JP4721281B2 - 耐酸化性皮膜及びその皮膜を被覆した部材 - Google Patents

耐酸化性皮膜及びその皮膜を被覆した部材 Download PDF

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Description

本願発明は、耐摩耗性及び耐熱性を改善した耐酸化性皮膜、及び該酸化性皮膜を切削工具、金型、軸受けダイスロール等に被覆した被覆部材に関する。
耐酸化性皮膜、耐磨耗皮膜の技術は、以下の特許文献1から7に開示されている。
特開2003−321764号公報 特開2004−176085号公報 特開2005−256095号公報 特開2005−111574号公報 特開2005−198723号公報 特開2005−199420号公報 特開平11−302831号公報
特許文献1は、AlCrSi複合酸化皮膜が高温酸化雰囲気に曝された場合酸素の進入が防止されるため優れた耐高温酸化性が得られることが開示されている。特許文献2は、(AlCrSi)(NBCO)皮膜金属成分の4原子%未満を4a5a6a族の金属成分の1種以上で置換可能であって耐高温酸化特性高硬度基体との密着性に優れる皮膜が開示されている。特許文献3、4は、硬質皮膜の選択される金属成分がAlNbTiCrSiであることが記載され皮膜硬度耐熱性耐剥離性に優れることが開示されている。特許文献5は、同様皮膜を被覆した超硬エンドミルを開示している。しかし、特許文献1〜5は、AlとNbの両者を含有する皮膜を具体的には全く検討していない。特許文献6は、AlTi含有の硬質皮膜にNbを含有することにより酸化された時表面に緻密なTi酸化物が形成され酸化抑制効果を有し耐熱安定性と耐溶着性が向上して高硬度化耐摩耗性も向上することが開示されている。しかし、AlとNbの両者を含有する皮膜は開示しているがAl含有量が少ないため耐酸化性が得られず耐摩耗性と耐熱性も充分でない欠点がある。即ち、Alが50at%を超える組成、Nbが20at%を超える範囲は好ましくないとして意図的に排除し、原子比で0.51〜0.95のAlと0.2を超えるNbを含有していない。これにより緻密で結晶粒界強度の高い膜が形成できず実切削加工時に被削材中のFe成分などが皮膜中に内向拡散する欠点が発生すると考えられる。特許文献7は、AlTi含有の硬質皮膜にNbを添加した皮膜が記載されている。Nb添加は皮膜硬度及び耐熱性の向上を図る。耐熱性向上の理由はアルミ酸化物中にNb酸化物が析出し保護性の優れる皮膜を形成することを開示している。また皮膜中のTiの添加を必須としTi含有量は0.20≦x≦0.55の範囲か好ましいとしている。しかし、切削速度が高速化した切削加工に対しては耐酸化性が十分ではない。
そこで、本願発明の課題は耐酸化性耐摩耗性及び耐熱性を改善し格段に優れた耐酸化性皮膜及び該皮膜を被覆した被覆部材を提供することである。
本願第1発明は、基材表面に被覆する皮膜の少なくとも1層は、金属成分としてAlとNbを含有する窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上である耐酸化性皮膜において、該耐酸化性皮膜は、金属成分の総和に対する原子比で、Al含有量が0.51〜0.95及びNb含有量が0.05〜0.49であり該耐酸化性皮膜のX線回折における回折ピークのうち、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度以上であり、該耐酸化性皮膜の破断面組織粒状ブロック状又は明確に粒界が認められない組織何れかであることを特徴とする耐酸化性皮膜である。
上記の構成を採用することにより耐酸化性、耐摩耗性及び耐熱性を改善し格段に優れた耐酸化性皮膜及びこれを被覆した被覆部材を提供することができる。
本願第2発明は、基材表面に被覆する皮膜の少なくとも1層は、金属成分としてAlとNbと、Ti、Cr、Siから選択される1種以上を含有する窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上である耐酸化性皮膜において、該耐酸化性皮膜の金属成分(AlNbTiCrSi)で示され、x、y、u、v、wは夫々原子比を示し、x+y+u+v+w=10.51≦x≦0.950.05≦y≦0.49、0.56≦x+y≦0.95、0≦u≦0.2、0≦v≦0.4、0≦w≦0.2及びu+v+w>0を満足し該耐酸化性皮膜のX線回折における回折ピークのうち、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度以上であり、該耐酸化性皮膜の破断面組織粒状ブロック状又は明確に粒界が認められない組織何れかであることを特徴とする耐酸化性皮膜である。
更に、耐酸化皮膜の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度以上であって、特に(200)ピーク強度が(111)ピーク強度よりも高いことが好ましい。皮膜の押し込み硬さ測定法から算出される弾性回復率Rが、30%≦R≦40%であることが好ましい。該耐酸化性皮膜の膜厚が、総膜厚の10〜98%であり、残りを、該耐酸化性皮膜とは別の第2の皮膜とし、該第2の皮膜Siを含有し、該Siの原子濃度比a、Si以外の金属成分の原子濃度比の総和bとしたとき、a/(a+b)が0.1〜1であり、該Si以外の金属成分はCr、Y、Al、Nb、Tiから選択される1種以上であることが好ましい。上記耐酸化性皮膜を被覆部材に適用することが好ましい。
