以下、本発明による意匠性建材の製造方法の実施形態を説明する。
本発明の一実施形態においては、大略的には、次のような工程が実行される。すなわち、先ず、インクジェット印刷及びクリアー塗料の塗布を行って意匠性建材を製造するために使用される基材の表面に、塗料の塗布によりインクジェット印刷のための被印刷面を形成する。この被印刷面を形成するための塗料を、以下、「被印刷面形成塗料」という。尚、必要に応じて、被印刷面の形成に先立ち、基材の表面にシーラーを塗布しておいてもよい。次いで、被印刷面に対して実質的に樹脂分を含有しない水性インクを用いたインクジェット印刷を行って、被印刷面に対する模様付け及び/又は着色を施す。次いで、インクジェット印刷を施した被印刷面を乾燥させる。次いで、乾燥させた被印刷面にクリアー塗料を塗布する。以下、各工程の詳細を説明する。
基材としては、従来から建築用途で用いられるいずれの建材用基材をも用いることが可能である。そのような建材用基材としては、代表的なものとして、アルミニウム、鉄及びステンレス等からなる金属基材、亜鉛メッキ鉄板等の金属基材、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボード等の無機質基材があげられる。基材としては、無機質のものに限らず、意匠性建材の用途及び使用形態などによっては、硬質プラスチックなどの有機質のものを使用することも可能である。これらの基材は、表面が平滑なものであってもよいし、凹凸形状を有するものであってもよい。
できるだけばらつきのない条件下での被印刷面形成が可能になるように、基材の表面状態に応じて、該基材の表面に予めシーラーを塗布しておくことができる。シーラーは、基材の種類及び基材に要求される性能に応じて、適宜選択することが可能である。また、シーラーの塗布量及び乾燥条件等は、シーラーの組成や基材に要求される性能に応じて適宜変化させることが可能である。
本発明では、従来から建材の製造に用いられているいずれのシーラーをも用いることが可能である。但し、特に、それを用いて形成される塗膜(乾燥膜)[膜面]の吸水量が0.1〜10.0g/m2となるようなシーラーを用いることが好ましい。シーラーは、結合剤及び溶媒を含んでなり、必要に応じて、充填剤及び添加剤等を配合することが可能である。
シーラーの結合剤としては、従来のシーラーで使用されているいずれの結合剤をも用いることが可能である。そのような結合剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、無機系樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
シーラーの溶媒としては、従来のシーラーで使用されているいずれの溶媒をも用いることが可能である。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類:酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類:メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類:イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類:さらには各種の脂肪族炭化水素類、グリコールエーテル類、水等から選択される1種又は2種以上の組み合わせが、代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、シーラーの充填剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、カーボンブラック、黄鉛、オーカー、弁柄、複合酸化物(ニッケル・チタン系、クロム・チタン系、ビスマス・バナジウム系)等の無機系顔料や、フタロシアニンブルー、カーミンFB、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、アンスラピラミジン、スレン、ジオキサジン等の有機系顔料等の、一般的に塗料用として使用されている各種の有機系または無機系の着色顔料:タルク、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、マイカ、珪石粉、珪藻土、非晶質シリカ、アロフェン、イモゴライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライト等の多孔質無機粉末等や、ポリアクリル酸塩系共重合物(芯部にポリアクリル酸エステル系重合物、外殻にアクリル酸ソーダ重合物のコアシェル構造の重合物を含む)、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ケン化物、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体ケン化物、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド架橋物等の、粉末状または懸濁状の有機質樹脂等の有機系の体質顔料:等が代表的なものとしてあげられるが、これらに限定されるものではない。
シーラーの添加剤としては、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、成膜助剤、光安定化剤、抗菌剤、架橋促進剤、分散剤、沈殿防止剤、インク溶媒に対する濡れ助成剤等が挙げられる。添加剤は、必要に応じて適宜のものを配合することが可能であり、それぞれの配合量をシーラーの目的等に応じて適宜変化させることが可能である。
基材の表面または必要に応じてシーラー塗装された基材の表面に塗布される被印刷面形成塗料は、結合剤を含んでなり、必要に応じてその他充填剤、溶媒及び添加剤等を配合することが可能である。また、被印刷面形成塗料は、水系、溶剤系及び粉体系等の塗料性状の別を問わない。
被印刷面形成塗料としては、それを用いて形成される塗膜(乾燥膜)[被印刷面]の吸水量が2.0〜10.0g/m2となるような塗料を用いることが好ましい。乾燥膜の吸水量が2.0g/m2より低い場合には、被印刷面のインク吸収能力が低下することにより、印刷された画像の画質が低下して直接的に意匠性建材の意匠性を低下させたり、クリアー塗料の塗布の際に吐着インクのにじみが発生して間接的に意匠性建材の意匠性を低下させることがある。一方、乾燥膜の吸水量が10.0g/m2より高い場合には、吐着インクが過剰に吸収されることにより、印刷された画像の画質が低下して意匠性建材の意匠性を低下させることがある。但し、これらの意匠性低下等の性能低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の意匠性等の性能を持つ実用可能な意匠性建材が得られるものである。
