以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る鋼製耐震壁について説明する。なお、各図において、適宜図示される矢印Hは上下方向(壁体の高さ方向)を示し、矢印Wは壁体の幅方向を示し、矢印Dは壁体の面外方向(壁体の板厚方向)を示している。
先ず、第1実施形態に係る鋼製耐震壁の構成について説明する。
図1〜図3には、第1実施形態に係る鋼製耐震壁10が取り付けられた架構12が示されている。架構12は、対向する鉄筋コンクリート造の左右の柱14と、これらの柱14の間に架設された鉄筋コンクリート造の上下の梁(水平部材)16とを有して構成されたラーメン構造とされている。柱14及び梁16には、主筋及びせん断補強筋が適宜埋設されている。なお、図2における符号18、20は、梁16に埋設された主筋、せん断補強筋である。
図1及び図2に示されるように、鋼製耐震壁10は鋼製の壁体22と、壁体22の外周に設けられた枠体24を備えている。壁体22は上下方向(矢印H方向)に隣接する2つの壁部22A、22Bを備えている。各壁部22A、22Bは、山部と谷部が交互に繰り返す波形鋼板で構成され、折り筋を横(折り筋の向きを水平方向)にして架構12の構面に配置されている。波形鋼板の材料としては、普通鋼(例えば、SM490、SS400等)や低降伏点鋼(例えば、LY225等)等が用いられる。
なお、本実施形態では、壁体22の各壁部22A、22Bを同一の波形形状、材料の波形鋼板で構成したが、各壁部22A、22Bを異なる波形形状の波形鋼板で構成しても良いし、各壁部22A、22Bを異なる材料の波形鋼板で構成しても良い。
図2に示されるように、上下方向に隣接する壁部22A、22Bは鋼製の補剛部材26によって連結されている。補剛部材26はH形鋼で構成され、ウェブ部28とウェブ部28の端部に設けられたフランジ部30を備えている。この補剛部材26は、材軸を壁体22の幅方向(矢印W方向)にすると共に、フランジ部30が壁体22の面外方向(矢印D方向)両側に位置するように壁部22A、22Bの間に配置されている。壁体22の面外方向に対向するフランジ部30の間には壁部22A、22Bの端部がそれぞれ挿入され、突き当てられたウェブ部28に溶接等で接合されている。これにより、上下方向に隣接する壁部22A、22Bが補剛部材26を介してせん断力を伝達可能に連結されている。また、補剛部材26のウェブ部28が、壁体22から当該壁体22の面外方向外側へそれぞれ突出し、その突出方向前側の端部に設けられたフランジ部30が、その面30Aを壁体22側に向けて配置されている。
なお、ここで言うフランジ部30の面30Aとは、フランジ部30の板厚方向の面(フランジ面)を意味し、端面(小口面)を含まない概念である。また、フランジ部30の面30Aを壁体22側に向けるとは、壁体22に対してフランジ部30の面30Aが平行又は傾斜することを意味する。
また、補剛部材26は、上下の梁16間の中央部に位置するように配置されている。なお、上下の梁16間の中央部とは、上下の梁16の内法高さT(下の梁16の上面から上の梁16の下面までの距離)の中間部又は中間部周辺を含む概念である。
壁体22の外周に設けられた枠体24は、壁体22の幅方向の両端部(図1において、左右の端部)に設けられた縦端部フランジ24Aと、壁体22の上下の端部(壁体22の高さ方向の端部)に設けられた横端部フランジ24Bとを枠状に接合して構成されている。縦端部フランジ24Aは板状で、各壁部22A、22Bの幅方向の両端部に沿って溶接等で接合されている。また、縦端部フランジ24Aには、補剛部材26の材軸方向の端部26Aがそれぞれ溶接等で接合されている。これにより、補剛部材26の材軸方向の端部26Aの固定度が上がっている。また、横端部フランジ24Bは板状で、壁部22Aの上端部及び壁部22Bの下端部に沿ってそれぞれ溶接等で接合されている。これらの縦端部フランジ24Aの端部と横端部フランジ24Bの端部は壁体22の角部において溶接等で接合され、壁体22を囲んでいる。なお、縦端部フランジ24Aと横端部フランジ24Bとは必ずしも接合する必要はなく、また、枠状でなくても良い。
縦端部フランジ24A及び横端部フランジ24Bには、せん断力伝達手段としてのスタッド32が突設されている。これらのスタッド32を柱14及び梁16に埋設することにより、壁体22が架構12に取り付けられると共に、スタッド32を介して壁体22と架構12との間でせん断力が伝達可能になっている。また、縦端部フランジ24Aを介して、補剛部材26の材軸方向の端部26Aが柱14に接合されている。
