JP2004027922A - 内燃機関用鍛造ピストン、その素材およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】一方向からの凝固により製造したアルミニウム合金の鍛造用素材を用いて、その最終凝固面側での機械的特性を改善し、機械的特性の差を小さくし、かつ機械加工工程の効率、品質を改善した内燃機関用鍛造ピストンの製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程とを含むことを特徴とする内燃機関用鍛造ピストンの製造方法によって解決される。
【選択図】図13
【解決手段】アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程とを含むことを特徴とする内燃機関用鍛造ピストンの製造方法によって解決される。
【選択図】図13
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム合金を用いた内燃機関用鍛造ピストンとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車、二輪車、船外機などの輸送機器、芝刈機などの農機具等に用いられる内燃機関ピストンの製造方法としては金型重力鋳造法(GDC鋳造法)が主流であった。金型重力鋳造とはアルミ合金地金を溶解し、複数の部品から構成される金型に注湯し、鋳造するものであり、鋳造欠陥の発生を抑制するため押湯と呼ばれる大幅な余肉を付加して鋳造している。この鋳造されたものを素材として用いる場合は、この押湯部分を切断除去し、熱処理を実施し、機械加工を施して内燃機関用ピストンとなる。しかしながら多くの改良や鋳造装置の開発を経ても引け巣や酸化物の巻き込みなどの欠陥を充分に抑えることはできていなかった。また、鋳造素材のもつ脆性(伸び不足)および強度不足の問題により、部品に加工した場合安全率を高くした設計が必要であり、近年内燃機関を用いている輸送機器などの求められている軽量化のニーズに必ずしも応えられていない。また、押湯を余肉の形で設けることにより材料歩留まりが低下し、また鋳造工程のサイクルタイムが30秒以上となり生産性の面でも問題点を抱えている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として連続鋳造棒または押出棒を鍛造用素材として用いた鍛造による製造方法が挙げられる。
【0004】
この鍛造法では、次のようにピストンを製造する。まず溶解したアルミニウム−ケイ素系合金を連続鋳造して押出し用ビレットとする。その後、溶質元素の偏析や凝固時の収縮によって発生した内部応力を均質化するための熱処理(均質化処理)を施した後、押出し加工にて細径丸棒に加工する。または、連続鋳造法によって細径連続鋳造棒を製造し、その後均質化処理を施し面削加工して細径丸棒に加工する。次にこれらの丸棒材を鍛造用素材として所定の長さに切断する。その鍛造用素材を予備加熱した後に熱間鍛造機にて鍛造加工して、ピストンの形状にほぼ近い形状に成形する。その後人工時効処理等の熱処理を施した後に、必要に応じて機械加工を施してピストン素材に仕上げる。用途によっては耐摩耗性や、耐熱強度を向上するために、ピストンヘッド面や、側面のうちトップリングよりピストンヘッド面側の面に、アルマイト処理や被膜形成処理を行うことがある。しかし、これらの製造方法はGDC鋳造法に比較して製造工程が多く、金型、素材ともにGDC鋳造法よりも高価であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
GDC鋳造法では、鋳造時の酸化物の巻き込みや引け巣が不可避である。
従来の鍛造工法を用いた場合は、投入される個々の鍛造素材の重量バラツキが大きいためにそれに起因して金型への負荷が大きくなるので金型寿命が短くなる。
【0006】
一方、一方向からの凝固によって製造されたアルミニウム合金鋳塊にあっては、その内部品質が、鋳巣、引け巣、ピンホール、酸化物の巻き込み等の欠陥のない良好なものとなる。しかも、閉塞性の鋳型に注湯するので、溶湯の計量を実施することなく注湯量が常に一定となり、さらには、鋳型内のメニスカス部に大きな曲面が形成されることもなく、アルミニウム合金鋳塊の寸法や重量に大きなバラツキが発生する虞れもない。しかし、そのアルミニウム合金組織は強制冷却する初期凝固面側と最終凝固面側とで異なり、最終凝固面側では、デンドライトアームスペーシング(dendrite arm spacing、デンドライト2次枝間隔、以下「DAS」という。)が大きく、また結晶粒径も大きくなる傾向にある。
【0007】
アルミニウム合金鋳塊の金属組織において、DASが大きく、また結晶粒径が大きくなると、引張強度や0.2%耐力、伸びといった機械的特性は、一般に弱くなる傾向にある。したがって、上記の一方向からの凝固により製造した金属鋳塊の場合でも、その最終凝固面側が初期凝固面側に比べて機械的特性が劣ってしまい、それを製品にした場合も、機械的特性に差が発生するという問題点を有していた。
【0008】
一方、従来のGDC鋳造法で製造した鋳物を用いた場合は、機械加工工程において、押し湯を切断除去後、外径をチャッキングしてスカート端部および内径部を加工基準の着座としてまず最初に機械加工し、次にチャッキングを加工の済んだ内径部に持ち替えて、外径およびピン穴加工を実施していた。このチャッキング方法を用いる場合は、外径および天井面の平面度が機械加工の寸法精度に大きく影響するためGDC鋳造法で製造した鋳物を用いた場合は、スカート部の偏肉状態、天井面からピン穴の位置精度が望まれる製品仕様の規格外となり完成した内燃機関ピストンの機能に影響を及ぼすことがしばしば見られた。
【0009】
また、機械加工工程にて発生するコストはチャッキングも含めたサイクルタイムに依存している。そのため、チャッキングの回数を減らし、サイクルタイムを縮めることが望まれている。
【0010】
本発明は上記に鑑み提案されたもので、一方向からの凝固により製造したアルミニウム合金の鍛造用素材を用いて、その最終凝固面側での機械的特性を改善し、機械的特性の差を全体として小さなものとし、かつ機械加工工程の効率、品質を改善した内燃機関用鍛造ピストンの製造方法およびその素材を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、新規の鍛造用素材と内燃機関用鍛造ピストンの製品特性について鋭意研究を行ないその知見に基づいて本発明を完成するに至った。
1)上記課題を解決するための第1の発明は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程と
を含むことを特徴とする内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
2)上記課題を解決するための第2の発明は、鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする1)に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
3)上記課題を解決するための第3の発明は、機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部を機械加工時のチャック部および加工基準として用いることを特徴とする1)または2)に記載の内燃機関用ピストンの製造方法である。
4)上記課題を解決するための第4の発明は、機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部をチャッキングしこのチャッキングした状態で行なった機械加工の後に、当該突起部を切削除去することを特徴とする1)乃至3)のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法である。
5)上記課題を解決するための第5の発明は、予備加熱処理の温度条件が350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃の範囲であることを特徴とする1)乃至4)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
6)上記課題を解決するための第6の発明は、1)乃至5)のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストンである。
7)上記課題を解決するための第7の発明は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
を含む内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法である。
8)上記課題を解決するための第8の発明は、鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする7)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法である。
9)上記課題を解決するための第9の発明は、アルミニウム合金を原料とし、ピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であって、7)または8)に記載の製造方法によって製造される内燃機関用鍛造ピストン素材である。
10)上記課題を解決するための第10の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることを特徴とする9)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
11)上記課題を解決するための第1の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍であることを特徴とする9)または10)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
12)上記課題を解決するための第12の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であることを特徴とする9)乃至11)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
13)上記課題を解決するための第13の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状または円錐台状であることを特徴とする9)乃至12)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
14)上記課題を解決するための第14の発明は、ヘッド面がその中央部に有している円柱状または円錐台状の突起部が、外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする13)に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
15)上記課題を解決するための第15の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱に加え、突起が円柱側面に円柱外径方向に設けられた形状であることを特徴とする9)乃至13)のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
16)上記課題を解決するための第16の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状の円柱外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであって、円柱側面に設けられた突起の幅が縦方向、横方向ともに3〜8mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする15)に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
17)上記課題を解決するための第7の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状でありその側面の一部が平面である形状であることを特徴とする9)乃至13)のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
18)上記課題を解決するための第18の発明は、アルミニウム合金が、ケイ素を6〜25質量%含有することを特徴とする9)乃至17)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
19)上記課題を解決するための第19の発明は、アルミニウム合金が、Siを6〜25質量%、Cuを0.3〜7質量%、Mgを0.1〜2質量%、Niを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする9)乃至18)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
【0012】
本発明では、金属組織観察の手法に従って作成した試料について顕微鏡観察を行い、得られた観察像に対して画像解析処理装置を用いて、観察面に露出した粒子一個一個の断面形状を等価円に置き換え、その円の直径を粒子の直径とするHEYWOOD径の平均値を平均粒径とした。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材は、バルブリセスを有するヘッド面、厚肉部であるスカート部、リブ、ヘッド面付近、ピストンピン孔を含んだ構成で、ヘッド面中央部に突起部が成形されている。図2に本発明のピストン素材の一例の外観図を示す。図1に、本発明のピストンの断面図の一例を示す。
【0014】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンは、該素材を用いて機械加工をして形を整えた後にヘッド面中央部の突起部を除去したものである。
【0015】
本発明によるピストンの製造方法の一例を説明する。
本発明の製造方法は、以下の工程を含むものである。
1)アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程。
2)該鍛造用素材を予備加熱処理する工程。
3)該鍛造用素材を、一方向凝固の最終凝固面と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ヘッド面の塑性加工率が70%以上であり、かつヘッド面中央部に突起部が形成されるように鍛造してピストン素材に成形する工程。
4)該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程。
【0016】
尚、機械加工の工程は、中間加工、仕上げ加工の複数工程とすることができる。中間加工では、仕上げ加工の準備加工として、下穴加工、仕上加工での切削代を低減するための粗加工などを実施する。
【0017】
塑性加工率は、素材内の組織が塑性加工を受けて変位した量と加工前の状態との比で定義される。単純な素材の形状が直方体の場合、一般には、塑性加工前後の素材の形状ともとの形状との長さ、面積などの比を用いて、加工率は据え込み率、鍛伸率として定義されている。本発明のピストン素材においては、単純な形状でないために据え込み率、鍛伸率として評価できないので、定義の考え方をもとに次ぎのように加工率Kを算出する。これにより求められた加工率Kを用いた評価は、上記定義と同等の評価となる。
【0018】
加工率 K=|(L−L0)|/L0×100
L:加工後の標点間距離、L0:加工前の標点間距離
【0019】
加工率Kの求め方の例を図12、図13を用いて説明する。
鍛造成形前の素材上に標的P1、P0を設定してそれらの標的間距離を求めておく。次に、鍛造成形後の素材上で先に設定した標的の鍛造後の位置P1’、P0’を確認してそれらの標的間距離を求める。求められた加工後の標点間距離(L)、加工前の標点間距離(L0)を上記定義に代入して、加工率を求めることができる。
【0020】
例えば、図12に示す従来のピストン素材の形状の場合には、次のような加工率となった。素材のピストンヘッド面の表面上に標的P1、P0を5mm間隔に設定し、その箇所をマーキングして鍛造した。その後に、標的P1、P0に対応する標的P1’、P0’の間隔を測定すると8mmであった。よって、この場合は、加工率Kは、K=(8−5)/5×100=60%となった。
【0021】
例えば、図13に示す本発明のピストン素材の形状の場合には、次のような加工率となった。素材のピストンヘッド面の表面上に標的P1、P0を5mm間隔に設定し、その箇所をマーキングして鍛造した。その後に、標的P1’、P0’の間隔を測定すると12mmであった。よって、この場合は、加工率Kは、K=(12−5)/5×100=140%となった。
【0022】
なお、あらかじめ塑性加工を加えたものを鍛造用素材として鍛造成形する場合は、塑性加工率は最終的な塑性加工率が70%以上であればよい。このような場合の最終的な塑性加工率は、(予め与えた塑性加工率(例えば据込率)+上記で求めた塑性加工率K)として求めることができる。あらかじめ塑性加工を加える工程としては、例えば鍛造(冷間、熱間)、鍛伸据込加工、圧延、押出し、転造加工、ロータリフォージング(転動加工)等を挙げることができる。
【0023】