本願発明により、耐酸化性耐摩耗性及び耐熱性を改善し、格段に優れた耐酸化性皮膜及びこの皮膜を被覆した被覆部材を提供することができる。
本願第1発明は、Al含有量を金属元素の原子比で0.51〜0.95にすることにより耐酸化性が格段に向上する。またNb含有量を金属元素の原子比で0.05〜0.49にすることにより耐熱安定性と膜硬度が格段に高くなる。しかも原子比が0.51〜0.95のAlと0.05〜0.49のNbとをともに含有させることによりAl含有量が0.51以上であるにもかかわらず緻密で結晶粒界強度の高い皮膜が実現できる。その結果、たとえ本願第1発明の皮膜が酸化条件に曝された場合も皮膜表面に格段に緻密で耐熱安定性の優れる酸化膜が形成され皮膜の内部の酸化進行を抑制する。更に、被削材中のFe成分などが皮膜中に内向拡散する欠点が大幅に抑制されまたは発生しなくなった。Al含有量が0.51未満になると耐酸化性が急激に低下する欠点が現れ0.95を超えるような多量になると耐熱安定性と膜硬度が急激に低下する欠点が現れる。Nb含有量が0.05未満の少量になるとAl含有量の高い領域において面心立方構造を得ることが困難になる他耐熱安定性と膜硬度が急激に低下する欠点が現れ0.49を超えるような多量になると耐酸化性と膜強度が急激に低下する欠点が現れる。本願第1発明の皮膜は、Alの含有量が0.51以上であってもNbを含有して面心立方構造が得られる範囲のAl含有量であることによって特に優れた耐酸化性と高い皮膜硬度が得られる。Nbの含有量は原子比で0.05〜0.20であると特に優れた耐酸化性と高い皮膜硬度が得られることから好ましく、Nbの含有量が0.20〜0.49であると特に耐酸化性の改善に効果的であることから好ましい。
本願第1発明のAlとNbを含有する皮膜が窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上であることにより、それぞれ、窒化物は優れた耐酸化性、炭化物は耐摩耗性、硼化物は耐熱性、硫化物は高潤滑性、低摩擦抵抗性が得られ優れた機械特性を有する皮膜が実現できる。特に、窒化物の場合、耐摩耗性、耐熱性と基材との密着強度とのバランスが最適であることから優れた特性が実現できる。更に、炭窒化物、酸窒化物、硼窒化物、硫窒化物とすることにより耐酸化性、耐摩耗性及び摺動性がバランス良く優れ好ましい。この場合C、O、B、SがNに対して原子比で30%未満であることにより耐摩耗性が優れ特に好ましい。本願第1発明のAlとNbを含有する皮膜は必ずしも窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上のみから構成されなくともよく1部金属として存在してもよい。
本願第2発明は、金属成分としてAlとNbと、Ti、Cr、Siから選択される1種以上を含有する窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上である耐酸化性皮膜において、該耐酸化性皮膜の金属成分は、(AlNbTiCrSi)で示され、x、y、u、v、wは夫々原子比を示し、x+y+u+v+w=1で、Al含有量が0.51≦x≦0.95、Nb含有量が0.05≦y≦0.49で、且つ、0.56≦x+y≦0.95、0≦u≦0.2、0≦v≦0.4、0≦w≦0.2及びu+v+w>0を満足することにより優れた耐摩耗性を発揮する。
x+y値が0.56≦x+y≦0.95を満足することにより耐酸化性を低下させることなく優れた密着性組織の微細化が進み好ましい。x値が0.55〜0.70、y値が0.05〜0.20であることにより最も優れた耐酸化性と密着性のバランスが得られ好ましい。
AlとNbの他に、Ti、Cr、Siから選択される1種以上を含有することが好ましい。
Ti添加は組織が粗大になり耐酸化性が低下するもの結晶化が進み皮膜硬度が向上する。u値が0.2を超える場合Nb含有の効果が薄れ耐酸化性が急激に低下し耐摩耗性が低下する。摩耗環境において相手材中のFeなどが皮膜内へ拡散し易くなる。耐酸化性若しくは耐Fe拡散性をより要求される環境においては、Tiは含有しなくとも良い。比較的温度が上昇しない環境下における耐摩耗性の改善を目的としてu値が0.2未満より好ましくは0.12未満の範囲で添加することが好ましい。ここで言う比較的温度が上昇しない環境下とは例えば切削工具においてHRC40未満の鉄鋼材料の切削加工若しくは切削速度が100m/分以下の切削加工があげられ金型においては冷間金型があげられる。これらの摩耗環境においてTiの添加効果が確認できる。
Cr添加は潤滑性並びに耐熱性を向上させる。Cr添加は耐酸化性を害することなくTiよりも格段に皮膜の結晶化が進められAlとNbの含有量をより高めることができ耐酸化性を向上させる。CrはTiよりも立方晶AlNの範囲を拡大即ち(AlNb)の含有量を高めることができる。また結晶化による皮膜硬度の向上に効果的である。
