以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1および図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2(図5参照)とを備え、エンジン本体1には、複数の気筒(図示の実施形態では4つの気筒)12A〜12Dが設けられている。各気筒12A〜12Dにはコンロッドを介してクランク軸3に連結されたピストン13が嵌挿され、ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。
各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には点火プラグ15が装備され、そのプラグ先端が燃焼室14内に臨んでいる。さらに、燃焼室14の側方部には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図略のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ15付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁16の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁16には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの燃焼室14に対して吸気ポート17及び排気ポート18が開口し、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20が装備されている。これら吸気弁19及び排気弁20は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、後に詳述するように各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒12A〜12Dの吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23からなる吸気流量調節手段が配設されている。このスロットル弁23の上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力(ブースト圧)を検出する吸気圧センサ26とが配設されている。
また、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流をレギュレータ回路28aで制御して出力電圧を調節できるように構成され、ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
また、上記エンジンでは、カムシャフトの特定回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、さらに図5に示すように運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセルセンサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35と、車速を検出する車速センサ38とが設けられている。そしてそれぞれ出力される各検出信号がECU2に入力されるようになっている。
図3は、当実施形態のパワートレイン(エンジン本体1から車軸78,79に至る駆動系)の概略図である。エンジン本体1は、その出力軸であるクランク軸3を通じて自動変速機50に接続されている。この自動変速機50は、クランク軸3に連結されたトルクコンバータ51と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59(本発明に係る入力軸)に連結された多段変速機構52とを備え、これらに含まれる複数の摩擦要素67〜71を断続させることにより、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態と、車輪側への駆動力の伝達が可能なドライブ状態とに切替え可能に構成されている。
上記トルクコンバータ51は、クランク軸3に連結されたポンプカバー53と、このポンプカバー53に一体に形成されたポンプインペラ54と、これに対向するように設置されたタービン(タービンライナ)55と、その間でワンウェイクラッチ56を介してケース57に取付けられたステータ58とを備えている。上記ポンプカバー53内の空間には、作動流体としてのオイル(作動油。ATFともいう)が充満され、ポンプインペラ54の駆動力がこの作動油を介してタービン55に伝達されるものとなされている。そして、タービン55に連結されたタービンシャフト59を介して多段変速機構52との間で駆動力の伝達がなされる。
そして、ケース57には、このタービン55の回転速度を検出するタービン用回転センサ36が、タービンシャフト59と一体的に回転するフォワードクラッチ67(本発明に係るクラッチ手段)の外周面に対向した状態で設けられている。具体的にはこのタービン用回転センサ36は、先端部がフォワードクラッチ67のドラムの外周面に対向して配置され、ドラム外周面に設けられたスプライン状の凹凸がドラムの回転によって変位することによって生じる誘導電圧の周期的変化を検知することにより、上記タービンシャフト59の回転速度を通じてタービン55の回転速度を検出するように構成されている。
ポンプインペラ54には中空回転シャフト60が連結され、このシャフト60の後端部(エンジン本体1側と反対側の端部)にオイルポンプ61が取付けられている。ケース57内にはこのオイルポンプ61とは別に電動オイルポンプ62(図5参照)が設けられ、これらの各オイルポンプ61,62が切換弁91を介して油圧制御機構63(図5参照)に接続されている。そして、ECU2からの切替え信号に基づいて切換弁91がオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間で切替え制御を行う。その他、ECU2は、油圧制御機構63の油路(流体路)の切替えやライン圧(摩擦要素67〜71の締結中の油圧)の設定、摩擦要素67〜71の締結や解放時の過渡的な油圧制御等を行い、摩擦要素67〜71を断続(締結、解放)させるように構成されている。
ここで、オイルポンプ61とは別に電動オイルポンプ62を設けているのは、エンジンの停止時や始動初期にエンジン回転速度が十分でないために、オイルポンプ61によっては所望のライン圧を供給し難い場合に、ライン圧を確保するためであり、この観点からオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との切替えのタイミングが設定されている。
トルクコンバータ51には、更に上記ポンプカバー53とタービン55との間に介設され、該カバー53を介してクランク軸3とタービン55とを直結するロックアップクラッチ64が設けられている。このロックアップクラッチ64は、上記オイルポンプ61および電動オイルポンプ62に油圧制御機構63を介して接続されており、車速に応じてこの油圧制御機構63に設けられた各種ソレノイドバルブをオン・オフ制御することにより油路が切替えられてロックアップクラッチ64が断続されるようになっている。
一方、多段変速機構52は、第1および第2遊星ギヤ機構65,66(本発明に係る遊星ギヤ機構)と、この遊星ギヤ機構65,66を含む動力伝達経路を切替える締結要素(クラッチプレートやバンドブレーキ等の複数の摩擦要素67〜71及びワンウェイクラッチ72)とを備え、シフトレンジ(Dレンジ、Nレンジ、Rレンジ等)に応じ、これらの締結要素67〜72を断続して前進速、ニュートラル状態、後退速を切替えるように構成されている。
なお、当明細書で用いる「ドライブ状態」や「ニュートラル状態」とは、必ずしも変速レバー等によるシフト操作位置(DやN)を示すものではなく、駆動力の伝達状態に基づいた実質的な自動変速機50の状態を言う。従って、変速レバー等によるシフト操作位置がDレンジポジションのままで、各ソレノイドバルブの制御によって自動変速機50を駆動力の伝達が切り離された状態としたものもニュートラル状態に含む。
