JP4790516B2 - 調質圧延鋼板の材質予測方法及びこれを利用した連続焼鈍ラインの操業方法 - Google Patents

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本発明は、連続焼鈍炉を持つ連続処理ライン、例えば連続焼鈍設備や溶融めっき設備の出側に調質圧延機を配置した連続処理ラインにおける調質圧延鋼板の材質予測方法及びこれを利用した連続焼鈍ラインの操業方法に関するものであり、特に780MPa以上の抗張力を有するハイテン鋼板の材質予測方法及び操業方法に有効なものである。
連続焼鈍炉の出側に調質圧延機を配置した連続焼鈍ラインにおいては、炉内における加熱・均熱板温または徐冷炉出側板温が調質圧延鋼板の材質に大きな影響を及ぼす。このため従来から連続焼鈍炉の内部における板温制御を高精度化し、材質を安定させる努力が行われていた。しかし例えば鋼板成分が変動するなどの前工程起因の材質バラツキが存在するような場合には、単に連続焼鈍炉の板温制御を高精度化しても、材質変動を避けることができなかった。特に近年、自動車部品の成形精度向上の観点からハイテン材(高強度鋼板)、特に780MPa以上の抗張力を持つハイテン材の材質バラツキ低減、特に引張強度の安定を求められているが、従来法では自動車メーカーの要求に完全に応えることができなかった。
なお特許文献1には、連続焼鈍炉と調質圧延機との間に鋼板温度の制御手段を設け、環境温度の影響をなくして調質圧延鋼板の材質安定を図る技術が開示されている。しかしこの方法も、前工程起因の材質バラツキが存在するような場合には、効果がなかった。
また、特許文献2には、調質圧延装置の張力変動量によって焼鈍温度を制御する方法が提案されている。しかし、この方法は、単に張力変動にのみ着目したものであって、調質圧延荷重が一定条件の必要があり、圧延荷重が変動するような場合には、予測精度に問題があった。
しかも、調質圧延荷重を一定条件下で圧延するには、調質圧延装置の能力にも依るが、一般には、比較的低い抗張力の鋼板が対象となる極めて限定的な範囲でしか成立しない方法と考えられる。
更に、実施例にも具体的な抗張力レベルの記載が見当たらず、抗張力の高い鋼板への効果については、まったく証明されていない。従って、本発明とは技術内容が異なる上、特に提案している抗張力が780MPa以上のハイテン鋼板にも有効な方法と言えない。
このため、従来は製造された後の調質圧延鋼板の材質をオフラインで検査し、その結果を連続焼鈍ラインの製造条件にフィードバックする方法が採用されてきた。しかしこの方法ではフィードバックに時間がかかるため、大量の規格外れ品が発生してしまうことがあった。
特開平6−344019号公報 特開平6−10055号公報
本発明は上記した従来の問題点を解決し、鋼板成分が変動するなどの前工程起因の材質バラツキが存在する場合にも、速やかに連続焼鈍ラインにフィードバックを行うことができ、規格外れ品の発生を最小限に抑制しつつ、調質圧延鋼板、特に780MPa以上の抗張力を持つハイテン鋼板の材質を安定させることができる技術を提供することを目的とするものである。
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明は、抗張力が780MPa以上の調質圧延鋼板の材質予測方法であって、連続焼鈍炉の出側に配置された調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、これらの値に基づいて鋼種に応じて調質圧延鋼板の降伏点(YP)を予測し、前記予測された降伏点(YP)、及び、鋼種に応じて求められた降伏点(YP)と抗張力(TS)の関係から調質圧延鋼板の抗張力(TS)を予測すること特徴とするものである。なお、前記伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に行うことが好ましく、調質圧延鋼板の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼板の降伏点を算出する予測式を用いて行うことが好ましい。さらに、上記のように算出された降伏点(YP)を、下式に代入して、調質圧延鋼板の抗張力(TS)を算出することができる。
TS=e*YP+f
(e,fは各ラインの特性や鋼種によって定められる定数)
また請求項5の発明は、連続焼鈍ラインの操業方法に関するものであり、求項1〜の何れかに記載の方法により調質圧延鋼板の材質予測を行い、予測結果に基づいて連続焼鈍炉の操業条件をフィードバック制御することを特徴とするものである。なお、フィードバック制御する操業条件が、連続焼鈍炉の加熱炉板温、均熱炉板温、徐冷炉出側板温のうち、1種または2種以上であることが好ましい。
