JP4773023B2 - インスリン前駆体及びインスリン前駆体類似体の製造方法 - Google Patents
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Description
背景:
酵母生物は、細胞外機能を有する多くのタンパク質を生成する。そのようなタンパク質は、分泌されたタンパク質として言及される。それらの分泌されたタンパク質は、小胞体の膜を通して、発現された生成物の効果的方向(トランスロケーション)を確保するプレ−ペプチドを含む前駆体又はフレ−フォームとして細胞の内部でまず発現される。
【0002】
通常シグナルペプチドと称するプレ−ペプチドは一般的に、トランスロケーションの間、所望する生成物から切断される。分泌経路にいったん侵入すると、タンパク質はゴルジ体に輸送される。ゴルジ体から、タンパク質は、区画、例えば液胞又は細胞膜に誘導する異なった経路に進むか、又はそれは外部培地に分泌される細胞から経路を定められ得る(Pfefferなど. (1987) Ann. Rev. Biochem. 56: 829-852)。
【0003】
インスリンは、膵臓のβ−細胞により分泌されるポリペプチドホルモンであり、そして2つの鎖間ジスルフィド架橋により連結される2種のポリペプチド鎖A及びBから成る。
前記ホルモンは、配位において、24個のアミノ酸のプレペプチド、及びそれに続く86個のアミノ酸を含むプロインスリンから成る一本鎖前駆体プロインスリン(プレプロインスリン)として合成される:プレペプチド−B−ArgArg−C−LysArg−A(ここでCは31個のアミノ酸の連結パプチドである)。Arg−Arg及びLys−Argは、A及びB鎖から連結ペプチドの切断のための切断部位である。
【0004】
3種の主要方法が、微生物におけるヒトインスリンの生成のために使用されて来た。2種の方法は、細胞質における大きな融合タンパク質の発見を有するE.コリ(Frankなど. (1981) in Peptide: Proceedings of 7th American Peptide Chemistry Symposium (Rich & Gross, eds.), Pierce Chemical Co., Rockford, IL. pp. 729-739)、又は細胞周辺腔中への分泌を可能にするためへのシグナルペプチドの使用(Chanなど. (1981) PNAS 78: 5401-5404)を包含する。
【0005】
3番目の方法は、培地中にインスリン前駆体を分泌するためにサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)を利用する(thimなど. (1986) PNAS 83: 6766-6770)。従来技術は、E.コリ又はサッカロミセス・セレビシアエのいずれかにおいて発現される、限定された数のインスリン前駆体を開示する(アメリカ特許第5,962,267号、WO95/16708号、ヨーロッパ特許第0055945号、ヨーロパ特許第0163529号、ヨーロッパ特許第0347845号及びヨーロッパ特許第0741188号を参照のこと)。
【0006】
円二色性(CD)が、タンパク質安定性、及び分子の相対的安定性を決定するために使用される。240nm以下で観察されるCDは、ペプチドアミド発色団によるものであり、そしてタンパク質二次構造を推定するために使用され得る(Johnson (1988) Ann. Rev. Biophys. Chem. 17: 145-166)。インスリンのスペクトルは、220及び209nmでの最小、203nm近くで負から正へのクロスオーバー、及び195nmでの最大により特徴づけられる。変性に基づいて、240−218nm範囲における負のCDは徐々に減少し、このことは、タンパク質の変性を付随する、指図された二次構造の損失と一致する。結果的に、インスリン前駆体の折りたたみ安定性は、添加される変性剤、例えば塩酸グアニジン(GuHCl)の機能として二次構造の損失を測定することによって定量化され得る(例えば、Pace (1975) CRC Crit. Rev. Biochem. 3:1-43を参照のこと)。
【0007】
発明の要約:
本発明は、形質転換された微生物、特に酵母において発現される場合、インスリン前駆体分子及びインスリン前駆体類似体分子において高められた生成収率及び/又は高められた安定性を付与する新規連結ペプチド(C−ペプチド)を特徴とする。次に、そのようなインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体が、1又は複数の適切な、良く知られている転換段階により、インスリン又はインスリン類似体に転換され得る。
【0008】
本発明の連結ペプチドは、少なくとも1つの芳香族アミノ酸残基Phe、Trp又はTyrを含み、そして一般的に、フランキング二塩基性切断部位を包含する、35個のアミノ酸から成る天然のヒトCペプチドよりも短いであろう。従って、新規連結ペプチドは一般的に、15個よりも多くない長さのアミノ酸残基及び好ましくは、9個よりも多くないアミノ酸残基のものであろう。典型的には、新規連結ペプチドは、7個まで、又は5個までのアミノ酸残基、及び好ましくは4個よりも多くないアミノ酸残基のものであろう。
【0009】
天然のヒトインスリン分子におけるように、連結ペプチドは、A及びB鎖からの連結ペプチドのインビトロ切断を可能にするそのC及びN末端で切断部位を含むであろう。そのような切断部位は、当業界において知られているいずれかの便利な切断部位、例えば臭化シアンにより切断できるMet;トリプシン又はトリプシン様プロテアーゼ、アクロモバクター・リチカス(Acromobactor lyticus)プロテアーゼ又はカルボキシペプチダーゼプロテアーゼにより切断できる、単一の塩基性アミノ酸残基又は1対の塩基性アミノ酸残基(Lys又はArg)であり得る。A−鎖からの連続ペプチドの切断を可能にする切断部位は好ましくは、単一の塩基性アミノ酸残基Lys又はArg、好ましくはLysである。
【0010】
他方では、B鎖からの連続ペプチドの切断は、desB30インスリン前駆体又はdesB30インスリン前駆体類似体を生ぜしめる、B鎖における天然のLysB29アミノ酸残基での切断により可能にされ得る。次に所望するB30アミノ酸残基が、良く知られているインビトロ酵素方法により付加され得る。
1つの態様においては、連結ペプチドは、2種の隣接する塩基性アミノ酸残基(Lys, Arg)を含まないであろう。この態様においては、A−鎖からの切断は、A−鎖のN−末端に位置する単一のLys又はArg、及びB−鎖における位置B29におえける天然のLysで達成され得る。
【0011】
連結ペプチドは、1以上であるが、しかし好ましくは5個よりも多くない芳香族アミノ酸残基を含んで成る。芳香族アミノ酸残基は、同じであっても又は異なっていても良い。連結ペプチドは好ましくは、3個よりも多くの芳香族アミノ酸を包含せず、そして最も好ましくは、単一の芳香族アミノ酸残基を包含するであろう。
【0012】
本発明の1つの態様においては、連結ペプチドにおける芳香族アミノ酸残基の1つは、A鎖に隣接する切断部のすぐN−末端側に存在する。さらに、芳香族アミノ酸残基の1つは好ましくは、前記B鎖における位置B11、 B12又はB26におけるアミノ酸残基の少なくとも1つから5Å未満離れて位置する。1つの態様においては、A鎖に隣接する切断部位のすぐN−末端側の芳香族アミノ酸は、前記B鎖における位置B11、 B12又はB26におけるアミノ酸残基の少なくとも1つから5Å未満離れて存在する。
【0013】
インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体は、溶液のおいて折りたたみ安定性を有することによって特徴づけられる。本発明の前駆体は、連結ペプチドに芳香族アミノ酸残基を包含しないインスリン又はインスリン類似体に比較して、高められたCmid安定性を有するであろう。従って、Cmid安定性は、約5.5MのGuHClよりも高く、典型的には約6.0のGuHClよりも高く、そしてより典型的には、約6.5MのGuHClよりも高い。
【0014】
従って、1つの観点においては、本発明は、A及びB鎖から切断できる連結ペプチド(C−ペプチド)を含んで成るインスリン前駆体又は又はインスリン前駆体類似に関し、ここで前記連結ペプチドが少なくとも1つの芳香族アミノ酸残基、及び前記A−鎖と前記連結ペプチドとの間のペプチド結合の切断を可能にする切断部位を含んで成り、そして1つの芳香族アミノ酸残基が前記切断部位のすぐN−末端側に存在する。
【0015】
もう1つの観点においては、本発明は、A及びB鎖から切断でき、そしてその少なくとも1つの残基が芳香族アミノ酸残基である9個までの長さのアミノ酸残基から成る、連結ペプチド(C−ペプチド)を含んで成るインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に関する。
さらなる観点においては、本発明は、A及びB鎖から切断できる連結ペプチド(C−ペプチド)を含んで成るインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に関し、ここで前記連結ペプチドが前記B鎖における位置B11、 B12又はB26におけるアミノ酸残基の少なくとも1つから5Å未満離れて存在する1つの芳香族アミノ酸残基を含んで成る。
【0016】
さらなる観点においては、本発明は、少なくとも1つの芳香族アミノ酸残基を含んで成り、そしてA及びB鎖から切断できる連結ペプチド(C−ペプチド)を含んで成るインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に関し、ここで前記インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体は、前記連結ペプチドに芳香族アミノ酸残基を包含しないインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に比較して、溶液において高められたCmid安定性を示す。
高められた活性は、当業者に知られており、そして下記に記載される種々の方法により決定される。1つの態様においては、高められた安定性は、インスリン前駆体分子(Cmid)の1/2最大の変性を達成するために必要とされる塩酸グアニジン(GuHCl)の濃度のCD決定により測定される。
