JP4780931B2 - 光電変換装置および光発電装置 - Google Patents

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本発明は光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層してなる多層型薄膜光電変換装置に関し、特に光活性層として少なくともシリコン(Si)および水素(H)を含有する非晶質系Si半導体薄膜を利用した光電変換装置およびそれを発電手段として用いた光発電装置に関する。
水素化アモルファスシリコン(以下、a−Si:Hとも記す)に代表される非晶質Si系膜を利用したデバイスは、今日では非常に多岐にわたっているが、近年、エネルギー問題や地球環境問題への世間の関心が高まる中で特に注目を集めてきているのが太陽電池である。
太陽電池における非晶質Siの特長は、結晶質Si(微結晶Siを含む)に比べて光吸収係数が非常に大きいために、光活性層として必要な膜厚は結晶質Siの場合の数分の1でよく(0.5μm程度以下)、PECVD法(プラズマCVD法)などのCVD法(化学気相堆積法)で膜形成する場合、結晶質Siを用いる場合に比べて生産性に非常に優れているということにある。しかしながら一方で、非晶質シリコンには一般にStaebler−Wronski効果と呼ばれる光劣化現象があることが古くから知られており、この膜を用いた太陽電池は光照射によって効率が10〜15%程度も低下してしまうという問題を、現在に至るまで抱え続けている。
光劣化現象のメカニズムは未だに明確になっていないが、水素に関係した現象であることはまず間違いないとされており、これまでにいくつかのアプローチが試みられている。すなわち、〔1〕膜中Si−H(ダイハイドライド)結合状態を低減する(Si−H(モノハイドライド)結合状態の割合を高める)、〔2〕膜中水素濃度を低減する、〔3〕膜中に微細な結晶粒を適度に含有させる、などである。ただし、前記〔1〕および〔2〕には重なり合う部分がある。
前記〔1〕は、膜中のSi−H密度が高い膜では光劣化が大きいという事実に基づいたものである。膜中のSi−H密度の具体的低減方法については、様々な仮説のもと多くの機関で研究が行なわれているが、一例を挙げれば、膜中Si−H結合状態の起源を、気相中の高次シラン分子が膜中に取り込まれること、あるいは製膜表面での膜成長反応を乱す立体障害となることにあると考え、この高次シラン分子の生成反応に関わるSiH分子の生成を低減しようというものがある。具体的にはPECVD法において、VHFプラズマに代表されるような低電子温度のプラズマを用い、また水素希釈率を最適化し(電子温度を極小化し)、さらに基板温度をある程度上げて(上限は350℃程度)製膜表面からの水素脱離反応を促進する、といった試みがなされており、製膜速度2nm/secの条件下で、安定化効率8.2%、光劣化率12%といったa−Si:Hシングル素子特性が得られている(非特許文献1を参照)。しかしながら、該効率及び光劣化率では未だ充分なものとはいえない。
前記〔2〕についても、一例を挙げれば、PECVD法での膜形成において、膜堆積と水素プラズマ処理を交互に繰り返しながら膜成長表層から過剰な水素を引き抜くという方法が提案されている(特許文献1,2,3参照)。しかしながら、この方法では結果的には期待されるような膜中水素濃度の充分な低減は見られない上に、膜堆積と水素プラズマ処理を多数回繰り返すために高製膜速度を得るのが困難で生産性に非常に劣るという問題を抱えている。また高効率と低光劣化率を同時に達成するにも至っていない。
前記〔3〕は、非晶質Siと微結晶Siの相境界領域近傍で得られるとされている非晶質系Si膜を用いるもので最近注目を集めている。この膜については未だ定まった名称が与えられておらず、研究期間によって「Protocrystalline Si:H(プロトクリスタルSi)」(非特許文献2参照)と呼ばれたり、「ナノ結晶埋め込み型アモルファスSi(アモルファスマトリックス中に微細な粒径の結晶粒が散在したもの)」(非特許文献3参照)、あるいは「ナノ構造制御Si膜(結晶Siナノクラスタを非晶質Si中に上手く分散させたもの)」(非特許文献4,5参照)と呼ばれたりしているが、共通する概念は、「非晶質的な膜特性を有するが、光劣化が大きく低減された(あるいはほとんど光劣化しない)ナノサイズの結晶粒を含む非晶質系のSi膜」というものである。
なお、非晶質系Si膜の中で特にこのナノサイズの結晶粒を含んだ膜を特に指定したい場合は、本明細書中では「ナノ結晶粒含有非晶質系Si膜」と呼ぶことにする。
ところで、該ナノ結晶粒含有非晶質系Si膜が、非常に小さな光劣化率を示す(あるいはほとんど光劣化しない)理由としては、少なくとも2つが考えられる。すなわち、(1)膜中にナノサイズの結晶粒が散在分布することによってキャリアの再結合が該結晶粒で優先的に生じ非晶質領域での再結合が減じるため(a−Si:H膜の光劣化はキャリア再結合時に放出されるエネルギーによってアモルファスネットワーク中の弱Si−Siボンドが切断されることによって生ずるとの考え方が有力である)、(2)膜中にナノサイズの結晶粒が散在分布することによって非晶質系Si膜のネットワーク構造自体が光劣化しにくい構造になっているため(歪みの緩和などによる)、とするものであるが、いずれにせよ、膜中に存在するナノサイズの結晶粒が重要な役割を果たしているものと考えられる。
特開平5−166733号公報 特開平6−120152号公報 特開2002−9317号公報 応用物理 第71巻第7号(2002)p.823 トウェンティエイス アイトリプルイー フォトボルタイック スペシャリスツ カンファレンス(28th-IEEE Photovoltaic Specialists Conference)2000年,p.750 第63回秋季応用物理学会予稿集(2002)p.838(25p−ZM−3) 第63回秋季応用物理学会予稿集(2002)p.27(25p−B−4) 第63回秋季応用物理学会予稿集(2002)p.845(24p−ZM−9)
しかしながら、ナノ結晶粒含有非晶質系Si膜を用いた太陽電池においても、確かに光劣化率の低減は認められるものの、未だ初期効率が低いということが問題となっていた(例えば、非特許文献3では初期効率6.28%,安定化効率6.03%)。
そこで本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は高い信頼性を確保できる高効率な多層型薄膜太陽電池等の光電変換装置およびそれを発電手段として用いた光発電装置を提供することにある。
前述した目的を達成するために、本発明の光電変換装置は、一導電型半導体層、光活性層および逆導電型半導体層が順次積層されてなる第1および第2の光電変換ユニットを積層体として備える光電変換装置であって、前記第1および第2の光電変換ユニットの前記光活性層のうち、少なくとも一方がシリコンおよび水素を含有する非晶質系シリコン半導体薄膜からなり、前記光活性層は、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度に対するTAモードの散乱ピーク強度の比が0.35以下であり、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅64〜65cm であるとともに、Si−H結合状態の存在密度とSi−H 結合状態の存在密度との和に対するSi−H結合状態の存在密度の比が0.95以上、かつ前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が30%以下であり、前記非晶質系シリコン半導体薄膜は、結晶シリコン粒を含む場合、その最大粒径は5nm以下で構成したことを特徴とする。
