図1は、本発明の実施形態による車両の概略構成図である。図1に示すように、車両は、エンジン2と、トランスミッション4と、ACG40と、動力伝達機構50と、車両用空調装置(エアコン)52と、吐出圧センサ54と、エアコンECU56と、エンジンECU60と、AT−ECU70と、油圧制御装置72と、エアーフローセンサ80と、スロットル弁82と、吸気管84と、スロットル開度センサ86と、燃料噴射弁88と、エンジン水温検出センサ90と、エンジン回転数検出センサ92と、メインシャフト(入力軸)回転数検出センサ94と、カウンタシャフト回転数センサ96と、車速センサ98と、A/Cスイッチ100と、アクセルペダル開度センサ102と、シフトレバー104と、シフトレバーポジションセンサ106を主に含む。
エンジン2の吸気管84には、図示しないエアクリーナの下流に吸入空気量を計測するエアーフローセンサ80が設けられている。この吸入空気量には、EGRにより還流された排気ガスは含まれない。更に、エアーフローセンサ80の下流にDBW(ドライブバイワイヤ)方式のスロットル弁82が配置されている。スロットル弁82にはスロットル弁開度センサ86が連結されており、スロットル弁82の開度に応じて電気信号を出力する。
スロットル弁82の直ぐ下流には図示しない吸気管内絶対圧センサが設けられており、吸気管84の絶対圧に応じて電気信号を出力する。燃料噴射弁88はエンジン2とスロットル弁82のとの間且つ吸気管84の図示しない吸気弁の少し上流側に気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にエンジンECU60に電気的に接続されてエンジンECU60からの信号により燃料噴射時間が制御される。
エンジン2の本体に装着されたエンジン水温センサ90は、サーミスタ等からなり、エンジン水温(冷却水温)TWを検出して対応する温度信号を出力する。エンジン回転数センサ92はクランク軸2aの回転数NEを検出して対応する電気信号を出力する。センサ80,86,90,92のセンサ出力値はエンジンECU60及びAT−ECU70に入力される。
エンジン2のクランク軸2aがトランスミッション4に連結されている。トランスミッション4に設けられたトルクコンバータ6は、流体を介してトルクの伝達を行うものであり、クランク軸2aに連結されたフロントカバー6aと一体のポンプインペラ6bと、フロントカバー6aとポンプインペラ6bとの間でポンプインペラ6bに対向配置されたタービンランナ6cと、ステータ6dとを有する。
タービンランナ6cとフロントカバー6aとの間には、AT−ECU70の指令に基づく油圧制御装置72による制御により、フロントカバー6aの内面に向かって押圧されることによりフロントカバー6aに係合し、押圧が解除されることにより係合が解除されるロックアップクラッチ8が設けられている。フロントカバー6a及びポンプインペラ6bにより形成される容器内に作動油(ATF:Automatic Transmission Fluid)が封入されている。
AT−ECU70からの指令に基づきロックアップクラッチ8の係合が解除された状態では、ポンプインペラ6b及びタービンランナ6cの相対回転を許容する。この状態でクランク軸2aのトルクがフロントカバー6aを介してポンプインペラ6bに伝達されると、容器を満たしている作動油は、ポンプインペラ6bの回転により、ポンプインペラ6b→タービンランナ6c→ステータ6dと循環しながらポンプインペラ6bの回転トルクをタービンランナ6cに伝達し、メインシャフト10aを駆動する。
また、AT−ECU70からの指令に基づきロックアップクラッチ8が係合された状態では、フロントカバー6aからタービンランナ6cへと作動油を介さずに直接回転駆動力がメインシャフト10aに伝達される。
トランスミッション4は、更に、AT−ECU70からの指令に基づく油圧制御装置72による油圧の制御により、複数のシンクロクラッチが駆動されることにより変速動作が制御されるものであり、メインシャフト10a、メインシャフト10aに平行に配設されたカウンタシャフト10b及び互いに異なるギア比に設定されている複数のメインシャフト10a側とカウンタシャフト10b側に設けられたギア対、例えば、前進1〜5速ギア対及び後進ギア対を有する。
複数のギア対はメインシャフト10aに取り付けられた各入力側ギアとカウンタシャフト10bに取り付けられた各出力側ギアとから成り、対をなす各ギア同士は常に噛み合っている。
各入力側ギア又は各出力側ギアの何れか一方は、メインシャフト10a又はカウンタシャフト10bに対して相対回転自在とされ、各シンクロクラッチによって、メインシャフト10a又はカウンタシャフト10bに接続又は分離される。
例えば、図1では、複数のギア対のうち、前進ギア対の高速段(例えば、4速)と低速段(例えば、1速)の2個のギア対を一例として記載している。高速側ギア対の高速出力側ギア20b及び低速側ギア対の低速出力側ギア対22bはカウンタシャフト10bに対して一体に設けられている。
高速側ギア対の高速入力側ギア20a及び低速側ギア対の低速入力側ギア対22aはメインシャフト10aに対して回転可能のアイドルギアとされ、各シンクロクラッチ24,26によってメインシャフト10aに対して接続または分離される。
各シンクロクラッチ24,26は、例えば、図1に示すように、湿式多板クラッチ等により構成され、メインシャフト10aと一体に回転可能に配置された各アウタクラッチ板24a,26aと、アウタクラッチ板24a,26aと交互に重ね合わすように配置されてアウタクラッチ板24b,26bに当接可能とされ、メインシャフト10aに対してアイドルギアとされる入力側ギア20a,22aと一体的に回転可能に配置されたインナークラッチ板24b,26bと、AT−ECU70により制御される図示しない油圧アクチュエータとを有する。
