JP4710109B2 - ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途 - Google Patents

ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規かつ有用なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途に関し、特に生理活性物質の化学修飾や乳化、あるいはリポソームなどドラッグデリバリーシステムに使用可能なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年抗癌剤等のリポソーム製剤の研究が広く行われてきており、その血中滞留性を向上する目的でリポソームの水溶性高分子修飾が盛んに行われている。その一つとして、リポソーム修飾用ポリエチレンオキシド修飾リン脂質が用いられている。
これらは酸性リン脂質であるが、通常酸性リン脂質の体内投与、すなわち緩衝液に溶解するまでの保存安定性を考慮した場合、酸性基が塩で中和されていない酸性タイプの場合、サンプルのpHが低くなり加水分解等を起こし易く分解物を生じる。ナトリウム等で中和した方が酸性タイプのものよりも保存安定性は高い。しかし、酸性タイプを中和しナトリウム塩タイプにする場合、その工程において劣化することがあり高純度品を得ることが困難であった。このためナトリウム塩のもので、純度の高いものが望まれていた。
【0003】
ポリエチレンオキシド修飾リン脂質の製造方法としては、今までT. M. Allen(Biochimica et Biophysica Acta, 1066, 29-36(1991)らやV. P. Torchilinら(Biochimica et Biophysica Acta, 1195, 11-20(1994))が報告しているように、クロロホルム等の有機溶媒中でトリエチルアミン等の塩基性触媒存在下で、ポリエチレンオキシド化合物またはそのカラム精製品と、ホスファチジルエタノールアミン等のリン脂質と反応させ、その後カラムクロマトにて混合溶媒系で溶出分画して精製しポリエチレンオキシド修飾リン脂質を得る方法がある。また、特公平4−7353号に記載されているように、1,1−カルボニルジイミダゾールを用いてポリエチレンオキシド酸化合物をリン脂質に反応させる方法がある。この方法は、カラム精製等を2回行うため工程が長い。これら従来の方法では、確かに高純度品が得られるが、収率等の効率が悪く使用溶媒量も多く、工業的生産への展開は困難である。また、このカラム精製法を用いて製造した場合、酸性タイプの高純度品を得ることは可能であるが、ナトリウム等で中和したタイプの高純度品を得ることは困難である。
【0004】
同様の方法にて合成し緩衝液中で透析または限外濾過を行って、ナトリウム塩型のポリエチレンオキシド修飾リン脂質を得る報告がある。この方法では透析中に加水分解を起こしモノアシルリン脂質体を生成し、高純度品を得ることは困難である。
モノアシルリン脂質は一般にはリゾリン脂質と言われ、リン脂質のリゾ体は生体毒性が強く、また生理活性があると報告されている。ドラッグデリバリーシステムとして利用される際、この問題は重視され医薬用途では問題である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、従来の問題点を解決するため、保存安定性に優れ、しかもモノアシルリン脂質体等の不純物の含有量が少なくて高純度である新規かつ有用なポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質、その製造方法および用途である。
(1) 下記工程(A)、(B)、(C)および(D)を含む方法で製造されたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質であって、モノアシルリン脂質体の含有量が3重量%以下である下記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
(A):下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、脱水縮合剤の存在下に、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させるか、または
下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させる工程
(B):工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9に調整する工程
(C):工程(B)の後に脱水剤を用いて脱水する工程
(D):工程(C)の後に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素またはエーテルを用いて精製を行う工程
【化4】
Figure 0004710109
(式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R3は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R4Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。Mはナトリウムイオンまたはカリウムイオン、rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH2)q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
【化5】
Figure 0004710109
(式(2)および(3)中、R 1 およびR 2 はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R 3 は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R 4 Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH 2 )q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
(2) ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が、工程(A)、(B)、(C)、(D)の順で行った後、さらに下記工程(E)、(F)の順で行って製造されたものである上記(1)記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
(E):アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムまたはケイ素を含有する吸着剤を用いて精製を行う工程
(F):クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンおよび炭素数1〜3のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを用いて精製を行う工程
(3) pが0、Yがメチル基であり、モノアシルリン脂質体の含有量が0.5重量%以下である上記(1)または(2)記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む界面活性剤。
(5) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含むリポソーム形成剤。
(6) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の両親媒性化学修飾剤。
(7) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の乳化剤。
(8) 下記工程(A)、(B)、(C)および(D)を含む上記(1)または(3)記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
(A):下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、脱水縮合剤の存在下に、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させるか、または
下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させる工程
(B):工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9に調整する工程
(C):工程(B)の後に脱水剤を用いて脱水する工程
(D):工程(C)の後に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素またはエーテルを用いて精製を行う工程
【化6】
Figure 0004710109
(式(2)および(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R3は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R4Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH2)q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
(9)1およびR2が炭素数12〜20のアシル基である上記(8)記載の製造方法。
(10) pが0、Yがメチル基である上記(8)または(9)記載の製造方法。
(11) 工程(A)で使用する緩衝液がリン酸緩衝液または炭酸緩衝液、有機溶媒がクロロホルム、トルエンまたは酢酸エチルである上記(8)ないし(10)のいずれかに記載の製造方法。
(12) 工程(C)で使用する脱水剤が無機ナトリウム塩または無機カリウム塩の無水物である上記(8)ないし(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13) 工程(D)の後に、下記工程(E)を行う上記(8)ないし(12)のいずれかに記載の製造方法。
