図1および図2は本発明に係るエンジンの始動装置を有する4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備えている。上記エンジン本体1には、四つの気筒12A〜12Dが設けられるとともに、各気筒12A〜12Dの内部には、クランク軸3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。
上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設置されている。また、上記燃焼室14の側方には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、上記ECU2から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
また、上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられるとともに、これらのポート17,18に、吸気弁19および排気弁20がそれぞれ装備されている。上記吸気弁19および排気弁20は、図示を省略したカムシャフト等を有する動弁機構によって駆動されることにより、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように各気筒2の吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23が配設されている。このスロットル弁23の上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26とが配設されている。
また、上記エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力される上記ECU2からの制御信号に基づき、車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30(本発明にかかる回転速度検出手段に相当)から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、後述するように上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
上記ECU2には、カムシャフトに設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセルセンサ34と、エンジン油温を検出する油温検出手段35とからそれぞれ出力される各検出信号が入力されるようになっている。上記油温検出手段35は、水温センサ33により検出されたエンジン水温もしくは図外の温度センサにより検出された自動変速機の油温等に基づいてエンジン油温を間接的に検出し、あるいはエンジンに供給される油温を直接的に検出するように構成されている。
そして、ECU2は、上記各センサ25,26,30〜34および油温検出手段35からの検出信号を受け、燃料噴射弁16に対して燃料の噴射量および噴射時期を制御するための制御信号を出力するとともに、点火プラグ15に付設された点火装置27に対して点火時期を制御するため制御信号を出力し、かつ上記スロットル弁23のアクチュエータ24に対してスロットル開度を制御するための制御信号を出力するように構成されている。また、後述するように、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させるとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる制御が実行されるようになっている。
具体的には、エンジンの自動停止時に圧縮行程の途中でピストン13が停止した圧縮行程気筒で初回の燃焼を行わせることにより、そのピストン13を押し下げてクランク軸3を少しだけ逆転させる。これによってエンジンの自動停止時に膨張行程の途中でピストン13が停止した膨張行程気筒のピストン13を一旦上昇させ、その気筒内の混合気を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させるように構成されている。
上記のようにして再始動モータ等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。したがって、エンジンの自動停止時にピストン13が膨張行程の途中にある上記膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。
すなわち、図3(a),(b)に示すように、エンジンの停止時点で膨張行程および圧縮行程になる気筒では、それぞれ位相が180°CAずれているため、各ピストン13が互いに逆方向に作動し、膨張行程気筒のピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎてクランク軸3を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して上記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100°〜120°CAとなる適正範囲内にピストン13を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランク軸3を少しだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランク軸3を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる。
そこで、上記ECU2に設けられた自動停止制御手段により、図4に示すように、エンジンの自動停止条件が成立した時点t0で、エンジンの目標速度を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度よりも高い値、例えば通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブレンジ)に設定されたエンジンでは、上記目標速度(自動停止条件成立時のアイドル回転速度)を850rpm程度(自動変速機はニュートラルレンジ)に設定することにより、エンジンの回転速度Neをアイドル回転数よりも高い回転速度で安定させる制御を実行するようにしている。そして、エンジンの回転速度Neが上記目標速度に安定した時点t1で、燃料噴射を停止するとともに、気筒内空燃比をλ=1にしたときのアイドル時の吸気流量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸気流量となるようにスロットル開度Kを設定して、つまり上記時点t1の直前の燃料状態が、気筒内空燃比をλ=1ないしその付近に設定された均一燃焼状態ではスロットル弁23の開度Kを増大させ、気筒内空燃比がリーンに設定された成層燃焼状態ではスロットル弁23の開度Kをそのまま(成層燃焼時の比較的大きな開度のまま)維持することにより、燃焼ガスを掃気する掃気モードの制御を所定期間Tに亘り実行するように構成されている。