ここで、前記吸水量は、以下の方法にて測定した数値のことを指す。尚、以下の方法での操作は、全て温度23℃及び湿度50%の条件下で例えば恒温室内で行うものとする。ガラス板(寸法200mm×250mm×2mm)の一主表面に、被印刷面形成塗料をスプレー塗装で塗布する。この塗装では、塗布量を乾燥質量で40g/m2とし、塗膜表面が平滑で且つ膜厚がガラス板全体で平均的に分布するようにする。塗装した被印刷面形成塗料が常温乾燥型のものである場合には、80℃で30分間の強制乾燥を行う。塗装した被印刷面形成塗料が焼き付け乾燥型のものである場合には、150℃で30分間の焼き付け乾燥を行う。乾燥終了後、温度23℃及び湿度50%の恒温室内にて168時間静置する。その後、塗膜の形成されたガラス板の端縁に吸水性のないシリコンコーキング剤により、シールを行う。このシールは、塗膜とガラス板との間に外周部(ガラス板端縁に対応する部分)から水が浸透すること及び水が流出することを防ぐために行うものであり、コーキング剤が塗膜表面にかからないようにする。また、シリコンコーキング剤は、ガラス板の塗膜を形成した面側に3mmの高さとなるように盛り上げ、水平に維持した塗膜表面に水を注いだ際に、水がこぼれないようにする。以上のようにして得られた試料を温度23℃及び湿度50%の恒温室内に24時間保持した後に、該試料の質量を測定し、この測定値を初期質量とする。次に、試料を水平な箇所に置き、試料の表面(被印刷面形成塗料の塗膜を形成した面)に対して200gの水を表面全体が水に濡れるように注ぎ込み、その直後に試料を傾けて水を除去する。その後、裏面を下にして試料をタオル(たとえば株式会社クレシア製「キムタオル」)上に置き、裏面に付着した水を除去すると共に、表面に付着した余分な水をも同じくタオルで拭き取り除去する。余分な水の除去を終了した後、直ちに質量を測定する。尚、水を注いでから質量を測定するまでの時間は、可能な限り短くし、最長でも1分以内とする。吸水量は、上記測定結果に基づき、次の計算式:
吸水量(g/m2)=
(拭き取り直後の質量(g)−初期質量(g))×20(/m2)
により算出する。
また、被印刷面形成塗料は、それを用いて形成される塗膜(乾燥膜)[被印刷面]に顔料含有濃度が5.5質量%で体積が17plである水性インクの1ドットが吐着したときに、吐着インクドットの径が好ましくは60〜100μmの範囲内、更に好ましくは63〜90μmの範囲内にあるようなものである。吐着インクドット径が前記範囲となるような配合の被印刷面形成塗料を使用することで、吐着インクが適度に吸収され、高画質の画像形成が一層容易になる。吐着インクドット径が60μmより小さい場合には、被印刷面上に形成される吐着ドットの隣接するもの同士が連続せず下地の被印刷面が露出することや、また一般的に吐着インクが被印刷面に吸収され難くなり、基材の搬送過程で印加される外力や吐着インクの乾燥時の熱風等により、吐着インクが揺動して変形し易くなること、更にクリアー塗料の塗布の際ににじみが起こり易くなること、等の理由により画質の低下が発生し、製造される建材の意匠性が低下することがある。一方、吐着インクドット径が100μmより大きい場合には、吐着インクドットの重なり部分が多くなることにより、画質が低下することがある。吐着インクドット径が100μmより大きくなる要因としては、被印刷面のインク吸収性の高さが考えられ、このような場合においては、吐着インクの着色濃度が低くなり、クリアー塗料を塗装した際のインクのにじみ等が発生することにより、製造される建材の意匠性が低下することがある。但し、これらの意匠性低下等の性能低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の意匠性等の性能を持つ実用可能な意匠性建材が得られるものである。
ここで、前記インクのドット径は、以下の方法にて測定した数値のことを指す。寸法70mm×150mmのガラス板の表面に、被印刷面形成塗料を乾燥質量で40g/m2となるように塗布する。被印刷面形成塗料が常温乾燥型のものである場合には、80℃で10分間の強制乾燥を行い、被印刷面形成塗料が焼き付け硬化型のものである場合には、160℃で20分間の焼き付け乾燥を行う。その後、温度23℃及び湿度50%の環境にて3日間静置する。静置した後、温度23℃及び湿度50%の環境下にて、顔料含有濃度を5.5質量%に調整した水性インクをインクジェットプリンターにて17plを1ドットとして吐出することで、被印刷面形成塗料の塗膜上にインクドットを吐着させる。同環境下において一晩静置した後に、被印刷面形成塗料の塗膜上の吐着インクドットの径を計測する。尚、被印刷面形成塗料の組成によっては、複数回の測定でインクドット径がばらつく場合があるが、このような場合にはインクドット10個に対する測定を行って、その平均値をとることにより対応可能である。また、本測定において、インクの吐出にはJP−0604(ミマキ(株)社製インクジェットプリンター)を用い、吐着インクドット径の測定にはVK−8510((株)キーエンス社製レーザー顕微鏡)を用いることが可能である。
被印刷面形成塗料の結合剤としては、従来から建材用塗料で結合剤として使用されている樹脂を用いることが可能であり、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂或いはこれらの変成樹脂等の内の1種又は2種以上、或いはこれらと硬化剤や硬化触媒等との組み合わせを使用することが可能である。
