以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。これらの図において、エンジン本体1はシリンダヘッド1a及びシリンダブロック1bで構成され、複数の気筒を有し、図示の実施形態では4つの気筒3A〜3Dを有している。各気筒3A〜3Dにはピストン4が嵌挿され、ピストン4の上方に燃焼室5が形成されている。上記ピストン4はコンロッドを介してクランクシャフト6に連結されている。
各気筒3A〜3Dの燃焼室5の頂部には点火プラグ7が装備され、そのプラグ先端が燃焼室5内に臨んでいる。
さらに、燃焼室5の側方部には、燃焼室5内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁8が設けられている。この燃料噴射弁8は、図略のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ7付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁8の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁8には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒3A〜3Dの燃焼室5に対して吸気ポート9及び排気ポート10が開口し、これらのポート9,10に吸気弁11及び排気弁12が装備されている。これら吸気弁11及び排気弁12は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、後に詳述するように各気筒が所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒の吸・排気弁の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート9及び排気ポート10には吸気通路15及び排気通路16が接続されている。上記吸気ポート9に近い吸気通路15の下流側は、各気筒3A〜3Dに対応して独立した分岐吸気通路15aとされ、この各分岐吸気通路15aの上流端がそれぞれサージタンク15bに連通している。このサージタンク15bの上流側には共通吸気通路15cが設けられるとともに、この共通吸気通路15cには、スロットル弁17が設けられている。このスロットル弁17はアクチュエータ18により駆動され、当該スロットル弁17の上流側及び下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ20と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ19とが配設されている。
また、エンジンには、タイミングベルト等によりクランクシャフト6に連結されたオルタネータ(発電機)26が付設されている。このオルタネータ26は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路26aを内蔵し、このレギュレータ回路26aに入力される後述するECU30からの制御信号に基づき、車両の電気的負荷及び車載バッテリーの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、上記クランクシャフト6に対し、その回転角を検出するクランク角センサが設けられており、当実施形態では、後に詳述するように、互いに一定量だけ位相のずれたクランク角信号を出力する2つのクランク角センサ21,22が設けられている。さらにカムシャフトに対し、その特定回転位置を検出することで気筒識別信号を与えることのできるカム角センサ23が設けられている。なお、上記クランク角センサ21,22が本願発明にいうピストン位置検出手段である。
また、エンジンは、図3に示すように、その出力軸であるクランクシャフト6を通じて自動変速機構50に接続されている。この自動変速機構50は、上記クランクシャフト6に連結されたトルクコンバータ51と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59に連結された多段変速機構52とを備え、これらに含まれる複数の摩擦締結要素を断続させることにより、車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態を含む多段変速可能に構成されている。
上記トルクコンバータ51は、クランクシャフト6に連結されたポンプカバー53と、このポンプカバー53に一体に形成されたポンプインペラ54(トルクコンバータ入力側)と、これに対向するように設置されたタービンランナ55(トルクコンバータ出力側)と、その間でワンウェイクラッチ56を介してケース57に取付けられたステータ58とを備えている。そして、トルクコンバータ51の出力軸となるタービンシャフト59が上記タービンランナ55に連結されている。また、上記ポンプカバー53内の空間には、作動流体としてのオイルが充満され、ポンプインペラ54の駆動力がこの作動油を介してタービンランナ55に伝達されるものとなされている。
そして、上記ポンプカバー53およびポンプインペラ54がフライホイールとして機能し、これによりクランクシャフト6の回転むらを軽減するとともに、膨張行程を除く各行程でクランクシャフト6に回転エネルギーを供給する。
なお、ポンプインペラ54には中空回転シャフト60が連結され、このシャフト60の後端にオイルポンプ61が取付けられているとともに、ケース57内にはこのオイルポンプ61とは別に電動オイルポンプ62が設けられ、これらの各オイルポンプ61,62がコントロールバルブ63に接続されている。そして、このコントロールバルブ63が後述するECU30によりオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間で切り換え制御されている。すなわち、エンジンの始動前と始動初期においては、電動オイルポンプ62を駆動させて後述する各摩擦締結要素としてのクラッチやブレーキ等を駆動させるとともに、エンジンの駆動中にはオイルポンプ61により各摩擦締結要素を駆動するものとなされている。