また、燃焼噴射の停止時点t1から所定期間Tが経過したことが確認された時点t2で、上記するスロットル弁23を閉止することにより、エンジンの気筒12A〜12Dに吸入される吸気流量を減少させた後、後述するようにエンジン回転速度Neの低下度合に対応させてオルタネータ28の発電量Geを調節するとともに、エンジンの停止直前に必要に応じて上記スロットル弁23の開度Kを調節することにより、予め行った実験結果等に基づいて設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neを低下させる制御を実行するように構成されている。
上記のようにエンジンを自動停止させる際に、燃料噴射の停止時点t1から、クランク軸3やフライホイール等が有する運動エネルギーが摩擦による機械的な損失や、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランク軸3は惰性で数回転し、4気筒4サイクルのエンジンでは10回前後の圧縮上死点を迎えた後に停止する。具体的には、図4に示すように、上記気筒12A〜12Dが圧縮上死点を迎える度にエンジンの回転速度Neが一時的に落ち込んだ後に、圧縮上死点を超えた時点で再び上昇するというアップダウンを繰り返しながらエンジン回転速度Neが次第に低下する。
そして、最後の圧縮上死点を超えた時点t4の後に圧縮上死点を迎える気筒では、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が押し返されてクランク軸3が逆転する。このクランク軸3の逆転によって膨張行程気筒の空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒のピストン13が下死点側に押し返されてクランク軸3が再び正転し始め、このクランク軸3の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる。このピストン13の停止位置は、上記圧縮行程気筒および膨張行程気筒における圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦等の影響を受け、上記最後の圧縮上死点を超えた時点t4のエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Neの行程によっても変化することになる。
したがって、エンジンが自動停止する際に膨張行程にある膨張行程気筒のピストン13を再始動に適した上記適正範囲R内に停止させるためには、まず上記膨張行程気筒および圧縮行程にある圧縮行程気筒の圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒の圧縮反力が圧縮行程気筒の圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。このために、本発明では、エンジンの自動停止動作の初期に、上記スロットル弁23の開度Kを大きな値に設定して吸気流量を充分に確保した後、所定時間Tが経過した時点2で、スロットル弁23の開度Kを低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
また、エンジンの自動停止期間中においてエンジンの回転速度Neが低下する過程で、図5に一例を示すように、各気筒12A〜12Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)neと、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒のピストン停止位置との間に明確な相関関係がある。このため、図4に示すように、燃料噴射を停止した時点t1の後にエンジンの回転速度Neが低下する過程で、各気筒のピストン13が圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度、つまり上死点回転速度neをそれぞれ検出し、この上死点回転速度neの検出値に応じてオルタネータ28の発電量を制御するとともに、スロットル弁23の閉止時期を調節することにより、エンジン回転速度Neの落ち込み度合を調節することが可能である。
すなわち、図5は、上記のようにエンジンの回転速度Neが所定速度となった時点t1で、燃料噴射を停止するとともに、その後の所定期間Tに亘りスロットル弁23を開弁状態に維持するようにして、惰性により回転するエンジンの各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度neを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒のピストン位置を調べ、このピストン位置を縦軸に取るとともに、上記エンジンの上死点回転速度neを横軸に取って、両者の関係をグラフ化したものである。この作業を繰り返してエンジンの停止動作期間中における上記上死点回転速度neと、膨張行程気筒におけるピストン停止位置との相関関係を示す分布図が得られることになる。
上記の分布図から、エンジンの停止動作期間中における上死点回転速度neと膨張行程気筒におけるピストン停止位置と間に所定の相関関係が見られ、図5に示す例では、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度neがハッチングで示す範囲内にあれば、ピストン13の停止位置がエンジンの再始動に適した範囲R(圧縮上死点後の100°〜120°CA)に入ることが分かる。特に、エンジンが停止状態となる前の2番目の上死点回転速度neについてみれば、図6に示すように、上記上死点回転速度neが略280rpm〜380rpmの範囲内にあるとともに、約320rpmを境にしてそれ以下の低回転側では、上記上死点回転速度neが低下するのに伴ってピストン停止位置が徐々に上死点寄りに変化している。一方、上記上死点回転速度neが320rpm以上の高回転側では、この上死点回転速度neの高低に拘わらず、ピストン13の停止位置が概ね一定になり、略適正範囲R内に入ることが分かる。