(E):アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムまたはケイ素を含有する吸着剤を用いて精製を行う工程
(14) 程(D)または工程(E)の後に、下記工程(F)を行う上記(8)ないし(13)のいずれかに記載の製造方法。
(F):クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンおよび炭素数1〜3のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを用いて精製を行う工程
(15) 工程(A)、(B)、(C)、(D)の順で行った後、さらに工程(E)、(F)の順で行う上記(14)記載の製造方法。
(16) 工程(F)を行った後、工程(E)を行う上記(14)記載の製造方法。
(1) モノアシルリン脂質体の含有量が2重量%以下である上記(8)ないし(16)のいずれかに記載の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
前記式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質において、R1およびR2は炭素数4〜24、好ましくは12〜20のアシル基である。このアシル基は通常脂肪酸に由来する。R1およびR2の具体的なものとしては、例えば酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸などの飽和および不飽和の直鎖または分岐の脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。R1およびR2は同じであっても異なっていてもよい。炭素数が24を越える場合、水相への分散が悪く反応性が下がる。また炭素数が4より少ない場合、精製工程での結晶性が悪く最終純度が低くなるおそれがある。
【0008】
前記式(1)においてR3は炭素数1〜8、好ましくは2〜5、さらに好ましくは2または3の2価の炭化水素基であり、直鎖状、分枝状または環状のいずれでもよい。また飽和でも不飽和でもよい。具体的なものとしては−CH2−、−CH2CH2−、−(CH2)3−、−(CH2)4−、−(CH2)5−、−(CH2)6−、−CH=CH−、フェニレン基などが挙げられる。mは0または1であり、好ましくは1である。
【0009】
前記式(1)においてR4Oで表されるオキシアルキレン基は炭素数2〜4、好ましくは2または3のオキシアルキレン基であり、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基などが挙げられる。これらの中ではオキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、特にオキシエチレン基が好ましい。分子内にはnの数だけオキシアルキレン基が存在するが、このオキシアルキレン基は1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わされていてもよく、その組み合わせ方に制限はない。またブロック状であってもランダム状であってもよい。ただし、全オキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の比率が低い場合は水溶性が低下する可能性があるので、全オキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の比率は50〜100モル%であるのが好ましい。
【0010】
前記式(1)においてnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、10〜800、好ましくは20〜500の数である。nが10より小さいと、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をドラッグデリバリーシステムに使用した場合の効果が小さい。また800より大きいと、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を製造する際、前記式(2)のポリアルキレンオキシド化合物と式(3)のリン脂質との反応性が低下するほか、前記式(2)のポリアルキレンオキシド化合物の粘度が上昇して作業性が低下するため好ましくない。
【0011】
前記式(1)においてMはナトリウムイオンまたはカリウムイオンの一価の金属陽イオンである。前記式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、リン酸基部分がナトリウムイオンまたはカリウムイオンと塩を形成しているので、−20℃の冷凍保存時はもちろん、室温で保存しても、さらには輸送の際などに40℃前後の状態に置かれても加水分解を起こしにくく保存安定性に優れている。なお、Mが水素イオンである場合は加水分解を起こし易く保存安定性が悪い。
【0012】
リン酸基部分と塩を形成するナトリウムイオンまたはカリウムイオンは、通常薬剤等の調製に用いる生理食塩緩衝液中に含まれ、さらに生体内にも存在するため、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をドラッグデリバリーシステムに使用しても体内での毒性等の問題も少ない。Mがナトリウムイオンまたはカリウムイオン以外の金属イオン、例えばカルシウムまたはマグネシウム等の二価金属イオンの場合は、リン脂質2分子が会合した構造等をとるため、緩衝液等への溶解性がかなり低くなることから好ましくない。
【0013】
前記式(1)においてrは2〜4の整数であり、好ましくは2である。
前記式(1)においてXは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH2)q−(ここでqは1〜4)である。炭化水素基の具体的なものとしては−CH2−、−CH2CH2−、−(CH2)3−などが挙げられる。pは0または1である。
【0014】
前記式(1)においてpが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくはアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これの中ではメチル基が好ましい。
またpが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基であり、好ましくはアミノ基である。
Xp−Yとしてはメチル基、エチル基、プロピル基およびアミノメチル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0015】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は保存安定性が高く、かつモノアシルリン脂質体等の不純物の含有量が少ない。本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質のモノアシルリン脂質体の含有量は3重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であり、さらに好ましくは実質的に含有されない。このように本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は生体毒性が強いとされているモノアシルリン脂質の含有量が少く、生体に対する安全性の高い高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質であるので、界面活性剤、好ましくは生体用の界面活性剤として利用することができる。より具体的には、リポソーム形成剤、生理活性物質の両親媒性化学修飾剤および乳化剤などとして好適に利用することができる。
【0016】
なお本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質と類似するリン脂質として、ポリオキシアルキレン鎖がジカルボン酸を介さないで直接リン脂質に結合したリン脂質誘導体が知られているが、このリン脂質誘導体はリン酸基周辺の水素結合が弱く界面活性剤として用いる場合に安定性に劣ることがある。界面活性剤、特にリポソーム形成剤として用いる場合、両親媒性のバランスの点から、本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が最も利用範囲が広い。
【0017】
本発明のリポソーム形成剤は前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含むリポソーム形成剤であり、前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質だけからなるものであってもよいし、リポソーム膜の形成に用いられている公知の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、レシチン、その他のリン脂質、コレステロールなどが挙げられる。
【0018】
本発明のリポソーム形成剤は、前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含んでいるので、リポソーム溶液として保存安定性に優れるとともに、生体毒性が強いモノアシルリン脂質の含有量が少ないので安全であり、このため本発明のリポソーム形成剤を使用することにより安全性の高いドラッグデリバリーシステムとして利用することができるリポソームを得ることができる。
【0019】
リポソーム溶液として保存安定性に優れる理由としては、次のことが推測される。モノアシルリン脂質はジアシルリン脂質に比べて疎水性が低いので、リポソーム表面から脱離しやすい。このためモノアシルリン脂質の含有量が多いリポソームはモノアシルリン脂質がリポソーム表面から脱離してリポソーム表面の水和層が減少するので、リポソーム粒子の凝集が起こり相分離を起こして不安定となりやすい。これに対して本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質はモノアシル体含有量が少ないので、リポソーム表面からのリン脂質の脱離が起こりにくく、このためリポソーム溶液の保存安定性に優れている。
