JP4780928B2 - 光電変換装置およびそれを用いた光発電装置 - Google Patents

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Description

本発明は、少なくともSi(シリコン)およびH(水素)を含有する非晶質系Si半導体薄膜、およびこの半導体薄膜を利用した太陽電池等の光電変換装置ならびにそれを発電手段として用いた光発電装置に関する。
水素化アモルファスシリコン(以下、a−Si:Hともいう)に代表される非晶質Si系膜を利用したデバイスは、今日では非常に多岐にわたっているが、近年、エネルギー問題や地球環境問題への世間の関心が高まる中で特に注目を集めてきているのが太陽電池である。
太陽電池における非晶質Siの特長は、結晶質Si(微結晶Si膜を含む)に比べて光吸収係数が非常に大きいために、光電変換層として必要な膜厚は結晶質Siの場合の数分の1でよく(0.5μm程度以下)、PECVD法(プラズマCVD法)などのCVD法(化学気相堆積法)で膜形成する場合、結晶質Siを用いる場合に比べて生産性に非常に優れているということにある。しかし、非晶質Siには一般にStaebler-Wronski効果と呼ばれる光劣化現象があることが古くから知られており、この膜を用いた太陽電池は光照射によって効率が10〜15%程度も低下してしまうという問題を、現在に至るまで抱え続けている。
光劣化現象のメカニズムは未だに明確になっていないが、水素に関係した現象であることはまず間違いないとされており、これまでに少なくとも2つの基本方針で光劣化を低減する研究が積み重ねられてきた。すなわち、〔1〕膜中Si−H(ダイハイドライド)結合状態を低減する(Si−H(モノハイドライド)結合状態割合を高める)、〔2〕膜中水素濃度を低減する、というも基本方針がある。なお、これら〔1〕,〔2〕の基本方針には重なり合う部分がある。
上記〔1〕は、膜中Si−H密度が高い膜では光劣化が大きいという事実に基づいた方針である。膜中Si−H密度の具体的低減方法については、様々な仮説のもとで多くの機関で研究が行なわれているが、一例を挙げれば、膜中Si−H結合状態の起源を、気相中の高次シラン分子が膜中に取り込まれること、あるいは同分子が製膜表面での膜成長反応を乱す立体障害となることにあると考え、この高次シラン分子の生成反応にかかわるSiH分子の生成を低減しようという方法が知られている。具体的には、PECVD法においてVHFプラズマに代表されるような低電子温度のプラズマを用い、また水素希釈率を最適化し(電子温度を極小化し)、さらに基板温度をある程度上げて(上限は350℃程度)製膜表面からの水素脱離反応を促進する、といった試みがなされており、製膜速度2nm/秒の条件下で、安定化効率8.2%、光劣化率12%といったa−Si:Hシングル素子特性が得られている(非特許文献1を参照)。しかしながら、このような安定化効率および光劣化率では未だ充分なものとはいえない。
上記〔2〕は、例を挙げれば、PECVD法での膜形成において、膜堆積と水素プラズマ処理を交互に繰り返しながら膜成長表層から過剰な水素を引き抜くという方法が提案されている(特許文献1,2,3を参照)。しかしながら、この方法では結果的には期待されるような膜中水素濃度の充分な低減はみられない上に、膜堆積と水素プラズマ処理を多数回繰り返すために高製膜速度を得るのが困難であり、生産性が著しく悪いという問題を抱えている。また高効率と低光劣化率を同時に達成するにも至っていない。
特開平5−166733号公報 特開平6−120152号公報 特開2002−9317号公報 応用物理 第71巻第7号(2002)p.823
上述したように、上記〔1〕の方法では、安定化効率および光劣化率は未だ充分なものとはいえない。また、上記〔2〕の方法では、結果的には期待されるような膜中水素濃度の充分な低減はみられないうえに、膜堆積と水素プラズマ処理を多数回繰り返すために高製膜速度を得るのが困難であり、生産性が著しく悪いという問題を抱えている。また高効率と低光劣化率を同時に達成できない。
そこで、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高品質で光安定性に優れた非晶質系Si半導体膜およびこれを用いた高効率かつ低光劣化率の光電変換装置ならびに優れた光発電装置を実現することにある。
本発明の光電変換装置は、1)p型半導体層、光活性層およびn型半導体層が順次積層されてなる第1および第2の半導体接合層を接合してなる半導体多層膜を有する光電変換装
置であって、前記第1及び第2の半導体接合層の前記光活性層のうち、少なくとも一方がシリコンおよび水素を含有する非晶質系Si膜からなり、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比(ITA/ITO)が0.35以下で、かつ前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が0%以下であるとともに、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が63〜65cm −1 であり、かつSi−H結合状態の存在密度とSi−H 結合状態の存在密度との和に対するSi−H結合状態の存在密度の比が0.95以上であることを特徴とする。
また上記1)または上記2)の構成において、前記第1の半導体接合層のn型半導体層と前記第2の半導体接合層のp型半導体層との間に、前記第1の半導体接合層のn型半導体層に続いて同一導電型の微結晶Si層を形成し、該微結晶Si層上に逆導電型の微結晶Si層を形成してあってもよい。
ここで特に、5)上記1)乃至上記の非晶質系シリコンの半導体薄膜(非晶質系Si膜)が、特にラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比(ITA/ITO)が0.175以下である場合、膜中の歪みがより低減された状態となるので、光電変換装置の光劣化率をより低減するために好適である。
