JP4733498B2 - 鍛造成形品、その製造方法、鍛造成形装置および鍛造品製造システム - Google Patents
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Description
そこで、鋳物より品質面で信頼性の高い、鍛造による成形が検討されている。
例えば、特開平6−190493号公報には、製品部の縁部に余肉部が形成された金属製鋳造素材を形成し、この金属製鋳造素材を鍛造する時、上述の余肉部を材料の塑性流動の拘束部とすることで、縁部の材料の流れを拘束し、割れ(クラック)の発生を防止すると共に、製品内部に高い圧縮応力を発生させ、塑性変形による組織の微細化で機械的強度の向上を図ることを目的として、製品形状に近似した製品部の縁部に余肉部が形成された金属製鋳造素材を形成する第1工程と、上記第1工程後、上記製品部および余肉部を型鍛造により鍛造成形して、上記余肉部の加圧によって材料の塑性流動を抑制しつつ、製品部を圧縮成形する第2工程とを備えたことを特徴とする成形方法が開示されている。
その後、第二工程(G)、(H)にて、最終形状に鍛造成形する。通常の合金組成の鍛造用素材であれば、この工法によって、最終成形品を製造することができる。しかし、本発明で使用する合金の場合は、第二工程の成形途中である工程(G)でGG部位に割れが発生する。割れた口は、厚肉部が完全に充満した時点で再度閉じるという過程を経ている。最終成形品の外観検査、インクチェックによってその欠陥が観測される。縦方向の断面を観察すると、その深さは、表面から3〜10mm位まで到達している。
このように、難加工材を用いて、前方押ししながら、後方に形状を作ろうとすると割れを改善できない。特にエンジンピストンの場合、ピンボス側の中子部で三点曲げが働き、冠面側に割れが発生する。
一方では、前述したように予備成形により鍛造素材を得た後に本成形する方法が検討されてきたが充分な結果を得られていない。
例えば、特開平10−80761号公報、特開平6−190493号公報の方法では、鋳造により鍛造用素材を成形後に鍛造する方法が開示されているが、鋳造により成形された鍛造用素材は、内部にポロシティが多数あるので、たとえ、充分な高温強度を有したとしても品質の高い成形品が得られない。
この発明は上記に鑑み提案されたもので、難加工材を用いて最終製品で割れの発生していない製品、およびその製造方法、上記製品を安定して生産する鍛造装置、鍛造生産システムを提供することを目的とする。
(2)前記鍛造成形品がエンジンピストンであって、中心部位は該エンジンピストンの天井部位であり、他方の厚肉部位はピンボス部位であることを特徴とする上記(1)に記載の鍛造成形品の製造方法である。
また、本発明において、前記アルミニウム合金製難加工性材料の高温下(例えば、成形時の素材温度×0.7)℃である300℃)での機械的特性は、引張応力が70〜120MPa、0.2%耐力が40〜80MPa、伸びが15〜25%、疲労強度が45〜85MPaであるので、材料の高温疲労強度が高いので、近年、高温強度特性が要求される鍛造成形品(例えばエンジンピストン等)に使える点が好ましい。また、成形品が、高出力、高温下の環境下で過酷に使用しても破壊しない鍛造成形品となる。
図1において、工程(A)で棒状材を所定の長さに切断した鍛造用素材10を準備し、工程(B)で厚肉部位11の最終形状の97体積%以上を成形する。ここで97体積%とは、第一工程鍛造でほとんど最終形状と同一の厚肉部位11の形状を成形することであり、現実には本成形に使用する上金型と厚肉部位との間に僅かなクリアランスが存在するという意味である。
次に、その一次成形品(予備成形品)Yを、本成形である工程(C)、(D)に投入して厚肉部位12を成形して最終成形品Zとする。その結果、引張応力は発生しなくなり、割れの発生を抑えることが出来る。一般に、引張強度は、温度が上がると低くなり割れやすくなる傾向があり、塑性加工性は温度が下がると加工性が悪くなる。本発明では、予備成形で厚肉部位11の最終形状の97体積%以上を成形することで適切な圧縮応力を付与し、第二工程目において塑性加工性を維持できる温度においても割れを抑えることができる。
