JP4678037B2 - ボルト接合部の制振構造 - Google Patents

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Description

本発明は、建物架構を構成する各鉄骨部材を結合する際に用いられるボルト接合部に適用して、地震や強風等により発生する建物架構の振動を効果的に制振するようにしたボルト接合部の制振構造に関する。
鉄骨柱および鉄骨梁を互いに結合して構成される建物架構は一般に多層階ビルディングに適用され、この鉄骨構造の建物架構ではブレースが地震や風等の水平力に対する抵抗要素として用いられる。これら鉄骨柱や鉄骨梁およびブレースなどの鉄骨部材は、溶接やボルトを介して接合してラーメン架構が構成されるが、特にボルト接合した場合には、大地震や強風などによって過大な水平力が作用すると、剛結構造となるラーメン架構にあっても接合した2部材の接合部分にズレを生ずる。すると、このズレによって大きな摩擦抵抗力が発生され、この摩擦抵抗力によって上記地震や風による振動エネルギーが消耗されて、建物架構の制振機能が発揮される。
図18は上記ボルト接合部の一例を示し、互いに接合しようとする一方の鉄骨部材から一体に一対の外板1,1aが突設されているとともに、他方の鉄骨部材から一体に中板2が突設されており、一対の外板1,1a間に中板2を挟み込み、これら外板1,1aと中板2とをボルト3で貫通してナット3a締めされる。中板2のボルト挿通孔は長孔4として形成され、引っ張り方向あるいは圧縮方向に過大な相対変位力Pが入力された場合には外板1,1aと中板2との相対移動が許容される。
ところで、地震や強風などによって上記の制振構造に加わる外力には様々な方向成分が含まれるが、前述した制振構造にあっては、ボルト挿通孔が長孔に形成されているため、任意の方向から加わる外力のうち、長孔の長軸方向に加わる成分以外の成分に対しては充分な制振効果を得ることができない。これを防ぐには、例えば、複数の制振構造をそれぞれ長孔の方向を変えた状態で併設するといった方法も考えられるが、設置する制振構造が増えた分だけコストや施工費用が余分にかかる上、増えた制振構造の数だけ設置位置を確保しなければならなくなり適用範囲も狭くなる。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、一つの面内におけるどの方向からの外力に対しても同等な制振効果を得ることができるボルト接合部の制振構造を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために本発明に係るボルト接合部の制振構造にあっては、互いに接合しようとする2つの鉄骨部材のうち、一方の鉄骨部材から第1圧接板を、かつ、他方の鉄骨部材から第2圧接板をそれぞれ一体に突設し、これら第1,第2圧接板を互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動を可能にしてボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力される所定値以上の振動変位力により、これら両者の相対移動が許容され、このときに発生する摩擦抵抗力によって、上記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、上記第1圧接板をボルト軸力の作用方向に対峙する一対の外板で形成するとともに、上記第2圧接板を上記一対の外板間に挟み込まれる中板で形成し、前記ボルト接合部は、鉄骨柱に取り付けられたブラケット材と鉄骨梁との間に配置されており、前記ブラケット材及び前記鉄骨梁はH型鋼から構成されており、前記一対の外板は、前記ブラケット材を構成するH型鋼のフランジと前記鉄骨梁を構成するH型鋼のフランジとに跨って配置されており、前記中板は、前記ブラケット材を構成するH型鋼のフランジ、又は前記鉄骨梁を構成するH型鋼のフランジで形成されている
また、前記鉄骨柱はH型鋼から構成されており、前記ブラケット材を構成するH型鋼は、前記鉄骨柱を構成するH型鋼のフランジに溶接されていてもよい。
また、前記ブラケット材を構成するH型鋼の上下フランジ位置に対応して、前記鉄骨柱の両側フランジ間に跨って補剛材が溶接されていてもよい。
また、上記外板と上記中板との間に、複合摩擦材料で形成される摩擦板を介在させ、該摩擦板を、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成してもよい。
