JP4776719B2 - 磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は磁気記録媒体の製造方法に関する。
近年、ハードディスクドライブ(HDD)に組み込まれる磁気記録媒体において、隣接トラック間の干渉によりトラック密度の向上が妨げられるという問題が顕在化している。特に記録ヘッド磁界のフリンジ効果による書きにじみの低減は重要な技術課題である。
このような問題に対して、記録トラック間を物理的に分離するディスクリートトラック媒体(DTR媒体)が提案されている。DTR媒体では、記録時に隣接トラックの情報を消去するサイドイレース現象、再生時に隣接トラックの情報を読み出すサイドリード現象などを低減できるため、トラック密度を高めることができる。したがって、DTR媒体は高記録密度を提供しうる磁気記録媒体として期待されている。また、単一の磁性ドットを単一の記録ビットとして記録再生を行うビットパターンド媒体(BPM)は、さらなる高密度を実現しうる次世代技術として期待されている。以下、DTR媒体およびBPMを総称してパターンド媒体と表記する。
パターンド媒体の製造方法には、たとえばカーボンからなるマスク層をマスクとして磁気記録層をエッチングした後、マスク層を剥離する工程が含まれる。磁気記録層をエッチングするには、真空中でArなどのガスをプラズマ化して生じたイオンを電界加速してイオンビームエッチングを行ったり、反応性ガスをプラズマ化して反応性イオンエッチング(RIE)を行ったりする。カーボンからなるマスク層を剥離するには酸素ガスをプラズマ化してRIEを行う。
パターンド媒体の製造方法は多くの工程を含むので、各工程でプロセスダメージをできる限り抑えることによって磁気特性の劣化を防止することが好ましい。イオンビームエッチングのプロセスダメージを抑えるにはイオンの電界加速を小さくすることが考えられる。しかし、電界加速が小さいとエッチングレートが遅くなるため、量産性の観点から好ましくない。RIEでは、加工される試料表面がプラズマに直接曝されるため、本質的にプロセスダメージを抑えることが困難である。
従来、磁気記録層を加工した後に、酸化性ガスを除去する工程を追加して磁気特性の劣化を防止するパターンド媒体の製造方法が提案されている(特許文献1)。この方法では、水素を含む洗浄用ガスをプラズマ化してドライ洗浄を行い、酸化性ガスを除去するようにしている。
しかし、この方法には2つの問題がある。第1の問題は、水素ガスをプラズマ化してドライ洗浄する工程自体が試料にダメージを与えるということである。ガスをプラズマ化するためには、一般的に数百〜数千ワットという高エネルギーを印加する必要があるため、熱によるダメージが危惧されることに加え、イオン化したガスが試料表面に衝突してダメージを与える。第2の問題は、水素のような軽いガスが極めてプラズマ化しにくいことである。プラズマが不安定だとドライ洗浄の効果も不安定になり、プロセストレーランスが極めて悪くなる。水素ガスを安定にプラズマ化するためには、印加電力を大きくことが考えられるが、熱や水素イオンの衝突ダメージがさらに大きくなる。プラズマを安定化させるためには水素ガスに窒素ガスやアルゴンガスを混合することも行われるが、窒素ガスやアルゴンガスもプラズマ化するため、これらのイオンによるダメージが避けられない。
特許第4191096号
本発明の目的は、プロセスダメージを除去して磁気特性の劣化を防止できる磁気記録媒体(パターンド媒体)の製造方法を提供することにある。
本発明によれば、基板上に磁気記録層、エッチング保護層、および密着層を形成し、前記密着層上にレジストを塗付し、インプリントにより前記レジストに凹凸パターンを転写してレジストパターンを形成し、前記レジストパターンをマスクとして前記密着層をパターニングし、前記レジストパターンをマスクとしてエッチング保護層をパターニングし、前記密着層およびエッチング保護層のパターンをマスクとして磁気記録層をエッチングする際に、HeとN 2 の混合ガスを用い、前記磁気記録層の厚みの一部が残るようにエッチングするとともにその一部を磁性失活させることにより磁気記録層の凹凸パターンおよび磁気記録層の凹部の底部に残る非磁性層を形成し、かつ前記密着層のパターンを剥離し、前記エッチング保護層のパターンを酸素プラズマで剥離し、前記磁気記録層の凹凸パターンを水素ガス、フォーミングガス、一酸化炭素ガスからなる群より選択される非イオン化還元性ガスに曝し、カーボンからなる表面保護膜を成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法が提供される。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、プラズマ化していない(非イオン化)還元性ガスを用いて磁気記録層の凹凸パターンを処理するので、この工程ではプロセスダメージを導入することなく、それ以前に受けたプロセスダメージを除去して磁気特性の劣化を防止できる。
本発明の一実施形態に係るDTR媒体の周方向に沿う平面図。 本発明の他の実施形態に係るディスクリートビット型パターンド媒体の周方向に沿う平面図。 本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法を示す断面図。 本発明の方法を実施するための製造装置を示す構成図。 磁気記録層と非磁性層との境界領域の平面TEM像の模式図、および非磁性層に含まれる結晶粒の斜視図。 実施例1における磁気記録層の表面状態を示す断面図。 実施例2におけるプロセス圧力とプロセス時間との関係を示すグラフ。 実施例6において製造されたBPMについてMFMで観察された記録ビットの形状を示す平面図。