各油圧アクチュエータは、摺動可能に配置されてピストン室を形成するピストンを有し、ピストン室に供給される作動油の油圧に応じてスラスト力を発生させ、各アウタクラッチ板24a,26aと各インナークラッチ板24b,26bとを相互に係合させることによって、トランスミッション4のカウンタシャフト10bと各入力側ギア20a,22aの何れかと一体に締結する。ピストン室内に供給される作動油の油圧は、AT−ECU70によるクラッチ油圧指令値に基づいて制御され、各シンクロクラッチ24,26の係合状態が調整可能とされる。
トランスミッション4のカウンタシャフト10bと一体に設けられた出力側ファイナルギア30aと、駆動輪Wに接続されたドライブシャフト32と一体に設けられた駆動側ファイナルギア30bとはファイナルギア対をなし、常に噛み合っている。
発電機(ACG)40は、エンジン2からのエンジン出力トルクによるオルタネータの回転により発電し、図示しないライト、カーステレオ等の電気負荷に電力を供給する低圧バッテリを充電する。また、ACG40は発電によるエンジン2のエンジン出力トルクの消費量を示す信号、例えば、オルタネータ回転数NACGに応じた信号を出力する。
動力伝達機構50は、エンジン2のエンジントルクをエアコン52が有する図示しない駆動軸に伝達するものである。エアコン52は、図示しない圧縮機と冷媒循環回路とを有し、冷媒循環回路より圧縮機に導入された冷媒ガスを吸入室に吸入し、動力伝達機構50を通して圧縮機に伝達されたトルクを用いた圧縮機に設けられたシリンダの往復運動により吸入した冷媒ガスを圧縮して、高圧ガスを吐出室を通して冷媒循環回路に吐出し、冷媒循環回路により冷媒の温度及び圧力に基づいて弁開度を自律的にフィードバック制御し、冷房負荷に見合った冷媒流量を調節する。
エアコン52に設けられたセンサ54は、エアコン52が消費しているエンジントルク量を示す電気信号を出力する。消費エンジントルクは動力伝達機構50より伝達されるトルクであり、例えば、エアコン52の吐出圧PDにより消費エンジントルク量が推定可能であることから、センサ54は吐出圧PDを検出する吐出圧センサにより構成する。
エアコンECU56は、A/Cスイッチ100のON/OFF状況、温度設定、室内の検出温度に基づいて、圧縮機の必要吐出ガス流量及びそれに対応する圧縮機の目標負荷トルクを算出し、圧縮機の実負荷トルクが目標負荷トルクとなるように、エアコン52をフィードバック制御することにより、室内の温度が設定温度となるようエアコン52を制御する。
エンジンECU60は、次のようにしてエンジン2を制御する。(1)目標エンジントルクを算出する。目標エンジントルクは、例えば、アクセルペダル開度センサ102より検出されたアクセルペダル開度AP及び車速センサ98より検出された車速VHから、アクセルペダル開度AP及び車速VHに応じたアクセルペダル開度AP’に補正する。エンジン回転数NE及びアクセルペダル開度AP’より、マップを検索して、目標エンジン出力トルクを算出する。(2)算出した目標出力トルクに応じて目標スロットル開度を決定し、目標スロットル開度となるようスロットル弁82の開度を調節する。(3)エンジン2の下流側に設けられる図示しない触媒コンバータの浄化率の向上するように空燃比(A/F)を算出する。(4)スロットル弁82の直ぐ下流に設けられる図示しない吸入空気圧センサからの吸入空気圧及び算出された空燃比に基づいて、目標燃料噴射量及び点火時期を算出して、目標燃料噴射量及び点火時期に応じて、燃料噴射弁88を制御する。(5)減速時のエンジントルクを必要としない所定の場合には、燃料噴射弁88を制御して、燃料供給をカット(フューエルカット)する。
尚、エンジンECU60へのセンサ86,87,90,92等からの入力ラインは図1では省略されている。
AT−ECU70は、次のようにしてトランスミッション4の変速を制御する。(1)車速VH及びスロット開度THから、シフトマップを検索して、行先段(変速段)を選択する。(2)現在係合している現在段(変速段)及び行先段に対応するシンクロクラッチ24,26の目標クラッチトルクを算出する。目標クラッチトルクに相当するクラッチ油圧指令値を算出し、油圧制御装置72を通して、シンクロクラッチ24,26に作動油を供給する。
エアコンECU56及びエンジンECU60は、エアコン52を制御するために必要な情報をやり取りするための通信機能を有する。また、エンジンECU60及びAT−ECU70は、AT−ECU70がトランスミッション4を制御するために必要な情報をやり取りするための通信機能を有する。
油圧制御装置72は、AT−ECU70からのクラッチ油圧指令値に従って、ロックアップクラッチ8及びシンクロクラッチ24,26に作動油を供給する。メインシャフト回転数センサ94はメインシャフト10aの回転数NMを検出する。カウンタシャフト回転数センサ96は、カウンタシャフト10bの回転数NCを検出する。車速センサ98は車速VHを検出する。尚、車速は、カウンタシャフト回転数NCにより検出することが可能であることから、カウンタシャフト回転数センサ96で車速センサ98を代用することも可能である。センサ94,96,98のセンサ出力値はAT−ECU70に入力される。
A/Cスイッチ100はエアコン52をON/OFFするスイッチであり、ON/OFF信号はエアコンECU56及びAT−ECU70に入力される。アクセルペダル開度センサ102はアクセルペダル開度APを検出する。センサ102のセンサ出力値は、エンジンECU60及びAT−ECU70に入力される。
シフトレバー104は、図示しない車両運転席付近に設けられて、車両の運転者の操作によって、例えば、8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれかが選択される。シフトレバーポジションセンサ106は、運転者によるシフトレバー104の操作により選択されたポジションを示す信号を出力する。センサ106のセンサ出力値は、AT−ECU70に入力される。