また、上記外板および上記中板の少なくとも一方を耐食性の材料からなるものとしてもよい。
また、上記外板および上記中板の少なくとも一方と、上記摩擦板との間に耐食性のある材料からなる滑動板を介在させてもよい。
さらに、上記摩擦板がその摩擦抵抗力発生面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込む凹部を有することとしてもよい。
以上の構成により本発明のボルト接合部の制振構造の作用を以下述べると、上記第1圧接板をボルト軸力の作用方向に対峙する一対の外板で形成するとともに、上記第2圧接板を上記一対の外板間に挟み込まれる中板で形成し、前記ボルト接合部は、鉄骨柱に取り付けられたブラケット材と鉄骨梁との間に配置されているので、鉄骨柱と鉄骨梁との間で振動を減衰させることが可能となる。
また、上記中板のボルト挿通孔を、上記第1および第2の圧接板相互が摩擦面に沿って自在に移動できるように形成したので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力された際に、ボルトが傾斜されてこじれを生ずることなくスムーズに相対移動することができ、一つの面内におけるどの方向からの外力に対しても同等な制振効果を得ることができる。
また、上記外板と上記中板との重合部分に上記ボルト軸力を付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介在し、該ボルトに所定の軸力を発生させた状態で、該付勢手段が上記非線形ばね領域内でたわみ変形するように設定したので、上記外板と上記中板との間の隙間の変動を上記付勢手段によって吸収することができ、このときの変動吸収によって付勢手段のたわみ量が変化した場合にあっても、該付勢手段が非線形ばね領域内に設定されているため、弾発力つまりボルトの軸力をほぼ一定に維持することができる。
つまり、振動入力が無い状態では上記外板と上記中板とは大きな静摩擦力をもって固定状態が維持されるが、所定値以上の振動変位力の入力によりこの固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃として現れるが、このときの反発力を上記付勢手段によりボルト軸力を変化することなく吸収できる。従って、皿ばねを入れることにより緩衝作用が生じ、過大振動力が入力された場合にも、音や衝撃の発生を抑制しつつ制振機能を十分に発揮することができる。
また、上記付勢手段は、上記外板と上記中板が相対移動する際の滑動面に摩耗が生じた場合にも、その弾発力がほぼ一定に維持されるため、摩擦抵抗力が低下するのを防止し、当初の制振機能が永続して発揮されることになる。
また、該摩擦板は熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されるので、該摩擦板を、一定の摩擦係数を有する摩耗の著しく少ない部材として形成することができる。従って、上記外板と上記中板とが相対移動された際にも、これら外板および中板と、摩擦板との間の摩擦係数は常時ほぼ一定に維持され、音の発生もなく滑らかに滑るようになり、しかも滑動部分の摩耗がほとんどないためボルトの軸力もほぼ一定に維持される。
このため、上記外板と上記中板間の相対移動部分に発生する、上記摩擦係数と上記軸力との積として得られる摩擦抵抗力をほぼ一定に維持することができる。従って、2つの鉄骨部材間の減衰力特性が安定化され、延いては、当初設定した制振機能を長期に亘って維持することができる。
また、上記外板および上記中板の少なくとも一方を耐食性の材料からなるものとしたため、上記外板もしくは上記中板と、摩擦板とが対峙する滑動面の腐蝕などによる経時的な劣化を防ぐことができ、特にメンテナンスを施すことなく長期にわたって安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することが可能になる。
また、上記外板および上記中板の少なくとも一方と、上記摩擦板との間に耐食性のある材料からなる滑動板を介在させることとしたため、滑動板と摩擦板とが対峙する滑動面の腐蝕などによる経時的な劣化を防ぐことができ、特にメンテナンスを施すことなく長期にわたって安定した滑り耐力、摩擦係数(μ)を維持することが可能になる。
