図1および図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2(図9参照)とを備え、上記エンジン本体1には複数の気筒(図示の実施形態では4つの気筒)12A〜12Dが設けられている。上記各気筒12A〜12Dには、コンロッドを介してクランク軸(出力軸)3に連結されたピストン13がそれぞれ嵌挿され、このピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。
各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には、点火プラグ15が装備され、そのプラグ先端が燃焼室14内に臨んでいる。さらに、燃焼室14の側方部には、燃料を燃焼室14内に直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図略のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ15の付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁16の噴射方向が設定されている。なお、この燃料噴射弁16には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ圧縮行程における燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力を与え得るように燃料供給系統が構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの燃焼室14に対して吸気ポート17および排気ポート18が開口し、これらのポート17,18に吸気弁19および排気弁20が装備されている。これら吸気弁19および排気弁20は、図外のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動される。そして、後に詳述するように各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒12A〜12Dの吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23からなる吸気流量調節手段が配設されている。このスロットル弁23の上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26とが配設されている。
また、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節可能に構成され、ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流の制御が実行されるように構成されている。
また、上記エンジンには、カムシャフトの特定回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、これらの検出信号から上記ECU2に入力されるようになっている。さらに、このECU2には、図9に示すように、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセルセンサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35と、後述する自動変速機構50の油温を検出する油温センサ37と、車速を検出する車速センサ38と、自動変速機構50における各摩擦要素に対応する作動圧を検出する作動圧センサ39とからそれぞれ出力される各検出信号が入力されるようになっている。
また、上記エンジン本体1は、図3に示すように、その出力軸であるクランク軸3が自動変速機構50に接続されている。この自動変速機構50は、上記クランク軸3に連結されたトルクコンバータ51と、このトルクコンバータ51の出力軸であるタービンシャフト59に連結された多段変速機構52とを備え、これらに含まれる複数の摩擦要素を断続させることにより、車輪側に対してエンジン本体1の駆動力が伝達されるドライブ状態と、この駆動力の伝達が遮断されたニュートラル状態とに切り換え可能に構成されている。
上記トルクコンバータ51は、クランク軸3に連結されたポンプカバー53と、このポンプカバー53に一体に形成されたポンプインペラ54と、これに対向するように設置されたタービン55と、その間でワンウェイクラッチ56を介してケース57に取り付けられたステータ58とを備えている。上記ポンプカバー53内の空間には、作動流体としてのオイル(作動油)が充満され、ポンプインペラ54の駆動力がこの作動油を介してタービン55に伝達されるように構成されている。そして、タービン55に連結されたタービンシャフト59を介して多段変速機構52との間で駆動力の伝達がなされるようになっている。
そして、上記ケース57には、タービン55の回転速度を検出するタービン用回転センサ36が、タービンシャフト59と一体的に回転するフォワードクラッチ67の外周面に対向した状態で設けられている。上記タービン用回転センサ36は、先端部がフォワードクラッチ67のドラムの外周面に対向して配置され、ドラム外周面に設けられたスプライン状の凹凸が回転するのに伴って生じる誘導電圧の周期的変化を検知することにより、上記タービンシャフト59の回転速度に対応したタービン55の回転速度を検出するように構成されている。
上記ポンプインペラ54には中空回転シャフト60が連結され、このシャフト60の後端部(エンジン本体1側と反対側の端部)にオイルポンプ61が取り付けられている。上記自動変速機構50には、オイルポンプ61とは別の電動オイルポンプ62(図5参照)が設けられ、これらの各オイルポンプ61,62が後述する油圧制御機構63に接続されている。そして、ECU2に設けられた後述の変速制御手段92(図9参照)において、これらのオイルポンプ61と電動オイルポンプ62との間における切換制御が行われるとともに、油圧制御機構63の油路(流通路)の切換制御やライン圧の設定制御等が行われることにより、後述する摩擦要素67〜71が断続(締結、解放)されるように構成されている。
ここで、上記オイルポンプ61とは別体の電動オイルポンプ62を設けているのは、エンジンの停止時や始動初期にエンジン回転速度が十分でないことに起因してオイルポンプ61により所望のライン圧を供給することが困難である場合に、所望のライン圧を確保するためであり、この観点から上記オイルポンプ61と電動オイルポンプ62との切換タイミングが設定されている。
上記ポンプカバー53とタービン55との間には、ポンプカバー53を介してクランク軸3とタービン55とを直結するロックアップクラッチ64が設けられている。このロックアップクラッチ64は、上記オイルポンプ61および電動オイルポンプ62に油圧制御機構63を介して接続され、この油圧制御機構63に設けられた各種ソレノイドバルブがオン・オフ制御されることにより油路が切り換えられて上記ロックアップクラッチ64が断続されるようになっている。
一方、多段変速機構52は、第1および第2遊星ギア機構65,66と、この遊星ギア機構65,66を含む動力伝達経路を切り換える締結要素(クラッチやブレーキ等の複数の摩擦要素67〜71およびワンウェイクラッチ72)とを備え、シフトレンジ(Dレンジ、Nレンジ、Rレンジ等)に応じ、上記締結要素67〜71を断続して前進速、ニュートラル状態あるいは後退速に切り換えるとともに、車両の走行状態に対応して前進速の変速段を自動的に切り換えるように構成されている。
第1および第2遊星ギア機構65,66は、それぞれサンギア65a,66aと、これらのサンギア65a,66aの周りに配置されてこれらに噛合する複数個の遊星ギア65b,66bと、これらの遊星ギア65b,66bを支持するキャリア65c,66cと、遊星ギア65b,66bの周りを取り囲むように配置されてこれらが噛合するリングギア65d,66dとを備え、第1遊星ギア機構65のリングギア65dと第2遊星ギア機構66のキャリア66cとが連結されるとともに、第1遊星ギア機構65のキャリア65cと第2遊星ギア機構66のリングギア66dとが連結されることにより、各遊星ギア機構65,66が連動し得るように構成されている。