図2に示すのは、本発明の鍛造品であるエンジンのピストンヘッド13の縦断面図である。図2に示すように、本発明の鍛造成形品の製造方法で製造する成形品は、中心部位Mと、鍛造方向の前後両側に厚肉部位S,Tを備えている。ここでは、中心部位Mの平均厚さ(L)と、厚肉部位の最大厚さ(D)との比(L/D)が1/2〜1/20となっている。例えば、エンジンピストンの場合では、中心部位Mの体積と、厚肉部位Tの体積との比が0.7〜1.2となっている。塑性加工率は75%以上である。
本発明に用いる素材の製法は、連続鋳造、押出、圧延等いずれであっても良い。アルミニウムやアルミニウム合金の場合、連続鋳造された丸棒材が安価で好ましい。例えば、昭和電工株式会社製SHOTIC材(登録商標)が挙げられる。アルミニウム合金においては、気体加圧式ホットトップ鋳造法で連続鋳造された丸棒材が、優れた内部健全性を持ち、結晶粒が微細であり、かつ、塑性加工による結晶粒の異方性がないため、摩擦抵抗部の抵抗効果を安定的に得ることができるので好ましい。
組成
素形材の材料としては、鍛造で塑性加工が困難なAl−Si系合金として、急冷凝固粉末を用いたAl−Si系粉末冶金合金を用いることもできる。Si:11〜12%、Cu:3〜5%、Mg:1〜1.4%、Fe:4〜6%を含有したアルミニウム合金が好ましい。
耐摩耗性向上のためSiを添加する。Siの好ましい含有量は11〜12である。高温引張強度、高温疲労強度を向上させるため、Cu、Fe、Mgを添加する。好ましい含有量範囲としては、Cu:3〜5、Fe:4〜6、Mg:1〜1.4である。
高温疲労強度が高くなると、高温強度特性が要求される鍛造成形品(例えばエンジンピストン等)に使える点が好ましい。
<粉末材からの棒の製造方法>
所定の上記の組成に調整した溶湯を、大気アトマイズ法によって急速冷却で凝固させて粉末状にする。粉末を混合した後、ビレット状(例えば直径200mm)に圧縮成形後、例えば、熱間押出によって隙間の無い均一組織の粉末押出材として丸棒状(例えば直径84mm)に成形する。
このようにして得られた合金は、アトマイズ粉末の組織が10μm以下の初晶および共晶Siを含む微細組織であり、遷移元素X(Fe、Ni、Mn)の添加により生成したXを含む金属間化合物も押出処理によって破断されて微細・均一組織となっているので、高温引張応力、高温疲労強度特性が高くなるので好ましい。
図3は、本発明の鍛造成形品の製造方法の第一工程鍛造に使用される上下金型の一例を示す断面図である。
本実施例において上金型14の成形孔15が、中心部位Mの上方に形成される厚肉部位Sの最終形状の97体積%以上を成形する形状となっている。
ここで、厚肉部位Sの最終形状の97体積%以上とは、図2に示す厚肉部位Sの「最終形状の輪郭形状」と「予備成形品の輪郭形状」とを比較して、一致する範囲が97%以上(ほとんど同一の形状を成形する)という意味である。また、厚肉部位Sの最終形状の97%以上を成形した部位が自由鍛造で成形されるように成形孔15の形状を設けることもできる。
下金型16は、鍛造用素材10がほぼそのままの形で収納される成形孔17が形成されるとともに、製品を排出するノックアウトピン18が配設されている。
図4は、本発明の鍛造成形品の製造方法の第二工程鍛造に使用される上下金型の一例を示す断面図である。
本実施例において、上金型19の成形孔20が、予備成形品Yの一方の厚肉部位22との間の隙間が3体積%以下となる形状となっている。
ここで、予備成形品Yの一方の厚肉部位22と上金型19との間の隙間が3体積%以下とは、厚肉部位22の最終形状の輪郭形状と上金型の成形孔20の輪郭形状とを比較して、一致しない範囲が3体積%以下という意味であり、ほとんど隙間無しの状態で成形するという意味である。
また、下金型23には、厚肉部位Tを形成するための成形孔24が形成されており、製品を排出するためのノックアウトピン25が配設されている。
本発明で使用する鍛造は型鍛造であり、本発明に用いる鍛造装置の構成の一例を図面をもとに説明する。図5は、本発明の一実施例を示す鍛造装置の概略構成図である。ここで、鍛造装置は、鍛造機50と、上ボルスター51に取りつけられた上金型19と、下ボルスター52に取り付けられた下金型23とを含むものである。本装置に用いる金型の一例は、図4に示したものと同様である。金型は、上金型19と、下金型23と、ノックアウトピン53とを含むものである。本図では、成形品の一方の厚肉部位S(エンジンピストンの場合は冠面部)を上金型19で、他の最大厚さの厚肉部位T(エンジンピストンの場合はピンボス部)を下金型23で形成する金型の組み合わせである。一方の厚肉部位Sを成形する上金型19は底面中央部の突起部を形成するような成形孔20を有している。