【0017】
さらなる観点においては、本発明は、下記式:
B(1−27)−X2−X3−X1−Y−A(1−21)
[式中、X1は、その1つのアミノ酸残基がYのすぐN−末端側の芳香族アミノ酸残基である1〜15個のアミノ酸残基のペプチド配列であり;
X2は、前記B鎖の位置28でのPro, Asp, Lys又はIleの1つであり;
X3は、前記B鎖の位置29でのPro, Lys, Ala, Arg又はPro−Thrの1つであり;
そして
Yは、Lys又はArgである]
により表されるインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に関する。
【0018】
1つの態様においては、X1におけるアミノ酸残基の合計数は、1−10, 1−9, 1−8, 1−7, 1−6, 1−5又は1−4個の長さのアミノ酸残基であろう。もう1つの特定の態様においては、X1は1−3個のアミノ酸残基、及び好ましくは1−2個のアミノ酸残基である。X1におけるアミノ酸残基は、いずれかのコードできるアミノ酸残基であり得、そして同じであっても又は異なっていても良いが、但し、その残基の1つは、YのすぐN−末端側の芳香族アミノ酸残基である。
【0019】
さらなる観点においては、本発明は下記式:
B(1−27)−X2−X3−X1−Y−A(1−21)
[式中、X1は、その1つの残基が、前記B鎖における位置B11、 B12又はB26におけるアミノ酸残基の少なくとも1つから5Å未満離れて存在する芳香族アミノ酸残基である、1〜15個のアミノ酸残基のペプチド配列であり;
X2は、前記B鎖の位置28でのPro, Asp, Lys又はIleの1つであり;
X3は、前記B鎖の位置29でのPro, Lys, Ala, Arg又はPro−Thrの1つであり;
そして
Yは、Lys又はArgである]
により表されるインスリン前駆体又はインスリン前駆体。類似体に関する。
1つの態様においては、X1におけるアミノ酸残基の数は、1−9, 1−5又は1−4である。もう1つの態様においては、アミノ酸残基の数は、1−3又は1−2である。
【0020】
もう1つの観点においては、本発明は、下記式:
B(1−27)−X2−X3−X1−Y−A(1−21)
[式中、X1は、少なくとも1つのアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基である1〜8個のアミノ酸残基のペプチド配列であり;
X2は、前記B鎖の位置28でのPro, Asp, Lys又はIleの1つであり;
X3は、前記B鎖の位置29でのPro, Lys, Ala, Arg又はPro−Thrの1つであり;
そして
Yは、Lys又はArgである]
により表されるインスリン前駆体又はインスリン前駆体。類似体に関する。
【0021】
1つの態様においては、X1におけるアミノ酸残基の合計数は、1〜7, 1〜6, 1〜5,又は1〜4個の長さのアミノ酸残基であろう。もう1つの特定の態様においては、X1は1〜3個のアミノ酸残基、及び好ましくは1〜2個のアミノ酸残基である。X1におけるアミノ酸残基は、いずれかのコードできるアミノ酸残基であり得、そして同じであっても又は異なっていても良いが、但し、X1におけるその少なくと1つの残基の1つのアミノ酸残基は、芳香族アミノ酸残基である。
【0022】
上記式において、X1は、同じであっても又は異なっていても良い5個までの芳香族アミノ酸残基を含んで成る。特定の態様においては、X1は、同じであっても又は異なっていても良い3個までの芳香族アミン残基を含んで成り、そして好ましくは、わずか1つの芳香族アミノ酸残基を含むであろう。芳香族アミノ酸残基は、Trp, Phe又はTyr、好ましくはPhe又はTrpである。
【0023】
1つの態様においては、X2はAspであり、そしてX3はLysである。この態様は、B鎖の位置B28にAspを含むインスリン前駆体類似体(この後、“AspB28IP”と称する)を包含する。もう1つの態様においては、X2はLysであり、そしてX3はProである。さらなる態様においては、配列X1−Yは、(a)Met−Trp−Lys,(b)Ala−Trp−Lys、(C)Val−Trp−Lys、(d)Ile−Trp−Lys、(e)Leu−Trp−Lys、(f)Glu−Glu−Phe−Lys(配列番号15)、(g)Glu−Phe−Lys、(h)Glu−Trp−Lys、(i)Ser−Trp−Lys、(j)Thr−Trp−Lys、(k)Arg−Trp−Lys、(l)Glu−Met−Trp−Lys(配列番号1)、(m)Gln−Met−Trp−Lys(配列番号2)及び(n)Asp−Trp−Lysから成る群から選択される。
【0024】
もう1つの態様においては、X2はProであり、X3はLysであり、そしてX1はその1つがTrp又はPheである1〜2個のアミノ酸残基である。
もう1つの態様のおいては、X2はLysであり、X3はPro−Thrであり、そしてX1はその1つがTrp, Tyr又はPheである15個までのアミノ酸残基から成る。この態様においては、X1はC−末端での切断部位、例えば一塩基性又はニ塩基性(Lys, Arg)切断部位を含むであろう。
【0025】
本発明はまた、本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオイド配列に関する。さらなる観点においては、本発明は、そのようなポリヌクレオチド配列を含むベクター、及びそのようなポリヌクレオチド又はベクターを含む宿主細胞に関する。
もう1つの観点においては、本発明は、インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体の製造方法に関し、ここで前記方法は、(i)本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド配列を含んで成る宿主細胞を、前記前駆体又は前駆体類似体の発現のための適切な条件下で培養し;そして(ii)発現された前駆体又は前駆体類似体を単離することを含んで成る。
【0026】
さらにもう1つの観点においては、本発明は、インスリン又はインスリン類似体の製造方法に関し、ここで前記方法は、(i) 本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド配列を含んで成る宿主細胞を、前記前駆体又は前駆体類似体の発現のための適切な条件下で培養し;(ii)前記培養培地から前記前駆体又は前駆体類似体を単離し;そして(iii)前記前駆体又は前駆体類似体を、インビボでの化学又は酵母転換によりインスリン又はインスリン類似体に転換することを含んで成る。
本発明の1つの観点においては、宿主細胞は酵母細胞であり、そしてさらなる観点においは、酵母細胞は、サッカロミセス属から選択される。さらなる観点においては、酵母宿主細胞は、サッカロミセス・セレビシアエ種から選択される。
【0027】
特定の記載:
略語及び命名法:
“連結ペプチド”又は“C−ペプチド”とは、一本鎖プレプロインスリン−様分子のB−C−Aポリペプチド配列の連結成分“C”を意味する。特に、天然のインスリン鎖においては、C−ペプチドは、B鎖の位置30及びA鎖の位置1を連結する。“ミニC−ペプチド”又は“連結ペプチド”、例えば本明細書に記載されるそれらのものは、A1にB29又はB30を連結し、そして天然のC−ペプチドのものとは配列及び長さにおいて異なる。
【0028】
“IP”とは、desB30鎖が連結ペプチドを通してインスリンのA鎖に連結されている一本鎖インスリン前駆体を意味する。一本鎖インスリン前駆体は、ヒトインスリンにおけるように、正しく位置決定されたジスルフィド架橋(3個)を含むであろう。
【0029】
“desB30”又は“B(1−29)”とは、B30アミノ酸残基を欠いている天然のインスリンB鎖を意味し、“A(1−21)”とは、天然のインスリンA鎖を意味し、“B(1−27)”とはB28, B29及びB30アミノ酸残基を欠いている天然のB鎖を意味し;“AspB28IP”とは、B−鎖の位置28でアスパラギン酸を有し、そしてC−ペプチド(B29はA1に連結される)を有さない一本鎖インスリン前駆体を意味する。ミニC−ペプチド及びそのアミノ酸配列は、IPに続いて括弧により3文字アミノ酸コードで示され;従って、“AspB28IP(MetTrpLys)”とは、B−鎖の位置28でのアスパラギン酸、及びA1にB29を連結する配列Met−Trp−Lysを有するミニC−ペプチドを有する一本鎖インスリン前駆体を意味する。
【0030】
“インスリン前駆体”とは、1又は複数の置換化学及び/又は酵素工程により、ヒトインスリンに転換され得る一本鎖ポリペプチドを意味する。
“インスリン前駆体類似体”とは、ヒトインスリン分子に比較して、A及び/又はBアミノ酸鎖の1又は複数の突然変異、置換、欠失及び付加を有するインスリン前駆体分子を意味する。インスリン類似体は好ましくは、1又は複数の存在するアミノ酸残基、好ましくはそれらの1,2又は3個がもう1つのコードできるアミノ酸残基により置換されているようなものである。1つの態様においては、本発明は、天然のヒトインスリン分子に比較して、変更されたB鎖の位置28を有する類似体分子を含んで成る。この態様においては、位置28は、天然のPro残基からAsp, Lys又はIleの1つに修飾される。
【0031】
好ましい態様においては、位置B28での天然のPro残基が、Asp残基に修飾される。もう1つの態様においては、位置B29でのLysがProに修飾され;また、位置A21でのAsnがAla, Gln, Glu, Gly, His, Ile, Leu, Met, Ser, Thr, Trp, Tyr又はVal、特にGly, Ala, Ser又はThr及び好ましくはGlyに修飾され得る。さらに、位置B3でのAsnはLysに修飾され得る。インスリン前駆体類似体のさらなる例は、des(B30) ヒトインスリン、インスリン類似体(Phe81が欠失されている);インスリン類似体(A−鎖及び/又はB−鎖がN−末端延長を有する)、及びインスリン類似体(A−鎖及び/又はB−鎖がC−末端延長を有する)である。従って、1又は2個のArgが位置B1に付加され得る。
【0032】
用語“〜のすぐN−末端側”とは、アミノ酸残基又はペプチド配列が、ペプチド結合により、もう1つのアミノ酸残基又はアミノ酸配列のN−末端に、そのC−末端で直接的に連結されている情況を意味する。