次ぎに、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程について説明する。
【0024】
鍛造用素材は原料であるアルミニウム合金を一方向凝固鋳造法により鋳造することで得られる。使用する鋳造装置としては例えば特開平9−174198号公報に開示されている図3の装置を挙げることができる。
【0025】
符号301は冷却板で、その上に主鋳型302が配置されている。主鋳型302の上部には溶解炉等(図示せず)からのアルミニウム合金の溶湯307の受槽303が設けられ、図3ではその底部は鋳型の上部と一体になっている。そして溶湯受槽303と鋳型とは注湯口304により連通している。ここで、注湯口はピストン素材のヘッド面の突起部の位置に合わせるのが好ましい。注湯口304には開閉栓305が設けられ、鋳型への溶湯の注入は開閉栓を上下に駆動する装置(図示せず)により開閉栓を引き上げて行い、注入された溶湯は溶湯上面が上向きに上昇し、注入終了後、または予め定められた一定時間経過後、開閉栓を下げて溶湯を遮断する。符号308は蓋、符号309は溶湯を所定温度に維持するための電気炉である。冷却板301はその下にスプレーノズル310により水などを噴射して冷却する。符号311はケース、符号312は排水口である。
【0026】
鋳型内に注入されたアルミニウム合金の溶湯は、冷却板を通しての抜熱により上部鋳型壁に向かって一方向凝固する。金属組織は冷却速度の影響を受け、共晶ケイ素粒子や初晶ケイ素粒子(総称してケイ素粒子とも呼ぶ。)は、冷却速度が早いほど細かく、遅いほど粗くなる。本装置を用いた場合、冷却板側の冷却速度が最も早く、上部鋳型壁面近傍が最も遅いことから、アルミニウム−ケイ素系合金の凝固で晶出する、ケイ素粒子の大きさは、冷却板側で小さく、上部鋳型側で大きくなり、その結果、粒径の分布が傾斜した組織を備えた鋳塊306が得られる。
【0027】
原料のアルミニウム合金としては、ケイ素量を6〜25質量%(より好ましくは8〜17質量%。)含有するものが好ましい。ケイ素量が6質量%未満では耐摩耗性に劣り、25質量%を超えると耐摩耗性のそれ以上の効果は発露されず、むしろ過剰となることにより鍛造時に割れが発生する等、鍛造性が悪くなるおそれがある。更に、機械加工工具の刃物の寿命が低下するおそれがある。
【0028】
ケイ素以外に、アルミニウム合金に時効硬化性を具備させてピストンの硬度と機械的特性を高めることが可能となるので、Cuを0.3〜7質量%(より好ましくは1〜5質量%。)、Mgを0.1〜2質量%(より好ましくは0.3〜1質量%。)から選ばれるいずれかを単独もしくは2種以上を組み合わせて添加することが好ましい。更にAgやScを添加するのが好ましい。その場合は、1.5質量%以下とするのが好ましい。
【0029】
内燃機関ピストンはエンジン内部で、燃料の燃焼によって高温に晒されるので、高温時の強度を確保することも要求されるので、高温時の強度改善金属とするためにNiを0.1〜2.0質量%(より好ましくは0.5〜1.5質量%。)添加することが好ましい。さらに、Fe、Mn、Zr、Ti、W、Cr、V、Co、Moから選ばれるいずれかを単独もしくは2種以上を組み合わせて添加する事も効果的である。
【0030】
更に、共晶ケイ素粒径の微細化に有効であるNa、Ca、Sr、Sbから選ばれるいずれか1種または2種以上を改良剤として添加するのが好ましい。共晶ケイ素粒径が粗大化して鍛造性や、機械加工時の工具摩耗に悪影響を与えることを防止することができるからである。
【0031】
更に、初晶ケイ素粒子が発生する場合には、初晶ケイ素粒径の微細化のためにPを添加することが一般的に行われる。溶湯中にNaやCa等が存在するとPの効果を阻害して初晶ケイ素粒径が微細化しなくなるので、Na,Caはその合計量が、50質量ppm以下とするのが好ましい。それを越えて含まれると、初晶ケイ素粒径が極端に粗大化するので、鍛造性が悪くなるおそれがあるだけでなく、切削加工時の切削工具の寿命を短くするおそれがある。
【0032】
本発明で鍛造に用いる鋳塊は、上記合金を溶湯として用いて、共晶ケイ素粒子や初晶ケイ素粒子の粒径が、下部の冷却板側で小さく上部の鋳型側で大きい、傾斜した組織を備えた鋳塊が得られるように、冷却板からの抜熱を制御することにより製造することができる。
【0033】
傾斜した組織として、たとえば、鋳塊の上部側での共晶ケイ素平均粒径(A)と冷却板側との共晶ケイ素平均粒径(B)との比(A/B)が1.5以上であって、上部側での共晶ケイ素平均粒径(A)が4.0μm以上となるものとすることができる。
上記のような傾斜組織を得るための鋳造時の冷却速度の制御方法としては以下のような条件を挙げることができる。例えば、一方向凝固の冷却条件が、凝固用の鋳型の上面から5mm、外周から5mm内部に入った位置eでの冷却速度(E)が0.5℃/秒以上であり、かつ該位置eと凝固用の鋳型の底面から1mm、外周から5mm内部に入った位置fでの冷却速度(F)との比(E/F)が0.85以下である。
【0034】
上記範囲であれば、前述したような傾斜した組織を有した鍛造用素材を製造することができ、その結果、その鍛造用素材を用いた鍛造方法によって、鍛造加工時の加工性に優れ、機械加工工程における加工性に優れ、かつ耐摩耗性に優れた内燃機関用鍛造ピストンを得ることができる。
【0035】
鋳塊形状は、上記の傾斜組織の条件を満たすもので有れば、上下面が平行な円盤の他に、ピストン形状に合わせた形状、例えば、上下面が平行ではない平面からなる形状を備えた鋳塊、上下面の一方あるいは両方が凹凸面を備えた鋳塊でも良い。鍛造金型への負荷を軽減し、複雑なピストン形状を鍛造で形成するのに有利であるからである。
【0036】
上記のように鋳造した鍛造用素材は、最終凝固部が中央部に注湯口の痕として残っている。注湯口と開閉栓との関係より、注湯口の痕は中央部が1mm以下の深さの凹または2mm以下の高さの凸となった状態になっている。特に、鋳型内のキャビティの体積を素材体積よりも0.5〜1cm3程度小さくとすることで、高さが0.3〜2mmの凸部形状にすることができるので好ましい。凸高さが2mm以上であると、自由落下では鋳造後の素材が排出できないので排出装置が必要になる。0.3〜2mmの凸形状であると素材の最終凝固面側とチル板側の識別が容易となり、画像解析による識別も可能で、機械的な裏表反転装置を用いることも可能となるからである。
【0037】
また、注湯口の痕の凹凸を目印と認識できるような形状、例えば十字形状とすることにより、注湯口の痕を作業用のマークとして利用できるので、鋳塊の表裏の識別をより明確とすることができる。表裏を正しく即ち注湯口の痕側をヘッド面側に設定して鍛造したものであるかを鍛造済状態において検証することができる。これを基に工程管理を行なう製造方法とすることができる。品質保証の観点から有効である。注湯口の痕の凹凸を目印と認識できるような形状とする方法については、例えば、開閉栓を先端に刻印形状が付加されたものとし、上記鋳造方法で開閉栓を閉じて鋳造する方法を挙げることができる。
【0038】
こうして鋳造された鋳塊にあっては、凝固界面が常に一方向性を保持して閉ループを形成することなく一方向凝固を行っているため、その内部品質が、鋳巣、引け巣、ピンホール、酸化物の巻き込み等の欠陥を抑えた良好なものとなる。しかも、キャビティ16の上方が上壁12aおよび開閉栓13の先端面によって閉塞された状態となるため、溶湯の計量を実施することなく注湯量が常に一定となり、さらには、鋳型のキャビティ−内のメニスカス部に大きな曲面が形成されることもなく、鋳塊1の寸法や重量に大きなバラツキが発生する虞れもない。
【0039】
その金属組織は強制冷却する冷却部材側(初期凝固面側)と開閉栓側(最終凝固面側)とで異なり、開閉栓側では、デンドライトアームスペーシング(dendrite arm spacing、デンドライト2次枝間隔、以下「DAS」という)が大きく、また結晶粒径も大きくなる傾向にある。
【0040】
その金属組織のDASおよび結晶粒径は偏光顕微鏡(倍率:×40〜×100)を用いて観察することができる。なお、DASの測定は、軽金属学会発行の「軽金属(1988)、vol.38,No.1、p54」に記載の「デンドライトアームスペシング測定手順」に基づいて行い、また結晶粒径の測定は、同学会発行の「軽金属(1983)、vol.33,No.2、p111」に記載の「金属組織」に基づいて行うことができる。
【0041】
DASについては、上記した一方向性結晶成長の下で、冷却板100(ボトム面B)側から開閉栓13(トップ面T)側に向かって増大する顕著な傾向が認められた。ボトム面B側のDASをd1、トップ面T側のDASをd2と表すと、強制冷却によりd1<d2となる。ただし、d2<1.1d1であるとd2の増大傾向が微小であり一方向性結晶成長の効果がほとんどなく鋳造欠陥が多くなる条件も含まれてしまう。一方、d2>10.0d1であるとd2の増大が過大であり、鋳塊の工業生産の面から現実的ではない。そこで、d2=1.1d1〜10.0d1の範囲にあることが好ましい。より好ましくはd2=1.1d1〜5.0d1である。また、一方向性結晶成長の効果を高くするためには、ボトム面B側でのDASは40μm以下であることが好ましい。このように強制冷却することにより、200μm以上のミクロポロシティ、ミクロシュリンケージなどの鋳造欠陥が100平方mm以内に1個以内、50〜200μmの空洞欠陥が10個以内という健全な鋳塊を製造することができる。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造できるからである。
【0042】
また、鋳塊の金属組成において、等軸晶組織構造を形成する結晶の結晶粒径についても、DASと同様に、上記した一方向性結晶成長の下では、ボトム面B側からトップ面T側に向かって増大する顕著な傾向が認められる。ボトム面B側の結晶粒径をd1′、トップ面T側の結晶粒径をd2′と表すと、強制冷却によりd1′<d2′となる。ただし、d2′<1.05d1′であるとd2′の増大傾向が微小であり一方向性結晶成長の効果がほとんどなく鋳造欠陥が多くなる条件も含まれてしまう。一方、d2′>7.0d1′であるとd2′の増大が過大であり、鋳塊の工業生産の面から現実的ではない。そこで、d2′=1.05d1′〜7.0d1′の範囲にあることが好ましい。より好ましくはd2′=1.05d1′〜5.0d1′である。また、一方向性結晶成長の効果を高くするためには、ボトム面B側での結晶粒径d1′は平均して100μm以下であることが好ましい。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側におけるアルミニウム合金組織の結晶粒径に対して一方向凝固の最終凝固面側におけるアルミニウム合金組織の結晶粒径が1.05〜7倍であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造できるからである。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造することができるからである。
鋳塊は必要に応じて機械加工を施して形状を整えた後に、鍛造加工の素材として供することができる。
【0043】
または、鋳塊は必要に応じて機械加工を施して、傾斜した組織から必要な状態の組織の面を削り出した後に、鍛造加工の素材として供することができる。例えば、鋳塊の端面での平均粒径が所望の平均粒径でない場合は、平均粒径の分布が傾斜した鋳塊から所望の平均粒径を有したケイ素粒を有するように削り出したものを鍛造用素材とすることが好ましい。
【0044】
次に、図4に示した鍛造装置および図5に示した鍛造金型を用いて鍛造成形する。鍛造用素材は鍛造する前に予備加熱処理を施す。予備加熱処理の温度条件は350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃での範囲とするのが好ましい。処理時間は鍛造用素材全体の温度が予備加熱温度範囲に到達するまでとし、その後鍛造工程に入る。350℃未満では鍛造用素材を熱間鍛造した時に充分な塑性流動が得られず、又(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃を超えると鍛造用素材にバーニング(局所溶解)が発生するおそれがある。バーニングが発生すると鍛造製品の強度が激しく劣化するか、製品がフクレ、ミクロシュリンケージなどの局所溶解による欠陥を生じる場合があるので好ましくない。
【0045】
鍛造は通常、熱間にて行われるので、素材に予備加熱を行うだけでなく、金型も加熱する。加熱温度は100〜400℃とすることができる。加熱温度は、鍛造する形状、鍛造設備の種類、使用される素材の合金の種類、その他鍛造上の要因によって選択される。温度が低すぎると素材からの抜熱が大きくなり、加工性が劣って素材の塑性流動が不十分となる。温度が高すぎると、金型の強度が低下し、摩耗、欠けなどの破損が起こりやすく、金型寿命の観点から好ましくない。鍛造に際しては金型に潤滑剤を塗布してから実施するのが好ましい。
【0046】
鍛造は型鍛造である。本発明に用いる鍛造装置の構成の一例を、図5をもとに説明する。鍛造装置は、鍛造機501と、上ボルスター502に取りつけられた上金型503と、下ボルスター506に取り付けられた下金型505とを含むものである。本発明に用いる金型の一例を図6に示す。金型は、上金型601と、下金型602と、ノックアウトピン507とを含むものである。本図では、ピストンのヘッド面部を上金型で、スカート部を下金型で形成する金型の組み合わせである。ヘッド面部を成形する上金型はヘッド面中央部の突起部を形成するような成形部603を有している。
【0047】
ヘッド面部を下金型を用いてスカート部を上金型を用いて形成する金型の組み合わせも用いることができる。また、必要に応じて、スプレー前後移送装置508スプレー回転装置509を備えシャフト510を介して、スプレー前後装置に取りつけられた潤滑剤スプレーノズル504を有している潤滑剤塗布装置を配設することができる。
【0048】
ここで、鍛造用素材604を金型へ投入する際に、本発明では、ピストンヘッド面を成形する金型の面と、鍛造用素材における最終凝固面側の面605とが向かい合ったように向きを揃えて投入する。たとえば前述した鋳塊を用いる場合は、ピストンヘッド面を成形する金型の面と鋳塊の開閉栓跡(注湯口の痕)を含む面とが向かい合うように向きを揃えて投入する。向きが反対になると、スカート部先端部付近のケイ素粒子平均径が大きくなりヘッド面付近のケイ素粒子は微細な平均粒径となって、本発明の効果を得ることができなくなる。ヘッド面付近の良好な機械加工性と良好な耐摩耗性の効果、及びスカート部先端部の鍛造時の良好な塑性流動性が得られないからである。
【0049】
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材となる。
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍であるピストン素材となる。
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であるピストン素材となる。
【0050】
本発明の製造方法はピストンヘッド面を成形する金型の面と、鍛造用素材のケイ素平均粒径が大きい面とが向かい合うように向きを揃えて投入し、スカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径が3μm以下であるのが好ましい。熱間鍛造時の加工性がより良好となるからである。スカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径が3μm以下であるので、スカート部を薄肉に成形したときでも、金型に充填する先端部に亀裂が生じることなく、金型への充満性が劣ることがないからである。
【0051】
鋳塊の注湯口の痕を金型のヘッド面中央部の突起部を形成する金型部位に合うように素材を投入するのが好ましい。これによって、最終凝固部となる注湯口がヘッド部中央部の突起部に含まれることになり最終凝固部に発生確率の高いミクロシュリンケージおよび酸化物が突起部に含まれ、除去されるため健全な鍛造ピストン完成品を得られるからである。
【0052】
ピストンヘッド面の中央部の突起部は、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するように形成される。例えば本発明のピストン素材の場合、断面図の輪郭線が表面積に対応していると考えることができが、図13に示すように本発明の製造方法では表面積が加工後に増加するように形成されている。表面積が加工後に増加するように形成されることにより70%以上の加工率が容易に得られるからである。
【0053】
鍛造によって得られたピストン素材は、そのまま使用することも出来るが、Cu、Mg、Sc、Agなどが添加された合金では、熱処理によって材料の機械的特性が向上するので、熱処理として人工時効処理を施すのが好ましい。人工時効処理は、たとえば、加熱温度が400〜550℃で保持時間を0.2〜10時間行った後に直ちにピストン素材を水中に没して行う溶体化処理と、その後150〜250℃で0.2〜20時間の焼き戻しを行うことが好ましい。これにより、硬度を始めとして、機械的特性(例えば引張強度、0.2%耐力)や疲労強度を高めることが出来る。
【0054】
以上の工程によって、アルミニウム合金を原料とし、ピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状である内燃機関用鍛造ピストン素材が得られる。