具体的には、上記摩擦要素としてタービンシャフト59および第1遊星ギア機構65のサンギア65aの間に介在されたフォワードクラッチ67と、タービンシャフト59と第2遊星ギア機構66のサンギア66aとの間に介在されたリバースクラッチ68と、タービンシャフト59と第2遊星ギア機構66のキャリア66cとの間に介在された3−4クラッチ69と、第2遊星ギア機構66のサンギア66aを固定する2−4ブレーキ70と、これらの遊星ギア機構65,66とケース57との間に並列的に介在されたローリバースブレーキ71等とが設けられている。また、上記ワンウェイクラッチ72は、キャリア65cおよびリングギア66dの一方向(クランク軸3の回転方向)への回転のみを可能とし、逆方向への回転をロックして阻止するように構成されている。これらの締結要素67〜72が断続されることにより出力ギア73に繋がる動力伝達経路を変更ないし断絶させるように構成されている。そして、上記出力ギア73が回転することにより、駆動力が車輪側、すなわち伝導ギア74,75,76および差動機構77を介して左右の車軸78,79に伝達されるようになっている。
これらの締結要素67〜72の断続状態と変速段との関係を図4に示す。この図4において、○印は各締結要素67〜72が締結された状態を示し、無印はこれらが解放またはアンロックされた状態を示し、Rレンジでは、リバースクラッチ68とローリバースブレーキ71が締結状態となり、Nレンジ(ニュートラル状態)では、全ての締結要素67〜72が解放、またはアンロック状態となっている。また、Dレンジ(ドライブ状態)の第1速段では、フォワードクラッチ67が締結されるとともに、ワンウェイクラッチ72がロック状態とされ、第2速段では、フォワードクラッチ67および2−4ブレーキ70が締結され、かつ第3速段では、フォワードクラッチ67および3−4クラッチ69が締結されるとともに、第4速段では、3−4クラッチ69および2−4ブレーキ70が、それぞれ締結されるようになっている。
上記摩擦要素67〜71は、ロックアップクラッチ64と同様に、油圧制御機構63(図5参照)を介してオイルポンプ61および電動オイルポンプ62に接続されている。そして、後述する第1,第2シフトソレノイドバルブ83,84や、第1〜第3デューティーソレノイドバルブ85〜87を駆動して油路の切換および油圧の変更等を行うことにより上記摩擦要素67〜71を断続する制御が、ECU2に設けられた変速制御手段92において実行されるようになっている。
すなわち、図5に示すように、オイルポンプ61から摩擦要素67〜71の油圧室(図示せず)に繋がるライン81(油路)と、このライン81におけるポンプ61,62の下流側近傍に配設されたライン圧を調圧するレギュレータバルブ82と、ポンプ61,62に連通するラインを切り換える各種バルブをON・OFFさせる第1,第2シフトソレノイドバルブ83,84(以下、単に第1,2SVという)と、ECU2の変速制御手段92から出力されるduty値に基づいて作動圧を調圧する第1〜第3デューティーソレノイドバルブ85〜87(以下、単に第1〜第3DSVという)とを有する油圧制御回路が、上記油圧制御機構63に設けられている。なお、第1,2SV83,84および第1〜第3DSV85〜87は、三方弁として構成されている。また、上記ポンプ61,62と、ライン81とを結ぶ油路上には、オイル供給源をオイルポンプ61と電動オイルポンプ62とに選択的に切り換える切換弁91が設けられている。
そして、車速、スロットル開度、エンジン回転速度およびタービン回転速度等に基づき、上記各種バルブを作動させて摩擦要素67〜71を断続させることにより、自動変速機構50の変速段を切り換えて車速等に応じたギアを自動的に選択する制御が、上記ECU2の変速制御手段92において実行されるように構成されている。図6は、車速とスロットル開度に応じた自動変速機構50の切換マップを示している。図7は、各ソレノイドバルブ82〜86の各変速段に対応した作動状態の組み合わせを示している。この図7において、○印は、第1,2SV82,83がONとなるとともに、第1〜第3DSV84〜86がOFFとなって、いずれも上流側のラインを下流側のラインに連通させて元圧をそのまま下流側に供給する状態を示し、×印は、第1,2SV83,84がOFFとなるとともに,第1〜第3DSV85〜87がONとなって、いずれも上流側のラインを遮断して、下流側のラインをドレンさせた状態を示している。
例えば、多段変速機構52について第1速段が選択されている場合における油圧制御機構63の作用について説明すると、図5および図7に示すように、第3DSV87のみが作動することにより、上流側のライン圧を元圧として作動圧が生成され、この作動圧がライン81bを介してロックアップコントロールバルブ88に供給される。そして、この時点では、上記ロックアップコントロールバルブ88のスプールが右側に位置することにより、さらにフォワードクラッチライン81cを介してフォワードクラッチ67の油圧室にフォワードクラッチ圧(作動圧)が供給され、これに応じてフォワードクラッチ67が締結される。
上記フォワードクラッチ67に供給される作動圧の時間変化を、図5および図8に基づいて説明すると、第3DSV87が作動状態となった時点t0から、第3DSV87の下流側ライン81bおよびフォワードクラッチライン81cに作動油が供給され、ライン81b,81cに作動油が充満した時点t1で、各ライン81b,81cの油圧、すなわちフォワードクラッチ67の作動圧が上昇する。この作動圧が所定値P1に達した時点t2で、解放位置にあるフォワードクラッチ67のピストン(図示せず)が図外のリターンスプリングに抗して締結方向に移動し始める。そして、作動圧が所定値P2に達することによりフォワードクラッチ67のクラッチプレートが当接位置に移動してクラッチプレート間の隙間が0になった時点t3で、上記フォワードクラッチ67の移動が規制されることにより作動圧の増加率が上昇し、フォワードクラッチ67がスリップしている状態から徐々に伝動駆動力が大きくなる状態へと移行する。
そして、上記作動圧が所定圧P3に達した時点t4で、アキュムレータ90が作動することにより、作動圧の増加率が低下して急激なトルク変動(トルクショック)が抑制されつつ、締結動作が進行する。さらに、上記アキュムレータ90の容量が一杯になる時点t5までの間に、フォワードクラッチ67は完全締結状態となり、さらに作動圧を上昇させることにより、急激なトルク変動に伴う伝動駆動力の変動にも対応可能な充分な締結量が得られる。なお、上記第1速段以外の変速段が選択された場合においても、従来の自動変速機構と同様に作用することになる。
また、上記自動変速機構50は、変速制御手段92により油圧制御機構63が制御されて車輪側に対する駆動力の伝達が切り離されたニュートラル状態となると、必要に応じて各摩擦要素67〜71が締結直前の状態、いわゆるプリチャージ状態に設定可能に構成されている。すなわち、この種の自動変速機構50においては、一般に変速時やエンゲージメント操作時等に油圧制御回路で生成された作動圧を摩擦要素67〜71の油圧室に供給することによって変速動作等を行うように構成されているが、変速動作等の開始後に作動圧を直ちに生成して摩擦要素67〜71の油圧室に供給しても、油圧制御回路の各ラインや摩擦要素67〜71等の油圧室から作動油が抜けたり、作動圧が低下したりしていると、変速動作時に上記各ラインや油圧室を作動油で充満させるとともに摩擦要素67〜71を解放状態から締結状態に移動させる間に、所定のタイムラグが生じて摩擦要素67〜71の締結動作が遅れるといった問題があった。
そこで、当実施形態では、少なくとも後述するエンジンの自動停止動作期間中に各摩擦要素67〜71が解放されて自動変速機構50がニュートラル状態となされた場合に、上記電動オイルポンプ62を作動させて油路(流通路)に作動油(作動流体)を充填させることにより、上記摩擦要素67〜71の少なくとも一つを、所定の解放位置から締結方向に移動させて駆動力の伝達が行われるまでに至らないスリップ状態(締結直前のプリチャージ状態)とするようにしている。この結果、作動圧の立ち上がり期間、つまり上記摩擦要素67〜71の移動時間(t0〜t3)が省略され、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に移行させる制御信号が出力された時点からドライブ状態への切換が終了するまでの切換時間が、例えば図8の期間A(=t0〜t5)から期間B(=t3〜t5)に短縮されることになる。
例えば、フォワードクラッチ67をプリチャージ状態とするときには、第3DSV87により作動圧をプリチャージ圧に調圧する制御が、ECU2に設けられた変速制御手段92において実行されるようになっている。当実施形態では、このプリチャージ圧をフォワードクラッチ67が略締結位置に移動してスリップ状態にある場合の作動圧P2、またはフォワードクラッチ67が締結位置から僅かに解放方向に変位している場合の作動圧、すなわち上記作動圧P2よりも僅かに低い値に設定している。