v値は0.4以下が特に有効である。vの下限値を0.05以上とすることが好ましい。0.10〜0.30が特に好ましい。CrはTi添加による耐酸化性の低下及びFeなどが皮膜内へ拡散する現象を大幅に抑制しTiを添加する場合はCrを同時に添加することが有効である。この場合Ti添加量と同量以上のCrを添加することが好ましい。Si添加は組織の微細化に効果的であり皮膜の高硬度化並びに耐酸化性を改善することができる。
w値は0.2以下でその効果が得られ0.2を超えて含有すると六方晶AlNを形成し易くなり耐摩耗性が低下する。耐酸化性と耐摩耗性のバランスからw値は0.03〜0.08が最適である。
その他添加元素としてはW、Yが耐酸化性を改善して好ましい。W、Yの添加量は金属元素全体に対して夫々0.005〜0.05原子%未満が好ましい。
本願第2発明が特に耐酸化性に優れ硬度とのバランスが最適となる最も好ましい組成は、x値が0.55〜0.70、y値が0.05〜0.20、u値が0〜0.12、v値が0.10〜0.30、w値が0.03〜0.08、v≧uである。
本願第1・第2発明の耐酸化性皮膜は、X線回折において面心立方構造である立方晶B1構造、最密六方構造である六方晶B4構造を含んでいても良く、X線回折において(111)よりも(200)に強く配向した方が緻密で耐熱性が高いことから好ましい。
本願第1・第2発明の耐酸化性皮膜は、破断面組織が粒状又はブロック状又は明確に粒界が認められない組織の何れかであることにより弾性回復する比率が高くなり優れた耐酸化性及び密着性を有する皮膜が実現できる。Al含有量が0.51〜0.95の範囲、Nb含有量が0.05〜0.49の範囲とすることにより組織が格段に微細な構造となる。成膜条件の最適化により結晶粒の成長を大幅に抑制し皮膜の組織を微細化できる。また皮膜の微細組織を非晶質に近い構造にすることが出来酸素の内向拡散を抑制する。これによって皮膜基材の酸化を大幅に抑制することが出来て好ましい。上記の構成は耐熱性を改善し相手材中のFe成分などの皮膜への内向拡散の抑制に有効に作用するため好ましい。更に、粒界強度が向上しクラック進展の抑制に有効であり皮膜強度も向上する効果が得られため好ましい。
破断面組織の形態は、電界放射型走査型電子顕微鏡(以下FE−SEMと称す。)により、加速電圧5kV、倍率5000倍〜20000倍、で皮膜の破断面を観察することにより同定する。例えば、本発明例28の破断面写真を図1、従来例50の(TiAl)N系の皮膜の破断面写真を図2、本発明例27の破断面の写真を図5、比較例26の破断面の写真を図6、本発明例3の皮膜の破断面写真を図7に示す。
前記5つの破断面写真を比較すると、図1は、本発明例28、明確に粒界が認められない破断面組織の例、図2は、従来例50、柱状の例で、基材表面に対し略垂直方向の粒界をA、基材表面と略平行方向の粒界をB、としたとき、A/Bが1より大きく、図5は、本発明例27、明確に粒界が認められ、A/Bが1以下のブロック状の例、図6は、比較例26、図2と同様、柱状の例で、図7は、本発明例3、一部粒界が認められる組織で、A/Bを特定できないもので、粒状の例、に基づいて同定する。
本願第1・第2発明の耐酸化性皮膜は、X線回折における回折ピークのうち面心立方構造の(111)若しくは(200)ピークの半価幅が2θで1度以上であることにより皮膜内に歪を多く含有し組織が微細になる。従って、弾性回復する比率が高くなり優れた耐酸化性及び密着性を有する皮膜が実現でき好ましい。より好ましくは半価幅が1.2〜3.5度である。これにより皮膜内に歪を多く含有し組織が微細になり弾性回復する比率が高くなり優れた耐酸化性と密着性を有する皮膜が実現できる。
本願第1・第2発明の耐酸化性皮膜は、押し込み硬さ測定法から算出される弾性回復率Rが30%≦R≦40%であることにより基材との間に優れた密着強度を有する皮膜が実現できる。従って、耐剥離性、耐チッピング性を有する皮膜が実現でき好ましい。R値が30%未満のとき塑性変形量が多く耐摩耗性が低下する傾向が現れる。一方R値が40%を超えると皮膜のチッピングや皮膜剥離が生じ異常摩耗が発生し易くなる傾向が現れる。ここで弾性回復率RはW.C.Oliver and G.M.Pharr著の文献「J.Mater.Res.,Vol.7,No.6,June 1992 1572−1574」記載の方法を参考にしてナノインデンテーション装置により三角錐圧子に圧子定数εが0.75のBerkovich圧子を使用して荷重変位曲線から初期除荷の点における除荷の初期スロープに相当する接触剛性のS値を求めS値及び最大荷重のPmax値から化1により接触深さのhc値を求めた後、弾性回復率のR値を化2により求める。
図3にこの測定方法で測定した代表的な荷重変位曲線を示す。R値は例えば被覆条件により制御することができる。即ち、皮膜を成膜するときに基板に負のバイアス電圧を加えバイアス電圧の絶対値を大きくするとR値がある一定値まで増加したのちにゆるやかに減少する傾向を示す。Ar流量を増加しても同様な傾向を示す。基材温度を上昇させるとR値がある一定値までは減少する傾向を示しその後増加に転じる。皮膜を成膜するときに基板に正負パルス状のバイアス電圧を印加して負パルス状バイアス電圧の絶対値の幅を大きくすると幅が大きくなるにつれてある一定値までは増加する傾向を示しその後ゆるやかに減少する傾向を示す。