図2はAT−ECU70の本発明に係る自動変速機の制御装置150を示す機能ブロック図である。図2に示すように、自動変速機の制御装置150は、主制御手段152と、アップシフト制御手段154と、ダウンシフト制御手段156を有する。
主制御手段152は、シフトレバーポジションセンサ106からのポジションを示す信号、又は車速センサ98より検出された車速VH及びアクセルペダル開度センサ102より検出されたアクセルペダル開度APから、車速及びアクセルペダル開度と変速段の関係を示すシフトマップを検索して得られた行先段と現在段とを比較して、アップシフト/ダウンシフト/シフトなしのいずれであるかを判断する。アップシフトの場合は、アップシフト制御手段154が実行されるよう制御する。ダウンシフトの場合は、ダウンシフト制御手段156が実行されるよう制御する。
アップシフト制御手段154は、準備制御手段160と、トルク相制御手段162と、イナーシャ相制御手段164と、エンゲージ制御手段166を有する。準備制御手段160は、行先段のシンクロクラッチ(以下、クラッチと略す)に対する無効ストローク詰め作業を実現する。例えば、(1)行先段のクラッチに対するクラッチ油圧指令値(以下、油圧指令値)QATON(ON準備圧)を算出し、油圧制御装置72に出力する。(2)後述する入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値をOFF棚トルクTQOFとする。(3)OFF棚トルクに相当する油圧指令値QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。現在段をOFF側、行先段をON側と呼ぶ。
トルク相制御手段162は、トルク相のON,OFFクラッチトルクTQON,TQOFを算出し、TQON,TQOFに相当する油圧指令値QATON,QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。例えば、変速ショック軽減の観点より、トルク相を、トルク相開始〜中折れ、中折れ〜ブースト終了、ブースト終了〜トルク相終了の区間に分け、各区間のONクラッチトルクTQON及びOFFクラッチトルクTQOFを制御する。
(1)トルク相開始〜中折れでは、ONトルクTQONを0、入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値をOFFトルクTQOFとし、TQON,TQOFに相当する油圧指令値QATON,QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。
(2)中折れ〜ブースト終了では、入力軸推定トルクTTAPに所定のトルク相設定値を乗じて得た値と前回の目標トルクTQUTA1の大きな値を今回の目標トルクTQUTA1とし、目標トルクTQUTA1を直線補完してON側クラッチトルクTQONを算出する。入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値からON側クラッチトルクTQONを減算して、OFF側クラッチトルクTQOFとする。TQON,TQOFに相当するQATON,QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。
(3)ブースト〜トルク相終了では、入力軸推定トルクTTAPに所定のトルク相設定値を乗じて得た値と前回の目標トルクTQUTA1の大きな値を今回の目標トルクTQUTA1とし、トルク相開始時点でのメインシャフト回転数NM,ATF油温TATFから得られたブースト圧TQUTABから目標トルクTQUTA1までの間を直線補完してONクラッチトルクTQONを算出する。入力軸推定トルクTTAPに余裕加算トルク値#dTQUTRFを加算して得た値からONクラッチトルクTQONを減算して、OFF側クラッチトルクTQOFとする。TQON,TQOFに相当するQATON,QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。
図3は図2中のイナーシャ相制御手段164の機能ブロック図の一例を示す図である。図3に示すように、イナーシャ相制御手段164は、エンジン出力トルク推定手段170と、イナーシャ相初回エンジン出力トルク保持手段172と、Δトルク算出手段174と、エンジン出力トルク算出手段176と、入力軸推定トルク推定手段178と、イナーシャ相ONトルク算出手段180と、OFFトルク算出手段182と、ONイナーシャ相圧算出手段184と、OFFイナーシャ相圧算出手段186を含む。
エンジン出力トルク推定手段170は、F/Cカットされていない場合には、エアーフローセンサ80から出力されるシリンダ吸入空気量AFS及びエンジン回転数NEからエンジン出力トルクを推定し、F/Cされている場合には、エンジン回転数NE及びスロットル開度THより減速トルクをエンジン出力トルクとして推定し、推定したエンジン出力トルクに対してエンジンコントロール、エンジン状態、フリクションによりエンジン出力トルクのロス分を補正する手段である。
エンジン出力トルク推定手段170は、図4に示すように、フューエルカット判定手段200と、非フューエルカット時エンジン出力トルク推定手段202と、フューエルカット時エンジン出力トルク推定手段204と、エンジン出力トルク補正手段206を有する。フューエルカット判定手段200は、エンジンECU60によりフューエルカット(F/C)されているか否かを判定する。
非フューエルカット時エンジン出力トルク推定手段202は、F/Cされていない場合には、エアーフローセンサ80からのシリンダ吸入空気量AFSとエンジン回転数センサ92からのエンジン回転数NEから、吸入空気量及びエンジン回転数とロスがないと仮定したエンジン出力トルクとの関係を記憶するマップを検索し、エンジン出力トルクTEGAIR0を推定する。
エアーフローセンサ80からのシリンダ吸入空気量AFSを使用してトルク推定を行うのは、EGR、吸気温(TA)、大気圧(PA)、吸気弁のバルブタイミング(V/T)などの状態にかかわらず発生トルクを推定するためである。
