以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1および図2は本発明に係る車両用エンジン1の概略構成を示す。
各図に示すエンジン1は、4サイクル火花点火式ガソリンエンジンであって、4つの気筒12A〜12D(図2参照)が設けられている。また、各気筒12A〜12Dの内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、当該ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13は、所定の位相差をもってクランクシャフト3の回転に伴い上下運動を行うように構成されている。
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。本実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに本実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
シリンダヘッド10には、各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部に配置され、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設けられている。また、シリンダヘッド10には、燃焼室14の側方から内部に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図5参照)から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
また、各気筒12A〜12Dの上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。そして、これらのポート17、18と燃焼室14との連結部分には、吸気バルブ19および排気バルブ20がそれぞれ装備されている。この吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aに分岐しており、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられている。この共通吸気通路21cには、スロットルボディ24が設けられている。スロットルボディ24には、各気筒12A〜12Dに流入する空気量を調整可能なスロットル弁24aとこのスロットル弁24aを駆動するアクチュエータ24bと、アイドリング回転速度制御装置(ISC:Idling Speed Control device)24cとが設けられている。図示の実施形態において、ISC24cは、エンジン制御ユニット100の燃焼制御部101(図5参照)によって開弁量を変更可能な電磁駆動式のものである。スロットル弁24aの上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力を検出する吸気圧センサ26とが設置されている。
また、上記エンジン1には、図1に示すように、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力されるエンジン制御ユニット100(図5参照)からの制御信号に基づき、車両電気負荷82(図3参照)および車載されたバッテリ80(図3参照)の電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
またエンジン1には、電動駆動装置としてのスタータ36が設けられている。このスタータ36は、モータ36a(電気モータ)とピニオンギア36dとを有し、エンジン1を駆動するものである。ピニオンギア36dの回転軸は、モータ36aの出力軸と同軸で、その回転軸に沿って往復移動する。またクランクシャフト3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギア35が、回転中心に対して同心に設けられている。そして、このスタータ36を用いてエンジンを始動する場合には、ピニオンギア36dが所定の噛合位置に移動して、リングギア35に噛合することにより、クランクシャフト3が回転駆動されるようになっている。
スタータ36によってエンジンを始動させる形態には2通りある。第1の形態は運転者がイグニションキースイッチ38(図5参照)を回してスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、キー始動と呼ばれるものである。第2の形態は、エンジンの自動停止後の再始動時に、エンジン制御ユニット100のスタータ制御部103(図5参照)が自動的にスタータ36を駆動させ、それによってエンジン1を始動させるものであり、自動再始動と呼ばれるものである。
またエンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角度センサ30、31が設けられている。一方のクランク角度センサ30から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、この両クランク角度センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転角度が検出されるようになっている。さらに、エンジン1には、吸気側カムシャフトの回転位置を検出するカム角度センサ32と、冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34とが設けられている。