第1および第2遊星ギヤ機構65,66は、それぞれ、サンギヤ65a(第1回転要素),サンギヤ66a(第2回転要素)と、これらのサンギヤ65a,66aの周りに配置され、これらに噛合する複数個(例えば各3個)の遊星ギヤ65b,66bと、これらの遊星ギヤ65b,66bを支持するキャリヤ65c,66cと、遊星ギヤ65b,66bの周りを取り囲むように配置され、これらに噛合するリングギヤ65d,66dとを備え、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65dと第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとが連結されているとともに、第1遊星ギヤ機構65のキャリヤ65cと第2遊星ギヤ機構66のリングギヤ66dとが連結され、各遊星ギヤ機構65,66が連動し得るものとなされている。
摩擦要素は、上記タービンシャフト59および第1遊星ギヤ機構65のサンギヤ65aの間に介在するフォワードクラッチ67と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aとの間に介在するリバースクラッチ68と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとの間に介在する3−4クラッチ69と、第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aを固定する2−4ブレーキ70(本発明に係るブレーキ手段)と、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65d及び第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cを固定するローリバースブレーキ71等とを備える。またワンウェイクラッチ72は、リングギヤ65d及びキャリヤ66cの一方向(クランク軸3の駆動方向)への回転のみを可能ならしめ(アンロック)、逆方向へは回転しないようにロックする。これらの締結要素67〜72が断続されて出力ギヤ73(本発明に係る出力軸)に繋がる動力伝達経路が変更ないし断絶されるものとなされている。
そして、この出力ギヤ73が回転することにより、駆動力が駆動輪側、すなわち伝動ギヤ74,75,76および差動機構77を介して左右の車軸78,79に伝達されるようになっている。車軸78,79は、図外の車輪(駆動輪)と一体回転するように構成されている。
なお、ここで固定するとは、固設部材(ケース57またはこれと一体化されたもの)と一体化させることをいう。
図4は、締結要素67〜72の断続状態と変速段との関係を示す図である。図4において、○印は各摩擦要素67〜71が締結された状態を示し、●印はワンウェイクラッチ72が、駆動時(エンジンからの駆動力が駆動輪側へ向かう場合)にはロックされて駆動力を伝達可能とし、逆駆動時(駆動輪からの逆駆動力がエンジン側へ向かう場合)にはアンロックされて逆駆動力を伝達しないことを示す。無印は各締結要素67〜72が解放またはアンロックされた状態を示している。従って、Nレンジでは、全ての締結要素67〜72が解放/アンロックされ、Dレンジの第1速段ではフォワードクラッチ67が締結されるとともにワンウェイクラッチ72が駆動側ロック状態かつ逆駆動側アンロック状態とされ、第2速段ではフォワードクラッチ67および2−4ブレーキ70が締結され、第3速段ではフォワードクラッチ67および3−4クラッチ69が締結され、第4速段では3−4クラッチ69および2−4ブレーキ70が締結されている。
また当実施形態では、特定モードMが設けられている。特定モードMはNレンジとは異なるが、特定モードMが選択されると自動変速機50がニュートラル状態となる。特定モードMでは、2−4ブレーキ70が締結され、ワンウェイクラッチ72は必要に応じてロックされる((●)で示す)。つまりキャリヤ65cまたはリングギヤ66dが、ロック方向に作動しようとしたときにロックし、そうでないときにはアンロックとなる。
なお図4は、全てのシフトレンジやギヤ・ポジションを網羅するものではなく、当実施形態の説明に直接関与しない部分は省略して示している。
図5は当実施形態のエンジン始動装置のブロック図である。ECU2は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータ等からなり、具体的には、予めROM(又はRAM)に記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって、車両の各種動作等が制御される。ECU2は、上記各センサ25,26,30〜36,38からの信号を受け、上記燃料噴射弁16に対して燃料噴射量及び噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火プラグ15に対して点火時期制御信号を出力し、かつ、スロットル弁23のアクチュエータ24に対してはスロットル開度を制御するための制御信号を出力し、さらにオルタネータ28のレギュレータ回路28aに対して発電量を制御する信号を出力する。
また、ECU2は、上記各センサ25,26,30〜36,38からの信号を受け、油圧制御機構63の元圧の供給元をオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間で切り換える切換信号を切換弁91に出力するとともに、油圧制御機構63(具体的にはこれに含まれるソレノイドバルブ等)に対して各摩擦要素67〜71の作動圧を調圧する信号を出力する。
そして、ECU2は、所定のエンジン自動停止条件が成立したときに、燃料の供給を停止して自動的にエンジンを停止させるとともに、このエンジンの自動停止動作期間中、或いはエンジンの自動停止後、乗員によるアクセルやブレーキの操作等により所定のエンジン再始動条件が成立したときに、エンジンの燃焼によるエネルギーにより自動的にエンジンを再始動させる停止再始動制御手段2aを備えている。
図6は、自動変速機50の変速パターンを示すシフトマップの一部である。横軸に車速(km/h)、縦軸にスロットル開度(スロットル弁23の開度)(%)を示す。図を簡潔にするため、ダウンシフト線(2→1変速、3→1変速、3→2変速、4→3変速)のみを示している。ECU2は、このシフトマップに基づき、車速とスロットル開度に応じた最適な変速段を随時選択し、油圧制御機構63(のソレノイドバルブ)に信号を出してその変速段となるように自動変速機50を制御する。
図6に示すように、低スロットル開度領域では、2→1変速線と3→2変速線とが重なっている。これは、この領域においては3→1変速がなされることを意味している。このようにすることにより、低スロットル開度領域での減速走行時に3→2→1と頻繁に変速がなされることが防止され、走行フィーリングの向上が図られる。
但し、破線のダウンシフト線101で示すように、低スロットル開度でも3→2変速を行わせる場合がある。それは、第3速段で減速走行中にエンジンの自動停止条件が成立したときである(成立が予測される状態となったときでも良い)。後述するように、エンジンの自動停止条件が成立すると自動変速機50は特定モードMに移行する。従って、第3速段で減速走行中にエンジンの自動停止条件が成立したとき(ないしは成立が予測される状態となったとき)は、第2速段を経由して特定モードMに移行することになる。
なお、エンジンの自動停止条件が成立すると予測されるときとは、例えば自動停止条件のうち、車速の条件以外が全て成立し、かつ車両の減速度から、残る車速の条件も間もなく成立すると見込まれる場合等である。この場合、3→2変速車速V2を、自動停止条件のうちの車速条件(当実施形態では19km/h)より若干高車速に設定すればよい。
次に、当実施形態のエンジンの始動装置の作動について説明する。先ず自動変速機50の作動について述べる。