本明細書においては、用語“インスリンの機能的類似体”及び同様のものは、生来のヒトインスリンタンパク質に類似する生物学的作用を有するポリペプチドを意味する。
【0033】
2種のアミノ酸残基間のA5Åよりも短い距離とは、第1のアミノ酸におけるいずれかの原子と第2アミノ酸におけるいずれかの原子との間の5Å以下の最短の原子間距離を意味する。原子距離は、NMR(Withrich, K., 1986, NMR of Proteins and Nucleic Acids, Wilesy, New York)又はX−線結晶学(Drenth, H., 1994, Principles of Protein X-ray crystallography, Springer Verlay Berlin)のいずれかにより決定される分子の立体構造から測定される。1つのアミノ酸からもう1つのアミン酸までの距離は、第1のアミン酸におけるいずれかの原子と、特にことわらない限り、第2のアミノ酸におけるいずれかの原子との間の最短の原子間距離として測定される。
【0034】
本発明は、酵母宿主細胞において生成収率を有意に高める、インスリンB鎖の位置29及びインスリンA鎖の位置1を連結する新規ミニC−ペプチドを特徴とする。用語“有意に高められた生成”、“高められた発酵収率”及び同様のものは、ミニCペプチドに芳香族アミノ酸残基を有さないインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体の収量に比較して、培養物上清液に存在するインスリン前駆体分子又はインスリン前駆体類似体分子の分泌される量の上昇を意味する。“高められた”発酵収率は、対照よりも絶対的に高く;好ましくは、その上昇率は、対照(AspB28IP)レベルよりも50%又はそれ以上高く;さらにより好ましくは、その上昇率は、対照レベルよりも100%又はそれ以上高い。
【0035】
用語“安定性の上昇”とは、例えばミニC−ペプチドに芳香族アミン酸残基を有さないインスリン前駆体類似体(例えば、AspB28IP)について得られる高められた値に比較して、溶液におけるCmidのその高められた値を意味する。用語“Cmid”とは、上昇する濃度の変性剤の関数としてのインスリン分子の遠−UV円二色性を測定するアッセイにおいてタンパク質集団の半分を変性するために必要なGuHClの濃度を意味する。
【0036】
“POT”とは、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces Pombe)トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子であり、そして“TPl1”はS.セレビシアエトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子である。
“リーダー”とは、プレ−ペプチド(シグナルペプチド)及びプロ−ペプチドから成るアミノ酸配列を意味する。
【0037】
用語“シグナルペプチド”とは、タンパク質の前駆体形上にN−末端配列として存在するプレ−ペプチドを意味する。シグナルペプチドの機能は、小胞体中への異種タンパク質のトランスロケーションの促進を可能にすることである。シグナルペプチドは通常、この工程の間、切断される。シグナルペプチドは、タンパク質を生成する酵母生物に対して異種であっても又はは同種であっても良い。
【0038】
本発明のDNA構造体と共に使用され得る多くのシグナルペプチドは、酵母アスパラギン酸プロテアーゼ3(YAP3)シグナルペプチド又はいずれかの機能的類似体(Egel−Mitaniなど。(1990)YEAST 6:127-137及びアメリカ特許第5,726,038号)、及びMFα1遺伝子のα−因子シグナル(Thomer (1981) in The Molecular of the Yeast Saccharomyces cerevisiae, Strathemなど., eds., pp. 143-180, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 及びアメリカ特許第4,870,000号)を包含する。
【0039】
用語“プロ−ペプチド”とは、小胞体から、ゴルジ体及びさらに、培養培地中への分泌(すなわち、細胞壁を通して、又は少なくとも細胞を通して酵母細胞の細胞周腔中へのポリペプチドの輸送)のための分泌小胞への発現されたポリペプチドの方向づけを可能にすることである。プロ−ペプチドは、酵母α−因子プロ−ペプチドであり得る(アメリカ特許第4,546,082号及び第4,870,008号を参照のこと)。他方では、プロ−ペプチドは、天然において見出されないプロ−ペプチドと言われる合成プロ−ペプチドであり得る。適切な合成プロ−ペプチドは、アメリカ特許第5,395,922号、第5,795,746号及び第5,162,498号、及びWO98/32867号に開示されるものである。プロ−ペプチドは好ましくは、C−末端でエンドペプチダーゼプロセッシング部位、例えばLys−Arg配列又はいずれかのその機能的類似体を含むであろう。
【0040】
本発明のポリヌクレオチド配列は、確立された標準方法、例えば“Beaucageなど. (1981) Tetrahedron Letters 22: 1859-1869により記載されるホスホアミジット方法、又はMattesなど. (1984) EMBO Journal 3: 801-805により記載される方法により、合成的に調製され得る。ホスホアミジット方法によれば、オリゴヌクレオチドが、例えば自動DNA合成機により合成され、精製され、二本鎖化され、そして合成DNA構造体に連結される。DNA構造体を調製する現在の好ましい手段は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってである。
【0041】
本発明のポリヌクレオチド配列はまた、混合されたゲノム、cDNA及び合成起原のものであり得る。例えば、リーダーペプチドをコードするゲノム又はcDNA配列は、A及びB鎖をコードするゲノム又はcDNA配列に連結され、この後、DNA配列は、良く知られている方法に従って相同組換えのための所望するアミノ酸配列をコードする合成オリゴヌクレオチドを挿入し、又は好ましくは、適切なオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより所望する配列を生成することによって、1つの部位で修飾され得る。
【0042】
本発明は、選択された微生物又は宿主細胞において複製することができ、そして本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド配列を担持するベクターを包含する。組換えベクターは、自律的に複製するベクター、すなわちその複製が染色体複製に無関係である染色体外実在物として存在するベクター、例えばプラスミド、染色体外要素、ミニ−染色体又は人工染色体であり得る。ベクターは、自己複製を確保するためのいずれかの手段を含むことができる。
【0043】
他方では、ベクターは、宿主細胞中に導入される場合、ゲノム中に組み込まれ、そしてそれが組み込まれた染色体と共に複製されるベクターである。さらに、単一のベクター又はプラスミド、又は宿主細胞のゲノム中に導入される全DNAを共に含む複数のベクター、又はトランスポゾンが使用され得る。ベクターは線状又は閉環されたプラスミドであり得、そして好ましくは、宿主細胞ゲノム中へのベクターの安定した組み込み、又はゲノムに無関係に細胞におけるベクターの自律的複数を可能にする要素を含むであろう。
【0044】
好ましい態様においては、組換え発現ベクターは、酵母において複製することができる。酵母においてベクターの複製を可能にする配列の例は、酵母プラスミド2μm複製遺伝子REP1−3及び複製の起点である。
【0045】
本発明のベクターは好ましくは、形質転換された細胞の容易な選択を可能にする1又は複数の選択マーカーを含む。選択マーカーは、遺伝子であり、その生成物は殺生物剤又はウィルス耐性、重金属に対する耐性、原栄養性〜栄養要求性、及び同様のものを提供する。細菌選択マーカーの例は、バチルス・サブチリス(Bacillus subtillis)、又はバチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis) からのdal遺伝子、又は抗生物質耐性、例えばアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール又はテトラサイクリン耐性を付与するマーカーである。
【0046】
糸状菌宿主細胞への使用のための選択マーカーは、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、pyrG(オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ)及びtrpC(アントラニル酸シンターゼ)を包含する。酵母宿主細胞のための適切なマーカーは、ADE2, HIS3, LEU2, LYS2, MET3, TRP1及びURA3である。酵母のための好ましい選択マーカーは、シゾサッカロミセス・ポンベTPI遺伝子(Russell(1985)Gene 40: 125-130)である。
【0047】
ベクターにおいては、ポリヌクレオチド配列は、適切なプロモーター配列に操作可能的に連結される。プロモーターは、変異、切断されたハイブリッドプロモーターを包含する選択の宿主細胞において転写活性を示すいずれかの核酸配列であり得、そして宿主細胞に対して相同又は異種の細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から得られる。
【0048】
細菌宿主細胞において転写を方向づけるための適切なプロモーターの例は、E.コリlacオペロン、ストレプトミセス・コエリカラー(Streptamyces coelicolor) アガラーゼ遺伝子(dagA)、バチルス・サブチリスレバンスクラーゼ遺伝子(sacB)、バチルス・リケニホルミスα−アミラーゼ遺伝子(amyL)、バチルス・アテアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)マルトゲン性アミラーゼ遺伝子(amyM)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)α−アミラーゼ遺伝子(amyQ)、及びバチルス・リケニホルミスペニシラーゼ遺伝子(penP)から得られるプロモーターである。