図3は本実施形態に係る車両に搭載された電力供給システムの概略構成図である。
図3を参照して、同電力供給システムは、第1のバッテリ80aと第2のバッテリ80b(総称するときはバッテリ80という)とを備えている。
第1のバッテリ80aは車両電気負荷82に常時接続され、これらに電力供給が可能である。車両電気負荷82は第1負荷群82a、第2負荷群82a、第3負荷群82cに大別される。
第1負荷群82aは、一般的な車両電気負荷のうち、スタータ36のクランキング時に電源電圧が一次的に低下することが望ましくない電気負荷である。具体的には、エアバッグコントロールユニット、EHPAS(電子油圧式パワーステアリング)コントロールユニット、ナビゲーションシステム、オーディオ、各種メータ類等が挙げられる。
第2負荷群82aは、一般的な車両電気負荷のうち、スタータ36のクランキング時に電源電圧が一次的に低下してもあまり問題にならない電気負荷である。具体的には各種ライト、デフォッガ等が挙げられる。
第3負荷群82cは、車両用エンジンの制御装置を搭載する当該車両特有の車両電気負荷である。具体的には坂道停車中に車両のずり下がりを防止するヒルホルダ110、電動パワーステアリングのモータ等が挙げられる。ヒルホルダ110は、エンジン自動停止中にパワーブレーキが作動しないことをカバーするものであり、電動パワーステアリングは、エンジン自動停止中にEHPAS(電子油圧式パワーステアリング)が作動しないことをカバーするものである。
第1のバッテリ80aは、パワーリレー85を介してスタータ36に接続されている。従って、パワーリレー85が遮断しているときにはスタータ36への電力供給がなされず、パワーリレー85が接続しているときにはスタータ36への電力供給が可能となる。さらに第1のバッテリ80aはオルタネータ28に常時接続され、オルタネータ28で発電された電気が第1のバッテリ80aに充電される。
第2のバッテリ80bは、第1のバッテリ80aよりも少容量で、スタータ36駆動専用のバッテリである。第2のバッテリ80bはスタータ36に常時接続され、電力供給が可能となっている。また第2のバッテリ80bは、チャージリレー87を介してオルタネータ28と接続されている。これにより、チャージリレー87が接続しているとき、オルタネータ28で発電された電気が第2のバッテリ80bに充電される。
キー始動時およびエンジン自動停止状態からクランキングによる再始動を行うとき、第2のバッテリ80bからスタータ36のモータ36aに電力が供給され、スタータ36が駆動する。本実施形態においては、エンジン1のキー始動時には、パワーリレー85が接続されて、第1、第2のバッテリ80a、80bの双方からスタータ36が給電される促進給電モードが選択されるようになっている。
クランキング時、スタータ36での消費電力は比較的大きいので、第2のバッテリ80bの電源電圧が一時的に大きく低下する。しかし車両電気負荷82は、第1のバッテリ80aからの電力供給を受けているので、第2のバッテリ80bの電圧低下の影響を受けない。これは特に電源電圧の低下が望ましくない第1負荷群82aに対して効果的である。
なお、次に説明する図4に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、自動変速機2とともにパワーユニットを構成しており、自動変速機2に設けられた差動装置2aを介して車両の前駆動輪4、5を駆動するフロントエンジン/フロントドライブ(FF)車両を構成している。
図4は、図1の実施形態に係るヒルホルダ110の構成を概略的に示す構成図である。
図4を参照して、ヒルホルダ110は、車両に設けられたブレーキシステムによって具体化されている。このブレーキシステムは、運転者に操作されるブレーキペダル111と、このブレーキペダル111に入力された踏力を助勢するブレーキブースタ112と、ブレーキブースタ112に接続され、踏力に応じたブレーキ油圧を生成するマスタシリンダ113と、このマスタシリンダ113に接続される一対の油圧回路114、115とを備えている。各油圧回路114、115には、それぞれ電磁弁で構成されるヒルホールド制御弁116、117と、キャリパ118とが設けられている。ブレーキブースタ112に入力されたブレーキブースタ負圧は、ブースタ負圧センサ39(図5参照)によって検出されるようになっている。
図示の実施形態におけるマスタシリンダ113は、吐出口を2つ有するタンデム型であり、油圧回路114、115は、クロス方式(X配管方式)である。すなわち、油圧回路114、115は、マスタシリンダ113の各吐出口からそれぞれ延びて途中で2つに分岐し、一方の油圧回路114が車両の右前駆動輪4と左後従動輪7に設けられたキャリパ118に接続され、他方の油圧回路115が車両の左前駆動輪5と右後従動輪6に設けられたキャリパ118に接続されている。なお、クロス方式に限らず、一方の油圧回路が左右の前輪に、他方の油圧回路が左右の後輪に接続される前後分割方式を採用してもよい。