図7は、Dレンジ第1速段における自動変速機50の駆動力伝達経路および各部の回転方向を示す模式図である。この図において、左手前側から見て左回転を正転方向、右回転を逆転方向とする。エンジンが通常の運転状態にあるとき、タービンシャフト59は正転方向に回転する。また車両が前進状態にあるとき、伝動ギヤ76は車軸78,79と一体となって正転方向に回転する。
図7に示す第1速段のとき、タービンシャフト59が正転方向に回転しつつ、その回転と駆動力がフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに伝達される。さらにそれが遊星ギヤ65bに伝達され、この遊星ギヤ65bは逆転方向に回転する。ここで、ワンウェイクラッチ72がロックされる(経路βで示す)ことによってリングギヤ65dの逆転方向の回転が規制されているので、遊星ギヤ65bは、その支持軸(キャリヤ65c)を中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。つまりキャリヤ65cが正転方向に回転する。このキャリヤ65cの正転方向の回転と駆動力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76に伝達される。以下図3に示すように差動機構77を介して車軸78,79へと伝達される。
なお、キャリヤ65cは、リングギヤ66dと連結されているので、リングギヤ66dは正転方向に回転する。またキャリヤ66cはリングギヤ65dと連結されており、リングギヤ65dがワンウェイクラッチ72のロックまたはローリバースブレーキ71の締結によって停止しているので、キャリヤ66cも停止する。したがって、遊星ギヤ66bは正転方向に回転する。そして遊星ギヤ66bに噛合するサンギヤ66aは逆転方向に回転する。
図8は、第1および第2遊星ギヤ機構65,66の速度線図である。速度線図は、入力軸(タービンシャフト59)の回転速度に対する、第1および第2遊星ギヤ機構65,66の各要素の回転速度を示す模式図である。この図で、縦に並ぶ4本の線は、左から順に、サンギヤ65a(第1回転要素)、キャリヤ65c(リングギヤ66d,出力ギヤ73も一体に回転する)、リングギヤ65d(キャリヤ66cも一体に回転する)およびサンギヤ66a(第2回転要素)を示す。互いの間隔は、各遊星ギヤの歯数によって一義的に決まる。また縦軸は、タービンシャフト59の回転速度(タービン回転速度Nt)に対する速度比である。タービン回転速度Ntと同一回転速度の場合、速度比=1となる。また停止状態では速度比=0となる。
この速度線図において、図7に示す第1速段は、第1速線111で示される。第1速段では、フォワードクラッチ67(クラッチ手段)の締結によってサンギヤ65aがタービンシャフト59と一体回転するので、入力ポイント116においてサンギヤ65aの速度比=1となる。またワンウェイクラッチ72によってリングギヤ65dがロックされるので、固定ポイント117において速度比=0となる。このとき、出力ポイント121(出力ギヤ73)において0<速度比<1(例えば速度比≒0.36)となる。
図9は、Dレンジ第2速段における自動変速機50の駆動力伝達経路および各部の回転方向を示す模式図である。回転方向の定義は図7に準ずる。
このDレンジ第2速は、図4に示すように、フォワードクラッチ67が締結しているDレンジ第1速の状態から、さらに2−4ブレーキ70を締結させたものである。上述したように、Dレンジ第1速ではサンギヤ66aが逆転方向に回転している。この状態から2−4ブレーキ70を締結させると、サンギヤ66aが停止する。このため、遊星ギヤ66bは、その支持軸(キャリヤ66c)を中心に正転方向に回転しつつ、キャリヤ66cと一体的にサンギヤ66aの周囲を正転方向に回転する。つまりDレンジ第1速ではワンウェイクラッチ72によって逆転方向の回転が規制され、停止していたキャリヤ66cが正転方向に回転するのである。
このとき、遊星ギヤ65bは、第1速と同様、キャリヤ65cを中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。この場合、第1速と異なり、リングギヤ65dが正転方向に回転しているのでキャリヤ65cの回転速度は第1速の場合よりも相対的に速くなる。但しタービンシャフト59の回転速度よりは減速されている。以下第1速と同様、キャリヤ65cの正転方向の回転と駆動力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76へと伝達される。
この第2速段の状態は、図8の速度線図では第2速線112で示される。第2速段では、フォワードクラッチ67の締結によってサンギヤ65aがタービンシャフト59と一体回転するので、入力ポイント116においてサンギヤ65aの速度比=1となる。また2−4ブレーキ70(ブレーキ手段)によってサンギヤ66aが固定されるので、固定ポイント118において速度比=0となる。このとき、出力ポイント122(出力ギヤ73)において第1速段よりも大きな速度比(例えば速度比≒0.67)となる。
図10は、Dレンジ第3速段における自動変速機50の駆動力伝達経路および各部の回転方向を示す模式図である。回転方向の定義は図7に準ずる。
このDレンジ第2速段は、図4に示すように、フォワードクラッチ67と3−4クラッチ69とが締結している状態である。
図10に示す第3速のとき、タービンシャフト59が正転方向に回転しつつ、その回転と駆動力がフォワードクラッチ67を経由する第1の経路と3−4クラッチ69を経由する第2の経路とに分散される。第1の経路では、駆動力がフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに伝達される。さらにそれが遊星ギヤ65bを介してリングギヤ65dに伝達される。つまりサンギヤ65a,キャリヤ65cおよびリングギヤ65dはタービンシャフト59と等しい回転速度で一体回転する。一方、第2の経路では、駆動力が3−4クラッチ69を介してキャリヤ66cに等速で伝達される。
つまり、第1の経路と第2の経路とに分散された駆動力はリングギヤ65dで合流し、キャリヤ65cから出力ギヤ73へと出力される。結局、タービンシャフト59から入力された駆動力に等しい駆動力が、タービンシャフト59の回転速度度と同速度で出力ギヤ73に出力される(直結状態)。その後、伝動ギヤ74,75,76に伝達され、以下図3に示すように差動機構77を介して車軸78,79へと伝達される。
この第3速段の状態は、図8の速度線図では第3速線113で示される。第3速段では、フォワードクラッチ67の締結によってサンギヤ65aがタービンシャフト59と一体回転し、また3−4クラッチ69の締結によってキャリヤ66cがタービンシャフト59と一体回転するので、入力ポイント116および入力ポイント119において速度比=1となる。このとき、出力ポイント123(出力ギヤ73)において速度比=1となる(直結状態)。
Dレンジ第4速における自動変速機50の各部の作動についての説明は省略するが、図4に示すように3−4クラッチ69と2−4ブレーキ70とが締結し、タービンシャフト59から入力された駆動力がタービンシャフト59の回転速度よりも増速されてキャリヤ65cに伝達される。以下同様に出力ギヤ73,伝動ギヤ74,75,76および差動機構77を介して車軸78,79へと伝達される。
この第4速段の状態は、図8の速度線図では第4速線114で示される。第4速段では、3−4クラッチ69の締結によってキャリヤ66cがタービンシャフト59と一体回転するので、入力ポイント119においてキャリヤ66cの速度比=1となる。また2−4ブレーキ70によってサンギヤ66aが固定されるので、固定ポイント118において速度比=0となる。このとき、出力ポイント124(出力ギヤ73)において速度比>1(例えば速度比≒1.38)となる。
図11は、車両停止状態におけるニュートラル状態の速度線図である。図の見方は図8に準ずる。当実施形態では、ニュートラル状態として、通常のニュートラル状態(Nレンジ相当)と、特定モードMとがある(図4参照)。