前記ECU2は、図9に示すように、上記各センサ25,26,30〜34からの信号を受け、上記燃料噴射弁16に対する燃料噴射量および噴射時期の制御信号と、点火プラグ15に対する点火時期の制御信号と、かつスロットル弁23のアクチュエータ24に対するスロットル開度の制御とを出力し、さらにオルタネータ28のレギュレータ回路28aに対して発電量を制御する信号を出力することによりエンジンの運転状態を制御する機能を有している。また、ECU2に設けられた変速制御手段92は、上記各センサ25,26,30〜39からの信号を受け、油圧制御機構63の供給元をオイルポンプ61と電動ポンプ62との間で切り換える制御信号を切換弁91に出力するとともに、油圧制御機構63(具体的にこれに含まれるソレノイドバルブ等)に対して各摩擦要素67〜71の作動圧を調圧する制御信号を出力するよう構成されている。
そして、上記ECU2には、車両が停止した状態のアイドリング時および車両の減速走行中等において、所定のエンジン停止条件が成立したときに、燃料の供給を停止して自動的にエンジンを停止させるとともに、その後に乗員がアクセル操作を行う等により所定のエンジン再始動条件成立したときに、エンジンの燃焼によるエネルギーで自動的にエンジンを再始動させる制御を実行する自動停止制御手段93が設けられている。
具体的には、まずエンジン停止時に圧縮行程にある気筒12(以下、停止時圧縮行程気筒12と称する。また、その他の気筒12についてもエンジン停止時の行程を冠するものとする)に初回の燃焼を実行してそのピストン13を押し下げ、停止時膨張行程気筒12のピストン13を上昇させてエンジンを逆転させることにより、筒内圧力を高めた状態で、この停止時膨張行程気筒12に対して燃料を噴射させて点火、燃焼を行わせる。このようにして、停止時膨張行程気筒12での燃焼エネルギーを高めるとともに、この気筒12のストロークを確保することによりエンジンを再始動させる制御が上記自動停止制御手段93において実行されるように構成されている。
上記のようにしてエンジン本体1の燃焼エネルギーだけでエンジンを再始動させるためには、停止時膨張行程気筒12における燃焼エネルギーを如何にして最大限に引き出すかが問題となり、そのためにはエンジンの停止時にピストン13を所定の範囲に停止させて停止時圧縮行程気筒12および停止時膨張行程気筒12で充分な燃焼エネルギーが得られるように、空気量を適正に確保する必要がある。そこで、停止時膨張行程気筒12を基準として、その行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲(例えば圧縮上死点後のクランク角が100°〜120°CAとなる範囲)内にピストン13を停止させることができれば、停止時圧縮行程気筒12内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりエンジンを若干逆転させることが可能となるとともに、上記停止時膨張行程気筒12における燃焼エネルギーを充分に確保することが可能となる。
上記エンジンの自動停止時にピストン13を適正位置に停止させるための具体的な制御手法は種々あるが、ここではスロットル弁17の開度を制御することによりエンジン停止時における膨張行程気筒12および圧縮行程気筒12内の空気による圧縮反力を調整するとともに、エンジンの自動停止過程におけるオルタネータ28の発電量を制御することによりクランク軸3の回転抵抗を利用してエンジンの回転速度を調整し、これに応じて燃料噴射を停止した後に、エンジン回転速度を予め実験等により定められた基準ラインに沿って低下させるようにしている。
そして、上記自動停止制御手段93は、図10に示すように、エンジンの自動停止条件が成立した時点T0で、摩擦要素67〜71を全て解放することにより、自動変速機構50をドライブ状態(Dレンジ)からニュートラル状態(Nレンジ)に切り換えるように構成されている。また、上記自動変速機構50をニュートラル状態としてエンジンを自動停止させる制御を実行する際には、自動変速機構50の各摩擦要素67〜71を締結直前の上記プリチャージ状態としている。このようにエンジンの自動停止動作期間中に、自動変速機構50をニュートラル状態とすることにより、車輪側からの逆駆動力による影響を排除してピストン13の停止位置が適正範囲からずれるのを防止し、しかも上記各摩擦要素67〜71をプリチャージ状態とすることにより、エンジンを自動停止させる制御の実行中にエンジンの再始動条件が成立した場合においても、その再始動応答性を向上させることができるようになっている。
また、上記自動停止制御手段93は、エンジンの自動停止制御を実行する際にスロットル弁23の開度Kを例えば15%で安定させた後、所定時間が経過した時点T1で、エンジン回転速度Neおよびブースト圧Btが所定の制御適正範囲内にあることが確認された場合に、各気筒12に対する燃料噴射を停止させるように構成されている。この時点T1で燃料噴射が停止されると、クランク軸3等が有する運動エネルギーが摩擦抵抗による機械的な損失や、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジン本体1のクランク軸3は惰性で数回転し、4気筒4サイクルのエンジンでは10回前後の圧縮上死点を迎えた後に停止することになる。
上記ピストン13の停止位置は、停止時圧縮行程気筒12Cおよび停止時膨張行程気筒12Aにおける圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦抵抗等の影響を受け、最後の圧縮上死点を超えた時点T4におけるエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Neの高低によっても変化する。したがって、エンジンが自動停止する際に膨張行程にある膨張行程気筒12Aのピストン13を再始動に適した上記適正範囲内に停止させるためには、まず停止時膨張行程気筒12Aおよび停止時圧縮行程気筒12Cの圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ停止時膨張行程気筒12Aの圧縮反力が停止時圧縮行程気筒12Cの圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒12A,12Cに対する吸気流量を調節する必要がある。
このために、当実施形態では、燃料噴射の停止時点T1でスロットル弁23の開度Kを大きな値(例えば全開の30%程度の開度)に設定することにより、上記停止時膨張行程気筒12Aおよび停止時圧縮行程気筒12Cの両方に所定量の空気を吸入させた後、エンジンの回転速度Neが予め設定された基準値以下に低下したことが確認された時点T2で、上記スロットル弁23を閉止してその開度Kを低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ところで、エンジンの回転速度Neが所定速度となった時点T1で燃料噴射を停止し、その後の所定期間に亘りスロットル弁23を開弁状態に維持するようにして、惰性により回転するエンジンの各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13が圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度neを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒12Aのピストン位置を調べると、エンジンが停止状態となる前の6番目〜2番目における上死点回転速度neが、図11にハッチングで示すような所定の範囲内にあれば、上記ピストン13の停止位置がエンジンの再始動に適した範囲(圧縮上死点後の100°〜120°CA)に入ることが実験的に確かめられた。
したがって、自動停止制御手段93は、上記ピストン13を適正位置に停止させる制御が可能な速度にエンジンの回転速度Neを維持するために、上記燃料噴射の停止時点T1でオルタネータ28の目標発電電流Geを、例えば0に設定し、エンジン回転速度Neが基準値以下に低下した時点T2で、オルタネータ28の目標発電電流Geを予め設定された初期値に上昇させる制御を実行した後、エンジンの上死点回転速度neが所定範囲内になった時点T3で、上記オルタネータ28の目標発電電流Geをエンジン回転速度Neの低下状態に対応した値に低下させてクランク軸3の回転抵抗を調節し、エンジンの外部負荷をエンジン回転速度Neの低下度合に対応させて変化させることにより、予め行った実験等に基づいて設定された基準ラインに沿ってエンジン回転速度Neを低下させる制御を実行するように構成されている。