なお、縦端部フランジ24Aと柱14、横端部フランジ24Bと梁16の接合構造は、上記したものに限らない。例えば、スタッドが立設された接合用プレートを柱14及び梁16にそれぞれ埋設し、この接合用プレートに縦端部フランジ24A及び横端部フランジ24Bを溶接又はボルト等で接合しても良い。また、エポキシ樹脂等の接着剤により、縦端部フランジ24Aと柱14、横端部フランジ24Bと梁16を接着接合しても良い(接着工法)。更に、縦端部フランジ24A及び横端部フランジ24Bは板状に限らず、H形鋼、L形鋼、T形鋼、チャネル鋼等でも良い。
各壁部22A、22Bにおける縦端部フランジ24Aの間の部位には、縦リブ34が接合されている。縦リブ34は板状で、その材軸を上下方向にすると共に、壁体22の幅方向に間隔を空けて複数(本実施形態では、各4つ)設けられている。各縦リブ34の材軸方向の両端部は、横端部フランジ24B及び補剛部材26のウェブ部28にそれぞれ溶接等で接合されている。この縦リブ34は、壁部22A、22Bの表面に溶接されるか、若しくは壁部22A、22Bを幅方向に分割した分割ピースの間に配置され、隣接するピースの端部が溶接等によって接合される。この縦リブ34によって、各壁部22A、22Bに面外剛性が付与され、各壁部22A、22Bが面外方向へはらみ出すせん断座屈が抑制されている。なお、縦リブ34は必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
次に、第1実施形態に係る鋼製耐震壁の作用について説明する。
風や地震等によって架構12に外力が作用すると、架構12に取り付けられた壁体22にせん断力が伝達され、壁体22がせん断変形する。これにより、壁体22が外力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、外力に対して壁体22が降伏するように設計することで、鋼材の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振性能を発揮する。
一方、壁体22のせん断変形が進むと、壁体22が面外方向(図2において、矢印D方向)へはらみ出し、せん断座屈する恐れがある。特に、上下の梁16間の中央部に位置する壁体22の部位(壁体22の高さ方向の中央部)は、架構12によって拘束される壁体22の上部及び下部と比較してせん断座屈が発生し易くなる。この対策として、本実施形態では、壁体22における上下の梁16間の中央部に位置する部位に、補剛部材26を設けている。
具体的には、図3に示されるように、補剛部材26のフランジ部30を壁体22の面外方向両側に配置したことにより、壁体22の面外方向の変形に対する断面2次モーメントが増大する。即ち、各壁部22A、22Bの幅方向の中立軸(波形鋼板の山部と谷部の間の幅方向の中心軸)周りの断面2次モーメントが増大する。例えば、図3に示す断面における壁体22の中立軸X周りの断面2次モーメントIは、下記式(1)によって求められる。
但し、
A :壁体(波形鋼板の山部又は谷部)の断面積
B :補剛部材のフランジ部の断面積
y
1:中立軸Xから壁体の山部(又は谷部)の中心軸Oまでの距離
y
2:中立軸Xから補剛部材のフランジ部の中心軸O’までの距離
I
1:壁体の山部(又は谷部)の中心軸O周りの断面2次モーメント
I
2:補剛部材のフランジ部の中心軸O’周りの断面2次モーメント
である。
式(1)から分かるように、補剛部材26のフランジ部30が有効に寄与するため、壁体22の中立軸X周りの断面2次モーメントIが増大する。また、補剛部材26のフランジ部30の寄与分は、中立軸Xから各フランジ部30の中心軸O’までの距離y2の二乗に比例することが分かる。従って、ウェブ部28の突出方向前側の端部にフランジ部30を設け、壁体22とフランジ部30との間隔を広げることにより、効率的に断面2次モーメントIを増加することができる。これにより、壁体22の面外剛性が増加する結果、鋼製耐震壁10全体のせん断座屈耐力が向上する。