このトルクコンバータ51には、更に上記ポンプカバー53とタービンランナ55との間に介設され、該カバー53を介してクランクシャフト6とタービンランナ55とを直結するロックアップクラッチ64が設けられている。このロックアップクラッチ64は、上記オイルポンプ61および電動オイルポンプ62に図外の油圧制御回路を介して接続されており、この油圧制御回路に設けられたコントロールバルブ63および図外のソレノイドバルブをオン・オフ制御することにより油路を切り換えてエンジンの停止時においても駆動可能に構成されている。この油圧制御回路は、多段変速機構52において車輪側への駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態においてもロックアップクラッチ64を断続し得るように構成され、このニュートラル状態においてロックアップクラッチ64が締結されることにより上記ポンプカバー53、ポンプインペラ54に加え、タービンランナ55およびタービンシャフト59も回転慣性体として機能することとなる。すなわち、これらのタービンランナ55およびタービンシャフト59等が本願発明にいう回転慣性体に相当する。
一方、多段変速機構52は、第1および第2遊星ギヤ機構65,66と、この遊星ギヤ機構65,66を含む動力伝達経路を切り換えるクラッチやブレーキ等の複数の摩擦締結要素67〜72とを備え、これらの摩擦締結要素を適宜断続してニュートラル状態、後退速、複数段の前進速等の複数段に切換可能に構成されている。
第1および第2遊星ギヤ機構65,66は、それぞれ、サンギヤ65a,66aと、これらのサンギヤ65a,66aの周りに配置されこれらに噛合する複数個(例えば3個)の遊星ギヤ65b,66bと、これらの遊星ギヤ65b,66bを支持するキャリヤ65c,66cと、遊星ギヤ65b,66bの周りを取り囲むように配置されこれらの噛合するリングギヤ65d,66dとを備え、第1遊星ギヤ機構65のリングギヤ65dと第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとが連結されているとともに、第1遊星ギヤ機構65のキャリヤ65cと第2遊星ギヤ機構66のリングギヤ66dとが連結され、各遊星ギヤ機構65,66が連動し得るものとなされている。
摩擦締結要素は、上記タービンシャフト59および第1遊星ギヤ機構65のサンギヤ65aの間に介在するフォワードクラッチ67と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aとの間に介在するリバースクラッチ68と、タービンシャフト59と第2遊星ギヤ機構66のキャリヤ66cとの間に介在する3−4クラッチ69と、第2遊星ギヤ機構66のサンギヤ66aを固定する2−4ブレーキ70と、これらの遊星ギヤ機構65,66とケース57との間に並列的に介在するローリバースブレーキ71およびワンウェイクラッチ72等とを備え、これらの摩擦締結要素67〜72が断続されて出力ギヤ73に繋がる動力伝達経路が変更ないし断絶されるものとなされている。
そして、この出力ギヤ73が回転することにより、駆動力が車輪側、すなわち伝導ギヤ74,75,76および差動機構77を介して左右の車軸78,79に伝達されるようになっている。
これらの摩擦締結要素67〜72は、ロックアップクラッチ64と同様に、図示しない油圧制御回路およびこの回路に設けられたコントロールバルブ63を介してオイルポンプ61および電動オイルポンプ62に接続されており、後述するECU30によって電動オイルポンプ62、コントロールバルブ63や各摩擦締結要素67〜72に応じて設けられた図略のソレノイドバルブを駆動して油路を切り換えることにより、断続するものとなされている。
この他にもエンジンの制御に必要な検出要素として、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ24、アクセル開度(アクセル操作量)を検出するアクセル開度センサ25等が装備されている。
30は制御手段としてのECU(エンジンコントロールユニット)であり、上記各センサ20〜25からの信号を受け、上記燃料噴射弁8に対して燃料噴射量及び噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火装置に対して点火時期制御信号を出力し、かつ、スロットル弁17のアクチュエータ18に対してスロットル開度を制御する信号を出力し、さらにオルタネータ26のレギュレータ回路26aに対して発電量を制御する信号を出力するとともに、上記ロックアップクラッチ64を駆動すべくオイルポンプ61,62、コントロールバルブ63およびソレノイドバルブに対して駆動制御信号を出力する。すなわち、このECU30が本発明にいう制御手段に相当する。
そして、アイドリング時において所定のエンジン停止条件が成立したときに、燃料供給停止等により自動的にエンジンを停止させるとともに、その後のエンジン再始動条件成立時に、自動的にエンジンの再始動を行わせる。このエンジン再始動時に、ピストンの停止位置が特定範囲(適正範囲)にある場合は、まずエンジン停止時の圧縮行程気筒に対して初回の燃焼を実行してピストンを押し下げ、膨張行程にある気筒のピストン上昇によって筒内圧力を高めるようにしてから、当該膨張行程気筒に対して燃料を噴射させて点火、燃焼を行わせ、かつ、上記圧縮行程気筒における初回燃焼後の燃焼室内に燃焼用空気を存在させ、その空気量に応じた燃料を初回燃焼後の適当な時期に供給することにより、当該気筒がピストン上昇に転じて圧縮上死点を越える際に当該気筒で再燃焼を行わせるように制御する。すなわち、エンジンの自動再始動時に、ピストンの停止位置が後述する適正範囲にあるときは、始動初期で一旦エンジンを逆転作動させ、その後正転作動に転じるように制御する。
なお、当実施形態では、停止時膨張行程気筒のピストンが適正範囲内にあるときは上述のように圧縮行程気筒での初回燃焼及び膨張行程気筒での燃焼を行わせる第1再始動制御モードを実行し、一方当該ピストンが適正範囲にないときは圧縮行程気筒での初回燃焼を行わずにスタータ(始動用モータ)31でアシストしつつ膨張行程気筒での燃焼及びその次の圧縮行程気筒での燃焼により始動を行う第2再始動制御モード実行するようになっている。
具体的には、第1再始動制御モードでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。したがって、エンジンの自動停止時にピストンが膨張行程の途中にある上記膨張行程気筒内に充分な空気量を確保することを考慮しつつ、当該気筒の圧縮圧力を有効に高めるべく、当該ピストンをこの燃焼に適した所定の適正範囲に停止させておく必要がある。