上記エンジンの自動停止時における制御動作をまとめると、自動停止制御手段93は、エンジンを自動停止させる際に、スロットル弁23の開度を制御することによりエンジン停止時における膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの空気による圧縮反力を調整するとともに、エンジンの自動停止過程におけるオルタネータ28の発電量を制御することによりクランク軸3の回転抵抗を変化させてエンジンの回転速度Neを微調整し、これにより燃料噴射の停止後におけるエンジン回転速度Neを予め定められた基準ラインに沿って低下させる制御、つまり上記ピストン13を所定の適正範囲に停止させる制御を行っている(図10参照)。
この種のエンジンの始動装置では、上記自動停止制御の実行中に所定の再始動条件が成立した場合に、エンジンを迅速に再始動させて車両の再加速応答性を向上させることが望まれるため、上記エンジンの自動停止制御を中止して燃料噴射を再開するとともに、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換えることにより、アクセル操作に応じた再加速性が得られるようにすることが好ましい。そして、上記再始動条件の成立時における車速がある程度高く、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換えることによりタービン回転速度を所定値以上に上昇させることが可能な運転状態にある場合には、上記燃料噴射を再開した時点で、自動変速機構50をドライブ状態に切り換えると、タービン55から入力された逆駆動力に応じてクランク軸3が回転駆動されることにより、エンジンを再始動させるためのアシスト力が充分に得られることになる。
ところで、上記自動停止制御の終期段階において車速が比較的に低い状態で、エンジンの再始動条件が成立した場合には、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換えるとともに、その変速段を車速に対応した値に設定したとしても、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3にそれ程大きな逆駆動力を入力させることができず、エンジンを再始動させるのに必要なアシスト力が充分に得られないことがある。このために本実施形態では、上記自動停止制御の終期段階においてエンジンを再始動させる際に、自動変速機構50の変速段を車速に対応した値に設定することにより車速に対応した値となるタービン回転速度が予め設定された基準速度よりも高いか否かを判定し、低いと判定された場合に、自動変速機構50をドライブ状態に変化させるとともに、その変速段を車速に対応した値よりも低い変速段、例えば第1速段に設定することにより、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力を再始動用のアシスト力として作用させた状態で、燃料噴射を再開することによりエンジンを再始動させるように構成している。
なお、上記自動停止制御の終期段階において車速がかなり低い状態にある場合には、自動変速機構50をドライブ状態に変化させるとともに、その変速段を車速に対応した値よりも低い変速段に設定したとしても、エンジンを再始動させるための充分なアシスト力が得られない可能性がある。このため、当実施形態では、上記自動停止制御の終期段階においてエンジンを再始動させる際に、上記自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段に設定することにより車速に対応した値となるタービン回転速度が基準速度よりも低いか否かを判定し、低いと判定された場合に、エンジンが自動停止状態となる直前に逆転状態から正転状態に移行する状態になったことが確認された時点でエンジンを再始動させるように構成している。
一方、エンジンを自動停止させる制御の実行中において上記自動停止制御の終期段階よりも前、つまりエンジン回転速度が充分に高い運転領域でエンジンの再始動条件が成立した場合には、上記逆駆動力をアシスト力として利用することなくエンジンを再始動させることが可能であるため、上記再始動条件が成立したことが確認された時点で、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換えるとともに、燃料噴射を再開することにより、エンジンを再始動させることが可能である。
また、上記エンジンの再始動後にエンジン回転速度が上昇することにより、自動変速機構50がニュートラル状態からドライブ状態に切り換えられた時点のエンジン回転速度がタービン回転速度よりも相対的に高い状態となった場合には、エンジン本体1のクランク軸3からトルクコンバータ51を介してタービンシャフト59に大きな駆動トルクが伝達されることにより、駆動系の各部速度が急激に変化することに起因したトルクショックが発生することになる。特に、エンジンの再始動を開始した時点から、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換える動作が終了する時点までに所定の時間を要すると、その間にエンジンの回転速度が上昇することにより上記トルクショックがより発生し易い傾向がある。
このため当実施形態では、自動変速機構50がニュートラル状態からドライブ状態に切り換えられた時点のエンジン回転速度を予測するエンジン回転速度予測手段94と、自動変速機構50がニュートラル状態からドライブ状態に切り換えられることにより変化するタービン回転速度を予測するタービン回転速度予測手段95とをECU2に設け、エンジンを自動停止させる制御の実行中において上記自動停止制御の終期段階よりも前にエンジンの再始動条件が成立したか否かを判定し、この再始動条件が成立したと判定された場合に、エンジンの自動停止制御を中止して自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させるとともに、上記エンジン回転速度予測手段94によって予測されたエンジン回転速度の予測値がタービン回転速度予測手段95によって予測されたタービン回転速度の予測値よりも相対的に高いか否かを判定し、高いと判定した場合に、エンジンの回転速度を低下させる制御を上記自動停止制御手段93において実行することにより、上記トルクショックの発生を抑制するようにしている。
上記タービン回転速度予測手段95は、車速センサ38の検出信号等に基づいて自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換える動作が完了した時点で、車軸78,79から伝達される逆駆動力に応じて変化するタービン回転速度を予測するように構成されている。具体的には、上記タービン回転速度予測手段95において、車速センサ38により検出された車速に基づいて減速度を求めるとともに、上記車速に応じた変速段を図6のマップに基づいて判定し、これらの車速、減速度、上記変速段の既入力のギア比、予め入力されているタイヤ径、差動機構77のギア比および上記再始動開始時点から自動変速機構50がニュートラル状態からドライブ状態に切り換えられる時点までの時間(切換時間)等を、所定の数式に当てはめることにより上記タービン回転速度の予測値が算出されるように構成されている。
また、上記タービン回転速度予測手段95は、車速センサ38の検出信号等に基づき、上記エンジンを自動停止させる制御の終期段階で再始動条件が成立した場合に、この時点で自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換えることにより車体に対応した値となるタービン回転速度、具体的には自動変速機構50の変速段を車速に対応した値に設定した場合の第1タービン回転速度と、自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段に設定した場合の第2タービン回転速度とを予測する機能を有している。
一方、上記エンジン回転速度予測手段94は、エンジンを自動停止させる制御の実行中に再始動条件が成立してエンジンを再始動させる際に、クランク角センサ30,31の検出結果に基づいて現時点のエンジン回転速度を検出し、このエンジン回転速度と、上記自動変速機構50の切換時間とに基づき、自動変速機構50がドライブ状態への切換が完了した時点におけるエンジン回転速度を予測するように構成されている。
上記ECU2の自動停止制御手段93によりエンジンを自動停止、再始動させる際の制御動作を図12および図13に示すフローチャートに基づいて説明する。図12は、このエンジンの自動停止および再始動制御のメインフローチャートを示す。この制御動作がスタートすると、まず、燃料噴射停止条件(以下、FC条件という)が成立しているか否かを判定する(ステップS1)。このFC条件は、減速時に燃料噴射を停止させるか否かを判定するための条件であり、具体的には、エンジン回転速度Neが予め設定された1200rpm程度に設定された燃料噴射停止用の判断基準値よりも大きいとともに、車速が所定値(例えば10km/h)以上で、かつアクセルセンサ34がOFF状態にある場合等に、上記FC条件が成立したと判定されるようになっている。