また、被印刷面形成塗料に対しては、必要に応じて各種充填剤を配合することが可能である。これら、充填剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、カーボンブラック、黄鉛、オーカー、弁柄、複合酸化物(ニッケル・チタン系、クロム・チタン系、ビスマス・バナジウム系)等の無機系顔料や、フタロシアニンブルー、カーミンFB、ハンザイエロー、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、アンスラピラミジン、スレン、ジオキサジン等の有機系顔料等の、一般的に塗料用として使用されている、各種の有機系または無機系の着色顔料、タルク、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、マイカ、珪石粉、珪藻土、非晶質シリカ、アロフェン、イモゴライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライト等の塗料用として一般的に使用される体質顔料や多孔質無機粉末等、あるいは、ポリアクリル酸塩系共重合物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ケン化物、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体ケン化物、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド架橋物等の粉末状または懸濁状の有機質樹脂類:等が代表的なものとしてあげられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明においては、被印刷面のインク吸収性を向上させることを目的として、被印刷面形成塗料に、真比重が0.7〜2.0g/cm3の範囲内にある多孔質の親水性樹脂粒子を配合することが好ましい。このような親水性樹脂粒子を配合することで、被印刷面のインク吸収性を向上させ、建材の意匠性を更に向上させることが可能となる。このような親水性樹脂粒子としては、例えばポリアクリル酸塩系共重合物があげられ、これらの内でも特に内部架橋構造を有する粒子を使用することが好ましい。内部架橋構造を有すると、インクを吸収した際にも粒子が膨張することがなくなり、形成された画像に乱れが生じることがなくなり、かくして建材の意匠性の低下が抑制される。このような粒子の代表的なものとしては、例えばタフチックHU720PS、タフチックHU720E(東洋紡社製)等を挙げることができる。但し、これらの範囲外とすることによる意匠性低下等の性能低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の意匠性等の性能を持つ実用可能な意匠性建材が得られるものである。
尚、被印刷面形成塗料に対して前記親水性樹脂粒子を配合する場合には、被印刷面形成塗料の固形分中において、1.5〜20容積%配合することが好ましく、2.0〜15容積%配合することが更に好ましい。親水性樹脂粒子の配合量が1.5容積%より少ないと、親水性樹脂粒子を配合したことによるインク吸収性向上効果が低下する傾向にある。一方、親水性樹脂粒子の配合量が20容積%より多いと、塗料製造時に粘度上昇により製造効率が低下しやすくなり、また形成された被印刷面の耐水性が低下することで意匠性建材の耐久性が低下しやすくなる傾向にある。但し、これらの性能低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が得られるものである。
被印刷面形成塗料の溶媒としては、塗料において通常使用されているいずれのものも使用することが可能であり、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類:酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類:メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類:イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類:さらには各種の脂肪族炭化水素類、グリコールエーテル類、水等から選択される1種又は2種以上の組み合わせを使用することが可能である。
被印刷面形成塗料の添加剤としては、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、成膜助剤、光安定化剤、抗菌剤、架橋促進剤、分散剤、沈殿防止剤、インク溶媒に対する濡れ助成剤等を必要に応じて配合することが可能であり、使用する結合剤、着色顔料、体質顔料、吸水性充填剤、溶媒等に応じて、添加剤の種類及び添加量を適宜変化させることができる。
被印刷面形成塗料の塗布量は、乾燥質量で、20〜80g/m2が好ましく、30〜60g/m2が更に好ましい。塗布量が20g/m2より少ないと、製造される意匠性建材の耐久性が低下する場合がある。但し、この性能低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が得られるものである。一方、塗布量が80g/m2を超えると、被印刷面形成塗料を塗布した後の乾燥に要する時間が長くなり、また塗布量の増加の割には被印刷面形成塗料を塗布することによる性能向上が望めず、かえってコスト的に不利となる傾向にある。
被印刷面形成塗料の塗布方法は、従来から塗料の塗布に採用されているいずれの方法も使用することが可能であり、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装等や、これらの組み合わせ等の各種方法を適宜選択することが可能である。特に、基材表面が凹凸を有している場合には、凹凸形状への追従性や、塗装速度の適合性からエアレススプレー塗装や静電塗装を好適に使用することが可能である。尚、被印刷面形成塗料の組成によっては、塗装直前の基材の表面温度が30〜70℃に予熱されていることが、良好な被印刷面を形成する上で有効である。
本発明においては、被印刷面を形成した後に、インクジェット印刷を行うのであるが、この場合において、塗装した被印刷面形成塗料を完全に硬化乾燥させた状態でインクジェット印刷を行ってもしてもよいが、必ずしも被印刷面形成塗料を完全硬化乾燥させておく必要はなく、ある程度溶媒を蒸発させた状態でインクジェット印刷を行うことも可能である。尚、被印刷面形成塗料を硬化もしくは乾燥させる条件は、塗料の種類により常温乾燥、強制乾燥、焼き付け乾燥或いは活性エネルギー線照射による硬化乾燥等のいずれの方法を採用することも可能であり、塗料組成に応じて適宜選択することが可能である。
本発明では、インクジェット印刷に実質的に樹脂分を含有しない水性のインクを使用する。これにより、プリンターの耐久性や保守性が向上し、また作業場の衛生面が向上し、火災の危険が軽減され、さらに環境に対して負荷を低減する効果を持たせることができる。また、インクの蒸発速度をできる限り遅くすることで、インクジェットプリンターのインク吐出ノズルの詰まりや、ノズル周辺部の汚れの発生を防止し、前記被印刷面形成塗料により形成された塗膜との関係において良好な画質で印刷することが可能となる。
