以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1および図2は本発明の一実施形態にかかる4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2(図9参照)とを備え、エンジン本体1には、複数の気筒(図示の実施形態では4つの気筒)12A〜12Dが設けられている。各気筒12A〜12Dにはコンロッドを介してクランク軸3に連結されたピストン13が嵌挿され、ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。
各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には点火プラグ15が装備され、そのプラグ先端が燃焼室14内に臨んでいる。さらに、燃焼室14の側方部には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図略のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ15付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁16の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁16には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの燃焼室14に対して吸気ポート17および排気ポート18が開口し、これらのポート17,18に吸気弁19および排気弁20が装備されている。これら吸気弁19および排気弁20は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、後に詳述するように各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒12A〜12Dの吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23からなる吸気流量調節手段が配設されている。このスロットル弁23の上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26とが配設されている。
上記エンジン本体1には、図1に示すように、クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。また、上記エンジン本体1には、カムシャフトの特定回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32と、エンジン本体1の冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられている。そして、上記各センサ25,26,30〜33から出力される検出信号は、図9に示すように、それぞれECU2に入力される。
上記ECU2には、エンジン以外の各機器に設けられたセンサ類からも各種検出信号が入力されるようになっている。具体的に、ECU2には、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセルセンサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35と、後述する自動変速機50の油温を検出する油温センサ37と、同じく自動変速機50のタービン55の回転速度を検出するタービン用回転センサ36(詳細は後述する)と、車速を検出する車速センサ38とから、それぞれ検出信号が入力されるようになっている。
再び図1に戻って、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節可能に構成され、ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流の制御が実行されるように構成されている。
上記のように構成されたエンジンは、図3に示すように、その出力軸であるクランク軸3を通じて自動変速機50に接続されている。この自動変速機50は、クランク軸3に連結されたトルクコンバータ51と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59(本発明に係る入力軸に相当)に連結された多段変速機構52とを備え、これらに含まれる複数の摩擦要素を断続させることにより、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態と、車輪側への駆動力の伝達が可能なドライブ状態との間で変位可能に構成されている。
上記トルクコンバータ51は、クランク軸3に連結されたポンプカバー53と、このポンプカバー53に一体に形成されたポンプインペラ54と、これに対向するように設置されたタービン(タービンライナ)55と、その間でワンウェイクラッチ56を介してケース57に取付けられたステータ58とを備えている。上記ポンプカバー53内の空間には、作動流体としてのオイル(作動油。ATFともいう)が充満され、ポンプインペラ54の駆動力がこのATFを介してタービン55に伝達されるようになっている。そして、このタービン55に連結された上記タービンシャフト59を介して、当該タービン55に伝達された駆動力が多段変速機構52側に伝達されるようになっている。
上記ケース57には、このタービン55の回転速度を検出するタービン用回転センサ36が、タービンシャフト59と一体的に回転するフォワードクラッチ67(本発明に係るクラッチ手段に相当。詳細は後述する)の外周面に対向した状態で設けられている。具体的にこのタービン用回転センサ36は、先端部がフォワードクラッチ67のドラムの外周面に対向して配置され、ドラム外周面に設けられたスプライン状の凹凸がドラムの回転によって変位することによって生じる誘導電圧の周期的変化を検知することにより、上記タービンシャフト59の回転速度を通じてタービン55の回転速度を検出するように構成されている。
上記ポンプインペラ54には中空回転シャフト60が連結され、このシャフト60の後端部(エンジン本体1側と反対側の端部)にオイルポンプ61が取付けられている。ケース57内にはこのオイルポンプ61とは別に電動オイルポンプ62(図7参照)が設けられ、これらの各オイルポンプ61,62が後述する油圧制御機構63に接続されている。そして、ECU2により、これらのオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間で切り換え制御が行われるとともに油圧制御機構63の油路(流体路)の切り換えやライン圧の設定等の制御が行われ、油圧制御(作動流体の圧力制御)により後述する摩擦要素67〜71を断続(締結、解放)させるように構成されている。
ここで、オイルポンプ61とは別に電動オイルポンプ62を設けているのは、エンジンの停止時や始動初期にエンジン回転速度が十分でないために、オイルポンプ61によっては所望のライン圧を供給し難い場合に、ライン圧を確保するためであり、この観点からオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との切り換えのタイミングが設定されている。
上記トルクコンバータ51には、更に上記ポンプカバー53とタービン55との間に介設され、該カバー53を介してクランク軸3とタービン55とを直結するロックアップクラッチ64が設けられている。このロックアップクラッチ64は、図7に示す油圧制御機構63を介して上記オイルポンプ61および電動オイルポンプ62に接続されている。そして、この油圧制御機構63に設けられた各種ソレノイドバルブが、車速に応じてECU2(図9参照)から出力される信号に基づいてオン・オフ制御されることにより、油路が切り換えられてロックアップクラッチ64が断続されるようになっている。