また、6)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜において、結晶化率が膜厚方向に向かって傾斜分布、あるいは階段状分布をなし、光入射側(表面側)から裏面側に向かって結晶化率が上昇するようにする。このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが表面側から裏面側に向かって減少するバンドプロファイルを得ることができ、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換が可能となり高効率化が実現できる。
また、7)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜において、結晶化率が膜厚方向に向かって空間的な周期分布をなし、その1周期の長さを100nm以下とし、好ましくは10nm以下とする。このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが周期的に変調したバンドプロファイルを得ることでき、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べてより効率的な光電変換が可能となり、高効率化が実現できる。特に周期長を10nm以下とすると、量子サイズ効果(量子井戸構造の形成)が現れ始め、より高効率化することができる。なお、この結晶化率の制御は、熱触媒体の温度制御で行なうのが望ましい。
また、8)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜中の光安定化前の初期ESRスピン密度が5×1015cm−3以下であると、この膜を光活性部として適用した場合に、同層での再結合電流が増大せずに高い素子特性が得られる。
また、9)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜中の水素濃度が7原子%以下であると、素子特性の光安定性向上に大きく寄与する。
また、10)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜の光学的バンドギャップエネルギーが1.7eV以下であるとよい。すなわち、これが1.7eVよりも大きい場合には、これをシングルセルの光活性層等に適用した際に、長波長光を充分に吸収・光電変換できずに光電流が低下し、結果として素子特性の低下を招来するからである。
また、11)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜がCVD法(化学気相堆積法)により形成されると、大面積にわたっての均一かつ均質な膜形成を行なうことができるので、太陽電池のような大面積デバイスの製造には特に好適である。
また、前記非晶質系シリコンの半導体薄膜が基板温度100℃以上350℃以下で形成されるとよい。なぜなら、基板温度を100℃よりも低くすると、水素引き抜き効果が有効に働かなくなり膜中水素濃度を有効に低減できなくなる。一方、基板温度を350℃よりも高くした場合には、膜成長面からの水素の脱離が顕著となって膜中ダングリングボンド密度が上昇してしまい、高品質な膜が得られなくなるからである。
また、12)上記5)の非晶質系シリコンの半導体薄膜がGe(ゲルマニウム),Sn(スズ),C(炭素),N(窒素),O(酸素)の少なくとも一種を含有すると、バンドギャップエネルギーを調節可能となるので(Ge,Snの場合は低エネルギー化の方向に調整可能、C,N,Oの場合は高エネルギー化の方向に調整可能であるので)、光電変換装置のバンドプロファイル設計の自由度を上げることができ、より高効率化を図る場合に好適である。
さらに、本発明の光発電装置は、13)前記光電変換装置を発電手段として用い、該発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことを特徴とするものである。
本発明の光電変換装置によれば、p型半導体層、光活性層およびn型半導体層が順次積層されてなる第1および第2の半導体接合層を接合してなる半導体多層膜を有する光電変換装置であって、前記第1及び第2の半導体接合層の前記光活性層のうち、少なくとも一方がシリコンおよび水素を含有する非晶質系Si膜からなり、シリコンおよび水素を含有する非晶質系Si膜からなり、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比が0.35以下で、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が60%以下であるので、膜の短距離秩序構造が大幅に改善された非晶質系Si膜が得られ、それを用いる光電変換装置の高効率化、および光劣化率の低減を図ることができる。
また、本発明の光電変換装置の非晶質系Si膜によれば、ラマン散乱分光法による簡便な方法および装置でその膜質を容易に管理することができる。
さらに、本発明の光発電装置によれば、上記光電変換装置を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことより、高効率の光発電装置を提供することができる。
以下、本発明の半導体薄膜およびそれを用いた光電変換装置およびそれを発電手段として用いた光発電装置の実施形態を詳細に説明する。
<<実施形態1>>
本発明の非晶質系シリコン(以下、Si)膜を得るために、PECVD法の一種であるCat−PECVD法(熱触媒体内蔵カソード型プラズマCVD法;特開2001−313272号公報、特願2001−293031号等を参照)を用いて形成した例について以下説明する。なお、ここでいう非晶質系Si膜とは、後に定義するように、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が0〜60%の範囲に入るものとし(すなわち非晶質Si膜は非晶質系Si膜に含まれる)、逆に結晶質系Si膜とは結晶化率が60〜100%の範囲に入るものとする。
<Cat−PECVD法>