【0020】
リポソーム溶液として保存安定性に優れる理由としては、次のことが挙げられる。ポリアルキレンオキシド修飾モノアシルリン脂質含有量が高い場合、この化合物は親油性が低いため疎水性が下がり、リポソーム表面から遊離する場合がある。その結果リポソーム表面の水和層が減少し、リポソーム粒子の凝集が起こり相分離を起こし不安定となる。本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、モノアシル体含有量が低くリポソーム溶液とした場合、保存安定性に優れたものができる。
【0021】
本発明の生理活性物質の化学修飾剤は前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の化学修飾剤であり、前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質だけからなるものであってもよいし、生理活性物質の化学修飾に用いられている公知の他の成分を含んでいてもよい。
【0022】
化学修飾する生理活性物質はアミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基などの官能基を有するものであれば特に限定されず、例えば酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質、ホルモンが挙げられる。
【0023】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を生理活性物質の化学修飾剤として使用する場合、式(1)のYとしてはアミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基およびチオール基が好ましい。このような基を有する場合、生理活性物質中に存在する官能基と容易に反応させることができる。例えば、Yがカルボキシル基の場合、生理活性物質中のアミノ基とCONH結合を形成させることにより、生理活性物質にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質骨格を導入することができる。このようにして化学修飾された生理活性物質は、リポソーム成分として用いる場合リポソーム表面に存在させることができ、例えば生理活性物質が抗体のタンパク質の場合には標的細胞のリガンドとして用いることができるので、リポソームを標的細胞へ集中して輸送することができる。
【0024】
本発明の生理活性物質の乳化剤は前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の乳化剤であり、前記本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質だけからなるものであってもよいし、生理活性物質の乳化に用いられている公知の他の成分を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は、オキシアルキレン基に由来する親水性と、アシル基に由来する疎水性とを有しているので乳化剤として使用することができ、しかも保存安定性に優れている。さらに、生体細胞構成成分と同等のリン脂質および毒性の低いオキシアルキレン基からなるとともに、生体毒性が強いモノアシルリン脂質の含有量が少ないので安全性が高い。このため、このようなポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む乳化剤を使用することにより、例えば安全性の高い生理活性物質の乳化物を得ることができる。具体的には、酵素、抗体、その他のタンパク質、糖、脂質、糖タンパク質、糖脂質またはホルモンなどの生理活性物質の乳化物を得ることができる。
【0026】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は前記工程(A)、(B)、(C)および(D)により容易に製造することができる。
工程(A)で使用する前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物および前記式(3)で示されるリン脂質において、R1、R2、R3、R4O、n、X、pおよびYは前記式(1)で説明したものと同じである。
【0027】
工程(A)で使用する前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物は公知の方法により製造することができる。例えば、後述するように、式(4)で示されるポリアルキレンオキシド化合物とジカルボン酸無水物とを反応させることにより容易に製造することができる。
【0028】
前記式(3)で示されるリン脂質は天然リン脂質でも合成リン脂質でもよく、例えば大豆および大豆水添ホスファチジルジエタノールアミン、卵黄および卵黄水添ホスファチジルジエタノールアミン等の天然および合成ホスファチジルエタノールアミンなどが挙げられる。前記式(3)で示されるリン脂質としては、が2であるホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0029】
工程(A)で使用する脱水縮合剤としては、式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物のカルボキシル基と、式(3)のリン脂質の官能基とを脱水縮合させて結合させることができる化合物が制限なく使用できる。このような脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド誘導体が挙げられる。脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。
脱水縮合剤の使用量は、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の1.05〜5倍モル、好ましくは1.5〜2.5倍モルであるのが望ましい。さらに、反応率を上げる場合は、N−ヒドロキシコハク酸イミドを反応系中に前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物に対して0.1〜2倍モル加えることが好ましい。
【0030】
工程(A)の反応に使用する緩衝液はナトリウムまたはカリウムを含む緩衝液であり、例えばナトリウムまたはカリウムをカウンターイオンとする緩衝液である。緩衝液のpHは5〜13、好ましくはpHが8〜11であるのが望ましい。緩衝液の具体的なものとしては、例えばリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液およびホウ酸緩衝液などが挙げられる。これらの中ではリン酸緩衝液が好ましい。緩衝液中に含まれるナトリウムおよび/またはカリウムの量は前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の1.5〜10倍モル、好ましくは2〜5倍モルであるのが望ましい。
【0031】
工程(A)の反応に使用する有機溶媒は、水酸基等の官能基を有しないものであれば特に制限なく使用することができる。例えば酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼンおよびトルエンなどが挙げられる。これらの中ではクロロホルムおよびトルエンが好ましい。エタノールなどの水酸基を有する有機溶媒は、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の末端のカルボキシル基と反応するので好ましくない。ジクロロメタン等でも反応性には問題はないが、低沸点であるため作業上好ましくない。
工程(A)の反応は前記緩衝液と有機溶媒との混合媒体中で行う。緩衝液と有機溶媒との混合割合は有機溶媒100容量部に対して緩衝液0.1〜50容量部、好ましくは1〜10容量部とするのが望ましい。
【0032】
工程(A)の反応の反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は1時間以上、好ましくは2〜8時間とするのが望ましい。30℃より低温では反応率が低く、90℃より高温では反応に用いる前記式(3)で示されるリン脂質のアシル基が加水分解するおそれがあるので好ましくない。
【0033】
このようにして前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と前記式(3)で示されるリン脂質ジカルボン酸無水物とを反応させることにより、前記式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が得られる。ただし、この段階では前記式(1)のMが水素原子である水素タイプのリン脂質が含まれている場合が多い。工程(A)終了後は、反応液をそのまま次の工程(B)に供することができる。
【0034】
本発明の製造方法は、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、前記式(3)で示されるリン脂質とを、上記のように前記脱水縮合剤の存在下に反応させることができるが、別な方法として、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、前記式(3)で示されるリン脂質とを反応させることもできる。上記活性化エステル誘導体は、例えば前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、活性化剤とを前記脱水縮合剤の存在下に反応させることにより得ることができる。
【0035】