本願第1、第2発明の耐酸化性皮膜の膜厚が、総膜厚の10〜98%であり、残りを、本願第1、第2発明の耐酸化性皮膜とは別の第2の皮膜を設けても良い。以降、本願第1、第2発明の耐酸化性皮膜を第1の皮膜、別の皮膜を第2の皮膜と記す。第2の皮膜Siを含有し、該Siの原子比をa、Si以外の金属成分の原子比をbとしたとき、a/(a+b)が0.1〜1であることにより優れた膜硬度と耐酸化性を有する皮膜が実現できる。a/(a+b)が0.1未満になると皮膜の効果が薄れる。a/(a+b)が1であっても良い。その場合はSi以外の金属成分を含まずSi含有による緻密な膜組織と耐酸化性とが顕著に現れる。金属成分はCr、Y、Al、Nb、Tiから選択される少なくとも1種以上である。金属成分がCrであるとき結晶性、摺動性、耐酸化性を、Yであるとき結晶性、耐酸化性、Alであるとき耐酸化性、密着性を、Nbであるとき耐熱性、密着性をTiであるとき硬度、耐摩耗性を向上させる。第1、2の皮膜が相まって優れた機械耐熱特性を有する皮膜が実現できる。
該第2の皮膜は、高硬度であることから第1の皮膜に残留圧縮応力を付与することが出来る。これにより第1、2の皮膜の耐熱性耐クラック性を向上させることが出来て好ましい。第1、2の皮膜は、R値が同程度に制御できるため互いの密着強度が高く優れた耐膜剥離性を実現できるため好ましい。第1の皮膜の膜厚が総膜厚の10〜98%であることにより耐酸化性膜密着強度耐摩耗性が向上する。10%未満では第1の皮膜の特徴が薄くなり98%を超えると第2の皮膜を加える効果が薄くなる。
第1の皮膜の膜厚が60〜98%であり第2の皮膜の膜厚が2〜40%であることにより高硬度と全皮膜内に適度の平均残留圧縮応力を有し耐摩耗性と耐剥離性のバランスが最適となって優れた耐チッピング性が実現でき好ましい。このバランスが最適となる平均残留圧縮応力値は、1GPa〜2.5GPaである。この場合、耐チッピング性が重視される切削工具、特に多刃エンドミル、汎用エンドミル、ドリル、インサート工具への適用が好ましい。第1の皮膜の膜厚が10〜60%であり、第2の皮膜の膜厚が40〜90%であることにより両皮膜内の平均残留圧縮応力を高めることが出来るため、優れた耐熱性と耐クラック性が得られて好ましい。好ましい平均残留圧縮応力値は、2.5GPa〜4.5GPaである。この場合、断続性が強く比較的熱クラックが発生し易く、刃先の欠損性、耐摩耗性が重視される切削工具、特にボールエンドミルへの適用が好ましい。第1、2の皮膜が交互に積層されることにより破断面組織を緻密にすることができる。従って、耐酸化性及び皮膜硬度を向上させることが出来て好ましい。積層数が、500層〜2000層のとき積層効果が顕著に得られるため好ましい。第2の皮膜が最表層に被覆されることにより高硬度と高残留圧縮応力の効果が現れ例えば耐摩耗性や耐クラック性が顕著に改善されるため好ましい。
本願発明の耐酸化性皮膜は、耐酸化性、密着性が優れ高温・高負荷・高衝撃・高酸化条件下等の比較的過酷な環境下で使用される被覆部材切削工具に被覆し使用することにより効果が顕著に実現できるため好ましい。
本願発明の耐酸化性皮膜の被覆方法は特に限定するものではないが物理蒸着法により被覆することが好ましい。物理蒸着法の中でも、特にアークイオンプレーティング(以下、AIPと記す。)法、スパッタリング(以下、SPと記す。)法が好適である。AIP法において本発明の皮膜はAl含有量が多く皮膜内のマクロパーティクルが存在し易いことと高融点のNbを含有することからターゲット表面でのアーク放電の安定化及び得られる皮膜の特性改善のためにターゲット表面に対して垂直方向に作用する磁束密度の絶対値が最大部で1mT〜100mT、特に2mT〜60mTのアーク蒸発源で被覆することにより成膜時のイオン化率が上昇し皮膜内に混入するマクロパーティクルの減少優れた結晶性皮膜の高硬度化耐熱性改善にさらに有効である。磁場によりターゲットから放出した元素成分を偏向させ基材に到達するように成膜するイオン輸送型(Filtered)AIP法においても皮膜内に混入するマクロパーティクルの減少優れた結晶性皮膜の高硬度化耐熱性改善にさらに有効であり本発明皮膜を成膜する上で好ましい。以下、本願発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
本願第1・第2発明の耐酸化性皮膜をAIP法により被覆した。試料1は、皮膜の半価幅、破断面組織、弾性回復率、押し込み硬さ及び耐酸化性を評価するためにSNGA432形状でCo含有量が10重量%の超微粒子超硬合金製超硬試験片を用意した。試料2は、残留圧縮応力を測定するため、8mm×25mm×厚み0.7mm〜0.9mm、両面を鏡面加工した薄板状試験片で、Co含有量が13.5質量%の超微粒子超硬合金製を用いた。試料3は、皮膜の耐摩耗性の評価に用いる切削工具としてCo、V、Crの含有量が合計8.4質量%の直径10mmの超微粒子超硬合金製2枚刃ボールエンドミルを用いた。耐酸化性皮膜は以下の被覆条件で被覆した。
先ず、各基材を十分に脱脂洗浄した後AIP装置内の基材ホルダー上の自公転機能を有した冶具に固定した。基材ホルダーは3回転/分で回転する。基材は530℃に加熱し装置内の真空度を4×10−4Pa以下に排気した。その後Arを容器内に導入し8×10−1Paにした。装置内の電極間で放電することによりArのイオン化を行い基材に−500Vのバイアス電圧を印加して基材のクリーニング及び活性化処理を30分間実施した。