上記インクは、着色顔料、水及び分散剤等を主成分として含んでおり、必要に応じて添加剤、希釈溶剤、体質顔料等を配合することが可能である。
なお、本発明で使用する水性インクは、バインダーすなわち樹脂分を実質的に含まないことが必要である。本発明で目標とする画質精度は例えば100〜600DPIの範囲内のものであり、建材製造における印刷と言う点において、従来にないほどの高画質の印刷を実現するために、インクジェットプリンターのインク吐出口の口径を必然的に小さくすることが要求される。尚、ここでDPIとは、ドット・パー・インチの略であり、1インチあたりに形成される吐着インクドットの密度を表す単位である。従って、インクに樹脂分が含まれていると、インク吐出口でインクが乾燥した場合、ノズル詰まりが発生し、意匠性建材の製造効率を著しく損なうこととなる。尚、以下に挙げるような成分をインクに配合する際において、やむを得ず樹脂分が混入する場合において、樹脂分の配合量はインク全体に対して5質量%以下、より好ましくは3質量%以下の範囲にとどめておくことが好ましい。樹脂分の配合量がインク全体に対して5質量%以下の範囲であれば、実質的に樹脂分を含まないものとする。
インクの着色顔料としては、一般的に塗料やインクで用いられる公知の着色顔料のいずれも用いることが可能であるが、形成される着色や模様の耐候性・耐久性から、主として無機系顔料を用いることが好ましい。無機系顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、複合酸化物(ニッケル・チタン系、クロム・チタン系、ビスマス・バナジウム系)、酸化チタン等が代表的なものとしてあげられるが、これらに限定されるものではない。また、上記無機顔料に加えて、有機系の着色顔料を配合することも可能である。有機系の着色顔料としてはキナクリドン、ジケトプロロピール、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、アンスラピリミジン、フタロシアニンスレン、ジオキサジン等が代表的なものとしてあげられる。上記着色顔料は、インク100質量部中に0.5〜15.0質量部、より好ましくは1.0〜10.0質量部配合されることが好ましい。15.0質量部を超えると、インク粘度が上昇し、及びインクの乾燥が早くなり過ぎることにより、印刷で用いるインクジェットプリンターのノズル部分に詰まりを発生させ易くなり、またインク液滴の被印刷面への塗着精度が低下しやすくなる傾向にある。0.5質量部未満では、発色が不十分なため、形成される模様が不鮮明になりやすくなる傾向にある。また、インクの着色顔料として有機顔料を用いる際においては、耐光性、退色性に充分に配慮するのが好ましい。
また、前記着色顔料は平均粒径が20〜400nmであることが好ましく、25〜300nmの範囲であることがより好ましい。平均粒径が20nm未満では、顔料の凝集によるインク貯蔵安定性の低下や、印刷画質の低下や、インク粘度の上昇や、印刷面の耐光性の低下等の問題を生じやすくなる傾向にある。平均粒径が400nmを超えると、インクジェットプリンターのインク吐出ノズルの詰まりが生じやすくなり、また時として顔料の沈殿が発生して、画質にバラツキが起こりやすくなる傾向にあり、前述のような高画質の印刷が困難となる傾向にある。
インクにおける水及び親水性溶媒の合計量は、インク全体に対して70〜92質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることが更に好ましい。このうち、水の配合量としては、45〜70質量%の範囲内にあることが好ましい。水の配合量が45質量%より低いと、インク粘度が上昇し、インクの吐出性が低下することにより、高画質の意匠を得ることが困難になりやすい傾向にある。一方、水の配合量が70質量%より高いと、インク吐出ノズル周辺でのインクの乾燥が促進され、ノズル詰まりやインク吐着精度の低下が発生しやすくなる傾向にある。上記親水性溶媒としては、インクで通常用いられている溶媒のいずれをも好適に使用することが可能であり、例えば、アルコール類、エチレングリコールやエチレングリコール誘導体、グリセリンやグリセリン誘導体、プロピレングリコールやプロピレングリコール誘導体等から選択される1種又は2種以上の組み合わせを使用することが可能である。
但し、以上のインクの着色顔料や水及び親水性溶媒についての好適範囲外とすることによる性能低下または製造効率低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が本発明の目的とする程度の良好な歩留まりで得られるものである。
インクの分散剤としては、カルボン酸塩類として脂肪酸塩、ロジン酸塩等、硫酸エステル塩類として高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩等、スルホン酸塩類としてアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩等、リン酸エステル塩類としてアルキルリン酸塩、エーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩等のアニオン系分散剤、またエーテル類としてポリオキシエチレンアルキエーテル、ポリオキシアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等、エステル類としてグリセリン部分エステル、ソルビタンエステル等、エーテルエステル類としてグリセリンエステルポオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルポリオキシエチレンエーテル類等、含窒素類として脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のノニオン系分散剤、或いは、スチレン−無水マレイン酸共重合物塩、オレフィン−無水マレイン酸共重合物塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物等のアニオン系高分子分散剤、さらにポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステルのコポリマー、ポリアクリルアミド等のノニオン系高分子分散剤等から選択される1種又は2種以上の組み合わせを使用することが可能である。これらの分散剤の種類及び添加量については、顔料の種類及び含有量、希釈剤の種類及び含有量等により適宜使い分けることが可能である。
