラー系強化剤が、タルク及び/又はガラス短繊維である請求項記載の鋼材被覆用フィルム。
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフィルムを、鋼材表面の一部又は全面に被覆してなる樹脂被覆鋼材。
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