このように、壁体22側に面30Aを向けたフランジ部30を設けたことにより、フランジ部30を備えない構成と比較して、補剛リブ(例えば、図20における縦リブ312)の必要板厚、必要数量を低減することができる。従って、補剛リブの取り付け作業の手間が低減されると共に、材料コストを削減することができる。これにより、従来の鋼製耐震壁ではコスト等の観点から適用し難かった高階高の建物にも、鋼製耐震壁10を容易に適用することができる。
更に、本実施形態では、上下の梁16間の中央部にフランジ部30を位置させたことにより、鋼製耐震壁10全体のせん断座屈耐力が効率的に向上する。上下の梁16間の中央部は、架構12によって拘束される鋼製耐震壁10の外周部と比較して、せん断座屈し易いためである。
ここで、図4には、比較例として、載荷実験で用いた従来の鋼製耐震壁320が示されている。本載荷実験では、従来の鋼製耐震壁320に、水平荷重(矢印R方向)を繰り返し載荷し、鋼製耐震壁320にせん断座屈を発生させて、当該せん断座屈の発生位置を観察した。
従来の鋼製耐震壁320は、波形鋼板で構成された壁体322と、壁体322の外周に設けられた枠体324を備え、上下の梁326に接合されている。壁体322には4つの縦リブ348が設けられている。この鋼製耐震壁320と本実施形態に係る鋼製耐震壁10との相違点は補剛部材26の有無であり、鋼製耐震壁320は本実施形態に係る補剛部材26に相当する構成を備えていない。
図4から分かるように、鋼製耐震壁320における上下の梁326間の中央部(上下の梁326の内法高さTの中間部及び中間部周辺)にせん断座屈が集中していることが分かる。従って、前述したように、上下の梁16間の中央部にフランジ部30を設けたことにより、鋼製耐震壁10全体のせん断座屈耐力を効率的に向上させることができる。また、補剛部材26の剛性を大きくすることにより、補剛部材26によって各壁部22A、22Bの端部が強固に拘束されるため、補剛部材26が階の中間にある中間梁のように機能する。これにより、補剛部材26の上下にある2つの壁部22A、22Bを別々の鋼製耐震壁として評価することができる。
ここで、図20及び図21に示すような従来の鋼製耐震壁を用いて、鋼製耐震壁のせん断座屈強度を試算すると、一般的な商業施設では、鋼製耐震壁の高さが4500mm程度になる。この鋼製耐震壁の高さをその半分の2250mmにすると、鋼製耐震壁のせん断座屈強度は約4.5倍になる。本実施形態では補剛部材26を設けることにより、これと同様の効果、即ち、鋼製耐震壁10の高さを低くした場合と同様の効果を得ることができる。更に、従来の鋼製耐震壁と本実施形態に係る鋼製耐震壁10とを同じ高さ(高さ4500mm)とし、同程度のせん断座屈耐力を確保するのに必要となる補剛リブの数量を試算すると、本実施形態に係る鋼製耐震壁10では補剛リブ(縦リブ34等)の数量(補剛部材を含む)を従来の約半分に抑えることができる。これは、補剛部材26によって壁体22の中立軸X周りの断面2次モーメントを増加し、鋼製耐震壁10のせん断座屈耐力を効率的に向上したためである。
また、本実施形態では、補剛部材26の材軸方向の端部26Aを縦端部フランジ24Aに接合し、更に、縦端部フランジ24Aを介して柱14に接合したことにより、補剛部材26の材軸方向の端部26Aの固定度が上がる。これにより、補剛部材26によって鋼製耐震壁10に付与される面外剛性が増加する。従って、鋼製耐震壁10全体のせん断座屈耐力を向上することができる。
更に、壁体22を上下方向に隣接する2つの壁部22A、22Bに分割したことにより、1つ当たりの壁部22A、22Bのサイズが小さくなる。従って、壁部22A、22Bの運搬性、揚重性等が向上するため、現場における鋼製耐震壁の組み立て作業が容易となる。
更にまた、本実施形態では、壁体22を波形鋼板で構成したことにより、壁体22を平板状の平鋼板で構成する場合と比較して、縦リブ34等の補剛リブの必要板厚や必要数量を減らすことができる。波形鋼板は、せん断座屈耐力が大きいという機械的性質を有しており、平鋼板と比較して変形性能(せん断変形性能)に優れているためである。更に、波形鋼板は、その折り筋と直交する方向の剛性が弱いというアコーディオン効果を有している。従って、波形鋼板の折り筋を壁体22の幅方向にして用いることにより、上下の梁16から壁体22へ導入される軸力が無視できる程度となる。従って、上下の梁16に対する壁体22の拘束力が減少し、架構12の変形性能を低下させることなく、建物の耐震性能を向上させることができる。
次に、第1実施形態に係る鋼製耐震壁の変形例について説明する。