【0055】
その後、ピストン素材は機械加工工程に供せられて機械加工が施され、例えば、ピストンピン用の穴明け加工、ピストン面削加工、オイルリング溝加工、その他の加工を施すことにより内燃機関用鍛造ピストンに仕上げられる。
【0056】
機械加工工程において、ヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工時のチャック部として用いることができる。たとえば、図10に示すようにNC旋盤装置の回転チャック1001に素形材のヘッド面の突起部1002をチャックして固定する。この時突起部の側面をチャック面1007とする。この状態でスカート端部1003、外径部1004、ピン穴部1005、オイルリング溝部1006を加工することができる。これによって、内径部の切削工程が省略でき、内径の切削工程後のチャックの着脱工程がなくなるので機械加工の生産性が向上する。
【0057】
従来の鍛造ピストン加工方法では、円筒外径部をチャッキングし、ヘッド面を突き当てにしてスカート端部および内径部を加工し、さらにこの加工された内径を内開きチャックにてチャッキングし、スカート端部を突き当てとしてピン穴およびスカート外径、オイルリング溝を加工するという複数回のチャッキングを必要としていたものが、本発明の素材を用いることによりチャッキング回数をを減らすことができる。
【0058】
機械加工工程において、ヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工時の加工基準として用いることができる。たとえば、図10に示すようにNC旋盤兼MC装置の回転チャック1001に、突起部の上面の平坦面を突当面1008として突き当てる。そしてこの面を加工基準として、スカート端部、外径部、ピン穴部、オイルリング溝部を加工することができる。ヘッド面とヘッド面中央部の突起部端面は同一金型で成形することが可能であり、この場合はこれらの相対位置は寸法精度がより優れるため、これによって、ピン穴位置、スカート長さなどの機械加工寸法がヘッド面から高精度で安定となるので機械加工の寸法精度がより向上する。
【0059】
最終的にヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工によって除去してピストンの形状を得る。上記鍛造方法により、突起部にミクロシュリンケージ、湯口跡、湯しわなど鋳造欠陥が集まっているので、最終的に機械加工により除去することで鋳造時に発生した欠陥をピストン素材から除去することができるので好ましい。
一方、スカート部を鍛造により薄肉に成形しているので薄肉化のための機械加工による切削工程は不要となるか、もしくは機械加工での切削代を少なくすることができるので、材料歩留まりが向上し、かつ、機械加工時間が短くなることで生産性が向上する。
【0060】
熱間鍛造に供する前に、鍛造性と、鍛造後の人工時効処理性をより改善する場合は、素材を均質化処理するのが好ましい。均質化処理とは、ピストンの機械的強度やエンジン内での使用時の高温使用時の強度を高めるために添加されているCuやMg等の添加金属が鋳造時に生じたミクロ偏析した状態を高温で加熱処理することで、アルミ基地内に均一に分散させることである。それにより鍛造時の加工性と、後工程の人工時効処理後の機械的特性の均一性を確保することができる。均質化処理条件の条件としては、400℃〜(使用する合金の固相線温度−10)℃の温度範囲、保持時間1〜30時間を挙げることができる。
【0061】
一方、使用される合金成分、あるいはピストンの形状によっては、鍛造前に施される素材への予備加熱を利用して均質化処理と同じ効果を得ることが可能であり、その場合は、鍛造前の予加熱工程の保持時間を1時間以上と長くすることで素材の均質化処理と同等の効果を得ることができる。また、使用される合金成分、あるいはピストンの形状によっては鍛造後に施される熱処理工程を利用して均質化処理と同じ効果を得ることが可能であり、この場合は人工時効処理工程の溶体化処理時の保持時間を長くすることで素材の均質化処理と同等の効果を得ることができる。
【0062】
突起部の加工率と本発明のピストン素材の機械特性について説明する。
一方向凝固法により得られた素材は図11に示したように素材の塑性加工率に応じて塑性加工済品の機械的特性が変化する。このため強度を必要とされる部位に付いては塑性加工率を大きくして機械的性質を改善するという手法を用いることができる。本発明では、この手法を用いることができるように製品機能にマッチした鍛造用素材を設計する。
【0063】
本発明は、内燃機関ピストン、ピストン素材に一方向凝固法により得られた素材を適用するので、強度の必要とされる部位については塑性加工率を70%以上(より好ましくは75%以上。さらにより好ましくは80%以上。)に高める必要がある。70%以上としたのは70%未満であると機械的特性の「伸び」が不足となり、脆性破壊する可能性が大きくなってしまうからである。70%以上としたのは、70%以上であれば実用上に要求される機械的特性を得ることができるからである。要求される機械的特性とは、例えば「伸び」の値が6%以上であることを挙げることができる。あるいは、要求される機械的特性を有するとは、連続鋳造棒の機械特性値の70%以上(好ましくは80%以上。)の値を有していることを挙げることができる。
【0064】
内燃機関ピストンにおいてはヘッド面部、天井部の強度が重要であるので、本発明では素材の形状及び鍛造品の形状を塑性加工率が所定の値以上となるように設計することにより、この部位の塑性加工率を70%以上としている。例えば、本発明のピストン、ピストン素材においては、余肉の形でヘッド面中央部に突起部を付加した形状に成形するように設計することで、ヘッド面直下の天井部の塑性加工率を70%以上にしている。その結果、エンジンピストンのヘッド面の強
度を向上させることができる。
【0065】
この結果、エンジンピストンの負荷が大きいヘッド面部の機械的特性が向上するのでピストンの軽量化を実現できる。
【0066】
ピストン素材において、ピストン形状とヘッド面中央部の突起部とによる70%以上の加工率の付加方法について説明する。
一方向凝固鋳造材において素材の塑性加工率(例えば据え込み率。)と機械的特性の一つである「伸び」との相関関係は、表1及び図11に示すようなっている。塑性加工率が70%付近で急激に機械的特性は変化している。塑性加工率が70%以上で、好ましい値である連続鋳造棒の「伸び」の値の70%以上の値となっている。塑性加工率が70%以上で、「伸び」の好ましい値である6%以上の値となっている。これより好ましい機械的特性を得るためには据え込み率は70%以上が好ましくは必要である。
【0067】
【表1】
【0068】
しかし、従来行なわれているように、従来の鍛造用素材の形状から従来の天井肉厚であって突起部を有しない形状であるピストン素材を鍛造した場合は、例えば図13に示すように天井部は60%以下の塑性加工率しか得られていない。そのため、一方向凝固により得られた鋳造材をそのまま用いて、従来の天井肉厚を有した形状となるように鍛造を実施した場合では、塑性加工率は70%に対して10%程不足していることになる。
【0069】
本発明の製造方法では、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有するように塑性加工を加えているので好ましい機械的特性となっている。
【0070】
一方向凝固法で得られた鋳造材において必要な加工率を得るためには、例えば予め部分的に厚くした形状の鍛造用素材を用いる手法をとることができる。すなわち鍛造前素材の中心部を、成形後に得たい塑性加工率となるように予め部分的に厚くする手法がある。例えば、一定厚さの鍛造素材、例えば20mm厚さとした場合、中心部の直径20mmくらいの範囲のみを予め厚さ30mmとした素材を用いて鍛造するとその部分の加工率が大きくなり必要な加工率を得ることができる。このような変形した鍛造用素材は、図3に示した鋳造装置の鋳型内のキャビティ形状を変更することで可能である。
【0071】
または一方向凝固法で得られた鋳造材として必要な加工率を得るためには、鍛造後の形状に突起部の形で余肉を付加する手法をあげることができる。鍛造後の製品形状のうち塑性加工率を高めたい部位に余肉部位、駄肉となる形状を付加して、この余肉部位への素材の塑性流動により塑性加工率を高める手法である。例えば、ヘッド面部の機械加工後の形状が同じ場合であっても、ヘッド面部に余肉部位、駄肉を付加して鍛造した後に付加した余肉部位、駄肉を機械加工にて除去した場合と、ヘッド面部に余肉部位、駄肉を付加しない形状に鍛造した場合を比較するとヘッド面部の塑性加工率は、ヘッド面部に駄肉を付加した後に付加した余肉部位、駄肉を機械加工にて除去した場合の方が高くなるからである。
【0072】
その他、加工率を70%以上にするための手法として、素材に予め据え込み加工を施す、素材に予め押出し加工を施す、素材に予め圧延加工を施す手法が挙げられる。もしくは、加工率を70%以上にするための手法として、以上述べた手法から選ばれる任意の2種以上を組み合わせた方法も挙げることができる。
【0073】
本発明では、上記のように、溶湯が一方向に順次凝固される鋳造装置(一方向凝固鋳造装置)を用いて各種形状の鋳塊を製造し、その鋳塊に対してさらに塑性加工を施し、この塑性加工におけるヘッド面の塑性加工率を70%以上としているので、ヘッド面側での機械的特性を改善し、バラツキをなくして機械的特性を全体として均一なものとしている。さらに、素形材のヘッド面の中央部に突起部を形成しているので、機械加工の機械加工工程を効率し、品質を改善したピストンを製造することができる。
【0074】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンおよびその素材の形状およびヘッド面に設けられた突起部の実施形態について説明する。
【0075】
図1は、本発明の内燃機関用鍛造ピストンの一例の断面図である。図1(a)はスカート部113を含む縦方向の断面図である。図1(b)はピストンをコンロッドに結合する為のピストンピンを挿入するピン孔(ピストンピン孔(114))を含む縦方向の断面である。ピストンの上面はバルブリセスを有するヘッド面(111)である。オイルリング溝(112)はピストンリングを組み込むための溝であり、オイルリング溝はピストン外周面に対して垂直である、すなわちオイルリング溝は深さ方向に垂直であることが求められている。スカート部(113)はピストンのエンジンライナー内で姿勢を保つためのガイドであり、高強度で耐摩耗性を備え、軽量化のために肉薄であることが求められている。符号115に示す2点破線の形状は鍛造製品であるピストン素材の形状であり、符号116に示す実線の形状は機械加工後のピストン完成品の形状である。符号117はリブである。符号118はスカート部先端部である。スカート部先端部はピストン全体の高さに対して下より約40%の範囲のスカート部のことである。鍛造時に大きく塑性流動が起こり良好な鍛造加工性がもとめられる箇所である。
【0076】
図2は、本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例で円錐台形状の突起部201を有したものの断面図である。図2(a)はスカート部を含む縦方向の断面図である。図2(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。図4に円錐台形状の突起部201を有した内燃機関ピストン素材の一例の概略見取り図を示した。ここに示すように、ヘッド面中央部には、突起部が成形されている。突起部が余肉部となって塑性加工率を大きくすることができるからである。
【0077】
ヘッド面中央部に形状が円柱である突起部を有しているのが好ましい。ヘッド面中央部に形状が円錐台状である突起部を有しているのが好ましい。機械加工時のチャッキングが容易となり、安定するので好ましいからである。ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状でありその側面の一部が平面である形状であるものは回転時のトルク伝達が可能であるので好ましい。回転時のトルク伝達が可能である形状としては、円柱の一部が平面で切り取られた水平断面がD字状形状の柱となっている形状、円柱が垂直方向に2面の平面で切り取られた水平断面がI字状形状の柱となっている形状、円柱側面部に角柱状の突起が付加されている形状、円柱側面に設けられた角柱状の突起が十文字状となっている形状等の形状を挙げることができる。
【0078】
ヘッド面部中央部に設ける突起部の外径は直径5〜直径25mm(より好ましくは直径10〜直径22mm)、突起部の高さは5mm〜30mm(より好ましくは10mm〜20mm)の範囲であるのが好ましい。チャッキングが確実に行なえるからである。あまりに小さい突起部は機械加工の際のもみつけ部としても使用できず、好ましくない。また、あまりに大きな突起部は余肉として除去した場合に製品材料歩留まりの低下をもたらし、製造コストを上げる点で好ましくなく、上記の範囲での設定が好ましい。
【0079】
付加した突起部は機械加工時のつかみ部、突き当て基準面として用いることも可能で、最終製品においては余肉として切削除去することができる。付加した突起部の上端面は平面とするのが突き当て基準面として用いる場合に突き当てが安定する点で好ましい。
【0080】
ヘッド面部の突起部が円柱状の形状を有した突起部701である場合の例を、図7に示す。円柱状または円錐台状の形状であるので、素材を最終形状に加工する機械加工時のチャッキングが容易となるので好ましい。円柱状または円錐台状であると点対称であるのでチャッキングの位相方向の位置決めが不要となり、その結果、加工作業時の識別注意や自動加工機にセットする際の位置決め工程を省略することができる。また、チャッキング力が強く安定したチャック状態を実現できるコレットチャックが用いることができるので加工精度を高めることができる。また汎用加工機に多用されている一般的な三つ爪チャックが適用できるので、複雑な機構を有したチャック機構が必要とされない。
【0081】
ヘッド面部の突起部がケレ部(回し金部)を有した鍵型形状を有した突起部901である場合の例を、図9に示す。機械加工時の回転位相決め、機械加工時のトルクによる空転が防止できるので好ましい。単純な円柱形状であるとチャッキングした場合、回転トルクに対する抵抗力はチャック表面と被削材表面の接触部摩擦抵抗とチャッキング圧力に依存するのみで、重切削時に生じる大きな回転トルクがかかった時にチャッキングの抵抗力が負けて回転方向に空回りしてしまう。ケレなどの回転方向の出っ張り部を設けることにより回転方向のトルクに対する機械的な突き当てが実現されるので、空回りを抑えることができる。突起部の形状の円柱外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであって、円柱側面に設けられた突起の幅が縦方向、横方向ともに3〜8mm、高さ5〜30mmであるのが好ましい。チャッキングが確実になるからである。
【0082】
また、ヘッド面部の突起部が円柱形状の側面の一部分に平面部分を付加した形状を有した突起部801である場合の例を、図8に示す。機械加工時の回転位相決めとして使用できるので好ましい。例えば、機械加工時に、ピン穴を加工する際にピンボス部の回転方向の位相決めが必要であるが、平面部分を回転方向の位置決めに利用することができるからである。
【0083】
本発明のピストン素材は、ヘッド面付近の共晶ケイ素平均粒径が3.5μm以上であるのが好ましい。その結果、高性能エンジンで実施されているようなオイルリング溝付近に耐摩耗性コーティング剤による皮膜処理や硬質アルマイト処理によって耐摩耗性を改善する処置を施すことなく、充分な耐摩耗性を有している。よって、これらの高価な処理を施すことが必要で無いので、ピストン単価を低く抑えることができ、安価なエンジンを提供できる。
【0084】
本発明のピストン素材は、ヘッド面付近の共晶ケイ素平均粒径がスカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径に対して1.2倍以上であるので、スカート部を薄肉に成形した場合でも、金型に充填するスカート部先端部に亀裂が生じることは無く、金型への塑性流動性が劣ることがない。このためにスカート部の肉厚を薄く成形することができるので、ピストンの軽量化が容易に達成できる。鍛造により薄肉に成形でき、かつ機械加工による薄肉化のための加工代を低減できるので、生産性と材料歩留まりが向上する。1.2倍未満では、ヘッド面付近の耐摩耗性を確保しつつ、熱間鍛造時における良好な塑性流動を確保出来なくなる。例えばヘッド面付近の耐摩耗性には劣るがスカート部の良好な塑性加工性は確保出来る場合と、あるいは逆に、耐摩耗性は優れるが塑性加工性に劣る場合とが起きる。その結果ピストンとして、両方の良好な特性を兼ね備えた物を供給することが困難になる。
【0085】
一方、ケイ素を6〜25質量%含有するアルミニウム合金の場合には、冷却速度に応じて共晶ケイ素組織の中に、初晶ケイ素が存在する場合がある。そのような場合は、ヘッド面付近の初晶ケイ素平均粒径が15μm以上(より好ましくは17μm以上。)であるのが好ましい。理由は、初晶ケイ素粒径による機械加工性と耐摩耗性を更に高めることができ、15μmを下回るとその効果が充分に得られなくなるからである。
【0086】
【実施例】
以下、実施例に従って説明する。
[実施例1]
