JP4766931B2 - 誘電体セラミックスおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックス、特にBaRe2Ti514またはBaRe2Ti412およびその製造方法に関する。
近年、移動電話や衛星通信等の高周波通信技術の著しい発展に伴い、誘電体共振器、フィルター等の高周波デバイス用の誘電体セラミックスに対する需要はますます増えている。通信信号の周波数および通信機の大きさは、例えば、通信機内部に組み込まれたアンテナ基板の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータであり、アンテナ材料に用いられる誘電体セラミックスの比誘電率が高いほど、電子部品回路を伝播する信号の波長は短くなり、信号は高周波化する。従って、比誘電率の高い電子部品を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機等の小型化が図れる。また、上記のようなデバイスに用いられる誘電体セラミックスに対しては、低い誘電損失および良好な温度安定性も同時に要求される。
このような要求特性を満たす誘電体セラミックスとして、BaRe2Ti514、BaRe2Ti412等が知られており(Re:希土類元素、以下に同じ)、多種の用途に使用されている。これらは、常誘電相をベースとすることで、誘電損失を低く抑えている。
従来の誘電体セラミックスの合成には、1000℃から2000℃前後に加熱できる炉を用いて外部加熱を行なわなくてはならない。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。上記BaRe2Ti514、BaRe2Ti412を製造する場合も例外ではなく、例えば希土類元素としてネオジムを用いる場合では、BaO、Nd23、TiO2の各粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥粉を1100℃×5時間の仮焼処理し、粉砕して誘電体セラミックス粉末としている。
また、外部加熱を行なわない製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成(self propagating high temperature synthesis:SHS))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。該方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。
燃焼合成法を利用するものとして、1種類の金属酸化物と2種類の異なる金属元素の計3種類の原料を出発原料とし、金属間化合物あるいは非酸化物セラミックスと酸化物セラミックスの2種類を合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。例えば、酸化ニッケル粉末とアルミニウム粉末とアルミナ粉末とを混合し成形体とした後、高圧反応容器内に収納し、アルゴン雰囲気下で該成形体の上端面を着火することによりアルミニウム粉末の酸化燃焼反応を誘導し、還元されたニッケルが過剰に添加したアルミニウムと反応してNiAlを合成しながら、燃焼反応が連鎖的に進行する。その結果、外部加熱なしに金属間化合物の1つであるNiTiのインゴットを製造することができる。
しかしながら、上記特許文献1の燃焼合成法では、上記BaRe2Ti514、BaRe2Ti412等の酸化物系の誘電体セラミックスを得ることができない。また、この方法では、同時に合成されるAl23はNiTiに対する濡れ性や比重、粘性、融点および熱力学的安定性の違いから、NiTiから容易に分割できるとされているが、これら2種類の合成物を正確に分離することは困難である。例えば洗浄水で洗浄してもAl23は水に溶解しないので分離できない。
燃焼合成法において燃焼波を完全に伝播させるためには、各構成元素源となる粉体の配合割合や、発熱源となる金属粉末等の物性(比表面積)等が重要となり、該方法により所望組成のセラミックスを高品位で製造することは容易ではない。例えば、安定成分と発熱源成分との配合割合が所定範囲外では、燃焼波が完全に伝播せず、未反応成分が混入する等して誘電特性が劣化するという問題がある。
特開平5−9009号公報
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、燃焼合成法により得られ、優れた焼結特性を有するBaRe2Ti514、BaRe2Ti412等の誘電体セラミックスおよびその製造方法の提供を目的とする。
本発明の誘電体セラミックスは、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックスであって、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、Re23と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質とを少なくとも含む反応原料をそれぞれ所定割合で配合し、断熱火炎温度が1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする。ここで、各元素記号は、それぞれBa(バリウム)、Ti(チタン)、O(酸素)であり、Reは希土類元素を示す。
また、上記イオン結合性物質は、過塩素酸ナトリウムであることを特徴とする。
上記組成式において m=5 であり、燃焼合成法で下記式(1)に示す反応により得られることを特徴とする。
Figure 0004766931
上記組成式において m=4 であり、燃焼合成法で下記式(2)に示す反応により得られることを特徴とする。
Figure 0004766931
上記反応原料は、TiO2が含まれることを特徴とする。