上述したように、従来は、磁気記録層を加工した後に酸化性ガスを除去して磁気特性の劣化を防止するためには、水素ガスをプラズマ化して利用することが必要であると考えられていた。これに対して、本発明者らは、プラズマ化していない非イオン化還元性ガスを用いても、磁気記録層の凹凸パターンがそれ以前に受けたプロセスダメージを除去できることを見出した。そして、非イオン化還元性ガスを用いる工程では、プラズマプロセスを用いた場合のように熱やイオン化したガスの試料表面への衝突による試料へのダメージを招くこともない。このため、磁気記録媒体の磁気特性の劣化を防止することができる。
本発明において、還元性ガスとして、たとえば水素(H2)、フォーミングガス(N2とH2の混合ガス:爆発限界以下になるようにH2をN2で希釈したガスであり、一般的にはH2濃度5%以下)、アンモニア(NH3)、一酸化炭素(CO)が挙げられる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1に、ディスクリートトラック媒体(DTR媒体)1の周方向に沿う平面図を示す。図1に示すように、媒体1の周方向に沿って、サーボ領域10と、データ領域20が交互に形成されている。サーボ領域10には、プリアンブル部11、アドレス部12、バースト部13が含まれる。データ領域20には互いに分断されたディスクリートトラック21が含まれる。
図2に、ビットパターンド媒体(BPM)2の周方向に沿う平面図を示す。図2に示すように、サーボ領域10は図1と同様な構成を有する。データ領域20には互いに分断された記録ビット22が含まれる。
本発明においては、図1に示されるDTR媒体または図2に示されるBPMのデータ領域の記録トラックまたは記録ビットに対応するパターンおよびサーボ領域の情報に対応するパターンが凹凸で形成されたマスター原盤、Niスタンパ、およびUVインプリント用モールド(樹脂スタンパ)を作製する。
まず、以下のようにしてUVインプリント用モールド(樹脂スタンパ)を作製する。6インチSi基板上に電子ビーム(EB)レジスト(日本ゼオン社製ZEP−520A)をスピンコートした後、200℃で3分間プリベークして、厚さ約50nmのレジスト層を形成する。EB描画装置を用いSi基板上のレジストに図1に示すパターンを直接描画する。現像液(日本ゼオン社製、ZED−50N)に90秒間浸漬してレジストを現像し、マスター原盤を作製する。このマスター原盤に、スパッタリングによりNi導電膜を成膜する。このマスター原盤をスルファミン酸ニッケルめっき液(昭和化学(株)製、NS−160)に浸漬し、90分間電鋳してNi層を堆積する。電鋳後、Ni層を剥離し、表面に付着したEBレジストを酸素RIEで除去し、Niスタンパを得る。このNiスタンパを射出成形機にセットし、射出成形により樹脂スタンパを作製する。成形材料としては、日本ゼオン製の環状オレフィンポリマーZEONOR 1060Rや、帝人化成製のポリカーボネートAD5503などを用いることができる。
次に、図3(a)〜(j)を参照しながら本発明に係る磁気記録媒体(パターンド媒体)の製造方法を説明する。
図3(a)に示すように、ガラス基板51上に、厚さ120nmのCoZrNbからなる軟磁性下地層、厚さ20nmのRuからなる配向制御用下地層、厚さ15nmのCoCrPt−SiO2からなる強磁性層52、厚さ15nmのカーボン(C)からなるエッチング保護層53、厚さ3〜5nmのCuからなる密着層54を順次成膜する。ここでは、簡略化のために、軟磁性下地層および配向制御層は図示していない。密着層54はその上に塗布されるUV硬化樹脂を密着させる作用を有する。密着層の材料としては、Cu、CoPt、Al、NiTa、Ta、Ti、Si、Cr、NiNbZrTiなどが挙げられる。
密着層54上に、UV硬化樹脂からなるレジスト55を厚さ50nmになるようにスピンコートする。UV硬化樹脂は、モノマー、オリゴマー、重合開始剤を含む。UV硬化樹脂の例として、モノマーとしてイソボルニルアクリレート(IBOA)85%、オリゴマーとしてポリウレタンジアクリレート(PUDA)10%、重合開始剤(ダロキュア1173)5%を含むものが挙げられる。
図3(b)に示すように、レジスト55に樹脂スタンパ61を押し付けた後、樹脂スタンパ61を通して紫外線を照射しレジスト55を硬化させることによりUVインプリントを行い、樹脂スタンパ61の凹凸パターンをレジスト55に転写する。その後、樹脂スタンパ61を取り除く。
図3(c)に示すように、酸素プラズマまたはArイオンビームにより、レジスト55の凹部に残っているインプリント残渣を除去して、密着層54の一部表面を露出させる。たとえば、RIE装置を用い、酸素を導入してチャンバー圧力を2mTorrとし、投入電力100Wで酸素プラズマを発生させ、15秒間エッチングする。
図3(d)に示すように、レジスト55のパターンをマスクとして密着層54をエッチングして密着層54のパターンを形成し、エッチング保護膜53の一部表面を露出させる。密着層にCuを用いた場合、Arガスを用いたイオンビームエッチングを行う。密着層にSiを用いた場合、CF4、CHF3などのフッ素系ガスを用いたRIEを行う。UV硬化樹脂はフッ素系ガスによるRIEを用いることができるので、密着層がSiである場合にはインプリント残渣の除去と密着層のエッチングをフッ素系ガスによるRIEで一括して行うこともできる。
図3(e)に示すように、レジスト55および密着層54のパターンをマスクとして、酸素プラズマによりエッチング保護膜53をエッチングしてエッチング保護膜53のパターンを形成し、磁気記録層52の一部表面を露出させる。また、エッチング保護膜53のエッチングと同時にレジスト55のパターンを除去する。たとえば、RIE装置を用い、酸素を導入してチャンバー圧力を2mTorrとし、投入電力100Wで酸素プラズマを発生させ、30秒間エッチングする。