前記Cat−PECVD法を用いた場合、本発明の非晶質系Si膜は、プラズマ励起周波数としてVHF帯(27MHz以上:通常は40〜80MHz程度)を用い、カソード内部に設けられたTa(タンタル)、W(タングステン)あるいはC(炭素)等の高融点材料から成る熱触媒体の温度を1400〜2000℃、ガス流量比H/SiHを2〜20、基板温度を100〜350℃、ガス圧力を13〜665Pa、VHFプラズマパワー密度を0.01〜0.5W/cmと設定した条件下で得られる。ここで、HとSiHとは製膜空間に放出されるまでは、分離された状態でそれぞれ異なったガス導入経路を通して導かれるようにし、Hのガス導入経路にはその経路の一部に前記カソード内に設置された熱触媒体が配設されているようにし、SiHのガス導入経路には同熱触媒体が配設されていないようにする。このように、Hのみを熱触媒体で加熱活性化することで、SiHが熱触媒体によって分解活性化して製膜空間に放出されるまでのガス導入経路中で膜堆積・消費されるのを防ぐことができると同時に、後記する熱触媒体使用効果を得ることができる。
Cat−PECVD法では熱触媒体を用いることに起因するガスヒーティング効果によって、発熱反応である高次シラン生成反応(Si分子へのSiH挿入反応)が抑制されるので、製膜空間における高次シラン分子の密度を低く抑えることができ、高次シラン分子の膜中への取り込まれや製膜表面での同分子による立体障害が低減される。
この結果、膜中Si−H結合状態の存在密度が大きく低減された非晶質系Si膜の形成が可能となる。また、ガスヒーティング効果はプラズマの電子温度を低下させる効果も有するので、プラズマ空間での原料ガスSiHと電子との1電子衝突反応によるSiH生成(同じく1電子衝突反応によるSiH生成に比べて高い電子温度(衝突エネルギー)を要する)が抑制され、これによっても高次シラン生成反応(Si分子へのSiH挿入反応)を抑制することができる。さらにCat−PECVD法では水素ラジカル生成を促進することもできるので、製膜表面からの水素引き抜き反応を促進し、膜中水素濃度を効果的に低減することができる。これらの効果により、後述するような短距離秩序(SRO:Short Range Order)が大きく改善された、光安定性に優れた非晶質系Si膜を得ることができる。
なお、Cat−PECVD法では、従来のPECVD法では困難であった製膜条件でも熱触媒体を導入した効果によって結晶化を促進できる作用があるため、以下に述べる結晶化率を制御する点において特に好適である。ここで膜中の結晶化領域の起源としては、(1)製膜表面での結晶化反応に起因するもの、(2)プラズマ空間中で生成されるSi微粒子(ナノメーターサイズの結晶クラスタ)が膜中へ取り込まれることに起因するもの、の少なくとも2種がある。
<結晶化率>
結晶化率の制御は、水素希釈率(H/SiHガス流量比)、熱触媒体温度、VHFパワー密度、製膜ガス圧力、および基板温度の組み合わせによって0〜100%の範囲で自由に行なうことができるが、結晶化率が大きくなりすぎると非晶質系としての特長が失われてしまうので、結晶化率は0〜60%までの範囲で調節し、より好適には0〜30%の範囲で調節するのが望ましい(結晶化率が60%以上のSi膜は、通常、微結晶Si膜の範疇に入り、700nm程度よりも短波長側での光吸収係数はほとんど結晶系のそれと同じ程度にまで低下してしまい本発明の目的には適合しない)。
また、結晶化率を膜厚方向に向かって傾斜分布もしくは階段状分布、または構造的に周期分布とすることで、後述する光電変換素子の効率を向上させることができる(不図示)。すなわち、傾斜分布もしくは階段状分布とする場合は、光入射側(表面側)から裏面側に向かって結晶化率が上昇するようにする。このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが表面側から裏面側に向かって減少するバンドプロファイルを得ることができ、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べて、より効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。また、周期分布とする場合は、1周期の長さを100nm以下とし、好ましくは10nm以下とする。このようにすることで、光学的バンドギャップエネルギーが周期的に変調したバンドプロファイルを得ることでき、光学的バンドギャップエネルギーが膜厚方向に向かって一定の場合に比べて、より効率的な光電変換(すなわち高効率化)が可能となる。特に周期長を10nm以下とすると、量子サイズ効果(量子井戸構造の形成)が現れ始め、より高効率化することができる。ここで結晶化率の制御は、熱触媒体の温度制御で行なうのが望ましい。すなわち、熱触媒体の温度制御は非常に高速でかつ精度よく行なうことができるので、製膜中に結晶化率を高速でかつ精度よく制御したい場合にきわめて好適である。
なお、本明細書中でいう結晶化率は、ラマン散乱スペクトルにおける結晶相ピーク強度/(結晶相ピーク強度+非晶質相ピーク強度)で定義されるものとし、結晶相ピーク強度は、500〜510cm−1でのピーク強度+520cm−1でのピーク強度とし、また、非晶質相ピーク強度は480cm−1でのピーク強度として定義するものとする。
<ラマン散乱特性>
さて、非晶質系Si膜の構造を記述する場合には秩序度を取り扱う場合が多く、特に短距離秩序(SRO:Short Range Order)は、膜品質や光安定性と非常に密接な関係があるとされている。このSROが反映されるアモルファスネットワークの振動ダイナミクスを評価する代表的手法としては、簡便であり簡単な装置を用いたラマン散乱分光法が知られている。
図1は、従来および本発明の非晶質系Si膜のラマン散乱スペクトルである。それぞれのスペクトルは、480cm−1付近にピークをもつTO(横型光学振動)帯、385cm−1付近にピークをもつLO(縦型光学振動)帯、305cm−1付近にピークをもつLA(縦型音響振動)帯、および160cm−1付近にピークをもつTA(横型音響振動)帯のエネルギー帯から成る。また、表1はこのスペクトルをGaussian型+Lorentzian型の近似曲線によって、前記した4つのエネルギー帯(モード)に分離し、それぞれのモードのピーク強度および半値幅を示したものであり、ピーク強度についてはTOモードのピーク強度(TOピーク強度)を1.000として規格化した値を示す。ここで、ラマンスペクトルの測定は、励起光にHe−Neレーザー(波長632.8nm)を用いたRenishaw製Ramanscope System 1000を使用した。