請求項1〜の発明によれば、前工程起因の材質バラツキが存在する場合にも、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から直ちに材質予測を行うことができる。また請求項5〜6の発明によれば、予測材質が一定となるように連続焼鈍炉の操業条件をフィードバック制御することにより、規格外れ品の発生を最小限に抑制しつつ、調質圧延鋼板の材質を安定させることができる。このほか本発明によれば、連続焼鈍炉の板温計に異常が発生したような場合にも直ちに異常発生を検出でき、規格外れ品の発生を抑制することができる。
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は鋼板の連続焼鈍ラインを模式的に示した図であり、1は連続焼鈍炉、2はその出側に配置された調質圧延機である。連続焼鈍炉1は昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5、冷却炉6に大別されている。払出しリール7から払い出された鋼板はこれらの昇温炉3、一次均熱炉4、二次均熱炉5を順次走行する間に鋼板の材質に適した温度に加熱焼鈍されたうえ、二次均熱炉5の出口温度から冷却炉6で焼入れされ、調質圧延機2で調質圧延されたうえで巻き取りリール8に巻き取られる。なお、冷却炉6と調質圧延機2との間に過時効炉や冷却炉、表面処理鋼板を製造するための溶融メッキ設備、合金化設備、電気メッキ設備などの表面処理設備を付設してもよい。以上の構成は従来と変わるところはなく、各部分の板温は前記したように高精度の制御が行われている。
調質圧延機2では軽圧下による調質圧延が行われるが、本発明では調質圧延機2における圧延荷重、張力、伸び率を連続的に検出し、材質予測を行う。本発明では、特に780MPa以上の抗張力を持つハイテン鋼板の材質予測を正確に行うべく、調質圧延機の張力、伸び率のみならず、調質圧延機の圧延荷重をも取り入れて材質予測をすることに特徴がある。図2及び図3に780MPa以上の抗張力を持つハイテン鋼板での圧延荷重とハイテン鋼板との降伏点との相関を示す。また図4及び図5に当該ハイテン鋼板での圧延荷重と抗張力との相関を示す。すなわち実績データによれば、図2及び図3に示されるように伸び率が同じであれば圧延荷重、張力が増加すると調質圧延鋼板の降伏点(YP)が増加し、また図4及び図5に示すように抗張力(TS)も増加している。また圧延荷重もしくは張力が一定であっても、伸び率が低い方が降伏点(YP)及び抗張力(TS)が大きくなる。このことから、圧延荷重、張力、伸び率、調質圧延鋼板の材質(YP、TS)との間には強い相関があることが分る。
そこで過去の操業実績に基づいて、調質圧延鋼板の材質予測式を作成した。調質圧延の理論式として知られるROBERTSの式には、材質(YP、TS)、伸び率、張力、摩擦係数、厚み、圧延速度、ロール径などの多くの影響因子が含まれており、これらの因子を精度よく用いることで、高精度な材質予測が可能になることから、本発明の一例として、下記の材質予測式を作成した。影響因子としては、調質圧延機の伸び率(%)、調質圧延機の張力(MPa)、鋼板の板厚(mm)、調質圧延機の圧延荷重と鋼板の板巾から算出される線荷重(ton/m)を用いている。
YP=a*伸び率(%)+b*(平均張力MPa)+c*(鋼板の板厚mm*線荷重ton/m)+d
この式中、YPは降伏点であって単位はMPa、SPM%は伸び率、線荷重は圧延荷重を鋼板の幅で割った値である。この式に含まれる係数は重回帰分析により定めるが、前記式のa, b, c, dの具体的な数値や式の形態は各ラインの特性や通板される鋼板の強度によって定められるものであり、上記に限定されるものではないことはいうまでもない。ちなみに軟鋼板でよく実施される圧延荷重を一定とした調質圧延を780MPa以上の高張力鋼板に実施した場合、鋼板の高張力ゆえ設備仕様の限界に近い過度な圧延荷重と張力バランスでの調質圧延となり、圧延そのものが極めて不安定になり、最悪、板破断などのトラブルを発生させることもあり得る。
なお、前記張力について、実操業では調質圧延機の入側と出側の張力があるが、両者は概ね比例関係にあり、材質予測に用いる値は入側もしくは出側を用いるが、両者を平均化して用いるのが好ましい。鋼板の板厚、板巾についても、調質圧延機の入側での値または出側での値のいずれを測定もしくは上位計算機より入手して用いても構わないが、焼鈍炉内での鋼板の伸びの影響から調質圧延機出側での値を用いることが好ましい。