上記のような特徴的な分布傾向が見られるのは、エンジンの上死点回転速度neが320rpm以上の高回転側にあると、エンジン停止時の膨張行程気筒および圧縮行程気筒にそれぞれ充分な量の空気が充填され、この空気の圧縮反力によってピストン停止位置が行程の中央寄りに集中するためであると考えられる。なお、上記320rpm以下の低回転側でピストン停止位置が左下がりの分布状態となるのは、各気筒内で往復動するピストン13が圧縮上死点側で反転した後、摩擦等により減速されて行程中央まで戻ることができずに停止するためであると考えられる。
一方、燃料噴射を停止する前にスロットル弁23を開放操作することなく、これを閉止状態に維持した場合には、図6に破線で示すように、一様な右肩上がりの分布状態となり、エンジンの上死点回転速度neの高低に応じてピストン13の停止位置が変化することになる。これは、スロットル弁23を閉じたままに維持すると、吸気負圧が大きい(吸気の圧力が低い)状態に維持され、エンジンの停止後に膨張行程気筒および圧縮行程気筒になる気筒の圧縮反力が小さくなるために、エンジンの回転速度(回転慣性)と摩擦との影響が相対的に大きくなるからである。
したがって、エンジンの再始動に適した位置にピストン13を停止させるとともに、各気筒12A〜12Dの掃気性を確保するため、図4に示すように、燃料噴射を停止した時点t1から所定時間Tが経過するまでの間は、スロットル弁23の開度Kを比較的大きな値(例えば全開の30%の開度)に設定して吸気圧力の低下を防止するようにしている。また、上記自動停止制御の実行時におけるエンジン油温に応じて上記スロットル弁23を閉止操作する時期を変化させることにより、エンジンの回転抵抗に対応してエンジン回転数Neの低下度合が変動した場合においても、各気筒12A〜12D内に適正量の空気が導入されるようにしている。
すなわち、図7に示すように、エンジン油温Otが低い場合には、高い場合に比べてエンジンの回転抵抗Pfが大きくなる傾向があり、特にエンジン油温Otが60°未満となると、このエンジン油温Otが低くなるのに対応して回転抵抗Pfが顕著に上昇し、これに起因してエンジン油温Otが60°以上となる通常時に比べ、エンジンが停止状態となるまでの期間が短くなる傾向がある。このため、エンジンが暖機状態となった直後である等によりエンジン油温Otが低い場合には、これに対応して上記燃料噴射の停止後にスロットル弁23を閉止操作する時期を早めることにより、エンジンの停止時に圧縮行程となる気筒内に導入される空気量が過度に多くなるのを防止するようにしている。
また、当実施形態では、燃料噴射後に所定時間が経過した時点t3でエンジンの回転速度に対応させてオルタネータの発電量Geを制御することにより、予め行った実験等に基づいて設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度を低下させるようにしている。さらに、油温検出手段35により検出されたエンジン油温Otが低く、エンジンの回転抵抗が大きいことに等に起因してエンジンが早期の停止状態なる傾向がある場合には、エンジンが最後の圧縮上死点を超えた時点t4で吸気流量の増大側に上記スロットル弁23を操作することにより、エンジンの停止時点で吸気行程となる気筒のポンピングロスを低減するように構成している。
上記のようにして最後の圧縮上死点を通過した時点t4でクランク軸3、フライホイール、ピストンおよびコネクティングロッド等が有する運動エネルギーや圧縮行程気筒で圧縮された空気が有する位置エネルギー等が、その後に作用する摩擦損失等と見合うものとなって、エンジンの停止状態で膨張行程となる気筒のピストン13がエンジンの再始動に適した上記範囲R内に停止することになる。
上記ECU2の自動停止制御手段によりエンジンを自動停止させる際の制御動作を図8および図9に示すフローチャートに基づいて説明する。この制御動作がスタートすると、まず各種センサ類から出力された検出信号に基づいてエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、ブレーキスイッチのON状態が所定時間に亘り継続し、かつバッテリー残量が予め設定された基準値以上であり、車速が所定値(例えば10km/h)以下の状態であること等が確認された場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定され、上記要件の一つでも満たされていない場合には、エンジンの自動停止条件が成立していないと判定される。
上記ステップS1でYESと判定されてエンジンの自動停止条件が成立したことが確認された場合には、自動変速機のシフトレンジをニュートラルに設定して無負荷状態とするとともに(ステップS2)、EGR通路(図示せず)に設けられたEGR弁(図示せず)を閉弁して、排気還流を停止させ(ステップS30)、エンジン回転速度Neの目標値(目標速度)を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度よりも高い値N1、例えば850rpm程度に設定する(ステップS3)。また、ブースト圧Btが例えば−400mmHg程度に設定された目標圧P1なるようにスロットル弁23の開度Kを調節(スロットル弁23を開弁方向に操作)するとともに(ステップS4)、吸気行程で噴射された燃料を均一燃焼させてエンジンの回転速度Neを目標速度N1とするための点火時期のリタード量を算出する(ステップS5)。これにより、上記ブースト圧Btを目標圧P1とするためにスロットル開度Kがフィードバック制御されるとともに、エンジンの回転速度Neを目標速度N1とするために点火時期のリタード量がフィートバック制御されることになる。
なお、上記ステップS1において、エンジンの自動停止条件の判定を、車速が10km/h以下に低下した時点で実行するようにしているので、エンジンの自動停止条件成立時のアイドル回転速度を、エンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度(例えば、自動変速機のドライブレンジ状態において650rpm)よりも高い値(850rpm)に設定でき、エンジン回転速度が上記通常のアイドル回転速度(650rpm)に低下する前に、上記ステップS2およびステップS3が実行できる。よって、一旦、通常のアイドル回転速度まで低下したエンジン回転速度を目標速度N1(850rpm)まで上昇させる必要がなく、運転者に対して、エンジン回転速度の上昇に伴う不快感を与えることがない。
また、エンジンの自動停止条件が成立した時点t0で、上記ステップS2の自動変速機のシフトレンジがドライブ状態(Dレンジ)からニュートラル状態(Nレンジ)にシフトされることにより、自動変速機の負荷が軽減されるようになり、かつ上記ステップS3によってエンジンの目標速度がN1に設定されるため、図4に示されるように、エンジン回転速度Neが、自動停止条件の成立時点t0から少し上昇するようになる。