次に、所望の膜組織が得られるように合金ターゲット材成膜ガス成膜条件等を調整した。いずれの成膜も次の成膜条件を基本としそれぞれの試料で特記する成膜条件のみを変更した。即ち基本となる成膜条件は反応ガスを容器内に導入し全体の圧力を5Pa基材温度を500℃にしバイアス電圧−100Vを印加し皮膜の金属元素元になるアーク蒸発源として容器内に配置した所望の元素を含むAlNb系合金ターゲットに150Aの電流を供給しアーク放電させることにより皮膜を略3μm厚被覆した。被覆後基材の温度が200℃以下になるまで冷却し容器から取り出した。
皮膜組成は電子プローブマイクロアナライザー(日本電子(株)製JXA−8900R、以下、EPMAと記す。)を用いて加速電圧15kV、試料電流0.2μA、計数時間10秒測定を5回実施しその平均値とした。作製した試料と皮膜の組成分析結果を表1にまとめて記す。
比較例1、2、本発明例3、4及び比較例5は、反応ガスに窒素を用い皮膜のAl含有量に対してターゲットのAl含有量を若干高めに設定することにより所望の皮膜組成を得た。本発明例6は、本発明例3と略同じターゲットと成膜条件とし反応ガスは窒素に対して体積比10%のアセチレンガスを導入して炭窒化物の皮膜を成膜した。本発明例7は、本発明例3と略同じ成膜条件でAlNbにBを加えた合金ターゲットを用いて硼窒化物からなる皮膜を成膜した。本発明例8は、本発明例3と略同じターゲットと成膜条件とし窒素に対して体積比5%の酸素を導入して酸窒化物からなる皮膜を成膜した。
本発明例9〜13は、本発明例3と略同じ成膜条件とし(AlNbCr)からなる合金ターゲットを用い、本発明例14〜17は、(AlNbCrTi)からなる合金ターゲットを用い、本発明例18、19は、(AlNbSi)からなる合金ターゲットを用い、本発明例20は、(AlNbSi)とYからなる合金ターゲットを用い、本発明例21、22は、(AlNbCrSi)の合金ターゲットを用いて窒化物からなる皮膜を成膜した。
比較例23、本発明例24、25は、本発明例3と略同じ条件でAlNb系窒化物の成膜のバイアス電圧のみを変化させ、比較例23、本発明例24、25は、夫々40V、150V、200Vとした。比較例26、本発明例27、28は、本発明例3と略同じ条件で成膜時の窒素ガス流量を変化させ装置内圧力のみを変化させた。比較例26、本発明例27、28は、夫々15Pa、7Pa、3Paとした。本発明例29〜31は、本発明例3と略同じ条件で成膜時の温度のみを変化させ、本発明例29、30、31は、夫々700℃、450℃、400℃とした。作製した試料と皮膜の組成分析結果を表1にまとめて記す。
(実施例2)
本発明例32〜40は、第1の皮膜を本発明例3と略同じ条件で(AlNb)N膜の成膜後、その直上に第2の皮膜である、組成が異なるSi含有皮膜を成膜した。総膜厚は略3μm厚になるようにした。
本発明例32は、第1の皮膜(AlNb)Nを略2.25μm成膜した後、第2の皮膜を、装置内圧力を5Pa、基材温度500℃、バイアス電圧−50Vで別のアーク蒸発源として容器内に配置した(TiSi)合金ターゲットに150Aの電流を供給し(TiSi)Nを略0.75μm被覆した。同様に本発明例33は(AlNb)Nを略1.5μm、(TiSi)Nを略1.5μm、本発明例34は(AlNb)Nを略0.3μm、(TiSi)Nを略2.7μm、本発明例35は(AlNb)Nを略0.15μm、(TiSi)Nを略2.85μm、本発明例36は(AlNb)Nを略2.25μm、(AlSi)Nを略0.75μm成膜した。本発明例37は、第1の皮膜(AlNb)Nを略2.25μm成膜後、第2の皮膜を、装置内にアルゴンと窒素を導入し炉内圧力を0.6Pa、ヒーター加熱を停止した状態で基材温度300〜400℃とし、バイアス電圧−100VでSP法により容器内に配置したSiCターゲットに2kWの電力を供給し、Si(CN)を略0.75μm成膜した。同様に本発明例38は、(AlNb)Nを略2.25μm成膜後、SiCターゲットと、BCターゲットに夫々同時に2kWの電力を供給して略0.75μm厚のSi(BCN)を成膜した。本発明例39は、装置内にアルゴン及び窒素と酸素を導入し容器内の一方に配置したSiCターゲット2kWの電力を供給することにより略0.75μm厚のSi(CNO)を成膜した。本発明例40は、SiCターゲットと、MoSターゲットに夫々同時に2kWの電力を供給して略0.75μm厚の(SiMo)(CNS)を成膜した。本発明例41は、第1の皮膜(AlNb)Nを略0.3μm成膜後、第1の皮膜の上層に第2の皮膜(TiSi)Nを略0.3μm成膜した。この成膜工程を繰り返すことにより(AlNb)N(TiSi)Nを交互積層して10層成膜し総厚を略3μmとした。同様に本発明例42は、(AlNb)Nを0.1μm成膜後AlNbターゲットとTiSiターゲットとを同時に放電し、且つ、基材ホルダーの回転数を1回転/分に変更して成膜することにより(AlNb)Nと(TiSi)Nとを交互積層した。層総数を略100層とし総厚を略3μm厚とした。本発明例43は、基材ホルダーの回転数を3回転/分に変更して交互積層総数を略800層とし総厚を略3μm厚とした。本発明例44は、基材ホルダーの回転数を5回転/分に変更して交互積層総数を略1200層とし総厚を略3μm厚とした。作製した試料と皮膜の組成分析結果を表2にまとめて記す。
(実施例3)