図3(f)に示すように、エッチング保護膜53のパターンをマスクとして、磁気記録層52をHe+N2(混合比1:1)によりイオンビームエッチングする。たとえば、ECR(電子サイクロトロン共鳴)を用い、マイクロ波パワー800W、加速電圧1000Vで20秒間エッチングして、厚さ15nmの磁気記録層52に深さ10nmの凹部を形成する。このとき、磁気記録層52の凹部の底に、He+N2混合ガスプラズマへの曝露により磁気記録層を磁性失活させたものからなる厚さ5nmの非磁性層52aを形成する。また、磁気記録層52のエッチングと同時に、密着層(たとえばCu)のパターンを除去する。これは、密着層のパターンが残っていると、次の工程でエッチング保護膜を剥離できなくなるからである。
図3(g)に示すように、酸素プラズマにより、エッチング保護膜53のパターンを剥離する。たとえば、RIE装置を用い、酸素を導入してチャンバー圧力を100mTorrとし、投入電力100Wで酸素プラズマを発生させ、30秒間エッチングする。
図3(h)に示すように、磁気記録層52の凹凸パターンを非イオン化還元性ガスに曝す。たとえば、1.0×10-4Pa以下に保持した真空チャンバー内に試料を搬送し、100sccmの流量で水素ガスをフローさせてチャンバー圧力を1Paとし、30秒間保持する。このとき、水素ガスをプラズマ化することなく流す。
試料は、図3(h)までに、(c)工程で酸素プラズマ、(d)工程でArイオンビーム、(e)工程で酸素プラズマ、(f)工程でHe+N2混合ガスプラズマ、(g)工程で酸素プラズマにそれぞれ曝される。図3(h)の工程で、非イオン化還元性ガスに曝すことにより、これら工程で蓄積されたプロセスダメージを除去することができる。特に、(g)工程で酸素プラズマに曝されて形成された試料表面の酸化膜を還元して除去することができる。
図3(i)に示すように、CVD(化学気相堆積法)により、全面に厚さ4nmのカーボンからなる表面保護膜56を形成する。この表面保護膜56上に潤滑剤(図示せず)を塗布することにより、本発明の一実施形態に係るパターンド媒体を製造する。
図4に、本発明に係るパターンド媒体の製造に用いられる製造装置の一例を示す。図3(b)のUVインプリント工程まで経た試料はロードチャンバー101からロードされる。試料はキャリアに載せられて真空一貫で各チャンバーに移動して所定のプロセスが行われる。RIEチャンバー102では(c)工程の酸素プラズマによるレジスト残渣除去が行われる。IBEチャンバー103では(d)工程のArイオンビームによる密着層のエッチングが行われる。RIEチャンバー104では(e)工程の酸素プラズマによるエッチング保護膜のエッチングが行われる。IBEチャンバー105では(f)工程のHe+N2混合ガスプラズマによる磁気記録層のエッチングおよび磁性失活が行われる。RIEチャンバー106では(g)工程の酸素プラズマによるエッチング保護膜パターンの除去が行われる。ガスフローチャンバー107では、(h)工程の非イオン化還元性ガスによるプロセスダメージ除去が行われる。ガスフローチャンバー107は、プラズマを発生させる必要がないので、ガス導入のためのマスフローコントローラーと真空引きを行うターボポンプのみを備えている。ヒートチャンバー108は、次のCVDチャンバーへの搬送の前に試料の予熱が行われる。CVDチャンバー109では、表面保護膜の成膜が行われる。こうして各工程を完了した試料はアンロードチャンバー110からアンロードされる。上記の各チャンバーの間にブランクチャンバーを設けているのは、1つのチャンバーから隣接するチャンバーへプロセスガスが流入しないようにするためである。
ところで、パターンド媒体と記録再生ヘッドとを組み込んだHDD装置において、記録再生ヘッドは約10nmの浮上量で動作する。記録再生ヘッドを安定に浮上させるためには、パターンド媒体の表面の凹凸が10nm以下であることが望ましい。そこで、物理的に分離された記録トラックまたは記録ビット間の凹部に非磁性体を埋め込み、エッチバックして表面を平坦化することが実施されている。非磁性体の埋め込みは、たとえばバイアススパッタリングにより行われる。バイアススパッタリングは、パターンド媒体に直接バイアスパワーを印加するため、試料に熱によるダメージを与えるおそれがある。エッチバックによる平坦化は、たとえばイオンビームエッチングより行われる。このため、非磁性体埋め込みおよび平坦化という工程が加わると、さらにプロセスダメージが蓄積される。
これに対して、上記実施形態のように、He+N2混合ガスを用いたイオンビームエッチングにより、たとえば厚さ15nmの磁気記録層の厚みの一部が残るようにエッチングしてたとえば深さ10nmの凹部を形成するとともに凹部に残る一部の磁気記録層を磁性失活させて厚さ5nmの非磁性層を形成すると、物理的な凹部の深さは10nmであるが、磁気的な凹部の深さは15nmである。したがって、非磁性体の埋め込みおよび平坦化を行うことなく、記録再生ヘッドの浮上性を確保しつつ、サイドイレース現象、サイドリード現象を抑制できるパターンド媒体を製造できる。
ところが、He+N2混合ガスのイオンビームに曝していない磁気記録層と、磁気記録層をHe+N2混合ガスのイオンビームに曝して磁性失活させて形成された非磁性層とでは表面性が異なり、それぞれの層の上に成膜されるカーボン膜の膜質も異なることがわかってきた。
磁気記録層上にCVDにより成膜されたカーボン膜と、磁気記録層をHe+N2混合ガスのイオンビームに曝して磁性失活させて形成された非磁性層上にCVDにより成膜されたカーボン膜とをそれぞれラマン分光法で比べた。ラマンスペクトルから、1390cm-1付近のD−bandのピーク強度Idと、1555cm-1付近のG−bandのピーク強度Igとの比Id/Igを求めた。D−bandは構造の乱れに起因するピークなので、Id/Igが大きいほどカーボン膜の構造が乱れ、密度が小さいことを示す。
