以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1および図2は本発明に係る車両用エンジン1の概略構成を示す。
各図に示すエンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであって、4つの気筒12A〜12D(図2参照)が設けられている。また、各気筒12A〜12Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、当該ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13は、所定の位相差をもってクランクシャフト3の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。本実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに本実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
シリンダヘッド10には、各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部に配置され、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設けられている。また、シリンダヘッド10には、燃焼室14の側方から内部に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図4参照)から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。そして、これらのポート17、18と燃焼室14との連結部分には、吸気バルブ19および排気バルブ20がそれぞれ装備されている。この吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aに分岐しており、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられている。この共通吸気通路21cには、スロットルボディ24が設けられている。スロットルボディ24には、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24aとこのスロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bと、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cとが設けられている。図示の実施形態において、ISC24cは、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図4参照)によって開弁量を変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26とが設置されている。
また、上記エンジン1には、図1に示すように、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力されるエンジン制御ユニット100(図4参照)からの制御信号に基づき、車両の車両電気負荷82(図3参照)および車載されたバッテリ80(図3参照)の電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
またエンジン1には、電動駆動装置としてのスタータ36が設けられている。このスタータ36は、モータ36a(電気モータ)とピニオンギア36dとを有し、エンジン1を駆動するものである。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、その回転軸に沿って往復移動する。またクランクシャフト3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータ36を用いてエンジンを始動する場合には、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動して、リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動されるようになっている(クランキング)。
スタータ36によってエンジンを始動させる形態には2通りある。第1の形態は運転者がイグニションキースイッチ(IGキーSW38、図4参照)を回してスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、キー始動と呼ばれるものである。第2の形態は、エンジンの自動停止後の再始動時に、エンジン制御ユニット100のスタータ制御部103(図4参照)が自動的にスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものである。
またエンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられている。一方のクランク角センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、この両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転角度が検出されるようになっている。さらに、エンジン1には、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角センサ32と、冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34とが設けられている。
図3は本実施形態に係る車両に搭載された電力供給システムの概略構成図である。
図3を参照して、同電力供給システムは、第1バッテリ80aと第2バッテリ80b(総称するときはバッテリ80という)とを備えている。