比較例45〜48を、比較例1と略同じ成膜条件を用い夫々AlとNbの原子比が本発明の範囲外である窒化物皮膜を成膜した。比較例49は本発明例3と略同じ成膜条件を用い成膜時に窒素ガスを供給せずアルゴンガスのみを導入して成膜した。従来例50〜従来例53は、比較例1と略同じ成膜条件を、従来例54は、特許文献3の成膜方法により成膜した。各試料を表1にあわせて示す。
実施例1〜3の試料を用いて耐酸化性の差異を評価した。試料を1100℃の大気中に保持し酸化物の厚さが1μm厚に達した時の保持時間を耐酸化性の指標とした。酸化膜厚は酸化後の膜断面をFE−SEMを用い1万倍で測定した。その結果を表3、表4に示す。
表3より、比較例1、2、本発明例6は6hr保持後酸化層の厚みが約1μm厚に達した。本発明例3、4及び比較例5は、9時間保持後も酸化層の厚さは約1μm厚以下であった。比較例45は4hr保持後酸化層の厚みが約1μm厚に達した。比較例46、47、48は2hr保持後酸化層の厚みが約1μm厚に達した。比較例49は1hr保持後基材まで酸化が進行しており基材の酸化が激しく試料が大幅に膨張していた。比較例1、2、本発明例3、4、比較例5のAlとNbを含有した皮膜は、比較例46〜49に対して格段に耐酸化性が優れており1100℃においても殆ど酸化が進行しておらず優れた耐酸化性を示した。表3中に記載の本発明皮膜の耐酸化性は何れの皮膜も上記酸化環境下において6hr以上酸化層の厚みが約1μm以下であり耐酸化性に優れていた。
Tiを添加した本発明例14〜17は同様にCrを含有した本発明例9〜13に対して耐酸化性が低下していた。Tiを添加することによりTiを含有しない本発明例と比較して酸化物が粗大化又酸化物と本発明皮膜との密着強度が不十分となり酸化の進行を早める結果となった。比較例23から皮膜のX線回折による半価幅が1度以上であることにより更に耐酸化性に優れる結果が得られた。比較例26から破断面組織は柱状よりも粒状ブロック状明確に粒界が認められない破断面組織の順に優れた。これは形成される酸化物粒径が減少したためである。特にAlとNbを含有する皮膜にCr、Si、Yを添加することにより酸化後に形成される酸化物粒径がさらに減少し耐酸化性が改善できることが確認できた。
耐酸化性皮膜の硬度と弾性回復率の測定には、試料を5度傾けて鏡面研磨しAlとNbを含有する皮膜の露出面内で膜厚が最大押込み深さの10倍以上になる領域を選び押込み荷重49mN最大荷重保持時間1秒荷重負荷後の除去速度0.49mN/秒の測定条件で10点測定し、その平均値を求めた。その結果を表3、表4に併記する。同時に測定した皮膜の押し込み硬さも表3に併記する。
本発明例3、4AlNb含有皮膜は、比較例46〜49に対して弾性回復率が高く格段に高硬度であった。本発明例9〜13の結果から、Cr添加により結晶性に優れ皮膜が高硬度化した。本発明例14〜17の結果から、Cr及びTiの複合添加により更に皮膜が高硬度化した。本発明例18〜22の結果から、Si添加により組織が微細化され皮膜が高硬度化した。本発明例41〜44は、AlとNbを含有する皮膜とSiを含有する皮膜を10層〜1200層の範囲で積層した場合であるが、硬度の測定はこの積層部で実施した。積層数が800層〜1200層において急激に硬度が向上した。これはAlとNbを含有する皮膜とSiを含有する皮膜が相互拡散した結果である。
耐酸化性皮膜の破断面組織の観察方法を図4に示す概略図を用いて説明する。試料1の基材側にノッチを入れた後矢印の方向に破断し、破断面をFE−SEMにより観察した。条件は加速電圧5kV倍率を10k倍で観察した。
粒界が認められる破断面組織は、基材表面に対し略垂直方向の粒界をA基材表面と略平行方向の粒界をBとしたときのアスペクト比であるA/Bが1以下のものをブロック状破断面組織、前記一部粒界が認められるがA/Bを特定できないものを粒状破断面組織とし、その評価結果を表3、表4に併記する。
X線回折における回折ピークのうち、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅を測定した。測定はX線回折装置により管電圧を120kV、電流を40μA、X線源をCukα、入射角を5度入射スリットを0.4mm、2θを30から70度の範囲で実施した。得られた皮膜からのX線回折プロファイルのうち立方晶B1構造の2θで38度から45度の範囲の最大ピーク強度を示すピーク即ち(200)面に相当するピークの半価幅を測定した。その評価結果を表3、表4に併記する。
耐酸化性皮膜の残留圧縮応力を次の方法で評価した。試料2の被覆処理前の変形量を事前に測定しておき、試料2の片面に皮膜を成膜し成膜後の変形量から成膜処理におけるたわみ量δ膜厚d、試験片厚さD測定長さlを測定した。化3から残留圧縮応力σを算出した。試料2の弾性係数Eは、517.54GPa、ポアソン比vは0.238とした。結果を表3、表4に併記する。
(実施例8)
試料3を用いて、工具寿命は、工具の逃げ面摩耗幅が0.1mmに達した切削長又は著しく不安定な加工状態、例えば火花発生、異音、加工面のむしれ・焼け等などの状態に至った時の切削長とし、10m未満は切り捨てた。工具寿命の結果を表3、表4にあわせて示す。
(切削試験)
被削材:マルテンサイト系ステンレス鋼、HRC52
切り込み:軸方向1.5mm×径方向0.1mm
主軸回転数:12kmin−1