その結果、非磁性層上に成膜されたカーボン膜のほうが、磁気記録層上に成膜されたカーボン膜よりも、Id/Igが若干大きかった。これは、He+N2混合ガスのイオンビームに曝して磁性失活させて形成された非磁性層上のカーボン膜の密度が小さく、耐久性が劣ることを意味している。なお、磁気記録層の凹部に形成された非磁性層上に成膜されたカーボン膜は、記録再生ヘッドに直接接触しないので、通常使用には問題がない。ただし、高温多湿環境下での長期信頼性を確保する観点からは、非磁性層上に成膜されるカーボン膜も密度が大きく強固であることが望ましい。
上記実施形態のように、磁気記録層をHe+N2混合ガスによりイオンビームエッチングおよび磁性失活して非磁性層を形成した後、非イオン化水素ガスに曝し、その後にカーボン膜を成膜すると、良好なカーボン膜が得られることがわかった。これは、以下のような理由によると考えられる。
図5(a)にHe+N2混合ガスのイオンビームに曝されていない磁気記録層とHe+N2混合ガスのイオンビームに曝された非磁性層との境界領域の平面TEM像の模式図を示す。図5(b)に非磁性層に含まれる結晶粒の斜視図を示す。図5(a)および(b)に示したように、He+N2混合ガスのイオンビームに曝された非磁性層の表面は、カラム状の粒子71に孔部72が形成された多孔形状になっていることがわかった。多孔形状で表面積の大きくなった非磁性層は、非イオン化水素ガスに曝されたときに、水素を吸着しやすいと考えられる。このように水素を吸着した非磁性層上にCVDによりカーボン膜を成膜すると、いわゆる水素化カーボン膜が形成される。水素化カーボン膜は高硬度を有することが知られている。したがって、上記実施形態では、非磁性層上に成膜されたカーボン膜も強固で長期信頼性に優れている。
次に、本発明の実施形態において用いられる好適な材料および個々の工程の詳細について説明する。
[基板]
基板としては、たとえばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが用いられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。基板としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
[軟磁性下地層]
軟磁性下地層(SUL)は、垂直磁磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、ヘッド側へ還流させるというヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性下地層には、Fe、NiまたはCoを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金たとえばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金たとえばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金たとえばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金たとえばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金たとえばFeZrNなどを挙げることができる。Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。軟磁性下地層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Co合金には80at%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により製膜した場合にアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、たとえばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。
軟磁性下地層の下に、軟磁性下地層の結晶性の向上または基板との密着性の向上のために、さらに下地層を設けてもよい。こうした下地層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。軟磁性下地層と記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けてもよい。中間層は、軟磁性下地層と記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御する、という2つの作用を有する。中間層の材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させてもよい。また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、Ru層の上下に磁性膜(たとえばCo)または非磁性膜(たとえばPt)を積層してもよい。
[磁気記録層]
垂直磁気記録層としては、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、さらに酸化物を含む材料を用いることが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Crを含んでいてもよい。酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンが好適である。垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)を得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。