【0049】
糸状菌宿主細胞における転写を方向づけるための適切なプロモーターの例は、アスペルギラス・オリザエ(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロティナーゼ、アスペルギラス・ニガー(Aspergillus niger)中性のα−アミラーゼ及びアスペルギラス・ニガー酸性安定性α−アミラーゼのための遺伝子から得られるプロモーターである。酵母宿主においては、有用なプロモーターは、サッカロミセス・セレビシアエMa1, TP1, ADH又はPGKプロモーターである。
【0050】
本発明のポリヌクレオチド構造体はまた、適切なターミネーターに操作可能的に連結されるであろう。酵母においては、適切なターミネーターは、TPIターミネーター(Alberなど. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1: 419-434)である。
【0051】
それぞれ、本発明のポリヌクレオチド配列、プロモーター及びターミネーターを連結し、そして酵母複製のために必要な情報を含む適切な酵母ベクター中にそれらを挿入するために使用される方法は、当業者に良く知られている。ベクターは、本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードする全DNAを含むDNA構造体をまず調製し、そして続いて、適切な発現ベクター中にこのフラグメントを挿入することによって、又は個々の要素(例えば、シグナル、プロ−ペプチド、ミニC−ペプチド、A及びB鎖)についての遺伝子情報を含むDNAフラグメントを連続的に挿入し、続いて連結することにより構成され得る。
【0052】
本発明はまた、本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド配列を含んで成る組換え宿主細胞に関する。そのようなポリヌクレオチド配列を含んで成るベクターは、宿主細胞中に導入され、その結果、前記ベクターは、前記のように、染色体挿入体として、又は自己複製する染色体外ベクターとして維持される。用語“宿主細胞”とは、複数の間に生じる突然変異誘発のために、親細胞に同一でない、親細胞のいずれかの子孫を包含する。宿主細胞の選択は、ポリペプチドをコードする遺伝子及びその源にかなりの程度、依存するであろう。
【0053】
宿主細胞は、単細胞微生物、例えば原核生物、又は非単細胞微生物、例えば真核酸細胞であり得る。有用な単細胞は、細菌細胞、例えばグラム陽性細菌、例えばバチルス細胞、ストレプトミセス細胞、又はグラム陰性細菌、例えばE.コリ及びシュードモナルsp. を包含するが、但しそれらだけには限定されない。真核細胞は、哺乳類、昆虫、植物又は菌類細胞であり得る。好ましい態様においては、宿主細胞は酵母細胞である。本発明の方法に使用される酵母生物は、培養に基づいて、多量の本発明のインスリン前駆体及びインスリン前駆体類似体を生成するいずれか適切な酵母生物であり得る。
【0054】
適切な酵母生物の例は、酵母種サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロミセス・ラバラム(Saccharomyces uvarum)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula pdymorpha)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、ピチア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピチア・クルイベリ(Pichia kluyveri)、ヤロウイア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)、カンジダsp. (Candida sp.)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、カンジダ・カカオイ(Candida cacaoi)、ゲオトリチウムsp. (Geotrichum sp.) 及びゲオトリチウム・フェルメンタンス(Geotrichum fermentans)から選択された菌株である。
【0055】
酵母細胞の形質転換は、例えばそれ自体知られている態様で、プロトプラスト形成、続いての形質転換によりもたらされ得る。細胞を培養するために使用される培地は、酵母生物を増殖するために適切ないずれかの従来の培地であり得る。分泌される本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体(その有意な割合、正しくプロセッシングされた形で培地に存在するであろう)は、遠心分離、濾過、又はイオン交換マトリックス逆相吸収マトリックスによるインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体の捕獲による培地からの酵母細胞の分離、塩、例えば硫酸アンモニウムによる上清液又は濾液中のタンパク質成分の沈殿、続いて、種々のクロマトグラフィー方法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、親和製クロマトグラフィー又は同様のものによる精製を包含する従来の方法により培地から回収され得る。
【0056】
本発明のインスリン前駆体及びインスリン前駆体類似体は、アメリカ特許第5,395,922号及びヨーロッパ特許第765,395A号(両特許は引用により本明細書に組み込まれる)に記載されるように、N−末端アミノ酸延長により発現され得る。この延長は、発酵の間、本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体に安定して連結し、酵母プロテアーゼ、例えばDPAPのタンパク質加水分解活性に対して前記インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体のN−末端を保護することが見出された。
【0057】
インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体上でのN−末端延長の存在はまた、タンパク質の化学的プロセッシングの間、N−末端アミノ基の保護として作用することができ、すなわちそれは、BOC(t−ブチル−オキシカルボニル)又は類似する保護基のための置換基として作用することができる。N−末端延長は、塩基性アミノ酸(例えば、Lys)に対して特異的であるタンパク質加水分解酵素により、回収されたインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体から除去され、その結果、末端延長がLys残基で切断される。そのようなタンパク質加水分解酵素の例は、トリプシン又はアクロモバクター・リチカス(Achromobacter lyticus)プロテアーゼである。
【0058】
培養培地への分泌及び回収の後、本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体は、インスリン又は所望するインスリン類似体を付与する可能性あるN−末端延長配列及びミニC−ペプチドを除去するために種々のインビボ方法にゆだねられるであろう。そのような方法は、アメリカ特許第4,343,898号又は第4,916,212号明細書、又はResearch Disclosure, September 1994/487 (それらの開示は、引用により本明細書に組み込まれる) に記載されるように、L−トレオニンエステルの存在下でのトリプシン又はアクロモバクター・リチカスプロテアーゼによる酵素転換、続いて、塩基又は酸加水分解によるインスリン又はインスリン類似体のトレオニンエステルのインスリン又はインスリン類似体への転換を包含する。
【0059】
下記に記載されるように、合成C−ペプチドを有するインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体は、少なくとも1つの芳香族アミノ酸を用いて構成された(例1)。本発明のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド配列を含むサッカロミセス・セレビシアエ発現プラスミドが、PCRにより構成され、そしてS.セレビシアエ宿主細胞を形質転換するために使用された。発現される生成物、例えばインスリン類似体の量は、適切な対照レベルの%、例えばミニC−ペプチドを欠いている発現されるAspB28IP(表1)及び芳香族アミノ酸残基を有さないミニC−ペプチドを有するAspB28IP(AlaAlalys)(表2)の量として測定された。本発明の新規C−ペプチドは、7倍レベルまで高められた収率を付与した。
【0060】
本発明は、本発明の範囲を制限しない次の例により、さらに詳細に記載される。添加図面は、本発明の明細書及び記載の不可欠の部分として見なされる。引用されるすべての文献は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0061】
実施例
一般的な方法:
すべての発現プラスミドは、S.セレビシアエにおけるプラスミド選択及び安定化のためにシズサッカロミセス・ポンペトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(POT)を含むことによって特徴づけられる。ヨーロッパ特許第171,142号に記載されるそれらのタイプに類似するC−POTタイプのものである。プラスミドはまた、S.セレビシアエトリオースリン酸イソメラーゼプロモーター及びターミネーターを含む。
【0062】
それらの配列は、リーダー及びインスリン前駆体生成物の融合タンパク質をコードするEcoRI−XbaIフラグメントの配列を除くすべての配列であるので、プラスミドpKFN1003 (WO90/100075号に記載される)におけるその対応する配列に類似する。異なった融合タンパク質を発現するために、pKFN1003のEcoRI−XbaIフラグメントを、興味あるリーダー−インスリン前駆体−融合体をコードするEcoRI−XbaIフラグメントにより単純に置換する。そのようなEcoRI−XbaIフラグメントを、標準方法に従って、合成及びオリゴヌクレオチド及びPCRを用いて合成することができる。
【0063】