すなわち、図4(a)、(b)に示すように、エンジンの停止時点で膨張行程気筒および圧縮行程気筒になる気筒では、それぞれ位相が180°CAずれているため、各ピストン4が互いに逆方向に作動し、膨張行程気筒のピストン4が行程中央(上死点後90°CA)よりも下死点側に位置していれば、その気筒内の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎてクランクシャフト6を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
そこで、上記所定の適正範囲Rとして、膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置をやや下死点側に超える所定範囲、例えば圧縮上死点後のクランク角が100°〜120°CAとなる範囲内にピストンを停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランクシャフト6をすこしだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、このクランクシャフト6の逆転によって当該気筒内の圧縮圧力を高めるとともに当該気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト6を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる。
このエンジンの自動停止時におけるピストンの停止位置制御の具体的手法は、種々あるが、ここではスロットル弁17の開度を制御することによってエンジン停止時における膨張行程気筒および圧縮行程気筒の空気による圧縮反力を調整するとともに、エンジンの自動停止過程におけるオルタネータ26の発電量を制御することによってクランクシャフト6の抵抗を通じてエンジンの回転速度を調整し、これによりピストン4の停止位置を制御する場合について説明する。
図5に示すように、自動変速機構50をドライブ状態からニュートラル状態に切り換えるとともに、エンジンの目標速度を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度(以下、「通常のアイドル回転速度」という)よりも高い値、例えば通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブ状態)に設定されたエンジンでは上記目標速度を自動停止条件成立時のアイドル回転速度としての850rpm程度(自動変速機はニュートラル状態)に設定することにより、エンジンの回転速度Nで安定させる制御を実行し、エンジンの回転速度Nが目標速度で安定した時点t1で燃料噴射を停止させる。
また、エンジンを自動停止させる制御動作の初期段階である上記燃料噴射の停止時期t1で、気筒内空燃比をλ=1にしたときのアイドル時の吸気量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸入流量となるように上記スロットル弁17の開度を設定、つまり上記時点t1の直前の燃焼状態が、気筒内空燃比をλ=1ないしその付近に設定された均一燃焼であるため、スロットル弁17の開度を増大させて(例えば開度を全開時の30%程度に開いて)、エンジンの気筒3A〜3Dに吸入される吸入空気量を大きな値に設定することにより、燃焼ガスの掃気性を確保するとともに、オルタネータ26の発電量を上記自動停止条件の成立時点t0よりも低下させることにより、クランクシャフト6の回転抵抗を低減するように構成されている。
また、上記の時点t1で燃焼噴射を停止することによりエンジンの回転速度Nが低下して予め設定された基準速度、例えば760rpm程度になったことが確認された時点t2で、上記スロットル弁17を閉止してエンジンの気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量を減少させるとともに、オルタネータ26の発電量を増大させ、かつ後述するように上記スロットル弁17の開度およびオルタネータ26の発電量をエンジン回転速度Nの低下度合に対応させて調節することにより、予め行った実験結果等に基づいて設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Nを低下させる制御を実行する。
上記のようにエンジンを自動停止させる際に、燃料噴射の停止時点t1から、クランクシャフト6やフライホイール等が有する運動エネルギーが摩擦による機械的な損失や、各気筒3A〜3Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランクシャフト6は惰性で数回転し、4気筒4サイクルエンジンでは10回前後の圧縮上死点(図5ではAbt: bt=…3,2,1)を迎えた後に停止する。
具体的には、図5に示すように、上記気筒3A〜3Dが圧縮上死点を迎える度にエンジンの回転速度Nが一時的に落ち込んだ後に、圧縮上死点を超えた時点で再び上昇するというアップダウンを繰り返しながらエンジン回転速度Nが次第に低下する。
そして、最後の圧縮上死点を超えた時点t3の後に圧縮上死点を迎えようとする気筒では、慣性力によるピストン4の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン4が押し返されてクランクシャフト6が反転する。このクランクシャフト6の逆転によって膨張行程気筒の空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒のピストン4が下死点側に押し返されてクランクシャフト6が再び正転し始め、このクランクシャフト6の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン4が往復作動した後に停止することになる。このピストン4の停止位置は、上記圧縮行程気筒および膨張行程気筒における圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦等の影響を受け、上記最後の圧縮上死点を超えた時点t3のエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Nの高低によっても変化することになる。