第1バッテリ80aは車両電気負荷82に常時接続され、これらに電力供給が可能である。車両電気負荷82は第1負荷群82a、第2負荷群82a、第3負荷群82cに大別される。第1負荷群82aは、一般的な電気負荷のうち、スタータ36のクランキング時に電源電圧が一次的に低下することが望ましくない電気負荷である。具体的には、エアバッグコントロールユニット、EHPAS(電子油圧式パワーステアリング)コントロールユニット、ナビゲーションシステム、オーディオ、各種メータ類等が挙げられる。第2負荷群82aは、一般的な電気負荷のうち、スタータ36のクランキング時に電源電圧が一次的に低下してもあまり問題にならない電気負荷である。具体的には各種ライト、デフォッガ等が挙げられる。第3負荷群82cは、エンジンの制御装置を搭載する当該車両特有の電気負荷である。具体的には坂道停車中に車両のずり下がりを防止するヒルホルダ、電動パワーステアリングのモータ等が挙げられる。ヒルホルダは、エンジン自動停止中にパワーブレーキが作動しないことをカバーするものであり、電動パワーステアリングは、エンジン自動停止中にEHPAS(電子油圧式パワーステアリング)が作動しないことをカバーするものである。
第1バッテリ80aは、パワーリレー85を介してスタータ36に接続されている。従って、パワーリレー85がオフのときにはスタータ36への電力供給がなされず、パワーリレー85がオンのときにはスタータ36への電力供給が可能となる。このようにパワーリレー85は、第1バッテリ80aとスタータ36との接続状態を切換可能なバッテリ切換手段となっている。さらに第1バッテリ80aはオルタネータ28に常時接続され、オルタネータ28で発電された電気が第1バッテリ80aに充電される。
第2バッテリ80bは、第1バッテリ80aよりも少容量で、スタータ36駆動専用のバッテリである。第2バッテリ80bはスタータ36に常時接続され、電力供給が可能となっている。また第2バッテリ80bは、チャージリレー87を介してオルタネータ28と接続されている。これにより、チャージリレー87がオンのとき、オルタネータ28で発電された電気が第2バッテリ80bに充電される。
キー始動時およびエンジン自動停止状態からクランキングによる再始動を行うとき、第2バッテリ80bからスタータ36のモータ36aに電力が供給され、スタータ36が駆動する。このクランキング時、スタータ36での消費電力は比較的大きいので、第2バッテリ80bの電源電圧が一時的に大きく低下する。しかし車両電気負荷82は、第1バッテリ80aからの電力供給を受けているので、第2バッテリ80bの電圧低下の影響を受けない。これは特に電源電圧の低下が望ましくない第1負荷群82aに対して効果的である。
なお、図3に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、自動変速機2とともにパワーユニットを構成している。
図4は、本発明に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御ブロック図である。図4では、特に本実施形態の説明に必要な部分のみを抽出して示している。
エンジン制御ユニット100には、上述した各種のセンサやスイッチ類、すなわちエアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、並びにIGキースイッチ38等の入力要素からの信号が入力される。
またエンジン制御ユニット100は、その制御対象である燃料噴射弁16、スロットル弁24a、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36、車両電気負荷82、パワーリレー85およびチャージリレー87等の出力要素に対して制御信号を出力する。
エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェースおよびこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。そしてエンジン制御ユニット100は、燃焼制御部101、ピストン位置判定部102、スタータ制御部103、リレー制御部104、電気負荷制御部105、自動停止制御部106、停止時間計測部107、および筒内温度推定部108を論理的に構成している。
燃焼制御部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33およびアクセル開度センサ34からのセンサ信号に基き、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量とその噴射タイミング、および適正点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24a(のアクチュエータ24b)、点火装置27に出力する。
ピストン位置判定部102は、クランク角センサ30、31の信号に基づきピストン13の位置を演算するものである。このピストン位置判定部102は、エンジン1が自動停止時しているときにおけるピストン13の停止位置を判定するものでもある。
スタータ制御部103は、キー始動時およびエンジン自動停止制御における再始動においてスタータ36の駆動が必要とされたときにスタータ36に駆動信号を送りスタータ36を駆動させる。
リレー制御部104は、図3に示すパワーリレー85およびチャージリレー87を必要に応じてオン/オフ制御することにより、スタータ36への給電やバッテリ80の充電制御を司るものである。
電気負荷制御部105は、運転者や搭乗者のスイッチ操作に基き、或いは自動的に、車両電気負荷82を作動させたりその作動状態を変化させたりする。スタータ駆動時にスタータ36への電力供給をより多く確保するために、必要に応じて車両電気負荷82への電力供給を遮断するように構成されている。
自動停止制御部106は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させ、停止後、所定の再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に再始動させるように構成されている。本実施形態に係る再始動制御は、再始動条件が成立したときに、エンジン1の自動停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒12B内での燃焼により自動的にエンジンを再始動させる燃焼再始動制御と、スタータ36を併用するスタータ併用再始動制御と、スタータ36のみにより強制的にエンジンを再始動させるスタータ始動制御とのいずれかの制御方法が選択され実行される。