Al−Si−Cu−Mg系合金溶湯を、他の溶解設備(図省略)で溶製し、その溶湯を図3に示した一方向凝固鋳造装置に注湯して鋳込み、直径70mm直径−厚さ20mmの円柱状の鋳塊を得て鍛造用素材とした。冷却凝固状態を冷却板側の冷却速度を80℃/s以上とし、鋳型上部および注湯口側の冷却速度を10℃/s以下に制御し、冷却板側から一方向凝固を開始させ、鍛造用素材を得た。その他、鋳造条件は表2の実施例1の欄に示す通りであった。なお、この鋳塊の厚さ方向は、凝固方向と同一方向である。ここで鋳造に供された合金溶湯の化学成分は表3に示した通りであった。注湯口が最終凝固部となり、注湯口は素材中央部の表面に配置した。注湯口の痕は、凸高さが1mmとなった状態であった。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
続いて鋳塊に均質化熱処理(495℃、12時間保持)を実施し、鍛造用素材とした。素材の表面に黒鉛の潤滑剤皮膜をスプレーにより塗布し、約400℃に予備加熱し、図5に示した鍛造装置を用いて、金型へ潤滑剤を塗布した後図6に示した下型に素材の冷却板側の面を下にして、最終凝固部の面を上型側に向けて配置した状態で投入した。投入した素材を上下型により形成される空間に押し込み、図4に示した形状の突起を有した内燃機関用ピストン素材を成形した。成形された素形材はノックアウトピンにより下型から取出した。
【0090】
最終凝固部の面の素材は、ヘッド面を形成する上型中央部に設けた空間へ塑性流動され、素形材のヘッド部に直径15mm、高さ12mmの円柱状の突起部を形成した。
【0091】
鍛造されたピストン素材の外径は80mm、スカート部の肉厚は3.5mmであり、鍛造時の鍛造荷重は420tであった。
【0092】
形成された直径15mmの突起部の上端部は平面となっており、次工程の機械加工工程において、突き当て基準面として使用することができる形状であった。
【0093】
ピストン概略断面形状において、図13に示すように成形前後のヘッド面部の加工率は140%となっており、機械的特性の改善には充分な加工率となっている。
【0094】
得られたピストン素材のスカート部に塑性流動と同一方向に発生する割れや、スカート部の先端部に鍛造時の塑性流動が不十分で生じる金型への充満不良、あるいはヘアークラック等の発生がないか目視により調査してスカート部の成形性を評価した。
【0095】
図14に示した鍛造成形したピストン素材の天井面中央から引張試験片を取りだし、それらを引張試験に供した。引張試験は、島津製作所製のオートグラフを用いて行い、引張試験速度は1mm/分にて行った。評価項目は引張強度、0.2%耐力、および伸びの3項目である。
【0096】
顕微鏡観察用サンプルを採取した。採取位置は、図15に示すように、スカート先端(A位置)、オイルリング部(B位置)、ヘッド面外周部(C位置)、ヘッド面中間部(D位置)、ヘッド面中心部(E位置)の合計5点とした。顕微鏡観察用サンプルは研磨仕上げ後、画像処理装置によって第2相晶出粒子に関する測定を行った。ここで、第2相晶出粒子とは、共晶ケイ素および初晶ケイ素をいう。画像解析処理装置は、ニコン社製「コスモゾーンR500」を用いた。顕微鏡観察倍率は共晶ケイ素粒子径については800倍、初晶ケイ素粒子径については200倍で行った。
【0097】
粒子径は1つの粒子の面積を円に置き換えたときの直径、すなわち円相当径(ヘイウッド径)とし、観察視野内に存在する粒子の平均粒子径として求めた。そして、共晶ケイ素、初晶ケイ素それぞれの平均粒子径について、ピストン鍛造品のスカート部とランド部において観察測定し、スカート部位置の測定値を基準にそれぞれの部位での比を取った。
【0098】
突起部の断面を観察し、ミクロシュリンケージ、湯口跡、湯しわなど鋳造欠陥が突起部に集まっているのが観察された。
【0099】
得られたピストン素材を人工時効処理(条件:495℃、2時間保持した後、水焼き入れし、続いて200℃、6時間保持したT7熱処理。)した後、機械加工して内燃機関用鍛造ピストンに仕上た。素形材のヘッド面部突起部を数値制御式のターニングセンター装置(NC旋盤とマシニングセンター機能を併せ持った機械)の主軸に接続した回転チャックに固定した。その状態で外径部およびスカート先端を旋盤加工し次ぎにピンボス部のピン穴部をドリル加工し、次ぎにピン穴に設けられたクリップ溝部をエンドミル加工した。その間チャックから素形材を外し、チャックしなおす必要は無かった。最後に突起部をフライスで切削除去して内燃機関用ピストンを製造した。
【0100】
[実施例2][比較例1、2]
ヘッド面部突起部を成形する金型および鍛造用素材体積を調整し、鍛造素形材ヘッド面部の突起部の体積を変化させて、ヘッド面部の加工率を25%(比較例1),50%(比較例2),75%(実施例2)とした以外は実施例1と同様に鍛造した。
【0101】
[比較例3]
例えば特公昭54−42847号公報にて開示されているような連続鋳造法によって鋳塊を製造し鍛造したものを実施例と比較した。すなわち、実施例1と同一の溶湯を使用して、84mm直径の連続鋳造棒を鋳込んだ。連続鋳造方法としては、特公昭54−42847号公報にて開示された気体加圧式ホットトップ鋳造法を用い、その鋳造条件は表4に示す通りであった。
【0102】
得られた連続鋳造棒(鋳塊)を均質化処理後、79mm直径へと皮むきし、さらに厚さ20mmに輪切りに切断した。その後、75%のヘッド面部加工率で熱間鍛造し、実施例1と同様の形状のピストン素材を得た。そのピストン素材を実施例1と同じように人工時効処理した後、引張試験片を得、また顕微鏡観察用サンプルを採取した。なお、均質化処理条件、鍛造条件、T6条件、引張試験片形状、引張試験方法、顕微鏡観察用試料作成手順等は、実施例1と同条件であった。また顕微鏡観察用サンプルの採取位置、第2相粒子の形状測定方法等も実施例1と同一である。
【0103】
【表4】
【0104】
表5に、各実施例,各比較例における引張試験結果の、引張強度、0.2%耐力および伸びの諸データを示す。この結果から、各特性値は、加工率が低い場合は連続鋳造材から得た鍛造品の値よりもかなり低下しているが、加工率が70%以上である実施例の場合は好ましい値にまで改善したことがわかる。
【0105】
【表5】
【0106】
表6および表7は第2相晶出粒子の形状測定結果を示すものであり、表6は実施例1の結果を、表7は比較例3の結果をそれぞれ示している。表6において、実施例1で得たピストン素材の第2相粒子の形状については、共晶ケイ素平均粒径はスカート先端からヘッド面中心部に向けて漸増傾向にあり、スカート先端(A位置)の平均粒子径を1としたときのヘッド面中心部(E位置)の値は2.67であった。
【0107】
また、初晶ケイ素の0.307平方ミリメートル中に存在する粒子数は、スカート先端からヘッド面中心部に向けて増加し、平均粒子径も増大して、スカート先端(A位置)の平均粒子径を1としたときのヘッド面中心部(E位置)の値は1.57であった。
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
一方、表7において、比較例3で得たピストン素材の第2相晶出粒子は、共晶ケイ素、初晶ケイ素ともに、どの部位もほぼ同じ値を示した。また、初晶ケイ素の0.307平方ミリメートル中に存在する粒子数についても、どの部位でもほぼ同じ値を示した。
【0111】
上記したような、実施例1のピストン素材と、比較例3におけるピストン素材とにおける諸特性の相違は、実施例1のピストン素材の基となった鋳塊は、冷却部材側、開閉栓側という素材の表裏が区別されるのに対して、比較例3のピストン素材の基となる連続鋳造棒を輪切りにして得られた素材は、その両端側で元来均等な結晶組織を有しているため、一端面側、他端面側という区別がないことに起因していると考えられる。
【0112】
このような諸特性の相違により、一方向凝固鋳造法による鋳塊に塑性加工を施し、ピストン素材とした場合、耐摩耗性が関係ないスカート部側では強度を確保し、耐摩耗性が要求されるヘッド面側では、強度と耐摩耗性の双方を確保させるといったことが可能となる。
【0113】
以上述べたように、実施例では、一方向凝固鋳造法で得られた鋳塊に加工率70%以上の塑性加工を施してピストン素材を得るようにしたので、トップ面をヘッド面とした場合の劣っていた機械的特性を著しく改善することができ、一方向凝固鋳造法による鋳塊から製造した素材でも、その素材全体の強度をアップすることができるとともに、その強度のバラツキもより均一化することができた。
【0114】
本発明の方法では、GDC鋳造方法では回避不可能であった鋳造時の酸化物の巻き込みや引け巣の発生を抑えることができ、製造コストの低減が可能である。本発明においては、従来の連続鋳造材を用いた鍛造工法に比べ、鍛造用素材の外径切削加工および丸棒材の切断工程を省略することが可能であるため材料歩留まりおよび各工程での費用の低減が可能で大幅なコストダウンが可能となり、鍛造用素材に起因する引け巣や酸化物の巻き込みの問題も解決できる。
【0115】
本発明に用いる一方向凝固鋳造法により得られた鍛造用素材は重量のバラツキを±1g以下に制御が可能であるため、投入する個々の素材の重量バラツキに起因する金型への負荷を低減できるため金型の準用が向上する。
【0116】
ヘッド面部中央部に形成した突起部は、機械加工時の突き当ておよびチャッキングに適しており、被加工部から独立している部位となっているのでチャッキングの回数を減らすことができる。
【0117】
さらに、チャッキング部および突き当て平面を一体で形成することにより被加工部の機械加工時の寸法精度の向上を図ることができるので好ましい。ヘッド面部中央部に鍛造により形成した突起部は鍛造時に一体成形されているため寸法精度の点で好ましい。また、ヘッド面部中央部の突起部は金型を分割構造にすることにより欠肉を生じることなく平坦形状を形成できるので、突起部上端面は突き当てとして用いるのに充分な平坦形状となるので、このような突起部は突き当て状態が安定するため好ましい。
【0118】
本発明によるエンジンピストンの製造方法により、内部欠陥のなく、ヘッド面部の強度が製品機能を充分満たす内燃機関ピストンを材料歩留まり良く、安価に製造できる。
【0119】
この様なピストンは従来の連続鋳造細径連鋳棒を素材とした熱間鍛造や、金型鋳造による鋳物では得られず、本発明で両製法の良いところを併せ持つ内燃機関用鍛造ピストンを提供することが可能となった。
【0120】
【発明の効果】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程と
を含むものであるので、
一方向凝固鋳造法で得られた鋳塊に加工率70%以上の塑性加工を施してピストン素材を得るようにしたので、トップ面側で劣っていた機械的特性を著しく改善することができ、一方向凝固鋳造法による鋳塊から製造した部材でも、その部材全体の強度をアップすることができるとともに、その強度の差も小さくすることができ、ピストンヘッド面の中央部の鋳造時の最終凝固部の位置において形成される突起部を機械加工時に利用することで効率良く機械加工ができ、最後に突起を除去することで最終凝固部に集まった欠陥などを一緒に除去できるのでより良い品質のピストンを効率良く製造することができる。
【0121】
これにより、高性能で安価な鍛造ピストンを提供することが出来、品質が安定した高性能なエンジンを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の内燃機関用鍛造ピストンの一例の断面概略図である。(a)はスカート部を含む縦方向の断面図、(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。
【図2】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例の断面概略図である。(a)はスカート部を含む縦方向の断面図、(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。
【図3】本発明の製造方法に用いる一方向凝固鋳造法による鋳造装置の一例の概略図である。
【図4】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例の外観概略図である。
【図5】本発明の製造方法に用いる鍛造装置の一例の概略図である。
【図6】本発明の製造方法に用いる金型の一例の概略断面図である。
【図7】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の他の例の外観概略図である。
【図8】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の別の例の外観概略図である。
【図9】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の別の例の外観概略図である。
【図10】本発明の製造方法の機械加工工程の説明図である。
【図11】一方向凝固法よる鋳塊の塑性加工率と機械的特性との関係の説明図である。
【図12】従来のピストン素材の塑性加工率の説明図である。(a)は鍛造前の鍛造用素材の断面図、(b)は鍛造後のピストン素材の断面図である。
【図13】本発明のピストン素材の塑性加工率の説明図である。(a)は鍛造前の鍛造用素材の断面図、(b)は鍛造後のピストン素材の断面図である。
【図14】引っ張り試験片の採取位置の説明図である。
【図15】顕微鏡観察用サンプルの採取位置の説明図である。
【符号の説明】
111:ヘッド面、112:オイルリング溝、113:スカート部、114:ピストンピン孔、115:ピストン素材の形状、116:機械加工後のピストンの形状、117:リブ、118:スカート部先端部、
501:鍛造機、502:上ボルスター、503:上型、506:下ボルスター、505:下型、507:ノックアウトピン、508:スプレー前後移送装置、
509:スプレー回転装置、510:シャフト、504:潤滑剤スプレーノズル、
301:冷却板、302:主鋳型、303:受槽、304:注湯口、305:開閉栓、306:鋳塊、307:アルミニウム合金の溶湯、308:蓋、309:電気炉、310:スプレーノズル、311:ケース、312:排水口
401:ヘッド面、402:バルブリセス、403:スカート、404:リブ、
405:ピンボス部、
202、701、801、901、1002:突起部、
1001:チャック、1003:スカート加工箇所、1004:外径加工箇所、
1005:ピン穴加工箇所、1006:オイルリング溝加工箇所、1009:チャッキング箇所、1008:突当面、
601:上金型、602:下金型、603:突起部成形部、604:鍛造用素材、605:最終凝固面側の面、
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム合金を用いた内燃機関用鍛造ピストンとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車、二輪車、船外機などの輸送機器、芝刈機などの農機具等に用いられる内燃機関ピストンの製造方法としては金型重力鋳造法(GDC鋳造法)が主流であった。金型重力鋳造とはアルミ合金地金を溶解し、複数の部品から構成される金型に注湯し、鋳造するものであり、鋳造欠陥の発生を抑制するため押湯と呼ばれる大幅な余肉を付加して鋳造している。この鋳造されたものを素材として用いる場合は、この押湯部分を切断除去し、熱処理を実施し、機械加工を施して内燃機関用ピストンとなる。しかしながら多くの改良や鋳造装置の開発を経ても引け巣や酸化物の巻き込みなどの欠陥を充分に抑えることはできていなかった。また、鋳造素材のもつ脆性(伸び不足)および強度不足の問題により、部品に加工した場合安全率を高くした設計が必要であり、近年内燃機関を用いている輸送機器などの求められている軽量化のニーズに必ずしも応えられていない。また、押湯を余肉の形で設けることにより材料歩留まりが低下し、また鋳造工程のサイクルタイムが30秒以上となり生産性の面でも問題点を抱えている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として連続鋳造棒または押出棒を鍛造用素材として用いた鍛造による製造方法が挙げられる。
【0004】
この鍛造法では、次のようにピストンを製造する。まず溶解したアルミニウム−ケイ素系合金を連続鋳造して押出し用ビレットとする。その後、溶質元素の偏析や凝固時の収縮によって発生した内部応力を均質化するための熱処理(均質化処理)を施した後、押出し加工にて細径丸棒に加工する。または、連続鋳造法によって細径連続鋳造棒を製造し、その後均質化処理を施し面削加工して細径丸棒に加工する。次にこれらの丸棒材を鍛造用素材として所定の長さに切断する。その鍛造用素材を予備加熱した後に熱間鍛造機にて鍛造加工して、ピストンの形状にほぼ近い形状に成形する。その後人工時効処理等の熱処理を施した後に、必要に応じて機械加工を施してピストン素材に仕上げる。用途によっては耐摩耗性や、耐熱強度を向上するために、ピストンヘッド面や、側面のうちトップリングよりピストンヘッド面側の面に、アルマイト処理や被膜形成処理を行うことがある。しかし、これらの製造方法はGDC鋳造法に比較して製造工程が多く、金型、素材ともにGDC鋳造法よりも高価であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
GDC鋳造法では、鋳造時の酸化物の巻き込みや引け巣が不可避である。