また、上記摩擦板がその摩擦抵抗力発生面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込む凹部を有することとしたので、摩擦ダンパ作動時に、上記凹部内の空気への摩擦熱の放散により、摩擦板の表面温度の上昇を防止し、摩擦板表面の炭化、脱落による摩耗粉の発生を防止できる。また、摩耗粉が発生しても凹部に取り込まれ、摩擦板と圧接板間の摩耗粉の滞留を防止できる。このため、圧接板が傷つき難くなるとともに、摩耗粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板と圧接板間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振効果を得ることが可能となる。更には、摩耗粉の滞留を防止できるので、摩擦板および圧接板との摺動面から、摩耗粉の噛込等に起因した異音が発生することを防止でき、制振時の騒音を著く低減することができる。
本発明に係るボルト接合部の制振構造によれば、上記第1圧接板をボルト軸力の作用方向に対峙する一対の外板で形成するとともに、上記第2圧接板を上記一対の外板間に挟み込まれる中板で形成し、前記ボルト接合部は、鉄骨柱に取り付けられたブラケット材と鉄骨梁との間に配置されているので、鉄骨柱と鉄骨梁との間で振動を減衰させることが可能となる。
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しつつ詳細に説明する。図1,図2は本発明にかかるボルト接合部の制振構造の一実施形態を示し、図1は要部の断面図、図2は要部の平面図である。
即ち、本発明の制振構造が適用されるボルト接合部は、図1に示すように第1圧接板としての上下一対の外板10,12と、該一対の外板10,12間に挟み込まれる第2圧接板としての中板14とを備える。上記外板10,12および上記中板14は、建物架構にあって、互いに接合される鉄骨部材の一方および他方からそれぞれ一体に突設される。
上記鉄骨部材としては鉄骨柱や鉄骨梁、更にはブレースなどがあり、垂直配置される鉄骨柱と水平配置される鉄骨梁とを、六面体の各辺を構成するように互いに接合して建物架構が構成される。上記ブレースは傾斜部分を備え、互いに隣設される鉄骨柱と鉄骨梁との間、または対向する上下鉄骨梁間に跨って接合される。なお、本発明のボルト接合部の制振構造を適用する箇所としての上記鉄骨柱と鉄骨梁との接合部構造の具体例、並びにブレース構造の具体例については、後に詳述する。
上記外板10,12および上記中板14は互いに重合させた状態で、それぞれに形成したボルト挿通孔10a,12a,14aに高力ボルト16を貫通させて、ナット18で締め付けるようになっている。このナット18の締付けによりボルトの軸力Nが発生し、この軸力Nはワッシャ20,20aおよび大径ワッシャ32,32aを介して上記外板10,12に伝達され、中板14の挟み込み力として作用する。上記中板14のボルト挿通孔14aは、上記外板10,12および上記中板14が相互にそれらの板面に沿って縦横に移動可能に図2に示すようなボルト軸の太さよりも充分に大きな径を有する略円形に形成され、これにより、上記外板10,12および上記中板14が相互にそれらの板面に沿う任意の縦横方向への相対移動が許容される。
ここで、本実施形態では上記一対の外板10,12と上記中板14の両面との間に、複合摩擦材料で形成される摩擦板22をそれぞれ介在する。この摩擦板22は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成される。上記熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂,メラミン樹脂,フラン樹脂,ポリイミド樹脂,DFK樹脂,グアナミン樹脂,エポキシ樹脂,キシレン樹脂,シリコーン樹脂,ジアリルフタレーン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂などがある。
上記摩擦板22は、図2に示したようにボルト挿通孔14aよりもやや大きな内径を有する円環状を呈し、円環の内側にボルト挿通孔14aを収容するようにして中板14の両面に一対で配置される。一方、上記中板14の摩擦板22が接触される両面を適切に磨き仕上げして円滑面14bとし、この円滑面14bに上記摩擦板22を摺接させることにより、中板14と摩擦板22との間で所定の摩擦係数μをもって滑動させるようになっている。