各ヒルホールド制御弁116、117は、DCソレノイドを用いたノーマルオープン型のON/OFF電磁弁で構成されており、コイルに電流が流れていない遮断時には、油圧回路を開き、コイルに電流が流れている接続時には、油圧回路114、115を閉じるように構成されている。そして、ブレーキペダル111が踏み込まれ、各油圧回路114、115内の圧力が高まっている状態でこれらヒルホールド制御弁116、117が閉じると、ブレーキペダル111の踏み込み量に拘わらず各ヒルホールド制御弁116、117とキャリパ118間の油圧が維持され、キャリパ118による車輪4〜7のディスク挟圧力を保持して、車両の制動力を維持することができるようになっている。すなわち、これらヒルホールド制御弁116、117は、車両の移動を制動する制動力を保持する制動力保持手段を構成している。
各油圧回路114、115のキャリパ118とヒルホールド制御弁116、117間の油圧は、ブレーキ油圧センサ40(図5参照)によって検出されるようになっている。
なお、ヒルホルダ110のさらに詳細な構成については、本件出願人らが先に提案している特願2003−25669(特開2004−231155号公報)に詳細に開示しているものと同様であるので、残余の説明についてはこれを省略する。
図5は、本発明に係る車両のエンジン制御ユニット100を中心とする制御ブロック図である。図5では、特に本実施形態の説明に必要な部分のみを抽出して示している。
エンジン制御ユニット100には、上述した各種のセンサやスイッチ類、すなわちエアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角度センサ30、31、カム角度センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、IGキースイッチ38、並びにブースタ負圧センサ39等の入力要素からの信号が入力される。
またエンジン制御ユニット100は、その制御対象である燃料噴射弁16、スロットル弁24a、点火装置27、オルタネータ28、スタータ36、車両電気負荷82、パワーリレー85およびチャージリレー87等の出力要素に対して制御信号を出力する。
エンジン制御ユニット100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェースおよびこれらを接続するバスを有するマイクロプロセッサで構成されている。そしてエンジン制御ユニット100は、燃焼制御部101、ピストン位置判定部102、スタータ制御部103、リレー制御部104、電気負荷制御部105、並びに自動停止制御部106を論理的に構成している。
燃焼制御部101は、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、クランク角度センサ30、31、カム角度センサ32、水温センサ33およびアクセル開度センサ34からのセンサ信号に基づき、エンジン1の適正なスロットル開度(吸気量)、燃料噴射量とその噴射タイミング、および適正点火時期を設定し、その制御信号を燃料噴射弁16、スロットル弁24a(のアクチュエータ24b)、点火装置27に出力する。本実施形態に係る燃焼制御部101は、エンジン1の自動停止後、所定の再始動条件が成立したときに、エンジン1を自動的に再始動させるように構成されている。本実施形態に係る再始動制御は、再始動条件が成立したときに、エンジン1の自動停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒12B内での燃焼により自動的にエンジンを再始動させる燃焼再始動制御と、スタータ36を併用するスタータ併用再始動制御と、スタータ36のみにより強制的にエンジンを再始動させるスタータ始動制御とのいずれかの制御方法が選択され実行される。
ピストン位置判定部102は、クランク角度センサ30、31の信号に基づきピストン13の位置を演算するものである。このピストン位置判定部102は、エンジン1が自動停止時しているときにおけるピストン13の停止位置を判定するものでもある。
スタータ制御部103は、キー始動時およびエンジン自動停止制御における再始動においてスタータ36の駆動が必要とされたときにスタータ36に駆動信号を送りスタータ36を駆動させる。
リレー制御部104は、図3に示すパワーリレー85およびチャージリレー87を必要に応じて接続遮断制御することにより、スタータ36への給電やバッテリ80の充電制御を司るものである。本実施形態においては、このリレー制御部104がパワーリレー85の接続遮断状態を切り換えることにより、第2のバッテリ80bのみからスタータ36に給電する通常給電モードと、第2のバッテリ80bとともに第1のバッテリ80aからもスタータ36に給電する促進給電モードとに切り換える切換手段を構成している。リレー制御部104は、燃焼再始動制御(または自動再始動制御)が実行される際、パワーリレー85を遮断することにより、給電モードを通常給電モードに維持する。