上記活性化剤としては、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N,N′−ジコハク酸イミドカーボネート、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、N−ヒドロキシフタルイミド、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム・メチルサルフェート、イソブチルクロロホルメートなどが挙げられる。これらの中ではN−ヒドロキシコハク酸イミドが好ましい。
【0036】
前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と活性化剤との反応は、ジカルボン酸無水物との反応と同様、脱水縮合剤の存在下でカルボン酸と反応しない溶媒、例えばクロロホルム、トルエン等の反応溶媒中で、反応温度15〜80℃、好ましくは25〜55℃で活性化剤をポリアルキレンオキシド化合物の溶液に分散撹拌することにより行うことができる。
例えば、活性化剤としてはN−ヒドロキシコハク酸イミドを使用した場合、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物のカルボキシル基と、N−ヒドロキシコハク酸イミドのイミド基が反応し、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物のカルボキシル基側末端にN−ヒドロキシコハク酸イミドが結合した活性化エステル誘導体が得られる。
【0037】
工程(A)において、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の末端がアミノ基、カルボキシル基またはチオール基、特にアミノ基の場合にはこれらの基を保護して反応に供するのが好ましい。例えば、アミノ基の場合にはtert−ブトキシカルボニル基または9−フルオレニルメチルカルボニル基等の保護基を付け、カルボキシル基の場合にはメチル基等によりエステル化して保護し、またチオール基の場合にはS−t−ブチルスルフィド基等の保護基を付けて保護するのが好ましい。
【0038】
工程(B)では工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9、好ましくはpHは6.5〜8に調整する。このとき使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリは通常水溶液の状態で使用され、工程(A)の混合媒体に用いた緩衝液の塩水溶液、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が挙げられる。ただし、工程(A)の終了後、反応液のpHが6.5〜8の場合はpH調整を行わなくてもよい。
【0039】
工程(A)で得られた反応液をpH調整することにより、水素タイプのものが本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に変換される。
工程(B)の終了後は、反応液を貧溶媒または非溶媒に投入して結晶化するなどの公知の方法により、前記式(1)で示される本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を高純度かつ高収率で得ることができる。得られたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質または工程(B)の反応液を、下記のような精製工程で精製することにより、さらに高純度の目的物を得ることができる。
【0040】
工程(C)では、工程(B)の反応液を脱水剤を用いて脱水する。脱水は工程(B)の反応液に脱水剤を添加することにより行うことができる。工程(B)の反応液は緩衝液と有機溶媒との混合液であるが、脱水することにより水が除去され、有機溶媒の単一な液が得られる。これにより次工程(D)での溶媒精製において、優れた収率および純度を得ることができる。
【0041】
工程(C)で用いる脱水剤は、前記式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質および工程(A)で用いた有機溶媒と反応しない公知の脱水剤が使用できるが、無機ナトリウム塩または無機カリウム塩の無水物が好ましく、特に無水硫酸ナトリウムが好ましい。脱水剤としてナトリウムおよびカリウム以外の無機塩、例えば硫酸マグネシウムなどの2価の金属塩を用いると、前記式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質のリン酸基のカウンターイオンが1価の金属塩から2価の塩に置き換わり、前記式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の水への溶解性が低下し、ドラッグデリバリー基材として使用する際問題となるので好ましくない。
【0042】
工程(D)を行う前には、濾過などにより工程(B)の反応液または工程(C)の反応液から不溶物を除去するのが好ましい。工程(B)の反応液を濾過する場合は未反応のリン脂質、工程(C)の反応液を濾過する場合は未反応のリン脂質に加えて脱水に用いた無機脱水剤、さらに工程(A)で用いた緩衝液の塩が不溶となり析出した塩が除去される。濾過に使用するろ材は、被処理液の不溶物を除去することができるものであれば特に制限はなく、通常は保留粒子細孔径が1〜10μmで耐溶媒性を有する紙、ガラスなど各種の材質のフィルターを使用することができる。濾過方法には制限なく、例えば減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過などの方法を用いることができる。
【0043】
工程(D)では、工程(C)の反応液またはこれを濾過した濾過液に、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素またはジエチルエーテルなどのエーテルを加え、前記式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の結晶化を行う。
【0044】
炭素数5〜8の脂肪族炭化水素の添加量は、工程(D)の被処理液に対して1〜50倍容量であり、好ましくは2〜5倍容量であるのが望ましい。炭素数5〜8の脂肪族炭化水素の量が、被処理液の容量より少ない場合、前記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が十分に析出せず溶液中に残存する恐れがある。結晶化を行う際、室温で問題なく行うことができるが、10℃以下に冷却して行えば濾過速度も早く、良好な収率で結晶が得られる。
【0045】
工程(D)の処理により、過剰のジシクロヘシキルカルボジイミドなどの脱水縮合剤を除去できるが、他の精製工程でも除去できるので、さらに精製を行なう場合は蒸留等により有機溶媒を除去して結晶化してもよい。有機溶媒を除去する場合、80℃以下で減圧下で行うことが望ましい。有機溶媒の留去温度が80℃を越えると、前記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質のアシル基が加水分解するなど望ましくない副反応が起こる恐れがある。
【0046】
工程(D)で得られた結晶を本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質とすることもできるし、さらに精製に供することもできる。
【0047】
本発明の方法において、工程(D)の後に工程(E)を行うことにより、工程(D)の前処理で除去できなかった、緩衝液として用いた過剰なナトリウム、カリウム等の式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質に結合していない遊離塩類を吸着除去することができる。工程(E)は、工程(D)の後に工程(F)を行いその後に行ってもよい。
【0048】
工程(E)では、工程(D)で得られた結晶をそのまま用い、加温して液状として処理してもよく、その結晶を酢酸エチル、クロロホルム、トルエン等の水分含有量が低く、かつ式(1)のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を溶解する溶媒に溶解し、この溶液に吸着剤を添加して撹拌するなどの方法により行うこともできる。
【0049】
工程(E)で用いる吸着剤としては、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムまたはケイ素を含有する吸着剤であり、例えば水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化ケイ素等を含有する吸着剤などが挙げられる。これらの化合物を含有する吸着剤の市販品としては、キョーワード200、キョーワード300、キョーワード500、キョーワード600、キョーワード700、キョーワード1000、キョーワード2000(協和化学工業(株)製、商標)、トミックス−AD300、トミックス−AD500、トミックス−AD700(冨田製薬(株)製、商標)などが挙げられる。吸着剤は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0050】
吸着剤を用いて処理する時の温度は10〜85℃、好ましくは40〜70℃、時間は10分〜5時間、好ましくは30分〜2時間とするのが望ましい。工程(D)で得られた結晶をそのまま処理してもよいが、上記温度で結晶が溶解しない場合や溶液の粘度が高い場合が多く、トルエンまたはクロロホルムなどの本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を溶解する有機溶媒にて希釈して処理して行う。処理する温度が10℃未満では本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が析出する場合があり、吸着剤を除去する場合にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質も除去され収率が下がるので好ましくない。また85℃以上では工程(C)で完全に除去できず、微量の水分が存在する場合、吸着剤処理中にポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の加水分解等が起こる可能性がある。吸着剤の使用量は処理する結晶または溶液100重量部に対して0.1〜15重量部、好ましくは0.5〜7.5重量部とするのが望ましい。吸着剤量が上記下限値より少ないと過剰の遊離の塩を充分に除去することができず、上限値より多いと吸着剤の除去が困難であり主成分の収率が下がる。