したがって、エンジンが自動停止する際に膨張行程にある気筒のピストン4を再始動に適した上記所定の適正範囲R内に停止させるためには、まず上記膨張行程気筒および圧縮行程にある圧縮行程気筒の圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒の圧縮反力が圧縮行程気筒の圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。このために、燃料噴射の停止時点t1でスロットル弁17を開放することにより上記膨張行程気筒および圧縮行程にある圧縮行程気筒の両方に所定量の空気を吸入させた後、所定時間が経過した時点t2で上記スロットル弁17を閉止してその開度を低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ただし、実際のエンジンでは、スロットル弁17、吸気ポート9および分岐吸気通路15a等の形状に個体差があることにより、それらを流通する空気の挙動が変化するため、エンジンの自動停止期間中に各気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量にバラツキが生じ、上記のようにスロットル弁17の開閉制御を行っても、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒のピストン停止位置を適正範囲R内に納めることは困難である。
この点につき、当実施形態では、エンジンの自動停止期間中においてエンジンの回転速度が低下する過程で、図6に一例を示すように、各気筒3A〜3Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)nと、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒のピストン停止位置との間に明確な相関関係があることに着目し、燃料噴射を停止した時点t1の後にエンジンの回転速度Nが低下する過程で、各気筒のピストン4が圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度、つまり上死点回転速度nをそれぞれ検出し、この上死点回転速度nの検出値に応じてオルタネータ26の発電量を制御することにより、クランクシャフト6の回転抵抗を調整してエンジン回転速度の落ち込み度合を調節するようにしている。
すなわち、図6は、上記のようにエンジンの回転速度Nが所定速度となった時点t1で燃料噴射を停止し、その後の所定期間に亘りスロットル弁17を開状態に維持するようにして惰性により回転するエンジンの各気筒3A〜3Dに設けられたピストン4が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度nを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒のピストン位置を調べ、このピストン位置を縦軸に取るとともに、上記エンジンの上死点回転速度nを横軸に取って、両者の関係をグラフ化したものである。この作業を繰り返してエンジンの停止動作期間中における上記上死点回転速度nと、膨張行程気筒におけるピストン停止位置との相関関係を示す分布図が得られることになる。
上記の分布図から、エンジンの停止動作期間中における上死点回転速度nと膨張行程気筒におけるピストン停止位置と間に所定の相関関係が見られ、図6に示す例では、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度nがハッチングで示す範囲(適正回転速度範囲)内にあれば、ピストン4の停止位置がエンジンの再始動に適した範囲R(圧縮上死点後の100°〜120°CA)に入ることが分かる。したがって、ECU30は、スロットル弁17が閉止された時点t2以降、オルタネータ26の発電量を制御することにより、所定の上死点回転速度nが適正回転速度範囲内に含まれるように制御している。
以上、エンジンの自動停止制御を図7に示すフローチャートに基づいて説明する。図7のフローチャートに示す処理は、エンジンが運転されている状態からスタートし、ECU30は、まずステップS1でアイドルストップ条件が成立したか否かを判定する。この判定は、車速、エンジン温度(エンジン冷却水の温度)等に基づいて行い、例えば車速が0の停車状態ないしは車速が10km/h以下の超低速状態が所定時間以上持続し、かつ、エンジン温度が所定範囲内にあり、さらにエンジンを停止させることに格別の不都合(例えばバッテリー残量が少ないということ)がない状況にある場合等に、アイドルストップ条件成立とする。
アイドルストップ条件が成立したときは(ステップS1でYES)、まず自動変速機をニュートラル状態に自動的に切り換えるとともに、通常のアイドル回転速度よりも高い目標速度にエンジンの回転速度を安定させ、さらにEGR通路に設けられたEGR弁(図示せず)を閉弁して排気還流を停止させる等の初期制御を実行してから、エンジンの回転速度や吸気圧等の所定の条件に基づいてエンジンの各気筒に対する燃料供給を停止し(ステップS2)、次いで一旦スロットル弁17を所定開度に開き(ステップS3)、これにより排気ガスの掃気性を確保するとともに、オルタネータ26の発電量を自動停止条件の成立時点よりも低下させ(ステップS4)、これより、クランクシャフト6の回転抵抗を低減させる。それから、エンジン回転数が所定回転数(図5の例では760rpm程度)以下となるまでこの状態を保ち(ステップS5)、所定回転数以下となればスロットル弁17を閉じ(ステップS6)、これにより各気筒3A〜3Dに吸入される吸気流量を減少させる。
次いで、オルタネータ28の発電量を予め60A程度に設定された初期値に設定して所定期間(例えば約300ms程度)に亘りオルタネータ28を作動させる発電量の初期制御を実行する(ステップS7)。
