次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明にかかるブレーキ装置の一実施形態の全体構成を示すものであり、この実施形態のブレーキ装置は、同図に示すように相互に独立した前輪側ブレーキ回路1aと後輪側ブレーキ回路1bを備えている。この実施形態の場合、前輪側と後輪側のブレーキ回路1a,1bは、前輪側のブレーキ操作部2がレバーによって構成され、後輪側のブレーキ操作部2がペダルによって構成されている点で異なるが、その他の基本的構成はほぼ同様とされている。以下の具体的な回路構成の説明においては、前輪側ブレーキ回路1aについてのみ詳述し、後輪側ブレーキ回路1bについては、前輪側ブレーキ回路1aと同一部分に同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
各ブレーキ回路1a,1bは、ブレーキ操作部2に連動するマスターシリンダ3と、それに対応する車輪制動手段であるブレーキキャリパ4とが主ブレーキ通路5によって接続され、その主ブレーキ通路5の途中に、後述する電動アクチュエータによって液圧を作り出す液圧モジュレータ6が合流接続されている。そして、主ブレーキ通路5上の液圧モジュレータ6との合流接続部よりもマスターシリンダ3側位置には、マスターシリンダ3とブレーキキャリパ4の連通と遮断を操作する常開型の第1の電磁開閉弁7が介装されると共に、この第1の電磁開閉弁7が主ブレーキ通路5を閉じたときに、適宜ブレーキ操作部2の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスターシリンダ3に作用させる反力モジュレータ45が接続されている。また、液圧モジュレータ6の電動アクチュエータと第1の電磁開閉弁7は、液圧モジュレータ6等に内蔵される他の弁類等と共にコントローラ(ECU)9によって電気的に制御されるようになっている。
尚、コントローラ9には、各ブレーキ回路1a,1bの入力側(第1の電磁開閉弁7を挟んでマスターシリンダ3側。)と出力側(同弁7を挟んでブレーキキャリパ4側。)の液圧を検出する各圧力センサ10,11と、前後輪の各車輪速度を検出する車輪速度センサ12のほか、制御モードをライダーによる手動操作で切換えるモード切換えスイッチ13(モード切換え手段)等が接続されており、コントローラ9は、これらの入力信号やモード切換え信号に応じてブレーキキャリパ4の制動圧を制御する。
このブレーキ装置は、前輪側と後輪側の一方のブレーキ操作部2が操作されたときに他方のブレーキキャリパ4を連動操作し得るCBSを備えており、このCBSの従となる側のブレーキキャリパ4はバイワイヤ方式によって液圧モジュレータ6からの供給圧によって操作される。つまり、一方のブレーキ操作部2が操作されると、そのとき前後輪の速度やブレーキ操作量等の情報が各種センサを通してコントローラ9に入力され、このときコントローラ9からの指令によって他方のブレーキ回路の第1の電磁開閉弁7が主ブレーキ通路5を閉じると同時に、液圧モジュレータ6が他方の回路のブレーキキャリパ4に車両の運転条件やブレーキ操作に応じた液圧を供給する。ただし、このようにブレーキ操作されない側の回路に液圧モジュレータ6から液圧が供給されるのは、後に詳述するモード切換えスイッチ13がCBSを許容するモードに設定されているときに限る。
一方、ブレーキ操作部2が先に操作された側のブレーキ回路では、マスターシリンダ3で発生した液圧が直接ブレーキキャリパ4に供給される。つまり、一方のブレーキ操作部2が他方のブレーキ操作部2よりも先に操作されたことが圧力センサ10を通してコントローラ9によって判断されると、第1の電磁開閉弁7が非通電のまま維持され、その結果、マスターシリンダ3の液圧が主ブレーキ通路5を通してブレーキキャリパ4に供給されることとなる。