【0051】
工程(E)の終了後は、濾過などの方法により吸着剤を除去し、得られた分離液(以下、工程(E)の処理液という場合がある)を貧溶媒または非溶媒を用いて再結晶させることができる。これにより得られた結晶を本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質とすることもできるし、工程(E)の処理液をさらに精製に供することもできる。
【0052】
本発明の方法において、工程(F)では、工程(E)の処理液に炭素数5〜8の脂肪族炭化水素およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の貧溶媒ないし非溶媒を加えることにより結晶化し、得られた結晶にクロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンおよび炭素数1〜3のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を加えて溶解し、エーテル、アセトンまたは炭素数5〜8の脂肪族炭化水素を用いて晶析を行う。
【0053】
工程(F)で使用する前記炭素数5〜8の脂肪族炭化水素には特に制限はなく、例えば、ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、ネオヘキサン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,3,3−トリメチルブタン、オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、3−エチルヘキサン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,2,3,3−テトラメチルブタンなどを挙げることができる。これらの中でヘキサンおよびヘプタンが好ましい。
【0054】
工程(F)を行うにあたり、さらに純度を上げたい場合、アセトン、酢酸エチル、または炭素数1〜3のアルコールから選ばれる溶媒および炭素数5〜8の脂肪族炭化水素からなる溶媒の2種類以上を組み合わせて溶媒として用いて溶解し不溶物を除去した後工程(F)を行うことにより、純度の優れたポリアルキレンオキサイド修飾リン脂質を得ることができる。この際、アセトン、酢酸エチル、または炭素数1〜3のアルコールから選ばれる溶媒を、前記式(1)で示されるポリアルキレンオキサイド修飾リン脂質に対して1〜20倍重量添加し30〜85℃で溶解し、不溶物を濾過して除去する。不溶物を除去した後、50℃以下に冷却した後炭素数5〜8の脂肪族炭化水素を添加し、35℃以下に冷却、好ましくは15℃以下に冷却する。この際80℃以上で溶解すると、リン脂質のアシル基が分解し、モノアシル体が生じる恐れがある。モノアシルリン脂質は生体に投与する上で問題がある。また、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素を添加し冷却する際、40℃以上では前記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が十分に析出せず回収率が低くなる恐れがある。
【0055】
上記のようにして製造することにより、有毒なモノアシルリン脂質の含有量が少なく、またそれ以外の不純物の含有量も少なく高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を容易に高収率で得ることができる。
【0056】
なお、工程(A)の出発原料となる前記式(2)で示されポリアルキレンオキシド化合物は、例えば式(4)
HO−(R4O)n−Xp−Y …(4)
(式(4)中、R4O、n、X、pおよびYは前記式(1)と同じである。)
で示されるポリアルキレンオキシド化合物とジカルボン酸無水物とを、塩基性触媒の存在下に反応させることにより製造することができる。
【0057】
上記ジカルボン酸無水物としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、テレフタル酸の無水物などを挙げることができる。これらの中ではコハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびピメリン酸の無水物が好ましく、特にコハク酸またはグルタル酸の無水物が好ましい。ジカルボン酸無水物としては、分子内無水物、分子間無水物のいずれを用いてもよい。
【0058】
上記塩基性触媒は特に制限なく使用できる。例えば、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、トリエチルアミン、ジメチルアミノピリジンなどが挙げられ、好ましくは酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムである。トリエチルアミンおよびジメチルアミノピリジンを用いる場合は、工程(A)の前に触媒を除去して用いる必要がある。
反応は通常反応溶媒を用いて行われるが、この場合反応溶媒としては前記式(4)で示されるポリアルキレンオキシド化合物およびジカルボン酸無水物と反応する溶媒以外のものが制限なく使用できる。例えばクロロホルム、トルエン、テトラヒドロフランおよびアセトニトリル等が挙げられる。アルコールは前記ジカルボン酸無水物と反応するので好ましくない。
【0059】
反応は反応温度30〜180℃、好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜120℃、反応時間1〜20時間、好ましくは3〜10時間とするのが望ましい。30℃より低温では反応率が低く、180℃より高温では末端活性基が分解するおそれがあるので好ましくない。
カルボン酸無水物の量は、前記式(4)で示されるポリアルキレンオキシド化合物が有する水酸基1モルに対して1〜3倍モル、好ましくは1.02〜1.5倍モルとするのが望ましい。
【0060】
このようにして前記式(4)で示されるポリアルキレンオキシド化合物とジカルボン酸無水物とを反応させることにより、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物が得られる。反応終了後は、反応液にヘキサン等の脂肪族炭化水素などを添加して反応生成物を結晶化させ、この結晶を次の工程(A)に供することができる。
【0061】
【発明の効果】
本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は新規かつ有用である。本発明のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質は保存安定性が高く、モノアシルリン脂質体等の不純物の含有量が少なく生体に対する安全性の高い高純度のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質であるので、リポソーム形成剤、生理活性物質の化学修飾剤および生理活性物質の乳化剤などとして好適に利用することができる。
【0062】
本発明の製造方法は、前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、前記式(3)で示されるリン脂質とを、脱水縮合剤の存在下に、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液と有機溶媒との混合媒体中で30〜90℃で反応させるか、または前記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、記式(3)で示されるリン脂質とを、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液と有機溶媒との混合媒体中で30〜90℃で反応させる工程(A)と、工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9に調整する工程(B)と、工程(B)の後に脱水剤を用いて脱水する工程(C)と、工程(C)の後に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素またはエーテルを用いて精製を行う工程(D)とを含んでいるので、上記ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を簡単に効率よく、しかも高純度に製造することができる。
【0063】
【実施例】
実施例1
(1)モノメチルポリオキシエチレン(分子量5000)サクシンイミジルグルタレートの合成
モノメトキシポリオキシエチレン(平均分子量5000)50g(0.01mol)にリン酸ナトリウムを0.05g(0.4mmol)を加えて、100℃に加温し均一にした後、無水グルタル酸を1.25g(0.011mol)加え、110℃で8時間反応を行った。冷却後イソプロピルアルコール200mLを加えて、モノメチルポリオキシエチレングルタレートの結晶を得た。その結晶にトルエン150mLを添加して40℃で加温溶解した後、N−ヒドロキシコハク酸イミド1.24g(0.011mol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド4.25g(0.021mol)を添加し、40℃で2時間反応した。反応後濾過し、下記式(5)で示される粗メチルポリオキシエチレンサクシンイミジルグルタレート活性化体48gを得た。
【化5】
Figure 0004710109
【0064】