また、インクのその他の添加剤として、導電度調整剤、消泡剤、沈殿防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤等を必要に応じて使用することが可能である。
また、インクの体質顔料としては、硫酸バリウムや炭酸カルシウム等を使用することが可能である。
以上のようなインクを用いて、前記被印刷面に対して、全体を単一色に又は部分的に色相の異なる複合色に着色し或いは模様付けを行う。尚、模様は被印刷面全体に形成してもよいし被印刷面の一部に形成してもよい。また、被印刷面が凹凸を有する場合には、凹部と凸部とを異なる色で着色することも可能である。
本発明において、インクを吐出する際には、インクジェットプリンターを用いる。使用されるインクジェットプリンターは、印刷に用いられるいずれの方式のものも使用することが可能である。より高画質の着色や意匠、具体的には100〜600DPIの画質の着色や模様を効率よく印刷する場合には、コンティニュアス方式のピエゾドロップ型インクジェットプリンター、もしくはオンデマンド方式のピエゾドロップ型インクジェットプリンターを好適に用いることができる。
更に、プリンターヘッドが基材搬送コンベア上方に位置しコンベア幅方向に往復運動しながら適時インク吐出する方式のものよりも、プリンターヘッドが基材搬送コンベアの上方に位置しコンベア幅方向に所要長さに亘ってインク吐出ノズルの配列されたライン方式プリンターヘッドを具備する形式のインクジェットプリンターが高い生産スピードからみて好ましい。
コンベアにて基材を搬送する速度は、10〜60m/分が好ましく、20〜50m/分がより好ましい。搬送速度が10m/分より遅いと、建材の製造効率が低下し、結果としてコストアップにつながりやすくなる傾向にある。また、搬送速度が60m/分を超えると、印刷された模様の画質が低下しやすくなる傾向にある。
また、コンベアにて搬送過程にある基材の表面(表面が凹凸形状を有している場合にあっては、凸部の頂点)と、プリンターヘッドのインク吐出ノズル配列面との間の間隙(距離)は、4〜12mmの範囲にあることが好ましく、5〜10mmの範囲にあることがさらに好ましい。前記間隙が4mmより小さいと、搬送過程にある基材の上面が振動や基材の厚み変動等によりインク吐出ノズル面に接触したり衝突したりする可能性が生じ、インク吐出ノズルの損傷を引き起こす場合がある。一方、前記間隙が12mmより大きいと、被印刷面に対する吐出インク滴の吐着位置精度が低下し、高画質の画像が得られにくくなる傾向にある。
また、赤色系(赤系)、黄色系(黄系)、青色系(青系)の3原色に明度調整用としての黒色系(黒系)を加えた4原色の個々の色のインクに個別に対応可能なプリンターヘッドを有するフルカラーインクジェットプリンターか、より好ましくは前記4原色の中間色や白色系インクに必要に応じ個別に対応可能なプリンターヘッド4〜8群を備えたより高度なフルカラーインクジェットプリンターも使用できる。
上記の100〜600DPIの模様を形成する際には、インクジェットプリンターのインク吐出ノズルの口径を10〜45μmにすることが好ましく、15〜35μmとすることが更に好ましい。ノズル口径が45μmより大きいと、高解像度の着色や模様を得ることが困難となる傾向にある。また、ノズル口径が10μmより小さいと、ノズルの詰まり等が頻繁に発生する傾向にある。前記ノズルはコンベアの幅方向に複数個設けられていることが生産効率及び画質の点からみて好ましい。また、ノズル間ピッチは10〜200μmであることが好ましく、15〜150μmであることが更に好ましい。ノズル間ピッチが10μmより小さいと、印刷幅に対する必要ノズル数が膨大になるばかりでなく、コントロールシステムに要する容量が大きくなることにより、経済的に不利となる傾向にある。また、ノズル間ピッチが200μmより大きいと、印刷したインクドット間の距離が大きくなりすぎる結果、画質が低下しやすくなる傾向にある。
本発明においては、上述したような方法をとることで、100〜600DPIの高解像度の着色や模様付けされた意匠性建材を製造することが可能となる。また、適正な生産コストをもって製造を行う際には、解像度を180〜360DPIの範囲に収めることが有効である。また、意匠性建材の表面を単一色に着色する際においては、解像度を100〜360DPIの範囲に収めることが有効である。加えて、解像度については、横軸方向及び縦軸方向共に同一画素数にそろえるのが一般的であるが、ライン方式のプリンターではプリンターヘッドの幅方向に関しては高解像度たとえば600DPIに設定し、基材の搬送方向にはやや解像度を低下させて例えば300DPIに設定することで、生産速度を低下させることなく、特定ノズルのつまりやインク液滴の飛翔曲がりに起因して建材搬送方向に発生する直線状の着色むらを緩和することも可能である。また、前記解像度は、ノズルの口径、ピエゾ素子の振動数等を調整することにより、適宜変化させることが可能である。また、前記ピエゾ素子の振動数は、ピエゾ素子に供給する電圧等により制御することが可能である。
但し、以上のインクジェット印刷についての各種好適範囲外とすることによる性能低下または製造効率低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が本発明の目的とする程度の良好な歩留まりで得られるものである。
インクジェット印刷により着色及び/又は模様付けを行う際には、上記工程によって基材に形成した被印刷面の表面温度が35〜80℃になるまで、より好ましくは45〜65℃になるまで、加熱し、当該温度に昇温した被印刷面にインクを吐着させることが好ましい。当該温度領域にある被印刷面にインクを吐着させることで、吐着インク中の溶媒の蒸発が促進され、次工程におけるクリアー塗料の塗布の際のインクの滲みによる建材の意匠性の低下を防止することが可能となる。被印刷面の温度が35℃より低い状態では、インク溶媒の蒸発効果が低く、クリアー塗料を塗布する際のインク滲みが発生しやすくなる傾向にある。一方、被印刷面の温度が80℃より高いと、基材の種類によっては該基材に反り等の熱変形が起こり、インク吐出ノズルと基材表面との間隙が小さくなって、基材がノズルに接触することによるノズル破損を引き起こしやすくなる傾向にある。さらには、加熱に要するエネルギーコストがかかりすぎることや、プリンターヘッドの下を連続通過する建材の表面温度が高いことに基づきノズル配列面が昇温することで、ノズル口におけるインクの乾燥が促進され、ノズルの詰まりによるインク吐出不良や画質低下等を引き起こしやすくなる傾向にある。