ロスがないとは、最大エンジン出力トルクが得られる点火時期や空燃比等のエンジンコントロール及びエンジン水温等のエンジン状態、且つACG40及びエアコン52によるフリクションがない状態で出力されるエンジン出力トルクをいう。
フューエルカット時エンジン出力トルク推定手段204は、エンジン回転数NE及びスロットル開度THより、エンジン回転数及びスロットル開度と減速トルクとの関係が記憶されたマップを検索して、減速トルクTETHFCをエンジン出力推定トルクTEGAIR1として推定する。
エンジン出力トルク補正手段206は、エンジン出力推定トルクからトランスミッション4に伝達されない、エンジンコントロール、エンジン状態によるトルクダウン分及びフリクションによるトルクダウン分を補正する。
図5に示すように、エンジン出力トルク補正手段206は、点火時期トルクダウン率算出手段250と、エンジン水温トルクダウン率算出手段252と、空燃比トルクダウン率算出手段254と、トルクダウン率乗算手段256と、エアコントルクダウン量算出手段258と、ACGトルクダウン量算出手段260と、トルクダウン量減算手段262を有する。
点火時期トルクダウン率算出手段250は、エンジンECU60より出力される点火時期から、点火時期とトルクダウン率の関係を記憶するテーブルを検索し、点火時期に応じたトルクダウン率KTEIGを算出する。尚、トルクダウン率(以下に同じ)は、0〜1の範囲の値であり、最もトルクがダウンするとき、0、トルクダウンしないとき、1とする。
エンジン水温トルクダウン率算出手段252は、エンジン水温センサ90より出力されるエンジン水温TWより、エンジン水温とトルクダウン率の関係を記憶するテーブルを検索して、エンジン水温TWに応じたトルクダウン率KTETWを算出する。
空燃比トルクダウン率算出手段254は、エンジンECU60より出力される空燃比AFより、空燃比とトルクダウン率の関係を記憶するテーブルを検索して、空燃比A/Fに応じたトルクダウン率KTEAFを算出する。尚、空燃比が理論比のとき、トルクダウン率=1となる。
トルクダウン率乗算手段256は、エンジン出力トルクTEGAIR0に、点火時期トルクダウン率KTEIG、エンジン水温トルクダウン率KTETW、空燃比トルクダウン率KTEAFを乗算し(TEGAIR1=TEGAIR0*KTEIG*KTETW*KTEAF)、エンジンコントロールやエンジン状態によるトルクダウン分を補正したエンジン出力トルクTEGAIR1を出力する。
エアコントルクダウン量算出手段258は、エアコン52の使用によるトルクダウン量DTEHACを算出する。即ち、A/Cスイッチ100より出力されるON/OFF信号HACがエアコン52のOFFを示すとき、DTEHACに0を代入する。HACがエアコン52のONを示すとき、吐出圧センサ54より出力される吐出圧PDから、吐出圧とエアコントルクダウン量との関係を記憶したテーブルを検索して、吐出圧PDに応じたエアコントルクダウン量DTEHACを算出する。
ACGトルクダウン量算出手段260は、ACG40より出力されるオルタネータ回転数NACGから、オルタネータ回転数とACG負荷によるトルクダウン量の関係を記憶するテーブルを検索して、オルタネータ回転数NACGに応じたトルクダウン量DTEACGを算出する。
トルクダウン量減算手段262は、フューエルカット時エンジン出力トルク推定手段204より出力されるエンジン出力トルクTEGAIR1又はトルクダウン率乗算手段210より出力されるエンジン出力トルクTEGAIR1からエアコントルクダウン量DTEHAC及びACGトルクダウン量DTEACGを減算し(TQGAIR=TEGAIR1−DTEHAC−DTEACG)、フリクションによるエンジン出力推定トルクを補正して、エンジン出力推定トルクTQGAIRを出力する。エンジン出力推定トルクTQGAIRは、エンジンコントロールの影響を受けない精度の良いものである。
図3及び図7中のイナーシャ相初回エンジン出力トルク保持手段172は、イナーシャ相開始時点のエンジン出力トルクTQGAIR0を保持する。イナーシャ相開始時点のエンジン出力トルクを保持するのは、イナーシャ相における、エンジン回転数NEの変化によるエンジン出力推定トルクの影響を回避し、エンジン出力推定トルクを一定とするためである。イナーシャ相開始時点は、例えば、変速開始時点等の基準時点からタイマ計時により求められる。
Δトルク算出手段174は、イナーシャ相開始時点からのアクセルペダル102の踏み込みや戻し等、変速中のアクセルペダル102の操作によるエンジン出力トルクの変動分トルク(Δトルク)を算出するものである。図6及び図7に示すように、Δトルク算出手段174は、イナーシャ相初回エンジン回転数保持手段300と、車速補正手段302と、仮想スロットル開度算出手段304と、仮想PB算出手段306と、仮想エンジン出力トルク算出手段308、イナーシャ相初回推定トルク保持手段310と、減算手段312を有する。
イナーシャ相初回エンジン回転数保持手段300は、イナーシャ相開始時点のエンジン回転数NEBLを保持する。車速補正手段302は、車速センサ98より検出された車速VHとアクセルペダル開度センサ102により検出されたアクセルペダル開度APより、アクセルペダル開度及び車速と補正アクセルペダル開度の関係を記憶したテーブルより、車速VH及びアクセルペダル開度APに応じたアクセルペダル開度APREQTQTHを算出する。このように、車速に応じて、アクセルペダル開度を補正するのは、定速走行等の目標車速に対する追従性及びアクセルペダル102の操作に対するドライバビリティ等の向上を図るためである。
仮想スロットル開度算出手段304は、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBLと補正後アクセルペダル開度APREQTQTHより、エンジン回転数及びアクセルペダル開度とスロットル開度の関係を記憶したマップを検索して、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBL及び補正後アクセルペダル開度APREQTQTHに対応するスロットル開度THREQTQTHを算出する。
