JP4764540B2 - 船尾管シール装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は船舶用の船尾管シール装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
船尾管シール装置は、推進用のプロペラを取り付けたプロペラ軸が船から船外に突き出ている船尾管の船外側に設けられ、海水が船内へ流入するのを防ぐ働きをしている。従来の船尾管シール装置は、プロペラ軸の末端に嵌め込んで固定したライナーの外周に、複数のリップ形のシールリングを摺接させて構成してある。シールリングの背面側に加圧流体を供給して、シールリングの背面側から正面側に向けて常に流体を吐出するようにした船尾管シール装置もある。
【0003】
船尾管シール装置において、古くなったシールリングを新しい物に交換する際には、プロペラを外した上で交換する場合と、プロペラを外さないで交換する場合とがある。後者の場合には、新品の継ぎ目の無いシールリングを必ずどこか一箇所で切断しないことにはライナー外周に装着できず、切断した箇所は装着後に接着して元通りに繋いでいた。これまで、船尾管シール装置の密封性を確保するためには、一度切断したシールリングを接着して繋ぐことが当然必要であると考えられていた。
【0004】
シールリングの接着は、図4に示すようなボンディング治具20を用いてシールリング3の切断面21a,21bどうしを突き合わせて接着剤を塗り、接着剤が乾くまでそのまま保持していなければならず、この作業はどうしても空気中で行う必要があった。そのため、プロペラを外さないでシールリングを交換するには、船をドライドッグ入渠させるか、または海上で船尾管シール装置を完全に海面上に出すことが不可欠であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、船の構造上船尾管シール装置を完全に海面上に出すことができない船も多く、ドライドッグに入渠させるにしても費用が掛かるし、運行スケジュールや入渠スケジュールの都合等があって、すぐには入渠できない場合もある。
【0006】
本発明は以上に述べたような実情に鑑み、プロペラを外さずに、海水中でもシールリングの交換が可能な船尾管シール装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために本発明者が着目したのは、これまで当然のことのように行ってきたシールリング切断箇所の接着を省けないだろうかという点である。シールリングは弾性材料から成り、船尾管に装着した時には自然状態よりも全体的に若干縮んだ状態となるので、切断時にシールリングの欠損が無ければ切断箇所に目に見えるような大きな隙間が空くことはない。シールリングによる密封性といっても、シールリングの背面側環状空間に加圧流体を供給して、シールリングの背面側から正面側に流体を吐出するようにした船尾管シール装置では、シールリングとライナーとの隙間から常に流体が漏れているわけで、請求項1に記載したように、シールリング切断箇所の隙間から漏れる流体の流量を見越して、その分余計に流体をシールリング背面側に供給してやればシール性能にはなんら支障がない。要は、シールリング背面側と正面側にかかる圧力の差を、切れ目のないシールリングを用いた時と同じに保持すれば良いと言える。
【0008】
また、切断したシールリングの切断面に粘着剤を塗布し、切断箇所の隙間を埋めるようにすることで、切断箇所からの流体の漏れを防げるので船尾管シール装置の信頼性が高められる。
【0009】
また、請求項に記載したように、切断したシールリングの切断面に粘着剤を塗布し、切断箇所の隙間を埋めるようにして、さらにシールリングの切断箇所を締結手段により繋ぎ止めることで、シールリングは接着したのと同じように隙間なく強固に接合され、接着したものと同等の密封性が得られる。この場合にはシールリングの背面側から正面側に向けて流体を吐出しない構造の船尾管シール装置にも適用できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図3に基づいて具体的に説明する。本発明の船尾管シール装置は、図1に示すようにプロペラ軸1が船外に突き出している船尾管10の船外側に設けられる。プロペラ軸1の末端にあるプロペラ11にはライナー2が取り付けてあり、ライナー2の胴部外周には3本のリップ形のシールリング3のリップが摺接しており、各シールリング3は船尾管10にボルトで段積み状に固定されるケーシング部材12に、挟み込むようにして保持されている。最も船尾側の第1シールリング3と、その隣の第2シールリング3はリップが海水側に向けられ、海水が船内に流入するのを防ぐ働きをしており、最も船内側の第3シールリング3はリップを船内側に向かせてあって、船内側の潤滑油が船外に漏れるのを防いでいる。
【0011】
前記の各シールリング3は、装着する際に一箇所を鋭利に切断されており、これを図2に示すようにプロペラ11が取り付いたままの状態のライナー2に抱き着かせてから、切断箇所5をプロペラ軸1の真下に配置し、切断面どうしの間になるべく隙間が空かないように、切断面どうしを押し付けるようにしてケーシング部材12に保持させてある。各シールリング3のリップの周囲にはスプリング13を巻き付けてある。
【0012】
各シールリング3の背面側に形成される環状空間4a,4bには、船内側から加圧流体を供給する流体供給手段として配管14a,14bが接続してあり、そこから空気や清水などの流体を供給し、シールリング3の背面側から正面側に向けて、シールリング3とライナー2との摺接部を通って、常時流体を吐出させることによりシール性が生まれるものである。