上記ステップS1でYESと判定された場合には、車速センサ38によって検出された車速に基づいて、トルクコンバータ51のロックアップクラッチ64が解放された非ロックアップ領域にあるか否かを判定する(ステップS2)。このステップS2でNOと判定された場合、つまりアクセルセンサ34がOFF状態となった車両の減速時に、車速が例えば48km/h以上であるためにロックアップクラッチ64が締結された状態にあることが確認された場合には、燃費を改善すべく、各気筒12に対する燃料噴射を停止して減速時FC制御を実行した後(ステップS5)、リターンする。
上記ステップS2でYESと判定されてトルクコンバータ51のロックアップクラッチ64が解放された非ロックアップ領域にあることが確認された場合には、図13に示すエンジンのアイドルストップ制御を実行した後(ステップS3)、通常のエンジン制御状態に移行する(ステップS4)。なお、上記ステップS5における減速時FC制御の実行状態で、上記ステップS1,S2においてYESと判定され、FC条件が成立するとともに、自動変速機構50がロックアップ領域から非ロックアップ領域に移行したことが確認された場合には、上記燃料噴射の停止状態で後述するエンジンのアイドルストップ制御が実行される。
次に、ステップS1に戻ってこのステップ1でNO、すなわちFC条件が成立していないと判定されると、現在、減速時FC制御を実行している状態にあるか否かを判定し(ステップS6)、NOと判定された場合には、そのままリターンする。一方、ステップS6でYESと判定されて減速時FC制御の実行状態にあると判定された場合には、エンジンの通常制御状態に移行して燃料噴射を復帰させる(ステップS4)。
ここで、図12に示すフローチャートのステップS3で実行されるエンジンのアイドルストップ制御について、図13のフローチャートに基づいて説明する。この制御動作がスタートすると、まず自動変速機構50をドライブ状態(Dレンジ)からニュートラル状態(Nレンジ)に切り換えるとともに、自動変速機構50の摩擦要素67〜71に接続された油路に作動油を充填させるプリチャージ制御を実行する(ステップS51)。このように自動変速機構50をニュートラル状態とするとともに、上記各摩擦要素67〜71をプリチャージ状態とすることにより、後述する再始動条件の成立時等において各摩擦要素67〜71を迅速に締結することを可能としつつ、エンジンの自動停止制御時にクランク軸3と車軸78,79との間で駆動力が伝達されるのを防止してピストン13を所定の適正範囲に停止させることが可能になる。
次に、ブースト圧Btを安定させるためにスロットル弁23の開度Kを15%に調整した後(ステップS52)、ピストン13を所定の適正範囲に停止させることができるアイドルストップ条件が成立しているか否かを判定する(ステップS53)。このアイドルストップ条件は、停止時膨張行程気筒12Aのピストンを所定の適正範囲に停止させるエンジンの自動停止制御が可能であるか否かを最終的に確認するための条件である。具体的には、クランク角センサ30,31により検出されたエンジン回転速度Neが所定の範囲(例えば790〜1200rpmの範囲)にあるとともに、吸気圧センサ26により検出されたブースト圧Btが所定の範囲(例えば−450〜−300mmHg)にあることが確認された場合に上記アイドルストップ条件が成立したと判定されるようになっている。なお、当実施形態では、このアイドルストップ条件について、ピストン13を所定の適正範囲に停止させる精度を向上させるために、エンジン回転速度Neとブースト圧Btの両方が所定の範囲にあることを条件としているが、いずれか一方、好ましくはエンジン回転速度Neだけであっても一定の精度を確保することが可能である。
上記ステップS53でNOと判定され、停止時膨張行程気筒12Aのピストン13を所定の適正範囲に停止させるアイドルストップ条件が成立していないことが確認された場合には、通常のエンジン制御状態に移行するために、自動変速機構50をニュートラル状態(Nレン)からドライブ状態(Dレンジ)に切り換えた後(ステップS54)、リターンする。なお、図12に示すフローチャートのステップS5において減速時FC制御が実施されている状態で、図13の上記ステップS54に移行した場合には、図12に示すフローチャートのステップS4に移行した時点で燃料噴射が復帰されることになる。
一方、ステップS53でYESと判定された場合には、図12に示すフローチャートのステップS5において減速時FC制御が実行されている状態にあるか否かを判定し(ステップS55)、NOと判定された場合には、各気筒12に対する燃料噴射を停止する(ステップS56)。上記ステップS55でYESと判定されて減速時FC制御の実行状態にあることが確認された場合には、上記ステップS56をスキップして下記ステップS57に移行する。
そして、エンジン回転速度Neもしくはエンジンの上死点回転速度ne等に基づいてスロットル弁23の開度Kを制御することにより(ステップS57)、エンジン停止時における膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの空気による圧縮反力を調整するとともに、エンジンの自動停止動作期間におけるオルタネータ28の発電量を制御することにより(ステップS58)、クランク軸3の抵抗を変化させてエンジンの回転速度を微調整する。これによって燃料噴射の停止時点T1以降に、エンジン回転速度Neを予め実験等により定められた基準ラインに沿って低下させる制御、つまりピストン13を所定の適正範囲に停止させる制御が実行される。
上記スロットル弁23の開度Kの制御動作およびオルタネータ28の目標発電電流Geの制御動作について具体的に説明する。上記スロットル弁23の開度制御を実行する場合には、まず上記燃料噴射の停止時点T1でスロットル弁23を開弁することにより、その開度Kを上記調整開度(上記例では15%)よりも大きな値(例えば30%)に設定する。その後、エンジンの回転速度Neが予め790rpm程度に設定された基準値以下になったか否かを判定することにより、図10に示す燃料噴射の停止時点T1の後に、エンジンの回転速度Neが低下し始めたか否かを判定し、低下し始めたと判定された時点T2でスロットル弁23を閉止状態としてその開度Kを0%とする。この結果、スロットル弁23が開放されて大気圧に近付くように上昇したブースト圧Btが所定の時間差をもって低下し始めることになる。
また、上記オルタネータ28の目標発電電流制御を開始する場合には、まず上記燃料噴射の停止時点T1でオルタネータ28の目標発電電流Geを0に設定して発電を停止させる。そして、エンジン回転速度Neが予め790rpm程度に設定された基準値以下に低下した時点T2で、オルタネータ28の目標発電電流Geを予め60A程度に設定された初期値に設定してオルタネータ28を作動させる発電制御を開始する。これにより、エンジン本体1のクランク軸3には所定の回転抵抗が作用することになる。
次いで、エンジンの上死点回転速度neが所定の制御適正範囲になった場合に、その時点T3の上死点回転速度neに対応したオルタネータ28の目標発電電流Geを設定する。この制御適正範囲は、予め設定されたエンジン回転速度の時間変化を示す基準ラインに沿ってエンジンの回転速度Neが低下している過程で、例えばエンジンが停止状態となる前の4番目の圧縮上死点を通過する時点T3における上死点回転速度neに基づいて設定された値であり、具体的には480〜540rpmの範囲内に設定されている。なお、上記上死点回転速度neに対応したオルタネータ28の目標発電電流Geは、ECU2に予め記憶された上死点回転速度neと目標発電電流Geとの関係を示す図外のマップに基づいて決定される。
このようなスロットル弁23の開度制御およびオルタネータ28の目標発電電流制御がエンジン回転速度Ne等に応じて実行されるのと並行して、例えばアクセルセンサ34がONになったか否かを判別し、あるいは車速が10km/hの状態でブレーキセンサ35がOFFになったか否かを判別する等により、燃料噴射の復帰条件(再始動条件)が成立したか否かを判定する(ステップS59)。このステップS59でNOと判定された場合には、エンジンが停止状態になったか否かが判定され(ステップS60)、このステップS60でYESと判定され、あるいは上記ステップS59でYESと判定されるまで、上記ステップS57〜S60の制御が繰り返し実行される。そして、上記ステップS60でYESと判定されてエンジンが停止状態になったことが確認された場合には、エンジンの自動停止後に再始動条件が設立した時点でエンジンを再始動させる制御、つまり通常の再始動制御を実行する(ステップS61)。