したがって、このブレーキ装置のCBSは、従となる側のブレーキ回路をバイワイヤによって液圧制御するため、ブレーキキャリパ4や配管を複雑にすることなく前後のブレーキを最適な液圧比で連動させることができる。しかも、先にブレーキ操作された主となるブレーキ回路では、マスターシリンダ3の液圧がブレーキキャリパ4に直接供給されるため、そのブレーキ回路の液圧モジュレータ6(内蔵した電動アクチュエータ)を停止状態にしておくことができる。このため、このブレーキ装置は、CBSによるブレーキング時に少なくとも一方の液圧モジュレータ6(内蔵した電動アクチュエータ)を非作動状態にしておくことができるため、電流消費を確実に抑えることができる。
また、主ブレーキ通路5に介装される第1の電磁開閉弁7は常開型であるため、車両の通常運転中等には非通電にしておくことができる。したがって、この点からも車両の電流消費を大きく抑えることができる。尚、以上はブレーキ操作が比較的短時間行われるときの説明であるが、このブレーキ装置は、坂道での停車等のブレーキ操作が長時間にわたって行われるときには、さらに電流消費を抑制するモードに移行するようになっている。この電流抑制モードについては後に述べる。
つづいて、液圧モジュレータ6の具体的な構造と機能について図2〜図10を参照して説明する。
液圧モジュレータ6は、図4の展開断面図に示すように、モジュレータボディ14内に形成されたシリンダ15にピストン16が進退自在に収容され、そのシリンダ15とピストン16の間に液圧室17が隔成されている。この液圧室17は常閉型の第3の電磁開閉弁18が介在されたメインの給排通路19によってモジュレータボディ14の出力ポート20に接続されている。この出力ポート20は、図3,図9,図10に示すように主ブレーキ通路5に接続され、液圧室17と主ブレーキ通路5の間で適宜作動液の給排が行われるようになっている。尚、図4に示す液圧モジュレータ6と、図3,図9,図10に示す液圧モジュレータ6は液圧室17から主ブレーキ通路5に繋がる内部通路が異なって描かれているが、これは図示都合上の相違であって実際の構造と機能は変わるものではない。
また、液圧モジュレータ6は、図4に示すように前記ピストン16を液圧室17方向に押し上げるカム機構21と、ピストン16をカム機構21側に常時押し付けるリターンスプリング22と、カム機構21を作動させる電動アクチュエータとしての電動モータ23と、を備え、この電動モータ23がコントローラ9(図1参照。)によって適宜正逆方向に回転制御されるようになっている。
カム機構21は、モジュレータボディ14内に軸受支持されたカム軸24に、一対のカムローラ25,26がカム軸24の回転中心から偏心するように設けられている。この両カムローラ25,26は、カム軸24の外周部にその軸と平行に設けられた共通のシャフト27に針状ころ軸受28を介して回転自在に支持されている。したがって、両カムローラ25,26はカム軸24の外周部に軸方向に直列に並んだかたちで配置されている。一方のカムローラ25には、リターンスプリング22によって付勢されたピストン16の端部が常時当接し、他方のカムローラ26には後述するリフター29が当接するようになっている。
また、前記カム軸24の一端にはセクタギヤ30が一体に設けられ、このセクタギヤ30部分が減速ギヤ31を介して電動モータ23の出力軸上のピニオンギヤ32に連繋されている(図4,図6(b)参照。)。したがって、電動モータ23の回転トルクはこれらのギヤによる噛み合いによってカム軸24に伝達され、そのトルクによるカム軸24の回動はカムローラ25を介してピストン16に操作力として伝達される。また、カム軸24の一端にはさらに角度センサ33が設けられており、この角度センサ33で検出されたカム軸24の角度情報がコントローラ9にフィードバックされるようになっている。
ピストン16は、シリンダ15内の略中央位置を中立基準位置としてシリンダ15内の一端側領域と他端側領域で作動制御される。図3,図4と図6(a),図6(b)は、ピストン16が中立基準位置にある状態を示し、この状態ではカム軸24上のカムローラ25の偏心位置がピストン16のストローク方向と略直交している。電動モータ23は通電制御によってこのカムローラ25の偏心位置を図中上下に適宜回動操作する。