仮想PB算出手段306は、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBL及びスロットル開度THREQTQTHから、エンジン回転数及びスロットル開度と吸気管84の絶対圧(PB)の関係を記憶したマップを検索して、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBL及びスロットル開度THに対応する吸気管内絶対圧PBTQTH(仮想PB)を算出する。
仮想エンジン出力トルク算出手段308は、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBL及び仮想PB(PBTQTH)から、エンジン回転数及び吸気管内絶対圧とエンジン出力トルクの関係を記憶したマップを検索して、イナーシャ相開始エンジン回転数NEBL及び仮想PBに対応する仮想エンジン出力トルクTQUAITHを算出する。尚、エンジン回転数とアクセルペダル開度からエンジン出力トルクが推定できるものであれば、他の方法であっても良い。
イナーシャ相初回推定トルク保持手段310は、イナーシャ相開始時点の仮想エンジン出力トルクTQUIATH0を保持する。減算手段312は、イナーシャ相制御時点の仮想エンジン出力トルクTQUIATHからイナーシャ相開始時点の仮想エンジン出力トルクTQUIATH0を減算し(TQUIATH−TQUATH0)、減算結果が上限値を超える場合には上限値に等しい値、下限値を下回る場合には下限値に等しい値とするリミット処理を行い、ΔトルクDTQUIATHLを算出する。
リミット処理を行うのは、アクセルペダル102が過度に操作されることにより、エンジン出力トルクが過度に変化した場合には、ONクラッチトルクをそれに追従して変化させると、クラッチが発熱したり、変速時間が延びたりすることから、それを防止するためである。
図3中のエンジン出力トルク算出手段176は、図7に示すように、加算器320により、エンジン出力推定トルクTQGAIR0に制御時点のΔトルクDTQUIATLを加算し(TEPBL=TQGAIR0+DTQUIATHL)、スイッチ322を通して、補正エンジン出力推定トルクTEPBLを出力する。補正エンジン出力推定トルクTEPBLは、イナーシャ相開始時点のエンジン出力推定トルクTQGAIR0にイナーシャ相の制御時点でのアクセルペダル102の操作によるエンジン出力トルク変動分(Δトルク)DTQUIATHLが加算されているので、イナーシャ相におけるエンジン回転数NEの変動の影響が回避され、且つアクセルペダル102の操作によるトルク変動分が含まれる。尚、イナーシャ相以外の準備期間、トルク相及びエンゲージでは、スイッチ322を通して、エンジン出力推定トルクTQGAIRを出力する。
入力軸トルク推定手段178は、イナーシャ相の制御時点において、エンジン回転数NEからその変化に使用されたイナーシャ相開始時点のエンジンイナーシャトルクDTEIを算出し、算出されたエンジンイナーシャトルクDTEI及び変速開始時点でのエンジン回転数NEに対するメインシャフト回転数NMの比(NM/NE)で示されるトルコントルク比KTRLATより、トルコン滑り率とトルコントルク比の関係を記憶したマップを検索して得られたトルコン滑り率ETRに対応するトルクコンバータ6のトルコントルク比KTRLATを用いて入力軸推定トルクTTAPを次式(1)により推定する。
TTAP=(TEPBL−DTEI)*KTRLAT ・・・ (1)
DTEIはエンジン回転数NEの変化量DNEにエンジンイナーシャを乗算することにより得られる。但し、DTEIはトルクコンバータ6のスリップ率ETR>1.0、即ち、逆駆動状態では0とすると共にイナーシャ相では開始時点のものである。KTRLATはイナーシャ相開始時点のトルコントルク比である。
準備期間やトルク相では、入力軸推定トルクTTAPは次式(2)により算出する。
TTAP=(TQGAIR−DTEI)*KTR ・・・ (2)
但し、TQGAIRは制御時点のエンジン出力推定手段170の出力であり、DTEIは制御時点のエンジンイナーシャトルクである。KTRは制御時点のトルコントルク比である。
イナーシャ相ONトルク算出手段180は、入力軸推定トルクTTAPLに基づいて変速ショック軽減の観点より、ON側クラッチトルクTQONを算出する。例えば、イナーシャ相前側クラッチトルクTQUIA1=TTAP*{1+KGUIA1*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}、イナーシャ相中間クラッチトルクTQUIA2=TTAP*{1+KGUIA2*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}、イナーシャ相後側クラッチトルクTQUIA3=TTAP*{1+KGUIA3*((#RATIOn/#RATIOm)−1)}を算出し、TQUIA1,TQUIA2,TQUIA3及び制御時点のクラッチスリップ率(メインシャフト10aの回転数NM/カウンタシャフト10bの回転数NC)に基づいてONクラッチトルクTQONを算出する。但し、#RATIOnは現在段のギアレシオ、#RATIOmは行先段のギアレシオ、KGUIA1〜KGUIA3は変速ショック軽減の観点より決まる係数である。
OFFトルク算出手段182は、OFFトルクTQOFを0とする。ONイナーシャ相圧算出手段184は、ONクラッチトルクTQONに相当する油圧指令値QATONを算出し、油圧制御装置72に出力する。OFFイナーシャ相圧算出手段186は、OFF側トルクTQOFに相当する油圧指令値QATOFを算出し、油圧制御装置72に出力する。