【0013】
ただし、各シールリング3は先に述べたように切断したままの状態で装着してあるので、切断箇所5の僅かな隙間からでも流体が漏れるために、切れ目の無いシールリングを用いた時と同じ流量の流体を前記環状空間4a,4bに供給しても、十分なシール性能は得られない。切断箇所5から漏れる分だけ余計に流体を供給し、シールリング背面側と正面側にかかる圧力の差を、切れ目の無いシールリングを用いた時と同じ状態に保持する必要がある。
【0014】
余計に供給すべき流体の流量は、実験と計算によってほぼ正確に算出できる。例えば供給する流体が常温の空気で、ライナー胴部の外径が600mmの#600シールリングの場合、シールリング正面側に2.0kgf/cm絶対圧、シールリング背面側に2.2kgf/cm絶対圧の圧力がそれぞれ加わったと仮定すると、平行二面幅における圧縮性流体の流れの式から、シールリング切断箇所の隙間を流れる空気の流量を算出すると以下のようになる。
【0015】
【表1】
Figure 0004764540
【0016】
一方で、切断した#600シールリングを、切断箇所の隙間を極力小さくなるようにしてケーシング部材に組み込んで以下のような実験を行う。シールリング正面側を清水にて2.0kgf/cm絶対圧に加圧し、シールリング背面側を大気圧に保持すると、シールリング切断箇所の隙間を通って、シールリングの正面側から背面側に320cc/minの清水が浸入する結果を得た。そこで、平行二面幅における非圧縮性流体の流れの式を用い、この浸入量に相当する平均隙間を求めると約0.07mmとなる。
【0017】
さらに、この状態からシールリングの背面側に空気圧を徐々に加えていくと、やがて清水の浸入が止み、背面側の圧力が正面側より0.2kgf/cm高い2.2kgf/cm絶対圧となった時の空気流量は25NL/minであった。表1と、この実験の結果より、シールリング切断箇所の隙間からは13NL/minの空気が漏れており、ライナーとの摺接部からは12NL/minの空気が吐出していることが確認された。つまり加圧流体として空気を用いる場合、切断したシールリングでは、切断しないものに比べて約2倍の空気を供給する必要があるという結果が出た。
【0018】
切断したシールリング3を装着する際に、切断面に粘着剤を塗布して切断箇所5の隙間を埋めておけば、加圧流体の供給量を抑えることができる。
【0019】
図3は、切断したシールリング3を締結手段6により繋ぎ止める場合の実施形態を示している。この場合、シールリング3を切断する前に、角棒にボルト穴を空けた格好の補助ピース15をシールリング3に接着しておき、シールリング3を補助ピース15ともども切断する。これをライナー2外周に抱き着かせた後、分断した補助ピース15,15同士を、締結手段となるボルト6とナット16により繋ぎ止める。このようにすると、シールリング3の切断面同士を強く押し付けて、切断箇所5の隙間を無くすことができるので、接着したシールリングと同等の密封性を保持することができる。この場合にもシールリングの切断面に粘着剤を塗布してあり、信頼性をさらに高めている。
【0020】
【発明の効果】
本発明の船尾管シール装置では、シールリングを一箇所切断して装着し、その後の切断箇所の接着を要しないので、シールリングの交換を、プロペラを外さずに海水中でも簡潔に行うことができ、これまでシールリング交換作業に要していた費用と時間を大幅に削減できる。
【0021】
また、シールリングの切断面に粘着剤を塗布することで、切断箇所からの流体の漏れを極力防ぐことができ、切断されたままのシールリングで構成された本発明の船尾管シール装置の信頼性を高めることができる。
【0022】
さらに、請求項に記載の発明によれば、シールリングの切断箇所を、接着した時と同じように強固に接合でき、シールリングによる密封性は、接着したものと比べても遜色の無いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による船尾管シール装置の実施形態を示す断面図である。
【図2】 切断されたシールリングの組み付け状態を示す斜視図である。
【図3】 シールリングの切断箇所を締結手段により繋ぎ止める実施形態を示す斜視図である。
【図4】 従来、切断したシールリングの接着に用いていたボンディング治具を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 プロペラ軸
2 ライナー
3 シールリング
4a,4b 環状空間
5 切断箇所
6 ボルト(締結手段)

Claims (2)

  1. プロペラ軸(1)に固定したライナー(2)の外周に、シールリング(3)を複数個並べて摺接させてあり、シールリング(3)の背面側の環状空間(4a,4b)に加圧流体を供給し、シールリング(3)の背面側から正面側に向けて流体を吐出する流体供給手段を有している船尾管シール装置において、前記シールリング(3)は一箇所で切断されており、切断面に粘着剤を塗布して切断箇所(5)の隙間を埋めるようにしてあり、前記流体供給手段が、加圧流体を、シールリング(3)の切断箇所(5)から漏れる分だけ余計に供給していることを特徴とする船尾管シール装置。
  2. プロペラ軸(1)に固定したライナー(2)の外周に、シールリング(3)を摺接させて構成してある船尾管シール装置において、前記シールリング(3)は一箇所で切断されており、シールリング(3)の切断面に粘着剤を塗布し、切断箇所(5)の隙間を埋めるようにしてあり、その切断箇所(5)を締結手段(6)により繋ぎ止めてあることを特徴とする船尾管シール装置。
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