(2)モノメチルポリオキシエチレングルタリル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン14.96g(0.02mol)にトルエン75mLを加えて60℃に加温し、リン脂質トルエン溶液を得た。またリン酸水素ニナトリウム7.2g(0.05mol)に蒸留水7.5mLと30%水酸化ナトリウム水溶液0.75mLとを加えて加温溶解し、リン酸緩衝液を得た。このリン酸緩衝液を前記リン脂質トルエン溶液に添加し、60℃で撹拌しリン脂質緩衝混合液を得た。このリン脂質緩衝混合液に、前記式(5)の粗モノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルグルタレート活性化体を添加し、60℃で5時間反応を行った。反応後0.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に中和した。その後、硫酸ナトリウム150gを添加して1時間撹拌し、脱水を行った。
【0065】
脱水工程後濾過にて不溶物を除去し、ろ液にヘキサンを400mL添加し1時間撹拌し、結晶を析出させた。この結晶を濾過にて得た。得られた粗結晶を酢酸エチル100mLに50℃で加温溶解し、吸着剤としてキョーワードKW#700およびキョーワードKW#1000をそれぞれ0.5g加えて30分間撹拌した。吸引濾過にてキョーワードを除去し、得られたろ液にヘキサン50mLを添加して結晶析出させた。この結晶を濾過により得た。その結晶にアセトン300mLを加えて50℃で加温溶解し、熱時濾過して未反応のリン脂質を不溶物として除去した。その後15℃以下に冷却し、結晶を析出させた。この結晶を濾過して得た。得られた結晶に酢酸エチル180mLを加えて60℃に加温して溶解し、その後15℃以下に冷却し、結晶を析出させた。この結晶を濾過して採取した。加温溶解時に不溶物がある場合は、濾過にて除去し次の工程に進んだ。さらに得られた結晶を再度同様に酢酸エチル200mLに加温溶解し、ヘキサン100mLを加えて析出した結晶を濾過して最終純度98%の結晶50gを得た。ポリオキシエチレン活性化体を基準として収率は90.8%であった。結果を表1にまとめる。
なお参考例として中和後脱水工程を行わず、ヘキサンを添加し結晶化行った場合、純度87%の結晶52gが得られ、収率は94.5%であった。
【0066】
生成物の分析は、シリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルムとメタノールの混合比が85:15重量比の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて既知量の標準物質との比較により含有物質の定量を行った。
【0067】
実施例2
モノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量2000)ジラウロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
モノメトキシポリオキシエチレン(平均分子量2000)20g(0.01mol)にリン酸ナトリウムを0.05g(0.4mmol)加えて、100℃に加温し均一にした後、無水コハク酸を1.1g(0.011mol)を加え、100℃で6時間反応を行い、実施例1の(1)と同様の方法で粗モノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体を得た。
一方、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン11.6g(0.02mol)を用いて、実施例1と同様の条件にてリン脂質緩衝混合液を調製した。
【0068】
このリン脂質緩衝混合液に、前記粗モノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体を添加し、60℃で5時間反応を行った。反応後、実施例1と同様の条件にて精製し最終結晶18gを得た。純度は98%であった。ポリオキシエチレン活性化体を基準として収率は69.2%であった。結果を表1にまとめる。
【0069】
実施例3
モノアミノエチルポリオキシエチレン(分子量3400)グルタリルジステアロイルホスファチジルエタノールアミン
モノアミノエチルポリオキシエチレン(平均分子量3400)は、3.4g(0.001mol)の末端アミノ基をProc. Natl. Acad. Sci. 69, 730(1972)記載の方法に従って、無水物を用いてtert−ブトキシカルボニル基で保護し、もう片末端を実施例1の(1)の方法に従ってサクシンイミジルグルタレート活性化し、粗tert−ブトキシカルボニル保護アミノエチルポリオキシエチレン(分子量3400)サクシンイミジルグルタレート活性化体を調製した。
一方、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン1.16g(0.002mol)を用いて、実施例1と同様の条件にてリン脂質緩衝混合液を調製した。
【0070】
このリン脂質緩衝混合液に、前記粗tert−ブトキシカルボニル保護アミノエチルポリオキシエチレン(分子量3400)サクシンイミジルグルタレート活性化体を添加し、45℃で5時間反応を行った。反応後、キョーワードKW#700を0.1gおよびキョーワードKW#1000を0.05g加えて30分間撹拌した。吸引濾過にてキョーワードを除去し、2.5M塩酸のアセトニトリル溶液を添加し、30分間室温にて撹拌し保護基を加水分解して外し、水酸化ナトリウム水溶液にて中和した。中和した溶液にキョーワードKW#700を0.1gおよびキョーワードKW#1000を0.05gを加えて30分間撹拌した後、濾過して不溶物を除去しろ液の溶媒を除去した。アセトンおよび酢酸エチルを用いた晶析については、実施例1と同様の条件にて精製し最終結晶2gを得た。純度は90%であった。モノアミノエチルポリオキシエチレンを基準として収率は52.0%であった。結果を表1にまとめる。
【0071】
実施例4
モノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
実施例2と同様の方法でモノメトキシポリオキシエチレン(平均分子量5000)50g(0.01mmol)をモノメトキシポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート活性化体とし、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン15.0g(0.02mol)と反応させ、さらに同様に精製しモノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを得た。純度98.5%の最終結晶53gを得、ポリオキシエチレン活性化体を基準として91.0%の収率となった。結果を表2にまとめる。
【0072】
実施例5
モノメチルポリオキシエチレングルタリル(分子量5000)ジドコサノイルホスファチジルエタノールアミンの合成
ジドコサノイルホスファチジルエタノールアミン14.96g(0.02mol)にトルエン75mLを加えて60℃に加温しリン脂質トルエン溶液を得た。また炭酸ナトリウム5.3g(0.05mol)に蒸留水7.5mLと30%水酸化ナトリウム水溶液0.1mLとを加えて加温溶解し、炭酸緩衝液を得た。この炭酸緩衝液を前記リン脂質トルエン溶液に添加し60℃で撹拌しリン脂質緩衝混合液とした。
【0073】
このリン脂質緩衝混合液に、実施例1で調製した粗モノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルグルタレート活性化体を添加し、60℃で5時間反応を行った。反応後pHが下がっている場合は、0.5N水酸化ナトリウム溶液でpH7に中和した後、硫酸ナトリウム150g添加し1時間撹拌し脱水を行った。その後実施例1と同様の方法にて精製を行い最終純度95%の結晶48gを得た。ポリオキシエチレン活性化体を基準として87.2%の収率となった。結果を表2にまとめる。
【0074】
比較例1
モノメチルポリオキシエチレン(平均分子量5000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン149.6mg(0.2mmol)にクロロホルム10mLを加えて撹拌しリン脂質クロロホルム溶液とした。その溶液にモノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート3.06g(0.6mmol)を添加し、さらにトリエチルアミン0.01g(0.7mmol)を加えて室温で一晩反応を行った。反応後窒素ブローにてクロロホルムを除去し、得られた残渣を0.145Mの塩化ナトリウム水溶液に再溶解し未反応のモノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネートを加水分解した。その溶液を、生理食塩水で平衡化したBio−Gel A−1.5mカラムに展開し生理食塩水で溶出した。排除体積中のポリオキシエチレン修飾ホスファチジルエタノールアミンミセルを含むフラクションを採取し、水に対して5日間透析した後、凍結乾燥にて結晶195mgを得た。反応に用いたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを基準として収率は35.5%であり、純度は94%であった。
【0075】
上記の方法で得られる主成分は、生理食塩水および水中でのpHが5〜6であるため、リン酸基の部分が中和されていないHタイプも含まれる。すべてをナトリウム塩とするため次の中和工程を行った。
得られた結晶195mgをメタノール1.95mLに溶解し、撹拌しながらpHが7〜8となるまで0.1N水酸化ナトリウム水溶液約0.15mLを添加した。その後エバポレーターを用いて濃縮し、ヘキサン5mLを加え濾過して析出した結晶を得た。得られたナトリウム塩タイプの収率は28%であり、純度は85%となった。結果を表3にまとめる。
【0076】
比較例2
モノメチルポリオキシエチレン(平均分子量1900)サクシニル水素添加大豆ホスファチジルエタノールアミンの合成