Figure 0004780928
本発明膜1は、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が0%と評価された、前記Cat−PECVD法を用いて作製された非晶質Si膜であり、また、本発明膜2は、結晶化率が3%と評価された、同じく前記Cat−PECVD法を用いて作製された結晶Si成分をわずかに含んだ非晶質系Si膜、従来例となる従来膜は結晶化率が0%と評価された従来のPECVD法を用いて作製された非晶質Si膜である。
さて、Siの結合角θの分布幅Δθは、TOモードの散乱ピーク強度ITOとTA帯の散乱ピーク強度ITAの比(=ITA/ITO)、またはTOモードの散乱ピークの半値幅HWTOと正の相関関係を有していることが知られているが、本発明の膜においてITA/ITOをみると、従来例がITA/ITO=0.41の値をとるのに対して(従来の非晶質Si膜のITA/ITO比は小さくとも0.35よりも大きな値となる)、本発明膜1はITA/ITO=0.17、本発明膜2はITA/ITO=0.25と、従来よりも2/5〜3/5程度に減少していることがわかり、表にはないが1/3程度まで減少する場合があることも判明した。また、TOモードの散乱ピークの半値幅HWTOについても、従来の膜が半値幅65〜75cm−1(表では68cm−1)をとるのに対して、本発明の膜ではこれよりも狭幅化していることが判明した。
以上のことは、本発明の膜のSi結合角のばらつきΔθが、従来のものよりも小さくなっていること、即ちSROが改善されていることを示すものである。このSROに関する構造変化(改善)が、後述する光安定性の向上結果に大きく関係しているものと考えられる。
<ESRスピン密度>
また、本発明膜1,2のSi膜は電子スピン共鳴法によって計測されるESRスピン密度であるSiダングリングボンド密度が光照射前(初期)において、それぞれ、3.5×1015cm−3および2.6×1015cm−3であり、5.0×1015cm−3以下の低欠陥密度であることも確認された。ダングリングボンド密度が前記より大きい値では、活性層に適用した場合に同層での再結合電流が増大し、高い素子特性が得られないことも判明した。なお、ESRスピン密度測定には、日本電子製JES−RE3Xを用いた。
<FT−IR特性(Si−H結合状態の存在割合)>
また、本発明膜1,2のSi膜は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光)分析によって評価されるSi−H結合状態の存在密度σS−HのSi−H結合状態の存在密度σS−HおよびSi−H結合状態の存在密度σSi−H2の総和(σS−H+σSi−H2)に対する比(σS−H/(σS−H+σSi−H2);以下、Si−H結合状態存在割合という)が、それぞれ0.990および0.985であった。このSi−H結合状態存在割合は、従来技術の説明の部分で既に述べたように、光劣化と大きな相関を有しており、この割合が高いほど(Si−H結合が支配的であるほど)光劣化が小さくなることが報告されている。本発明のSi膜においては、従来のプラズマCVD法で得られているSi−H結合状態存在割合の0.90程度を大きく上回り、光劣化抑制効果が顕著に現れてくるとされる0.95以上の値が得られている。なお、FT−IR特性の測定には、島津製作所製FTIR−8300を用いた。
<膜中水素濃度>
また、膜中水素濃度については、本発明膜1,2のSi膜はそれぞれ6.9原子%,5.3原子%であることがFT−IR分析より評価算出された。このとき、膜中水素濃度の算出は、630cm−1付近の吸収ピーク面積とA value=1.6×1019cm−2を用いて行なった。このように本発明の膜は7原子%以下の低水素濃度となっており、これも後述する素子特性の光安定性向上に大きく寄与しているものと思われる。膜中水素濃度が前記より大きい場合には膜中Si−H結合状態の存在密度の増大を招き、光劣化率は大きくなる。
<光学的バンドギャップ>
また、光学特性としては、本発明膜1,2の光学的バンドギャップエネルギーEg.optは、いわゆる3乗根プロットにて、それぞれ1.60および1.55eVと評価され、1.7eV以下に狭ギャップ化していることが確認された。なお、光学的バンドギャップエネルギーEg.optが1.7eVよりも大きい場合には、これをシングルセルの光活性層等に適用した際に長波長光を充分に吸収・光電変換できずに光電流が低下し、結果として素子特性の低下を招来する。
<バンドギャップ調整元素>
非晶質系Si膜のバンドギャップエネルギーEgは、膜中水素濃度によってある程度調節することができるが、膜中水素濃度を低く保ったままEgを調節したい場合には、Eg調整元素を添加すればよい。具体的には、ナローギャップ化に対してはGeまたはSn等を、ワイドギャップ化に対してはC、NまたはO等を、それぞれ分子式に含んだガスを製膜空間に導入すればよい。すなわち、Geを含有させる場合にはGeH(Hは重水素Dを含む)、Ge2n+2(nは正の整数、以下同様)、GeX(Xはハロゲン元素)等を、Snを含有させる場合にはSnH(Hは重水素Dを含む)、Sn2n+2、SnX(Xはハロゲン元素)、SnR(Rはアルキル基)等を、Cを含有させる場合にはCH(Hは重水素Dを含む)、C、C2n+2、C2n、CX(Xはハロゲン元素)等を、Nを含有させる場合にはN、NO、NO、NH等を、Oを含有させる場合にはO、CO、CO、NO、NO、HO等をそれぞれ導入すればよい。
<基板温度>