この実施形態の液圧モジュレータ6では、中立基準位置に対して液圧室17が拡張される側(図4では下方側。)の領域はABS制御に用い、逆に液圧室17が縮小される側(図4では上方側。)の領域はCBS制御に用いるようにしている。ABSは、主ブレーキ通路5(ブレーキキャリパ4)に対する減圧から始まり、保持、再増圧といった液圧制御を行うものであるため、中立基準位置からのピストン作動によって液圧室17が拡張される領域の使用は制御に好適であり、また、CBSは、主ブレーキ通路(ブレーキキャリパ4)に作動液を積極供給することから始まるものであるため、中立基準位置からのピストン作動によって液圧室17が縮小される領域の使用はその制御に好適である。尚、図7(a),(b)と図9はCBS制御の状態を示し、図8(a),(b)と図10はABS制御の状態を示す。
したがって、この液圧モジュレータ6の場合、シリンダ15の略中央位置を中立基準位置としてピストン16を両領域でABSとCBSで夫々使い分けることにより、ABS用とCBS用の専用のピストンを別々に設ける必要を無くすことができる。このため、この液圧モジュレータ6では部品点数の削減とモジュレータ自体の小型・軽量化が可能となっている。
また、液圧モジュレータ6の他方のカムローラ26の下方位置には、図6〜図8に示すように、有底円筒状の前記リフター29が進退自在に配置され、そのリフター29が、入れ子型に配置された一対のバックアップスプリング34a,34b(付勢手段)によってカムローラ26方向に付勢されている。リフター29はモジュレータボディ14内の段差状の収容穴35内に配置されており、そのリフター29の開口縁には収容穴35の段差面36に当接可能なストッパフランジ37が一体に形成されている。このストッパフランジ37は、収容穴35の段差面と共にバックアップスプリング34a,34bによるピストン16の付勢位置を規制するストッパを構成している。このストッパ(ストッパフランジ37と段差面36)は、バックアップスプリング34a,34bによるピストン16の最大付勢位置を前記の中立基準位置に規制する。
バックアップスプリング34a,34bは、液圧室17を縮小する方向にピストン16を付勢するものであるが、このピストン16に対する付勢力は電動モータ23が非通電状態になったときに主に発揮され、電動モータ23のトルクが作用しない状況下になると、前述のストッパが機能する中立基準位置までピストン位置を戻すようになる。尚、バックアップスプリング34a,34bとリターンスプリング22のばね反力は、ピストン16が中立基準位置にあるときにバックアップスプリング34a,34b側の方が大きくなるように設定され、ピストン16には常時両側スプリング34a,34b,22から中立基準位置に戻す方向のばね反力が作用するようになっている。
また、モジュレータボディ14には、図4に示すように、第3の電磁開閉弁18を迂回して液圧室17と出力ポート20を接続するバイパス通路38が設けられている。このバイパス通路38には、液圧室17から出力ポート20方向への作動液の流通を許容する逆止弁39が設けられている。
メインの給排通路19中の第3の電磁開閉弁18は常閉型であり、ABS制御時と、CBS制御で液圧モジュレータ6からブレーキキャリパ4に作動液を供給するときにだけ通電によって開かれる。しかし、このような制御状況下にあっても、何等かの原因によって第3の電磁開閉弁18が非通電になると、給排通路19は自動的に閉じられてしまう。このブレーキ装置では、このように第3の電磁開閉弁18が閉じられた状況においても、液圧室17から主ブレーキ通路5方向の作動液の流通はバイパス通路38と逆止弁39によって確保される。
また、このブレーキ装置の場合、各ブレーキ回路の出力側の液圧を検出する圧力センサ11は液圧モジュレータ6のモジュレータボディ14に組み付けられ、センサ検出部がモジュレータボディ14内の給排通路19のうちの第3の電磁開閉弁18よりも上流側位置(出力ポート20側位置)に臨むように配置されている。したがって、このブレーキ装置では、圧力センサ11を液圧モジュレータ6と一体ブロックとしてコンパクトに配置することができると共に、ブレーキ回路の出力側の液圧をブレーキキャリパ4に近接した部位において検出することができる。