また、3)前記1)または2)の構成であって、前記複数の光電変換ユニットのうち2つの光電変換ユニットにおいて、光入射側(表面側)に位置する一方の光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップが、該光電変換ユニットより裏面側に位置する他方の光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップより大きいことを特徴とする。
ここで特に、4)上記1)乃至上記3)のいずれかの光電変換装置において、少なくとも2つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOとTAモードの散乱ピーク強度ITAの比(=ITA/ITO)が0.35以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成してもよい。
また、5)上記1)乃至上記3)のいずれかの光電変換装置において、少なくとも2つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が65cm−1以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成してもよい。
また、7)上記1)乃至上記3)のいずれかの光電変換装置において、全ての光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が65cm−1以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成してもよい。
また、8)上記1)乃至上記5)のいずれかの光電変換装置において、光入射側に位置する光電変換ユニットの光活性層を、前記非晶質系シリコン半導体薄膜で構成し、裏面側に位置する光電変換ユニットの光活性層を微結晶シリコン系薄膜より構成してもよい。
また、9)上記1)乃至上記5)のいずれかの光電変換装置において、光入射側に位置する光電変換ユニットの光活性層を前記非晶質系シリコン半導体薄膜より構成し、裏面側の光電変換ユニットを半導体基板を用いた光電変換ユニットより構成してもよい。
また、10)上記1)乃至上記9)のいずれかの光電変換装置において、前記少なくとも2つの光電変換ユニットの間に透明中間層を配置してもよい。
また、11)上記10)の光電変換装置において、前記透明中間層と前記透明中間層と接する少なくとも上記10)の光電変換装置において、この光電変換装置は基板上に第1の電極、少なくとも2つの光電変換ユニット、及び第2の電極が順次形成された構造を有しており、前記基板と前記第1の電極の界面は凹凸形状であることとしてもよい。
また、13)上記10)の光電変換装置において、この光電変換装置は基板上に第1の電極、少なくとも2つの光電変換ユニット、及び第2の電極が順次形成された構造を有しており、前記第1の電極と前記光電変換ユニットの界面は凹凸形状であることとしてもよい。
また、14)上記10)の光電変換装置において、この光電変換装置は基板上に第1の電極、少なくとも2つの光電変換ユニット、及び第2の電極が順次形成された構造を有しており、前記光電変換ユニットと前記第2の電極の界面は凹凸形状であることとしてもよい。
また、15)上記10)の光電変換装置において、この光電変換装置は基板上に第1の電極、少なくとも2つの光電変換ユニット、及び第2の電極が順次形成された構造を有しており、前記光電変換ユニットと前記第2の電極の間に透明導電膜を介在させたものであり、前記第透明導電膜と前記第2の電極の界面は凹凸形状であることとしてもよい。
また、16)上記12)乃至上記15)のいずれかの光電変換装置において、前記基板が前記第1の電極を兼ねることとしてもよい。
また、17)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜がラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOとTAモードの散乱ピーク強度ITAの比(ITA/ITO)が0.25以下であることとしてもよい。
また、18)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜中の光安定化前の初期ESRスピン密度が5×1015/cm以下であることとしてもよい。
また、19)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜中のSi−H(モノハイドライド)結合状態の存在密度のSi−H結合状態の存在密度およびSi−H(ダイハイドライド)結合状態の存在密度の総和に対する割合が0.95以上であることとしてもよい。
また、20)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜中の水素量が7原子%以下であることとしてもよい。
また、21)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜中には複数の結晶粒が存在しており、該結晶粒の占める体積分率(結晶化率)が30%以下であることとしてもよい。
また、22)上記16)の光電変換装置において、前記非晶質系シリコン半導体薄膜において、該薄膜中には複数の結晶粒が散在分布しており、該結晶粒の最大粒径は1nm以上5nm以下であることとしてもよい。
さらに、本発明の光発電装置は、23)上記1)〜上記22)の光電変換装置のいずれかを発電手段として用い、該発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことを特徴とする。
本発明の光電変換装置は、光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層体として備えるとともに、前記光電変換ユニットのうち少なくとも1つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比ITA/ITOが0.35以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成したので、従来に比してSROが大幅に改善され、低欠陥密度且つ高光安定性を有した光活性層とすることができることから、高い信頼性を確保できる高効率な多層型薄膜太陽電池等の光電変換装置を提供することができる。
さらに、本発明の光発電装置によれば、本発明の光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことより、高効率の光発電装置を提供することができる。
以下に、本発明の光電変換装置およびそれを用いた光発電装置の実施形態について詳細に説明する。