調質圧延鋼板、特に780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板の材質予測が調質圧延機の圧延荷重を影響因子として採用した場合に後述のようにTSを極めて正確に予測できる理由は以下の理由が考えられる。一般的な軟質鋼板では鋼鈑が軟質ゆえと、その軟質な鋼板に対して調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕があることから、圧延荷重、張力のいずれか一方(例えば圧延荷重)が変動した場合、調質圧延機の圧延制御により伸び率一定とすべく他の一方(例えば張力)が制御できてしまい、張力のみを影響因子としても大きな差支えがない。ところが780MPa以上のTSを持つハイテン鋼板では、その高強度の鋼板に対し、調質圧延機の圧延荷重、張力の設備能力に余裕がなく、それぞれの設備能力限界で操業することが多い。圧延荷重、張力のいずれか一方が変動した場合、他の一方で吸収できない場合もあり、圧延荷重、張力のいずれか一方だけでは予測精度を向上させることができず、張力、圧延荷重(前述式の線荷重を算出)、伸び率から複合的に予測しなければならないものと思われる。
さらに材質を予測するための影響因子として、調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を考慮して精度向上を図ることも好ましい。調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数は鋼板圧延中に決定することが困難な場合、予め測定または決めておいた値を用いても構わない。調質圧延機圧延速度は調質圧延機の入側での値または出側での値の何れを用いても構わない。
この式により予測されたYPは図6に示すとおり実績YPとよく一致する(重相関係数0.925)ことが確認された。また調質圧延鋼板のYPとTSとの間には図7に示すとおり強い相関があるので、この図7に示されたTS=e*YP+fの関係を利用してTSを予測し、実績TSとの関係を確認すると図8にようになり、上記の材質予測式によって調質圧延鋼板の材質を正確に予測できることが確認された。なお当業者には自明であるが、TSとYPとの関係も鋼種によって変化するため、鋼種に応じた式、例えば高次の式や各種関数を用いた式を用いても構わず、前記式の形態に限定されない。また前記式の場合でも、式中のe,fは各ラインの特性や鋼種によって定められるもので特に限定されない。
本発明の一例では、調質圧延機2において連続的に検出された圧延荷重、張力、伸び率
と、調質圧延機2の後方に位置する板厚計11、板巾計12において連続的に検出された板厚、板巾は図1に示すプロセスコンピュータ9に入力され、プロセスコンピュータ9に入力されている調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式に代入されて計算され、リアルタイムで現在圧延中の鋼板の材質を把握することができる。
なお、板厚、板巾の値はプロセスコンピュータ9の上位計算機であるビジコン10より入手しても構わない。さらに材質予測精度を向上させるために、前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数、調質圧延機圧延速度のうち1種以上を追加した調質圧延鋼板のYP算出式、TS算出式を用いても構わない。前記調質圧延機ワークロール径、調質圧延機ワークロールと鋼板との間の摩擦係数の値はオペレータによるプロセスコンピュータ9への直接入力あるいは事前入力され、調質圧延機圧延速度は調質圧延機ワークロール回転速度または図示されていない調質圧延機前後に設置されたブライドルロール回転速度など、調質圧延機内またはその近傍で回転速度を検出可能なロールから検出し、プロセスコンピュータ9に入力すればよい。
このため演算された調質圧延鋼板のYPやTSに変動が生じた場合には直ちに異常発生の警報を出すことができ、従来のように大量の規格外れ品を発生させることがない。また異常発生の原因が、鋼板成分変動などの前工程起因の材質バラツキである場合にも、圧延荷重、張力、伸び率の変動として現れるので、直ちに異常発生を把握することができる。このように調質圧延機2を材質変動のモニターとして利用するのは、従来に例を見ない新規な技術である。
上記したように、調質圧延機2をモニターとして調質圧延鋼板の材質を正確に把握することができるため、請求項5の発明では、請求項1乃至4の方法により得られた調質圧延鋼板の材質予測結果に基づいて、連続焼鈍炉1の内部における板温をフィードバック制御する。図1に示すプロセスコンピュータ9は工場全体の工程を制御するビジコン10からコイルの前工程情報を受け取り、材質の予測値に基づいて連続焼鈍炉1の加熱・均熱板温や徐冷炉出側板温等をフィードバック制御する。