即ち、外板10,12と中板14、及び高力ボルト16とナット18、並びに摩擦板22等によりボルト接合部は摩擦ダンパ8として構成されている。
以上の構成により本実施形態のボルト接合部の制振構造にあっては、一対の外板10,12間に中板14を挟み込んで、これらに貫通した高力ボルト16をナット18締めするにあたり、これら外板10,12と中板14との間に摩擦板22を介在させてあるので、地震や風などの外力によって建物架構が振動する際に、この振動による変位力が所定値を超えると、外板10,12と中板14とは中板14両面の円滑面14bと上記摩擦板22との滑動を伴って相対移動する。このとき、中板14と摩擦板22との間は高力ボルト16の軸力Nをもって圧接されるとともに、所定の摩擦係数μが作用しており、これら中板14と摩擦板22とが滑動される際には、振動エネルギーがμ×Nの摩擦抵抗力Rに変換されて振動減衰され、建物架構の制振に寄与するようになっている。
このとき、上記摩擦板22は、フェノール樹脂,メラミン樹脂,フラン樹脂,ポリイミド樹脂,DFK樹脂,グアナミン樹脂,エポキシ樹脂,キシレン樹脂,シリコーン樹脂,ジアリルフタレーン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成されるので、該摩擦板22は硬度が高く、かつ、強度に富む材質となって、一定の摩擦係数を有する摩耗の著しく少ない部材として形成することができる。
従って、外板10,12と中板14とが相対移動された際にも、中板14と摩擦板22との間の摩擦係数μは常時ほぼ一定に維持され、かつ、滑動部分の摩耗がほとんどないため高力ボルト16の軸力Nもほぼ一定に維持される。このため、上記外板10,12と中板14との間の相対移動時に、上記摩擦係数μと上記軸力Nとの積として発生する摩擦抵抗力Rをほぼ一定に維持することができる。従って、上記外板10,12および上記中板14とそれぞれ一体の2つの鉄骨部材間の摩擦減衰力特性、延いては、建物架構の振動に対する制振特性が安定化され、当初設定した制振機能を長期に亘って維持することができる。
ただし、この摩擦板22と上記中板14との摺動により生じる摩擦熱が大きい場合は、摩擦板22の表面温度が著く上昇し、摩擦板表面が炭化し、摩耗粉として脱落し、この摩耗粉が摺動境界面に滞留してしまうことがあり得る。この摩耗粉は炭化物であるため非常に硬度が高く、上記摺動により中板14を傷つけたり、上記摺動境界面に摩耗粉が介在して転がる等して、摩擦係数を変動させる虞がある。このような現象を生じた場合には、摩擦抵抗力が大幅に変化し、上記制振構造の制振性能に大きな変動を生じてしまい、安定した制振効果を得難くなる懸念がある。
そこでこの対策として、図1、図2に示すように、上記摩擦板22には、上記中板14との摺接面側に凹部として直線状の溝21を縦横に複数本形成している。この溝21は、上記摩擦板22の摩擦抵抗力が発生する中板14との摺接面に生じる摩擦熱を放散するとともに、摺接面の摩耗粉を取り込み排出する機能を持つ。すなわち、摩擦ダンパ作動時の摩擦板22の摩擦熱を、上記溝21内の空気へ放散することで、その表面温度の上昇を防止し、摩擦板表面の炭化、摩耗粉の脱落を防止する。また、万一摩耗粉が発生しても溝21に取り込まれ、摩擦板22と中板14との摺接面の摩耗粉の滞留を防止する。このため、中板14が傷つき難くなるとともに、摩耗粉の転がり滑りも生じ難くなり、摩擦板22と中板14間の摩擦抵抗力を一定に維持することができ、安定した制振効果を得ることが可能となる。更には、摩耗粉の滞留を防止できるので、摩擦板22および圧接板14との摺動面から、摩耗粉の噛込等に起因した異音が発生することを防止でき、制振時の騒音を著く低減することができる。
上記溝21の深さ、幅、断面形状、本数は、発生する摩耗粉の予め想定される大きさや量、並びに摩擦板22の表面温度等を勘案し設定される。すなわち、深さ、幅、断面形状は、主として摩耗粉を取り込める容積を有するように設定され、本数に関しては、上記表面温度が摩擦板22の材料の使用限界温度以下となるように設定される。本実施形態の場合は、溝21の断面形状は矩形で、その深さは摩擦板22厚みの半分、またその本数は前述の要件を満たすように自由に設定可能であり、断面形状は半円形状でも良く、更に深さについては貫通していても良い。