上記実施形態では、補剛部材26の材軸方向の端部26Aを縦端部フランジ24Aに接合したがこれに限らず、縦端部フランジ24Aに接合しなくても良いし、縦端部フランジ24Aではなく、縦リブ34に接合しても良い。例えば、図5に示されるように、鋼製耐震壁40を構成する壁体42の幅方向の中央部に補剛部材44を設け、当該補剛部材44の材軸方向の端部44Aを縦リブ34に接合しても良い。これにより、柱14によって拘束される鋼製耐震壁40の幅方向の端部と比較して、せん断座屈し易い鋼製耐震壁40の幅方向の中央部のせん断座屈を効率的に抑制することができる。
また、図6に示されるように、鋼製耐震壁50に複数の補剛部材26を設けても良い。この鋼製耐震壁50を構成する壁体52は、上下方向に分割された3つの壁部52A、52B、52Cを備えている。隣接する壁部52A、52Bの間、及び隣接する壁部52B、52Cの間には、補剛部材26がそれぞれ設けられている。これにより、3つの壁部52A、52B、52Cを別々の鋼製耐震壁として評価することができるため、前述した鋼製耐震壁50の高さを低くした場合と同様の効果を得ることができる。
更に、補剛部材26の形状、大きさは適宜変更可能である。例えば、図7(A)に示すように、ウェブ部56とウェブ部56の端部に設けられたフランジ部58を備える補剛部材54において、フランジ部58の長さを短くしても良い。また、上記第1実施形態では、補剛部材26としてH形鋼を用いたがこれに限らない。補剛部材26はフランジ部を有していれば良く、例えば、図7(B)に示されるように、T形鋼で構成された2つの補剛部材60、62を壁体72の表面(板面)に接合しても良い。
各補剛部材60、62はウェブ部64、66とウェブ部64、66の端部に設けられたフランジ部68、70を備え、波形鋼板で構成された壁体72の面外方向両側(面外方向外側)に、その材軸を壁体72の幅方向にして配置されている。各補剛部材60、62のウェブ部64、66は、その一端部が壁体72の板面に突き当てられて溶接等で接合され、その他端部が壁体72から面外方向外側へ突出している。この他端部(突出方向前側の端部)にフランジ部68、70が、その面を壁体72側に向けて設けられている。なお、図7(B)に示す構成では、壁体72の中立軸Xから各フランジ部88、90までの距離が同じ又は略同じになるように、補剛部材60、62のウェブ部64、66の長さが異なっている。
このように、T形鋼で構成された補剛部材60、62を壁体72の板面に接合することにより、壁体72を複数の壁部に分割する手間が低減されるため、壁体72の製作コストが削減される。また、壁体72の任意の部位に補剛部材60、62を設けることができるため、汎用性が向上する。
なお、図7(B)に示す構成では、壁体72の面外方向両側(面外方向外側)に2つの補剛部材60、62を設けたが、壁体72の面外方向片側に1つの補剛部材60又は補剛部材62を設けても良い。また、壁体72を間において2つのフランジ部68、70を対向させたが、上下方向にずらしても良い。ただし、壁体72の中立軸X周りの断面2次モーメントを効率的に増加する観点からすれば、壁体72を間においてフランジ部68、70を対向させることが望ましい。
更に、図8(A)に示されるように、同じ形状、大きさのT形鋼で構成された2つの補剛部材74を用いても良い。補剛部材74は、ウェブ部76とウェブ部76の端部に設けられたフランジ部78を備え、壁体72の山部(又は谷部)から各フランジ部78までの距離Dが同じ又は略同じになっている。このように同じ形状、大きさの補剛部材74を用いることにより、施工性の向上、コスト削減を図ることができる。
更に、図8(B)に示されるように、補剛部材80、82としてC形鋼を用いても良い。2つの補剛部材80、82は、ウェブ部84、86とウェブ部84、86の両端部に設けられたフランジ部88、90を備え、壁体72の面外方向両側(面外方向外側)に、その材軸を壁体72の幅方向にして配置さされている。各補剛部材80、82の一方のフランジ部88、90は壁体72の板面に突き当てられて溶接等で接合され、他方のフランジ部88、90は、その面(内面)88A、90Aを壁体72側に向けて配置されている。この他方のフランジ部88、90によって、壁体72の中立軸周りの断面2次モーメントが増加されている。なお、補剛部材80、82は、フランジ部88間又はフランジ部90間に形成された開口を下に向けて配置されているが、当該開口を上に向けて配置しても良い。また、上記の他に、補剛部材としてL形鋼を用いても良い。これらのC形鋼又はL形鋼は、前述したように壁体72の片面(面外方向片側)にのみ設けても良い。