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックスの製造方法であって、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、Re23と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質とを少なくとも含む反応原料をそれぞれ所定割合で配合する工程と、上記所定割合で配合された配合物を断熱火炎温度が1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程と、上記反応生成物を粉砕する工程と、上記粉砕された粉末を水で洗浄する工程とを備えることを特徴とする。
本発明の誘電体セラミックス(BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 ))は、Ti粉末と、Re23と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質とを少なくとも含む反応原料を用いて、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成により得られるので焼結体特性に優れる。特に、誘電体セラミックスとして、上記式(1)または(2)の化学反応式に基づきBaRe2Ti514、BaRe2Ti412が得られる。また、Reとして任意の希土類元素を使用する、または、複数種類の希土類元素を組み合わせて用いることにより誘電特性の向上が図れる。
本発明の誘電体セラミックスの製造方法は、上記原料を用い、金属粉末の比表面積を所定範囲とすること等により燃焼合成法で、BaRe2Ti514、BaRe2Ti412等の誘電体セラミックスを製造することができる。また、合成粉末を微粉化した後、水で洗浄することで十分な副生成物の除去が可能となるので、理論密度に近い焼結体が得られる。また、燃焼合成法を用いることにより、従来の外部加熱を行なう方法と比較して、低コスト、短時間で誘電体セラミックスを製造することができる。
本発明の誘電体セラミックスは、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表され、比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、Re23(希土類酸化物)と、BaO2(過酸化バリウム)と、酸素供給源となるイオン結合性物質とを少なくとも含む反応原料をそれぞれ所定割合で配合し、断熱火炎温度が1500℃以上である燃焼合成法により得られる。
Ti粉末は、微粉末であることが好ましく、比表面積が0.01〜2 m2/gである。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすいので好ましい比表面積の範囲は 0.1〜0.6 m2/g である。比表面積が0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となるTi粉未と酸素供給源となるBaO2等との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、誘電体セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえるTi粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。
本発明において、Ti粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
燃焼合成に使用できるTi微粉末は、平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150μm 以下、好ましくは 0.1〜100μm である。150μmをこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。
表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
また、Tiの酸化物であるTiO2(酸化チタン)を併用することが好ましい。TiO2等の金属酸化物は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、該金属酸化物の配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。具体的には、TiO2の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がる。TiO2は、目的となる本発明の誘電体セラミックスを構成する元素のみからなるため、併用しても副生成物を生じない。また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
希土類元素の供給源としては、希土類元素の酸化物(Re23)を使用する。Reとしては、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。これらの中で工業的に特に重要となるのは、La、Pr、Nd、Sm等である。
本願発明の誘電体セラミックス(BaRe2Tim2m+4)におけるReは、上記希土類元素が1種単独であっても、2種以上を混合したものであってもよい。複合材とする場合には、希土類供給源となるRe23を異なる元素(Re)で複数種類用いる。
希土類元素は電子のエネルギー準位から分かるように、立体的に外側の電子が軌道を埋めており、内側の電子軌道の電子の数が異なる。このため化学的性質が類似し、上記複数種類の併用または置換等が容易である。また、希土類元素は、他の元素には無い多くの磁気的特性等を有するので、誘電体材料組成として好適に利用できる。該希土類元素による効果としては、例えば、比誘電率の温度変化を小さくすること等が挙げられる。