また、上記溝21の平面形状も、摩擦熱の放散効率が大きく、摩耗粉を取り込み得る容積を有していれば、直線に限るものではなく、円形等どのような形状の凹部に形成しても良い。ただし、熱の放散効率の観点から、冷却媒体である空気が流通し易いように、大気開放空間と連通した溝21とするのが望ましく、また摩耗粉排出の観点からは、取り込まれた溝21内の摩耗粉が自重で落下排出されるように、上記溝21は、鉛直方向に直線状に貫通して形成されていることが望ましい。
尚、本実施形態においては、摩擦抵抗力が発生する摺接面が中板14側であったため、摩擦板22の溝21を中板14側に形成したが、摺接面側であればこれに限るものではない。つまり、摩擦板22が中板14に固設され、外板10,12と摺動し、摩擦抵抗力が外板10,12側に発生する場合は、摩擦板22の外板10,12側に溝21を形成すれば良い。
また、本実施形態では第1圧接板を上記一対の外板10,12で形成するとともに、第2圧接板を上記中板14で形成し、かつ、該中板14のボルト挿通孔14aを略円形に形成したので、2つの鉄骨部材間に相対変位力が入力された際に、一対の外板10,12間に中板14が挟まれた状態で、上記外板10,12および上記中板14が相互にそれらの板面に沿う任意の縦横方向へ自在に相対移動するため、一対の外板10,12間にボルト16の軸力N、つまり締付け力を付加した状態で両者が滑動する際に、ボルト16が傾斜されるなどしてこじれを生ずることなく、スムーズに相対移動することができる。
図3から図5は他の実施形態を示し、上記実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べる。尚、図3は要部の断面図、図4は要部の平面図、図5はこの実施形態で用いられる付勢手段のばね特性図である。
この実施形態が上記実施形態と主に異なる点は、高力ボルト16の軸力Nを外板10,12に付加する経路に、ボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えた付勢手段を介装して摩擦ダンパ8として構成したものである。
即ち、この実施形態のボルト接合部の制振構造は、上記実施形態と同様に一対の外板10,12間に中板14を挟み込んでボルト16,ナット18締めする際に、外板10,12と中板14との間に摩擦板22が介在されるようになっており、このように構成されたボルト接合部にあって、高力ボルト16の頭部16aと一方の外板10との間に、付勢手段としての皿ばね30を介装するようになっている。
上記皿ばね30のばね特性Aは、図5に示すように高力ボルト16の中心軸方向の変形量(見込み変化量)σに対して、荷重(弾発力)wの変動がほぼ一定となる非線形ばね領域Pを備えており、該皿ばね30は上記高力ボルト16に所定の軸力Nを付加した状態で上記非線形ばね領域P内に設定される。また、本実施形態では上記皿ばね30は、複数枚の皿ばね単体を同一方向に積層して構成したものが用いられる。
従って、この実施形態では高力ボルト16の頭部16a側の大径ワッシャ32と一方の外板10との間に皿ばね30を介在したので、外板10,12と中板14との間の隙間の変動を該皿ばね30によって吸収することができる。そして、このときの変動吸収によって皿ばね30のたわみ量が変化した場合にあっても、該皿ばね30が非線形ばね領域P内に設定されているため、弾発力つまり高力ボルト16の軸力をほぼ一定に維持することができる。
つまり、振動入力が無い状態では上記外板10,12と上記中板10とは、大きな静摩擦力をもって固定状態が維持されるが、振動入力によりこの固定状態から小さな動摩擦力を伴う相対移動状態に移行する際に、それぞれの接触面間に大きな反発力が発生し、これが大きな音や衝撃として現れる。しかし、上記皿ばね30を設けたことにより、このときの反発力を上記皿ばね30の弾性により高力ボルト16の軸力Nを変化させることなく吸収できる。従って、過大振動力が入力された場合にも、皿ばね30の緩衝作用により音や衝撃の発生を抑制しつつ建物架構の制振機能を十分に発揮することができる。
また、上記皿ばね30が非線形ばね領域Pに設定されていることにより、該皿ばね30の弾発力は外板10,12と中板14とが相対移動する際の滑動面、つまり、摩擦板22と中板14との間の接触面にたとえ摩耗が生じたとしても、弾発力をほぼ一定に維持して摩擦抵抗力Rが低下するのを防止できる。従って、外板10,12と中板14との接合部における当初の制振機能を永続して発揮することができる。