従来の鍛造工法を用いた場合は、投入される個々の鍛造素材の重量バラツキが大きいためにそれに起因して金型への負荷が大きくなるので金型寿命が短くなる。
【0006】
一方、一方向からの凝固によって製造されたアルミニウム合金鋳塊にあっては、その内部品質が、鋳巣、引け巣、ピンホール、酸化物の巻き込み等の欠陥のない良好なものとなる。しかも、閉塞性の鋳型に注湯するので、溶湯の計量を実施することなく注湯量が常に一定となり、さらには、鋳型内のメニスカス部に大きな曲面が形成されることもなく、アルミニウム合金鋳塊の寸法や重量に大きなバラツキが発生する虞れもない。しかし、そのアルミニウム合金組織は強制冷却する初期凝固面側と最終凝固面側とで異なり、最終凝固面側では、デンドライトアームスペーシング(dendrite arm spacing、デンドライト2次枝間隔、以下「DAS」という。)が大きく、また結晶粒径も大きくなる傾向にある。
【0007】
アルミニウム合金鋳塊の金属組織において、DASが大きく、また結晶粒径が大きくなると、引張強度や0.2%耐力、伸びといった機械的特性は、一般に弱くなる傾向にある。したがって、上記の一方向からの凝固により製造した金属鋳塊の場合でも、その最終凝固面側が初期凝固面側に比べて機械的特性が劣ってしまい、それを製品にした場合も、機械的特性に差が発生するという問題点を有していた。
【0008】
一方、従来のGDC鋳造法で製造した鋳物を用いた場合は、機械加工工程において、押し湯を切断除去後、外径をチャッキングしてスカート端部および内径部を加工基準の着座としてまず最初に機械加工し、次にチャッキングを加工の済んだ内径部に持ち替えて、外径およびピン穴加工を実施していた。このチャッキング方法を用いる場合は、外径および天井面の平面度が機械加工の寸法精度に大きく影響するためGDC鋳造法で製造した鋳物を用いた場合は、スカート部の偏肉状態、天井面からピン穴の位置精度が望まれる製品仕様の規格外となり完成した内燃機関ピストンの機能に影響を及ぼすことがしばしば見られた。
【0009】
また、機械加工工程にて発生するコストはチャッキングも含めたサイクルタイムに依存している。そのため、チャッキングの回数を減らし、サイクルタイムを縮めることが望まれている。
【0010】
本発明は上記に鑑み提案されたもので、一方向からの凝固により製造したアルミニウム合金の鍛造用素材を用いて、その最終凝固面側での機械的特性を改善し、機械的特性の差を全体として小さなものとし、かつ機械加工工程の効率、品質を改善した内燃機関用鍛造ピストンの製造方法およびその素材を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、新規の鍛造用素材と内燃機関用鍛造ピストンの製品特性について鋭意研究を行ないその知見に基づいて本発明を完成するに至った。
1)上記課題を解決するための第1の発明は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程と
を含むことを特徴とする内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
2)上記課題を解決するための第2の発明は、鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする1)に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
3)上記課題を解決するための第3の発明は、機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部を機械加工時のチャック部および加工基準として用いることを特徴とする1)または2)に記載の内燃機関用ピストンの製造方法である。
4)上記課題を解決するための第4の発明は、機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部をチャッキングしこのチャッキングした状態で行なった機械加工の後に、当該突起部を切削除去することを特徴とする1)乃至3)のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法である。
5)上記課題を解決するための第5の発明は、予備加熱処理の温度条件が350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃の範囲であることを特徴とする1)乃至4)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法である。
6)上記課題を解決するための第6の発明は、1)乃至5)のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストンである。
7)上記課題を解決するための第7の発明は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
を含む内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法である。
8)上記課題を解決するための第8の発明は、鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする7)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法である。
9)上記課題を解決するための第9の発明は、アルミニウム合金を原料とし、ピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であって、7)または8)に記載の製造方法によって製造される内燃機関用鍛造ピストン素材である。
10)上記課題を解決するための第10の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることを特徴とする9)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
11)上記課題を解決するための第1の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍であることを特徴とする9)または10)に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
12)上記課題を解決するための第12の発明は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であることを特徴とする9)乃至11)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
13)上記課題を解決するための第13の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状または円錐台状であることを特徴とする9)乃至12)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
14)上記課題を解決するための第14の発明は、ヘッド面がその中央部に有している円柱状または円錐台状の突起部が、外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする13)に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
15)上記課題を解決するための第15の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱に加え、突起が円柱側面に円柱外径方向に設けられた形状であることを特徴とする9)乃至13)のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
16)上記課題を解決するための第16の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状の円柱外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであって、円柱側面に設けられた突起の幅が縦方向、横方向ともに3〜8mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする15)に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
17)上記課題を解決するための第7の発明は、ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状でありその側面の一部が平面である形状であることを特徴とする9)乃至13)のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材である。
18)上記課題を解決するための第18の発明は、アルミニウム合金が、ケイ素を6〜25質量%含有することを特徴とする9)乃至17)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
19)上記課題を解決するための第19の発明は、アルミニウム合金が、Siを6〜25質量%、Cuを0.3〜7質量%、Mgを0.1〜2質量%、Niを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする9)乃至18)のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材である。
【0012】
本発明では、金属組織観察の手法に従って作成した試料について顕微鏡観察を行い、得られた観察像に対して画像解析処理装置を用いて、観察面に露出した粒子一個一個の断面形状を等価円に置き換え、その円の直径を粒子の直径とするHEYWOOD径の平均値を平均粒径とした。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材は、バルブリセスを有するヘッド面、厚肉部であるスカート部、リブ、ヘッド面付近、ピストンピン孔を含んだ構成で、ヘッド面中央部に突起部が成形されている。図2に本発明のピストン素材の一例の外観図を示す。図1に、本発明のピストンの断面図の一例を示す。
【0014】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンは、該素材を用いて機械加工をして形を整えた後にヘッド面中央部の突起部を除去したものである。
【0015】
本発明によるピストンの製造方法の一例を説明する。
本発明の製造方法は、以下の工程を含むものである。
1)アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程。
2)該鍛造用素材を予備加熱処理する工程。
3)該鍛造用素材を、一方向凝固の最終凝固面と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ヘッド面の塑性加工率が70%以上であり、かつヘッド面中央部に突起部が形成されるように鍛造してピストン素材に成形する工程。
4)該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程。
【0016】
尚、機械加工の工程は、中間加工、仕上げ加工の複数工程とすることができる。中間加工では、仕上げ加工の準備加工として、下穴加工、仕上加工での切削代を低減するための粗加工などを実施する。
【0017】
塑性加工率は、素材内の組織が塑性加工を受けて変位した量と加工前の状態との比で定義される。単純な素材の形状が直方体の場合、一般には、塑性加工前後の素材の形状ともとの形状との長さ、面積などの比を用いて、加工率は据え込み率、鍛伸率として定義されている。本発明のピストン素材においては、単純な形状でないために据え込み率、鍛伸率として評価できないので、定義の考え方をもとに次ぎのように加工率Kを算出する。これにより求められた加工率Kを用いた評価は、上記定義と同等の評価となる。
【0018】
加工率 K=|(L−L0)|/L0×100
L:加工後の標点間距離、L0:加工前の標点間距離
【0019】
加工率Kの求め方の例を図12、図13を用いて説明する。
鍛造成形前の素材上に標的P1、P0を設定してそれらの標的間距離を求めておく。次に、鍛造成形後の素材上で先に設定した標的の鍛造後の位置P1’、P0’を確認してそれらの標的間距離を求める。求められた加工後の標点間距離(L)、加工前の標点間距離(L0)を上記定義に代入して、加工率を求めることができる。
【0020】
例えば、図12に示す従来のピストン素材の形状の場合には、次のような加工率となった。素材のピストンヘッド面の表面上に標的P1、P0を5mm間隔に設定し、その箇所をマーキングして鍛造した。その後に、標的P1、P0に対応する標的P1’、P0’の間隔を測定すると8mmであった。よって、この場合は、加工率Kは、K=(8−5)/5×100=60%となった。
【0021】
例えば、図13に示す本発明のピストン素材の形状の場合には、次のような加工率となった。素材のピストンヘッド面の表面上に標的P1、P0を5mm間隔に設定し、その箇所をマーキングして鍛造した。その後に、標的P1’、P0’の間隔を測定すると12mmであった。よって、この場合は、加工率Kは、K=(12−5)/5×100=140%となった。
【0022】
なお、あらかじめ塑性加工を加えたものを鍛造用素材として鍛造成形する場合は、塑性加工率は最終的な塑性加工率が70%以上であればよい。このような場合の最終的な塑性加工率は、(予め与えた塑性加工率(例えば据込率)+上記で求めた塑性加工率K)として求めることができる。あらかじめ塑性加工を加える工程としては、例えば鍛造(冷間、熱間)、鍛伸据込加工、圧延、押出し、転造加工、ロータリフォージング(転動加工)等を挙げることができる。
【0023】
次ぎに、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程について説明する。
【0024】
鍛造用素材は原料であるアルミニウム合金を一方向凝固鋳造法により鋳造することで得られる。使用する鋳造装置としては例えば特開平9−174198号公報に開示されている図3の装置を挙げることができる。
【0025】
符号301は冷却板で、その上に主鋳型302が配置されている。主鋳型302の上部には溶解炉等(図示せず)からのアルミニウム合金の溶湯307の受槽303が設けられ、図3ではその底部は鋳型の上部と一体になっている。そして溶湯受槽303と鋳型とは注湯口304により連通している。ここで、注湯口はピストン素材のヘッド面の突起部の位置に合わせるのが好ましい。注湯口304には開閉栓305が設けられ、鋳型への溶湯の注入は開閉栓を上下に駆動する装置(図示せず)により開閉栓を引き上げて行い、注入された溶湯は溶湯上面が上向きに上昇し、注入終了後、または予め定められた一定時間経過後、開閉栓を下げて溶湯を遮断する。符号308は蓋、符号309は溶湯を所定温度に維持するための電気炉である。冷却板301はその下にスプレーノズル310により水などを噴射して冷却する。符号311はケース、符号312は排水口である。
【0026】
鋳型内に注入されたアルミニウム合金の溶湯は、冷却板を通しての抜熱により上部鋳型壁に向かって一方向凝固する。金属組織は冷却速度の影響を受け、共晶ケイ素粒子や初晶ケイ素粒子(総称してケイ素粒子とも呼ぶ。)は、冷却速度が早いほど細かく、遅いほど粗くなる。本装置を用いた場合、冷却板側の冷却速度が最も早く、上部鋳型壁面近傍が最も遅いことから、アルミニウム−ケイ素系合金の凝固で晶出する、ケイ素粒子の大きさは、冷却板側で小さく、上部鋳型側で大きくなり、その結果、粒径の分布が傾斜した組織を備えた鋳塊306が得られる。
【0027】
原料のアルミニウム合金としては、ケイ素量を6〜25質量%(より好ましくは8〜17質量%。)含有するものが好ましい。ケイ素量が6質量%未満では耐摩耗性に劣り、25質量%を超えると耐摩耗性のそれ以上の効果は発露されず、むしろ過剰となることにより鍛造時に割れが発生する等、鍛造性が悪くなるおそれがある。更に、機械加工工具の刃物の寿命が低下するおそれがある。
【0028】
ケイ素以外に、アルミニウム合金に時効硬化性を具備させてピストンの硬度と機械的特性を高めることが可能となるので、Cuを0.3〜7質量%(より好ましくは1〜5質量%。)、Mgを0.1〜2質量%(より好ましくは0.3〜1質量%。)から選ばれるいずれかを単独もしくは2種以上を組み合わせて添加することが好ましい。更にAgやScを添加するのが好ましい。その場合は、1.5質量%以下とするのが好ましい。
【0029】
内燃機関ピストンはエンジン内部で、燃料の燃焼によって高温に晒されるので、高温時の強度を確保することも要求されるので、高温時の強度改善金属とするためにNiを0.1〜2.0質量%(より好ましくは0.5〜1.5質量%。)添加することが好ましい。さらに、Fe、Mn、Zr、Ti、W、Cr、V、Co、Moから選ばれるいずれかを単独もしくは2種以上を組み合わせて添加する事も効果的である。
【0030】
更に、共晶ケイ素粒径の微細化に有効であるNa、Ca、Sr、Sbから選ばれるいずれか1種または2種以上を改良剤として添加するのが好ましい。共晶ケイ素粒径が粗大化して鍛造性や、機械加工時の工具摩耗に悪影響を与えることを防止することができるからである。
【0031】