Ba供給源としては、BaO2を使用する。該BaO2は、Ba供給源であると同時に酸素供給源でもある。また、Ba供給源としてBaCO3も使用可能である。
本発明は上記Ti粉末、Re23、TiO2、BaO2とともに酸素供給源となる物質が配合される。
酸素供給源としては、加熱により酸素を発生させるイオン結合性物質が配合される。該イオン結合性物質としては、KClO3、NaClO3、NH4ClO3等の塩素酸塩類、KClO4、NaClO4、NH4ClO4等の過塩素酸塩類、NaClO2などの亜塩素酸塩類、KBrO3などの臭素酸塩類、KNO3、NaNO3、NH4NO3等の硝酸塩類、NaIO3、KIO3等のよう素酸塩類、KMnO4、NaMnO4・3H2Oの過マンガン酸塩類、K2Cr27、(NH42Cr27等の重クロム酸塩類、NaIO4などの過よう素酸塩類、HIO4・2H2Oなどのメタよう素酸、CrO3などの無水クロム酸塩、NaNO3などの亜硝酸塩、Ca(ClO)2・3H2Oなどの次亜塩素酸カルシウム三水塩類等が挙げられる。
これらの中で過塩素酸塩類、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類が好ましく、特にNaClO4、KClO4は、副生成物であるNaCl、KClが繰り返し純水で洗浄することで除去できるので好適である。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
本発明の誘電体セラミックスは、上記各反応原料を所定割合で配合した後、断熱火炎温度が1500℃以上である燃焼合成法により得られる。本発明の誘電体セラミックスの一例としてBaRe2Ti514を合成する場合の化学反応式は下記式(1)に示すとおりである。
Figure 0004766931
反応希釈剤としてTiO2を含む場合には、上記式(1)において x≠10 である。x=1である場合、Ti粉末量が少なく発熱源が不足するため、燃焼波が伝播せず焼結体を得ることができない。また、TiO2を完全に含有しない場合(x=10)では、反応が急激に進行し、合成粉がチャンバー内に飛散するため、合成粉の回収が困難となる場合がある。
各反応原料を所定割合で配合するとは、上記式を満たすモル質量比で配合することをいう。すなわち、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2は(10-x)モル、NaClO4は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2は 2 モル、Re23は 2 モル配合する。ここで、Re23を複数種類使用する場合には、それらの合計量で 2 モルとなるように配合する。
この割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaRe2Ti514を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物もNaClのみであり、後述する水洗浄により容易に分離することができる。
上記のようにTi粉末と、TiO2との配合比は上記式(1)中における x の値で決定される。BaRe2Ti514合成時における好ましい x の範囲としては、2 ≦ x ≦ 8 である。x が 2 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 8 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり飛散等の問題が生じる可能性がある。
本発明の誘電体セラミックスの他の例としてBaRe2Ti412を合成する場合の化学反応式は下記式(2)に示すとおりである。
Figure 0004766931
反応希釈剤としてTiO2を含む場合には、上記式(1)において x≠8 である。上記式(1)の場合と同様に、x=1である場合、Ti粉末量が少なく発熱源が不足するため、燃焼波が伝播せず焼結体を得ることができない。また、TiO2を完全に含有しない場合(x=8)では、反応が急激に進行し、合成粉がチャンバー内に飛散するため、合成粉の回収が困難となる場合がある。
この場合の配合割合は、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2は(8-x)モル、NaClO4は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2は 2 モル、Re23は 2 モル配合する。ここで、Re23を複数種類使用する場合には、それらの合計量で 2 モルとなるように配合する。該割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaRe2Ti412を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物もNaClのみであり、後述する水洗浄により容易に分離することができる。
上記のようにTi粉末と、TiO2との配合比は上記式(2)中における x の値で決定される。BaRe2Ti412合成時における好ましい x の範囲としては、2 ≦ x ≦ 6 である。x が 2 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 6 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり飛散等の問題が生じる可能性がある。
上記反応原料をそれぞれ所定割合で配合する工程において、反応原料の混合は、ボールミル、乳鉢と乳棒等を用いた混合等特に制限されることなく使用できる。特に量産性に優れているボールミルを用いる混合が好ましい。
