JP4733447B2 - 補強壁 - Google Patents

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本発明は、構造物の剛性および耐力を増加させるために構築される補強壁に関する。
例えば、耐震性が不十分であると判断された既設構造物に対する一般的な補強構造としては、柱と梁から形成される既設梁柱架構の内側空間に、現場打ち鉄筋コンクリート耐震壁や、鉄骨ブレース等を配置することにより、耐震補強を行っていた。
ところが、鉄筋コンクリート耐震壁は、梁柱架構の内側空間を壁体により塞いでしまうため、美観上および彩光上の面や、ダクトを含めた必要な配管等を行うことができないなどの問題点を有していた。また、鉄骨ブレースによる耐震補強は、採光や配管等は可能であるものの、鉄骨の配置により意匠的な設計の自由度が制限されるという問題点を有していた。
そのため、特許文献1には、図4(a)に示すように、梁柱架構110の内側空間に、鋼板103を配置することにより構成された鋼製の耐震補強壁101であって、鋼板103を切断することにより耐震補強壁101の周辺部の対称位置に開口部104,104,…を設けて、採光または配管等を可能としている。なお、図4(a)における符号102は、鋼板103の座屈防止の目的として設けられたスチフナであって、鋼板103の板厚に応じて配置されている。
また、特許文献2には、図4(b)に示すように、美観性および採光性の向上を図ることを目的として、梁柱架構210の内面に固定された鋼板202と、縦横方向に整列して当該鋼板202に形成された開口部203とを有する耐震補強壁201が提案されている。
特開平10−184075号公報([0017]−[0022]、図1−図3) 特開2002−70213号公報([0020]−[0039]、図1−図15)
ところが、前記従来の耐震補強壁101,201は、部材(鋼板103,202)の断面(部材厚等)によりその剛性や耐力が決定する。そのため、構造物の増築や改築に伴い、耐震補強壁101,201の性能を変更する必要が生じた場合には、耐震補強壁101,201を撤去して、新たに、所望の剛性や耐力を有した耐震補強壁を設置し直す必要があった。
また、特許文献1の耐震補強壁101は、開口部104が鋼板103の一部を切断することにより設けられているため、開口部104の位置をずらすなど、補強対象となる構造物の使用目的に応じて通風や採光を変更することは困難であり、設計の自由度が制限されるという問題点を有していた。
同様に、特許文献2の耐震補強壁201は、鋼板202の板厚に応じて開口部203の大きさや配置等が決定されるため、補強対象となる構造物の使用目的等に応じたデザインを変更することは困難であり、設計の自由度が制限されるという問題点を有していた。
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、剛性および耐力等の力学的な設計を自由に変更することを可能とし、かつ、美観性、採光性および通風等、機能的および意匠的な設計を自由に変更することを可能とした補強壁を提案することを課題とする。
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の補強壁は、縦材と横材とを接合することにより縦n段横m列の開口部を有して形成される格子状部材と、前記開口部のうち、n箇所以上n×m箇所未満の開口部を閉塞するように配置される板状部材とからなり、前記板状部材が構造材であることを特徴としている。
かかる補強壁によれば、縦n段横m列(n,mは整数)の開口部が形成された格子状部材のうち、所定の開口部に、板状部材を配置することにより、構造物の使用目的等に応じたデザインによる補強壁を構築することを可能としているため、機能的および意匠的な設計の自由度が高い。また、板状部材の材質や部材厚を調整することにより、補強壁の剛性および耐力等の力学的な設計を自由に変更することも可能としている。
ここで、本明細書において板状部材とは、所定の強度を有した板状の部材であって、格子状部材の所定の開口部に配置されることにより当該補強壁が配置される構造物の剛性と耐力を高めることを可能とする、構造材としての機能を有した部材をいう。また、格子状部材は、補強壁の主材として、その強度により構造物の剛性と耐力とを高めることを目的として配置される構造材であって、これに板状部材が適切に配置されることにより、さらに効果的に構造物の補強を行うことを可能としている。