本発明の非晶質系Si膜を得るために、PECVD法の一種であるCat−PECVD法(熱触媒体内蔵カソード型プラズマCVD法;特開2001−313272号、特願2001−293031号等を参照)を用いて形成した例について説明する。なお、ここでいう非晶質系Si膜とは、後に定義するようにラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が0〜60%の範囲に入るものをいうこととし(すなわち、非晶質Si膜は非晶質系Si膜に含まれる)、逆に結晶質系Si膜とは結晶化率が60〜100%の範囲に入るものをいうこととする。
<Cat−PECVD法>
Cat−PECVD法を用いた場合、本発明の非晶質系Si膜は、プラズマ励起周波数としてVHF帯(27MHz以上:通常は40〜80MHz程度)を用い、カソード内部に設けられたTa(タンタル)、W(タングステン)あるいはC(カーボン)等の高融点材料から成る熱触媒体の温度を1400〜2000℃、ガス流量比(H/SiH)を2〜20、基板温度を100〜350℃、ガス圧力を13〜665Pa、VHFプラズマパワー密度を0.01〜0.5W/cmと設定した条件下で得られる。ここで、HとSiHとは製膜空間に放出されるまでは、分離された状態でそれぞれ異なったガス導入経路を通して導かれるようにし、Hのガス導入経路にはその経路の一部に前記カソード内に設置された熱触媒体が配設されるが、SiHのガス導入経路には同熱触媒体が配設されないようにする。このようにHのみを熱触媒体で加熱活性化するようにすることで、SiHが熱触媒体によって分解活性化して製膜空間に放出されるまでのガス導入経路中で膜堆積・消費されるのを防ぎつつ、後記する熱触媒体使用効果を得ることができる。
Cat−PECVD法では熱触媒体を用いることに起因するガスヒーティング効果によって、発熱反応である高次シラン生成反応(Si分子へのSiH挿入反応)が抑制されるので、製膜空間における高次シラン分子の密度を低く抑えることができ、高次シラン分子の膜中への取り込まれや製膜表面での立体障害の発生が低減される。この結果、膜中Si−H結合状態の存在密度が大きく低減された非晶質系Si膜の形成が可能となる。
また、ガスヒーティング効果はプラズマの電子温度を低下させる効果も有するので、プラズマ空間での原料ガスSiHと電子との1電子衝突反応によるSiH生成(同じく1電子衝突反応によるSiH生成に比べて高い電子温度(衝突エネルギー)を要する)が抑制され、これによっても高次シラン生成反応(Si分子へのSiH挿入反応)を抑制することができる。
また、Cat−PECVD法では、水素ラジカル生成を促進することもできるので、製膜表面からの水素引き抜き反応を促進し、膜中水素濃度を効果的に低減することができる。
また、水素希釈率(ガス流量比H/SiH)を高めたり、熱触媒体温度Tcatを高めたり、VHFパワーを高めたりした製膜条件下では、気相中でSiクラスタ(高次シラン分子がある程度成長したもので通常10nm程度のサイズまでのものをいい、これには非晶質構造を有したものと結晶構造を有したものとがある)の生成が促進されるが、前記ガスヒーティング効果と水素ラジカル生成促進効果等によって、パーティクルや粉体への成長は抑制しつつ、クラスタサイズの制御や密度の制御、さらにはクラスタの結晶化を促進することができる。すなわち、Siクラスタが膜中に取り込まれた場合、膜中に含まれる結晶粒のサイズや密度が制御された高品質なナノ結晶粒含有非晶質系Si膜を形成することができる。
以上に述べた効果により本発明に用いられる高品質で光安定性に優れる非晶質系Si膜を得ることができる。なお、Cat−PECVD法では、従来のPECVD法では困難であった製膜条件でも熱触媒体を導入した効果によって結晶化を促進できる作用があるため、以下に述べる結晶化率を制御する点において特に好適である。ここで膜中の結晶化領域の起源としては、(1)製膜表面での結晶化反応に起因するもの、(2)プラズマ空間中で生成されるSi微粒子(ナノメーターサイズの結晶クラスタ)が膜中へ取り込まれることに起因するもの、の少なくとも2種がある。
<基板温度>
基板温度については、100℃〜350℃の範囲とする。なぜなら基板温度を100℃よりも低くすると水素引き抜き効果が有効に働かなくなり膜中水素濃度を有効に低減できなくなるからであり、基板温度を350℃よりも高くした場合には、膜成長面からの水素の脱離が顕著となって膜中ダングリングボンド密度が上昇してしまい、高品質な膜が得られなくなるからである。
<ラマン散乱特性>
さて、非晶質系Si膜の構造を記述する場合には秩序度を取り扱う場合が多く、特に短距離秩序(SRO:Short Range Order)は、膜品質や光安定性と非常に密接な関係があるとされている。このSROが反映されるアモルファスネットワークの振動ダイナミクスを評価する代表的手法としては、ラマン散乱分光法が知られている。
一般に、非晶質系Si膜のラマン散乱スペクトルは、480cm−1付近にピークをもつTO(横型光学振動)帯、385cm−1付近にピークをもつLO(縦型光学振動)帯、305cm−1付近にピークをもつLA(縦型音響振動)帯、および160cm−1付近にピークをもつTA(横型音響振動)帯のエネルギー帯から成る。
<ESRスピン密度>
また、本発明素子に用いた非晶質系Si膜では、電子スピン共鳴法によって計測されるESRスピン密度であるSiダングリングボンド密度が、光照射前(初期)において約3×1015/cmであり、従来素子に用いた膜では5.0×1015/cmを超える値であった。このように、ダングリングボンド密度が5.0×1015/cmを超える膜では、活性層に適用した場合に同層での再結合電流が増大し、高い素子特性が得られない。なお、ESRスピン密度測定には、日本電子製JES−RE3Xを用いた。
<FT−IR特性(Si−H結合状態割合)>
また、本発明素子に用いた非晶質系Si膜では、FT−IR(フーリエ変換赤外分光)分析によって評価されるSi−H(モノハイドライド)結合状態の存在密度のSi−H結合状態の存在密度およびSi−H(ダイハイドライド)結合状態の存在密度の総和に対する割合(以下、Si−H結合状態割合という)が、0.97以上であった。このSi−H結合状態割合は、従来技術の説明の部分で既に述べたように光劣化と大きな相関を有しており、この割合が高いほど(Si−H結合が支配的であるほど)光劣化が小さくなる。本発明素子に用いたSi膜においては、従来のプラズマCVD法で得られているSi−H結合状態割合0.90程度を大きく上回り、光劣化抑制効果が顕著に現れてくるとされる0.95以上の値が得られている。なお、FT−IR特性の測定には、島津製作所製FTIR−8300を用いた。
<膜中水素濃度>
また、本発明素子に用いた非晶質系Si膜中の水素濃度については、FT−IR分析により約5原子%と評価算出され、従来素子では10%程度と評価算出された。このとき、膜中水素濃度の算出は630cm−1付近の吸収ピーク面積とA value=1.6×1019cm−2を用いて行なった。このように本発明素子に用いたSi膜は7原子%以下の低水素濃度となっており、これも本発明素子が高光安定性を示すことに大きく寄与しているものと思われる。膜中水素濃度が7%より大きい場合には膜中Si−H結合状態の存在密度の増大を招き、光劣化率は大きくなる。
<光学的バンドギャップ>