また、この実施形態では上記皿ばね30を、一方の外板10と高力ボルト16の頭部16a側の大径ワッシャ32との間、つまり、外板10,12の一方側に介在させた場合を開示したが、これに限ることなく図6に示すように外板10,12の両方側、つまり、両外板10,12と高力ボルト16の頭部16a側およびナット18側の大径ワッシャ32,32aとの間にそれぞれ皿ばね30を介装させることもできる。また、摩擦板22は円環状に限ることなく、中心にボルト軸の径に等しい円孔を有する形状としてもよい。また、図示は省略したが皿ばね30を、他方の外板12とナット18側の大径ワッシャ32aとの間のみに介装させることもできる。
更に、皿ばね30を構成する皿ばね単体の組み合わせ配置構成は、本実施形態に示したように同一方向に複数枚を積層したものに限ることなく、これ以外にも本発明の皿ばね30に求められる設定が可能である限り種々に変更して組み合わせて構成することができ、例えば、皿ばね単体を単数で用いたり、複数枚を並列に積層したり、その積層方向を正逆交互に向けたりすることができる。
更にまた、この実施形態では付勢手段として皿ばね30を用いた場合を開示したが、これに限ることなくボルトの軸方向変位に対して弾発力の変動が略一定となる非線形ばね領域を備えたばねであればよい。
ところで、上記各実施形態では摩擦板22と中板14との間で滑動させる構成であったが、摩擦板22と外板10,12との間、もしくは、これら摩擦板22と中板14との間および摩擦板22と外板10,12との間の両方で滑動させる構成も可能である。
また、上記各実施形態では中板14もしくは外板10,12の滑動面を円滑面14bとし、この円滑面14bに摩擦板22を摺接させるようにしているが、長期的に使用する場合には、腐蝕などの経時的な変化により中板14もしくは外板10,12の円滑面14bの均一性が損なわれ、滑動時に大きな摩擦音を生じたり衝撃が発生するといった問題を生じるおそれがある。
この問題は、例えば中板14もしくは外板10,12にステンレス鋼材やチタンなどの耐食性の材料を採用することで解決される。また、中板14や外板10,12と摩擦板22との間の滑動面14bにステンレス鋼材やチタンなどの耐食性のある材料からなる滑動板を介在させようにしてもよい。このようにすれば耐食性のある材料の使用量が必要最小限に抑えられ、材料費が節約されて経済設計にも繋がる。
上述した中板14と摩擦板22との間で滑動させる構成の制振構造において、中板14の滑動面14bに図7に示すような中央に円孔を有するステンレス製の滑動板Sを介在させるようにした場合の構成例を図8に示す。一方、上述した外板10,12と摩擦板22との間で滑動させる方式において、外板10,12の滑動面に図9に示すような中央に円孔を有するステンレス製の滑動板Sを介在させるようにした場合の構成例を図10に示す。また、前述したような皿バネを用いた構成も可能であり、この場合の構成例を図11、12に示す。さらに、円滑に滑動するよう、滑動板Sの滑動させる側の面に圧延、研磨・研削、ブラスト、塗装などのいずれかもしくは複数の処理を施して、表面粗さの均一化を図るとよい。また、滑動板Sの滑動する側の面とは反対側の面、すなわち、逆側の中板14もしくは外板10、12との接触面には、滑動時に中板14もしくは外板10、12に対して相対的な滑りを生じないよう、[1]表面に塗料を塗布(例えば、ステンレス鋼材専用の摩擦接合用塗料)、[2]接着剤による接着、[3]表面粗さの増大化を意図したブラスト・研削、[4]溶接、[5]ボルト・ビス止めなどのいずれかもしくは複数の処理を施すとよい。また、上述したように中板14もしくは外板10、12を耐食性の材料とした場合には、これらの処理を中板14もしくは外板10、12に施すとよい。また、メンテナンスフリーとするために上記滑動板S、上記中板14、上記外板10、12の表面に防錆塗料を塗布するなどの表面処理を行うとよい。
図13は上記本発明のボルト接合部の制振構造の適用対象の1つである鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示す。図示するように、一般的に鉄骨柱52と鉄骨梁54とはH型鋼によって形成されて架構を構成する。鉄骨柱52の梁接続部分には、鉄骨梁54と同じH型鋼を短尺に切断したブラケット材55を溶接して一体化し、このブラケット材55に上記鉄骨梁54の接続端部が結合される。図示例では上記ブラケット材55は鉄骨柱52のフランジ52a面に溶接されるとともに、該ブラケット材55の上下フランジ55a,55b位置に対応して、鉄骨柱52の両側フランジ52a,52b間に跨って補剛材57が溶接されている。