次いで、燃料噴射の停止条件(燃料カット条件)が成立したか否か、具体的にはエンジン回転速度Neが目標速度N1となるとともに、ブースト圧Btが上記目標圧P1となったか否かを判定し(ステップS6)、NOと判定された場合には、ステップS4に戻って上記制御動作を繰り返す。上記ステップS6でYESと判定された時点t1で、オルタネータ28の発電量Geを0に設定して発電を停止させた後(ステップS7)、燃料噴射を停止させるとともに(ステップS8)、スロットル弁23を開放操作してスロットル開度Kを例えば全開の30%程度に設定する(ステップS9)。
また、上記油温検出手段35により検出されたエンジン油温Otに基づき、燃料噴射の停止時点t1で開放操作したスロットル弁23を開放状態に維持する所定期間Tを計時するためのタイマーのカウント値を設定する(ステップS10)。このタイマーのカウント値は、エンジン油温Otをパラメータとしたマップから読み出されることによって設定され、油温検出手段35により検出されたエンジン油温Otが低い程、上記所定時間Tが長い値に設定されるようになっている。
そして、上記タイマーのカウント値をダウンカウントした後(ステップS11)、このタイマーがタイムアップしたか否かを判定することにより(ステップS12)、上記燃料噴射の停止時点t1から上記所定時間Tが経過してスロットル弁23の閉止操作時期となったか否かを判別する。このステップS12でNOと判定された場合には、上記ステップS11に移行して再度、タイマーのダウンカウントを行い、ステップS12でYESと判定されて上記所定時間Tが経過したことが確認された時点t2で、スロットル弁23を閉止状態とする(ステップS13)。この結果、上記ステップS9でスロットル弁23が開放操作されて大気圧に近付くように上昇したブースト圧Btが、上記スロットル弁23の閉止操作に応じて所定の時間差をもって低下し始めることになる。
次いで、ピストン13が圧縮上死点を通過するときのエンジン回転速度(エンジンの上死点回転速度)neが、予め設定された第1範囲α内にあるか否かを判定する(ステップS14)。この第1範囲αは、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neが低下している過程で、例えばエンジンが停止状態となる前の4番目の圧縮上死点を通過する時点t4におけるエンジン回転速度に基づいて設定された値であり、この実施形態では480rpm〜540rpmに設定されている。上記ステップS14でYESと判定され、上記上死点回転速度neが第1範囲α(480rpm〜540rpm)内にあることが確認された場合には、その時点t4の上死点回転速度neに対応したオルタネータ28の発電量Geの制御を実行する(ステップS15)。すなわち、図10に示すように、エンジンの上死点回転速度neが高い程、発電量Geが大きな値に設定されたマップから上死点回転速度neに対応した発電量Geを読み出し、この発電量Geを目標値に設定して所定期間、例えば約300ms程度の期間に亘りオルタネータ28を作動させることにより、オルタネータ28の発電量Geを制御する。
その後、エンジンの上死点回転速度neが所定値N3以下であるか否かを判定する(ステップS16)。この所定値N3は、予め設定された基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neが低下している過程で最後の圧縮上死点を超える際のエンジン回転速度に対応した値であり、例えば260rpm程度に設定されている。また、各気筒が順次圧縮上死点を通過する各時点のブースト圧Btが検知され、その値が記憶される。
上記ステップS16でNOと判定された場合には、ステップS14に戻って上記制御動作を繰り返す。上記ステップS16でYESと判定されてエンジンの上死点回転速度neが上記所定値N3以下になったことが確認された時点(t4)で、エンジンが最後の圧縮上死点を通過したと判断され、この時点t4で、その1回前の圧縮上死点を通過する際のブースト圧Btを読み出し、この値をエンジン停止前から2番目の圧縮上死点におけるブースト圧であると決定する(ステップS17)。
そして、エンジンが最後の圧縮上死点を迎える時点t4における上死点回転速度ne(以下、最終上死点回転速度ne1という)と、停止前から2番目の圧縮上死点におけるブースト圧Bt(以下、ブースト圧Bt2という)とに基づき、ピストン13が行程の後期寄り位置(膨張行程気筒では下死点寄りの位置)で停止する傾向があるか否かを判定する(ステップS18)。具体的には、最終上死点回転速度ne1が所定回転速度N4(例えばN4=200rpm)以上であり、かつ上記ブースト圧Bt2が所定圧力P2(例えばP2=−200mmHg)以下であるとき(真空側であるとき)に、行程の後期寄りの位置で停止する傾向が大である(ステップS18でYES)と判定、つまり膨張行程気筒におけるピストン停止位置が、圧縮上死点後100°〜120°CAとなる適正範囲Rに対して120°CAに近い位置で停止する傾向が大であると判定される。
上記ステップS18でNOと判定された場合には、エンジンが上記のように行程の後期寄りの位置で停止する傾向が顕著ではなく、比較的に行程の前期寄りの位置、つまり膨張行程気筒におけるピストン停止位置が、圧縮上死点後100°〜120°CAとなる適正範囲Rに対して100°CAに近い位置または100°CA以下で停止する傾向がある。そこで、ピストン13を上記適正範囲R内により確実に停止させることができるように、スロットル弁23を開放操作する。例えば全開の40%程度に設定された第1開度K1となるようにスロットル弁23の開度Kを増大させることにより(ステップS19)、吸気流量を増加させる。これにより、吸気行程気筒の吸気抵抗が減少し、エンジンが行程の後期寄りの位置で停止し易くなり、結果的に膨張行程気筒におけるピストン13の停止位置が適正範囲R内の下限(100°CA)を超えることが防止され、上記適正範囲R内で停止する確率を効果的に向上させることができる。
一方、上記ステップS18でYESと判定された場合には、エンジンの回転慣性が大きく、また圧縮行程気筒への最終吸気行程における吸気流量が少なく、圧縮反力が小さい状態にあって、ピストン13が行程の後期寄りの位置で停止し易い条件が既に揃っている。そこで、スロットル弁23の開度Kを、第2開度K2(上記ステップS7で閉弁したときのスロットル弁開度に近い開度、例えばK2=5%程度)となるようにスロットル弁23の開度Kを調節する(ステップS20)。上記第2開度K2は、エンジンの特性等に応じ、さらに小開度、あるいは閉止状態としてもよい。このようにして吸気行程気筒に適度の吸気抵抗が生じ、ピストン13の停止位置が上記適正範囲Rを超えてさらに後期側となるという事態の発生を抑制することができる。