また、本発明素子に用いた非晶質系Si膜の光学的バンドギャップエネルギーEg.optは、いわゆる3乗根プロットにて、1.6eV前後と評価され、従来膜は1.8eV程度であった。このように本発明素子に用いたSi膜の光学的バンドギャップエネルギーEg.optは1.7eV以下に狭ギャップ化しており、長波長感度特性に優れる非晶質系Si膜となっていることが確認された。光学的バンドギャップエネルギーEg.optが1.7eVよりも大きい場合には、該膜を光活性層に用いた場合に長波長光を充分に吸収・光電変換できずに光電流が低下し、素子特性の低下を招来する。
<バンドギャップ調整元素>
なお、非晶質系Si膜のバンドギャップエネルギーEgは膜中水素濃度によってある程度調節することができるが、膜中水素濃度を低く保ったままEgを調節したい場合には、Eg調整元素を添加すればよい。具体的には、ナローギャップ化に対してはGeまたはSn等、ワイドギャップ化に対してはC、NまたはO等を分子式に含んだガスを製膜空間に導入すればよい。即ち、Geを含有させる場合にはGeH(Hは重水素Dを含む)、Ge2n+2(nは正の整数、以下同様)、GeX(Xはハロゲン元素)等を、Snを含有させる場合にはSnH(Hは重水素Dを含む)、Sn2n+2、SnX(Xはハロゲン元素)、SnR(Rはアルキル基)等を、Cを含有させる場合にはCH(Hは重水素Dを含む)、C、C2n+2、C2n、CX(Xはハロゲン元素)等を、Nを含有させる場合にはN、NO、NO、NH等を、Oを含有させる場合にはO、CO、CO、NO、NO、HO等を導入すればよい。
<結晶化率>
また、非晶質系Si膜がナノ結晶粒含有非晶質系Si膜である場合、該膜中でナノ結晶粒が占める体積分率として表現される結晶化率の制御は、水素希釈率(ガス流量比H/SiH)、熱触媒体温度(Tcat)、VHFパワー密度、製膜ガス圧力、基板温度、の組み合わせによって0〜100%の範囲で自由に行なうことができるが、結晶化率は30%以下の範囲で調節し、より好適には10%以下の範囲で調節するのが望ましい。結晶化率が30%を超えると非晶質系としての特性が充分に発揮されにくくなり、特性低下を無視できなくなる。
このとき、結晶化率を膜厚方向に向かって傾斜分布または階段状分布、あるいは周期分布させることによって、光電変換素子の効率をさらに向上させることも可能である(不図示)。すなわち、傾斜分布または階段状分布とする場合は、光入射側(表面側)から裏面側に向かって結晶化率が上昇するようにする。
このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが表面側から裏面側に向かって減少するバンドプロファイルを得ることができ、有効な光吸収が行なえるようになるため、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。
また、周期分布とする場合は、1周期の長さを100nm以下とし、好ましくは10nm以下とする。これにより、光学的バンドギャップエネルギーが周期的に変調したバンドプロファイルを得ることでき、有効な光吸収が行なえるようになるため、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。特に周期長を10nm以下とすると量子サイズ効果(量子井戸構造の形成)が現れ始め、より高効率化することができる。ここで結晶化率の制御(すなわち気相中のナノクラスタのサイズや密度を制御することに還元される)は、熱触媒体の温度制御で行なうのが望ましい。つまり、熱触媒体の温度制御は非常に高速かつ精度よく行なうことができるので、製膜中に結晶化率を高速かつ精度よく制御したい場合に非常に好適である。なお、本明細書中でいう結晶化率は、ラマン散乱分光法によって得られたスペクトルにおける結晶相ピーク強度/(結晶相ピーク強度+非晶質相ピーク強度)で定義されるものとし、ピーク強度は、結晶相ピーク強度=500〜510cm−1でのピーク強度+520cm−1でのピーク強度、また、非晶質相ピーク強度=480cm−1でのピーク強度、で定義するものとする。表1に示した結晶化率は、該ラマン散乱分光法によって評価されたものである。
<結晶粒径>
ここで、本発明に用いられる非晶質系Si膜がナノサイズの結晶Si粒を含むナノ結晶粒含有非晶質系Si膜である場合は、該非晶質系Si膜中に含有されるナノ結晶粒の最大粒径は1nm以上5nm以下、より好ましくは1.5nm以上3nm以下とする。最大粒径が1nmより小さいと、これを構成するSi原子数が少なすぎて非晶質Si膜に対する有意なバンドギャップエネルギーの低下を実現できず、実質的に非晶質Si膜と同じ膜特性となる。また、最大粒径が5nmを超えるようになると、非晶質中に適度な距離間隔で散在分布させることが困難となり、キャリアの再結合を結晶粒で優先的に生じさせる効果や、非晶質マトリックスのネットワーク構造(後に述べるSROなど)を改善する効果が低減する。
このとき、結晶粒の存在密度分布あるいは結晶粒径分布を膜厚方向に向かって傾斜分布または階段状分布、あるいは周期分布させることによって、光電変換素子の効率をさらに向上させることも可能である(不図示)。すなわち、傾斜分布または階段状分布とする場合は、光入射側(表面側)から裏面側に向かって結晶粒の存在密度分布あるいは結晶粒径分布が上昇するようにする。このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが光入射側の表面側から裏面側に向かって減少するバンドプロファイルを得ることができ、前述したように光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。また、周期分布とする場合は、1周期の長さを100nm以下とし、好ましくは10nm以下とする。
以上により、光学的バンドギャップエネルギーが周期的に変調したバンドプロファイルを得ることでき、前述したように光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。特に周期長を10nm以下とすると、量子サイズ効果(量子井戸構造の形成)が現れ始め、より高効率化することができる。ここで、結晶粒の制御(すなわち気相中のナノクラスタのサイズや密度を制御することに還元される)は、熱触媒体の温度制御で行なうのが望ましい。なぜなら熱触媒体の温度制御は非常に高速かつ精度よく行なうことができるので、製膜中に結晶粒を高速かつ精度よく制御したい場合に好適だからである。
<光電変換装置>
次に、本発明に係る光電変換装置について多層型薄膜Si系太陽電池を例にとりその実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、スーパーストレート構造タンデム型の薄膜Si太陽電池素子を模式的に図示したものである。この薄膜Si太陽電池素子は、光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層体として備え、これら複数の光電変換ユニットのうち少なくとも1つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比ITA/ITOが0.35以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成している。また、光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層体として備えてなり、これら複数の光電変換ユニットのうち少なくとも1つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が65cm−1以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成したものである。さらに、これら複数の光電変換ユニットのうち少なくとも2つの光電変換ユニットにおいて、光が入射する表面側に位置する光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップは、この光電変換ユニットより裏面側に位置する光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップより大きい。