更に、初晶ケイ素粒子が発生する場合には、初晶ケイ素粒径の微細化のためにPを添加することが一般的に行われる。溶湯中にNaやCa等が存在するとPの効果を阻害して初晶ケイ素粒径が微細化しなくなるので、Na,Caはその合計量が、50質量ppm以下とするのが好ましい。それを越えて含まれると、初晶ケイ素粒径が極端に粗大化するので、鍛造性が悪くなるおそれがあるだけでなく、切削加工時の切削工具の寿命を短くするおそれがある。
【0032】
本発明で鍛造に用いる鋳塊は、上記合金を溶湯として用いて、共晶ケイ素粒子や初晶ケイ素粒子の粒径が、下部の冷却板側で小さく上部の鋳型側で大きい、傾斜した組織を備えた鋳塊が得られるように、冷却板からの抜熱を制御することにより製造することができる。
【0033】
傾斜した組織として、たとえば、鋳塊の上部側での共晶ケイ素平均粒径(A)と冷却板側との共晶ケイ素平均粒径(B)との比(A/B)が1.5以上であって、上部側での共晶ケイ素平均粒径(A)が4.0μm以上となるものとすることができる。
上記のような傾斜組織を得るための鋳造時の冷却速度の制御方法としては以下のような条件を挙げることができる。例えば、一方向凝固の冷却条件が、凝固用の鋳型の上面から5mm、外周から5mm内部に入った位置eでの冷却速度(E)が0.5℃/秒以上であり、かつ該位置eと凝固用の鋳型の底面から1mm、外周から5mm内部に入った位置fでの冷却速度(F)との比(E/F)が0.85以下である。
【0034】
上記範囲であれば、前述したような傾斜した組織を有した鍛造用素材を製造することができ、その結果、その鍛造用素材を用いた鍛造方法によって、鍛造加工時の加工性に優れ、機械加工工程における加工性に優れ、かつ耐摩耗性に優れた内燃機関用鍛造ピストンを得ることができる。
【0035】
鋳塊形状は、上記の傾斜組織の条件を満たすもので有れば、上下面が平行な円盤の他に、ピストン形状に合わせた形状、例えば、上下面が平行ではない平面からなる形状を備えた鋳塊、上下面の一方あるいは両方が凹凸面を備えた鋳塊でも良い。鍛造金型への負荷を軽減し、複雑なピストン形状を鍛造で形成するのに有利であるからである。
【0036】
上記のように鋳造した鍛造用素材は、最終凝固部が中央部に注湯口の痕として残っている。注湯口と開閉栓との関係より、注湯口の痕は中央部が1mm以下の深さの凹または2mm以下の高さの凸となった状態になっている。特に、鋳型内のキャビティの体積を素材体積よりも0.5〜1cm3程度小さくとすることで、高さが0.3〜2mmの凸部形状にすることができるので好ましい。凸高さが2mm以上であると、自由落下では鋳造後の素材が排出できないので排出装置が必要になる。0.3〜2mmの凸形状であると素材の最終凝固面側とチル板側の識別が容易となり、画像解析による識別も可能で、機械的な裏表反転装置を用いることも可能となるからである。
【0037】
また、注湯口の痕の凹凸を目印と認識できるような形状、例えば十字形状とすることにより、注湯口の痕を作業用のマークとして利用できるので、鋳塊の表裏の識別をより明確とすることができる。表裏を正しく即ち注湯口の痕側をヘッド面側に設定して鍛造したものであるかを鍛造済状態において検証することができる。これを基に工程管理を行なう製造方法とすることができる。品質保証の観点から有効である。注湯口の痕の凹凸を目印と認識できるような形状とする方法については、例えば、開閉栓を先端に刻印形状が付加されたものとし、上記鋳造方法で開閉栓を閉じて鋳造する方法を挙げることができる。
【0038】
こうして鋳造された鋳塊にあっては、凝固界面が常に一方向性を保持して閉ループを形成することなく一方向凝固を行っているため、その内部品質が、鋳巣、引け巣、ピンホール、酸化物の巻き込み等の欠陥を抑えた良好なものとなる。しかも、キャビティ16の上方が上壁12aおよび開閉栓13の先端面によって閉塞された状態となるため、溶湯の計量を実施することなく注湯量が常に一定となり、さらには、鋳型のキャビティ−内のメニスカス部に大きな曲面が形成されることもなく、鋳塊1の寸法や重量に大きなバラツキが発生する虞れもない。
【0039】
その金属組織は強制冷却する冷却部材側(初期凝固面側)と開閉栓側(最終凝固面側)とで異なり、開閉栓側では、デンドライトアームスペーシング(dendrite arm spacing、デンドライト2次枝間隔、以下「DAS」という)が大きく、また結晶粒径も大きくなる傾向にある。
【0040】
その金属組織のDASおよび結晶粒径は偏光顕微鏡(倍率:×40〜×100)を用いて観察することができる。なお、DASの測定は、軽金属学会発行の「軽金属(1988)、vol.38,No.1、p54」に記載の「デンドライトアームスペシング測定手順」に基づいて行い、また結晶粒径の測定は、同学会発行の「軽金属(1983)、vol.33,No.2、p111」に記載の「金属組織」に基づいて行うことができる。
【0041】
DASについては、上記した一方向性結晶成長の下で、冷却板100(ボトム面B)側から開閉栓13(トップ面T)側に向かって増大する顕著な傾向が認められた。ボトム面B側のDASをd1、トップ面T側のDASをd2と表すと、強制冷却によりd1<d2となる。ただし、d2<1.1d1であるとd2の増大傾向が微小であり一方向性結晶成長の効果がほとんどなく鋳造欠陥が多くなる条件も含まれてしまう。一方、d2>10.0d1であるとd2の増大が過大であり、鋳塊の工業生産の面から現実的ではない。そこで、d2=1.1d1〜10.0d1の範囲にあることが好ましい。より好ましくはd2=1.1d1〜5.0d1である。また、一方向性結晶成長の効果を高くするためには、ボトム面B側でのDASは40μm以下であることが好ましい。このように強制冷却することにより、200μm以上のミクロポロシティ、ミクロシュリンケージなどの鋳造欠陥が100平方mm以内に1個以内、50〜200μmの空洞欠陥が10個以内という健全な鋳塊を製造することができる。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造できるからである。
【0042】
また、鋳塊の金属組成において、等軸晶組織構造を形成する結晶の結晶粒径についても、DASと同様に、上記した一方向性結晶成長の下では、ボトム面B側からトップ面T側に向かって増大する顕著な傾向が認められる。ボトム面B側の結晶粒径をd1′、トップ面T側の結晶粒径をd2′と表すと、強制冷却によりd1′<d2′となる。ただし、d2′<1.05d1′であるとd2′の増大傾向が微小であり一方向性結晶成長の効果がほとんどなく鋳造欠陥が多くなる条件も含まれてしまう。一方、d2′>7.0d1′であるとd2′の増大が過大であり、鋳塊の工業生産の面から現実的ではない。そこで、d2′=1.05d1′〜7.0d1′の範囲にあることが好ましい。より好ましくはd2′=1.05d1′〜5.0d1′である。また、一方向性結晶成長の効果を高くするためには、ボトム面B側での結晶粒径d1′は平均して100μm以下であることが好ましい。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側におけるアルミニウム合金組織の結晶粒径に対して一方向凝固の最終凝固面側におけるアルミニウム合金組織の結晶粒径が1.05〜7倍であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造できるからである。
鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であることが好ましい。このような素材を用いると、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上である内燃機関用鍛造ピストン素材を容易に製造することができるからである。
鋳塊は必要に応じて機械加工を施して形状を整えた後に、鍛造加工の素材として供することができる。
【0043】
または、鋳塊は必要に応じて機械加工を施して、傾斜した組織から必要な状態の組織の面を削り出した後に、鍛造加工の素材として供することができる。例えば、鋳塊の端面での平均粒径が所望の平均粒径でない場合は、平均粒径の分布が傾斜した鋳塊から所望の平均粒径を有したケイ素粒を有するように削り出したものを鍛造用素材とすることが好ましい。
【0044】
次に、図4に示した鍛造装置および図5に示した鍛造金型を用いて鍛造成形する。鍛造用素材は鍛造する前に予備加熱処理を施す。予備加熱処理の温度条件は350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃での範囲とするのが好ましい。処理時間は鍛造用素材全体の温度が予備加熱温度範囲に到達するまでとし、その後鍛造工程に入る。350℃未満では鍛造用素材を熱間鍛造した時に充分な塑性流動が得られず、又(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃を超えると鍛造用素材にバーニング(局所溶解)が発生するおそれがある。バーニングが発生すると鍛造製品の強度が激しく劣化するか、製品がフクレ、ミクロシュリンケージなどの局所溶解による欠陥を生じる場合があるので好ましくない。
【0045】
鍛造は通常、熱間にて行われるので、素材に予備加熱を行うだけでなく、金型も加熱する。加熱温度は100〜400℃とすることができる。加熱温度は、鍛造する形状、鍛造設備の種類、使用される素材の合金の種類、その他鍛造上の要因によって選択される。温度が低すぎると素材からの抜熱が大きくなり、加工性が劣って素材の塑性流動が不十分となる。温度が高すぎると、金型の強度が低下し、摩耗、欠けなどの破損が起こりやすく、金型寿命の観点から好ましくない。鍛造に際しては金型に潤滑剤を塗布してから実施するのが好ましい。
【0046】
鍛造は型鍛造である。本発明に用いる鍛造装置の構成の一例を、図5をもとに説明する。鍛造装置は、鍛造機501と、上ボルスター502に取りつけられた上金型503と、下ボルスター506に取り付けられた下金型505とを含むものである。本発明に用いる金型の一例を図6に示す。金型は、上金型601と、下金型602と、ノックアウトピン507とを含むものである。本図では、ピストンのヘッド面部を上金型で、スカート部を下金型で形成する金型の組み合わせである。ヘッド面部を成形する上金型はヘッド面中央部の突起部を形成するような成形部603を有している。
【0047】
ヘッド面部を下金型を用いてスカート部を上金型を用いて形成する金型の組み合わせも用いることができる。また、必要に応じて、スプレー前後移送装置508スプレー回転装置509を備えシャフト510を介して、スプレー前後装置に取りつけられた潤滑剤スプレーノズル504を有している潤滑剤塗布装置を配設することができる。
【0048】
ここで、鍛造用素材604を金型へ投入する際に、本発明では、ピストンヘッド面を成形する金型の面と、鍛造用素材における最終凝固面側の面605とが向かい合ったように向きを揃えて投入する。たとえば前述した鋳塊を用いる場合は、ピストンヘッド面を成形する金型の面と鋳塊の開閉栓跡(注湯口の痕)を含む面とが向かい合うように向きを揃えて投入する。向きが反対になると、スカート部先端部付近のケイ素粒子平均径が大きくなりヘッド面付近のケイ素粒子は微細な平均粒径となって、本発明の効果を得ることができなくなる。ヘッド面付近の良好な機械加工性と良好な耐摩耗性の効果、及びスカート部先端部の鍛造時の良好な塑性流動性が得られないからである。
【0049】
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材となる。
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍であるピストン素材となる。
以上により、ヘッド面付近は最終凝固面側に相当する部位、スカート部先端部付近は初期凝固面側に相当する部位となるので、本発明の製造方法で製造されたピストン素材は、鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であるピストン素材となる。
【0050】
本発明の製造方法はピストンヘッド面を成形する金型の面と、鍛造用素材のケイ素平均粒径が大きい面とが向かい合うように向きを揃えて投入し、スカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径が3μm以下であるのが好ましい。熱間鍛造時の加工性がより良好となるからである。スカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径が3μm以下であるので、スカート部を薄肉に成形したときでも、金型に充填する先端部に亀裂が生じることなく、金型への充満性が劣ることがないからである。
【0051】
鋳塊の注湯口の痕を金型のヘッド面中央部の突起部を形成する金型部位に合うように素材を投入するのが好ましい。これによって、最終凝固部となる注湯口がヘッド部中央部の突起部に含まれることになり最終凝固部に発生確率の高いミクロシュリンケージおよび酸化物が突起部に含まれ、除去されるため健全な鍛造ピストン完成品を得られるからである。
【0052】
ピストンヘッド面の中央部の突起部は、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するように形成される。例えば本発明のピストン素材の場合、断面図の輪郭線が表面積に対応していると考えることができが、図13に示すように本発明の製造方法では表面積が加工後に増加するように形成されている。表面積が加工後に増加するように形成されることにより70%以上の加工率が容易に得られるからである。
【0053】
鍛造によって得られたピストン素材は、そのまま使用することも出来るが、Cu、Mg、Sc、Agなどが添加された合金では、熱処理によって材料の機械的特性が向上するので、熱処理として人工時効処理を施すのが好ましい。人工時効処理は、たとえば、加熱温度が400〜550℃で保持時間を0.2〜10時間行った後に直ちにピストン素材を水中に没して行う溶体化処理と、その後150〜250℃で0.2〜20時間の焼き戻しを行うことが好ましい。これにより、硬度を始めとして、機械的特性(例えば引張強度、0.2%耐力)や疲労強度を高めることが出来る。
【0054】
以上の工程によって、アルミニウム合金を原料とし、ピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状である内燃機関用鍛造ピストン素材が得られる。
【0055】
その後、ピストン素材は機械加工工程に供せられて機械加工が施され、例えば、ピストンピン用の穴明け加工、ピストン面削加工、オイルリング溝加工、その他の加工を施すことにより内燃機関用鍛造ピストンに仕上げられる。
【0056】
機械加工工程において、ヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工時のチャック部として用いることができる。たとえば、図10に示すようにNC旋盤装置の回転チャック1001に素形材のヘッド面の突起部1002をチャックして固定する。この時突起部の側面をチャック面1007とする。この状態でスカート端部1003、外径部1004、ピン穴部1005、オイルリング溝部1006を加工することができる。これによって、内径部の切削工程が省略でき、内径の切削工程後のチャックの着脱工程がなくなるので機械加工の生産性が向上する。
【0057】
従来の鍛造ピストン加工方法では、円筒外径部をチャッキングし、ヘッド面を突き当てにしてスカート端部および内径部を加工し、さらにこの加工された内径を内開きチャックにてチャッキングし、スカート端部を突き当てとしてピン穴およびスカート外径、オイルリング溝を加工するという複数回のチャッキングを必要としていたものが、本発明の素材を用いることによりチャッキング回数をを減らすことができる。
【0058】
機械加工工程において、ヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工時の加工基準として用いることができる。たとえば、図10に示すようにNC旋盤兼MC装置の回転チャック1001に、突起部の上面の平坦面を突当面1008として突き当てる。そしてこの面を加工基準として、スカート端部、外径部、ピン穴部、オイルリング溝部を加工することができる。ヘッド面とヘッド面中央部の突起部端面は同一金型で成形することが可能であり、この場合はこれらの相対位置は寸法精度がより優れるため、これによって、ピン穴位置、スカート長さなどの機械加工寸法がヘッド面から高精度で安定となるので機械加工の寸法精度がより向上する。
【0059】
最終的にヘッド面中央部に形成した突起部を機械加工によって除去してピストンの形状を得る。上記鍛造方法により、突起部にミクロシュリンケージ、湯口跡、湯しわなど鋳造欠陥が集まっているので、最終的に機械加工により除去することで鋳造時に発生した欠陥をピストン素材から除去することができるので好ましい。
一方、スカート部を鍛造により薄肉に成形しているので薄肉化のための機械加工による切削工程は不要となるか、もしくは機械加工での切削代を少なくすることができるので、材料歩留まりが向上し、かつ、機械加工時間が短くなることで生産性が向上する。
【0060】
熱間鍛造に供する前に、鍛造性と、鍛造後の人工時効処理性をより改善する場合は、素材を均質化処理するのが好ましい。均質化処理とは、ピストンの機械的強度やエンジン内での使用時の高温使用時の強度を高めるために添加されているCuやMg等の添加金属が鋳造時に生じたミクロ偏析した状態を高温で加熱処理することで、アルミ基地内に均一に分散させることである。それにより鍛造時の加工性と、後工程の人工時効処理後の機械的特性の均一性を確保することができる。均質化処理条件の条件としては、400℃〜(使用する合金の固相線温度−10)℃の温度範囲、保持時間1〜30時間を挙げることができる。