停止時間計測部107は、エンジン制御ユニット100内のタイマーによって、エンジン1が自動停止してから再始動を開始するまでの停止時間を計測する。
筒内温度判定部108は、水温センサ33の検出値や、停止時間計測部107による計測値に基づき、予めメモリに記憶されたデータに基づいて、各気筒の筒内温度を推定するものである。
次に、エンジン制御ユニット100のメモリに記憶されている制御マップについて説明する。
図5は、本発明に係る停止時圧縮行程気筒と空気量との関係を示す説明図である。
図5を参照して、エンジン制御ユニット100のメモリには、予め燃焼による再始動が可能な下死点限界と上死点限界とによって決定される燃焼再始動可能範囲Aが制御マップM1として記憶されている。燃焼再始動可能範囲Aは、例えば、圧縮上死点前140°から圧縮上死点前40°の範囲に設定される。
ピストン13は、エンジン制御ユニット100による自動停止制御に基づき、この燃焼再始動可能範囲A内で停止するのであるが、この燃焼再始動可能範囲Aの中でも、停止時圧縮行程気筒12Aについては、上死点前90°CAよりも僅かに上側の範囲に停止していることが好ましい。本実施形態の例では、図5に示すように、停止時圧縮行程気筒12Aが上死点前60°CAから80°CAの範囲にあるときを単独燃焼停止範囲Rとしてエンジン制御ユニット100に判定基準を設定している。
単独燃焼停止範囲Rとは、再始動時に、スタータ36を使用せずに、燃焼のみによってエンジン1の再始動が可能な停止位置をいう。停止時膨張行程気筒のピストン13がこの単独燃焼停止範囲Rにある場合には、当該気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。
そこで本実施形態では、アイドル時にエンジン1を自動で停止させるときに、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、その後の所定期間、スロットル弁24aを開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのスロットル弁24aを予め設定した適切なタイミングで閉じるようにしている。これにより停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時圧縮行程気筒12Aへそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該膨張行程気筒12Bの空気量が圧縮行程気筒12Aよりもやや多くなる。この結果、再始動時に駆動される2つの気筒12A、12B内の空気の圧縮圧力のバランスによって、膨張行程気筒12Bのピストン13が行程中央部から多少、下死点(下死点)寄りの再始動に好適な単独燃焼停止範囲R内に停止するように制御している。尤も、ピストン13の停止位置は、各気筒12A〜12D内の空気量のバランス等により決定される。そのため、エンジン1の個体差やエンジン1の温度および大気状態の変化に伴って、前記エンジン回転速度Neとピストン13の停止位置との関係が変化する場合がある。このような場合には、予め設定したエンジン回転速度Neとピストン13の停止位置との関係に基づいてオルタネータ28を制御してエンジン回転速度Neを調整しても、ピストン13の停止位置を所望の位置にすることができない。そこで、本実施形態では、後述するフローチャートで示しているように、ピストン位置判定部102によって判定されたピストン停止位置が、単独燃焼停止範囲Rから外れている場合には、スタータ制御部103がスタータ36を駆動するように構成されている。
次に、エンジン1の自着火を防止するために、本実施形態においては、図6に示す特性図に基づいてエンジン1の筒内温度を管理している。
図6は、エンジン停止からの経過時間と筒内温度との関係を示すグラフであり、エンジン停止時の筒内温度が80℃であった場合の筒内温度変化の推定値である。
図6を参照して、エンジンが完全に停止すると、各気筒12A〜12Dの筒内温度は、同図に示す温度特性で変化する。すなわち、エンジン1の自動停止後、エンジン1が完全に停止すると冷却水の流れも停止するので、停止直後に筒内温度が急速に上昇する。そしてエンジン停止後約10秒でピークとなり、以後は徐々に低下して行く。この特性は冷却水の温度(エンジン水温)や外気温(吸気温度)等によって異なるが、エンジン1の仕様毎に実験等で決定することも可能であることから、エンジン制御ユニット100には、エンジン1の仕様毎に図6の特性をマップ化したデータを記憶させて、エンジン停止後の約10秒前後の範囲を所定停止時間範囲とし、この所定停止時間範囲では、当該エンジン1の吸気通路の空気温度が急上昇する運転状態のときに前記所定の高温であると判定するとともに、この所定停止時間範囲に再始動時間に近いほど、筒内温度が高いと判定するように設定して、自着火防止のために対策処理を実行することとしている。
図7は、図5および図6のグラフに基づいて作成された点火タイミングとピストン停止位置との関係を示すグラフである。
図7を参照して、上述したように、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が、燃焼再始動可能範囲A内であれば、点火タイミングは、圧縮上死点経過後の所定タイミングに設定される。しかし、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側にあるときは、停止時圧縮行程気筒12Aの容積が小さくなっているため、充分な空気量を確保することができなくなっている。この状態で、通常の点火タイミングで混合気を燃焼させると、停止時圧縮行程気筒12Aでのエネルギーを充分に確保することができないため、トルクが小さくなり、停止時吸気行程気筒12Cの受熱期間が長くなる。そこで、本実施形態では、図7の右側に示すように、ピストン位置判定部102によって判定された停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が、燃焼再始動可能範囲Aから上死点側に外れている場合には、上死点側に行くほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをアドバンスするようにしている。ここで、停止時吸気行程気筒12Cの本来の最適点火時期(MBT)は、圧縮上死点経過直後であるが、いわゆる吹き上がり抑制のために、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲Aにあるときの点火時期は、このMBTよりもリタードされている。従って、ピストン位置判定部102によって判定された停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が、燃焼再始動可能範囲Aから上死点側に外れている場合には、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをアドバンスすることによって、点火タイミングを停止時吸気行程気筒12Cの本来のMBTに近づけ、当該ピストン13の初動ストロークを速めることができるのである。
他方、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲Aよりも下死点側にあるときは、停止時圧縮行程気筒12Aの容積が大きくなっているため、空気量が過多になっている。この状態で、通常の点火タイミングで混合気を燃焼させると、停止時吸気行程気筒12Cでの圧縮行程が急激になり、ノッキングが発生しやすくなる。そこで、本実施形態では、図7の左側に示すように、ピストン位置判定部102によって判定された停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が、燃焼再始動可能範囲Aから下死点側に外れている場合には、下死点に行くほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをリタードするようにしている。
さらに、上述したように、筒内温度が高い場合には、自着火が発生しやすくなるので、本実施形態においては、高温になる程、点火タイミングをアドバンスさせて、自着火を防止するようにしている。エンジン制御ユニット100は、図7のグラフに基づくデータを制御マップM1として、メモリに記憶している。
次にエンジン制御ユニット100によって行われる自動停止制御について説明する。
図8および図9は、エンジン制御ユニット100による制御、特に自動停止制御を中心とするフローチャートである。図8はエンジン1が停止するまでの制御、図9はその後の再始動の制御を示す。
図8を参照して、エンジン制御ユニット100は、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立するのを待機する(ステップS10)。具体的には、ブレーキの作動状態が所定時間継続し、車速が所定値以下であるといった場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定される。
ステップS10において、自動停止条件が成立したと判定した場合には、オルタネータ制御を含むエンジン回転速度調整制御を開始する(ステップS12)。具体的には、エンジン回転速度Neを停止前回転速度N1(例えば760rpm)に調節する。そして、エンジン回転速度NeがこのN1になった後(ステップS13でYES)、燃料噴射弁16からの燃料供給を停止する(ステップS14)。
続いてエンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを開弁し(ステップS15)、エンジン回転速度Neが所定の回転速度N2(例えば約500rpm)よりも低くなるのを待機する(ステップS16)。ステップS16においてYESの場合、エンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを閉弁する(ステップS17)。その後もエンジン制御ユニット100はオルタネータ制御を継続してピストン13の停止位置調整を実行し続け、クランク角センサ30、31の検出値に基づいてエンジン1が完全に停止するのを待機する(ステップS18)。エンジン1が完全するまで、エンジン制御ユニット100は、ピストン13の停止位置調整を制御し続けるとともに、エンジン1が完全した場合には、オルタネータ制御を終了し(ステップS19)、クランク角センサ30、31の検出によってピストン位置判定部102が判定したピストン13の停止位置を記憶する(ステップS20)。
次に図9を参照して、エンジンの再始動について説明する。エンジン制御ユニット100は、エンジン1が停止した後、再始動条件が成立するのを待機する(ステップS21)。再始動条件としては、例えば、運転者によるアクセル操作等が例示される。この再始動条件が成立すると、エンジン制御ユニット100は、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が単独燃焼停止範囲R内にあるか否かを判定する(ステップS22)。仮にピストン13が単独燃焼停止範囲R内にあれば、エンジン制御ユニット100は、そのまま燃焼再始動サブルーチンを実行し(ステップS23)、さらに、通常運転サブルーチンを実行する(ステップS24)。他方、ステップS22において、ピストン13が単独燃焼停止範囲R外であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、さらに、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲A内であるか否かを判定する(ステップS25)。このステップS25でピストン13が燃焼再始動可能範囲A内であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、アシスト併用再始動サブルーチンを実行する(ステップS26)。他方、ピストン13が燃焼再始動可能範囲A外であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、スタータ36のみによるアシスト再始動サブルーチンを実行する(ステップS27)。
図10は図9のフローチャートにおける燃焼再始動サブルーチンを実行した場合を示す模式図である。