また、この実施形態の液圧モジュレータの場合、図5〜図8に示すように軸長の長い機能部品である圧力センサ11、電動モータ23、第3の電磁開閉弁18の三者が相互に平行になるようにモジュレータボディ14に組み付けられている。このため、液圧モジュレータ6全体がコンパクトになり、車両に搭載するうえで非常に有利になる。
次に、反力モジュレータ45部分の具体的な構造について図11,図12を参照して説明する。尚、図11,図12に示す構造は、図3,図9,図10に示したものと構成部品の向き等が異なって描かれているが、これは図示の都合上によるものである。
反力モジュレータ45は、一体ブロック状の流路切換えユニット8内に組み込まれている。この流路切換えユニット8のユニットボディ40には主ブレーキ通路5の一部を成す主ブレーキ構成路5aが形成されており、この主ブレーキ構成路5aの一端と他端が夫々マスターシリンダ3側に連通する入口ポート41と、ブレーキキャリパ4側に連通する出口ポート42とされている。また、ユニットボディ40には、前記第1の電磁開閉弁7が一体に組み付けられ、この第1の電磁開閉弁7の開閉操作部が主ブレーキ構成路5aを開閉するようになっている。
そして、前記主ブレーキ構成路5a中の第1の電磁開閉弁7よりも上流側位置(マスターシリンダ3側位置)には分岐通路43が設けられ、この分岐通路43に常閉型の第2の電磁開閉弁44を介して反力モジュレータ45が接続されている。第2の電磁開閉弁44は第1の電磁開閉弁7と同様にコントローラ9によって通電制御され、CBS制御時に、従となるブレーキ通路側においてマスターシリンダ3側と反力モジュレータ45とを連通させる。尚、このとき第1の電磁開閉弁7は通電によって主ブレーキ構成路5aを閉じる。
また、分岐通路43の第2の電磁開閉弁44よりも上流側(入口ポート41側)にはブレーキ回路の入力側の圧力センサ10が設けられている。この圧力センサ10はユニットボディ40に一体に組み付けられ、圧力検出部が分岐通路内に臨むように配置されている。分岐通路43の第2の電磁開閉弁44よりも上流側部分は、第1の電磁開閉弁7の開閉に関係なく常時入口ポート41に導通しているため、圧力センサ10は常に回路内のマスターシリンダ3近傍の圧力を正確に検出することができる。
一方、反力モジュレータ45は、ユニットボディ40に形成されたシリンダ46にピストン47が進退自在に収容され、このシリンダ46とピストン47の間に、マスターシリンダ3側から流入した作動液を受容する液室48が形成されている。ピストン47の背部側には、金属製のコイルスプリング49と異形樹脂スプリング50が直列に配置されており、これらの特性の異なる二つのスプリング49,50(弾性部材)によってピストン47に反力を付与するようになっている。
また、シリンダ46内のピストン47の背部側には、軸方向略中央に一対のフランジ51a,51bを有するガイドロッド52が配置されている。このガイドロッド52の一端はピストン47の背部中央に形成された収容穴53内に挿入され、他端は異形樹脂スプリング50の軸心部を貫通している。コイルスプリング49は、ピストン47の収容穴53とガイドロッド52の一端部の間に配置され、ピストン47の背面がガイドロッド52のフランジ51aに当接するまでの間ストロークに応じたばね反力を発生するようになっている。一方、異形樹脂スプリング50は、シリンダ46の底部に配置されたスラストワッシャ54とガイドロッド52の他方のフランジ51bの間に配置されており、ガイドロッド52の後退ストロークに応じて形状を変化させ、このとき変形に伴う反力と減衰抵抗(内部摩擦抵抗)を発生するようになっている。尚、異形樹脂スプリング50の形状や材質は狙いとする特性に応じて決められる。
ここで、コイルスプリング49と異形樹脂スプリング50のばね定数は異形樹脂スプリング50側の方が全体的に大きく設定され、ピストン16が後退ストロークするときにはコイルスプリング49が先に変形を開始するようになっている。また、金属材料から成るコイルスプリング49は線形的なばね特性を有し、異形樹脂スプリング50はヒステリシス特性(減衰特性)を有している。このため、この反力モジュレータ45においては、ピストン16の後退初期には、主にコイルスプリング49による立ち上がりの緩やかな反力特性が得られ、後退後期には、異形樹脂スプリング50による反力の立ち上がりが急で減衰特性をもった特性が得られる。