図1において、101は透光性基板、102は受光面側電極、103は一導電型半導体層、104は非晶質系Si光活性層、105は逆導電型半導体層、106は入射させる光に対して透明な中間層、107は一導電型層半導体層、108はSi光活性層、109は逆導電型半導体層、110は透明導電層、111は裏面側電極、112,113はそれぞれ発電電力を取り出すための取出電極である。なお、図中の太い矢印は光(hν)の入射方向を示す。
このような薄膜シリコン系太陽電池の製造にあたっては、まず、透光性基板101を用意する。透光性基板101としては、ガラス、プラスチック、樹脂などを材料とした板材あるいはフィルム材などを用いることができる。
ここで、透光性基板101の後述する薄膜が形成される側の面には、凹凸構造(不図示)を形成しておくことが望ましい。この凹凸構造は後述する光閉じ込め効果をより促進する働きをすることができる。この凹凸構造を形成する方法としては、エッチング法、ブラスト法などがある。この凹凸形状の最大高さ(Rmax)は0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上に設定する。また、この凹凸形状の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上に設定する。必要であれば適当なエッチング処理で所望の凹凸形状に追加工することもできる。このように、凹凸形状の最大高さ(Rmax)及び算術平均粗さ(Ra)前記範囲とするのは、前記範囲未満では入射光の散乱効果が弱く、十分な光閉じ込め構造の実現が難しいからである。なお、このような凹凸形状は断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真の画像処理や、AFM(原子間力顕微鏡)による表面形状測定により決定することができる(凹凸形状の決定方法は以下においても同様である)。
次に、受光面側電極102となる透明導電膜を形成する。透明導電膜の材料としては、SnO、ITO、ZnOなどの公知の材料を用いることができるが、後工程でSi膜を形成する際に、SiHとHを使用することに起因した水素ガス雰囲気に曝されることになるので、耐還元性に優れるZnO膜を少なくとも最終表面として形成するのが望ましい。製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など公知の技術を用いることができる。受光面側電極102の膜厚は、反射防止効果と低抵抗化を考慮して60〜数100nm程度の範囲で調節する。このとき受光面側電極102の表面は、形成条件を調整して自生的な凹凸形状とする。この凹凸形状の最大高さ(Rmax)は0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上に設定する。また、この凹凸形状の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上に設定する。必要であれば適当なエッチング処理で所望の凹凸形状に追加工することもできる。凹凸形状の最大高さ(Rmax)及び算術平均粗さ(Ra)が前記範囲未満では入射光の散乱効果が弱く、十分な光閉じ込め構造の実現が難しい。
次に、水素化非晶質シリコン膜を光活性層に含む第1の光電変換ユニットを形成する。製膜方法としては、プラズマCVD(PECVD)法や触媒CVD(Cat−CVD)法の他に、前述したCat−PECVD法を用いることができる。
まず、一導電型半導体層103を形成する。すなわち、導電型決定元素を高濃度にドープしたワイドギャップを有するp型の非晶質Si層を前記受光面側電極102上に形成する。膜厚は2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素(例えばB(ボロン))濃度については1×1018〜1021/cm程度として、実質的にはp型とする。なお製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるBなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない窓層形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
次に、前記一導電型半導体層3上に実質的にi型の光活性層104を形成する。この光活性層104については、Cat−PECVD法で製膜した既述の高品質・高光安定性の非晶質系Si膜を用いる。このとき、製膜条件は前述した条件内で選定することが好ましく、特にプラズマ励起周波数を60MHz、触媒体温度を1600〜1800℃、H/SiH流量比を5〜10、基板温度を200〜250℃、ガス圧力を133〜200Pa、RFパワー密度を0.1〜0.2W/cmと設定する。このような製膜条件とすることで、既述の高品質・高光安定性の非晶質系Si膜を2nm/secという高製膜速度で形成することができる。ここで、ノンドープ膜は、実際にはわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドープ元素をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。なお、内部電界強度分布の微調整を目的に、n型あるいはp型とする場合もある。
実質的にi型の光活性層104の膜厚は0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下で形成することが望ましい。なぜなら、第2の光電変換ユニットに入射する光量が制限されるため、第2の光電変換ユニットの光電流の発生量が少なくなり、結果として、タンデム太陽電池としての特性が低下するからである。
次いで、実質的にi型の光活性層104上に逆導電型半導体層105を形成する。すなわち、一導電型半導体層103とは反対の導電型(すなわちn型)の導電型決定元素(例えばP(リン))を高濃度にドープしたワイドギャップを有する非晶質Si層を形成する。膜厚は2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1018〜1021/cm程度として、実質的にはn型とする。なお製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるPHなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない膜形成ができるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