電気負荷制御部105は、運転者や搭乗者のスイッチ操作に基づき、或いは自動的に、車両電気負荷82を作動させたりその作動状態を変化させたりする。スタータ駆動時にスタータ36への電力供給をより多く確保するために、必要に応じて車両電気負荷82への電力供給を遮断するように構成されている。
自動停止制御部106は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン1を自動停止させるように構成されている。
さらに、本実施形態においては、上述したブレーキシステムをヒルホルダとして機能させるヒルホールド制御ユニット200がエンジン制御ユニット100に付設されており、電気的に信号を交換可能に接続されている。ヒルホールド制御ユニット200は、クランク角度センサ30、31、ブレーキ油圧センサ40、並びに傾斜角度センサ41を入力要素としている。クランク角度センサ30、31からの信号を受けることにより、ヒルホールド制御ユニット200は、エンジン回転速度を認識できるように構成されている。ヒルホールド制御ユニット200には、ブレーキ油圧センサ40が接続されており、各油圧回路114、115のキャリパ118とヒルホールド制御弁116、117間の油圧がヒルホールド制御ユニット200に入力されるようになっている。また、ヒルホールド制御ユニット200には、傾斜角度センサ41が接続されている。傾斜角度センサ41は、路面の勾配に関連する信号を出力し、ヒルホールド制御ユニット200に入力するものである。これによりヒルホールド制御ユニット200は、路面の勾配を認識し、エンジン制御ユニット100の制御に供することができるようになっている。
ヒルホールド制御ユニット200には、出力要素として、ヒルホールド制御弁116、117が接続されており、クランク角度センサ30、31、ブレーキ油圧センサ40並びに傾斜角度センサ41から検出される運転状態に応じて、油圧回路114、115の油圧を制御できるようになっている。
次に、エンジン制御ユニット100のメモリに記憶されている制御マップについて説明する。
図6は、本発明に係る停止時膨張行程気筒と空気量との関係を示す説明図である。
図6を参照して、エンジン制御ユニット100のメモリには、予め燃焼による再始動が可能な上死点限界と下死点限界とによって決定される燃焼再始動可能範囲Aが制御マップとして記憶されている。燃焼再始動可能範囲Aは、例えば、上死点後40°から上死点後140°の範囲に設定される。
停止時膨張行程気筒12Bのピストン13は、エンジン制御ユニット100による自動停止制御に基づき、この燃焼再始動可能範囲A内で停止するのであるが、この燃焼再始動可能範囲Aの中でも、停止時膨張行程気筒12Bについては、上死点後100°CAよりも僅かに下側の範囲に停止していることが好ましい。本実施形態の例では、図6に示すように、停止時膨張行程気筒12Bが上死点後100°CAから120°CAの範囲にあるときを単独燃焼停止範囲Rとしてエンジン制御ユニット100に判定基準を設定している。
単独燃焼停止範囲Rとは、再始動時に、スタータ36を使用せずに、燃焼のみによってエンジン1の再始動が可能な停止位置をいう。停止時膨張行程気筒のピストン13がこの単独燃焼停止範囲Rにある場合には、当該気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。
そこで本実施形態では、アイドル時にエンジン1を自動で停止させるときに、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、その後の所定期間、スロットル弁24aを開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのスロットル弁24aを予め設定した適切なタイミングで閉じるようにしている。これにより停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時圧縮行程気筒12Aへそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該膨張行程気筒12Bの空気量が停止時圧縮行程気筒12Aよりもやや多くなる。この結果、再始動時に駆動される2つの気筒12A、12B内の空気の圧縮圧力のバランスによって、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が行程中央部から多少、下死点(下死点)寄りの再始動に好適な単独燃焼停止範囲R内に停止するように制御している。尤も、ピストン13の停止位置は、各気筒12A〜12D内の空気量のバランス等により決定される。そのため、エンジン1の個体差やエンジン1の温度および大気状態の変化に伴って、前記エンジン回転速度Neとピストン13の停止位置との関係が変化する場合がある。このような場合には、予め設定したエンジン回転速度Neとピストン13の停止位置との関係に基づいてオルタネータ28を制御してエンジン回転速度Neを調整しても、ピストン13の停止位置を所望の位置にすることができない。そこで、本実施形態では、後述するフローチャートで示しているように、ピストン位置判定部102によって判定されたピストン停止位置が、単独燃焼停止範囲Rから外れている場合には、スタータ制御部103がスタータ36を駆動するように構成されている。