また、図9(A)に示されるように、補剛部材94として角形鋼管を用いても良い。この補剛部材94は、上下方向に隣接する壁部22A、22Bの間に、その材軸を壁体22の幅方向にすると共に、フランジ部としての側壁94A、94Bが壁体22の面外方向両側(面外方向外側)に位置するように配置される。ウェブ部としての補剛部材94の上壁94C及び下壁94Dには、各壁部22A、22Bの端部が溶接等で接合されている。そして、壁体22から面外方向外側へ突出した上壁94C及び下壁94Dの端部(突出方向前側の端部)に側壁94A、94Bがそれぞれ設けられている。側壁94A、94Bは、壁体22の面外方向に対向すると共に、その面(内面)を壁体22側へ向けて配置される。これらの側壁94A、94Bによって、壁体22の中立軸周りの断面2次モーメントが増加する。このように、閉断面(ボックス断面)とされた高剛性の補剛部材94を用いることにより、壁体22の中立軸周りの断面2次モーメントを更に増加することができる。
なお、図9(B)に示されるように、補剛部材94内にコンクリート、モルタル、グラウト等の充填材96を充填することで、更に、壁体22の中立軸周りの断面2次モーメントを増加することができる。
また、図10(A)及び図10(B)に示されるように、リブ92によって補剛部材60、62を適宜補強しても良い。具体的には、補剛部材60、62には、複数のリブ92が設けられている。これらのリブ92は補剛部材60、62の材軸方向に間隔を空けて設けられ、ウェブ部64、66とフランジ部68、70にまたがって溶接されている。このリブ92によってフランジ部68、70に面外剛性が付与されるため、壁体72の中立軸周りの断面2次モーメントが更に増加する。また、上記第1実施形態における補剛部材26(図2参照)では、ウェブ部28の突出方向前側の端部にフランジ部30を設けたが、フランジ部30はその面を壁体22側に向けて配置されれば良く、設ける位置は適宜変更可能である。
次に、第2実施形態に係る鋼製耐震壁について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
図11及び図12に示されるように、第2実施形態に係る鋼製耐震壁100では、コンクリート製の補剛部材102を用いている。補剛部材102は、上下方向に隣接する壁部22A、22Bの間に、その材軸を壁体22の幅方向にして配置されている。換言すれば、補剛部材102は、上階の床スラブ(図示省略)を支持する上の梁16と、下階の床スラブ(図示省略)を支持する下の梁16との間に設けられている。補剛部材102の材軸方向の端部102Aは、図示しないスタッド、鉄筋等によって左右の柱14にそれぞれ接合されている。なお、補剛部材102の材軸方向の端部102Aは、縦端部フランジ24Aを介して柱14に接合しても良い。また、補剛部材102の材軸方向の端部102Aは、必ずしも柱14と接合しなくても良い。
補剛部材102の上方に設けられた壁部22Aの下端部には、取付フランジ104が設けられている。この取付フランジ104に突設されたスタッド106を補剛部材102の上面に埋設することにより、壁部22Aと補剛部材102とが接合されている。これと同様に、補剛部材102の下方に設けられた壁部22Bの上端部には、スタッド106が突設された取付フランジ104が設けられている。
次に、第2実施形態に係る鋼製耐震壁の作用について説明する。
高剛性のコンクリート製の補剛部材102を用いることにより、壁体22に付与される面外剛性が増大する。この結果、鋼製耐震壁100全体のせん断座屈耐力が向上する。特に、上下の梁16間の中央部に補剛部材102を配置することにより、鋼製耐震壁100全体のせん断座屈耐力を効率的に向上することができる。また、高剛性の補剛部材102が各壁部22A、22Bの端部を強固に拘束するため、補剛部材102が階の中間にある中間梁のように機能する。これにより、補剛部材102の上下にある各壁部22A、22Bを別々の鋼製耐震壁として評価することができる。従って、鋼製耐震壁100の高さを低くした場合と同様の効果を得ることができる。よって、補剛部材102を備えない構成と比較して、補剛リブの必要板厚、必要数量を低減することができる。
次に、第2実施形態に係る鋼製耐震壁の変形例について説明する。