テーブル送り:4m/min
切削油:外部ミスト供給
工具寿命を比較すると、本発明例は、2倍以上の工具寿命であった。本発明例は高温・高負荷・高衝撃・高酸化条件下等、比較的過酷な環境下で使用される被覆部材特に切削工具に被覆し使用することにより効果が顕著になった。本発明例3、4は、工具寿命が550、590mであり、比較例45〜48とを比較すると2倍以上の工具寿命が得られ、格段に優れた耐酸化性と耐摩耗性及び耐熱性を有する皮膜と該皮膜を被覆した被覆部材が実現した。本発明例3、4が示すようにAlとNb含有量が工具の工具寿命に極めて大きな影響を及ぼしていた。即ちAl含有量が0.51Nb含有量が0.49において格段に工具寿命が向上しAl含有量が0.7Nb含有量が0.3において工具寿命が最大値を示した。その後緩やかに低下する傾向を示した。
破断面組織は、Al含有量が0.51以上Nb含有量が0.49以下において急激に皮膜組織の微細化が進行しはじめAl含有量が0.7Nb含有量が0.3において最も微細な組織構造を示した。その後Al含有量の増加に伴い緩やかに組織が粗大化する傾向を示した。皮膜の破断面組織と工具寿命にも相関が認められた。本発明例6〜8は、AlNbの炭窒化膜、硼窒化膜、酸窒化膜を被覆した場合であるが同様に工具寿命が570〜610mと格段に優れていた。そこで本願第1発明の構成を満たすことにより耐酸化性と耐摩耗性及び耐熱性が格段に優れる皮膜を実現できた。
本発明例内を比較すると、Crを含有していない本発明例3、4が590m以下であるのに対してCr含有量が0.05〜0.40である本発明例9〜13は640〜830mであり優れていた。特にCr含有量が0.10〜0.30の本発明例9〜11は、本発明例3、4に対して1.3倍以上であった。本発明例14、15はCr、Ti含有量が夫々0.20、0.05〜0.10であり工具寿命が820〜830mとなって本発明例1〜5に対して1.3倍以上であった。TiとCrの含有量が同じである本発明例16は、本発明例3、4に対して1.1倍程度であり本発明例14、15に比べ改善効果が少なかった。TiがCrの含有量よりも多い本発明例17は、(TiCr)の添加効果が確認されず、本発明例4と比較すると工具寿命が低下した。これはAlNbを含有する皮膜にCrよりもTiを多く添加することにより皮膜の耐酸化性が低下したためである。従って、Tiを添加する場合はTiと同量以上のCrを添加することが工具寿命の改善に有効であった。
本発明例18〜22はSi含有量が0.05〜0.1であり工具寿命が700〜950mと長く優れていた。本発明例18にYを0.01添加した本発明例20は870mとなりCrを0.1添加した本発明例20は920mとなり、0.25添加した本発明例22は950mとなり優れていた。これらは、本願第2発明の該耐酸化性皮膜の金属成分(AlNbTiCrSi)、0.56≦x+y≦0.95、0≦u≦0.2、0≦v≦0.4、0≦w≦0.2、x+y+u+v+w=1及びu+v+w>0を満足するから、Ti添加により皮膜硬度が向上し、Si添加により組織の微細化並びに耐熱性が向上し、Cr添加により皮膜の結晶化が進むためである。但し、これらの含有量を超えると夫々の元素含有の欠点が現れやすくなった。
本発明例3と比較例23、本発明例24、25の同一皮膜組成において半価幅が異なる試料を比較した。皮膜の面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度未満の比較例23は、工具寿命が400mであるのに対し、1度以上の本発明例3、24、25は550〜630mであり、1.3倍以上長かった。従って、本願発明のものはピークの半価幅が1度以上であることが必要である。その理由は、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅を1度以上とすることにより皮膜内に歪を多く含有し組織が微細になり弾性回復する比率が高くなり優れた耐酸化性及び密着性を有する皮膜が実現できやすくなるためである。
本発明例3と比較例26、本発明例27、28の同一皮膜組成において、破断面組織が異なる試料を比較した。破断面組織が柱状の比較例26は工具寿命が420mであるのに対し、破断面組織が粒状、ブロック状、明確に粒界が認められない破断面組織の本発明例3、27、28は、530〜620mであり1.2倍以上長かった。図1、5、6、7に夫々本発明例28、27、26、3の破断面組織写真を示す。比較例26の破断面組織が柱状であるのに比べ、明確に粒界が認められない破断面組織である本発明例28は1.4倍以上長かった。比較例26は切削長420mにおいて相手材からのFe及び酸素の内向拡散が激しくチッピングや異常摩耗が観察された。しかし粒状、ブロック状、明確に粒界が認められない破断面組織場合は均一摩耗であった。そこで本願発明の皮膜の破断面組織は粒状ブロック状又は明確に粒界が認められない破断面組織の何れかとすることにより弾性回復する比率が高くなり優れた耐酸化性及び密着性を有する皮膜が実現できやすくなった。
本発明例3と本発明例29〜31の同一皮膜組成において弾性回復率が異なる試料を比較した。弾性回復率が27%、42%である本発明例29、31に対して32%、37%である本発明例3、30は1.3倍以上長かった。そこで本願発明は、30%≦R≦40%とすることにより基材との間に密着強度を有する皮膜が実現でき耐剥離性、耐チッピング性に優れた皮膜を実現できた。