なお、接合特性をより改善するために、p型層(またはn型層)と光活性層との間や光活性層とn型層(またはp型層)との間に実質的にi型の非単結晶Si層や非単結晶Si1−x層を挿入してもよい。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。なぜなら、0.5nmより薄い場合は接合特性の改善効果が得られず、また、50nmより厚い場合はキャリア走行の障壁となることや、抵抗成分が無視できなくなること等の悪影響が生じるからである。
ここで、第1の光電変換ユニットと後に述べる第2の光電変換ユニットとの接合部において良好な再結合特性を実現するためには(つまりオーミックコンタクト的な電気的接続特性を実現するためには)、前記逆導電型半導体層105と後記一導電型半導体層107において、少なくとも両者が接する部分では結晶化率を高めておくことが望ましい。このとき結晶化率を60%以上とするとトンネル接合特性が得られ、良好な逆接合再結合特性を実現することができる。なお、該結晶質逆接合は、逆導電型半導体層105に続いて同一導電型の微結晶Si層を5〜30nm程度形成し、続いて逆導電型の微結晶Si層を5〜30nm程度形成し、続いて一導電型半導体層107を形成する、というように、逆導電型半導体層105と一導電型半導体層107とは独立に専用の結晶質Si層を挿入して形成してもよい(不図示)。
また、第1の光電変換ユニットと第2の光電変換ユニットの間のオーミックコンタクト的な電気的接続特性を実現させるためには、透明導電膜、薄い金属層、あるいは薄いシリサイド層(Siと金属の合金層)を導電性の中間層106として挿入する方法も用いることができる。ここで透明導電膜を用いる場合は、この透明導電膜の存在によって光学的効果(反射及び透過特性)をも導入することができるので高効率化の点で非常に優れている。すなわち、該透明導電膜厚を調整することによって、短波長光は該透明導電膜で反射させて第1の光電変換ユニットに優先的に再入射させ、また長波長光は反射防止効果と同じ原理によって第2の光電変換ユニットに優先的に閉じ込めることができ、光エネルギーのより効率的な光電変換が可能となるのである。また、この中間層を用いることで第1の光電変換ユニットの光活性層の膜厚を薄くすることが可能となり、特に光劣化のある材料である非晶質シリコンを光活性層とした光電変換ユニットの光劣化低減に有効である。
透明導電膜の材料としては金属酸化物材料としてのSnO、ITO、ZnO、TiOなどの他に、シリコン酸化物材料、シリコン炭化物材料、シリコン窒化物材料、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料などを用いることができる。製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。必要であれば適当なドープ元素を含んだ材料を製膜時に製膜原料に混ぜることよって導電性を付与して制御することができる。
膜厚は材質によっても異なるが、10nm〜300nm程度で適宜調節する。
このとき中間層106の表面のうち、少なくとも1つの光電変換ユニットと接する表面は凹凸形状とすることが望ましい。第2の光電変換ユニットとの界面に凹凸形状を形成するには、中間層106の形成条件を調整して自生的な凹凸形状とする。必要であれば適当なエッチング処理で所望の凹凸形状に追加工することもできる。また、第1の光電変換ユニットを形成する面(受光面側電極102)の凹凸形状を引き継ぐ形で第1の光電変換ユニットを形成することで、第1の光電変換ユニットとの界面に凹凸形状を形成することができる。この凹凸形状の最大高さ(Rmax)は0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上に設定する。また、この凹凸形状の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上に設定する。なぜなら凹凸形状の最大高さ(Rmax)及び算術平均粗さ(Ra)が前記範囲未満では入射光の散乱効果が弱く、十分な光閉じ込め構造の実現が難しいからである。
次に、第2の光電変換ユニットを形成する。
まず、逆導電型半導体層105とは、反対の導電型(すなわちp型)の一導電型半導体層107を形成する。すなわち導電型決定元素を高濃度にドープした微結晶Si層を前記中間層106上に形成する。膜厚は10〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはp型とする。なお、製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるBなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない窓層形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
次に、前記一導電型半導体層107上に、実質的にi型のSi光活性層108を形成する。Si光活性層108については、Cat−PECVD法を用いて形成された既述の高品質・高光安定性の非晶質系シリコン膜を用いる場合は膜厚を0.5〜1μm程度の範囲で調節し、微結晶シリコン膜に代表される結晶質Si膜を用いる場合は膜厚を1〜3μm程度で調整することが望ましい。このとき、既述の高品質・高光安定性の非晶質系Si膜を用いる場合は、プラズマ励起周波数を60MHz、触媒体温度を1600〜2000℃、H/SiH流量比を5〜10、基板温度を200〜250℃、ガス圧力を133〜200Pa、およびVHFパワー密度を0.1〜0.3W/cmの製膜条件とし、光学的バンドギャップは第1の光活性層と同等もしくは第1の光活性層より小さくするのが望ましい。光学的バンドギャップの調整については既述した通りである。結晶質系Si膜を用いる場合は、前記条件に対して、H/SiH流量比を5〜20、ガス圧力を200〜665Pa、VHFパワー密度を0.2〜0.5W/cmとする。このような製膜条件とすることで、既述の高品質・高光安定性の非晶質系Si膜、あるいは結晶質系Si膜を2nm/secという高製膜速度で形成することができる。ここで、ノンドープ膜は実際にはわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドープ元素をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。なお、内部電界強度分布の微調整を目的に、n型あるいはp型とする場合もある。また、該光活性層108に前記結晶質Si膜を用いる場合は、膜構造として、(110)面配向の柱状結晶粒の集合体として製膜後の表面形状が光閉じ込めに適した自生的な凹凸構造となるようにするのが望ましい。