被印刷面の温度を上記温度範囲内にするには、基材表面に被印刷面形成塗料を塗布し乾燥する工程における加熱による昇温を利用することが可能である。また、被印刷面形成塗料を塗布し乾燥する工程の後に一旦冷却する場合には、その後のインクジェット印刷の開始に際して適時再加熱を行うこと等により、被印刷面の温度を上記温度範囲内に調整することが可能である。
上述したインクジェット印刷を行った後にクリアー塗料を塗布するのであるが、その際には、被印刷面に吐着した水性インクの溶媒の量を、溶媒蒸発により、吐着直後を基準として20〜85質量%減少させた状態で、更に好ましくは25〜80質量%減少させた状態で、クリアー塗料を塗布することが好ましい。溶媒の減少量が20質量%より少ない状態でクリアー塗料を塗布すると、インクのにじみが発生したり、表面に凹凸形状を有する基材では、塗装直後のクリアー塗料の凹部への流れ込みに連れて吐着インクも不均一に移動することにより画質の低下が発生し、ひいては建材の意匠性が低下しやすくなる傾向にある。一方、溶媒の減少量を85質量%より多くするためには、溶媒を蒸発させるために加熱等を入念に行う必要が生じ、意匠性建材の製造効率が低下するだけでなく、乾燥のために要するエネルギーコストが増加しやすくなる傾向にある。但し、この製造効率低下の程度は、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が本発明の目的とする程度の良好な歩留まりで得られるものである。尚、前記インク溶媒の減少量は、インクの組成や乾燥条件(温度、時間等)により変わり得るが、予め以下のような測定を行うことで、所要の条件に調整することが可能である。
寸法15cm×15cmに切り取ったアルミニウム箔の質量を測定する。当該アルミニウム箔の表面に、インクジェットプリンターによりインクを吐着させ、インク吐着後のアルミニウム箔の質量を測定し、これを初期質量とする。尚、インクの吐出量は、使用するインクジェットプリンターの全てのインク吐出ノズルについての合計で、17×107〜20×107plの範囲となるように調整することで、より正確な測定が可能となる。次に、当該インクの吐着されたアルミニウム箔を常温で静置、もしくは所望の時間及び所望の温度にて乾燥させ、その後のアルミニウム箔の質量を測定し、これを乾燥後の質量とする。前記各測定した数値を用いて、以下の計算式:
溶媒減少率(質量%)=
100×(初期質量−乾燥後の質量)/
[(初期質量−アルミニウム箔の質量)×インクの溶媒含有率]
にて当該乾燥条件下での溶媒の減少量(溶媒減少率)を計算する。
以上のような計算で得られる溶媒の減少量が20〜85質量%の範囲内となるようなインク組成と乾燥条件との組み合わせを探索し、探索した組み合わせにて、インク吐着後の基材の乾燥を行う。尚、上記計算式は、インクが単色の場合を示しているが、例えば、黒色系、赤色系、青色系及び黄色系の4色のインクを用いてフルカラーによる印刷を行う場合には、前記4色のインクを用いてアルミニウム箔の全面に、これら4色のインクを均等な量吐着させ、4色混合の単一色でアルミニウム表面を着色した後、上記方法によりインク溶媒の減少量を測定し、溶媒の減少量が20〜85質量%の範囲内となるようなインク組成と乾燥条件との組み合わせを探索することが好ましい。このような場合においては、上記計算式を、
溶媒減少率(質量%)=
100×(初期質量−乾燥後の質量)/[A×
(黒色系インクの吐出率×黒色系インクの溶媒含有率
+赤色系インクの吐出率×赤色系インクの溶媒含有率
+青色系インクの吐出率×青色系インクの溶媒含有率
+黄色系インクの吐出率×黄色系インクの溶媒含有率)]
ここで、A=(初期質量−アルミニウム箔の質量)
とすることで、当該乾燥条件下での溶媒の減少量(溶媒減少率)を計算することが可能となる。尚、各色インクの吐出量は、寸法15×15cmのアルミニウム箔に対する個々の色のインクの吐出総ドット数×1ドットのインク容量によって計算することが可能である。ここで寸法15×15cmのアルミニウム箔に対する、個々の色のインクの総ドット数は、インクジェットプリンターを制御するコンピュターにより設定される。また1ドット当たりのインク容量の測定にはDropSim(Coventor社)を用いることができる。寸法15×15cmのアルミニウム箔上にて偏ることなく全体的に均一に点在するように、各色インクのドット液滴を吐着させることに留意する。
尚、以上のようなアルミニウム箔を用いたインク溶媒減少量の測定に伴って、インクジェット印刷後のクリアー塗料の塗布の際のインクのにじみ等の確認を行うことができる。即ち、インクジェットプリンターでのインクジェット印刷を行う直前の被印刷面の表面が規定の温度範囲内に管理された実生産基材と同等な基材(実基材)上に、測定用のアルミニウム箔を一時的に仮貼着し、該実基材全体にインクジェットプリンターでインク吐着を行って、実基材とアルミニウム箔とでインク乾燥工程を同様に進行させ、アルミニウム箔については、適時実基材から引き剥がし再貼着したりしながらインク溶媒減少量測定を行い、実基材については、更にクリアー塗料塗布後のインクのにじみやインクの不均一な移動を観察評価するのに利用することができる。
本発明で使用するクリアー塗料としては、建材に対して従来から塗装されてきたいずれのクリアー塗料も使用することが可能である。クリアー塗料は、結合剤、更には必要に応じて顔料、添加剤、溶媒、充填剤を含んでなる。
クリアー塗料の結合剤としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン系樹脂、アクリルシリコン樹脂、ビニル樹脂、セルロース誘導体等から選択される1種又は2種以上の組み合わせ、これらと硬化剤、またはこれらと硬化促進触媒との組み合わせを使用することが可能である。