酵母形質転換体を、宿主株S.セレビシアエ株MT663の形質転換により調製した(MATa/MATα Pep4-3/pep4-3 HIS4/his4 tpi::LEU2/tpi::LEU2 Cir+)。酵母株MT663を、WO92/11378号の出願に関連して、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen寄託し、そして寄託番号DSM6278号を得た。
【0064】
MT663を600nmで0.6のO.D.まで、YPGaL (1%Bacto酵母抽出物、2%Bactoペプトン、2%ガラクトース、1%ラクテート) 上で増殖した。培養物100mlを、遠心分離により収穫し、水10mlにより洗浄し、再び遠心分離し、そして1.2Mのソルビトール、25mMのNa2EDTA(pH=8.0)及び6.7mg/mlのジチオトレイトールを含む溶液10mlに再懸濁した。その懸濁液を、30℃で15分間インキュベートし、遠心分離し、そして細胞を、1.2Mのソルビトール、10mMのNa2EDTA、0.1Mのクエン酸ナトリウム、pH=5.8及び2mgのNovozym(商標)234を含む溶液10mlに再懸濁した。
【0065】
その懸濁液を30℃で30分間インキュベートし、細胞を遠心分離により集め、1.2Mのソルビトール10ml及びCAS(1.2Mのソルビトール、10mMのCaCl2、10mMのトリスHCl(トリス=トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)pH=7.5)10mlにより洗浄し、そしてCAS2mlに再懸濁した。形質転換のために、CAS−懸濁された細胞1mlを、約0.1mgのプラスミドDNAと共に混合し、そして室温で15分間、放置した。(20%ポリエチレングリコール4000、10mMのCaCl2、10mMのトリスHCl、pH=7.5)の溶液1mlを添加し、そしてその混合物を室温でさらに30分間、放置した。その混合物を遠心分離し、そしてペレットを、SOS(1.2Mのソルビトール、33%(v/v)のYPD、6.7mMのCaCl2)0.1mlに再懸濁し、そして30℃で2時間インキュベートした。
【0066】
次に、その懸濁液を遠心分離し、そしてペレットを、1.2Mのソルビトール0.5mlに再懸濁した。次に、52℃でのトッピング寒天(1.2Mのソルビトール及び2.5%ソルビトールを含む、Shermanなど. (1982) Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor LaboratoryのSC培地)6mlを添加し、そしてその懸濁液を、同じ寒天−固化された、ソルビトール含有培地を含むプレートの上部に注いだ。
発現プラスミドにより形質転換されたS. セレビシアエ株MT663を、30℃で72時間、YPDにおいて増殖した。培養物上清液におけるインスリン前駆体収量の定量化を、外部標準としてヒトインスリンを用いて逆相HPLC分析により行った(Snel & Damgaard (1988) Proinsulin heterogenity in pigs. Horm. Metabol. Res. 20:476-488)。
【0067】
例1.芳香族アミノ酸を有する合成 C −ペプチドの構成
プレペプチド(シグナルペプチド)及びプロペプチドから成るリーダー配列により結合されるAspB28IPから成る融合タンパク質をコードする合成遺伝子を、標準の条件(Sambrookなど. (1989) Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press)下で、及びE.H.F.ポリメラーゼ(Boehringer Mannheim GmbH, Sandhoefer Strasse 115, Mannheim, Germany)を用いて、PCRにより構成した。得られるDNAフラグメントを単離し、そしてエンドヌクレアーゼにより消化し、そしてGene Cleanキット(Bio101 Inc., La Jolla, CA, USA)を用いて精製した。
【0068】
標準方法をDNA連結のために使用し、そしてE.コリ細胞の形質転換を、CaCl2方法(Sambrookなど. (1989) など. (1989) 前記)により行った。プラスミドを、QIAGENカラム(QIAGEN, Hilden, GermanY)を用いて、形質転換されたE.コリ細胞から精製した。ヌクレオチド配列を、鋳型として精製された二本鎖プラスミドDNAを用いて、ALF Pharmacia Biotech DNA配列決定システムにより決定した。PCRのためのオリゴヌクレオチドプライマーを、DNA技法(Arhus,Denmark)から得た。
【0069】
S.セレビシアエにおけるAspB28IPの分泌発現を、Thimなど. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 6770-6770に記載のようにして、S.セレビシアエ株MT663及び2μmの基本酵母発現ベクターCPOT(図1を参照のこと)を用いて行った。酵母発現ベクターは、S.セレビシアエにおけるプラスミド選択及び安定化のためのシゾサッカロミセス・ポンベトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子を含む。さらに、S.セレビシアエトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TP11)プロモーター及びターミネーターを、リーダー−AspB28IP融合タンパク質をコードする組換え遺伝子の転写開始及び終結のために使用する。AspB28IPの分泌を、種々の既知の酵母リーダー配列が使用され得るけれども、α−因子リーダーにより促進した。
【0070】
図1に示されるように、LA19リーダーEEAEAEAEPK(配列番号3)−IP融合タンパク質を発現するpAK721 S. セレビシアエ発現プラスミドを、S.セレビシアエ−E.コリ シャトルPOTプラスミド(アメリカ特許第5,871,957号)に基づいて構成した。図1においては、L−IPは、リーダーIP融合タンパク質をコードする融合タンパク質のカセットを示し;TPI−プロモーターはS.セレビシアエTP11プロモーターであり、TPI−ターミネーターはS.セレビシアエTP11ターミネーターであり;TPI−POMBEはS.セレビシアエにおける選択のために使用されるS.ポンベPOT遺伝子を示し;起点は2μmのプラスミドに由来する複製のS.セレビシアエ起点を示し;AMP−RはE.コリにおける選択を促進する。アンピシリンに対しての耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子を示し、そして起点−PBR322は複製のE.コリ起点を示す。
【0071】
リーダー配列、及び異なったミニC−ペプチドを有するAspB28IPの多くの融合タンパク質をコードするDNAを、下記のようにして、プライマーとして適切なオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより生成した。標準の方法を用いて、リーダー−AspB28IP融合タンパク質をコードするDNAフラグメントを、CPOT発現ベクター中に次の配位でサブクローン化した:リーダー−Lys−Arg−スペーサー−AspB28IP(ここで、Lys−Argは有効な二酸基性エンドプロテアーゼプロセッシング部位であり、そしてスペーサーはN−末端延長である)。
【0072】
S.セレビシアエKex2エンドプロテアーゼにより融合タンパク質のプロセッシングを最適化するために、スペーサーペプチド(N−末端延長)、例えばEEAEAEAPK(配列番号4)をコードするDNAを、リーダーをコードするDNAとAspB28IPとの間に挿入した(Kjeldsenなど. (1996) Gene 170, 107-112)。しかしながら、スペーサーペプチドの存在は強制的ではない。成熟AspB28IPを、LysB29及びGlyA1を連結するミニC−ペプチドを有する、一本鎖のN−末端延長されたインスリン前駆体として分泌した。AspB28IPの精製、及びN−末端延長及びミニC−ペプチドのタンパク質加水分解除去の後、アミノ酸ThrB30を、酵素介在性ペプチド転移反応によりLysB29に付加し、AspB28ヒトインスリンを生成した(Markussenなど. (1987) in “Peptides 1986” (Theodoropoulos, D., Ed.), pp. 189-194, Walter de Gruyter & Co., Berlin)。
【0073】
合成ミニC−ペプチドの成長を、ミニC−ペプチドにおけるアミノ酸をコードする1又は複数のコドンのランダム化により行った。すべての合成ミニC−ペプチドは、合成ミニC−ペプチドの酵素的除去を可能にするC−末端で酵素的プロセッシング部位(Lys)を特徴とする(引用により本明細書に組み込まれるアメリカ特許第4,916,212号)。ランダム化は、合成ミニC−ペプチドの1又は複数の位置でコドン変動を導入された、ドーピングされたオリゴヌクレオチドを用いて行われた。典型的には、PCRのために使用される2種のプライマー(オリゴヌクレオチド)の1つがドーピングされた。
【0074】
一般式:Xaa−Trp−Lys(XVVK)を有する生成された合成ミニC−ペプチドに使用されるランダム化された合成ミニC−ペプチドを有するリーダーAspB28IPのPCR生成のために使用されるオリゴヌクレオチド対の例は、次の通りである:
プライマーA:
5’−TAAATCTATAACTACAAAAAACACATA−3’(配列番号13)、及び
プライマーB:
3’-CCAAAGAAGATGTGACTGTTCNNMACCTTCCCATAGCAACTTGTTACAACATGAAGATAGACAAGAAACATGGTTAACCTTTTGATGACATTGATCAGATCTTTGA-TTC-5’(配列番号14)、ここでNはA, C, G又はTであり、そしてMはC又はAである。
【0075】
ポリメラーゼ連鎖反応。PCRを典型的には、次の成分下で行った:5μlのプライマーA(20pモル)、5μlのプライマーB(20pモル)、10μlの10×PCR緩衝液、8μlのdNTPミックス、0.75μlのE.H.F.酵素、鋳型としての1μlのpAK1150プラスミド(約0.2μgのDNA)、及び70.25μlの蒸留水。