次いで、エンジンが停止状態になったか否かを判定し(ステップS21)、YESと判定された時点で、後述するように上記クランク角センサ30,31の検出信号に基づいてピストン13の停止位置の検出する制御を実行した後に(ステップS22)、制御動作を終了する。
図11は、上記フローチャートのステップS22において実行されるピストン停止位置の検出制御動作を示している。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かする(ステップS31)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1,CA2の位相の関係が、図12(a)のようになるか、それとも図12(b)のようになるかを判定してエンジンが正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転時には、図12(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転時には、図12(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS31の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS32)、ステップS31の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS33)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS34)。
上記のようにして自動停止状態となったエンジンを再始動させる際の制御動作を図13に示すフローチャートおよび図13および図14に示すタイムチャートに基づいて説明する。図13および図14では、エンジンの停止時に第1気筒12Aが膨張行程気筒となるとともに、第3気筒12Cが圧縮行程気筒となり、第4気筒2Dが吸気行程気筒となり、第2気筒12Bが排気行程気筒となった例を示している。
まず、予め設定されたエンジンの再始動条件が成立したか否かを判定し(ステップS101)、NOと判定されてエンジンの再始動条件が成立していないことが確認された場合には、そのままの状態で待機する。そして、上記ステップS101でYESと判定され、停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われ、あるいはバッテリー電圧が低下する等により、エンジンの再始動条件が成立したことが確認された場合には、ピストン13の停止位置に基づいて圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒内12Aの空気量を算出する(ステップS102)。すなわち、上記ピストン13の停止位置から圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの燃焼室容積が求められ、またエンジン停止の際には燃料噴射の停止後にエンジンが数回転してから停止するので膨張行程気筒12Aも新気で満たされた状態にあり、かつエンジン停止中に圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの内部は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
続いて、上記ステップS102で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対して所定の1回目用空燃比となるように燃料を噴射させ(ステップS103)、その後、上記ステップS102で算出された膨張行程気筒12A内の空気量に対して所定の空燃比となるように燃料を噴射する(ステップS104)。この場合、圧縮行程気筒12Cの1回目用空燃比および膨張行程気筒12A用の空燃比はピストンの停止位置に応じてマップM1,M2から求められる。圧縮行程気筒12Cの1回目用空燃比は理論空燃比よりもリッチな空燃比(空燃比11〜14の範囲)となり、膨張行程気筒12Aの空燃比は略理論空燃比もしくはそれより多少リッチな空燃比となるように、予め上記各マップM1,M2が設定されている。
次に圧縮行程気筒12Cの燃料噴射後に燃料の気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒12Cに対して点火を行う(ステップS105)。そして、点火してから一定時間内にクランク角センサのエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたか否かを判定し(ステップS106)、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことが確認された場合には、上記圧縮行程気筒12Cに対して再点火を繰り返し行う(ステップS107)。
上記ステップS106でYESと判定されてクランク角センサのエッジが検出された場合には、エッジ検出後に所定のディレイ時間が経過してから、つまりエンジンの逆転動作が終了する頃までの時間が経過してから、膨張行程気筒12Aに対して点火を行う(ステップS108)。上記ディレイ時間はピストン13の停止位置に応じてマップM3から求められる。さらに、所定クランク角(圧縮行程気筒12Cの2回目用噴射時期)となった時点で、圧縮行程気筒12Cに対して再度燃料を噴射する(ステップS109)。この場合、上記停止位置に応じてマップM4から圧縮行程気筒12Cの2回目用空燃比を求め、これらに基づいて燃料噴射量を演算するとともに、マップM5から、圧縮行程気筒12Cの適正な燃料噴射時期、すなわち、燃料噴射による気化潜熱の作用(燃料の気化によって気筒内のガス温度を下げる)が、圧縮圧力の低下に寄与する適正な噴射時期(例えば、圧縮行程の中期から後期前半の適正な時期)を設定する。
なお、圧縮行程気筒12Cの2回目用空燃比は、気化潜熱の効果が大きくなる適正なリッチ空燃比に設定されており、この圧縮行程気筒12Cの再度の燃料噴射によって、圧縮行程気筒12Cの圧縮上死点付近の圧縮反力を低下させ、膨張行程気筒12Aの燃焼(上記ステップS108の点火によってもたらされた燃焼)による圧縮上死点の乗り越えを充分に可能とする。このような始動時の制御が完了すれば、通常制御に移行する(ステップS110)。