次に、基板温度については、100℃〜350℃の範囲とする。なぜなら、基板温度を100℃よりも低くすると、水素引き抜き効果が有効に働かなくなり膜中水素濃度を有効に低減できなくなるからであり、また基板温度を350℃よりも高くした場合には、膜成長面からの水素の脱離が顕著となって膜中ダングリングボンド密度が上昇してしまい、高品質な膜が得られなくなるからである。
<光電変換装置>
次に本発明の非晶質系Si膜を太陽電池等の光電変換装置の光活性層に適用した例について詳細に説明する。すなわち、上述した半導体薄膜を光活性部に含む1以上の半導体接合ユニットと、これら半導体接合ユニットから電力を取り出すための電極とを備えた光電変換装置について説明する。
図2は、光電変換装置のひとつであるスーパーストレート型タンデム型の薄膜Si(シリコン)太陽電池素子に対して、本発明の非晶質系Si膜を光活性層に適用した一例を示したものである。図中において、1は透光性の基板、2は表電極である第1の電極、3は半導体多層膜、31は第1の半導体接合層、32は第2の半導体接合層、31aは第1の半導体接合層31中のp型半導体層、31bは第1の半導体接合層31中の光活性層、31cは第1の半導体接合層31中のn型半導体層、32aは第2の半導体接合層32中のp型半導体層、32bは第2の半導体接合層中の光活性層、32cは第2の半導体接合層32中のn型半導体層、4は裏電極である第2の電極である。また、図中の太い矢印は光(hν)の入射方向を示す。なお、n型半導体層31cおよびp型半導体層32aとの間に、透明導電膜や薄い金属層あるいはシリサイドからなる中間層を挿入してもよい(不図示)。
このような光電変換装置を作製するには、まず透光性基板1を用意する。ここで透光性基板1としては、ガラス、プラスチック、樹脂などを材料とした板材あるいはフィルム材を用いることができる。
次に、透光性基板1上に表電極たる第1の電極2を形成する。第1の電極2としては、公知の酸化物透明導電膜を用いることができる。具体的には、スズ酸化物であるSnO、インジウム−スズ酸化物であるITO、亜鉛酸化物であるZnOなど材料を用いることができる。この透明導電膜の膜厚は、反射防止効果と低抵抗化を考慮して60〜600nm程度の範囲で調節する。低抵抗化の目安としてはシート抵抗を約10Ω/□程度以下とするのが望ましい。なお、この透明導電膜は、後にこの上にSi膜を形成するときに、SiHとHを使用することに起因した活性水素ガス雰囲気に曝されることになるので、耐還元性に優れるZnO膜を少なくとも最終表面として形成するのが望ましい。このZnO膜の膜厚は10〜100nmの範囲とする。この透明導電膜の製膜方法としては、熱CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スプレー熱分解法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。
なお、透明電極形成前にRIE(反応性イオンエッチング)処理またはブラスト処理等の方法によりガラス基板表面に凹凸構造を形成し、その後この凹凸構造面に前記透明電極を形成すると光散乱効果が高まって光閉じ込め効果が促進されて効率向上に好適である。
次に、半導体多層膜3を形成する。半導体多層膜3は第1の半導体接合層31と第2の半導体接合層32からなる。製法としては公知のPECVD法やCat−CVD法の他に、本発明者らが既に特願2000−130858号、特願2001−293031号および特願2002−38686号などにおいて開示しているCat−PECVD法を用いることができる。
まず、前記第1の電極2上に第1の半導体接合層31を形成する。該半導体接合層31は、p型半導体層31a、光活性層31b(実質的にi型層)、n型半導体層31cが順次積層されたpin接合からなる。
ここで、p型半導体層31aについては、従来の非晶質Si膜や結晶Si相を含む結晶化率60%以上の結晶質Si膜、あるいは本発明の非晶質系Si膜を用いることができる。膜厚は前記材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素(例えば、B(ボロン))濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはp型とする。なお、製膜時に用いるSiH、Hおよびドーピング用ガスであるBなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない窓層形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
また、光活性層31bである実質的にi型の半導体層については、本発明の非晶質系Si膜を用い、膜厚は0.1〜0.5μm程度の範囲で調節する。このときの製膜条件は、プラズマ励起周波数を60MHz、触媒体温度を1600〜2000℃、H/SiH流量比を5〜10、基板温度を200〜250℃、ガス圧力を133〜200Pa、VHFパワー密度を0.1〜0.3W/cmとする。このような製膜条件とすることで、本発明の非晶質系Si膜を2nm/secという高製膜速度で形成することができる。ここで、ノンドープ膜は、実際にはわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドープ元素(例えば、B(ボロン))をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。なお、内部電界強度分布の微調整を目的に、n型あるいはp型とする場合もある。
また、n型半導体層31cについては、従来の非晶質Si膜や結晶Si相を含む結晶化率60%以上の結晶質Si膜、あるいは本発明の非晶質系Si膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素(例えば、P(リン))濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはn型とする。なお製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるPHなどのガスに加えて、上述したように、CHなどのCを含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない膜形成ができるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもOを含むガスやNを含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