混合粉末は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素Si34等が使用できる。これらの中で炭素(C)材が熱伝導と形状加工性に優れているので好ましい。
混合粉末をるつぼへ投入する方法としては、混合粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
上記所定割合で配合された配合物を燃焼合成法により反応させる。燃焼合成法の条件について、反応系の断熱火炎温度は1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス雰囲気等を利用することも可能である。また、酸素分圧を制御可能であれば、酸素ガスを使用することも可能である。
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約1〜60秒で終了する。
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒径が100μm以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒径が 100μmをこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生成物であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
粉砕工程後の微粉末には、副生成物であるイオン結合性塩が含まれている。例えばNaClO4を原料に用いた場合はNaClが、KClO4を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。水で洗浄することでこれらの塩を除去できる。
塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が150μS/cm以下であればよい。
洗浄に用いる水の電気伝導率は50μS/cm未満が好ましい。50μS/cm以上であると、溶出したNa、Clなどのイオン性物質の量が十分に少なくても、洗浄液の電気伝導率が高くなる。電気伝導率が50μS/cm未満の洗浄水としては、取り扱い上、蒸留水などの純水が特に好ましい。洗浄容器に微細化された合成粉末と洗浄液を入れ、超音波洗浄を行ない、副生成物をNa、Clなどのイオンにして純水に溶出させる。洗浄液の交換回数を増やす、あるいは合成粉末に対する洗浄液量を増やすことで、除去量を増すことが可能となる。溶出を促進させるには、洗浄液の温度を上げることも効果的である。副生成物のイオン性物質の残存量が多くなると、セラミックス粉末を焼成する際、イオン性物質が焼結を阻害するので好ましくない。残存イオン性物質を管理する手法として、洗浄液の電気伝導率の測定がある。洗浄後の洗浄水の電気伝導率が150μS/cmをこえると、誘電体セラミックスの焼結性を阻害するので好ましくない。
上記合成粉末は、洗浄乾燥後、焼結することにより、誘電体セラミックスが得られる。焼結するとき、ポリビニルブチラールなどの成形用粘結剤を配合できる。焼結条件としては、10〜100MPaの圧力で成形後、大気雰囲気下、1200〜1500℃の温度で焼成する条件が挙げられる。
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去するため、900〜1100℃で仮焼することも可能である。
得られる誘電体セラミックス(BaRe2Ti514、BaRe2Ti412等)は、理論密度に近く緻密化され、優れた誘電特性を有するので、誘電体アンテナ、コンデンサ、誘電体共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等に使用できる。
実施例1〜実施例11、比較例1〜比較例3
各反応原料を表1に示すモル比でボールミルを用いて5時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100g)をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を0.1MPaとした。
燃焼合成の可否を表1に示す。合成粉末および副生成物(NaCl)が得られたものについて、アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が1μmの未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
上記未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。
得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果を表1に示す。また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られた誘電体セラミックス粉末に成形用バインダ(ポリビニルブチラール樹脂)を1質量%添加して混合した。次に混合粉末を10mmx80mmの金型に投入し、1.5トン/cm2の圧力を加えてグリーン体(10mmx90mmx3mm)を得た。このグリーン体を600℃で1時間保持し、有機分を除去した後、1300℃で3時間焼成した。得られた焼結体を70mmxl.5mmxl.5mmの試験片に加工し、空洞共振器法を用いて、1、3、5GHzの周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0004766931
Figure 0004766931
実施例12〜実施例22、比較例4〜比較例6
各反応原料を表3に示すモル比でボールミルを用いて5時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100g)をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を0.1MPaとした。