まず特定モード時の速度線131について説明する。特定モード時の速度線131は、2−4ブレーキ70が締結することによる固定ポイント135と、車両が停止状態、すなわち出力ギヤ73が停止状態であることによる固定ポイント137とによって特定される。すなわち全域で速度比=0となる。
これに対し、通常のニュートラル状態では、固定ポイント137だけが特定されている。従って、特定モード時の速度線131と同様に全域で速度比=0となる可能性はあるが、実際にはそうはならず、一般的には固定ポイント137を中心にやや傾斜した通常N時の速度線132となる。通常N時の速度線132は一義的に定まるものではなく、図示しているのはその一例である。通常N時の速度線132がこのように傾斜するのは、第1および第2遊星ギヤ機構65,66のうちの幾つかの要素が連れ回りをするからである。図示の例では、キャリヤ66cがタービンシャフト59に連れ回りし、0<速度比<1の入力ポイント141となっている。またこのとき、サンギヤ65aは負の速度比となっており、タービンシャフト59とは逆方向に回転している(ポイント143)。
ここで、上記各ニュートラル状態からフォワードクラッチ67を締結する場合を考える。図4から明らかなように、特定モードMからフォワードクラッチ67を締結すると第2速段となり、通常のニュートラル状態からフォワードクラッチ67を締結すると第1速段となる。何れの場合も、出力ギヤ73における速度比=0なので、サンギヤ65aにおいても速度比=0となる。その結果、タービンシャフト59においても速度比=0となる。つまりタービンシャフト59が停止する(タービン回転速度Nt=0)。
特定モードMの場合、最初からサンギヤ65aが停止しているので(ポイント139)、フォワードクラッチ67の締結によって、タービンシャフト59およびその一体回転物の回転を止めるだけで良く、フォワードクラッチ67での吸収エネルギーが比較的小さい。これに対し、通常のニュートラル状態からフォワードクラッチ67を締結させる場合、タービンシャフト59およびその一体回転物の回転を止めるだけではなく、サンギヤ65a,66a,リングギヤ65d、キャリヤ66cおよびこれらの一体回転物の回転を止めなければならない。速度線図に対応させれば、傾斜した通常N時の速度線132を水平に移動させるための吸収エネルギーが必要であると言える。従ってフォワードクラッチ67での吸収エネルギーが比較的大きくなる。
吸収エネルギーが大きいと、クラッチの締結時間が長くなり、またニュートラル状態からドライブ状態に切替える時の振動(N−Dショック)も大となる。以上のことから、通常のニュートラル状態からフォワードクラッチ67を締結させるよりも、特定モードMからフォワードクラッチ67を締結させた方が、締結時間を短くでき、またN−Dショックも低減できることがわかる。
次に、エンジンの自動停止制御について説明する。図12は、エンジンを自動停止させる際の圧縮行程気筒と膨張行程気筒との関係を示す図である。圧縮行程気筒とは、特定の気筒を指すものではなく、気筒12A〜12Dのうちの何れかの気筒であって、エンジン停止時に圧縮行程となっている気筒、或いは圧縮行程となることになる気筒のことである。同様に膨張行程気筒とは、エンジン停止時に膨脹行程となっている気筒、或いは膨脹行程となることになる気筒のことである。図12(a)は圧縮行程気筒および膨張行程気筒のピストン13の位置関係を示す図であり、図12(b)はピストン13の停止位置と各気筒内の空気量との関係を示す図である。
当実施形態のエンジンは4気筒4サイクルエンジンなので、図12(a)に示すように、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれており、ピストン13の位置および移動方向が逆位相となっている。すなわち白抜き矢印で示すように、圧縮行程気筒においてピストン13がTDC(上死点)方向に移動するとき、膨脹行程気筒ではピストン13がBDC(下死点)方向に移動する。
この動作を利用して、当実施形態では、自動停止させたエンジンを完全停止後に再始動させる際、膨張行程気筒での燃焼に先立って、圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13をいったん逆方向に、BDCを越えない程度に押し下げるようにしている(クランク軸3は一時的に逆方向に回転する)。これによって膨張行程気筒のピストン13もいったん逆方向、つまりTDC方向に移動する。そうすると膨張行程気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)が圧縮される。そこで圧縮された混合気に点火して燃焼させることにより、強い力でピストン13を反転させてBDC方向に押し下げる。すなわちクランク軸3の回転方向を逆転から正転に向かわせる。このように、エンジンをいったん逆転させてから膨張行程気筒で燃焼させることにより、単に膨張行程気筒で燃焼させるよりも強い正転方向の駆動トルクが得られ、エンジンの再始動性が向上される。
このように、再始動モータ等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンが適正に再始動するように構成されているが、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーは、全てがクランク軸3からの出力となるわけではなく、膨張行程気筒に続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるためにも消費される。従って、その消費分を差し引いてもクランク軸3に正転方向の駆動力が残っていなければならない。そのため、初期状態(エンジン停止状態)の膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。一方、圧縮行程気筒にも、最初にクランク軸3を逆転させて膨張行程気筒内の空気を圧縮させるに足る空気量を確保しておく必要がある。
図12(b)は、横軸に膨張行程気筒のピストン停止位置(ATDC°CA:上死点後のクランク角)、縦軸に膨張行程気筒および圧縮行程気筒の筒内空気量を示す。何れの気筒も停止後ある程度の時間が経過しており、筒内が略大気圧となった状態での空気量である。上述のように、膨張行程気筒のピストン13と圧縮行程気筒のピストン13とは逆位相なので、一方の空気量が増大する(ピストン13がBDC方向に移動する)と他方の空気量が減少する(ピストン13がTDC方向に移動する)。
そこで、圧縮行程気筒での燃焼エネルギーをある程度確保しつつ、膨張行程気筒での大きな燃焼エネルギーを得るためには、膨張行程気筒のピストン13を、行程中央よりもややBDC寄り、例えば100〜120ATDC°CAの範囲内(図12(b)に示す範囲R内)に停止させれば好適である。以下、この範囲を適正範囲Rと称する。
膨張行程気筒のピストン13を適正範囲R内に停止させる制御の具体的手法は種々あるが、当実施形態の停止再始動制御手段2aは、後述するように主にスロットル弁23の開度を調節することによって吸気流量を増減させる制御を行っている。
図13は、エンジンを自動停止させる際のタイムチャートである。横軸に時間t(s)、縦軸にエンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度Nt(rpm)それぞれ示す。この図に示すエンジン回転速度特性150およびタービン回転速度特性151を参照して停止再始動制御手段2aによるエンジン停止/再始動制御の概要を説明する。エンジン停止/再始動制御の主目的は、まずアイドルストップ条件(エンジンの自動停止条件)成立時点t0の後、時点t3で燃料供給を停止(F/C)し、エンジン完全停止時点t10における膨張行程気筒のピストン停止位置を適正範囲R内に導くことにある(自動停止制御)。そして、その後アクセルオン等の再始動要求があり、再始動条件が成立したとき(時点t11)には少なくともその膨張行程気筒で燃焼を行わせ、速やかかつ円滑にエンジンを再始動させることにある(エンジン回転速度特性156)。また、時点t0から時点t10までの間に再始動要求があったときには、可及的速やかにエンジンを再始動させることにある(例えばエンジン回転速度特性155)。この制御の詳細については、フローチャートを参照しつつ後に後述する。