なお、接合特性をより改善するために、p型半導体層31aと光活性層31bとの間や光活性層31bとn型半導体層31cとの間に実質的にi型の非単結晶Si層や非単結晶Si1−x層をバッファー層として挿入してもよい(不図示)。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。
ここで、第1の半導体接合層31と次に述べる第2の半導体接合層32との接合部において良好な再結合特性を実現するためには(つまりオーミックコンタクト的な電気的接続特性を実現するためには)、前記第1の半導体接合層31に含まれるn型半導体層31cと後記第2の半導体接合層32に含まれるp型半導体層32aにおいて、少なくとも両者が接する部分では結晶化率を高めておくことが望ましい。このとき、結晶化率を60%以上とするとトンネル接合特性が得られ、良好な逆接合再結合特性を実現することができる。なお、該結晶質逆接合は、n型半導体層31cに続いて同一導電型の微結晶Si層を5〜30nm程度形成し、続いて逆導電型の微結晶Si層を5〜30nm程度形成し、続いてp型半導体層層32aを形成するというように、n型半導体層31cとp型半導体層32aとは独立に専用の結晶質Si層を挿入して形成するようにしてもよい(不図示)。
また、第1の半導体接合層31と第2の半導体接合層32の間のオーミックコンタクト的な電気的接続特性を実現させるためには、透明導電膜や薄い金属層あるいは薄いシリサイド層(シリコンと金属の合金層)を導電性中間層として挿入する方法も用いることができる(不図示)。ここで透明導電膜としては、スズ酸化物であるSnO、インジウム−スズ酸化物であるITO、亜鉛酸化物であるZnOなどを用いることができる。ここで透明導電膜を用いる場合は、該透明導電膜の存在によって光学的効果(反射および透過特性)をも導入することができるので高効率化の点で非常に優れている。すなわち、該透明導電膜厚を調整することによって、短波長光は該透明導電膜で反射させて第1の半導体接合層31に優先的に再入射させ、また長波長光は反射防止効果と同じ原理によって第2の半導体接合層32に優先的に閉じ込めることができ、光エネルギーのより効率的な光電変換が可能となるのである。また薄い金属層やシリサイド層を用いる場合は、第1の半導体接合層31と第2の半導体接合層32の間のオーミックコンタクトをより確実かつ簡便に歩留まりよく実現できる効果を期待できる。
次に、前記第1の半導体接合層31上に、第2の半導体接合層32を形成する。この第2の半導体接合層32は、p型半導体層32a、光活性層(実質的にi型の半導体層)32b、およびn型半導体層32cが順次積層されたpin接合からなる。
ここで、p型半導体層32aについては、従来の非晶質Si膜や結晶Si相を含む結晶化率60%以上の結晶質Si膜、あるいは本発明の非晶質系Si膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素(例えば、B(ボロン))濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはp型とする。なお、製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるBなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない窓層形成に非常に有効であるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
また、光活性層32bである実質的にi型の半導体層については、本発明の非晶質系Si膜を用いる場合は膜厚を0.5〜1μm程度の範囲で調節し、微結晶Si膜に代表される結晶質Si膜を用いる場合は膜厚を1〜3μm程度の範囲で調節する。このとき、本発明の非晶質系Si膜を用いる場合は、製膜条件を、プラズマ励起周波数を60MHz、触媒体温度を1600〜2000℃、H/SiH流量比を5〜10、基板温度を200〜250℃、ガス圧力を133〜200Pa、およびVHFパワー密度を0.1〜0.3W/cmとし、結晶質Si膜を用いる場合は、前記条件に対して、H/SiH流量比を5〜20、ガス圧力を200〜665Pa、およびVHFパワー密度を0.2〜0.5W/cmとする。このような製膜条件とすることで、本発明の非晶質系Si膜または結晶質Si膜を2nm/secという高製膜速度で形成することができる。ここで、ノンドープ膜は実際にはわずかにn型特性を示すのが通例であるので、この場合はp型化ドープ元素(例えば、B(ボロン))をわずかに含ませて実質的にi型となるように調整することができる。なお、内部電界強度分布の微調整を目的に、n型あるいはp型とする場合もある。また、該光活性層32bに前記結晶質Si膜を用いる場合は、膜構造として、(110)面配向の柱状結晶粒の集合体として製膜後の表面形状が光閉じ込めに適した自生的な凹凸構造となるようにするのが望ましい。
また、n型半導体層32cについては、従来の非晶質Si膜や結晶Si相を含む結晶化率60%以上の結晶質Si膜、あるいは本発明の非晶質系Si膜を用いることができる。膜厚は材料に応じて2〜100nm程度の範囲で調節する。ドーピング元素(例えば、P(リン))濃度については1×1018〜1×1021/cm程度として、実質的にはn型とする。なお製膜時に用いるSiH、H、およびドーピング用ガスであるPHなどのガスに加えてCHなどのC(炭素)を含むガスを適量混合すればSi1−x膜が得られ、光吸収ロスの少ない膜形成ができるとともに、開放電圧向上のための暗電流成分の低減にも有効である。また、C以外にもO(酸素)を含むガスやN(窒素)を含むガスを適量混合させることでも同様な効果を得ることができる。