また、前記補強壁において、複数の前記板状部材を、縦方向に連続して配置すれば、格子状部材の面内において間柱と同等の構造を構築し、構造物の鉛直耐力を増強することが可能となり、好適である。
さらに、請求項3に記載の補強壁は、縦材と横材とを接合することにより縦n段横m列の開口部を有して形成される格子状部材と、前記開口部のうち、m箇所以上n×m箇所未満の開口部を閉塞するよう配置される板状部材とからなり、前記板状部材が構造材であることを特徴としている。
このように、縦n段横m列(n,mは整数)の開口部のうち、m箇所以上の開口部を閉塞するように板状部材が配置されていれば、補強壁として構造物の剛性および耐力を高めるとともに、美観性に優れたデザインが可能となるため、好適である。
また、前記補強壁において、複数の前記板状部材を、斜め方向に連続して配置すれば、格子状部材の面内において、鉄骨ブレース等と同等の構造を構築することが可能となり、その結果、地震時や強風時等の水平耐力を増強することが可能となり、好適である。
前記格子状部材が、対向する一対の格子構成材からなり、前記板状部材が、前記格子構成材により前後から挟持されることにより固定されている、あるいは、前記板状部材が、前記格子状部材を挟んで対向する2枚の板材であれば、板状部材の着脱が容易なため、好適である。
このように、前記板状部材が、前記格子状部材に着脱可能に取り付けられていれば、当該補強壁の施工後において、格子状部材により形成された開口部に配置された板状部材の位置、厚み、枚数等を適宜変更することにより、必要な剛性および耐力を自由に変更することが可能となるため、好適である。また、板状部材の位置を変更することにより、適宜、美観性、採光性および通風等、機能的および意匠的な設計を自由に変更することが可能となる。
本発明によれば、剛性および耐力等の力学的な設計を自由に変更することを可能とし、かつ、美観性、採光性および通風等、機能的および意匠的な設計を自由に変更することを可能な補強壁を提供することが可能となった。
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
ここで、図1は、本実施の形態に係る補強壁を示す正面図であり、図2は、(a)、(b)ともに、同補強壁の板状部材と格子状部材との接合方法を示す拡大断面図である。また、図3は、(a)、(b)ともに本発明に係る補強壁の変形例を示す正面図である。
本実施の形態に係る補強壁1は、図1に示すように、左右に立設された柱12,12とこれらの柱12,12に横設されている上下の梁11,11とにより形成された梁柱架構10の内側空間に配設されている。ここで、符号13は、床スラブである。
補強壁1は、複数の縦材2aと複数の横材2bとを組み合わせてなる格子状部材2と、格子状部材2に形成された縦n段横m列(本実施形態では縦3段横6列)の開口部5,5,…のうち、所定の開口部5(本実施形態では6箇所)を閉塞するように配置される板状部材3とから構成されている。ここで、本実施形態では、開口部5,5,…が、同一寸法の正方形に形成されているが、長方形に形成されていてもよく、また、位置に応じて異なる寸法に形成されていてもよい。
格子状部材2は、本実施形態では、補強壁1の対向する一対の格子構成材からなり、図2(a)に示すように、2本の溝型鋼(格子構成材)の開口面(溝が形成された側の面)がそれぞれ前後(図1における紙面の表裏方向)を向くように、一対の格子構成材を対向させることで構成されている。そして、これらの溝型鋼(縦材2aおよび横材2b)を鉛直方向または水平方向に配置して、格子状に組み合わせることにより、縦3段、横6列の開口部5,5,…が形成されている。
なお、格子状部材2の開口部5の段数や列数は、前記のものに限定されるものではなく、梁柱架構の形状や想定される外力に応じて適宜設定すればよい。
また、格子状部材2を構成する材料が溝型鋼に限定されるものではないことはいうまでもない。つまり、格子状部材2を構成する部材の剛性に加えて、所定の開口部5に配置された板状部材3の剛性により、所望の耐力を発現することが可能な材料を適宜選定して使用すればよい。さらに、本実施形態では、縦材2aと横材2bとを溶接接合することにより格子状部材2を形成するものとするが、格子状部材2の形成方法は限定されるものではなく、例えば、鋼板に所定の配列による開口部5を形成することにより形成してもよい。