典型的には、10〜15サイクルを行い、1つのサイクルは典型的には、94℃で45秒;55℃で1分;72℃で1.5分であった。PCR混合物を、続いて、2%アガロースゲル上に負荷し、そして電気泳動を標準の技法を用いて行った。得られるDNAフラグメントを、アガロースゲルから切断し、そしてGene Cleanキットにより単離した。
【0076】
図2は、PCRのための鋳型として使用されるpAK1150 DNAの配列及びコードされる融合タンパク質の推定されるアミノ酸(α−因子−リーダー(EEAEAEAPK)(配列番号4)−AspB28IP又はpAK1150 (配列番号5及び6)を示す。pAK1150プラスミドは、図1に示されるpAK721に類似する。α−因子−リーダーのC−末端を、推定されるアミノ酸配列を、SerLeuAspからSerMetAlaに変えるNcoI制限エンドヌクレアーゼを導入するために、修飾した。さらに、コードされたASPB28IPは、ミニC−ペプチドを特徴としないが、しかしLysB29はGlyA1に直接的に連結される。
【0077】
精製されたPCR DNAフラグメントを水及び制限エンドヌクレアーゼ緩衝液に溶解し、そして標準技法に従って、適切な制限エンドヌクレアーゼ(例えば、Bgl II及びXbaI)により消化した。Bal II-XbaI DNAフラグメントを、アガロース電気泳動にゆだね、そしてGene Glean キットを用いて精製した。
発現プラスミドpAK1150,又はCPOT型の類似するプラスミド(図1を参照のこと)を、制限エンドヌクレアーゼBgl II及びXbaIにより消化し、そして10765個のヌクレオチド塩基対のベクターフラグメントを、Gene Cleanキットを用いて単離した。
【0078】
2種の消化され、そして単離されたDNAフラグメント(ベクターフラグメント及びPCRフラグメント)を、T4 DNAリガーゼ及び標準条件を用いて一緒に連結した。連結混合物を続いて、コンピテントE.コリ株(R-, M+)中に形質転換し、続いてアンピシリン耐性により選択した。得られるE.コリからのプラスミドを、QIAGENカラムを用いて単離した。
【0079】
プラスミドを、続いて適切なS.セレビシアエ宿主株、例えばMT663(MATa/MATα Pep4-3/pep4-3 HIS4/his4 tpi::LEU2/tpi::LEU2 Cir+)の形質転換のために使用した。個々の形質転換されたS.セレビシアエ クローンを、液体培養において増殖し、そして培養上清液に分泌されるAspB28IPの量を、RP-HPLCにより決定した。次に、高められた量のAspB28IPを分泌するS.セレビシアエクローンからの発現プラスミドの合成ミニc−ペプチドをコードするDNA配列を決定した。続いて、同定された合成ミニC−ペプチド配列を、もう1つのラウンドのランダム化された最適化工程にゆだねることができる。
【0080】
記載されるランダム化された最適化工程に起因する合成ミニC−ペプチド(GluTrpLys)を特徴とするリーダー−AspB28IP(GluTrpLys)融合タンパク質をコードするDNA配列に基づく例が、図3(配列番号7及び8)に示される。
第1表及び第2表は、上記方法により生成されるインスリン前駆体類似体、及び対照の%として表される生成収率を示す。発酵を、5mlのYPDにおいて30℃で72時間行った。インスリン前駆体の収率が、培養上清液のRP−HPLCにより決定され、そしてB29残基がペプチド結合によりA1残基に連結されているリーダー−AspB28IP融合タンパク質、又はB29残基がミニC−ペプチドによりA1残基に連結されているリーダー−AspB28IP融合タンパク質のいずれかを発現する対照株の収率に対して表される。
【0081】
表において、“α★”は、LysArgまでのC−末端が“SLD(SerLeuAsp)”から“SMA(SerMetAla)”に修飾され、そして“ex4”がアミノ酸配列EEAEAEAPK(配列番号4)を有するN−末端延長であるα−因子リーダーを示す。YAP3はYAP3シグナル配列である。TA39は合成プレ配列QPIDDTESNTTSVNLMADDTESRFATNTTLAGGLDVVNLISMAKR(配列番号16)である。配列EEGEPK(配列番号17)は、インスリン類似体のB−鎖側のN−末端延長である。TA57は、合成プロ配列QPIDDTESQTTSVNLMADDTESAFATQTNSGGLDVVGLISMAKR(配列番号18)である。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
例2.NMR 分光計による水溶液における Asp B28 IP ( MetTrpLys )の構造決定
NMR分光計。NMRのためのサンプルを、10/90のD2O/H2Oに凍結乾燥されたタンパク質粉末を、10mMのリン酸緩衝液に溶解し、そして小体積の1MのDCl又はNaODの添加により所望のようなpHを調節することによって調製した。すべての計器読み取りは、同位体効果のために修正しない。NMRのためのAspB28IP(MetTrpLys)のサンプルを、pH8.0で、25μM〜1mMの範囲の濃度で調製した。
【0085】
1mMのサンプル、すなわちDQF−COSY(Piantinなど. (1982) J. AM. Chem. Soc. 104: 6800-6801, Ranceなど. (1983) Biochem. Biophys. Res. Commun. 117: 479-485)、TOCSY(Braunschweilerなど. (1983) J. Magn. Reson. 53: 521-528, Baxなど. (1985) J. Magn. Reaon. 65: 355-360)及びNOESY(Jeenerなど. (1979) J. Chem. Phys. 71: 4546-4553)の二次元1H−1H NMRスペクトルを、Varianユーザーライブラリーからの標準のパルス配列を用いて、自己−シールド三軸グラジエントコイルを有する1H/13C/15N三重共鳴プローブを備えたVarian Unity Inova NMR 分光計上で、600MHzで記録した。
【0086】
操作温度は、27℃に設定された。個々の相感受性二次元NMRスペクトルに関しては、512t1インクレメントTPPI−States方法(Marionなど. (1989) J. Magn. (1989) J. Magn. Reson. 85: 893-399)に従って、2048又は4096実データ点により獲得した。両寸法での6983Hzのスペクトル幅を、グラジエント−調整された励起パルス配列による1.5秒間の走査と、選択的励起との間の飽和を用いることによって減衰されて水共鳴上に正確に配置されたキャリヤーと共に使用した(WATERGATE, Piottoなど. (1992) J. Biomol. NMR2: 661-665)。DQFCOSYスペクトルを、マジック−角度グラジエントを適用するグラジエント増強されたバージョンを用いて記録した(Mattielloなど. (1996) J. Am. Chem. Soc. 118: 3253-3281)。TOCSYスペクトルに関しては、30〜80m秒間の混合時間が使用され、そしてNOESYに関しては、50〜200m秒間の混合時間が使用された。
【0087】
二次元NMRスペクトルの処理は、ソフトウェアパッケージXwinnmr(Bruker Analytische Messtechnik GmbH, D-76275 Ettlingen, Germany からのNMR処理ソフトウェアバージョン2.5)を用いて、行われた。個々の次元は、個々の次元において1度、実施される、移動された正弦−ベルアポディゼーション及びゼロ−充填により処理された。基線修正は、必要なら、Xwinnmr標準方法を用いて適用された。
【0088】
スペクトル割り当て、交差ピーク統合、配列特異的割り当て、立体特異的割り当て、及びすべての他の簿記は、プログラムPRONTO(PRNTO Software Development and Distribution, Copenhagen Denmark)(Kjaerなど. (1991) NATO ASI Series (Hoch, J. C., Redfield C., & Poulsen, F.M., Eds.) Plenum,New York) を用いて行われた。化学シフトは、ppmで測定され、そして水共鳴は4.75ppmに設定される。
【0089】
構造計算。続く構造計算のための距離抑制は、それぞれ、5.5, 3.3及び2.7Åの上限距離抑制に対応する、弱い、中位又は強いとして分類される統合されたNOESY交差ピークから得られた。メチル基に関する距離抑制に関しては、追加の0.5Åが、その上限には付加された(Wagnerなど., (1985) J. Mol. Biol. 196: 611-639)。
【0090】
構造計算を、距離幾何学を組合すハイブリッド方法を用いて行ない(Crippenなど. (1988) Distance Geometry and Molecular Conformation, Research Stucies Press, Taunton, Somerset, England; Kuszewskiなど.(1992) J. Biomol NMR2: 33-56)、そしてX−PLORマニュアル(dg_sub_embed. Inp, dgsa. Inp, refine. inp)により与えられる例に従って、X−PLOR 3.0 (Brunger (1992) X-PLOR Version 3.1: A System for X-ray Crystallography and NMR, Yale University Press, New Haven) を用いて、Nilgesなど. (1988) FEBS Lett. 229: 317-324の考えに基づいてアニーリングをシミュレートした。残基数は、標準のインスリン残基番号付けに由来し、B−鎖における残基はB1からB29まで番号付けされ、C−ペプチドにおける残基(例えばMerTrpLys)はC1からC3まで番号付けされ、そしてA−鎖における残基はA1からA21まで番号付けされる。
【0091】
NMRスペクトルのスペクトル割り当ては、ほとんどの共鳴に関して、Wuthrich(1986 NMR of Proteins and Nucleic Acids, Wiley, New York)により記載される標準の配列割り当て方法に従った。標準の割り当て方法は、特定のアミノ酸残基の目的とするプロトンが水におけるプロトンと急速に交換する場合、失敗である。pH8.0で、これはいくつかのアミノ酸残基に関して生じるが、しかしながら、初期変異体インスリンNMRスペクトル割り当てとの比較、及びNOEを通しての隣接する(空間における)アミノ酸残基の同定は、ほとんどすべてのスペクトル割り当てを可能にする。