図14は、特にエンジンの自動停止制御について詳細に示すタイムチャートである。横軸に時間t(s)、縦軸にエンジン回転速度Ne(rpm)、スロットル開度K(%)、ブースト圧(吸気圧力)Bt(mmHg)および各気筒12A〜12Dにおける行程の推移をそれぞれ示す。なお、図14ではエンジンの完全停止時(時点t10)に膨張行程にある気筒は気筒12Aとなっている。以下便宜上、気筒12Aを膨張行程気筒12Aと想定して説明を進める。他の気筒も同様に圧縮行程気筒12C、吸気行程気筒12Dおよび排気行程気筒12Bと称する。
時点t0でアイドルストップ条件が成立すると、停止再始動制御手段2aは、所定の処理(詳細は後述する)を実行後、F/C前制御を行う。F/C前制御では、F/C(燃料停止)の事前動作を行う。すなわち、エンジン回転速度Neの目標回転速度をN1(例えばN1=860rpm)に設定する。次にスロットル開度Kを調節して、ブースト圧Btを所定の目標値(たとえば−400ないし―600mmHg)となるように導く。それと併行して、エンジン回転速度Neが上昇し過ぎないように点火時期のリタード(遅角)を行う。リタード量は、エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束するようにフィードバック制御される。
エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束し、ブースト圧Btが上記目標値に収束すると、F/C条件が成立したとされ、スロットル開度Kが例えば30%程度に増大されるとともに燃料噴射が停止(F/C)される(時点t3)。
時点t3で燃料噴射が停止されると、クランク軸3等が有する運動エネルギーが摩擦抵抗による機械的な損失や、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランク軸3は惰性で数回転し、4気筒4サイクルのエンジンでは10回前後の圧縮上死点を迎えた後に停止する。
このピストン13の停止位置は、エンジン完全停止直前の膨張行程気筒12A内の空気量と圧縮行程気筒12C内の空気量とのバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦抵抗等の影響を受け、最後の圧縮上死点を超えた時点t6におけるエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度N6の高低によっても変化する。
したがって、膨張行程気筒12Aのピストン13を適正範囲R内に停止させるためには、まず膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cに充分な空気を供給しつつ、膨張行程気筒12Aの空気量が圧縮行程気筒12Cの空気量よりも多くなるように、両気筒12A,12Cに対する吸気流量を調節する必要がある。
このために、当実施形態では、燃料供給停止時点t3でスロットル開度Kを大きな値(例えば全開時の30%程度の開度)に設定することによりブースト圧Btを高め、膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの両方に所定量の空気を吸入させた後、エンジンの回転速度Neが予め設定された基準速度N2(例えば790rpm程度)以下に低下したことが確認された時点t5で、スロットル開度Kを低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ところで、エンジンの回転速度Neが目標回転速度N1となった時点t3で燃料噴射を停止し、その後の所定期間に亘りスロットル弁23を開弁状態に維持するようにして、惰性により回転するエンジンの各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度neを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒12Aのピストン位置を調べると、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度neが、図15にハッチングで示すような所定の範囲内にあるとき、上記ピストン13の停止位置が適正範囲R内に入ることが実験的に確かめられている。
従って、最終的に膨張行程気筒12Aのピストン13を適正範囲R内に停止させるためには、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における各上死点回転速度neが、図15にハッチングで示すような所定の範囲内に逐次入るようにエンジン回転速度Neを低下させて行けば良い。そのような精緻な制御を行うには、クランク軸3に作用する外部からの影響を可及的に排除することが望ましい。
そこで当実施形態では、燃料供給停止時点t3に先立ち、自動変速機50をドライブ状態Dからニュートラル状態N(特定モードM)に切替えることにより、エンジン停止制御における駆動輪側からの影響を実質的に遮断するようにしているのである。こうすることによって、エンジン停止制御におけるピストン停止位置精度を高めることができ、再始動性を向上させることができる。また、車両走行中であってもピストンを精度良く適正範囲内に停止させることができるようになるので、エンジンの自動停止を行う機会が拡大し、燃費低減およびCO2排出量の削減が促進される。
また、各上死点回転速度neが、図15にハッチングで示すような所定の範囲内に逐次入るようにクランク軸3に作用する負荷を適宜調節するようにしている。すなわち、オルタネータ28の発電量を、適宜増減させることにより、クランク軸3に作用する負荷を調節している。
燃料噴射停止時点t3以降、停止再始動制御手段2aはエンジン回転速度Neの低下に伴い、各上死点回転速度neを読み取って行く。そして上死点回転速度neが所定の最終TDC判定閾値N6(例えばN6=260rpmに設定される)より低くなった時点t6で、それが最後の圧縮上死点(最終TDC。当実施形態では膨張行程気筒12Aにおける圧縮上死点)であると判定する。時点t6以降は、各気筒12A〜12D内でピストン13は移動するが、上死点TDC或いは下死点BDCを越えて次の行程に移行することはない。
また後述のフローチャートでは省略しているが、時点t6以降、図示のように再びスロットル開度Kを増大させても良い。こうすることにより、ブースト圧Btが上昇するので、吸気行程気筒12Dでの吸気抵抗が低減され、クランク軸3の負荷が削減される。従って、膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cにおけるピストン13の作動がより滑らかになり、狙いの適正範囲R内に停止させ易くなる。上述のように時点t6以降は各気筒12A〜12Dにおける行程の推移がないので、膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cで吸気弁19が開くことがない。従って、ブースト圧Btが上昇しても、既に膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cにバランス良く配分された空気量に変化はない。
時点t6以降、ピストン13が同一行程内で何回か振動した後、時点t10において完全に停止する。その停止直前から停止までのピストン13の動作をクランク角センサ30,31で検出することにより、停止再始動制御手段2aがピストン13の停止位置を検出する。