図2中のエンゲージ制御手段166は、行先段クラッチが係合するために必要なエンゲージ油圧指令値QATON及び現在段クラッチが係合解除する油圧指令値QATOFを算出して、油圧制御装置72に出力する。ダウンシフト制御手段156は、ダウンシフトの変速制御を行う。主制御手段152、アップシフト制御手段154及びダウンシフト制御手段156は、繰り返し実行される。
図8〜図12は、自動変速機の制御方法の一例を示すフローチャートである。また、図13はリミット処理を示す図である。図14は入力軸推定トルクを算出するフローチャートである。図15〜図17は自動変速機の制御に係るタイムチャートである。以下、これらの図面を参照して、アップシフト時の変速制御方法の説明をする。ステップS2で、車速VH、スロットル開度THから、車速及びスロットル開度と変速段の関係を記憶したシフトマップを検索して、行先段(変速段)を決定する。行先段は、シフトレバー54による選択によっても決定される。
ステップS4で行先段と現在段とを比較して、アップシフト/ダウンシフトであるかを判定する。肯定判定ならば、ステップS6に進む。否定判定ならば、終了する。ステップS6でアップシフトであるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS8に進む。否定判定ならば、ステップS10に進む。
ステップS8で図9に示すアップシフト変速制御を行う。例えば、図15〜図17中の時刻t1において変速制御を開始する。ステップS50で準備開始であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS52に進む。否定判定ならば、ステップS60に進む。変速開始時点では準備開始されるので、ここでは、ステップS52に進む。ステップS52でONクラッチトルクTQONを0にする。ステップS54で現在段のクラッチの目標クラッチトルクを式(2)で示される入力軸推定トルクTTAPに基づき、OFF棚トルクTQOF(エンジントルクを保持するために必要なトルク量)を設定する。
ステップS56で無効ストローク詰めのためのON準備圧QATONを算出する。ステップS58でOFF棚トルクTQOFに相当するクラッチ油圧量QATOFを算出して、図7中のステップS2に戻る。ステップS2〜S8が実行され、再び、図9中のステップS50で準備開始であるか否かが判断されるが、準備開始ではないので、ステップS60に進む。
ステップS60で準備期間であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS62に進む。否定判定ならば、ステップS70に進む。ここでは、ステップS62に進む。ステップS62で準備期間を示すタイマの計時によりタイムアウトしたか否かにより準備終了であるか否かを判定する。否定判定ならば、ステップS52に進む。肯定判定ならば、ステップS64に進む。ここでは、準備期間が終了していないので、ステップS52に進み、準備期間終了までステップS52〜S58が実行される。
準備期間が終了すると、トルク相を制御するステップS64に進む。ステップS64でトルク相ON,OFFトルク算出する。ON,OFFトルクの算出は、上述のトルク相制御手段162で行われる。ステップS66でトルク相ONトルクTQONに相当するONトルク相圧QATONを算出する。ステップS68でトルク相OFFトルクTQOFに相当するOFFトルク相圧QATOFを算出する。
次に、ステップS70に進む。ステップS70でトルク相期間であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS72に進む。否定判定ならば、ステップS90に進む。ステップS72でタイマによりトルク相終了したか否かを判定する。否定判定ならば、ステップS64に進む。肯定判定ならば、ステップS74に進む。ここでは、トルク相が終了していないので、ステップS64に進み、ステップS64〜S68がトルク相終了まで実行される。
トルク相が終了すると、ステップS72でトルク相終了が判定されて、トルク相が終了すると、ステップS74に進む。ステップS74で、図10に示すイナーシャ相ONトルクを算出する。図10中のステップS150で図11に示すエアーフローセンサ80のセンサ値からエンジン出力トルクTQGAIRを推定する。図11中のステップS200でフューエルカット(F/C)中であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS202に進む。否定判定ならば、ステップS212に進む。ステップS202で、エアーフローセンサ80の出力値AFSとエンジン回転数NEから、図11に示すように、エンジン回転数及びシリンダ吸入空気量と最大に出力されるエンジン出力トルクの関係を予め記憶したマップを検索し、エアーフローセンサ出力値AFSとエンジン回転数NEに応じたエンジン出力トルクTEGAIR0を算出する。
ステップS204で、エンジンECU60より出力される点火時期より、図11に示すように、点火時期とトルクダウン率KTEIGの関係を示すテーブルを検索し、点火時期に応じたトルクダウン率KTEIGを算出する。ステップS206で、エンジン水温センサ90より出力されるエンジン水温TWより、図11に示すように、エンジン水温とトルクダウン率KTETWの関係を示すテーブルを検索し、エンジン水温TWに応じたトルクダウン率KTETWを算出する。
ステップS208で、エンジンECU60より出力される空燃比AFより、空燃比とトルクダウン率KTEAFの関係を示すテーブルを検索し、図11に示すように、空燃比AFに応じたトルクダウン率KTEAFを算出する。ステップS210で、TEGAIR1にTEGAIR0*KTEIG*KTETW*KTEAFを代入し、ステップS220に進む。
一方、ステップS200で否定判断であれば、ステップS212に進み、エンジン回転数NEとスロットル開度THから、図11に示すように、エンジン回転数及びスロットル開度と減速トルクTEHHFCの関係を示すマップを検索し、エンジン回転数NEとスロットル開度THに応じた減速トルクTETHFCを算出し、ステップS214に進む。ステップS214でTEGAIR1にTETHFCを代入し、ステップS220に進む。