垂直磁気記録層の酸化物含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましく、5mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。垂直磁気記録層の酸化物含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を分離させ、微細化させることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号ノイズ比(SN比)が得られなくなるため好ましくない。
垂直磁気記録層のCr含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましく、10at%以上14at%以下であることがより好ましい。Cr含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。
垂直磁気記録層のPt含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁性層に必要なKuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得られないため好ましくない。
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進し、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi、ならびにPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することもできる。
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
[密着層]
密着層はUV硬化樹脂を密着させるための層である。密着層は、O2またはO3ガスに耐性がある、Al、Ag、Au、Co、Cr、Cu、Ni、Pd、Pt、Si、Ta、Tiなどを主成分とする金属が好ましく、厚さは1〜15nmが好ましい。
[UV硬化樹脂]
UV硬化樹脂(2P剤)は、モノマー、オリゴマー、重合開始剤を含む組成物であり、溶媒は含まない。
モノマーとしては下記のようなものが用いられる。
・アクリレート類
ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート(BPEDA)
ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート(DPEHA)
ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート(DPEHPA)
ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)
エトキシレイテッドトリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)
グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)
4−ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)
イソボルニルアクリレート(IBOA)
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)
テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)
トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)
・メタクリレート類
テトラエチレングリコールジメタクリルレート(4EDMA)
アルキルメタクリレート(AKMA)
アリルメタクリレート(AMA)
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート(BDMA)
n−ブチルメタクリレート(BMA)
ベンジルメタクリレート(BZMA)
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)
ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)
2−エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)
グリシジルメタクリレート(GMA)
1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)
イソボルニルメタクリレート(IBMA)
ラウリルメタクリレート(LMA)
フェノキシエチルメタクリレート(PEMA)
t−ブチルメタクリレート(TBMA)
テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)
トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPMA)
特に、イソボルニルアクリレート(IBOA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPDA)、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(TITA)などは粘度を10cP以下にすることができるため良好である。