上記の再始動制御が実行されることにより、図14および図15に示すように、先ず圧縮行程気筒12C(#3気筒)において燃焼空燃比が理論空燃比よりも多少リッチとされて燃焼(図14中の(1))が行われ、この燃焼(1)による燃焼圧(図15中のa部分)で、圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動され、それに伴って膨張行程気筒12A(#1気筒)のピストン13が上死点に近付くことにより、当該気筒内の空気が圧縮されて筒内圧が上昇する(図15中のb部分)。そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近付いた時点で当該気筒に対する点火が行われて、予め当該気筒に噴射されている燃料が燃焼し(図14中の(2))、その燃焼圧(図15中のc部分)でエンジンが正転方向に駆動される。さらに、圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで燃料が噴射されることにより(図15中の(3))、この圧縮行程気筒12Cでは燃焼させないものの、燃料噴射による気化潜熱作用によって該圧縮行程気筒12Cの圧縮圧力を低下させる(図15中のd部分)。これにより、上記膨張行程気筒12Aでの燃焼によって始動開始から2番目の圧縮上死点を超えるまで、すなわち、吸気行程気筒12D(#4気筒)で燃焼が行われてエンジン駆動力を付与するまで、のエンジン駆動力が確保される。
この場合、圧縮行程気筒12Cの空燃比が多少リッチとされたことにより、エンジンの駆動力が高められて逆転動作が充分に行われ、膨張行程気筒12Aの気筒内の圧力が高められて、充分な燃焼トルク(エンジンの駆動力)が生成できるようになる。
また、圧縮行程気筒12Cにおいて圧縮圧力を低下させるための燃料噴射を行うことで、膨張行程気筒12Aの燃焼による始動を確実なものとする。
さらに、吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射時期を、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(例えば圧縮行程の中期以降)に設定しているため(図14中の(4))、該吸気行程気筒12Dの圧縮行程での(圧縮上死点前での)自着火が防止され、また、該吸気行程気筒12Dの点火時期が圧縮上死点以降に設定されているため、圧縮上死点前での燃焼が防止され、該吸気行程気筒12Dにおいて、圧縮反力を低下させつつ、正転方向へのエンジン駆動効率を高めることができる。
その後は、通常制御により各気筒で順次燃焼(図14中の(5)、(6))が行われてエンジンの再始動が完了する。
上記のように予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジンの運転を継続させる燃料噴射を停止してエンジンを自動的に停止させるとともに、自動停止状態にあるエンジンの再始動条件が成立したときに、膨張行程で停止状態にある気筒に燃料を噴射して点火、燃焼を行わせることによりエンジンを再始動させるように構成されたエンジンの始動装置において、エンジンの気筒12A〜12Dに吸入される吸気流量を調節するスロットル弁23からなる吸気流量調節手段と、エンジン油温を検出する油温検出手段35と、エンジンの自動停止動作の初期に、吸気流量がエンジン運転の継続に必要な最小限の吸気流量よりも所定量多い状態となるように上記スロットル弁23の開度Kを設定して気筒内の燃焼ガスを掃気する掃気モードの制御を実行するとともに、燃料噴射の停止時点t1から所定時間Tが経過した後に、上記スロットル弁23を吸気流量の減少側に操作する自動停止制御手段とを設け、エンジンを自動停止させる際に、上記油温検出手段35により検出されたエンジン油温Otが低い場合には、上記吸気流量調節手段を吸気流量の減量側に操作する時期を、エンジン油温Otが高い場合に比べて早めるように構成したため、エンジンの自動停止時に燃焼ガスの掃気性を効果的に向上させることができるとともに、エンジンの停止時点で圧縮行程となる気筒に導入される空気量が過度に多くなるのを防止することにより、ピストン13をエンジンの再始動に適した範囲R内、つまり行程中央よりもやや下死点側に片寄った位置に停止させることができる。
すなわち、エンジン油温Otに応じてエンジンの回転抵抗が変動すると、これに対応して燃料噴射の停止後におけるエンジン回転速度Neの低下度合が変化し、例えばエンジン油温Otが60°以上となった通常時には、図16の実線で示すようにエンジン回転速度Neが緩やかに低下するのに対し、エンジン油温Otが60°未満である低温時には、図16の破線で示すようにエンジンの回転速度Neが早期に低下する傾向がある。したがって、上記エンジン油温Otの低温時に、実線で示す通常時と同じ時点t2でスロットル弁23を閉止操作してスロットル開度Kを低減させると、エンジンの停止時に圧縮行程となる気筒(圧縮行程気筒)が吸気行程に移行する時点、つまりピストン13が最後の圧縮上死点を超える時点t4′における吸気圧力αが、通常時の吸気圧力βに比べて極端に高くなって通常時よりも多くの空気が上記圧縮行程気筒に導入される。この結果、エンジンの停止時点で圧縮行程となる気筒内に導入される空気量が、膨張行程となる気筒よりも多くなり、膨張行程気筒のピストン13をエンジンの再始動に適した位置に停止させることが困難となる。
これに対してエンジン油温Otの低温時に、スロットル弁23の閉止操作してスロットル開度Kを低減させる時点t2′を図16の破線で示すように、通常時よりも早く設定すると、ピストン13が最後の圧縮上死点を超える時点t′4では、吸気圧力α′が通常時の吸気圧力βと同程度に低下した状態となる。このため、エンジンの回転抵抗が大きいことに起因してエンジンの停止時期が通常時よりも早くなった場合においても、上記圧縮行程気筒に導入される空気量が過度に多くなるという事態の発生を効果的に防止し、エンジンの停止時点で膨張行程となる気筒のピストン13をエンジンの再始動に適した位置、つまり行程中央よりもやや下死点側に片寄った位置に停止させることができる。
なお、エンジン油温Otが高い場合と低い場合とで、スロットル弁23を閉止状態とする時期を二段階に切り換えることも可能であるが、エンジンを自動停止させる際に、油温検出手段35により検出されたエンジン油温Otが低い程、吸気流量の減少側にスロットル弁23からなる吸気流量調節手段を操作する時期が、より早められるように、エンジン油温Otの検出値に応じて上記スロットル弁23からなる吸気流量調節手段を吸気流量の減少側に操作する時期を設定するように構成した場合には、上記エンジン油温Otに応じて種々の値に変化するエンジンの回転抵抗に応じ、ピストン13が最後の圧縮上死点を超える時点t4,t4′における吸気圧力を適正に調節することができるため、ピストン13をエンジンの再始動に適した位置に停止させる制御を正確に実行できるという利点がある。