次いで、実質的にi型のシリコン光活性層108上に逆導電型半導体層109を形成する。すなわち、一導電型半導体層107とは反対の導電型(すなわちn型)の導電型決定元素を高濃度にドープした非晶質シリコン層または微結晶Si層を形成する。膜厚は2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはn型とする。なお製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるPHなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない膜形成ができるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
なお、接合特性をより改善するために、p型層(n型層)と光活性層との間や光活性層とn型層(p型層)との間に実質的にi型の非単結晶Si層や非単結晶Si1−x層を挿入してもよい。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。
また、逆導電型半導体層109の形成条件は微結晶Si光活性層108の表面に形成した光閉じ込めに適した自生的な凹凸構造を残すような条件となるようにするのが望ましい。前述した微結晶Si光活性層108及び逆導電型半導体層109の形成条件により、第2の光電変換ユニットと後述するこの上に形成される第2の電極の界面を凹凸形状とすることができる。この凹凸形状の最大高さ(Rmax)は0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上に設定する。また、この凹凸形状の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上に設定する。凹凸形状の最大高さ(Rmax)及び算術平均粗さ(Ra)が前記範囲未満では入射光の散乱効果が弱く、十分な光閉じ込め構造の実現が難しい。
次に、第2の電極である裏面側電極111となる金属膜を形成する。金属材料としては、導電特性および光反射特性に優れるAl(アルミニウム)、Ag(銀)などを用いるのが望ましい。製膜方法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、スクリーン印刷法などの公知の技術を使用できる。例えばAgをスパッタリング法によりシート抵抗が1Ω/□程度以下となるように適当な膜厚に堆積する。具体的には1μm程度堆積するとシート抵抗0.1Ω/□以下が実現される。
必要に応じて、第2の光電変換ユニットと裏面側電極111の間に、透明導電層110を形成する。この透明導電層110は第2の光電変換ユニットで吸収されなかった入射光を反射させ、再度第2の光電変換ユニットに入射させて、第2の光電変換ユニットでの発電に寄与させるために有効である。透明導電層110の材料としては金属酸化物材料としてのSnO、ITO、ZnO、TiOなどの他に、シリコン酸化物材料、シリコン炭化物材料、シリコン窒化物材料、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料などを用いることができる。製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。必要であれば適当なドープ元素を含んだ材料を製膜時に製膜原料に混ぜることよって導電性を付与して制御することができる。
膜厚は材質によっても異なるが、10nm〜100nm程度で適宜調節する。
このとき裏面側電極111と接する表面は凹凸形状とすることが望ましい。凹凸形状を形成するには、透明導電層110の形成条件を調整して自生的な凹凸形状とする。必要であれば適当なエッチング処理で所望の凹凸形状に追加工することもできる。また、第2の光電変換ユニットで形成された凹凸形状を引き継ぐ形で透明導電層110を形成することでも凹凸形状を形成することができる。
この凹凸形状の最大高さ(Rmax)は0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上に設定する。また、この凹凸形状の算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上に設定する。凹凸形状の最大高さ(Rmax)及び算術平均粗さ(Ra)が前記範囲未満では入射光の散乱効果が弱く、十分な光閉じ込め構造の実現が難しい。
表面側の取出電極112及び裏面側の取出電極113については、例えばAl、Ag等を受光面側電極102上に真空成膜技術、プリント及び焼成技術、さらに、メッキ技術等を用いて形成することができる。
<素子特性>
以上によって作製された素子の特性(初期特性及び光照射試験後の特性あるいは変化率)を表1に従来例と比較して示す。ここで、光照射試験は、温度48±2℃のもとで、AM1.5の擬似太陽光(ソーラーシミュレーター光)を、100mW/cmの光照射強度にて連続200時間照射する条件で行なうものとし、表1における安定化効率とは、該光照射試験後に測定した効率のことである。なお、本表に示した素子は、第2の光電変換ユニットの光活性層108を微結晶Si膜で形成した場合のものである。
表1から分かるように、本発明素子では、既述の高品質・高光安定性の非晶質Si膜を用いたことで、高製膜速度で光活性層104を形成したにもかかわらず高い初期変換効率を有しており、特に光劣化率については従来素子よりも極めて低く7%以下の値にまで大幅に低減された特性を示している。また同表より、ラマンピーク強度比TA/TOが0.35以下、あるいはTO帯半値幅が65cm−1以下である場合に低い光劣化率が得られていることもわかる。
以上により、本発明のSi膜が高品質、且つ高光安定性を有していることがデバイス特性からも実証された。
<光発電装置>
上述した光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段からの発電電力を負荷へ供給するように成した光発電装置とすることができる。すなわち、上述した光電変換装置を1以上(複数の光電変換装置の場合、これらを直列、並列または直並列に)接続したものを発電手段として用い(複数の光電変換装置の場合、これらを直列、並列または直並列に接続したものを発電手段として用い)、この発電手段から直接、直流負荷へ発電電力を供給するようにしてもよい。
また、上述した発電手段の直流の発電電力をインバータなどの電力変換手段により発電電力を適当な交流電力に変換させるようにして、この変換した電力を商用電源系統や各種の電気機器などの交流負荷に供給することが可能な光発電装置を構成してもよい。
さらに、このような光発電装置を日当たりのよい建物の屋根や壁等に設置するなどして、各種態様の太陽光発電システム等の光発電装置として利用することも可能である。
<一般化>
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意の形態とすることができる。
以上の実施形態の説明では、本発明の非晶質系Si膜を、光電変換ユニットが2つあるタンデム型の太陽電池に対して適用した例について説明したが、光電変換ユニットが3つあるトリプル接合型の太陽電池(不図示)、さらにはそれ以上の数の半導体接合を有する多接合型の太陽電池(不図示)においても適用することができ、同様の効果を得ることができる。この場合、2つ以上の光活性層、さらに好ましくは全ての光活性層を本発明の非晶質系Si膜とすることで、高効率・高光安定性の太陽電池が期待される。また、この光電変換ユニットが2つ以上積層された太陽電池においては、光が入射する表面側に位置する光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップを、該光電変換ユニットより裏面側に位置する光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップより大きくすることで、光吸収が有効に行なわれる。