ステップS220で、A/Cスイッチ100がONであるか否かを判定し、否定判定であれば、ステップS224に進み、肯定判定であれば、ステップS222に進む。ステップS224で、エアコン52がOFFなので、トルクダウン量DTEHECに0を代入し、ステップS226に進む。一方、ステップS220で肯定判定ならば、ステップS220でエアコン52の吐出圧センサ54より検出されたエアコン吐出圧PDから、図11に示すように、エアコン吐出圧とトルクダウン量DTEHACの関係を示すテーブルを検索し、エアコン吐出圧PDに対応するトルクダウン量DTEHACを算出し、ステップS226に進む。
ステップS226でACG40のオルタネータ回転数NACGから、図11に示すように、オルタネータ回転数とトルクダウン量DTEACGの関係を示すテーブルを検索し、オルタネータ回転数NACGに応じたトルクダウン量DTEACGを算出する。ステップS228で、エンジン出力トルクTEGAIG1からエアコン52によるトルクダウン量DTEHAC及びACG負荷によるトルクダウン量DTEACGを減算し(TEGAIR1−DTEHAC−DTEACG)、エンジン出力推定トルクTQGAIRに代入して、図10中のステップS152に戻る。
ステップS152でイナーシャ相初回(開始時点)であるか否か判定する。肯定判定ならば、ステップS154に進む。否定判定ならば、ステップS158に進む。ここでは、イナーシャ相初回であるので、ステップS154に進む。ステップS154でイナーシャ相開始時点のエンジン回転数NEをNEBLに保持する。ステップS156でイナーシャ相開始時点のエンジン出力推定トルクTQGAIRをTQGAIR0に保持する。図15(b)〜図17(b)に示すように、イナーシャ相開始時点t2において、エンジントルク推定値TQGAIR0が保持される。
ステップS158で図11に示すΔトルクDTQUIATHLを算出する。図11中のステップS250で車速VH及びアクセルペダル開度APから、車速及びアクセルペダル開度とアクセルペダル開度補正値の関係を示すテーブルを検索し、車速VH及びアクセルペダル開度APに対応する仮想アクセルペダル開度補正値APREQTQTHを算出する。
ステップS252でイナーシャ相開始時点エンジン回転数NEBL及び仮想アクセルペダル開度補正値APREQTQTHより、エンジン回転数及びアクセルペダル開度とスロットル開度の関係を示すマップを検索し、イナーシャ相開始時点エンジン回転数NEBL及びアクセルペダル開度補正値APREQTQTHに対応する仮想スロットル開度THREQTQTHを算出する。
ステップS254でイナーシャ相開始時点エンジン回転数NEBL及び仮想スロットル開度THREQTQTHから、エンジン回転数及びスロットル開度と吸気管絶対圧の関係を示すマップを検索し、イナーシャ相開始時点エンジン回転数NEBL及び仮想スロットル開度THREQTQTHに対応する仮想吸気管絶対圧PBTQTHを算出する。ステップS256でイナーシャ相開始時点エンジン回転数NEBL及び仮想吸気管絶対圧PBTQTHから、エンジン回転数及び吸気管絶対圧とエンジン出力トルクの関係を記憶するマップを検索し、仮想エンジン出力トルクTQUIATHを算出する。
ステップS258でイナーシャ相初回であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS260に進む。否定判定ならば、ステップS262に進む。ここでは、ステップS260に進む。ステップS260において、イナーシャ相初回の仮想エンジン出力トルクTQUIATHをイナーシャ相初回仮想エンジン出力トルクTQUIATH0に保持し、ステップS262に進む。ステップS262で制御時点の仮想エンジン出力トルクTQUAITHからイナーシャ相開始仮想エンジン出力トルクTQUIATH0を減算し(TQUIATH−TQUIATH0)、ΔトルクDTQUIATHに代入する。ここでは、イナーシャ相開始時点なので、DTQUIATH=0となる。
ステップS264でΔトルクDTQUIATHに対して上限値及び下限値からリミット処理、即ち、図13に示すように、ΔトルクDTQUIATHが、上限値を越える場合には上限値(>0)、下限値(<0)を下回る場合には下限値とし、DTQUIATHLに代入する。
次に、イナーシャ相開始終了すると、イナーシャ相が終了するまでステップS250〜S264の処理が実行されて、イナーシャ相制御時点エンジン出力トルクTQUIATHからイナーシャ相初回エンジン出力トルクTQUIATH0が減算されて、アクセルペダル102の操作によるエンジン出力トルクの変動分であるΔトルクDTQUIATHLが算出される。
イナーシャ相でアクセルペダル一定の場合は、15(b)に示すように、ΔトルクDTQUIATHLが0となる。また、図16(b)中のa1に示すように、アクセルペダル102が踏み込まれた場合は、a2に示すように、イナーシャ相制御時点でのイナーシャ相開始時点からのアクセルペダル102の踏み込み量に応じたΔトルクDTQUIATHL(>0)が算出される。図17(b)中のc1に示すように、アクセルペダル102が戻された場合は、c2に示すように、イナーシャ相制御時点でのイナーシャ相開始時点からのアクセルペダル102の戻し量に応じたΔトルクDTQUIATHL(<0)が算出される。そして、図10中のステップS160に戻る。
ステップS160でイナーシャ相開始エンジン出力推定トルクTQGAIR0にΔトルクDTQUIATHLを加算し(TQGAIR0+DTQUIATHL)、エンジン出力推定トルクTEPBLを出力する。