また、上記実施形態に示すように、油温検出手段35によりエンジン油温を直接または間接的に検出し、このエンジン油温Otが低い程、エンジンの回転抵抗が大きいとみなして、上記吸気流量調節手段を吸気流量の減少側に操作する時期を早めるように構成した場合には、簡単な構成で上記エンジンの回転抵抗を正確に推定し、この推定値に基づいて吸気流量の減少側に上記吸気流量調節手段を操作する時期を設定することにより、ピストン13が最後の圧縮上死点を超える時点t4における吸気圧力を適正に調節できるという利点がある。
なお、エンジンを自動停止させる際に、上記油温検出手段35からなる回転抵抗検出手段により検出されたエンジンの回転抵抗に基づいて燃料噴射の停止時点からエンジンが停止状態となるまでの間にピストン13が圧縮上死点を超える回数を推定し、この推定値が小さい程、吸気流量を減少させる操作時期を早めるように構成してもよい。例えば、エンジンを自動停止させる際に、油温検出手段35からなる回転抵抗検出手段により検出されたエンジンの回転抵抗と、燃料噴射の停止時点t1からエンジンが停止状態となるまでの間にピストン13が圧縮上死点を超えた回数の計測値とを記憶する記憶手段を備え、燃料噴射の停止後に現時点の回転抵抗に対応した上記計測値を記憶手段から読み出し、この値に基づいてエンジンが停止状態となるまでの間にピストンが圧縮上死点を超える回数を推定し、この推定値に基づいて吸気流量を減少させる操作時期を変化させるように構成してもよい。
上記のように構成した場合には、記憶手段に記憶された過去のデータに基づき、エンジンを自動停止させる際に、上記油温検出手段35からなる回転抵抗検出手段により検出されたエンジンの回転抵抗に基づいて燃料噴射の停止時点t1からエンジンが停止状態となるまでの間に超える圧縮上死点の回数を迅速かつ適正に推定することができる。そして、推定値に基づいて吸気流量の減少側に上記スロットル弁23からなる吸気流量調節手段を操作する時期を設定することにより、ピストン13が最後の圧縮上死点を超える時点t4における吸気圧力を適正に調節してピストン13をエンジンの再始動に適した位置に停止させる制御を正確に実行できるという利点がある。
また、上記実施形態では、例えばエンジンを自動停止させないときの通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブレンジ)に設定されたエンジンにおいて、エンジンの目標速度N1(自動変速機ニュートラルレンジ)が、上記通常のアイドル回転速度よりも高い値、例えば850rpm程度になった時点t2で燃料噴射を停止させるように構成したため、予め設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度Neを低下させるエンジンの自動停止制御を適正に実行することにより、エンジンの再始動に適した範囲R内にピストン13を正確に停止させることができる。
特に、上記実施形態に示すように、エンジンの自動停止条件が成立した時点t0で、エンジン回転速度Neを上記の値(850rpm程度)とする回転速度フィードバック制御を行い、アイドル回転速度よりも高い回転速度で推移させるとともに、吸気負圧Btが一定値となるように上記スロットル弁23からなる吸気流量調節手段を制御してエンジンの運転状態を安定させた状態で、燃料噴射を停止させるように構成した場合には、予め設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度Neを低下させるエンジンの自動停止制御を、より適正に実行できるという利点がある。
さらに、上記実施形態では、エンジンの自動停止条件が成立した時点t0で、自動変速機をニュートラル状態とするように構成したため、自動変速機を介してエンジン本体1に入力される外乱によるエンジン回転速度Neの変動を抑制した状態で、燃料噴射を停止してエンジンの回転速度Neを所定の基準ラインに沿って低下させることにより、エンジンの再始動に適した範囲R内にピストン13を停止させる自動停止制御を適正に実行できるという利点がある。
また、上記実施形態では、ピストン13が最後の圧縮上死点を迎える時点t4における上死点回転速度ne1に基づき、ピストン13が行程の後半寄りの位置で停止する傾向があるか否かを判定し、その判定結果に応じてスロットル弁23の開度Kを調節するように構成したため、エンジンの停止直前におけるピストン13のストローク量を適正に調節してエンジンの再始動に適した範囲R内にピストン13を停止させる自動停止制御を適正に実行することができる。
例えば最終上死点回転速度ne1が200rpm以上であり、かつ上記ブースト圧Bt2がP2=−200mmHg以下である条件を満たすか否かによってピストン13が行程の後半寄りの位置で停止する傾向があるか否かを判定し、NOと判定された場合には、スロットル弁23の開度Kを40%程度に予め設定された第1開度に設定して、吸気行程気筒の吸気抵抗を減少させることにより、膨張行程気筒のピストン13の位置が適正範囲Rの下限を超えた状態となるのを効果的に防止することができる。一方、上記判定結果がYESの場合には、スロットル弁23の開度Kを5%程度の第2開度に設定して、吸気行程気筒に適度の吸気抵抗を生じさせることにより、ピストン13の停止位置が上記適正範囲Rを超えてさらに後期側となるのを防止できるという利点がある。
なお、エンジンを自動停止させる際に、ピストン13が最後の圧縮上死点を迎える時点t4における上死点回転速度ne1と、エンジンが停止状態となる前の2番目の圧縮上死点時におけるブースト圧Bt2とに基づいて上記時点t4におけるスロットル弁23の開度Kを制御するように構成した上記実施形態に代え、上記油温検出手段35からなる回転抵抗検出手段により検出されたエンジンの回転抵抗が大き場合に、吸気流量の減少側に吸気流量調節手段を操作する時期を早める制御を実行するとともに、これに対応してピストン13が最後の圧縮上死点を超えた時点t4で、吸気流量の増大側に上記吸気流量調節手段を操作して吸気行程にある気筒に対する吸入空気量を増やす制御を自動的に実行することにより、エンジンの停止直前におけるピストン13のストローク量を増大させて上記膨張行程気筒のピストン13をエンジンの再始動に適した範囲R内に停止させるように構成してもよい。