すなわち、図14および図15に示すように、まず停止時圧縮行程気筒12C(第3気筒)において1回目の燃料噴射J2が行われ、その点火によって燃焼(図14中の(1))が行われる。この燃焼(1)による燃焼圧(図15中のa部分)で、停止時圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動される。このエンジンの逆転駆動に伴って停止時膨張行程気筒12A(第1気筒)のピストン13が上死点方向に動き始める。そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点側(望ましくは行程中央より上死点寄り)に移動し、上記気筒12A内の空気が圧縮された時点で燃料噴射J1が行われる。この噴射燃料の気化潜熱によって圧縮圧力が低減し、ピストン13がより上死点に近付くので圧縮空気(混合気)の密度が増大する(図15中のb部分)。
上記停止時膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近付いた時点で当該気筒12Aに対する点火が行われて、上記噴射燃料(J1)が燃焼し(図14中の(2))、その燃焼圧(図15中のc部分)によりエンジンが正転方向に駆動される。
また、上記停止時圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで可燃空燃比よりもリッチな燃料噴射(J3)が行われることにより(図14中の(3))、この停止時圧縮行程気筒12Cでは燃焼させないものの、燃料噴射による気化潜熱によって上記停止時圧縮行程気筒12Cの圧縮圧力が低減され(図15中のd部分)、これに応じて当該圧縮上死点(始動開始から最初の圧縮上死点)を超えるために消費される燃焼エネルギー量が低減されることになる。
さらに、次の燃焼気筒である停止時吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射(J4)の時期を、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(図14中の(4)に示すように、例えば圧縮行程の中期以降)に設定しているため、上記停止時吸気行程気筒12Dの圧縮行程で圧縮上死点前に自着火することが防止される。また、上記停止時吸気行程気筒12Dの点火時期が圧縮上死点以降に設定されていることも相俟って、圧縮上死点前での燃焼が防止される(図15中のe部分)。つまり上記燃料噴射(J4)による圧縮圧力が低減されるとともに、圧縮上死点前の燃焼が行われないことにより、停止時膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーが、上記圧縮上死点(エンジン始動開始時点から2番目の圧縮上死点)を超えるために消費されるのを抑制することが可能となる。
このようにして停止時膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼(図14中の(2))のエネルギーにより、再始動開始後の最初の圧縮上死点(図14中の(3))と、2番目の圧縮上死点(図14中の(4))とを超えることが可能となり、円滑で確実な始動性を確保することができ、これ以降、通常の運転状態に移行する。
一方、図13の上記ステップS59でYESと判定され、エンジンが停止状態となる前に、つまり上記自動停止制御の実行中に、アクセルセンサ34がONとなる等により燃料噴射の復帰条件(再始動条件)が成立したことが確認された場合には、この時点のエンジン回転速度Neが予め設定された基準速度Rよりも高いか否かを判定する(ステップS62)。この基準速度Rは、タービン55から入力される逆駆動力に応じたアシスト力を要することなく、燃料噴射を再開するだけでエンジンを再始動させることが可能な速度、具体的には燃料噴射が停止されてエンジン回転速度Neが低下する過程で、最後の圧縮上死点を超えることが可能なエンジン回転速度Neに対応した値、例えば260rpm程度に設定されている。
上記ステップS62でYESと判定され、燃料噴射の復帰条件が成立した時点のエンジン回転速度Neが上記基準速度Rよりも高く、上記自動停止制御の終期段階よりも前にエンジンの再始動条件が成立したことが確認された場合には、後述するトルクショック抑制制御を実行する(ステップS63)。一方、上記記ステップS62でNOと判定され、燃料噴射の復帰条件が成立した時点のエンジン回転速度Neが基準速度R(例えば260rpm)以下であること、つまりこのままの状態で燃料噴射を再開しても最後の圧縮上死点を超えることができない自動停止制御の終期段階にあることが確認された場合には、後述する低速時復帰制御を実行する(ステップS64)。
図13のステップS63で実行される上記トルクショック抑制制御を、図16に示すフローチャートに基づいて説明する。この制御動作がスタートすると、まず自動変速機構50をニュートラル状態(Nレンジ)からドライブ状態(Dレンジ)に移行させた後(ステップS65)、燃料噴射を復帰させる制御信号を出力することによりエンジンの再始動を開始する(ステップS66)。そして、上記エンジン回転速度予測手段94によって予測されたエンジン回転速度の予測値Efがタービン回転速度予測手段95によって予測されたタービン回転速度の予測値Tfよりも相対的に高いか否か、つまり自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に移行させる動作が終了した時点におけるエンジン回転速度の予測値Efが、車速V、減速度および変速段等に基づいて算出されたタービン回転速度の予測値Tfよりも高いか否かを判定し(ステップS67)、YESと判定された場合には、エンジンの回転速度Neを低下させる制御を実行する(ステップS68)。
具体的には、上記ステップS68において、スロットル開度Kを減少させる方向に補正するとともに、点火時期をリタードさせることにより、エンジン回転速度の上昇を抑制する制御を実行する。次いで、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に移行させる制御が終了したか否かを判定し(ステップS69)、YESと判定された時点で、通常のスロットル開度制御状態に移行した後(ステップS70)、リターンする。
一方、上記ステップS67でNOと判定され、エンジン回転速度予測手段94によって予測されたエンジン回転速度の予測値Efが、タービン回転速度予測手段95によって予測されたタービン回転速度の予測値Tfよりも相対的に高い状態にないことが確認された場合には、その時点で上記ステップS70に移行してリターンする。
次に、図13のステップS64で実行される低速時復帰制御を、図17に示すフローチャートに基づいて説明する。この制御動作がスタートすると、まず上記燃料復帰条件の成立時点で上記タービン回転速度予測手段95により予測された第1タービン回転速度、つまり上記燃料噴射条件の成立時点における車速と、この車速に対応した自動変速機構50の変速段とに基づいて算出されたタービン回転速度Nt1が予め設定された基準速度Trよりも高いか否かを判定する(ステップS71)。この基準速度Trは、上記自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させた場合に、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力によりエンジンを適正に再始動させるための充分なアシスト力が得られるタービン回転速度(例えば1200rpm程度)に設定されている。
上記ステップS71でYESと判定され、自動変速機構50をドライブ状態に変化させるとともに、その変速段を車速に対応した値に設定することにより、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力に応じてエンジンを適正に再始動させるための充分なアシスト力が得られる状態にあることが確認された場合には、この時点で自動変速機構50をニュートラル状態(Nレンジ)からドライブ状態(Dレンジ)に変化させる制御信号を出力するとともに(ステップS72)、燃料噴射を再開する制御信号を出力した後(ステップS73)、リターンする。
上記ステップS71でNOと判定され、上記第1タービン回転速度Nt1が基準速度Trよりも低いことが確認された場合には、上記タービン回転速度予測手段95により予測された第2タービン回転速度Nt2、つまり燃料噴射条件の成立時点における車速と、自動変速機構50を第1速段等の低速段に設定した場合の変速段とに基づいて算出されたタービン回転速度が、上記基準速度Trよりも高いか否かを判定する(ステップS74)。