図16は、ピストン停止位置の検出制御動作を示すフローチャートである。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS1)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1,CA2の位相の関係が、図17(a)のようになるか、それとも図17(b)のようになるかを判定してエンジンが正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転時には、図17(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図17(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS1の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS2)、ステップS1の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS3)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS4)。
次に、停止再始動制御手段2aによるエンジン停止/再始動制御について、自動変速機50の動作も含めつつ、またエンジンが完全停止する前に再始動要求があった場合も含めつつ、フローチャートを参照して詳細に説明する。
図18は、停止再始動制御手段2aによるエンジン停止/再始動制御を含む概略メインフローチャートである。
この制御動作がスタートすると、通常制御の実行中に、各種センサ類から出力された検出信号に基づいてエンジンのアイドルストップ条件(自動停止条件)が成立したか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、アクセルOFF、ブレーキON、車速19km/h以下(停止状態を含む)、ステアリングの舵角が所定値以下、ウインカー非作動、バッテリー電圧所定値以上、エンジンルーム内(バッテリー付近)の温度10℃以上、ATF(自動変速機50の作動油)温度40℃以上、等の条件が全て満たされたときにアイドルストップ条件が成立する。
ステップS6でYESと判定されると、ステップS7に移行し、エンジン停止/再始動制御を実行する。この制御の詳細は後述するが、簡潔に記すと、エンジン運転を継続させるための燃料供給を停止してエンジンを自動的に停止させ(エンジン自動停止制御)、自動停止状態にあるエンジンの再始動条件が成立したときに、少なくとも膨張行程気筒12Aで燃焼を行わせて自動的に再始動させる制御である。エンジン停止/再始動制御の実行後、ステップS8に移行して通常制御に戻る。遡ってステップS6でNOと判定されると、そのままリターンして通常制御を継続する。
図19〜図21は、図18のステップS7におけるエンジン停止/再始動制御を示すサブルーチンである。以下の説明で、上記エンジン自動停止制御の説明と重複する箇所は適宜省略して記す。また時点t0や時点t1等という場合の時点は、図13及び図14に示す各時点に対応するものである。
なお説明を簡潔にするため、アイドルストップ条件成立時、自動変速機50は第1速状態にあるものとする。
アイドルストップ条件が成立し、このサブルーチンが開始すると(時点t0)、停止再始動制御手段2aは、まず自動変速機50を特定モードMに移行させる。すなわちまず2−4ブレーキ締結指令を発するとともに、タイマーtm1をリセットする(ステップS11)。その後、再始動要求の有無を判定する。詳しくは、所定の再始動条件(例えばアクセルON、ブレーキOFF、バッテリー電圧が所定値以下等のうちの少なくとも1つ)が成立した場合に再始動要求ありと判定する。
ステップS13でNOと判定され、再始動要求のない場合は、ステップS15でタイマーtm1が所定期間t50(例えばt50=0.3sに設定される)を越えたか否かが判定される。ステップS15でNOのときはステップS13に戻るが、YESのとき、すなわち2−4ブレーキ締結指令から所定期間t50が経過した場合は停止再始動制御手段2aが自動変速機50にフォワードクラッチ解放指令を発する(時点t1)。これを受けてフォワードクラッチ67が解放される(時点t2)。フォワードクラッチ67が開放されると図13に示すようにタービン回転速度Ntが上昇する(エンジン回転速度Neに近づく)。上記所定値t50は、2−4ブレーキ70が完全に締結してからフォワードクラッチ67が完全に解放されるように適宜設定される時間差である。
こうして自動変速機50は、フォワードクラッチ67が解放され、2−4ブレーキ70が締結された特定モードMとなる。上述したように、特定モードMでは自動変速機50はニュートラル状態となっているので、時点t2以降、駆動輪側からエンジンへの外乱が実質的に遮断される。従って安定したエンジンの自動停止制御を行うことができる。
次に、ステップS19でステップS13と同様に再始動要求があるか否かが判定され、NOの場合、F/C前制御に移行する(ステップS21)。F/C前制御では、上述したF/C(燃料停止)の事前動作を行う。すなわち、エンジン回転速度Neの目標回転速度をN1に設定する。次にスロットル開度Kを調節して、ブースト圧Btを所定の目標値となるように導く。それと併行して、点火時期のリタードを行う。
エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束し、ブースト圧Btが上記目標値に収束したとき、F/C条件が成立したと判定される(ステップS23でYES。時点t3)。F/C条件が成立すると、上述したようにスロットル開度Kが増大される(ステップS25)とともに燃料噴射が停止(F/C)される(ステップS27)。
次にステップS29でステップS13と同様に再始動要求があるか否かが判定される。ここでYESの場合、自然逆転復帰フラグF1に1が入力される(自然逆転復帰フラグF1のデフォルト値は0)。自然逆転復帰とは、上述したようにエンジンが停止直前に逆転することを利用し、その逆転から正転に転じる勢い(慣性)を利用して円滑な再始動を行わせる動作である(図13のエンジン回転速度特性155参照)。自然逆転復帰フラグF1に1が入力されると、一部の例外を除いて後の再始動時に自然逆転復帰が行われる。
ステップS29またはステップS31の次に、エンジン回転速度Neが予め790rpm程度に設定された基準速度N2以下となったか否かを判定する(ステップS33)。そしてステップS33でYESと判定された時点(時点t5)でスロットル弁23の開度を低減する(ステップS35)。
次に、エンジン回転速度Neが予め750rpm程度に設定されたN→D回転速度N3以下となったか否かを判定する(ステップS37)。ステップS37でYESと判定された時点(時点t4)で停止再始動制御手段2aは特定クラッチ締結制御を実行する。つまり特定モードMとなっている自動変速機50にフォワードクラッチ締結指令を発し(ステップS39)、フォワードクラッチ67を締結させる。
こうして特定クラッチ締結制御が実行され、フォワードクラッチ67の締結動作が開始する。特定クラッチ締結制御では、フォワードクラッチ67の実質的な締結開始時期(実際に伝達トルクが発生する時期。時点t7)を最終TDC通過時点t6以降とし、かつ締結が完了する時期を初回の逆転中(時点t8からt9の間)とすることを目標とする。上記N→D回転速度N3は、フォワードクラッチ67の締結経過が上記目標に合致すべく予め実験等により求められる設定値である。なお、フォワードクラッチ67の締結に要する時間はATF温度によって多少変化するので、油温センサ等によってATF温度を検知し、その温度に応じて適宜N→D回転速度N3を調節するようにしても良い。
特定クラッチ締結制御によってフォワードクラッチ67を締結させると、自動変速機50はニュートラル状態からドライブ状態となる(当実施形態の場合、第2速状態となる)。しかし、これが通常のN→D切替えと異なる点は、自動変速機50が特定モードMにある状態でフォワードクラッチ67が締結される点である。上述したように、自動変速機50が特定モードMにある状態でフォワードクラッチ67を締結すると、フォワードクラッチ67で吸収すべきエネルギーが低減されるので、締結時間を短縮することができ、迅速な再始動に有利となる。またN→D切替え時のトルク変動(N−Dショック)も抑制される。
またフォワードクラッチ67の実質的な締結開始時期を最終TDC通過時点t6以降とすれば、エンジン自動停止制御において外乱を遮断することが特に望ましい領域(時点t6以前)において自動変速機50をニュートラル状態とすることができ、より安定的なエンジン自動停止制御を行うことができる。