一方、上記多段変速機構52は、第1および第2遊星ギヤ機構65,66と、この遊星ギヤ機構65,66を含む動力伝達経路を切り換える締結要素(クラッチやブレーキ等の複数の摩擦要素67〜71およびワンウェイクラッチ72)とを備え、シフトレンジ(Dレンジ、Nレンジ、Rレンジ等)に応じ、これらの締結要素67〜72を断続して前進速、ニュートラル状態、後退速を切り換えるように構成されている。
なお、ここで言うNレンジ、Dレンジ等とは、必ずしも変速レバーによるシフト操作位置を示すのではなく、各ソレノイドバルブが制御された実質的な変速機の状態を言う。例えば、変速レバーによるシフト操作位置がDレンジポジションのままでも、各ソレノイドバルブの制御によって自動変速機50がNレンジ(ニュートラル)状態であれば、実質的なシフトレンジはNレンジである。
上記第1および第2遊星ギヤ機構65,66は、それぞれ、サンギヤ65a(本発明に係る第1回転要素に相当),サンギヤ66aと、これらのサンギヤ65a,66aの周りに配置されこれらに噛合する複数個(例えば3個)の遊星ギヤ65b,66bと、これらの遊星ギヤ65b,66bを支持するキャリヤ65c,66cと、遊星ギヤ65b,66bの周りを取り囲むように配置されこれらの噛合するリングギヤ65d,66dとを備えており、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65dと第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとが連結されるとともに、第1遊星ギヤ機構65のキャリヤ65cと第2遊星ギヤ機構66のリングギヤ66dとが連結されることにより、各遊星ギヤ機構65,66が連動し得るようになっている。
上記多段変速機構52の各摩擦要素は、上記タービンシャフト59および第1遊星ギヤ機構65のサンギヤ65aの間に介在するフォワードクラッチ67と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aとの間に介在するリバースクラッチ68と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとの間に介在する3−4クラッチ69と、第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aを固定する2−4ブレーキ70と、これらの遊星ギヤ機構65,66とケース57との間に並列的に介在するローリバースブレーキ71等とから構成されている。また、上記ワンウェイクラッチ72は、キャリヤ65cおよびリングギヤ65dの一方向(クランク軸3の駆動方向)への回転のみを許容し(アンロック)、逆方向への回転は規制(ロック)するように構成されている。これら締結要素67〜72は断続可能に構成されており、それによって出力ギヤ73に繋がる動力伝達経路が変更ないし断絶されるようになっている。
そして、この出力ギヤ73が回転することにより、駆動力が車輪側、すなわち伝動ギヤ74,75,76および差動機構77を介して、左右の車軸78,79に伝達されるようになっている。車軸78,79は、図外の車輪(駆動輪)と一体回転するように構成されている。
これらの締結要素67〜72の断続状態と変速段との関係を図4に示す。この図4において、○印は各締結要素67〜72が締結またはロックされた状態を示し、無印はこれらが解放またはアンロックされた状態を示している。従って、Rレンジでは、リバースクラッチ68とローリバースブレーキ71が締結され、Nレンジ(ニュートラルレンジ)では、全ての締結要素67〜72が解放/アンロックされている。また、Dレンジ(ドライブレンジ)の第1速段ではフォワードクラッチ67が締結されるとともにワンウェイクラッチ72がロック状態とされ、第2速段ではフォワードクラッチ67および2−4ブレーキ70が締結されるとともに、第3速段ではフォワードクラッチ67および3−4クラッチ69が締結され、第4速段では3−4クラッチ69および2−4ブレーキ70が締結されている。
図5は、Dレンジ第1速における自動変速機50の駆動力伝達経路および各部の回転方向を示す模式図である。この図において、左手前側から見て左回転を正転方向、右回転を逆転方向とする。エンジンが通常の運転状態にあるとき、タービンシャフト59は正転方向に回転する。また車両が前進状態にあるとき、伝動ギヤ76は車軸78,79と一体となって正転方向に回転する。
図5に示すDレンジ第1速のとき、タービンシャフト59が正転方向に回転しつつ、その回転と駆動力がフォワードクラッチ67を介してサンギヤ65aに伝達される。さらにそれが遊星ギヤ65bに伝達され、この遊星ギヤ65bは逆転方向に回転する。ここで、ワンウェイクラッチ72がロックすることによってリングギヤ65dの逆転方向の回転が規制されているので、遊星ギヤ65bは、その支持軸(キャリヤ65c)を中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。つまりキャリヤ65cが正転方向に回転する。このキャリヤ65cの正転方向の回転と駆動力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76に伝達される。以下図3に示すように差動機構77を介して車軸78,79へと伝達される。
一方、キャリヤ65cは、リングギヤ66dと連結されているので、リングギヤ66dは正転方向に回転する。またキャリヤ66cはリングギヤ65dと連結されており、リングギヤ65dがワンウェイクラッチ72のロックによって停止しているので、キャリヤ66cも停止する。したがって、遊星ギヤ66bは正転方向に回転する。そして遊星ギヤ66bに噛合するサンギヤ66aは逆転方向に回転する。
図6は、Dレンジ第2速における自動変速機50の駆動力伝達経路および各部の回転方向を示す模式図である。回転方向の定義は図5に準ずる。
このDレンジ第2速は、図4に示すように、フォワードクラッチ67が締結しているDレンジ第1速の状態から、さらに2−4ブレーキ70を締結させたものである。上述したように、Dレンジ第1速ではサンギヤ66aが逆転方向に回転している。この状態から2−4ブレーキ70を締結させると、サンギヤ66aが停止する。このため、遊星ギヤ66bは、その支持軸(キャリヤ66c)を中心に正転方向に回転しつつ、キャリヤ66cと一体的にサンギヤ66aの周囲を正転方向に回転する。つまり、上記第1速ではワンウェイクラッチ72によって逆転方向の回転が規制されていたために停止していたキャリヤ66cが、この第2速においては、2−4ブレーキ70の締結に伴って正転方向に回転するようになるのである(ワンウェイクラッチ72は、正転方向の回転に対してはアンロック)。
このとき、遊星ギヤ65bは、第1速と同様、キャリヤ65cを中心に逆転方向に回転しつつ、キャリヤ65cと一体的にサンギヤ65aの周囲を正転方向に回転する。但し第1速と異なり、リングギヤ65dが正転方向に回転しているので、キャリヤ65cの回転速度は第1速の場合よりも相対的に速くなる。以下第1速と同様、キャリヤ65cの正転方向の回転と駆動力が出力ギヤ73および伝動ギヤ74,75,76へと伝達される。
Dレンジ第3速、第4速における自動変速機50の各部の作動についての説明は省略するが、摩擦要素67〜71を図4に示すような組み合わせで締結、開放を行うことにより、順次高速段(タービンシャフト59の入力回転速度に対し伝動ギヤ76の回転速度が相対的に大きくなる)となっている。