また、他の実施例(図示せず)として、一方の厚肉部位S(エンジンピストンの場合は冠面部)は下金型を用いて、他の最大厚さの厚肉部位T(エンジンピストンの場合はピンボス部)を上金型を用いて形成する金型の組み合わせとすることもできる。
第一工程は、例えば、図5に示した鍛造装置、および図3に示した鍛造金型を用いて鍛造成形する。図6は、第一工程鍛造で成形する形状が複数の凹凸を有する場合の鍛造成形プロセスを模式的に示した説明図である。図6において、工程(A)で棒状材を所定の長さに切断した鍛造用素材10を準備し、工程(B)で厚肉部位26の最終形状の97体積%以上を成形する。本実施例において、厚肉部位26は複数の凹凸を有している。鍛造用素材10は、成形品に合わせて丸棒材を所定の長さに切断して準備する。鍛造用素材10は鍛造する前に予備加熱処理を施す。予備加熱処理の温度条件は350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃での範囲とするのが好ましい。処理時間は鍛造用素材全体の温度が予備加熱温度範囲に到達するまでとし、その後鍛造工程に入る。350℃未満では鍛造用素材10を熱間鍛造した時に充分な塑性流動が得られず、又(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃を超えると鍛造用素材にバーニング(局所溶解)が発生するおそれがある。バーニングが発生すると鍛造製品の強度が激しく劣化するか、製品がフクレ、ミクロシュリンケージなどの局所溶解による欠陥を生じる場合があるので好ましくない。より好ましくは、420℃〜480℃さらに好ましくは460±20℃である。
より好ましくは、金型温度150℃〜250℃、さらに好ましくは250℃〜350℃である。
鍛造用素材には、基本的には、潤滑材処理を施さないのが好ましい。素材潤滑を実施する事により、一工程増え、コストアツプになるからである。また、潤滑剤を使用しないほうが、環境には良いからである。但し、成形品の形状によっては、成形性を良くしたり、荷重低減、金型潤滑量を減らす目的で潤滑剤処理を実施してもよい。
ここで得られた予備成形品Yは、一方の厚肉部位26の最終形状の97体積%以上を成形した予備成形品Yである。
以上により、一方の厚肉部位26の最終形状の97体積%以上を成形した形状部位の応力が(備成形時の素材温度×0.7)℃における引張応力値以下、たとえば70MPa以下の引張応力で成形される予備成形品Yを得ることができる。また、予備成形品の一方の厚肉部位の成形時の伸びが、(成形時の素材温度×0.7)℃での伸びの値を超えない値とする。
また、一方の厚肉部位26の最終形状の97体積%以上を成形した部位(図4に符号22で示す)は自由鍛造で成形することが可能であるが、第一工程で用いる金型19(通常上金型)の成形孔20が一方の厚肉部位の最終形状の97体積%以上を成形した形状を有していて、第一工程で鍛造用素材をその形状を有した成形孔20に充満させることが好ましい。
これによって、二次成形時において、確実に、予備成形品Yと二次成形金型(上金型)が接触した状態で、二次金型(下金型)の最大厚さの厚肉部位を成形でき、上型形状の一方の厚肉部位に圧縮応力をかけたまま最終製品が成形できる為、健全な成形品が得られるからである。
次に、図5に示した鍛造装置および図4に示した鍛造金型を用いて第二工程鍛造を行う。先ず、予備成形品Yは鍛造する前に予備加熱処理を施す。予備加熱処理の温度条件は350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃での範囲とするのが好ましい。処理時間は、鍛造用素材全体の温度が予備加熱温度範囲に到達するまでとし、その後鍛造工程に入る。350℃未満では予備成形品Yを熱間鍛造した時に充分な塑性流動が得られず、又(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃を超えると予備成形品Yにバーニング(局所溶解)が発生するおそれがある。バーニングが発生すると鍛造製品の強度が激しく劣化するか、製品がフクレ、ミクロシュリンケージなどの局所溶解による欠陥を生じる場合があるので好ましくない。より好ましくは、420℃〜480℃さらに好ましくは460±20℃である。