フローチャートに戻り、ステップS39の次に、所定回転速度N4>エンジン回転速度Ne>所定回転速度N5であるか否かの判定がなされる(ステップS41,S43)。例えば所定回転速度N4=650rpm、所定回転速度N5=400rpmに設定される。所定回転速度N4>エンジン回転速度Ne>所定回転速度N5であるとき(ステップS41でYESかつステップS43でNOのとき)、停止再始動制御手段2aはオルタネータ制御を実行する(ステップS45)。
オルタネータ制御は、停止再始動制御手段2aが、レギュレータ回路28aを介してオルタネータ28の発電量を適宜増減させるものである。これによってクランク軸3にかかる負荷が増減するので、エンジン回転速度Neの回転速度の低下度合を調節することができる。すなわち、予め設定されたエンジン回転速度Neの低下パターン(目標値)に沿ってエンジン回転速度Neが低下するようにオルタネータ28の発電量を増減するのである。こうすることでピストン13が適正範囲R内に停止する確率を高めることができる。
そして、ステップS43でYES、つまりエンジン回転速度Ne<所定回転速度N5となるとオルタネータ制御を終了させる。
次にステップS47で自然逆転復帰タイミングより前であるか否かの判定がなされる。自然逆転復帰タイミングとは、上述の自然逆転復帰の可否を判定するタイミングであり、可能である場合、自然逆転復帰を行わせるタイミングのことである。当実施形態では、自然逆転復帰タイミングを、エンジンが停止直前の初回の逆転を完了した時点、すなわち初回逆転終了時点t9乃至はその直前としている。
ステップS47でYES、すなわち自然逆転復帰タイミングより前の場合は、ステップS29に戻り、ステップS29からステップS47の処理を繰り返す。同様に、ステップS33でNOの場合、ステップS37でNOの場合、ステップS41でNOの場合およびステップS43でNOの場合(オルタネータ制御実行中)も同様にステップS29に戻って各処理を繰り返す。その間に再始動要求があった場合、ステップS31において自然逆転復帰フラグF1に1が入力される。
ステップS47でNOと判定されたとき、すなわち自然逆転復帰タイミングt9となったときには、ステップS51において、自然逆転復帰フラグF1の判定がなされる。自然逆転復帰フラグF1≠1の場合(ステップS51でNO)、この時点で未だ再始動要求がないので、自然逆転復帰を行わない。
そしてステップS53でフォワードクラッチ67の締結が完了しているか否かの判定が行われる。具体的には、タービン回転速度Ntが、車速と変速段に対応した値となっている場合にフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定する。上述したように、特定クラッチ締結制御によってフォワードクラッチ67を締結させると自動変速機50は第2速状態となる。タービン回転速度Ntは、車速に比例し、その比例定数はタイヤ半径や第2速のギヤ比等から一義的に決まる。従って停止再始動制御手段2aは、タービン回転速度Ntが車速に対応する値になったことを以ってフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定することができる。当実施形態では、車速0km/h(停止状態)ではタービン回転速度Nt=0rpm、車速10km/hではタービン回転速度Nt≒560rpmとなったときにフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定する。
なお、このような判定が困難である場合には、他の方法、例えばフォワードクラッチ締結指令が発せられてから所定期間(例えば0.4s)が経過したことを以ってフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定しても良い。
このフォワードクラッチ67の締結完了判定方法は、後述する他のステップ(ステップS73,S85,S87)にも共通するものである。
フォワードクラッチ67の締結が完了(ステップS53でYES)していれば直ちに、未完(ステップS53でNO)であれば完了するのを待って、2−4ブレーキ解放指令を発して2−4ブレーキ70を解放させる(ステップS55)。2−4ブレーキ70の解放が完了すると自動変速機50はフォワードクラッチ67のみが締結する第1速状態となる。
ステップS55の後、エンジンが完全に停止するのを待ち(ステップS57でYES)、さらに再始動要求があるまで待機し、再始動要求のあった時点(ステップS59でYES)で完全停止後の再始動制御を実行する(図13のエンジン回転速度特性156参照)。
ここで、完全停止後の再始動制御について、図22および図23のタイムチャートに基づいて説明する。なお、エンジンの再始動制御はこれに限定するものではなく、その他の公知の再始動制御であってもよい。
図22および図23に示すように、先ず圧縮行程気筒12C(第3気筒)において1回目の燃料噴射J2が行われ、その点火によって燃焼(図22中の(1))が行われる。この燃焼(1)による燃焼圧(図23中のa部分)で、圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動される。
上記エンジンの逆転作動に伴って停止時膨張行程気筒12A(第1気筒)のピストン13が上死点方向に動き始める。そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点側(望ましくは行程中央より上死点寄り)に移動し、膨張行程気筒12A内の空気が圧縮された時点で燃料噴射J1が行われる。この噴射燃料の気化潜熱によって圧縮圧力が低減し、ピストン13がより上死点に近付くので圧縮空気(混合気)の密度が増大する(図23中のb部分)。
上記膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近づいた時点で当該膨脹行程気筒12Aに対する点火が行われて、上記噴射燃料(J1)が燃焼し(図22中の(2))、その燃焼圧(図23中のc部分)によりエンジンが正転方向に駆動される。
また、圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで可燃空燃比よりもリッチな燃料が噴射(J3)されることにより(図22中の(3))、この圧縮行程気筒12Cでは燃焼させないものの、燃料噴射による気化潜熱によって当該圧縮行程気筒12Cの圧縮圧力が低減され(図23中のd部分)、これに応じて当該圧縮上死点(始動開始から最初の圧縮上死点)を超えるために消費される膨張行程気筒12Aの最初の燃焼エネルギーが低減されることになる。
さらに、次の燃焼気筒である吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射(J4)の時期を、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(図22中の(4)に示すように、例えば圧縮行程の中期以降)に設定しているため、上記吸気行程気筒12Dの圧縮行程で圧縮上死点前に自着火することが防止される。また、上記吸気行程気筒12Dの点火時期が圧縮上死点以降に設定されていることも相俟って、圧縮上死点前での燃焼が防止される(図23中のe部分)。つまり燃料噴射(J4)による圧縮圧力の低減と圧縮上死点前の燃焼を行わないことにより、膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーが上記圧縮上死点(エンジン始動開始時点から2番目の圧縮上死点)を超えるために消費されるのを抑制することができる。
このようにして膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼(図22中の(2))のエネルギーにより、再始動開始後の最初の圧縮上死点(図22中の(3))と、2番目の圧縮上死点(図22中の(4))とを超えることが可能となり、円滑で確実な始動性を確保することができ、これ以降、通常運転に移行する。