オリゴマーとしては、たとえばウレタンアクリレート系材料、たとえばポリウレタンジアクリレート(PUDA)やポリウレタンヘキサアクリレート(PUHA)、その他、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、フッ化ポリメチルメタクリレート(PMMA−F)、ポリカーボネートジアクリエート、フッ化ポリカーボネートメチルメタクリレート(PMMA−PC−F)などが用いられる。
重合開始剤としては、チバガイギー社製イルガキュア184およびチバガイギー社製ダロキュア1173などが用いられる。
[残渣除去]
RIE(反応性イオンエッチング)により、レジストの凹部の底に残存している残渣を除去する。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマを生成可能なICP(inductively coupled plasma)が好適であるが、ECR(electron cyclotron resonance)プラズマや、一般的な並行平板型RIE装置を用いてもよい。UV硬化樹脂(2P剤)からなるレジストの残渣除去には酸素ガスを用いるのが好ましい。
[磁性失活エッチング]
記録再生ヘッドの浮上性を考慮すると凹凸の深さを10nm以下にすることが好ましいが、信号出力を確保するために磁気記録層の厚さが15nm程度必要となる。そこで、磁気記録層の厚さ15nmのうち、10nmを物理的に除去し残りの5nmを磁気的に失活させるようにすれば、記録ヘッドの浮上性を確保しつつサイドイレースおよびサイドリードを抑制できるので、DTR媒体およびBPMを製造できる。厚さ5nmの磁気記録層を磁気的に失活させる方法として、HeやN2イオンを曝露する方法が用いられる。Heイオンを曝露した場合、曝露時間に従ってヒステリシスループの角形を維持したままHc(保磁力)が減少し、やがてヒステリシスがなくなる(磁性失活)。この場合、Heガスの曝露時間が不十分であると、角形のよい(Hn(反転核形成磁界)がある)ヒステリシスが保持される。しかし、このことは、凹部底部の磁性層に記録能力があることを意味し、DTR媒体またはBPMの利点が失われる。一方、N2イオンを曝露した場合、曝露時間に従ってヒステリシスループの角形が劣化して、やがてヒステリシスがなくなる。この場合、Hnは急激に劣化するが、Hcが減少しにくい。しかし、N2ガス曝露時間が不十分であると、凹部底部にHcの大きい磁性層が残ることになり、DTR媒体またはBPMの利点が失われる。そこで、Heガスによる磁性失活とN2ガスによる磁性失活の挙動が異なることに着目し、He+N2混合ガスを用いることにより、磁気記録層をエッチングしながら効率的に凹部底部の磁気記録層の磁性を失活することができる。
[エッチング保護膜剥離]
磁気記録層の磁性を失活させた後、カーボンからなるエッチング保護膜を剥離する。エッチング保護膜は、酸素プラズマ処理を行うことで容易に剥離できる。
[表面保護膜形成および後処理]
カーボンからなる表面保護膜は、凹凸へのカバレッジをよくするためにCVDで成膜することが望ましいが、スパッタ法または真空蒸着法で成膜してもよい。CVD法によれば、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。表面保護膜の厚さが2nm未満だとカバレッジが悪くなり、10nmを超えるとヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。
表面保護膜上に塗布される潤滑剤としては、たとえばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いることができる。
[実施例1]
図3(a)〜(i)に示した方法によりDTR媒体を作製した。非イオン化水素ガスに曝す工程は、試料を搬送して1.0×10-4Pa以下の高真空に保持した真空チャンバー内に水素ガスを100sccmで流入してチャンバー圧力を1Paに設定して30秒間行った。
製造されたDTR媒体をドライブに組み込み、オントラックのBER(ビットエラーレート)を評価したところ−7乗であった。これは、10000000回に1回エラーが発生することを意味する。一方、非イオン化水素ガスに曝す工程を行わない通常の方法で製造されたDTR媒体のBERは−6乗であった。このように、非イオン化水素ガスに曝す工程を行うことによって、BERが約1桁向上することがわかった。高温多湿(65℃、湿度80%)の環境下で720時間ドライブを動作させたが、BERの劣化は見られなかった。
次に、ドライブ評価に用いたDTR媒体について、EELS(electron energy loss spectrum)により酸素の存在を確認した。
非イオン化水素ガスに曝す工程を行わない通常の方法で製造されたDTR媒体では、磁気記録層52の表面および側壁で酸素が検出されたことから、図6(a)に示すように、磁気記録層52の表面に酸化膜81が形成されていることがわかった。
非イオン化水素ガスに曝す工程を含む本発明の方法で製造されたDTR媒体では酸素が検出されず、図6(b)に示すように磁気記録層52の表面に酸化膜が形成されていないことがわかった。上記のように、非イオン化水素ガスに曝す工程を含む本発明の方法で製造されたDTR媒体が良好なBERを示す理由は、磁気記録層52の表面の酸化ダメージが除去されたことにより、磁気特性の劣化が防止されたことによると考えられる。
[実施例2]
非イオン化水素ガスに曝す工程での条件として、チャンバー圧力(プロセス圧力)およびプロセス時間について検討した。
図7に、所定のチャンバー圧力の非イオン化水素ガス雰囲気で処理を行い、XPS(X線光電子分光)で磁気記録層表面の酸素ピークがなくなる時間、すなわち酸化ダメージを除去できるプロセス時間を調べた結果を示す。
酸化ダメージを除去するのに必要なプロセス時間は、チャンバー圧力0.02Paの場合に600秒であり、チャンバー圧力1Pa以上の場合に30秒以下であることがわかった。これは、チャンバー圧力が高いほど水素原子濃度が高いため、酸素ダメージの除去効果が高いことを示している。