上記摩擦要素67〜71は、上記ロックアップクラッチ64と同様に、油圧制御機構63(図7参照)を介してオイルポンプ61および電動オイルポンプ62に接続されている。そして、この油圧制御機構に設けられた第1および第2シフトソレノイドバルブ83,84や第1〜第3デューティーソレノイドバルブ85〜87(詳細は後述する)がECU2(図9参照)からの指令に基づいて駆動されることにより、油路・油圧等が切り換え・変更されて摩擦要素67〜71が断続されるようになっている。
具体的に、上記油圧制御機構63は、図7に示すような油圧制御回路を含み、この油圧制御回路がオイルポンプ61および電動オイルポンプ62に接続されて当該ポンプ61,62から元圧が供給される。この油圧制御機構63は、各ポンプ61,62から摩擦要素67〜71の油圧室(図示せず)に繋がるライン81(油路)と、このライン81におけるポンプ61,62の下流側近傍に配設されライン圧を調圧するレギュレータバルブ82と、ポンプ61,62に連通するラインを切り換える各種バルブをON・OFFする第1,第2シフトソレノイドバルブ83,84(以下、単に「第1,2SV」という)と、ECU2から出力されるduty値に基づいて作動圧を調圧する第1〜第3デューティーソレノイドバルブ85〜87(以下、単に「第1〜第3DSV」という)とが含まれている。なお、第1・第2SV83,84および第1〜第3DSV85〜87は、三方弁として構成されている。また、ポンプ61、62とライン81とを結ぶ油路上に、オイル供給源をオイルポンプ61と電動オイルポンプ62とに切換える切換弁91が設けられている。
そして、シフトレバーの位置に応じて、或いは自動的に、上記各種バルブを作動させて摩擦要素67〜71を断続させることにより、自動変速機50を複数段間で切り換える制御がECU2において行われるように構成されている。図8は、各ソレノイドバルブ83〜87の各変速段ごとの作動状態の組み合わせを示している。この図8で、○印は、第1・第2SV83,84についてはON,第1〜第3DSV85〜87についてはOFFであって、いずれも、上流側のラインを下流側のラインに連通させて元圧をそのまま、あるいは作動圧となして下流側に供給する状態を示し、×印は、第1・第2SV83,84についてはOFF,第1〜第3DSV85〜87についてはONであって、いずれも、上流側のラインを遮断して、下流側のラインをドレンさせた状態を示す。
例えば、自動変速機50をNレンジからDレンジ第1速に切り換える場合の油圧制御機構63の作用について説明する。この場合は、図8に示すように、第3DSV87のみが作動して、上流側のライン圧を元圧として作動圧が生成され、この作動圧がライン81bを介してロックアップコントロールバルブ88に供給される。そして、この時点では、該ロックアップコントロールバルブ88のスプールが右側に位置することにより、さらにフォワードクラッチライン81cを介してフォワードクラッチ67の油圧室にフォワードクラッチ圧(作動圧)として供給され、これにより該フォワードクラッチ67が締結される。
このように、第3DSV87を作動させて作動圧を生成し、所定の油路を通じて当該作動圧をフォワードクラッチ67に供給することによって当該フォワードクラッチ67を締結させるため、第3DSV87を作動させるための制御信号がECU2から出力されてから実際にフォワードクラッチ67が締結されるまでには、ある程度の時間を要する。このフォワードクラッチ67の締結に要する時間は、この油路内の作動油(すなわちATF)温度によって変動する性質を有しおり、このようなATF温度とフォワードクラッチ67の締結時間との関係を図18に示す。この図18に示すように、フォワードクラッチ67の締結に要する時間は、ATF温度が高いときには短く、ATF温度が低くなるほど長くなる。これは、ATFの温度が低いと、ATFの粘度が高くなって油路内の抵抗が増大し、作動圧の伝達に時間を要するようになるからである。
図9は、当実施形態のエンジン始動装置のブロック図である。ECU2は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータ等からなり、具体的には、予めROM(又はRAM)に記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって、車両の各種動作等が制御される。ECU2は、上記各センサ25,26,30〜38からの信号を受け、上記燃料噴射弁16に対して燃料噴射量および噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火プラグ15に対して点火時期制御信号を出力し、かつ、スロットル弁23のアクチュエータ24に対してはスロットル開度を制御するための制御信号を出力し、さらにオルタネータ28のレギュレータ回路28aに対して発電量を制御する信号を出力する。
また、ECU2は、上記各センサ25,26,30〜38からの信号を受け、油圧制御機構63の元圧の供給元をオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間で切り換える切換信号を切換弁91に出力するとともに、油圧制御機構63(具体的にはこれに含まれるソレノイドバルブ等)に対して各摩擦要素67〜71の作動圧を調圧する信号を出力する。
そして、ECU2は、所定のエンジン自動停止条件が成立したときに、燃料の供給を停止して自動的にエンジンを停止させるとともに、このエンジンの自動停止動作期間中、或いはエンジンの自動停止後、乗員によるアクセルやブレーキの操作等により所定のエンジン再始動条件が成立したときに、エンジンの燃焼によるエネルギーにより自動的にエンジンを再始動させる停止再始動制御手段2aを備えている。なお、当実施形態では、上記自動停止条件が複数設定されており、これらの全ての条件が満たされた時に自動的にエンジンを停止させるべく構成されている。一方、上記再始動条件も複数設定されており、その条件内容に応じて一ないし複数の条件が成立した場合にエンジンを自動的に再始動させるように構成されている。
次に、上記停止再始動制御手段2aによるエンジンの自動停止、再始動時の動作について説明する。
まず、エンジンの自動停止制御について説明する。図10は、エンジンを自動停止させる際の圧縮行程気筒と膨張行程気筒との関係を示す図である。なお、ここで言う圧縮行程気筒とは、特定の気筒を指すものではなく、気筒12A〜12Dのうちの何れかの気筒であって、エンジン停止時に圧縮行程となっている気筒、或いは圧縮行程となることになる気筒のことである。同様に膨張行程気筒とは、エンジン停止時に膨脹行程となっている気筒、或いは膨脹行程となることになる気筒のことである。
図10(a)は圧縮行程気筒および膨張行程気筒のピストン13の位置関係を示す図である。当実施形態のエンジンは4気筒4サイクルエンジンなので、本図において、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれており、ピストン13の位置および移動方向が逆位相となっている。すなわち白抜き矢印で示すように、圧縮行程気筒においてピストン13がTDC(上死点)方向に移動するとき、膨脹行程気筒ではピストン13がBDC(下死点)方向に移動する。
この動作を利用して、当実施形態では、自動停止させたエンジンを完全停止後に再始動させる際、膨張行程気筒での燃焼に先立って、圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13をいったん逆方向に、BDCを越えない程度に押し下げるようにしている(クランク軸3は一時的に逆方向に回転する)。これによって膨張行程気筒のピストン13もいったん逆方向、つまりTDC方向に移動する。そうすると膨張行程気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)が圧縮される。そこで圧縮された混合気に点火して燃焼させることにより、強い力でピストン13を反転させてBDC方向に押し下げ、クランク軸3の回転方向を逆転から正転に向かわせる。このように、エンジンをいったん逆転させてから膨張行程気筒で燃焼させることにより、単に膨張行程気筒で燃焼させるよりも強い正転方向の駆動トルクが得られ、エンジンの再始動性が向上される。