上記実施形態では、上下方向に隣接する壁部22A、22Bの間に補剛部材102を設けたが、これに限らない。例えば、図13(A)及び図13(B)に示される補剛部材108は、一対のコンクリートブロック108A、108Bを備えている。コンクリートブロック108A、108Bは波形鋼板で構成された壁体110の面外方向両側(面外方向外側)にそれぞれ設けられ、壁体110の板面に付着されている。これらのコンクリートブロック108A、108Bによって、壁体110に面外剛性が付与されている。
このように、コンクリートブロック108A、108Bを壁体110の板面に接合することにより、壁体72を複数の壁部に分割する手間が低減されるため、壁体72の製作コストが削減される。また、壁体72の任意の部位にコンクリートブロック108A、108Bを設けることができるため、汎用性が向上する。
なお、各コンクリートブロック108A、108Bは一般的な型枠工法によって形成され、壁体110の板面に付着されている。この際、壁体110の板面にスタッド等を突設し、コンクリートブロック108A、108Bとの付着力を高めることも可能である。また、図13(A)に示す構成では、壁体110の面外方向両側(面外方向外側)にコンクリートブロック108A、108Bをそれぞれ設けたが、壁体110の面外方向片側にのみコンクリートブロック108A又はコンクリートブロック108Bを設けても良い。
また、コンクリート製の補剛部材108の内部に鉄筋や各種の形鋼等を埋設し、鋼材とコンクリート部材との複合構造にしても良い。例えば、図13(B)に示されるように、コンクリート製の補剛部材112の内部には、角形鋼管114が埋設されている。この角形鋼管114は上下方向に隣接する壁部22A、22Bの間に配置され、上壁114C及び下壁114Dに各壁部22A、22Bの端部が溶接等で接合されている。この角形鋼管114によって、補剛部材112が補強されている。また、角形鋼管114の側壁114A、114Bがフランジ部として機能するため、壁体110の中立軸周りの断面2次モーメントが更に増加する。
次に、第3実施形態に係る鋼製耐震壁について説明する。なお、第1、第2実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
図14及び図15には、第3実施形態に係る鋼製耐震壁140が示されている。鋼製耐震壁140は、波形鋼板で構成された壁体142を備えており、壁体142における上下の横端部フランジ24Bの間の部位に横リブ144が接合されている。具体的には、壁体142は上下方向に隣接する2つの壁部142A、142Bを備え、これらの壁部142A、142Bの間に横リブ144が設けられている。横リブ144は板状で、その材軸を壁体142の幅方向にして配置され、壁部142A、142Bの端部が溶接等で接合されている。また、横リブ144の材軸方向の両端部144Aは、縦リブ34に接合されている。この横リブ144によって、壁体142に面外剛性が付与されている。なお、壁部142A、142Bの幅方向両側には壁部142C、142Dが設けられ、壁部142A、142Bと溶接等によって接合されている。
次に、第3実施形態に係る鋼製耐震壁の作用について説明する。
従来の横リブは、壁体142の縦端部フランジ24A間に渡って設けられ、その材軸方向の端部が縦端部フランジ24Aに接合されるのが一般的である。これに対して、本実施形態では、壁体142の幅方向の中央部に横リブ144を設け、当該横リブ144の材軸方向の端部144Aを縦リブ34に接合することにより、横リブ144の材軸長さを抑えつつ、壁体142のせん断座屈を効率的に抑制することができる。壁体142の幅方向の中央部は、柱14によって拘束される壁体142の幅方向の端部と比較してせん断座屈し易いためである。なお、横リブ144は、前述したように、壁体142における上下の梁16間の中央部に設けることが望ましい。