上記ステップS74でYESと判定され、上記第2タービン回転速度Nt2が基準速度Trよりも高いことが確認された場合には、この時点で自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段(例えば第1速段)に設定して自動変速機構50をニュートラル状態(Nレンジ)からドライブ状態(Dレンジ)に移行させる制御信号を出力するとともに(ステップS75)、燃料噴射を再開する制御信号を出力するとともに(ステップS76)、エンジンが再始動したことが確認された時点で自動変速機構50を車速に対応した変速段に設定した後(ステップS77)、リターンする。
また、上記ステップS74でNOと判定され、上記第2タービン回転速度Nt2が基準速度Trよりもよりも低く、自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段に設定したとしても、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力によりエンジンを適正に再始動させるための充分なアシスト力が得られる状態にないことが確認された場合には、エンジンが逆転したか否か、つまりエンジンを自動停止させる制御動作の終期段階で、最後の圧縮上死点を迎えた後にエンジンが逆転状態に移行したか否かを判定し(ステップS78)、YESと判定された時点で停止時膨張行程気筒12Aに燃料を噴射する(ステップS79)。
次いで、エンジン回転速度Neが0になったか否か、つまりエンジンが逆転状態から正転状態に移行する直前の状態になったか否かを判定し(ステップS80)、YESと判定された時点で上記停止時膨張行程気筒12Aに噴射された燃料に点火することによりエンジンを再始動させた後(ステップS81)、自動変速機構50をニュートラル状態(Nレンジ)からドライブ状態(Dレンジ)に変化させる制御信号を出力した後(ステップS82)、リターンする。
上記のように予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに、燃料の供給を停止してエンジンを自動的に停止させるとともに、自動停止状態にあるエンジンの再始動条件が成立したときに、少なくとも膨張行程で自動停止した気筒12Aで燃焼を行わせることによりエンジンを自動的に再始動させる自動停止制御手段93を備えたエンジン始動装置において、車両の運転状態に応じて変速段を自動的に変化させるとともに車輪側に対する動力の伝達状態をドライブ状態とニュートラル状態とに切換可能に構成された自動変速機構50と、車速に対応したタービン回転速度を予測するタービン回転速度予測手段95とを備え、車両の走行中にエンジンの自動停止条件が成立した場合に、自動変速機構50をニュートラル状態としてエンジンを自動停止させる制御を実行するとともに、この自動停止制御の終期段階でエンジンの再始動条件が成立したときに、車速に対応したタービン回転速度の予測値が予め設定された基準速度よりも高いか否かを判定し、高いと判定された場合に、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させた後にエンジンを再始動させる制御を上記自動停止制御手段93において実行するように構成したため、エンジンを再始動に適した所定のクランク角範囲内に自動停止させる制御を適正に実行することができるとともに、エンジンを自動停止させる制御の実行中に車両を再加速する要求があった場合等に、車両の再始動応答性を充分に確保しつつエンジンを適正に再始動することができる。
すなわち、エンジンの自動停止条件が成立した場合に、上記自動変速機構50をニュートラル状態としてエンジンを自動停止させる制御を実行するように構成したため、車両の走行中に上記エンジンの自動停止制御を実行した場合においても、車輪側の逆駆動力がエンジン本体1のクランク軸3に入力されることに起因してピストン13の停止位置が適正範囲からずれるという事態の発生を効果的に防止し、上記自動停止条件の成立時点でエンジンに対する燃料供給を停止することにより、エンジンを再始動に適した所定のクランク角範囲内に自動停止させる制御を適正に実行することができる。
そして、エンジン回転速度Neが低下した自動停止制御の終期段階でエンジンの再始動条件が成立した場合には、この時点でエンジンの自動停止制御を中止して燃料噴射を再開したとしても、この燃料噴射により生成された混合気を充分に圧縮した状態で点火することができず、エンジンを適正に再始動させるための燃焼エネルギーを得られない可能性がある。このために本発明では、上記再始動条件が成立した時点におけるエンジン回転速度等に基づいて上記自動停止制御の終期段階で再始動条件が成立したことが確認されたときに、上記タービン回転速度予測手段95により予測された第1タービン回転速度Nt1、つまり自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させることによって車速に対応した値となるタービン回転速度が予め設定された基準速度Trよりも高いか否かを判定し、高いと判定された場合に、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させた後にエンジンを再始動させる制御を上記自動停止制御手段93において実行するようにしている。これにより、車輪側からタービン55に入力される逆駆動力に応じてタービン回転速度Ntを車速に対応した値に上昇させるとともに、上記タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力を再始動用のアシスト力として有効に利用することが可能となり、エンジンの再始動性を効果的に向上させることができるという利点がある。
特に、上記実施形態では、自動停止制御の終期段階において上記タービン回転速度予測手段95により予測された第1タービン回転速度Nt1が上記基準速度Trよりも低い状態で、エンジンの再始動条件が成立した場合に、自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段に設定してエンジンを再始動させる制御を上記自動停止制御手段93において実行するように構成することにより、図18の実線で示すように、自動変速機構50がニュートラル状態からドライブ状態に切り換えられた時点でタービン回転速度Ntを例えば1200rpm程度に設定された基準速度Tr以上に上昇させるようにしている。これにより車速が比較的に低い状態でも、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力に応じて再始動用のアシスト力が充分に得られ、エンジンを迅速に再始動させて再加速応答性を充分に確保できるという利点がある。
また、上記実施形態では、図19に示すように、上記自動停止制御の終期段階においてタービン回転速度予測手段95により予測された第2タービン回転速度Nt2が基準速度Tr以下の状態でエンジンの再始動条件が成立した場合、つまり自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低い変速段(例えば第1速段)に設定したとしても、タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力によりエンジンを適正に再始動させるための充分なアシスト力が得られる基準速度Tr以上にタービン回転速度Ntを上昇させることができない運転状態でエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジンが逆転状態から正転状態に移行する状態となったか否か、つまり最後の圧縮上死点を迎えてエンジンが逆転状態に移行した後にエンジン回転速度Neが0になって正転する直前の状態となったか否かを判定し、YESと判定された時点で燃焼を再開してエンジンを再始動させるとともに、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に移行させるように構成したため、クランク軸3の回転慣性およびタービン55から入力される逆駆動力を有効に利用してエンジンを迅速かつ適正に再始動させることができる。
特に、上記のようにエンジンを自動停止させる制御の終期段階において、タービン回転速度予測手段95により検出された第2タービン回転速度Nt2が基準速度Tr以下の状態でエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジンが逆転状態に移行したことが確認された時点で、停止時膨張行程気筒12Aに燃料を噴射するようにした構成によれば、この燃料の気化潜熱により上記気筒の温度を低下させてピストン13を圧縮上死点に近い位置まで効果的に上昇させることができるとともに、上記燃料噴射により生成された混合気をエンジンの逆転動作に応じて充分に圧縮させた状態で燃焼させることができるため、エンジンを再始動させるための燃焼エネルギーが効果的に得られるという利点がある。