より好ましくは、金型温度150℃〜250℃、さらに好ましくは250℃〜350℃である。
鍛造に際しては金型に潤滑剤を塗布してから実施するのが好ましい。製品が汚れにくく、環境に優しく、比較的安価なので、水溶性潤滑剤が好ましい。但し、場合によっては、金型寿命を向上させたり、製品の成形性を向上させるために油性潤滑剤を併用してもかまわない。
成形された最終成形品はノックアウトピン25により下金型23から取出される。
本発明で得られた、最終成形品Zは、高温引張強度、高温疲労強度に優れたものであって、表面に割れ欠陥の発生の無いものとなる。
鍛造によって得られた第二工程済成形品は、そのまま使用することも出来るが、Cu、Mgなどが添加された合金では、熱処理によって材料の機械的特性が向上するので、熱処理として人工時効処理を施すのが好ましい。人工時効処理は、たとえば、加熱温度が400〜550℃で保持時間を1〜10時間行った後に直ちに成形品素材を水中に没して行う溶体化処理と、その後150〜250℃で1〜20時間の焼き戻しを行うことが好ましい。これにより、硬度を始めとして、機械的特性(例えば引張強度、0.2%耐力)や疲労強度を高めることが出来る。
図7〜図11は、第一工程鍛造で使用する上下金型と第二工程鍛造で使用する上下金型の他の変形例を示す説明図である。図7(a)は、図6に示す複数の凹凸を備えた厚肉部位26を有する予備成形品Yを得るための第一工程鍛造で使用する上金型70、下金型71を示すもの、図7(b)は、最終成形品Zを得るための第二工程鍛造で使用する上金型72、下金型73を示すものである。
また、図8(a)(b)は、上に単純な凸形状を有する厚肉部位27を有する予備成形品Y、さらに下に左右非対称な厚肉部位を有する最終成形品Zを得るための第一工程鍛造で使用する上金型80、下金型81、および第二工程鍛造で使用する上金型82、下金型83を示すものである。
また、図9(a)(b)は、上に盛り上がりの大きな凸形状を有する厚肉部位28を有する予備成形品Y、さらに下に左右対称な厚肉部位を有する最終成形品Zを得るための第一工程鍛造で使用する上金型90、下金型91、および第二工程鍛造で使用する上金型92、下金型93を示すものである。
また、図10(a)(b)は、上に左右非対称の凹凸形状を有する厚肉部位29を有する予備成形品Y、さらに下に左右対称な厚肉部位を有する最終成形品Zを得るための第一工程鍛造で使用する上金型100、下金型101、および第二工程鍛造で使用する上金型102、下金型103を示すものである。
また、図11(a)(b)は、上に左右非対称な凸形状を有する厚肉部位30を有する予備成形品Y、さらに下に左右非対称な厚肉部位を有する最終成形品Zを得るための第一工程鍛造で使用する上金型111、下金型112、および第二工程鍛造で使用する上金型113、下金型114を示すものである。
図14は、本発明の鍛造品製造システムの一例を示す概略構成図である。この鍛造生産システムは、連続鋳造装置701、均質処理装置702、矯正装置703、ピーリング装置704、素材切断装置705、予備潤滑処理装置707、素材加熱処理装置708、および鍛造装置(鍛造機械)709から構成される。鍛造装置709は、上記の鍛造用金型を含んだ構成である。
鍛造装置が1台の場合は第一工程(1F工程)/第二工程(2F工程)の金型を段取り換えする。または、第一工程、第二工程それぞれ専用の鍛造装置を設けてもよい。
また、必要に応じて、鍛造装置709の後段に、溶体化加熱装置710、焼き入れ装置711、時効処理装置712を設けてもよい。また、連続鋳造装置701の前段に、溶湯の純度を良くするための溶湯処理装置(図示省略)を設けてもよい。
また、必要に応じて、第一工程、第二工程の鍛造装置の前に鍛造用素材の予備加熱、さらに潤滑処理をする装置を設けることができる。