続いて、ピストン4が圧縮上死点を通過する際のエンジンの回転速度である上死点回転速度nを検出し(ステップS8)、この上死点回転速度nが図6に示す所定の範囲内(適正回転速度範囲内)にあるかどうかを判定する(ステップS9)。この判定の結果、上死点回転速度nが所定の適正回転速度範囲内にない場合には、上死点回転速度nと上記適正回転速度範囲との間の回転速度の偏差に基づいてオルタネータ26の発電量を算出する(ステップS10)。このように上死点回転速度nが適正回転速度範囲内にない場合、例えば図6で回転速度が470rpmである場合には、この回転速度を挟む適正回転速度範囲(高回転側範囲と低回転側範囲)のうち近接する適正回転速度範囲(この例では低回転側範囲)に基づいて偏差を算出する。具体的には、高回転側範囲の下限値と低回転側範囲の上限値の中間値に基づいて検出された上死点回転速度がこの中間値よりも高いか低いかを判定することによって偏差の基準となる適正回転速度範囲を決定する。そして、この発電量は、上記回転速度の偏差および現在の発電量に基づいて予め設定されたマップから読み出され、上死点回転速度nが上記基準適正回転速度範囲よりも高い場合には、オルタネータ26の発電量を増大させ、逆に低い場合にはオルタネータ26の発電量を減少ないし停止して(ステップS11)、ステップS12に移行する。
上記ステップS9で上死点回転速度nが所定の適正回転速度範囲内にある場合には、上記ステップS10およびS11をスキップして、エンジンの上死点回転速度nが所定値以下であるか否かを判定する(ステップS12)。この所定値は、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度が低下している過程で最後の上死点を超える際のエンジン回転速度に対応した値であり、例えば260rpm程度に設定されている。上記ステップS12でNOと判定された場合には、ステップS8に戻って上記制御動作を繰り返す。上記ステップS8でYESと判定されてエンジンの上死点回転速度nが上記所定値以下になったことが確認されれば、ステップS13でエンジンが停止したか否かを判定し、エンジンが停止すると、後述の図8の停止位置検出ルーチンによるピストンの停止位置の検出に基づき、上記ステップS14で上記停止位置を検出してECU30に含まれる図外の記憶手段に記憶される。
図8は停止位置検出ルーチンを示している。このルーチンがスタートすると、ECU30は、第1クランク角信号CA1(第1クランク角センサからの信号)および第2クランク角信号CA2(第2クランク角センサからの信号)を調べ、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowまたは第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する。要するに、これらの信号CA1,CA2の位相の関係が図9(a)のようになるか、それとも図9(b)のようになるかを判別することにより、エンジンの正転時か逆転時かを判別する(ステップS20)。
すなわち、エンジンの正転時には、図9(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図9(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。そこで、ステップS20の判定がYESであればエンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS21)、ステップS20の判定がNOの場合は上記CAカウンタをダウンする(ステップS22)。そして、エンジン停止時に上記CAカウンタの値を調べることで停止位置を求めるのである(ステップS23)。
一方、ECU30は、上記のようにして自動停止状態にあるエンジンについて、所定の再始動条件が成立した場合であって、膨張行程気筒のピストン4が所定の適正範囲内にある場合には、第1再始動制御モード(ダイレクトスタートモード)で当該エンジンを自動的に再始動するように制御される。
多気筒4サイクルエンジンにおいては各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなるサイクルを行うようになっており、4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒3A、2番気筒3B、3番気筒3C、4番気筒3Dと呼ぶと、図10中及び図11中に示すように、上記サイクルが1番気筒3A、3番気筒3C、4番気筒3D、2番気筒3Bの順にクランク角で180°ずつの位相差をもって行われるようになっている。
エンジン停止後に所定の再始動条件が成立したときは、ECU30によって自動的にエンジンを再始動する制御が行われるが、この際、ピストンの停止位置が膨張行程気筒において行程中間部付近の所定適正範囲内にある場合は、第1再始動制御モードのルーチンが実行される。図10は上記第1再始動制御モードによる場合のエンジンの各気筒の行程と始動制御開始時点からの各気筒における燃焼(図中に燃焼の順序に従って(1),(2),(3)……で示す)との関係を示すとともに、各燃焼によるエンジンの動作方向を矢印で示しており、また図11は、上記第1再始動制御モードによる場合のエンジン回転速度、ロックアップクラッチ64の断続状態、スロットル弁17の開度を示している。
これらの図に示すように、上記第1再始動制御モードによる場合には、まず圧縮行程気筒(図示の例では3番気筒)において燃焼空燃比は略理論空燃比ないしはこれよりも若干リッチ空燃比となるように制御されつつ初回燃焼(図10中の(1))を実行し、この初回燃焼による燃焼圧(図11中のa部分)で圧縮行程気筒のピストンが下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動され、それに伴い、膨張行程気筒(図示の例では1番気筒)のピストンが上死点に近づくことにより当該気筒内の空気が圧縮されて筒内圧が上昇する(図11中のb部分)。そして、膨張行程気筒のピストンが上死点に充分に近づいた時点で当該気筒に対する点火制御が実行されて、予め当該気筒に噴射されている燃料が燃焼し(図10中の(2))、その燃焼圧(図11中のc部分)でエンジンが正転方向に駆動される。さらに、上記圧縮行程気筒に対して適当なタイミングで燃料を噴射するように制御することにより、圧縮行程気筒の上死点付近での圧縮圧力が低減される。その後、圧縮行程気筒のピストンがこの低減された圧縮圧力に打ち勝って圧縮上死点を超え(図11中のd部分)、続いて圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒に当該圧縮行程後半の所定のタイミングで燃料が噴射される(図11中のe部分)とともに、当該気筒のピストンが上死点を超えた所定のタイミングで点火して(図11中のf部分)、吸気行程気筒における燃焼が行われる(図10中の(3))。その燃焼圧でエンジンの駆動力が高められ、円滑な始動が実行される。