【0092】
NOESYスペクトルの分析は、いくつかのアミノ酸残基が、他のインスリン分子についてこれまで決定された残基、すなわちヒトインスリンHisB16変異体に類似する周囲残基に対してNOE網状構造を有し(Ludvigsenなど. (1994) Biochemistry 33: 7998-8006)、そしてそれらの類似する条件が残基B1−B10、B13−B14、B17−B24及びA4−A21について見出される。さらに、上記に列挙される残基についての二面角制御が、これまで使用されたそれらから採用された(Ludvigsenなど. (1994) 前記)。
【0093】
いくつかのアミノ酸、特にB27−B29、C1−C3、A1−A3は、通常十分に定義されている二次構造要素よりも低く規則化されているペプチド鎖と一致する交差ピークパターンを有する。従って、追加のNOEは、メチル基が包含される場合、5.5Å又は6.0Åの上限によりも、いずれの追加の分類も伴なわないで、距離抑制中に転換された。20の収斂された構造の全体(図5)が計算され、そして相当するパラメーターが収斂構造について表3に列挙される。距離制御に同一の個々のNOEは、たとえそれがNOESYスペクトルにおいて数度、生じたとしても、わずか1度、計算される。ラーマチャンドラプロット性質割り当ては、局部幾何学品質を評価するための標準の品質パラメーターである。一般的に、記載される品質パラメーターは、X−線に基づくタンパク質構造の2.5Å分解能に比較できる(Laskowskiなど. (1996) J. Biolmol. NMR 8: 477-486)。
【0094】
【表3】
【0095】
計算された構造の説明:
全体の平均に最も類似する代表的な構造が、図6に示されている。AspB28IP(MetTrpLys)は、前記B1−B10、B14−B23、A4−A21を含んで成る領域について生来のインスリン構造に構造的に類似する。その差異は、位置B26−B29、C1−C3、A1−A3における連結ペプチド付近の領域に関して最も明白である、そして前記B11−B13に関しては、前記よりも明白でない。C−ペプチド近くのAspB28IP(MetTrpLys)の構造は、生来の構造とは厳格に異なっている(Ludvigsen(1994)前記)。
【0096】
AspB28IP(MetTrpLys)におけるメチオニン及びトリプトファン側鎖は、特定のTyrB28及びPheB26の側鎖を方側に動かし、そしてLeuB11、ValB12、IleA2及びTyrA18の側鎖により包含される他の有用な近くの疎水性パッチを損なわないままに放置することによって、従来のインスリンコアー構造を開環する。PheB25、TyrB26、及び残基B25〜B29により包含されるペプチドを動かすことによって創造されるポケットは、C−ペプチドからの側鎖MetC1及びTrpC2のパッキングを収容するために明らかに十分に適合される。それらの2個の側鎖〜構造的に接近する残基のいくつかのNOEは、いずれかのインスリン構造にこれまで観察されていない側鎖のこの非常に新規の配位を証明する。
【0097】
MetC1が、NOE〜MetC1のすべてを有する残基LeuB15、PheB24、TyrB28、TrpC1、IleA2及びTryA19により構成されるポケットに配置される。TrpC2はさらにより広範囲のNOE網状構造を有するが、しかしインドールアミドプロトンの早い交換のために、TrpC2の芳香族環に属するわずか4個の共鳴が割り当てられ得る。これにもかかわらず、TrpC2からLeuB11、ValB12、LeuB15、TyrB28、MetC1及びIleA2により拡張されるその隣接部分までの21個の残基間NOEは、AspB28IP(MetTrpLys)のNOESY範囲に観察された。
【0098】
前記ポケットにおけるトリプトファン側鎖の存在はまた、AspB28IP(MetTrpLys)の範囲に観察される化学シフトに対して広範囲の影響を有する。NMRのために使用される条件下で、AspB28IP(MetTrpLys)の範囲は、自己会合によりいくらかの程度、影響されるが(図7)、しかしモノマーとダイマーとの間の交換は、それらの2種の状態間の平均として単に観察されるNMRの時間の尺度に基づく。25μM〜0.2mMの濃度で、自己会合の程度は、NMRにより見出されるようには変化しない。
【0099】
図4は、10%/90%D2O/H2O及び10mMのリン酸緩衝液の溶液(pH8)において600MHzで得られる、27℃でのAspB28IP(MetTrpLys)の化学シフトを示す。化学シフトは残留水シグナルを4.76ppmに設定することによって参照される。N/Aは割り当てなしを意味する。AspB28IP(MetTrpLys)は、(1−29=B1−B29;30−32=C1−C3及び33−53=A1−A21)を割り当て、そして表5は、PDB型でのAspB28IP(MetTrpLys)の原子座標を提供する。
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
【表7】
【0104】
【表8】
【0105】
【表9】
【0106】
【表10】
【0107】
【表11】
【0108】
【表12】
【0109】
【表13】
【0110】
【表14】
【0111】
【表15】
【0112】
【表16】
【0113】
【表17】
【0114】
【表18】
【0115】
【表19】
【0116】
【表20】
【0117】
【表21】
【0118】
【表22】
【0119】
【表23】
【0120】
【表24】
【0121】
【表25】
【0122】
【表26】
【0123】
【表27】
【0124】
【表28】
【0125】
【表29】
【0126】
【表30】
【0127】
【表31】
【0128】
【表32】
【0129】
【表33】
【0130】
【表34】
【0131】
例3.Asp B28 IP 類似体の相対的折りたたみ安定性
インスリン前駆体についての折りたたみの評価のために、変性サンプルを、異なった割合でのインスリン前駆体及びGuHCl原液と10mMのトリス/ClO4 -(pH8.0)とを組合すことによって調製した。タンパク質原液は典型的には、10mMのトリス/ClO4 -(pH8.0) において8.25Mであった。CDスペクトルは、(+)−10−樟脳スルホン酸により検量されたJasco J-715分光計により記録された。すべてのスペクトルは、20℃で記録された。
【0132】
変性サンプルを、250〜218nmで走査した。典型的なセル通過幅及びタンパク質濃度は、それぞれ0.5cm及び3μMであった。すべてのスペクトルは、適切な溶媒ブランクの控除の前、平滑にされた。円二色性は、ペプチド結合のモル濃度に基づいてΔεとして表される。表示するために、個々の曲線は、実験において観察される合計の変化により、個々の点での観察される変化を割り算することによって、0−1の尺度に標準化される。
【0133】
データ分析。GuHCl変性曲線を、折りたたみ/変性の転移が、Santoro & Bolen (1988) Biochemistry 27: 8063-8068及びKaarsholmなど. (1993) Biochemistry 32: 10773-10778により記載されるようにして、2種の状態であることを仮定することによって分析し、ここで引用により本明細書に組み込まれる前記2種の文献は、GuHCl変性により安定性を計算する方法を教授する。この分析は、多くのパラメーター、例えば、変性曲線の中点でのGuHClを生成する。Cmidは、タンパク質集団の半分を変性するのに必要な変性剤の濃度に影響を及ぼす。従って、折りたたみ安定性の上昇は、Cmidの高められた値により明白である。
【0134】
平衡安定数は、K=(ΔεN−Δε)/(Δε−ΔεU)(ここで、ΔεはCDの観察される値であり、そしてΔεN及びΔεUはそれぞれ、所定のGuHCl濃度での生来及び変性された形についてのCD値を表す) を用いて、個々の変性濃度で得られる(Pace, 1975)。転移領域におけるGuHCl濃度でのΔεN及びΔεUについての値は、転移領域中への前−及び後−転移基線の線状外挿、すなわちΔEN=Δε0 N+mN[GuHCl]及びΔεU=Δε0 U+mU[GuHCl](ここで、Δε0 N及びΔε0 Uは交点であり、そしてmN及びmUは、それぞれ、前−及び後−転移基線の傾斜である)により得られる。
【0135】
転移領域における所定の変性濃度での変性の自由エネルギーは、ΔG=-RTInKにより与えられる。変性剤濃度へのΔGの線状依存性を仮定すれば、ΔG=ΔGH2O-m[GuHCl][ここで、ΔGH2Oは変性剤の不在下でのΔGの値であり、そしてmは変性剤濃度へのΔGの依存性の測定である]。従って、転移領域におけるKから誘導されるΔG値は、ΔGH2Oを得るために、0Mの変性剤に引き続いて外挿され得る。完全な変性曲線に関してのΔεと[GuHCl]との間の関係は、下記等式1(Santoro & Bolen, 1988)に示される:
【0136】
【数1】
【0137】
応答としてのΔε及び独立変数としての[GuHCl]を伴なって、等式(1)は、PC SAS (SAS Inc. Cary, North Carolina) のNLIN方法を用いて非直線最小二乗分析を受ける。次に、6種のパラメーター、Δε0 N, Δε0 U, mN, mU, m及びΔGH2Oは変性曲線を説明する。さらに、変性曲線の中点でのGuHCl濃度、すなわちCmidは、ΔGH2O /mにより与えられる。
【0138】
C−ペプチドMetTrpLys(AspB28IP(MetTrpLys))を有するAspB28IP誘導体分子の相対的折りたたみ安定性の評価を、AspB28IPに関して評価した。その結果は、AspB28IP(MetTrpLys)分子、Cmidにおける変化により明らかなように、AspB28IP(図5)よりもより安定していた。AspB28IPについてのCmidはおよそ約5.5MのGuHClであるが、AspB28IP(MetTrpLys)のそれは、少なくとも約6.5MのGuHClまで高められる(約18%の上昇率)。
【0139】
例4.