このブレーキ装置の場合、CBS制御時に、後から遅れて操作された側のブレーキ回路ではマスターシリンダ3から反力モジュレータ45に作動液が導入されるが、このとき反力モジュレータ45では上述のようにニ種のスプリング49,50による多段の反力を発生するため、極めて簡単な構造でありながら直接操作タイプのブレーキ装置と変わらぬ自然なブレーキ操作感を得ることができる。
また、反力モジュレータ45のユニットボディ40には、第2の電磁開閉弁44を迂回して反力モジュレータ45と、主ブレーキ構成路5aの第1の電磁開閉弁7よりも上流側部位とを連通するバイパス通路55が設けられている。そして、このバイパス通路55には反力モジュレータ45側から入口ポート41方向(マスターシリンダ3方向。)の作動液の流れを許容する逆止弁56が設けられている。したがって、作動液が反力モジュレータ45に導入された状態でCBS制御が解除されたとしても、反力モジュレータ45内の作動液はバイパス通路55を通ってマスターシリンダ3側に確実に戻される。これにより、反力モジュレータ45のピストン47が初期位置に確実に戻されるため、次にCBS制御が開始されたときにも同様のブレーキ操作感を得ることができる。
また、この実施形態においては、主ブレーキ通路5を開閉する第1の電磁開閉弁7が反力モジュレータ45と共に流路切換えユニット8に一体に組み付けられているため、両者を一体ブロックとしてコンパクトにすることができる。さらに、この実施形態では、第1の電磁開閉弁7ばかりでなく、入力側の圧力センサ10と、第2の電磁開閉弁44も同じユニット8に一体化されているため、機能部品の密集度が高まり、これらの機能部品を車両に搭載するうえで非常に有利となる。
さらに、前記の流路切換えユニット8では、軸長の長い機能部品である第1と第2の電磁開閉弁7,44と圧力センサ10がすべて反力モジュレータ45に対して平行になるようにユニットボディ40に組み付けられている。このことは、流路切換えユニット8自体をコンパクトにするうえで有利となる。
また、流路切換えユニット8では、第1の電磁開閉弁7と第2の電磁開閉弁44の軸方向位置がずらして配置され、入口ポート41から第2の電磁開閉弁44に繋がる通路(主ブレーキ構成路5aの一部と分岐通路43の一部。)が直線状に形成されている。このため、通路の加工が容易になるという利点がある。
以上の構成部品の説明を踏まえ、ブレーキ装置全体の作動について説明する。ただし、モード切換えスイッチ13は、CBSを許容するモードになっているものとする。
車両の走行時に、ライダーが前輪側と後輪側の一方のブレーキ操作部2を先に操作した場合、先に操作した側のブレーキ回路では、第1〜第3の電磁開閉弁7,44,18がすべて非通電状態のままとされ、マスターシリンダ3で発生した液圧がそのままブレーキキャリパ4に供給される。
一方、このとき後に操作した側のブレーキ回路では、第1〜第3の電磁開閉弁7,44,18がすべて通電され、主ブレーキ通路5が第1の電磁開閉弁7によってマスターシリンダ3から切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁44の開作動によってマスターシリンダ3と反力モジュレータ45が導通し、さらに第3の電磁開閉弁18の開作動によって液圧モジュレータ6と主ブレーキ通路5が導通する。これにより、ライダーは反力モジュレータ45によって擬似的に再現させたブレーキ操作感を感じることが可能になり、同時に液圧モジュレータ6の作動による液圧変動はライダー側に伝達されなくなる。また、このとき、これに平行して液圧モジュレータ6の電動モータ23が作動し、カムローラ25がピストン16を押し上げることによって液圧室17の作動液を加圧する。これによって、電動モータ23の制御に応じた液圧が主ブレーキ通路5を通してブレーキキャリパ4に供給される。