比較例モノメチルポリオキシエチレンサクシネート(平均分子量1900)19g(10mmol)を四塩化炭素に溶解し、その溶液に無水コハク酸5g(50mmol)を添加し75℃に加温し一晩撹拌した。反応後濾過して余剰の無水コハク酸を除去した。この乾燥試料を容積比95/5/0.8の塩化エチレン/メタノール/濃アンモニア水混合溶媒に溶解し、同溶液で平衡化したケイ酸カラムに展開した。溶離溶媒のメタノール含有量を上げることにより、溶出してくるサクシニルエチレングリコールフラクションを分取し、溶媒除去して乾燥品を得た。
【0077】
モノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート638mg(2.4mmol)をベンゼン11mLに溶解し、1,1−カルボニルジイミダゾール315mg(2.16mmol)を添加し40℃に加温した。この溶液に水素添加大豆ホスファチジルエタノールアミン594.4mg(0.8mmol)を加え、その後脱溶媒を行い全量3mLまで濃縮し、65℃で3時間反応を行った。反応後エバポレーターにて脱溶媒し、得られた試料をけい酸クロマトグラフィーで精製し、溶出してくるポリオキシエチレン修飾ホスファチジルエタノールアミン含有フラクションを分取し、溶媒を除去して純度95%の乾燥品324mgを得た。反応に用いたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを基準として収率は15%であった。
【0078】
上記の方法で得られた主成分は水素(H)タイプであり、ナトリウム塩へ置換を行うために、比較例1と同様の方法にてナトリウム塩とした。得られたナトリウム塩タイプの純度91%であり、収率は12%であった。結果を表3にまとめる。
【0079】
比較例3
比較例2と同様の方法で得られたモノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート(平均分子量1900)638mg(2.4mmol)をベンゼン11mLに溶解し、1,1−カルボニルジイミダゾール315mg(2.16mmol)を添加し40℃に加温した。この溶液に水素添加大豆ホスファチジルエタノールアミン594.4mg(0.8mmol)を加え、その後脱溶媒を行い全量3mLまで濃縮し、65℃で3時間反応を行った。反応後エバポレーターにて脱溶媒し、クロロホルムと0.2M塩酸を用いて2相分離を行った。下層を採取し4回水相にて洗浄抽出し、脱溶媒し乾燥品とした。得られた試料を容積比95/5/0.8の塩化エチレン/メタノール/濃アンモニア水混合溶媒に溶解し、同溶液で平衡化したケイ酸カラムに展開した。溶離溶媒のメタノール含有量を上げることにより、溶出してくるポリオキシエチレン修飾ホスファチジルエタノールアミン含有フラクションを分取し、溶媒を除去して乾燥品800mgを得た。反応に用いたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを基準として37.2%の収率であり、純度は94%であった。
【0080】
上記の方法で得られた主成分はアンモニウム塩であり、ナトリウム塩へ置換を行うために、まず陽イオン強酸性樹脂を用いてアンモニウムイオンを除去し、比較例1と同様の方法にてナトリウム塩とした。得られたナトリウム塩タイプの純度は85%であり、収率は30%であった。結果を表3にまとめる。
【0081】
比較例4
モノメチルポリオキシエチレングルタリル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの合成
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン149.6mg(0.2mmol)にクロロホルム10mLを加えて撹拌しリン脂質クロロホルム溶液とした。その溶液にモノメチルポリオキシエチレンサクシンイミジルサクシネート3.06g(0.6mmol)を添加し、さらにトリエチルアミン0.01g(0.7mmol)を加えて室温で一晩撹拌し反応を行った。反応後窒素ブローにてクロロホルムを除去し、得られた残渣を水に分散しその溶液を、Spectra−Por CE300000MW(Spectrum Medical)を用いて、水に対して5日間透析した。その後凍結乾燥し結晶195mgを得た。反応に用いたジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを基準として25%の収率であり、純度は85%であった。
【0082】
上記の方法で得られる主成分は、透析水中でのpHが5〜6であるため、リン酸基の部分が中和されていないHタイプおよびトリエチルアミンタイプも含まれる。トリエチルアミンは毒性が高く、すべてをナトリウム塩とするため比較例3と同様の処理を行いナトリウムタイプとした。得られたナトリウム塩タイプの収率は18%であり純度は80%となった。結果を表3にまとめる。
【0083】
【表1】
表1
Figure 0004710109
【0084】
【表2】
表2
Figure 0004710109
【0085】
【表3】
表3
Figure 0004710109
【0086】
表1〜表3の注
*1 Na塩純度:前記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の純度、単位wt
*2 リゾ体含有量:モノアシルリン脂質体の含有量、単位wt
*3 フリーPE含有量:未反応のリン脂質の含有量、単位wt
*4 フリーPEG誘導体含有量:単位wt%
*5 フリー塩含有量:リン酸塩、その他の塩の含有量、単位wt
【0087】
表1〜表3の結果から、実施例の製造方法は比較例に比べて、高純度のNa塩を高収率で製造することができることがわかる。
【0088】
実施例6
モノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンのナトリウムタイプと水素タイプ(H)の保存安定性の比較
実施例4で得たモノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンのナトリウムタイプと、対照品となる水素タイプ(H)とについて、下記の条件にて主成分含有量の経時変化を実施例1のTLCにより測定した。結果を表4に示す。
条件
・保存条件:−30℃、4℃、20℃、40℃
・サンプル形態:粉末(空気存在下、褐色瓶)
【0089】
【表4】
表4 純度変化(主成分含有量%)
Figure 0004710109
注) 保存率は保存開始時の含有量に対する保存期間経過後の含有量の割合である。
【0090】
表4の結果からわかるように、実施例のナトリウムタイプのものは、低温で保存した場合はもちろん、室温より高い温度で長期間保存した場合にも、保存安定性に優れていることがわかる。これに対して、比較例の水素タイプのものは含有量が経時的に大きく減少し、特に保存温度が高い場合に純度が大きく減少することがわかる。40℃で保存した場合、実施例のナトリウムタイプの保存率は6か月後も97.1%であるのに対し、比較例の水素タイプの保存率は1週間後で70.0%であり、保存期間が25倍以上になっているにもかかわらず、実施例の保存率はなおも高い値を示している。
【0091】
実施例7
実施例3のモノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを使用して乳液を作製した。すなわち、表5の組成からなる基材のうち乳化剤を含む油相部を60℃に加温し均一に溶解した後、撹拌しながら水相部を同温度で添加した。
【0092】
【表5】
表5
Figure 0004710109
【0093】
作製した乳液を40℃で一か月保存した後、乳化状態を下記の基準により評価した。結果を表7に示す。
3:安定な状態
2:やや不均一な状態
1:クリーミングまたは分離している状態
【0094】
また、作製した直後の乳液を皮膚に塗布し、官能試験を行った。官能評価は5人の専門パネラーで行った。評価方法は、上腕部を洗浄した後に試料を塗布し、塗布直後および一晩経過後の皮膚刺激についての評価を下記3段階評価でそれぞれ行った。5人の合計点を表7に記す。
3:普通である。全く異常がない。
2:違和感がある。少し痒みを感じる。
1:痒みがある。皮膚に発赤を認める。
【0095】
実施例8
実施例3のモノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを使用してクリームを作製した。すなわち、表6の組成からなる基材のうち乳化剤を含む油相部を60℃に加温し均一に溶解した後、撹拌しながら水相部を同温度で添加した。
【0096】
【表6】
表6
Figure 0004710109
【0097】
作製したクリームについて実施例7と同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0098】
比較例5および6
比較例2のモノメチルポリオキシエチレンサクシニル(分子量5000)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを用いて実施例7および実施例8と同様の試験を行った。結果を表7に示す。
【0099】
【表7】
表7
Figure 0004710109
【0100】
実施例9
リポソーム溶液の安定性評価
ジパルミトイルホスファチジルコリン1.92g(2.64mmol)、コレステロール0.45g(1.32mmol)、実施例4で得たモノメチルポリオキシエチレン(分子量5000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミン0.86g(0.15mmol)をナス型フラスコに入れ、クロロホルム50mLを加えて溶解し、ロータリーエバポレーターにて脱溶剤し、フラスコ内壁に脂質の薄膜を形成した。減圧下にて溶剤除去を十分に行い、pH7のリン酸緩衝生理食塩水液30mLを加えて分散し、さらに超音波洗浄器にて5分間処理を行いリポソーム溶液とした。
得られたリポソーム溶液を室温にて1か月間放置した。1か月後のリポソーム溶液の分散状態は、目視では変化が認められず、均一なリポソーム溶液であった。
【0101】
比較例7