このように、再始動モータ等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンが適正に再始動するように構成されているが、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーは、全てがクランク軸3からの出力となるわけではなく、膨張行程気筒に続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるためにも消費される。従って、その消費分を差し引いてもクランク軸3に正転方向の駆動力が残っていなければならない。そのため、初期状態(エンジン停止状態)の膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。一方、圧縮行程気筒にも、最初にクランク軸3を逆転させて膨張行程気筒内の空気を圧縮させるに足る空気量を確保しておく必要がある。
図10(b)はピストン13の停止位置と各気筒内の空気量との関係を示す図である。本図において、横軸は膨張行程気筒のピストン停止位置(ATDC°CA:上死点後のクランク角)、縦軸は膨張行程気筒および圧縮行程気筒の筒内空気量を示す。何れの気筒も停止後ある程度の時間が経過しており、筒内が略大気圧となった状態での空気量である。上述のように、膨張行程気筒のピストン13と圧縮行程気筒のピストン13とは逆位相なので、一方の空気量が増大する(ピストン13がBDC方向に移動する)と他方の空気量が減少する(ピストン13がTDC方向に移動する)。
そこで、圧縮行程気筒での燃焼エネルギーをある程度確保しつつ、膨張行程気筒での大きな燃焼エネルギーを得るためには、膨張行程気筒のピストン13を、行程中央よりもややBDC寄り、例えば100〜120ATDC°CAの範囲内(図10(b)に示す範囲R内)に停止させれば好適である。以下、この範囲を適正範囲Rと称する。
上記膨張行程気筒のピストン13を適正範囲R内に停止させる制御の具体的手法は種々あるが、当実施形態では後述するように、スロットル弁23の開度を制御することによって膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの空気による圧縮反力を調整するとともに、オルタネータ28の発電量を制御してエンジンの外部負荷を調整することにより、ピストン13の停止位置を制御するようにしている。
図11は、エンジンを自動停止させる際のタイムチャートである。横軸に時間t(s)、縦軸にエンジン回転速度Ne(rpm)を示す。本図に示すエンジン回転速度特性150を参照して停止再始動制御手段2aによるエンジン停止/再始動制御の概要を説明する。エンジン停止/再始動制御の概略動作は、まずアイドルストップ条件(エンジンの自動停止条件)成立時点T0の後、時点T2で燃料供給を停止(F/C)し、エンジン完全停止時点T10における膨張行程気筒のピストン停止位置を上記適正範囲R(図10(b)参照)内に導く(自動停止制御)。そして、その後アクセルオン等の再始動要求があり、再始動条件が成立したとき(時点T11)には、少なくとも膨張行程気筒で燃焼を行わせ、速やかかつ円滑にエンジンを再始動させる(完全停止後の再始動制御。エンジン回転速度特性156)。一方、時点T0から時点T9までの間に再始動要求があったときには、エンジンが完全停止するのを待つことなく、可及的速やかにエンジンを再始動させる(自然逆転復帰制御。エンジン回転速度特性155)。なお、これらの制御の詳細については後に詳述する。
図12は、エンジンの自動停止制御の内容をさらに詳細に説明するためのタイムチャートである。横軸に時間t(s)、縦軸にエンジン回転速度Ne(rpm)、スロットル開度K(%)、ブースト圧(吸気圧力)Bt(mmHg)および各気筒12A〜12Dにおける行程の推移をそれぞれ示す。なお、図12ではエンジンの完全停止時(時点T10)に膨張行程にある気筒は気筒12Aとなっている。以下便宜上、気筒12Aを膨張行程気筒12Aと想定して説明を進める。他の気筒も同様に圧縮行程気筒12C、吸気行程気筒12Dおよび排気行程気筒12Bと称する。
時点T0でアイドルストップ条件が成立すると、停止再始動制御手段2aは、自動変速機50をDレンジ(ドライブ状態)からNレンジ(ニュートラル状態)に切り換えるべく、上記摩擦要素67〜71のうち少なくともフォワードクラッチ67を解放させる指令を出力する。ここで、「少なくともフォワードクラッチ67」としたのは、Dレンジ第1速からNレンジに切り換えるときはフォワードクラッチ67のみを解放すればよいが、例えばDレンジ第2速からNレンジに切り換える場合もあり、そのような場合には、フォワードクラッチ67だけでなく2−4ブレーキ70も解放する必要があるからである(図4参照)。そして、所定の時間差をおいてフォワードクラッチ67の解放が完了し、時点T1で自動変速機50が実質的にNレンジに切り換わる。
また、停止再始動制御手段2aは、上記フォワードクラッチ67を解放させる制御と併せて、時点T0において燃料供給停止前の事前制御(F/C前制御)を行う。このF/C前制御では、スロットル開度Kを調節して、エンジン回転速度Neを目標回転速度N1(例えばN1=860rpm)にするとともに、エンジン回転速度Neが上昇し過ぎないように点火時期のリタード(遅角)を行う。リタード量は、エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束するようにフィードバック制御される。この目標回転速度N1は、温間アイドル時のエンジン回転速度(例えば640rpm)よりも大きい値に設定されている。このように比較的高い目標回転速度N1で燃料供給を停止することにより、燃料供給停止時点T2からエンジン完全停止時点T10までの時間を相対的に長くすることができるため、上記のようにNレンジに切り換えた自動変速機50を適切なタイミング(詳細は後述する)でDレンジに復帰させるのに必要な時間を充分に確保することができる。また、エンジン内の既燃ガスの掃気を充分に行うことができるという利点もある。
そして、所定時間が経過してエンジン回転速度Neが上記目標回転速度N1に収束し、ブースト圧Btが所定の目標値(たとえば−400ないし―600mmHg)に収束した時点T2で、F/C条件が成立したとされ、スロットル開度Kが例えば30%程度に増大されるとともに燃料供給が停止(F/C)される。
上記のように時点T2で燃料供給が停止されると、クランク軸3等が有する運動エネルギーが摩擦抵抗による機械的な損失や、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランク軸3は惰性で数回転し、4気筒4サイクルのエンジンでは10回前後の圧縮上死点を迎えた後に停止する。
このピストン13の停止位置は、エンジン完全停止直前の膨張行程気筒12A内の空気量と圧縮行程気筒12C内の空気量とのバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦抵抗等の影響を受け、最後の圧縮上死点を超えた時点T6におけるエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度N6の高低によっても変化する。