図10を参照して、燃焼再始動サブルーチンを実行した場合、原則としてスタータ36の力を借りることなく、エンジン1が燃焼のみによって始動される。本実施形態では、図10(A)〜図10(D)に模式的に示すように、まず、停止時圧縮行程気筒12Aで最初の燃焼を行わせて、ピストン13を押し下げることにより、クランクシャフト3を少しだけ逆転させ(図10(A)参照)、これにより、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13を上昇させて、この気筒12B内の混合気を圧縮する(図10(B)参照)。そして、そのようにして圧縮されて温度および圧力の高くなった停止時膨張行程気筒12B内の混合気に点火して、燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向のトルクを与えて、エンジン1を始動するようにしている。そのようにエンジン1を自力で始動させるためには、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼によってクランクシャフト3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与える。これにより、図10(C)に示すように停止時圧縮行程気筒12Aが、その圧縮反力(圧縮圧力)に打ち勝って上死点を越える。
次に、本実施形態では、停止時膨張行程気筒に対する燃焼の後に、停止時圧縮行程気筒12Aに対して燃料を噴射することにより、気化潜熱で逆転後の停止時圧縮行程気筒12A内の圧力を下げ、トルクの低減を抑制するようにしている(図10(C)参照)。さらに、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼後に圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒12Cにおいては、点火タイミングを圧縮上死点後にリタードさせて、いわゆる吹き上がりを防止している(図10(D)参照)。
他方、図9におけるアシスト併用再始動サブルーチンでは、エンジン1が逆転から正転に転じたタイミングでスタータ36のピニオンギア36dをフライホイールに固定されたリングギア35に噛合し、図略のモータの回転をこのピニオンギア36dおよびリングギア35を介してフライホイールに伝達することで、エンジン1を強制的に始動させるものである。
本実施形態に係る燃焼再始動制御やスタータ併用再始動制御の詳細については、例えば、本件出願人が先に提案している特開2005−2847号公報や、特開2005−315197号公報に開示されたものをそのまま適用することが可能であるので、その詳細については説明を省略する。
図11は、図9フローチャートにおけるアシスト再始動サブルーチンを示すフローチャートである。
図11を参照して、アシスト再始動サブルーチンにおいて、エンジン制御ユニット100は、水温センサ33の検出と、停止時間計測部107によって計測された停止時間(エンジン1が自動停止してからの経過時間)とに基づいて、筒内温度を算出する(ステップS271)。このステップS271で算出された筒内温度と図7のグラフに基づく制御マップM1とに基づき、エンジン制御ユニット100は、停止時圧縮行程気筒12Aの点火タイミングを算出する(ステップS272)。その後、エンジン制御ユニット100は、スタータ36を駆動し、停止しているエンジン1を強制駆動する(ステップS273)。次いで、エンジン制御ユニット100は、燃焼制御部101の制御によって、停止時膨張行程気筒12Bへの燃料噴射制御(ステップS274)と点火制御(ステップS275)とを実行し、これによって、エンジン1を燃焼によっても駆動する。その後、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が圧縮上死点を超えるのを待機し(ステップS276)、圧縮上死点を超えた場合には、ステップS272で設定された点火タイミングで停止時圧縮行程気筒12Aでの点火制御を実行し(ステップS277)、メインルーチンに復帰する。この停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火時において、点火タイミングがアドバンスする(MBTに近づく)ことにより、停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼速度が促進し、ピストン13の初動ストロークが速くなるので、その分、停止時吸気行程気筒12Cでの受熱期間も短くなる。このため、停止時吸気行程気筒12Cの筒内温度が過度に高まるのを抑制し、プリイグニションを防止することができる。このように、本実施形態では、ステップS272、S273によって点火タイミングをアドバンスさせることにより、停止時吸気行程気筒12Cの受熱期間が短縮されるように停止時圧縮行程気筒12Aでの初動ストロークを促進する促進手段が論理的に構成されることになる。
以上説明したように、本実施形態では、再始動条件の成立時において、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置に基づき、アシスト条件の成否が決定され、アシスト条件が成立した場合には、スタータ36によってエンジン1が再始動を開始する。この際、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が、燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側に外れている場合には、この停止時圧縮行程気筒12Aでの初動ストロークが促進されるので、停止時吸気行程気筒12Cでの受熱期間が短くなり、停止時吸気行程気筒12Cの温度上昇を抑制して、プリイグニションを防止することができる。
具体的に、本実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側に外れている場合には、当該ピストン13が上死点側にあるほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをアドバンスする(MBTに近づける)ものである。このため本実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側に外れている場合に点火タイミングがアドバンスされることによって、停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼が促進される結果、当該気筒12Aでの初動ストロークが促進され、停止時吸気行程気筒12Cの受熱期間が短縮される。