なお、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が上死点後0°CAから30°CAの範囲にあるときには、リレー制御部104による給電モードは、原則として、パワーリレー85が接続された促進給電モードとし、残余の範囲では、パワーリレー85が遮断された通常給電モードとされる。このように、リレー制御部104は、第2のバッテリ80bのみからスタータ36に給電する通常給電モードと、第2のバッテリ80bとともに第1のバッテリ80aからもスタータ36に給電する促進給電モードとに切り換える切換手段を論理的に構成している。
次にエンジン制御ユニット100によって行われる自動停止制御について説明する。
図7および図8は、エンジン制御ユニット100による制御、特に自動停止制御を中心とするフローチャートである。図7はエンジン1が停止するまでの制御、図8はその後の再始動の制御を示す。
図7を参照して、エンジン制御ユニット100は、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立するのを待機する(ステップS10)。具体的には、ブレーキの作動状態が所定時間継続し、車速が所定値以下であるといった場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定される。
ステップS10において、自動停止条件が成立したと判定した場合には、エンジン制御ユニット100は、オルタネータ制御を含むエンジン回転速度調整制御を開始する(ステップS12)。
具体的には、エンジン回転速度Neを停止前回転速度N1(例えば760rpm)に調節する(ステップS13)。そして、エンジン回転速度NeがこのN1未満になった後(ステップS13でYES)、燃料噴射弁16からの燃料供給を停止する(ステップS14)。
続いてエンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを開き(ステップS15)、エンジン回転速度Neが所定の回転速度N2(例えば約500rpm)よりも低くなるのを待機する(ステップS16)。ステップS16においてYESの場合、エンジン制御ユニット100は、スロットル弁24aを閉じる(ステップS17)。その後もエンジン制御ユニット100はオルタネータ制御を継続してピストン13の停止位置調整を実行し続け、クランク角度センサ30、31の検出値に基づいてエンジン1が完全に停止するのを待機する(ステップS18)。エンジン1が完全に停止するまで、エンジン制御ユニット100は、ピストン13の停止位置調整を制御し続けるとともに、エンジン1が完全に停止した場合には、オルタネータ制御を終了し(ステップS19)、クランク角度センサ30、31の検出によってピストン位置判定部102が判定したピストン13の停止位置を記憶する(ステップS20)。
次に図8を参照して、エンジンの再始動について説明する。エンジン制御ユニット100は、エンジン1が停止した後、再始動条件が成立するのを待機する(ステップS21)。再始動条件としては、例えば、運転者によるアクセル操作等が例示される。この再始動条件が成立すると、エンジン制御ユニット100は、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が単独燃焼停止範囲R内にあるか否かを判定する(ステップS22)。仮にピストン13が単独燃焼停止範囲R内にあれば、エンジン制御ユニット100は、そのまま燃焼再始動サブルーチンを実行し(ステップS23)、さらに、通常運転サブルーチンを実行する(ステップS24)。他方、ステップS22において、ピストン13が単独燃焼停止範囲R外であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、さらに、ピストン停止位置が燃焼再始動可能範囲A内であるか否かを判定する(ステップS25)。このステップS25でピストン13が燃焼再始動可能範囲A内であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、アシスト併用再始動サブルーチンを実行する(ステップS26)。他方、ピストン13が燃焼再始動可能範囲A外であると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、スタータ36のみによるアシスト再始動サブルーチンを実行する(ステップS27)。
図9は図8のフローチャートにおける燃焼再始動サブルーチンを実行した場合を示す模式図である。