また、エンジン水温を検出する水温センサ33からなる水温検出手段の検出信号に基づいてエンジンの未暖機状態から暖機状態への移行時点を判別するとともに、この移行時点からの経過時間を計測する計測手段と、エンジンの自動停止動作の初期に、上記吸気流量調節手段を吸気流量の増大側に操作するとともに、燃料噴射を停止した時点t1から所定時間が経過した後に上記吸気流量調節手段を吸気流量の減少側に操作する自動停止制御手段とを設け、エンジンを自動停止させる際に、上記計測手段により計測された経過時間が短い場合には、この経過時間が長い場合に比べて上記吸気流量調節手段を吸気流量の減少側に操作する時期を早めるように構成してもよい。
すなわち、エンジンの暖機時には、図17に示すように、エンジン水温Wtは比較的早期に上昇するのに対し、エンジン油温Otはエンジン水温Wtに比べて緩やかに上昇する傾向があるため、上記エンジン水温Wtの検出値に基づいてエンジンの暖機が完了したと判定された時点Bの直後にエンジンの自動停止制御を実行した場合には、エンジン油温Otが低く、エンジンの回転抵抗が大きいために、エンジンが停止状態となる時期が通常時に比べて早くなる傾向がある。したがって、エンジンの自動停止制御の実行時に、燃料噴射が停止された後に所定時間Tが経過してエンジンの回転速度Neがある程度低下した時点t2で、上記吸気流量を減少させる方向に上記スロットル弁23からなる吸気流量調節手段を操作する時期を、エンジンが未暖機状態から暖機状態に移行した時点からの経過時間Cに応じて変化させ、この経過時間Cが短く、エンジン油温Otが低いことに起因してエンジンが停止状態となる時期が通常時よりも早くなる傾向がある場合に、エンジンの停止時点で圧縮行程となる気筒に導入される空気量が過度に多くなるのを効果的に防止することにより、ピストンをエンジンの再始動に適した位置に停止させることができる。
なお、上記計測手段により計測されたエンジンの未暖機状態から暖機状態への移行時点からの経過時間が、予め設定され基準時間よりも短いか否かを判定し、短いと判定された場合にのみ、上記吸気流量を減少させる方向にスロットル弁23からなる吸気流量調節手段を操作する時期を通常時に比べて早めることにより、エンジン油温Otが低いことに起因してエンジンが停止状態となる時期が通常時よりも早くなる傾向がある場合に、エンジンの停止時点で圧縮行程となる気筒に導入される空気量が過度に多くなるのを防止するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、エンジンを自動停止させる際に、エンジンの回転速度Neが予め設定された基準速度N2となって燃料噴射が停止された後に、所定時間が経過したことが確認された時点t3でエンジンの回転速度を検出し、この回転速度に対応した発電量Geを図10に示すマップから読み出す等により、上記回転速度が大きい場合には、小さい場合に比べてオルタネータ28の発電量Geを大きな値に設定するように構成したため、予め設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度Neを低下させるようにオルタネータ28の発電量Geを適正に制御することができる。
具体的には、エンジンが停止状態となる前の2番目の圧縮上死点(最後の圧縮上死点の一つ前の圧縮上死点)時におけるエンジンの回転速度ne等が図5のハッチングで示す範囲内に収まるように、エンジンが停止状態となる前の4番目の上死点回数neに基づいてオルタネータ28の発電量Geを調節し、エンジンの回転抵抗を変化させることにより、エンジンの停止時点で膨張行程となる気筒のピストン13をエンジンの再始動に適した位置に停止させることができる。なお、エンジンの回転速度Neが360rpmよりも低いと、上記オルタネータ28の発電が充分に行われず、その発電量Geの目標値を増大させてもクランク軸3の回転抵抗をそれ程、増大させることができず、エンジンの回転速度Neを効果的に調節することができないため、上記エンジンの自動停止制御時における初期段階で、オルタネータ28の発電量Geを増大させる必要がある。
また、上記実施形態に示すように、ピストン13が圧縮上死点を通過してエンジンの回転速度Neが一時的に安定した状態となる時期に検出されたエンジンの上死点回転速度neに基づき、オルタネータ28の発電量Geを制御するように構成した場合には、この発電量Geを適正に制御してエンジン回転速度Neの低下度合を正確に調節できるという利点がある。
なお、上記実施形態では、エンジン再始動時において、圧縮行程気筒12cに対して、1回目用空燃比を理論空燃比以下のリッチ空燃比に設定した例を説明したが、これに限らず、1回目用空燃比を理論空燃比よりも所定量リーンに設定して余剰酸素を気筒内に残し、エンジンが正転方向に転じた後の本来の圧縮行程において、圧縮上死点直後に2回目の燃焼が行えるように燃料を噴射させ、圧縮上死点直後に点火するようにしてもよい。
特に、エンジン停止時の膨張行程気筒12Aのピストン位置が、始動適正範囲内の上死点側に寄っている場合は、このようにすることが好ましい。
すなわち、エンジン停止時の膨張行程気筒12Aのピストン位置が、始動適正範囲内の上死点側に寄っている場合は、膨張行程気筒12Aの空気容積が少ない側に振れているため、その空気量に対応する燃料噴射量が抑えられ、一方で、膨張行程気筒12Aと逆位相の関係にある圧縮行程気筒12Cにおいては、空気容積が多い側に振れているため、その空気量に対応する燃料噴射量が増大できる関係にあることから、圧縮行程気筒12Cにおいて、逆転動作(膨張行程気筒12Aの空気圧縮)と正転動作との双方で燃焼させるように、1回目用空燃比をリーンとし、2回目用空燃比が理論空燃比以下となるように設定して、正転動作時における膨張行程気筒12Aでの燃焼に続いて、圧縮行程気筒12Cで燃焼させてもよい。
また、上記実施形態では、サージタンク21bの上流側に配設されたスロットル弁23からなる吸気流量調節手段により各気筒12A〜12Dへの吸気流量を調節するように構成した例について説明したが、これに限らず、各気筒12A〜12Dに設けられた吸気弁19のリフト量を変更する周知の可変動弁機構を設けることにより、上記各気筒12A〜12Dへの吸気流量を調節するように構成してもよく、あるいは各気筒12A〜12Dに接続された分岐吸気通路21aに個別に弁体が配設された多連型スロットル弁を用いて上記各気筒12A〜12Dへの吸気流量を調節するように構成してもよい。
また、上記実施形態におけるエンジンの始動装置では、自動停止状態にあるエンジンを再始動させる際に、圧縮行程気筒に第1回の燃焼を行わせることにより、最初にクランク軸3を少しだけ逆回転させて膨張行程気筒内の混合気を圧縮した後に点火するようにしているが、本発明に係るエンジンの始動装置は、これに限るものではなく、膨張行程気筒に対して最初に点火を行うことによりエンジンを再始動させるように構成してもよい。