図19〜図21のフローチャートに戻って説明を続ける。上記の流れでは、エンジンが完全に停止するまでは再始動要求がなく、完全停止後の再始動要求に基づいてエンジンを再始動させているが、次に、エンジンが完全に停止する前に再始動要求のあった場合の制御について説明する。
まず、ステップS13において再始動要求ありと判定された場合について説明する。これは図13の区間161で再始動要求があった場合に相当する。この場合、具体的な動作としては2−4ブレーキ70の締結を開始させたばかりなので、ただちにこれを中止し、通常制御に戻すようにする。
すなわち、まず停止再始動制御手段2aは2−4ブレーキ解放指令を発するとともにタイマーtm2をリセットする(ステップS75)。そしてタイマーtm2によって所定期間t55(例えば所定期間t55=0.2sに設定される。)の経過を確認後(ステップS77でYES)、エンジン停止/再始動制御を終了し(ステップS79)、リターンする。すなわち通常制御に移行する。なお所定期間t55は、2−4ブレーキ70が解放するに足る時間であって、予め実験等によって適宜求められ、設定されている値である。
次に、ステップS19において再始動要求ありと判定された場合について説明する。これは図13の区間162で再始動要求があった場合に相当する。この場合、具体的な動作としては2−4ブレーキ70の締結を開始させ、フォワードクラッチ67の解放を開始させたばかりなので、ただちにこれらを中止し、通常制御に戻すようにする。
すなわち、停止再始動制御手段2aはフォワードクラッチ締結指令を発し(ステップS71)、フォワードクラッチ67を締結させる。そしてフォワードクラッチ67の締結を待って(ステップS73でYES)、ステップS75に移行する。ステップS75以降は上記ステップS13において再始動要求ありと判定された場合と同様である。
次に、ステップS29において再始動要求ありと判定された場合について説明する。これは図13の区間163で再始動要求があった場合に相当する。この場合、直ちに再始動動作に移行せず、少なくとも自然逆転復帰タイミングt9まで待機する。そしてステップS85にてフォワードクラッチ67の締結が完了しているか否かが判定される。上述したように、停止再始動制御手段2aはフォワードクラッチ67が時点t8から時点t9の間に締結を完了するようなタイミングでフォワードクラッチ締結指令を発している(ステップS39)。従って殆どの場合、ステップS85ではYESと判定される。
ステップS85でYESと判定されると、停止再始動制御手段2aは2−4ブレーキ解放指令を発するとともに(ステップS95。自動変速機50では2−1変速が開始する)、自然逆転復帰制御を実行する(ステップS97)。自然逆転復帰制御は、上述の自然逆転復帰を行うための制御である。時点t8から時点t9の間、つまりエンジンが逆転している間は、膨張行程気筒12Aのピストン13が上昇し、筒内空気は圧縮される。そして時点t9においてエンジンが逆転から正転に転じる。つまり膨張行程気筒12Aにおいてピストン13が降下し始める。そのタイミングを捉え、燃料噴射弁16から燃料を噴射し(或いは事前に噴射し、気化、霧化を予め促進させておいても良い)、点火プラグ15で点火させる。こうして膨張行程気筒12Aで燃焼を行わせることにより、逆転から正転に転じる勢い(慣性)に燃焼圧力が加わり、ピストン13が大きな力で勢い良く降下する。こうして容易且つ安定的な再始動が行われる。
このように時点t9において自然逆転復帰を行わせることにより、エンジンの完全停止(時点t10)を待ってから再始動させる場合に比べ、より迅速な再始動を行うことができる。
本願発明者は、当実施形態で自然逆転復帰を行わせた場合の、燃料停止時点t3から再始動および自動変速機50の2→1変速完了までの最長ケースが0.85sであったことを確認している。これは実用上充分な短時間であり、プリチャージ制御を伴わない比較的簡単な制御であることを考慮すると、この自然逆転復帰制御は格段に実用性の高いものとなっている。
なお、バラツキその他の要因により、時点t9においてフォワードクラッチ67の締結が完了していない(ステップS85でNO)場合が想定される。そのような場合は無理に自然逆転復帰させず、フォワードクラッチ67の締結完了を待って(ステップS87でYES)2−4ブレーキ解放指令を発する(ステップS89)。そしてエンジンの完全停止を待って(ステップS91でYES)、完全停止後の再始動制御を実行する(ステップS61)。こうすることにより、フォワードクラッチ67の締結が不完全な状態で発進や加速を行って運転者に違和感を与えたり、フォワードクラッチ67にダメージを与えたりすることを効果的に防止することができる。
以上、アイドルストップ条件成立時に自動変速機50が第1速状態にある場合のエンジン停止/再始動制御について説明したが、アイドルストップ条件成立時に自動変速機50が第2速状態にあるときも、基本的には上述のエンジン停止/再始動制御と同様である。但し、第2速では既に2−4ブレーキ70が締結しているので、アイドルストップ条件成立直後の特定モードMへの移行に際し、2−4ブレーキ70の締結が省略される。すなわちステップS11〜ステップS15が省略される。従って、容易かつ迅速に特定モードMへの移行を図ることができる。
またアイドルストップ条件成立時ないしは成立が予測される時に自動変速機50が第3速状態にある場合、上述したように通常の減速走行時には行われない第3速→第2速の変速が行われる(図6参照)。こうすることにより、その後、2−4ブレーキ70の締結状態を継続し、フォワードクラッチ67を解放するだけで円滑な特定モードMへの移行を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。その変形例を以下に説明する。
(1)上記実施形態における完全停止後の再始動制御では、エンジン再始動時にエンジンをいったん逆転作動させてから正転作動させるものとなされているが、正転作動だけで再始動させるものであってもよい。ただし、エンジンをいったん逆転作動させると、停止時膨張行程気筒12Aの燃焼エネルギーが高まることから、より確実にエンジンを再始動させることができる。
(2)上記実施形態では、エンジンを再始動させる際、少なくとも再始動条件が成立してから膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cに燃料を供給しているが、再始動条件が成立する前に予め燃料を供給しておいても良い。例えばエンジン自動停止動作中の、停止直前の吸気行程で燃料を噴射しておいても良い。こうすると再始動時までに気化霧化が促進される。再始動時時にはその混合気中で点火プラグ15に点火させるだけで迅速且つ良好な燃焼を行わせることができる。
(3)上記実施形態では自動変速機50として4段変速式の自動変速機を挙げたが、3段あるいは5段以上の自動変速機であっても良い。また遊星ギヤ機構の入力要素、固定要素、出力要素の組合わせについても上記実施形態に限定するものではない。
(4)上記実施形態では省略しているが、エンジン再始動時であって所定の条件成立時、例えばピストン停止位置が所定の適正範囲内にない場合や、適正範囲内にある場合でもその停止位置が適正範囲の境界に近い場合、或いは始動後の所定時期までにエンジン回転速度が所定値に達しない場合、さらにエンジンを逆転作動させることなく、エンジンの初回燃焼を停止時膨張行程で行う場合等に、始動モータ等(スタータとオルタネータとを統合したモータ(ISG:Integrated Starter Generator)を含む)によるアシストを伴う制御を行うようにしてもよい。この場合でもエンジンの燃焼によるエネルギーによってスタータモータの負担を軽減することができる。ただし、この場合には、各気筒内へ直接、噴射される燃料の気化霧化及び空気との混合が十分に進むように、燃料噴射弁16により吸気行程で燃料を噴射させるようにするのが好ましい。
(5)上記実施形態では、燃料噴射弁16について筒内噴射型のものを採用しているが、ポート噴射型の燃料噴射弁を採用する場合にも適用することができる。