本発明例3と本発明例32〜40は、第1の皮膜である(AlNb)皮膜の直上に第2の皮膜を成膜し単一層と比較した。単一の皮膜のみの本発明例3が550mであるのに対し本発明例32〜40は640〜960mであり1.1〜1.7倍であった。特に膜厚比が50%の本発明例33は本発明例3に対して1.7倍であった。本発明例33と本発明例41〜44を比較した。第1、2の皮膜を交互に積層し積層数が略10〜100層の本発明例41、42は、本発明例33と比較して工具寿命の改善は認められなかった。しかし積層数で略800層〜1200層被覆した本発明例43、44は本発明例33と比較して1.2倍以上向上した。そこで本願発明は、第1の皮膜の膜厚が総膜厚の10%〜98%であり、第2の皮膜として、残りを、Siを含有し、該Siの原子比をa、Si以外の金属成分の原子比をbとしたとき、a/(a+b)が0.1〜1であり、該Si以外の金属成分は、Cr、Y、Al、Nb、Tiから選択される1種以上とすることにより、第1の皮膜、Al、Nbを含有する皮膜格段に優れた耐酸化性、膜密着強度、耐摩耗性が向上し相乗効果が発揮しやすくなった。
比較例45は切削初期において皮膜の剥離が現れ工具寿命は120mであった。比較例46〜48は工具寿命が200、150、140mであった。これは比較例46、48の皮膜は組織が粗大であり、切削時に皮膜中に酸素Fe等が激しく内向拡散し皮膜自体の耐酸化性と皮膜硬度が劣り耐摩耗性が十分でなかったためである。比較例49は40mと短かった。比較例49は(AlNb)の金属膜を被覆し耐摩耗性が十分でなかったためであり、逃げ面摩耗幅が早期に0.1mmに達した。比較例45〜49と従来例50〜54は、切削評価時に何れも切削速度が最大となる境界域即ち切削中の温度が最大で且つ空転時に冷却されるため熱サイクルが発生する領域において皮膜内へのFe酸素の内向拡散が発生した。この為皮膜強度の低下が発生し多数の熱クラックが確認された。また、皮膜の剥離が観察されチッピング先行型の摩耗状態であった。
図1は、本発明例28、明確に粒界が認められない破断面組織写真を示す。 図2は、従来例50、明確に粒界が認められ、A/Bが1以上の、柱状破断面組織写真を示す。 図3は、ナノインデンテーション法による荷重変位曲線を示す。 図4は、破断面組織の観察方法を示す概略図である。 図5は、本発明例27、明確に粒界が認められ、A/Bが1以下の、ブロック状の破断面組織写真を示す。 図6は、比較例26、明確に粒界が認められ、A/Bが1以上の、柱状破断面組織写真を示す。 図7は、本発明例3、一部粒界が認められるが、A/Bが特定できない、粒状の破断面組織写真を示す。
1:荷重変位曲線
2:基材
3:耐酸化性皮膜

Claims (5)

  1. 基材表面に被覆する皮膜の少なくとも1層は、金属成分としてAlとNbを含有する窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上である耐酸化性皮膜において、
    該耐酸化性皮膜は、金属成分の総和に対する原子比で、Al含有量が0.51〜0.95及びNb含有量が0.05〜0.49であり、
    該耐酸化性皮膜のX線回折における回折ピークのうち、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度以上であり、該耐酸化性皮膜の破断面組織粒状ブロック状又は明確に粒界が認められない組織何れかであることを特徴とする耐酸化性皮膜。
  2. 基材表面に被覆する皮膜の少なくとも1層は、金属成分としてAlと、Nbと、Ti、Cr、Siから選択される1種以上を含有する窒化物、炭化物、硼化物、酸化物、硫化物から選択される1種若しくは2種以上である耐酸化性皮膜において、
    該耐酸化性皮膜の金属成分(AlNbTiCrSi)で示され、x、y、u、v、wは夫々原子比を示し、x+y+u+v+w=10.51≦x≦0.950.05≦y≦0.49、0.56≦x+y≦0.95、0≦u≦0.2、0≦v≦0.4、0≦w≦0.2及びu+v+w>0を満足し
    該耐酸化性皮膜のX線回折における回折ピークのうち、面心立方構造の(111)又は(200)ピークの半価幅が1度以上であり
    該耐酸化性皮膜の破断面組織粒状ブロック状又は明確に粒界が認められない組織何れかであることを特徴とする耐酸化性皮膜。
  3. 請求項1又は2に記載の耐酸化性皮膜において、該耐酸化性皮膜の押し込み硬さ測定法から算出される弾性回復率Rが、30%≦R≦40%、であることを特徴とする耐酸化性皮膜。
  4. 請求項1乃至3の何れかに記載の耐酸化性皮膜において、該耐酸化性皮膜の膜厚が、総膜厚の10〜98%であり、残りを、該耐酸化性皮膜とは別の第2の皮膜とし、該第2の皮膜Siを含有し、該Siの原子比をa、Si以外の金属成分の原子比をbとしたとき、a/(a+b)が0.1〜1であり、該Si以外の金属成分Cr、Y、Al、Nb、Tiから選択される1種以上であることを特徴とする耐酸化性皮膜。
  5. 請求項1乃至4の何れかに記載の耐酸化性皮膜を被覆したことを特徴とする被覆部材。
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