また本実施形では、エンジン1の筒内温度を判定する筒内温度判定部108を備え、筒内温度判定部108が判定した筒内温度が高いほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをアドバンスするものである。このため本実施形態では、自着火が生じやすい高温状態になるほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初動ストロークの促進度合いが高まり、自着火を確実に防止することができる。
また本実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲Aよりも下死点側である場合には、下死点に近いほど、停止時圧縮行程気筒12Aでの初回の点火タイミングをリタードするものである。このため本実施形態では、停止時吸気行程気筒12Cのノッキングをも確実に防止することができる。すなわち、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも下死点側に外れている場合には、当該気筒12A内の容積過多によって、停止時吸気行程気筒12Cでのノッキングが生じやすくなる。然るに本実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも下死点側に外れている場合には、点火タイミングがリタードされることによって、混合気の燃焼が遅れることにより、ノッキングが抑制されるとともに、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側に外れている場合には、点火タイミングがアドバンスされることによって、停止時吸気行程気筒12Cの受熱期間が短縮される。
上述した実施形態は、本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
例えば、図9の再始動制御としては、図12に示すフローを採用してもよい。
図12は、本発明の別の実施形態に係る再始動制御のフローチャートである。
図12を参照して、同図に示す実施形態では、まず、エンジン制御ユニット100がエンジンの再始動条件が成立するのを待機し(ステップS21)、成立した場合には、ピストン停止位置が単独燃焼停止範囲R内にあるか否かを判定する(ステップS210)。仮にピストン13が単独燃焼停止範囲R内にあれば、エンジン制御ユニット100は、そのまま燃焼再始動サブルーチンを実行し(ステップS23)、さらに、通常運転サブルーチンを実行して(ステップS24)処理を終了する。
他方、ステップS210において、ピストン停止位置が単独燃焼停止範囲R外であれば、エンジン制御ユニット100は、さらに、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側であるか否かを判定する(ステップS211)。このステップS211でピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、パワーリレー85をONにする(ステップS212)。この制御により、パワーリレー85が回路を閉じて、メインバッテリ80aからもスタータ36に給電し、スタータ36の駆動力が高められる。他方、ステップS211において、ピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側から外れていると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、水温センサ33の検出と、停止時間計測部107によって計測された停止時間(エンジン1が自動停止してからの経過時間)とに基づいて、筒内温度を算出する(ステップS213)。次いで、算出された筒内温度が所定の上限温度Ta以下であるか否かが判定される(ステップS214)。このステップS214で筒内温度が上限温度Taを超えていると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、ステップS212に移行して、パワーリレー85をONにし、スタータ36の駆動力を高める。他方、筒内温度が上限温度Ta以下である場合、エンジン制御ユニット100は、パワーリレー85をOFFにする(ステップS215)。
パワーリレー85の制御をステップS212またはステップS215によって実行した後、エンジン制御ユニット100は、スタータ36を駆動する(ステップS216)。これにより、スタータ36が作動し、エンジン1が強制的に駆動される。
次いで、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度Neが所定値に達するのを待機し(ステップS217)、所定値に達した場合には、スタータ36を停止し(ステップS218)、パワーリレー85をOFFにして給電回路を開く(ステップS219)。なお、ステップS218およびステップS219の順序は逆であってもよく、同時であってもよい。
上述したように、図12に示した実施形態では、停止時圧縮行程気筒のピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側にずれている場合には、スタータ36の駆動力を増加するものである。このため図12に示した実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が燃焼再始動可能範囲Aよりも上死点側にずれている場合にスタータ36の駆動力を増加することによって、ピストン13の始動ストロークが速くなり、停止時吸気行程気筒12Cの受熱期間が短縮される。
なお、スタータ36の駆動力を高める方法としては、パワーリレー85をスタータ36に接続する方法の他、パワーリレー85に給電される電力(電流/電圧)を直截に高くする方法を採用してもよい。
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。