そして、各装置間の搬送に自動搬送装置を設けることで一貫生産ラインを構成することができる。さらに、素材供給装置(図示せず)と、素材搬送装置(図示せず)と、成形品搬出装置(図示せず)とを含ませた一貫自動生産システムがより好ましいシステムである。
均質処理装置702は、材料を均質化処理するためのものであり、省略することができる。鍛造装置709は、鍛造用素材を鍛造するためのものである。成形品搬出装置はノツクアウトピン機構により成形品を金型内から排出し次工程に搬送するためのものである。素材加熱装置708は、鍛造用素材を再結晶温度以上に加熱して鍛造加工性を高めるためのものである。時効処理装置712は、取り出した成形品を連続的に溶体化・時効処理を実施する熱処理のためのものである。
材料強度は、表1に示した均質化処理、据え込み加工、T6処理(溶体化:495℃×1時間、水焼入れ、時効:200℃×6時間)を実施した後に、試料を切り出し測定した。
成形品の強度測定には成形したエンジンピストンに時効処理した後に、エンジンピストンのヘッド部から試料を採取し測定した。割れ発生結果、成形性、機械強度、品質、それらの総合評価の評価結果を表に示した。
品質は、試験片の断面を観察して「巣」や結晶粒の荒れが認められたものを×、認められなかったものを◎とした。
従来の材料を使用した場合で、エンジンピストンの成形は、密閉鍛造で本成形1回の鍛造による一発成形を実施して、形状を得た。従来材の場合、成形性が良く、最終成形品に割れなどの欠陥は発生しない。しかし、従来材の場合は、近年過酷な条件が要求される高温疲労強度要件を満足しない。よって、高い高温疲労強度が得られる難加工性材の使用が必要であることを示している。
難加工性材Aを使用して、従来材と同条件で、予備成形せずに本成形1回の鍛造による一発成形を実施した結果、最終成形品に割れが発生した。高温引張強度、高温疲労強度がいくら高くても、製品に割れが発生したので、使用することは出来ない。割れの部分が起点になり、繰り返し使用していくと、破壊に至ってしまうからである。割れが発生する理由としては、難加工性材Aは、従来材に比較して、引張強度は高いが、伸びが低いため(約1/2)成形性が悪く、割れが発生すると考えられる。
本成形1回の鍛造では、加工率が高くなりすぎ割れが発生すると考え、据込による予備成形で鍛造用素材を大きくする成形を実施し、2回の加工率で成形することを試みた。しかし、最終成形品に割れが発生し、結果としては、比較例2と大きな差がなかった。
割れの発生を抑えるために、鍛造温度を上げて成形性を良くして、割れの発生を改善する方法が考え、据込による予備成形と第2成形時の温度を上昇させて鍛造を実施した。成形性は向上したが、結局、本発明で用いられる難加工性材Aに対しては、成形品に割れが発生した。
第2成形時の温度をさらに、上昇させ、成形性を向上させる鍛造を試みた。素材温度としては、予備成形品でバーニング(局所融解)が発生する限界付近の温度で実施した。結果としては、成形性は比較例4より向上したが、さらに割れの発生状況は悪化した。
難加工性の合金を単に鋳造した成形品では、機械的強度の要求(高温引張強さ、高温疲労強度)を満足したとしても、安定した品質を得る事が出来ない。また、鋳肌のため外観品質が良くなく、寸法精度も粗くなる。さらに、内部欠陥が多く発生し、安定した品質を確保するために成形品が肉厚になり、軽量化が図れないなどの問題点が多い。
本発明の実施例の結果を説明する。
上述したように予備成形品Yがフラット状態、つまり素材径を大きくした予備成形品Yでは、割れが発生した。よって、上記問題を改善するために、本発明の実施例では、予備成形時の段階において、最終成形時の一方の厚肉部を予め成形してしまう方法を実施した。一方の厚肉部位の最終形状の97体積%以上成形した予備成形品Yを得る第一工程鍛造を実施した。その後、予備成形品Yの一方の厚肉部位と金型との間の隙間が3体積%以下の状態を維持しながら最終形状に成形する第二工程鍛造を実施した。その結果、今まで発生した割れは改善された。
よって、最終成形品に割れが発生せず、機械特性(高温強度、高温疲労強度)を満足する成形品を得ることが出来た。
本実施例では、より割れの抑制を図ろうと金型温度を上昇させ鍛造を実施した。その結果、より一層割れを抑制できた。金型温度が低いと、鍛造素材の温度が金型に抜熱され、成形性が悪くなり、割れが発生する恐れがある。よって、金型温度を上昇させることにより、より一層割れを抑制できると考えた。