また、光入射側の光活性層としては従来例の非晶質Siとすることも可能である。
また、裏面側の光電変換ユニットとして半導体基板を用いた光電変換ユニットとすることも可能である。この場合、半導体基板としては、単結晶Si基板、多結晶Si基板、GaAs基板等が利用可能である。
また以上の実施形態説明では、半導体接合層pinが受光面側からpinの順で形成した太陽電池について説明したが、受光面側からnipの順で形成した太陽電池についても同様の効果が得られる。
また、光が基板側から入射するスーパーストレート型太陽電池について説明したが、光が半導体膜側から入射するサブストレート型太陽電池(不図示)に対しても同様の効果が得られる。なお、サブストレート型とした場合は、基板は透光性基板に限定されるものではなくステンレスなどの不透光性基板を用いてもよく、また第1の電極は金属材料とし、第2の電極は透光性材料とする。また、基板が第1の電極を兼ねるようにすることも可能である。
また、本発明の非晶質系Si膜を、PECVD法の一種であるCat−PECVD法を用いて形成した場合について説明したが、製法はこれに限るものではなく、製膜条件を調節することによる従来のPECVD法での形成可能性を排除するものではない。また同じく製膜条件を調節することによるCat−CVD法(触媒CVD法)等に代表されるPECVD法以外のCVD法での形成可能性を排除するものではない。
また、光電変換素子の光活性層にCat−PECVD法で形成した高品質・高光安定性の非晶質系Si膜を用いた例について説明したが、同等の膜特性を有する非晶質系Si膜が得られさえすれば特にCat−PECVD法に限定する必要はなく他のCVD法を用いてもよい。
また、本発明の非晶質系Si膜は、太陽電池以外にも、フォトダイオードや、フォトトランジスタ、光センサ、等の光電変換装置一般に適用可能である。
<まとめ>
以上のように、本発明の光電変換装置は、光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層体として備えるとともに、前記光電変換ユニットのうち少なくとも1つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比ITA/ITOが0.35以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成したので、従来に比してSROが大幅に改善され、低欠陥密度且つ高光安定性を有した光活性層とすることができることから、高い信頼性を確保できる高効率な多層型薄膜太陽電池等の光電変換装置を提供することができる。
また、本発明の光電変換装置は、光活性層を有する光電変換ユニットの複数を積層体として備えるとともに、前記光電変換ユニットのうち少なくとも1つの光電変換ユニットの光活性層を、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が65cm−1以下である非晶質系シリコン半導体薄膜で構成したので、従来に比してSROが大幅に改善され、低欠陥密度且つ高光安定性を有した光活性層とすることができることから、高い信頼性を確保できる高効率な多層型薄膜太陽電池等の光電変換装置を提供することができる。
さらに、本発明の光発電装置によれば、本発明の光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことより、高効率の光発電装置を提供することができる。
本発明の多層型薄膜シリコン系太陽電池の一実施形態を模式的に示す断面図である。
符号の説明
101:透光性基板
102:受光面側電極
103:一導電型半導体層
104:非晶質系Si光活性層
105:逆導電型半導体層
106:中間層
107:一導電型半導体層
108:Si光活性層
109:逆導電型半導体層
110:透明導電層
111:裏面側電極
112,113:取出電極

Claims (6)

  1. 一導電型半導体層、光活性層および逆導電型半導体層が順次積層されてなる第1および第2の光電変換ユニットを積層体として備える光電変換装置であって、
    前記第1および第2の光電変換ユニットの前記光活性層のうち、少なくとも一方がシリコンおよび水素を含有する非晶質系シリコン半導体薄膜からなり、
    前記光活性層は、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度に対するTAモードの散乱ピーク強度の比が0.35以下であり、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅64〜65cm であるとともに、Si−H結合状態の存在密度とSi−H 結合状態の存在密度との和に対するSi−H結合状態の存在密度の比が0.95以上、かつ前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が30%以下であり、
    前記非晶質系シリコン半導体薄膜は、結晶シリコン粒を含む場合、その最大粒径は5nm以下であることを特徴とする光電変換装置。
  2. 前記第1および第2の光電変換ユニットにおいて、光入射側に位置する前記第1の光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップが、前記第2の光電変換ユニットの光活性層の光学的バンドギャップより大きいことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
  3. 前記光活性層は、光入射側から裏面側に向かって結晶化率が上昇していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光電変換装置。
  4. 前記第1の光電変換ユニットの逆導電型半導体層と前記第2の光電変換ユニットの一導電型層とが接合する接合部分を有し、該接合部分は、前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が60%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光電変換装置。
  5. 前記第1の光電変換ユニットの逆導電型半導体層と前記第2の光電変換ユニットの一導電型光電層との間に、前記第1の光電変換ユニットの逆導電型半導体層側に位置する、前記逆導電型と同一導電型の逆導電型微結晶Si層と、該微結晶Si層上に位置する、前記一導電型層と同一導電型の一導電型微結晶Si層と、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光電変換装置。
  6. 請求項1乃至請求項のいずれかに記載の光電変換装置を発電手段として用い、該発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことを特徴とする光発電装置。
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