なお、接合特性をより改善するために前記p型半導体層32aと光活性層32bの間や光活性層32bとn型半導体層32cの間に実質的にi型の非単結晶Si層をバッファー層として挿入してもよい(不図示)。このときの挿入層の厚さは0.5〜50nm程度とする。
次に、裏電極たる第2の電極4として、金属膜を形成する。この金属膜材料としては、導電特性およびSi媒質中での光反射特性に優れるAg(銀)を用いることが望ましいが、それに準じた特性を期待でき、より安価な材料であるAl(アルミニウム)を用いることも可能である。もちろんAgとAlの積層体や、AgとAlを含んだ合金材料を用いてもよい。また、第2の電極を2層構造として、半導体層側の第1層は前記AgあるいはAlを含んだ金属膜とし、該第1層上に積層される第2層は、Agよりも安価な金属材料層としてもよい。製膜方法としては、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、スクリーン印刷法、およびメッキ法などの公知の技術を使用できる。このとき膜厚は、0.1μm程度以上とする。
なお、該第2の電極4は、半導体層に接する面側から透明導電膜/金属膜の順に積層された構造とすることがより好ましい。このように半導体層と金属膜の間に透明導電膜を挿入することによって、金属膜成分が半導体層中に拡散して素子特性を劣化させる現象を抑えることができる。また該透明導電膜形成表面に適当な凹凸構造をもたせれば光が有効に散乱されるようになるので太陽電池の効率向上に有効な光閉じ込め効果を増進させることができる。ここで該透明導電膜材料としては、上述したようにSnO、ITO、ZnOなどを用いることができ、製膜方法としては、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スプレー法、およびゾルゲル法など公知の技術を用いることができる。
<素子特性>
以上の方法よって作製された素子の特性を表2に従来例と比較して示す。なお、表2に示した素子は、第2の半導体接合層32の光活性層32bを結晶質Siで形成した場合のものである。
Figure 0004780928
表2から分かるように、本発明膜1適用素子,本発明膜2適用素子において、高製膜速度で光活性層31bを形成したにもかかわらず高い初期変換効率を有しており、光劣化率も従来膜適用素子よりも極めて低く抑えられていることが判明した。このことから、本発明の非晶質系Si膜が高品質、かつ高光安定性を有していることが素子特性からも実証された。なお、表2において示した光照射後の特性は、AM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を、基板温度48℃において200時間連続照射した後に測定したものである。なおまた、光照射前の初期状態については、国際標準IEC1646に示されているアニーリング方法に従って実現することとする。
<<実施形態2>>
次に、実施形態1において述べた製膜条件のうち、VHFパワー密度と製膜ガス圧力をパラメーターにして、結晶化率が0〜65%の範囲に入る非晶質系Si半導体膜を数種類用意して、実施形態1において述べた手順で素子化して評価した結果を表3に示す。
Figure 0004780928
表3から分かるように、結晶化率が60%以下の膜において、光劣化率が小さくかつ比較的高い変換効率が得られているが、結晶化率が30%以下の膜にて特に高効率特性(初期効率が約11%以上)が得られている。なお、結晶化率が0%で光劣化率が高いのは、TA/TOピーク強度比およびTO帯半値幅が大きいからである。結晶化率が高い値になるほど、光吸収率の低下に基づくJsc(短絡電流密度)の低下とVoc(開放電圧)の低下とによって、効率の低下がみられ、特に、結晶化率が60%を超えると効率が大幅に低下することが判明した。また同表より、TA/TOピーク強度比が0.35以下、あるいはTO帯半値幅が65cm−1以下の膜では、従来よりも格段に小さい光劣化率が得られることが分かる(従来の10〜15%に対して約8%以下)。
<<実施形態3>>
次に、実施形態1において述べた製膜条件のうち、Cat−PECVD法における触媒体温度をパラメーターにして作製して、実施形態1において述べた同様の方法・装置を用いて、Si−H結合状態の存在割合および光劣化率を測定した結果を表4に示す。表中のSiH/HはSiHガスのHガスに対するガス流量比である。
Figure 0004780928
表4より、膜中のSi−H結合状態の存在割合が0.95以上(この例では本発明膜3の0.967、本発明膜4の0.997の2例しかないが、従来膜2の0.934と本発明膜3の0.967の中間(0.951)に変曲点があるものと思われる。)で光劣化率が格段に小さくなっていることがわかる。また同表によれば、Cat−PECVD法がこの制御に非常に好適な手法であることも示している。
<<光発電装置>>
上述した光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段からの発電電力を負荷へ供給するように成した光発電装置とすることができる。すなわち、上述した光電変換装置を1以上(複数の光電変換装置の場合、これらを直列、並列または直並列に)接続したものを発電手段として用い(複数の光電変換装置の場合、これらを直列、並列または直並列に接続したものを発電手段として用い)、この発電手段から直接、直流負荷へ発電電力を供給するようにしてもよい。
また、上述した発電手段の直流の発電電力をインバータなどの電力変換手段により発電電力を適当な交流電力に変換させるようにして、この変換した電力を商用電源系統や各種の電気機器などの交流負荷に供給することが可能な光発電装置を構成してもよい。
さらに、このような光発電装置を日当たりのよい建物の屋根や壁等に設置するなどして、各種態様の太陽光発電システム等の光発電装置として利用することも可能である。
<<一般化>>
以上の実施形態の説明では、本発明の非晶質系Si膜を、半導体多層膜中に半導体接合が2つあるタンデム型の太陽電池に対して適用した例について説明したが、本発明の非晶質系Si膜は、半導体接合が1つであるシングル接合型の太陽電池(不図示)や、半導体接合が3つあるトリプル接合型の太陽電池(不図示)、さらにはそれ以上の数の半導体接合を有する多接合型の太陽電池(不図示)においても適用することができ、同様の効果を得ることができる。