インスリン前駆体類似体AspB28IP(EWK)を、YAP3−TA39−EEGEPK(配列番号17)−AspB28IP(EEK)融合タンパク質、又はYAP3−TA57−EEGEPK(配列番号17)−AspB28IP(EWK)融合タンパク質を発現する発現プラスミドにより形質転換された酵母株MT663を培養することによって生成した。
【0140】
リーダー配列YAP3−TA39及びYAP3−TA57をコードするcDNA, 及びAspB28IP(EWK)及びN−末端延長をコードするcDNAを、標準の技法(Sambrook J, Fritsch EF及びManiatis T, Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 1989)を用いて、C−POT型の発現ベクター中にクローン化した。DNA及び推定されるアミノ酸配列は、図8及び9に示される。
第6表は、収率を示す。発酵は、5mlのYPDにおいて30℃で72時間、行われた。IP収率は、培養物上清液のRP−HPLCにより決定され、そして対照株のIP収率に比較して表される。
【0141】
第6表においては、“α★”は、LysArgまでのC−末端が“SLD(SerLeuAsp)”から“SMA(SerMetAla)”に修飾されているα−因子リーダーを示し、そして“ex4”は、アミノ酸配列EEAEAEAPK(配列番号4)を有するN−末端延長である。YAP3は、YAP3シグナル配列である。TA39は、合成プロ−配列QPIDDTESNTTSVNLMADDTESRFATNTTLAGGLDVVNLISMAKR(配列番号16)である。配列EEGEPK(配列番号17)は、インスリン類似体のB−鎖のN−末端側延長である。TA57は、合成プロ−配列QPIDDTESQTTSVNLMADDTESAFATQTNSGGLDVVGLISMAKR(配列番号18)である。
【0142】
【表35】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、LA19リーダー−EEAEAEAEPK(配列番号3)−IP(AlaAlaLys)融合タンパク質を発現するpAK721 S. セレビシアエ発現プラスミドを表す。
【図2】 図2は、PCR鋳型として使用されるpAK1150のコードされた融合タンパク質(α−因子−リーダー−EEAEAEAPK(配列番号4)−AspB28IP部分)のDNA配列及び推定されるアミノ酸配列(配列番号5及び6)である。
【図3】 図3は、ランダム化された最適化により生成される合成ミニC−ペプチドGluTrpLysを有するα−因子リーダー−AspB28IP(GluTrpLys)融合タンパク質をコードするDNA配列(配列番号7及び8)である。ミニC−ペプチド(EWK)は、下線により示される。
【図4】 図4は、AspB28IPに比較してのインスリン類似体AspB28IP(MetTrpLys)の折りたたみ安定性を示す。
【図5】 図5は、20の収斂構造の全体の主鎖系としてのAspB28IP(MetTrpLys)の分解構造を示す。
【図6】 図6は、AspB28IP(MetTrpLys)のリボン表示を示す。その図は、MOLSCRIPT(Kraulis (1991) J. Appl. Crystallog, 24: 946-950)を用いて生成される。アミノ酸注釈は次の通りである:B1−B29(B鎖)は番号1−29であり、残基C1−C3(連結ペプチド)は番号30−32であり、そして残基A1−A21(A鎖)は番号33−53である。
【図7】 図7は、10%/90%のD2O/H2O及び10mMのリン酸緩衝液(pH8.0)において1.0mMの濃度で27℃で記録されるAspB28IP(MetTrpLys)についてのIDプロトンNMRスペクトルである。
【図8】 図8は、合成ミニC−ペプチドGluTrpLysを有するYAP3−TA39-EEGEPK(配列番号17)−AspB28IP融合タンパク質を発現する発現カセットのDNA及び推定されるアミノ酸配列(配列番号9及び10)である。
【図9】 図9は、合成ミニC−ペプチドGluTrpLysを有するYAP3−TA57-EEGEPK(配列番号17)−AspB28IP融合タンパク質を発現する発現カセットのDNA及び推定されるアミノ酸配列(配列番号11及び12)である。
【配列表】
Claims (13)
- 下記式:
B(1−27)−X 2 −X 3 −X 1 −Y−A(1−21)
[式中、X 1 は、その1つのアミノ酸残基がYのN−末端に直接結合している芳香族アミノ酸残基である1〜15個のアミノ酸残基のペプチド配列であり;
X 2 は、ヒトインスリンのB鎖の位置28でのPro、Asp、Lys又はIleであり;
X 3 は、ヒトインスリンのB鎖の位置29でのPro、Lys、Ala、Arg又はPro−Thrであり;そして
Yは、Lys又はArgであり;
A(1-21)は、天然インスリンA−鎖であり:そして
B(1-27)は、B28、B29及びB30アミノ酸残基を欠く天然インスリンB−鎖である]
により表されるインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。 - X1が1〜9のアミノ酸残基である請求項1に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。
- X 1 が1〜5のアミノ酸残基である請求項2に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。
- X1が、その1つがTrp又はPheである1〜3個のアミノ酸残基である請求項1に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。
- X1−Yが、(a)Met−Trp−Lys、(b)Ala−Trp−Lys、(C)Val−Trp−Lys、(d)Ile−Trp−Lys、(e)Leu−Trp−Lys、(f)Glu−Glu−Phe−Lys(配列番号15)、(g)Glu−Phe−Lys、(h)Glu−Trp−Lys、(i)Ser−Trp−Lys、(j)Thr−Trp−Lys、(k)Arg−Trp−Lys、(l)Glu−Met−Trp−Lys(配列番号1)、(m)Gln−Met−Trp−Lys(配列番号2)及び(n)Asp−Trp−Lysから成る群から選択される請求項1に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。
- X2がAspであり、X3がLysであり、そしてX1がその1つがTrp又はPheである1〜3個のアミノ酸残基である請求項1に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチド。
- 請求項7に記載のポリヌクレオチドを含んで成る発現ベクター。
- 請求項8に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
- インスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体の製造方法であって、
(i)請求項1〜6のいずれか1項に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチドを含んで成る宿主細胞を、前記前駆体又は前駆体類似体の発現のための適切な条件下で培養し;そして
(ii)発現された前駆体又は前駆体類似体を単離する;
ことを含んで成る方法。 - 前記宿主細胞が酵母宿主細胞である請求項10に記載の方法。
- インスリン又はインスリン類似体の製造方法であって、
(i)請求項1〜6のいずれか1項に記載のインスリン前駆体又はインスリン前駆体類似体をコードするポリヌクレオチドを含んで成る宿主細胞を、前記前駆体又は前駆体類似体の発現のための適切な条件下で培養し;
(ii)前記培養培地から前記前駆体又は前駆体類似体を単離し;そして
(iii)前記前駆体又は前駆体類似体を、インビトロでの化学的転換又は酵素転換によりインスリン又はインスリン類似体に転換する;
ことを含んで成る方法。 - 前記宿主細胞が酵母宿主細胞である請求項12に記載の方法。
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