アクセルペダル102が一定であれば、図15(b)に示すように、イナーシャ相制御時点でのエンジン出力推定トルクTEBPLはイナーシャ相開始時点のものと同じになる。また、アクセルペダル102が踏み込まれると、図16(b)中のa3に示すように、アクセルペダル102の踏み込み量に応じたトルク変動分DTQUIATHL(>0)が加算されて、イナーシャ相制御時点でのエンジン出力推定トルクTEBPLはイナーシャ開始時点よりも増加する。
アクセルペダル102が戻されると、図17(b)中のc3に示すように、アクセルペダル102の戻し量に応じたトルク変動分DTQUIATHL(<0)が加算されて、イナーシャ相制御時点tでのエンジン出力推定トルクTEBPLはイナーシャ開始時点よりも減少する。
一方、イナーシャ相制御時点でのエンジン回転数NEに応じてエンジン出力トルクを推定する方法では、図15(a),16(a),17(a)に示すように、エンジン回転数が減少するイナーシャ相では、エンジン回転数の減少に伴い、エンジン出力推定トルクが変動する。
ステップS162で図14に示す入力軸推定トルクTTAPを算出する。図14中のステップS300で補正後エンジン出力推定トルクTEPBL>0であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS302に進み、否定判定ならば、ステップS304に進む。ステップS302で補正後エンジン出力推定トルクTEPBL>エンジンイナーシャDTEIであるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS306に進み、TTAP=(TEPBL−DTEI)*KTRLATを算出し、図10中のステップS164に戻る。ステップS304でTTAP=TEPBLを算出し、図10中のステップS164に戻る。DTEI及びKTRLATはイナーシャ相開始時点のイナーシャトルク及びトルコントルク比である。
ステップS164で上記イナーシャ相ONトルク算出手段176は入力軸推定トルクTTAPLに基づいてONトルクTQONを算出し、図9中のステップS76に進む。ステップS76でOFFトルクTQOFを0にする。ステップS78でONトルクTQONに相当するONイナーシャ相圧QATONを算出する。ステップS80でOFFトルクTQOFに相当するOFFイナーシャ相圧QATOFを算出する。
アクセルペダル一定の場合には、図15(b)に示すように、イナーシャ相制御時点の入力軸推定トルクTTAPはイナーシャ相開始時点の入力軸推定トルクに等しくなり、ONクラッチトルクTQONがそれに追従するので、イナーシャ相において、従来よりも車両の前後・上下の加速度Gの変化が小さくなり変速ショックが緩和される。
また、アクセルペダルが踏み込まれた場合には、図16(b)中のa4に示すように、イナーシャ相制御時点の入力軸推定トルクTTAPはイナーシャ相開始時点の入力軸推定トルクにアクセルペダルの踏み込み分のトルクが加算されたものとなり、a5のように、ONクラッチトルクTQONがそれに追従するので、イナーシャ相において、従来よりも車両の前後・上下の加速度Gの変化が小さくなり変速ショックが緩和されるとともにアクセルペダル102の操作が考慮されているので走行性が向上する。
アクセルペダルが戻された場合には、図17(b)中のc4に示すように、イナーシャ相制御時点の入力軸推定トルクTTAPはイナーシャ相開始時点の入力軸推定トルクにアクセルペダルの戻し分のトルクが減算されたものとなり、c5のように、ONクラッチトルクONがそれに追従するので、イナーシャ相において、従来よりも車両の前後・上下の加速度Gの変化が小さくなり変速ショックが緩和されるとともにアクセルペダル102の操作が考慮されているので走行性が向上する。
図16中のb1に示すように、アクセルペダル102が過度に踏み込まれたときは、b2に示すように、Δトルクが上限値でリミット処理される。そのため、b3,b4,b5に示すように、エンジン出力推定トルクTEPBL,入力軸推定トルクTTAP,ONクラッチトルクTQONが過度に変化することがなくなり、変速ショックGが長引くことを防止できる。
また、図17中のd1に示すように、アクセルペダル102が過度に戻されたときは、d2に示すように、Δトルクが下限値でリミット処理される。そのため、d3,d4,d5に示すように、エンジン出力推定トルクTEPBL,入力軸推定トルクTTAP,ONクラッチトルクTQONが過度に変化することがなくなり、変速ショックGが長引くこと及び変速時間が延びることを防止できる。
次に、ステップS90に進む。ステップS90でイナーシャ相期間であるか否かを判定する。肯定判定ならば、ステップS92に進む。否定判定ならば、ステップS100に進む。ステップS92でタイマ計時によりイナーシャ相終了したか否かを判定する。否定判定ならば、ステップS74に進む。肯定判定ならば、ステップS94に進む。ここでは、イナーシャ相が終了していないので、ステップS74に進み、ステップS74〜S80がイナーシャ相終了するまで実行される。
イナーシャ相が終了すると、ステップS92でイナーシャ相終了が判定されて、ステップS94に進む。例えば、図15〜図17中の時刻t3において、エンゲージが開始される。ステップS94でONエンゲージ圧QATONを算出する。ステップS96でOFFエンゲージ圧QATOFを算出する。
次に、ステップ100に進む。ステップS100でアップシフト終了したか否かを判定する。肯定判定ならば、終了する。否定判定ならば、ステップS94に進む。ステップS94,S96がアップシフト終了するまで実行される。図8中のステップS2に戻って、ステップS2〜S8、又はステップS2〜S6,S10までの処理が繰り返して実行される。
以上説明したように、イナーシャ相中にアクセルペダル一定の場合はエンジン出力推定トルクが一定となり、スムーズな変速ショックが可能となり、また変速中のアクセルペダルの踏み込みや戻しの場合は、アクセルペダル操作による発生するエンジントルク相応のクラッチ圧をコントロールすることができる。更に、Δトルクに対してリミット処理を行うので、変速ショックが長引くこと及び変速時間が延びることを防止できる。