また、半導体接合層のpin接合が受光面側からpinの順で形成した太陽電池について説明したが、受光面側からnipの順で形成した太陽電池についても同様の効果が得られる。
また、光が基板側から入射するスーパーストレート型の太陽電池について説明したが、光が半導体膜側から入射するサブストレート型の太陽電池(不図示)に対しても同様の効果が得られる。なお、サブストレート型とした場合は、基板は透光性基板に限定されるものではなくステンレスなどの不透光性基板を用いてもよく、また第1の電極は金属材料とし、第2の電極は透光性材料としてもよい。
また、以上の実施形態の説明では、本発明の非晶質系Si膜を、PECVD法の一種であるCat−PECVD法を用いて形成した場合について述べたが、製法はこれに限るものではなく、製膜条件を調節することによる従来のPECVD法での形成可能性を排除するものではない。また同じく製膜条件を調節することによるCat−CVD法(触媒CVD法)等に代表されるPECVD法以外のCVD法での形成可能性を排除するものではない。
また、本発明の非晶質系Si膜は、太陽電池以外にも、フォトダイオードや、フォトトランジスタ、光センサ、等の光電変換装置一般に適用可能である。
<<まとめ>>
かくして、本発明の半導体薄膜によれば、少なくともシリコンおよび水素を含有し、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度ITOに対するTAモードの散乱ピーク強度ITAの比が0.35以下で、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が60%以下であるので、膜の短距離秩序構造が大幅に改善された非晶質系Si膜が得られ、それを用いる光電変換装置の高効率化、および光劣化率の低減を図ることができる。しかも、ラマン散乱分光法による簡便な方法および装置でその膜質を容易に管理することができる。
また、少なくともシリコンおよび水素を含有し、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が65cm−1以下であり、ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が60%以下であることにより、膜の短距離秩序構造が大幅に改善された非晶質系Si膜が得られ、それを用いる光電変換装置の高効率化、および光劣化率の低減を図ることができる。しかも、ラマン散乱分光法による簡便な方法および装置でその膜質を容易に管理することができる。
また、半導体薄膜中のSi−H結合状態の存在密度およびSi−H結合状態の存在密度の和に対するSi−H結合状態の存在密度の割合が0.95以上であることにより、Si−H結合に起因して生じる光劣化を大幅に低減することができ、それを用いる光電変換装置の高効率化、および光劣化率の低減を図ることができる。
また、本発明の光電変換装置によれば、光劣化率が低減された高効率の優れた太陽電池等の光電変換装置を提供できる。
さらに、本発明の光発電装置によれば、本発明の光電変換装置を発電手段として用い、この発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことより、高効率の光発電装置を提供することができる。
非晶質系シリコン膜のラマン散乱スペクトルを示す線図である。 本発明の半導体薄膜を光電変換装置に適用した一例を模式的に示す断面図である。
符号の説明
1:基板
2:第1の電極
3:半導体多層膜
31:第1の半導体接合層
31a:p型半導体層
31b:光活性層
31c:n型半導体層
32:第2の半導体接合層
32a:p型半導体層
32b:光活性層
32c:n型半導体層
4:第2の電極

Claims (5)

  1. p型半導体層、光活性層およびn型半導体層が順次積層されてなる第1および第2の半導体接合層を接合してなる半導体多層膜を有する光電変換装置であって、
    前記第1及び第2の半導体接合層の前記光活性層のうち、少なくとも一方がシリコンおよび水素を含有する非晶質系Si膜からなり、ラマン散乱スペクトルにより得られるTOモードの散乱ピーク強度に対するTAモードの散乱ピーク強度の比が0.35以下であり、かつ前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が0%以下であるとともに、ラマン散乱スペクトルより得られるTOモードの散乱ピークの半値幅が63〜65cm であり、かつSi−H結合状態の存在密度とSi−H 結合状態の存在密度との和に対するSi−H結合状態の存在密度の比が0.95以上であることを特徴とする光電変換装置。
  2. 前記光活性層は、光入射側から裏面側に向かって結晶化率が上昇していることを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
  3. 前記第1の半導体接合層のn型半導体層と前記第2の半導体接合層のp型半導体層とが接合する接合部分を有し、該接合部分は、前記ラマン散乱スペクトルによって定義される結晶化率が60%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光電変換装置。
  4. 前記第1の半導体接合層のn型半導体層と前記第2の半導体接合層のp型半導体層との間に、n型微結晶Si層を形成し、該微結晶Si層上にp型微結晶Si層を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光電変換装置。
  5. 請求項1乃至のいずれかに記載の光電変換装置を発電手段として用い、該発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成したことを特徴とする光発電装置。
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