したがって、膨張行程気筒12Aのピストン13を適正範囲R内に停止させるためには、まず膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cに充分な空気を供給しつつ、膨張行程気筒12Aの空気量が圧縮行程気筒12Cの空気量よりも多くなるように、両気筒12A,12Cに対する吸気流量を調節する必要がある。
このために、当実施形態では、燃料供給停止時点T2でスロットル開度Kを大きな値(例えば全開時の30%程度の開度)に設定することによりブースト圧Btを高め、膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの両方に所定量の空気を吸入させた後、エンジンの回転速度Neが予め設定された基準速度N2(例えば790rpm程度)以下に低下したことが確認された時点T3で、スロットル開度Kを低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ところで、エンジンの回転速度Neが所定速度となった時点T2で燃料供給を停止し、その後の所定期間に亘りスロットル弁23を開弁状態に維持するようにして、惰性により回転するエンジンの各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度neを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒12Aのピストン位置を調べると、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度neが、図13にハッチングで示すような所定の範囲内にあれば、上記ピストン13の停止位置が上記適正範囲R(図10(b)参照)内に入ることが実験的に確かめられている。
従って、最終的に膨張行程気筒12Aのピストン13を上記適正範囲R内に停止させるためには、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における各上死点回転速度neが上記所定範囲内に逐次入るように、エンジン回転速度Neを低下させて行けば良い。そのような精緻な制御を行うには、駆動輪側からクランク軸3に作用する影響を排除することが望ましい。
そこで当実施形態では、燃料供給停止時点T2に先立ち、自動変速機50を上記のようにドライブ状態(Dレンジ)からニュートラル状態(Nレンジ)に切り換えることにより、エンジン停止制御中における駆動輪側からの影響を実質的に遮断するようにしているのである。こうすることによって、エンジン停止制御によるピストン停止位置精度を高めることができ、再始動性を向上させることができる。また、車両走行中であってもピストンを精度良く適正範囲内に停止させることができるようになるので、エンジンの自動停止を行う機会が拡大し、燃費低減およびCO2排出量の削減が促進される。
同様に、エンジン停止制御によるピストン停止位置精度を高めるために、当実施形態ではさらに、オルタネータ28の目標発電電流Geを調整することにより、クランク軸3の回転抵抗(エンジンの外部負荷)を調整するようにしている。具体的には、上記燃料供給停止時点T2で、オルタネータ28の目標発電電流Geを例えば0に設定し、エンジン回転速度Neが基準速度N2以下に低下した時点T3で、オルタネータ28の目標発電電流Geを予め設定された初期値に上昇させる制御を実行した後、エンジンの上死点回転速度neが所定範囲内になった時点T5で、上記オルタネータ28の目標発電電流Geをエンジン回転速度Neの低下状況に対応した値に低下させることによってエンジンの外部負荷を最適に調整し、それによってエンジンの回転速度Neを、目標とする低下パターン(エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度neが、図13にハッチングに示した所定の範囲内に逐次入るような低下パターン)に沿って低下させるようにする。
上記停止再始動制御手段2aは、上記燃料供給停止時点T2以降、エンジン回転速度Neの低下に伴い、上記各上死点回転速度neを読み取って行く。そして上死点回転速度neが所定の最終TDC判定閾値N6(例えばN6=260rpmに設定される)より低くなった時点T6で、それが最後の圧縮上死点(最終TDC。当実施形態では膨張行程気筒12Aにおける圧縮上死点)であると判定する。この時点T6以降は、各気筒12A〜12D内でピストン13は移動(振動)するが、上死点TDC或いは下死点BDCを越えて次の行程に移行することはない。
なお後述のフローチャートでは省略しているが、上記時点T6以降、図示のように再びスロットル開度Kを増大させても良い。こうすることにより、ブースト圧Btが上昇するので、吸気行程気筒12Dでの吸気抵抗が低減され、クランク軸3の負荷が削減される。従って、膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cにおけるピストン13の作動がより滑らかになり、ピストン13を上記適正範囲R内に停止させ易くなる。また、時点T6以降は各気筒12A〜12Dにおける行程の推移がないので、膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cで吸気弁19が開くことがない。従って、ブースト圧Btが上昇しても、既に膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cにバランス良く配分された空気量に変化はない。
上記ピストン13の停止位置の検出は、クランク角センサ30,31の検出結果に基づいて行われる。図14は、ピストン停止位置の検出制御動作を示すフローチャートである。この検出制御がスタートすると、停止再始動制御手段2aは、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS1)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1,CA2の位相の関係が、図15(a)のようになるか、それとも図15(b)のようになるかを判定してエンジンが正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転時には、図15(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図15(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、上記ステップS1の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS2)、ステップS1の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS3)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS4)。