なお、上記第1〜第3実施形態では、鋼製耐震壁10、100、140等を構成する各種の壁体22、142等を波形鋼板で構成したが、これに限らない。壁体22、142は鋼製であれば良く、例えば、図16及び図17に示される鋼製耐震壁120のように、壁体122を平板状の平鋼板で構成しても良い。この壁体122は、上下方向に隣接する2つの壁部122A、122Bを備え、これらの壁部122A、122Bの間に配置された補剛部材26によって連結されている。壁体122の外周には枠体24が設けられ、この枠体24を介して壁体122が架構12に接合されている。各壁部122A、122Bには、格子状に接合された複数の縦リブ124と複数の横リブ126が接合されている。縦リブ124は、各壁部122A、122Bにおける縦端部フランジ24Aの間の部位に、材軸を上下方向にすると共に、壁体122の幅方向に間隔を空けて配置されている。横リブ126は、壁体122における上下の横端部フランジ24Bの間の部位に、その材軸を壁体122の幅方向にすると共に、上下方向に間隔を空けて配置されている。これらの縦リブ124と横リブ126によって、各壁部122A、122Bに面外剛性が付与されている。
この壁体122が地震等の外力に対して抵抗することにより耐震性能を発揮する。また、外力に対して壁体122が降伏するように設計することで、鋼材の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振性能を発揮する。このように、平板状の平鋼板で壁体122を構成することにより、波形鋼板で壁体122を構成する場合と比較して、波形鋼板の加工の手間が低減されるため、壁体122の製作コストを削減することができる。
また、上記第1〜第3実施形態では、鋼製耐震壁10、100、140等を柱14に接合したが、必ずしも柱14に接合しなくても良い。例えば、図18に示される鋼製耐震壁130は、上下の梁16にのみ接合されており、柱14とは接合されておらず、柱14との間に開口132A、132Bがそれぞれ形成されている。これらの開口132A、132Bは、設備用の配線、配管や、出入り口として用いることができる。
なお、鋼製耐震壁130と柱14との間には、必ずしも開口132A、132Bを設ける必要はなく、鋼製耐震壁130と柱14とを接触させ、若しくは僅かな隙間を空けて配置しても良い。また、図18に示す構成では、鋼製耐震壁130の幅方向両側に開口132A、132Bを設けたが、鋼製耐震壁130の幅方向片側にのみ開口132A又は開口132Bを設けても良い。なお、鋼製耐震壁130と柱14とを接合しない場合は、鋼製耐震壁130が間柱として機能する。即ち、鋼製耐震壁130は耐震間柱としても使用することができる。
また、例えば、壁体22を波形鋼板で構成した場合、壁体22の上下の端部は、当該壁体22の中心軸から外れた位置で上下の梁16と接合しても良いし、中心軸上で接合しても良い。また、図2に示されるように、壁体22の中心軸から一方側に外れた位置で上下の梁16と接合しても良いし、中心軸を挟んで壁体22の上端部と下端部が互い違いになるように上下の梁16と接合しても良い。なお、ここでいう壁体の中心軸とは、壁体を構成する波形鋼板の山部と谷部の中間にある仮想の軸である。更に、壁体22等を構成する波形鋼板としては、図19(A)〜図19(D)に示すような断面形状の波形鋼板を用いても良い。また、上記第1〜第3実施形態では、各壁体22等を構成する波形鋼板の折り筋の向きを横にして架構12に配置したが、折り筋の向きを縦(上下方向)にして架構12に配置しても良い。
更に、上記第1実施形態では、壁体22等と補剛部材26等とを溶接で接合したが、ボルト等で接合しても良い。また、補剛部材26等の材軸方向の端部26A等は、その少なくとも一部が縦端部フランジ24Aや縦リブ34に接合されていれば良い。第3実施形態についても同様である。
また、架構12を構成する柱14及び梁16は、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、鉄骨造、CFT造、更には現場打ち工法、プレキャスト工法等の種々の工法を用いることができる。また、梁16に替えて水平部材としてのコンクリートスラブ又は小梁等に鋼製耐震壁を取り付けても良い。
更にまた、第1〜第3実施形態に係る鋼製耐震壁10、100、140等は、建物の一部に用いても良いし、建物の全てに用いても良い。また、耐震構造や免震構造等の種々の新築建物、改築建物に適用することができる。これらの鋼製耐震壁10、100、140等を設置することにより、耐震性能、制振性能が向上された建物を構築することができる。
以上、本発明の第1〜第3実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1〜第3実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。