【0061】
一方、使用される合金成分、あるいはピストンの形状によっては、鍛造前に施される素材への予備加熱を利用して均質化処理と同じ効果を得ることが可能であり、その場合は、鍛造前の予加熱工程の保持時間を1時間以上と長くすることで素材の均質化処理と同等の効果を得ることができる。また、使用される合金成分、あるいはピストンの形状によっては鍛造後に施される熱処理工程を利用して均質化処理と同じ効果を得ることが可能であり、この場合は人工時効処理工程の溶体化処理時の保持時間を長くすることで素材の均質化処理と同等の効果を得ることができる。
【0062】
突起部の加工率と本発明のピストン素材の機械特性について説明する。
一方向凝固法により得られた素材は図11に示したように素材の塑性加工率に応じて塑性加工済品の機械的特性が変化する。このため強度を必要とされる部位に付いては塑性加工率を大きくして機械的性質を改善するという手法を用いることができる。本発明では、この手法を用いることができるように製品機能にマッチした鍛造用素材を設計する。
【0063】
本発明は、内燃機関ピストン、ピストン素材に一方向凝固法により得られた素材を適用するので、強度の必要とされる部位については塑性加工率を70%以上(より好ましくは75%以上。さらにより好ましくは80%以上。)に高める必要がある。70%以上としたのは70%未満であると機械的特性の「伸び」が不足となり、脆性破壊する可能性が大きくなってしまうからである。70%以上としたのは、70%以上であれば実用上に要求される機械的特性を得ることができるからである。要求される機械的特性とは、例えば「伸び」の値が6%以上であることを挙げることができる。あるいは、要求される機械的特性を有するとは、連続鋳造棒の機械特性値の70%以上(好ましくは80%以上。)の値を有していることを挙げることができる。
【0064】
内燃機関ピストンにおいてはヘッド面部、天井部の強度が重要であるので、本発明では素材の形状及び鍛造品の形状を塑性加工率が所定の値以上となるように設計することにより、この部位の塑性加工率を70%以上としている。例えば、本発明のピストン、ピストン素材においては、余肉の形でヘッド面中央部に突起部を付加した形状に成形するように設計することで、ヘッド面直下の天井部の塑性加工率を70%以上にしている。その結果、エンジンピストンのヘッド面の強
度を向上させることができる。
【0065】
この結果、エンジンピストンの負荷が大きいヘッド面部の機械的特性が向上するのでピストンの軽量化を実現できる。
【0066】
ピストン素材において、ピストン形状とヘッド面中央部の突起部とによる70%以上の加工率の付加方法について説明する。
一方向凝固鋳造材において素材の塑性加工率(例えば据え込み率。)と機械的特性の一つである「伸び」との相関関係は、表1及び図11に示すようなっている。塑性加工率が70%付近で急激に機械的特性は変化している。塑性加工率が70%以上で、好ましい値である連続鋳造棒の「伸び」の値の70%以上の値となっている。塑性加工率が70%以上で、「伸び」の好ましい値である6%以上の値となっている。これより好ましい機械的特性を得るためには据え込み率は70%以上が好ましくは必要である。
【0067】
【表1】
【0068】
しかし、従来行なわれているように、従来の鍛造用素材の形状から従来の天井肉厚であって突起部を有しない形状であるピストン素材を鍛造した場合は、例えば図13に示すように天井部は60%以下の塑性加工率しか得られていない。そのため、一方向凝固により得られた鋳造材をそのまま用いて、従来の天井肉厚を有した形状となるように鍛造を実施した場合では、塑性加工率は70%に対して10%程不足していることになる。
【0069】
本発明の製造方法では、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有するように塑性加工を加えているので好ましい機械的特性となっている。
【0070】
一方向凝固法で得られた鋳造材において必要な加工率を得るためには、例えば予め部分的に厚くした形状の鍛造用素材を用いる手法をとることができる。すなわち鍛造前素材の中心部を、成形後に得たい塑性加工率となるように予め部分的に厚くする手法がある。例えば、一定厚さの鍛造素材、例えば20mm厚さとした場合、中心部の直径20mmくらいの範囲のみを予め厚さ30mmとした素材を用いて鍛造するとその部分の加工率が大きくなり必要な加工率を得ることができる。このような変形した鍛造用素材は、図3に示した鋳造装置の鋳型内のキャビティ形状を変更することで可能である。
【0071】
または一方向凝固法で得られた鋳造材として必要な加工率を得るためには、鍛造後の形状に突起部の形で余肉を付加する手法をあげることができる。鍛造後の製品形状のうち塑性加工率を高めたい部位に余肉部位、駄肉となる形状を付加して、この余肉部位への素材の塑性流動により塑性加工率を高める手法である。例えば、ヘッド面部の機械加工後の形状が同じ場合であっても、ヘッド面部に余肉部位、駄肉を付加して鍛造した後に付加した余肉部位、駄肉を機械加工にて除去した場合と、ヘッド面部に余肉部位、駄肉を付加しない形状に鍛造した場合を比較するとヘッド面部の塑性加工率は、ヘッド面部に駄肉を付加した後に付加した余肉部位、駄肉を機械加工にて除去した場合の方が高くなるからである。
【0072】
その他、加工率を70%以上にするための手法として、素材に予め据え込み加工を施す、素材に予め押出し加工を施す、素材に予め圧延加工を施す手法が挙げられる。もしくは、加工率を70%以上にするための手法として、以上述べた手法から選ばれる任意の2種以上を組み合わせた方法も挙げることができる。
【0073】
本発明では、上記のように、溶湯が一方向に順次凝固される鋳造装置(一方向凝固鋳造装置)を用いて各種形状の鋳塊を製造し、その鋳塊に対してさらに塑性加工を施し、この塑性加工におけるヘッド面の塑性加工率を70%以上としているので、ヘッド面側での機械的特性を改善し、バラツキをなくして機械的特性を全体として均一なものとしている。さらに、素形材のヘッド面の中央部に突起部を形成しているので、機械加工の機械加工工程を効率し、品質を改善したピストンを製造することができる。
【0074】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンおよびその素材の形状およびヘッド面に設けられた突起部の実施形態について説明する。
【0075】
図1は、本発明の内燃機関用鍛造ピストンの一例の断面図である。図1(a)はスカート部113を含む縦方向の断面図である。図1(b)はピストンをコンロッドに結合する為のピストンピンを挿入するピン孔(ピストンピン孔(114))を含む縦方向の断面である。ピストンの上面はバルブリセスを有するヘッド面(111)である。オイルリング溝(112)はピストンリングを組み込むための溝であり、オイルリング溝はピストン外周面に対して垂直である、すなわちオイルリング溝は深さ方向に垂直であることが求められている。スカート部(113)はピストンのエンジンライナー内で姿勢を保つためのガイドであり、高強度で耐摩耗性を備え、軽量化のために肉薄であることが求められている。符号115に示す2点破線の形状は鍛造製品であるピストン素材の形状であり、符号116に示す実線の形状は機械加工後のピストン完成品の形状である。符号117はリブである。符号118はスカート部先端部である。スカート部先端部はピストン全体の高さに対して下より約40%の範囲のスカート部のことである。鍛造時に大きく塑性流動が起こり良好な鍛造加工性がもとめられる箇所である。
【0076】
図2は、本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例で円錐台形状の突起部201を有したものの断面図である。図2(a)はスカート部を含む縦方向の断面図である。図2(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。図4に円錐台形状の突起部201を有した内燃機関ピストン素材の一例の概略見取り図を示した。ここに示すように、ヘッド面中央部には、突起部が成形されている。突起部が余肉部となって塑性加工率を大きくすることができるからである。
【0077】
ヘッド面中央部に形状が円柱である突起部を有しているのが好ましい。ヘッド面中央部に形状が円錐台状である突起部を有しているのが好ましい。機械加工時のチャッキングが容易となり、安定するので好ましいからである。ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状でありその側面の一部が平面である形状であるものは回転時のトルク伝達が可能であるので好ましい。回転時のトルク伝達が可能である形状としては、円柱の一部が平面で切り取られた水平断面がD字状形状の柱となっている形状、円柱が垂直方向に2面の平面で切り取られた水平断面がI字状形状の柱となっている形状、円柱側面部に角柱状の突起が付加されている形状、円柱側面に設けられた角柱状の突起が十文字状となっている形状等の形状を挙げることができる。
【0078】
ヘッド面部中央部に設ける突起部の外径は直径5〜直径25mm(より好ましくは直径10〜直径22mm)、突起部の高さは5mm〜30mm(より好ましくは10mm〜20mm)の範囲であるのが好ましい。チャッキングが確実に行なえるからである。あまりに小さい突起部は機械加工の際のもみつけ部としても使用できず、好ましくない。また、あまりに大きな突起部は余肉として除去した場合に製品材料歩留まりの低下をもたらし、製造コストを上げる点で好ましくなく、上記の範囲での設定が好ましい。
【0079】
付加した突起部は機械加工時のつかみ部、突き当て基準面として用いることも可能で、最終製品においては余肉として切削除去することができる。付加した突起部の上端面は平面とするのが突き当て基準面として用いる場合に突き当てが安定する点で好ましい。
【0080】
ヘッド面部の突起部が円柱状の形状を有した突起部701である場合の例を、図7に示す。円柱状または円錐台状の形状であるので、素材を最終形状に加工する機械加工時のチャッキングが容易となるので好ましい。円柱状または円錐台状であると点対称であるのでチャッキングの位相方向の位置決めが不要となり、その結果、加工作業時の識別注意や自動加工機にセットする際の位置決め工程を省略することができる。また、チャッキング力が強く安定したチャック状態を実現できるコレットチャックが用いることができるので加工精度を高めることができる。また汎用加工機に多用されている一般的な三つ爪チャックが適用できるので、複雑な機構を有したチャック機構が必要とされない。
【0081】
ヘッド面部の突起部がケレ部(回し金部)を有した鍵型形状を有した突起部901である場合の例を、図9に示す。機械加工時の回転位相決め、機械加工時のトルクによる空転が防止できるので好ましい。単純な円柱形状であるとチャッキングした場合、回転トルクに対する抵抗力はチャック表面と被削材表面の接触部摩擦抵抗とチャッキング圧力に依存するのみで、重切削時に生じる大きな回転トルクがかかった時にチャッキングの抵抗力が負けて回転方向に空回りしてしまう。ケレなどの回転方向の出っ張り部を設けることにより回転方向のトルクに対する機械的な突き当てが実現されるので、空回りを抑えることができる。突起部の形状の円柱外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであって、円柱側面に設けられた突起の幅が縦方向、横方向ともに3〜8mm、高さ5〜30mmであるのが好ましい。チャッキングが確実になるからである。
【0082】
また、ヘッド面部の突起部が円柱形状の側面の一部分に平面部分を付加した形状を有した突起部801である場合の例を、図8に示す。機械加工時の回転位相決めとして使用できるので好ましい。例えば、機械加工時に、ピン穴を加工する際にピンボス部の回転方向の位相決めが必要であるが、平面部分を回転方向の位置決めに利用することができるからである。
【0083】
本発明のピストン素材は、ヘッド面付近の共晶ケイ素平均粒径が3.5μm以上であるのが好ましい。その結果、高性能エンジンで実施されているようなオイルリング溝付近に耐摩耗性コーティング剤による皮膜処理や硬質アルマイト処理によって耐摩耗性を改善する処置を施すことなく、充分な耐摩耗性を有している。よって、これらの高価な処理を施すことが必要で無いので、ピストン単価を低く抑えることができ、安価なエンジンを提供できる。
【0084】
本発明のピストン素材は、ヘッド面付近の共晶ケイ素平均粒径がスカート部先端部の共晶ケイ素平均粒径に対して1.2倍以上であるので、スカート部を薄肉に成形した場合でも、金型に充填するスカート部先端部に亀裂が生じることは無く、金型への塑性流動性が劣ることがない。このためにスカート部の肉厚を薄く成形することができるので、ピストンの軽量化が容易に達成できる。鍛造により薄肉に成形でき、かつ機械加工による薄肉化のための加工代を低減できるので、生産性と材料歩留まりが向上する。1.2倍未満では、ヘッド面付近の耐摩耗性を確保しつつ、熱間鍛造時における良好な塑性流動を確保出来なくなる。例えばヘッド面付近の耐摩耗性には劣るがスカート部の良好な塑性加工性は確保出来る場合と、あるいは逆に、耐摩耗性は優れるが塑性加工性に劣る場合とが起きる。その結果ピストンとして、両方の良好な特性を兼ね備えた物を供給することが困難になる。
【0085】
一方、ケイ素を6〜25質量%含有するアルミニウム合金の場合には、冷却速度に応じて共晶ケイ素組織の中に、初晶ケイ素が存在する場合がある。そのような場合は、ヘッド面付近の初晶ケイ素平均粒径が15μm以上(より好ましくは17μm以上。)であるのが好ましい。理由は、初晶ケイ素粒径による機械加工性と耐摩耗性を更に高めることができ、15μmを下回るとその効果が充分に得られなくなるからである。
【0086】
【実施例】
以下、実施例に従って説明する。
[実施例1]
Al−Si−Cu−Mg系合金溶湯を、他の溶解設備(図省略)で溶製し、その溶湯を図3に示した一方向凝固鋳造装置に注湯して鋳込み、直径70mm直径−厚さ20mmの円柱状の鋳塊を得て鍛造用素材とした。冷却凝固状態を冷却板側の冷却速度を80℃/s以上とし、鋳型上部および注湯口側の冷却速度を10℃/s以下に制御し、冷却板側から一方向凝固を開始させ、鍛造用素材を得た。その他、鋳造条件は表2の実施例1の欄に示す通りであった。なお、この鋳塊の厚さ方向は、凝固方向と同一方向である。ここで鋳造に供された合金溶湯の化学成分は表3に示した通りであった。注湯口が最終凝固部となり、注湯口は素材中央部の表面に配置した。注湯口の痕は、凸高さが1mmとなった状態であった。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
続いて鋳塊に均質化熱処理(495℃、12時間保持)を実施し、鍛造用素材とした。素材の表面に黒鉛の潤滑剤皮膜をスプレーにより塗布し、約400℃に予備加熱し、図5に示した鍛造装置を用いて、金型へ潤滑剤を塗布した後図6に示した下型に素材の冷却板側の面を下にして、最終凝固部の面を上型側に向けて配置した状態で投入した。投入した素材を上下型により形成される空間に押し込み、図4に示した形状の突起を有した内燃機関用ピストン素材を成形した。成形された素形材はノックアウトピンにより下型から取出した。
【0090】
最終凝固部の面の素材は、ヘッド面を形成する上型中央部に設けた空間へ塑性流動され、素形材のヘッド部に直径15mm、高さ12mmの円柱状の突起部を形成した。
【0091】
鍛造されたピストン素材の外径は80mm、スカート部の肉厚は3.5mmであり、鍛造時の鍛造荷重は420tであった。
【0092】
形成された直径15mmの突起部の上端部は平面となっており、次工程の機械加工工程において、突き当て基準面として使用することができる形状であった。
【0093】
ピストン概略断面形状において、図13に示すように成形前後のヘッド面部の加工率は140%となっており、機械的特性の改善には充分な加工率となっている。
【0094】
得られたピストン素材のスカート部に塑性流動と同一方向に発生する割れや、スカート部の先端部に鍛造時の塑性流動が不十分で生じる金型への充満不良、あるいはヘアークラック等の発生がないか目視により調査してスカート部の成形性を評価した。
【0095】
図14に示した鍛造成形したピストン素材の天井面中央から引張試験片を取りだし、それらを引張試験に供した。引張試験は、島津製作所製のオートグラフを用いて行い、引張試験速度は1mm/分にて行った。評価項目は引張強度、0.2%耐力、および伸びの3項目である。
【0096】
顕微鏡観察用サンプルを採取した。採取位置は、図15に示すように、スカート先端(A位置)、オイルリング部(B位置)、ヘッド面外周部(C位置)、ヘッド面中間部(D位置)、ヘッド面中心部(E位置)の合計5点とした。顕微鏡観察用サンプルは研磨仕上げ後、画像処理装置によって第2相晶出粒子に関する測定を行った。ここで、第2相晶出粒子とは、共晶ケイ素および初晶ケイ素をいう。画像解析処理装置は、ニコン社製「コスモゾーンR500」を用いた。顕微鏡観察倍率は共晶ケイ素粒子径については800倍、初晶ケイ素粒子径については200倍で行った。
【0097】