一方、上記のような制御と並行して、停止再始動制御手段2aは、時点T1以降ニュートラル状態(Nレンジ)となっている上記自動変速機50を、ドライブ状態(Dレンジ)に復帰させるための制御を行う。当該制御の内容を図12を参照しながら具体的に説明する。停止再始動制御手段2aは、まず自動変速機50のフォワードクラッチ67に締結指令を出力すべき時のエンジン回転速度(N→D回転速度)N3をATF温度に基づいて算出し、その算出された回転速度N3以下にエンジンの回転速度Neが低下したことが確認された時点T4で、上記フォワードクラッチ67に締結指令を出力する。このN→D回転速度N3は、ATF温度が低温であるときほど大きい値に設定される。すなわち、ATF温度が低温であるためにフォワードクラッチ67の締結に要する時間が長くなるときほど、上記フォワードクラッチ67へ締結指令が出力されるタイミングが早まるようにする。その理由は、フォワードクラッチ67の締結完了時期(つまり自動変速機50のドライブ状態への復帰時期)T8を、ATF温度に拠らず確実に、エンジンが自動停止動作期間中に初めて逆回転を開始する時点T7から当該エンジンが正転に復帰する時点T9の間の適正期間A(図11)内に収めるためである。このような期間にフォワードクラッチ67の締結を完了させるようにすれば、エンジン自動停止制御において外乱を遮断することが特に望ましい領域(時点T6以前)において自動変速機50をニュートラル状態に維持できるとともに、エンジンが完全停止する前に確実に自動変速機50をドライブ状態に復帰させることができる。
次に、エンジンの再始動時の制御について説明する。このエンジン再始動時の制御には、上述したように、エンジンの完全停止を待ってからエンジンを再始動させる完全停止後の再始動制御と、エンジンの完全停止を待たずにエンジンを再始動させる自然逆転復帰制御の2種類がある。まず、このうちの完全停止後の再始動制御について説明する。
図16および図17は、エンジン再始動時のタイムチャートである。これらの図に示すように、先ず圧縮行程気筒12C(第3気筒)において1回目の燃料噴射J2が行われ、その点火によって燃焼(図16中の(1))が行われる。この燃焼(1)による燃焼圧(図17中のa部分)で、圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動される。
上記エンジンの逆転動作に伴って膨張行程気筒12A(第1気筒)のピストン13が上死点方向に動き始める。そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点側(望ましくは行程中央より上死点寄り)に移動し、膨張行程気筒12A内の空気が圧縮された時点で燃料噴射J1(当実施形態では2回)が行われる。この噴射燃料の気化潜熱によって圧縮圧力が低減し、ピストン13がより上死点に近付くので圧縮空気(混合気)の密度が増大する(図16中のb部分)。
上記膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近づいた時点で当該膨脹行程気筒12Aに対する点火が行われて、上記噴射燃料(J1)が燃焼し(図16中の(2))、その燃焼圧(図17中のc部分)によりエンジンが正転方向に駆動される。
また、圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで可燃空燃比よりもリッチな燃料が噴射(J3)されることにより(図16中の(3))、この圧縮行程気筒12Cでは燃焼させないものの、燃料噴射による気化潜熱によって当該圧縮行程気筒12Cの圧縮圧力が低減され(図17中のd部分)、これに応じて当該圧縮上死点(始動開始から最初の圧縮上死点)を超えるために消費される膨張行程気筒12Aの最初の燃焼エネルギーが低減されることになる。
さらに、次の燃焼気筒である吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射(J4)の時期を、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(図16中の(4)に示すように、例えば圧縮行程の中期以降)に設定しているため、上記吸気行程気筒12Dの圧縮行程で圧縮上死点前に自着火することが防止される。また、上記吸気行程気筒12Dの点火時期が圧縮上死点以降に設定されていることも相俟って、圧縮上死点前での燃焼が防止される(図17中のe部分)。つまり燃料噴射(J4)による圧縮圧力の低減と圧縮上死点前の燃焼を行わないことにより、膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーが上記圧縮上死点(エンジン始動開始時点から2番目の圧縮上死点)を超えるために消費されるのを抑制することができる。
このようにして膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼(図16中の(2))のエネルギーにより、再始動開始後の最初の圧縮上死点(図16中の(3))と、2番目の圧縮上死点(図16中の(4))とを超えることが可能となり、円滑で確実な始動性を確保することができ、これ以降、通常運転に移行する。
次に、エンジンの完全停止を待たずにエンジンを再始動させる自然逆転復帰制御について、図11を参照しながら説明する。この自然逆転復帰制御は、エンジンの自動停止動作期間中に(当実施形態では時点T0〜T9の間に)再始動要求があった場合に迅速にこれに対応するための制御であり、エンジンが完全停止直前に逆転することを利用し、その逆転から正転に転じる勢い(慣性)を利用して迅速な再始動を行わせる制御である。すなわち、エンジンが完全停止直前に逆転している間(時点T7〜T9の間)は、膨張行程気筒12Aのピストン13が上昇して筒内空気が圧縮されており、時点T9においてエンジンが逆転から正転に転じる(つまり膨張行程気筒12Aにおいてピストン13が降下し始める)ので、そのタイミングを捉え、燃料噴射弁16から燃料を噴射し、点火プラグ15で点火させるのである。こうして膨張行程気筒12Aで燃焼を行わせることにより、逆転から正転に転じる勢い(慣性)に燃焼圧力が加わり、ピストン13が大きな力で勢い良く降下する。このようにすれば、エンジンの完全停止(時点T10)を待ってから再始動させる場合に比べ、より迅速な再始動を行うことができる。
図19は、上記停止再始動制御手段2aによるエンジン停止/再始動制御に係る概略メインフローチャートである。この制御動作がスタートすると、通常制御の実行中に、各種センサ類から出力された検出信号に基づいてエンジンのアイドルストップ条件(自動停止条件)が成立したか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、アクセルOFF、ブレーキON、車速19km/h以下(停止状態を含む)、ステアリングの舵角が所定値以下、ウインカー非作動、バッテリー電圧所定値以上、エンジンルーム内(バッテリー付近)の温度10℃以上、ATF温度40℃以上、等の条件が全て満たされたときにアイドルストップ条件が成立する。
上記ステップS6でYESと判定されると、ステップS7に移行し、上記したようなエンジン停止/再始動制御を実行する。すなわち、エンジン運転を継続させるための燃料供給を停止してエンジンを自動的に停止させ(エンジン自動停止制御)、自動停止状態にあるエンジンの再始動条件が成立したときに、少なくとも膨張行程気筒12Aで燃焼を行わせて自動的に再始動させる制御である。そして、エンジン停止/再始動制御の実行後、ステップS8に移行して通常制御に戻る。遡って上記ステップS6でNOと判定されると、そのままリターンして通常制御を継続する。
ここで、上記アイドルストップ条件の中に、ATF温度40℃以上という条件を設けたのは、ATF温度が40℃よりも低いと、自動変速機50のフォワードクラッチ67の締結に要する時間が大幅に長くなることから(図18参照)、エンジン停止/再始動に伴って自動変速機50に対し行うべきシフト制御を適切に行えない可能性が高くなるためである。すなわち、エンジン停止/再始動制御中は、上述したように、自動変速機50を一旦ドライブ状態からニュートラル状態に切り換えた後、再度ドライブ状態へ復帰させる制御を行う必要があるが、ATF温度が低過ぎると、例えば燃料供給停止時点T2(図12)の直後のような早い時期にフォワードクラッチ67に締結指令を出力しても、そのフォワードクラッチ67の締結を完了させるタイミングを、上記したようなエンジンの自動停止完了直前の適正期間A(図11)内に収めることができなくなる(すなわちドライブ状態への復帰時期が時点T9以降になる)可能性が高くなる。そこで、このような場合はエンジン自動停止制御を行わない(燃料の供給停止を行わない)ことにより、自動変速機50を適正時期にドライブ状態へ復帰させることができない可能性が高いにもかかわらずエンジンを自動停止させてしまう事態を回避するようにしている。