本実施例では、難加工材Aの素材温度を上昇させ鍛造を実施した。温度を上昇させ、最終成形品への鍛造を実施した結果、成形性は向上した。その結果、温度範囲を上昇させて鍛造することができることが確認でき、運転管理幅が大きくなり、安定した生産を実施する事が出来ることが確認できた。
本実施例では、難加工性材Bの鍛造性を向上させるために連続鋳造棒の熱処理温度を変更した。処理温度を370℃から470℃に変更した。その結果、成形性は非常に良くなり、割れの心配も全く考えられなくなった。但し、機械的特性である高温引張強度、高温疲労強度は若干低下した。成形品の耐久強度要件によっては、成形性の良い処理条件470℃を選定するのが好ましい。
本実施例では、難加工性材成分の組成上限で鋳造した鍛造用素材を用いて鍛造を実施した。熱処理条件は370℃とした。高温引張強度、高温疲労強度は最も良く、非常に優れたものが成形する事が出来た。しかし、強度が高い分、伸びが低下し、成形性は悪くなった。
本実施例では、難加工性材成分の上限材で、熱処理条件を470℃で実施した鍛造用素材を用いて鍛造を実施した。その結果、成形性が良く、機械特性(高温引張強度、高温疲労強度)の良い、非常に優れた成形品を得る事が出来た。
本実施例では、難加工性材成分の下限で鋳造した鍛造用素材を用いて鍛造を実施した。熱処理条件は370℃とした。機械的特性は、中央組成材、上限組成材に劣るが、成形性は非常に向上した。下限成分でも、従来材よりは、機械的持性が優れているので、成形品の耐久強度要件によっては本成形品を使用しても良いことが確認出来た。
本実施例では、難加工性材成分の下限材で、熱処理条件を470℃で実施した鍛造用素材を用いて鍛造を実施した。機械的特性は、中央組成材、上限組成材に劣るが、成形性は非常に向上した。下限成分でも、従来材よりは、機械的特性が優れているので、成形品の耐久強度要件によっては本成形品を使用しても良いことが確認出来た。
本実施例では、連続鋳造材でなく、アトマイズ法製粉末材から得られた棒状材を使用して鍛造を実施した。粉末材は非常に組織が緻密のため、高温引張強度、高温疲労強度が非常に高い。粉末材を使用しても、本発明で、割れのない、機械特性の高い最終成形品を得る事が出来た。
一方の厚肉部位の最終形状の95体積%未満を成形した予備成形品Yを製造した後に本成形した本比較例の場合は、最終成形品Zに割れが発生していた。成形性、機械特性等は、◎であった。
予備成形品Yの一方の厚肉部位と最終成形用金型との隙間が5体積%を越えた場合の比較例であり、最終成形品Zに割れが発生していた。
また、実際に成形を実施する前に鍛造シミュレーションを実施して、実際の成形結果とシュミレーションでの結果を比較して成形品の割れの有無が一致することを確認した。鍛造シミュレーションのソフトは汎用のもの(DEFORM)を使用した。シュミレーーション条件は、実際の鍛造条件と同等条件で実施した。また、計算で使用する難加工性材の物性値データも実験により得られたデータを基に計算した。
引張り応力は、実際のプレスでは測定することは出来ないが、事前に数値シミュレーションして確認した。シミュレーションの結果、従来の工法に従って成形した厚肉部の予備成形をしない鍛造用素材を用いて、最終成形品に鍛造した場合の結果は、一方の厚肉部位に最大引張応力が75〜80MPa発生している事が確認できた。高温域での引張応力が70〜80MPaであるこの難加工性材料では、成形時の(素材温度×0.7)℃での引張応力値を超えているので割れが発生する可能生があることが確認できた。
本発明の工法に従って成形した一方の厚肉部位の形状を97体積%以上に転写された予備成形品素材を用いて、最終成形品に鍛造した場合では、常に一方の厚肉部位には、圧縮応力が発生しており、引張応力は発生しておらず、割れが発生する可能性がないことが確認できた。
予備成形品Yの一方の厚肉部位の成形時の伸びが(成形時の素材温度×0.7)℃での伸びを超えないように成形することで、割れが発生する可能性がないことが確認できた。
この結果から、数値シュミレーションを実施することにより、応力、伸びを確認することで実際の試作成形前に割れの予測ができる。その結果、無駄な試作を減らすことができるので、開発のスピードはアップし、また、開発コストも低減させることができる。