尚、このとき液圧モジュレータ6からブレーキキャリパ4に供給される液圧は、前後のブレーキの液圧が予め設定された配分比になるように制御される。また、このようなCBS制御において、モジュレータ作動側の車輪がロックしそうになったことが検出されたときには、コントローラ9による電動モータ23の制御によってピストン16を後退させ、ブレーキキャリパ4の制動圧を低下させることによって車輪のロックを回避する。
また、先にブレーキ操作された側のブレーキ回路において、車輪がロックしそうになったことが検出された場合には、コントローラ9が第1の電磁開閉弁7を作動させてマスターシリンダ3とブレーキキャリパ4の連通を遮断し、それと同時に第3の電磁開閉弁18を作動させて液圧モジュレータ6を主ブレーキ通路5に導通させ、電動モータ23の制御によってピストン16を中立基準位置から後退させてABS制御を開始する。これにより、ブレーキキャリパ4の制動圧が低下し、車輪のロックが回避される。尚、このとき流路切換えユニット8内の第2の電磁開閉弁44は閉じられており、マスターシリンダ3と反力モジュレータ45の連通は遮断されている。
ところで、このようにABS制御が開始され、液圧モジュレータ6内のピストン16が後退すると、カム軸24上のカムローラ25の偏心回転によってバックアップスプリング34a,34bがリフター29を介して圧縮される。正常なABS作動においては、この状態からのピストン16の上昇作動は基本的に電動モータ23の力によって行われるが、ABS制御中に電動モータ23が何等かの原因によって非通電になったときには、ピストン16はバックアップスプリング34a,34bの力によって中立基準位置まで戻され、液圧室17内に退避していた作動液が主ブレーキ通路5に戻される。また、このとき第3の電磁開閉弁18が同時に非通電になると、液圧モジュレータ6内のメインの給排通路19が閉じられるが、このとき液圧室17内の作動液はバイパス通路38と逆止弁39を通って主ブレーキ通路5に戻される。
また、これらの一連のブレーキ操作によって車両が停止すると、一方の車輪側にはライダー入力によるマスタータシリンダ3の液圧が作用し、他方の車輪側には液圧モジュレータ6による液圧が作用することとなるが、車両停止後に一定時間が経過すると、液圧モジュレータ6(電動モータ23)の作動を停止する前記の電流抑制モードに移行する。
この電流抑制モードでは、まず、ブレーキキャリパ4を加圧している側の液圧モジュレータ6の第3の電磁開閉弁18の通電を停止し、こうしてモジュレータ6と主ブレーキ通路5の連通を遮断した状態で電動モータ23の作動を停止する。このとき主ブレーキ通路5とブレーキキャリパ4には液圧モジュレータ6で発生した液圧が残っているため、その液圧によって制動力が維持される。
次に、流路切換えユニット8内の第1と第2の電磁開閉弁7,44の通電を停止する。
これにより、まず、第2の電磁開閉弁44が閉じることによってマスターシリンダ3と反力モジュレータ45の連通が遮断され、同時に第1の電磁開閉弁7が開くことによってマスターシリンダ3と主ブレーキ通路5のブレーキキャリパ4側が連通する。このとき主ブレーキ通路5には液圧モジュレータ6で発生した液圧が残っているため、マスターシリンダ3側のストロークはそのまま保持される。
このような順序で電流抑制モードに移行することにより、ライダーに違和感を与えることなく、マスターシリンダ3による制動に切換えることができる。そして、こうして電動モータ23の作動を停止しても、確実に制動力を保持することができるため、電動モータ23による電流消費を完全にゼロにすることができ、しかも、電動モータ23のモータ・ブラシの摩耗等も軽減することができる。また、同時に各電磁開閉弁7,44,18での電流消費も抑制することができる。
また、この後ライダーがブレーキ操作を解除すると、ブレーキキャリパ4側からマスターシリンダ3に作動液が戻され、同時に反力モジュレータ45に残存した作動液がバイパス通路55と逆止弁56を介してマスターシリンダ3に戻される。そして、コントローラ9はブレーキ回路の入力側の液圧が大気圧になった時点で第3の電磁開閉弁18を開き、同時に電動モータ23を作動させて液圧モジュレータ6内のピストン16を中立基準位置まで後退させる。