燃焼合成の可否を表3に示す。合成粉末および副生成物(NaCl)が得られたものについて、アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が1μmの未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
上記未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。
得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果を表3に示す。また、比誘電率および誘電正接を上記実施例1と同様の方法で測定した。結果を表4に示す。
Figure 0004766931
Figure 0004766931
表1および表3より、すべての実施例において燃焼波が伝播し、それぞれ焼結体を得ることができた。表2および表4より各実施例で得られた誘電体セラミックスは、比誘電率が 74 以上、誘電正接が 0.001 未満であり優れた誘電体特性を有する。
また、比較例1および比較例4では、Ti粉末の比表面積が 0.01 より小さいため、燃焼波が伝播せず、合成粉を得ることができなかった。比較例2および比較例5では、断熱火炎温度が1500℃より低いため、燃焼波が伝播せず、合成粉を得ることができなかった。
本発明の誘電体セラミックス(BaRe2Ti514、BaRe2Ti412等)は、理論密度に近く緻密化され、優れた誘電特性を有するので、誘電体アンテナ、コンデンサ、誘電体共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等に使用できる。

Claims (6)

  1. 組成式 BaRe2Tim2m+4式中 m = 4 または 5 、Reは希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックスであって、
    比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO 2 と、Re23と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質であるNaClO 4 またはKClO 4 とを少なくとも含む反応原料において、
    前記組成式において m = 5 の場合は、前記Ti粉末 x モル( 2 ≦ x ≦ 8 )に対して、前記TiO 2 を(10−x)モル、前記イオン結合性物質を (x−1)/2 モル、前記Ti粉末と前記TiO 2 との合計量 10 モルに対して、前記Re 2 3 を 2 モル、前記BaO 2 を 2 モル、となるモル質量比で配合し、
    前記組成式において m = 4 の場合は、前記Ti粉末 x モル( 2 ≦ x ≦ 6 )に対して、前記TiO 2 を(8−x)モル、前記イオン結合性物質を (x−1)/2 モル、前記Ti粉末と前記TiO 2 との合計量 8 モルに対して、前記Re 2 3 を 2 モル、前記BaO 2 を 2 モル、となるモル質量比で配合し、
    断熱火炎温度が1500℃以上である外部加熱なしの燃焼合成法により得られることを特徴とする誘電体セラミックス。
  2. 前記イオン結合性物質は、前記NaClO 4 であることを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミックス。
  3. 前記組成式において m = 5 であり、前記燃焼合成法で下記式(1’)に示す反応により得られることを特徴とする請求項2記載の誘電体セラミックス。
    Figure 0004766931
  4. 前記組成式において m = 4 であり、前記燃焼合成法で下記式(2’)に示す反応により得られることを特徴とする請求項2記載の誘電体セラミックス。
    Figure 0004766931
  5. 組成式 BaRe2Tim2m+4式中 m = 4 または 5 、Reは希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックスの製造方法であって、
    比表面積が 0.01〜2 m2/gのTi粉末と、TiO 2 と、Re23と、BaO2と、酸素供給源となるイオン結合性物質であるNaClO 4 またはKClO 4 とを少なくとも含む反応原料において、
    前記組成式において m = 5 の場合は、前記Ti粉末 x モル( 2 ≦ x ≦ 8 )に対して、前記TiO 2 を(10−x)モル、前記イオン結合性物質を (x−1)/2 モル、前記Ti粉末と前記TiO 2 との合計量 10 モルに対して、前記Re 2 3 を 2 モル、前記BaO 2 を 2 モル、となるモル質量比で配合し、
    前記組成式において m = 4 の場合は、前記Ti粉末 x モル( 2 ≦ x ≦ 6 )に対して、前記TiO 2 を(8−x)モル、前記イオン結合性物質を (x−1)/2 モル、前記Ti粉末と前記TiO 2 との合計量 8 モルに対して、前記Re 2 3 を 2 モル、前記BaO 2 を 2 モル、となるモル質量比で配合する工程と、
    前記割合で配合された配合物を断熱火炎温度が1500℃以上である外部加熱なしの燃焼合成法により反応させる工程と、
    前記反応生成物を粉砕する工程と、
    前記粉砕された粉末を水で洗浄する工程とを備えることを特徴とする誘電体セラミックスの製造方法。
  6. 前記粉砕された粉末を水で洗浄する工程は、洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm 以下となるまで洗浄を行なう工程であることを特徴とする請求項5記載の誘電体セラミックスの製造方法。
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