格子状部材2の梁柱架構10への取り付けは、格子状部材2の外周囲と梁柱架構10との隙間にモルタル等の充填材4を充填することにより行う。ここで、取り付けに使用する充填材4は、格子状部材2と梁柱架構10の一体化が可能であれば、モルタルに限定されるものではない。また、格子状部材2の梁柱架構10への取り付け方法は限定されるものではなく、場合により、摩擦工法やアンカー工法等から適宜選定して行うことができる。
板状部材3は、正方形状に形成された鋼板を、図1に示すように、格子状部材2に形成された開口部5のうち、最下段の左右両端の開口部5,5からそれぞれ上段の中央の開口部5,5に向かって、斜め方向に連続して配置されており、逆V字を呈している。なお、板状部材3は、鋼板に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維強化プラスチック、グレーチング、パンチングメタル等が使用可能である。また、板状部材3の形状は正方形に限定されるものではなく、開口部5の形状に応じて適宜設定されることはいうまでもない。
板状部材3の格子状部材2への取り付けは、図2(a)に示すように、その四辺を前後に配置された一対の格子構成材(格子状部材2)により把持した状態で、所定間隔に配置されたボルトとナットBNにより締着されている。なお、ボルトとナットBNの数や配置は限定されるものではなく、板状部材3の格子状部材2への取り付けが可能となるように適宜設定して行う。
ここで、図2(a)の符号3aは、板状部材3を把持することにより形成される、一対の格子構成材(格子状部材2の溝型鋼同士)の間に形成された間隔を埋めるために配置されるフィラーである。フィラー3aは、板状部材3と同等の厚みを有していればよく、その材質等は限定されるものではないが、本実施形態では、板状部材3と同等の厚みを有した鋼板を使用するものとする。なお、一対の格子構成材(格子状部材2)のうち、前面側または後面側のいずれか一方が、縦材2aと横材2bとが分割可能に構成されていれば、所定の開口部5における板状部材3の着脱を容易に行うことが可能となるため、好適である。
なお、本実施形態では、板状部材3として各設置箇所に板材を1枚配置するものとしたが、図2(b)に示すように、複数枚(図2(b)では2枚)重ねてその厚みを増加させることにより、剛性を増加させた板状部材3により構成してもよい。この場合において、格子状部材2を構成する縦材2aおよび横材2bを断面十字状の鋼製の部材により構成すれば、格子状部材2の前後から、2枚の板材(板状部材3)により把持した状態で、ボルトとナットBNにより締着して、固定することが可能である。ここで、格子状部材2を構成する部材は、溝型鋼や十字鋼に限定されるものではないことはいうまでもない。
補強壁1の梁柱架構10への設置は、搬送時や設置時の作業性を考慮して、分割された各部材を現地にて組み立てることにより行うものとするが、当該補強壁1を設置する構造物内での搬送や、設置に要する機械などの配置が可能であれば、予め所定の形状に形成された補強壁1を搬入し、梁柱架構10の内側空間へ設置してもよい。
本実施形態に係る補強壁1は、板状部材3が、格子状部材2の開口部5に、逆V字状に配置されているため、鉄骨ブレース等の耐震補強部材と同様に、地震時等の横方向の外力に対する耐力を増強することを可能としている。
また、板状部材3は、格子状部材2により把持した状態で、ボルトとナットBNにより締着されることで固定されているため、その着脱が容易で、例えば、構造物の増築等により想定される外力の大きさが変化した場合でも、板状部材3の厚みまたは枚数を変更することで容易に必要な剛性と耐力を有した補強壁1を構築することを可能となる。
また、板状部材3の着脱が容易なため、採光や通風、または、美観性のデザインの変更を目的として、板状部材3の配置を変更することも容易である。
また、板状部材3として、ガラス繊維強化プラスチック、グレーチング、パンチングメタル等の材質の板材を使用すれば、デザインの自由度が増し、好適である。
板状部材3の配置は、補強壁の設置の目的が、構造物の鉛直方向の耐力の増強を目的とするものであれば、図3(a)に示す補強壁1’ように、格子状部材2の縦の段数(図3(a)では3段)と同数の板状部材3,3,…(図3(a)では3枚)を、縦方向に連続して配置してもよい。この構成によれば、柱12と柱12との間に間柱を配置するのと同等の効果を得ることが可能となる。