なお、上記実施形態では、タービン回転速度予測手段95により予測された第1,第2タービン回転速度Nt1,Nt2に基づいて、自動停止制御の終期段階で再始動条件が成立した場合に、上記タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力に応じて再始動用のアシスト力が充分に得られる状態にあるか否かを判定するように構成しているが、上記再始動条件の成立時に車速センサ38により検出された車速が基準車速よりも高いか否かを判別することにより上記タービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力に応じて再始動用のアシスト力が充分に得られる状態にあるか否か、つまり上記第1,第2タービン回転速度Nt1,Nt2が基準速度Trよりも高い状態にあるか否かを判定するように構成してもよい。
また、上記実施形態では、エンジンを自動停止させる制御の終期段階をエンジンの自動停止時に最後の圧縮上死点を超えた時点以降からエンジン停止前の期間に設定し、上記自動停止制御の終期段階において、タービン回転速度予測手段95により予測された第1,第2タービン回転速度Nt1,Nt2に基づき、エンジンの再始動条件が成立した場合に自動変速機構50をドライブ状態に変化させるとともに、必要に応じて自動変速機構50の変速段を車速に対応した値よりも低速段に設定した後にエンジンを再始動させる制御を実行するように構成したため、不必要な変速制御が実行されるのを防止しつつ、上記自動変速機構50のタービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される逆駆動力をアシスト力として有効に利用することにより、エンジンを適正に再始動させることができる。
すなわち、エンジンの自動停止時に最後の圧縮上死点を超える時点以前においてエンジン回転速度Neが充分に高い状態、例えば260rpmよりも高い状態でエンジンの再始動条件が成立した場合には、自動変速機構50の変速段を通常の変速段よりも低い値に設定することなく、エンジンを再始動させるためのアシスト力が充分に得られるため、自動変速機構50の変速段を車速に対応した値に設定することにより、自動変速機構50の変速頻度が増大するのを防止した状態で、エンジンを再始動させることが好ましい。また、エンジンの停止直後にエンジンの再始動条件が成立した場合に、この再始動条件の成立時点で自動変速機構50をドライブ状態に移行させると、タービン55から入力される逆駆動力に応じてクランク軸3が回転駆動され、ピストン13の停止位置を適正範囲に収めることが困難となって再始動性が低下する場合がある。
これに対して上記のようにエンジンの自動停止時に最後の圧縮上死点を超えてエンジン回転速度Neが低くなった時点以降に設定された自動停止制御の終期段階において、エンジンの再始動条件が成立した場合には、必要に応じて自動変速機構50の変速段を通常の変速段よりも低い値に設定して上記自動変速機構50のタービン55からエンジン本体1のクランク軸3に入力される大きな逆駆動力を増大させることにより、不必要な変速制御が実行されるのを防止しつつ、上記逆駆動力をアシスト力として利用してエンジンを適正に再始動させることができる。また、エンジンの停止前には、上記再始動条件が成立した時点で自動変速機構50をドライブ状態に移行させたとしても、ピストン13の停止位置が適正範囲にないことに起因して再始動性が低下するという事態を生じることがないため、上記逆駆動力をアシスト力として有効に利用することによりエンジンを迅速かつ適正に再始動させることができるという利点がある。
さらに、上記実施形態に示すように、車両の走行中にエンジンの自動停止条件が成立して自動変速機構50をニュートラル状態としつつ、エンジンを自動停止させる制御を実行する際に、自動変速機構50の摩擦要素67〜71に接続される流体の流通路(油路)に作動流体(作動油)を充填させるプリチャージ制御を上記自動停止制御手段93により実行するように構成した場合には、車両の走行中にエンジンの自動停止条件が成立してエンジンを自動停止させる制御の実行中にエンジンの再始動条件が成立した時点で、ニュートラル状態にある自動変速機構50をドライブ状態に移行させる際に要する切換時間を、図8に示す期間AからBに短縮させることにより、切換応答性を効果的に向上させることができる。したがって、エンジンを自動停止させる制御の実行中に再加速要求があった場合に、再加速応答性を効果的に向上させることができる等の利点がある。
また、上記のようにエンジンを自動停止させる制御の実行中に、エンジン回転速度Neが、タービン55から入力される逆駆動力に応じたアシスト力を要することなく燃料噴射を再開するだけでエンジンを再始動させることが可能な値に予め設定された基準速度R(例えば260rpm)よりも高い状態で再始動条件が成立した場合には、図20の破線で示すように、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に切り換える動作の完了時点Tbにおけるエンジン回転速度の予測値Efが、上記自動変速機構50がドライブ状態に切り換えられることにより車速に応じた値に変化するタービン回転速度の予測値Tfよりも相対的に高い状態になる可能性がある。このような状態で、上記再始動条件が成立した時点で燃料噴射を再開して通常のタイミングで点火させる制御を実行した場合には、図20の破線で示すように、自動変速機構50がニュートラル状態(Nレンジ)からドライブ状態(Dレンジ)に切り換えられた時点Tbの後に、タービン回転速度が顕著に上昇してトルクショックが発生する場合がある。
このため、当実施形態では、エンジンを自動停止させる制御の実行中において、エンジン回転速度Neが上記基準速度Rよりも高い状態で再始動条件が成立した場合に、自動変速機構50がドライブ状態に切り換えられた時点Tbのエンジン回転速度の予測値Efが、上記自動変速機構50がドライブ状態に切り換えられることにより車速に応じた値に変化するタービン回転速度の予測値Tfよりも相対的に高いか否かを判定し、高い判定された場合に、上記再始動条件の成立時点Taから自動変速機構50がドライブ状態に切り換えられる時点Tbまでの間、点火タイミングをリタードさせる点火時期の遅角制御を実行する等により、図20の実線で示すようにエンジンの回転速度を低下させる制御を実行するようにしている。これにより上記自動変速機構50がドライブ状態に切り換えられた時点Tbにおけるエンジン回転速度Neが、車速および変速段を加味したタービン回転速度Ntに対応した値に制御されるため、エンジン本体1のクランク軸3からタービン55に伝達される大きな駆動トルクが伝達されるのを防止して、駆動系の各部速度が急激に変化することに起因したトルクショックの発生を効果的に抑制できるという利点がある。
また、上記実施形態に示すように、自動停止制御の実行中に再始動条件が成立したと判定され、かつ上記エンジン回転速度の予測値Efがタービン回転速度の予測値Tfよりも相対的に高いと判定された場合に、自動変速機構50をニュートラル状態からドライブ状態に変化させる動作が終了するまでの間に、エンジンの回転速度を低下させる制御を上記自動停止制御手段93により実行するように構成した場合には、エンジン本体1のクランク軸3からタービン55に伝達される駆動トルクに応じて駆動系の各部速度が急激に変化するトルクショックの発生を効果的に抑制することができる。しかも、上記自動変速機構50をドライブ状態に切り換える動作が終了した時点で、上記エンジン回転速度の上昇制御を終了して通常の制御状態に移行させることにより、エンジンの回転速度を低下させる制御が必要以上の長期間に亘り実行されることに起因した再加速応答性の低下等を効果的に防止できるという利点がある。
なお、上記実施形態では、エンジンの再始動時にクランク軸3を逆転駆動した後に正転駆動することにより燃焼エネルギーを高めるようにしているが、クランク軸3を正転駆動するだけ再始動させるように構成してもよい。また、エンジンを自動停止させる際にピストン位置が適正範囲にない場合や、エンジンを再始動させる際にエンジン回転速度を充分に上昇させることができなかった場合等に、再始動モータを作動させてエンジンの再始動をアシストするように構成してもよい。さらに、本発明は、燃焼室14内に燃料を直接噴射する筒内噴射型エンジンに限られず、吸気ポートに燃料噴射するポート噴射タイプのエンジンについても適用可能である。