図9を参照して、燃焼再始動サブルーチンを実行した場合、原則としてスタータ36の力を借りることなく、エンジン1が燃焼のみによって始動される。本実施形態では、図9(A)〜図9(D)に模式的に示すように、まず、停止時圧縮行程気筒12Aで最初の燃焼を行わせて、ピストン13を押し下げることにより、クランクシャフト3を少しだけ逆転させ(図9(A)参照)、これにより、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13を上昇させて、この気筒12B内の混合気を圧縮する(図9(B)参照)。そして、そのようにして圧縮されて温度および圧力の高くなった停止時膨張行程気筒12B内の混合気に点火して、燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向のトルクを与えて、エンジン1を始動するようにしている。そのようにエンジン1を自力で始動させるためには、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼によってクランクシャフト3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与える。これにより、図9(C)に示すように停止時圧縮行程気筒12Aが、その圧縮反力(圧縮圧力)に打ち勝って上死点を越える。
次に、本実施形態では、停止時膨張行程気筒に対する燃焼の後に、停止時圧縮行程気筒12Aに対して燃料を噴射することにより、気化潜熱で逆転後の停止時圧縮行程気筒12A内の圧力を下げ、トルクの低減を抑制するようにしている(図9(C)参照)。さらに、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼後に圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒12Cにおいては、点火タイミングを圧縮上死点後にリタードさせて、いわゆる吹き上がりを防止している(図9(D)参照)。
他方、図8におけるアシスト併用再始動サブルーチンでは、エンジン1が逆転から正転に転じたタイミングでスタータ36のピニオンギア36dをフライホイールに固定されたリングギア35に噛合し、図略のモータの回転をこのピニオンギア36dおよびリングギア35を介してフライホイールに伝達することで、エンジン1を強制的に始動させるものである。
本実施形態に係る燃焼再始動制御やスタータ併用再始動制御の詳細については、例えば、本件出願人が先に提案している特開2005−2847号公報や、特開2005−315197号公報に開示されたものをそのまま適用することが可能であるので、その詳細については説明を省略する。
図10は、図8フローチャートにおけるアシスト再始動サブルーチンを示すフローチャートである。また、図11は、図8のフローチャートにおけるアシスト再始動サブルーチンを実行した場合を示す模式図である。
図10を参照して、アシスト再始動サブルーチンにおいて、エンジン制御ユニット100は、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が、上死点経過後0°CAから30°CA内にあるか否かを判定する(ステップS271)。ピストン13がこの範囲にあるときは、図11(A)に示すように、停止時膨張行程気筒12Bの次に燃焼が行われる停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が下死点近傍にあり、圧縮上死点を越えるまでに相当の時間を要することから、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼をすませた後(図11(B)参照)、速やかに停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼(図11(C)参照)を実行するために、パワーリレー85を接続して給電モードを促進給電モードに切り換え(ステップS273)、クランクシャフト3の回動を促進するようにしているのである。ここで、本実施形態においては、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が、上死点経過後0°から30°CA内にある場合であっても、路面が所定の平坦レベルから外れているときには、給電モードを促進給電モードに切り換えないようにしている。具体的には、ステップS271において、YESの場合、さらに路面が平坦レベル(傾斜角度センサ41によって検出された路面の勾配が±3°から±5°の範囲)にあるか否かを判定し(ステップS272)、路面が平坦レベルにある場合には、ステップS273に移行してパワーリレー85を接続し、給電モードを促進給電モードに切り換える一方、路面が平坦レベル外であるときは、ステップS273をバイパスしてパワーリレー85を遮断し給電モードを通常給電モードに維持したまま次のステップに移行する。この結果、平坦な路面で車両が停止しているときは、パワーリレー85を接続することによって、第1のバッテリ80aからもスタータ36が給電され、より強い駆動力でエンジン1のクランクシャフト3を駆動することにより、図11(B)から図11(C)の状態に速やかに移行することができる。他方、路面が平坦レベルから外れて傾斜しているときは、第1のバッテリ80aの給電が各車両電気負荷82に継続しているので、ヒルホルダ110を構成するヒルホールド制御弁116、117への給電が続けられることになる。この結果、ヒルホールド制御ユニット200の判定で各ヒルホールド制御弁116、117が印可され、キャリパ118と各ヒルホールド制御弁116、117との間の油圧が高圧に維持されている場合には、ヒルホールド制御弁116、117が車両の制動力保持手段としての機能を維持したまま車両の自動再始動が実現されることになる。なお、ステップS272の検出方法に代えて、ヒルホールド制御ユニット200との通信によってヒルホールド制御弁116、117の作動状態を検出し、ヒルホールド制御弁116、117が作動しているときは、ステップS273をバイパスするように構成してもよい。また、ヒルホールド制御弁116、117の作動状態をブレーキ油圧センサ40の検出値に基づいて判定してもよい。