ところで、上記のようにエンジンの燃焼により発生するトルクのみによってエンジンを再始動する場合、具体的にはエンジンの再始動にあたって、圧縮行程気筒で初回の燃焼を実行して少しだけエンジンを逆回転させた後、膨張行程気筒で燃焼させることによりエンジンを正回転させる場合には、圧縮行程気筒のピストンが上昇した後に、圧縮上死点(第1TDC)を経て燃焼を伴う膨張行程に移行するが、エンジンを逆回転させる初回の燃焼で空気が既に使われているため、上記圧縮上死点付近における本来の燃焼時(エンジンを正回転させる膨張行程気筒での燃焼時)に、必要な量の空気が気筒内に存在していない状態となる。したがって、エンジンを正回転させる本来の燃焼が充分に行われず、エンジンの停止時に膨張行程にある上記気筒で燃焼が行われた後、別の気筒で次の燃焼が行われるまでの間隔が長くなり、この間にエンジンの回転速度が低下して始動性が悪化する虞がある。特に、エンジンが正転方向に再始動されると、まず圧縮行程気筒のピストンが圧縮圧力に打ち勝って最初に圧縮上死点を超え(第1TDC)、次いで停止時吸気行程気筒、排気行程気筒のピストンが順次圧縮上死点(第2,第3TDC)を超えることになるが、圧縮行程気筒が第1TDCを超える時点で燃焼が行われないことから、再始動後、停止時吸気行程気筒のピストンが最初の圧縮上死点(第2TDC)を超える際にエンジンの回転速度が極端に低下する。
従って、当実施形態では、エンジンの再始動から、エンジン停止時における吸気行程気筒のピストンが最初に圧縮上死点(第2TDC)を通過するまでの再始動不安定期間に次のような制御を実行することにより、停止時吸気行程気筒(4番気筒)が最初に迎える圧縮行程でのイナーシャ(回転慣性)を向上させるとともに、慣性質量を増大させることにより回転エネルギーの低下を抑制しつつ回転速度を低下させてこの吸気行程気筒のピストンが再始動後最初に迎える圧縮上死点(第2TDC)を確実に通過できるようになされている。
すなわち、ECU30は、第1再始動制御モードが実行される場合であって、エンジンの自動停止後、クランク角センサ21,22によりエンジンの始動を検出したときは、この再始動の始めから停止時吸気行程気筒(4番気筒)のピストンが第2TDCを通過したことをクランク角センサ21,22により検出するまでの再始動不安定期間において、各摩擦締結要素に応じて設けられたソレノイドバルブを制御することにより多段変速機構52をニュートラル状態としつつ、トルクコンバータ51のロックアップクラッチ64を締結すべく、電動オイルポンプ62、コントロールバルブ63およびソレノイドバルブを駆動制御する。そして、第2TDCを通過したことをクランク角センサ21,22により検出した後に、上記ロックアップクラッチ64を断絶するように制御する。
なお、第2TDCを通過した後は、多段変速機構52をニュートラル状態に維持するものであってもよいが、発進性を良好にする観点から、クランクシャフト6の駆動力が車軸78,79に伝達される状態、例えば前進低速段(1速段)とするようにソレノイドバルブを制御してもよい。
このように、再始動不安定期間においてニュートラル状態でロックアップクラッチ64を締結すると、停止時膨張行程気筒での最初の燃焼により、図12に示すように、クランクシャフト6を介してポンプカバー53およびポンプインペラ54等に加え、タービンランナ55、タービンシャフト59等(図12で太線で示す部分)が回転し、これによりロックアップクラッチ64を断絶している場合(図11に点線を参照)に比べてエンジンの回転速度が一時低下するが、この回転によるイナーシャは、ロックアップクラッチ64が断絶してポンプカバー53およびポンプインペラ54等のみが回転している場合に比べて大きくなる。そして、このニュートラル状態においてロックアップクラッチ64を締結した状態(以下、この状態を「慣性増幅状態」と称す)が、停止時吸気行程気筒における再始動後最初に迎える圧縮行程が終了するまで、言い換えると当該吸気行程気筒のピストンが最初に迎える圧縮上死点を通過するまで継続されると、この圧縮行程でピストンが圧縮圧力による抵抗を受けて圧縮エネルギーが低減している場合においても、上記回転慣性体としてのタービンランナ55、タービンシャフト59等の回転エネルギーがクランクシャフト6を介して供給され、これにより第2TDC通過時のエンジン回転速度の低下幅を低減して(図11参照)、エンジンの始動性を効果的に向上させることができる。
なお、慣性増幅状態においては、少なくともフォワードクラッチ67およびリバースクラッチ68が断絶された状態となっており、当実施形態では各摩擦締結要素67〜72の全てが断絶された状態にある。
以上、エンジンの再始動制御を図13および図14に示すフローチャートに基づいて説明する。
制御動作がスタートすると、エンジン自動停止時の膨張行程気筒のピストン停止位置が所定の適正範囲(当実施形態では100°〜120°CA)内にあるか否かを判定し(ステップS101)、この適正範囲内にない場合には、第1再始動制御モードでの始動が困難と判断して、第2再始動制御モードでの制御、すなわち、スタータモータ31を使用した通常の始動制御を実行し(ステップS102)、後述するステップS123に移行する。
一方、膨張行程気筒のピストン停止位置が所定の適正範囲内にある場合には(ステップS101でYES)、ロックアップ(L/U)クラッチ64を締結しつつ、フォワードクラッチ67およびリバースクラッチ68を断絶する(ステップS103)。具体的には、コントロールバルブ63を制御して油路を切り換えることにより油圧発生源を電動オイルポンプ62に切り換えるとともに、各クラッチ64,67,68に対応したソレノイドバルブをオン・オフ制御することにより各クラッチを駆動させる。
そして、ロックアップクラッチ64を締結した後に、再始動不安定期間において吸気行程を迎える気筒、具体的には停止時吸気行程気筒(4番気筒)および排気行程気筒(2番気筒)のポンピングロスを低減すべく、アクチュエータ18を駆動してスロットル弁17を全開にする(ステップS104)。