具体的なフィードバック先は、次の通りである。
即ち、フェライト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト等の組織(相分率)制御を目的とする鋼板(一般的には引張強さが440〜1600Mpaの高張力鋼板及び超高張力鋼板で、特にTSが780MPa以上)については、フィードバック先は相分率を決定する加熱炉3や均熱炉4の板温と、焼入れ開始温度を決定する徐冷炉5の出側板温のうち、1種または2種以上とする。特に超高張力鋼板では、徐冷炉5の出側板温がYPの変動に最も大きく影響する鋼種があるので、これを制御することが有効である。
また極低炭素鋼や低炭素鋼および鋼の強化機構が固溶強化型や析出強化型ハイテンなどの冶金的に焼鈍(フェライト粒制御、集合組織制御等)や、析出物の形態、析出物の分散状態の制御等を目的とする鋼板(一般的にはTSが270〜980MPaの軟鋼板、高張力鋼板及び超高張力鋼板で、特にTSが780MPa以上)については、フィードバック先は加熱炉3、均熱炉4、徐冷炉5の板温の1種または2種以上とする。
このようなフィードバック制御を行えば、前工程起因の材質バラツキや、連続焼鈍炉内における板温の変動に起因する材質バラツキが発生しても直ちに自動修正を加え、調質圧延鋼板の材質安定を図ることができる。これにより自動車メーカーからのハイテン材(高強度鋼板)の材質バラツキ低減の要求にも応えることが可能となった。
連続焼鈍ラインの模式図である。 圧延荷重とYPとの相関を示すグラフである。 圧延張力とYPとの相関を示すグラフである。 圧延荷重とTSとの相関を示すグラフである。 圧延張力とTSとの相関を示すグラフである。 予測YPと実績YPとの相関を示すグラフである。 YPとTSの関係を示すグラフである。 予測TSと実績TSとの相関を示すグラフである。
符号の説明
1 連続焼鈍炉
2 調質圧延機
3 加熱炉
4 均熱炉
5 徐冷炉
6 冷却炉
7 払出しリール
8 巻き取りリール
9 プロセスコンピュータ
10 ビジコン
11 板厚計
12 板巾計

Claims (6)

  1. 抗張力が780MPa以上の調質圧延鋼板の材質予測方法であって、
    連続焼鈍炉の出側に配置された調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を測定または上位計算機より入手し、
    これらの値に基づいて鋼種に応じて調質圧延鋼板の降伏点(YP)を予測し、
    前記予測された降伏点(YP)、及び、鋼種に応じて求められた降伏点(YP)と抗張力(TS)の関係から調質圧延鋼板の抗張力(TS)を予測することを特徴とする調質圧延鋼板の材質予測方法。
  2. 抗張力が780MPa以上の調質圧延鋼板の材質予測方法であって、
    連続焼鈍炉の出側に配置された調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾を鋼板の全長にわたり連続的に測定または上位計算機より入手し、
    これらの値に基づいて鋼種に応じて調質圧延鋼板の降伏点(YP)を予測し、
    前記予測された降伏点(YP)、及び、鋼種に応じて求められた降伏点(YP)と抗張力(TS)の関係から調質圧延鋼板の抗張力(TS)を予測することを特徴とする調質圧延鋼板の材質予測方法。
  3. 抗張力が780MPa以上の調質圧延鋼板の材質予測方法であって、
    前記調質圧延鋼板の材質予測を、調質圧延機における伸び率、張力、圧延荷重の値と、鋼板の板厚、板巾から鋼種に応じて鋼板の降伏点(YP)を算出する予測式を用いて行うことを特徴とする請求項1または2記載の調質圧延鋼板の材質予測方法。
  4. 前記鋼種に応じて求められた降伏点(YP)と抗張力(TS)の関係は、下式であり、
    請求項3で算出された降伏点(YP)を、下式に代入して、調質圧延鋼板の抗張力(TS)を算出することを特徴とする請求項3に記載の調質圧延鋼板の材質予測方法。
    TS=e*YP+f
    (e,fは各ラインの特性や鋼種によって定められる定数)
  5. 請求項1〜4の何れかに記載の方法により調質圧延鋼板の材質予測を行い、予測結果に基づいて連続焼鈍炉の操業条件をフィードバック制御することを特徴とする連続焼鈍ラインの操業方法。
  6. フィードバック制御する操業条件が、連続焼鈍炉の加熱炉板温、均熱炉板温、徐冷炉出側板温のうち、1種または2種以上であることを特徴とする請求項5に記載の連続焼鈍ラインの操業方法。
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