ステップS273において、パワーリレー85を接続した後、或いは、ステップS272において、パワーリレー85の接続をバイパスした後、エンジン制御ユニット100は、スタータ36を駆動する(ステップS274)。これにより、図11(B)の行程から図11(C)の行程への移行が迅速化し、機動性を高めることが可能になる。
その後、エンジン制御ユニット100は、エンジン1が完爆するのを待機する(ステップS275)。具体的には、クランク角度センサ30、31の検出値に基づき、エンジン1の回転速度が500rpm以上になるのを待機し、500rpm以上で完爆と判定する。
エンジン1の完爆を検出すると、エンジン制御ユニット100は、燃焼再始動の場合と同様に吹き上がり制御を実行し、点火タイミングを圧縮上死点後にリタードさせる(ステップS276)。これにより、図11(C)の行程から図11(D)の行程に移行する際におけるエンジン回転速度の急激な上昇を抑制することができる。
その後、エンジン制御ユニット100は、パワーリレー85の接続状態を検出し(ステップS277)、パワーリレー85が接続されている場合には、これを遮断して給電モードを通常給電モードに変更し(ステップS278)、その後、スタータ36を停止して(ステップS279)元のルーチンに復帰する。
以上説明したように、本実施形態では、アシスト条件が成立し、自動再始動時にスタータ36の作動が必要な運転状況において、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が上死点近傍(例えば、上死点通過後±30°CA)にある場合には、給電モードが促進給電モードに切り換えられることにより、スタータ36は、第1、第2のバッテリ80a、80b双方から給電されることになる。この結果、下死点近傍にあった停止時圧縮行程気筒12Aが速やかに上死点に駆動されるので、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼から、次の燃焼サイクルを迎える停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼までの期間を短縮化し、自動再始動によるエンジン1のトルクを急速に高めて、機動性の高い再始動特性を得ることが可能になる。
また本実施形態では、路面勾配に関する値を検出する傾斜角度センサ41と、傾斜角度センサ41の検出に基づき、且つ第1のバッテリ80aにからの給電によって車両の移動を制動する制動力を保持するヒルホールド制御弁116、117とをさらに備え、リレー制御部104は、アシスト条件の成立時において、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が上死点近傍に停止していたとピストン位置判定部102が判定した場合において、ヒルホールド制御弁116、117が作動しているときは、ヒルホールド制御弁116、117に対して第1のバッテリ80aからの給電を維持するように促進給電モードへの切換を中止するものである。このため本実施形態では、路面が所定の平坦レベルから外れて傾斜している場合には、ヒルホールド制御弁116、117に対する第1のバッテリ80aからの給電が優先されるので、自動再始動時に車両が路面の勾配によって不随意に動き出すのを防止することができる。
また本実施形態では、再始動条件が成立した場合において停止時膨張行程気筒12Bが所定の適正範囲にあるとピストン位置判定部102が判定したときには、エンジン停止時に圧縮行程にあった停止時圧縮行程気筒12Aの混合気を燃焼させてエンジン1を一旦逆転させ、その後、エンジン停止時に膨張行程にあった停止時膨張行程気筒12Bで混合気を燃焼させてエンジン1を再始動する燃焼制御部101を備えている。このため本実施形態では、燃焼により自動再始動する際、再始動時間を短縮することができる。また、自動再始動時には、リレー制御部104は、給電モードを通常給電モードに維持しているので、車両電気負荷82に供給される電力が不足するおそれもない。
なお本実施形態では、リレー制御部104は、エンジン1のイグニションキーの接続時にも給電モードを促進給電モードに切り換えるように構成されている。このため本実施形態では、操縦者の操作に基づいてエンジン1を始動する際にも、始動性を向上することができる。
上述した実施形態は、本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
例えば、スタータ36の駆動力を高める方法としては、パワーリレー85をスタータ36に接続する方法の他、パワーリレー85に給電される電力(電流/電圧)を直截に高くする方法を採用してもよい。
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。