上記鉄骨梁54の接続端は上記ブラケット材55の先端に突き合わされ、これら鉄骨梁54とブラケット材55の互いに対応される上方フランジ54aと55a、および下方フランジ54bと55b、そして、ウェブ54cと55cとの各部に両部材間に跨ってその両面に添え板58、59が配置され、これらを貫通する高力ボルト16にナット18を螺合して締め付けることにより、上記鉄骨梁54と上記ブラケット材55つまり鉄骨柱52とが結合される。
ここで、当該鉄骨柱52と鉄骨梁54との接合部において、本発明の制振構造は、上方フランジ54aと55a、および下方フランジ54bと55b、並びにウェブ54cと55cとのボルト接合部に組み込まれる。即ち、上記添え板58,59が外板10,12に該当し、鉄骨梁54の上下フランジ54a,54bおよびウェブ54cが中板14に該当して、この各接合部が摩擦ダンパ8として構成され、この摩擦ダンパ8によって建物架構に入力される水平方向の振動を減衰する機能が付加される。
図14はその上方フランジ54aと55aとの接合部を例にして上記本発明の第2実施例にかかる制振構造を組み込んだ状態を示している。図示するように、上記添え板58,59はブラケット材55側に高力ボルト16,ナット18を介して確実に締め付け固定(この部分は溶接でも良い)された上で、該添え板58,59と上方フランジ54aとの間に摩擦板22,22を介在させて摺動自在とし、これら三者間に高力ボルト16の軸力をもって摩擦力を発生させるようになっている。
即ち、上記摩擦ダンパ8は、鉄骨梁54の上方フランジ54a端部を滑り板とし、この滑り板となった上方フランジ54aには、高力ボルト16の貫通部分に水平方向に上方フランジ54aおよび添え板58,59が相互にそれらの板面に沿って縦横に移動可能にボルト挿通孔14aが形成され、これにより鉄骨梁54とブラケット材55とは相互にそれらの板面に沿う任意の縦横方向への相対移動が許容される。また、上記高力ボルト16には添え板58,59と摩擦板22,22と上方フランジ54aとの間に圧接力を付加するための付勢手段としての皿ばね30が設けられる。
図15と図16は、本発明にかかるボルト接合部の制振構造をブレースに適用する場合の一例を示すもので、摩擦ダンパ8をブレース60の途中を分断した間に介装するようにしたものである。また、この図示例にあっても上記摩擦ダンパ8は、一対の外板10,12と摩擦板22,22と中板14、および付勢手段としての皿ばね30とによって構成される。
即ち、上記外板10,12は上記ブレース60を切断した一方の端部60aに取り付けられるとともに、ブレース60を切断した他方の端部60bが上記中板14とされ、一対の外板10,12間に摩擦板22,22を介して中板14としてのブレース端部60bが挟み込まれる。このとき、この図示例では外板10,12はブレース60より若干幅狭に形成されて上記端部60aにボルト,ナット結合(溶接でも良い)されている。また、中板14のボルト挿通孔14aを通って外板10,12を貫通する締付け用の高力ボルト16の外周に、皿ばね30が挿通されて大径ワッシャ32と外板10との間に挟圧されて設けられる。
図17は本発明にかかるボルト接合部の制振構造を建物内に設置した場合の一例を示すもので、建物内における互いに平行な上階の床70aと下階の床70bとの間に本発明による摩擦ダンパ8を剛棒72a、72bを介して設置したものである。ここで、摩擦ダンパ8はその滑動面すなわち外板10,12や中板14の板面が、上階の床70aおよび下階の床70bの床面と平行になるように設置する。従って、上階の床70aと下階の床70bとの間に相対変位力が入力された際には、剛棒72a、72bを介してこの相対変位力が摩擦ダンパ8に伝達され、一対の外板10,12間に中板14が挟まれた状態で外板10,12および上記中板14が相互にそれらの板面に沿う任意の縦横方向へ自在に相対移動するため、一対の外板10,12間にボルト16の軸力N、つまり締付け力を付加した状態で両者が滑動する際に、ボルト16が傾斜されるなどしてこじれを生ずることなく、スムーズに相対移動することができ、摩擦ダンパ8は上階の床70aと下階の床70bとの間の相対変位力を吸収して有効に制振機能を果たすことになる。