粒子径は1つの粒子の面積を円に置き換えたときの直径、すなわち円相当径(ヘイウッド径)とし、観察視野内に存在する粒子の平均粒子径として求めた。そして、共晶ケイ素、初晶ケイ素それぞれの平均粒子径について、ピストン鍛造品のスカート部とランド部において観察測定し、スカート部位置の測定値を基準にそれぞれの部位での比を取った。
【0098】
突起部の断面を観察し、ミクロシュリンケージ、湯口跡、湯しわなど鋳造欠陥が突起部に集まっているのが観察された。
【0099】
得られたピストン素材を人工時効処理(条件:495℃、2時間保持した後、水焼き入れし、続いて200℃、6時間保持したT7熱処理。)した後、機械加工して内燃機関用鍛造ピストンに仕上た。素形材のヘッド面部突起部を数値制御式のターニングセンター装置(NC旋盤とマシニングセンター機能を併せ持った機械)の主軸に接続した回転チャックに固定した。その状態で外径部およびスカート先端を旋盤加工し次ぎにピンボス部のピン穴部をドリル加工し、次ぎにピン穴に設けられたクリップ溝部をエンドミル加工した。その間チャックから素形材を外し、チャックしなおす必要は無かった。最後に突起部をフライスで切削除去して内燃機関用ピストンを製造した。
【0100】
[実施例2][比較例1、2]
ヘッド面部突起部を成形する金型および鍛造用素材体積を調整し、鍛造素形材ヘッド面部の突起部の体積を変化させて、ヘッド面部の加工率を25%(比較例1),50%(比較例2),75%(実施例2)とした以外は実施例1と同様に鍛造した。
【0101】
[比較例3]
例えば特公昭54−42847号公報にて開示されているような連続鋳造法によって鋳塊を製造し鍛造したものを実施例と比較した。すなわち、実施例1と同一の溶湯を使用して、84mm直径の連続鋳造棒を鋳込んだ。連続鋳造方法としては、特公昭54−42847号公報にて開示された気体加圧式ホットトップ鋳造法を用い、その鋳造条件は表4に示す通りであった。
【0102】
得られた連続鋳造棒(鋳塊)を均質化処理後、79mm直径へと皮むきし、さらに厚さ20mmに輪切りに切断した。その後、75%のヘッド面部加工率で熱間鍛造し、実施例1と同様の形状のピストン素材を得た。そのピストン素材を実施例1と同じように人工時効処理した後、引張試験片を得、また顕微鏡観察用サンプルを採取した。なお、均質化処理条件、鍛造条件、T6条件、引張試験片形状、引張試験方法、顕微鏡観察用試料作成手順等は、実施例1と同条件であった。また顕微鏡観察用サンプルの採取位置、第2相粒子の形状測定方法等も実施例1と同一である。
【0103】
【表4】
【0104】
表5に、各実施例,各比較例における引張試験結果の、引張強度、0.2%耐力および伸びの諸データを示す。この結果から、各特性値は、加工率が低い場合は連続鋳造材から得た鍛造品の値よりもかなり低下しているが、加工率が70%以上である実施例の場合は好ましい値にまで改善したことがわかる。
【0105】
【表5】
【0106】
表6および表7は第2相晶出粒子の形状測定結果を示すものであり、表6は実施例1の結果を、表7は比較例3の結果をそれぞれ示している。表6において、実施例1で得たピストン素材の第2相粒子の形状については、共晶ケイ素平均粒径はスカート先端からヘッド面中心部に向けて漸増傾向にあり、スカート先端(A位置)の平均粒子径を1としたときのヘッド面中心部(E位置)の値は2.67であった。
【0107】
また、初晶ケイ素の0.307平方ミリメートル中に存在する粒子数は、スカート先端からヘッド面中心部に向けて増加し、平均粒子径も増大して、スカート先端(A位置)の平均粒子径を1としたときのヘッド面中心部(E位置)の値は1.57であった。
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
一方、表7において、比較例3で得たピストン素材の第2相晶出粒子は、共晶ケイ素、初晶ケイ素ともに、どの部位もほぼ同じ値を示した。また、初晶ケイ素の0.307平方ミリメートル中に存在する粒子数についても、どの部位でもほぼ同じ値を示した。
【0111】
上記したような、実施例1のピストン素材と、比較例3におけるピストン素材とにおける諸特性の相違は、実施例1のピストン素材の基となった鋳塊は、冷却部材側、開閉栓側という素材の表裏が区別されるのに対して、比較例3のピストン素材の基となる連続鋳造棒を輪切りにして得られた素材は、その両端側で元来均等な結晶組織を有しているため、一端面側、他端面側という区別がないことに起因していると考えられる。
【0112】
このような諸特性の相違により、一方向凝固鋳造法による鋳塊に塑性加工を施し、ピストン素材とした場合、耐摩耗性が関係ないスカート部側では強度を確保し、耐摩耗性が要求されるヘッド面側では、強度と耐摩耗性の双方を確保させるといったことが可能となる。
【0113】
以上述べたように、実施例では、一方向凝固鋳造法で得られた鋳塊に加工率70%以上の塑性加工を施してピストン素材を得るようにしたので、トップ面をヘッド面とした場合の劣っていた機械的特性を著しく改善することができ、一方向凝固鋳造法による鋳塊から製造した素材でも、その素材全体の強度をアップすることができるとともに、その強度のバラツキもより均一化することができた。
【0114】
本発明の方法では、GDC鋳造方法では回避不可能であった鋳造時の酸化物の巻き込みや引け巣の発生を抑えることができ、製造コストの低減が可能である。本発明においては、従来の連続鋳造材を用いた鍛造工法に比べ、鍛造用素材の外径切削加工および丸棒材の切断工程を省略することが可能であるため材料歩留まりおよび各工程での費用の低減が可能で大幅なコストダウンが可能となり、鍛造用素材に起因する引け巣や酸化物の巻き込みの問題も解決できる。
【0115】
本発明に用いる一方向凝固鋳造法により得られた鍛造用素材は重量のバラツキを±1g以下に制御が可能であるため、投入する個々の素材の重量バラツキに起因する金型への負荷を低減できるため金型の準用が向上する。
【0116】
ヘッド面部中央部に形成した突起部は、機械加工時の突き当ておよびチャッキングに適しており、被加工部から独立している部位となっているのでチャッキングの回数を減らすことができる。
【0117】
さらに、チャッキング部および突き当て平面を一体で形成することにより被加工部の機械加工時の寸法精度の向上を図ることができるので好ましい。ヘッド面部中央部に鍛造により形成した突起部は鍛造時に一体成形されているため寸法精度の点で好ましい。また、ヘッド面部中央部の突起部は金型を分割構造にすることにより欠肉を生じることなく平坦形状を形成できるので、突起部上端面は突き当てとして用いるのに充分な平坦形状となるので、このような突起部は突き当て状態が安定するため好ましい。
【0118】
本発明によるエンジンピストンの製造方法により、内部欠陥のなく、ヘッド面部の強度が製品機能を充分満たす内燃機関ピストンを材料歩留まり良く、安価に製造できる。
【0119】
この様なピストンは従来の連続鋳造細径連鋳棒を素材とした熱間鍛造や、金型鋳造による鋳物では得られず、本発明で両製法の良いところを併せ持つ内燃機関用鍛造ピストンを提供することが可能となった。
【0120】
【発明の効果】
本発明の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法は、アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程と
を含むものであるので、
一方向凝固鋳造法で得られた鋳塊に加工率70%以上の塑性加工を施してピストン素材を得るようにしたので、トップ面側で劣っていた機械的特性を著しく改善することができ、一方向凝固鋳造法による鋳塊から製造した部材でも、その部材全体の強度をアップすることができるとともに、その強度の差も小さくすることができ、ピストンヘッド面の中央部の鋳造時の最終凝固部の位置において形成される突起部を機械加工時に利用することで効率良く機械加工ができ、最後に突起を除去することで最終凝固部に集まった欠陥などを一緒に除去できるのでより良い品質のピストンを効率良く製造することができる。
【0121】
これにより、高性能で安価な鍛造ピストンを提供することが出来、品質が安定した高性能なエンジンを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の内燃機関用鍛造ピストンの一例の断面概略図である。(a)はスカート部を含む縦方向の断面図、(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。
【図2】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例の断面概略図である。(a)はスカート部を含む縦方向の断面図、(b)はピストンピン孔を含む縦方向の断面である。
【図3】本発明の製造方法に用いる一方向凝固鋳造法による鋳造装置の一例の概略図である。
【図4】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の一例の外観概略図である。
【図5】本発明の製造方法に用いる鍛造装置の一例の概略図である。
【図6】本発明の製造方法に用いる金型の一例の概略断面図である。
【図7】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の他の例の外観概略図である。
【図8】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の別の例の外観概略図である。
【図9】本発明の内燃機関用鍛造ピストン素材の別の例の外観概略図である。
【図10】本発明の製造方法の機械加工工程の説明図である。
【図11】一方向凝固法よる鋳塊の塑性加工率と機械的特性との関係の説明図である。
【図12】従来のピストン素材の塑性加工率の説明図である。(a)は鍛造前の鍛造用素材の断面図、(b)は鍛造後のピストン素材の断面図である。
【図13】本発明のピストン素材の塑性加工率の説明図である。(a)は鍛造前の鍛造用素材の断面図、(b)は鍛造後のピストン素材の断面図である。
【図14】引っ張り試験片の採取位置の説明図である。
【図15】顕微鏡観察用サンプルの採取位置の説明図である。
【符号の説明】
111:ヘッド面、112:オイルリング溝、113:スカート部、114:ピストンピン孔、115:ピストン素材の形状、116:機械加工後のピストンの形状、117:リブ、118:スカート部先端部、
501:鍛造機、502:上ボルスター、503:上型、506:下ボルスター、505:下型、507:ノックアウトピン、508:スプレー前後移送装置、
509:スプレー回転装置、510:シャフト、504:潤滑剤スプレーノズル、
301:冷却板、302:主鋳型、303:受槽、304:注湯口、305:開閉栓、306:鋳塊、307:アルミニウム合金の溶湯、308:蓋、309:電気炉、310:スプレーノズル、311:ケース、312:排水口
401:ヘッド面、402:バルブリセス、403:スカート、404:リブ、
405:ピンボス部、
202、701、801、901、1002:突起部、
1001:チャック、1003:スカート加工箇所、1004:外径加工箇所、
1005:ピン穴加工箇所、1006:オイルリング溝加工箇所、1009:チャッキング箇所、1008:突当面、
601:上金型、602:下金型、603:突起部成形部、604:鍛造用素材、605:最終凝固面側の面、
Claims (19)
- アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鋳造して鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
該ピストン素材を機械加工して内燃機関用鍛造ピストンとする工程と
を含むことを特徴とする内燃機関用鍛造ピストンの製造方法。 - 鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法。
- 機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部を機械加工時のチャック部および加工基準として用いることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
- 機械加工工程において、ピストンヘッド面がその中央部に有している突起部をチャッキングしこのチャッキングした状態で行なった機械加工の後に、当該突起部を切削除去することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法。
- 予備加熱処理の温度条件が350℃〜(アルミニウム合金の固相線温度−10)℃の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法。
- 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内燃機関ピストンの製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン。
- アルミニウム合金溶湯を一方向凝固鋳造法により鍛造用素材を製造する工程と、
該鍛造用素材を予備加熱処理する工程と
該鍛造用素材をその一方向凝固の最終凝固面側と金型のピストンヘッド面を形成する面とを向かい合わせて金型内に収納した後に、ピストンヘッド面が70%以上の塑性加工率を有しかつピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であるピストン素材に該鍛造用素材を鍛造加工する工程と、
を含む内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法。 - 鍛造加工時に、素材単位体積当りの表面積が加工後に増加するようにピストンヘッド面の中央部の突起部を形成することにより、ピストンヘッド面の加工率を70%以上とすることを特徴とする請求項7に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材の製造方法。
- アルミニウム合金を原料とし、ピストンヘッド面がその中央部に突起部を有する形状であって、請求項7または8に記載の製造方法によって製造される内燃機関用鍛造ピストン素材。
- 鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASに対して一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織のDASが1.1〜10.0倍であることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
- 鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位におけるアルミニウム合金組織の平均結晶粒径が1.05〜7倍であることを特徴とする請求項9または10に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
- 鍛造用素材の一方向凝固の初期凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の一方向凝固の初期凝固面側の平均粒子径に対して、一方向凝固の最終凝固面側に相当する部位における第2相晶出粒子径の平均粒子径が1.2倍以上であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
- ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状または円錐台状であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
- ヘッド面がその中央部に有している円柱状または円錐台状の突起部が、外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする請求項13に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材。
- ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱に加え、突起が円柱側面に円柱外径方向に設けられた形状であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材。
- ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状の円柱外径が直径5〜25mm、高さ5〜30mmであって、円柱側面に設けられた突起の幅が縦方向、横方向ともに3〜8mm、高さ5〜30mmであることを特徴とする請求項15に記載された内燃機関用鍛造ピストン素材。
- ヘッド面がその中央部に有している突起部の形状が、円柱状でありその側面の一部が平面である形状であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載の製造方法で製造された内燃機関用鍛造ピストン素材。
- アルミニウム合金が、ケイ素を6〜25質量%含有することを特徴とする請求項9乃至17のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
- アルミニウム合金が、Siを6〜25質量%、Cuを0.3〜7質量%、Mgを0.1〜2質量%、Niを0.1〜2.5質量%含有することを特徴とする請求項9乃至18のいずれか1項に記載の内燃機関用鍛造ピストン素材。
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