図20〜22は、図19のステップS7におけるエンジン停止/再始動制御を示すサブルーチンである。なお、以下の説明で時点T0や時点T1等という場合の時点は、図11および図12に示す各時点に対応するものである。
なお説明を簡潔にするため、アイドルストップ条件成立時、自動変速機50は第1速状態にあるものとする。すなわち図4に示したように、摩擦要素67〜71のうちフォワードクラッチ67のみが締結している状態である。
このサブルーチンが開始すると、つまりアイドルストップ条件が成立すると(時点T0)、停止再始動制御手段2aは、まず自動変速機50にフォワードクラッチ解放指令を出力する。そして、所定時間経過後に当該フォワードクラッチ67の解放が完了すると(時点T1)、自動変速機50がニュートラル状態となり、この時点T1以降、駆動輪側からエンジンへの外乱が遮断される。従って、それ以後は安定したエンジンの自動停止制御を行うことができる。
次に、ステップS13で再始動要求の有無を判定する。具体的には、所定の再始動条件(例えばアクセルON、ブレーキOFF、バッテリー電圧が所定値以下等のうちの少なくとも1つ)が成立した場合に再始動要求ありと判定する。
上記ステップS13でNOの場合、F/C前制御(燃料停止前制御)に移行する(ステップS15)。このF/C前制御では、燃料の供給を停止する前の事前制御として、エンジン回転速度Neを目標回転速度N1(例えばN1=860rpm)に設定する。そしてスロットル開度Kを調節して、ブースト圧Btを所定の目標値(たとえば−400ないし―600mmHg)となるように導く。さらにこれらと併行して、エンジン回転速度Neが上昇し過ぎないように点火時期のリタード(遅角)を行う。リタード量は、エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束するようにフィードバック制御される。
上記エンジン回転速度Neが目標回転速度N1に収束し、上記ブースト圧Btが上記目標値に収束したとき、F/C条件(燃料供給停止の実行条件)が成立したと判定される(ステップS17でYES)。このF/C条件が成立すると(時点T2)、スロットル開度Kが例えば30%程度に増大される(ステップS19)とともに、燃料供給が停止される(ステップS21)。
次に、ステップS23で上記ステップS13と同様に再始動要求があるか否かが判定される。ここでYESの場合、自然逆転復帰フラグF1(そのデフォルト値は0)に「1」が入力される(ステップS25)。この自然逆転復帰フラグF1に「1」が入力されると、後のエンジン再始動時に、一部の例外を除いて自然逆転復帰制御、すなわちエンジンの完全停止を待たずにエンジンを再始動させる制御が行われる。
上記ステップS23またはステップS25の次に、エンジン回転速度Neが基準速度N2(例えばN2=790rpm)以下となったか否かを判定する(ステップS27)。そしてこのステップS27でYESと判定された時点T3でスロットル弁23を閉止してその開度Kを低減する(ステップS29)。この結果、上記ステップS19でスロットル開度Kを増大させることにより大気圧に近づいたブースト圧Btが、上記スロットル開度低減操作に応じて所定の時間差をもって低下し始めることになる。
次に、上記のように時点T1以降ニュートラル状態に切り換わっていた自動変速機50を、再びドライブ状態に復帰させるための制御を行う。まず、その事前制御として、フォワードクラッチ67へ締結指令を出力するタイミングを調整設定する。具体的には、まず上記油温センサ37によって検出されたATF温度に基づいて、フォワードクラッチ67に締結指令を出力すべき時のエンジン回転速度であるN→D回転速度N3を決定する(ステップS31)。このN→D回転速度N3は、上述のように、フォワードクラッチ67の締結完了時期(つまり自動変速機50のドライブ状態への復帰時期)をATF温度に拠らず確実に適正期間A(時点T7〜T9の間)内に収めることができるように、ATF温度が低温のときほど大きい値に設定される。そして、エンジン回転速度NeがこのN→D回転速度N3以下となったか否かを判定する(ステップS33)。このステップS33でYESと判定されると、フォワードクラッチ67に締結指令が出力され(ステップS35)、所定時間が経過した時点T8でフォワードクラッチ67の締結が完了し、自動変速機50がドライブ状態に復帰する。
そして、上記ステップS35の後、所定回転速度N4>エンジン回転速度Ne>所定回転速度N5であるか否かを判定する(ステップS37,S39)。例えば所定回転速度N4=650rpm、所定回転速度N5=400rpmに設定される。上記のようにN4>Ne>N5である(ステップS37でYESかつステップS39でNO)と判定されると(時点T5)、停止再始動制御手段2aはオルタネータ制御を実行する(ステップS41)。
ここで言うオルタネータ制御は、オルタネータ28の目標発電電流Geの初期値(図12の時点T3〜T5間における目標発電電流Ge)を、エンジン回転速度Neの低下状況に対応した値に低下させるものである。これにより、エンジン回転速度Neが目標とする低下パターンに沿って低下するようにエンジンの外部負荷を調整し、ピストン13を確実に上記適正範囲R(図10(b)参照)内に停止させるようにする。なお、このフローチャートでは、時点T5以前のオルタネータ28の制御については省略している。
そして、上記ステップS39でYES、つまりエンジン回転速度Ne<所定回転速度N5となるとオルタネータ制御が終了し、ステップS43で自然逆転復帰タイミングより前であるか否かの判定がなされる。自然逆転復帰タイミングとは、上述の自然逆転復帰の可否を判定するタイミングであり、このタイミングよりも前であれば上記自然逆転復帰制御を実行するというものである。当実施形態では、この自然逆転復帰タイミングを、エンジンが正転から逆転に転じる時点、すなわち図11・12における時点T9としている。
上記ステップS43でYES、すなわち自然逆転復帰タイミングより前の場合は、上記ステップS23に戻り、ステップS23からステップS43の処理を繰り返す。同様に、上記ステップS37でNOの場合、および上記ステップS39でNOの場合(オルタネータ制御実行中)も同様にステップS23に戻って各処理を繰り返す。その間に再始動要求があった場合、上記ステップS25において自然逆転復帰フラグF1に「1」が入力される。
上記ステップS43でNOと判定されたとき、すなわち自然逆転復帰タイミングT9となったときには、ステップS51において、自然逆転復帰フラグF1の判定がなされる。自然逆転復帰フラグF1≠1の場合(ステップS51でNO)、この時点で未だ再始動要求がないので、自然逆転復帰を行わない。
そしてステップS53でフォワードクラッチ67の締結が完了しているか否かの判定が行われる。具体的には、自動変速機50におけるタービンシャフト59の回転速度が、車速と変速段に対応した値となっている場合にフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定する。タービン回転速度は、車速に比例し、その比例定数はタイヤ半径や自動変速機50のギヤ比等から一義的に決まる。従って停止再始動制御手段2aは、タービン回転速度が車速に対応する値になったことを以ってフォワードクラッチ67の締結が完了したと判定することができる。なお、このような判定が困難である場合には、他の方法、例えばフォワードクラッチ締結指令が発せられてから所定期間が経過したことを以ってフォワードクラッチ67が完全締結したと判定しても良い。