本発明のボルト接合部の制振構造の一実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の一実施形態を示す要部の平面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の他の実施形態を示す要部の平面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の他の実施形態に用いられる付勢手段のばね特性図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造に用いるステンレス板の平面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造に用いるステンレス板の平面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造を鉄骨柱と鉄骨梁との接合部に適用する場合の一例を示す正面図である。 図13の要部を示す断面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造を分断形成したブレースの途中に介在させて適用した例を示す正面図である。 図15の側面図である。 本発明のボルト接合部の制振構造の更に他の実施形態を示す要部の断面図である。 従来のボルト接合部を示す断面図である。
符号の説明
8 摩擦ダンパ
10,12 外板(第1圧接板)
14 中板(第2圧接板)
16 高力ボルト
18 ナット
20 摩擦ダンパ
22 摩擦板
30 皿ばね(付勢手段)
32,32a 大径ワッシャ(締付け部)
52 鉄骨柱
54 鉄骨梁

Claims (7)

  1. 互いに接合しようとする2つの鉄骨部材のうち、一方の鉄骨部材から第1圧接板を、かつ、他方の鉄骨部材から第2圧接板をそれぞれ一体に突設し、これら第1,第2圧接板を互いに重合するとともに、両圧接板間に相対移動を可能にしてボルト軸力を付加し、両圧接板間に入力される所定値以上の振動変位力により、これら両者の相対移動が許容され、このときに発生する摩擦抵抗力によって、上記2つの鉄骨部材間を制振するようにしたボルト接合部の制振構造において、
    上記第1圧接板をボルト軸力の作用方向に対峙する一対の外板で形成するとともに、上記第2圧接板を上記一対の外板間に挟み込まれる中板で形成し、
    前記ボルト接合部は、鉄骨柱に取り付けられたブラケット材と鉄骨梁との間に配置されており、
    前記ブラケット材及び前記鉄骨梁はH型鋼から構成されており、
    前記一対の外板は、前記ブラケット材を構成するH型鋼のフランジと前記鉄骨梁を構成するH型鋼のフランジとに跨って配置されており、
    前記中板は、前記ブラケット材を構成するH型鋼のフランジ、又は前記鉄骨梁を構成するH型鋼のフランジで形成されていることを特徴とするボルト接合部の制振構造。
  2. 前記鉄骨柱はH型鋼から構成されており、
    前記ブラケット材を構成するH型鋼は、前記鉄骨柱を構成するH型鋼のフランジに溶接されていることを特徴とする請求項1に記載のボルト接合部の制振構造。
  3. 前記ブラケット材を構成するH型鋼の上下フランジ位置に対応して、前記鉄骨柱の両側フランジ間に跨って補剛材が溶接されていることを特徴とする請求項2に記載のボルト接合部の制振構造。
  4. 上記外板と上記中板との間に、複合摩擦材料で形成される摩擦板を介在させ、該摩擦板を、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のボルト接合部の制振構造。
  5. 上記外板および上記中板の少なくとも一方を耐食性の材料からなるものとしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のボルト接合部の制振構造。
  6. 上記外板および上記中板の少なくとも一方と、上記摩擦板との間に耐食性のある材料からなる滑動板を介在させたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のボルト接合部の制振構造。
  7. 上記摩擦板がその摩擦抵抗力発生面に、摩擦熱を放散するとともに摩耗粉を取り込む凹部を有することを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載のボルト接合部の制振構造。
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