また、構造物の耐震性能を向上するとともに、設置によりその景観が損なわれないように、板状部材3を配置することも可能である。つまり、図3(b)に示すように、板状部材3をV字および逆V字を重ねるような状態(X字を横に並べた状態)に配置することで、外力に対する耐力を増強するとともに、個性的な景観を付与する構成としてもよい。
以上、本発明について、好適な実施形態の一例を説明した。しかし、本発明は、前記実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能である。
例えば、前記各実施形態では、本発明の補強壁を梁柱架構の内側空間に配置するものとしたが、補強壁の設置箇所は限定されるものではなく、天井スラブ、床スラブ、壁等、その他の躯体により構成された空間に配置してもよい。
また、本発明の補強壁は、外壁として構造物の外側に配置してもよく、その設置箇所は、構造物の内外を問わない。
また、板状部材の格子状部材への取り付け方法は、力の伝達が可能で、板状部材の着脱が容易な方法であれば、ボルトとナットによる締着に限定されるものではないことはいうまでもない。
また、板状部材の配置は、前記のものに限定されるものではなく、補強壁の目的、必要とされる耐力、景観等を考慮して、適宜設定すればよく、例えば、V字状、横V字状、X字状、ブレース状等に配置してもよい。
また、構造材としての板状部材により閉塞されている開口部以外の開口部に、風雨の浸入を防ぐことや補強壁の美観性を高めること等を目的として、ガラス製やプラスチック製等の非構造材を配置してもよいことはいうまでもない。
また、前記実施形態では、板状部材の格子状部材への取り付けをボルトとナットを介して締着することにより行うものとしたが、板状部材の取り付け方法は限定されるものではなく、例えば溶接など、公知の手段から適宜選定して行えばよい。また、前記実施形態では、2重構造部材からなる格子状部材、または、複層部材からなる板状部材により挟持することで、格子状部材への板状部材の取り付けを行うものとしたが、板状部材の取り付けは挟持による方法に限定されるものではないことはいうまでもない。
本実施の形態に係る補強壁を示す正面図である。 (a)、(b)ともに、同補強壁の板状部材と格子状部材との接合方法を示す拡大断面図である。 (a)、(b)ともに、本発明に係る補強壁の変形例を示す正面図である。 (a)、(b)ともに従来の補強壁を示す正面図である。
符号の説明
1,1’,1” 補強壁
2 格子状部材
2a 縦材
2b 横材
3 板状部材
5 開口部
10 梁柱架構

Claims (6)

  1. 縦材と横材とを接合することにより縦n段横m列の開口部を有して形成される格子状部材と、
    前記開口部のうち、n箇所以上n×m箇所未満の開口部を閉塞するように配置される板状部材と、からなる補強壁であって、
    前記板状部材が、構造材であることを特徴とする、補強壁。
  2. 複数の前記板状部材が、縦方向に連続して配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の補強壁。
  3. 縦材と横材とを接合することにより縦n段横m列の開口部を有して形成される格子状部材と、
    前記開口部のうち、m箇所以上n×m箇所未満の開口部を閉塞するように配置される板状部材と、からなる補強壁であって、
    前記板状部材が、構造材であることを特徴とする、補強壁。
  4. 複数の前記板状部材が、斜め方向に連続して配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の補強壁。
  5. 前記格子状部材が、対向する一対の格子構成材からなり、
    前記板状部材が、前記格子構成材により前後から挟持されることにより固定されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の補強壁。
  6. 前記板状部材が、前記格子状部材を挟んで対向する2枚の板材からなることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の補強壁。
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