このフォワードクラッチ67の完全締結判定方法は、後述する他のステップ(ステップS73,S85,S87)にも共通するものである。
上記ステップS53での判定で、フォワードクラッチ67の締結が完了(YES)していることが確認されると、停止再始動制御手段2aは、ステップS55で、エンジンが完全に停止(YES)したことを確認する。そして、再始動要求があるまで待機し、再始動要求のあった時点(ステップS57でYES)で、完全停止後の再始動制御を実行する。
上記の流れでは、エンジンが完全に停止するまでは再始動要求がなく、完全停止後の再始動要求に基づいてエンジンを再始動させているが、次に、エンジンが完全に停止する前に再始動要求のあった場合の制御について説明する。
まず、上記ステップS13において再始動要求ありと判定された場合について説明する。これは、アイドルストップ条件が成立してフォワードクラッチ67に締結指令が出されてから、燃料供給が停止(F/C)されるまで(図11に示す区間161)に再始動要求があった場合に相当する。この場合、フォワードクラッチ67の解放を開始させたばかりなので、ただちにこれを中止し、通常制御に戻すようにする。すなわち、停止再始動制御手段2aは、フォワードクラッチ67に締結指令を出力し(ステップS71)、そのフォワードクラッチ67の締結を待って(ステップS73でYES)、エンジン停止/再始動制御を終了し(ステップS75)、リターンする。すなわち通常制御に移行する。
次に、上記ステップS23において再始動要求ありと判定された場合について説明する。これは、燃料供給が停止(F/C)された時点から自然逆転復帰タイミングT9まで(図11に示す区間162)に再始動要求があった場合に相当する。この場合、直ちに再始動動作に移行せず、少なくとも上記自然逆転復帰タイミングT9まで待機する。このとき、自然逆転復帰フラグF1=1となっているので、上記ステップS51でYESと判断されてステップS85に移行し、フォワードクラッチ67の締結が完了したか否かが判定される。ここで、停止再始動制御手段2aが、上述したようにフォワードクラッチ67の締結完了時期が適正期間A(時点T7〜T9の間)内に収まるようなタイミングでフォワードクラッチ67に締結指令を出力していることから(ステップS35)、ほとんどの場合、このステップS85ではYESと判定される。
このようにステップS85でYESと判定されると、停止再始動制御手段2aは自然逆転復帰制御を実行する(ステップS95)。
この自然逆転復帰制御は、上述したように、時点T9においてエンジンが逆転から正転に転じる勢い(慣性)を利用して迅速な再始動を行わせる制御であるが、バラツキその他の要因により、この時点T9においてフォワードクラッチ67の締結が完了していない(ステップS85でNO)場合が想定される。そのような場合は無理に自然逆転復帰させず、フォワードクラッチ67の締結完了およびエンジンの完全停止を待って(ステップS87およびステップS89でYES)、完全停止後の再始動制御を実行する(ステップS59)。こうすることにより、フォワードクラッチ67の締結が不完全な状態で発進して運転者に違和感を与えたり、フォワードクラッチ67にダメージを与えたりすることを効果的に防止することができる。
以上説明したように、本実施形態のエンジン始動装置によれば、エンジンを自動停止させる際に、燃料の供給停止(F/C)実行より前の時点T1から自動変速機50をニュートラル状態に変位させることにより、車輪側からエンジンに伝わる影響を実質的に遮断することができるため、エンジンが自動停止を完了した時点におけるピストン13の停止位置を、エンジンの再始動に適した範囲内に精度よく収めることができ、エンジンの再始動性を向上させることができる。しかも、エンジンが自動停止動作期間中に初めて逆回転を開始する時点T7から当該エンジンが正転に復帰する時点T9の間の適正期間A内に自動変速機50をドライブ状態に復帰させることにより、エンジン自動停止完了時のピストン13の位置にほとんど影響を与えることなくドライブ状態への復帰を行うことができる。このとき、自動変速機50をドライブ状態に復帰させるための締結要素であるフォワードクラッチ67の作動油(すなわちATF)の温度が低いと、当該ATFの粘度が高くなって油路内の抵抗が増大するため、フォワードクラッチ67に締結指令を出してから実際にその締結を完了させるまでに必要な時間が長くなってしまうが、本実施形態では、ATFが低温状態にあるときは高温状態にあるときに比べてフォワードクラッチ67への締結指令の出力タイミングを早めるようにしたため、ATFの温度が変動しても常に適正な時期に上記フォワードクラッチ67の締結を完了させることができる。そして、上記のようにエンジンの自動停止完了前の適正期間A内に確実に自動変速機50をドライブ状態に復帰させておくことのできる本発明のエンジン始動装置によれば、その後エンジンの再始動条件が成立してエンジンが再始動したときに、当該エンジンの再始動と同時に車両を迅速に再発進又は再加速させることが可能である。
なお、以上説明したエンジンの始動装置は、本発明に係る始動装置が適用される装置の一実施形態であって、装置の具体的な構成等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、変形例を以下に説明する。
(1)上記実施形態における完全停止後の再始動制御では、エンジン再始動時にエンジンをいったん逆転作動させてから正転作動させるものとなされているが、正転作動だけで再始動させるものであってもよい。ただし、エンジンをいったん逆転作動させると、停止時膨張行程気筒12Aの燃焼エネルギーが高まることから、より確実にエンジンを再始動させることができる。
(2)上記実施形態では、エンジンを再始動させる際、少なくとも再始動条件が成立してから膨張行程気筒12Aや圧縮行程気筒12Cに燃料を供給しているが、再始動条件が成立する前に予め燃料を供給しておいても良い。例えばエンジン自動停止動作中の、停止直前の吸気行程で燃料を噴射しておいても良い。こうすると再始動時までに気化霧化が促進される。再始動時時にはその混合気中で点火プラグ15に点火させるだけで迅速且つ良好な燃焼を行わせることができる。
(3)上記実施形態では自動変速機50として4段変速式の自動変速機を挙げたが、3段あるいは5段以上の自動変速機であっても良い。また遊星ギヤ機構の入力要素、固定要素、出力要素の組合せについても上記実施形態に限定するものではない。
(4)上記実施形態では省略しているが、エンジン再始動時であって所定の条件成立時、例えばピストン停止位置が所定の適正範囲内にない場合や、適正範囲内にある場合でもその停止位置が適正範囲の境界に近い場合、或いは始動後の所定時期までにエンジン回転速度が所定値に達しない場合、さらにエンジンを逆転作動させることなく、エンジンの初回燃焼を停止時膨張行程で行う場合等に、始動モータ等(スタータとオルタネータとを統合したモータ(ISG:Integrated Starter Generator)を含む)によるアシストを伴う制御を行うようにしてもよい。この場合でもエンジンの燃焼によるエネルギーによってスタータモータの負担を軽減することができる。ただし、この場合には、各気筒内へ直接、噴射される燃料の気化霧化及び空気との混合が十分に進むように、燃料噴射弁16により吸気行程で燃料を噴射させるようにするのが好ましい。
(5)上記実施形態では、燃料噴射弁16について筒内噴射型のものを採用しているが、ポート噴射型の燃料噴射弁を採用する場合にも適用することができる。