比較例1で得たモノメチルポリオキシエチレンサクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを用いて、実施例9と同様の評価を行った。その結果、リポソーム溶液は均一ではなく、脂質粒子が沈降していた。
【0102】
実施例10
カルボキシメチルポリオキシエチレン(平均分子量5000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを用いたアスパラギナーゼの修飾
実施例2と同様にして得られたカルボキシメチルポリオキシエチレンサクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミン5gをクロロホルム50mLに溶解し、N−ヒドロキシコハク酸イミド0.12gを添加し、少量のクロロホルムに溶解したジシクロヘキシルカルボジイミド0.25gを添加して室温にて2時間撹拌した。その後濾過して不溶物を除去した溶液にジエチルエーテルを添加し、析出した結晶を濾過して得た。減圧にて溶剤を除去し、次の工程に用いた。
アスパラギナーゼ0.1gをpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水液50mLに溶解し、上記で得られたサクシンイミジルカルボキシメチルポリオキシエチレンサクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを添加し、5℃で4時間撹拌した。この反応液を、pH7.4、4℃のリン酸緩衝生理食塩水液に対して透析して未反応物を除去し、その後凍結乾燥し、カルボキシメチルポリオキシエチレン(平均分子量5000)サクシニルジステアロイルホスファチジルエタノールアミンがアスパラギナーゼに結合した乾燥品を得た。

Claims (17)

  1. 下記工程(A)、(B)、(C)および(D)を含む方法で製造されたポリアルキレンオキシド修飾リン脂質であって、モノアシルリン脂質体の含有量が3重量%以下である下記式(1)で示されるポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
    (A):下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、脱水縮合剤の存在下に、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させるか、または
    下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させる工程
    (B):工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9に調整する工程
    (C):工程(B)の後に脱水剤を用いて脱水する工程
    (D):工程(C)の後に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素またはエーテルを用いて精製を行う工程
    Figure 0004710109
    (式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R3は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R4Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。Mはナトリウムイオンまたはカリウムイオン、rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH2)q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
    Figure 0004710109
    (式(2)および(3)中、R 1 およびR 2 はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R 3 は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R 4 Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH 2 )q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
  2. ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が、工程(A)、(B)、(C)、(D)の順で行った後、さらに下記工程(E)、(F)の順で行って製造されたものである請求項1記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
    (E):アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムまたはケイ素を含有する吸着剤を用いて精製を行う工程
    (F):クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンおよび炭素数1〜3のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを用いて精製を行う工程
  3. pが0、Yがメチル基であり、モノアシルリン脂質体の含有量が0.5重量%以下である請求項1または2記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む界面活性剤。
  5. 請求項1ないし3のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含むリポソーム形成剤。
  6. 請求項1ないし3のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の両親媒性化学修飾剤。
  7. 請求項1ないし3のいずれかに記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を含む生理活性物質の乳化剤。
  8. 下記工程(A)、(B)、(C)および(D)を含む請求項1または記載のポリアルキレンオキシド修飾リン脂質の製造方法。
    (A):下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、脱水縮合剤の存在下に、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させるか、または
    下記式(2)で示されるポリアルキレンオキシド化合物の活性化エステル誘導体と、下記式(3)で示されるリン脂質とを、有機溶媒とナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含む緩衝液との混合媒体中で30〜90℃で反応させる工程
    (B):工程(A)で得られた反応液をナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むアルカリでpH6〜9に調整する工程
    (C):工程(B)の後に脱水剤を用いて脱水する工程
    (D):工程(C)の後に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素またはエーテルを用いて精製を行う工程
    Figure 0004710109
    (式(2)および(3)中、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数4〜24のアシル基、R3は炭素数1〜8の2価の炭化水素基、mは0または1、R4Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜800の数である。rは2〜4、Xは炭素数1〜3の2価の炭化水素基または−C(=O)(CH2)q−(ここでqは1〜4)、pは0または1である。pが0の場合、Yは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。pが1の場合、Yは水素原子、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基またはチオール基である。)
  9. 1およびR2が炭素数12〜20のアシル基である請求項記載の製造方法。
  10. pが0、Yがメチル基である請求項または記載の製造方法。
  11. 工程(A)で使用する緩衝液がリン酸緩衝液または炭酸緩衝液、有機溶媒がクロロホルム、トルエンまたは酢酸エチルである請求項ないし10のいずれかに記載の製造方法。
  12. 工程(C)で使用する脱水剤が無機ナトリウム塩または無機カリウム塩の無水物である請求項8ないし11のいずれかに記載の製造方法。
  13. 工程(D)の後に、下記工程(E)を行う請求項8ないし12のいずれかに記載の製造方法。
    (E):アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルミニウムまたはケイ素を含有する吸着剤を用いて精製を行う工程
  14. 程(D)または工程(E)の後に、下記工程(F)を行う請求項ないし13のいずれかに記載の製造方法。
    (F):クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンおよび炭素数1〜3のアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、炭素数5〜8の脂肪族炭化水素およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを用いて精製を行う工程
  15. 工程(A)、(B)、(C)、(D)の順で行った後、さらに工程(E)、(F)の順で行う請求項14記載の製造方法。
  16. 工程(F)を行った後、工程(E)を行う請求項1記載の製造方法。
  17. モノアシルリン脂質体の含有量が2重量%以下である請求項ないし1のいずれかに記載の製造方法。
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