顔料は、クリアー塗料の透明性を失わない程度に使用することができる。これら顔料としては、艶消し剤を含む体質顔料、着色顔料、或いはカラーマイカ、ウレタン系、アクリル系等の着色或いは透明ビーズ、鱗片状黒鉛、鱗片状酸化鉄、メッキ処理ガラスフレーク、アルミニウム箔カラークリアー塗料切断品等の各種顔料の使用が可能である。
クリアー塗料には、さらに必要に応じて添加剤を配合することができる。添加剤としては、分散剤、沈殿防止剤、表面改質剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等がある。これらの成分は結合剤の固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内で使用することが好ましい。
クリアー塗料の溶媒としては、塗料において通常使用されているいずれのものも使用することが可能であり、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素類:酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類:メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類:イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類:さらには各種の脂肪族炭化水素類、グリコールエーテル類、水等から選択される1種又は2種以上の組み合わせを使用することが可能である。
但し、使用する被印刷面形成塗料及びインクの組成によっては、クリアー塗料を塗布することにより、インクが再溶解し、形成済みの画像ににじみを発生する場合がある。このようなことを防止するためには、クリアー塗料に配合される全ての溶媒として、溶解度パラメーター(以下、SP値という)が7〜23.4の範囲にある溶媒を用いる事が好ましく、SP値が7〜22の範囲にある溶媒を用いる事がより好ましく、SP値が8〜20の範囲にあることが更に好ましい。溶媒のSP値が7より低いと、クリアー塗料に配合した溶解性成分の析出が起こり、平滑な塗膜が得られにくくなる傾向にある。また、SP値が7よりも小さい溶媒は、一般的に蒸発速度が速く、クリアー塗料に多量に配合すると、平滑な塗膜が得にくいという不具合が生じやすくなる傾向にある。一方、SP値が23.4よりも高いと、被印刷面上のインクがにじみを起こし、明確な意匠を形成しにくくなる傾向にある。尚、上記SP値は、クリアー塗料を塗布した時における数値であるものとする。従って、クリアー塗料製造時において上記SP値の範囲内に入っていないクリアー塗料であっても、塗装時における溶媒による希釈で上記SP値の範囲内に入るものは、当然本発明の範囲内のものである。また、上記SP値の範囲内に入ることを条件として、使用される溶媒は、単一のものであっても、2以上の溶媒の組み合わせであってもよい。尚、上記SP値の範囲内にある溶媒が、クリアー塗料中に45〜85質量%配合されていることが好ましく、60〜80質量%配合されていることが更に好ましい。上記溶媒の配合量が、45質量%より少ないと、塗料粘度が高くなり、塗装作業時において均一な連続膜が得にくく、また塗料の製造効率が低下しやすくなる傾向にある。一方、溶媒が85質量%より多いと、インクの滲みがより顕著となりやすい傾向にある。
クリアー塗料の塗布は、上記のようにして被印刷面にインクを吐着し、上記乾燥条件によって乾燥した後に、行われる。当該クリアー塗料を塗布することで、形成された画像を長期にわたり保護することが可能となる。
クリアー塗料の塗布量は、乾燥質量で、15〜80g/m2の範囲内が好ましく、20〜65g/m2の範囲内がより好ましい。塗布量が80g/m2を超えると、インクの溶媒が十分蒸発していない場合においてインクのにじみが発生しやすくなる傾向にあり、また乾燥不良による塗装面のブロッキング現象を引き起こしやすくなる傾向にある。塗布量が15g/m2より少ないと、意匠性建材の耐久性や印刷模様の保護性が低下しやすくなる傾向にある。
但し、以上のクリアー塗料及びその塗布についての好適範囲外とすることによる性能低下または製造効率低下の程度は、得られる意匠性建材が実用不能になるようなものではなく、本発明の目的とする程度の性能を持つ実用可能な意匠性建材が本発明の目的とする程度の良好な歩留まりで得られるものである。
クリアー塗料の塗布の方法としては、通常採用されている塗装方法のいずれをも使用することが可能であり、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装等を適宜選択することが可能である。特に表面に凹凸を有する基材においては、基材形状への追従性や塗装処理速度の点から、エアレススプレー塗装や静電塗装が好適に使用できる。
クリアー塗料を塗装した後、塗料を乾燥もしくは硬化させる。乾燥条件は、塗料の種類により常温乾燥、強制乾燥、焼き付け乾燥或いは活性エネルギー線照射による硬化のいずれも用いることができ、使用する塗料配合により適宜選択することができる。なお、使用する塗料が水系の塗料である場合には、塗装直前のインク吐着基材の表面温度が30〜70℃とされていることが、良好な塗膜を形成する上で有効である。
本発明においては、以上のようにして得られた意匠性建材に対して、所望により、更に公知のフレキソ印刷、グラビアオフセット印刷またはシルクスクリーン印刷等により着色または模様付けを行うことができる。このような着色または模様付けは、インクジェット印刷により形成される着色または模様付けの領域に重なるように形成してもよいが、その領域とは異なる領域に形成することもできる。
以下、実施例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の実施例の内容が本発明の範囲を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
[実施例1〜4及び比較例1〜2]
シーラーの調製
使用シーラー:Vセラン#105Mシーラー(大日本塗料社製)
内容 ポリウレタン系溶剤希釈型シーラー
加熱残分:66.0%、p.w.c.:51.0%
p.w.c.=[顔料重量含有量/(顔料重量含有量+樹脂重量含有量)]x100
被印刷面形成塗料の調製