Z 最終成形品
10 鍛造用素材
11 厚肉部位
12 厚肉部位
13 ピストンヘツド
14 上金型
15 成形孔
16 下金型
17 成形孔
18 ノックアウトピン
19 上金型
20 成形孔
22 厚肉部位
23 下金型
24 成形孔
25 ノックアウトピン
26 厚肉部位
50 鍛造機
51 上ボルスター
52 下ボルスター
53 ノックアウトピン
Claims (12)
- 中心部位の鍛造方向両側に厚肉部位を有する鍛造成形品の製造方法において、
(成形時の素材温度×0.7)℃での機械的特性は、引張応力が70〜120MPa、0.2%耐力が40〜80MPa、伸びが15〜25%、疲労強度が45〜85MPaであるアルミニウム合金製難加工性材料を鍛造用素材として用いて、
一方の厚肉部位の形状として最終形状の97体積%以上まで成形した予備成形品を一次成形金型を用いて得る第一工程鍛造の後、
第二工程鍛造として、前記予備成形品の一方の厚肉部位との間の隙間が3%体積以下となる形状の成形孔を有する金型と、他方の厚肉部位を成形するための成形孔を有する金型からなる二次成形金型により、前記予備成形品の一方の厚肉部位と金型とがほぼ全域に亘って接触した状態を維持しながら前記一方の厚肉部位と他方の肉厚部位を最終形状まで成形し、
得られる鍛造成形品の中心部位の平均厚さ(L)と、他方の厚肉部位の最大厚さ(D)との比(L/D)が1/2〜1/20であることを特徴とする鍛造成形品の製造方法。 - 前記鍛造成形品がエンジンピストンであって、中心部位は該エンジンピストンの天井部位であり、他方の厚肉部位はピンボス部位であることを特徴とする請求項1記載の鍛造成形品の製造方法。
- 前記アルミニウム合金製難加工性材料は、Si:10.5〜13.5質量%、Cu:3〜5質量%、Ni:1〜3質量%、Fe:0.1〜0.5質量%、Mg:0.8〜1.2質量%を含有したアルミニウム合金の急冷連続鋳造棒であることを特徴とする請求項1または2に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 前記アルミニウム合金製難加工性材料は、Si:11〜12質量%、Cu:3〜5質量%、Mg:1〜1.4質量%、Fe:4〜6質量%を含有したアルミニウム合金を大気アトマイズ法によって粉末状にした後、ビレット状に圧縮成形後、熱間押出によって丸棒状に成形し切断したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 前記予備成形品の一方の厚肉部位の成形時の引張応力が、(成形時の素材温度×0.7)℃での引張応力の値以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 前記予備成形品の一方の厚肉部位の成形時の伸びが、(成形時の素材温度×0.7)℃での伸びの値を超えないように成形することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 第一工程鍛造に用いる一次成形金型温度は、100℃〜400℃、第二工程鍛造に使用する素材温度は350〜500℃でそれぞれ保持されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 第一工程鍛造で成形された予備成形品に、第二工程鍛造投入前に、潤滑処理を実施した後、本成形することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法から得られることを特徴とする鍛造成形品。
- 請求項9に記載の鍛造成形品はエンジンピストンであって、前記中心部位は該エンジンピストンの天井部位であり、他方の厚肉部位はピンボス部位であることを特徴とする鍛造成形品。
- 請求項1〜8のいずれか1に記載の鍛造成形品の製造方法に用いられ、
前記第一工程鍛造に用いられる一次成形金型と、前記第二工程鍛造に用いられる二次成形金型とを有することを特徴とする鍛造成形装置。 - 請求項11に記載された鍛造成形装置を含んで構成された鍛造品製造システム。
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