以上がこのブレーキ装置の基本な作動であるが、CBS制御の開始条件は、ブレーキ操作量(ブレーキ回路の入力側の液圧)や車速等に応じてコントローラ9によって制限することもできる。例えば、ブレーキ操作量が小さい領域では、CBS制御を行わずに前後輪を夫々マスターシリンダ3の液圧のみによって制動し、ブレーキ操作量がある程度以上大きくなったときにのみ前述の液圧モジュレータ6を使用するCBS制御を行うようにしても良い。また、前後のブレーキが同時に大きく操作されたときには、CBS制御を行わずに前後輪をマスターシリンダ3の液圧によって制動することにより、電流消費の抑制を図るようにしても良い。
また、この実施形態のブレーキ装置の場合、コントローラ9による制御モードが複数種用意されており、ライダーはモード切換えスイッチ13を操作することによって任意の制御モードに切換えることができる。
予め用意されている制御モードは、例えば、以下のようなものである。
(1)スポーツモード:前輪ブレーキ操作時のみCBS制御を行い、後輪ブレーキ操作時にはマスターシリンダ圧による単独の制動を行う制御モード。
(2)ツアラーモード:前後輪のいずれのブレーキ操作時にもCBS制御を行う制御モード。
(3)コンベモード:前後輪のいずれのブレーキ操作時にもマスターシリンダ圧による単独制動を行うモード。
このブレーキ装置では、このような制御モードをライダーが車両使用環境や運転状況等に応じて適宜切換えることができるため、常に、ライダーのブレーキ操作嗜好に適合した制動を行うことができる。
また、予め用意する制御モードは、上記の他にもブレーキ操作量に応じた前後の液圧配分を固定した制御モードや、CBS制御の開始条件の異なる制御モードを設けるようにしても良い。
ところで、このブレーキ装置は、前輪側のブレーキ操作に後輪側を連動させるCBS制御が行われる場合、図13(a)に示すように、前輪側制動力を増大させるとき(ブレーキ操作量を増大させるとき。)と、逆に前輪側制動力を減少させるとき(ブレーキ操作量を減少させるとき。)とで、前輪側と後輪側の制動力配分比が異なるようになっている。
具体的には、前輪側制動力を増大させるときには、ある領域までは後輪側制動力が漸増するように液圧制御され、その後に前輪側制動力が設定値に達するまで後輪側制動力が一時一定に維持された後、設定値を超えたところで後輪側制動力が漸減するように液圧制御される。このように前輪側制動力が増す状況下では、後輪側制動力をこのように制御することにより、ブレーキング初期の制動効率の向上と、ブレーキング後期の後輪設置荷重の低下を抑制することができる。
他方、前輪側制動力を減少させるときには、前輪側制動力が設定値以下になったところで、後輪側制動力は前輪側制動力の減少に応じて現状維持または漸減するように液圧制御される(図13(a)中の矢印参照。)。このように前輪側制動力が減少する状況下では、後輪側制動力の漸増を抑えることによって後輪のスリップ率の増加を回避し、ライダーに自然なブレーキ操作感を与えることができる。
このブレーキ装置の場合、後輪側の制動力は電気的に制御するため、上記の制御を迅速かつ高精度に行うことができる。
また、以上説明したものは、前輪側制動力をライダーが減少させるときに後輪側制動力を保持または減圧するように制御するものであるが、前輪側制動力をライダーが減少させるときに後輪側の制動時間を制御することも可能である。
また、このブレーキ装置は、前輪側のブレーキ操作に後輪側を連動させるCBS制御が行われる場合には、以下のようにして後輪接地荷重の低下を判断し、その後輪接地荷重の低下を抑えるように後輪側制動力配分を制御するようにしている。
即ち、このブレーキ装置では、前輪側ブレーキ操作時における車両速度と、前輪側の液圧と、前後輪のスリップ率とから後輪接地荷重の低下を判断するようにしている。車両の後輪接地荷重は個々の車両毎に(個々の車両のホイールベースや重心位置によって。)車両速度と前輪側の制動力との関係でどの程度低下するかを予測することができる。そこで、この二つの要素から後輪接地荷重の低下をある程度判断することができるが、この実施形態においては、両輪が同様にスリップする状況を除外するために、前輪側のスリップ率が設定値λa以下で、かつ、後輪側のスリップ率が別の設定値λb以上であることをその判断条件に加えている。