そして、停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合や、バッテリー電圧が低下した場合等のエンジン再始動条件成立時(ステップS105の判定がYESのとき)には、ステップS106でピストンの停止位置に基づいて圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の空気量を算出する。つまり、上記停止位置から圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の燃焼室容積が求められ、また、エンジン停止の際には燃料カット後にエンジンが数回転してから停止するので上記膨張行程気筒も新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン停止中に圧縮行程気筒及び膨張行程気筒の筒内圧は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
なお、上記ステップS101〜S104は、この再始動成立条件の判定(ステップS105)後に実行するものであっても良いが、上記各ステップS101〜S103を予め実行しておくことにより、迅速な再始動が可能となる点で有利である。
続いて、ステップS107で、算出された圧縮行程気筒の空気量に対して所定の圧縮行程気筒1回目用空燃比(A/F=11〜14)となるように燃料を噴射するとともに、ステップS108で、当該圧縮行程気筒の燃料噴射後に燃料の気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火を行う。この場合、圧縮行程気筒1回目用空燃比はピストンの停止位置に応じてマップM1から求められる。そして、圧縮行程気筒の1回目用空燃比は略理論空燃比もしくは理論空燃比よりも多少リッチな空燃比となるように、予め上記マップM1が設定されている。
次にステップS109で、点火してから一定時間内にクランク角センサ21,22のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストンが動いたか否かを判定し、失火によりピストンが動かなかった場合は圧縮行程気筒に対して再点火を繰り返し行う(ステップS110)。
クランク角センサ21,22のエッジが検出されたとき(ステップS109の判定がYESのとき)は、ステップS106で算出した膨張行程気筒の空気量に対して所定の膨張行程気筒用空燃比となるように燃料を噴射する(ステップS111)。この場合、膨張行程気筒用空燃比はそのピストンの停止位置に応じてマップM2から求められる。そして、膨張行程気筒用空燃比は圧縮行程用の1回目の空燃比と同様に、略理論空燃比もしくは理論空燃比よりも多少リッチな空燃比となるように、予め上記マップM2が設定されている。そして、エッジ検出後所定ディレイ時間が経過してから膨張行程に対して点火を行う(ステップSS112)。上記ディレイ時間はピストンの停止位置に応じてマップM3から求められる。
さらに、ステップS113で、圧縮行程気筒のピストンが上死点の近傍に近づいた所定のタイミングで圧縮行程気筒に対して再度燃料を噴射する。この燃料噴射は、圧縮行程気筒での再燃焼のためのものではなく、気化潜熱によって圧縮行程気筒における圧縮圧力を低減するために噴射するものであり、停止位置に応じてマップM4から圧縮行程気筒2回目用燃料噴射量を求めるとともに、この噴射燃料によって自着火が発生しないように噴射時期を設定する。
ここで、エンジンの停止によって空気の流れが止まり、エンジン停止時における吸気行程気筒内に吸入された新気温度も上昇する。したがって、エンジンを効率的に正転させるためには、エンジンの始動後、当該吸入行程気筒が始めて圧縮行程を迎える際にその自着火を防止しつつ、効率的にエンジンを正転させるように制御することが求められ、当実施形態では次のような制御を実行している。
すなわち、図14に移って、水温センサ24によりエンジンの水温を検出するとともに図示しないタイマや温度センサに基づいてエンジンの停止時間や吸気温度等を検出し、この検出結果から推定される筒内温度と大気圧に基づいて、エンジンの停止時における吸気行程気筒の再始動後初回吸入空気の密度を推定し、この推定値に基づいて当該吸入行程気筒の吸入空気量を算出する(ステップS114)。
続いて、ステップS115において、吸気行程気筒での自着火を防止するため、先に推定された吸気行程気筒の筒内温度に基づいて当該吸気行程気筒用空燃比の補正値が求められる。この補正値は、筒内温度に基づいて予め実験等によって求められたマップM5から算出する。
そして、この空燃比の補正値と、ステップS114で算出された空気量とから当該吸気行程気筒に対して噴射する燃料の噴射量を算出するとともに(ステップS116)、エンジン停止時に温度が上昇した新気を気化潜熱によってその温度上昇を抑制して圧縮圧を低減するように、通常の噴射時期(吸気行程)よりも遅延させて圧縮行程で燃料を噴射する(ステップS117)。この燃料の具体的噴射時期は、エンジンの水温、エンジンの停止時間、および吸気温度等を考慮して設定され、当実施形態では圧縮行程の後半に設定されている。
さらに、エンジン停止時における吸気行程気筒が圧縮上死点を超える際にアクチュエータ18を駆動してステップS104において全開にしたスロットル弁17を閉じて全閉状態とし(ステップS118)、これによりエンジンの急峻な吹き上がりを有効に抑制してこの吹き上がりに基づく乗員の違和感や車両発進時のトルクショックを効果的に抑えることができる。
その後、すなわち、停止時吸気行程のピストンが圧縮上死点を超える所定のタイミングで、ステップS103で締結状態としたロックアップクラッチ64を断絶すべく、対応するソレノイドバルブを作動させ、必要に応じて油圧発生源を電動オイルポンプ62からオイルポンプ61に切り換える(ステップS119)。
そして、停止時吸気行程気筒のピストン4が圧縮上死点を超えた直後に点火プラグ7によって点火し(ステップS120)、エンジンの始動初期で充分な慣性力がない時期において逆トルクの発生によって始動の妨げにならないようになされている。
次に、ステップS121に移行して、スロットル弁17よりも下流の分岐吸気通路15aの吸気圧力(吸気管負圧)がエンジンの通常のアイドル運転時における吸気圧力よりも高いか否かを判定し、アイドル運転時の吸気圧力よりも高い場合には、(ステップS121でYES)、各気筒3A〜3Dに吸入される空気量を確保しつつ、過度の吹き上がりを防止する観点から、アイドル運転時のスロットル弁17の開度(例えば全開時の8%の開度)よりも小さい開度(例えば全開時の4〜5%の開度)となるようにスロットル弁17を駆動し(ステップS122)、分岐吸気通路15aの吸気圧力がアイドル運転時の吸気圧力と同程度ないし低くなるまで3A〜3Dに吸入される空気量を絞る。一方、アイドル運転時における吸気圧力と同程度ないし低いと判定した場合(ステップS121でNO)には、通常のエンジン制御に移行して終了する。