オレスターQ164(アクリル樹脂、三井化学社製、分子量23,000、加熱残分45%、比重0.95)26.5質量部、ビニライトVAGH(ビニル系コポリマー、ユニオンカーバイド社製、分子量27,000、加熱残分99%超、比重1.39)3.0質量部、酸化チタン(比重4.0)8.5質量部、タフチックHU720PS(架橋されたポリアクリル酸ナトリウム粒子、東洋紡社製、平均粒径50μm、比重1.05)4質量部[固形分中7.2容積%]、タルク(比重2.6)10.0質量部、珪藻土(比重2.6)13.0質量部、有機溶媒(酢酸ブチル:キシレン=1:1の混合溶媒)29.7質量部を練合して主剤とし、コロネートHX(イソシアヌレート、日本ポリウレタン工業社製、加熱残分99%超、比重1.15)5.3質量部を硬化剤として、調製した。尚、本塗料を塗布して作製した被印刷面の吸水量を前記測定方法にて測定したところ、3.7g/m2であった。また、本塗料を塗布して作製した被印刷面に顔料含有濃度が5.5質量%で体積が17plである水性インクの1ドットが吐着したときの吐着インクドットの径を測定したところ、黒色系インク85μm、赤色系インク65μm、黄色系インク66μm、及び青色系インク66μmであった。
インクの調製
メディアミルを用いて、以下の表1に示す配合にて、含有する顔料の粒子径が100nmになるまで練合して、各色インクを調製した。尚、以下の全ての表において、配合量は質量部で表されている。
クリアー塗料の調製
以下の表2に示す配合にて、ディスパー混合することにより、クリアー塗料を作製した。
上記のシーラー、被印刷面形成塗料、インク及びクリアー塗料を用いて意匠性建材の製造を行った。
基材としては、石膏スラグパーライト板(表面形状:6mmの凹凸差を有する小スタッコ柄)を使用し、その寸法は実生産に即した実製品サイズ(幅455x長さ3030x厚さ16mm)とした。上記シーラーを、粘度調整(フォードカップ#4で9秒に調整)し、エアースプレーにて乾燥質量で28g/m2となるように、上記基材の表面に塗布した。このシーラー乾燥膜は吸水量が1.0g/m2であった。シーラー塗装後に120℃で5分間の乾燥を行い、基材の表面温度を20℃まで冷却した。
次に、シーラー塗装された基材の表面に、上記被印刷面形成塗料を塗布した。被印刷面形成塗料は、粘度調整(フォードカップ#4で13秒)し、エアレススプレーにて乾燥質量で38g/m2となるように塗装した。
次いで、被印刷面形成塗料を各条件下で乾燥した後に、形成された被印刷面の表面が所定の温度となった時点で、被印刷面形成塗料の塗膜の硬化状況と、ノズル配列面下の設定間隙(距離)の通過性を評価した。また、インクのにじみ確認用に、基材表面の一部分に、寸法15x15cmの重量既知のアルミニウム箔を一時的に仮貼着し、直ちに上記各色インクをインクジェットプリンターにて吐出し、全面単一色に着色を行った。基材搬送速度を40m/分とした。尚、各色インクの吐出率は、黒色系インク25%、赤色系インク25%、黄色系インク25%、及び青色系インク25%であり、均等吐出率であった。
また使用したインクジェットプリンターは、ピエゾ式インクジェットプリンター(GP−604:ミマキ社製フルカラーインクジェットプリンター)であった。その後、アルミニウム箔を取り外し、吐着インク重量を測定した後、直ちに前記基板の表面の元の位置に再度仮貼着し、インクの各乾燥条件下にて乾燥させ、アルミニウム箔は再度取り外し、蒸発によるインク溶媒の減少量を測定した。
一方、基材については、上記クリアー塗料を塗布した。クリアー塗料は、粘度調整(フォードカップ#4で12秒)を行い、エアレススプレーにて乾燥質量で32g/m2となるように塗装した。塗装後に120℃で15分間乾燥させることにより、意匠性建材を得た。被印刷面の表面温度確保条件、吐着インクの乾燥条件、並びに意匠性建材の評価結果等を、表3に示す。
インク吐着直前の被印刷面の表面温度は、赤外線感知方式の温度計SK−8700(佐藤計量器製作所社製)により測定した。また、インク溶媒の蒸発による減少量は、前記方法にて測定した。
更に、各項目の評価の基準は次の通りとした:
被印刷面形成塗料の塗膜の硬化状況:被印刷面に指先を強く押し当てまた滑らせて、硬化度合いを触覚により以下の通りに判定した:
○:硬化充分である
△:やや硬化不足である
x:全く硬化不足である
ノズル配列面下間隙の搬送基材通過性:変形の無い正常基材の表面(頂部)からノズル配列下面までの間の間隙(距離)を10mmに設定し、この間隙を、各表面温度に調整された被印刷面を有する基材が、ノズル配列下面に接触や衝突することなく、搬送通過することが可能であったか否かを、以下の通りに判定した:
○:変形がなく又は軽微であり、通過に支障がない
△:変形がやや大きいが、辛うじて通過する
x:変形が大きく、通過不可である
意匠性:得られた意匠性建材の意匠性を、目視により以下の通りに判定した:
○:インクのにじみが無く、明確な模様が形成されている
△:多少のにじみはあるが、実用上問題ない程度に模様が形成されている
x:インクのにじみが発生し、明確に模様が形成されていない。
[実施例5〜8及び比較例3〜4]
以下の表4に示す配合にて、被印刷面形成塗料を調製した。尚、製造例1において、タフチックHU720PSの配合量は、固形分中7.2容積%となるようなものであった。調製した各被印刷面形成塗料を、粘度調整(フォードカップ#4で13秒)し、エアレススプレーにてそれぞれが乾燥質量で40g/m2となるように、ガラス板(寸法70x150mm)に塗布し、被印刷面形成塗料が常温乾燥型のものである場合(80℃で10分間加熱)の前記方法に準拠して、吐着インクドット径を測定した。インクとしては、以下の表5に示す配合のものを使用し、インクをインクジェットプリンターとしては、ミマキ社製フルカラーインクジェットプリンターGP−604を使用した。また、400DPIにて、長さ50mmの直線を描き、画質を評価した。その評価結果を表6に示す。
画質の評価は目視により行い、評価基準は次の通りとした:
○:明瞭な線が形成され、着色濃度も充分に濃い
△:明瞭な線が形成されているが、着色濃度が淡い
x:ドットが定着せず、不明瞭。
以上の結果の通り、本発明の範囲内である実施例1〜4においては、意匠性等に優れた建材を製造することが可能である。これに対し、本発明の範囲外である比較例1〜2においては、インクのにじみによる意匠性の低下、もしくは基材の反りが発生することによる印刷効率の低下が確認できる。
また、吐着インクドット径が所定範囲内にある実施例5〜8においては、良好な画質をもって印刷することが可能である。これに対して、吐着インクドット径が規定範囲より小さい若しくは大きい比較例3〜4においては、画質の低下が確認できる。