チャンバー圧力0.02Paおよびプロセス時間600秒で製造されたDTR媒体をドライブに組み込み、BERを評価したところ−6.5乗であった。非イオン化水素ガスに曝す工程を行わない通常の方法で製造されたDTR媒体のBERが−6乗であるので、BERは約0.5桁向上することがわかった。チャンバー圧力0.05Pa以上および図7に示されるプロセス時間で製造されたDTR媒体のBERは−7乗であった。チャンバー圧力が0.02Paでは、チャンバー内の水素原子の絶対数が少ないため磁気記録層の内部への水素の侵入が制限され、磁気記録層内部での還元が進まないと考えられる。また、量産性を考慮した場合、一工程は5分(300秒)以下が好ましいので、非イオン化水素ガスに曝す工程は0.05Pa以上のチャンバー圧力で実施するのが好適である。
一方、10Paを超えるチャンバー圧力で非イオン化水素ガスに曝す工程を行った場合、磁気記録層の表面に水素原子が過剰に付着し、次の工程で成膜される表面保護膜は塗布される潤滑剤のボンド率が高いものになることがわかった。
ここで、表面保護膜に塗布された潤滑剤は、表面保護膜に付着したボンディング層と、表面保護膜に付着していないフリー層に分けられる。潤滑剤全量のうちボンディング層の割合をボンド率という。ボンド率が高いほど、潤滑剤全量に対するフリー層の割合が小さいことを意味する。ボンド率は、塗布したままの初期状態の潤滑剤の膜厚と、溶剤でフリー層を洗い流した後の潤滑剤の膜厚との比で表される。
一般的なDTR媒体では、ボンド率が70〜80%の範囲、たとえば約75%が信頼性の観点から好ましいとされている。ボンド率が70%未満の場合、フリー層の割合は多いが、ボンディング層の割合が小さいため、媒体表面の潤滑剤によるカバレッジが不十分になり、ドライブの信頼性が低下する。ポンド率が80%を超えると、潤滑剤全量に対するフリー層の割合が小さくなり、ヘッドが媒体と接触して媒体表面から潤滑剤が失われたときに、他の領域から補給される潤滑剤の量が少なくなるため、ドライブの信頼性が低下する。
磁気記録層を非イオン化水素ガスに曝す工程でのチャンバー圧力と、磁気記録層上に成膜された表面保護膜上に塗布された潤滑剤のボンド率との関係は、チャンバー圧力が10Pa以下の場合には約75%であり、チャンバー圧力が10Paを超える場合はボンド率が約85%であった。このように、チャンバー圧力が10Paを超えると、表面保護膜上に塗布された潤滑剤のボンド率が高くなりすぎてドライブの信頼性が低下する。
以上の結果を考慮すると、非イオン化水素ガスに曝す工程でのチャンバー圧力は0.05Pa以上10Pa以下が好適である。
[実施例3]
非イオン化水素ガスに曝す工程での条件として、水素ガス流量について検討した。
水素ガス流量1sccmでチャンバー圧力を0.05Paに設定し、実施例2と同様にして25枚のDTR媒体を製造した。XPSによりDTR媒体表面の酸素ピークを観測した結果、25枚全ての媒体で酸素ピークは観測されなかった。
水素ガス流量0.5sccmでチャンバー圧力を0.05Paに調整し、実施例2と同様にして25枚のDTR媒体を製造した。XPSによりDTR媒体表面の酸素ピークを観測した結果、3枚の媒体で酸素ピークが観測された。これは、プロセスの不安定さに起因するものと考えられる。チャンバー圧力(プロセス圧力)は、水素ガス流量と真空ポンプの排気能力を調整して制御する。水素ガス流量1sccm未満でチャンバー圧力0.05Paに設定するには、コンダクタンスバルブを閉める方向に微調整して真空ポンプの排気能力を下げるため、雰囲気が安定しなくなる。よって、水素ガス流量が1sccm未満と低い場合にはプロセスが不安定になり不良品が発生する。
水素ガス流量200sccm超でチャンバー圧力0.05Paに調整し、実施例2と同様にして25枚のDTR媒体を製造した。XPSによりDTR媒体表面の酸素ピークを観測した結果、25枚全ての媒体で酸素ピークは観測されなかった。表面保護膜上に塗布された潤滑剤のボンド率を測定したところ85%であった。実施例2で述べたように、ボンド率が高すぎると信頼性の低下に繋がるため好ましくない。
水素ガス流量200sccm以下でチャンバー圧力0.05Paに調整して製造されたDTR媒では、表面保護膜上に塗布された潤滑剤のボンド率が75%であり、信頼性の点で望ましい。
以上の結果を考慮すると、非イオン化水素ガスに曝す工程での水素ガス流量は1sccm以上200sccm以下が好適である。
[実施例4]
非イオン化還元性ガスに曝す工程で、水素ガスの代わりに、フォーミングガス、一酸化炭素(CO)、またはアンモニア(NH3)を用いてDTR媒体を作製した。
製造されたDTR媒体をドライブに組み込み、オントラックのBERを評価したところ、−7乗であった。高温多湿(65℃、湿度80%)の環境下で720時間ドライブを動作させたが、BERの劣化は見られなかった。ドライブ評価に用いたDTR媒体についてEELSにより酸素の存在を確認したが、酸素は検出されなかった。このように、還元性ガスとしてフォーミングガス、CO、またはNH3を用いても、水素ガスを用いた場合と同様の効果が得られることがわかった。
フォーミングガスは爆発限界以下になるようにH2をN2で希釈したガス(H2濃度5%以下)であり、安全性が高いので水素ガスの代替に使われることが多い。しかし、たとえば特許第4191096号に記載されているプラズマプロセスで水素ガスの代わりに用いると、N2ガスもプラズマでイオン化するので、活性なN2イオンが媒体表面と反応してダメージを与える。
本発明では還元性ガスとしてフォーミングガスを用いる場合でもプラズマ化しないので、N2ガスは不活性なままプロセスチャンバーに滞留し、媒体表面にダメージを与えない。このように、本発明で非イオン化還元性ガスを用いる工程は、従来の方法では問題が生じるフォーミングガスを用いることができるため、安全性の面で利点がある。