なお、図13のフローチャート中のステップS101での判定がNOのときに実行される第2再始動制御モード(スタータモータ始動モード)のルーチンの詳細については図示を省略するが、通常のエンジンの始動と同様の制御が実行される。
なお、以上説明したエンジンの始動装置は、本発明に係る始動装置が適用される装置の一実施形態であって、装置の具体的な構成等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、変形例を以下に説明する。
(1)上記実施形態では、この自動変速機構50におけるトルクコンバータ51のロックアップクラッチ64を締結することにより回転慣性体としてのタービンランナ55およびタービンシャフト59等を回転させてイナーシャを増幅するものとなされているが、回転慣性体の具体的構成はこれに限定されるものではない。例えば、図15に示すように、ロックアップクラッチ64に加えて3−4クラッチ69も締結させて回転慣性体として回転する要素を第1および第2遊星ギヤ65,66等にまで拡大してもよい(図15の太線参照)。このように構成すれば、慣性質量をさらに増大させ、これによってイナーシャ(回転慣性)を増大させることができ、その結果、回転エネルギーを低下させることなく回転速度をさらに低く抑えることができる。このように、回転エネルギーを低下させることなく回転速度をさらに低く抑えることにより回転速度が高いと増大する摩擦抵抗による回転エネルギーの損失を抑制することができ、またイナーシャも大きくなるため、エンジンの始動初期におけるエンジン回転速度の時間変化がより平滑的なものとなり、第2TDCを通過する際の当該回転速度の落ち込みをより低減することができる。
また、上記実施形態では、回転慣性体を回転させることにより慣性を増大させる慣性増幅手段として自動変速機構50を利用しているが、この慣性増幅手段の具体的構成はこれに限定されるものではなく、例えば手動変速機構を用いることもでき、さらに別途慣性の増幅に特化した機構を設けるものであってもよい。ただし、自動変速機構50等の既存の動力伝達機構を有効に利用することにより低コストで信頼性の高い慣性増幅手段を構成することができる。
(2)上記実施形態では、エンジンの始動初期からロックアップクラッチ64を締結し、再始動不安定期間の終了までその締結状態を維持するものとなされているが、この再始動不安定期間においてロックアップクラッチ64等のクラッチ手段を断続させるものであってもよく、例えば、エンジンの逆転作動後にロックアップクラッチ64を締結するものであってもよい。ただし、エンジン始動の開始前からロックアップクラッチ64を締結しておくことにより摩擦によるエネルギー損失を軽減することができ、膨張行程気筒の燃焼エネルギーを効率的に回転慣性体の回転エネルギーを通じて吸気行程気筒での圧縮エネルギーに変換することができる。
(3)上記実施形態では、エンジンの再始動の際にまず圧縮行程気筒で初回燃焼を実行してエンジンの逆転作動後に膨張行程気筒で燃焼させて正転回転するものについて説明しているが、本発明は、逆転作動を実行せずにエンジンの燃焼により発生するトルクのみによって再始動させる場合にも適用可能である。
(4)上記実施形態では、第1再始動制御モードによる自動再始動時の圧縮行程気筒のピストンが最初に上死点を迎える際の燃焼はなされず、燃料だけが噴射されるものとなされているが、当該気筒でのエンジンの逆転作動のための初回燃焼を理論空燃比よりもリーン空燃比としたリーン燃焼とすることにより、上記最初に上死点を迎える際にも燃焼させることができる。また、初回燃焼後の筒内に空気を補給するようにしてもよく、この場合、吸気弁に対する動弁機構に、少なくとも吸気弁閉時期を変更可能にするバルブタイミング可変機構を設け、エンジン再燃焼時に、圧縮行程気筒の吸気弁閉時期を通常時よりも遅らせて、下死点より所定クランク角だけ圧縮行程に入り込んだ時期となるようにしてもよい。
このようにすると、圧縮行程気筒での初回燃焼により吸気弁閉時期よりも進角側までエンジンが逆転したとき、吸気弁が開かれることにより、筒内ガスの一部と新気が入れ替わり、2回目燃焼のための新気が補給されることとなる。 なお、このような作用に加え、初回燃焼後に吸気弁が開かれると筒内の圧力が低下するため、 その後の膨張行程気筒での燃焼によるエンジン正転時に圧縮行程気筒のピストンに作用する抵抗が軽減され、再始動に有利となる。
また、この圧縮行程気筒での2回目の燃焼を実行するように構成した場合、この燃焼を圧縮自己着火による燃焼となるように制御してもよい。
(5)上記実施形態の構成に加え、排気弁に対する動弁機構に、少なくとも排気弁開時期を変更可能にするバルブタイミング可変機構を設け、エンジン停止時の膨張行程にある気筒がエンジン再始動時に最初に排気行程となるときの排気弁の開時期を通常時よりも遅らせて、略下死点で排気弁が開くようにすることが好ましい。
このようにすると、膨張行程での燃焼によるエネルギーが、略下死点まで、排気通路側に逃げることなく有効に当該気筒のピストンに作用するため、始動性が高められる。
(6)上記実施形態では、エンジンの停止時における排気行程気筒に対する、エンジン始動後最初の燃料噴射時期を吸気行程吸気行程に設定しているが、この燃料噴射時期を圧縮行程気筒の後半に設定することもできる。このように設定すれば、当該排気行程気筒のピストンが第3TDCを超える際の圧縮反力を当該燃料の気化潜熱によって低減することができ、より確実な始動性を担保することができる。
(7)図13に示す例では、エンジン再始動条件成立時に、圧縮行程気筒の初回燃焼用の燃料を噴射した後に膨張行程気筒用の燃料も噴射することにより、圧縮行程気筒の初回燃焼が失敗に終わった場合(再点火を繰り返しても成功しなかった場合)、膨張行程気筒用の燃料噴射を中止することによって無駄な燃料噴射を避けることができるようにしているが、圧縮行程気筒の初回燃焼用の燃料の噴射時期と略同時期に膨張行程用の燃料を噴射してもよい。このように、膨張行程気筒の燃料噴射時期を早めることにより、膨張行程気筒の燃料噴射から点火までに燃料の気化のための時間を稼ぐことができる。なお、圧縮行程気筒の初回燃焼が失敗に終わった場合、再始動制御モードをスタータモータ31でのアシストによる始動に変更すればよい。