このブレーキ装置では、具体的には、例えば、図14に示すような処理によって後輪接地荷重の低下を抑制するようにしている。
即ち、まず、ステップ100と101においては、前輪側ブレーキ回路の液圧が設定圧Pa以上で、かつ、車速が設定速度va以上であるかどうかを判断し、両条件が満たされたときに、ステップ102で前輪側のスリップ率がλa以下であるかどうかを判断し、つづく、ステップ103で後輪側のスリップ率がλb以上であるかどうかを判断する。そして、以上の4条件がすべて満たされているときには後輪接地荷重の低下が始まっているものとし、ステップ104では後輪側の現在の制動圧をそのまま維持し、次のステップ105で後輪側のスリップ率がλb以上であるかを再度判断する。このステップ105において、スリップ率がλbよりも小さいと判断されたときには以降のフローを抜け(END)、逆にスリップ率がλb以上であると判断された場合には次のステップ106でループ回数がN以上かどうかを判断する。ここでループ回数がNに達していない場合にはステップ104に戻ってループ回数を1増加させ、このループがN回繰り返されたとき(つまり、所定時間経過してもスリップ率がλbよりも小さくならないとき。)には、ステップ107において後輪側の制動圧を減少させる。
したがって、このブレーキ装置の場合、以上のような制御によって前輪側ブレーキ操作時に後輪接地荷重の低下が進行するのを未然に防止することができる。尚、図15は、前輪ブレーキ操作時における後輪側の車輪速度の変化の様子を前輪側の単独制動時とCBS制御時で比較したものである。CBSを持たないブレーキ装置に採用される既存の後輪接地荷重検出手段の場合、後輪速度の減速勾配が小さくなったところを後輪接地荷重の低下と判断していたが、CBSを採用するブレーキ装置の場合、後輪接地荷重が低下しても減速勾配が小さくならないため、既存の技術をそのまま適用することはできなかった。しかし、この実施形態のブレーキ装置においては上述のようにして後輪接地荷重の低下を正確に判断することができる。
また、このブレーキ装置は、後輪側のブレーキ操作に前輪側を連動させるCBS制御が行われる場合には、以下のようにして前輪側制動力配分を制御するようにしている。
即ち、図16に示すように、後輪制動力に対する前輪制動力の配分特性は車速毎に予め決めておき、後輪側のブレーキ操作が開始されたときには、その開始時の速度に対応する配分特性で前輪側制動力を終始制御するようにしている。このため、後輪側のブレーキ操作量が一定であれば、車両が停止するまでの間、前輪側に一定配分比の制動力が作用することとなる。車速毎に予め設定しておく制動力配分特性は、例えば、車両速度が50km/hでは後輪制動力(液圧)がある値に達するまで前輪制動力がゼロに維持され、ある値を超えたときに後輪制動力の増加に応じて前輪制動力が増加し、車両速度が60km/h、80km/hと増加するにつれて、前輪制動力の配分開始点と、前輪制動力の配分比が夫々増加するものが望ましい。また、この場合、車両速度がある速度(例えば、50km/h)よりも低い場合には、前輪への制動力配分を行わないようにする。
このブレーキ装置の場合、後輪側ブレーキ操作のCBS制御において、ブレーキ操作開始時の車速に対応する制動力配分特性で終始前輪側の制動力を制御するため、高速運転状態から後輪側ブレーキ操作を行った場合であっても、図17に示すように減速勾配が途中で急激に変化することがなく、したがって、ブレーキ操作中のライダーに違和感を与えることがない。
また、このブレーキ装置は、高速運転中にブレーキ操作した場合には、前輪側の制動力配分が大きくなるため、制動効率が良くなり、逆に、低速運転中にブレーキ操作した場合には、前輪側の制動力配分が小さくなる(ゼロの場合も含む。)ために、すり抜け運転時等の際に前輪制動力が運転の支障になることがない。
尚、予め車速毎に設定しておく制動力配分特性は、図16に示すものに限るものでなく任意であり、例えば、各速度で後輪側のブレーキ操作量(制動力)がある値を超えたときに前輪側の制動力配分が急増するように設定しても良い。この場合、急停止を要するブレーキ操作時等により迅速な制動効果が得られるようになる。