なお、CO、NH3は有毒なので、これらの還元性ガスを用いる場合には、製造装置に除害装置を設ける。また、媒体表面に残留ガスがあると危険なため、水洗工程を行って、残留ガスを完全に除去する。
[実施例5]
非磁性層上の表面保護膜の耐久性を調べるため、基板上に成膜した磁気記録層のパターニングを行うことなく、以下のようにして基板全面に磁気記録層を磁性失活させたものからなる非磁性層を有する試料を作製し、記録再生ヘッドによる摺動試験を行った。摺動試験は試料表面にヘッドを擦り付けて実施するので、表面保護膜の硬度と耐摩耗性を評価する指標となる。
基板上に磁気記録層を成膜し、He+N2混合ガスのイオンビームを照射し、エッチング保護膜の剥離工程と同様に酸素プラズマに曝した。1.0×10-4Pa以下に保持した真空チャンバー内に試料を搬送し、100sccmの流量で水素ガスをフローさせてチャンバー圧力を1Paとし、30秒間保持した。その後、表面保護膜を形成した。作製した試料について摺動試験を行ったところ、720時間経過後も試料表面に傷が生じることはなかった。
比較のために、非イオン化水素ガスに曝す工程を行わない以外は、上記と同様にして比較例の試料を作製した。作製した比較例の試料について摺動試験を行ったところ、600時間経過後に試料表面に傷が生じた。
一般的な垂直磁気記録媒体は、720時間の摺動試験で傷が生じることはない。He+N2混合ガスによるイオンビームに曝した後、非イオン化水素ガスに曝す工程を行わなかった比較例の試料は、600時間で傷が生じているので、表面保護膜の硬度と耐摩耗性が若干劣っていることがわかる。これに対して、He+N2混合ガスによるイオンビームに曝した後、非イオン化水素ガスに曝す工程を行った試料は、720時間の摺動試験に耐えることができたので、表面保護膜の硬度と耐摩耗性の劣化が抑制されていることがわかる。
なお、パターンド媒体の場合、He+N2混合ガスのイオンビームに曝されて非磁性層が形成される領域は磁気記録層の凹部の底なので、非磁性層上に成膜される表面保護膜に記録再生ヘッドが衝突することはない。このため、非磁性層上に成膜される表面保護膜の膜質が若干劣化していても問題ないといえる。ただし、高温多湿という過酷な環境での信頼性を確保するには、非イオン化水素ガスに曝す工程は有用である。
[実施例6]
実施例1と同様の方法でBPMを製造した。製造したBPMのビットサイズは60nm×20nmであった。BPMはBERの定義ができないため、信号振幅強度を調べた。磁気記録層を一方向に着磁した媒体をドライブへ組み込み再生波形を観察したところ、信号振幅強度200mVが得られた。記録再生ヘッドの位置決め精度は6nmであった。このように本発明の製造方法によりBPMも製造できることがわかった。製造されたBPMをMFM(磁気力顕微鏡)で観察したところ、図8(a)に示すように、長方形状の記録ビットが見られた。
比較のために、非イオン化水素ガスに曝す工程を行わずにBPMを製造した。製造された比較例のBPMをMFM(磁気力顕微鏡)で観察したところ、図8(b)に示すように、楕円形状の記録ビットが見られた。これは、物理的には記録ビットの形状は長方形であるが、酸化ダメージのために記録ビットのコーナー部の磁性が失われ、磁気的な記録ビットの形状は楕円形に見えるためであると考えられる。
非イオン化水素ガスに曝す工程を行うことによって記録ビットの酸化ダメージが還元され、図8(a)のように物理形状と磁気形状が一致するようになる。すなわち、非イオン化水素ガスに曝す工程を行うことにより、記録ビットの酸化ダメージをキャンセルできる。
1…DTR媒体、2…BPM、10…サーボ領域、11…プリアンブル部、12…アドレス部、13…バースト部、20…データ領域、21…ディスクリートトラック、22…記録ビット、51…ガラス基板、52…磁気記録層、52a…非記録層、53…エッチング保護層、54…密着層、55…レジスト、56…表面保護膜、61…樹脂モールド、71…粒子、72…孔部、81…酸化膜、91…記録ビット、101…ロードチャンバー、102…RIEチャンバー、103…IBEチャンバー、104…RIEチャンバー、105…IBEチャンバー、106…RIEチャンバー、107…ガスフローチャンバー、108…ヒートチャンバー、109…CVDチャンバー、110…アンロードチャンバー。

Claims (1)

  1. 基板上に磁気記録層、エッチング保護層、および密着層を形成し、
    前記密着層上にレジストを塗付し、
    インプリントにより前記レジストに凹凸パターンを転写してレジストパターンを形成し、
    前記レジストパターンをマスクとして前記密着層をパターニングし、
    前記レジストパターンをマスクとしてエッチング保護層をパターニングし、
    前記密着層およびエッチング保護層のパターンをマスクとして磁気記録層をエッチングする際に、HeとN 2 の混合ガスを用い、前記磁気記録層の厚みの一部が残るようにエッチングするとともにその一部を磁性失活させることにより磁気記録層の凹凸パターンおよび磁気記録層の凹部の底部に残る非磁性層を形成し、かつ前記密着層のパターンを剥離し、
    前記エッチング保護層のパターンを酸素プラズマで剥離し、
    前記磁気記録層の凹凸パターンを水素ガス、フォーミングガス、一酸化炭素ガスからなる群より選択される非イオン化還元性ガスに曝し、
    カーボンからなる表面保護膜を成膜する
    ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
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